ノイズ対策構造
【課題】コモンモードノイズ抑制効果を劣化させることなく、差動伝送路上に容易に構築することができるノイズ対策構造を提供する。
【解決手段】コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102にそれぞれ直付けした。また、外部電極6−2,6−3は、パターン106,106,コンデンサ7,7を通じてグランドパターン121,121に接続した。これにより、差動信号のグランドパターン121,121側への流出を、コモンモードチョークコイル2によって阻止し、コモンモードノイズだけをグランドパターン121,121に流出する。このとき、コモンモードチョークコイル2と差動伝送路101,102との間に余分なパターンがないので、ノイズを効率よくグランドパターン121,121側に流出させることができる。
【解決手段】コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102にそれぞれ直付けした。また、外部電極6−2,6−3は、パターン106,106,コンデンサ7,7を通じてグランドパターン121,121に接続した。これにより、差動信号のグランドパターン121,121側への流出を、コモンモードチョークコイル2によって阻止し、コモンモードノイズだけをグランドパターン121,121に流出する。このとき、コモンモードチョークコイル2と差動伝送路101,102との間に余分なパターンがないので、ノイズを効率よくグランドパターン121,121側に流出させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動信号に影響を与えることなく、差動伝送路上のコモンモードノイズをグランドに逃がすノイズ対策構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のノイズ対策構造としては、例えば、特許文献1や特許文献2に開示の構造がある。
特許文献1に開示のノイズ対策構造100は、図17に示すように、同方向に巻かれた1対のコイルを有するコモンモードチョークコイル110を、差動伝送路101,102の途中に挿入すると共に、逆方向を向いた1対のコイルを有する変成器120を、抵抗122,122を通じて差動伝送路101,102とグランド121,121との間に挿入した構造になっている。
このような構造により、差動伝送路101,102上のコモンモード信号をコモンモードチョークコイル110によって除去すると共に、差動伝送路101,102上のコモンモード信号を、変成器120によって、グランド121,121に流出させる。
具体的には、変成器120は、差動伝送路101,102を流れる差動信号に対しては高インピーダンスとなり、コモンモード信号に対しては低インピーダンスとなる。すなわち、動作に必要な差動信号のみを差動伝送路101,102上に通し、ノイズの原因となるコモンモード信号はグランド121,121に落とすようにしている。
【0003】
また、特許文献2のノイズ対策構造200では、図18に示すように、変成器120の代わりに、1対のコイルが同方向のコモンモードチョークコイル110を用い、このコモンモードチョークコイル110を抵抗122,122やDCカットコンデンサ123を通じて差動伝送路101,102とグランド121,121との間に挿入した構成になっている。そして、逆方向の電流が1対のコイルを流れるように、1対のコイルと差動伝送路101,102及びグランド121,121との接続に工夫を凝らしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−115820号公報
【特許文献2】特開2008−219098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図17に示したノイズ対策構造100を上記したように構築する場合には、変成器110と差動伝送路101,102とを繋ぐ一定以上長さのパターン105,105を形成する必要がある。このため、パターン105,105による不要なインダクタンスが変成器120と差動伝送路101,102との間に発生し、両者間のインピーダンスが所望値よりも高くなる。この結果、変成器120によるコモンモードノイズ抑制効果が劣化するおそれがある。さらに、変成器120を構成する1対のコイルは、巻き方向が逆なため、変成器120を製造するために工程が複雑になる。
図18に示したノイズ対策構造200の場合も同様に、コモンモードチョークコイル110と差動伝送路101,102とを繋ぐ一定以上長さのパターン105,105を形成する必要があるので、ノイズ対策構造100の場合と同様に問題が生じるおそれがある。
【0006】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、コモンモードノイズ抑制効果を劣化させることなく、差動伝送路に容易に構築することができるノイズ対策構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルと第1ないし第4の外部電極とを有するコモンモードチョークコイルを、1対の線路で構成された差動伝送路とグランドとの間に実装したノイズ対策構造であって、コモンモードチョークコイルにおける第1のコイルの巻き始め側が接続された第1の外部電極を、差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、他方の線路に直付けし、且つ、第1のコイルの巻き終わり側が接続された第2の外部電極を、グランドに接続すると共に、第2のコイルの巻き始め側が接続された第3の外部電極を、グランドに接続した構成とする。
