説明

ニンニク成分を含有する高血圧の予防及び/又は治療用組成物

【課題】本発明は、α−アドレナリン受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤、一酸化窒素遊離促進剤、並びに高血圧の予防及び/又は治療に有用な組成物を提供する。
【解決手段】γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、α−アドレナリン受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤、一酸化窒素遊離促進剤、並びに高血圧の予防及び/又は治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アドレナリン受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤、一酸化窒素遊離促進剤、高血圧の予防及び/又は治療用の組成物、並びにこの組成物の食品及び医薬としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、心臓や血管の病変を促し、心臓病や脳卒中などにおいて最も重視すべき危険因子と考えられている。高血圧症の治療法としては、食事療法、適度な運動といった非薬物療法、及びβ遮断薬やカルシウム拮抗薬といった薬物療法が行われてきた。しかし、食事制限、運動療法では高血圧を改善できない場合も多く、降圧剤の効果も症例によって一様ではない。さらに、降圧療法は原則として長期にわたって継続する必要があるので、副作用の恐れのない、安全な療法が望まれてきた。
そのような状況下で、天然由来の血圧低下成分に注目が集まってきた。
【0003】
例えば、特許文献1には黒霊芝の抽出物を含有する高血圧抑制剤が、特許文献2には高血圧予防食及び高血圧症予防改善剤として有用なカフェ酸や食物繊維などを含有する飲食用組成物が、特許文献3には、コラーゲン又はコラーゲン分解物などを含有する、高血圧症の予防又は治療用医薬組成物及び食品組成物が、それぞれ記載されている。
【0004】
ニンニクは、香辛料として広く用いられているが、一方で民間薬としても知られており、動脈硬化症、肺結核、及び気管支炎の治療などに広く用いられている。特許文献4には、ニンニク抽出物を有効成分として含んでなるアルコール摂取後の不快症状を改善または予防する組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2003−104904号公報
【特許文献2】特開2002−154977号公報
【特許文献3】特開2001−26753号公報
【特許文献4】特開平10−158183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高血圧の予防及び/又は治療に有用な組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ニンニクの薬理作用を研究する過程で知見を得たものであり、γ−グルタミル−S−アリルシステインを利用した医薬及び食品を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、γ−グルタミル−S−アリルシステインが優れたα−アドレナリン受容体遮断作用、アンジオテンシン変換酵素活性阻害作用、及び一酸化窒素遊離促進作用を有し、これにより血圧低下作用などを発揮し、高血圧などの疾患の予防又は治療に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、α−アドレナリン受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤、一酸化窒素遊離促進剤、並びに高血圧の予防及び/又は治療用組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、α−アドレナリン受容体遮断作用、アンジオテンシン変換酵素活性阻害作用、及び一酸化窒素遊離促進作用を有する。これらの作用により、本発明の組成物は、血管を弛緩させて、血流量増加作用、血管拡張作用、及び血圧低下作用などを発揮する。本発明の組成物は、高血圧に対しては低下作用を示すが、低血圧や正常血圧に対しては低下作用を示さないといった血圧改善効果も示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用されるγ−グルタミル−S−アリルシステインは、ニンニクから慣用の方法で抽出し精製して得ることができるが、有機化学的合成手法、酵素若しくは微生物を用いた生物学的手法、又はこれら手法を組み合わせた方法などにより合成して得てもよい。
