説明

ドハティ増幅器のバイアス回路

【課題】ピーク増幅器のC級バイアスの設定を容易にするとともにドハティ増幅器の生産性を向上させるドハティ増幅器のバイアス回路を提供する。
【解決手段】可変抵抗Rvは調整電圧VsetをオペアンプOPの反転入力端子に供給する。オペアンプOPの非反転入力端子には、バイアス切り替え用の制御電圧Vmodeとして、AB級バイアスの制御電圧Vmode_AB又はC級バイアスの制御電圧Vmode_Cが入力される。オペアンプOPは、制御電圧Vmode_ABが入力されるときに、AB級としてFETのアイドリング電流が一定となるように、可変抵抗Rvから調整電圧Vsetが入力される。オペアンプOPは、AB級にバイアスするゲート電圧Vgs_ABとなる調整電圧Vsetのときに、制御電圧Vmode_Cを入力するとFETにC級となるゲート電圧Vgs_Cを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドハティ増幅器のバイアス回路に係り、特に、C級にバイアスされるピーク増幅器のバイアス設定を簡略化できるドハティ増幅器のバイアス回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力増幅器では、飽和電力に近づくほど電力効率を高くできるが、それと同時に増幅素子の非線形性に起因する歪みが生じることが知られている。しかし、無線通信に用いられる電力増幅器には、高い電力効率と低非線形歪という、相反する性能が求められる。そこで、飽和電力点からバックオフさせて低歪みを実現するとともに高い電力効率を得られる電力増幅器として、ドハティ増幅器が知られている。
【0003】
ドハティ増幅器は、AB級やB級にバイアスされたキャリア増幅器と、C級にバイアスされたピーク増幅器とを備えており、入力電力をキャリア増幅器とピーク増幅器とに分配し、キャリア増幅器とピーク増幅器の出力を合成して出力する。ドハティ増幅器は、瞬時入力電力が小さいときに、C級にバイアスされたピーク増幅器がオフ状態となり、キャリア増幅器が単体で増幅動作を行って出力するので、消費電力を抑えて高い電力効率で動作する。逆に、瞬時入力電力が大きいときに、ピーク増幅器がオン状態となり、キャリア増幅器による増幅信号とピーク増幅器による増幅信号とが合成され、瞬時入力電力が小さいときよりも大きな飽和電力で動作するので電力効率が高い。このように、ドハティ増幅器は、バックオフ動作時の効率を向上させるものである。
【0004】
ところで、ドハティ増幅器は、キャリア増幅器とピーク増幅器という、バイアスの異なる増幅器により構成されるので、各増幅器のバイアスが適切となるように初期設定をする必要がある。増幅素子としては、例えばFET(電界効果トランジスタ)を用いることができる。
【0005】
AB級又はB級にバイアスされるキャリア増幅器では、無信号時のドレイン電流(アイドリング電流)を目安にして、アイドリング電流が一定となるようなゲート電圧でバイアス設定される。
【0006】
一方、C級にバイアスされるピーク増幅器では、アイドリング電流が流れないゲート電圧にバイアス設定されるため、キャリア増幅器のようにアイドリング電流を目安にしてバイアス設定できず、バイアスされる目安が分かりにくい。
【0007】
C級にバイアスされるピーク増幅器のバイアス設定方法として、例えば本出願人による特許文献1がある。特許文献1では、アイドリング電流が流れないピーク増幅器に対しては、アイドリング電流に基づいてバイアス設定できないので、ゲート電圧を単独で所定値にするようにして初期設定を行っている。
【0008】
他に、C級にバイアスされるピーク増幅器のバイアス設定方法として、図6に示す従来のC級バイアス回路Yによるものがある。図6は、従来のC級のバイアス回路の構成例である。
【0009】
従来のC級バイアス回路Yでは、FETに供給するバイアス電圧としてのゲート電圧VgsをAB級からC級まで対応可能な可変範囲を有するように、抵抗R10,R11及び可変抵抗Rvの抵抗値が設定され、そして可変抵抗Rvによる可変電圧が、個々のFETで最適となるように調整される。この可変抵抗Rvによる可変電圧がゲート電圧Vgsとして、ゲート電圧用出力端子100から出力されFETに入力される。
【0010】
具体的には、従来のC級バイアス回路Yは、一旦、FETにアイドリング電流を流してAB級のバイアス電圧を取得し、取得したAB級のバイアス電圧を目安にして、予め決められた方法でそのFETに最適なC級のバイアス電圧を計算し、バイアス電圧をC級に設定するものである。
【0011】
具体的に図7を参照して、従来のC級バイアス電圧の設定フローを説明する。図7は、従来のC級バイアス回路YによるC級バイアス電圧設定のフローチャートである。
【0012】