かかる構成により、差動信号を差動伝送路に流すと、差動信号が、差動伝送路から外部電極を通じてコモンモードチョークコイル内に流入する。このとき、コモンモードチョークコイルの第1の外部電極が差動伝送路の一方の線路に接続され、第4の外部電極が他方の線路に接続されているので、差動信号の一方の信号が巻き始め側から第1のコイルに流れ、他方の信号が巻き終わり側から第2のコイルに流れる。つまり、極性が逆の信号が第1及び第2のコイルを逆方向に流れるので、1対の信号が第1及び第2のコイルを同方向に流れることとなり、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが高くなる。この結果、1対の信号つまり差動信号は、コモンモードチョークコイルによって阻止され、グランド側へ流出することはない。また、コモンモードノイズが差動伝送路に流れると、極性が同じ1対の信号が第1及び第2のコイルを逆方向に流れ、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが低くなる。この結果、1対の信号、つまりコモンモードノイズ等のコモンモード信号は、コモンモードチョークコイルによって阻止されることなく、グランドへ流出する。
すなわち、このノイズ対策構造を用いることで、コモンモードノイズのみをグランドに排出することができる。
ところで、このノイズ対策構造が、コモンモードノイズを除去することができるのは、コモンモードノイズ流入時に、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが低くなるからである。したがって、図17や図18に示したように、余分なパターンが基板上に形成されていると、パターンのインダクタンスによって、差動伝送路とコモンモードチョークコイルとの間のインピーダンスが高くなり、コモンモードノイズ抑制効果が著しく劣化する。
しかしながら、この発明のノイズ対策構造では、第1のコイルの巻き始め側が接続された第1の外部電極を、差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、他方の線路に直付けした構成をとっているので、差動伝送路とコモンモードチョークコイルの間に余分なパターンを形成する必要がない。
このため、コモンモードチョークコイルと差動伝送路との間のコモンモードインピーダンスが低くなり、十分なコモンモードノイズ抑制効果を発揮する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、抵抗又はコンデンサのいずれかを通じてグランドに接続した構成とする。
かかる構成により、コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、コンデンサを通じてグランドに接続した構成の場合には、コンデンサが、差動信号のバイアス等に使用する直流成分がグランド側に流出することを阻止する。また、抵抗を通じてグランドに接続した構成の場合には、抵抗が、コモンモードノイズを熱に変換して消費させる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルは、積層型コイルである構成とした。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載のノイズ対策構造において、積層型コイルは、直方体状をなし、第1及び第4の外部電極は、対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられ、第2及び第3の外部電極は、これら2つの側面に隣り合い且つ互いに対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられている構成とした。
かかる構成により、コモンモードチョークコイルを差動伝送路に対して傾けることなく、第1及び第4の外部電極を差動伝送路の1対の線路にそれぞれ直付けすることができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルは、巻線型コイルである構成とした。
【発明の効果】
【0012】
以上詳しく説明したように、この発明のノイズ対策構造によれば、コモンモードチョークコイルの第1及び第4の外部電極を差動伝送路に直付けする構造であるので、余分なパターンを、差動伝送路とコモンモードチョークコイルとの間に形成する必要がなく、この結果、コモンモードインピーダンスを低くすることができ、大きなコモンモードノイズ低減効果を発揮することができるという優れた効果がある。また、同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルを有する通常のコモンモードチョークコイルを適用したので、図17に示した従来のノイズ対策構造にあるような複雑な製造工程を要せず、その分製造コストの低減化を図ることができる。
特に、請求項2の発明に係るノイズ対策構造によれば、ノイズ抑制効果をさらに効果たらしめることとができる。
