説明

ナノインプリント用のモールドおよびその製造方法並びにナノインプリント方法

【課題】ナノインプリントにおいて、モールドの耐久性を向上させる。
【解決手段】微細な凹凸パターン13を表面に有するモールド本体12と、この表面に形成された離型層14とを備えたナノインプリント用のモールド1において、離型層14が、主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤20と、主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤22とを含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸パターンを表面に有するモールドおよびその製造方法に関し、特に凹凸パターンの表面に離型層を有するモールドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、及びビットパターンドメディア(BPM)等の磁気記録媒体の製造等において、被加工物上に塗布されたレジストにナノインプリントを行うパターン転写技術の利用が期待されている。
【0003】
具体的には、ナノインプリントは、凹凸パターンを形成した型(一般的にモールド、スタンパ、テンプレートとも呼ばれる)を被加工物上に塗布されたレジストに押し付け(インプリント)、レジストを力学的に変形または流動させて微細なパターンを精密に転写する技術である。モールドを一度作製すれば、ナノレベルの微細構造を簡単に繰り返して成型できるため経済的であるとともに、有害な廃棄物および排出物が少ない転写技術であるため、近年、さまざまな分野へも応用が期待されている。
【0004】
ナノインプリントでは、モールドをレジストから離型する際にモールド表面にレジストが残存しないように、通常、モールド本体(凹凸パターンを有する基板)の表面に離型剤を結合(物理的結合および化学的結合を含む)させて離型層を形成する離型処理が施されている(特許文献1および2)。例えば、特許文献1には、パーフルオロポリエーテル鎖の末端にモールド本体と化学的に反応する官能基を有する離型剤を用いて、モールド本体の凹凸パターンを表面処理することが開示されている。また、特許文献2には、フルオロアルキル鎖の末端にモールド本体と化学的に反応する官能基を有する離型剤を用いて、気相法によりモールド本体の凹凸パターンを表面処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−326367号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0012079号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2の方法のように、1種類の離型剤のみで離型層を構成した場合には、連続してインプリントを繰り返した際に、離型層が劣化し、剥離性が低下するという問題がある。
【0007】
具体的には、パーフルオロポリエーテル鎖のように比較的長い主鎖を有する離型剤のみで離型層を構成した場合には、被覆率が高いとモールド本体の凹凸パターンの形状が損なわれるため、離型剤そのものの離型性能は高いが離型剤による凹凸パターン表面の被覆率を低くせざるを得ない。その結果、離型剤の隙間にレジストが入り込み、レジストからモールドを離型する際に離型剤がはがれやすくなってしまう。
【0008】
一方、フルオロアルキル鎖のように比較的短い主鎖を有する離型剤のみで離型層を構成した場合には、離型剤そのものの離型性能が低いため、レジストからモールドを離型する際に離型剤がはがれやすい。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ナノインプリントにおいて、高い耐久性を有するモールドおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
さらに本発明は、ナノインプリントにおいて、生産性の高いナノインプリント方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るモールドは、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールド本体と、この表面に形成された離型層とを備えたナノインプリント用のモールドにおいて、
離型層が、主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と、主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを含むものであることを特徴とするものである。
【0012】
そして、本発明に係るモールドにおいて、離型層を構成する離型剤の全分子数に対する短鎖離型剤の分子数の割合は、50%以上95%以下であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明に係るモールドにおいて、長鎖離型剤の少なくとも一部は、パーフルオロポリエーテル鎖を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るモールドにおいて、短鎖離型剤の少なくとも一部は、フルオロアルキル鎖を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るモールドにおいて、離型層を構成する離型剤の少なくとも一部は、Si原子を含む加水分解基、水酸基またはカルボキシル基を有することが好ましい。この場合において、離型層を構成する離型剤の全てが、Si原子を含む加水分解基を有することが好ましい。
【0016】
本発明に係るモールドの製造方法は、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールド本体と、この表面に形成された離型層とを備えたナノインプリント用のモールドの製造方法において、
主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを用いて、前記凹凸パターンを表面処理することを特徴とするものである。
【0017】
