説明

ドープ混合装置、溶液製膜設備、ドープ混合方法及び溶液製膜方法

【課題】光学特性にすぐれたフイルムを製造する。
【解決手段】配管22にドープ21を送る。ノズル77から添加液27をドープ21に供給する。ノズル77の下流側の配管22に、円柱状の胴体273a及び凸部273bを有する混合部材273を設ける。凸部273bは、胴体273aの上流側の底面に設けられ、鋭角に形成される先端部273cを有する。胴体273aは、先端部273cにより分散された液100を、下流側へ案内し、胴体273aの下流側の底面273eと屈曲して接続する側面273dを備える。支持部材274a、274bは、側面273dに設けられ、側面273cと内壁面271dとを固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープと、添加剤を含む添加液とを混合する混合装置、及び、この混合装置を用いた溶液製膜設備及び溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルム(以下、フイルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フイルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフイルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフイルム用支持体として利用されている。また、TACフイルムは、ポリマーフイルムの中でも光学等方性に優れていることから、液晶表示装置の偏光板の保護フイルム,光学補償フイルム(例えば、視野角拡大フイルムなど)などの光学フイルムとして用いられている。
【0003】
主なフイルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフイルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フイルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フイルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学フイルムの製造方法に適していない。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、流延ドープと称する)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フイルムとし、十分に乾燥した湿潤フイルムをフイルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフイルムを得ることができるため、フイルム、特に光学フイルムの製造方法として、溶液製膜方法が採用されている。
【0004】
溶液製膜方法に用いる流延ドープには、ポリマーや溶媒のほか、添加剤が含まれることが多い。添加剤を適宜ドープに添加することにより、光学特性の調節及び難燃性などの特定の性質を光学フイルムに付与することや、剥離促進剤などの製造性を向上させることができる。
【0005】
添加剤を含むドープの調製の方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープと、添加剤を含む添加液とを混合することが多い。この混合の方式として、インライン方式と、タンク方式とがある。インライン方式は、流路内を充填するようにドープを供給しつつ、このドープと添加剤とを混合する方式であり、タンク方式とは、タンク内に貯留したドープ及び添加剤を混合する方法である。タンク方式では、混合時に、タンク内の異物がドープに混入してしまう。この異物を含むドープをそのまま溶液製膜方法に用いると、フイルムの光学特性等にムラが生じてしまう、或いは異物としてフイルムに残ってしまうため好ましくない。また、超音波照射などにより、ドープの泡抜きを行うことも可能ではあるが、製造に要するコスト及び手間が増加するため好ましくない。したがって、溶液製膜方法では、ドープと添加液との混合の方式として、インライン方式を用いることが多い。
【0006】
また、ドープと添加液とをインライン方式で混合する混合装置としては、攪拌翼の回転等による動的混合装置と、駆動部材を用いずに行う静的混合装置とがある。動的混合装置には、攪拌翼を駆動するシャフトの円滑な回転を維持するための潤滑性とともに、ドープや添加液がシャフト周辺の隙間から漏れださないようにするシール性が要求される。一般的には、この両者を満足させるために、潤滑油をシール液として用いることが知られているが、上述した両者を満足させる理想状態を維持することが非常に困難である。したがって、動的混合装置を用いると、この潤滑油が、攪拌時に異物としてドープなどに混入してしまう場合が多く、結果として、この異物混入がフイルムの成形性やフイルムの特性を劣化させることとなるため、好ましくない。一方、静的混合装置には、可動部を有さないため、動的混合装置のような異物混入の問題は起こらない。
【0007】
こうした背景より、ドープと添加液とを混合する混合装置としては、静的混合装置が用いられることが多い。静的混合装置としては、特許文献1に開示されるように、長方形の板をねじって形成されたエレメントを用いて、配管内を通過する液を捻転させながら混合する捻転混合型のスタティックミキサや、複数の細長い仕切り板を交互に交差させて組みつけたエレメントを用いて、配管内を通過する液を複数に分割させて混合する分割混合型のスルーザミキサなどが用いられる。静的混合装置は、これらのエレメントを用いて、ドープと添加液とを含む液の分割或いは捻転を繰り返すことにより、液を細分化して、ドープと添加液との混合を行う。また、ドープと添加液との混合の最適化は、エレメントの配置位置、配置数などの調整により、行うことができる。
【特許文献1】特開平2006−76280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学特性にムラのないフイルムを製造する溶液製膜方法では、均質な流延ドープが求められるため、約5〜10台の静的混合装置を直列に接続して、ドープと添加液とを十分に混合する。ところが、このような膨大な数の静的混合装置を直列に配置することは、装置の設置スペースやメンテナンスの手間等が増大してしまう。
【0009】
また、近年の液晶表示装置の開発により、TN方式やVA方式などさまざま方式の液晶表示装置が登場したことに伴い、各方式の液晶表示装置に応じた光学フイルムが求められるようになり、フイルムメーカには、多品種のフイルムを効率よく製造する技術の確立が求められている。しかしながら、従来の静的混合装置を用いて、多品種のフイルムを製造する際には、用いるドープや添加液の組成などが変更される度に、膨大な数の静的混合装置の最適化が必要になる。したがって、このような静的混合装置の最適化を組成変更の度に逐一行うことは、結果として、光学フイルムの生産効率を低下させることとなる。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するものであり、従来に比べて、ドープと添加液とを均一に効率よく混合する混合装置、この混合装置を用いて、多品種のフイルムを効率よく製造することができる溶液製膜設備及び溶液製膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープに対し、ドープ配管に設けた添加液ノズルにより添加液を注入して、前記ドープと前記添加液とを混合するドープ混合方法において、前記添加液ノズルの先端に形成され前記ドープ配管の径方向に扁平な扁平先端部から、前記添加液を前記径方向に拡げて前記ドープ配管内の前記ドープに注入する工程と、前記添加液が注入された前記ドープを、前記ドープ配管の中央に設けた砲弾状の環状分流体により、前記ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す環状流路形成工程と、前記環状流路形成工程を経た前記ドープを合流させる合流工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
前記環状分流体により環状に流される前記ドープの温度を前記ドープの沸点以下に調節することが好ましい。また、前記ドープの粘度をη1とし、前記添加液の粘度をη2としたときに、粘度比η1/η2が1以上1×10以下であることが好ましい。