また、請求項4の発明に係るノイズ対策構造によれば、コモンモードチョークコイルを差動伝送路に対して傾けることなく、直付けすることができるので、コモンモードチョークコイルの差動伝送路に対する実装作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図2】第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【図3】コモンモードチョークコイルの内部を透視して示す斜視図である。
【図4】コモンモードチョークコイルの分解斜視図である。
【図5】差動信号が伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
【図6】コモンモードノイズが伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
【図7】この実験に適用された従来型のノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図8】実験でコモンモード信号を差動伝送路に流した時の透過率を示す線図である。
【図9】この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図10】この発明の第3実施例に係るノイズ対策構造に適用するコモンモードチョークコイルを示す概略構造図である。
【図11】コモンモードチョークコイルの分解斜視図である。
【図12】コモンモードチョークコイルの実装状態を示す平面図である。
【図13】この発明の第4実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図14】この実施例のノイズ対策構造に適用されるコモンモードチョークコイルの下面図である。
【図15】図14のコモンモードチョークコイルの側面図である。
【図16】実施例の一変形例を示す概略構造図である。
【図17】従来例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図18】他の従来に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図2は、第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、ノイズ対策構造1は、コモンモードチョークコイル2を差動伝送路101,102とグランドパターン121,121との間に実装した構成になっている。
【0017】
この実施例では、ノイズ対策構造1を構成するコモンモードチョークコイル2として、チップ状の積層型コイルを適用した。
図3は、コモンモードチョークコイル2の内部を透視して示す斜視図であり、図4は、コモンモードチョークコイル2の分解斜視図である。
図3に示すように、コモンモードチョークコイル2は、第1のコイルとしてのコイル3と第2のコイルとしてのコイル4とを直方体状の絶縁体5内に内包し、第1ないし第4の外部電極としての外部電極6−1〜6−4を絶縁体5の側面に設けた構成を成す。
具体的には、図4に示すように、コイル3の一方の引き出し端部32を、絶縁体5を構成する最下位の絶縁層51上に形成し、絶縁層52を、引き出し端部32上に積層した。そして、コイル3を、絶縁層52上に形成し、コイル3の内端33と引き出し端部32とを、絶縁層52に形成したビアホール52aを通じて接続し、絶縁層53を、コイル3上に積層した。
しかる後、コイル4を、絶縁層53上に形成すると共に、絶縁層54を、コイル4上に積層した。そして、コイル4の引き出し端部42を絶縁層54上に形成すると共に、コイル4の内端43と引き出し端部42とを、絶縁層54に形成したビアホール54aを通じて接続した。しかる後、最上位の絶縁層55を、引き出し端部42上に積層することで、直方体状のコモンモードチョークコイル2の本体を形成した。
【0018】
このコモンモードチョークコイル2のコイル3とコイル4とは、絶縁層53を介して対向しているが、これらコイル3,4は、同一方向に巻かれている。
すなわち、コイル3は、前面5a左側に引き出された引き出し端部31を巻き始めとして、内側に向かって右回りに巻いている。そして、内端33に接続された引き出し端部32が、後面5b左側に引き出されて、巻きが終わっている。
一方、コイル4も 前面5a右側に引き出された引き出し端部41を巻き始めとして、内側に向かって右回りに巻いている。そして、内端43に接続された引き出し端部32が、後面5b右側に引き出され、巻きが終わっている。
つまり、コイル3,4は、共に同一方向に巻かれ、引き出し端部31,41を巻き始めとし、引き出し端部32,42を巻き終わりとしている。
【0019】
外部電極6−1〜6−4は、このようなコイル3,4を内包した絶縁体5の側面に設けられている。
具体的には、図3に示すように、外部電極6−1が、絶縁体5の前面5aの左側に、外部電極6−2が、前面5aと対向する後面5bの左側に、外部電極6−3が、前面5aの右側に、外部電極6−4が、後面5bの右側にそれぞれ設けられいる。そして、図1及び図4に示すように、外部電極6−1が、コイル3の巻き始め側である引き出し端部31に接続され、外部電極6−2が、コイル3の巻き終わり側である引き出し端部32に接続されている。また、外部電極6−3は、コイル4の巻き始め側である引き出し端部41に接続され、外部電極6−4は、コイル4の巻き終わり側である引き出し端部42に接続されている。
