説明

ナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス

【解決手段】波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が10%以下であることを特徴とするナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【効果】本発明によれば、微細パターン転写時のモールドの透過率分布による樹脂の硬化の程度に差異を生じにくい、ナノインプリントモールドに好適なチタニアドープ石英ガラスを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部透過率分布が小さく、低熱膨張係数を有するナノインプリントモールド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年の半導体集積回路の高集積化はめざましい。この傾向に伴い、半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、現在ではArFエキシマレーザ(193nm)を使用する光リソグラフィが主流である。今後、更なる高集積化を実現するために極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用した光リソグラフィへの移行が有望視されている。しかし、ハーフピッチ32nm以下の半導体素子の製造にはいわゆる光リソグラフィ技術に併せて、ナノインプリント技術も脚光を浴びている。
【0003】
ナノインプリント技術は、光導波路、バイオチップ、光記憶メディア等の製造への応用も期待でき、多岐にわたる。
【0004】
ナノインプリント技術は、電子線露光技術やエッチング技術により作製した微細パターンを刻印したモールド(金型、スタンパー、テンプレート等と呼称させることもある)を基板上に塗布した樹脂材料に押し付けて微細パターンの形状を転写する手法である。半導体素子製造時には、シリコン等の半導体ウェハー表面に塗布したレジストにモールドを押しつけて微細パターンを転写させる。
【0005】
ナノインプリント技術は、光ナノインプリント方式と熱ナノインプリント方式とに大別される。光ナノインプリントは、樹脂材料に光硬化性樹脂を使用し、モールドをプレスして紫外線を照射することで樹脂を硬化させ、微細パターンを転写する方式である。
一方、熱ナノインプリントは、樹脂材料に熱可塑性樹脂を使用し、ガラス転移温度以上に加熱して軟化した樹脂にモールドを押しつけて微細パターンを転写する、又は熱硬化性樹脂にモールドを押しつけながら硬化温度まで加熱して微細パターンを転写する方式である。
【0006】
ナノインプリント用モールドに求められる特性としては、微細パターン転写時にモールドの破損が発生しない機械的強度、樹脂と反応しない化学的安定性がある。
【0007】
ハーフピッチ32nm以下の半導体製造に、ナノインプリント技術の応用が期待されている。しかし、熱ナノインプリント方式では樹脂材料の軟化又は硬化のために熱が加えられ、熱によりモールドも加熱されるため、モールドの熱膨張による変形によって高精度に微細パターンを転写することが困難と思われる。
【0008】
従って、ハーフピッチ32nm以下の半導体製造にナノインプリント技術を応用するに際しては、光ナノインプリント方式が用いられると思われる。光ナノインプリントにおいては、モールドに紫外線を透過させるため、モールドが紫外線を吸光する場合にはモールドの温度が変化する。また、紫外線の光源ランプの熱、ナノインプリント時の温度変動等によってもモールドの温度変動が生じる。ハーフピッチ32nm以下の半導体素子のような微細パターンの転写に際しては、ナノインプリント時のモールドのわずかな熱膨張であっても位置精度を著しく低下させるため、モールドには紫外線に対する高い透過性、耐性を有し、更に低熱膨張材料を使用することが望まれる。
【0009】
このため、特開2006−306674号公報(特許文献1)では、モールド材料として、光ナノインプリントの光源波長に対する高い透過率、耐性を有する低熱膨張材料を使用することが開示されている。
しかし、微細パターンをより精密に転写するに際しては、モールドに光源波長に対する高い透過率、耐性を有する低熱膨張材料を使用するだけではなく、光源波長に対するモールドの内部透過率分布を抑制する必要がある。モールド内に内部透過率分布が存在する場合、光ナノインプリント時の樹脂硬化の程度に差異が生じるため、安定したナノインプリントが困難になるためである。
【0010】
【特許文献1】特開2006−306674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、モールド内の内部透過率分布が少なく、低熱膨張性を有するナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が10%以下であるチタニアドープ石英ガラスが、位置精度の高い微細パターンの転写が可能な光ナノインプリント用モールドとして好適であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスを提供する。
(1)波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が10%以下であることを特徴とするナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(2)波長365nmの紫外線に対する内部透過率が70%以上である(1)記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(3)チタニアを5〜10質量%含有する(1)又は(2)記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(4)チタニアの濃度分布が3質量%以下である(1)乃至(3)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(5)内包物を含まない(1)乃至(4)