ドラムブレーキ
【課題】ホイールシリンダの大きさを大きくしないで、ドラムブレーキの効き性能が向上するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】ホイールシリンダ22のピストン70とブレーキシュー20の一端部との間には、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78まわりに回動可能に支持されたカム部材80が備えられており、ドラムブレーキ10の制動時において、ピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10の効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【解決手段】ホイールシリンダ22のピストン70とブレーキシュー20の一端部との間には、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78まわりに回動可能に支持されたカム部材80が備えられており、ドラムブレーキ10の制動時において、ピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10の効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にそのドラムブレーキのブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、例えば特許文献1の図1に示すように、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、(b) バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、(c) バッキングプレートのそのブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことによりそのブレーキシューをその回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、(d) 前記回転ドラムに押し付けられたそのブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えたものがある。
【0003】
上記のようなドラムブレーキは、そのドラムブレーキの制動時において、油圧によって前記ホイールシリンダのピストンが前記バッキングプレートの外周側に突き出されて、前記ブレーキシューの一端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる。これによって、前記ブレーキシューは、回転している前記回転ドラムと共に連れ回り、そのブレーキシューの他端部が前記アンカ部材に当接し受け止められることによりその回転ドラムの回転が制動される。
【0004】
また、上記のようなドラムブレーキは、従来、前記ブレーキシューの外周面に固着された前記回転ドラムの内周面に押し付けられる摩擦材の摩擦係数を上げることや、或いは、前記ホイールシリンダのシリンダ径を大きくしそのホイールシリンダのピストンが前記バッキングプレートの外周側に突き出される力を高くして前記ブレーキシューの一端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる力を高めることで、そのドラムブレーキの効き性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−98180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキおいて、前記ブレーキシューの摩擦材の摩擦係数を上げることができない場合にそのドラムブレーキの効き性能を向上させるには、前記ホイールシリンダのシリンダ径すなわちそのホイールシリンダを大きくしなければならない。そのため、従来、前記ホイールシリンダの大きさによってそのドラムブレーキの効き性能が決まる場合が多いので、そのホイールシリンダの大きさを変えることなく、前記ドラムブレーキの効き性能を向上させることが困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ホイールシリンダの大きさを大きくしないで、ドラムブレーキの効き性能が向上するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、そのバッキングプレートのそのブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことによりそのブレーキシューをその回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、前記回転ドラムに押し付けられたそのブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、(b) 前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材によりその軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、(c) 前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、(d) 前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向においてそのピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向においてそのカム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものである。
【0009】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、(b) 前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによってその一対のブレーキシューのそれぞれがその回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、(c) 前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、(d) 前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである。
【0010】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明において、(a) 前記カム部材には、そのカム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、(b) 前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、(c) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、(d) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のドラムブレーキによれば、(b) 前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材によりその軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、(c) 前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、(d) 前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向においてそのピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向においてそのカム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものである。このため、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧すると、その押圧する押圧力がそのカム部材によって前記第2距離から前記第1距離に増加する割合の分だけ倍力されて前記ブレーキシューの一端部に入力されるので、前記ホイールシリンダの大きさを大きくしないでも、前記ホイールシリンダのピストンが押圧する押圧力より大きい力で前記ブレーキシューが前記回転ドラムの内周面に押し付けられ、前記ドラムブレーキの効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【0012】
第2発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、(b) 前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによってその一対のブレーキシューのそれぞれがその回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、(c) 前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、(d) 前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである。このため、前記ドラムブレーキを好適にリーディングトレーリング型のドラムブレーキに適用することができ、そのリーディングトレーリング型のドラムブレーキの効き性能が好適に向上する。
【0013】
第3発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記カム部材には、そのカム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、(b) 前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、(c) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、(d) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである。このため、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ピストンが前記カム部材を押圧する前記第1押圧方向の押圧力がそのカム部材によって前記ブレーキシューの長手方向に近づくようにその第1押圧方向に対して傾斜させられて前記一対のブレーキシューの一端部に入力されるので、前記一対のブレーキシューの他端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる。これによって、前記一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの他端部側となり、前記一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの一端部側にある従来のドラムブレーキに比較して、前記トレーリング側の前記ブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する押圧面積が好適に広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用されたリーディングトレーリング型のドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】第1連結ピンを説明する図1のII-II視断面図である。
【図3】シュー間隙自動調節装置を説明する図1のIII-III視断面図である。
【図4】第2連結ピンを説明する図3の拡大図である。
【図5】カム部材を支持する軸部材を説明する図1のV-V視断面図である。
【図6】制動時にブレーキレバーの先端部に操作力F1が操作されてレバー比に基づいて操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバーの係合部に作用された場合において、ストラットおよび第1連結ピンに作用する力の大きさを説明する図である。
【図7】制動時にホイールシリンダのピストンがカム部材を押圧力F2で押圧することによって、ブレーキシューの一端部に作用される力の大きさを説明する図である。
【図8】ブレーキシューの一端部にカム部材からの押圧力F2が作用されて、そのブレーキシューの他端部がブレーキドラムの内周面に接近する方向に移動する状態を示す図である。
【図9】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両前進時のパーキングブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図10】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両後進時のパーキングブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図11】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両前進時および車両後進時のサービスブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図12】本実施例のドラムブレーキのサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動した場合における、一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる際の面圧分布を示す図である。
【図13】本実施例のドラムブレーキのサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動した場合における、トレーリングシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するそのトレーリングシューのアンカー反力を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディングトレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、車輪と一体的に回転するブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧状の一対のブレーキシュー18および20と、その一対のブレーキシュー18および20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18および20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢するために、その一対のブレーキシュー18および20の一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング(第1スプリング)24と、そのコイル状のリターンスプリング24の内部を挿通するように一対のブレーキシュー18および20の一端部間に配設された非制動時における一対のブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18および20の他端部すなわち図1の下端部の間に位置固定に設けられたアンカ部材28と、一対のブレーキシュー18および20の他端部間に張設されてそれら他端部をアンカ部材28に常時当接させるスプリング(第2スプリング)30とが備えられている。
