説明

ドライアイ治療用点眼剤

【課題】人工涙液に代わるドライアイ治療用点眼剤を提供する。
【解決手段】上皮ナトリウムチャンネル(ENaC)の阻害剤であるアミロライドもしくはその誘導体を生理食塩水で溶解したものを、ドライアイ治療用点眼剤として用いる。特に、アミロライド誘導体は、フェナミルメタンスルホネート、ベンザミルハイドロクロライド、トリアムテレン、ジウテレンからなる群から選択されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイの予防・治療・改善用点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイ(眼乾燥症)は涙液の質的及び量的な異常により、眼の表面、すなわち角結膜に障害が起こる疾患である。また、シェーグレン症候群のような自己免疫異常、乾性角結膜炎、スティーブンージョンソン症候群、眼瞼縁炎症等の各種のドライアイ疾患、白内障術後やアレルギー性結膜炎に伴うドライアイのほか、近年のOA化に伴うVDT作業(ビデオ画面端末作業)の急増や、冷暖房等による部屋の乾燥により、全身的に異常のない涙液減少疾患が増加している。ドライアイの患者は、潜在患者も含め、我が国では800万人と言われ、ドライアイは社会現象にもなっている。
【0003】
眼球の表面を覆う涙液は、油層、水層、ムチン層の3つの層からなり、乾燥防止、殺菌、洗浄、酸素供給、栄養供給など多くの役割を担っている。また、涙液はEGF(epithrial growth factor、上皮成長因子)、TGF−β(transforming growth factor、トランスフォーミング成長因子)やビタミンAのような成分を含んでいる。これらの涙液に含まれる成分は、角膜上皮の増殖分化に重要であることが知られている。ドライアイによりこれらの成分が欠乏すると、角膜上皮の増殖および分化に障害が生じることがある。このような状態では、角膜上皮に傷がついても治りにくく、細菌感染も起こしやすい。
【0004】
現在までにドライアイの患者のための人工涙液が各種開発されている。例えば、特許文献1には、加水分解コラーゲンペプチド、キトサン加水分解成分等の生体適合性、保水性、親水性の高い成分を含む、ドライアイによる涙液不足を補うための眼科用人工涙液が記載されている。特許文献2には、人工涙液に微量の油を添加して、油分の補給を行い、涙液の蒸発を防ぐための人工涙液について記載されている。また、特許文献3には、生体金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを含み、浸透圧が200〜295OsmkgH2Oであって、pH6〜8の眼科用人工涙液が記載されている。さらに、特許文献4には、ナトリウム利尿ペプチドを有効成分とした点眼剤により涙液分泌が促進され角結膜障害治療に有効であることが記載されている。
【0005】
しかし、これらの人工的な涙液には、涙液に微量に含まれる成長因子のような成分のすべてが含まれていないため、あくまで涙液の代替にすぎず、ドライアイにより障害を受けた上皮細胞の増殖を涙液と同程度にまで補うことができない。
【0006】
上皮ナトリウムチャンネル(ENaC)は腎尿細管の上皮など多くの上皮細胞に存在し、上皮細胞へのナトリウムや水の再吸収に関与する。ENaCは腎臓においてアミロライドにより遮断され、水の再吸収が抑制されるため、アミロライドは利尿薬として広く用いられている。したがって、アミロライドを点眼投与することにより結膜組織に存在するENaCから涙液の再吸収が抑制され結膜表面に涙液が保持され、ドライアイを治療、さらに予防できるのではないかと考えられる。
【0007】
眼科分野において、アミロライドは新血管新生の予防に有効であることが報告されている。例えば、特許文献5には、ピリジン誘導体類の化合物であるアミロライドを経口投与、静脈内投与、もしくは点眼投与することにより投与年齢依存性斑状変性および糖尿病性網膜症において生じる新血管新生を予防できることが記載されている。しかしその他の作用についてはほとんど研究されておらず、アミロライドの点眼投与によるドライアイへの効果についての報告はない。
【特許文献1】特開平7−223966号公報
【特許文献2】特開平10−218760号公報
【特許文献3】特開2000−159659号公報
【特許文献4】特開2000−169387号公報
【特許文献5】特開平7−89859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、結膜表面に涙液が留まるよう促すドライアイ治療用点眼剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アミロライドがドライアイの治療に有効であるとの発見に基づく。すなわち、本発明は、有効成分として上皮ナトリウムチャンネル(ENaC)の阻害剤であるアミロライド、もしくはその誘導体を含むドライアイの予防・治療・改善のための点眼剤に関する。