【0010】
上記で使用されるニンニクは、ネギ属ユリ科に属する植物(Allium sativum L.)である。
ニンニクには、γ−L−グルタミル−S−アリル−L−システイン以外に、アリイン、アリチアミン、スコルジニンA、シトラール、ゲラニオール、リナロール、α−及びβ−フェランドレン、プロピオンアルデヒド、イヌリン、アルギニン、並びにクエン酸などが含有されている。
アリインは、ニンニクに含まれる酵素のアリイナーゼの作用により刺激性成分のアリシンに変化する。その他に、生ニンニクの加工処理により、ジアリル−ジスルフィドなどのアリルスルフィド類、ビニルジチイン、アホエン、S−アリルシステイン、又はS−アリルメルカプトシステインなどが生じてくる。
【0011】
本発明ではニンニクとして、生のニンニクをそのままか、又は皮をむいたものを使用してもよく、あるいは生ニンニクを加工処理したものなどを使用してもよく、特に制限されない。ニンニクの加工処理方法として、例えば、乾燥後粉末化したり、又は加熱したり、蒸したり、マイクロ波に照射させたり、酒若しくはアルコールに漬けたり、熟成させたりする方法が挙げられるが、これら方法を組み合わせて使用してもよい。
本発明ではこれらのニンニクを2種以上併用してもよい。本発明では、熱を加えず自然に乾燥させたもの、例えば、収穫時よりも水分が30%程度減少したニンニクを使用してもよい。
【0012】
本発明で使用されるガーリックオイルは、ニンニクから慣用の方法で得ることができる。例えば、ニンニクの鱗茎から、水蒸気蒸留法;圧搾法;石油エーテル又はアルコール等の有機溶剤による溶剤抽出法;油脂等の吸着による油脂吸着法;プロパン又はブタン等の液化ガスによる液化ガス抽出法;超臨界抽出法等によって得ることができる。以下に一例を示す。
ニンニクの鱗茎を水と一緒にミキサーで磨砕してホモジネートを得、例えば室温で1時間ほど場合により放置してから、このホモジネートを水蒸気蒸留にかけて油性成分を含む蒸留液を得る。この蒸留液にヘキサンなどの抽出溶媒を加え、水層と溶媒層とに分配し、溶媒層を分取する。この溶媒層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水させ、次いで溶媒を蒸発させることにより、残留油状物質をガーリックオイルとして得る。
【0013】
当業者は、本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインを、慣用の方法で、例えばニンニクから水又は有機溶媒(例えばメタノール若しくはエタノールなどのアルコール)を抽出溶媒として用いて抽出し、その後クロマトグラフィーなどで分離・精製することにより得ることができる。
【0014】
当業者は、本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインを、従来の有機化学的合成手法に従い得ることもできる。あるいは、以下に示す方法により得ることもできる。
N−(tert−ブトキシカルボニル)−グルタミン酸 1−tert−ブチルエステルとS−アリルシステインとを、水溶性カルボジイミド試薬の存在下、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中で常温にて反応させる。この反応混合物に水及びエーテルを加えて分配し、水−エーテル層を分取する。この水−エーテル層を蒸発させて残留物を得、これをトリフルオロ酢酸(TFA)で脱保護させることにより、本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインを得る。
原料のN−(tert−ブトキシカルボニル)−グルタミン酸 1−tert−ブチルエステル及びS−アリルシステインは、市販されているか又は当業者が従来技術を用いることで容易に製造することができる。
【0015】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインの個々の立体異性体、例えば、光学異性体(鏡像異性体又はエナンチオマー)又はジアステレオ異性体(ジアステレオマー)、あるいはこれらの立体異性体の混合物も包含される。
光学異性体として、γ−DL−グルタミル−S−アリル−L−システイン、γ−DL−グルタミル−S−アリル−D−システイン、γ−D−グルタミル−S−アリル−DL−システイン、及びγ−L−グルタミル−S−アリル−DL−システインなどが例示され、またγ−L−グルタミル−S−アリル−L−システイン、γ−L−グルタミル−S−アリル−D−システイン、γ−D−グルタミル−S−アリル−D−システイン、及びγ−D−グルタミル−S−アリル−L−システインなども例示される。
