説明

ニューロパシー痛の鎮痛誘導

本発明は、慢性ニューロパシー痛の鎮痛誘導可能薬剤、これに関連する方法、及びこれらの使用に関する。特に、本発明は、慢性ニューロパシー痛治療用のTRPM8受容体活性化可能化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性ニューロパシー痛(神経因性疼痛)の鎮痛を誘導することができる薬剤、関連する方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経損傷から発生する慢性ニューロパシー痛は、治療選択肢が限られる深刻な臨床的問題である[1]。損傷を受けているものでもいないものでも一次求心性ニューロンの変化は、中枢神経(脊髄)過敏と共に、痛覚過敏(痛み刺激に対する強調反応)、アロダイニア(通常の非侵害性刺激に対して反応する痛み)、及び自発的な痛み(自発痛)を導く。
【0003】
ヒポクラテスとガレン[2,3]以来、冷却が鎮痛効果を生じさせることの効用について散発的に報告されている[4]。臨床試験では、冷却が慢性背痛、歯痛、術後の痛み及び筋肉障害について有益な効果を示す[5]。冷却感覚を生み出すメントールを含む製剤は伝統的な中国及びヨーロッパの医学で神経痛を和らげるために局所的に使用されている[6,7]。ミント油は熱的に誘発される痛み及び後期ヘルペス性神経痛を緩和することが報告されており[8,9]、経口メントールは短期の鎮痛効果を生じさせる[10]。更に、マウスでは、メントールの経口または脳室内投与は、ホットプレートテスト及び酢酸ライジング(身もだえ)テストにおいて侵害刺激反応を減少させた[11]。
【0004】
一次知覚ニューロンに存在するTRP(transient receptor potential:一過性受容体ポテンシャル)カチオン・チャンネルの最近の単離は、皮膚の温度検知についての理解に大きな変化をもたらした。最も特徴的な例は、カプサイシンと熱感受性TRPV1受容体である[12]。しかし、冷感受性TRPsについては多くは知られていない[13]。TRPM8は、約18〜19℃で50%が活性化する非侵害性の適度に冷たい温度で活性化され[14]、メントール及びイシリン(icilin)によって活性化される[15,16]。TRPM8チャンネルは、冷却に対する反応がmRNA発現及びメントール感度と良好に相関する脊髄後根及び三叉神経節(DRG)[15,16])中の知覚ニューロン亜集団によって発現される[17,18,19]。皮膚冷却は求心性刺激によって生み出された痛みを防ぐことができるので[4]、TRPM8を含む知覚ニューロンがその鎮痛作用を脊髄中枢サイトで働かせることはありそうに見える。TRPA1チャンネルは、TRPM8チャンネルより5〜6℃低い冷却開始温度により活性化され[14]、シンナムアルデヒドと芥子油[20,21,23]のような有害化学物質により活性化される。TRPA1は、また、DRG及び三叉神経節中で発現される[14,22]。しかし、冷刺激感受性はTRPA1を欠くマウスでは影響を受けないことが見出された[23]。従って、TRPA1は冷却誘導鎮痛候補としてはそれほど好ましくはないかもしれない。TRPA1ノックアウトマウスに関する別の研究では、有害低温に対する反応を弱めること[24]、及びアンチセンスノックダウン法での研究は、激しい低温刺激に対する神経障害または炎症誘導痛覚過敏の進展が減少することを示すことが報告されているので[25,26]、TRPA1は痛覚(痛み)情報の候補媒体として、より好ましいのは確かである。
【0005】
脊髄ニューロン中のグルタメート受容体依存可塑性は、一般に、イオン共役型で代謝共役型の受容体がプレ−及びポスト−シナプスサイトで関与する慢性的痛み状態の原因となる。ほとんどのグルタメート受容体は興奮性であるが、グループII/IIIの代謝共役型受容体(mGluR)サブタイプは抑制効果を及ぼし、それらが冷却誘導鎮痛を潜在的に補強できる仮説を示唆する。確かに、グループII及びIIIの代謝型グルタメート受容体(mGluRs)は、大部分は求心性末端の脊髄中にあるが、神経膠及びポスト・シナプス発現を伴い[27,28]、それらの活性化は、ニューロンと行動の応答に対する神経損傷誘導性及び炎症誘導性の過敏化(感作)(sensitisation)を抑制する[29,30,31,32,33]。
【0006】
本発明は、ニューロパシー痛モデルにおいてTRPM8活性剤の末梢または中枢投与により、著しい鎮痛効果が観察されたことに基づく。更に、緩和な冷却及びメントール(TRPM8活性剤)が不特定の手段により鎮痛効果を生じさせることが報告されているが、TRPM8の活性化がニューロパシー痛モデルにおいて一貫した鎮痛効果に結びつくことはこれまでに確証されていない。DRG及び脊髄後角表層中のTRPM8レベルが神経損傷後増加した。鎮痛作用は、損傷感作反応に制限され、TRPM8のアンチセンスノックダウン後消失した。また、イシリン(icilin)の末梢投与は、維管束求心性神経(conducting afferents)をゆっくり活性化し、神経損傷に対して同側の単一脊髄後角ニューロン(single dorsal horn neurons)の増加した反応性を抑えた。対照的に、TRPA1の活性化 (実験に使用されたことのない動物(naive animals;以下、ナイーブ動物という。)及び神経損傷動物での) は痛覚過敏をもたらした。TRPM8活性化による過敏化特異的鎮痛作用(sensitisation -specific analgesia)は、また炎症、求心性神経の脱髄、及び知覚求心性神経中のTRPV1またはTRPA1チャンネルの活性化に起因する痛みのモデルでも観察された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一過性受容体ポテンシャル(TRP)カチオン・チャンネルは、熱刺激、化学刺激及び機械的刺激のような環境による刺激を、感覚ニューロン中で内向き電流に変換し、その後適切な反応を引き出す。TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4及びTRPM8は、冷温両方の温度範囲に対し反応を与える温度受容体である。TRPM8は、無害の冷温(約18〜19℃で50%の活性化率)で活性化される。また、多くのTRPチャンネルは化学感受性であり、TRPM8は、例えば、イシリン(1−(2’−ヒドロキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、メントール、1R,2S,5R−(5−メチル−2−[1−メチルエチル]シクロヘキサノール)、WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)及び/またはこれらのうちいずれかの種類(変形)、誘導体あるいは同族体のような化合物との接触で活性化される。
【0008】
本発明者らは、TRPM8受容体の活性化が慢性ニューロパシー痛の鎮痛作用を生み出すことを見出した。従って、本明細書に記載したようなTRPM8活性化剤は、ニューロパシー痛の治療、及び/またはニューロパシー痛を有する状態あるいは疾病の治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の第1の態様では、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者向けの鎮痛誘導薬剤の製造における一過性受容体ポテンシャル(TRP)M8カチオン・チャンネル活性化剤の使用を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様では、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者に対し有効な量のTRPM8活性化剤を投与する工程を含む慢性ニューロパシー痛を治療する方法を提供する。
【0011】
「ニューロパシー痛」の用語は、神経系または末梢神経系(末梢ニューロパシー痛)における一次病巣または機能障害によって開始されまたは引起こされる痛みを指す。従って、慢性ニューロパシー痛は、神経系または末梢神経系における一次病巣または機能障害によって引起こされる連続的永続的なニューロパシー痛(神経因性疼痛)を指す。
【0012】
ニューロパシー痛は、痛み刺激、及び/または非侵害性刺激が痛みを生み出すアロダイニアに対する反応が強調された痛覚過敏状態の原因となりうる。
【0013】
そこで、本発明は、例えばアロダイニアのような状態に関連した慢性ニューロパシー痛を治療する手段を提供する。これは、アロダイニアに関連した慢性ニューロパシー痛を治療するための加冷(これもTRPM8を活性化することが知られている)が痛みを生み出すことが知られているので驚くべきことである。これに対して、本願明細書に記載されたTRPM8活性化剤の使用は痛みを生み出さないが、慢性ニューロパシー痛の症状を和らげる。
【0014】
それに加えて、またはそれに代わるものとして、ニューロパシー痛は自発痛の原因となりうる。従って、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している対象者における鎮痛を誘導することができる薬剤の識別とその後の使用は、これらの状態に有効な治療法を供給しうる。
【0015】
慢性ニューロパシー痛は、中枢神経系の変化に関連した症状である。そのため、末梢的に投与されたTRPM8活性化剤が、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者において鎮痛効果を生み出すことができるという観察は、予期しないものである。
【0016】
TRPM8は、例えば、メントール、特に(−)−メントールによって活性化される。しかしながら、1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物のような他の化合物もまたTRPM8受容体を活性化する。そのため、これらの化合物は、慢性ニューロパシー痛の実例において鎮痛効果を生み出すことができる。典型的なTRPM8活性化剤は、1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物、イシリン(1−(2’−ヒドロキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)である。前記化合物の様々な種類(変形)及び誘導体及び他の1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物には同様の効果があり、したがって、これらが用語「活性化剤」に包含されることは、当業者であれば容易に理解することである。より具体的には、イシリンの化学構造が、例えば、2’位で修飾され、C1〜C4アルキロキシ、OH、NO2、=O及びNH2からなる群から独立して選択される修飾基を含むことを当業者は理解する。
【0017】
一例として、本発明は、とりわけイシリン誘導体メトキシ(MeO)−イシリン(1−(2’−メトキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−l,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)及びメンチル誘導体化合物WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)を包含するものであることが理解される。
【0018】
したがって、1つの実施態様では、慢性ニューロパシー痛の鎮痛誘導薬剤製造のための、1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物のある1つの使用が提供され、それは、例えば1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物は、イシリンまたはその誘導体(例えばメトキシ-イシリン)または、その同族体である。
【0019】
他の実施態様では、慢性ニューロパシー痛の鎮痛誘導薬剤製造における下記のグループから選択される化合物の使用が提供される。
(i) メンチル−誘導体化合物、及び
(ii)メントール((+)または(−)−メントール)。
【0020】
さらに、本願明細書に記載される化合物はさらに利点を有することが理解されるが、それは、反復投薬が感度低下の原因とならないことである。言いかえれば、単回投与したときの鎮痛効果が時間経過によって減少しても、さらに複数回投与したときの反応はそのままである。
【0021】
用語「慢性ニューロパシー痛」は、特定の痛み状態の多くを含み、この用語に包含されるタイプの痛みの非網羅的な以下に記載のリストを含む。
【0022】
[外傷誘発ニューロパシー痛]
特にこのタイプの痛みは、例えば(偶然のまたはそうではない)傷の結果としてあるいは神経がカットされ、クラッシュされ、狭窄され、横切開され、あるいは伸張(例えば腕神経叢損傷)される、例えば外科的処置の結果として生じる末梢神経への物理的外傷の結果として発生する痛みを含む。
【0023】
[脱髄誘発痛]
これはニューロン末梢の脱髄に起因する慢性疼痛状態であり、例えばギラン・バレー症候群及びシャルコー・マリー・ツース症候群のような脱髄疾患の結果として生じうる[3,4]。
【0024】
[炎症痛状態]
痛み状態は、軟部組織または関節の炎症から発生し、骨及び/または関節包をまかなう末梢神経に対する障害を含む。関節炎などの条件により炎症痛状態が生じる。
【0025】
[幻肢痛]
この状態の痛みは、切断を経験した患者に生じうる。そのような場合、単独であるいは部分的にニューロパシー性要素からなる痛みは、切断された身体部分から出るものと患者によって認識される。
【0026】
[癌にリンクしたニューロパシー痛]
