説明

ドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法

【課題】ドラムブレーキの部品点数を削減させ、且つ、強度を確保したまま従来のケーブル案内部の限界高さより高いケーブル案内部を有する、ドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法を提供する。
【解決手段】切り曲げ加工に比較して板厚の局所的な減少が生じ難い絞り工程P2の絞り加工によって円板部材64の一部64bがブレーキケーブル58側へ底上げされその底上げされた円板部材64の一部64eが切り曲げ工程P3によって切り曲げられるので、切り曲げ工程P3によって円板部材64の一部64eの長手方向の中央部をブレーキケーブル58側に切り曲げる高さH2が従来の円板部材の一部の長手方向の中央部をケーブル案内部18fの高さHまで切り曲げるものに比較して低くなり、ケーブル案内部18dを成形する際に局所的に生じる板厚の減少が従来のケーブル案内部に比較して小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法に関し、特にそのドラムブレーキ用バッキングプレートの機能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、図13、14に示すようなドラムブレーキ用バッキングプレート100が知られている。この図13、14に示されるドラムブレーキ用バッキングプレート100は、一対のブレーキシューの一方に回動可能に設けられたブレーキレバーの先端部に一端部が連結されたブレーキケーブル110を、そのバッキングプレート100の一部100aからそのブレーキケーブル110側へ互いに平行な切断面100bの間で曲成された長手状のケーブル案内部100cで支持して案内するものであり、バッキングプレート100と一体にケーブル案内部100cが備えられるのでドラムブレーキの部品点数を削減させる利点がある。ケーブル案内部100cは、図15に示すように、バッキングプレート100の一部100a側へ先端部120aが突き出すポンチ120と、そのポンチ120との間でプレス加工するための凹面130aを有するダイス130とを用いて、バッキングプレート100の一部100aの長手方向の中央部を切り曲げてそのバッキングプレート100の一部100aの長手方向の中央部を凹面130aの底部側に突き出させるようにプレス加工して成形されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−133911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキ用バッキングプレート100の製造方法において、上記のようなポンチ120とダイス130とを用いてプレス加工によってケーブル案内部100cを成形しようとすると、プレス加工時ポンチ120の先端部120aからバッキングプレート100の一部100aの長手方向の中央部に荷重が集中するため、そのバッキングプレート100の一部100aの長手方向の中央部におけるポンチ120とダイス130の凹面130aとの非接触部の板厚がポンチ120の先端部120aがダイス130の凹面130aの底部に接近するに連れて集中的に薄くなる。そのため、ケーブル案内部100cの高さHを図13に示すように高くすると、図14に示すようにケーブル案内部100cの一部の幅寸法Dが局部的に小さく、且つ板厚が局部的に薄くなりドラムブレーキ制動時おけるブレーキケーブル110を支持して案内するために必要な強度を確保することが困難になるという問題があった。従って、ドラムブレーキ用バッキングプレート100においてケーブル案内部100cをプレス加工によって形成する場合には、その高さHに設計上の限界高さがある。
【0005】
また、特許文献1では従来のケーブル案内部100cの限界高さより高く且つ十分な強度を確保するために、上記ケーブル案内部100cと同様の機能を有するケーブルガイドを別部品としてバッキングプレートに取り付けるような方法が用いられているが、この場合ドラムブレーキの部品点数が増えドラムブレーキの製造コストが高くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ドラムブレーキの部品点数を削減させ、且つ、強度を確保したまま従来のケーブル案内部の限界高さより高いケーブル案内部を有する、ドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 