説明

ナノ炭素材料複合体とその製造方法並びにナノ炭素材料複合体を用いた電子放出素子

【課題】実用材料として好適な、くびれ構造を有するナノ炭素材料複合体およびその製造方法並びにそのナノ炭素材料複合体を用いた電子放出素子を提供する。
【解決手段】基体2と基体2上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料3から成るナノ炭素材料複合体1を提供する。パラジウムまたはその化合物から選ばれる薄膜を基体2上に形成する第1工程と、パラジウム担持基体をオクタノール中で650℃以上950℃以下の範囲で加熱する第2工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度補強材料、電子放出素子材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、或いは、光学材料としての応用が期待されるナノ炭素材料複合体と、その製造に適した製造方法、ならびにそれを用いた電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ炭素材料は、炭素原子のsp混成軌道で構成された、ナノメーター(nm)サイズの微細形状を有することから、従来の材料を凌駕する特性を有し、また従来の材料にはない特性を有しており、強度補強材料、電子放出素子材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料或いは光学材料などの次世代の機能性材料としての応用が期待されている。
【0003】
また、電子ディスプレイデバイスとして陰極線管が広く用いられているが、陰極線管は、電子銃のカソードから熱電子を放出させるためにエネルギー消費量が大きいことに加え、構造的に大きな容積を必要とするなどの課題があった。このため、熱電子ではなく冷電子を利用できるようにして、全体としてエネルギー消費量を低減させ、しかも、デバイス自体を小形化した平面型のディスプレイが求められ、更に近年では、そのような平面型ディスプレイに高速応答性と高解像度とを実現することも強く求められている。
【0004】
このような冷電子を利用する平面型ディスプレイの構造としては、高真空の平板セル中に、微小な電子放出素子をアレイ状に配したものが有望視されており、そのために使用する電子放出素子として、電界放射現象を利用した電界放射型の電子放出素子が注目されている。この電界放射型の電子放出素子は、物質に印加する電界の強度を上げると、その強度に応じて物質表面のエネルギー障壁の幅が次第に狭まり、電界強度が10V/cm以上の強電界となると、物質中の電子がトンネル効果によりそのエネルギー障壁を突破できるようになり、そのため物質から電子が放出されるという現象を利用している。この場合、電場がポアッソンの方程式に従うために、電子を放出する部材、即ちエミッタに電界が集中する部分を形成すると、比較的低い引き出し電圧で効率的に冷電子の放出を行なうことができる(非特許文献1、2参照)。
【0005】
近年、エミッタ材料としてナノ炭素材料が注目されている。ナノ炭素材料の中で最も代表的なカーボンナノチューブは、炭素原子が規則的に配列したグラフェンシートを丸めた中空の円筒であり、その外径はnmオーダーで、長さは通常0.5〜数10μmの非常にアスペクト比の高い微小な物質である。そのため、先端部分には電界が集中しやすく高い電子放出能が期待される。また、カーボンナノチューブは、化学的、物理的安定性が高いという特徴を有するため、動作真空中の残留ガスの吸着や反応が生じ難く、イオン衝撃や電子放出に伴う発熱に対して損傷を受け難い特性を有している。
【0006】
カーボンナノチューブをエミッタとして利用する場合は、ペースト化し、印刷法により基板上に塗布して用いられる場合が多い。例えば、特許文献1では、スクリーン印刷によるエミッタ形成法が開示されている。先ず、カソード電極を基板上に所定ピッチでストライプ状に形成し、さらにカーボンナノチューブを含んだペーストをスクリーン印刷によってカソード電極上に四角形や円形などの形状に孤立した形でカソード電極と同じピッチに形成する。次いで、カーボンナノチューブを含んだ樹脂層の間に絶縁層をスクリーン印刷し、その後、大気雰囲気中で焼成する。これにより、カーボンナノチューブを含む樹脂層の樹脂成分が分解し、カーボンナノチューブが露出して電子放出部が形成される。最後に、グリッド電極を絶縁層上に形成してエミッタを作製する。
【0007】
上述のようなエミッタの作製に用いるペーストは、一般的には、カーボンナノチューブに、溶剤、分散剤、接着剤としてのガラスフリット、フィラーなどを加え、これらの分布状態が均一になるように混合して分散を行なう。混合後に濾過を行ない、溶剤と樹脂とからなるビヒクル中に混ぜ込みペースト化する。このペーストをよく混合して分散状態を高めた後に濾過してカーボンナノチューブペーストとして完成する。そして上記プロセスで得られたカーボンナノチューブペーストを基板上に印刷し、乾燥及び焼成によりビヒクルを酸化分解させてカーボンナノチューブ膜が得られる。