立体異性体の混合物として、γ−DL−グルタミル−S−アリル−DL−システインなどのラセミ体が例示される。
これらの立体異性体は、慣用の手段、例えば、キラル合成又は光学分割により得ることができる。
γ−L−グルタミル−S−アリル−L−システインは、ニンニクに通常含有される成分であることから、ニンニクから抽出し精製して得ることができる。
【0016】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインの塩も包含される。γ−グルタミル−S−アリルシステインの塩を以下に例示する。
(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、又はリン酸などの無機酸とで形成されるγ−グルタミル−S−アリルシステインの酸付加塩;
(2)ギ酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、樟脳スルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グリコヘプタン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ムコン酸、2−ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、又はトリフルオロ酢酸などの有機酸とで形成されるγ−グルタミル−S−アリルシステインの酸付加塩;
(3)γ−グルタミル−S−アリルシステインのカルボキシル基の少なくとも一つにある解離し得る水素イオンが、金属イオン、例えば、リチウム、ナトリウム、若しくはカリウムなどのアルカリ金属イオン、又はマグネシウム若しくはカルシウムなどのアルカリ土類金属イオンに置き換わることによって形成されるγ−グルタミル−S−アリルシステインの塩基付加塩;
(4)有機塩基又は無機塩基と配位結合したときに形成されるγ−グルタミル−S−アリルシステインの塩基付加塩。
上記有機塩基として、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、トリエタノールアミン、及びトロメタミンなどが例示される。上記無機塩基として、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムなどが例示される。
【0017】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインのエステルも包含される。
γ−グルタミル−S−アリルシステインのエステルとして、γ−グルタミル−S−アリルシステインのカルボキシル基の少なくとも一つにある水素原子が炭化水素基に置き換えられたもの、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、モルホリノエタノールエステルなどが挙げられる。
【0018】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインの溶媒和物も包含される。例えば、前述のγ−グルタミル−S−アリルシステインの塩の溶媒和物などである。
γ−グルタミル−S−アリルシステインの溶媒和物として、γ−グルタミル−S−アリルシステインの水和物などが例示される。
【0019】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインのプロドラッグも包含される。γ−グルタミル−S−アリルシステインのプロドラッグとして、カルボキシル基のエステル(例えば、エチルエステル、モルホリノエタノールエステルなど);アミノ基のN−アシル誘導体(例えば、N−アセチル)、N−マンニッヒ塩基、シッフ塩基及びエナミノン;ケトン基のオキシム、アセタール、ケタール、及びエノールエステルなどが例示される。
【0020】
本発明のγ−グルタミル−S−アリルシステインには、γ−グルタミル−S−アリルシステインの配糖体も包含される。γ−グルタミル−S−アリルシステインと配糖体を形成する糖として、果糖、ブドウ糖、及びキシロースなどの単糖;ショ糖及びゲンチオビオースなどの二糖;並びに数種の単糖が結合したオリゴ糖などが例示される。
【0021】
本発明の組成物は、γ−グルタミル−S−アリルシステイン以外に、他の成分、例えば高血圧の予防及び/又は治療に有用な物質などを含んでいてもよい。例えば、紅麹、ウコン、キトサン、霊芝、黒豆、及びコエンザイムQ10であり、好ましくは紅麹、ウコン、キトサン、及びコエンザイムQ10である。