まず、ステップS10で、例えば電流計などを用いて、可変抵抗Rvを調整して、AB級となるような予め決められた一定のアイドリング電流がFETに流れるようにバイアス電圧を設定する。次に、ステップS20で、上記予め決められた一定のアイドリング電流がFETに流れているときのFETのゲート電圧Vgsを、例えば電圧計などを用いて測定する。つまり、そのFETのAB級バイアス電圧として最適なゲート電圧Vgsを測定する。
【0013】
次に、ステップS30で、測定したAB級のゲート電圧Vgsを目安にして、そのFETに最適なC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsを予め決められた方法により計算する。ステップS40では、再び電圧計などを用いて、計算したC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsがゲート電圧用出力端子100に出力されるよう可変抵抗Rvを調整し、C級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsを設定する。以上の処理により、従来のC級バイアス回路Yは、ゲート電圧VgsをC級バイアス電圧として設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−154042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般的に、FETには製造時の不純物濃度などの関係から素子個々の特性に個体差があるため、アイドリング電流が流れ始めるゲート電圧(しきい値電圧)にも素子個々のばらつきがある。そのため、しきい値電圧の異なる各FETの間で、AB級バイアス電圧としてのゲート電圧やC級バイアス電圧としてのゲート電圧は異なってくる。
【0016】
しかし、特許文献1の技術では、C級バイアス電圧としてのゲート電圧を単独で所定値にするようにして初期設定を行っているため、FET素子個々のしきい値電圧のばらつきに対応できない。
【0017】
一方、図6に示す従来のC級バイアス回路Yによれば、実際にAB級バイアス状態において予め決められた一定のアイドリング電流を流してゲート電圧を測定し、このとき実測したゲート電圧に基づいてC級バイアス電圧としてのゲート電圧を計算している。そのため、個々のFETのしきい値電圧のばらつきに対応して適切なC級バイアス電圧が設定できる。
【0018】
しかし、従来のC級バイアス回路Yは、設定方法が煩雑であるという問題がある。
【0019】
図8は、従来のC級バイアス回路Yの特性例である。縦軸はFETに供給されるバイアス電圧としてのゲート電圧であり、横軸は可変抵抗Rvの抵抗値の最大値を1として規格化したときの可変抵抗Rvの設定点である。この従来のC級バイアス回路Yでは、FET個々のしきい値電圧のばらつきを吸収するために、まず、AB級バイアス状態において、予め決められた一定のアイドリング電流が流れるように可変抵抗Rvを設定点Rv1に調整する。次に、設定点Rv1のときのゲート電圧Vgs_ABを求め、求めたゲート電圧Vgs_ABに基づいて予め決められた方法でC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cを算出し、算出したゲート電圧Vgs_Cとなるように可変抵抗Rvを設定点Rv2に調整するので、可変抵抗Rvの設定点が2つ存在する。
【0020】
このように、従来のC級バイアス回路Yでは、FET個々のしきい値電圧のばらつきに対応できるものの、AB級及びC級のそれぞれのバイアス電圧に対して可変抵抗Rvの設定点が2つ存在するので、可変抵抗Rvを2回調整しなければならず、設定操作が煩雑である。また、アイドリング電流を測定し、さらにバイアス電圧としてのゲート電圧Vgsを測定するので、電流計と電圧計を用意しなければならず面倒である。さらに、ゲート電圧VgsをAB級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_ABからC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cまで設定可能にするために、可変抵抗Rvの可変範囲を広く持たなければならず、設定分解能の劣化を招く虞があり、設定が難しくなることがある。つまり、従来のC級バイアス回路Yでは、ドハティ増幅器の生産性の点で効率的でない。