【0008】
一方、カーボンナノチューブ等のナノ炭素材料の合成方法としては、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法等が知られている。これらの方法のうち、アーク放電法、レーザーアブレーション法やプラズマ化学気相成長法は非平衡反応であるため、非晶質成分を生成しやすく、一般的に生成するカーボンナノチューブの収率が低く、また、生成したカーボンナノチューブの太さや種類が一様でないことが知られている。
【0009】
特許文献2及び特許文献3には、触媒を用いて炭化水素ガスを熱分解することによりカーボンナノチューブを製造する熱化学気相成長法が開示されている。熱化学気相成長法は、化学平衡反応を利用するため収率が比較的高いことが知られており、この方法では、超微粒の鉄やニッケルなどの触媒粒子を核として成長した炭素繊維が得られる。得られた炭素繊維は、炭素網層が同心状、中空状に成長したものである。
【0010】
特許文献4には、精製が不要な程度の高純度カーボンナノチューブを合成する方法が開示されている。特許文献4に開示されている方法は、固体基体と有機液体が急激な温度差を有して接触することから生じる特異な界面分解反応に基づくことから、有機液体中の固液界面接触分解法と呼ばれている。
【0011】
以下に、特許文献4に記載された固液界面接触分解法を説明する。
図7は有機液体中の固液界面接触分解法で用いられる合成装置を模式的に示している。固液界面接触分解法で用いられる合成装置は、メタノール等の有機液体60を収容する液体槽61と、有機液体60を沸点以下に保持するため液体槽61の外側を囲むように設けた水冷手段62と、導電性の基体63を保持し、かつ基体63に電流を流すための電極64を有する基体ホルダー65と、液体槽61から蒸発する有機液体蒸気を冷却凝縮して液体槽61に戻す水冷パイプ66からなる凝縮手段67と、有機液体蒸気と空気との接触を防止するために窒素ガスを導入する窒素ガス導入バルブ68と、液体槽61を密閉する蓋69とから構成される。
【0012】
図7に示す合成装置を用いて有機液体中の固液界面接触分解を行なう場合、導電性のシリコン基板上にFe、Co、Ni等の遷移金属薄膜を積層し、この遷移金属薄膜を積層した基体63を水素プラズマに晒すか又は遷移金属薄膜を熱酸化することによって、基体63上に高密度に分布するよう触媒微粒子を担持させる。次に、この基体63を基体ホルダー65に保持し、基体ホルダー65を介して基体63に電流を流すことで基体63を加熱する。これにより、基体63と有機液体60とが急激な温度差を有して接触することから特異な界面分解反応が生じ、触媒微粒子上にカーボンナノチューブが合成される。
【0013】
【特許文献1】特開2003−272517号公報
【特許文献2】特開2002−255519号公報
【特許文献3】特開2002−285334号公報
【特許文献4】特開2003−12312号公報
【非特許文献1】C. A. Spindt : J. Appl. Phys., 39, 3504 (1968)
【非特許文献2】K. Betsui: Tech. Dig. IVMC., (1991) p26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の方法では、触媒となる金属の粒径や化学状態を制御することが困難であることから、ナノ炭素材料の形状や太さを制御して製造することが困難で、また、収率が低下することは避けられなかった。これまでにも、結晶性のナノ炭素材料は得られている。しかし、グラム単位でみた集合体は無秩序な集まりであって、かつ、密度が低いパウダー状あるいはクラスター状の固体であった。このようなナノ炭素材料を実用的な材料として適用するためには、ペースト化あるいは樹脂等の他材料と混合しなければならず、しかも無秩序で低密度の集合体であるため、均一な混合が容易ではなかった。
【0015】
また、ナノ炭素材料の用途によっては、表面積が大きいあるいは凹凸の構造を持ったナノ炭素材料が求められる場合がある。例えば、非晶質炭素材料である活性炭が利用されている二次電池やキャパシタや燃料電池の場合、結晶性が高くかつ表面積が大きい炭素材料が好適である。また、ナノ炭素材料を電子放出素子に利用する場合においても、より凹凸の構造を持つ形態の方が、電界の集中が容易となり低電圧動作が可能となる。しかしながら、上述したように、所望の構造を持ったナノ炭素材料を製造することは困難であることから、用途に適合した構造あるいは形態を持つ、すなわち実用性の高いナノ炭素材料は見出されていない。
【0016】
さらに、合成したナノ炭素材料を使用形態に加工する際、例えば電池の電極の形状に加工する際には、黒鉛粒子や不定形炭素などのナノ炭素材料以外の炭素不純物を含んだ反応生成物中からナノ炭素材料を精製しなければならず、また基体上に成長したカーボンナノチューブを掻き落とすことで必要な量のカーボンナノチューブを収集することが必要であり、低コストで大量に、かつ所望の構造を持ったナノ炭素材料を使用した部材を製造することができなかった。