【0020】
一方、差動伝送路101,102は、図1及び図2に示すように、1対の線路で構成されており、その一方の線路101に、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1が接続され、他方の線路102に、外部電極6−4が接続されている。
具体的には、コモンモードチョークコイル2を線路101,102に対して傾けて、外部電極6−1,6−4を線路101,102の真上に位置させ、これら外部電極6−1,6−4を図示しない半田によって線路101,102にそれぞれ直付けした。これにより、外部電極6−1と線路101との間や、外部電極6−4と線路102との間には、不要なインダクタンスを発生するパターン等は介在しない構造になっている。
【0021】
また、外部電極6−2,6−3は、線路101,102の間のスペースに形成されたパターン106,106を通じてコンデンサ7,7に接続されている。各コンデンサ7は、差動伝送路101(102)からの差動信号のバイアス用直流等がグランドパターン121側に流れることを阻止するための素子であり、各グランドパターン121の前段に接続されている。
【0022】
次に、この実施例のノイズ対策構造が示す作用及び効果について説明する。
図5は、差動信号が伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図であり、図6は、コモンモードノイズが伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
図5に示すように、差動信号S+,S-が、差動伝送路101,102を流れると、差動信号S+が、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1から引き出し端部31を通じて、コイル3内に流入すると共に、差動信号S-が、外部電極6−4から引き出し端部42を通じて、コイル4内に流入する。
このとき、正極の信号S+は、コイル3の巻き始め側の引き出し端部31からコイル3に入力し、負極の信号S-は、コイル4の巻き終わり側の引き出し端部42からコイル4に流入するため、実質的に、1対の正極の信号が、巻き始め側の引き出し端部31,41からコイル3,4に流入し、コモンモードと実質的に同じ状態になる。したがって、コモンモードチョークコイル2は、高インピーダンスになり、差動信号S+,S-は、コモンモードチョークコイル2で阻止される。
【0023】
一方、図6に示すように、コモンモードノイズN,Nが、差動伝送路101,102を流れると、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1,6−4から引き出し端部31,42を通じて、コイル3,4内に流入する。
このとき、正極の信号Nが、コイル3の巻き始め側の引き出し端部31からコイル3に入力し、同じく正極の信号Nが、コイル4の巻き終わり側の引き出し端部42からコイル4に流入するため、実質的に、1対の正極及び負極の信号が、引き出し端部31,41からコイル3,4に流入した状態になり、ノーマルモードと同じ状態になる。したがって、コモンモードチョークコイル2は、低インピーダンスになり、コモンモードノイズN,Nは、コモンモードチョークコイル2を通過し、パターン106,106,コンデンサ7,7を介してグランドパターン121,121に流出する。
【0024】
このように、コモンモードノイズN,Nをグランドパターン121,121側に排出することができるのはコモンモードノイズN,Nが差動伝送路101,102を流れた時において、コモンモードチョークコイル2のインピーダンスが低くなるからである。したがって、図17や図18に示したように、余分なパターン105,105が基板上に形成されていると、コモンモードノイズN,Nが差動伝送路101,102を流れた時に、パターンのインダクタンスによって、差動伝送路101,102とコモンモードチョークコイル2と間のインピーダンスが高くなり、コモンモードノイズ抑制効果が著しく劣化する。
しかしながら、この実施例のノイズ対策構造1では、外部電極6−1を、差動伝送路の一方の線路101に直付けすると共に、外部電極6−4を、他方の線路102に直付けした構成をとっているので、差動伝送路101,102とコモンモードチョークコイル2の間に余分なパターンが介在しない。
このため、コモンモードチョークコイル2と差動伝送路101,102との間のコモンモードインピーダンスが低くなり、十分なコモンモードノイズ抑制効果を発揮する。
【0025】
発明者は、かかる効果を確認すべく、次のような実験を行った。
図7は、この実験に適用された従来型のノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図8は、実験でコモンモード信号を差動伝送路に流した時の透過率を示す線図である。
発明者が、図1に示すこの実施例のノイズ対策構造と図7に示す従来型のノイズ対策構造とを比較する実験を行った。
この実験においては、コモンモードチョークコイル2として、製品番号DLP11SA350HL2(村田製作所製品番号)のコモンモードチョークコイルを用い、コンデンサ7としては、容量が10μFの2端子コンデンサを用いた。
【0026】
まず、コモンモードチョークコイル2とコンデンサ7,7を用いた従来型のノイズ対策構造を構成した。