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(6)塩素濃度が500ppm以下である(1)乃至(5)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(7)OH基濃度が1000ppm以下である(1)乃至(6)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(8)屈折率分布が5×10-4以下である(1)乃至(7)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(9)複屈折量が30nm/cm以下である(1)乃至(8)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細パターン転写時のモールドの透過率分布による樹脂の硬化の程度に差異を生じにくい、ナノインプリントモールドに好適なチタニアドープ石英ガラスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは、波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。内部透過率分布を上記範囲内とすることで、樹脂の硬化の程度に分布を生じにくく、安定したナノインプリントが可能となり、ナノインプリントモールド用材料として好適である。
【0016】
波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が少ないモールドを使用すれば、波長365nmの紫外線に対する内部透過率が低いモールドであっても樹脂の硬度に差異を生じることが少なくなる。しかし、モールドの内部透過率が低い場合には、モールド内での吸光が多くなるため、モールドの温度が上昇して熱膨張による変形が問題となり、位置精度の高い微細パターンの転写が困難となる。また、樹脂を硬化させるために長時間を要することとなるため、スループットの面からも不利である。
【0017】
そこで、本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスの波長365nmの紫外線に対する内部透過率は、70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の高い内部透過率を有するチタニアドープ石英ガラスが好適である。なお、本発明における内部透過率は、厚さ10mmのチタニアドープ石英ガラスに対するものであり、チタニアドープ石英ガラスの内部透過率は、日本光学ガラス工業会規格JOGIS−17−1982に従って測定することができる。
【0018】
本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスのチタニア濃度は、5〜10質量%、好ましくは6〜9質量%が好適である。チタニアを5〜10質量%含有することにより、10〜50℃、好ましくは15〜30℃、更に好ましくは20〜25℃での線熱膨張係数を−50〜50ppb/℃、好ましくは−30〜30ppb/℃、更に好ましくは−15〜15ppb/℃にすることができ、たとえ内部透過率が低いモールドであっても、温度変化によるモールドの変形を抑制することができる。なお、石英ガラス中のチタニア濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)法によって測定できる。
【0019】
また、モールド内のチタニア濃度分布は3質量%以下、好ましくは1.5質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以下が好適である。モールド内のチタニア濃度分布が3質量%を超える場合には、モールド内の部分的な熱膨張を引き起こすため、安定したナノインプリントが期待できない場合がある。チタニア濃度分布の下限値は特に制限されず、0質量%であることが最も好ましいが、実用上0質量%にするのは困難であり、通常0.01質量%以上である。
【0020】
光ナノインプリントにおいて、モールド内に内包物が存在する場合には、内包物によって樹脂を反応させる紫外光が吸収又は散乱されるため、適切なナノインプリントが阻害されるおそれがある。そこで、本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは、内包物を含まないものが望ましい。なお、本発明における内包物とは、チタニアを含有した石英ガラス相以外の例えば気泡、TiO2結晶相、SiO2結晶相といった異物を総称する。
【0021】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの塩素濃度は、500ppm以下、好ましくは250ppm以下が好適である。チタニアドープ石英ガラスの合成においては、原料として塩素を含有する化合物を使用する場合がある。この場合、合成されたチタニアドープ石英ガラス中に塩素が残留する。塩素は325nm付近に吸収を有するため、モールドにプレスした樹脂を硬化させる光源として低圧水銀ランプ等の近紫外域の光源を使用する光ナノインプリントにおいては、塩素の存在が問題となる。塩素によってモールドに吸収された近紫外光は熱に転化されるため、モールドの温度を上昇させる原因となる。よって、モールド用のチタニアドープ石英ガラスは塩素が少ないものが望ましい。塩素濃度の下限値は特に制限されないが、一般的な分析方法である蛍光X線分光法の検出限界(10ppm)以下である。
【0022】
更に、本発明で用いるチタニアドープ石英ガラスのOH基濃度は、1000ppm以下、好ましくは700ppm以下が好適である。石英ガラス中のOH基濃度を低減することにより、樹脂とモールドの離型が容易になるからである。OH基濃度の下限値も特に制限されず、通常1ppm以上、特に5ppm以上である。
【0023】
OH基濃度は、赤外分光光度計で測定することができる。具体的にはフーリエ変換赤外分光光度計にて波数4522cm-1の吸光係数より求めることができ、換算式として
OH基濃度(ppm)={(4522cm-1における吸光係数)/T}×4400