【0019】
一対のブレーキシュー18および20は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32および34と、それらの円弧形状を成すシューウェブ32および34の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ32および34に一体的に固設された帯板状のシューリム36および38と、それらシューリム36および38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40および42とによってそれぞれ構成されている。
【0020】
また、一対のブレーキシュー18および20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44および46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18のシューウェブ32の一端部には、長手状のブレーキレバー48の基端部48aが第1連結ピン50により相対回動可能に連結されている。
【0021】
第1連結ピン50は、図2に示すように、シューウェブ32の一端部およびブレーキレバー48の基端部48aに貫通された円状の貫通穴32aおよび48bに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部50aと、その軸部50aのバッキングプレート16側の端部においてブレーキレバー48の貫通穴48bの径よりも大径に成形された略円板形状の大径部50bと、軸部50aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝50cに掛け止められたC字形状の止め輪52とによって構成されており、ブレーキレバー48の基端部48aはその第1連結ピン50の軸部50aの軸心C1まわりに相対回転可能にブレーキシュー18のシューウェブ32の一端部に連結されている。
【0022】
シュー間隙自動調節機構26は、図3に示すように、一対のブレーキシュー18および20の一端部間に配設された非制動時の一対のブレーキシュー18および20の一端部間の離間量を制限する長手状のストラット54と、そのストラット54に備えられたアジャストレバー56とによって構成されている。
【0023】
ストラット54は、図3に示すように、シューウェブ34に係合する係合凹部58aを有する第1ストラット部材58と、ブレーキレバー48に係合する第2ストラット部材60と、略円板形状のアジャストホイール62aを備えて第1ストラット部材58と第2ストラット部材60との間に配設され、一端部がその第1ストラット58に穿設された円柱形状の嵌合穴58bに相対回転可能に嵌め入れられ、且つ、他端部が第2ストラット部材60と螺合する長手状の第3ストラット部材62とによって構成されている。
【0024】
長手状に形成された第2ストラット部材60には、図3に示すように、その他端に第3ストラット部材62の長手状の他端部を嵌入するねじ穴60aの開口60bと、そのねじ穴60aの内周面に第3ストラット部材62の他端部に形成された雄ねじと螺合する雌ねじ60cとが備えられている。このため、ドラムブレーキ10が繰り返し作動してブレーキシュー18および20のライニング40および42が摩耗しシュー間隙が大きくなると、アジャストレバー56によってアジャストホイール62aが所定方向に回動され、第3ストラット部材62の他端部の雄ねじと第2ストラット部材60のねじ穴60aの雌ねじ60cとのねじの作用によって第2ストラット部材60がブレーキシュー18側に移動させられてストラット54の全長が増加し、シュー間隙が調節される。
【0025】
図1、図3、図4に示すように、ブレーキレバー48の基端部48aにはその外周縁部における第2ストラット部材60の一端部側の一部がその第2ストラット部材60の一端部側に伸長された平板状の係合部48cが備えられ、第2ストラット部材60の一端部にはその第2ストラット部材60の一端部の幅方向の中間部においてその幅寸法A1より小さく且つブレーキレバー48の厚みA2より大きい幅の切欠60dが形成されており、ブレーキレバー48の係合部48cが第2ストラット部材60の切欠60d内に配置され且つブレーキレバー48の係合部48cと第2ストラット部材60の一端部とが略円柱形状の第2連結ピン64によって相対回転可能に連結されている。
【0026】
第2連結ピン64は、図4に示すように、第2ストラット部材60の一端部に貫通された円柱形状の一対の嵌合穴60eおよびブレーキレバー48の係合部48aに貫通された円柱形状の嵌合穴48dに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部64aと、その軸部64aのバッキングプレート16側の端部において第2ストラット部材60の嵌合穴60eの径より大径に成形された略円板形状の大径部64bと、軸部64aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝64cに掛け止められたC字形状の止め輪66とによって構成されており、ブレーキレバー48の係合部48cはその第2連結ピン64の軸部64aの軸心C2まわりに相対回転可能に第2ストラット部材60の一端部に連結されている。
【0027】
図1に示すように、ブレーキレバー48の先端部48eには、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによって、そのブレーキレバー48の先端部48eがバッキングプレート16の内周側に回動するように操作力F1で引っ張られる図示されていないパーキングブレーキケーブルが備えられている。
【0028】
ホイールシリンダ22は、図1および図7に示すように、バッキングプレート16に固定されたシリンダ本体68と、そのシリンダ本体68を円柱形状に貫通したシリンダボア68aと、そのシリンダボア68aの両端の開口内に互いに反対向きに摺動可能に嵌め入れられた略円柱形状の一対のピストン70と、その一対のピストン70の互いに接近する側の端部に形成された外周溝70aにそれぞれ嵌め着けられたシール部材72と、一対のピストン70の間に介在されてその一対のピストン70をそれぞれ離間させる方向に付勢するコイルスプリング74と、シリンダボア68aの内周面とシール部材72が嵌め着けられた一対のピストン70との間の空間に形成されて作動油が供給される油室76とを備えており、例えば図示されていないブレーキペダルが操作されることによって油室76の作動油に圧力が作用すると、一対のピストン70がそれぞれバッキングプレート16の外周側へ突き出されるものである。また、一対のピストン70の間におけるシリンダボア68aの内周面には、図示しないマスターシリンダと油室76とを連通させる連通穴が開口している。
【0029】
ホイールシリンダ22の一対のピストン70と一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部との間には、図1および図7に示すように、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78まわりに回動可能に支持された平板状の一対のカム部材80がそれぞれ介在されており、ホイールシリンダ22が作動し一対のピストン70が突き出すと、そのカム部材80がそのピストン70によって押圧されて軸部材78まわりに回動し、ブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部を押圧するものである。また、一対のピストン70には、そのピストン70のカム部材80側の端部に形成されたそのカム部材80を押圧する平坦な押圧面70bが備えられている。
【0030】
軸部材78は、図5に示すように、平板状のカム部材80の回動中心部に円柱形状に貫通された嵌合穴80aに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部78aと、その軸部78aのバッキングプレート16側の端部において軸部78aの径より大径に形成されたバッキングプレート16に固設される円柱形状の固定部78bと、その軸部78aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝78cに掛け止められたC字形状の止め輪82とを備えており、カム部材80がその軸部材78の軸部78aの軸心C3まわりに相対回転可能に軸部材78の軸部78aと固定部78bとの段部78dによって支持されている。図5に示すように、平板状のカム部材80は、軸部材78の軸部78aに相対回転可能に嵌め入れられた一対の座金84上に載置されており、軸部材78の軸心C3まわりに回動する際の摩擦抵抗が好適に低減される。また、図5に示すように、軸部材78の固定部78bのバッキングプレート16側の端部には、バッキングプレート16に貫通された円状の貫通穴16bから突き出され、その貫通穴16bから突き出した端部がその貫通穴16bの径より大径にかしめられたかしめ部78dが備えられている。
【0031】
一対のカム部材80は、例えば鋼板から打ち抜かれたプレス部品であり、その一対のカム部材80には、図1、図6、図7に示すように、そのカム部材80のピストン70側の外周縁がピストン70の押圧面70bに対して平行に形成された平坦部80bと、そのカム部材80のブレーキシュー18および20の一端部側の外周縁が曲率半径Rに曲成された円弧状のカム面80cとが備えられている。これにより、一対のカム部材80は、リターンスプリング24の付勢力によって一対のブレーキシュー18および20の一端部が互いに接近する方向に付勢されると、そのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部の端面に形成された平坦な平面32aおよび34aがそのカム部材80のカム面80cに摺接すると共に、そのカム部材80の平坦部80bがピストン70の押圧面70bに当接する。図6および図7に示す正面図において、カム部材80のカム面80cの外周縁を円弧状曲線B1とすると共に、ブレーキシュー18および20の一端部の外周縁の平面32bおよび34bを直線B2とすると、その直線B2は、カム部材80のカム面80cの円弧状曲線B1の接線であり、そのカム部材80のカム面80cとブレーキシュー18および20の一端部の平面32bおよび34bとが当接する当接点は、カム部材80のカム面80cの円弧状曲線B1の接点である。
【0032】
図7に示すように、カム部材80において、ホイールシリンダ22のピストン70が突き出されてそのカム部材80が押圧される第1押圧方向D1に対して直交する方向においてピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1と軸部材78の軸部78aの軸心C3との間の第1距離H1は、カム部材80がブレーキシュー18および20の一端部を押圧する第2押圧方向D2に対して直交する方向においてカム部材80のカム面80cがブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに当接する第2当接位置E2と軸部材78の軸部78aの軸心C3との間の第2距離H2よりも長いものである。
【0033】
また、図7に示すように、ピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1は、ピストン70の押圧面70bがカム部材80の平坦部80bを押圧する押圧力F2がそのカム部材80の平坦部80bの一点に集中的に集中荷重が加えられたと仮定した場合におけるそのカム部材80の平坦部80bのピストン70から作用される押圧力F2の位置である。また、図7に示すように、ピストン70が突き出されてそのカム部材80を押圧する第1押圧方向D1は、そのピストン70の押圧面70bに対して直交する方向である。また、図7に示すように、カム部材80がブレーキシュー18および20の一端部を押圧する第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに対して直交する方向であり、一対のブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aは、その平面32aおよび34aの垂直方向がブレーキシュー18および20の長手方向に近づくように第1押圧方向D1に対して傾斜させられたものである。
【0034】
図8に示すように、アンカ部材28には、スプリング30の付勢力によって一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の他端部が当接される一対の当接面84aを有し、その一対のブレーキシュー18および20の他端部間のバッキングプレート16に固設されたアンカブロック84が備えられており、一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の他端部には、その他端部の端面に形成されたアンカブロック84の当接面84aに平行な平面32bおよび34bが備えられている。
【0035】
以上のように構成されたドラムブレーキ10は、ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されることによりストラット54および第1連結ピン50によって一対のブレーキシュー18および20の一端部が拡開する車両駐車時に使用されるパーキングブレーキと、図示しないブレーキペダルが操作されることによりホイールシリンダ22のピストン70が突き出されて、一対のブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる車両走行時に使用するサービスブレーキとを備えている。以下において、ドラムブレーキ10の上記パーキングブレーキの作動およびドラムブレーキ10の上記サービスブレーキの作動を説明する。
【0036】
ドラムブレーキ10のパーキングブレーキは、車両駐車時において図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることにより図示されていないパーキングブレーキケーブルを介してブレーキレバー48の先端部48eが操作力F1で引っ張られると、ブレーキレバー48のレバー比に基づいてその操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバー48の係合部48cに作用し、第2連結ピン64を介して相対回転可能に連結されたブレーキレバー48の係合部48cおよび第2ストラット部材60の一端部が第1連結ピン50の軸心C1と第1ストラット部材58の係合凹部58aとを結ぶ直線Gに接近するように第1連結ピン50まわりに回動する。これにより、第1連結ピン50と第1ストラット部材58の係合凹部58aとの間が離間すると共に一対のブレーキシュー18および20の一端部が拡開して、その一対のブレーキシュー18および20の一端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。そして、一対のブレーキシュー18および20の一端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた状態において、例えばブレーキドラム12が図1に示す矢印M方向に回転しようとすると、ブレーキシュー20の他端部がアンカー部材28の当接面84aを押圧し、アンカ部材28によってそのブレーキシュー20が受け止められてブレーキドラム12に制動力が発生する。
