ノイズ対策回路及びインダクタ
【課題】電源迂回用のコイル素子をインダクタに対して外付けすることで、ノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうるノイズ対策回路及びインダクタを提供する。
【解決手段】インダクタ1が送信側回路TXと受信側回路RXとの間のライン121〜123上に実装され、コイル素子2がグランドライン123に並列に接続されている。コイル素子2は電源ライン125からグランドライン123にフィードバックした直流電源を迂回させるための巻線型のチップコイルであり、リード線26,27を通じてグランドライン123に並列に接続されている。コイル素子2の直流抵抗値はインダクタ1のグランドコイル13の直流抵抗値よりも小さく設定され、インダクタンス値はグランドコイル13のインダクタンス値よりも大きく設定されている。
【解決手段】インダクタ1が送信側回路TXと受信側回路RXとの間のライン121〜123上に実装され、コイル素子2がグランドライン123に並列に接続されている。コイル素子2は電源ライン125からグランドライン123にフィードバックした直流電源を迂回させるための巻線型のチップコイルであり、リード線26,27を通じてグランドライン123に並列に接続されている。コイル素子2の直流抵抗値はインダクタ1のグランドコイル13の直流抵抗値よりも小さく設定され、インダクタンス値はグランドコイル13のインダクタンス値よりも大きく設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コモンモードのノイズを抑制するためのインダクタを用いたノイズ対策回路及びインダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音声回路等のノイズ対策に使用されるインダクタとして、いわゆるトリファイラ構造のインダクタがある。
図11は、トリファイラ構造のインダクタの外観図であり、図12は、トリファイラ構造のインダクタの等価回路図である。
図11及び図12に示すように、トリファイラ構造のインダクタ100は、互いに磁気結合した3つのコイル101〜103を有している。これら3つのコイル101〜103は、フェライト等の磁性体110に内包され、右信号ライン用のコイル101の両端が、磁性体110外面に設けられた外部電極111a,111bに接続され、左信号ライン用のコイル102の両端が、外部電極112a,112bに接続され、グランドライン用のコイル103の両端が、外部電極113a,113bに接続されている。
このようなトリファイラ構造のインダクタは、日々改良されており、例えば、特許文献1に開示のインダクタのように、グランドライン用のコイル103を並列構造にして、その直列抵抗を下げ、コイル101,102との間でのクロストークを減らし、不要なノイズの発生を抑制したものもある。
【0003】
従来、このようなトリファイラ構造のインダクタを用いたノイズ対策回路では、図13に示すように、インダクタ100を、送信側回路TXと受信側回路RXとの間に配線された右信号ライン121,左信号ライン122,グランドライン123に実装した構造になっている。
これにより、右信号R,左信号Lを送信側回路TXから右信号ライン121,左信号ライン122を通じて、伝送すると、これらの右信号R,左信号Lが、受信側回路RXで受信された後、グランドライン123に送出される。そして、コモンモードのノイズ電流が送信側回路TXからこれらのライン121〜123に送出されると、インダクタ100によって、抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−030945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来のノイズ対策回路では、次のような問題がある。
図13に示す送信側回路TXと受信側回路RXとを繋ぐ伝送路が、右信号ライン121,左信号ライン122,グランドライン123だけで構成されている場合には、なんら問題がない。しかしながら、伝送路が、これらのライン以外に、電源ライン125が加わった構成になると、直流電源Vが電源ライン125を通じて送信側回路TXから受信側回路RXに送られた後、グランドライン123に送出される。
グランドライン123には、右信号Rや左信号Lがフィードバックされており、これに加えて、直流電源Vが重畳されると、グランドライン123に大電流が流れることとなり、インダクタ100のコイル103の電流許容値を超えてしまうおそれがある。
さらに、大きな直流電源Vが磁性体110内のコイル103を流れると、磁性体110が磁気飽和して、インダクタ100のインダクタンスが低下してしまい、インダクタ100のノイズ抑制効果が著しく劣化するおそれがある。
【0006】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、電源迂回用のコイル素子をインダクタに対して外付けすることで、ノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうるノイズ対策回路及びインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとから成るトリファイラ構造を有するインダクタを、送信側回路と受信側回路とを接続する第1及び第2の信号用ラインと1本のグランド用ラインとに実装したノイズ対策回路であって、インダクタの外部端子が第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに接続されて、第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルとが第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインとにそれぞれ接続され、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、インダクタのグランド用コイルと並列になるように上記グランド用ラインに接続されている構成とした。
かかる構成により、信号を第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、この信号が、グランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に戻される。
かかる状態では、インダクタの第1及び第2の信号用コイルを流れる信号の向きと、グランド用コイルを流れる信号の向きが逆向きであるので、インダクタのインピーダンスは高くならず、信号は抑制されることなく、インダクタを通過する。
