説明

ドロロキシフェンの製造方法

【課題】 反応工程数が少なく効率的にドロキシフェンを製造するための、新規なドロロキシフェンの製造方法を提供する点にある。
【解決手段】 反応工程として、3−アルカノイルオキシベンズアルデヒド、トリメチルシンナミルシラン、及び2−ハロエトキシベンゼンを原料化合物とする3成分カップリング反応、アシルオキシ基の除去及びジメチルアミノ基形成反応、並びに2重結合転移反応を順次行うことにより、ドロロキシフェンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロロキシフェンの新規な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
タモキシフェンは、ホルモン依存性乳ガンの治療薬として用いられてきた。タモキシフェンは、組織特異的にエストロゲン性、あるいは抗エストロゲン性作用を有し、乳房細胞においては、抗エストロゲン作用を有することが知られている。
エストロゲンは、特に乳ガン細胞のエストロゲン受容体と結合し、ガン細胞の増殖を促進するが、タモキシフェンは、エストロゲンと競合的にエストロゲン受容体と結合することにより、エストロゲンとエストロゲン受容体の結合を阻止し、ガン細胞の増殖を抑制する。
このような作用を有するタモキシフェンにおいては、現在まで、様々な誘導体が合成されており、これらの誘導体を例示すると、ドロロキシフェン(3−ヒドロキシタモキシフェン)、4−ヒドロキシタモキシフェン、4−ブロモタモキシフェン、3−ヨードタモキシフェン、イドキシフェン等が挙げられる。
【0003】
これらのうち、ドロロキシフェンは、エストロゲン依存性乳ガン培養細胞に対して、タモキシフェンを上回る増殖抑制効果を有し、ガン増殖抑制因子TGF−βの分泌誘導作用もタモキシフェンより高い。さらに骨粗鬆症の予防薬としても注目され、有用な化合物であるが、従来の合成法は極めて工程数が多く、効率的な生産を行えない等の問題点を有していた。
例えば、フェニル酢酸クロライドとメトキシベンゼンを原料とするいわゆるアルキル化ルートによるものは、図3に示されるように合計9つの反応工程を要する(特許文献1)。また、3−メトキシフェニル−、4メトキシフェニルケトンを原料とする、いわゆる還元カップリングルートによるものは、図4に示されるように、合計7つの反応工程を経る(非特許文献1参照)。したがって、これらの従来法では、効率的にドロロキシフェンを得ることは困難である。
【0004】
【特許文献1】EP54168, Klinge Pharma GmbH & Co.
【非特許文献1】Tetrahedron, 56, 703 (2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、反応工程数が少なく、極めて効率的にドロロキシフェンを製造するための、新規なドロロキシフェンの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究の結果、下記式(1)で示される3−アシルオキシベンズアルデヒド、同式(2)で示されるトリメチルシンナミルシラン、同式(3)で示される2−ハロエトキシベンゼンを原料化合物とする3成分カップリング反応、アシルオキシ基の除去及びジメチルアミノ基形成反応並びに2重結合転移反応を順次行うことにより、極めて簡単かつ短工程でドロロキシフェンを製造しうることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.以下の(a)〜(d)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、ドロロキシフェンの製造方法。
a)以下の式(1)、(2)及び(3)で表される化合物を、酸触媒の存在下反応させて、式(4)で表される化合物を生成させる工程、
【0008】
【化1】

(但し、式中Rはアシル基を表わす。)
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

(但し、式中Xはハロゲン原子を表わす。)
【0011】
【化4】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
b)上記式(4)で表される化合物をジメチルアミンと反応させて、式(5)で表される化合物を生成させる工程、
【0012】
【化5】

c)上記式(5)で表される化合物の二重結合転位反応を行い、式(6)で表されるE/Z異性体混合物を生成させる工程、
【0013】
【化6】

d)上記(6)で表される異性体混合物を(E)ドロロキシフェンと(Z)ドロロキシフェンとに分離する工程。
2.以下の式(1)、(2)及び(3)で表される化合物を、酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする、式(4)で表される化合物を生成させることを特徴とする、ドロロキシフェン製造用中間体の製造方法。
【0014】
【化7】

(但し、式中Rはアシル基を表わす。)
【0015】
【化8】

【0016】
【化9】

(但し、式中Xはハロゲン原子を表わす。)
【0017】
【化10】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
3.式(4)で表される化合物をジメチルアミンと反応させて、式(5)で表される化合物を生成させることを特徴とする、ドロロキシフェン製造用中間体の製造方法。
【0018】
【化11】

4.以下の式(4)で表される化合物。
【0019】
【化12】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
5.以下の式(5)で表される化合物。
【0020】
【化13】

【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、抗ガン剤として有用なドロロキシフェンを、わずか4工程という極めて短い工程で製造することが可能になり、これにより、ドロロキシフェンを安価に大量生産することができ、医薬品製造及びガン治療の分野において極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ドロロキシフェンの構造は、以下に示される。
【0023】
【化14】