ある場合には、初期癌が神経を収縮しまたは破損して、ニューロパシー痛に導くことがある。
【0027】
[化学療法誘発ニューロパシー]
化学療法剤、例えば癌またはHIVを治療するために使用されるものは、神経を破損しニューロパシー痛を引き起こしうる。そのような化学療法剤は、例えばビンカアルカロイドを含む[35]。
【0028】
[背痛]
慢性背痛状態は、例えば末梢神経上の障害または圧力により発生する。
【0029】
[骨痛及び癌誘発性骨痛]
骨肉腫痛は、人間では原発性骨腫瘍から発生するか、または一般的に胸、前立腺及び肺癌からの骨格転移のどちらかから発生する。骨痛は、転移性骨疾病からの最も一般的な合併症である。痛みは、構造的損傷、骨膜刺激、神経拘扼及び神経損傷によって引き起こされる。骨内成長腫瘍は、骨を刺激する知覚求心性神経を損傷し破壊してニューロパシー痛状態の原因となる[36,37,38]。
【0030】
前述のように、本発明は、慢性ニューロパシー痛状態が中枢神経系レベルで生じる変化に起因するにもかかわらず、末梢サイト(すなわち、中枢神経系から遠位のサイト、例えば皮膚、すなわち局所)でのTRPM8活性化剤の投与が鎮痛効果を誘導しうるという予期しない知見に代表されるものである。さらに、TRPM8活性化剤と、慢性ニューロパシー痛における鎮痛誘導との間の関連性は従来から認識されておらず、TRPM8活性化剤の末梢投与に加えて、TRPM8活性化剤の中枢、鞘内、または硬膜外投与もまた、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛を誘導する。
【0031】
従って、有利には、TRPM8活性化剤は、局所的に、鞘内に(すなわち直接脊骨空洞へ)、あるいは硬膜外投与される。従って、本発明のTRPM8活性化剤は、薬学的に許容しうる担体(キャリア)または賦形剤を含む無菌の薬学的組成物として処方される。そのようなキャリアまたは賦形剤は、当業者によく知られているものであり、例えば、水、生理食塩水、リン酸塩緩衝生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノール、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清アルブミンのような血清蛋白質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水溶性塩類または硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩類のような電解質、コロイダル・シリカ、マグネシウムトリシリケート、ポリビニルピロリドン、セルロースベース物質、ポリエチレン、グリコン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン・ポリプロピレン・ブロック重合体、ポリエチレングリコール、及び羊毛脂及び同種のもの、またはそれらの組合せを含む。
【0032】
TRPM8活性化剤は、他の処理と組合わされて投与される。一例として、上述したように、慢性ニューロパシー痛は、癌を治療するための化学療法剤の使用に起因する場合がある。そのようなものとして、TRPM8活性化剤を含む薬剤と化学療法処理を組み合わせることによって、癌治療をした人が経験する慢性ニューロパシー痛の大きさを減らしうる。そのような組合せは、特定の化合物、物質または薬品(または他の治療形式)の使用が慢性ニューロパシー痛の発症原因となるあらゆる状況で有益である。
【0033】
ある形式の経皮投与(デリバリー)デバイスによって上述したTRPM8活性化剤を経皮的に投与しうる。そのようなデバイスは、例えば、経口または静脈内薬剤に比べると処理期間が長期化するので、慢性ニューロパシー痛において鎮痛誘導可能なTRPM8活性化剤の投与に特に有利である。
【0034】
経皮投与デバイスの例としては、パッチ、ドレッシング、包帯、または患者の皮膚を通して化合物または物質を放出適応させた石膏等が挙げられる。当業者であれば、経皮的に化合物または物質を投与するために使用される材料及び技術に精通しており、典型的な経皮投与デバイスが、GB2185187、US3249109、US3598122、US4144317、US4262003及びUS4307717によって提供されている。
【0035】
一例として、TRPM8活性化剤は、非水性重合体キャリアのような、ある形式のマトリックスまたは基質と組み合わせて、それを経皮投与システムで使用するために適切なものとすることができる。TRPM8活性化剤/マトリックスまたは基質混合物は、患者の体の特定の部位へ着脱自在に取り付けるパッチ、包帯、石膏または同種のものを作るために比較的粗いメッシュの織布または編み物、不織布の使用によってさらに強化される。このようにして、患者の皮膚に接している間、経皮投与デバイスは皮膚を通じて化合物または物質を放出する。
【0036】
本発明の第3の態様では、下記の工程:
(a)検査用薬剤または薬剤混合物をTRPM8受容体と接触させる工程;及び
(b)前記TRPM8受容体を活性化させる薬剤または薬剤混合物を同定するようにTRPM8受容体の活性化を検知する工程を含む、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導薬剤の製造に有用な薬剤を検知する方法が提供される。
【0037】
一例として、上述の方法は、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の痛みを鎮める鎮痛誘導のために局所投与される薬剤の同定に使用される。
【0038】
当業者であれば、検査用薬剤がTRPM8受容体を活性化したかどうかを判断するために必要な技術に精通している。例えば、TRPM8受容体の活性化は、TRPM8−発現細胞への陽イオンの入り込みを許し、電位固定実験で内向き電流として電気生理学に従って測定され、あるいはカルシウム蛍光定量法によって測定される。
【0039】
上述の方法は、TRPM8受容体を活性化させ鎮痛効果が見出される薬剤を検査する工程をさらに含みうる。例えば、上記方法によって同定されたいずれかの薬剤または薬剤混合物が、慢性ニューロパシー痛において鎮痛誘導により痛みを鎮めるかどうかを決定するために、前記薬剤または薬剤混合物が、慢性ニューロパシー痛に苦しんでいるかまたはこれを経験していることが知られている被験対象(例えば人間または被験動物)、及び/または動物モデルで検査される。一例として、坐骨神経慢性狭窄損傷(CCI)げっ歯類は、上述した方法によって同定される薬剤または薬剤混合物の鎮痛特性を評価する適切な動物モデルシステムを提供しうる。
【0040】
1つの好ましい実施態様では、TRPM8受容体を活性化することが見出される薬剤を検査する工程は、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験していることが知られている被験対象に対し局所的に及び/または動物モデルに対し局所的に、検査用薬剤を投与する工程を含む。好ましくは、薬剤は、皮膚に局所的に塗布される。
【0041】
本発明の第4の態様では、下記の工程:
(iii)TRPM8受容体を含む検査用薬剤または薬剤混合物と接触させる工程;及び
(iv)前記検査用薬剤と前記TRPM8受容体との間に生じる結合を検知する工程を含む、TRPM8受容体と結合することができる薬剤を検知する方法を提供する。
【0042】
当業者であれば、TRPM8受容体に対し検査用薬剤が結合することができるかどうかを決定するために必要な技術に精通している。例えば、既知のTRPM8結合剤での置換が、検査用薬剤の結合を検知するために利用される。そのようなケースでは、検査用薬剤をTRPM8受容体と接触させ、既知のTRPM8結合剤(例えば、抗体または同種のもの)も、TRPM8受容体に接触させる。既知の結合剤がTRPM8受容体に結合しない場合、それは検査用薬剤がTRPM8受容体に結合したことを示す。すなわち、それは既知のTRPM8結合剤を置き換えた。それに加えて、またはその代わりに、バンドシフト分析のような分析は、検査用薬剤がTRPM8受容体に結合できるかどうかを検知することを支援する。
【0043】
さらに、当業者であれば、上記第3及び第4の態様で述べた方法から得られる結果を、TRPM8受容体が検査用薬剤または薬剤混合物の接触を受けないコントロールシステムから得られる結果と比較することが望ましいことを理解できる。
【0044】
TRPM8受容体は、単層細胞を与えるように培養細胞の表面で発現される。それに加えて、またはその代わりに、TRPM8受容体は、組換えシステムによって、または組織サンプルもしくは生検によって供与される。他の場合として、動物、例えばげっ歯類を、TRPM8受容体の資源として使用してもよい。1つの実施態様では、TRPM8受容体は、例えば人間の前立腺癌細胞株LNCaPのような特定の細胞株によって発現される。より具体的には、LNCaPのようなTRPM8を発現することが知られている細胞株を使用する分析から得られる結果は、比較的少ないTRPM8を発現するかまたはTRPM8を全く発現しない細胞株のどちらかを使用する同様の分析から得られる結果と比較される。また、前記方法は、さらにTRPM8チャンネル遮断薬剤の使用を含みうる。
【0045】
本発明の第5の態様では、慢性ニューロパシー痛における鎮痛誘導薬剤の製造のための、本発明の第3の態様で記述された方法によって同定された薬剤の使用が提供される。
【0046】
上記に加えて、本発明者らは、TRPM8活性化の鎮痛効果が中枢神経に媒介されることを確認した。例えば、理論に拘束されるものではないが、TRPM8活性化の影響は、例えば中枢神経系のコンポーネントを調整することができる受容体に依存する。一例として、TRPM8活性化は、グルタメート放出の原因となりうる。また、そういうものとして、脊椎角質(脊髄後角)(dosal horn)中のグルタメート受容体は、慢性ニューロパシー痛の鎮痛誘導の基礎となりうる。従って、TRPM8活性化の効果は、特定のタイプのグルタメート受容体、すなわちグループII/IIIの代謝型受容体(mGluR)に依存しうる。そのため、第6の態様では、グループII/III mGluRを直接または間接的に活性化する有効量の薬剤または化合物を投与する工程を含む、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者を治療する方法が提供される。
【0047】
加えて、本発明の他の態様では、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者における鎮痛誘導薬剤の製造のための、グループII/III mGluRsを直接または間接的に活性化することができる薬剤の使用が提供される。
【0048】
グループII/III mGluRsを直接活性化することができる薬剤としては、例えば2R、4R−APDC、ACPT−III及び/またはAP−4のようなグループII/III mGluR作動薬が挙げられる。さらに、グループII/III mGluRsを間接的に活性化することができる薬剤として、上述のメントール及び/または1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン化合物(例えば、イシリン)のような薬剤が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】末梢TRPM8の活性化及び適度の冷却にはCCI(慢性狭窄損傷)後の鎮痛性があることを示す。
【図2】TRPM8免疫反応性はDRG及び脊髄中に存在し、求心性神経から発生し、CCIに対し同側で増加していることを示す。
【図3】アンチセンスオリゴヌクレオチドによってノックダウンされた特異的TRPM8はCCI後のイシリン-誘導鎮痛を妨げることを示す。
【図4】中枢TRPM8活性化はCCI後鎮痛性であるが、一方、TRPA1活性化は痛覚過敏であることを示す。
【図5】CCI後のイシリン−誘導鎮痛作用は、グループII及びIII mGluR拮抗剤によって妨げられることを示す。
【図6】CCI後のTRPM8-媒介-鎮痛作用の可能な機構の模式図である。
【図7】TRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、またニューロパシー痛モデル(spinal nerve ligation model:SNL,脊髄神経結紮モデル)に鎮痛作用を生じさせることを示す。
【図8】追加のTRPM8活性剤(メトキシ-イシリン及びWS−12)の局所投与もニューロパシー痛のCCIモデルに鎮痛作用を生じさせることを示す。
【図9】追加のTRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、ニューロパシー痛のCCIモデルに誘発された冷刺激アロダイニアに対し鎮痛効果のあることを示す。
【図10】TRPM8活性剤、イシリンの毎日の反復局所投与は、ニューロパシー痛のCCIのモデルで依存性のない鎮痛作用を一貫して生じることを示す。
【図11】TRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、癌誘発骨痛モデルにおいて鎮痛作用を生じさせることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に図面を参照しながら例を挙げて本発明を説明する:
図1:末梢TRPM8の活性化及び適度の冷却にはCCI(慢性狭窄損傷)後の鎮痛性があることを示す。
A,B,C,E)平均値±標準誤差(SEM)として示されたCCI(慢性狭窄損傷)動物からの行動データであり、各グラフはn=6の動物についてのものである。