一対のブレーキシューの一方に回動可能に設けられたブレーキレバーの先端部に一端部が連結されたブレーキケーブルを、そのバッキングプレートの一部からそのブレーキケーブル側へ互いに平行な切断面の間で曲成された長手状のケーブル案内部で支持して案内するドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法であって、(b) 前記バッキングプレート側へそのバッキングプレートの平板部と平行に突き出す先端側平面を有する第1ポンチと、その第1ポンチとの間で絞り加工するための絞り面を有する第1ダイスとを用いて、前記バッキングプレートの一部を前記第1ポンチの先端側平面によってそのバッキングプレートの平板部と平行に前記ブレーキケーブル側へ突き出させる絞り工程と、(c) 前記バッキングプレートの一部側へ突き出す先端側凸面を有する第2ポンチと、その第2ポンチの先端側凸面との間でプレス加工するための凹面を有する第2ダイスとを用いて、前記絞り工程によって前記ブレーキケーブル側へ前記バッキングプレートの平板部と平行に突き出されたそのバッキングプレートの一部をさらに前記ブレーキケーブル側に切り曲げる切り曲げ工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法によれば、前記絞り工程によって前記バッキングプレートの一部が前記第1ポンチの先端側平面により前記バッキングプレートの平板部と平行に前記ブレーキケーブル側へ突き出され、その後前記切り曲げ工程によって前記絞り工程により前記ブレーキケーブル側へ突き出されたそのバッキングプレートの一部がさらに前記ブレーキケーブル側へ切り曲げられる。そのため、前記切り曲げ工程の切り曲げ加工に比較して板厚の局所的な減少が生じ難い前記絞り工程の絞り加工によって前記バッキングプレートの一部が前記ブレーキケーブル側へ底上げされその底上げされた前記バッキングプレートの一部が前記切り曲げ工程によって切り曲げられるので、前記切り曲げ工程によって前記バッキングプレートの一部の長手方向の中央部を前記ブレーキケーブル側に切り曲げる高さが従来のケーブル案内部に比較して低くなる。これにより、前記切り曲げ工程によって前記ケーブル案内部を成形する際に局所的に生じる板厚の減少が従来のケーブル案内部に比較して小さくなり前記ケーブル案内部の板厚が従来のケーブル案内部に比較して厚くなるので、強度を確保したまま従来のケーブル案内部の限界高さに比較して本願発明のケーブル案内部の限界高さを高くさせられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用されたデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】図2のIII-III視面図である。
【図4】ドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法を説明するための工程図である。
【図5】予備プレス工程によって成形された円板部材を示す斜視図である。
【図6】絞り工程で使用される絞りプレス加工機を説明する斜視図である。
【図7】絞り工程によって円板部材の一部が絞り加工される状態を説明する断面図である。
【図8】絞り工程によって成形された円板部材を示す斜視図である。
【図9】切り曲げ工程で使用される切曲げプレス加工機を説明する斜視図である。
【図10】切り曲げ工程によって円板部材の第1形状部が切り曲げ加工される状態を説明する断面図である。
【図11】切り曲げ工程によって成形された円板部材を示す斜視図である。
【図12】図11の矢印B方向から見た図である。
【図13】従来のバッキングプレートのケーブル案内部を示す図である。
【図14】図13のXIV-XIV視面図である。
【図15】従来のバッキングプレートのケーブル案内部の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例のドラムブレーキ10が中央部に備えられたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、図に示されていない円板状外周部と有底円筒状中央部とによって構成され、その円板状外周部はディスクブレーキの摩擦板として機能し、有底円筒状中央部はブレーキドラム14として機能している。また、ブレーキドラム14は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちのドラムブレーキ10の中心側の円はブレーキドラム14の内周面16を示している。
