説明

ナノ流体バイオセンサ及び溶液中における生体分子の相互作用の迅速測定のためのその活用及び方法

ナノメートルに制限されたスリット(204)内に拡散する生体分子(320)の迅速な検出のための方法及びデバイスが請求される。特に、本発明は、その表面が生体分子でコーティングされているデバイスの充填を容易にし、そして、水溶液中の蛍光標識化生体分子と表面に固定された他の生体分子との間の親和性を測定する、流動側面開口部(205)の新規な概念に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置を用いたナノ流体バイオセンサにおける蛍光標識生体分子の検出のための方法及びデバイスに関する。本研究は、生体医学的及び生物学的分析のために、都合よく使用し得る。
【背景技術】
【0002】
ナノ流体工学は、ナノメートル範囲サイズでチャンネルを有する流体システムとして定義され、そして、DNA操作、蛋白質分離及び試料の予備濃縮を可能にするマイクロ流体システムに適用されている。最新のナノ流体開発の大半は、生物工学及び生命工学を対象にしている。
【0003】
特定の生体分子を検出するための最新の実践は二つのカテゴリ:(a)標識化技術、及び(b)無標識技術に分けることができる。
【0004】
標識化技術の内で、蛍光、比色、放射能、りん光、生物発光及び化学発光が幅広く使用される。官能化磁気ビーズは、また、標識化技術と見なすことができる。その優位性は、無標識法及び特定の標識に起因する分子認識と比較した時の感度である。
【0005】
無標識化技術の内で、高速で、そして安価な利点を有する電流センサ、容量センサ、電導度センサ又はインピーダンスセンサを参照した、電気化学的バイオセンサが幅広く使用されている。それらは、生体分子が電極上に、又はその近くに封入され、又は固定化されるときの電極構造の電気的性質の変化を測定するものであるが、これら全ての概念は、分子の特定の対比、感度及び信頼性を欠く。
【0006】
表面プラズモン共鳴(SPR)は、また、トランスジューサの金表面の最近辺で発生する生体分子の相互作用を監視するための無標識の光学技術であり、試料溶液に未反応の、又は過剰の反応物質を濯ぐ必要なく、表面に閉じ込められた親和性相互作用をリアルタイムで研究するための大きな可能性を導くものである。
【0007】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は、主として、抗体及び抗原の存在を検出するために使用される重要な生化学的技術であり、それ故、医学における診断ツール、及び種々の工業分野における品質管理チェックとして広く使用されている。しかし、ELISA分析は高価であり、結果を得るためには、大容量の溶液及び長時間を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ミクロ及びナノ流体工学を基礎とする、安価で、複雑な操作を必要としない迅速なバイオセンサを提供することである。
【0009】
さらに、本発明の別の目的は、ナノ流体工学を用いて、光学的測定体積を幾何学的に限定し、その結果、高感度なバイオセンサを得ることである。
【0010】
さらに、本発明の別の目的は、既存のバイオセンサと比較して、異なった表面コーティングを簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のこれら及びその他の目的は、以下の図面及び好ましい実施態様を参照して、ますます明確になるであろう。
【0012】
本発明は、開口部がミクロ、及びナノ流体工学システムの側面上に設計でき、それにより、流体システムのリザーバと外部配管の間の複雑な連結を避けることができると言う発見に基づいている。デバイスは、分析するための生体分子を含む溶液内に単純に浸漬することにより充填される。それは、拡散する生体分子と表面上に固定化された他の生体分子の間の相互作用を測定する可能性を与える。
【0013】
本発明は、また、水浸対物レンズで通常使用される浸漬水は、また、必要に応じて、分析のために低濃度の蛍光生体分子を含む溶液で代替し得ると言う発見に基づいている。
【0014】
最終的に、本発明は、あらゆる単型を異なった生体分子で機能化し、そして迅速な多重回の試験を実施するためにこれらの金型をアレイ構成に配列する可能性に脚光をあてる。
【0015】
本発明の範囲において、その高い表面積対体積比のため、ナノ流体工学が使用され、表面が検出体積に含まれることを意味し、拡散生体分子と表面上に固定化された他の生体分子の間の相互作用の検出を最大化させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】ナノ流体バイオセンサ200の配列に取り付けた支持台100から成るシステムの概略図である。蛍光生体分子300を含む溶液をデバイス上にデポジットさせ、そして、汚染フィルタ400で覆われた光学システム500が、測定のため使用される。
【図1B】ナノ流体デバイス200の配列に取り付けた支持台100から成るバイオセンシングシステムの代替案の概略図である。蛍光生体分子300を含む溶液をデバイス上にデポジットし、そして光学システム500がエピ検出で使用される。