【0013】
前記合流工程を経た前記ドープを、前記ドープ配管の中央、且つ、前記環状分流体の下流側に設けた砲弾状の下流側環状分流体により、前記ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す下流側環状流路形成工程と、当該ドープの流れ方向を軸に前記下流側環状分流体を回転させて、前記ドープ配管と前記下流側環状分流体との間を流れる前記ドープと前記添加液とを攪拌する攪拌工程と、を備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明の溶液製膜方法は、上記ドープ混合方法のうちいずれか1つにより、前記ドープと前記添加液とが混合してなる混合液をつくり、走行する支持体上に、前記混合液を流延し、流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って、乾燥することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープに対し、ドープ配管に設けた添加液ノズルにより添加液を注入して、前記ドープと前記添加液とを混合するドープ混合装置において、前記添加液ノズルの先端で、前記ドープ配管の径方向に扁平に形成され、前記添加液を前記ドープ配管の径方向に拡げて注入する扁平先端部と、前記扁平先端部のドープ流れ方向下流側で前記ドープ配管の中央に設けられ、前記添加液が注入された前記ドープを、当該ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す砲弾状の環状分流体と、前記環状分流体を通過した前記ドープを合流させる合流部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
前記環状分流体の先端に設けられ、鋭角状の鋭角先端部がドープ流れ方向上流側に向かって伸びるように、前記環状分流体が配されることが好ましい。
【0017】
前記ドープの流れ方向に直交する断面において、前記環状分流体と前記ドープ配管との間の隙間の面積が、前記ドープの流れ方向の上流側から下流側にかけて略一定であることが好ましい。また、前記ドープの流れ方向に直交する断面において、前記環状分流体と前記ドープ配管との間の隙間の面積が、前記ドープの流れ方向の上流側から下流側に向かうに従って次第に小さくなることが好ましい。
【0018】
前記鋭角先端部と反対側の先端部に設けられた端面が、前記先端部と前記端面との間に設けられる側面と屈曲して接続していることが好ましい。また、前記ドープの流れ方向における長さが、前記環状分流体よりも長い、前記合流部を設けたことが好ましい。
【0019】
前記環状分流体と前記ドープ配管との前記隙間を通過する前記ドープの温度を前記ドープの沸点以下に調節する温調機を備えることが好ましい。また、前記添加液ノズルの出口と前記環状分流体の前記鋭角先端部との距離が1mm以上200mm以下であることが好ましい。
【0020】
前記合流部の下流側で、前記ドープ配管の中央に設けられ、前記合流部にて合流した前記ドープと前記添加液とからなる液を、当該液の流れ方向に直交する断面において環状に流す砲弾状の下流側環状分流体を備えることが好ましい。また、前記液の流れ方向に回転軸を有して回転自在に取り付けられる前記下流側環状分流体と、前記下流側環状分流体を前記ドープ配管の外側から電磁誘導により回転させる駆動部と、を備えることが好ましい。
【0021】
本発明の溶液製膜設備は、上記ドープ混合装置のうちいずれか1つと、前記ドープ混合装置から得られ、前記ドープと前記添加液とが混合してなる混合液を流出する流延ダイと、走行し、前記流延ダイから流出した前記混合液から流延膜を形成する支持体と、前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥する乾燥装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の混合装置によれば、ドープと添加液とを、環状流路を通過させることにより。径方向に広がるように分けた後、再び合流させるため、この合流によりドープと添加液とを効率よく混合させることができる。したがって、粘度比の大きいドープと添加液とを混合する場合も、従来よりも少ない混合装置で、ドープと添加液とを均一に混合することができる。また、本発明の溶液製膜方法や溶液製膜設備は、上記混合装置を用いるため、多品種の光学フイルムを製造する場合も、最適化の調整などに要する手間を抑え、結果として、多品種の光学フイルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0024】
[溶液製膜方法]
図1に、本実施形態で用いる溶液製膜設備10の概略図を示す。溶液製膜設備10は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0025】
ストックタンク11は、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとを備える。ストックタンク11の内部には、フイルム20の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ21が貯留されている。ストックタンク11内のドープ21は、ジャケット11cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼11bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ21を均一な品質に保持している。ストックタンク11には、配管22が設けられる。
【0026】
配管22には、上流側から、ギアポンプ23、濾過装置24及び混合装置25が設置される。濾過装置24と混合装置25との間の配管22には、配管26が設けられる。配管26は、配管22と、添加液27を配管22へ供給する添加液供給ライン28とを接続する。ドープ21と添加液27とは、混合装置25を経て、流延ドープ29となり、流延ドープ29は流延ダイ30に送られる。
【0027】
流延室12には、流延ダイ30、支持体としての流延ドラム32、剥取ローラ34、温調装置35,36、及び減圧チャンバ37が設置されている。流延ドラム32は図示を省略した駆動装置により軸32aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室12内及び流延ドラム32は、温調装置35,36によって、流延膜33が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0028】
流延ダイ30は、回転する流延ドラム32の周面32bに向けて、ドープ21を吐出する。その後、流延ドラム32の周面32b上のドープ21から流延膜33が形成される。そして、流延ドラム32が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜33に発現し、流延膜33は剥取ローラ34によって流延ドラム32から剥ぎ取られ、湿潤フイルム38となる。
【0029】
減圧チャンバ37は、流延ダイ30に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ37内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム32の周面32bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム32の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ30と流延ドラム32との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜33を形成することができる。
【0030】
流延ダイ30の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0031】
流延ドラム32の周面32bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置36は、流延ドラム32の周面32bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面32bの温度が所望の温度に保持される。