【0017】
本発明は上記課題に鑑み、各種の用途に適した構造を持つナノ炭素材料複合体を提供することを第一の目的としている。
本発明の第二の目的は、ナノ炭素材料の形状や太さを制御可能なナノ炭素材料複合体の製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、上記ナノ炭素材料複合体を用いた高性能でかつ実用的な電子放出素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記第一の目的を達成するために、本発明は、基体とこの基体上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料から成るナノ炭素材料複合体を提供する。
ここで、くびれ構造とは、ナノ炭素材料の繊維がくびれあるいはねじれて凹凸の構造を持つ構造をいう。基体上にくびれ構造を有するナノ炭素材料を一体化して形成することにより、電池の電極材料や電子放出素子などの実用デバイスに適用することが容易となる。また、くびれ構造を有するナノ炭素材料とすることで、最も一般的なナノ炭素材料であるカーボンナノチューブよりも単位体積あたりの表面積が増加するため、また、くびれ構造をもち凹凸形状を有するため、実用材料として適用した場合に、特に各種素子等の効率および信頼性の向上を図ることができる。
【0019】
上記第二の目的を達成するため、本発明は、パラジウムまたはその化合物から選ばれる薄膜を基板上に形成して基体とする第1工程と、パラジウムを担持した基体をオクタノール中で650℃以上950℃以下の範囲で加熱する第2工程とを含むナノ炭素材料複合体の製造方法を提供する。
前述したように特許文献4には、鉄、コバルトあるいはニッケルから選ばれる金属触媒を用いて、メタノール溶液中でカーボンナノチューブを製造する方法が開示されているが、本発明の方法とは金属と液相の成分とが相違する。この相違点が、基体上でのくびれ構造のナノ炭素材料の形成に影響する。すなわち、パラジウムまたはその化合物以外の金属およびオクタノール以外の液相の組み合わせでは、くびれ構造を有するナノ炭素材料は基体上に形成されない。
【0020】
上記第三の目的を達成するために、本発明は、基体上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料から成るナノ炭素材料複合体を用いた電子放出素子を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のナノ炭素材料複合体は、基体とくびれ構造を有するナノ炭素材料が一体化しているため、部材としてそのまま適用することができ、実用化プロセス適性に優れている。
また、くびれ構造を有するため、機械的強度が高くかつ表面積が大きい。したがって、本発明のナノ炭素材料複合体を、構造材料、電子放出材料、電気二重層キャパシタ・電池、燃料電池、或いは、一般的な二次電池の電極材料として使用する際に、良好な実用物性ならびにプロセス適性を示し、製造コストの低減が可能となる。
【0022】
カーボンナノチューブの場合、壁面からの電子放出がないが、くびれ構造を有するナノ炭素材料複合体は、ナノ炭素繊維に微細なエッジを持つため、電子放出箇所が増えることになり、カーボンナノチューブとは異なったバリエーションの電子放出素子として利用の幅が広くなる。
【0023】
本発明のナノ炭素材料複合体の製造方法によれば、前述したように、基体上にくびれナノ炭素材料を一体化して形成できるばかりでなく、金属担持基体をオクタノール中で加熱する温度をコントロールすることにより、くびれ構造を有するナノ炭素材料の太さを制御することが可能である。このため、ロット間で高電子放出能のバラツキのないくびれ構造のナノ炭素材料を有するナノ炭素材料複合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
最初に、本発明のナノ炭素材料複合体について説明する。
図1は本発明のナノ炭素材料複合体の構成を示す模式断面図である。本発明のナノ炭素材料複合体1は、基体2と、基体2上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料3とからなるものである。図1では、くびれ構造を有するナノ炭素材料3が基体2上に直接に存在する場合を示しているが、くびれ構造を有するナノ炭素材料3が、金属を介して基体2上に存在する場合もある。
【0025】
基体2は、単結晶シリコンの他に、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム砒素リン、窒化ガリウム、炭化珪素等の半導体基板やガラス、セラミックスまたは石英等の基板にパラジウム又はその化合物の薄膜を形成することにより得ることができる。基体2の厚さは特に限定されるものではないが、通常の厚さである100〜1500μmが望ましい。
【0026】
次に、本発明のナノ炭素材料複合体の製造方法について説明する。