具体的には、図7に示すように、パターン105,105を差動伝送路101,102から分岐させた。このとき、差動伝送路102から分岐させたパターン105については、差動伝送路101と重ならないように、ビアホール105aを通じて、差動伝送路101の下側に通している。そして、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1を差動伝送路101からのパターン105に接続すると共に、外部電極6−4を差動伝送路102からのパターン105に接続した。また、外部電極6−2,6−3は、差動伝送路101,102の外側のスペースに設けられたパターン106,106にそれぞれ接続した。そして、コンデンサ7,7をパターン106,106とグランドパターン121,121との間に接続した。
かかる従来型のノイズ対策構造において、300MHz〜1000MHz(1GHz)の範囲で、コモンモード信号を差動伝送路101,102に流し、差動伝送路101,102上での透過率を測定したところ、図8の透過率曲線S1に示す結果を得た。
次に、上記コモンモードチョークコイル2とコンデンサ7,7とを用い、図1に示したこの実施例のノイズ対策構造を構築して、同様の測定を行ったところ、図8の透過率曲線S2に示す結果を得た。
かかる結果から明らかなように、10MHz以下の低周波域では、従来型のノイズ対策構造及びこの実施例のノイズ対策構造の双方において、−30dB程度の特性であり、同等の優れたノイズ抑制効果を持つ。しかし、10MHz以上の周波数域では、この実施例のノイズ対策構造の方が従来型のノイズ対策構造よりも約3dB程度も低くなり、従来型よりも優れた高いノイズ抑制効果を持つ。
以上から、発明者は、特に高周波域で、この実施例のノイズ対策構造のノイズ抑制効果が従来型のノイズ対策構造のノイズ抑制効果よりも優れていることを確認した。
【実施例2】
【0027】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図9は、この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
この実施例は、差動伝送路101,102の間隔が狭い場合のノイズ対策構造を例示する。
上記第1実施例では、差動伝送路を構成する線路101,102の間が広い場合のノイズ対策構造を例示した。しかし、高速な差動伝送路では、線路101,102の間隔dが狭く線路101,102の間のスペースを利用できない場合がある。
この実施例では、このような場合に有効なノイズ対策構造を提示する。
すなわち、図9に示すように、コモンモードチョークコイル2を狭い線路101,102に実装すると、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3が線路101,102の外側にそれぞれ突出するので、パターン106,106やグランドパターン121,121を線路101,102の外側に形成し、突出した外部電極6−2,6−3をパターン106,106にそれぞれ接続し、コンデンサ7,7をこれらのパターン106,106とグランドパターン121,121との間に接続する。
その他の構成、作用及び効果は、第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例3】
【0028】
次に、この発明の第3実施例について説明する。
図10は、この発明の第3実施例に係るノイズ対策構造に適用するコモンモードチョークコイルを示す概略構造図であり、図11は、コモンモードチョークコイルの分解斜視図であり、図12は、コモンモードチョークコイルの実装状態を示す平面図である。
この実施例は、外部電極6−1〜6−4の配置が、上記第1及び第2実施例に適用されたコモンモードチョークコイルと異なる。
具体的には、図10及び図11に示すように、幅広に形成された外部電極6−1,6−4を、絶縁体5の対向する側面である前面5a,後面5bに設け、外部電極6−2,6−3を、前面5a,後面5bに隣り合い且つ互いに対向する左側面5c,右側面5dに設けた。そして、外部電極6−1,6−4を、コイル3の引き出し端部31,コイル4の引き出し端部42にそれぞれ接続した。また、外部電極6−2を、左側面5c側に引き出された引き出し端部32に接続し、外部電極6−3を、右側面側に引き出された引き出し端部41に接続した。
【0029】
これにより、図12に示すように、コモンモードチョークコイル2の前面5a,後面5bを差動伝送路101,102に平行にすると、外部電極6−1,6−4が差動伝送路101,102上に位置するので、外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102上に直付けすることができる。
すなわち、外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102に対して傾けることなく、差動伝送路101,102に直付けすることができるので、コモンモードチョークコイル2の差動伝送路101,102に対する実装作業が容易である。
その他の構成、作用及び効果は、第1及び第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例4】
【0030】
次に、この発明の第4実施例について説明する。