そして、本発明に係るモールドの製造方法において、凹凸パターンの表面処理は、離型層を構成する離型剤の全分子数に対する短鎖離型剤の分子数の割合が50%以上95%以下となるように行われるものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係るモールドの製造方法において、凹凸パターンの表面処理は、短鎖離型剤を含有する第1の処理剤による第1の表面処理を行った後に、長鎖離型剤を含有する第2の処理剤による第2の表面処理を行うものであることが好ましい。この場合において、第1の表面処理を行った後第2の表面処理を行う前に、凹凸パターンの表面をリンスすることが好ましい。
【0019】
或いは、本発明に係るモールドの製造方法において、凹凸パターンの表面処理は、短鎖離型剤および長鎖離型剤を含有する処理剤による表面処理であることが好ましい。
【0020】
本発明のナノインプリント方法は、
上記に記載のモールドを用いて、
ナノインプリント用基板上にレジストを塗布し、
モールドをナノインプリント用基板のレジストが塗布された面に押し付け、
モールドをナノインプリント用基板から剥離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るモールドは、離型層が、主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と、主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを含むものであることを特徴とするものである。このような構成により、長鎖離型剤の被覆率が低くても長鎖離型剤同士の隙間が短鎖離型剤で被覆されているから、長鎖離型剤同士の隙間にレジストが入り込むことを抑制することができる。この結果、ナノインプリントにおいて、モールドの耐久性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、本発明に係るモールドの製造方法は、主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを用いて、前記凹凸パターンを表面処理することを特徴とするものである。このような構成により、長鎖離型剤の被覆率が低くても長鎖離型剤同士の隙間を短鎖離型剤で被覆することができる。この結果、ナノインプリントにおいて、モールドの耐久性を向上させることが可能となる。
【0023】
また、本発明に係るナノインプリント方法は、耐久性の向上した本発明のモールドを使用することにより、連続してインプリントを繰り返す際に、再度の離型処理を行う回数やモールドを交換する回数が減少することとなる。この結果、ナノインプリントにおいて、生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態のモールドの構成を示す概略断面図である。
【図2】実施形態のモールドの凹凸パターンを示す概略断面図である。
【図3】実施形態のモールドの離型層を示す概略断面図である。
【図4】長鎖離型剤の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0026】
「モールドおよびその製造方法の実施形態」
図1は、実施形態のモールドの構成を示す概略断面図である。また、図2は、実施形態のモールドの凹凸パターンを示す概略断面図である。図3は、図2におけるAの領域の離型層を示す概略断面図である。
【0027】
本実施形態のモールド1は、微細な凹凸パターン13を表面に有するモールド本体12と、この凹凸パターン13の表面に形成された離型層14とを備える。
【0028】
(モールド本体)
モールド本体12の材料は、例えばシリコン、ニッケル、アルミニウム、クロム、鉄、タンタルおよびタングステン等の金属材料、並びにそれらの酸化物、窒化物および炭化物とすることができる。具体的には、モールド本体12の材料としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスおよびソーダガラス等を挙げることができる。或いは、モールド本体12の材料は樹脂でもよい。
【0029】
凹凸パターン13の形状は、特に限定されず、ナノインプリントの用途に応じて適宜選択される。例えば典型的なパターンとして図1から図2に示されるようなライン&スペースパターンである。そして、ライン&スペースパターンの凸部の長さ、凸部の幅W1、凸部同士の間隔W2および凹部底面からの凸部の高さ(凹部の深さ)Hは適宜設定される。例えば、凸部の幅W1は10〜100nm、より好ましくは20〜70nmであり、凸部同士の間隔W2は10〜500nm、より好ましくは20〜100nmであり、凸部の高さHは10〜500nm、より好ましくは30〜100nmである。また、凹凸パターン13を構成する凸部の形状は、その他、矩形、円および楕円等の断面を有するドットが配列したような形状でもよい。
【0030】
上記のようなモールド本体12は、例えば以下の手順により製造することができる。まず、Si基材上に、スピンコートなどでPHS(polyhydroxy styrene)系の化学増幅型レジスト、ノボラック系レジスト、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等のアクリル樹脂などを主成分とするレジスト液を塗布し、レジスト層を形成する。その後、Si基材にレーザー光(又は電子ビーム)を所望の凹凸パターンに対応して変調しながら照射し、レジスト層表面にラインパターンを露光する。その後、レジスト層を現像処理し、除去後のレジスト層のパターンをマスクにしてRIE(反応性イオンエッチング)などにより選択エッチングを行い、所定の凹凸パターンを有するSiからなるモールド本体を得る。
【0031】
一方、モールド本体12はこれに限られず、石英からなるモールド本体を用いることも可能である。この場合、石英からなるモールド本体は、上記のSiからなるモールド本体の製造法と同様の方法や、後述するナノインプリント方法によって形成したレジストパターンをマスクとして基板をエッチング加工する方法等により製造することができる。
【0032】