【0037】
ここで、ドラムブレーキ10の制動時にブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されてレバー比に基づいて操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバー48の係合部48cに作用された場合において、ストラット54および第1連結ピン50に作用する力の大きさを図1および図6を用いて説明する。また、ドラムブレーキ10のパーキングブレーキにおいて、図1および図6に示すように、第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2との間の距離をL3、第1連結ピン50の軸心C1とブレーキレバー48の先端部48eとを結ぶ直線N方向における第2連結ピン64の軸心C2とブレーキレバー48の先端部48eとの間の距離をL2、第1連結ピン50の軸心C1とブレーキレバー48の先端部48eとを結ぶ直線N方向における第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2との間の距離をL1、第2連結ピン64の軸心C2とストラット54の他端部と結ぶ直線Iに対する第2連結ピン64の軸心C2と第1連結ピン50の軸心C1とを結ぶ直線Jの傾きをαとする。なお、本実施例のドラムブレーキ10おいて、傾きαは、20°であり、第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2とを結ぶ直線Jは、ストラット54の他端部とバッキングプレート16の中心C4との間を通るようになっている。
【0038】
ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されると、図6に示すように、ブレーキレバー48の係合部48cである第2連結ピン64には操作力F1の大きさがブレーキレバー48のレバー比((L1+L2)/L3)に基づいて大きくされた力Ftすなわち((L1+L2)/L3)・F1が作用する。
【0039】
それによって、図6に示すように、第2連結ピン64を介してブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部とが第1連結ピン50の軸心C1まわり第1連結ピン50の軸心C1とストラット54の他端部とを結ぶ直線Gに接近する方向に回動しようとして、第2連結ピン64の軸心C2からストラット54の他端部方向において第2連結ピン60に作用する力Ftよりも大きい力FsすなわちFt/sinαと、第2連結ピン64の軸心C2から第1連結ピン50の軸心C1方向において第2連結ピン64に作用する力Ftよりも大きい力FpすなわちFs・cosαとが作用する。
【0040】
また、ここで、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとのパーキングブレーキの効きを図9および図10を用いて比較する。また、図9および図10は、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材すなわちライニング40および42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μに対するパーキングブレーキの効きと、従来のドラムブレーキによる一対のブレーキシューの摩擦材とブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するパーキングブレーキの効きとを、BEF(Brake Effectiveness Factor)で表した図であり、上記BEFは計算によって求められたものである。また、図9は、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとが車両前進時に使用されたものであり、図10は、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとが車両後進時に使用されたものである。また、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとにおいて、そのドラムブレーキ10の大きさすなわちバッキングプレート16の径方向の大きさは同じであり、ブレーキレバー48の先端部48eに操作される操作力F1の大きさは同じである。
【0041】
図9および図10において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に対して本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)がどれだけ向上したかを示す効きUP率(%)である。また、図9のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数aは、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図9においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数aを用いて表されるものである。また、図10のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数bは、車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図10においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数bを用いて表されるものである。
【0042】
図9によれば、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.8倍程度の効きを有している。また、図10によれば、車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.7倍程度の効きを有している。
【0043】
つまり、本実施例のドラムブレーキ10は、上述のようにブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部との間が第2連結ピン64を介して回動可能に連結されることにより、ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されると一対のブレーキシュー18,20の拡開する拡開力Fs,Fpが従来のドラムブレーキに比較して大きくなるので、そのドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効きが従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効きに比較して向上する。
【0044】
なお、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48は、従来のドラムブレーキのブレーキレバーに比較してピストン70とブレーキシュー18の一端部との間にカム部材80が介在されていることからそのブレーキレバー48の長手方向の寸法は短いものであるが、ブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部とが第2連結ピン64によって回動可能に連結されていることから、その第1連結ピン50とブレーキレバー48の係合部48cとの間の距離L1を従来のドラムブレーキのブレーキレバーにおける第1連結ピンと係合部との間の距離よりも好適に短くすることができる。そのため、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48のレバー比が従来のドラムブレーキのブレーキレバーのレバー比により高くなり、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48が操作されることによって一対のブレーキシュー18および20が拡開する拡開力Fs,Fpが従来のドラムブレーキに比較して大きくなる。なお、従来のドラムブレーキのブレーキレバーのレバー比は、その従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの構成部品の配置およびスペース上の制約があるので、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48のように容易に第1連結ピン50とブレーキレバー48の係合部48cとの間の距離L1を好適に小さくすることができなく、ブレーキレバーの長手方向の大きさで決まる場合が多い。
【0045】
ドラムブレーキ10のサービスブレーキは、車両走行時において例えば図示されていないブレーキペダルが操作されてホイールシリンダ22の油室76の作動油に圧力が作用されるとホイールシリンダ22の一対のピストン70が突き出し、一対のカム部材80は、そのピストン70に押圧されることによって軸部材78の軸心C3まわりに回動して一対のブレーキシュー18および20の一端部を押圧する。これにより、一対のブレーキシュー18および20の他端部は、アンカ部材28のアンカブロック84の当接面84aに沿って矢印K方向に移動してブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。そして、例えばブレーキドラム12が図1に示す矢印M方向に回転している状態において、図8に示すように、ブレーキシュー20のライニング42の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられると、そのブレーキシュー20のシューウェブ34の他端部がアンカー部材28の当接面84aに押し付けられてアンカ部材28によってそのブレーキシュー20が受け止められることによってブレーキドラム12に制動力が発生する。また、図8の一点鎖線で示されたブレーキシュー20は、ホイールシリンダ22が作動することによって、ブレーキシュー20の一端部が第2押圧方向D2に押圧されてそのブレーキシュー20の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた状態を示すものである。
【0046】
ここで、ドラムブレーキ10の制動時にホイールシリンダ22が作動して、ピストン70がカム部材80を押圧力F2で押圧した場合において、カム部材80からブレーキシュー20の一端部に作用する力の大きさを図7を用いて説明する。
【0047】
図7に示すように、ホイールシリンダ22が作動することによって、ピストン70の押圧面70bがカム部材80の平面80bを力F2で押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に力(H1/H2)F2が入力される。また、本実施例のドラムブレーキ10のカム部材80は、そのカム部材80の第1距離H1が、9.5mm、そのカム部材80の第2距離H2が、6.6mmに設計されたものであり、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおいて、ホイールシリンダ22によって一対のブレーキ18および20の一端部を押圧する押圧力の大きさは、約1.5F2である。つまり、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ブレーキシュー18および20の一端部を押圧する押圧力の大きさを約1.5倍に増加することができる。
【0048】
ここで、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとのサービスブレーキの効きを図11を用いて比較する。また、図11は、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材すなわちライニング40および42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μに対するサービスブレーキの効きと、従来のドラムブレーキによる一対のブレーキシューの摩擦材とブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するサービスブレーキの効きとを、BEF(Brake Effectiveness Factor)で表した図であり、上記BEFは計算によって求められたものである。また、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとにおいて、そのドラムブレーキ10の大きさすなわちバッキングプレート16の径方向の大きさは同じであり、ホイールシリンダ22は同じものが使用される。
【0049】
図11において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)に対して本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)がどれだけ向上したかを示す効きUP率(%)である。また、図11のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数cは、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図11においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数cを用いて表されるものである。
【0050】
図11によれば、車両前進時および車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.4倍程度の効きを有している。なお、車両前進時および車両後進時におけるサービスブレーキの効き(BEF)は同じであった。
【0051】
つまり、本実施例のドラムブレーキ10は、上述のように、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー18および20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22のピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き性能が従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き性能に比較して向上する。
【0052】
また、ここで、本実施例のドラムブレーキ10と上記従来のドラムブレーキとのサービスブレーキにおける一対のブレーキシューのライニングがブレーキドラムの内周面を押圧する面圧分布および一対のブレーキシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するその一対のブレーキシューのトレーリングシューのアンカー反力を図12および図13を用いて比較する。
【0053】