図13は、この発明の第4実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図14は、この実施例のノイズ対策構造に適用されるコモンモードチョークコイルの下面図であり、図15は、図14のコモンモードチョークコイルの側面図である。
この実施例は、コモンモードチョークコイルとして、巻線型コイルを適用した点が、上記第1ないし第3実施例と異なる。
【0031】
具体的には、図14及び図15に示すように、コモンモードチョークコイル2′は、コイル3,4を両端に1対の鍔部21,21を有するコア20に同方向に巻回した巻線型コイルであり、外部電極6−1〜6−4を鍔部21,21の下部に有している。そして、コイル3,4の引き出し端部31,42が外部電極6−1,6−4にそれぞれ接続され、外部電極6−2,6−3が引き出し端部32,41にそれぞれ接続されている。
【0032】
この実施例では、かかるコモンモードチョークコイル2′を、図13に示すように、線路101,102とグランドパターン121,121との間に実装した。
具体的には、外部電極6−1〜6−4側を下向きにして、外部電極6−1,6−4を線路101,102上に直付けした。そして、外部電極6−2,6−3を、パターン106,106及びコンデンサ7,7を通じてグランドパターン121,121に接続した。
その他の構成、作用及び効果は、第1及び第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0033】
なお、この発明は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3とグランドパターン121,121との間にコンデンサ7,7を設けた例を示したが、図16に示すように、コンデンサ7の代わりに抵抗8を用いても良い。
かかる構成により、グランドパターン121側に流れるノイズを、抵抗8によって、熱に変換して消費させることができる。
【0034】
また、コンデンサ7や抵抗8等の素子を備えず、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3がパターン106,106を通じてグランドパターン121,121に直接接続されたノイズ対策構造もこの発明の範囲内に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1…ノイズ対策構造、 2,2′…コモンモードチョークコイル、 3,4…コイル、 5…絶縁体、 5a…前面、 5a,…前面、 5b…後面、 5c…左側面、 5d…右側面、 6−1〜6−4…外部電極、 7…コンデンサ、 8…抵抗、 20…コア、 21…鍔部、 31,32,41,42…引き出し端部、 33,43…内端、 51〜55…絶縁層、 52a,54a…ビアホール、 101,102…差動伝送路、 105,106…パターン、 121…グランドパターン。
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動信号に影響を与えることなく、差動伝送路上のコモンモードノイズをグランドに逃がすノイズ対策構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のノイズ対策構造としては、例えば、特許文献1や特許文献2に開示の構造がある。
特許文献1に開示のノイズ対策構造100は、図17に示すように、同方向に巻かれた1対のコイルを有するコモンモードチョークコイル110を、差動伝送路101,102の途中に挿入すると共に、逆方向を向いた1対のコイルを有する変成器120を、抵抗122,122を通じて差動伝送路101,102とグランド121,121との間に挿入した構造になっている。
このような構造により、差動伝送路101,102上のコモンモード信号をコモンモードチョークコイル110によって除去すると共に、差動伝送路101,102上のコモンモード信号を、変成器120によって、グランド121,121に流出させる。
具体的には、変成器120は、差動伝送路101,102を流れる差動信号に対しては高インピーダンスとなり、コモンモード信号に対しては低インピーダンスとなる。すなわち、動作に必要な差動信号のみを差動伝送路101,102上に通し、ノイズの原因となるコモンモード信号はグランド121,121に落とすようにしている。
【0003】
また、特許文献2のノイズ対策構造200では、図18に示すように、変成器120の代わりに、1対のコイルが同方向のコモンモードチョークコイル110を用い、このコモンモードチョークコイル110を抵抗122,122やDCカットコンデンサ123を通じて差動伝送路101,102とグランド121,121との間に挿入した構成になっている。そして、逆方向の電流が1対のコイルを流れるように、1対のコイルと差動伝送路101,102及びグランド121,121との接続に工夫を凝らしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−115820号公報
【特許文献2】特開2008−219098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図17に示したノイズ対策構造100を上記したように構築する場合には、変成器110と差動伝送路101,102とを繋ぐ一定以上長さのパターン105,105を形成する必要がある。このため、パターン105,105による不要なインダクタンスが変成器120と差動伝送路101,102との間に発生し、両者間のインピーダンスが所望値よりも高くなる。この結果、変成器120によるコモンモードノイズ抑制効果が劣化するおそれがある。さらに、変成器120を構成する1対のコイルは、巻き方向が逆なため、変成器120を製造するために工程が複雑になる。