A)80μMイシリンまたは媒体を含む30℃の浅い水浴中での5分間足浸漬前及び足浸漬後における有害熱に対する足引込み潜伏時間(paw withdrawal latency;PWL;s)及び機械的刺激に対する足引込み閾値(paw withdrawal threshold: latency;PWT;mN/mm2)であり、○:同側の足+イシリン;斜線を付した○:同側+媒体(vehicle);■:対側+イシリン、斜線を付した□:対側+媒体;*は有意な同側−対側(差)を示し、†は薬剤投与前ベースライン(p<0.05)との有意な差を示す。
B)2.5〜500μMイシリン中の足浸漬後10〜15分間計算された熱的テスト(○)または機械的テスト(◆)の同側感作の回復%平均値±SEMの濃度−反応曲線。
C)4mMの(−)−メントール中での足浸漬による同側感作の回復、及びそれほど有力でない立体異性体(+)−メントール及びイソメントール(8及び16mM)の高濃度による同側感作の回復。足浸漬10〜25分間後計算した値は、Aで示されるような実験からのものであり、†は薬剤投与前ベースライン(p<0.05)との有意な差を示す。
D)受容フィールド(ピーク効果)へのイシリンの局所投与前、投与2分後、及び12分後のイシリン−反応性C−線維求心性線維の亜集団からの典型的電気生理学による記録。
E)示された温度範囲で足を5分浸漬後5分間測定した機械的鎮痛。§は浸漬時間帯における自発的な逃避反応を表示する。*は対側足との有意な差を示し、†は浸漬前ベースライン(p<0.05)との有意な差を示す。
【0051】
図2:TRPM8免疫反応性はDRG及び脊髄中に存在し、求心性神経から発生し、CCIに対し同側で増加していることを示す。
(v)DRGのイムノブロット(Immunoblots)は、アンチセンス処理された動物由来のDRG中の128kDaバンドの特異的にノックダウンされた正常ラットDRGにおける、128kDa及び約170、60及び50kDaの他の弱いバンドに泳動しているTRPM8タンパクを含む全体ゲルを示す。さらに別のコントロールでは、TRPM8抗体がTRPM8発現細胞由来の細胞膜で前培養された時、模擬処理では効果が無かったにもかかわらず、128kDaの免疫反応性バンドが消えた。ブロットはさらにGAPDH装薬制御を示す。TRPV1発現(〜90kDaの単一バンド)は、TRPM8アンチセンス処理動物由来のDRGsにおいて変わらなかった。TRPM8タンパク質のイムノブロットは、対側(「CON」)及びI DRGと比較して、GAPDHの変化なしで、神経損傷に対し同側(「IPSI」)DRGで特異的な128kDaバンドの発現を明瞭に増加させた。脊髄(SC)全体の溶解物は、TRPM8レベルにおいて認識可能な変化を示さなかった。しかし、神経損傷に対し同側レベルの増加が粗粒部分で観察された。
B)は、以下のC)〜F)中での免疫組織化学に使用したTRPM8抗体で調査したラットであって、実験に使用されたことのない(ナイーブ)ラットまたはTRPM8アンチセンス処理ラット由来のDRGのウエスタンブロットを示す。抗原ペプチドでの抗体の前処理、またはTRPM8アンチセンス処理により、128kDaの単一の特異的なバンドが消失した。
C)脊髄後根切断8日後に得られたL5脊髄セクションは、ペリフェリン(緑)及びTRPM8(赤)免疫染色され、神経根切断に対し同側の両方のタンパク質を著しく減少させた。
D)CCI動物由来の脊髄後角におけるTRPM8(赤)及びニューロンマーカーNeuN(緑)染色は、分布変化を伴わずにCCIに対し同側のTRPM8が増加し、一方ではNeuNレベルは変わらなかったことを示していた。C)とD)のスケールバーは500μmである。
E,F)神経損傷に対し同側性または対側性であるDRGセクション中及びI動物中におけるTRPM8(赤)と(E)NF−200(緑)または(F)ペリフェリン(緑)との免疫組織化学的共存。
ナイーブ動物では、TRPM8は、有髄(NF−200)細胞中、明白な発現がほとんどまたはなにもないペリフェリン-陽性C-線維中に主として所在する。
【0052】
神経損傷に対し同側のTRPM8発現は、小さなNF−200−陽性細胞中で著しく増加し、一方より少ないTRPM8:ペリフェリン共発現の増加も観察された。スケールバーは50μmである。E)及びF)中の棒グラフは、それぞれTRPM8:NF−200及びTRPM8:ペリフェリン(peripherin)の共発現%(平均値±SEM)を示し、実際の細胞数を上欄に示した。統計的に有意な共発現値(%)の増加がCCIに対して同側の両方のケースで観測された、p<0.05(*)。
【0053】
図3:アンチセンスオリゴヌクレオチドによってノックダウンされた特異的TRPM8はCCI後のイシリン-誘導鎮痛を妨げることを示す。
A,B)有害熱に対する足引込み潜伏時間(PWL,s)及び機械的刺激に対する足引込み閾値(PWT; mN/mm2)を示すアンチセンス処理(n=12)またはミスセンス処理(n=10)したCCI動物に対する同側性(○)、または対側性(■)。データは平均値±SEMを示す。
A)局所イシリンによって通常誘発される鎮痛作用は、PWL及びPWT(* p<0.05)の同側性−対側性の有意な差の持続性によって示されるTRPM8受容体のアンチセンスノックダウン後は観察されなかった。
B)対照的に、ミスセンス処理後、イシリンは、未処理のCCI動物(図1A)でのように、ベースライン値(† p<0.05)との比較で、PWL及びPWTの反応でCCI−誘導された同側感作を有意に回復させた。
C)DRG組織のイムノブロットにより、TRPM8アンチセンスまたはミスセンス処理後のTRPM8及びGAPDHのタンパク質レベルを探査した。TRPM8発現(及び通常CCIに対し同側である発現の増加:図2A)は、アンチセンスによって選択的に減少したが、ミスセンス注入によっては減少せず、一方、GAPDHレベルは変わらなかった。
【0054】
図4:中枢TRPM8活性化はCCI後鎮痛性であるが、一方、TRPA1活性化は痛覚過敏であることを示す。
有害熱に対する足引込み潜伏時間(PWL,s)及び機械的刺激に対する足引込み閾値(PWT; mN/mm2)がCCIに対して同側性(○)または対側性(■)であることを示す。*は、同側性−対側性の有意な相違(* p<0.05)を表す。データは、平均値±SEMを示し、また、特に記載がなければ、各テストはn=6動物を表わす。ラットの鞘内に矢印の時点で注射した。TRPM8活性剤は、
A)イシリン(l0nmol)、及び
B)(−)−メントール(200nmol)であり、共に注射前値に比較して同側性熱的及び機械的感作を有意に回復した(† p<0.05)。
C)対照的に、TRPA1活性剤、シンナムアルデヒド(75nmol)の鞘内投与は、CCI動物に両側性痛覚過敏症及びアロダイニアを産み出した。§(p<0.05)は、同側性及び対側性両方の足の熱的及び機械的な反射反応性の統計的に有意な増加を示す。
D)ルテニウムレッド(0.25nmol)がシンナムアルデヒド(75nmol)誘導過敏症を防止することを示すが、イシリン(10nmol)媒介鎮痛作用(CCIに同側)ではない。数値は平均値±SEM,n=4である。薬剤投与前のベースラインと比較したシンナムアルデヒドまたはイシリンによるPWL/PWT値の統計的に有意な変化が、それぞれ(§)及び(†)として(p<0.05)示され、シンナムアルデヒド(††,p<0.05)の効果であるルテニウムレッド−回復が示されている。
【0055】
図5:CCI後のイシリン−誘導鎮痛作用は、グループII及びIII mGluR拮抗剤によって妨げられることを示す。
(A〜D)有害熱に対する足引込み潜伏時間(PWL,s)及び機械的刺激に対する足引込み閾値(PWT;mN/mm2)(CCIに対する同側性(○)または対側性(■))。
データは平均値±SEMを表わし、各ケースでn=6動物。ラットは、鞘内に注射された(矢印の時点で)。
イシリン(l0nmol)は、A)グループII mGluR拮抗剤 LY341495 (5nmol)、B)グループIII mGluR拮抗剤UBP1112(l0nmol)、または
C)オピオイド受容体拮抗剤ナロキソン(25nmol)と同時に投与した。
A,B)LY341495またはUBP1112のいずれかとイシリンを同時投与した時、それらは神経損傷に対し同側の感作(* p<0.05)PWT/PWL反応の持続によって示されるイシリンの鎮痛効果を消失させた。
C)ナロキソンとイシリンの同時投与は、神経損傷(† p<0.05)に対し同側のPWT及びPWL反応で観測されるイシリン誘導鎮痛作用を妨げなかった。* は同側性−対側性の有意な相違を示し、†は薬剤の有意な同側性鎮痛効果を示す(p<0.05)。
D)局所的に投与されたイシリン(30℃で200μM)の鎮痛効果も、グループII/III mGluR拮抗剤の鞘内注入によって回復した。図は、LY341495(5nmol)またはUBP1112(l0nmol)の同時鞘内注入と共にまたは注入なしでのイシリンの5分の局所投与後、またはmGluR拮抗剤の単独注入後、15〜30分間測定されたPWLまたはPWTのいずれかの同側性/対側性の差の平均回復%を示す。
E)後足皮膚受容フィールドの連続的電動ブラッシングに反応する、CCIに同側の単一の角質ニューロン、及び受容フィールドの隣接領域に局所的に適用したイシリン(30℃で200μM)の効果の典型的な細胞外記録。同様の結果が、薄片III/IV及び薄片Iの両方の例で12のニューロン中8つで観察された。神経発火は、時間に対してプロットされた毎秒(Hz)毎の活動電位として示される。
(i):神経損傷に対し同側性ニューロン中のブラシ誘発発火は、局所的に適用したイシリンによって一貫して抑制された。
(ii):この影響は、20〜60nAでUBP1112のイオン伝導(ionophoresis)により回復した。
(iii):UBP1112取出電流除去後に回復が観察された。
神経損傷に対側性のニューロンはイシリンによって影響されなかった。また、局所媒体は効果がなかった。さらに、UBP1112単独または塩性電流制御イオン伝導は、認識可能な効力を示さなかった。
【0056】
図6:CCI後のTRPM8-媒介-鎮痛作用の可能な機構の模式図である。
この単純化された仮説モデルでは、イシリン、メントールまたは適度な冷却による、求心性亜集団中のTRPM8の活性化は、その後抑制グループII/III mGluR受容体を通じて作用するグルタメートの中枢神経放出を導く。前記抑制グループII/III mGluR受容体は、損傷−活性化侵害受容求心性神経上のプレ-シナプスか、またはおそらくさらに脊椎角質(dorsal horn)ニューロン上のポスト-シナプスのどちらかに位置し、それによってニューロパシー性感作を減弱させる。
【0057】
図7:TRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、またニューロパシー痛モデル(spinal nerve ligation model:SNL,脊髄神経結紮モデル)に鎮痛作用を生じさせることを示す。
ニューロパシー痛のSNLモデルは、Kim and Chung 1992 (Pain 50: 355-363)に従って準備した。ハーグリーヴスの温熱性痛覚過敏テストを上述のようにして実施した。また、イシリン(200μM)を同側性(◇)及び対側性(■)の足に局所的に投与した。数値は平均値±SEMを示す。†は、神経損傷に対し同側の感作の統計的に有意な回復を示す(図1参照)。対側性手足の反射引込み反応上で有意な薬効は観察されなかった。
【0058】
図8:追加のTRPM8活性剤(メトキシ-イシリン及びWS−12)の局所投与もニューロパシー痛のCCIモデルに鎮痛作用を生じさせることを示す。
ニューロパシー痛のCCIモデルで、温熱性痛覚過敏をハーグリーヴステストによって評価し、またTRPM8活性剤(濃度30μM)を、局所的に投与した(図1参照)。数値は平均値±SEMを示し、神経損傷に対し同側性(◇)または対側性(■)、†は、神経損傷に対し同側の感作の統計的に有意な回復を示す。
【0059】
図9:追加のTRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、ニューロパシー痛のCCIモデルに誘発された冷刺激アロダイニアに対し鎮痛効果のあることを示す。
ニューロパシー痛のCCIモデルにおいて、冷刺激アロダイニアを、コントロール(30℃)から緩和冷却(20℃)に温度を下げたペルチエ制御踏板からの瞬間足引込数を数えることにより評価した。イシリン(200μM)を、局所投与した(図1参照)。数値は平均値±SEMを示し、神経損傷に対し同側性(◇)で、†は、冷却アロダイニアの統計的に有意な回復を示す。踏板を30℃に維持しても、瞬間足引込のベースラインレベルになんの変化も起こさず、イシリンの局所投与に影響されなかった。
【0060】
図10:TRPM8活性剤、イシリンの毎日の反復局所投与は、ニューロパシー痛のCCIのモデルで依存性のない鎮痛作用を一貫して生じることを示す。
ニューロパシー痛のCCIモデルは、温熱性痛覚過敏をハーグリーヴステストによって評価し、イシリン(200μM)を連続して4日間(図1のように)局所投与した。数値は、神経損傷に対し同側性(◇)または対側性(■)の平均値±SEMを示し、†は、神経損傷に対し同側の感作の統計的に有意な回復を示す
【0061】
図11:TRPM8活性剤、イシリンの局所投与は、癌誘発骨痛モデルにおいて鎮痛作用を生じさせることを示す。
癌誘発性骨痛モデルを、Medhurst et al.,2002,Pain,96:129〜40.に従って準備した。A)では、機械的アロダイニアのフォンフライ式フィラメントテストを上述のようにして行ない(図1)、B)では、損傷を受けた手足の動きに喚起された痛みを、ゆっくり回転するロータロッド試験で異常に長引く足持上げの頻度を数えることにより評価した。†は、神経損傷に対し同側の感作の統計的に有意な回復を示す。