モールド本体12表面における離型剤の被覆率(モールド本体12表面を離型剤が占有する割合)を上昇させ、また、離型処理時間を短縮するには、モールド本体12表面の吸着水を増やすことが効果的である。モールド本体12表面の吸着水を増やすには、モールド本体12表面を親水性に改質する方法や、雰囲気中の相対湿度を上昇させる方法がある。モールド本体12表面を親水性に改質する方法として、薬液を用いた湿式洗浄法、プラズマやUVオゾンによる乾式洗浄法、または湿式と乾式の組み合わせ、などが挙げられる。本発明では、モールド本体12をインプリント装置内で待機させて簡便に離型処理を実施するため、大掛かりな設備を必要としないUVオゾンによる乾式洗浄法が好ましい。UVオゾン洗浄方式では、185nm付近にピーク波長を持つ例えば低圧水銀灯からの光がモールド本体12表面に照射されることにより、モールド本体12表面近傍の雰囲気中に含まれる酸素が活性化し、モールド本体12表面の有機物が酸化されて除去される。相対湿度は好ましくは20%から70%、さらに好ましくは30%から50%の範囲で制御する。
【0033】
(離型層)
モールド1の表面には、モールド1とレジストとの離型性を向上させるために、離型層14が備えられている。離型層14は、図3に示されるように、主鎖を構成する原子数(炭素原子および酸素原子の数)が20未満である短鎖離型剤20と、主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤22とからなる2種以上の離型剤から構成される。つまり、短鎖離型剤20として少なくとも1種の離型剤が含まれていればよく、また、長鎖離型剤22として少なくとも1種の離型剤が含まれていればよい。
【0034】
「主鎖」とは、末端の官能基(加水分解性基を含める)を除外した炭素原子および酸素原子からなる鎖のうち、分子中で最も長い鎖を意味する。例えば図4に示される長鎖離型剤22の場合には、主鎖は、末端の官能基23、24および25を除外した炭素原子および酸素原子からなる鎖のうち、その離型剤分子の中で最も長い鎖26である。
【0035】
ここで、短鎖離型剤20の主鎖の鎖長を「原子数で20未満」と規定した理由は、主鎖の鎖長が原子数で20以上の長鎖離型剤をモールド本体12表面上に高密度で被覆した場合には、離型層14の平均膜厚が厚くなってしまうためである。このような場合、モールド1の凹凸パターン13の形状情報が損なわれてしまい、ナノインプリントにおけるパターンの転写精度が低下してしまう。一方、長鎖離型剤をモールド本体12表面上に低密度で被覆した場合には、平均膜厚を薄くすることは可能であるが、長鎖離型剤相互間の水平力が減少して離型層の強度が弱くなってしまうためである。
【0036】
本発明では、短鎖離型剤20および長鎖離型剤22のうち一方のデメリットを他方のメリットで補完することにより、離型層の耐久性を向上させている。
【0037】
具体的には以下の通りである。短鎖離型剤20のメリットは、高密度にモールド本体12表面を被覆しても凹凸パターン13の形状情報を損ねないこと、立体障害がないため短鎖離型剤20同士の相互作用が強く離型層としての強度が高いこと、短鎖離型剤20同士が密に配列するためレジストがモールド本体12に接触しにくいことであり、デメリットは、潤滑性がなく大きな離型力が必要とされる(つまり、離型性が低い)ことである。一方、長鎖離型剤22のメリットは、潤滑性により小さな離型力で充分であることであり、デメリットは、高密度にモールド本体12表面を被覆すると凹凸パターン13の形状情報が損なわれること、自身の立体障害に起因して長鎖離型剤22同士の相互作用が弱く離型層としての強度が低いこと、長鎖離型剤22同士が密に配列することができないためレジストがモールド本体12に接触しやすいことである。したがって、本発明では、離型性の高い長鎖離型剤22の隙間を短鎖離型剤20によって補間することにより、レジストのモールド本体12への接触を抑制することができ、離型性を低下させることなく離型層14の耐久性を向上させることが可能となる。さらに、本発明では、離型層14全体の平均膜厚の増加も抑制することができるため、モールド本体12の凹凸パターン13の形状情報を損なうことも防止することができる。
【0038】
離型層14を構成する離型剤の全分子数に対する短鎖離型剤20の分子数の割合(短鎖離型剤20の混合率)は、50%以上95%以下であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。上記範囲内では特に、短鎖離型剤20および長鎖離型剤22それぞれのメリットおよびデメリットが最適に補完し合うことにより、離型性および耐久性の高い離型層14を実現できることが、本発明者らにより見出された(後述する実施例を参照)。
【0039】
離型層14を構成する離型剤の少なくとも一部は、Si原子を含む加水分解基、水酸基またはカルボキシル基を有することが好ましい。これらの基を有する離型剤は、自己組織的に膜を形成するため、簡便に離型層14を形成することができる。また、離型層14を構成する離型剤の全てが、Si原子を含む加水分解基を有することが好ましい。この場合には、隣接する加水分解基同士が結合するため、より離型層14の耐久性を向上させることができる。
【0040】
なお、離型剤全体としてのモールド本体12表面の被覆率は、高ければ高い程好ましいことは言うまでもない。
【0041】
(短鎖離型剤)
短鎖離型剤20は、主鎖を構成する原子数が20未満である離型剤である。
【0042】
短鎖離型剤20としては、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロクチル)トリメトキシシラン(SIN8176.0:Gelest株式会社製)、パーフルオロオクチルエタノール(エフテック株式会社製)、カプリン酸などを使用することができる。
【0043】
この他にも、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、フッ素系シランカップリング剤などが使用できる。
【0044】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。
【0045】
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CFCFCFO)、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF)CFO)またはこれらの共重合体等である。
【0046】
フッ素系シランカップリング剤としては、分子中に少なくとも1個のアルコキシシラン基、クロロシラン基を有するものである。アルコキシシラン基の例としては、−Si(OCH基、−Si(OCHCH基が挙げられる。クロロシラン基としては、−Si(Cl)基などが挙げられる。