図18に示したノイズ対策構造200の場合も同様に、コモンモードチョークコイル110と差動伝送路101,102とを繋ぐ一定以上長さのパターン105,105を形成する必要があるので、ノイズ対策構造100の場合と同様に問題が生じるおそれがある。
【0006】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、コモンモードノイズ抑制効果を劣化させることなく、差動伝送路に容易に構築することができるノイズ対策構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルと第1ないし第4の外部電極とを有するコモンモードチョークコイルを、1対の線路で構成された差動伝送路とグランドとの間に実装したノイズ対策構造であって、コモンモードチョークコイルにおける第1のコイルの巻き始め側が接続された第1の外部電極を、差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、他方の線路に直付けし、且つ、第1のコイルの巻き終わり側が接続された第2の外部電極を、グランドに接続すると共に、第2のコイルの巻き始め側が接続された第3の外部電極を、グランドに接続した構成とする。
かかる構成により、差動信号を差動伝送路に流すと、差動信号が、差動伝送路から外部電極を通じてコモンモードチョークコイル内に流入する。このとき、コモンモードチョークコイルの第1の外部電極が差動伝送路の一方の線路に接続され、第4の外部電極が他方の線路に接続されているので、差動信号の一方の信号が巻き始め側から第1のコイルに流れ、他方の信号が巻き終わり側から第2のコイルに流れる。つまり、極性が逆の信号が第1及び第2のコイルを逆方向に流れるので、1対の信号が第1及び第2のコイルを同方向に流れることとなり、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが高くなる。この結果、1対の信号つまり差動信号は、コモンモードチョークコイルによって阻止され、グランド側へ流出することはない。また、コモンモードノイズが差動伝送路に流れると、極性が同じ1対の信号が第1及び第2のコイルを逆方向に流れ、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが低くなる。この結果、1対の信号、つまりコモンモードノイズ等のコモンモード信号は、コモンモードチョークコイルによって阻止されることなく、グランドへ流出する。
すなわち、このノイズ対策構造を用いることで、コモンモードノイズのみをグランドに排出することができる。
ところで、このノイズ対策構造が、コモンモードノイズを除去することができるのは、コモンモードノイズ流入時に、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが低くなるからである。したがって、図17や図18に示したように、余分なパターンが基板上に形成されていると、パターンのインダクタンスによって、差動伝送路とコモンモードチョークコイルとの間のインピーダンスが高くなり、コモンモードノイズ抑制効果が著しく劣化する。
しかしながら、この発明のノイズ対策構造では、第1のコイルの巻き始め側が接続された第1の外部電極を、差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、他方の線路に直付けした構成をとっているので、差動伝送路とコモンモードチョークコイルの間に余分なパターンを形成する必要がない。
このため、コモンモードチョークコイルと差動伝送路との間のコモンモードインピーダンスが低くなり、十分なコモンモードノイズ抑制効果を発揮する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、抵抗又はコンデンサのいずれかを通じてグランドに接続した構成とする。
かかる構成により、コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、コンデンサを通じてグランドに接続した構成の場合には、コンデンサが、差動信号のバイアス等に使用する直流成分がグランド側に流出することを阻止する。また、抵抗を通じてグランドに接続した構成の場合には、抵抗が、コモンモードノイズを熱に変換して消費させる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルは、積層型コイルである構成とした。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載のノイズ対策構造において、積層型コイルは、直方体状をなし、第1及び第4の外部電極は、対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられ、第2及び第3の外部電極は、これら2つの側面に隣り合い且つ互いに対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられている構成とした。