【0062】
[材料及び方法]
[動物]
実験はすべて、英国動物(科学的方法)法、1986年、及びエディンバラ大学ガイドラインに従って行なった。すべての実験で、120〜250g質量のウィスター系成熟雄ラット(Harlan,UK)を使用した。
[ニューロパシー痛モデル及び炎症痛モデル]
痛みモデルは、ハロセン麻酔下で作製した(ゼネカ(Zeneca)社、チェシヤー、英国)。ニューロパシー痛の慢性狭窄損傷(CCI)モデルに対し、4本のひもを緩く結び坐骨神経を太もも中央で締めつけた(先述の[39]参照)。炎症痛モデルは、右後足内側(腹部)表面に100μLの完全フロイントアジュバント(CFA,シグマ・アルドリッチ株式会社)を注入することにより作製した[39]。末梢脱髄誘発痛モデルは、坐骨神経へのリゾレシチンの局所性投与によって作製した[40]。薬学実験、電気生理学実験及び組織削除を行なった時、手術後、CCIで10〜16日の間、CFAで1〜3日の間、及びリゾレシチンで7〜14日の間に、行動感作のピークが観察された。
【0063】
[行動試験]
熱感度を、後足中央足裏無毛表面に向けられた有害熱刺激(ハーグリーヴス熱刺激装置、リントン計器使用、ディス、英国)に反応する足引込み潜伏時間(PWL,s)を測定することにより評価した。機械的感度は、先述のように[39]、基準化したフォンフライ式フィラメント(ストエルティング(Stoelting)、イリノイ、米国)に対する足引込み閾値(PWT(mN/mm2))として記録した。有害低温に対する感度は、1cmの深さの4℃の水を含むアルミニウム床を備えた水浴に動物を置き、足が20秒(s)以上停止状態に保持される時間を計測して評価した。
【0064】
[薬剤の鞘内投与]
下記の薬剤を、37℃で、50μL容生理食塩水ベース媒体中で鞘内投与した。
イシリン(2.5−200μM,生理食塩水中0.2%ジメチルホルムアミド(DMF)使用)、LY341495(100μM,生理食塩水中)、UBP1112(200μM,生理食塩水中)、2R、4R−APDC((2R,4R)−4−アミノピロリジン−2,4−ジカルボキシレート),300μM,生理食塩水中)、ACPT−III((lR,3R,4S)−l−アミノシクロペンタン−1,3,4−トリカルボン酸),3mM,生理食塩水中)、AP−4、((L−(1)−2−アミノ−4−ホスホノブチリックアシッド),3mM,生理食塩水中)、ナロキソン(0.5mM,生理食塩水中)、NMDA(75μM,生理食塩水中)、及びACPC(1−アミノシクロプロパンカルボン酸,15μM,生理食塩水中) (トクリスクックソン、ブリストル、英国)、(−)−メントール(1R,2S,5R−(−)−メントール,4mM,生理食塩水中)、シンナムアルデヒド(1.5mM,生理食塩水中)、及びルテニウムレッド(5μM,生理食塩水中)(シグマ-アルドリッチ社、英国)、及びアリシン(0.5mM,生理食塩水中,0.5%DMF使用)、及びジアリルジスルフィド(DADS,1mM,生理食塩水中,0.5%DMF使用)(LKTラボラトリーズ社,セイントポール,MN,USA)。
【0065】
薬剤は、先述のように[39]、ピークレベルの行動感作現象の動物において、25−ゲージ針マイクロシリンジ(BDバイオサイエンス,オクスフォード,英国)を使用して、簡単なハロセン麻酔下、L5/6鞘内スペースに注入された。行動反射試験は、麻酔を回復させる注射15分後に開始し[40,41,42]、その後ベースラインレベル(各場合n=6)に読みが戻るまで5分ごとに続けた。本発明者ら、及び本発明者ら以外の者[40,41,42]は、15分で麻酔薬から完全に回復することを見出した。媒体または注入操作による効果の可能性を除去するために適切なすべての制御が行なわれた。
【0066】
TRPM8チャンネル活性剤、イシリン及び(−)−メントールは、CCI及び実験に使用されていない動物(ナイーブ動物)中で試験した。イシリンの効果を、CFA-誘発炎症、またはリゾレシチン誘発脱髄の動物中でさらに評価した。イシリンは、また、μ-オピオイド受容体拮抗剤ナロキソン、グループII代謝共役型グルタメート受容器(mGluR)拮抗剤、LY341495、またはグループIII mGluR拮抗剤、UBP1112と同時投与した。グループII mGluR作動薬、2R,4R−APDC、及びmGluRグループ作動薬、ACPT−III及びAP−4の結果と同様、これらの拮抗剤単独の結果もCCI動物中で評価した。TRPA1チャンネル活性剤、シンナムアルデヒドを、単独で及びイシリンと共に、CCI動物中、及びナイーブ動物中で試験した。さらに、TRPA1チャンネル活性剤、アリシン及びジアリルジスルフィドを、ナイーブ動物中で評価した。CCI動物中のイシリンの効果及びシンナムアルデヒドの効果を、両方共、ルテニウムレッドの共存下で調査した。
【0067】
[薬剤の局所投与]
イシリンは、1cmの深さ(足をカバーするのに十分な)の水浴(サーモスタットで30℃の温度にコントロールされている)中に5分間CCIまたはナイーブ無拘束ラットを置くことにより、またはラットに非常に軽い麻酔をかけて5mLのイシリン(500μM-5mM,0.2%トゥイーン80(Tween80)水溶液中に45%ジメチルホルムアミド媒体を含む)を含んでいる小さなチューブ中に後足を5分間浸漬することによって、2.5〜500μMの濃度(0.2%のDMFを含む水中)で投与され、その後、60〜80分で感覚テストを行った。(−)−メントール及びその立体異性体イソメントール(1S,2R,5R−メントール)及び(+)−メントール(1S,2R,5S(+)−メントール)(4〜16mM,80%エタノール中)の効果をさらに評価した。同様の実験での関連する媒体を常に評価した。対照として、シンナムアルデヒド(水中1.5mM)の効果、及び追加のイシリン(80μM,0.2%DMFを含む水中)を含むシンナムアルデヒドの効果を、ナイーブ動物中で評価した。イシリン(80μM)の効果を、TRPM8のノックダウンのためのアンチセンス処理及びミスセンス処理を受けたCCI動物中でまたは直ちに続くLY341495もしくはUBP1112のいずれかの鞘内注入CCI動物中でさらに評価した。実際の皮膚表面温度を、皮下サーミスター・プローブによって測定し、浴温より約0.5℃高い温度で平衡となることが確認された。CCIラットにおける異なる温度(10〜22℃で5分間)での簡単な足浸漬の結果を、機械テストによって評価した。16℃の冷温度に5分間浸漬後のCCI中の同側感作の回復に対する鞘内LY341495またはUBP1112の効果を測定した。動物が麻酔をかけられていないときは、反射試験を浸漬5分後に開始したが、その場合の回復時間は15分であった。6匹の動物についてすべての薬学実験を繰り返しテストした。
【0068】
[脊髄神経根切断(dorsal rhizotomy)]
脊髄中のTRPM8発現が主にプレ−シナプスかまたはポスト−シナプスかを確証するため、脊髄神経根を露出するために椎弓を切除後、片側L2−6脊髄神経根切断を麻酔下で行なった。8日後に、組織を除去し、免疫組織化学用処理をした。
【0069】
[ウェスタンブロット]
実験は、先述のように[39]、標準手順によって行なった。より詳しくは補助教材参照。
【0070】
[免疫組織化学]
実験は、先述のように[40]行なわれた。より詳しくは補助教材参照。
【0071】
[TRPM8のアンチセンス・ノックダウン]
アンチセンス及びミスセンスオリゴヌクレオチドは、5'及び3'末端の2つの最終位置でのホスホロチオエート結合を含む22-マーであった(MWGバイテク,エーベルスベルク,ドイツ)。ラットTRPM8遺伝子のオープン・リーディング・フレームのスタートと比較して塩基−10から塩基+12まで拡張されたアンチセンス:5' C**CGAAGGACATCTTGCCGT**G 3',ここで * ホスホロチオエート結合を表わす。ミスセンスは、残基3、11、14及び22で適切なように、C/GまたはA/Tの4つの反転を含めて設計され、全面的にG/C内容を保存する。両方のオリゴヌクレオチドのBLAST探索は、いずれの既知の遺伝子配列に対しても有意な相補性を示さなかった。14日間または7日間、オリゴヌクレオチド(無菌の生理食塩水中1μg/μL)を含む浸透性ミニポンプ(それぞれ、CCI実験用またはナイーブ動物の電気生理学実験用-アルゼットミニポンプ,モデル2002,2001年;チャールズリバー、英国)を、L5/6レベルの脊髄硬膜下に挿入されたカニューレ(排管)に接続し、0.5μL/hの予測注入速度を生じさせた。CCI手術を、ミニポンプ埋め込みと同時に行なった。感覚神経テストを、CCI損傷をさらに受けた動物における行動感作の時間的経過を評価するために行なった。イシリンを、カニューレの注入に伴う干渉も防ぐように鞘内投与ではなく、局所投与した。末梢神経記録及び組織収集を、タンパク質ノックダウン時間をみて4〜5日間隔後に実行した。
【0072】
[電気生理学]
末梢:主要な求心性神経に対するイシリンの局所投与の結果を評価するためにナイーブ動物(n=7)で伏在静脈の(感覚)神経の記録を行った。
さらに、4〜5日前にTRPM8アンチセンスまたはミスセンス処理を受けた動物について記録を行った。ラットに麻酔(0.6mLの25%ウレタン/100グラム,i.p.で)をかけ、伏在神経をその関連する静脈及び動脈から露出させて解剖した。流動パラフィン下でさらに解剖して、少数の線維を含む求心性神経標本の識別をした。単一の識別された求心性神経繊維の伝導速度を、複極式電極及び末梢刺激技術を使用して測定した[43]。標本の単離後、イシリン(0.2%のDMFを含む水中200μM)、(−)−メントール(25%のエタノール中4mM)、レジニフェラトキシン(エタノール中lmM)または媒体のみを後足受容フィールドに投与し、チャート・プログラム(バージョン3.6)を使用してニューロンの反応を記録した。
【0073】
中枢:先述したように[39]、CCI動物で脊髄後角ニューロンの記録を行った。ハロタン導入後、頚静脈及び気管にカニューレを挿入し、静脈内麻酔薬:α-クロラローゼ(0.6mg/kg,フィッシャー)、ウレタン(1.2mg/kg,シグマ)及び実験を通して要求されるα-クロラローゼの少量の補足的量を投与した。コア(中心部)体温を、サーモスタットで制御された加熱毛布によって37〜38℃に維持した。動物は定位固定装置に置いて、胸腰部脊椎を3対のスワンネックのクランプを使用して支持した。椎弓切除はL2−L5で行ない、寒天(37℃の生理食塩水中2%)を機械的安定性を増加させるために露出した脊髄に投与した。記録領域上で寒天及び脊髄硬膜を除去し、流動パラフィンをプールに注入した。4M NaCl(歯先円直径4〜5mm及びDC抵抗5〜8MΩ)を満たした7筒(barreled)のガラス管微小電極の中心筒を通して薄片I−IV中の単一の多重受容性ニューロンからの細胞外記録を行った。遠位後足の毛包神経が分布したニューロンの受容フィールドは、無害のブラシ刺激によって識別された[39]。イシリン(0.2%のDMFを含む水中200μM)を個々に記録されたニューロンの受容フィールドに末梢投与し、回転ブラシに対するニューロン反応の効果をスパイク2(Spike2)プログラム(バージョン3.2,CED)を使用して記録し分析した。グループ III mGluR拮抗剤UBP1112(水中20mM),pH8.5、及びコントロール1M NaCl,pH8.5を、イシリンに対するニューロン反応の効果を測定するために、20nAと80nA(ニューロフォアBH2電離泳動システム,医療システム,グレートネック,NY)の間の電流を使用して側面筒電極からイオン伝導した。
【0074】
[統計]
データはすべて、p値<0.05を有意とするシグマスタットソフトウェア(バージョン2.03)を使用して統計的有意性を分析した。神経損傷に対し同側の足と対側性の足の間の熱感度の差は、スチューデント式テスト(Student' t-test)を使用して評価した。薬物療法の影響を、一元配置反復測定分散分析(One-way Repeated Measures ANOVA)と後続するダンネットの事後多重比較テスト(Dunnett's post hoc multiple comparisons test)によって分析した。機械的感度に対する等価非母数テスト(equivalent non-parametric test)は、同側性:対側性の違いをテストするウィルコクソン・ランク・テスト(Wilcoxon rank test)及び薬剤投与前コントロール値からの変更に対するフリードマン反復測定分散分析(Friedman Repeated Measures ANOVA)と後続するダン試験(Dunn's test)であった。ウェスタンブロット濃度計値をウィルコクソン検定を使用して比較検定し、免疫組織化学細胞数を一元配置分散分析(One-Way ANOVA)によって分析し、電気生理学によるスパイク頻度を、順位に関する一元配置分散分析(One-Way ANOVA on ranks)によって分析した。
【0075】
[ウエスタンブロット]