【0022】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない限り、添加剤、例えば、賦形剤、甘味料、酸味料、増粘剤、香料、色素、又は乳化剤などを含有してもよい。
【0023】
本発明に係る組成物は、食品として、特に健康食品、機能性食品、健康補助食品、特定保健用食品として使用することができる。これら食品は、例えばお茶、ジュースといった飲料水;ゼリー、あめ、チョコレート、チューインガムなどの形態であってもよい。また、本発明に係る食品は、栄養補助食品(サプリメント)として、液剤、粉剤、粒剤、カプセル剤、錠剤の形で製造されてもよい。
【0024】
また、本発明に係る組成物は、医薬としても使用することができる。これら医薬は、例えば錠剤、コーティング錠、糖衣錠、硬若しくは軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳剤、又は懸濁剤の形態で経口投与することができるが、例えば坐剤の形態で直腸内に;例えば軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤又は液剤の形態で局部又は経皮的に;例えば注射剤又は輸液の形態で非経口的に;点鼻薬の形態で鼻腔内に投与することもできる。
【0025】
本発明に係る組成物の摂取量は、特に制限されないが、投与経路、疾病の種類、剤型、並びに摂取者の年齢、体重、及び症状に応じて、適宜選択することができる。例えば、本発明の組成物を摂取する場合には、体重60kgの成人1日当たり有効成分量としてγ−グルタミル−S−アリルシステインを0.05〜250mg、好ましくは0.2〜10mg摂取することが、良好な血圧改善効果を得る上で望ましい。また、摂取期間は、摂取者の年齢、症状に応じて任意に定めることができる。
【0026】
以下、本発明を、実施例によってさらに詳細に説明する。本発明は、実施例によって限定されるものではない。また、実施例では%は特に規定されていない限り重量%を意味する。
【実施例】
【0027】
1.製造例
(1)ガーリックオイルの製造
ニンニクの鱗茎100gに純水300mlを加えてからミキサーで磨砕してホモジネートを得た。これを室温で1時間ほど放置してから、水蒸気蒸留に3〜5時間かけた。得られた油性成分を含む蒸留液にヘキサンを加えて水層とヘキサン層とに分配した。ヘキサン層を分取し、これに無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。次いで、約10℃の水浴中でロータリーエバボレーターを用いて溶媒を蒸発させ、油状物質としてガーリックオイルを得た。
【0028】
(2)γ−L−グルタミル−S−アリル−L−システインの製造
N−(tert−ブトキシカルボニル)−L−グルタミン酸 1−tert−ブチルエステル(Boc-Glu−OtBu、国産化学株式会社製)6g、S−アリル−L−システイン(デオキシアリイン、和光純薬工業株式会社製)3g、及び水溶性カルボジイミド試薬(HOSu、株式会社同仁化学研究所製)4.6gをDMF50ml中に混合させ、常温にて一昼夜攪拌した。この混合物に水25ml及びエーテル25mlを加え、DMF層と水−エーテル層とに分配した。水−エーテル層を分取し、乾燥させ、残留物を得た。この残留物に80%TFA水溶液10mlを加え、室温にて3時間攪拌した。ロータリーエバボレーターで溶媒を蒸発させ、さらに適量のトルエンを加えロータリーエバボレーターによる溶媒の蒸発を続けた。残留物を高速液体クロマトグラフィー〔カラム:YMC Pack ODS-A、溶離液:10mMリン酸カリウム緩衝液(pH2.6)+50mM硫酸ナトリウム、勾配:アセトニトリル0から45%(25分)、流速:1.0ml/分、検出:210nm〕にかけ、γ−L−グルタミル−S−アリル−L−システイン(以下、「GSAC」という)を得た。
分析
純度 98.4%
元素分析
実験値:C、43.03;H、6.35;N、8.56%(N回収率=88.7%)
計算値:C、43.03;H、6.59;N、8.52%
質量分析値 291.0(ESI−MS、計算値〔M+H〕mono=291.101)
構造式 H−NMR(in D2O)試験で確認
【0029】
2.試験例1
(1)投与液の調製
以下に投与液の調製例を示した。各投与液は市販の注射用水を用いて調製し、調製後は使用時まで遮光して室温保存した。
(i)ニンニク卵黄粉末投与液
市販ニンニク卵黄粉末(商品名:伝統にんにく卵黄、株式会社健康家族製)10.152gを上皿天秤を用いて精秤した。これにTween80を1滴加え、次いで注射用水に溶解させて全量を30mLとすることにより、338.4mg/mLのニンニク卵黄粉末投与液を調製した。この338.4mg/mLの投与液を注射用水で3倍希釈して112.8mg/mLのニンニク卵黄粉末投与液を調製した。この112.8mg/mLの投与液を注射用水で3倍希釈して37.6mg/mLのニンニク卵黄粉末投与液を調製した。