【0012】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート(ドラムブレーキ用バッキングプレート)18が備えられている。このバッキングプレート18の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー20が固定されている。
【0013】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート18の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー22,24と、その一対のブレーキシュー22,24の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられたアンカー26と、そのアンカー26と一対のブレーキシュー22,24との間に張設され一対のブレーキシュー22,24の一端部を互いに接近する方向に常時付勢する一対のリターンスプリング28,30と、一対のブレーキシュー22、24の上端部間に架け渡された長手板状のストラット32と、一対のブレーキシュー22,24の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール34aの回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置34と、一対のブレーキシュー22,24の下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置34を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング36とが備えられている。
【0014】
一対のブレーキシュー22,24は、何れも、バッキングプレート18の平板部18aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ38,40と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム42,44と、それらシューリム42,44の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング46,48とを備えてそれぞれ構成されている。
【0015】
また、一対のブレーキシュー22,24は、シューウェブ38およびシューウェブ40にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置50,52によってバッキングプレート18側へ押圧されることによりそのバッキングプレート18に対して面方向の拡開移動可能に保持されている。
【0016】
図1に示すように、ブレーキシュー22には、略円柱形状の取付軸54を備えた平板状のブレーキレバー56が配設されており、ブレーキシュー22の一端部とブレーキレバー56の基端部56aとは、その取付軸54によって、その取付軸54まわりに相対回動可能に連結されている。そして、ブレーキレバー56の基端部56aであって取付軸54に近い部分は、ストラット32のブレーキシュー22側の端部に切り欠かれた切欠面32aにシューウェブ38と共に係合させられている。また、ブレーキレバー56の先端部56bには、パーキングブレーキペダル、パーキングブレーキレバー等の図示されていないブレーキ操作装置が操作されることによって発生する操作力をそのブレーキレバー56の先端部56bに伝達するブレーキケーブル58が連結されている。
【0017】
図2、図3に示すように、バッキングプレート18には、そのバッキングプレート18の外周側に穿設された取付穴18bに嵌め着けられブレーキケーブル58をバッキングプレート18に取り付けるケーブル取付部材60と、そのバッキングプレート18の取付穴18bに隣接する部分からブレーキケーブル58側へ突き出すようにそのバッキングプレート18の平板部18aの一部が絞り加工された絞り部18cとその絞り部18cの先端部から切り曲げ加工によって切断され且つその切断された互いに平行な切断面18dとの間でブレーキケーブル58側へさらに突き出るように凸状に曲成された長手状の切曲げ部18eとを一体に有するケーブル案内部18fとが備えられている。
【0018】
ケーブル取付部材60は、弾性変形可能な材質たとえばプラスチック或いは合成ゴムによって構成されており、ケーブル取付部材60の一部分から取付穴18bに嵌め着けられる嵌着突起部60aと、ブレーキケーブル58が挿通可能な大きさでケーブル取付部材60に貫通された貫通穴60bとが備えられている。また、ケーブル取付部材60とブレーキレバー56の先端部56bとの間のブレーキケーブル58の周囲には、長手方向に圧縮されたコイルスプリング62が配設されており、そのコイルスプリング62の付勢力によって、ブレーキレバー56の先端部56bは、常時ブレーキケーブル58が引っ張られる引張方向と逆方向すなわち回動方向Fと逆方向に付勢されている。