【0032】
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面32bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0033】
また、流延室12内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。凝縮器39で凝縮液化した溶媒は、回収装置40により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0034】
流延室12の下流には、渡り部41、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部41では、搬送ローラ42が、湿潤フイルム38をピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フイルム38の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フイルム38に対し乾燥風が送られ、湿潤フイルム38は乾燥し、フイルム20となる。
【0035】
クリップテンタ14は、フイルム20の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフイルム20に対し乾燥風が送られ、フイルム20には、フイルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0036】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置43a、43bが設けられている。耳切装置43a、43bはフイルム20の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ44a、44bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0037】
乾燥室15には、多数のローラ47が設けられており、これらにフイルム20が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフイルム20の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置48が接続されており、フイルム20から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0038】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフイルム20が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)49が設けられており、フイルム20が除電される。さらに、強制除電装置49下流側には、ナーリング付与ローラ50が設けられており、フイルム20の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ52を有する巻取機51が設置されており、フイルム20が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0039】
次に、図2及び図3を用いて、混合装置25の詳細について説明する。混合装置25は、第1ケース71と、第2ケース72と、回転部材73と、支持部材74とを備える。
【0040】
筒状に形成される第1ケース71には、ドープ21が流れる方向X1からみて上流側から、接続部71aと、大径部71bとが設けられる。接続部71aは、配管22と接続する。第1ケース71の直前の配管22には、添加液供給ライン28と接続するノズル77が設けられる。大径部71bの内径は、配管22の内径よりも大きくなるように形成される。また、接続部71aの内径は、上流端部では、配管22と略同一であり、下流側端では、大径部71bと略同一であり、接続部71aの途中から大径部71b側になるにしたがって、徐々に大きくなるように形成される。
【0041】
筒状に形成される第2ケース72の内径は、配管22の内径と略同一となるように形成される。第2ケース72の上流側端部には、フランジ72aが形成される。フランジ72aの外径は、第1ケース71の大径部71bの外径と略同一に形成される。
【0042】
大径部71bの下流側端部71cとフランジ72aの上流側端面72bとが当接するように、第1ケース71と第2ケース72とを接続することにより、第1ケース71及び第2ケース72の中空部からなる混合流路80が形成される。
【0043】
支持部材74は、筒状に形成され、下流側端部に支持フランジ74aが設けられる。支持フランジ74aの外径は、第1ケース71の大径部71bの内径よりもやや小さくなるように形成される。支持部材74は、支持フランジ74aの下流側端面74bとフランジ72aの上流側端面72bとが当接するように、配される。また、支持部材74の上流側端部には、四条の回転部材支持部74cが、上流側に向かって伸びるように形成される。これら四条の回転部材支持部74cの間に、配管22と連通する隙間流路74dが形成される。
【0044】
回転部材73は、円柱状の胴体73aと、凸部73bとを有する。胴体73aの外径は、大径部71bの内径よりも小さく、支持部材74の上流側端部の内径よりも大きくなるように形成される。凸部73bは、円錐状に形成され、胴体73aの上流側の底面に設けられる。凸部73bは、方向X1の上流側に向かって伸びるように形成される先端部73cを有する。回転部材73は、胴体73aの側面73dや凸部73bが、第1ケース71の内壁面71dと離間するように、かつ、胴体73aの下流側の底面73eが回転部材支持部74cにより支持されるように、混合流路80内に配される。
【0045】
こうして、内壁面71dと回転部材73との間に、第1ケース71の上流側の配管22及び隙間流路74dを連通し、方向X1に直交する断面における形状が環状の隙間85が形成される。第1ケース71及び回転部材73により、方向X1に垂直な面で切断したときの隙間の断面積S2が、配管22の断面積S1よりも小さく、かつ、上流側から下流側に向かうに従い、徐々に小さくなるように、隙間85が形成される。
【0046】
ノズル77は、先端部に扁平な扁平先端部を有する。扁平先端部は、配管22の径方向に伸びるように形成される。そして、扁平先端部には、出口77aが設けられる。出口77aは、扁平先端部同様、配管22の径方向に伸びるように形成される。
【0047】
図4のように、胴体73aには、磁石部90が設けられる。磁石部90には、異なる磁極の磁石が、側面73dの周方向に沿って交互に設けられる。第1ケース71の外周には、ジャケット95が設けられる。ジャケット95の内部に、所望の温度に調節した伝熱媒体を流すことにより、混合流路80を通過するドープ21や添加液27の温度を所望の範囲で略一定に調整することができる。
【0048】
また、無数の電磁石98が、ジャケット95の外周を囲むように設けられる。電磁石98は、鉄心と、鉄心の周囲を囲むように設けられるコイルと、一対のリード線とを有する。それぞれの電磁石のリード線は、コイルと制御部99とを接続する。制御部99は、所定の条件に基づいて、それぞれのリード線に所定の方向の電流を流し、ジャケット95の外周に設けられる複数の電磁石98に所定の磁極を発生させる。
【0049】
第1ケース71、第2ケース72、回転部材73の形成材料としては、ドープ21や添加液27に対する十分な耐腐食性と強度を有するものが好ましく、具体的には、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0050】
また、支持部材74の形成材料として、潤滑油などが不要であるものを用いることが好ましく、更に、回転部材73との摺動により、削り粉等が発生しないものを用いることがより好ましい。具体的には、支持部材74の形成材料として、高分子化合物を用いることがより好ましく、中でも、テフロン(登録商標)を用いることが好ましい。
【0051】