図2は、本発明のナノ炭素材料複合体を製造する装置の一例を示すものである。この装置は、液体槽11の外側に液体槽11を冷却するための水冷手段12と、基体2を保持し、かつ、基体2に電流を流すための電極13と、液体槽11から蒸発する有機液体蒸気を冷却凝縮して液体槽11に戻す水冷パイプ14からなる凝縮手段15と、凝縮手段15と装置内の空気を除去する場合に不活性ガスを導入するバルブ16とを保持する蓋17を有し、液体槽11と蓋17で液体オクタノール10を密閉して保持する構成である。
【0027】
この装置によれば、液体オクタノールの温度を沸点未満に保持することができると共に、基体温度を任意のナノ炭素繊維の太さに形成する温度に保持できる。また、有機液体の気相が凝縮されてもどるため原料の有機液体を無駄にすることがなく、さらに有機気相と空気との混合による爆発、炎上の危険がない。
【0028】
次に、本発明のナノ炭素材料複合体の製造方法を詳細に説明する。まず、基板を洗浄し、パラジウムまたはその化合物を基板上に堆積する。
基板には、前述したように、単結晶シリコンの他に、ゲルマニウム、ガリウム−砒素、ガリウム砒素リン、窒化ガリウム、炭化珪素等の半導体基板やガラス、セラミックスまたは石英等を用いることができる。
触媒としてはパラジウムまたはその化合物を用いる。パラジウムまたはその化合物以外、例えばFe、Niでは、基体2にはくびれナノ炭素の繊維が形成されず、ナノチューブが形成される。
これらの金属の基板上への堆積手段は、スパッタリング法や所定量の金属塩を添加し、その後で過剰の水を蒸発させ、乾燥後400〜500℃の空気気流中で焼成し、金属塩の分解と酸化を起こさせ、金属塩を酸化物に転換してもよい。堆積する金属薄膜の厚さは特に限定されるものではないが、通常の厚さである2〜10nmの範囲で適宜選択すればよい。基体2の厚さは、特に限定されるものではないが、通常の厚さである100〜1500μmが望ましい。
【0029】
続いて、基体2の金属薄膜が堆積した面を装置底面に対して平行かつ下向きに、製造装置の電極13に配置して、装置内に液体オクタノール10を満たす。装置内に満たされる液相はオクタノールであり、メタノールやエタノールあるいはオクタンでは、基体2にくびれ構造を有するナノ炭素の繊維が形成されない。
【0030】
安全面から、装置内にはバルブ16を介して不活性ガスを導入して、装置内の残留空気を不活性ガスや窒素ガスで置換することが好ましい。電極13に電流を流して基体2を加熱する。加熱は基体2の温度、650℃〜950℃の範囲において行なう。この範囲外の温度では、基体2にくびれ構造を有するナノ炭素の繊維が形成されない。基体温度が650℃〜750℃未満の範囲では、ナノ炭素の繊維の直径は50nm未満となり、750℃〜880℃未満では直径50nm以上で300nm未満、880℃〜950℃では直径300nm以上の太さのくびれ構造を有するナノ炭素の繊維が形成される。このように、基体2の温度をコントロールすることにより、くびれ構造を有するナノ炭素の繊維の太さをコントロールすることが可能である。なお、ナノ炭素材料3は基体2の下面に形成される。
【0031】
製造中、基体2の表面からオクタノールの気泡が発生し、基体表面がこの気泡によって覆われる。この際、オクタノールの温度を沸点以下に保つことが必要であり、水冷手段12を用いて冷却する。また気相となったオクタノールを凝縮手段15により液体に戻し、液体槽11に戻す。所望のくびれ構造を有するナノ炭素繊維の長さに応じた一定時間、基体2を一定の温度に保つことにより、所望の長さのくびれ構造を有するナノ炭素繊維を形成することができる。
【0032】
くびれ構造を有するナノ炭素材料は、表面がざらざらしており多数のエッジ構造を持っている。このため、カーボンナノチューブと異なり電子放出箇所が増えることになり、カーボンナノチューブとは異なったバリエーションの電子放出能を持つことができる。そして、製造過程において、基体2の温度をコントロールすることにより、繊維の太さを均一にすることができるため、電子放出の安定性に優れた電子放出素子を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
パラジウムを、Si(100)基板(n型、低抵抗)にマグネトロンスパッタリング法を用いて形成した。基板上に形成されたパラジウムは、基体重量を膜厚に換算した値で、4nmであった。得られた基体(以下、「パラジウム担持基体」又は「パラジウム担持体」ということもある)を、図2に示す製造装置の電極に設置し、装置を液体のオクタノールで満たした。
次いで、パラジウム担持基体を700℃、800℃、850℃および900℃でそれぞれ10分間加熱して、パラジウム担持基体上にナノ炭素材料を形成させた。
得られたナノ炭素材料複合体の表面構造を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した。結果を図3〜図6に示す。
【0034】
図3は、パラジウム担持基体を700℃に加熱して得られたナノ炭素材料複合体の表面構造の電界放出型走査電子顕微鏡像である。ナノ炭素材料の太さ50nm未満のくびれ構造を有するナノ炭素繊維が形成されている。