【0047】
短鎖離型剤20としては、具体的には、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ-ハイドロデシルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルジメチルクロロシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ-ハイドロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ-ハイドロオクチルトリメトキシシランなどの化合物である。
【0048】
(長鎖離型剤)
長鎖離型剤22は、主鎖を構成する原子数が20以上である離型剤である。
【0049】
長鎖離型剤22としては、オプツール(登録商標)DSX(ダイキン工業株式会社製)、Novec(登録商標)EGC-1720(住友スリーエム株式会社製)、フォンブリン(登録商標)Z−Dol(ソルベイソレクシス株式会社製)、クライトックス(登録商標)157FSL(デュポン株式会社製)などを使用することができる。
【0050】
この他にも、公知のフッ素系樹脂、フッ素系潤滑剤、フッ素系シランカップリング剤などが使用できる。
【0051】
フッ素系樹脂としては、PTFA(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)などが挙げられる。
【0052】
フッ素系潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル鎖を有する潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CFCFCFO)、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF)CFO)またはこれらの共重合体等である。
【0053】
フッ素系シランカップリング剤としては、分子中に少なくとも1個、好ましくは1〜10個のアルコキシシラン基、クロロシラン基を有するものである。アルコキシシラン基の例としては、−Si(OCH基、−Si(OCHCH基が挙げられる。クロロシラン基としては、−Si(Cl)基などが挙げられる。
【0054】
(離型層の形成方法)
離型層14の形成は、短鎖離型剤20と長鎖離型剤22とを用いて、モールド本体12の凹凸パターン13を表面処理することにより行われる。そして、凹凸パターン13の表面処理は、短鎖離型剤20の混合率が50%以上95%以下となるように行われるものであることが好ましい。
【0055】
凹凸パターンの表面処理は、前処理工程、離型剤の塗布工程および後処理工程の3つ大きく分けることができる。
【0056】
(前処理工程)
前処理工程は、例えば、表面処理を行うモールド本体12の洗浄等を行う工程である。洗浄の方法は、特に制限はないが、例えばUVオゾンクリーニング、プラズマ処理などのドライ処理や、有機溶剤(アセトン、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)中での超音波洗浄、硫酸等の酸および/または過酸化水素等の過酸化物の溶液中での煮沸洗浄などのウェット処理などが挙げられる。これらの洗浄は単独で行ってもよいし、組み合わせて行なってもよい。
【0057】
(離型剤の塗布工程)
離型剤の塗布工程では、実際に離型剤が塗布される。離型剤の塗布方法としては、ディップコート法、真空蒸着法、スピンコート法などの方法を用いることができる。
【0058】
凹凸パターンの表面処理は、短鎖離型剤20を含有する第1の処理剤を用いた第1の表面処理および長鎖離型剤22を含有する第2の処理剤を用いた第2の表面処理として、表面処理の工程を分けて実施してもよいし、短鎖離型剤20および長鎖離型剤22を含有する第3の処理剤を用いた表面処理によって1回の工程で実施してもよい。
【0059】
表面処理の工程を分けて実施する方法としては、例えば、短鎖離型剤20を真空蒸着法にてモールド本体12に結合させ、その後、長鎖離型剤22をディップコート法にてモールド本体12に結合させるなどの方法がある。なお、第1の表面処理を行った後第2の表面処理を行う前に、モールド本体12の凹凸パターン13の表面をリンスすることが好ましい。これにより、余剰分の短鎖離型剤20によって長鎖離型剤22の結合が阻害されるのを防止することができる。
【0060】
上記のように表面処理の工程を分けて実施する場合、短鎖離型剤20の混合率は、例えば、離型剤を1種類塗布する毎にエリプソメーターで膜厚を測定し、それらの被覆率の割合から算出することができる。具体的には、最初に塗布された離型剤Aの分子全体の鎖長をl(Å)、離型剤Aが結合した状態の膜厚をd(Å)とし、次に塗布された離型剤Bの分子全体の鎖長をl(Å)、離型剤AおよびBが結合した状態の膜厚をdA+B(Å)とすると、各離型剤の被覆率C及びCは下記式1のように算出される。
【0061】
式1:
(%)=d/l×100、C(%)=(dA+B−d)/l×100
【0062】
そして、各離型剤の被覆率を用いて、短鎖離型剤20の混合率Rは下記式2のようにして算出される。
【0063】
式2:
R(%)=C/(C+C)×100
【0064】
なお、上記混合率Rは、表面処理の工程が3種類以上の離型剤についてそれぞれ別々に表面処理を行う場合にも同様にして求められる。つまり、上記割合Rの分母に各離型剤の被覆率の総和を、分子には短鎖離型剤20の被覆率の総和をあてはめればよい。
【0065】
その他、短鎖離型剤20の混合率は、例えば、各離型剤に特徴的な原子の比率をESCA(X線光電子分光分析装置)などの表面解析手法を用いて算出することもできる。
【0066】
また、表面処理の工程を1回の工程で実施する方法としては、例えば、全ての離型剤が同一の溶剤に溶解可能な場合には、短鎖離型剤20と長鎖離型剤22の混合溶液を作成し、全ての離型剤をディップコート法もしくはスピンコート法にて同時に処理するなどの方法がある。
【0067】
上記のように表面処理の工程を1回の工程で実施する場合、短鎖離型剤20の混合率は、前述したように例えば、ESCAなどの表面解析手法を用いて算出することができる。
【0068】