しかし、ノイズ電流が第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに生じると、ノイズ電流が、インダクタの第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルを同方向に流れるため、インダクタのインピーダンスが高くなって、ノイズ電流はインダクタによって抑制される。
また、信号を、第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると共に、直流電源を、電源用ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、信号と直流電源とが、1本のグランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に送られる。
かかる場合に、1本のグランド用ラインを流れる信号と直流電源とが、インダクタのグランド用コイルに入力すると、グランド用コイルの電流許容値を超えてしまうおそれがある。また、インダクタが磁性体で構成されている場合には、直流電源によって、磁性体が磁気飽和し、インダクタのインダクタンスが低下するおそれがある。
しかし、この発明では、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子を、インダクタのグランド用コイルと並列になるようにグランド用ラインに接続しているので、直流電源は、グランド用ラインからインダクタに入力する前段で、インダクタ外部のコイル素子に流れ込み、このコイル素子を通って、グランド用ラインに戻る。したがって、受信側回路からグランド用ラインに送り出された直流電源は、コイル素子側に迂回し、グランド用ラインのみを通じて送信側回路に戻ることとなる。
この結果、受信側回路からグランド用ラインに送り出された信号は、インダクタのグランド用コイルを通って、送信側回路に戻り、直流電源は、インダクタのグランド用コイルを通らずに、送信側回路に戻る。
したがって、許容値を超える電流がインダクタのグランド用コイルに入力することもなく、インダクタのインダクタンス値が直流電源によって低下するという事態も生じない。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のノイズ対策回路において、インダクタは、積層型インダクタ又は薄膜型インダクタのいずれかである構成とした。
【0009】
請求項3の発明は、第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとが磁性体に内包されたトリファイラ構造をなし、第1の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第1及び第2の外部電極と第2の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第3及び第4の外部電極とグランド用コイルの両端にそれぞれ接続された第5及び第6の外部電極とが磁性体外面に設けられた積層型のインダクタであって、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、磁性体の外面に取り付けられ、その両端子が第5及び第6の外部電極にそれぞれ接続されている構成とした。
かかる構成により、インダクタの第1及び第2の外部電極を第1の信号用ラインに半田付け等で接続すると共に、第3及び第4の外部電極を第2の信号用ラインに接続し、且つ、第5及び第6の外部電極をグランド用ラインに接続することで、インダクタを、送信側回路と受信側回路間のラインに実装することができる。
かかる状態で、信号を、第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると共に、直流電源を、電源用ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、信号と直流電源とが、1本のグランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に送られる。すると、信号が、第5の外部電極からインダクタのグランド用コイルに入り、第6の外部電極からグランド用ラインに送出される。一方、直流電源は、第5の外部電極からコイル素子側に流れ、インダクタのグランド用コイル内には入らない。そして、直流電源は、コイル素子内を通って、第6の外部電極からグランド用ラインに送出される。
したがって、この発明のインダクタを用いることにより、インダクタ内への許容値を超える電流の流入や、磁性体の磁気飽和によるインダクタンス値の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上詳しく説明したように、この発明によれば、グランド用ライン上の電源をインダクタのグランド用コイルを通さずに、送信側回路に戻すことができるので、ノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうるノイズ対策回路及びインダクタを提供することができるという優れた効果がある。
特に積層型インダクタや薄膜型インダクタに対して、この発明を適用することで、直流抵抗値を増加させることなく、インダクタ部品の低背化を図ることができるという効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズ対策回路を示す斜視図である。
【図2】図1に示すノイズ対策回路の等価回路図である。
【図3】ノイズ対策回路に適用されるインダクタの分解斜視図である。
【図4】コイル素子を示す平面図である。
【図5】ノイズ対策回路の動作説明図である。
【図6】インピーダンス測定で用いた回路図である。
【図7】直流抵抗測定で用いた回路図である。
【図8】インピーダンス特性を示す線図である。
【図9】この発明の第2実施例に係るインダクタの外観図である。
【図10】図9のインダクタの等価回路図である。
【図11】トリファイラ構造のインダクタの外観図である。
【図12】トリファイラ構造のインダクタの等価回路図である。
【図13】図11のインダクタを用いた従来のノイズ対策回路の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(実施例1)