【0019】
ケーブル案内部18fは、ブレーキケーブル58をコイルスプリング62を介して支持し、且つそのブレーキケーブル58の一端部をブレーキレバー56の先端部56bの回動方向Fにバッキングプレート18の平板部18aと略平行な状態で案内するように、そのケーブル案内部18fの高さHが設定されている。
【0020】
ここで、上記ケーブル案内部18fを有するドラムブレーキ10用バッキングプレート18は、例えば以下のようにして製造される。以下、図4乃至図12を参照して製造方法を説明する。また、図4はドラムブレーキ10用バッキングプレート18の製造方法を説明するための工程図である。
【0021】
先ず、図4に示す予備プレス工程P1において、図示されていない均一厚みの円板状の綱板が所定形状に打ち抜かれ且つ所定の曲げ成形が施されて、図5に示す円板部材(バッキングプレート18)64が成形される。この予備プレス工程P1によって円板部材64には、前記バッキングプレート18で成形されたケーブル案内部18f以外の殆どの形状のものが成形される。
【0022】
図6は、図4に示す絞り工程P2で使用される絞りプレス加工機66を説明する斜視図である。この絞りプレス加工機66には、図6、図7に示すように、その絞りプレス加工機66に取り付けられた円板部材64の平板部64aの一部64b側へ円板部材64の平板部64aと略平行に突き出す先端側平面68aを有する第1ポンチ68と、その第1ポンチ68との間で絞り加工するために前記ケーブル案内部18fの高さHより浅い深さ距離H1で凹んだ絞り面70aを有する第1ダイス70とが備えられている。また、上記円板部材64の平板部64aの一部64bとは、図5に示す1点鎖線で囲まれた長手状の領域を示すものである。
【0023】
絞り工程P2において、図7の左側の(a)図に示すように円板部材64は、第1ダイス70上に載置され絞り加工時に円板部材64の表面にしわ等が発生しないようにその円板部材64の表面部分を押さえるしわ押え板72がその円板部材64の表面上に配設される。その後、絞りプレス加工機66に備えられた図示されていない駆動装置により第1ポンチ68が矢印G方向に移動させられて円板部材64の一部64bに当接し、図7の右側の(b)図に示すように円板部材64の一部64bが第1ポンチ68と第1ダイス70の絞り面70aによって絞り加工される。絞り工程P2によって、円板部材64の一部64bには、図7の右側の(b)図、図8に示すように高さがケーブル案内部18fの高さHより低い高さH1に設定された第1形状部64cと、その第1形状部64cにおいて図8に示すように第1ポンチ68の先端側平面68aと略平行すなわち円板部材64の平板部64aと略平行にその平板部64aからの高さがH1だけ底上げされた第1平板部64dとが成形される。
【0024】
また、絞り工程P2では、円板部材64の平板部64aの一部64bが絞り加工によって第1形状部64cに成形されるためその第1形状部64cの平均的な板厚が円板部材64の平板部64aと比較して薄くなる。しかしながら、絞り工程P2によって成形される第1形状部64cは、その板厚がドラムブレーキ10の制動時にブレーキケーブル58を支持し案内するに十分な強度を有する程度の厚さになるように実験等により設計された形状であり十分な強度を有するものである。また、絞り工程P2によって成形される第1形状部64cの板厚は必ずしも均一になるものではなく板厚が局所的に減少する部分もあるが、ケーブル案内部を切り曲げ加工によって成形するものに比較すれば板厚の局所的な減少量は非常に小さくその第1形状部64cの板厚は略均一である。
【0025】
図9は、図4に示す切り曲げ工程P3で使用される切曲げプレス加工機74を説明する斜視図である。切曲げプレス加工機74には、図9、図10に示すように、その切曲げプレス加工機74に取り付けられた第1形状部64cの第1平板部64d側に突き出す先端側凸面76aを有する第2ポンチ76と、その第2ポンチ76の先端側凸面76aとの間で切り曲げ加工するために前記ケーブル案内部18fの高さHと同様の深さ距離Hで凹んだ凹面78aを有する第2ダイス78とが備えられている。
【0026】