同側性または対側性L4〜L6後根神経節(dorsal root ganglia:DRG)を、CCI動物(n=6)、及びI動物から取得した。DRGは、またノックダウンTRPM8発現に対するアンチセンス処理かまたはミスセンス処理のいずれかを行ったナイーブ動物及びCCI動物(n=5)から取得した。CCI動物からの脊髄を2等分し、ナイーブ動物からのサンプルも同様に処理した。個々のサンプルは、質量を測定し、切除して直ちに均質化した。全溶解液調製については、組織を、ラエムリ(Laemmli)溶解バッファ±(トリス(トリス-ヒドロキシメチルアミノエタン)、50mM、pH7.4、5%のメルカプトエタノール及び2%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む))の20容量中で均質化し、5分沸騰し、凍結した。脊髄サンプルを含むいくつかのケースでは、粗製微粒子フラクションを、細胞質ゾルタンパク質と比較し、膜結合型の相対的な豊富化のために調製した。組織を、氷冷トリス・バッファ(50mM,pH7.4,1%のプロテアーゼ阻害剤カクテルIII(カルビオケム,メルクバイオサイエンス株式会社,ノッティンガム,英国)を含む)の20容量中で均質化し、その後、ラエムリバッファ中の小球を可溶性にする前に、4℃で45分間の1l000gで遠心分離した。ウェスタンブロットは、先述のように[39]実行した。タンパク質は、「NuPageシステム」(インビトロジェン(Invitrogen)株式会社、ペーズリー、英国を使用する)3〜8%のトリス−アセテート勾配ゲルのSDS−PAGEによって分離した。ブロットは、TRPM8に対するラビット・モノクローナル抗体(TRPM8残基278〜292及び1090〜1104(ヒト)に対するもの; 1:500(アビーム株式会社、ケンブリッジ、英国)、または場合によっては、TRPM8残基656〜680(ラット)に対するもの; 1:100、フェニックスペプチド,ベルモント,CA,USA)を用いて、TRPV1に対するラビット・ポリクローナル抗体 (1:250,ケミコン(Chemicon)インターナショナル株式会社、ハロー、英国)を用いて、またはグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素に対するマウスモノクローナル抗体(GAPDH、1:750;ケミコン)を用いて培養し、免疫反応性バンドをニューロン慢性関節リウマチ連結第2抗体及び増強化学発光によって検知した。走査分析(Scan Analysis)(エルシビア(Elsevier))プログラムを使用して、タンパク質バンドの定量的濃度分析を行なった。
【0076】
TRPM8(またはコントロール)を異種発現する細胞からの細胞膜調製物または抗原ペプチド(またはコントロール)のいずれかを有する抗体をプレインキュベートすることによって、抗原の前吸収をコントロールし、TRPM8抗体の特異性を評価した。COS7細胞を、pCMV6−XL4発現プラスミドまたは空ベクター(オリジーン(OriGene)テクノロジーズ社,ロックヴィル,MD,USA)中のヒトTRPM8で感染した。試薬は、ジーンジュース(GeneJuice)試薬(ノバーゲン(Novagen)、メルクバイオサイエンス株式会社、ノッティンガム、英国)を、48時間後に使用した。細胞は断片として、1%プロテアーゼ阻害剤カクテルIII(カルビオケム)を含む氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、均質化し(イストラル(Ystral)ホモジナイザー)、その後10分間(低速ペレットは捨てた)1000gで遠心分離した。その後、上澄みを30分間48,000gで遠心分離し、これに由来するペレットを、一次抗体バッファ(2%BSA、PBS中0.1%トゥイーン(Tween)−20)中で再懸濁した。アンチ−TRPM8(残基278〜292及び1090〜1104;ヒト)抗体を、TRPM8発現またはコントロール膜懸濁液に加え、使用に先立って16時間4℃で回転させた。アンチ−TRPM8(残基656〜680; ラット)抗体の場合では、抗原ペプチドの利用が可能であり、従って、抗体部分は、PBS中1mg/180μLの保管濃度に溶解したペプチドでプレインキュベートし、4℃で16時間回転することによって、5μgペプチド:1μg抗体の比率で使用した。コントロール部分をPBS単独で処理した。
【0077】
[免疫組織化学]
CCIに対し同側性または対側性である腰部セグメントL5/6またはナイーブ動物または神経根切断された動物由来のDRG及び脊髄を取得した。組織を液体窒素で急速冷凍し、OCT(セルパスピクチャー(Cell Path pic.),ポーイス,ウェールズ(英国))に埋め込んだ。冷凍部分(15μm)を切断し、ポリ−L−リジン・スライド(メルク−BDH)に解凍−積載した。スライドを、10%正常ヤギ血清、0.1M PBS、pH7.4、0.2%トリトンX−100、4%魚皮ゼラチン中に、室温で1時間閉じ込め、バッファ(0.1MPBS、pH7.4、0.2%トリトンX−100、4%正常ヤギ血清、4%魚皮ゼラチン)中適切な一次抗体で一夜培養した。使用した抗体は次のとおりである:残基656〜680(ラット)(フェニックスペプチド(Phoenix Peptides),1:450)に対するウサギ・ポリクローナル・アンチ−TRPM8、マウス・モノクローナル・アンチ−NF−200(シグマ,1:1000)、マウス・モノクローナル・アンチ-ペリフェリン(ケミコン(Chemicon),1:250)、マウス・モノクローナル・アンチ-NeuN(ケミコン,1:500)。免疫組織化学に使用するTRPM8抗体の特異性を評価する実験において、抗体部分は、上記のようにして、抗原ペプチドまたはPBSコントロールでプレ−インキュベートした。スライドを洗浄し、トリトンX−100を除いた同一バッファ中適切な蛍光性2次抗体で培養し(ヤギ・アンチ−ウサギ・アレキサフルオル568(Alexa Fluor 568) 1:750、ヤギ・アンチ−マウス・アレキサフルオル488(Alexa Fluor 488) 1:500,モレキュラー・プロベ(Molecular Probes),OR,USA)、洗浄し、To−Pro核染色(1:1000、To−Pro−3−沃化物,モレキュラープローブ)で染色し、カバーグラスし、密封した。上記で一次抗血清を取り除いたように、コントロール部分を処理した。セクション部分は、ライカ(Leica)TCSNT共焦点顕微鏡(ライカマイクロシステム(Leica Microsystems GMBH),ドイツ)を使用して視覚化した。画像解析は、イメージ・ツール・ソフトウェア(UTHSCSA イメージ・ツール・バージョン3.0)で行ない、実例をアドビ・フォトショップ7.0(Adobe Photoshop 7.0)を使用して調製した。細胞数のカウントは、各グループ中各々3匹の動物に由来する、5〜8の任意に選択されるDRGセクション部分(100つぼに分離)で行ない、明瞭な核を備えたニューロンだけを数えた。結果は、ペリフェリン/NF−200ラベルされたすべてのセクション部分由来の細胞総数に対する、TRPM8ラベルされた細胞の割合として示した。
【0078】
[結果]
[TRPM8チャンネルの末梢活性化による神経損傷誘発反射過敏化の回復]
潜在的臨床使用のモデル化を目的として、本発明者らは、坐骨神経慢性狭窄損傷(CCI)のラットを浴中に置くことにより、皮膚温度に対する局所的影響も回避するため30℃に維持した1cmの深さの薬剤溶液により、足にイシリンを局所投与した。5分後、イシリン(80μM)は、媒介物無し(水中0.2%ジメチルホルムアミドを含む)で、熱的及び機械的刺激に対するCCI誘導行動反射過敏化の驚くべき回復をもたらした(図1A)。濃度依存効果が2.5μMから最高500μMまで観察され、対側性またはナイーブ動物の反応に対する影響はなかった(図1B)。著しく高いイシリン濃度で、本発明者らは、CCIに対し及びナイーブ動物において同側性及び対側性(表1)の反射感度を増加させる傾向が開始されるのを観測した。前記反射感度は、テストされた最も高い濃度、5mMでのみ、機械的及び熱的テスト(遅延が認められる)において統計的に有意であった。
【0079】
【表1】

【0080】
反射反応に対する有意な薬剤効果が示される。†は、ベースラインからのイシリンの鎮痛効果を示す有意な増加を示し、§は、ベースライン値からの痛覚過敏効果を示す有意な減少を示す。
【0081】
この結果は、イシリンの低濃度における顕著な鎮痛作用とは相違し、増感状態に特異的でなかったように、他の標的または非特異的作用との弱い相互作用によると思われる。増感反応の特異的な回復は、他の選択的TRPM8活性剤、(−)−メントール(4mM)によっても生じた。また、立体異性体、イソメントール及び(+)−メントールは、数倍弱いTRPM8作動薬であり[44,45]、8mM及び16mMの濃度で増感反応の回復を生じさせた(図1C)。
【0082】
イシリンがTRPM8を含む求心性神経を活性化することが予測されるので、本発明者らはイシリンの局所投与後の伏在神経求心性神経の発火活性を記録した(図1D)。神経を解剖して(C−及びA5−求心性神経を代表する[46])細径求心性神経の少数調製物を作った(伝導速度を2.6ms-1まで上げた)。後足受容フィールドに投与されたイシリン(200μM)は、記録した細径求心性神経の21.6%(185のうち40)の発火頻度において有意な増加を生じさせ、ベースラインからの発火頻度において平均7倍の増加を示す4.5±2.5Hzから31.6±3.4Hzであった(ピーク効果までの平均時間3.3±0.5分)。イシリンは急速な減感を生じさせず、これは、いくつかの報告と一致し[47]、他の報告とは一致しない[48]。一貫して復元が観察された。同様の結果が毛状及び無毛の両皮膚から得られた。大きな髄鞘を有する機械的刺激受容体(伝導速度6.8〜15ms-1,n=43)は影響されなかった。
【0083】
TRPM8を媒介としたメカニズムと一致した16〜20℃で5分間の足浸漬は、また統計的に有意な機械的鎮痛作用を生じさせた(図1E)。皮下サーミスタ温度プローブからの記録は、皮膚深部温が、同様の状態で5分後の浴温より0.5℃高かったことを示していた。この温度はTRPM8を活性化する予測される範囲にあり、無害冷感受性線維を刺激する。14℃より低い浸漬温度(TRPM8のほか、さらに他の冷センサーが活性化される範囲)では、後足浸漬時間帯に制限された活性な侵害受容性引込み反射神経を誘発し、侵害受容性冷線維の既知の温度活性化範囲に一致した[49]。
【0084】
[求心性神経及び脊髄角質表面におけるTRPM8の局在性:神経損傷後の発現増加]
DRG及び脊髄におけるTRPM8の存在及び局在性を免疫ブロット及び免疫組織化学により検討した。ラエムリ(Laemmli)ライシス(lysis)バッファ及びSDS−PAGE中のDRGの急速な均質化後、TRPM8残基278〜292及び1090〜1104(ヒト)[50]に対して産生されるウサギ・ポリクローナル抗体で探査されたイムノブロットは、約128kDa(TRPM8予測分子量)で単一の強いバンドを示し、約170、60及び50kDaで弱いバンドが観察された(図2A)。抗原-前吸収及びアンチ-ノックダウン・コントロールは、両方共、使用条件下、約128kDaでTRPM8が確認されるこの抗体の特異性と一致していた。TRPM8発現プラスミドで感染したCOS7細胞由来の細胞膜を有する抗体のプレインキュベーション(前保温)は、128kDaのバンドを消失させたが、空ベクターの細胞由来の細胞膜を有する偽物前吸収は、128kDaのバンドを消失させなかった(図2A)。同様に、ナイーブ(非CCI)ラットに対する5日にわたるTRPM8アンチセンス・オリゴヌクレオチドの鞘内投与は、128kDaバンド(図2A)のほとんど完全なノックダウンの原因となった。一方、ミスセンス・コントロール・オリゴヌクレオチドは効果がなかった(下記参照)。髄腔内に投与された蛍光−ラベル・オリゴヌクレオチドは、最初の投与後4時間ですぐにDRGに効果的に浸透することが示された[51]。各ケースおいて、弱いバンドが少なくとも50及び60kDaに残されており、従ってこれらの条件の下における抗体の非特異的相互作用を表わしているものと思われる。さらにコントロールとして、本発明者らは、TRPV1免疫反応性はTRPM8アンチセンス試薬での処理によって影響されなかったこと及びハウスキーピング酵素(恒常的発現酵素)GAPDH(36kDa)は各レーン中に均等にある(図2A)ことを示した。神経損傷後、同側性に特異的な128kDaTRPM8−免疫反応性バンドの発現に著しい増加があったが、対側性DRGではなかった(図2A)。一方、GAPDHの免疫反応性は不変だった。GAPDHパーセント(%)としてのTRPM8発現の濃度比率は、CCIに同側性で80.7±4.1であり、CCIに対側性で観測された濃度比率(49.3 ± 3.2)及び実験に使用していないDRGでの濃度比率(50.7 ± 2.7)より有意に大きかった(濃度比率;平均値 ± SEM, n=5〜6)。L4−5脊髄抽出液は、TRPM8免疫反応性が中枢に存在することを示し、粗製微粒子フラクション(11,000gで45分間遠心分離)の調製後、これらは、損傷に対し同側性である発現の一貫した増加を示した。CCIに対し同側性の濃度計の値は、ナイーブ動物の198±6.7%であった(p<0.05; 平均値±SEM,n=5)。しかし、対側性の値は、125±7.1%(p>0.05)であった。
【0085】
免疫組織化学が、TRPM8残基656〜680(ラット)[52]に対するウサギ・ポリクローナル抗体を使用して実行され、それらの特異性の課題に、抗原の前吸収及びアンチセンス・ノックダウン・コントロールによって取組んだ。ペプチド抗原とのプレ−インキュベーション後、DRG細胞の個別の亜集団で観察されるラベリングが無くなった(陽性細胞は観測されず、各12の500μm2セクション上で数えられ、抗体の偽物処理をした500μm2DRGセクション当たり平均5.3±0.4TRPM8-陽性細胞、及び抗体を処理していない500μm2DRGセクション当たり5.1±0.5TRPM8-陽性細胞と比較した)。イムノブロットでは、抗体は、ナイーブ動物のDRG組織の約128kDaで単一のバンドをラベルし、それは、ペプチド抗原の前吸収またはTRPM8アンチセンスの5日前鞘内注入によって無くなった(図2B)。脊髄の免疫組織化学染色は、脊髄のTRPM8はC-線維マーカー、ペリフェリンのように脊髄後角表面で大部分は発現されること(図2C)、及び脊髄神経根切断(L2−6)後TRPM8(及びペリフェリン)免疫反応性の大部分は同側に失われ(約80〜90%減少)、これは脊椎TRPM8は大部分求心性神経に由来することを示唆している。イムノブロットの結果の確認では、TRPM8-類似免疫反応性のレベルは、損傷(約70〜80%程度)に対し同側性の脊髄角質中で増加したが、ナイーブ動物中のそれへの同様な分布を維持した(図2D)。