図12は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動された場合における、一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられた際の面圧分布を示す図である。また、図12において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおける一対のブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた際の面圧分布を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおける一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられた際の面圧分布を示すものである。また、図12に示すように、ドラムブレーキのブレーキドラムは、矢印M方向に回転しているものである。
【0054】
図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのリーディングシューおよび従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのリーディングシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる最大面圧位置は、そのリーディングシューにおいて従来のドラムブレーキよりもアンカ部材28側にあり、その最大面圧は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキが従来のドラムブレーキのサービスブレーキよりも高いものである。また、図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる最大面圧位置は、トレーリングシュー18の中央C5からアンカ部材28側に所定角度θ本実施例では15.7°だけ回動した位置でありそのトレーリングシュー18の略中央部であり、従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのトレーリングシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる最大面圧位置は、そのトレーリングシューのホイールシリンダ側の端部である。また、図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する押圧面積は従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのトレーリングシューより広いものである。このため、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキは、そのサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる最大面圧位置をそのトレーリングシュー18の略中央部にさせることによって、従来のドラムブレーキのサービスブレーキに比較してトレーリングシューがブレーキドラムの内周面を押圧する押圧面積が広くなると考えられる。
【0055】
図13は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動された場合における、トレーリングシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するトレーリングシューのアンカー反力を表した図である。また、上記トレーリングシューのアンカー反力(N)とは、ホイールシリンダ22によってそのトレーリングシュー18に1Nの力が入力された時におけるそのトレーリングシュー18のアンカ部材28側の端部がアンカ部材28と当接する際のアンカ部材28の反力を示すものである。すなわち、トレーリングシューのアンカー反力が小さい程、トレーリングシューの拘束力が小さくなりブレーキの鳴きが発生し易い要因となる。なお、スプリング30の付勢力は、通常のブレーキの力に比べて小さいので、図13ではアンカー反力(N)を簡単に理解するためにスプリング30の付勢力の大きさを無視しています。
【0056】
図13において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシュー18のアンカー反力(N)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)に対して本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシュー18のアンカー反力(N)がどれだけ向上したかを示す反力UP率(%)である。
【0057】
図13によれば、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)は、従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)に比較して高く約1.7倍程度である。
【0058】
上記図12および図13を参照するに、従来型のドラムブレーキのサービスブレーキは、トレーリングシューの最大面圧位置がホイールシリンダ側の端部にあるためそのトレーリングシューのアンカー反力が低下することによってトレーリングシューの拘束力が低下しブレーキの鳴きに不利に作用すると考えられる。また、改良型のドラムブレーキ10のサービスブレーキは、これを上記問題点を改善し、カム部材80によってトレーリングシュー18をアンカ部材28側へ押し下げる作用を発生させるためトレーリングシュー18の最大面圧位置がそのトレーリングシュー18の中央部側へ下がりそのトレーリングシュー18のアンカー反力が従来型に比較して低下しないことによってそのトレーリングシュー18の拘束力が従来型に比較して低下しないので、ブレーキの鳴きに有利に作用すると考えられる。
【0059】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、ホイールシリンダ22のピストン70とブレーキシュー20の一端部との間には、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78の軸心C3まわりに回動可能に支持されたカム部材80が備えられ、そのカム部材80は、ドラムブレーキ10の制動時において、ホイールシリンダ22のピストン70によって押圧された力F2により軸部材78の軸心C3まわりに回動してブレーキレバー20の一端部を押圧するものであり、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧する第1押圧方向D1に対して直交する方向においてそのピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1と軸部材78の軸心C3との間の第1距離H1は、カム部材80がブレーキシュー20の一端部を押圧する第2押圧方向D2に対して直交する方向においてそのカム部材80がブレーキシュー20の一端部に当接する第2当接位置E2と軸部材78の軸心C3との間の第2距離H2よりも長いものである。このため、ドラムブレーキ10の制動時において、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ホイールシリンダ22のピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10の効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【0060】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキシューは、リターンスプリング(第1スプリング)24によって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つスプリング(第2スプリング)30によって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシュー18および20であり、ホイールシリンダ22は、その一対のブレーキシュー18および20の一端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定され、一対のピストン70によってその一対のブレーキシュー18および20のそれぞれがブレーキドラム12の内周面14に接近する方向へ移動させられるものであり、カム部材80は、一対のブレーキシュー18および20の一端部と一対のピストン70との間にそれぞれ介在された一対のカム部材80であり、アンカ部材28は、一対のブレーキシュー18および20の他端部の間に固設されたものである。このため、ドラムブレーキ10を好適にリーディングトレーリング型のドラムブレーキ10に適用することができ、そのリーディングトレーリング型のドラムブレーキ10の効き性能が好適に向上する。
【0061】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、カム部材80には、そのカム部材80のブレーキシュー18および20の一端部側の外周縁が曲率半径Rに曲げられた円弧状のカム面80cが備えられ、ブレーキシュー18および20の一端部には、カム部材80のカム面80cに摺接される平坦な平面32aおよび34aが備えられており、第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに対して垂直であり、その第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aの垂直方向がブレーキシュー18および20の長手方向に近づくように第1押圧方向D1に対して傾斜させられたものである。このため、ドラムブレーキ10の制動時において、ピストン70がカム部材80を押圧する第1押圧方向D1の押圧力F2がそのカム部材80によってブレーキシュー18および20の長手方向に近づくようにその第1押圧方向D1に対して傾斜させられて一対のブレーキシュー18および20の一端部に入力されるので、その一対のブレーキシュー18および20の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。これによって、一対のブレーキシュー18および20のトレーリングシュー側のブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシュー18の中央部側となり、一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューがブレーキドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの一端部側にある従来のドラムブレーキに比較して、トレーリング側のブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する押圧面積が好適に広くなる。
【0062】
また、本実施例のドラムブレーキ10は、ホイールシリンダ22のシリンダボア68aの径を大きくすることなくすなわちドラムブレーキ10の大きさを大きくすることなく、そのドラムブレーキ10の効き性能を向上させることができるので、従来のドラムブレーキよりも小さい大きさで車両に搭載することができ、結果として車両全体の軽量化に繋がる。また、本実施例のドラムブレーキ10は、従来のリーディングトレーリング型のドラムブレーキにおいて、カム部材80の追加、ブレーキレバー48の形状、第1連結ピン50および第2連結ピン64の配置、第2ストラット部材60の形状が変更されたものであり、既存の構成部品および車両のケーブル配索変更などの大幅な設計変更を伴わないので、本実施例のドラムブレーキ10を安価に製造することができる。
【0063】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10は、リーディングトレーリング型のドラムブレーキとして使用ていたが、本発明のドラムブレーキは、制動時にホイールシリンダのピストンによってブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられるドラムブレーキであれば良く、例えば、ツーリーディング型のドラムブレーキに適用されても良い。
【0065】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、ブレーキレバー48の係合部48cはシュー間隙自動調節機構が備えられたストラット54の一端部に相対回転可能に連結されたが、ストラット54にシュー間隙自動調節機構が備えられていないストラットでも本発明を適用することができる。
【0066】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)
14:内周面
16:バッキングプレート
18,20:一対のブレーキシュー
22:ホイールシリンダ
24:リターンスプリング(第1スプリング)
28:アンカ部材
30:スプリング(第2スプリング)
32a,34a:平面
70:ピストン
78:軸部材
80:カム部材
80c:カム面
D1:第1押圧方向
D2:第2押圧方向
E1:第1当接位置
E2:第2当接位置
H1:第1距離
H2:第2距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にそのドラムブレーキのブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、例えば特許文献1の図1に示すように、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、(b) バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、(c) バッキングプレートのそのブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことによりそのブレーキシューをその回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、(d) 前記回転ドラムに押し付けられたそのブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えたものがある。
【0003】
上記のようなドラムブレーキは、そのドラムブレーキの制動時において、油圧によって前記ホイールシリンダのピストンが前記バッキングプレートの外周側に突き出されて、前記ブレーキシューの一端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる。これによって、前記ブレーキシューは、回転している前記回転ドラムと共に連れ回り、そのブレーキシューの他端部が前記アンカ部材に当接し受け止められることによりその回転ドラムの回転が制動される。
【0004】