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策回路を示す斜視図であり、図2は、図1に示すノイズ対策回路の等価回路図であり、図3は、ノイズ対策回路に適用されるインダクタの分解斜視図であり、図4は、コイル素子を示す平面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、この実施例は、音声回路に適用したノイズ対策回路であり、第1の信号用ラインとしての右信号ライン121と第2の信号用ラインとしての左信号ライン122とグランド用ラインとしてのグランドライン123と電源用ラインとしての電源ライン125とが、送信側回路TXと受信側回路RXとの間に接続され、インダクタ1が、これら右信号ライン121,左信号ライン122及びグランドライン123の上に実装され、コイル素子2が、グランドライン123に接続されている。
【0015】
図3に示すように、インダクタ1は、トリファイラ構造の積層型インダクタである。なお、図3では、2つの信号用コイルとグランド用コイルを上下に離して表示したため、磁性体を、これらのコイルを内包するように厚く表示しているが、実際は、コイル同士が近づいており、磁性体の厚さも薄く設定されている。
インダクタ1は、磁性層と電極パターンとを交互に積層して形成した積層型インダクタであり、第1の信号用コイルとして信号コイル11と第2の信号用コイルとしての信号コイル12とグランド用コイルとしてのグランドコイル13と、これらを内包した磁性体10を有している。これらコイル11〜13は電流導通時に磁気的結合するトリファイラ構造をなし、信号コイル11の両端11a,11bには、第1及び第2の外部電極としての外部電極14A,14Bが接続されている。また、信号コイル12の両端12a,12bには、第3及び第4の外部電極としての外部電極15A,15Bが接続され、グランドコイル13の両端13a,13bには、第5及び第6の外部電極としての外部電極16A,16Bが接続されている。
そして、外部電極14A,14Bが、図1及び図2に示すように、右信号ライン121に半田等で接続され、外部電極15A,15Bが、左信号ライン122に半田等で接続され、外部電極16A,16Bが、グランドライン123に半田等で接続されている。
【0016】
コイル素子2は、図1に示すように、巻線型のチップコイルである。
具体的には、図4に示すように、コイル素子2は、磁性のコア20を有しており、巻線25が、コア20の巻芯部21に巻回され、その両端25a,25bが、コア20両端の鍔部22,23に設けられた外部端子22a,23aに半田等で接続されている。
このようなコイル素子2は、図1に示すように、リード線26,27を通じてグランドライン123に接続されている。具体的には、コイル素子2の外部端子22aから引き出されたリード線26の先端が外部電極16A側のグランドライン123に接続され、外部端子23aから引き出されたリード線27の先端が外部電極16B側のグランドライン123に接続されている。つまり、コイル素子2は、インダクタ1のグランドコイル13と並列になるように、グランドライン123に接続されている。
このようなコイル素子2の直流抵抗値は、インダクタ1のグランドコイル13の直流抵抗値よりも小さく設定されている。つまり、直流電流が、グランドコイル13よりもコイル素子2側に流れやすくなっている。また、コイル素子2のインダクタンス値は、グランドコイル13のインダクタンス値よりも大きく設定されている。つまり、高周波の電流がコイル素子2側に流れないように設定されている。
【0017】
次に、この実施例のノイズ対策回路が示す作用及び効果について説明する。
図5は、ノイズ対策回路の動作説明図である。
図5に示すように、右信号R,左信号Lを、右信号ライン121,左信号ライン122に送り出し、直流電源Vを電源ライン125に送り出すと、信号R,Lが、受信側回路RXからグランドライン123を通じて送信側回路TX側にフィードバックされる。
一方、直流電源Vも、1本のグランドライン123を信号R,Lと共にインダクタ1に向かってフィードバックされる。
このとき、インダクタ1の前段にコイル素子2が設けられているので、グランドライン123から分流した信号R,Lが、コイル素子2側に向かうと、高インダクタンス値のコイル素子2によって抑制される。このため、高周波の信号R,Lは、コイル素子2に入力せずに、低インダクタンス値のグランドコイル13内に流入する。
一方、直流電源Vは、インダクタ1に向かうと、高直流抵抗値のグランドコイル13によって抑制される。このため、直流電源Vは、インダクタ1に入力せずに、低直流抵抗値のコイル素子2内に流入する。
したがって、受信側回路RXからグランドライン123に送り出された信号R,Lは、インダクタ1を通過して、送信側回路TXに戻り、受信側回路RXからグランドライン123に送り出された直流電源Vは、コイル素子2側に迂回し、グランドライン123のみを通じて送信側回路TXに戻る。
この結果、許容値を超える直流電源Vがインダクタ1のグランドコイル13に入力することもなく、インダクタ1のインダクタンス値が直流電源Vによって低下するという事態を防止することができる。
【0018】
以上のように、この実施例のノイズ対策回路は、グランドライン123上の直流電源Vを、インダクタ1を通さずに、送信側回路TXに戻すことができるので、インダクタ1のノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうる効果を奏する。
また、インダクタ1として、積層型インダクタを適用して低背化を図っているが、インダクタ1を薄くするに応じて、コイル11〜13の直流抵抗値が大きくなってしまい、好ましいことではない。しかし、この実施例のように、インダクタ1の外部にコイル素子2を設けることで、インダクタ1内の直流抵抗値の一部をコイル素子2によって分担することができるので、インダクタ1の直流抵抗値を増加させることなく、インダクタ1の低背化を図ることができるという効果もある。
【0019】
なお、例えば、送信側回路TXから受信側回路RXに向かう同方向の高周波のノイズ電流がライン121〜123に発生し、インダクタ1に入力した場合には、このノイズ電流は、インダクタ1によって抑制される。また、ノイズ電流の一部がコイル素子2側に分流した場合においても、コイル素子2が高インダクタンス値を有しているので、コイル素子2によって抑制される。
つまり、ノイズ対策回路が、コイル素子2を備えることによって、ノイズ抑制効果が損なわれることはない。
【0020】
発明者は、かかる効果を確認すべく、次のような実験を行った。
図6は、インピーダンス測定で用いた回路図であり、図7は、直流抵抗測定で用いた回路図であり、図8は、インピーダンス特性を示す線図である。