【図2】二つの基材201及び202で定義されるナノスリットの断面を示す。 光学的体積510とナノスリット204の間の交差部分は、蛍光生体分子331の検出ゾーンの範囲を定める。拡散する蛍光生体分子320は、表面310上の固定化された生体分子と相互作用してもよく、その結果、特定の結合が存在するとき、分子錯体330を創りだす。
【図3】一つ又は数個のナノスリット204を画成する非晶性シリコン203の層をその上に析出する底構造202から成る、ミクロ加工されたデバイスの配列の透視図である。基材カバー201は、陽極結合により貼付される。液体は側面205上の側面開口部からデバイス内に進入する。
【図4】ナノ流体デバイス200の配列を固定する支持台100の平面図を表す。(A)は、例えば、2−金型配置210及び3−金型配列220を示す長方形の配列を図示し、そして、(B)は、例えば、3−金型配列230又は4−金型配列240を示す六角形アレイを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用される用語「生体分子」は、例えば、(それらに限定されないが)ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体、Fabフラグメント、組み換え抗体、球状蛋白質、アミノ酸、核酸、酵素、脂質分子、多糖類及びウイルスを含む総称を意味する。
【0018】
本明細書で使用される用語「ナノスリット」は、幅及び長さがそれより大きいナノメートルサイズの高さで十分に画成されたミクロ加工された構造を意味する総称である。ナノスリットのナノメートルサイズの高さは、スリット内に進入する必要があり、そして同程度の大きさである検出すべき最も小さい蛋白質のサイズの故に、2nmより高くなるように画成される。本発明は、一般的に同程度の大きさである光学システムの検出体積の範囲のために、ミクロン以下の高さを有するナノスリットに制限される。
【0019】
本明細書で使用される用語「ナノチャンネル」は、長さがそれより大きいナノメートルサイズの高さ及び幅で十分に画成されたミクロ加工された構造を意味する総称である。
【0020】
本発明は、特定の拡散生体分子の存在、及び特定の拡散生体分子の表面又は表面上に固定化された他の生体分子との相互作用の測定を簡略化することを目的とする。図1で示す通り、ナノ流体デバイス200の配列は、例えば、標準的な顕微鏡カバーガラス又はプラスチックカプセルのような支持台100上に固定される。蛍光標識生体分子を含む水溶液は、ナノ流体デバイスの少なくとも一つの側面開口部205が、そのチャンネルを満たすことになる溶液300内に含まれるように支持台で処理される。必要なら、且つ、図1Aで脚光される場合、汚染フィルタ400が事前に固定された水浸漬の顕微鏡対物レンズ500は、溶液と接触することができる。さもなければ、図1Bで示す通り、光学システムはエピ検出で使用される。
【0021】
図2は、検出原理を図示し、そして図3は、本発明に記載のバイオセンサの実施態様の構造を図示する。第一に、生体分子310は、基材201及び202の表面上に固定される。検出体積510は、ナノスリット204の体積及び検出体積510で画成された交差体積が最大となる方法で、ナノスリット204内に焦点を絞る必要がある。次いで、蛍光標識生体分子320を含む溶液300が、毛細管によってシステム内に満たされる。生体分子320は拡散し、ナノスリット204の内側に固定された生体分子310と相互作用し、そして、分子錯体330、331を創り得る。固定化された蛍光放射複合体331及び光学的検出体積を横断して拡散する蛍光放出生体分子320は、両者共に、光学システムで検出される。
【0022】
本発明は、分子間の相互作用を検出するために現在使用されているバイオセンサとは区別できる。側面開口部のユニークなデザインは、液体溶液を直接流体システムに進入させることを可能にする。これは、可撓性チューブと機械的に連結する必要のある、ミクロ及びナノ流体工学リザーバに基づく最近のバイオセンサとは異なる。これらの溶液は、分析するために生体分子を含む溶液の注射を必要とし、そしてそれらをミクロ、又はナノチャンネルを通して駆動させる必要があり、システム操作の複雑性を増大させることになる。
【0023】
図3で図示するバイオセンサは、次の通り製造し得る:初めに、ウェーハ202の側面開口部が、湿式又は乾式エッチングでエッチングされる。次いで、肉厚が2〜1000nmの非晶性シリコン層203を析出させ、そして、標準的なフォトリソグラフィ技術を用いて組立てられ、ナノスリット204の幾何学的定義を可能にする。第二のウェーハ201は、第一のウェーハ202上に陽極接合される。この第二のウェーハ201の高さは、顕微鏡の対物レンズと両立し得る必要がある。その後、ウェーハ201、202は、個々の型内にそれぞれの型に切られる。 ナノスリット204は、二つの側面開口部205とつながり、そして二つのウェーハ201、202の間のスペースで画成される。非晶性シリコン層203は、ナノスリット204の高さを画成するためにスペーサとして機能する。
【0024】