複数の離型剤を同時に処理する場合には、同一種類の離型剤がアイランド状に吸着してしまい処理が不均一になる場合や、一部の離型剤の吸着が進行しづらい場合があるので注意が必要である。このような観点から、凹凸パターン13の表面処理は、上記第1の表面処理および上記第2の表面処理のように表面処理の工程を分けて実施することが好ましい。このように、離型剤を1種類ずつ処理することにより均一な表面処理が可能である。そして、この場合、短鎖離型剤20から先にモールド本体12に結合させることが好ましい。これにより、長鎖離型剤22による短鎖離型剤20のモールド本体12への結合阻害を回避することができ、より均一な表面処理が可能となる。
【0069】
(後処理工程)
後処理工程では、例えば、余剰分の離型剤を溶剤でリンスする等の工程が実施される。余剰分の離型剤が残存していると、モールド本体12表面の凹凸パターン13の形状情報が損なわれる可能性があるためである。溶剤でのリンス方法は、特に制限はないが、例えば溶剤中にモールドを浸漬させ一定時間後に引上げるディップ方式などがある。また、必要に応じて、離型剤のモールド本体12への結合を促進するため、ベイク処理を行なってもよい。
【0070】
以上のように、本発明に係るモールドによれば、長鎖離型剤22の被覆率が低くても長鎖離型剤22同士の隙間が短鎖離型剤で被覆されているから、長鎖離型剤22同士の隙間にレジストが入り込むことを抑制することができる。この結果、ナノインプリントにおいて、モールドの耐久性を向上させることが可能となる。
【0071】
また、本発明に係るモールドの製造方法によれば、長鎖離型剤の被覆率が低くても長鎖離型剤同士の隙間を短鎖離型剤で被覆することができる。この結果、ナノインプリントにおいて、モールドの耐久性を向上させることが可能となる。
【0072】
「ナノインプリント方法の実施形態」
以下、本発明のモールドを用いたナノインプリント方法の実施形態について説明する。
【0073】
本実施形態のナノインプリント方法は、例えば図1に示されるようなモールド1を用いて、石英からなるナノインプリント用基板上に光硬化性のレジストを塗布し、モールド1をナノインプリント用基板のレジストが塗布された面に押し付け、ナノインプリント用基板の裏面から紫外光を照射してレジストを硬化させ、モールド1をレジストから剥離することを特徴とするものである。
【0074】
(ナノインプリント用基板)
ナノインプリント用基板は、レジストを塗布するための基板である。例えば、ナノインプリント用基板は、その後の工程においてエッチング等による加工の対象となる。
【0075】
ナノインプリント用基板は、モールド1が光透過性を有する場合、その形状、構造、大きさ、材料等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。「光透過性を有する」とは、具体的には、基板上に塗布されたレジストに基板を通して光を入射した場合に、レジストが十分に硬化することを意味する。ナノインプリント用基板のパターン転写の対象となる面がレジストを塗布する面となる。例えばナノインプリント用基板が情報記録媒体の製造向けのものである場合には、ナノインプリント用基板の形状は通常円板状である。構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。材料としては、基板材料として公知のものの中から、適宜選択することができ、例えば、シリコン、ニッケル、アルミニウム、ガラス、樹脂、などが挙げられる。これらの基板材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ナノインプリント用基板の厚さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。ナノインプリント用基板の厚さが0.05mm未満であると、ナノインプリント用基板とモールド1との接着時に基板側に撓みが発生し、均一な接着状態を確保できない可能性がある。
【0076】
モールド1が光透過性を有しない場合は、レジストの露光を可能とするために、ナノインプリント用基板として石英基板を用いることが好ましい。石英基板は、光透過性を有し、厚さが0.3mm以上であれば、特に制限されることなく、目的に応じて適宜選択される。本実施形態において石英基板の光透過性については、例えば波長200nm以上の光の透過率が少なくとも5%であればよい。石英基板は例えばシランカップリング剤で被覆したものを用いてもよい。また石英基板はその表面上にCr、W、Ti、Ni、Ag、Pt、Auなどからなる金属層および/またはCrO、WO、TiOなどからなる金属酸化膜層を積層したものを用いてもよい。金属層または金属酸化膜層の厚さは、通常30nm以下、好ましくは20nm以下、にする。30nmを超えるとUV透過性が低下し、レジストの硬化不良が起こりやすくなるためである。また石英基板は上記積層体の表面をシランカップリング剤で被覆したものを用いてもよい。石英基板の厚さは、通常0.3mm以上が好ましい。0.3mm以下では、ハンドリングやインプリント中の押圧で破損しやすい。
【0077】
(レジスト)
レジストは、特に制限されるものではないが、本実施形態では例えば重合性化合物に、光重合開始剤(2質量%程度)、フッ素モノマー(0.1〜1質量%)を加えて調製されたレジストを用いることができる。
【0078】
また、必要に応じて酸化防止剤(1質量%程度)を添加することもできる。上記の手順により作成したレジストは波長360nmの紫外光により硬化することができる。溶解性の悪いものについては少量のアセトンまたは酢酸エチルを加えて溶解させた後、溶媒を留去することが好ましい。
【0079】
上記重合性化合物としては、ベンジルアクリレート(ビスコート(登録商標)#160:大阪有機化学株式会社製)、エチルカルビトールアクリレート(ビスコート(登録商標)#190:大阪有機化学株式会社製)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(アロニックス(登録商標)M−220:東亞合成株式会社製)、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート(アロニックス(登録商標)M−310:東亞合成株式会社製)等の他、下記構造式1で表される化合物A等を挙げることができる。
【0080】
構造式1:
【化1】

【0081】