【0021】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、C級バイアスの設定を容易にするとともにドハティ増幅器の生産性を向上させるバイアス回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のドハティ増幅器のバイアス回路は、ピーク増幅器の増幅素子にバイアス電圧を出力するドハティ増幅器のバイアス回路であって、予め決められた一定のアイドリング電流が前記増幅素子に流れるように前記バイアス電圧を調整する電圧調整手段と、調整された前記バイアス電圧を所定の制御電圧によりC級バイアスに設定するバイアス設定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、C級バイアス電圧の設定を容易にするとともにドハティ増幅器の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るC級バイアス回路500の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るC級バイアス回路500によるC級バイアス電圧設定のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係るC級バイアス回路500の特性図である。
【図4】本発明の実施形態に係るC級バイアス回路600の構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係るC級バイアス回路700の構成図である。
【図6】従来のC級バイアス回路Yの構成図である。
【図7】従来のC級バイアス回路YによるC級バイアス電圧設定のフローチャートである。
【図8】従来のC級バイアス回路Yの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一般的に、FETのドレイン電流Id、ゲート電圧Vgs、及びしきい値電圧Vtには、以下の関係がある。
Id∝(Vgs−Vt)^2・・・式1
【0026】
ドレイン電流Idが、ゲート電圧Vgsからしきい値電圧Vtを差し引いた値を二乗したものに比例するということは、ドレイン電流Idを固定値とした場合、ゲート電圧Vgsとしきい値電圧Vtとの差も固定値となることを意味する。
【0027】
つまり、予め決められた一定のドレイン電流Idが流れるときのゲート電圧Vgsからある値を引くことによってしきい値電圧Vtを求めることができ、それは次式で表される。
Vt=Vgs−K(Kは所定の定数)・・・式2
【0028】
この所定の定数Kの値は、FET個々のしきい値電圧にばらつきがあってもほぼ同じである。よって、FET素子個々のばらつきにより、各FETのしきい値電圧が不明であっても、各FETに予め決められた一定のドレイン電流を流し、そのときのゲート電圧からある値(所定の定数K)を引くことで、FET個々のしきい値電圧を得られる。
【0029】
つまり、アイドリング電流が流れないしきい値電圧以下にバイアス電圧としてのゲート電圧が設定されるC級バイアスにおいて、FET個々のしきい値電圧のばらつきを吸収し、各FETに同一のC級増幅動作をさせるには、予め決められた一定のアイドリング電流が流れるときのゲート電圧から一律に固定値を差し引けばよい。
【0030】
そこで、本実施形態では、まず予め決められた一定のアイドリング電流が流れるゲート電圧をAB級バイアスとなる電圧に設定し、次にこのゲート電圧から所定値を引くとC級バイアスとしてのゲート電圧となるように構成した。
【0031】
以下、図を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0032】
図1に示す本実施形態のC級バイアス回路500は、可変抵抗RvとオペアンプOPと抵抗R1,R2,R20,R21とを備える。可変抵抗Rvは、一端から抵抗R20を介して電源(電源電圧Vcc)に接続され、他端は抵抗R21を介して接地されるとともに、可変抵抗Rvの可変電圧出力端子には、抵抗R2を介してオペアンプOPの反転入力端子が接続される。オペアンプOPの反転入力端子と出力端子との間は抵抗R1を介して接続され、オペアンプOPの非反転入力端子は、制御電圧Vmodeが入力されるバイアス切替端子200に接続される。
【0033】
オペアンプOPは、可変抵抗Rvによって反転入力端子に入力される調整電圧Vsetと、非反転入力端子に入力される制御電圧Vmodeとに基づいて差動増幅を行って、ゲート電圧用出力端子100にFETへ供給されるゲート電圧Vgsを出力する。
【0034】
オペアンプOPの非反転入力端子に入力される制御電圧Vmodeは、バイアスをAB級又はC級に切り替えるための制御電圧であり、予め決められた適切な制御電圧としてAB級に対応するVmode_AB、及びC級に対応するVmode_Cが設定されており、いずれかの制御電圧に切り替え可能に設定されている。制御電圧Vmode_Cは、AB級とC級のバイアス電圧の差を考慮して設定されており、制御電圧Vmode_ABに基づくAB級のゲート電圧Vgs_ABから所定値(K+α(Kは式2におけるK、αはしきい値Vtから実際に設定されるC級バイアス電圧としてのゲート電圧までの差分))を引くとC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cとなるように設定されている。