発明者は、この実験において、インダクタ1として、コアの透磁率が約600で、巻線の巻数が7回巻きの巻線型インダクタを用いた。また、コイル素子2として、村田製作所の製造番号LQW18CNR65を用いた。
【0021】
まず、インピーダンス測定を行った。
具体的には、図6の(a)に示すように、上記設定のインダクタ1のみをライン130に実装した。このとき、インダクタ1内の信号コイル11,12及びグランドコイル13が並列に接続されるように、外部電極14A,14B〜16A,16Bを1本のライン130に接続した。
そして、周波数1MHz〜1GHzの範囲の電流を、ライン130に送って、インピーダンスを測定したところ、図8の実線で示すインピーダンス特性曲線S1を得た。
次に、図6の(b)に示すように、コイル素子2をライン130に外付けした状態で、上記と同様の測定を行ったところ、図8の破線で示すインピーダンス特性曲線S2を得た。
この結果から明らかなように、コイル素子2を外付けした本実施例の回路構造においても、インダクタ1のみの回路構造の場合と遜色ないインピーダンスが得られている。つまり、ノイズ対策回路が、コイル素子2を備えることによって、ノイズ抑制効果が損なわれることはないということを確認することができた。
なお、外付けのコイル素子2のインピーダンス(具体的にはインダクタンス値)が高いほど、ノイズ対策回路のインピーダンスが、インダクタ1のみの回路構造の場合のインピーダンスに近づくため、コイル素子2のインピーダンスは、ノイズを除去したい周波数において可能な限り高くすることが望ましい。
【0022】
次に、直流抵抗の測定を行った。
具体的には、図7の(a)に示すように、インダクタ1のみをライン130に実装した。このとき、外部電極16A,16Bのみを1本のライン130に接続して、信号コイル11,12が断状態になり、且つグランドコイル13のみがライン130に接続されるようにした。そして、かかる回路構造の直流抵抗値を測定したところ、その値は、1.5Ωであった。
次に、図7の(b)に示すように、コイル素子2をライン130に外付けした状態で、上記と同様の測定を行ったところ、その値が、0.3Ωになり、約20%に低下した。
すなわち、本実施例の回路構造をとることにより、許容値よりも大きな電流を、この実施例のノイズ対策回路に流すことができることを確認することができた。
【0023】
(実施例2)
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図9は、この発明の第2実施例に係るインダクタの外観図であり、図10は、図9のインダクタの等価回路図である。
図9及び図10に示すように、この実施例のインダクタ1は、コイル素子2を磁性体10の上面に有している。
具体的には、外部端子22a,23aを磁性体10の上面側に向けて、コイル素子2を磁性体10上に載置し、外部端子22a,23aを外部電極16A,16Bにそれぞれ接続した。
【0024】
かかる構成により、インダクタ1の外部電極14A,14Bを図1に示した右信号ライン121に半田付けすると共に、外部電極15A,15Bを左信号ライン122に半田付けし、且つ、外部電極16A,16Bをグランドライン123に半田付けすることで、コイル素子2を有したインダクタ1を、送信側回路TXと受信側回路RXのライン121〜123上に実装することができる。
これにより、受信側回路RXからグランドライン123に戻った直流電源V(図5参照)が、インダクタ1の外部電極16A,16Bと外部端子22a,23aとを通じてコイル素子2を流れる。したがって、直流電源Vは、インダクタ1内には流入しない。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0025】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、インダクタ1として、積層型インダクタを適用した例を示したが、これに限定されるものでなく、薄膜型インダクタや巻線型インダクタもインダクタ1として適用することができる。
また、上記実施例では、コイル素子2として巻線型コイルを適用した例を示したが、積層型のコイル素子、薄膜型のコイル素子をも適用することができる。
さらに、上記第2実施例では、コイル素子2の外部端子22a,23aをインダクタ1の外部電極16A,16Bに直接接続した例を示したが、コイル素子2の外部端子22a,23aとインダクタ1の外部電極16A,16Bとをリード線等を介して接続してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…インダクタ、 2…コイル素子、 10…磁性体、 11,12…信号コイル、 11a〜13a,11b〜13b,25a,25b…両端、 13…グランドコイル、 14A〜16A,14B〜16B…外部電極、 20…コア、 21…巻芯部、 22,23…鍔部、 22a,23a…外部端子、 25…巻線、 26,27…リード線、 121,122…右信号ライン、 123…グランドライン、 125…電源ライン、 130…ライン、 2000…特開、 L…左信号、 R…右信号、 RX…受信側回路、 TX…送信側回路、 V…直流電源。
【技術分野】
【0001】
この発明は、コモンモードのノイズを抑制するためのインダクタを用いたノイズ対策回路及びインダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音声回路等のノイズ対策に使用されるインダクタとして、いわゆるトリファイラ構造のインダクタがある。
図11は、トリファイラ構造のインダクタの外観図であり、図12は、トリファイラ構造のインダクタの等価回路図である。
図11及び図12に示すように、トリファイラ構造のインダクタ100は、互いに磁気結合した3つのコイル101〜103を有している。これら3つのコイル101〜103は、フェライト等の磁性体110に内包され、右信号ライン用のコイル101の両端が、磁性体110外面に設けられた外部電極111a,111bに接続され、左信号ライン用のコイル102の両端が、外部電極112a,112bに接続され、グランドライン用のコイル103の両端が、外部電極113a,113bに接続されている。
このようなトリファイラ構造のインダクタは、日々改良されており、例えば、特許文献1に開示のインダクタのように、グランドライン用のコイル103を並列構造にして、その直列抵抗を下げ、コイル101,102との間でのクロストークを減らし、不要なノイズの発生を抑制したものもある。
【0003】
従来、このようなトリファイラ構造のインダクタを用いたノイズ対策回路では、図13に示すように、インダクタ100を、送信側回路TXと受信側回路RXとの間に配線された右信号ライン121,左信号ライン122,グランドライン123に実装した構造になっている。