次に、図1を用いて、溶液製膜設備10によりフイルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転によりドープ21の状態を常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ギアポンプ23によりストックタンク11から濾過装置24に送り込み濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。
【0052】
添加液供給ライン28は、濾過されたドープ21に添加液27を供給する。ドープ21と添加液27とは、混合装置25を介して、流延ドープ29となり、流延ドープ29となり、流延ダイ30に送られる。
【0053】
流延室12の内部温度は、温調装置35により10〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が気化して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0054】
流延ドラム32は、駆動装置により軸32aを中心に回転している。この回転により、周面32bは、方向Z1へ一定速度(50m/分以上200m/分以下)で走行している。
【0055】
流延ダイ30は、30℃以上35℃以下の範囲内で略一定に保持されるドープ21を、流延ドラム32の周面32b上に流延し、流延膜33を形成する。温調装置36により、流延ドラム32の周面32bの温度は−10以上10℃以下の範囲内で略一定になるように調整されている。したがって、周面32b上の流延膜33は冷却し、この冷却により、流延膜33がゲル化し、自己支持性が発現する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0056】
剥取ローラ34を用いて、自己支持性を有する流延膜33を、流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フイルム38とし、この湿潤フイルム38を搬送ローラ42によりピンテンタ13に送り込む。
【0057】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フイルム38の両側縁部に差し込んで固定した後、この湿潤フイルム38を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム20をクリップテンタ14に送り込む。クリップテンタ14では、フイルム20の両側縁部を多数のクリップで把持した後、搬送するフイルム20に乾燥処理及び延伸処理を施す。
【0058】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフイルム20は、耳切装置43a、43bによって両側縁部が裁断される。両側縁部が切断されたフイルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機51によって巻き取られる。また、耳切装置43a、43bによって切断された両側縁部はクラッシャ44a、44bにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0059】
巻取機51で巻き取られるフイルム20は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フイルム20の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0060】
次に、混合装置25における詳細を説明する。図1のように、ギアポンプ23により、ドープ21は、所定の流速V1で、出口77aよりも下流側であって第1ケース71の上流側の配管22を流れる。添加液供給ライン28に設けられるポンプ(図示しない)より、添加液27が、ノズル77の出口77aから所定の流速V2で、径方向に広がるようにドープ21に供給される。ドープ21と添加液27とを含む液100は、配管22を介して、混合流路80に送られる。流速V1は0.002m/秒以上0.06m/秒以下であることが好ましく、0.01m/秒以上0.05m/秒以下であることがより好ましい。流速V2は0.0003m/秒以上0.01m/秒以下であることが好ましく、0.0004m/秒以上0.002m/秒以下であることがより好ましい。
【0061】
図3及び図4のように、混合流路80内の回転部材73は、支持部材74により支持されながら、制御部99によって形成される電磁石98の磁極と、磁石部90の磁極との間の引力及び斥力により、軸AXを中心に回転する。回転部材73の回転により、側面73dは速度V3で走行する。
【0062】
回転部材73は、軸AXを中心に回転しつつ、四条の回転部材支持部74cにより支持されるため、混合流路80に送られた液100は、隙間85及び隙間流路74dを通過して、第2ケース72の下流側の配管22へ送られる。回転部材73の上流側に設けられる凸部73bは、先端部73cにより、混合流路80を流れる液100を、方向X1の断面の略中心から径方向に向かって広げるように、分ける。先端部73cにより分けられた液100は、回転部材73と内壁面71dとの間の隙間85に送られる。そして、側面73dの走行により、隙間85を通過する液100が攪拌される。その後、隙間85を通過した液100は、再び合流した後、隙間流路74dを通過する。
【0063】
本発明では、隙間85の断面積S2が、上流側から下流側に向かうに従い、徐々に小さくなるため、隙間85を通過する液100のせん断歪速度が増大し、その結果、隙間85におけるドープ21と添加液27との粘度が低下する。したがって、隙間85では、側面73dの走行による液100の攪拌により、ドープ21と添加液27との混合が容易になるため、ドープ21と添加液27とが均一に混合する流延ドープ29を容易に調製することができる。更に、組成変更により、ドープ21や添加液27の物性(粘度など)が変わったときには、制御部99の制御の下、側面73dの速度V3を調節することにより、液100の攪拌条件の最適化を行うことができる。したがって、本発明によれば、ドープ21や添加液27の粘度に応じて、攪拌条件の最適化を行い、均質の流延ドープ29を容易に調製することができる。
【0064】
また、本発明は、シャフト等のような、潤滑油を必要とする駆動部材を有さないため、液100の混合の最適化を容易に行うことができる動的混合装置でありながら、フイルムの光学特性の劣化などの原因となる潤滑油の混入を回避することができる。
【0065】
また、ジャケット95に通過する伝熱媒体により、隙間85を通過する液100の温度をドープ21の沸点以下の範囲で略一定に調整することが好ましい。これにより、ドープ21の発泡を抑えつつ、隙間85を通過する液100の粘度を下げることができるため、ドープ21と添加液27とが均一に混合する流延ドープ29を、更に容易に調製することができる。
【0066】
なお、液100の送液における圧力損失を抑える点から、先端部73cは鋭角に形成されることが好ましく、胴体73aの軸AXを含む面で切断したときの切断面における先端部73cの角度θは、80°未満であることが好ましく、40°以上50°未満であることがより好ましく、略45°であることが最も好ましい。
【0067】
また、液100の粘度及び密度を、ηk、ρkとし、隙間85の間隔をΔdとするときに、V1/V2が1以上5以下、かつ、隙間85における液100のレイノルズ数Reを0.02以上とすることが好ましく、レイノルズ数Reを0.1以上とすることがより好ましい。ここで、レイノルズ数Reは、式1で定義されるものをいう。なお、式1を満たすものであれば、液100が層流や乱流であるか否かに関わらず、ドープ21と添加液27とを均一に混合することができる。
(式1)Re=Δd・V3・ρk/ηk
【0068】
なお、液100やドープ21や添加液27の粘度や密度は、JIS K 7117やJIS K 7112等によって求めることができる。
【0069】
本発明の混合装置25は、ドープ21の粘度ηdと、添加液27の粘度ηtとの粘度比ηd/ηtが、いずれの範囲でも適用可能であるが、特に、粘度比ηd/ηtが1以上1×10以下であることが好ましい。
【0070】
先端部73cとノズル77の出口77aとの距離L1は、1mm以上200mm以下であることが好ましい。距離L1が1mm未満では、回転部材73とノズル77とが接触する恐れがあるため好ましくなく、距離L1が200mmを超えると、ノズル77からの添加液27を、先端部73cに誘導することが困難になるため好ましくないためである。
【0071】