【0086】
求心性神経TRPM8発現の増加がDRG細胞の特定の亜集団に生じたかどうか確証するために、本発明者らは、有髄求心性神経(ニューロフィラメント(神経細線維)−200;NF−200[53])及び無髄求心性神経(ペリフェリン[40])のマーカーでTRPM8共局在化を検討した。ナイーブラットでは、TRPM8免疫反応性は、大部分は、無髄DRG細胞亜集団に制限され(8.3±0.2%のペリフェリン-陽性細胞;408細胞のうち34)、有髄NF−200−陽性細胞では、単に最小で発現された(1.3 ± 0.5%;445細胞のうち6)。しかしながら、CCI後、TRPM8発現は、7.9±1.2%(390細胞のうち31)及び15.5±0.8%(412細胞のうち64)に対し、それぞれ、NF−200−及びペリフェリン陽性細胞の両方で、有意に同側に増加した。対応する対側性の値は、2.0 ± 0.4%(346細胞のうち14)及び9.2 ±0.4%(452細胞のうち42)で、ナイーブ動物と変わらなかった(図2E,F)。3CCI及び3ナイーブ動物から得られたデータは、15〜21セクションのいたるところで計測された。他のTRPM8−発現NF−200−陽性細胞は小さく(平均直径,19.7±0.8μm)、A5有髄ニューロンと推定された[53]。NF−200−またはペリフェリン-陽性細胞の直径において、あるいはセクション当たりのNF−200−またはペリフェリン-陽性DRGニューロンの数において、有意な相違はなかった。
【0087】
[イシリン誘導鎮痛のメディエーター(mediator)としてのTRPM8の分子同定]
イシリン鎮痛におけるTRPM8の特定の関与を定義するために、本発明者らは、さらに、アンチセンス・オリゴヌクレオチド・ノックダウン戦略を利用した。TRPM8アンチセンスまたはミスマッチ・コントロール・オリゴヌクレオチドは、CCI後展開する感作に平行して、13日間鞘内投与された。CCI誘発行動反射感作の展開は、熱的痛覚過敏症及び機械的アロダイニア(図3A,B) 及び冷アロダイニアを含んでいても影響を受けることはなかった(コントロールCCI動物は、4℃の水からの神経損傷に対し、処置後9〜11日で、ピークで8.1±0.5秒間の同側性の足持ち上げを示し、一方、アンチセンス-処理されたCCI動物における対応する値は7.6±0.6秒であった)。対照的に、足に投与された80μMイシリン(図1A)によって通常生じるニューロパシー性反射過敏化の回復は、アンチセンス処理によって無くなったが(図3A)、ミス-センス試薬ではそうならなかった(図3B)。アンチセンス-及びミス-センス-処理された動物中のイシリン処理後10〜25分間にわたる同側感作の回復平均値±SEM%は7.7±7.4%及び82.8±6.9%であり、それぞれPWL9.4±8.2%及びPWT58.7±8.2%である(ミス-センス-処理されたが、イシリン(p<0.05)の有意な影響を維持する、アンチセンス-処理されなかった動物を含む)。アンチセンス浸透流ポンプが消耗したときも、まだ、動物は、ニューロパシー(神経痛)で(14日のミニポンプ及びCCI挿入処置後18日)、イシリンに対する反応は復活して、PWL感作が83.7±10.1%回復し、PWTについては54.0±7.2%だった。ノックダウンの有効性をSDS−PAGE/免疫ブロットによって評価した。同側性及び対側性DRGの両方における128kDaのTRPM8免疫反応性バンドの発現は、アンチセンス試薬によって大幅に減少し、通常神経損傷に対し同側性と観測されるTRPM8発現の増加が妨害された(図3C)。ミスセンス試薬は、処理していないCCI動物(図2A)におけるそれと同様なTRPM8発現を示す効果がなかった(図3C)。ミスセンス-処理された動物では、TRPM8:GAPDH比率は、対応するコントロール値(図2A及び上図)同様、CCIに同側性で77.9±2.0%、及び対側性で52.9±2.1%であり、一方、アンチセンス-処理された動物では、値は非常に低かった(19.8 ± 2.2% 及び 14.9 ± 2.1%, それぞれ, 平均値 ± SEM,n=5)。
【0088】
TRPM8のアンチセンス・ノックダウンが、求心性神経における関連する機能変化の原因となることを確認するために、ポンプ挿入の4〜5日後に、TRPM8アンチセンスまたはミス-センス・オリゴヌクレオチドの鞘内投与を受けるナイーブ動物について伏在神経の記録を行った。局所イシリン(200μM)によって喚起された発火頻度の増加は、アンチセンスを受ける動物で強く減少した。記録された34のスロー伝導線維のうちの3つのみ(8.8%)が、薬剤に反応して部分的な活性化を示し、ナイーブ動物中の細径求心性神経の20%以上で観察された7倍の増加と比較して、5.8±1.4〜12.7±0.6Hzのベースラインから、発火をほぼ2倍増加させた。対照的に、ミス-センス動物は、記録された40の線維中25%において、3.3±0.7〜23.1±3.2Hzのベースラインから、発火頻度の7倍の増加を示した。ミス-センス処理された動物中で、同様に、局所(−)−メントール(4mM)は、平均発火頻度(4.5±2.9〜38.9±7.6Hz)において約8倍の増加を生じさせ、20%の線維(記録され同定された求心性神経35)を活性化させた。これは、明らかに活性化された求心性神経線維がアンチセンス-処理された動物中にないことと比較される(平均発火頻度4.0±1.8Hzバックグラウンド、4.8±1.9Hz投薬後、記録され同定された求心性神経28)。しかしながら、TRPM8アンチセンス処理は、局所投与レシニフェラトキシン(lmM)(コントロールとして作用する、強いTRPV1作動薬)の効果を変えなかった。アンチセンス-処理された動物では、レシニフェラトキシンは、活性化された求心性神経の発火頻度を6倍増加させたが(ベースライン4.5±0.7〜ピーク応答25.9±1.8Hz、記録された28から活性化された16の求心性神経)、それは、ミス-センス-処理した動物での反応と同様であった(発火頻度4.6±2.8〜24.8±3.1Hzで平均5倍の変化を示した)。
【0089】
[TRPM8活性剤の中枢鞘内投与もニューロパシー性敏感化を抑制する]
TRPM8は一次知覚ニューロンの中枢末端でもそれらの末梢末端でも存在するので(図2B,C,[54,55])、本発明者らは中枢末端近くのTRPM8活性剤の鞘内投与も鎮痛作用を生じさせるかどうか検討した。イシリン(10nmol)の鞘内注入は、熱的及び機械的テストにおいてCCI-誘発行動反射感作の強い回復を生じさせた(図4A,p<0.05(55分まで))。CCIラットにおける(-)-メントール(200nmol)の鞘内注入もまた、感作(敏感化)反応を有意に回復させ、それは35〜40分続いた(図4B)。TRPM8でのイシリンのより高い性能及び効能により[15]、代表的TRPM8活性剤として主にイシリンを有効に活用してさらに実験した。イシリンは、熱的及び機械的テストの両方で神経損傷側に制限された用量依存的鎮痛効果を生じさせ、0.125nmolで統計的に有意であり、l0nmolでほとんど完全に敏感化が回復した。非線形曲線との適合性は、イシリンの最大効果はPWL及びPWTの場合(それぞれ91.6± 9.9 及び 82.6 ± 6.8% 敏感化回復)、EC50値の場合(最大効果の50%服用量;それぞれ0.17±0.02及び0.31±0.02 nmol)と同様であることを示した。TRPM8活性剤の効果と全く対照的に、TRPA1活性剤、シンナムアルデヒド[20](75nmol鞘内(髄腔内)注入)は、熱的及び機械的テストにおける反射反応性を有意に増加させ、神経損傷に対し対側性でも同側性でも同様に有効だった(図4C)。シンナムアルデヒドの敏感化効果をルテニウムレッド(0.25nmol)の同時注入によって防ぎ、TRPA1チャンネル[22,58]を閉鎖することができるが、鞘内注入されたイシリンの鎮痛効果は影響されなかった(図4D)。シンナムアルデヒドの敏感化効果を、またPWLの減少36.9±7.9%及びPWTの減少41.9±6.7%の実験に使用していない動物で観測された。さらに2つのTRPA1活性剤[57,58]、対応する減少がそれぞれ33.2±5.9%及び20.7±8.2%であるアリシン(25nmol)、及び25.9±7.0%及び28.5±6.2%(平均値±SEM,n=3〜6)である相当する数値を持つジアリルジスルフィド(50nmol)によって同様の結果が得られた。対照的に、TRPM8活性剤、イシリン(l0nmol)及び(-)-メントール(200nmol)は、ナイーブ動物(データは示されていない)で効果が無かった。シンナムアルデヒド(1.5mM)の局所投与は、またI動物の行動反射神経の相互感作を生じさせた(PWLで32.0±8.6%及びPWTで20.2±8.2%の平均値の減少、p<0.05,n=6)。これは、シンナムアルデヒド[20]の足底皮下注入後報告されるPWLの減少と同様に舐め及び震え行動に相当する。
【0090】
本発明者らは、さらに、TRPA1活性剤または他の痛みモデルによって生じた感作された痛み行動がイシリン誘導鎮痛作用に対し感受性が強いかどうかを検討する実験をした。鞘内または局所シンナムアルデヒドによって生じた感作は、鞘内イシリンによって著しく弱められた(表2)。
【0091】
【表2】

【0092】
(vi)外科的疼痛モデルにおける有意な同側性-対側性の差、あるいはシンナムアルデヒド−誘発反応の場合には、先のベースラインとの差が示されている(* p<0.05)。有意なイシリン(l0nmol,i.t.)-誘導感作回復が示されている(†, p<0.05)。局所シンナムアルデヒドの効果は、局所イシリン(200μM,データは示されていない)によっても回復した。坐骨神経[40]の限局性脱髄またはフロイント完全アジュバントの足底皮下注入(CFA)に起因する敏感化も鞘内イシリンによって有意に抑制された(表2)。
【0093】
[ニューロパシー性敏感化のイシリン回復の中枢メカニズムは、mGluグループII/III受容体を含む]
局所イシリンが、細径求心性神経(図1D)及び鞘内及び局所イシリン回復神経損傷-誘発感作における活性を増加させるので、中枢事象にはイシリンの作用が重要である可能性がある。イシリン-反応性求心性神経がグルタメート(グルタミン酸塩)を放出することが予測され、従って、本発明者らは、後角(dorsal horn)中の抑制型グルタメート受容体がイシリン誘導鎮痛作用の基礎となるとする仮説を立てた。グループII/III mGluRsは、それらが、炎症性、ニューロパシー性及び急性の痛みのモデルにおいて抗侵害受容性であるので、そのような役割を促進することができ[29,30,31]、また、一次求心性神経と感作状態にある脊髄ニューロンとの間の伝達を抑制することができる[32,33]。グループII mGluRsは、いくつかはシナプス後部及び神経膠上で見つけ出せるが[28]、ラミナ(薄片)II(lamina II)、特に小さな侵害刺激求心性神経[27,60]の一次求心性神経末端に局在化している。グループIII mGluRsも、後角でシナプス前部に見つけ出せ、IB4かP物質のいずれかで45%共発現される(小さな侵害刺激(痛覚)ニューロンのマーカー[59])。グループII/III mGluRsの活性化が、ニューロパシー性感作のイシリン回復を模倣しているかどうかを評価するために、本発明者らは、選択的グループIIまたはIII mGluR作動薬、2R、4R−APDCまたはACPT−III及びAP−4をそれぞれ鞘内注入した。2R,4R−APDC(15nmol)は、対側性反応に対し何の影響も与えることなく、CCI(注入後15〜30分)に対し同側性の72.1±6.4%の熱的回復及び56.0±10.9%の機械的な反射感作の回復を生じさせた。また、ACPT−III及びAP−4(各々150nmol)は、今回も対側性に何の影響も与えることなく(各場合でp<0.05 )、熱的敏感化を回復し(それぞれ83.6±6.3%及び60.8±6.7%)、同様に機械的な敏感化を回復した(65.7±11.4%及び60.7±8.0%)。さらに、選択的グループII及びmGluR拮抗剤グループ、LY341495(5nmol,図5A)及びUBP1112(l0nmol,図5B)は、各々イシリン(l0nmol,図4A)の効果を妨げた。同様に、鞘内(-)-メントール(200nmol,図4B)によって生じた鎮痛作用は、鞘内LY341495及びUBP1112によって回復した。注入後20〜30分にかけての感作回復の平均パーセントは、(-)-メントール単独でPWL86.1±8.1%及びPWT80.6±4.2%、メントール及びLY341495でPWL22.0 ± 6.9%及びPWT 7.1 ± 7.1%、ならびに(-)-メントール及びUBP1112(n=6)でPWL 9.2 ± 6.9%及びPWT0.0±0.0%であった。LY341495もUBP1112も単独ではいかなる効果も示さず(データは示されていない)、グループII/III mGluRsはCCI後に持続性の活性化をほとんど示さないが、イシリンの下流で特異的に利用されることを示唆する。対照的に、μ-オピオイド受容体拮抗剤、ナロキソン(25nmol)とイシリンの鞘内同時投与は効果を示さず (図5C)、イシリンの鎮痛作用はオピオイド-非依存性であることを示している。可能性があるいかなる非特異的薬剤相互作用をも回避する目的で、本発明者らはイシリン(200μM)を局所投与し、mGluR拮抗剤を鞘内投与した。図5Dは、この場合における熱的及び機械的敏感化のイシリン回復が再びLY341495またはUBP1112によって妨げられたことを示している。皮膚を16℃に冷却する鎮痛効果(図1E)も、LY341495(5nmol)またはUBP1112(10nmol)の鞘内投与によって防害された。冷却が原因で生じた同側CCI-誘発PWT減少の回復平均パーセントは、どちらかの薬剤(n=5)の存在下で0.0±0.0%であった。