これにより、右信号R,左信号Lを送信側回路TXから右信号ライン121,左信号ライン122を通じて、伝送すると、これらの右信号R,左信号Lが、受信側回路RXで受信された後、グランドライン123に送出される。そして、コモンモードのノイズ電流が送信側回路TXからこれらのライン121〜123に送出されると、インダクタ100によって、抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−030945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来のノイズ対策回路では、次のような問題がある。
図13に示す送信側回路TXと受信側回路RXとを繋ぐ伝送路が、右信号ライン121,左信号ライン122,グランドライン123だけで構成されている場合には、なんら問題がない。しかしながら、伝送路が、これらのライン以外に、電源ライン125が加わった構成になると、直流電源Vが電源ライン125を通じて送信側回路TXから受信側回路RXに送られた後、グランドライン123に送出される。
グランドライン123には、右信号Rや左信号Lがフィードバックされており、これに加えて、直流電源Vが重畳されると、グランドライン123に大電流が流れることとなり、インダクタ100のコイル103の電流許容値を超えてしまうおそれがある。
さらに、大きな直流電源Vが磁性体110内のコイル103を流れると、磁性体110が磁気飽和して、インダクタ100のインダクタンスが低下してしまい、インダクタ100のノイズ抑制効果が著しく劣化するおそれがある。
【0006】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、電源迂回用のコイル素子をインダクタに対して外付けすることで、ノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうるノイズ対策回路及びインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとから成るトリファイラ構造を有するインダクタを、送信側回路と受信側回路とを接続する第1及び第2の信号用ラインと1本のグランド用ラインとに実装したノイズ対策回路であって、インダクタの外部端子が第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに接続されて、第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルとが第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインとにそれぞれ接続され、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、インダクタのグランド用コイルと並列になるように上記グランド用ラインに接続されている構成とした。
かかる構成により、信号を第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、この信号が、グランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に戻される。
かかる状態では、インダクタの第1及び第2の信号用コイルを流れる信号の向きと、グランド用コイルを流れる信号の向きが逆向きであるので、インダクタのインピーダンスは高くならず、信号は抑制されることなく、インダクタを通過する。
しかし、ノイズ電流が第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに生じると、ノイズ電流が、インダクタの第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルを同方向に流れるため、インダクタのインピーダンスが高くなって、ノイズ電流はインダクタによって抑制される。
また、信号を、第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると共に、直流電源を、電源用ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、信号と直流電源とが、1本のグランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に送られる。
かかる場合に、1本のグランド用ラインを流れる信号と直流電源とが、インダクタのグランド用コイルに入力すると、グランド用コイルの電流許容値を超えてしまうおそれがある。また、インダクタが磁性体で構成されている場合には、直流電源によって、磁性体が磁気飽和し、インダクタのインダクタンスが低下するおそれがある。
しかし、この発明では、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子を、インダクタのグランド用コイルと並列になるようにグランド用ラインに接続しているので、直流電源は、グランド用ラインからインダクタに入力する前段で、インダクタ外部のコイル素子に流れ込み、このコイル素子を通って、グランド用ラインに戻る。したがって、受信側回路からグランド用ラインに送り出された直流電源は、コイル素子側に迂回し、グランド用ラインのみを通じて送信側回路に戻ることとなる。
この結果、受信側回路からグランド用ラインに送り出された信号は、インダクタのグランド用コイルを通って、送信側回路に戻り、直流電源は、インダクタのグランド用コイルを通らずに、送信側回路に戻る。
したがって、許容値を超える電流がインダクタのグランド用コイルに入力することもなく、インダクタのインダクタンス値が直流電源によって低下するという事態も生じない。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のノイズ対策回路において、インダクタは、積層型インダクタ又は薄膜型インダクタのいずれかである構成とした。
【0009】
請求項3の発明は、第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとが磁性体に内包されたトリファイラ構造をなし、第1の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第1及び第2の外部電極と第2の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第3及び第4の外部電極とグランド用コイルの両端にそれぞれ接続された第5及び第6の外部電極とが磁性体外面に設けられた積層型のインダクタであって、グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、磁性体の外面に取り付けられ、その両端子が第5及び第6の外部電極にそれぞれ接続されている構成とした。