切り曲げ工程P3において、図10の左側の(a)図に示すように円板部材64の第1形状部64cは、第2ダイス78上に載置され絞り工程P2と同様にしわ押え板72が円板部材64の表面上に配設される。その後、切曲げプレス加工機74に備えられた図示されていない駆動装置により第2ポンチ76が矢印I方向に移動させられて第1形状部64cの第1平板部64dと当接し、図7の右側の(b)図に示すようにその第1平板部64dの一部64eが第2ポンチ76と第2ダイス78とによって切り曲げ加工される。切り曲げ工程P3によって、円板部材64の第1形状部64cは、図10の右側の(b)図に示すようにケーブル案内部18dの高さHと同等の高さHに設定された第2形状部64fに成形される。また、上記第1形状部64cの第1平板部64dの一部64eとは、図8に示す1点鎖線で囲まれた長手状の領域を示すものである。
【0027】
切り曲げ工程P3では、第2ポンチ76の先端側凸面76aの先端部から第1形状部64cの第1平板部64dの一部64eの長手方向の中央部に荷重が集中するため、切り曲げ加工時に第1形状部64cの一部64eの長手方向の中央部における第2ポンチ76と第2ダイス78の凹面78aとの非接触部すなわち局部64gの板厚が局部的に薄くなる。
【0028】
しかしながら、切り曲げ工程P3によって第1形状部64cから第2形状部64fに成形させられる際、第1形状部64cの一部64eの長手方向の中央部が第2ダイス78の凹面78aの底部側へケーブル案内部18fの高さHより短い距離H2だけ切り曲げられることによって第2形状部64fに成形されるので、従来切り曲げ加工によって円板部材64の一部の長手方向の中央部をケーブル案内部18fの高さHに切り曲げるものに比較して切り曲げ工程P3によって切り曲げる高さが低くなる。すなわち、絞り工程P2によって円板部材64の一部64bが底上げされた高さH1分だけ低くなる。そのため、切り曲げ工程P3による第2形状部64fの局部64gの板厚減少が従来のケーブル案内部の板厚減少に比較して小さくさせられ、第2形状部64fの局部64gの板厚が従来のケーブル案内部の板厚に比較して厚くなる。
【0029】
また、切り曲げ工程P3によって第1形状部64cの一部64eから切り曲げる高さH2は、その切り曲げ工程P3によって第2形状部64fの局部64gの板厚がドラムブレーキ10の制動時にブレーキケーブル58を支持し案内するに十分な強度を有する程度の厚さになるように実験等により設定されたものであり、第2形状部64fはドラムブレーキ10の制動時にブレーキケーブル58を支持し案内するに十分な強度を有するものである。図10に示すように、絞り工程P2により成形された第1形状部64cの高さ距離H1と、その第1形状部64cの一部64eの長手方向の中央部が切り曲げ工程P3によって切り曲げられる高さ距離H2とを合わせたものがケーブル案内部18fの高さHに相当する。
【0030】
図9に示すように、第2ポンチ76の厚み寸法Aは第2ダイス78の凹面78aによって凹んだ穴78bの幅寸法に対して僅かに短くされており、第2ポンチ76が第1形状部64cの第1平板部64dに当接して第2ダイス78の凹んだ穴78bに嵌め入れられると、図12に示すように第1形状部64cの第1平板部64dの一部64eが第2ポンチ76の厚み方向の外周の縁と第2ダイス78の穴78bの開口部の縁とによって切り込まれると同時に互いに平行な切断面64hの間で曲成されて第2形状部64fに成形される。本実施例で行われた切り曲げ工程P3における切曲げプレス加工機74の切り曲げ加工とは、第1形状部64cの平板部64dの一部64eを切り込みと同時に曲げを行う加工である。
【0031】
図11は、切り曲げ工程P3によって成形された円板部材64を示す斜視図であり、最後に図4に示す仕上げ工程P4によって、円板部材64はプレス加工されてドラムブレーキ10用バッキングプレート18が製造される。また、切り曲げ工程P3によって成形された第2形状部64fがバッキングプレート18のケーブル案内部18fと同様のものである。
【0032】
以上のように製造されたバッキングプレート18を有するドラムブレーキ10は、前記ブレーキ操作装置が操作されることによってブレーキケーブル58に操作力が発生すると、ケーブル案内部18fがそのブレーキケーブル58を支持してブレーキレバー56の先端部56bを回動方向Fに案内する。それにより、ブレーキレバー56が、回動方向Fに回動しブレーキシュー24がストラット32に押されると共にブレーキシュー22が取付軸54に押されて一対のブレーキシュー22,24のライニング46,48がブレーキドラム14の内周面16に当接する。
【0033】