【0094】
単一の脊髄ニューロンのレベルでイシリンの鎮痛効果を確認する目的で、本発明者らは、ラージ・ラミナI(large lamina I)及びIII/IVニューロン(それは、痛覚(侵害受容性)及び非痛覚入力を統合する)の生体内細胞外記録をとった。CCIに同側の末梢受容野領域へのイシリン(200μM)の局所投与は、電動回転ブラシに対する高められた神経細胞反応の抑制を引き起こした(図5E)。イシリンによって影響された12のニューロンのうちの8つ(ラミナ(薄片)Iのうちの2及びラミナ(薄片)III/IVのうちの6)において、ブラシ誘発反応は、37.4±5.5%(p<0.001)に減少した。媒介物(Vehicle)に効果はなかった。対側性のニューロンは影響されなかった(コントロールの111.9±8.9%;n=6)。反射神経上で調査したグループII/1II mGluR拮抗剤の1例として、UBP1112は、20〜60nAの電流で記録した後角ニューロンの近くにイオン泳動した。UBP1112は、イシリンの効果を回復した;ブラシ-誘発(神経)発火率は、コントロール値(図5E)の80.2±9.3%まで戻った。しかし、UBP1112は単独では効果を示さず、また、生理食塩水電流コントロールも効果を示さなかった。
【0095】
あるグループII/III mGluRsはシナプス後性(post-synaptic)と思われるので、本発明者らは、イシリンが、CCI動物に鞘内投与されるNMDAによって引き起こされる行動反射反応性のさらなる敏感化を回復するかどうかを調べた。イシリン(10nmol)は、NMDA3.75nmol及びその共作動薬部位活性剤(鞘内注入ACPC)0.75nmolによって引き起こされたさらなる同側性敏感化を明白に弱めた。熱的テストでの同側PWL値は、ベースラインで10.1±0.6 秒(s)であり、7.9±0.3秒(s)に減少したが(NMDA/ACPCの注入後15〜30分で)、イシリンを追加した状態で14.9±0.6 秒(s)に増加した。対側性の値はイシリンあるいはNMDA/ACPCによって不変であった。機械的テストでの同側PWT値は、ベースラインで1504.2±105.3mN/mm2、NMDA/ACPC注入後で891.6±27.3mN/mm2、及びイシリン(平均値±SEM,n=6)の同時注入で3482.7±174.3mN/mm2であった。対側性値は再び不変であった。したがって、機能的なNMDA受容体が求心性神経端末[61]にもさらに存在すると思われることに注目することは重要であるが、イシリンによって誘発される中枢事象のコンポーネントはシナプス後性と思われる。
【0096】
[検討]
冷却-誘導鎮痛作用の基礎となるメカニズムについてはほとんど知られていないが、TRPM8を含む多くの冷-感受性イオン・チャンネルは、最近、体性感覚求心性神経に同定(識別)されている[13]。本発明者らは、ここにTRPM8活性化が神経損傷-誘発過敏症(アレルギー)を回復させることを示す。TRPM8はメントール[15,16]によって活性化され、ホットプレートテスト及び酢酸ライジング(身もだえ)テスト[11]において鎮痛性であるが、メントールは非常に高い投与量で痛みを生じさせる場合がある[62,63]。ここで、(−)−メントールの局所または鞘内投与のどちらかが、ニューロパシー痛のCCIモデルにおける行動鎮痛作用を生じさせたが、これはTRPM8の活性化による可能性が高い。同様の結果が、別のTRPM8活性剤、イシリン[15]で観測された。メントールでのように、非常に高い投与量のイシリンは、CCI動物及び実験に使用していない動物に双方で同様に影響する敏感化の一般化された増加を引き起こすことが見出された(表1)。重要なことには、イシリンの鎮痛効果は、非特異的感覚変化を引き起こす濃度より200倍低い濃度で観測された。ニューロパシー感作の回復におけるTRPM8の特定の関与は、ノック・ダウンTRPM8発現へのTRPM8アンチセンス・オリゴヌクレオチドの鞘内注入後のイシリン鎮痛作用の抑止によって確認された。さらに、鎮痛性プロフィルは、TRPM8チャンネルを活性化する範囲である20〜16℃までの皮膚冷却によく似ていた[14]。イシリン及びメントールを、30℃の溶液で経皮投与した。したがって、皮膚温度に対する薬剤の影響の可能性は回避された。アンチセンスTRPM8は、有害な熱的、機械的な刺激あるいは極寒(図3)に対するCCI-誘発敏感化反応に単独では影響を持たず、これは、代替のニューロパシー痛モデルでなされた観察と同様であった[26]。鎮痛作用におけるTRPA1チャンネルの役割はありそうもないと思われるが、これは、選択的TRPA1活性剤、シンナムアルデヒド、アリシン及びジアリル ジスルフィドがCCI後だけでなくナイーブ動物にも対照的な敏感化/痛覚過敏症を引き起こしたことによる。イシリンの鎮痛効果は、敏感化された痛み状態で観測されただけであり、神経損傷に制限されなかったが、これは、末梢炎症、求心性神経脱髄及びTRPA1活性化による感作も減少したことによる。局所的に投与されたイシリンの行動的及び電気生理学的に有意な効果は、イシリンは皮膚を通過し末梢求心性線維を十分に興奮させることを実証し、そしてこれのまたは関連する薬剤の有望な臨床的有用性を示す。
【0097】
TRPM8を含む冷-反応性求心性神経の正確な同一性は明らかではない。Aδ-線維及びC-線維の亜集団(部分母集団)は、冷温度〜15−30℃、及び <15℃の異なる範囲に反応する[55,37]。無害冷却(15〜30℃)は、霊長類では、Aδ-及びC-線維の亜集団を活性化するが、げっ歯動物では、ほとんどがもっぱら無髄線維を活性化する[64]。対照的に、有害極寒は、無髄多様式の侵害受容体によって示され、また、熱的及び機械的な刺激に応答する[49]。TRPM8活性剤メントールは、冷-感受性線維を活性化し、20〜30℃の範囲の刺激-誘発反応を感作する[65,66]。生体外TRPM8に関する研究は、このチャンネルを適度な冷温度の有望な伝達体であると識別する[19]。DRG及び三叉神経培養では、メントール、冷却(15〜30℃)、及びTRPM8 mRNA発現に対する反応はすべて緊密に関連している[17,18,19]。TRPM8は、小さく、Aδ-あるいはC-線維と推定されるDRG細胞体の5〜20%で発現するが[15,16]、大きな有髄線維では発現しない。本発明者らの観測によれば、TRPM8免疫反応性は、ペリフェリン-陽性C-線維の亜集団に通常関係しているが、NF−200−陽性求心性線維には最小にのみ関係しており、一方、高感度CRNA交雑は、NF−200−陽性求心性線維の19%以内のTRPM8 mRNAの存在を示唆する[67]。カプサイシン-及び熱-感受性TRPV1チャンネルは、熱的侵害刺激及び炎症性感作に寄与し[12]、ラット中、ペプチド作動性求心性神経(−85%)及び非ペプチド作動性(イソレクチン-B4, IB4-陽性)細胞の両方で見出された[68]。TRPM8は、断定的に、ペプチド作動性またはIB4-陽性求心性線維のどちらかには関係していないが[15]、多くの場合NGF受容体TrkAを含んでいるものの中に存在する[67]。別のグループは、TRPM8及びTRPV1のmRNAの同時発現、あるいはDRGの29〜50%での[15,19,60]、またはゼロ近くでの[14,16,69]メントール/カプサイシンの反応性を報告した。全体的にみて、TRPM8は、通常冷−反応性求心性神経の明確な集団中に発現され、またある程度まで侵害受容体中に発現されることがありそうに思われる。本発明者らの発見は、さらに、ペリフェリン-陽性-線維中の増加した発現を識別したが、小さなNF−200−陽性推定A5-線維中の誘導は[46]、TRPM8発現での可塑性がニューロパシー痛のイシリン鎮痛に関与していることを示唆している。TRPM8のDRG発現の変化は、代替ニューロパシー痛モデルでは報告が無かった(L5脊髄神経のライゲーションあるいは実際はCFAが後続する)が[25,26]、このことはCCI後のDRG中の損傷されている、及び損傷されていない求心性神経の共存のような特別のモデルの特定の様相がTRPM8発現上昇において重要であり得ることを示唆している。
【0098】
また、冷受容体として提案されたTRPA1は[14]、完全に異なる役割を果たすように見え、ニューロパシー状態の熱的及び機械的な反応性を増加させると同様に、ナイーブ動物中の痛み反射行動を誘発する。これは、適度に冷たい刺激が痛みとして受け取られる神経損傷後の臨床的観察に相当すると思われる[1]。TRPA1は、主として、感覚神経節の小さな細胞にあり[14,22]、神経損傷及び炎症に対し同側的に増加すると思われる[25,26]。有害な寒さ(5℃)への神経-損傷及び炎症-誘発痛覚過敏症がTRPA1のアンチセンス・ノックダウンによって減少することが報告されている[25,26]。これに関連して、TRPA1標的遺伝子破壊同型接合性変異体マウスは、選択的なTRPA1活性剤に対する反射引き込み反応を減少させることを示し、これらの薬剤によって引き起こされた有害な熱的及び無害の機械的反応の敏感化を減少させることを示す[23]。しかしながら、TRPA1-/-動物の異なるラインが弱められまたは不変の冷却板引き込み反応を示す、有害な寒さ反応におけるTRPA1の役割が議論されている[23,24]。したがって、寒さ感覚におけるTRPA1の正確な役割は不明瞭なままであるが、ここでは、他の研究におけるように、TRPA1は明らかに組織を損傷するように(pro-nociceptive manner)作用する[20,23,57,58]。イシリンは、TRPA1チャンネルで低い性能で相互作用するかもしれないが[14]、このTRPM8活性剤の鎮痛性プロフィルは、TRPA1活性剤の組織を損傷するプロフィルとは完全に異なっている。求心性神経におけるTRPM8/TRPA1同時発現の範囲が最小であることが報告されている[14,67]。
【0099】
イシリンとメントール、及び16℃の皮膚冷却によって引き起こされた鎮痛作用は、中枢性であることが示され、グループII/III mGluRsに依存することが示された。ナロキソンの影響が無いことは、古典的なオピオイドの鎮痛作用とは独立していることを示唆する。さらに、使用される服用量では、mGluRグループII/1II拮抗剤は、単独ではいずれの効果もなく、感作された反応において、イシリン及びメントール鎮痛作用を選択的に回復させた。グループII/III mGluRsは侵害刺激反応を抑制することが知られており[29,30,31,32,33]、本発明者らは、グループII/III mGluR作動薬は、ニューロパシー痛の感作反応を選択的に抑制することを示した。グループII及びIII mGluRサブタイプは共に、一次求心性神経、特にIB4-陽性細胞において発現する[27,59,60]。グループII mGluRsは一次求心性神経シナプス(synapses)で、共にプレ-及びポスト-シナプスであるから[28]、グループII/III mGluRsの活性化は、後角の求心性線維-誘発電位を抑制することができる[32]。一方、グループIII mGluRsは、大部分はプレ-シナプスである[69]。メントールは、培養及び薄片(スライス)でDRGと後角ニューロンとの間のいくつかのシナプス(対合)でmEPSC頻度を増加させることが報告されており[54,55]、TRPM8-含有求心性神経(図1D)の活性化及びグルタメート放出の増加に対応していると推定される。図6にモデルの模式的概要を示す。前記モデルでは、TRPM8-発現求心性神経から放出されたグルタメートが、グループII/III mGluRsに作用することによりイシリン-誘導鎮痛作用を媒介して(組織の損傷を起こす求心性神経上に、プレ(前)シナプス的に、及びおそらくはポスト(後)シナプス的にも局在し)、痛み-関連敏感化(図5E)及び行動鎮痛作用(図5D)を弱める原因となる。
【0100】
[結論]
要約すると、上述した新規な知見(研究結果)は、TRPM8の末梢及び中枢活性化の両方が末梢神経損傷によって誘発された行動反射神経の敏感化を特異的に回復する鎮痛効果を生じ得ることを示している。この効果は、局所的に投与された非常に低濃度のTRPM8活性剤によって生じ、臨床においてすぐに使える可能性のある有用なものである。
神経損傷によって誘発された痛みの状態に加えて、他の敏感化した痛みの状態は、TRPM8活性化による回復に対し同様に感受性があり、グループII/III mGluRsのようなTRPM8活性剤及び下流のTRPM8作用を有する中枢メディエーター(媒体)は新規な鎮痛剤の開発のターゲットとして重要なものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0101】
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【非特許文献68】Tominaga, M., Caterina, M.J., Malmberg, A.B., Rosen, T.A., Gilbert, H., Skinner, K., Raumann, B.E., Basbaum, A.I., and Julius, D. (1998). The cloned capsaicin receptor integrates multiple pain-producing stimuli. Neuron 21, 531-543.