かかる構成により、インダクタの第1及び第2の外部電極を第1の信号用ラインに半田付け等で接続すると共に、第3及び第4の外部電極を第2の信号用ラインに接続し、且つ、第5及び第6の外部電極をグランド用ラインに接続することで、インダクタを、送信側回路と受信側回路間のラインに実装することができる。
かかる状態で、信号を、第1及び第2の信号ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると共に、直流電源を、電源用ラインを通じて送信側回路から受信側回路に送信すると、信号と直流電源とが、1本のグランド用ラインを通じて受信側回路から送信側回路に送られる。すると、信号が、第5の外部電極からインダクタのグランド用コイルに入り、第6の外部電極からグランド用ラインに送出される。一方、直流電源は、第5の外部電極からコイル素子側に流れ、インダクタのグランド用コイル内には入らない。そして、直流電源は、コイル素子内を通って、第6の外部電極からグランド用ラインに送出される。
したがって、この発明のインダクタを用いることにより、インダクタ内への許容値を超える電流の流入や、磁性体の磁気飽和によるインダクタンス値の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上詳しく説明したように、この発明によれば、グランド用ライン上の電源をインダクタのグランド用コイルを通さずに、送信側回路に戻すことができるので、ノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうるノイズ対策回路及びインダクタを提供することができるという優れた効果がある。
特に積層型インダクタや薄膜型インダクタに対して、この発明を適用することで、直流抵抗値を増加させることなく、インダクタ部品の低背化を図ることができるという効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズ対策回路を示す斜視図である。
【図2】図1に示すノイズ対策回路の等価回路図である。
【図3】ノイズ対策回路に適用されるインダクタの分解斜視図である。
【図4】コイル素子を示す平面図である。
【図5】ノイズ対策回路の動作説明図である。
【図6】インピーダンス測定で用いた回路図である。
【図7】直流抵抗測定で用いた回路図である。
【図8】インピーダンス特性を示す線図である。
【図9】この発明の第2実施例に係るインダクタの外観図である。
【図10】図9のインダクタの等価回路図である。
【図11】トリファイラ構造のインダクタの外観図である。
【図12】トリファイラ構造のインダクタの等価回路図である。
【図13】図11のインダクタを用いた従来のノイズ対策回路の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(実施例1)
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策回路を示す斜視図であり、図2は、図1に示すノイズ対策回路の等価回路図であり、図3は、ノイズ対策回路に適用されるインダクタの分解斜視図であり、図4は、コイル素子を示す平面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、この実施例は、音声回路に適用したノイズ対策回路であり、第1の信号用ラインとしての右信号ライン121と第2の信号用ラインとしての左信号ライン122とグランド用ラインとしてのグランドライン123と電源用ラインとしての電源ライン125とが、送信側回路TXと受信側回路RXとの間に接続され、インダクタ1が、これら右信号ライン121,左信号ライン122及びグランドライン123の上に実装され、コイル素子2が、グランドライン123に接続されている。
【0015】
図3に示すように、インダクタ1は、トリファイラ構造の積層型インダクタである。なお、図3では、2つの信号用コイルとグランド用コイルを上下に離して表示したため、磁性体を、これらのコイルを内包するように厚く表示しているが、実際は、コイル同士が近づいており、磁性体の厚さも薄く設定されている。
インダクタ1は、磁性層と電極パターンとを交互に積層して形成した積層型インダクタであり、第1の信号用コイルとして信号コイル11と第2の信号用コイルとしての信号コイル12とグランド用コイルとしてのグランドコイル13と、これらを内包した磁性体10を有している。これらコイル11〜13は電流導通時に磁気的結合するトリファイラ構造をなし、信号コイル11の両端11a,11bには、第1及び第2の外部電極としての外部電極14A,14Bが接続されている。また、信号コイル12の両端12a,12bには、第3及び第4の外部電極としての外部電極15A,15Bが接続され、グランドコイル13の両端13a,13bには、第5及び第6の外部電極としての外部電極16A,16Bが接続されている。
そして、外部電極14A,14Bが、図1及び図2に示すように、右信号ライン121に半田等で接続され、外部電極15A,15Bが、左信号ライン122に半田等で接続され、外部電極16A,16Bが、グランドライン123に半田等で接続されている。
【0016】
コイル素子2は、図1に示すように、巻線型のチップコイルである。
具体的には、図4に示すように、コイル素子2は、磁性のコア20を有しており、巻線25が、コア20の巻芯部21に巻回され、その両端25a,25bが、コア20両端の鍔部22,23に設けられた外部端子22a,23aに半田等で接続されている。
このようなコイル素子2は、図1に示すように、リード線26,27を通じてグランドライン123に接続されている。具体的には、コイル素子2の外部端子22aから引き出されたリード線26の先端が外部電極16A側のグランドライン123に接続され、外部端子23aから引き出されたリード線27の先端が外部電極16B側のグランドライン123に接続されている。つまり、コイル素子2は、インダクタ1のグランドコイル13と並列になるように、グランドライン123に接続されている。
このようなコイル素子2の直流抵抗値は、インダクタ1のグランドコイル13の直流抵抗値よりも小さく設定されている。つまり、直流電流が、グランドコイル13よりもコイル素子2側に流れやすくなっている。また、コイル素子2のインダクタンス値は、グランドコイル13のインダクタンス値よりも大きく設定されている。つまり、高周波の電流がコイル素子2側に流れないように設定されている。
