説明

ドアのための異物検知装置

【課題】
従来の方法では検知が困難であった小さい異物、たとえば雨具などがドアに挟まれた状態を、ドアの開口部側エッジ部のほぼ全域で、確実に検知できるドアのための異物検知装置を提供する。
【解決手段】
例えば筒状の中空空間を有する戸先ゴム等の戸先弾性体に、送信器と受信器とを設置し、送信器の送信信号の信号量と受信器の受信信号の信号量との差を比較し、かつ、送信信号の信号量を連続的に制御し、および外部回路からの信号を受けて検知の基準値を設定する機能を有する制御装置を有するドアのための異物検知装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗降用ドア等のドアが閉鎖される際、ドアに挟まれる対象物等ドアの閉鎖等の移動に障害となる異物を、検知するドアのための異物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の乗降用ドアなどのドアに異物が挟まれたことを検知する方法として、ドアが完全に閉鎖された位置に達していることを物理的に検知するリミットスイッチを設ける方法が、採用されている。しかし、ドアの開口部側先端に戸先ゴム等可撓性部分を設けて挟み込まれた指等を保護する安全上の必要があるため、ドアが完全に閉鎖された位置で、戸先ゴムの撓み量程度以上の開放余裕(マージン)を許容しなければならず、数ミリから十数ミリ以下の検知不能範囲が存在した。
【0003】
そこで、ドアに挟み込まれた異物を直接検知する方法として、光学センサーを用いる方法や圧力スイッチを用いる方法等が従来から提案され、上記のリミットスイッチを用いる方法に付加して使用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1:公開実用新案 平4−11772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記光学センサーを用いる方法では、異物に信号を照射してその反射信号を検出する方法や、異物に遮られて受信器側に送信信号が達しないことから検知する方法などが提案されているが、このような方法では、異物とセンサーとの位置関係の調整や、車体など異物以外のものによる反射等による誤検知を防止するために、異物の検知範囲や検知できる異物の大きさを、個々の設置部位毎に調整・補正する必要があり、また、設置後の保守・管理の際にも同様の調整が必要であった。
【0006】
上記圧力スイッチを用いる方法では、ドアの開口部側の戸先ゴムに機械的な圧力スイッチを内蔵し、異物が挟み込まれると圧力スイッチが作動され検知する方法等が提案されている。しかし、圧力スイッチ自体の製造、圧力スイッチを戸先ゴム内に設置する方法、更には、圧力スイッチの動作点の調整やその維持・管理等、が複雑かつ困難であった。
【0007】
更に、光学センサー、圧力スイッチいずれの方法においても、ドアに異物が挟み込まれると無条件に検知してしまうため、安全上問題がない対象物に対しても反応し、車両の運行に支障をきたすという問題があり、普及をみていない。
【0008】
加えて、従来の方法においては、雨具などの比較的小さな異物が挟み込まれた状態を安定かつ確実に検知することが難しく、安定かつ確実に検知しようとしても、調整や補正が困難であった。また、衣服の裾や袖のような異物が挟まれたままドアが閉まり、安全上問題が無いとして車両が走行を開始した場合、ホーム側に残った乗客が引きずられたりするなどの危険もあった。
【0009】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにある。
具体的には、従来の方法では検知が困難であった小さい異物、たとえば雨具などがドアに挟まれた状態を、ドアの開口部側エッジ部のほぼ全域で、確実に検知できるドアのための異物検知装置を提供することを課題とする。
【0010】
更に、衣服の裾や袖等の異物が挟み込まれたままドアが閉鎖し、車両が走行を開始した後に、挟み込まれた異物を引き抜こうとして異物に力が加えられたり、また、異物がプラットホーム上の乗客のものであって、車両が走行を開始することで乗客が引きずられことにより力が加わった時点で、その状況を検知できるドアのための異物検知装置を提供することを課題とする。
【0011】
更に、設置時の調整や補正が基本的に不要であり、経年変化に対する再調整をも不要であるドアのための異物検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための第1の手段は、
ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体を具備した戸先と、