を用いることができる。但し、Tは測定サンプルの厚さ(cm)である。
【0024】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、25℃におけるHe−Neレーザ(632.8nm)に対する屈折率分布(Δn)が5×10-4以下、好ましくは5×10-5以下、更に好ましくは1×10-5以下が好適である。屈折率分布が小さいことにより、安定した光ナノインプリントが可能となるからである。632.8nmの波長に対する屈折率分布の下限値も特に制限されず、通常1×10-6以上である。なお、屈折率分布は、Zygo社製ZygoMarkIVにより測定することができる。
【0025】
また、本発明のチタニアドープ石英ガラスの複屈折量(25℃)は、30nm/cm以下、好ましくは20nm/cm以下、更に好ましくは10nm/cm以下である。屈折率分布と同様に複屈折量を低くすることで、安定した光ナノインプリントが可能となる。複屈折量の下限値も特に制限されず、通常0.5nm/cm以上、特に1nm/cm以上である。複屈折量は、UNIOPT社製の複屈折測定装置ABR−10Aを使用して測定することができる。
【0026】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの製造方法は、上記特性を備えた石英ガラスが得られる限り特に制限されず、例えば、四塩化ケイ素やトリクロロメチルシラン、四塩化チタンといった原料を酸水素火炎で加水分解し、直接チタニアドープ石英ガラスを作製する火炎加水分解法又は原料を酸水素炎で加水分解し、チタニアをドープした多孔質シリカ母材を作製した後、ガラス化するVAD法に代表されるスート法、プラズマトーチによる原料ガスを酸化するプラズマトーチ法(ベルヌイ法)を採用することができる。
【0027】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスの内部透過率を70%以上にするためには、チタニアドープ石英ガラス又は多孔質シリカ母材作製時の酸水素炎の水素と酸素の比がモル比で3.0以下が好ましく、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
【0028】
更にチタニアドープ石英ガラスの内部透過率を上げるため、また内部透過率分布を低減させるためには作製したチタニアドープ石英ガラスを大気中又は酸素雰囲気中、1000℃以上で長時間の熱処理することが適当である。
【0029】
チタニアドープ石英ガラス内の内部透過率分布、チタニア濃度分布、屈折率分布及び複屈折量を抑制するために、SiO2の原料ガスとTiO2の原料ガスを混合して同一のバーナーノズルから噴射することができる。この場合、SiO2原料ガスとTiO2原料ガスが反応しない物質を選択することが好ましい。それぞれの原料ガスを別個のバーナーノズルより噴射し、チタニアドープ石英ガラスを作製する場合には、内部透過率分布、チタニア濃度分布、屈折率分布及び複屈折量を低減することは困難だからである。
【0030】
複屈折量はチタニアドープ石英ガラスを1200から800℃まで徐冷することによっても低減することができる。この徐冷は所望の形状へチタニアドープ石英ガラスを成形する時に同時に実施することも可能である。また、内部透過率を上げるための熱処理と同時に大気中又は酸素雰囲気中で徐冷することも可能である。
【0031】
また、チタニアドープ石英ガラス中に内包物を含ませないために、原料ガスを噴射するバーナーノズルの線速を50m/sec以上にすることが有効である。特に原料に四塩化チタンを使用した場合、反応性が高いために線速50m/sec未満の場合にはバーナーノズルの先端にチタニアが堆積しやすくなり、堆積したチタニアが飛散すると内包物の一因となりやすい。
【0032】
チタニアドープ石英ガラス中の塩素濃度を抑える面から、原料には塩素を含まない化合物を使用することが有効である。しかし、原料コスト、物性等の理由から塩素を含む原料を使用する場合には、塩素の含有量の少ない化合物を使用することが可能である。特にSiO2原料はTiO2原料に比べて、モル比での使用量が多いことからチタニアドープ石英ガラス中の塩素濃度を抑える上で、塩素の少ない化合物の使用が有効である。また、塩素を含む化合物を原料として使用する場合には、作製法にプラズマトーチ法を採用することは避けることが好ましい。当該法では火炎加水分解法、スート法に比べて塩素含有量が多くなるからである。
【0033】
OH基濃度の少ないチタニアドープ石英ガラスを製造するためには、スート法又はプラズマトーチ法を採用することが有効である。火炎加水分解法によりチタニアドープ石英ガラスを製造する場合には、原料フィード量1mol/hrあたり、2500kcal/hr以下の熱量に抑えることが好ましい(但し、化合物1分子中にそれぞれシリコン、チタン原子を1個含む原料を使用した場合である)。これ以上の熱量でチタニアドープ石英ガラスを製造すると多量のOH基濃度を含有してしまうからである。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
水素ガス35m3/hr、酸素ガス13m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としてのトリクロロメチルシラン及び四塩化チタンを加熱して、それぞれトリクロロメチルシラン1000g/hr、四塩化チタン100g/hrの速度で気化させて、混合した後に石英製バーナーに供給した。酸水素炎によるトリクロロメチルシラン、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、直径150mmのチタニアドープ石英ガラスを製造した。この時、原料を噴射するバーナーノズルの線速は79m/sec、1時間当たりの熱量は12940kcal/molであった。
【0036】
得られたチタニアドープ石英ガラスを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型し、厚さ1000mmのインゴットAを得た。
【0037】