(ii)ガーリックオイル投与液
前記で製造したガーリックオイル130mgを上皿天秤を用いて精秤した。これにTween80を1滴加え、次いで注射用水に溶解させて全量を20mLとすることにより6.5mg/mLのガーリックオイル投与液を調製した。この6.5mg/mLの投与液を注射用水で10倍希釈して0.65mg/mL投与液のガーリックオイルを調製した。この0.65mg/mLの投与液を注射用水で10倍希釈して0.065mg/mLのガーリックオイル投与液を調製した。
(iii)GSAC投与液
前記で製造したGSAC84mgを上皿天秤を用いて精秤した。これにTween80を1滴加え、次いで注射用水に溶解させて全量を20mLとすることにより4.2mg/mLのGSAC投与液を調製した。この4.2mg/mLの投与液を注射用水で10倍希釈して0.42mg/mLのGSAC投与液を調製した。この0.42mg/mLの投与液を注射用水で10倍希釈して0.042mg/mLのGSAC投与液を調製した。
【0030】
(2)供試動物
SHRラット(SHR/Izm、SPF、雄、6週齢)を日本エスエルシー株式会社より購入した。購入後1週間の検疫・馴化期間を設けた。検疫・馴化期間中に、一般状態を1日1回観察した。動物入荷の翌日及び検疫・馴化終了日に体重をそれぞれ測定した。
検疫・馴化期間中の一般状態と体重成績で順調な発育が認められた健康な動物を試験に供した。
供試動物には、放射線滅菌された市販固型飼料を給餌箱により自由に摂取させた。また飲料水は上水道水を給水瓶により自由に摂取させた。
【0031】
(3)測定項目及び測定手順
(i)一般状態及び生死の観察
投与期間中は、全例について一般状態及び生死を1日1回以上観察した。
(ii)収縮期血圧の測定
供試動物の収縮期血圧は、非観血式自動血圧計により、テイルカフ(tail cuff)法で測定した。収縮期血圧は、個体毎にそれぞれ3回以上測定し、その平均値を収縮期血圧とした。
【0032】
(4)単回投与試験
供試動物の血圧を測定し、収縮期血圧の平均値をもとに完全無作為抽出法により、供試動物を1群5匹ずつ10群に割り当てた。
次いで、前記調製した各投与液を、供試動物の体重1kgあたり10mLの投与液量で、ディスポーザブル注射筒及び経口ゾンデを用いて単回強制経口投与した。
供試動物の血圧測定は、投与前、投与90分後、及び投与180分後に行った。
測定値は各群ごとに平均値±標準誤差で表した。各群の投与前値との有意差検定には、投与前の値を対照値として各測定時間の測定値についてpaired t-testを行った。有意水準は5%及び1%で表示した。
【0033】
(5)4週間反復投与試験
供試動物の血圧を測定し、収縮期血圧の平均値をもとに完全無作為抽出法により、供試動物を1群7匹ずつ10群に割り当てた。
次いで、前記調製した各投与液を、供試動物の体重1kgあたり10mLの投与液量で、1日1回4週間、ディスポーザブル注射筒及び経口ゾンデを用いて強制経口投与した。
供試動物の血圧測定は、投与開始7日目、14日目、21日目、及び28日目に行った。
測定値は各群ごとに平均値±標準誤差で表した。1〜10群の10群間について1群を対照としたバートレット(Bartlett)検定により分散に一様性が認められる場合にはダネット(Dunnett)多重比較検定を、分散に一様性が認められない場合にはスティール(Steel)の検定を行った。
【0034】
(6)試験成績
(i)単回投与試験の成績
全投与群において死亡及び一般状態異常は認められなかった。
血圧については、ニンニク卵黄粉末を投与した群で、投与前と比較して低下が認められ、特に376mg/kg投与群及び3384mg/kg投与群では、投与180分後において、投与前と比較して有意な低下が認められた(表1)。
ガーリックオイル投与群でも、投与前と比較して血圧の低下が認められ、特に0.65mg/kg投与群の投与180分後と、65mg/kg投与群の投与90分後において、投与前と比較して有意な低下が認められた(表1)。
GSAC投与群でも、投与前と比較して血圧の低下が認められ、特に42mg/kg投与群の投与90分後と180分後において、投与前と比較して有意な低下が認められた(表1)。
【0035】
【表1】

【0036】
(ii)反復投与試験の成績
全投与群において死亡及び一般状態異常は認められなかった。
血圧については、対照群では経時的な血圧の上昇が観察され、投与開始28日目では投与前の値と比較して、39.2mmHgの血圧上昇が認められた(表2)。