なお、上記実施形態では、内径が、上流側から下流側に向かって徐々に大きくなった後、再び元の寸法に徐々に戻る混合流路80及び略円柱状の回転部材73を設けたが、本発明はこれに限られず、隙間85の断面積S2が上流側から下流側に向かうに従い小さくなるように形成されていれば、混合流路80や回転部材73の形状は、上記実施形態のものに限られない。また、断面積S1と断面積S2との比S1/S2の値は、1.05以上2以下であることが好ましい。S1/S2が2以上であると、圧力損失の増大、或いは、伸長流動の影響によるものと考えられるせん断歪速度の異常な上昇により、ドープ21を流延ダイ30へ送ることが困難になるため好ましくない。また、S1/S2が1.05未満の場合には、隙間85の通過により、ドープ21と添加液27との粘性が低下しないため、好ましくない。
【0072】
方向X1に垂直な面で切断した場合の面内において、胴体73aの外径をD1とし、混合流路80の内壁面71dの内径をD2とするときに、D1/D2は、0.1以上0.95以下であることが好ましい。D1/D2が0.1未満であると、十分な大きさのせん断応力を液100に発生させにくいためである。また、D1/D2が0.95を超えると、回転部材73と内壁面71dとが接触する恐れがあること、及び添加剤を含む異物が生じてしまうため、好ましくない。なお、図示では、D1を胴体73aの外径としたが、これに限られず、D1を凸部73bの外径としてもよい。
【0073】
上記実施形態では、配管22に混合装置25を1つ設けたが、本発明はこれに限られず、配管22に複数の混合装置25を、方向X1に沿って、直列に設けてもよい。混合装置25を直列に並べることにより、ドープ21と添加液27との混合をより確実に行い、均質の流延ドープ29を調製することができる。
【0074】
上記実施形態では、配管22の内径よりも大きな内径を有する大径部71bとしたが、本発明はこれに限られず、隙間85の断面積S2が、上流側から下流側に向かうに従い、徐々に小さくなっていれば、大径部71bの内径が、配管22の内径と略同一であってもよいし、配管22の内径より小さくてもよい。
【0075】
上記実施形態では、回転部材73が回転する軸AXの方向と方向X1は、略同一方向であることが好ましいが、本発明はこれに限られず、液100のせん断歪速度を増大させることができれば、軸AXの方向と方向X1とは異なる方向でもよい。なお、液100全体に均一に混合させる場合は、方向X1と胴体73aの中心軸は、略同一方向であることが好ましい。
【0076】
また、回転部材73が回転する回転軸と、胴体73aの中心軸とは略同一方向であることが好ましいが、本発明はこれに限られない。更に、回転部材73の回転軸と胴体73aの中心軸は、同一線上であってもよいし、平行であってもよい。
【0077】
なお、ドープ21と添加液27との混合は、粘性が低下する場所、すなわち、隙間85の断面積が小さくなるところで起こりやすいため、隙間85、特に、側面73dと内壁面71dとにより囲まれる隙間85の部分は、液100の流れる方向X1において、長く形成されることが好ましく、例えば、凸部73bの長さよりも長く形成されることがより好ましい。
【0078】
上記実施形態では、回転部材支持部74cが、平らな底面73eを介して、回転部材74を支持したが、底面73eに、回転部材支持部74cをガイドする環状の溝あるいは突出部を設けてもよい。
【0079】
以下、本発明の他の実施形態を示すが、同一の部材や装置には同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。
【0080】
上記実施形態では、鋭角に形成される先端部73cを有する回転部材73を用いたが、本発明は、これに限られず、ドープ21を分けつつ、隙間85へ送ることができる形状であればよい。したがって、先端部が鈍角に形成されている回転部材を用いてよいし、図5に示すように、胴体73aの上流側に設けられる凸部123bの先端部123cが湾曲に形成されている回転部材123を用いてもよい。
【0081】
上記実施形態では、側面73dの走行により液100の攪拌を行ったが、本発明は、これに限られず、図6のように、側面73dに攪拌翼150を有する回転部材153を用いて、隙間85を通過する液100を攪拌してもよい。この攪拌翼150の走行により、ドープ21と添加液27との混合をより確実に行うことができる。また、この攪拌翼150に代えて、側面73d上に、或いは、内壁面71d上に、攪拌溝や、長方形の板をねじって形成されたエレメントや、複数の細長い仕切り板を交互に交差させて組みつけたエレメントを適宜設けてもよい。なお、攪拌翼150や攪拌溝の形状、形成数、及び形成ピッチなどは、特に限定されず、攪拌条件に応じて適宜決定すればよい。
【0082】
上記実施形態では、液100の流れる方向X1と略垂直になるように形成された底面73eを下流側に有する回転部材73を用いたが、本発明はこれに限られず、図7に示すように、下流側に向かって凸状に伸びる凸部173gを胴体73aの下流側の底面に有する回転部材173でもよい。なお、凸部173gの下流側の先端に形成される先端部173hも、先端部73c(図3参照)同様に、鋭角または鈍角に形成されてもよいし、湾曲に形成されてもよい。
【0083】
上記実施形態では、磁石部90をジャケット95の外周に設けたが、本発明はこれに限られず、第1ケース71の外周に磁石部を設け、更にその外周にジャケット95を設けてもよい。
【0084】
上記実施形態では、方向X1を中心に回転する回転部材73を用いて、ドープ21と添加液27とを動的に混合したが、ドープ21と添加液27とを静的に混合する混合装置225を用いてもよい。次に、混合装置225について説明する。
【0085】
図8及び図9のように、混合装置225は、上流側ケース271と、下流側ケース272と、混合部材273と、支持部材274と、を有する。筒状に形成される上流側ケース271には、方向X1の上流側から、上流側接続部271aと、上流側大径部271bとを設けられる。上流側接続部271aは、配管22と接続する。上流側接続部271aの上流側の配管22には、ノズル77が配される。
【0086】
上流側大径部271bの内径は、配管22の内径よりも大きくなるように形成される。また、上流側接続部271aの内径は、上流端では、配管22の内径と略同一であり、下流端では、上流側大径部271bの内径と略同一であり、配管22側から上流側大径部271b側になるにしたがって、徐々に大きくなるように形成される。
【0087】
筒状に形成される下流側ケース272には、方向X1の上流側から、下流側大径部272aと、下流側接続部272bとが設けられる。下流側接続部272bは、配管22と接続する。下流側大径部272aの内径は、上流側大径部271bの内径と略同一となるように形成される。また、下流側接続部272bの内径は、上流端では、下流側大径部272aの内径と略同一であり、下流端では、配管22の内径と略同一であり、下流側大径部272a側から配管22側になるにしたがって、徐々に小さくなるように形成される。
【0088】
上流側大径部271bと、下流側大径部272aとが当接するように、上流側ケース271と下流側ケース272とを接続することにより、上流側ケース271と下流側ケース272との中空部から混合流路280が形成される。上流側ケース271側の混合流路280には、混合部材273が配され、下流側ケース272側の混合流路280には、合流路282が設けられる。
【0089】
混合部材273は、円柱状の胴体273aと、凸部273bとを有する。胴体273aの外径は、上流側大径部271bの内径よりも小さくなるように形成される。胴体273aの上流側の底面には、凸部273bが設けられる。凸部273bは、円錐状に形成され、先端が鋭角であり、方向X1の上流側に向かって伸びるように形成される先端部273cを有する。一方、胴体273aの下流側の底面273eは、胴体273aの軸に対し、略垂直に形成され、底面273eと側面273dとは、屈曲して接続する。
【0090】