【0017】
次に、この実施例のノイズ対策回路が示す作用及び効果について説明する。
図5は、ノイズ対策回路の動作説明図である。
図5に示すように、右信号R,左信号Lを、右信号ライン121,左信号ライン122に送り出し、直流電源Vを電源ライン125に送り出すと、信号R,Lが、受信側回路RXからグランドライン123を通じて送信側回路TX側にフィードバックされる。
一方、直流電源Vも、1本のグランドライン123を信号R,Lと共にインダクタ1に向かってフィードバックされる。
このとき、インダクタ1の前段にコイル素子2が設けられているので、グランドライン123から分流した信号R,Lが、コイル素子2側に向かうと、高インダクタンス値のコイル素子2によって抑制される。このため、高周波の信号R,Lは、コイル素子2に入力せずに、低インダクタンス値のグランドコイル13内に流入する。
一方、直流電源Vは、インダクタ1に向かうと、高直流抵抗値のグランドコイル13によって抑制される。このため、直流電源Vは、インダクタ1に入力せずに、低直流抵抗値のコイル素子2内に流入する。
したがって、受信側回路RXからグランドライン123に送り出された信号R,Lは、インダクタ1を通過して、送信側回路TXに戻り、受信側回路RXからグランドライン123に送り出された直流電源Vは、コイル素子2側に迂回し、グランドライン123のみを通じて送信側回路TXに戻る。
この結果、許容値を超える直流電源Vがインダクタ1のグランドコイル13に入力することもなく、インダクタ1のインダクタンス値が直流電源Vによって低下するという事態を防止することができる。
【0018】
以上のように、この実施例のノイズ対策回路は、グランドライン123上の直流電源Vを、インダクタ1を通さずに、送信側回路TXに戻すことができるので、インダクタ1のノイズ抑制効果を保持しつつ、定格を超える電源電流にも耐えうる効果を奏する。
また、インダクタ1として、積層型インダクタを適用して低背化を図っているが、インダクタ1を薄くするに応じて、コイル11〜13の直流抵抗値が大きくなってしまい、好ましいことではない。しかし、この実施例のように、インダクタ1の外部にコイル素子2を設けることで、インダクタ1内の直流抵抗値の一部をコイル素子2によって分担することができるので、インダクタ1の直流抵抗値を増加させることなく、インダクタ1の低背化を図ることができるという効果もある。
【0019】
なお、例えば、送信側回路TXから受信側回路RXに向かう同方向の高周波のノイズ電流がライン121〜123に発生し、インダクタ1に入力した場合には、このノイズ電流は、インダクタ1によって抑制される。また、ノイズ電流の一部がコイル素子2側に分流した場合においても、コイル素子2が高インダクタンス値を有しているので、コイル素子2によって抑制される。
つまり、ノイズ対策回路が、コイル素子2を備えることによって、ノイズ抑制効果が損なわれることはない。
【0020】
発明者は、かかる効果を確認すべく、次のような実験を行った。
図6は、インピーダンス測定で用いた回路図であり、図7は、直流抵抗測定で用いた回路図であり、図8は、インピーダンス特性を示す線図である。
発明者は、この実験において、インダクタ1として、コアの透磁率が約600で、巻線の巻数が7回巻きの巻線型インダクタを用いた。また、コイル素子2として、村田製作所の製造番号LQW18CNR65を用いた。
【0021】
まず、インピーダンス測定を行った。
具体的には、図6の(a)に示すように、上記設定のインダクタ1のみをライン130に実装した。このとき、インダクタ1内の信号コイル11,12及びグランドコイル13が並列に接続されるように、外部電極14A,14B〜16A,16Bを1本のライン130に接続した。
そして、周波数1MHz〜1GHzの範囲の電流を、ライン130に送って、インピーダンスを測定したところ、図8の実線で示すインピーダンス特性曲線S1を得た。
次に、図6の(b)に示すように、コイル素子2をライン130に外付けした状態で、上記と同様の測定を行ったところ、図8の破線で示すインピーダンス特性曲線S2を得た。
この結果から明らかなように、コイル素子2を外付けした本実施例の回路構造においても、インダクタ1のみの回路構造の場合と遜色ないインピーダンスが得られている。つまり、ノイズ対策回路が、コイル素子2を備えることによって、ノイズ抑制効果が損なわれることはないということを確認することができた。
なお、外付けのコイル素子2のインピーダンス(具体的にはインダクタンス値)が高いほど、ノイズ対策回路のインピーダンスが、インダクタ1のみの回路構造の場合のインピーダンスに近づくため、コイル素子2のインピーダンスは、ノイズを除去したい周波数において可能な限り高くすることが望ましい。
【0022】
次に、直流抵抗の測定を行った。
具体的には、図7の(a)に示すように、インダクタ1のみをライン130に実装した。このとき、外部電極16A,16Bのみを1本のライン130に接続して、信号コイル11,12が断状態になり、且つグランドコイル13のみがライン130に接続されるようにした。そして、かかる回路構造の直流抵抗値を測定したところ、その値は、1.5Ωであった。
次に、図7の(b)に示すように、コイル素子2をライン130に外付けした状態で、上記と同様の測定を行ったところ、その値が、0.3Ωになり、約20%に低下した。
すなわち、本実施例の回路構造をとることにより、許容値よりも大きな電流を、この実施例のノイズ対策回路に流すことができることを確認することができた。
【0023】
(実施例2)
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図9は、この発明の第2実施例に係るインダクタの外観図であり、図10は、図9のインダクタの等価回路図である。
図9及び図10に示すように、この実施例のインダクタ1は、コイル素子2を磁性体10の上面に有している。
具体的には、外部端子22a,23aを磁性体10の上面側に向けて、コイル素子2を磁性体10上に載置し、外部端子22a,23aを外部電極16A,16Bにそれぞれ接続した。
【0024】
かかる構成により、インダクタ1の外部電極14A,14Bを図1に示した右信号ライン121に半田付けすると共に、外部電極15A,15Bを左信号ライン122に半田付けし、且つ、外部電極16A,16Bをグランドライン123に半田付けすることで、コイル素子2を有したインダクタ1を、送信側回路TXと受信側回路RXのライン121〜123上に実装することができる。