一方、ニンニク卵黄粉末投与群では、1128mg/kg投与群の投与開始28日目と、3384mg/kg投与群の投与開始14、21及び28日目において、それぞれ対照群と比較して有意な血圧の低下が認められた。
ガーリックオイル投与群でも、6.5mg/kg投与群の投与開始28日目と、65mg/kg投与群の投与開始14、21及び28日目において、対照群と比較して有意な低下が認められた。
GSAC投与群では、4.2mg/kg投与群の投与開始14及び28日目と、42mg/kg投与群の投与開始7、14、21及び28日目において、対照群と比較して有意な低下が認められた。
【0037】
【表2】

【0038】
(7)考察
以上の結果から、ニンニク卵黄粉末、ガーリックオイル及びGSACがいずれもSHRラット(高血圧モデル動物)に対して血圧低下作用を有することが示された。
【0039】
3.試験例2
GSACの降圧機序を解明するため、摘出ラット胸部大動脈標本を用いて実験を行った。
(1)被験物質の調製
前記で製造したGSAC10gを使用した。GSACは調製時まで冷暗所に保存した。
被験物質を適当量秤り、生理食塩液に溶解させた。オルガンバス(容量10ml)中の添加量は1.0ml以下とした。GSACの濃度は予備検討試験により、10−4g/ml〜10−2g/mlとした。
【0040】
(2)供試動物
日本エスエルシー(株)より11週齢で購入した雄性Wistar系ラットを7日間以上予備飼育して実験に供した。ラットは胸部大動脈摘出時まで室温24±3℃、相対湿度55±15%のSPFバリア飼育室(照明時間7時〜19時、換気回数18回/時)で飼育した。供試時のラットの体重は、約260〜300gであった。
【0041】
(3)栄養液の組成
栄養液の組成は、NaCl 118.3mM、KCl 4.7mM、CaCl 2.0mM、MgSO・HO 1.2mM、NaHCO 25.0mM、KHPO 1.2mM、カルシウムEDTA 0.026mM、及びグルコース 11.1mMとした。この栄養液は、37℃に保温して95%O、5%COの混合ガスを通気した(pH7.4)。
【0042】
(4)大動脈標本の作製方法
前記供試動物から胸部大動脈を摘出した。摘出した胸部大動脈は周囲の脂肪及び結合織を注意深く取り除いた後、幅2〜4mm、長さ8〜13mmの標本を作製した。
血管内皮保存標本は、あらかじめノルエピネフリン(NE,Calbiochem社、最終濃度:10−7M)溶液で収縮させた標本にカルバミルコリン(和光純薬、最終濃度:10−6M)溶液を添加し、80%以上の弛緩作用を示した標本を用いた。80%以上の弛緩作用が見られなかった標本は作製過程で損傷したと考えられるために実験には使用しなかった。また、血管内皮剥離標本は、栄養液で濡らした指で血管内面をゆっくりとこすることにより作製した。
胸部大動脈標本を、容量10mlのオルガンバス内に0.5gの負荷をかけて懸垂し、約1時間安定化するまで放置した。収縮力はFDピックアップ及びひずみ圧力用アンプを介してポリグラフ上に等尺記録した。
【0043】
(5)血管弛緩作用の検討方法
(i)血管平滑筋に対する作用
血管平滑筋に対する直接作用を検討するため、内皮剥離標本を用いて以下の試験を行った。
(ア)NE収縮に対する作用
血管収縮薬としてNE(和光純薬、最終濃度:10−7M)を用い、NEを3〜4回添加し収縮高が一定になった後で、前記調製したGSACの10−4g/ml、3×10−4g/ml、10−3g/ml、3×10−3g/ml、及び10−2g/ml(最終濃度)を累積的に添加し血管弛緩作用の有無を調べた(n=6)。
NEによる最大収縮を100%、ベースラインを0%とした収縮率(%)を算出し、各GSACの濃度毎に平均値±標準誤差を求めた。
【0044】
(イ)高張性KCl収縮に対する作用
血管収縮薬としてKCl(和光純薬、最終濃度:55.9mM)を用い、KClを2〜3回添加し収縮高が一定になった後で、GSACの10−4g/ml、3×10−4g/ml、10−3g/ml、3×10−3g/ml、及び10−2g/ml(最終濃度)を累積的に添加し血管弛緩作用の有無を調べた(n=6)。
前項と同様にKClによる最大収縮を100%、ベースラインを0%とした収縮率(%)を算出し、各GSACの濃度毎に平均値±標準誤差を求めた。
【0045】
(ii)血管内皮及び一酸化窒素に対する作用
内皮依存性血管弛緩作用の有無を検討するために、内皮保存標本を用いてNE収縮に対する作用を検討した。前記と同様にして、NE(最終濃度:10−7M)を3回添加し収縮高が一定になった後で、あらかじめNEで収縮させた標本に前記調製したGSACの10−4g/ml、3×10−4g/ml、10−3g/ml、3×10−3g/ml、及び10−2g/ml(最終濃度)を累積的に添加し血管弛緩作用の有無を調べた(n=5)。