また、上記のようなドラムブレーキは、従来、前記ブレーキシューの外周面に固着された前記回転ドラムの内周面に押し付けられる摩擦材の摩擦係数を上げることや、或いは、前記ホイールシリンダのシリンダ径を大きくしそのホイールシリンダのピストンが前記バッキングプレートの外周側に突き出される力を高くして前記ブレーキシューの一端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる力を高めることで、そのドラムブレーキの効き性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−98180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキおいて、前記ブレーキシューの摩擦材の摩擦係数を上げることができない場合にそのドラムブレーキの効き性能を向上させるには、前記ホイールシリンダのシリンダ径すなわちそのホイールシリンダを大きくしなければならない。そのため、従来、前記ホイールシリンダの大きさによってそのドラムブレーキの効き性能が決まる場合が多いので、そのホイールシリンダの大きさを変えることなく、前記ドラムブレーキの効き性能を向上させることが困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ホイールシリンダの大きさを大きくしないで、ドラムブレーキの効き性能が向上するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、そのバッキングプレートのそのブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことによりそのブレーキシューをその回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、前記回転ドラムに押し付けられたそのブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、(b) 前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材によりその軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、(c) 前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、(d) 前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向においてそのピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向においてそのカム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものである。
【0009】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、(b) 前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによってその一対のブレーキシューのそれぞれがその回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、(c) 前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、(d) 前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである。
【0010】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明において、(a) 前記カム部材には、そのカム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、(b) 前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、(c) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、(d) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のドラムブレーキによれば、(b) 前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材によりその軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、(c) 前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、(d) 前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向においてそのピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向においてそのカム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものである。このため、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧すると、その押圧する押圧力がそのカム部材によって前記第2距離から前記第1距離に増加する割合の分だけ倍力されて前記ブレーキシューの一端部に入力されるので、前記ホイールシリンダの大きさを大きくしないでも、前記ホイールシリンダのピストンが押圧する押圧力より大きい力で前記ブレーキシューが前記回転ドラムの内周面に押し付けられ、前記ドラムブレーキの効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【0012】
第2発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、(b) 前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによってその一対のブレーキシューのそれぞれがその回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、(c) 前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、(d) 前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである。このため、前記ドラムブレーキを好適にリーディングトレーリング型のドラムブレーキに適用することができ、そのリーディングトレーリング型のドラムブレーキの効き性能が好適に向上する。
【0013】
第3発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記カム部材には、そのカム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、(b) 前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、(c) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、(d) 前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである。このため、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ピストンが前記カム部材を押圧する前記第1押圧方向の押圧力がそのカム部材によって前記ブレーキシューの長手方向に近づくようにその第1押圧方向に対して傾斜させられて前記一対のブレーキシューの一端部に入力されるので、前記一対のブレーキシューの他端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられる。これによって、前記一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの他端部側となり、前記一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの一端部側にある従来のドラムブレーキに比較して、前記トレーリング側の前記ブレーキシューが前記回転ドラムの内周面を押圧する押圧面積が好適に広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用されたリーディングトレーリング型のドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】第1連結ピンを説明する図1のII-II視断面図である。
【図3】シュー間隙自動調節装置を説明する図1のIII-III視断面図である。
【図4】第2連結ピンを説明する図3の拡大図である。
【図5】カム部材を支持する軸部材を説明する図1のV-V視断面図である。
【図6】制動時にブレーキレバーの先端部に操作力F1が操作されてレバー比に基づいて操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバーの係合部に作用された場合において、ストラットおよび第1連結ピンに作用する力の大きさを説明する図である。
【図7】制動時にホイールシリンダのピストンがカム部材を押圧力F2で押圧することによって、ブレーキシューの一端部に作用される力の大きさを説明する図である。
【図8】ブレーキシューの一端部にカム部材からの押圧力F2が作用されて、そのブレーキシューの他端部がブレーキドラムの内周面に接近する方向に移動する状態を示す図である。
【図9】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両前進時のパーキングブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図10】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両後進時のパーキングブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図11】本実施例のドラムブレーキと、従来のドラムブレーキとによる摩擦係数μに対する車両前進時および車両後進時のサービスブレーキの効きをBEF(Brake Effectiveness Factor)で表す図である。
【図12】本実施例のドラムブレーキのサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動した場合における、一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる際の面圧分布を示す図である。
【図13】本実施例のドラムブレーキのサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動した場合における、トレーリングシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するそのトレーリングシューのアンカー反力を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディングトレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、車輪と一体的に回転するブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0017】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0018】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧状の一対のブレーキシュー18および20と、その一対のブレーキシュー18および20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18および20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢するために、その一対のブレーキシュー18および20の一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング(第1スプリング)24と、そのコイル状のリターンスプリング24の内部を挿通するように一対のブレーキシュー18および20の一端部間に配設された非制動時における一対のブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18および20の他端部すなわち図1の下端部の間に位置固定に設けられたアンカ部材28と、一対のブレーキシュー18および20の他端部間に張設されてそれら他端部をアンカ部材28に常時当接させるスプリング(第2スプリング)30とが備えられている。
【0019】
一対のブレーキシュー18および20は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32および34と、それらの円弧形状を成すシューウェブ32および34の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ32および34に一体的に固設された帯板状のシューリム36および38と、それらシューリム36および38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40および42とによってそれぞれ構成されている。
【0020】
また、一対のブレーキシュー18および20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44および46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18のシューウェブ32の一端部には、長手状のブレーキレバー48の基端部48aが第1連結ピン50により相対回動可能に連結されている。
【0021】
第1連結ピン50は、図2に示すように、シューウェブ32の一端部およびブレーキレバー48の基端部48aに貫通された円状の貫通穴32aおよび48bに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部50aと、その軸部50aのバッキングプレート16側の端部においてブレーキレバー48の貫通穴48bの径よりも大径に成形された略円板形状の大径部50bと、軸部50aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝50cに掛け止められたC字形状の止め輪52とによって構成されており、ブレーキレバー48の基端部48aはその第1連結ピン50の軸部50aの軸心C1まわりに相対回転可能にブレーキシュー18のシューウェブ32の一端部に連結されている。
【0022】
シュー間隙自動調節機構26は、図3に示すように、一対のブレーキシュー18および20の一端部間に配設された非制動時の一対のブレーキシュー18および20の一端部間の離間量を制限する長手状のストラット54と、そのストラット54に備えられたアジャストレバー56とによって構成されている。
【0023】
ストラット54は、図3に示すように、シューウェブ34に係合する係合凹部58aを有する第1ストラット部材58と、ブレーキレバー48に係合する第2ストラット部材60と、略円板形状のアジャストホイール62aを備えて第1ストラット部材58と第2ストラット部材60との間に配設され、一端部がその第1ストラット58に穿設された円柱形状の嵌合穴58bに相対回転可能に嵌め入れられ、且つ、他端部が第2ストラット部材60と螺合する長手状の第3ストラット部材62とによって構成されている。
【0024】