これにより、受信側回路RXからグランドライン123に戻った直流電源V(図5参照)が、インダクタ1の外部電極16A,16Bと外部端子22a,23aとを通じてコイル素子2を流れる。したがって、直流電源Vは、インダクタ1内には流入しない。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0025】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、インダクタ1として、積層型インダクタを適用した例を示したが、これに限定されるものでなく、薄膜型インダクタや巻線型インダクタもインダクタ1として適用することができる。
また、上記実施例では、コイル素子2として巻線型コイルを適用した例を示したが、積層型のコイル素子、薄膜型のコイル素子をも適用することができる。
さらに、上記第2実施例では、コイル素子2の外部端子22a,23aをインダクタ1の外部電極16A,16Bに直接接続した例を示したが、コイル素子2の外部端子22a,23aとインダクタ1の外部電極16A,16Bとをリード線等を介して接続してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…インダクタ、 2…コイル素子、 10…磁性体、 11,12…信号コイル、 11a〜13a,11b〜13b,25a,25b…両端、 13…グランドコイル、 14A〜16A,14B〜16B…外部電極、 20…コア、 21…巻芯部、 22,23…鍔部、 22a,23a…外部端子、 25…巻線、 26,27…リード線、 121,122…右信号ライン、 123…グランドライン、 125…電源ライン、 130…ライン、 2000…特開、 L…左信号、 R…右信号、 RX…受信側回路、 TX…送信側回路、 V…直流電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとから成るトリファイラ構造を有するインダクタを、送信側回路と受信側回路とを接続する第1及び第2の信号用ラインと1本のグランド用ラインとに実装したノイズ対策回路であって、
上記インダクタの外部端子が上記第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに接続されて、上記第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルとが第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインとにそれぞれ接続され、
上記グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、上記インダクタのグランド用コイルと並列になるように上記グランド用ラインに接続されている、
ことを特徴とするノイズ対策回路。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ対策回路において、
上記インダクタは、積層型インダクタ又は薄膜型インダクタのいずれかである、
ことを特徴とするノイズ対策回路。
【請求項3】
第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとが磁性体に内包されたトリファイラ構造をなし、上記第1の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第1及び第2の外部電極と上記第2の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第3及び第4の外部電極と上記グランド用コイルの両端にそれぞれ接続された第5及び第6の外部電極とが磁性体外面に設けられた積層型のインダクタであって、
上記グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、上記磁性体の外面に取り付けられ、その両端子が上記第5及び第6の外部電極にそれぞれ接続されている、
ことを特徴とするインダクタ。
【請求項1】
第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとから成るトリファイラ構造を有するインダクタを、送信側回路と受信側回路とを接続する第1及び第2の信号用ラインと1本のグランド用ラインとに実装したノイズ対策回路であって、
上記インダクタの外部端子が上記第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインに接続されて、上記第1及び第2の信号用コイルとグランド用コイルとが第1及び第2の信号用ラインとグランド用ラインとにそれぞれ接続され、
上記グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、上記インダクタのグランド用コイルと並列になるように上記グランド用ラインに接続されている、
ことを特徴とするノイズ対策回路。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ対策回路において、
上記インダクタは、積層型インダクタ又は薄膜型インダクタのいずれかである、
ことを特徴とするノイズ対策回路。
【請求項3】
第1及び第2の信号用コイルと1つのグランド用コイルとが磁性体に内包されたトリファイラ構造をなし、上記第1の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第1及び第2の外部電極と上記第2の信号用コイルの両端にそれぞれ接続された第3及び第4の外部電極と上記グランド用コイルの両端にそれぞれ接続された第5及び第6の外部電極とが磁性体外面に設けられた積層型のインダクタであって、
上記グランド用コイルの直流抵抗値よりも小さな直流抵抗値を有し且つグランド用コイルのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するコイル素子が、上記磁性体の外面に取り付けられ、その両端子が上記第5及び第6の外部電極にそれぞれ接続されている、
ことを特徴とするインダクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−151571(P2012−151571A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7286(P2011−7286)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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