支持部材274は、四条の支持部材274a、274bから構成される。また、四条の支持部材274a、274bは、胴体273aの側面273d上に周方向に沿って設けられ、側面273dと、上流側ケース271の内壁面271dとを固着する。この支持部材274a、274bにより、混合部材273は、側面273dが内壁面271dと離間するように、混合流路280内に配される。こうして、内壁面71dと混合部材273との間には、上流側の配管22と合流路282とを連通し、方向X1に直交する断面において環状の隙間285が形成される。この隙間285は、方向X1における断面積S4が配管22の断面積S3と略同一になるように、形成される。また、上流側ケース271と下流側ケース272との外周側には、ジャケット95が設けられる。
【0091】
次に、混合装置225における詳細を説明する。ギアポンプ23(図2参照)により、ドープ21は、所定の流速V1で、配管22を流れる。添加液供給ライン28により、添加液27が、ノズル77の出口77aから所定の流速V2で、配管22の径方向に広がるようにドープ21に供給される。
【0092】
ドープ21と添加液27とを含む液100は、そのまま配管22を介して、混合流路280に送られる。混合部材273は、四条の支持部材274a、274bにより、内壁面271dと離間した状態で支持されるため、混合流路280に送られた液100は、隙間285及び合流路282を介して、混合装置225を通過する。
【0093】
混合部材273の上流側に設けられる凸部273bは、先端部273cにより、混合流路280を流れる液100を、方向X1の断面の略中心から径方向に向かって広がるように分ける。先端部273cにより分けられた液100は、内壁面271dや側面273dを沿うようにして、隙間285を通過する。隙間285を通過した液100は、合流路282に送られる。合流路282では、先端部273cにより分けられた液100が合流する。したがって、本発明の混合装置225は、液100を一旦分けた後、再び合流させることにより、ドープ21と添加液27とを混合することができる。また、本発明の混合装置225は、従来のスタティックミキサ等の静的混合装置に比べ、ドープ21と添加液27とを効率よく混合することができるため、均一なドープ21を得るために必要な混合装置225の数を抑えることができる。
【0094】
また、混合部材273には、上流側の底面273eに先端部273cを有する凸部273bが形成されるため、液100を、圧力損失を抑えながら分け、隙間285に送ることができる。更に、液100が通過する隙間285は、方向X1における断面積S4が配管22の断面積S1と略同一になるように、形成されるため、圧力損失を抑えながら分けることができる。加えて、混合部材273は、底面273eが側面273dと屈曲して接続するため、合流路282を通過する液100では、渦が発生しやすい。この渦により、ドープ21と添加液27とをより確実に混合させることができる。この渦としては、双子渦、カルマン渦などがあり、いずれの渦も、液100の混合を確実にさせることができる。
【0095】
また、ジャケット95に通過する伝熱媒体により、合流路282を通過する液100の温度をドープ21の沸点以下の範囲で略一定に調整することが好ましい。これにより、ドープ21の発泡を抑えつつ、合流路282を通過する液100の粘度を下げることができるため、ドープ21と添加液27とが均一に混合する流延ドープ29を、更に容易に調製することができる。
【0096】
また、圧力損失を低減するために、先端部273cの角度θは、混合装置25の先端部73cと同様とすることがよい。また、ドープ21の粘度ηdと、添加液27の粘度ηtとの粘度比ηd/ηtは、1以上1×10以下であることが好ましい。
【0097】
先端部273cとノズル77の出口77aとの距離L2は、1mm以上200mm以下であることが好ましい。距離L2が1mm未満では、回転部材73とノズル77とが接触する恐れがあるため好ましくなく、距離L2が200mmを超えると、ノズル77からの添加液27を、先端部73cに誘導することが困難になるため好ましくないためである。
【0098】
合流路282内での液100の混合をより確実にするため、先端部273cと底面273eまでの長さをL3とし、合流路282の上流端部から下流端部までの長さをL4とすると、L4は、L3以上であることが好ましい。
【0099】
上記実施形態では、上流側ケース271と下流側ケース272とを別に設けたが、本発明はこれに限らず、上流側ケース271と下流側ケース272とを一体に成形してもよい。
【0100】
上記実施形態では、上流側ケース271側の混合流路280には、混合部材273を儲け、下流側ケース272側の混合流路280を合流路282としたが、本発明はこれに限られず、混合流路280内のうち混合部材273を配置した場合に、混合流路280のうち混合部材273の下流側を合流路とし、混合流路280と混合部材273との間の隙間を隙間285としてもよい。
【0101】
上記実施形態では、胴体273aの軸に対し略垂直に形成される底面273eを下流側に有する混合部材273を用いたが、本発明はこれに限られず、側面273dや内壁面271dに沿って通過する液100に渦が発生するような形状の混合部材を用いることが好ましい。したがって、隙間285を通過した液100に渦を発生させ得る混合部材273としては、例えば、図10に示す、方向X1に対し凹状に形成される底面313dを胴体313aの下流側に有する混合部材313や、図11に示す、方向X1に対し凸状に形成される底面323dを胴体273aの下流側に有する混合部材323などがあり、いずれも、上記実施形態と同様の効果を発現することができる。もちろん、液100の混合が可能であれば、胴体の下流側の底面と胴体の側面とが湾曲に接続、すなわち、胴体の下流側の底面と胴体の側面との接合部が、断面略円弧状に面取りされていてもよい。
【0102】
上記実施形態では、隙間285の断面積が配管22の断面積と等しくなるような混合装置225を用いたが、本発明はこれに限らず、図12のように、隙間336の断面積が、配管22の断面積に比べ、徐々に小さくなるような混合部材333と上流側ケース271とを有する混合装置335を用いてもよい。これにより、せん断歪速度の増大に起因して、隙間336を通過するドープ21や添加液27の粘度が低下するため、ドープ21と添加液27とを容易に混合することができる。また、混合部材333は、液100を分ける先端部333cと、先端部333cにより分けられた液100を合流させる底面333dと、分けられた液100を底面333dに案内する錘面333gとからなるが、混合部材333の錘面333gと底面333dとは、屈曲に接続することが好ましい。なお、本明細書における錘面とは、先端部333cと底面333dとを結ぶ直線のみならず、先端部333cと底面333dとを曲線の集合体も含む。したがって、錘面333gを有する混合部材333も錐体として含める。
【0103】
なお、上記実施形態では、各混合部材を単体で用いたが、本発明はこれに限られず、方向X1に対し、混合装置或いは、混合部材を直列に接続してもよい。例えば、図13のように、方向X1に対して直列に配され、混合部材333と略同一の形状の混合部材353a〜353cを有する混合装置355を用いてもよい。そして、隣り合う混合部材353aと混合部材353bとを、そして混合部材353bと混合部材353cとを、それぞれ、棒状の支持部材357a、357bにより支持してもよい。なお、本発明の混合装置は、直列に配され、2つ、あるいは4つ以上の混合部材を有するものでもよい。
【0104】
更に、複数の混合装置や混合部材を直列に配する場合は、同種の混合装置等のみに限られず、異種の混合装置等の組み合わせでもよい。例えば、図14のように、混合装置25の上流側に、混合装置225を設けてもよい。混合装置25の上流側に混合装置225を設けることにより、混合装置25による混合前に、ドープ21と添加液27との混合を行いつつ、液100を分けることができるため、回転部材73の先端部73cにおける圧力損失を抑えつつ、ドープ21と添加液27との混合をより確実に行うことができる。また、合流路282内での液100の混合をより確実にするため、先端部273cと底面273eまでの長さをL3とし、底面273eと先端部73cとの距離をL5とすると、L5は、L3以上であることが好ましい。
【0105】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム32を用いたが、エンドレスバンドを支持体として用いても良い。また、高速流延を行わない場合は、乾燥法を行う溶液製膜方法に本発明を適用することもできる。
【0106】