次に、インゴットAより厚さ12mm板状のチタニアドープ石英ガラス2枚を切り出し、酸化セリウムとコロイダルシリカを研磨材として研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmの研磨基板を得た。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。インゴットAの屈折率分布及び複屈折量の最大値を表2に示す。研磨面を原子間力顕微鏡にて観察した結果、酸化セリウムとコロイダルシリカにより研磨した面はRaが0.2nm以下の面粗さを有していた。
【0038】
また、当該研磨基板2枚について、図1に示した25点において、反射損失を含む分光透過率を測定した。当該の厚さ10mmの研磨基板2枚を研削研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ3mmの研磨基板を得た。研磨基板の研磨面は厚さ10mmの場合と同等の面粗さを有していた。図1に示した25点において、それぞれの基板の反射損失を含む分光透過率を測定した。計50点の測定結果から算出した、内部透過率の最大値、最小値及び最大値と最小値の差からなる内部透過率の分布を表1に示す。また、厚さ3mmに研削研磨した152.4mm×152.4mm角の基板の図1に示した25点におけるOH基濃度、チタニア濃度を測定した。計50点におけるOH基濃度、チタニア濃度の最大値と最小値も表2に示す。更に、当該50点における塩素濃度を表2に示す。
【0039】
[実施例2]
水素ガス32m3/hr、酸素ガス16m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としてのトリクロロメチルシラン及び四塩化チタンを加熱して、それぞれトリクロロメチルシラン1000g/hr、四塩化チタン100g/hrの速度で気化させて、混合した後に石英製バーナーに供給した。酸水素炎によるトリクロロメチルシラン、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、直径150mmのチタニアドープ石英ガラスを製造した。この時、原料を噴射するバーナーノズルの線速は82m/sec、1時間当たりの熱量は11850kcal/molであった。
【0040】
得られたチタニアドープ石英ガラスを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型し、厚さ1000mmのインゴットBを得た。
【0041】
次に、インゴットBより厚さ12mm板状のチタニアドープ石英ガラス2枚を切り出し、大気中で1200℃、20時間保持した後、1000℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。次いで、1000℃で50時間保持した後、800℃まで50℃/hrの速度で徐冷した。酸化セリウムとコロイダルシリカを研磨材として研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmの研磨基板を得た。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。インゴットBの屈折率分布及び複屈折量の最大値を表2に示す。研磨面を原子間力顕微鏡にて観察した結果、酸化セリウムとコロイダルシリカにより研磨した面はRaが0.2nm以下の面粗さを有していた。
【0042】
また、当該研磨基板2枚について、図1に示した25点において、反射損失を含む分光透過率を測定した。当該の厚さ10mmの研磨基板2枚を研削研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ3mmの研磨基板を得た。研磨基板の研磨面は厚さ10mmの場合と同等の面粗さを有していた。図1に示した25点において、それぞれの基板の反射損失を含む分光透過率を測定した。計50点の測定結果から算出した、内部透過率の最大値、最小値及び最大値と最小値の差からなる内部透過率の分布を表1に示す。また、厚さ3mmに研削研磨した152.4mm×152.4mm角の基板の図1に示した25点におけるOH基濃度、チタニア濃度を測定した。計50点におけるOH基濃度、チタニア濃度の最大値と最小値も表2に示す。更に、当該50点における塩素濃度を表2に示す。
【0043】
実施例1及び2に従って作製されたチタニアドープ石英ガラスは、波長365nmにおける内部透過率分布が小さく、ナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスとして好適なものが得られた。特に実施例2によって作製されたチタニアドープ石英ガラスは波長365nmにおける内部透過率の最大値、最小値とも99%であり、高い内部透過率を有していた。
【0044】
[比較例1]
水素ガス36m3/hr、酸素ガス13m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としてのトリクロロメチルシラン及び四塩化チタンを加熱して、それぞれトリクロロメチルシラン1000g/hr、四塩化チタン100g/hrの速度で気化させて、石英製バーナーの別々のノズルに供給し、酸水素炎によるトリクロロメチルシラン、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、直径150mmのチタニアドープ石英ガラスを製造した。この時、原料を噴射するバーナーノズルの線速は80m/sec、1時間当たりの熱量は13310kcal/molであった。
【0045】
得られたチタニアドープ石英ガラスを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型し、厚さ1000mmのインゴットCを得た。
【0046】
次に、インゴットCより厚さ12mm板状のチタニアドープ石英ガラス2枚を切り出し、酸化セリウムとコロイダルシリカを研磨材として研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmの研磨基板を得た。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。インゴットCの屈折率分布及び複屈折量の最大値を表2に示す。研磨面を原子間力顕微鏡にて観察した結果、酸化セリウムとコロイダルシリカにより研磨した面はRaが0.2nm以下の面粗さを有していた。