長手状に形成された第2ストラット部材60には、図3に示すように、その他端に第3ストラット部材62の長手状の他端部を嵌入するねじ穴60aの開口60bと、そのねじ穴60aの内周面に第3ストラット部材62の他端部に形成された雄ねじと螺合する雌ねじ60cとが備えられている。このため、ドラムブレーキ10が繰り返し作動してブレーキシュー18および20のライニング40および42が摩耗しシュー間隙が大きくなると、アジャストレバー56によってアジャストホイール62aが所定方向に回動され、第3ストラット部材62の他端部の雄ねじと第2ストラット部材60のねじ穴60aの雌ねじ60cとのねじの作用によって第2ストラット部材60がブレーキシュー18側に移動させられてストラット54の全長が増加し、シュー間隙が調節される。
【0025】
図1、図3、図4に示すように、ブレーキレバー48の基端部48aにはその外周縁部における第2ストラット部材60の一端部側の一部がその第2ストラット部材60の一端部側に伸長された平板状の係合部48cが備えられ、第2ストラット部材60の一端部にはその第2ストラット部材60の一端部の幅方向の中間部においてその幅寸法A1より小さく且つブレーキレバー48の厚みA2より大きい幅の切欠60dが形成されており、ブレーキレバー48の係合部48cが第2ストラット部材60の切欠60d内に配置され且つブレーキレバー48の係合部48cと第2ストラット部材60の一端部とが略円柱形状の第2連結ピン64によって相対回転可能に連結されている。
【0026】
第2連結ピン64は、図4に示すように、第2ストラット部材60の一端部に貫通された円柱形状の一対の嵌合穴60eおよびブレーキレバー48の係合部48aに貫通された円柱形状の嵌合穴48dに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部64aと、その軸部64aのバッキングプレート16側の端部において第2ストラット部材60の嵌合穴60eの径より大径に成形された略円板形状の大径部64bと、軸部64aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝64cに掛け止められたC字形状の止め輪66とによって構成されており、ブレーキレバー48の係合部48cはその第2連結ピン64の軸部64aの軸心C2まわりに相対回転可能に第2ストラット部材60の一端部に連結されている。
【0027】
図1に示すように、ブレーキレバー48の先端部48eには、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによって、そのブレーキレバー48の先端部48eがバッキングプレート16の内周側に回動するように操作力F1で引っ張られる図示されていないパーキングブレーキケーブルが備えられている。
【0028】
ホイールシリンダ22は、図1および図7に示すように、バッキングプレート16に固定されたシリンダ本体68と、そのシリンダ本体68を円柱形状に貫通したシリンダボア68aと、そのシリンダボア68aの両端の開口内に互いに反対向きに摺動可能に嵌め入れられた略円柱形状の一対のピストン70と、その一対のピストン70の互いに接近する側の端部に形成された外周溝70aにそれぞれ嵌め着けられたシール部材72と、一対のピストン70の間に介在されてその一対のピストン70をそれぞれ離間させる方向に付勢するコイルスプリング74と、シリンダボア68aの内周面とシール部材72が嵌め着けられた一対のピストン70との間の空間に形成されて作動油が供給される油室76とを備えており、例えば図示されていないブレーキペダルが操作されることによって油室76の作動油に圧力が作用すると、一対のピストン70がそれぞれバッキングプレート16の外周側へ突き出されるものである。また、一対のピストン70の間におけるシリンダボア68aの内周面には、図示しないマスターシリンダと油室76とを連通させる連通穴が開口している。
【0029】
ホイールシリンダ22の一対のピストン70と一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部との間には、図1および図7に示すように、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78まわりに回動可能に支持された平板状の一対のカム部材80がそれぞれ介在されており、ホイールシリンダ22が作動し一対のピストン70が突き出すと、そのカム部材80がそのピストン70によって押圧されて軸部材78まわりに回動し、ブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部を押圧するものである。また、一対のピストン70には、そのピストン70のカム部材80側の端部に形成されたそのカム部材80を押圧する平坦な押圧面70bが備えられている。
【0030】
軸部材78は、図5に示すように、平板状のカム部材80の回動中心部に円柱形状に貫通された嵌合穴80aに相対回転可能に嵌合する円柱形状の軸部78aと、その軸部78aのバッキングプレート16側の端部において軸部78aの径より大径に形成されたバッキングプレート16に固設される円柱形状の固定部78bと、その軸部78aのバッキングプレート16側とは反対側の端部においてその外周面の一部が環状に凹んだ環状溝78cに掛け止められたC字形状の止め輪82とを備えており、カム部材80がその軸部材78の軸部78aの軸心C3まわりに相対回転可能に軸部材78の軸部78aと固定部78bとの段部78dによって支持されている。図5に示すように、平板状のカム部材80は、軸部材78の軸部78aに相対回転可能に嵌め入れられた一対の座金84上に載置されており、軸部材78の軸心C3まわりに回動する際の摩擦抵抗が好適に低減される。また、図5に示すように、軸部材78の固定部78bのバッキングプレート16側の端部には、バッキングプレート16に貫通された円状の貫通穴16bから突き出され、その貫通穴16bから突き出した端部がその貫通穴16bの径より大径にかしめられたかしめ部78dが備えられている。
【0031】
一対のカム部材80は、例えば鋼板から打ち抜かれたプレス部品であり、その一対のカム部材80には、図1、図6、図7に示すように、そのカム部材80のピストン70側の外周縁がピストン70の押圧面70bに対して平行に形成された平坦部80bと、そのカム部材80のブレーキシュー18および20の一端部側の外周縁が曲率半径Rに曲成された円弧状のカム面80cとが備えられている。これにより、一対のカム部材80は、リターンスプリング24の付勢力によって一対のブレーキシュー18および20の一端部が互いに接近する方向に付勢されると、そのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の一端部の端面に形成された平坦な平面32aおよび34aがそのカム部材80のカム面80cに摺接すると共に、そのカム部材80の平坦部80bがピストン70の押圧面70bに当接する。図6および図7に示す正面図において、カム部材80のカム面80cの外周縁を円弧状曲線B1とすると共に、ブレーキシュー18および20の一端部の外周縁の平面32bおよび34bを直線B2とすると、その直線B2は、カム部材80のカム面80cの円弧状曲線B1の接線であり、そのカム部材80のカム面80cとブレーキシュー18および20の一端部の平面32bおよび34bとが当接する当接点は、カム部材80のカム面80cの円弧状曲線B1の接点である。
【0032】
図7に示すように、カム部材80において、ホイールシリンダ22のピストン70が突き出されてそのカム部材80が押圧される第1押圧方向D1に対して直交する方向においてピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1と軸部材78の軸部78aの軸心C3との間の第1距離H1は、カム部材80がブレーキシュー18および20の一端部を押圧する第2押圧方向D2に対して直交する方向においてカム部材80のカム面80cがブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに当接する第2当接位置E2と軸部材78の軸部78aの軸心C3との間の第2距離H2よりも長いものである。
【0033】
また、図7に示すように、ピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1は、ピストン70の押圧面70bがカム部材80の平坦部80bを押圧する押圧力F2がそのカム部材80の平坦部80bの一点に集中的に集中荷重が加えられたと仮定した場合におけるそのカム部材80の平坦部80bのピストン70から作用される押圧力F2の位置である。また、図7に示すように、ピストン70が突き出されてそのカム部材80を押圧する第1押圧方向D1は、そのピストン70の押圧面70bに対して直交する方向である。また、図7に示すように、カム部材80がブレーキシュー18および20の一端部を押圧する第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに対して直交する方向であり、一対のブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aは、その平面32aおよび34aの垂直方向がブレーキシュー18および20の長手方向に近づくように第1押圧方向D1に対して傾斜させられたものである。
【0034】
図8に示すように、アンカ部材28には、スプリング30の付勢力によって一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の他端部が当接される一対の当接面84aを有し、その一対のブレーキシュー18および20の他端部間のバッキングプレート16に固設されたアンカブロック84が備えられており、一対のブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34の他端部には、その他端部の端面に形成されたアンカブロック84の当接面84aに平行な平面32bおよび34bが備えられている。
【0035】
以上のように構成されたドラムブレーキ10は、ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されることによりストラット54および第1連結ピン50によって一対のブレーキシュー18および20の一端部が拡開する車両駐車時に使用されるパーキングブレーキと、図示しないブレーキペダルが操作されることによりホイールシリンダ22のピストン70が突き出されて、一対のブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる車両走行時に使用するサービスブレーキとを備えている。以下において、ドラムブレーキ10の上記パーキングブレーキの作動およびドラムブレーキ10の上記サービスブレーキの作動を説明する。
【0036】
ドラムブレーキ10のパーキングブレーキは、車両駐車時において図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることにより図示されていないパーキングブレーキケーブルを介してブレーキレバー48の先端部48eが操作力F1で引っ張られると、ブレーキレバー48のレバー比に基づいてその操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバー48の係合部48cに作用し、第2連結ピン64を介して相対回転可能に連結されたブレーキレバー48の係合部48cおよび第2ストラット部材60の一端部が第1連結ピン50の軸心C1と第1ストラット部材58の係合凹部58aとを結ぶ直線Gに接近するように第1連結ピン50まわりに回動する。これにより、第1連結ピン50と第1ストラット部材58の係合凹部58aとの間が離間すると共に一対のブレーキシュー18および20の一端部が拡開して、その一対のブレーキシュー18および20の一端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。そして、一対のブレーキシュー18および20の一端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた状態において、例えばブレーキドラム12が図1に示す矢印M方向に回転しようとすると、ブレーキシュー20の他端部がアンカー部材28の当接面84aを押圧し、アンカ部材28によってそのブレーキシュー20が受け止められてブレーキドラム12に制動力が発生する。
【0037】
ここで、ドラムブレーキ10の制動時にブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されてレバー比に基づいて操作力F1より大きくされた力Ftがブレーキレバー48の係合部48cに作用された場合において、ストラット54および第1連結ピン50に作用する力の大きさを図1および図6を用いて説明する。また、ドラムブレーキ10のパーキングブレーキにおいて、図1および図6に示すように、第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2との間の距離をL3、第1連結ピン50の軸心C1とブレーキレバー48の先端部48eとを結ぶ直線N方向における第2連結ピン64の軸心C2とブレーキレバー48の先端部48eとの間の距離をL2、第1連結ピン50の軸心C1とブレーキレバー48の先端部48eとを結ぶ直線N方向における第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2との間の距離をL1、第2連結ピン64の軸心C2とストラット54の他端部と結ぶ直線Iに対する第2連結ピン64の軸心C2と第1連結ピン50の軸心C1とを結ぶ直線Jの傾きをαとする。なお、本実施例のドラムブレーキ10おいて、傾きαは、20°であり、第1連結ピン50の軸心C1と第2連結ピン64の軸心C2とを結ぶ直線Jは、ストラット54の他端部とバッキングプレート16の中心C4との間を通るようになっている。
【0038】
ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されると、図6に示すように、ブレーキレバー48の係合部48cである第2連結ピン64には操作力F1の大きさがブレーキレバー48のレバー比((L1+L2)/L3)に基づいて大きくされた力Ftすなわち((L1+L2)/L3)・F1が作用する。
【0039】
それによって、図6に示すように、第2連結ピン64を介してブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部とが第1連結ピン50の軸心C1まわり第1連結ピン50の軸心C1とストラット54の他端部とを結ぶ直線Gに接近する方向に回動しようとして、第2連結ピン64の軸心C2からストラット54の他端部方向において第2連結ピン60に作用する力Ftよりも大きい力FsすなわちFt/sinαと、第2連結ピン64の軸心C2から第1連結ピン50の軸心C1方向において第2連結ピン64に作用する力Ftよりも大きい力FpすなわちFs・cosαとが作用する。
【0040】