送信器及び受信器と、
送信器からの送信信号の信号量を調節する制御装置と、を有する検知装置であって、
送信器からの送信信号を、戸先に具備された弾性体の中空部分を介して受信器が受信するように配置し、戸先に具備された弾性体が変形する際に変動する送信信号の信号量を、受信器が受信できるように、送信器からの送信信号の信号量を調整しておき、
制御装置に基準値として記憶されている信号量と、戸先に具備された弾性体の変形にともなう受信信号の信号量とを比較することによって、ドアの異物を検知することを特徴とするドアのための異物検知装置である。
【0013】
第2の手段は、
車両の乗降用ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体を具備した戸先と、
送信器及び受信器と、
送信器からの送信信号の信号量を調節する制御装置と、を有する検知装置であって、
送信器からの送信信号を、戸先に具備された弾性体の中空部分を介して受信器が受信するように配置し、戸先に具備された弾性体が変形する際に変動する送信信号の信号量を、受信器が受信できるように、送信器からの送信信号の信号量を調整し、
制御装置へ、車両走行開始前時点の受信信号の信号量を基準値として一時記憶し、その後、戸先に具備された弾性体が変形する際の受信信号の信号量とを比較することによって、ドアの異物を検知し、
車両の走行開始後にも、閉鎖状態であると認識されているドアについて、戸先に具備された弾性体の変形を検知することを特徴とするドアのための異物検知装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体の変形に対する検知感度を一定の範囲内に維持して使用を継続できるため、誤検知防止のための不感帯を設ける必要が無く、より高い検知感度で誤検知無く使用継続することができる。従って、小さい異物を高感度でしかも安定して検知可能な設定で使用することができる。
【0015】
更に、本発明では、ドアに異物が挟み込まれた状態、即ちドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体に変形が生じた状態で、基準値の設定を行えば、その後に、異物へ力が加わり、ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体の変形状態に更なる変化が生じたことを検知できる。これによって、車両外の乗客等の衣服や所持物が挟み込まれた場合であっても、これを検知し、車両の走行を停止させ、乗客の巻き込み事故を防止できる。
【0016】
更に、ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体に、経年変化による変形や損傷等が一時的又は恒常的に生じた場合、その状態で基準値を設定することにより、特別な調整や補正を行う必要が無く使用継続できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、例えば筒状の中空空間を有する戸先ゴム等の戸先弾性体に、送信器と受信器とが設置され、送信器の送信信号の信号量と受信器の受信信号の信号量との差を比較し、かつ、送信信号の信号量を連続的に制御する制御装置を有するドアのための異物検知装置を提供するものである。送信信号としては光、超音波等が好個に使用できる。また、制御装置は、検知結果を外部回路に電気信号として出力する機能、および外部回路からの信号を受けて検知の基準値を設定する機能を有する。
【0018】
更に、本発明では、信号量が常に適正レベルに自動的に調整されるように動作しており、また、異物が挟み込まれる直前の信号量を基準値として一時記憶し、その後、異物を検出した際の信号量の変動によって、異物を検知する方式であるため、設置時又は設置後の調整や補正等は基本的に必要がなく、設置調整作業のための特殊技術も必要としないため、作業工程やコストの削減が可能である。
【0019】
以下、鉄道車両の乗降用ドアを例として、本発明に係るドアのための異物検知装置装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るドアのための異物検知装置の模式的な構成を示した斜視図であり、図2は、乗降用ドア先端部の戸先ゴムの断面図であり、図3は、最も一般的な車両用の2枚両開きドアの正面図である。
【0020】
まず、図3に示す車両用の2枚両開きドア6の戸先には、中空の弾性体である戸先ゴム7が設けられ、戸先ゴム7の中空部の上部には送信器1が、下部には受信器2が設けられている。ここで、図2に示される様に、車両の乗降用のドア6における開口部側の先端に戸先ゴム7が設けられ、戸先ゴム7中には中空部分5が設けられている。