図4は、顕微鏡に取り付け可能な支持台100上に固定されるバイオセンサ200の配列を示す。バイオセンサ200の配列は、(A)長方形、又は(B)六角形であってもよいが、他のいかなる形体も想定可能である。
【0025】
本発明に記載のデバイスの取扱いは、他の固定化された生体分子と相互作用する、又はしない生体分子の検出、列挙、識別化、及び特徴評価のために大いに有望であることを示す。本発明の応用は、生物医学的、生物学的、及び食品分析、並びに、分析化学及び生物分析化学における基礎研究分野をカバーできる。
【図1A)】

【図1B)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に、光学システム(500)の前に位置するように設計された上部(201)、下部(202)、及び側面を有する基材より成り;更に、生体分子(320)を含有する溶液(300)のために適合されたスペースを含む;蛍光生体分子の拡散(320)及び生体分子相互作用(310、320)を検出し、測定するためのバイオセンサ(200)であって;
該スペースが、該上部及び下部(201、202)の間に画成され、そして該側面上に位置する側面開口部(205)と連通するナノスリット(204)である事実を特徴とする、上記バイオセンサ(200)。
【請求項2】
ナノスリット(204)の内壁が、前記溶液(300)の生体分子(320)と生物学的に、又は化学的に相互作用し得る生体分子(310)などの物質でプレコートされる、請求項1に記載のバイオセンサ(200)。
【請求項3】
基材が、シリコン、ガラス、プラスチック及び酸化物化合物で構成されるグループから選択される材料で作られる、請求項1又は2に記載のバイオセンサ(200)。
【請求項4】
側面開口部(205)が、100nm2〜20mm2の面積を有し、そしてナノスリット(204)が2nm〜1000nmの高さ、2nm〜20mmの幅、2nm〜20mmの長さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサ(200)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに定義される数個のバイオセンサ(200)を含む配列であって、該バイオセンサ(200)が共通支持台(100)上に固定されている、上記配列。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に定義された一つ又は数個のバイオセンサ(200)から成り、そして励起及び検出のための光学的手段を含むアセンブリ。
【請求項7】
前記光学的手段は、検出器アレイ(CMOS又はCCD)、アバランシェフォトダイオード(APD)又は光電子増倍管(PMT)などの単一光子検出器である検出器を含む蛍光測定ユニットである、請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項8】
蛍光生体分子(320)の拡散及び生体分子の相互作用(310、320)を検出し、測定するための方法であって:
a)請求項1〜4のいずれか1項に定義された少なくとも一つのバイオセンサ(200)を備える工程;
b)該バイオセンサ(一つ又は複数)(200)上に、蛍光生体分子(320)を含む水溶液(300)をデポジットさせることにより、バイオセンサ(一つ又は複数)(200)を側面開口部(205)から充填する工程;
c)該水溶液(300)に接触すると、汚染フィルタ(400)で保護される光学システム(500)を設置する工程;
d)蛍光生体分子(320)、及び部分的に又は全体的に前記ナノスリット(204)内部に閉じ込められ得る、光学的検出ボリュームを通過するものの、存在及び拡散動態を測定する工程;
を含む、上記方法。
【請求項9】
前記生体分子(320)が、蛋白質、DNA、RNA、抗体、アミノ酸、核酸、酵素、脂質分子、多糖類又はウイルスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液(300)が、また、液浸対物レンズで通常使用される液体として機能し得る、請求項8又は9に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A)】
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【図4B)】
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【公表番号】特表2013−512428(P2013−512428A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540523(P2012−540523)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055305
【国際公開番号】WO2011/064701
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512022631)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
【Fターム(参考)】