【0035】
本実施形態のC級バイアス回路500によるC級バイアス電圧の設定の流れを図2に示す。まず、ステップA10で、バイアス切替端子200から制御電圧Vmode_ABを入力し、FETを仮のAB級バイアス状態とする。このときのバイアス電圧は、後述する可変抵抗Rvによる電圧調整を容易にするために、FET個々のばらつきの中心値付近となるようにするとよい。次に、ステップA20で、予め決められた一定のアイドリング電流がFETに流れるように、可変抵抗Rvを調整して、調整電圧Vsetを可変させる。このとき、FETに予め決められた一定のアイドリング電流が流れるように可変抵抗Rvを調整し、調整された可変抵抗Rvの設定点をRv_optとする。
【0036】
次に、ステップA30で、可変抵抗Rvの設定点Rv_optによる調整電圧VsetがオペアンプOPの反転入力端子に入力されている状態で、バイアス切替端子200からオペアンプOPの非反転入力端子に入力する制御電圧VmodeをVmode_ABからVmode_Cに切り替える。制御電圧Vmode_Cは、AB級とC級のバイアス電圧としてのゲート電圧の差(Vgs_AB−Vgs_C)を考慮した適切な制御電圧に設定されているので、制御電圧Vmodeを切り替えるだけで、可変抵抗Rvの設定点Rv_optを変更せずに、ゲート電圧VgsをそのFETに対して最適なC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cとすることができる。
【0037】
図3は、本実施形態のC級バイアス回路500の特性を示す図である。縦軸はFETに供給されるゲート電圧Vgsであり、横軸は可変抵抗Rvの抵抗値の最大値を1として規格化したときの可変抵抗Rvの設定点である。図3において、Vmode=Vmode_ABの特性は、制御電圧VmodeをVmode_ABとし、FETをAB級バイアス状態としたときの可変抵抗RvによるオペアンプOPの出力特性を示している。また、Vmode=Vmode_Cの特性は、制御電圧VmodeをVmode_Cとし、FETをC級バイアス状態としたときの可変抵抗RvによるオペアンプOPの出力特性を示している。なお、図3では、シリコンを用いたLDMOS等のノーマリオフ形を想定した一例として、FETをC級バイアス状態とするVgs_Cがプラス電圧となる場合を示しているが、GaAsやGaNを用いたMOS等のノーマリオン形の場合等では、FETをC級バイアス状態とするVgs_Cがマイナス電圧になる。
【0038】
図3は、まず制御電圧VmodeをVmode_ABとして可変抵抗Rvの設定点をRv_optとすると、バイアス電圧としてのゲート電圧がVgs_ABとなり、そして可変抵抗Rvの設定点をRv_optに保った状態でバイアス切り替え用の制御電圧VmodeをVmode_Cにすると、C級バイアスとなるゲート電圧Vgs_CがFETに供給されることを示している。つまり、可変抵抗Rvから所定の調整電圧Vsetを出力する設定点Rv_optを、AB級バイアスとC級バイアスの両方で共通に用いることができる。
【0039】
このように、本実施形態では、オペアンプOPに入力する制御電圧Vmode_Cを制御電圧Vmode_ABに対して適切な電圧値に設定してあるので、バイアス切り替え用の制御電圧VmodeをVmode_ABからVmode_Cに切り替えることで、ゲート電圧Vgs_ABとなる設定点Rv_optでゲート電圧Vgs_Cが得られる。
【0040】
そのため、AB級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_ABのときと、C級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cのときとで、可変抵抗Rvの設定点を異ならせる必要がないので、可変抵抗Rvによるバイアス電圧の調整が一度で済み、調整動作が大変簡単である。
【0041】
このように、本実施形態では、制御電圧VmodeをAB級とC級に切り替え可能とすることで、ピーク増幅器とキャリア増幅器のAB級バイアス電圧の設定を共通のバイアス回路で行えるので、ドハティ増幅器の生産性を向上させられる。すなわち、AB級にバイアスするキャリア増幅器のときは制御電圧VmodeをC級用に切り替えずにバイアス設定を行い、C級にバイアスするピーク増幅器のときは制御電圧VmodeをAB級からC級に切り替えてバイアス設定を行えばよい。