そして、図1に示すように、中空部分5が信号伝送路となるように、戸先ゴム7の上下両端に送信器1と受信器2とをそれぞれ設置し、上端に設置された送信器1から送信された送信信号4を、下端の受信器2で受信するように配置する。そして、送信器1と受信器2とは制御装置3に接続されている。
【0021】
ドア6に異物等が挟み込まれて、戸先ゴム7の中空部分5が外力を受け、その形状が変化した場合、送信器1からの送信信号4には、中空部分5の内部壁面での反射変動や空間断面積の変動等が生じ、信号伝送に変化が生じ、受信器2におけるで受信信号の信号量の変動が生ずることとなる。これを検知することで、ドア6に異物が挟み込まれたことを検知することができる。
【0022】
上記信号量の変動を検知する方法としては、制御装置3において、所定の時点における受信信号量と送信信号量との差を測定しておき、これを基準値として、一時記憶の形で設定しておく。その後、受信信号量が変動し、その変動量が予め設定した基準値からの所定の許容範囲を超えた場合に、制御装置3から外部に検知信号として出力する方法などがある。基準値の設定は、制御装置3に外部から電気信号を入力して行う方法などが好個に適用できる。
【0023】
また、上記検知動作が安定して行われるようにするために、基準値の設定前において、受信器2における受信信号量が戸先ゴム7の形状等の状態如何にかかわらず、できるだけ最適信号量になるように、送信信号4の信号量を連続的に制御しておくことが望ましい。
【0024】
上記構成を採った結果、本発明では、基準値を設定する条件を使用者が任意に設定でき、また、初期状態での検知感度に大きな変動を生じないことから、戸先ゴムの形状等の変化に対する検知感度を一定の範囲内に維持して使用を継続できるため、誤検知防止のための不感帯を設ける必要が無く、より高い検知感度で誤検知無く使用継続することができる。従って、小さい異物を高感度でしかも安定して検知可能な設定で使用することができる。
【0025】
また、ドアに異物が挟み込まれた状態、即ち戸先ゴムに変形が生じた状態で、基準値の設定を行えば、その後に、異物に力が加わり戸先ゴムの変形状態に更なる変化が生じたことを検知できる。これによって、車両外の乗客等の衣服や所持物が挟み込まれた場合に、これを検知し、車両の走行を停止させ、乗客の巻き込み事故を防止できる。
【0026】
更に、車両走行開始時点で、車両外の乗客の衣服や所持物が挟み込まれたことを検知できず、しかも、乗客自身が認識していない状態で、乗務員が安全と判断して車両走行を開始した後に、乗客が挟み込まれた異物を引き抜こうとしたり、車両が走行することで巻き込まれるような状態となった時に、挟み込まれた異物を介して戸先ゴムが変形され、これが検知されて信号が発生するので、車両を緊急停止させる等の対応をとることができる。
【0027】
更に、戸先ゴムに経年変化による変形や損傷等が一時的又は恒常的に生じた場合にも、その状態で基準値を設定することにより、特別な調整や補正を行う必要が無く使用継続できる。
【0028】
更に、本発明では、信号量が常に適正レベルに自動的に調整されるように動作しており、また、異物を検知する直前の信号量を基準値として一時記憶し、その後の信号量の変動によって検知する方式であるため、設置時又は設置後の調整や補正等は基本的に必要がなく、設置調整作業のための特殊技術も必要としないため、作業工程やコストの削減が可能である。
【0029】
尚、本発明は、上記の最も一般的である車両用の2枚両開きドアの方式に関するものに限られず、1枚片開きドアの方式やプラグドアの方式にも使用できる。また、図3において、乗降用ドアの戸先ゴム7における中空部分5の上端および下端に、送信器1と受信器2とがそれぞれ設置されているが、送信器1、受信器2を戸先ゴム7内部に設置するのではなく、戸先ゴム7の外部に、送信器1及び/又は受信器2を設置し、戸先ゴム7の外部から戸先ゴム7内部に設けた反射物等を使用して信号伝送する方法も可能である。更に、車体側に送信器1及び/又は受信器2を取り付けて、車体とドア6との間隙を介して信号を伝送させる方法も可能である。勿論、送信器1及び受信器2の位置を逆転することも可能である。
【0030】
更に、本実施の形態例では図3に示すように、2枚のドア双方に各一組ずつ送・受信器を設置する方法を例としているが、片側1枚のドアにのみ一組の送・受信器を設置し、反対側のドアの戸先ゴムに比較的硬質のものを用いることによって、送・受信器を設置した側の戸先ゴムが確実に変形するように構成することも可能である。1枚の片開きドアの場合は、この方法が適する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。