【0010】
本発明において、有効成分として含まれるアミロライド誘導体は、フェナミルメタンスルホネート、ベンザミルハイドロクロライド、トリアムテレン、ジウテレンからなる群から選択されるものでもよく、さらに、アミロライド、およびその誘導体が0.1%以下の濃度であることを特徴とする。
【0011】
本発明によるドライアイ治療用点眼剤は、生理食塩水を溶媒とした懸濁液として利用することができる。本発明の点眼剤は特定の機序に限定されるものではないが、この点眼薬により、結膜組織のENaCからの涙液の再吸収が抑制されて、結膜表面に涙液を留めておくことができ、眼の乾燥を防ぐことができるものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアミロライド点眼剤は、涙腺から涙液の分泌を促進する機序とは別の、結膜上皮細胞のナトリウムチャンネルを遮断するものであると考えられる。このようなナトリウムチャンネルの遮断により、涙液の吸収が阻害されることにより結膜表面に涙液を留まらせて眼を乾燥から守るものであると考えられる。体内から分泌される涙液をそのまま活かせるという点で非常に優れたドライアイの治療および予防の効果を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の点眼剤により治療可能なドライアイは、シンプルドライアイ(涙液減少症)、眼乾燥症、乏涙症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブン−ジョンソン症候群、眼類天疱胞、眼瞼縁症、白内障術後やアレルギー性結膜炎に伴うドライアイ、コンタクトレンズ装着に伴うドライアイ等である。ドライアイの治療以外にも、いわゆる疲れ眼やかゆみ眼といわれる症状の緩和や術後の眼の保護などにも広く使用可能である。
【0014】
本発明のドライアイ治療用アミロライド点眼剤の用法、用量は、患者の症状、年齢などにより適宜変えるものであるが、通常は、1日に2〜8回、眼に数滴点眼することにより、ドライアイの治療を行う。さらに、本発明の治療剤は、ドライアイの治療目的だけでなく、ドライアイの予防、ドライアイの症状改善目的に用いることができる。
【0015】
本発明の点眼剤に使用される生理食塩水は滅菌済み局方品を使用することができる。
【0016】
本発明のアミロライドおよびその誘導体を有効成分として含有する点眼剤は、通常の眼科用点眼剤として使用し得る各種の成分、例えば安定化剤、防腐剤、緩衝剤、等張化剤、界面活性剤等を適宜使用して調製できる。
【0017】
上記安定化剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0018】
上記防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラベンなどを用いることができる。
【0019】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0020】
上記等張化剤としては、例えば、グリセリン、塩化ナトリウムを用いることができる。
【0021】
上記界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40などを用いることができる。
【0022】
本発明のドライアイ治療用点眼剤には、添加物として、各種の因子、ビタミンA、ビタミンC、ヒアルロン酸、アルブミン、ラクトフェリン等を含んでもよい。
【0023】
本発明の点眼剤のpHは眼科製剤に許容される範囲内であればよいが、4〜8の範囲が好ましい。
【0024】
以下に実験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらにより本発明を制限するものではない。
【0025】
実験例1