以下、本発明において用いられるドープ21を調製する際に使用するポリマー、溶媒、添加液について説明する。
【0107】
(ポリマー)
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではない。
【0108】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0109】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは
0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0110】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0111】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0112】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0113】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0114】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0115】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0116】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0117】
また、ドープ21のTAC濃度は、5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下であることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下であることが最も好ましい。また、ドープ21の粘度は、20Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、30Pa・s以上100Pa・s以下であることがより好ましい。なお、TACフイルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0118】
(添加液)
添加液27は、用途に応じた種々の添加剤と溶媒とを含む。添加剤としては、用途に応じて、剥離促進剤、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤などを用いることができる。また、溶媒としては、ドープ21に含まれる溶媒と同一であることが好ましい。また、添加液27の粘度は、8×10−4Pa・s以上0.1Pa・s以下であることが好ましく、1×10−3Pa・s以上0.05Pa・s以下であることがより好ましい。
【0119】
(流延ドープ)
以上のドープ21と添加液27とから流延ドープ29をつくることができる。なお、流延ドープ29における添加剤の濃度は、流延ドープ29中の固形分全体を100重量%とした場合に1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0120】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0121】
また、本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートに限定されるものではなく、セルロースアルキレート、CAP(セルロースアセテートプロピオネート)、CAB(セルロースアセテートブチレート)、PETやポリエチレンなどを用いることができる。このようにセルロースアシレート以外のポリマーとして用いる場合には、上記実施形態で述べたフイルム20の温度を、当該ポリマーのTgや分子間の相互作用などに応じて決めればよい。
【0122】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【実施例1】
【0123】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、実施例1〜4は本発明の実施様態の例であり、比較例1〜3は、実施例1〜4に対する比較実験である。また、各実施例の説明は実施例1で詳細に行い、実施例2〜4、比較例1〜3については、実施例1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0124】
次に、本発明の実施例1について説明する。
【0125】
[ドープの調製]
ドープ21の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ21を調製した。なお、ドープ21のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープ21を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク11に入れた。上記組成のドープ21をドープAと称する。ドープAの粘度は100Pa・sであった。
【0126】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0127】
[添加液の調製]
所定の添加剤を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解して添加液27を調製した。添加液27の粘度は0.001Pa・sであった。
【0128】
溶液製膜設備10を用いて流延ドープ29を製造した。ストックタンク11内のドープAは、ギアポンプ25により、流量Q1で、配管22に送られた。添加剤供給ライン28は、添加液27を流量Q2で溶液製膜設備10に供給した。添加液27は、ノズル77から配管22内へ供給された。こうして、ドープAと添加液27とを含む液100は、混合装置25に送られた。流量Q1は45L/分であり、流量Q2は0.3L/分であった。混合装置25は、式1のReが略0.02になるような側面73dの走行速度V3で、回転部材73を回転させて、隙間85を通過する液100を攪拌し、流延ドープ29を得た。
【実施例2】
【0129】
[ドープの調製]
ドープ21の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ21を調製した。ドープ21を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク11に入れた。上記組成のドープ21をドープBと称する。ドープBの粘度は50Pa・sであった。
【0130】
実施例1と同様にして、混合装置25を用いて、ドープBと添加液27とから、流延ドープ29を調製した。
【実施例3】
【0131】
配管22に3台の混合装置25を直列に設けたこと以外は、実施例1と同様にして、ドープAと添加液27とから、流延ドープ29を調製した。
【実施例4】
【0132】
配管22に、1台の混合装置225を設け、更に、混合装置225の下流側に、2台の混合装置25を直列に設けたこと以外は、実施例1と同様にして、ドープAと添加液27とから、流延ドープ29を調製した。
【0133】
[比較例1〜3]
混合装置25または混合装置225に代えて、従来のスタティックミキサ(ノリタケ社製 6−N16−22(6)−1)を用いたこと以外は、実施例1〜3と同様にして行った。
【0134】
〔流延ドープの評価方法〕
上記実施例において製造した流延ドープを目視により混合状態を調べ、以下の基準に基づいて評価を行った。
◎:ドープと添加剤とが均一に混合していた。
○:ドープと添加剤とが混合していた。
×:ドープと添加剤とが、混ざり合っていなかった。
【0135】
表1に、各実施例及び比較例において、用いた静的混合装置の種類及び数、用いた動的混合装置の種類及び数、各ドープの流量Q1、各ドープの粘度ηd、添加液の流量Q2、添加液の粘度ηt、上記の流延ドープの評価結果を表1に示す。ここで、各ドープの流速V1と添加剤の流速V2との比(=V1/V2)の値が3となるように、配管22、26の内径等を調節した。なお、表1中の、静的混合装置の種類及び動的混合装置の種類において、Aは、本発明の静的混合装置及び動的混合装置の種類を指し、Bが従来のスタティックミキサ(ノリタケ社製 6−N16−22(6)−1)を指す。また、本発明の静的混合装置は、混合装置225を指し、本発明の動的混合装置は、混合装置25を指す。