図4は、本発明の実施例に係る動作例を、ダイヤグラムとして示たもので、横軸は時間の経過を示している。
車両の走行/停車9が示すように、走行車両が駅に到着後、停車し、ドア8が示すように、乗降のためにドアを開いた時点20で、基準値設定13が示す基準値設定信号により、基準値の設定14が行なわれる。乗降が終了しドアを閉める前の適当なタイミングで、検知マスク11が示す検知マスク信号が検知有効15に設定される。ドアの閉鎖時に何らかの異物が挟まった場合、上記信号量の変化より検知動作10が示す検知信号が検知状態16になる。すると、上記制御装置から、出力信号12が示す、出力信号21が出力され、車両側の所定の手順に従って自動的に又は乗務員による手動でドア再開17が行われる。これによって乗客が異物を取り除くことができる。
【0032】
その後、ドアの再閉18で異物の検知が無い場合は車両が走行を開始するが、検知マスク11が示すように、走行開始前の適当なタイミングで一旦検知マスク信号を検知無効22とし、その後再度、基準値設定13の信号により、基準値を設定23して更新し、再度、検知マスク11の信号により検知有効24とした後に、車両が走行開始25する。
その際、ホーム側の人の衣服の袖などが、ドアに挟まっていた場合、車両の走行開始によって引っ張られたりして、戸先ゴムに力が加わり、検知26の信号が検出状態となる。それとともに、出力信号27が発生し、自動的に又は乗務員の手動により、緊急に車両を走行停止19することができ、停止後にドアを開けドアに挟まれた異物を安全に除去することができる。
また、走行後車両が適当な速度に達した時点で検知マスク信号を検知無効28とすることで、誤動作を回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るドアのための異物検知装置の模式的な構成を示した斜視図である。
【図2】乗降用ドア先端部の戸先ゴムの断面図である。
【図3】車両用の2枚両開きドアの正面図例と、送信・受信器の取り付け例である。
【図4】本発明の実施例に係る動作ダイヤグラムである。
【符号の説明】
【0034】
1. 送信器
2. 受信器
3. 制御装置
4. 信号
5. 中空部分
6. ドア
7. 戸先ゴム
8. ドア
9. 車両の走行/停止状態
10. 検知動作
11. 検知マスク
12. 出力信号
13. 基準値設定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体を具備した戸先と、
送信器及び受信器と、
送信器からの送信信号の信号量を調節する制御装置と、を有する検知装置であって、
送信器からの送信信号を、戸先に具備された弾性体の中空部分を介して受信器が受信するように配置し、戸先に具備された弾性体が変形する際に変動する送信信号の信号量を、受信器が受信できるように、送信器からの送信信号の信号量を調整しておき、
制御装置に基準値として記憶されている信号量と、戸先に具備された弾性体の変形にともなう受信信号の信号量とを比較することによって、ドアの異物を検知することを特徴とするドアのための異物検知装置。
【請求項2】
車両の乗降用ドアの先端に設けられた中空部分のある弾性体を具備した戸先と、
送信器及び受信器と、
送信器からの送信信号の信号量を調節する制御装置と、を有する検知装置であって、
送信器からの送信信号を、戸先に具備された弾性体の中空部分を介して受信器が受信するように配置し、戸先に具備された弾性体が変形する際に変動する送信信号の信号量を、受信器が受信できるように、送信器からの送信信号の信号量を調整し、
制御装置へ、車両走行開始前時点の受信信号の信号量を基準値として一時記憶し、その後、戸先に具備された弾性体が変形する際の受信信号の信号量とを比較することによって、ドアの異物を検知し、
車両の走行開始後にも、閉鎖状態であると認識されているドアについて、戸先に具備された弾性体の変形を検知することを特徴とするドアのための異物検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−313136(P2006−313136A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136571(P2005−136571)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(391059425)シーメンス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】