また、ここで、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとのパーキングブレーキの効きを図9および図10を用いて比較する。また、図9および図10は、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材すなわちライニング40および42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μに対するパーキングブレーキの効きと、従来のドラムブレーキによる一対のブレーキシューの摩擦材とブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するパーキングブレーキの効きとを、BEF(Brake Effectiveness Factor)で表した図であり、上記BEFは計算によって求められたものである。また、図9は、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとが車両前進時に使用されたものであり、図10は、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとが車両後進時に使用されたものである。また、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとにおいて、そのドラムブレーキ10の大きさすなわちバッキングプレート16の径方向の大きさは同じであり、ブレーキレバー48の先端部48eに操作される操作力F1の大きさは同じである。
【0041】
図9および図10において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に対して本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)がどれだけ向上したかを示す効きUP率(%)である。また、図9のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数aは、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図9においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数aを用いて表されるものである。また、図10のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数bは、車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図10においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数bを用いて表されるものである。
【0042】
図9によれば、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.8倍程度の効きを有している。また、図10によれば、車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.7倍程度の効きを有している。
【0043】
つまり、本実施例のドラムブレーキ10は、上述のようにブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部との間が第2連結ピン64を介して回動可能に連結されることにより、ブレーキレバー48の先端部48eに操作力F1が操作されると一対のブレーキシュー18,20の拡開する拡開力Fs,Fpが従来のドラムブレーキに比較して大きくなるので、そのドラムブレーキ10のパーキングブレーキの効きが従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの効きに比較して向上する。
【0044】
なお、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48は、従来のドラムブレーキのブレーキレバーに比較してピストン70とブレーキシュー18の一端部との間にカム部材80が介在されていることからそのブレーキレバー48の長手方向の寸法は短いものであるが、ブレーキレバー48の係合部48cとストラット54の一端部とが第2連結ピン64によって回動可能に連結されていることから、その第1連結ピン50とブレーキレバー48の係合部48cとの間の距離L1を従来のドラムブレーキのブレーキレバーにおける第1連結ピンと係合部との間の距離よりも好適に短くすることができる。そのため、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48のレバー比が従来のドラムブレーキのブレーキレバーのレバー比により高くなり、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48が操作されることによって一対のブレーキシュー18および20が拡開する拡開力Fs,Fpが従来のドラムブレーキに比較して大きくなる。なお、従来のドラムブレーキのブレーキレバーのレバー比は、その従来のドラムブレーキのパーキングブレーキの構成部品の配置およびスペース上の制約があるので、本実施例のドラムブレーキ10のブレーキレバー48のように容易に第1連結ピン50とブレーキレバー48の係合部48cとの間の距離L1を好適に小さくすることができなく、ブレーキレバーの長手方向の大きさで決まる場合が多い。
【0045】
ドラムブレーキ10のサービスブレーキは、車両走行時において例えば図示されていないブレーキペダルが操作されてホイールシリンダ22の油室76の作動油に圧力が作用されるとホイールシリンダ22の一対のピストン70が突き出し、一対のカム部材80は、そのピストン70に押圧されることによって軸部材78の軸心C3まわりに回動して一対のブレーキシュー18および20の一端部を押圧する。これにより、一対のブレーキシュー18および20の他端部は、アンカ部材28のアンカブロック84の当接面84aに沿って矢印K方向に移動してブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。そして、例えばブレーキドラム12が図1に示す矢印M方向に回転している状態において、図8に示すように、ブレーキシュー20のライニング42の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられると、そのブレーキシュー20のシューウェブ34の他端部がアンカー部材28の当接面84aに押し付けられてアンカ部材28によってそのブレーキシュー20が受け止められることによってブレーキドラム12に制動力が発生する。また、図8の一点鎖線で示されたブレーキシュー20は、ホイールシリンダ22が作動することによって、ブレーキシュー20の一端部が第2押圧方向D2に押圧されてそのブレーキシュー20の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた状態を示すものである。
【0046】
ここで、ドラムブレーキ10の制動時にホイールシリンダ22が作動して、ピストン70がカム部材80を押圧力F2で押圧した場合において、カム部材80からブレーキシュー20の一端部に作用する力の大きさを図7を用いて説明する。
【0047】
図7に示すように、ホイールシリンダ22が作動することによって、ピストン70の押圧面70bがカム部材80の平面80bを力F2で押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に力(H1/H2)F2が入力される。また、本実施例のドラムブレーキ10のカム部材80は、そのカム部材80の第1距離H1が、9.5mm、そのカム部材80の第2距離H2が、6.6mmに設計されたものであり、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおいて、ホイールシリンダ22によって一対のブレーキ18および20の一端部を押圧する押圧力の大きさは、約1.5F2である。つまり、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ブレーキシュー18および20の一端部を押圧する押圧力の大きさを約1.5倍に増加することができる。
【0048】
ここで、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとのサービスブレーキの効きを図11を用いて比較する。また、図11は、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材すなわちライニング40および42とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μに対するサービスブレーキの効きと、従来のドラムブレーキによる一対のブレーキシューの摩擦材とブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するサービスブレーキの効きとを、BEF(Brake Effectiveness Factor)で表した図であり、上記BEFは計算によって求められたものである。また、本実施例のドラムブレーキ10と従来のドラムブレーキとにおいて、そのドラムブレーキ10の大きさすなわちバッキングプレート16の径方向の大きさは同じであり、ホイールシリンダ22は同じものが使用される。
【0049】
図11において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)に対して本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)がどれだけ向上したかを示す効きUP率(%)である。また、図11のパーキングブレーキの効き(BEF)の縦軸に示される定数cは、車両前進時において、本実施例のドラムブレーキ10による一対のブレーキシュー18および20の摩擦材とブレーキドラム12の内周面14との摩擦係数μが0.3の時に対するパーキングブレーキの効き(BEF)の値を示すものであり、図11においてパーキングブレーキの効き(BEF)は、その定数cを用いて表されるものである。
【0050】
図11によれば、車両前進時および車両後進時において、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き(BEF)は従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き(BEF)に比較して高く約1.4倍程度の効きを有している。なお、車両前進時および車両後進時におけるサービスブレーキの効き(BEF)は同じであった。
【0051】
つまり、本実施例のドラムブレーキ10は、上述のように、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー18および20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22のピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10のサービスブレーキの効き性能が従来のドラムブレーキのサービスブレーキの効き性能に比較して向上する。
【0052】
また、ここで、本実施例のドラムブレーキ10と上記従来のドラムブレーキとのサービスブレーキにおける一対のブレーキシューのライニングがブレーキドラムの内周面を押圧する面圧分布および一対のブレーキシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するその一対のブレーキシューのトレーリングシューのアンカー反力を図12および図13を用いて比較する。
【0053】
図12は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動された場合における、一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられた際の面圧分布を示す図である。また、図12において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおける一対のブレーキシュー18および20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられた際の面圧分布を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおける一対のブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられた際の面圧分布を示すものである。また、図12に示すように、ドラムブレーキのブレーキドラムは、矢印M方向に回転しているものである。
【0054】
図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのリーディングシューおよび従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのリーディングシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる最大面圧位置は、そのリーディングシューにおいて従来のドラムブレーキよりもアンカ部材28側にあり、その最大面圧は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキが従来のドラムブレーキのサービスブレーキよりも高いものである。また、図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる最大面圧位置は、トレーリングシュー18の中央C5からアンカ部材28側に所定角度θ本実施例では15.7°だけ回動した位置でありそのトレーリングシュー18の略中央部であり、従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのトレーリングシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられる最大面圧位置は、そのトレーリングシューのホイールシリンダ側の端部である。また、図12によれば、本実施例のドラムブレーキ10におけるサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する押圧面積は従来のドラムブレーキにおけるサービスブレーキのトレーリングシューより広いものである。このため、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキは、そのサービスブレーキのトレーリングシュー18がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる最大面圧位置をそのトレーリングシュー18の略中央部にさせることによって、従来のドラムブレーキのサービスブレーキに比較してトレーリングシューがブレーキドラムの内周面を押圧する押圧面積が広くなると考えられる。
【0055】
図13は、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキおよび従来のドラムブレーキのサービスブレーキが作動された場合における、トレーリングシューのライニングとブレーキドラムの内周面との摩擦係数μに対するトレーリングシューのアンカー反力を表した図である。また、上記トレーリングシューのアンカー反力(N)とは、ホイールシリンダ22によってそのトレーリングシュー18に1Nの力が入力された時におけるそのトレーリングシュー18のアンカ部材28側の端部がアンカ部材28と当接する際のアンカ部材28の反力を示すものである。すなわち、トレーリングシューのアンカー反力が小さい程、トレーリングシューの拘束力が小さくなりブレーキの鳴きが発生し易い要因となる。なお、スプリング30の付勢力は、通常のブレーキの力に比べて小さいので、図13ではアンカー反力(N)を簡単に理解するためにスプリング30の付勢力の大きさを無視しています。
【0056】