内皮細胞の一酸化窒素(NO)関与の有無を調べるため、N−ニトロ−L−アルギニンメチルエステル(L-NAME、和光純薬、ロット番号SHE 7904、最終濃度10−6M)で10分間前処置した内皮保存標本を用いて、NO合成阻害によってGSACの弛緩作用が抑制されるか否かを検討した(n=5)。
収縮率(%)の算出は前記と同様にして行った。
【0046】
(iii)ATI収縮に対する作用
NE(最終濃度:10−7M)を3回添加して血管標本の反応性を調べた。その後、生理食塩水(被験物質無処置)又はGSAC(最終濃度:3×10−3g/ml又は10−2g/ml)を10分間処置した後、アンジオテンシンI(ATI、和光純薬、Humanタイプ;最終濃度10−7M)を添加し、被験物質の拮抗作用を検討した(n=6)。なお、供試動物の血管標本に対するATIの反復添加はタヒフィラキシーを起し反応性が低下する可能性があるので、ATIの添加は1回限りとし、添加毎に新しい標本と交換した。
被験物質無処置の場合の収縮高と被験物質を前処置した場合の収縮高を比較し、ATI収縮に対する抑制作用を検討した。すなわち、データはNE(最終濃度:10−7M)を添加した場合の収縮高を100%とした相対収縮高で表し、被験物質の濃度毎に平均値±標準誤差を算出した。
【0047】
(6)統計処理
統計的有意差を検定するため、解析ソフト(Stat View, Abacus Inc., USA)を用いて分散分析(ANOVA)を行った後、Fisher's PLSD法である多重比較検定を行い群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0048】
(7)実験結果
(i)NE収縮に対する作用
試験結果を表3、図1、及び図3に示した。
内皮剥離標本において、GSACは10−4〜10−2g/mlの濃度範囲で濃度依存的な血管弛緩作用を示し、最高濃度(10−2g/ml)における収縮率は28.7±1.9%を示した。
【0049】
【表3】

【0050】
(ii)血管内皮及びNOに対する作用
試験結果を表4、表5、図1、及び図3に示した。
内皮保存標本において、GSACは10−4〜10−2g/mlの濃度範囲で強い血管弛緩作用を示し、最高濃度(10−2g/ml)における収縮率は12.0±2.8%を示した。内皮保存標本及び内皮剥離標本における、GSAC(3×10−4〜10−2g/ml)の血管弛緩作用を比較すると、GSACは内皮剥離標本より内皮保存標本を有意に強く弛緩させた。
一方、NO合成酵素阻害剤であるL-NAMEにより内皮保存標本におけるGSACの弛緩作用が有意に減弱され、内皮剥離標本おける反応とほぼ同程度であった。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
(iii)高張性KCl収縮に対する作用
試験結果を表6、図1及び図3に示した。
内皮剥離標本において、GSACは10−4〜3×10−3g/mlの濃度範囲でKCl収縮に影響を与えなかった。GSACの高濃度(10−2g/ml)での収縮率は、87.9±3.5%であった。
【0054】
【表6】

【0055】
(iv)ATI収縮に対する作用
試験結果を表7、図2及び図4に示した。
GSACは3×10−3g/ml及び10−2g/mlの濃度で濃度依存的にATI収縮を抑制した。特に高濃度(10−2g/ml)では有意に抑制した(p<0.001)。
【0056】
【表7】

【0057】
(8)総括及び考察
GSACの降圧機序解明のため、摘出ラット大動脈標本を用いて、血管平滑筋に対する作用、内皮依存性血管弛緩に対する作用、内皮細胞から遊離されるNOの関与の検討、及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害に対する作用を検討した。
内皮剥離標本及び内皮保存標本において、GSACは10−4〜10−2g/mlの濃度範囲で濃度依存的にNE収縮を弛緩させた。内皮剥離標本より内皮保存標本に強い弛緩作用が見られた。内皮保存標本において、NO合成阻害剤であるL-NAMEによりGSACの弛緩作用が有意に減弱され、内皮剥離標本における反応とほぼ同程度の反応であった。
しかし、GSACは内皮剥離標本においてKCl収縮に顕著な影響を与えなかった。一方、内皮剥離標本において、GSACは濃度依存的(3×10−3〜10−2g/ml)にATI収縮を抑制した。