【0136】
【表1】

【0137】
表1からも明らかなように、本発明を適用した実施例1〜4では、均質な流延ドープ29を得ることができた。一方、比較例1〜3では、均質な流延ドープ29を得ることができなかった。したがって、本発明によれば、ドープ21と添加液27とを効率よく混合し、均質な流延ドープ29を容易に得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明に係る溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1の混合装置の概要を示す斜視図である。
【図3】第1の混合装置のIII−III線断面図である。
【図4】第1の混合装置のIV−IV線断面図である。
【図5】先端部が湾曲に形成される混合装置の概要を示す断面図である。
【図6】側面に攪拌翼が形成される混合装置の概要を示す断面図である。
【図7】下流側の底面が、下流に向かって凸状に形成される混合装置の概要を示す断面図である。
【図8】第2の混合装置の概要を示す斜視図である。
【図9】第2の混合装置の概要を示す断面図である。
【図10】下流側の底面が、下流に向かって凹状に形成される混合装置の概要を示す斜視図である。
【図11】下流側の底面が、下流に向かって凸状に形成される混合装置の概要を示す断面図である。
【図12】上流側から下流側に向かうに従い、断面積が徐々に小さくなる隙間が形成される混合装置の概要を示す断面図である。
【図13】複数の混合部材を有する混合装置の概要を示す断面図である。
【図14】混合装置の直前に、別の種類の混合装置を設けた実施形態の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0139】
10 溶液製膜設備
25、225 混合装置
73 回転部材
73a,273a 胴体
73b,273b 凸部
73c,273c 先端部
73d,273d 側面
73e,273e 底面
74,274a,274b 支持部材
74c 回転部材支持部
74d 隙間流路
80,280 流路
85,285 隙間
90 磁石部
98 電磁石
99 制御部
100 液
273 混合部材
282 合流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープに対し、ドープ配管に設けた添加液ノズルにより添加液を注入して、前記ドープと前記添加液とを混合するドープ混合方法において、
前記添加液ノズルの先端に形成され前記ドープ配管の径方向に扁平な扁平先端部から、前記添加液を前記径方向に拡げて前記ドープ配管内の前記ドープに注入する工程と、
前記添加液が注入された前記ドープを、前記ドープ配管の中央に設けた砲弾状の環状分流体により、前記ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す環状流路形成工程と、
前記環状流路形成工程を経た前記ドープを合流させる合流工程と、
を有することを特徴とするドープ混合方法。
【請求項2】
前記環状分流体により環状に流される前記ドープの温度を前記ドープの沸点以下に調節することを特徴とする請求項1記載のドープ混合方法。
【請求項3】
前記ドープの粘度をη1とし、前記添加液の粘度をη2としたときに、粘度比η1/η2が1以上1×10以下であることを特徴とする請求項1または2記載のドープ混合方法。
【請求項4】
前記合流工程を経た前記ドープを、前記ドープ配管の中央、且つ、前記環状分流体の下流側に設けた砲弾状の下流側環状分流体により、前記ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す下流側環状流路形成工程と、
当該ドープの流れ方向を軸に前記下流側環状分流体を回転させて、前記ドープ配管と前記下流側環状分流体との間を流れる前記ドープと前記添加液とを攪拌する攪拌工程と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のドープ混合方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のドープ混合方法により、前記ドープと前記添加液とが混合してなる混合液をつくり、
走行する支持体上に、前記混合液を流延し、流延膜を形成し、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って、乾燥することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項6】
ポリマーと溶媒とを含むドープに対し、ドープ配管に設けた添加液ノズルにより添加液を注入して、前記ドープと前記添加液とを混合するドープ混合装置において、
前記添加液ノズルの先端で、前記ドープ配管の径方向に扁平に形成され、前記添加液を前記ドープ配管の径方向に拡げて注入する扁平先端部と、
前記扁平先端部のドープ流れ方向下流側で前記ドープ配管の中央に設けられ、前記添加液が注入された前記ドープを、当該ドープの流れ方向に直交する断面において環状に流す砲弾状の環状分流体と、
前記環状分流体を通過した前記ドープを合流させる合流部と、
を備えることを特徴とするドープ混合装置。
【請求項7】
前記環状分流体の先端に設けられ、鋭角状の鋭角先端部がドープ流れ方向上流側に向かって伸びるように、前記環状分流体が配されることを特徴とする請求項6記載のドープ混合装置。
【請求項8】
前記ドープの流れ方向に直交する断面において、前記環状分流体と前記ドープ配管との間の隙間の面積が、前記ドープの流れ方向の上流側から下流側にかけて略一定であることを特徴とする請求項6または7記載のドープ混合装置。
【請求項9】
前記ドープの流れ方向に直交する断面において、前記環状分流体と前記ドープ配管との間の隙間の面積が、前記ドープの流れ方向の上流側から下流側に向かうに従って次第に小さくなることを特徴とする請求項6または7記載のドープ混合装置。
【請求項10】
前記鋭角先端部と反対側の先端部に設けられた端面が、前記先端部と前記端面との間に設けられる側面と屈曲して接続していることを特徴とする請求項7ないし9のうちいずれか1項記載のドープ混合装置。
【請求項11】
前記ドープの流れ方向における長さが、前記環状分流体よりも長い、前記合流部を設けたことを特徴とする請求項6ないし10のうちいずれか1項記載のドープ混合装置。
【請求項12】
前記環状分流体と前記ドープ配管との前記隙間を通過する前記ドープの温度を前記ドープの沸点以下に調節する温調機を備えることを特徴とする請求項8ないし11のうちいずれか1項記載のドープ混合装置。
【請求項13】
前記添加液ノズルの出口と前記環状分流体の前記鋭角先端部との距離が1mm以上200mm以下であることを特徴とする請求項7ないし12のうちいずれか1項記載のドープ混合装置。
【請求項14】
前記合流部の下流側で、前記ドープ配管の中央に設けられ、前記合流部にて合流した前記ドープと前記添加液とからなる液を、当該液の流れ方向に直交する断面において環状に流す砲弾状の下流側環状分流体を備えることを特徴とする請求項6ないし13のうちいずれか1項記載のドープ混合装置。
【請求項15】
前記液の流れ方向に回転軸を有して回転自在に取り付けられる前記下流側環状分流体と、
前記下流側環状分流体を前記ドープ配管の外側から電磁誘導により回転させる駆動部と、
を備えることを特徴とする請求項14記載のドープ混合装置。
【請求項16】
請求項6ないし15のうちいずれか1項記載のドープ混合装置と、
前記ドープ混合装置から得られ、前記ドープと前記添加液とが混合してなる混合液を流出する流延ダイと、
走行し、前記流延ダイから流出した前記混合液から流延膜を形成する支持体と、
前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥する乾燥装置と、
を備えることを特徴とする溶液製膜設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−90655(P2009−90655A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239036(P2008−239036)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】