また、上記重合開始剤としては、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(IRGACURE 379:豊通ケミプラス株式会社製)等のアルキルフェノン系光重合開始剤を挙げることができる。
【0082】
また、上記フッ素モノマーとしては、下記構造式2で表される化合物B等を挙げることができる。
【0083】
構造式2:
【化2】

【0084】
(レジストの塗布工程)
レジストの塗布方法としては、インクジェット法やディスペンス法など所定の量の液滴を基板またはモールド上の所定の位置に配置できる方法、または、スピンコート法やディップコート法など均一な膜厚でレジストを塗布できる方法を用いる。
【0085】
ナノインプリント用基板上にレジストの液滴を配置する際は、所望の液滴量に応じてインクジェットプリンターまたはディスペンサーを使い分けても良い。例えば、液滴量が100nl未満の場合はインクジェットプリンターを用い、100nl以上の場合はディスペンサーを用いるなどの方法がある。
【0086】
レジストをノズルから吐出するインクジェットヘッドには、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式などが挙げられる。これらの中でも、液適量(配置された液滴1つ当たりの量)や吐出速度の調整が可能なピエゾ方式が好ましい。ナノインプリント用基板上にレジストの液滴を配置する前には、あらかじめ液滴量や吐出速度を調整及び設定する。例えば、液適量は、モールドの凹凸パターンの空間体積が大きい領域に対応するナノインプリント用基板上の位置では多くしたり、モールドの凹凸パターンの空間体積が小さい領域に対応するナノインプリント用基板上の位置では少なくしたりして調整することが好ましい。このような調整は、液滴吐出量(吐出された液滴1つ当たりの量)に応じて適宜制御される。具体的には、液滴量を5plと設定する場合には、液滴吐出量が1plであるインクジェットヘッドを用いて同じ場所に5回吐出するように、液滴量を制御する。液滴量は、例えば事前に同条件で基板上に吐出した液滴の3次元形状を共焦点顕微鏡等により測定し、その形状から体積を計算することで求められる。
【0087】
上記のようにして液滴量を調整した後、所定の液滴配置パターンに従って、ナノインプリント用基板上に液滴を配置する。
【0088】
スピンコート法やディップコート法を用いる際は、所定の厚さになるようにレジストを溶媒で希釈し、スピンコート法の場合は回転数、ディップコート法の場合は引き上げ速度を制御することにより均一な塗布膜をナノインプリント用基板上に形成する。
【0089】
(インプリント工程)
モールドとレジストを接触する前に、モールドとナノインプリント用基板間の雰囲気を減圧または真空雰囲気にすることで残留気体を低減する。ただし、高真空雰囲気下では硬化前のレジストが揮発し、均一な膜厚を維持することが困難となる可能性がある。そこで、好ましくはモールドとナノインプリント用基板間の雰囲気を、He雰囲気または減圧He雰囲気にすることで残留気体を低減する。Heは石英基板を透過するため、取り込まれた残留気体(He)は徐々に減少する。Heの透過には時間を要すため減圧He雰囲気とすることがより好ましい。減圧雰囲気は、1〜90kPaであることが好ましく、1〜10kPaが特に好ましい。
【0090】
レジストが塗布されたナノインプリント用基板とモールドとは、所定の相対位置関係となるように互いに位置合わせされた後に接触させる。位置合わせにはアライメントマークを用いることが好ましい。アライメントマークは光学顕微鏡やモアレ干渉法等で検出可能な凹凸パターンで形成される。位置合わせ精度は好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは100nm以下である。
【0091】
モールドの押し付け圧は、100kPa以上、10MPa以下の範囲で行う。圧力が大きい方が、レジストの流動が促進され、また残留気体の圧縮、残留気体のレジストへの溶解、石英基板中のHeの透過も促進し、残留気体の除去率向上に繋がる。しかし、加圧力が強すぎるとモールド接触時に異物を噛みこんだ際にモールド及びナノインプリント用基板を破損する可能性がある。よって、モールドの押し付け圧は、100kPa以上10MPa以下が好ましく、より好ましくは100kPa以上5MPa以下、更に好ましくは100kPa以上1MPa以下となる。100kPa以上としたのは、大気中でインプリントを行う際、モールドとナノインプリント用基板間が液体で満たされている場合、モールドとナノインプリント用基板間が大気圧(約101kPa)で加圧されているためである。
【0092】
モールド1をナノインプリント用基板に押し付け、レジストを露光した後、モールド1をレジストから剥離する。剥離させる方法としては、例えばモールド1またはナノインプリント用基板のどちらかの外縁部を保持し、他方のナノインプリント用基板またはモールド1の裏面を吸引保持した状態で、外縁の保持部もしくは裏面の保持部を押圧と反対方向に相対移動させることで剥離させる方法が挙げられる。
【0093】
以上のインプリント方法をナノインプリント用基板とモールドの相対位置を移動させながら実施することにより、ナノインプリント用基板上の複数個所に連続してインプリントを実施することも可能である。
【0094】
以上により、本発明に係るナノインプリント方法によれば、耐久性の向上した本発明のモールドを使用することにより、連続してインプリントを繰り返す際に、再度の離型処理を行う回数やモールドを交換する回数が減少することとなる。この結果、ナノインプリントにおいて、生産性を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0095】
本発明に係るマスターモールドの製造方法の実施例を以下に示す。
【0096】
<実施例1>
(モールド本体の作製)
Si基材上に、スピンコートによりPHS(polyhydroxy styrene)系の化学増幅型レジストなどを主成分とするレジスト液を塗布し、レジスト層を形成した。その後、Si基材をXYステージ上で走査しながら、線幅30nm、ピッチ60nmのラインパターンに対応して変調した電子ビームを照射し、0.5mm角の範囲のレジスト層全面にラインパターンを露光した。その後、レジスト層を現像処理し、露光部分を除去して、除去後のレジスト層のパターンをマスクにしてRIEにより溝深さが60nmになるように選択エッチングを行い、直線状凹凸パターンを有しSiからなるモールド本体を得た。