【0042】
また、可変抵抗Rvの設定点がAB級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_ABのときと、C級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgs_Cのときとで同一であるので、可変抵抗Rvの可変範囲を図8で示した従来技術のようにRv1からRv2までまで広く持つ必要がない。すなわち、Rv_optを含むFETのばらつきを吸収できる可変範囲でよい。可変抵抗Rvの設定分解能は、抵抗R20,R21、及び可変抵抗Rvの抵抗比によって決めることができる。そのため、両端抵抗R20,R21の抵抗値を調整することにより、可変抵抗Rvの設定分解能を劣化させずに済む。また、図3に示す制御電圧Vmode_AB及びVmode_Cの直線の傾きは、抵抗R1及びR2の抵抗値を変えることで容易に変更可能であり、この抵抗R1及びR2の抵抗値を調整することによっても可変抵抗Rvの設定分解能を劣化させないようにできる。
【0043】
また、予め制御電圧Vmode_ABと制御電圧Vmode_Cとを適切な値に設定しておくことにより、電圧値の測定が不要なので、FETのゲート電圧を測定する電圧計などの測定器を用意する必要がなく、初期設定の工数を削減できる。
【0044】
また、本実施形態によれば、ゲートバイアス切り替え用の制御電圧Vmodeの切り替えをオペアンプOPの差動増幅の原理を利用した簡単な構成で実現できる。また、本実施形態では、可変抵抗Rvによって電圧調整を行ったが、DAコンバータで電圧調整を行ってもよい。
【0045】
なお、本実施形態では、FET個々のしきい値電圧のばらつきを吸収するため、初めにAB級バイアスに設定する構成としたが、このとき設定するバイアス電圧としてのゲート電圧Vgsは、予め決められた一定のアイドリング電流が流れるゲート電圧Vgsであればよいので、例えばA級バイアスとしてのゲート電圧Vgsなどであってもよい。この場合、A級バイアス状態をC級バイアス状態とするためには、初めに調整されたA級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsから差し引く所定値はAB級のときよりも大きくなるので、制御電圧Vmode_Aと制御電圧Vmode_Cとの電位差も大きくなることになる。また、本実施形態では、AB級など予め定められたバイアス電圧としてのゲート電圧Vgsから所定値を差し引いてC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsを設定する構成としたが、例えばA級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsから所定値を差し引いてAB級又はB級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsとする変形も可能である。
【0046】
また、本実施形態では、初めに個々のFETに最適なAB級として予め決められた一定のアイドリング電流が流れるゲート電圧Vgsにするため、オペアンプOPの非反転入力端子に入力される制御電圧Vmode_ABをオペアンプOPの反転入力端子に入力される調整電圧Vsetで調整する構成としたが、他の構成も考えられる。以下、図4及び図5を参照して、C級バイアス回路500の変形例を説明する。なお、図1と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0047】
図4に示すC級バイアス回路600では、オペアンプOPの非反転入力端子が接地され、オペアンプOPの反転入力端子と抵抗R1との接続線に抵抗R3とスイッチSWとを介して電源電圧(制御電圧)Vccが接続されている。
【0048】
このバイアス回路600では、まず、スイッチSWをOFFにして反転入力端子に対する電源電圧Vccの供給を停止するとともに、可変抵抗Rvによる調整電圧Vsetにより、個々のFETに最適なAB級として予め決められた一定のアイドリング電流が流れるゲート電圧Vgsに調整する。そして、調整電圧VsetによりAB級として最適なゲート電圧Vgsの調整がされたら、次に、調整電圧Vsetを固定としたまま、スイッチSWをONにして抵抗R3を介して電源電圧Vccを反転入力端子に入力する。このとき、電源電圧Vccと抵抗R3の値は、オペアンプOPから出力されるゲート電圧Vgsが、スイッチSWをOFFからONに切り替えることによって、AB級からC級バイアス電圧としてのゲート電圧Vgsとなるように設定されている。なお、スイッチSWのON/OFFの切り替えや抵抗R3の抵抗値の大きさは、オペアンプOPから出力されるゲート電圧VgsがAB級又はC級のバイアス電圧となるように、可変抵抗Rvからの調整電圧Vsetの大きさに合わせて適切に設定すればよい。