図4は、パラジウム担持基体を800℃に加熱して得られたナノ炭素材料複合体の表面構造の電界放出型走査電子顕微鏡像である。ナノ炭素材料の太さ50〜150nm程度のくびれ構造を有するナノ炭素繊維が形成されている。
図5は、パラジウム担持基体を850℃に加熱して得られたナノ炭素材料複合体の表面構造の電界放出型走査電子顕微鏡像である。ナノ炭素材料の太さ150〜300nm程度のくびれ構造を有するナノ炭素繊維が形成されている。
図6は、パラジウム担持基体を900℃に加熱して得られたナノ炭素材料複合体の表面構造の電界放出型走査電子顕微鏡像である。ナノ炭素材料の太さ300nm以上のくびれ構造を有するナノ炭素繊維が形成されている。
【0035】
図3〜図6に示されるように、ナノ炭素繊維は、パラジウム担持基体上に形成されたパラジウム膜の厚さが4nmの場合、基体の加熱温度が650℃〜750℃未満の範囲では、直径50nm未満のくびれ構造を有するナノ炭素繊維が得られ、750℃〜880℃で直径50nm〜300nmの太さのくびれ構造を有するナノ炭素の材料が得られ、880℃〜950℃で直径300nm以上の太さのくびれ構造を有するナノ炭素の材料が形成されていた。このことから、加熱温度をコントロールすることにより、繊維の太さをコントロールでき、かつ均一性を有するものにできることがわかる。
【0036】
(比較例1)
上記実施例の比較例として、液相の溶媒をエタノール、メタノールに変更して、上記実施例と同様の条件で実施したところ、600℃、700℃、800℃、850℃および900℃の条件でも基体上に直径20nm以上のくびれ構造を有する炭素材料は形成されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のナノ炭素材料複合体は、例えば、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子(フィールドエミッタ)として利用することができる。より詳しくは、光プリンタ,電子顕微鏡,電子ビーム露光装置などの電子発生源や電子銃として、或いは照明ランプの超小型照明源として、さらには、平面ディスプレイを構成するアレイ状のフィールドエミッタアレイの面電子源などとして有用な電子放出素子として利用することができるが、これらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のナノ炭素材料複合体の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明のナノ炭素材料複合体を製造する装置の一例を示す図である。
【図3】700℃で加熱したときに形成されたナノ炭素材料の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】800℃で加熱したときに形成されたナノ炭素材料の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図5】850℃で加熱したときに形成されたナノ炭素材料の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図6】900℃で加熱したときに形成されたナノ炭素材料の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図7】従来の固液界面接触分解法による合成装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ナノ炭素材料複合体
2 基体
3 ナノ炭素材料
10 液体オクタノール
11 液体槽
12 水冷手段
13 電極
14 水冷パイプ
15 凝縮手段
16 バルブ
17 蓋
60 有機液体
61 液体槽
62 冷却手段
63 基体
64 電極
65 基体ホルダー
66 水冷パイプ
67 凝縮手段
68 バルブ
69 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムまたはその化合物から選ばれる薄膜を基板上に形成して基体とする第1工程と、
上記基体をオクタノール中で650℃以上950℃以下の範囲で加熱する第2工程と、
を含む、ナノ炭素材料複合体の製造方法。
【請求項2】
基体と、上記基体上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料とから成ることを特徴とする、ナノ炭素材料複合体。
【請求項3】
基体上に成長したくびれ構造を有するナノ炭素材料から成るナノ炭素材料複合体を用いることを特徴とする電子放出素子。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215120(P2009−215120A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61889(P2008−61889)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】