本実施例のドラムブレーキ10用バッキングプレート18の製造方法によれば、絞り工程P2によって円板部材(バッキングプレート18)64の平板部64aの一部64bが第1ポンチ68の先端側平面68aにより円板部材64の平板部64aと略平行にブレーキケーブル58側へ突き出され、その後切り曲げ工程P3によって絞り工程P2によりブレーキケーブル58側へ突き出されたその円板部材64の一部64eがさらにブレーキケーブル58側へ切り曲げられる。そのため、切り曲げ工程P3の切り曲げ加工に比較して板厚の局所的な減少が生じ難い絞り工程P2の絞り加工によって円板部材64の平板部64aの一部64bがブレーキケーブル58側へ底上げされその底上げされた円板部材64の一部64eが切り曲げ工程P3によって切り曲げられるので、切り曲げ工程P3によって円板部材64の一部64eの長手方向の中央部をブレーキケーブル58側に切り曲げる高さH2が従来の円板部材の一部の長手方向の中央部をケーブル案内部18fの高さHまで切り曲げるものに比較して低くなる。これにより、切り曲げ工程P3によってケーブル案内部18fを成形する際に局所的に生じる板厚の減少が従来のケーブル案内部に比較して小さくなりケーブル案内部18fの板厚が従来のケーブル案内部に比較して厚くなるので、強度を確保したまま従来のケーブル案内部の限界高さに比較してケーブル案内部18fの限界高さを高くさせられる。また、図3、図12、図14に示すように従来のケーブル案内部100c、本実施例のケーブル案内部18fにおいて、そのケーブル案内部の板厚の減少に従ってそのケーブル案内部の幅寸法Dも減少するため、ブレーキケーブル58と接触するケーブル案内部18fの先端部の板厚が従来のケーブル案内部100cに比較して厚くなるとケーブル案内部18fの幅寸法も従来のケーブル案内部100cに比較して大きくなるので、ブレーキケーブル58がケーブル案内部18fから脱落し難くなる。
【0034】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0035】
例えば、本実施例のドラムブレーキ10用バッキングプレート18の製造方法において、絞り工程P2の絞り加工では、円板部材64の平板部64aの一部64bを図8に示すような形状に成形させたが必ずしも上記のような形状にする必要はなく、切り曲げ工程P3によって切り曲げられる平らな面が備えられている形状であればどのような形状に成形されても良い。
【0036】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:ドラムブレーキ
18(64):バッキングプレート(円板部材)
18a(64a):平板部
18d(64h):切断面
18f(64f):ケーブル案内部(第2形状部)
22,24:一対のブレーキシュー
56:ブレーキレバー
56b:先端部
58:ブレーキケーブル
68:第1ポンチ
68a:先端側平面
70:第1ダイス
70a:絞り面
76:第2ポンチ
76a:先端側凸面
78:第2ダイス
78a:凹面
P2:絞り工程
P3:切り曲げ工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のブレーキシューの一方に回動可能に設けられたブレーキレバーの先端部に一端部が連結されたブレーキケーブルを、該バッキングプレートの一部から該ブレーキケーブル側へ互いに平行な切断面の間で曲成された長手状のケーブル案内部で支持して案内するドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法であって、
前記バッキングプレート側へ該バッキングプレートの平板部と平行に突き出す先端側平面を有する第1ポンチと、該第1ポンチとの間で絞り加工するための絞り面を有する第1ダイスとを用いて、前記バッキングプレートの一部を前記第1ポンチの先端側平面によって該バッキングプレートの平板部と平行に前記ブレーキケーブル側へ突き出させる絞り工程と、
前記バッキングプレートの一部側へ突き出す先端側凸面を有する第2ポンチと、該第2ポンチの先端側凸面との間でプレス加工するための凹面を有する第2ダイスとを用いて、前記絞り工程によって前記ブレーキケーブル側へ前記バッキングプレートの平板部と平行に突き出された該バッキングプレートの一部をさらに前記ブレーキケーブル側に切り曲げる切り曲げ工程と
を、含むことを特徴とするドラムブレーキ用バッキングプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−190853(P2011−190853A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56698(P2010−56698)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】