血管作動薬の中でNEは血管平滑筋の膜表面にあるα−アドレナリン受容体を介した刺激により、またKClは電位依存性カルシウムチャネルを開口して、それぞれ細胞内にCa2+を流入させ平滑筋を収縮させると考えられている。一方、ATIは同様に血管平滑筋の膜表面にあるATI受容体を介して細胞内に取り込まれ、細胞内でACEによりATIからアンジオテンシンII(ATII)が合成され、このATIIにより細胞内Ca2+流入が起こり結果的に平滑筋を収縮させると考えられている。したがって、内皮剥離標本において、GSACがNE収縮及びATI収縮を強く抑制した実験結果から、GSACはα−アドレナリン受容体を介した平滑筋収縮を抑制することとACE阻害活性を示すことが示唆された。一方、GSACがKCl収縮を抑制しなかった実験結果から、GSACによる弛緩作用に電位依存性カルシウムチャネルは関与しないと考えられた。
血管内皮細胞からは種々の弛緩物資(EDRF)が遊離されている。アセチルコリン(Ach)をはじめとする種々の血管作動物質は、内皮細胞においてNO合成酵素の働きによりL-アルギニンからL-シトルリンとNOを産生させ、産生されたNOが血管平滑筋に作用し細胞内サイクリックGMPを遊離させ、結果的に血管平滑筋を弛緩させると考えられている。GSACの弛緩作用が内皮保存標本で強く認められたことにより、その作用の一部に内皮依存性反応が関与していることが判明した。さらに、GSACの弛緩作用はNO合成阻害剤であるL-NAMEの処置により減弱された。これらのことから、GSACの内皮依存性弛緩作用は内皮細胞から遊離されたNOが関与していると考えられた。
以上の結果から、GSACの血圧降下作用のメカニズムは、α−アドレナリン受容体刺激に関連した平滑筋収縮の抑制作用、内皮細胞を介したNOの遊離作用、及びACE阻害作用の複合的な作用によると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、α−アドレナリン受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤、及び一酸化窒素遊離促進剤を得ることができる。また、本発明の組成物は、高血圧、狭心症、心筋梗塞、動脈硬化、糖尿病などの循環器疾患、クモ膜下攣縮、脳梗塞などの脳循環障害の予防及び/又は治療に使用することができる。
これら組成物は、医薬品、あるいは健康食品、健康補助食品、特定保健用食品又は栄養補助食品などの食品として、ヒトのみならず、イヌやネコなどの動物の高血圧などの上記疾患を予防及び/又は治療するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】GSACのラット胸部大動脈におけるNE収縮及びKCl収縮に対する作用を示す図である。
【図2】GSACのラット胸部大動脈におけるATI収縮に対する作用を示す図である。
【図3】GSACのラット胸部大動脈におけるNE収縮及びKCl収縮に対する作用を示す図である。
【図4】GSACのラット胸部大動脈におけるATI収縮に対する作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、α−アドレナリン受容体遮断剤。
【請求項2】
γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素活性阻害剤。
【請求項3】
γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、一酸化窒素遊離促進剤。
【請求項4】
γ−グルタミル−S−アリルシステインを含有することを特徴とする、高血圧の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項5】
γ−L−グルタミル−S−アリル−L−システインを含有することを特徴とする、高血圧の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項6】
食品である、請求項4又は5記載の組成物。
【請求項7】
医薬である、請求項4又は5記載の組成物。
【請求項8】
γ−グルタミル−S−アリルシステインの経口摂取量が、体重60kgの成人1日当たり0.05〜250mgである、請求項6又は7記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16026(P2007−16026A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161082(P2006−161082)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(398013554)株式会社健康家族 (9)
【Fターム(参考)】