【0047】
また、当該研磨基板2枚の図1に示した25点において、反射損失を含む分光透過率を測定した。当該の厚さ10mmの研磨基板2枚を研削研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ3mmの研磨基板を得た。研磨基板の研磨面は厚さ10mmの場合と同等の面粗さを有していた。図1に示した25点においてそれぞれの基板の反射損失を含む分光透過率を測定した。計50点の測定結果から算出した、内部透過率の最大値、最小値及び最大値と最小値の差からなる内部透過率の分布を表1に示す。また、厚さ3mmに研削研磨した152.4mm×152.4mm角の基板の図1に示した25点におけるOH基濃度、チタニア濃度を測定した。計50点におけるOH基濃度、チタニア濃度の最大値と最小値も表2に示す。更に当該50点における塩素濃度を表2に示す。
【0048】
[比較例2]
水素ガス33m3/hr、酸素ガス14m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としてのトリクロロメチルシラン及び四塩化チタンを加熱してそれぞれトリクロロメチルシラン1000g/hr、四塩化チタン100g/hrの速度で気化させて、石英製バーナーの別々のノズルに供給し、酸水素炎によるトリクロロメチルシラン、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで直径150mmのチタニアドープ石英ガラスを製造した。この時、原料を噴射するバーナーノズルの線速は78m/sec、1時間当たりの熱量は12220kcal/molであった。
【0049】
得られたチタニアドープ石英ガラスを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型し、厚さ1000mmのインゴットDを得た。
【0050】
次に、インゴットDの両端より厚さ12mm板状のチタニアドープ石英ガラス2枚を切り出し、大気中で1000℃、5時間保持した。酸化セリウムとコロイダルシリカを研磨材として研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmの研磨基板を得た。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。インゴットDの屈折率分布及び複屈折量の最大値を表2に示す。研磨面を原子間力顕微鏡にて観察した結果、酸化セリウムとコロイダルシリカにより研磨した面はRaが0.2nm以下の面粗さを有していた。
【0051】
また、当該研磨基板2枚の図1に示した25点において反射損失を含む分光透過率を測定した。当該の厚さ10mmの研磨基板2枚を研削研磨し、152.4mm×152.4mm角、厚さ3mmの研磨基板を得た。研磨基板の研磨面は厚さ10mmの場合と同等の面粗さを有していた。図1に示した25点においてそれぞれの基板の反射損失を含む分光透過率を測定した。計50点の測定結果から算出した、内部透過率の最大値、最小値及び最大値と最小値の差からなる内部透過率の分布を表1に示す。また、厚さ3mmに研削研磨した152.4mm×152.4mm角の基板の図1に示した25点におけるOH基濃度、チタニア濃度を測定した。計50点におけるOH基濃度、チタニア濃度の最大値と最小値も表2に示す。更に当該50点における塩素濃度を表2に示す。
【0052】
比較例1、2に従って作製したチタニアドープ石英ガラスは、ともに波長365nmにおける内部透過率分布が大きくなった。特に比較例1に従って作製したチタニアドープ石英ガラスは、波長365nmにおける内部透過率の最小値が低く、劣った。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1,2及び比較例1,2で得られたインゴットのサンプルを示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長365nmの紫外線に対する内部透過率分布が10%以下であることを特徴とするナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項2】
波長365nmの紫外線に対する内部透過率が70%以上である請求項1記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項3】
チタニアを5〜10質量%含有する請求項1又は2記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項4】
チタニアの濃度分布が3質量%以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項5】
内包物を含まないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項6】
塩素濃度が500ppm以下である請求項1乃至5のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項7】
OH基濃度が1000ppm以下である請求項1乃至6のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項8】
屈折率分布が5×10-4以下である請求項1乃至7のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項9】
複屈折量が30nm/cm以下である請求項1乃至8のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−13048(P2009−13048A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137507(P2008−137507)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】