また、このドロロキシフェンを製造するための本発明の製造工程の概要は、図1に示される。
【0024】
以下に上記各工程について、詳細に説明する。
〔工程1〕
本発明においては、まず、式(1)で示される3−アシルオキシベンズアルデヒド、式(2)で表されるトリメチルシンナミルシラン、及び式(3)で表される2−ハロエトキシベンゼンを原料化合物として用いて、1段階で、式(4)で表される化合物を合成する。
3−アシルオキシベンズアルデヒドとして好ましいものは、例えば、3−アセトキシベンズアルデヒド、3−ビバロイルオキシベンズアルデヒド、3−プロパノイルオキシベンズアルデヒド、3−エトキシカルボニルオキシベンズアルデヒド、3−ベンジルオキシカルボニルオキシベンズアルデヒド等が挙げられる。また、2−ハロエトキシベンゼンとしては、2−クロロエトキシベンゼン、2−ブロモエトキシベンゼンが好ましい。
この反応工程においては、例えば、HfCl等のルイス酸あるいはプロトン酸等の酸触媒、及び共触媒としてトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(TMSOTf)等を使用する。触媒としては、上記TMSOTfの他トリメチルシリルクロリド等も使用でき、ルイス酸としては上記の他、Hf(OTf),TiCl,TiCl(OTf)等の第4属金属塩、AlCl,BCl,Sc(OTf)等の第3属金属塩、SnCl,Sn(OTf)等の第2属金属塩等が使用できる。またプロトン酸としては塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等も使用可能である。これらは一種単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。また、反応温度は、15〜40℃であり、室温でもよい。反応時間は5〜10時間である。
この工程により得られる式(4)の化合物は、2−ハロエトキシ基がフェニル基のパラ位に結合した化合物に一部オルト位に結合した化合物が混入した位置異性体混合物である。
但し、このオルト位に結合した化合物は、工程2を経ることにより、除去されるので、特に分離除去する必要はない。
【0025】
〔工程2〕
ついで、式(4)で表される化合物を、ジメチルアミン−エタノール溶液に溶解し、加熱して、アシルオキシ基の除去及び2−ジメチルアミノエトキシ基の形成を行い、式(5)で表される化合物を生成させる。
この工程は一段階で行い得る。しかし、ジメチルアミノ基形成後に脱アシル化を行ってもよいし、また、脱アシル化後にジメチルアミノ基を形成してもよい。
加熱条件は密閉容器中、100〜150℃の反応温度で、5〜10時間である。
この後、薄層クロマトグラフィーにより精製を行い、式(5)の化合物を単離する。
得られる化合物は、シン(syn)/アンチ(anti)異性体混合物であるが、シン体であっても、アンチ体であっても、以下の工程3により、共に(E)−ドロロキシフェンと(Z)−ドロロキシフェンを与えるため、特に必要がなければ分離することなく次の工程に用いることができる。
【0026】
〔工程3〕
式(5)の化合物に対して、溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)の存在下、触媒としてより多量のカリウム第3級ブトキシド等を使用して、二重結合の転移反応(マイグレーション)を行ない、一般式(6)の化合物を得る。
この工程の触媒としては、上記カリウム第三級ブトキシドの他、例えば、アルカリ金属あるいはアルカリ金属塩等の塩基性化合物、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、あるいは上記の各種ルイス酸等の酸性化合物、および各種遷移金属塩等の遷移金属触媒が用いられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。
また、使用する溶媒としては、上記DMSOの他、N,N−ジメチルホルムアミド、1,2−ジメトキシエタン等の極性溶媒であってもよく、また、ヘキサン、ベンゼン、ジクロロメタン等の非極性溶媒も用いることができる。これらは一種単独で使用してもよくまた2種以上併用してもよい。反応条件は10〜100℃の温度で、0.1〜10時間である。ここで得られる式(6)の化合物は次工程で分離される。
【0027】
〔工程4〕
上記工程によって得られる式(6)の化合物は、例えば、薄層クロマトグラフィ等の常法の手段により容易に分離され、(E)−ドロロキシフェンと(Z)−ドロロキシフェンを与える。
【0028】
以上の説明から明らかなように、本発明においては、わずか3段階の反応工程でドロロキシフェンを製造することができる。また、上記反応工程においては、得られる各化合物を分離して、次工程の原料化合物として用いてもよく、また分離することなく、反応生成物を次工程における原料化合物として使用することが可能である。
また、上記工程の中間生成物である式(4)及び式(5)で表される化合物はいずれも、文献未記載の新規化合物であり、ドロロキシフェン製造用中間原料として有用である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を、図2を参照しつつ示すが、本発明は特にこれに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
〔工程1〕
<1−[4−(2−クロロエトキシ)フェニル]−1−[3−(ピバロイルオキシ)フェニル]−2−フェニル−3−ブテン(パラ体)、及び1−[2−(2−クロロエトキシ)フェニル]−1−[3−(ピバロイルオキシ)フェニル]−2−フェニル−3−ブテン(オルト体)の異性体混合物(図2中、(4)の化合物)の製造>
アルゴン雰囲気下、塩化ハフニウム490.1mg(1.530mmol)をβ−クロロフェネトール(図2中、(3)の化合物)1mlに懸濁し、共触媒としてトリメチルシリルトリフルオロメタンスホネート(34.0mg、0.153mmol)を加えて室温で10分撹拌した。この混合物に、室温下トリメチルシンナミルシラン図2中、式(2)の化合物582.5mg(3.060mmol)および3−(ピバロイルオキシ)ベンズアルデヒド(図中(1)の化合物)315.5mg(1.530mmol)のβ−クロロフェネトール溶液(図2中、(3)の化合物)1mlをゆっくり滴下した。室温で2時間撹拌した後、反応混合物を飽和重曹水50mlに注ぎ、ジエチルエーテル30mlを加えて抽出した。さらにジエチルエーテル10mlで2回抽出し、有機層を集合して無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル 9:1)と引き続き薄層クロマトグラフィー(トルエン−ヘキサン 17:1)で精製して、無色の固い油状物として標題化合物の異性体混合物を得た(307.3mg、収率43.4%)。
【0031】
〔工程2〕
<1−{4−[2−(N,Nジメチルアミノ)エトキシ]フェニル}−1−[3−ヒドロキシフェニル]−2−フェニル−3−ブテン(パラ体)(図2中、(5)の化合物)の製造。>
上記工程1で得られた混合物420.5mg(0.9082mmol)30%ジメチルアミン−エタノール溶液3mLに溶解し、密閉容器中110℃で8時間加熱した。反応混合物を濃縮し、残渣を薄層クロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール 9:1)で精製して、無色油状の標題化合物を得た(284.6mg、収率81%)。
【0032】
〔工程3〕
<1−{4−[2−(N,N−ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル}−1−[3−ヒドロキシフェニル]−2−フェニル−1−ブテン((E/Z)−ドロロキシフェン(図2中、(6)の化合物)の製造>
上記工程1で得られた化合物(10.3mg)に、カリウムtert−ブトキシド50.0mg(0.446mmol)のジメチルスルホキシド溶液を1.2ml加え、50℃で1時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液10mlに注ぎ、これをジエチルエーテル10mlで2回抽出した。有機層を集合し無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮した。
【0033】
〔工程4〕
(E)体と(Z)体の分離
残渣を薄層クロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール 17:1)で精製すると、無色固体として標題化合物である(E)−ドロロキシフェン(4.5mg、収率44%)及び(Z)−ドロロキシフェン(4.3mg、収率42%)が得られた。
HNMRスペクトルはそれぞれ文献値と一致した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のドロロキシフェンの製造工程の概略を示す図である。
【図2】実施例で行ったドロロキシフェン製造の工程図である。
【図3】従来のドロロキシフェンの製造工程の概略を示す図である。
【図4】従来のドロロキシフェンの製造工程の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)の工程を少なくとも含むことを特徴とする、ドロロキシフェンの製造方法。
a)以下の式(1)、(2)及び(3)で表される化合物を、酸触媒の存在下反応させて、式(4)で表される化合物を生成させる工程、
【化1】