【0097】
(離型剤)
短鎖離型剤として(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロクチル)トリメトキシシラン(SIN8176.0、Gelest社製、主鎖の原子数:8)、長鎖離型剤として末端にメトキシシランを有するオプツール(登録商標)DSX(ダイキン工業株式会社製、主鎖の原子数:約120)を用いた。
【0098】
(離型処理)
−前処理−
光表面処理装置(センエンジニアリング株式会社製、UB1101N−71、光源:低圧水銀ランプ、SUV110GS−36)を用いて、上記Siモールド本体に対しUVオゾンクリーニングを実施した。ランプ/モールド本体間の距離を約2cmとして5分間、UV照射を行い、モールド本体の表面を洗浄した。
【0099】
−離型剤の塗布1−
まず、短鎖離型剤をフッ素系溶剤バートレル(登録商標)(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)に濃度が2.0質量%となるように添加し溶解させて、第1の離型処理液を調製した。そして、ディップコーターを用いて、この第1の離型処理液に洗浄後のモールド本体を、浸漬速度5mm/secで第1の離型処理液に挿入し、その後、1分間浸漬させた後、約1mm/secの速度で引上げた(ディップコート)。
【0100】
−後処理1−
余剰分の離型剤を除去するため、ディップコーターを用いてフッ素系溶剤バートレル(登録商標)に短鎖離型剤で処理済みのモールド本体を、浸漬速度5mm/secで当該溶剤に挿入し、その後、1分間浸漬させた後、約1mm/secの速度で引上げた(ディップリンス)。
【0101】
−離型剤の塗布2−
次に、長鎖離型剤をフッ素系溶剤HD−ZV(ダイキン工業株式会社製)に濃度が0.1質量%となるように添加し溶解させて、第2の離型処理液を調製した。そして、ディップコーターを用いて、この第2の離型処理液にリンス後のモールド本体を、浸漬速度5mm/secで第2の離型処理液に挿入し、その後、1分間浸漬させた後、約1mm/secの速度で引上げた(ディップコート)。
【0102】
−後処理2−
余剰分の離型剤を除去するため、ディップコーターを用いてフッ素系溶剤HD−ZVに長鎖離型剤で処理済みのモールド本体を、浸漬速度5mm/secで当該溶剤に挿入し、その後、1分間浸漬させた後、約1mm/secの速度で引上げた(ディップリンス)。
【0103】
(ベイク処理)
最後に、モールド本体への離型剤の結合を促進するため、オーブン(エスペック株式会社製、Clean Oven PVC−210)を用いて、120℃、10分の条件で、離型処理後のモールド本体にベイク処理を実施した。
【0104】
以上の工程により、短鎖離型剤および長鎖離型剤を含む離型層を備えたモールドを得た。
【0105】
(ナノインプリント用基板)
ナノインプリント用基板としては、石英基板を使用した。石英基板の表面に、レジストとの密着性に優れるシランカップリング剤であるKBM−5103(信越化学工業株式会社製)により表面処理をした。KBM−5103をPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)で1質量%に希釈し、スピンコート法により基板表面に塗布した。続いて、基板をホットプレート上で150℃、5分の条件でアニールし、シランカップリング剤を基板表面に結合させた。
【0106】
(レジスト)
上記構造式1で表される化合物Aを48w%、アロニックス(登録商標)M220を48wt.%、IRGACURE(登録商標)379を3%、上記構造式2で表される化合物Bを1w%含有するレジストを調整した。
【0107】
(レジストの塗布工程)
ピエゾ方式のインクジェットプリンターであるFUJIFILM Dimatix社製DMP−2831を使用した。インクジェットヘッドには専用の10plヘッドであるDMC−11610を使用した。液滴量が10plとなるように、あらかじめ吐出条件を設定及び調整した。上記のようにして液滴量を調整した後、残膜厚が10nmになるように調整した所定の液滴配置パターンに従って、基板上に液滴を配置した。
【0108】
(インプリント)
モールドと石英基板をギャップが0.1mm以下になる位置まで近接させ、石英基板の背面から基板上のアライメントマークとモールド上のアライメントマークが一致するように位置合わせをした。モールドと石英基板間の空間を99体積%以上のHeガスで置換し、He置換後に20kPa以下まで減圧した。減圧He条件下でモールド上の異物をレジストからなる液滴に接触させた。接触後、1MPaの押付け圧で1分間加圧し、360nmの波長を含む紫外光により、照射量が300mJ/cmとなるように露光し、レジストを硬化させた。
【0109】
その後、基板およびモールドの外縁部を機械的に保持、もしくは裏面を吸引保持した状態で、基板またはモールドを押圧と反対方向に相対移動させることでモールドを剥離した。
【0110】
(評価方法)
離型層の耐久性、モールドの剥離性、離型層の被覆性および離型層の平均膜厚について評価した。各評価項目の詳細は以下の通りである。
【0111】
耐久性の評価においては、ナノインプリントを100回繰り返し、100回目の離型で得られた硬化レジスト膜を光学顕微鏡(倍率50倍〜1,500倍)の暗視野測定で検査することにより行った。観察された剥離故障の程度を下記基準により3段階で官能評価した。
【0112】
◎:剥離故障ない場合
○:100μm角以下の大きさの剥離故障が3箇所以下である場合
×:100μm角以下の大きさの剥離故障が4箇所以上である場合、或いは、100μm角以上の大きさの剥離故障がある場合
【0113】
剥離性の評価においては、ナノインプリントを10回繰り返し、1回目から10回目までの平均剥離力を算出した。
【0114】
被覆性の評価においては、離型処理後のモールド表面上の水、ジヨードメタンの接触角を10箇所で測定し、10箇所の平均接触角から表面エネルギーを算出した。
【0115】
平均膜厚の評価においては、離型層の厚さをエリプソメーターで平均膜厚を算出した。
【0116】
<比較例1>