【0049】
これにより、図1で示すC級バイアス回路500と同様に、C級バイアス回路600では、FET個々のしきい値のばらつきを吸収してC級バイアスの設定ができるとともに、可変抵抗Rvによる電圧調整の設定が一度で済む。
【0050】
また、スイッチSWのOFF又はONによりAB級バイアスとC級バイアスとを切り替える構成ではなく、図5に示すC級バイアス回路700のように、電源電圧Vccをバイアス切替端子300とし、バイアス切替端子300からバイアス切り替え用の制御電圧Vmodeを入力する構成としてもよい。C級バイアス回路700では、オペアンプOPの非反転入力端子が接地され、オペアンプOPの反転入力端子と抵抗R1との接続線に抵抗R4を介してバイアス切替端子300が接続されている。バイアス切替端子300は、制御電圧Vmodeとして適切に設定されたAB級用の制御電圧とC級用の制御電圧とを切り替えてオペアンプOPの反転入力端子に加算入力する。
【0051】
このC級バイアス回路700では、まず、バイアス切替端子300から抵抗R4を介してAB級用の制御電圧をオペアンプOPの反転入力端子に入力するとともに、可変抵抗Rvによる調整電圧Vsetにより、個々のFETに最適なAB級として予め決められた一定のアイドリング電流が流れるゲート電圧Vgsに調整する。そして、調整電圧VsetによりAB級として最適なゲート電圧Vgsの調整がされたら、次に調整電圧Vsetを固定としたまま、バイアス切替端子300から入力する制御電圧VmodeをAB級用の制御電圧からC級用の制御電圧に切り替える。このとき、AB級用の制御電圧とC級用の制御電圧は、制御電圧VmodeをAB級用の制御電圧からC級用の制御電圧に切り替えることによって、オペアンプOPから出力されるゲート電圧VgsがAB級からC級のバイアスとなるように設定されている。上記構成により、このC級バイアス回路700においても、FET個々のしきい値のばらつきを吸収してC級バイアスの設定ができるとともに、可変抵抗Rvによる電圧調整の設定が一度で済む。
【0052】
以上、本実施形態によれば、C級バイアスの設定が簡略化されるのでドハティ増幅器の生産性を向上させられる。また、アイドリング電流が流れないC級のバイアス設定において、FET個々のばらつきを吸収した適切なC級バイアスを設定できるので、ドハティ増幅器の性能を安定化できる。
【0053】
以上を概説すると、本発明のドハティ増幅器のバイアス回路は、ピーク増幅器の増幅素子にバイアス電圧を出力するドハティ増幅器のバイアス回路であって、予め決められた一定のアイドリング電流が前記増幅素子に流れるように前記バイアス電圧を調整する電圧調整手段と、調整された前記バイアス電圧を所定の制御電圧によりC級バイアスに設定するバイアス設定手段と、を備えたことを特徴とする。
また、入力される前記制御電圧は、調整された前記バイアス電圧の値から所定値を引いた電圧値が前記C級のバイアス電圧となるように設定されていてもよい。
また、前記バイアス設定手段はオペアンプにより構成してもよい。
また、調整された前記バイアス電圧のバイアスをAB級又はB級としてもよい。
【0054】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々様々に変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100・・・ゲート電圧用出力端子
200,300・・・バイアス切替端子
OP・・・オペアンプ
Rv・・・可変抵抗
R1,R2,R3,R4,R10,R11,R20,R21・・・抵抗
500,600,700・・・本実施形態のC級バイアス回路
Y・・・従来のC級バイアス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク増幅器の増幅素子にバイアス電圧を出力するドハティ増幅器のバイアス回路であって、
予め決められた一定のアイドリング電流が前記増幅素子に流れるように前記バイアス電圧を調整する電圧調整手段と、
調整された前記バイアス電圧を所定の制御電圧によりC級バイアスに設定するバイアス設定手段と
を備えたことを特徴とするドハティ増幅器のバイアス回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−109387(P2011−109387A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262001(P2009−262001)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】