(但し、式中Rはアシル基を表わす。)
【化2】

【化3】

(但し、式中Xはハロゲン原子を表わす。)
【化4】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
b)上記式(4)で表される化合物をジメチルアミンと反応させて、式(5)で表される化合物を生成させる工程、
【化5】

c)上記式(5)で表される化合物の二重結合転位反応を行い、式(6)で表されるE/Z異性体混合物を生成させる工程、
【化6】

d)上記(6)で表される異性体混合物を(E)ドロロキシフェンと(Z)ドロロキシフェンとに分離する工程。
【請求項2】
以下の式(1)、(2)及び(3)で表される化合物を、酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする、式(4)で表される化合物を生成させることを特徴とする、ドロロキシフェン製造用中間体の製造方法。
【化7】

(但し、式中Rはアシル基を表わす。)
【化8】

【化9】

(但し、式中Xはハロゲン原子を表わす。)
【化10】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項3】
式(4)で表される化合物をジメチルアミンと反応させて、式(5)で表される化合物を生成させることを特徴とする、ドロロキシフェン製造用中間体の製造方法。
【化11】

【請求項4】
以下の式(4)で表される化合物。
【化12】

(但し、式中、Rはアシル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【請求項5】
以下の式(5)で表される化合物。
【化13】



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−241101(P2006−241101A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61558(P2005−61558)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】