日本白色種(JP:Japanese White)家兎6羽6眼に本発明のアミロライド点眼剤を点眼した。点眼剤としてはENaCの阻害剤であるアミロライドを用い、生理食塩水を溶媒として0.1%に希釈することにより生成して被験点眼剤とした。コントロール用点眼剤として、生理食塩水を用いた。1回点眼量はマイクロピペットで計測して20μlとした。涙液分泌を調べるため、シルマー試験紙を用いた。実験動物にベノキシール(登録商標)0.4%、10μlにて点眼麻酔した後シルマーテストI法変法を施行したあと、被験点眼剤としてアミロライドを6羽(A〜F)の右目に各20μlずつ点眼し、コントロール用点眼剤を6羽の左目に点眼した。点眼後5分後、15分後、30分後、60分後においてシルマーテストI法変法を施行し、15分後、30分後、60分後の際にはシルマーテストの2分前にベノキシール(登録商標)0.4%、10μlにて点眼麻酔を施行した。結果を表1および表2に示す。結果は、mmの単位で表示する。なお、シルマーテストI法変法とは、涙液分泌量を定量化するために1mm幅の目盛りがついた試験紙を下眼瞼に5分間はさみ、涙液が試験紙に染み込んだ長さを計測する事で単位時間当たりの涙液分泌量を計測する試験法がシルマーテストであるが、この際に点眼麻酔を用いる方法が変法である。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表1、2に示した結果から明らかなように、0.1%アミロライド点眼群は生理食塩水点眼群と比較してシルマーテストの値が各経過時間において高く、本発明のアミロライド点眼剤は結膜表面での涙液の保持を促進させることが判った。
【0029】
実験例2
日本白色種(JP:Japanese White)家兎2羽2眼に本発明のアミロライド誘導体点眼剤を点眼した。ENaCの阻害剤であるアミロライド誘導体のフェナミルメタンスルホネートおよびベンザミルハイドロクロライドを用いて、生理食塩水を溶媒として0.1%に希釈することにより生成して被験点眼剤とした。コントロール用点眼剤として、生理食塩水を用いた。1回点眼量はマイクロピペットで計測して20μlとした。涙液分泌を調べるため、シルマー試験紙を用いた。手順としては、実験動物にベノキシール(登録商標)0.4%、10μlにて点眼麻酔した後シルマーテストI法変法を施行したあと、被験点眼剤としてフェナミルメタンスルホネートを1羽の右目、ベンザミルハイドロクロライドを1羽の右目、生理食塩水をこれら2羽の左目2眼(GおよびH)に各20μlずつ点眼した。点眼後5分後、15分後、30分後、60分後においてシルマーテストI法変法を施行し、15分後、30分後、60分後の際にはシルマーテストの2分前にベノキシール(登録商標)0.4%、10μlにて点眼麻酔を施行した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3の結果によりアミロライド誘導体であるフェナミルメタンスルホネート、ベンザミルハイドロクロライドにおいても生理食塩水点眼群より高い値を示していることが判った。また、図1は、生理食塩水点眼(8羽8眼)、アミロライド点眼(6羽6眼)、フェナミルメタンスルホネート(1羽1眼)、およびベンザミルハイドロクロライド(1羽1眼)のシルマーテストによる涙液量の各群の値もしくは平均値の時間経過に伴う変化を示すグラフである。生理食塩水点眼群の平均値については、アミロライド点眼群と比較した生理食塩水点眼群(A〜F)の6眼の値と、アミロライド誘導体点眼群と比較した生理食塩水点眼群(GおよびH)の2眼の値を足した合計8眼から算出したものである。
【0032】
以上の結果から、アミロライド点眼剤およびアミロライド誘導体点眼剤の点眼により、点眼前と比較して涙液がより良く保持されていることが判った。従って、本発明のアミロライド点眼剤が、ドライアイの治療および予防に有効であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】生理食塩水点眼(8羽8眼)、アミロライド点眼(6羽6眼)、フェナミルメタンスルホネート点眼(1羽1眼)、およびベンザミルハイドロクロライド点眼(1羽1眼)のシルマーテストによる涙液量の各群の値もしくは平均値の時間経過に伴う変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロライドもしくはその誘導体を有効成分として含むドライアイの予防・治療・改善用点眼剤。
【請求項2】
前記誘導体がフェナミルメタンスルホネート、ベンザミルハイドロクロライド、トリアムテレン、ジウテレンからなる群から選択される請求項1に記載のドライアイの予防・治療・改善用点眼剤。
【請求項3】
前記アミロライド、およびその誘導体が0.1%以下の濃度であることを特徴とする請求項1に記載のドライアイの予防・治療・改善用点眼剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−232684(P2006−232684A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46206(P2005−46206)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(504042638)株式会社クオリタス. (7)
【出願人】(505066202)
【Fターム(参考)】