実施例1の離型剤において、長鎖離型剤を使用せず、短鎖離型剤としての上記(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロクチル)トリメトキシシランのみを使用し、その濃度が2.0質量%となるように調製した点以外は、実施例1と同様である。
【0117】
<比較例2>
実施例1の離型剤において、短鎖離型剤を使用せず、長鎖離型剤としての上記オプツール(登録商標)DSXのみを使用し、その濃度が0.1質量%となるように調整した点以外は、実施例1と同様である。
【0118】
<比較例3>
実施例1の離型剤において、短鎖離型剤を使用せず、長鎖離型剤としての上記オプツール(登録商標)DSXのみを使用し、その濃度を1.0質量%となるように調製した点、および後処理のディップリンス工程を実施しなかった点以外は、実施例1と同様である。
【0119】
<実施例2〜19>
実施例1において、短鎖離型剤を含有する第1の離型処理液の濃度を変更して、短鎖離型剤の混合率Rを変更した点以外は、実施例1と同様である。
【0120】
<実施例20>
上記のフッ素系溶剤バートレル(登録商標)に、短鎖離型剤として、上記の(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロクチル)トリメトキシシランを濃度が2.0質量%となるように添加し、次に、長鎖離型剤として、上記のオプツール(登録商標)DSXを濃度が0.1質量%となるように添加して、第3の離型処理液を調製した。そして、ディップコーターを用いて、この第3の離型処理液に洗浄後のモールド本体を、浸漬速度5mm/secで第3の離型処理液に挿入し、その後、1分間浸漬させた後、約1mm/secの速度で引上げた。上記のように2種類の離型剤を同時にモールド本体に塗布した点以外は、実施例1と同様である。
【0121】
(評価結果)
表1は、上記の実施例および比較例の結果をまとめた表である。
【0122】
表1から、モールド本体12の凹凸パターン13の形状情報を損なうことなく、モールドの耐久性を向上させることができることがわかった。また、離型層の被覆性を向上させることが可能であることもわかった。さらに、離型層の平均膜厚の増大を抑制できることもわかった。
【0123】
【表1】

【符号の説明】
【0124】
1 モールド
12 モールド本体
13 凹凸パターン
14 離型層
20 短鎖離型剤
22 長鎖離型剤
23、24、25 末端の官能基
26 離型剤の主鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸パターンを表面に有するモールド本体と、該表面に形成された離型層とを備えたナノインプリント用のモールドにおいて、
前記離型層が、主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と、主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを含むものであることを特徴とするモールド。
【請求項2】
前記離型層を構成する離型剤の全分子数に対する前記短鎖離型剤の分子数の割合が50%以上95%以下であることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記離型層を構成する離型剤の全分子数に対する前記短鎖離型剤の分子数の割合が70%以上90%以下であることを特徴とする請求項2に記載のモールド。
【請求項4】
前記長鎖離型剤の少なくとも一部が、パーフルオロポリエーテル鎖を有することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のモールド。
【請求項5】
前記短鎖離型剤の少なくとも一部が、フルオロアルキル鎖を有することを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のモールド。
【請求項6】
前記離型層を構成する離型剤の少なくとも一部が、Si原子を含む加水分解基、水酸基またはカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のモールド。
【請求項7】
前記離型層を構成する離型剤の全てが、Si原子を含む加水分解基を有することを特徴とする請求項6に記載のモールド。
【請求項8】
微細な凹凸パターンを表面に有するモールド本体と、該表面に形成された離型層とを備えたナノインプリント用のモールドの製造方法において、
主鎖を構成する原子数が20未満である短鎖離型剤と主鎖を構成する原子数が20以上である長鎖離型剤とを用いて、前記凹凸パターンを表面処理することを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項9】
前記凹凸パターンの表面処理が、前記離型層を構成する離型剤の全分子数に対する前記短鎖離型剤の分子数の割合が50%以上95%以下となるように行われるものであることを特徴とする請求項8に記載のモールドの製造方法。
【請求項10】
前記凹凸パターンの表面処理が、前記短鎖離型剤を含有する第1の処理剤による第1の表面処理を行った後に、前記長鎖離型剤を含有する第2の処理剤による第2の表面処理を行うものであることを特徴とする請求項8または9に記載のモールドの製造方法。
【請求項11】
前記第1の表面処理を行った後前記第2の表面処理を行う前に、前記凹凸パターンの表面をリンスすることを特徴とする請求項10に記載のモールドの製造方法。
【請求項12】
前記凹凸パターンの表面処理が、前記短鎖離型剤および前記長鎖離型剤を含有する処理剤による表面処理であることを特徴とする請求項8または9に記載のモールドの製造方法。
【請求項13】
請求項1から7いずれかに記載のモールドを用いて、
ナノインプリント用基板上にレジストを塗布し、
前記モールドを前記ナノインプリント用基板の前記レジストが塗布された面に押し付け、
前記モールドを前記ナノインプリント用基板から剥離することを特徴とするナノインプリント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−74257(P2013−74257A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214419(P2011−214419)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】