【非特許文献69】Okazawa, M, Inoue, W., Hori, A., Hosokawa, H., Matsumura, K., and Kobayashi, S. (2004). Noxious heat receptors present in cold-sensory cells in rats. Neurosci Lett 359, 33-36.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導のための、
(i)イシリン (1−(2’−ヒドロキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−l,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(ii)メントール lR,2S,5R−(5−メチル−2−{l−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(iii)WS−I2 (2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(iv)(i)〜(iv)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれる一過性受容体ポテンシャル(TRP)M8カチオン・チャンネル活性化剤。
【請求項2】
慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導薬剤の製造のための、
(i)イシリン (1−(2’−ヒドロキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−l,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(ii)メントール lR,2S,5R−(5−メチル−2−{l−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(iii)WS−I2 (2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(iv)(i)〜(iv)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれる一過性受容体ポテンシャル(TRP)M8カチオン・チャンネル活性化剤の使用。
【請求項3】
慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者に対し有効な量のTRPM8活性化剤を投与する工程を含む慢性ニューロパシー痛の治療方法であって、前記TRPM8カチオン・チャンネル活性化剤が、
(i)イシリン (1−(2’−ヒドロキシフェニル)−4−(3”−ニトロフェニル)−l,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(ii)メントール lR,2S,5R−(5−メチル−2−{l−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(iii)WS−I2 (2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(iv)(i)〜(iv)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれる慢性ニューロパシー痛の治療方法。
【請求項4】
慢性ニューロパシー痛が、痛覚過敏、アロダイニア及び自発痛の1または2以上である請求項1〜3のいずれかに記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項5】
イシリンが、2’位で
(i)C1〜C4アルキロキシ、
(ii)NO2
(iii)=0、及び
(iv)NH2
からなる群から選ばれる基で修飾されている請求項1〜3のいずれかに記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項6】
TRPM8活性化剤が、イシリン、メトキシイシリンまたはその誘導体である請求項1〜4のいずれかに記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項7】
TRPM8活性化剤が、(−)−メントールのようなメントールである請求項1〜3のいずれかに記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項8】
TRPM8活性化剤が、メンチル誘導体化合物(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)(WS12)である請求項1〜3のいずれかに記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項9】
慢性ニューロパシー痛が、下記(i)〜(vii)の痛みから選ばれる先行するいずれかの請求項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
(i)外傷誘発ニューロパシー痛、
(ii)脱髄誘発痛、
(iii)炎症痛、
(iii)幻肢痛、
(iv)癌にリンクしたニューロパシー痛、
(v)化学療法誘発ニューロパシー、
(vi)背痛、
(v)骨痛及び癌誘発性骨痛。
【請求項10】
前記炎症痛が関節炎に関連したものである請求項9に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項11】
前記慢性ニューロパシー痛がアロダイニアに関連したものである請求項1〜8のいずれか1項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項12】
前記薬剤が末梢サイトに投与されるものである先行するいずれかの請求項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項13】
前記薬剤が局所的に投与されるものである請求項1〜11のいずれか1項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項14】
前記薬剤が鞘内投与されるものである請求項1〜11のいずれか1項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項15】
前記薬剤が硬膜外に投与されるものである請求項1〜11のいずれか1項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項16】
前記薬剤が経皮的に投与されるものである請求項1〜11のいずれか1項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項17】
前記薬剤が経皮投与(デリバリー)デバイスによって投与されるものである請求項16に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項18】
前記薬剤が他の1または2以上の化合物と共に投与されるものである先行するいずれかの請求項に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項19】
前記薬剤が化学療法剤と共に投与されるものである請求項18に記載のTRPM8活性化剤、使用または方法。
【請求項20】
(ii)イシリン(1−(2'−ヒドロキシフェニル(−4−(3"−ニトロフェニル)−l,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(iii)メントール1R,2S,5R−(5-メチル−2−{1−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(iv)WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(v)(i)〜(iv)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれるTRPM8活性化剤及び薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
局所投与のために処方された請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
鞘内投与のために処方された請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
硬膜外投与のために処方された請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
経皮投与(デリバリー)のために処方された請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
(a)検査用薬剤または薬剤混合物をTRPM8受容体と接触させる工程、及び
(b)前記TRPM8受容体の活性化を検知しTRPM8受容体を活性化させる薬剤または薬剤混合物を同定する工程を含む、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導薬剤の製造に有用な薬剤を検知する方法。
【請求項26】
TRPM8受容体が、
(a)細胞表面で発現される、
(b)組換えシステムによって供給される、及び/または
(c)組織サンプルまたは生検によって供与される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞がヒト前立腺癌細胞ラインに由来する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
慢性ニューロパシー痛に苦しむかまたはこれを経験している患者における鎮痛誘導のための局所的に投与される薬剤を検知する請求項25に記載の方法。
【請求項29】
TRPM8受容体を活性化することが認められる鎮痛効果用の薬剤を検査する工程をさらに含む請求項25または26に記載の方法。
【請求項30】
前記薬剤が、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験しているこ被験対象で検査される請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記検査が、被験対象の皮膚に対し薬剤を局所的に投与する工程を含む請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記薬剤または薬剤混合物が動物モデルで検査される請求項29〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記動物モデルが坐骨神経慢性狭窄損傷(CCI)げっ歯類である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(a)検査用薬剤または薬剤混合物をTRPM8受容体と接触させる工程、及び
(b)前記検査用薬剤と前記TRPM8受容体との間に生じる結合を検知する工程を含むTRPM8受容体に結合することができる薬剤を検知する方法。
【請求項35】
結合が既知のTRPM8結合剤の置換及び/またはバンドシフト分析によって検知される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
結果を、TRPM8受容体が検査用薬剤または薬剤混合物と接触しないコントロールシステムから得られる結果と比較する請求項25〜35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
慢性ニューロパシー痛における鎮痛誘導薬剤の製造のための、請求項25〜36のいずれかに記載の方法によって同定される薬剤の使用。
【請求項38】
グループII/III mGluRを直接活性化する薬剤または化合物及びグループII/III mGluRを間接的に活性化する薬剤または化合物の有効量を投与する工程を含む、慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の治療方法であって、
グループII/III mGluRを直接活性化することができる薬剤が、
(i)2R、4R−APDC、
(ii)ACPT−III、及び
(iii)AP−4
からなる群から選ばれ、
グループII/III mGluRを間接的に活性化することができる薬剤が、
(iv)イシリン(l−(2'−ヒドロキシフェニル)−4−(3"−ニトロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(v)メントールlR,2S,5R−(5−メチル−2−{1−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(vi)WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸{4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(vii)(iv)〜(vi)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれる治療方法。
【請求項39】
慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導薬剤を製造するための、グループII/III mGluRsを直接活性化することができる薬剤及びグループII/III mGluRsを間接的に活性化することができる薬剤の使用であって、グループII/III mGluRを直接活性化することができる薬剤が、
(i)2R,4R−APDC、
(ii)ACPT−III、及び
(iii)AP−4
からなる群から選ばれ、
グループII/III mGluRを間接的に活性化することができる薬剤が、
(iv)イシリン(1−(2'−ヒドロキシフェニル)−4−(3"−ニトロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(v)メントール1R,2S,5R−(5−メチル−2−{1−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(vi)WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(vii)(iv)〜(vi)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれる使用。
【請求項40】
慢性ニューロパシー痛に苦しみまたはこれを経験している患者の鎮痛誘導のための、
(i)2R,4R−APDC、
(ii)ACPT−III、及び
(iii)AP−4
からなる群から選ばれるグループII/III mGluRを直接活性化することができる薬剤、及び
(iv)イシリン(1−(2'−ヒドロキシフェニル)−4−(3"−ニトロフェニル)−1,2,3,6−テトラヒドロピリミジン−2−オン)、
(v)メントール1R,2S,5R−(5−メチル−2−{1−メチルエチル}シクロヘキサノール)、
(vi)WS−12(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)、及び
(vii)(iv)〜(vi)のいずれかの誘導体からなる群から選ばれるグループII/III mGluRを間接的に活性化することができる薬剤。
【請求項41】
イシリンが、2’位で
(i)C1〜C4アルキロキシ、
(ii)OH、
(iii)N02
(iv)=O、及び
(v)NH2
からなる群から選ばれる基で修飾されている、請求項38、39及び40のいずれかに記載のグループII/III mGluRsを直接/間接的に活性化することができる方法、使用または薬剤。
【請求項42】
グループII/III mGluRsを直接/間接的に活性化することができる薬剤が、イシリン、メトキシイシリンまたはその変形、誘導体またはそれらの変形である、請求項38〜41のいずれかに記載のグループII/III mGluRsを直接/間接的に活性化することができる方法、使用または薬剤。
【請求項43】
グループII/III mGluRsを間接的に活性化することができる薬剤が (−)−メントールのようなメントールである請求項38〜41のいずれかに記載のグループII/III mGluRsを直接/間接的に活性化することができる方法、使用または薬剤。
【請求項44】
グループII/III mGluRsを間接的に活性化することができる薬剤がメンチル誘導体化合物(2−イソプロピル−5−メチル−シクロヘキサンカルボン酸(4−メトキシフェニル)アミド)(WS12)である請求項38〜41のいずれかに記載のグループII/III mGluRsを直接/間接的に活性化することができる方法、使用または薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−544682(P2009−544682A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521346(P2009−521346)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002877
【国際公開番号】WO2008/015403
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(505066349)ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・エディンバラ (6)
【Fターム(参考)】