図13において、実線は改良型である本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシュー18のアンカー反力(N)を示し、破線は従来型である従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)を示し、一点鎖線は従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)に対して本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシュー18のアンカー反力(N)がどれだけ向上したかを示す反力UP率(%)である。
【0057】
図13によれば、本実施例のドラムブレーキ10のサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)は、従来のドラムブレーキのサービスブレーキにおけるトレーリングシューのアンカー反力(N)に比較して高く約1.7倍程度である。
【0058】
上記図12および図13を参照するに、従来型のドラムブレーキのサービスブレーキは、トレーリングシューの最大面圧位置がホイールシリンダ側の端部にあるためそのトレーリングシューのアンカー反力が低下することによってトレーリングシューの拘束力が低下しブレーキの鳴きに不利に作用すると考えられる。また、改良型のドラムブレーキ10のサービスブレーキは、これを上記問題点を改善し、カム部材80によってトレーリングシュー18をアンカ部材28側へ押し下げる作用を発生させるためトレーリングシュー18の最大面圧位置がそのトレーリングシュー18の中央部側へ下がりそのトレーリングシュー18のアンカー反力が従来型に比較して低下しないことによってそのトレーリングシュー18の拘束力が従来型に比較して低下しないので、ブレーキの鳴きに有利に作用すると考えられる。
【0059】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、ホイールシリンダ22のピストン70とブレーキシュー20の一端部との間には、バッキングプレート16に固設された軸部材78によりその軸部材78の軸心C3まわりに回動可能に支持されたカム部材80が備えられ、そのカム部材80は、ドラムブレーキ10の制動時において、ホイールシリンダ22のピストン70によって押圧された力F2により軸部材78の軸心C3まわりに回動してブレーキレバー20の一端部を押圧するものであり、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧する第1押圧方向D1に対して直交する方向においてそのピストン70がカム部材80に当接する第1当接位置E1と軸部材78の軸心C3との間の第1距離H1は、カム部材80がブレーキシュー20の一端部を押圧する第2押圧方向D2に対して直交する方向においてそのカム部材80がブレーキシュー20の一端部に当接する第2当接位置E2と軸部材78の軸心C3との間の第2距離H2よりも長いものである。このため、ドラムブレーキ10の制動時において、ホイールシリンダ22のピストン70がカム部材80を押圧すると、その押圧する押圧力F2がそのカム部材80によって第2距離H2から第1距離H1に増加する割合H1/H2の分だけ倍力されてブレーキシュー20の一端部に入力されるので、ホイールシリンダ22の大きさを大きくしないでも、ホイールシリンダ22のピストン70が押圧する押圧力F2より大きい力(H1/H2)F2でブレーキシュー20がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられ、ドラムブレーキ10の効き性能が従来のドラムブレーキに比較して向上する。
【0060】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキシューは、リターンスプリング(第1スプリング)24によって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つスプリング(第2スプリング)30によって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシュー18および20であり、ホイールシリンダ22は、その一対のブレーキシュー18および20の一端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定され、一対のピストン70によってその一対のブレーキシュー18および20のそれぞれがブレーキドラム12の内周面14に接近する方向へ移動させられるものであり、カム部材80は、一対のブレーキシュー18および20の一端部と一対のピストン70との間にそれぞれ介在された一対のカム部材80であり、アンカ部材28は、一対のブレーキシュー18および20の他端部の間に固設されたものである。このため、ドラムブレーキ10を好適にリーディングトレーリング型のドラムブレーキ10に適用することができ、そのリーディングトレーリング型のドラムブレーキ10の効き性能が好適に向上する。
【0061】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、カム部材80には、そのカム部材80のブレーキシュー18および20の一端部側の外周縁が曲率半径Rに曲げられた円弧状のカム面80cが備えられ、ブレーキシュー18および20の一端部には、カム部材80のカム面80cに摺接される平坦な平面32aおよび34aが備えられており、第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aに対して垂直であり、その第2押圧方向D2は、ブレーキシュー18および20の一端部の平面32aおよび34aの垂直方向がブレーキシュー18および20の長手方向に近づくように第1押圧方向D1に対して傾斜させられたものである。このため、ドラムブレーキ10の制動時において、ピストン70がカム部材80を押圧する第1押圧方向D1の押圧力F2がそのカム部材80によってブレーキシュー18および20の長手方向に近づくようにその第1押圧方向D1に対して傾斜させられて一対のブレーキシュー18および20の一端部に入力されるので、その一対のブレーキシュー18および20の他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられる。これによって、一対のブレーキシュー18および20のトレーリングシュー側のブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシュー18の中央部側となり、一対のブレーキシューのトレーリングシュー側のブレーキシューがブレーキドラムの内周面を押圧する最大面圧位置がそのブレーキシューの一端部側にある従来のドラムブレーキに比較して、トレーリング側のブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14を押圧する押圧面積が好適に広くなる。
【0062】
また、本実施例のドラムブレーキ10は、ホイールシリンダ22のシリンダボア68aの径を大きくすることなくすなわちドラムブレーキ10の大きさを大きくすることなく、そのドラムブレーキ10の効き性能を向上させることができるので、従来のドラムブレーキよりも小さい大きさで車両に搭載することができ、結果として車両全体の軽量化に繋がる。また、本実施例のドラムブレーキ10は、従来のリーディングトレーリング型のドラムブレーキにおいて、カム部材80の追加、ブレーキレバー48の形状、第1連結ピン50および第2連結ピン64の配置、第2ストラット部材60の形状が変更されたものであり、既存の構成部品および車両のケーブル配索変更などの大幅な設計変更を伴わないので、本実施例のドラムブレーキ10を安価に製造することができる。
【0063】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10は、リーディングトレーリング型のドラムブレーキとして使用ていたが、本発明のドラムブレーキは、制動時にホイールシリンダのピストンによってブレーキシューがブレーキドラムの内周面に押し付けられるドラムブレーキであれば良く、例えば、ツーリーディング型のドラムブレーキに適用されても良い。
【0065】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、ブレーキレバー48の係合部48cはシュー間隙自動調節機構が備えられたストラット54の一端部に相対回転可能に連結されたが、ストラット54にシュー間隙自動調節機構が備えられていないストラットでも本発明を適用することができる。
【0066】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)
14:内周面
16:バッキングプレート
18,20:一対のブレーキシュー
22:ホイールシリンダ
24:リターンスプリング(第1スプリング)
28:アンカ部材
30:スプリング(第2スプリング)
32a,34a:平面
70:ピストン
78:軸部材
80:カム部材
80c:カム面
D1:第1押圧方向
D2:第2押圧方向
E1:第1当接位置
E2:第2当接位置
H1:第1距離
H2:第2距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体的に回転する回転ドラムと、バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、該バッキングプレートの該ブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことにより該ブレーキシューを該回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、前記回転ドラムに押し付けられた該ブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、
前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材により該軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、
前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、
前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向において該ピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向において該カム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものであることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、
前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによって該一対のブレーキシューのそれぞれが該回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、
前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、
前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記カム部材には、該カム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、
前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、
前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、
前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである請求項2のドラムブレーキ。
【請求項1】
車輪と一体的に回転する回転ドラムと、バッキングプレートに配設された円弧状を成すブレーキシューと、該バッキングプレートの該ブレーキシューの一端部側に固定され、ピストンを突き出すことにより該ブレーキシューを該回転ドラムの内周面に押し付けるホイールシリンダと、前記回転ドラムに押し付けられた該ブレーキシューの他端部を受け止めるアンカ部材とを備えるドラムブレーキであって、
前記ホイールシリンダのピストンと前記ブレーキシューの一端部との間には、前記バッキングプレートに固設された軸部材により該軸部材まわりに回動可能に支持されたカム部材が備えられ、
前記カム部材は、前記ドラムブレーキの制動時において、前記ホイールシリンダのピストンによって押圧された力により前記軸部材まわりに回動して前記ブレーキレバーの一端部を押圧するものであり、
前記ホイールシリンダのピストンが前記カム部材を押圧する第1押圧方向に対して直交する方向において該ピストンが前記カム部材に当接する第1当接位置と前記軸部材との間の第1距離は、前記カム部材が前記ブレーキシューの一端部を押圧する第2押圧方向に対して直交する方向において該カム部材が前記ブレーキシューの一端部に当接する第2当接位置と前記軸部材との間の第2距離よりも長いものであることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記ブレーキシューは、第1スプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2スプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューであり、
前記ホイールシリンダは、前記一対のブレーキシューの一端部の間に位置するように前記バッキングプレートに固定され、一対のピストンによって該一対のブレーキシューのそれぞれが該回転ドラムの内周面に接近する方向へ移動させられるものであり、
前記カム部材は、前記一対のブレーキシューの一端部と前記一対のピストンとの間にそれぞれ介在された一対のカム部材であり、
前記アンカ部材は、前記一対のブレーキシューの他端部の間に固設されたものである請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記カム部材には、該カム部材の前記ブレーキシューの一端部側の外周縁が所定の曲率半径に曲げられた円弧状のカム面が備えられ、
前記ブレーキシューの一端部には、前記カム部材のカム面に摺接される平坦な平面が備えられており、
前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面に対して垂直であり、
前記第2押圧方向は、前記ブレーキシューの一端部の平面の垂直方向が前記ブレーキシューの長手方向に近づくように前記第1押圧方向に対して傾斜させられたものである請求項2のドラムブレーキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−24390(P2013−24390A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162652(P2011−162652)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】
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