かかる構成により、コモンモードチョークコイルを差動伝送路に対して傾けることなく、第1及び第4の外部電極を差動伝送路の1対の線路にそれぞれ直付けすることができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、コモンモードチョークコイルは、巻線型コイルである構成とした。
【発明の効果】
【0012】
以上詳しく説明したように、この発明のノイズ対策構造によれば、コモンモードチョークコイルの第1及び第4の外部電極を差動伝送路に直付けする構造であるので、余分なパターンを、差動伝送路とコモンモードチョークコイルとの間に形成する必要がなく、この結果、コモンモードインピーダンスを低くすることができ、大きなコモンモードノイズ低減効果を発揮することができるという優れた効果がある。また、同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルを有する通常のコモンモードチョークコイルを適用したので、図17に示した従来のノイズ対策構造にあるような複雑な製造工程を要せず、その分製造コストの低減化を図ることができる。
特に、請求項2の発明に係るノイズ対策構造によれば、ノイズ抑制効果をさらに効果たらしめることとができる。
また、請求項4の発明に係るノイズ対策構造によれば、コモンモードチョークコイルを差動伝送路に対して傾けることなく、直付けすることができるので、コモンモードチョークコイルの差動伝送路に対する実装作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図2】第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【図3】コモンモードチョークコイルの内部を透視して示す斜視図である。
【図4】コモンモードチョークコイルの分解斜視図である。
【図5】差動信号が伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
【図6】コモンモードノイズが伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
【図7】この実験に適用された従来型のノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図8】実験でコモンモード信号を差動伝送路に流した時の透過率を示す線図である。
【図9】この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図10】この発明の第3実施例に係るノイズ対策構造に適用するコモンモードチョークコイルを示す概略構造図である。
【図11】コモンモードチョークコイルの分解斜視図である。
【図12】コモンモードチョークコイルの実装状態を示す平面図である。
【図13】この発明の第4実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図14】この実施例のノイズ対策構造に適用されるコモンモードチョークコイルの下面図である。
【図15】図14のコモンモードチョークコイルの側面図である。
【図16】実施例の一変形例を示す概略構造図である。
【図17】従来例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【図18】他の従来に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図2は、第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、ノイズ対策構造1は、コモンモードチョークコイル2を差動伝送路101,102とグランドパターン121,121との間に実装した構成になっている。
【0017】
この実施例では、ノイズ対策構造1を構成するコモンモードチョークコイル2として、チップ状の積層型コイルを適用した。
図3は、コモンモードチョークコイル2の内部を透視して示す斜視図であり、図4は、コモンモードチョークコイル2の分解斜視図である。
図3に示すように、コモンモードチョークコイル2は、第1のコイルとしてのコイル3と第2のコイルとしてのコイル4とを直方体状の絶縁体5内に内包し、第1ないし第4の外部電極としての外部電極6−1〜6−4を絶縁体5の側面に設けた構成を成す。
具体的には、図4に示すように、コイル3の一方の引き出し端部32を、絶縁体5を構成する最下位の絶縁層51上に形成し、絶縁層52を、引き出し端部32上に積層した。そして、コイル3を、絶縁層52上に形成し、コイル3の内端33と引き出し端部32とを、絶縁層52に形成したビアホール52aを通じて接続し、絶縁層53を、コイル3上に積層した。
しかる後、コイル4を、絶縁層53上に形成すると共に、絶縁層54を、コイル4上に積層した。そして、コイル4の引き出し端部42を絶縁層54上に形成すると共に、コイル4の内端43と引き出し端部42とを、絶縁層54に形成したビアホール54aを通じて接続した。しかる後、最上位の絶縁層55を、引き出し端部42上に積層することで、直方体状のコモンモードチョークコイル2の本体を形成した。
【0018】
このコモンモードチョークコイル2のコイル3とコイル4とは、絶縁層53を介して対向しているが、これらコイル3,4は、同一方向に巻かれている。
すなわち、コイル3は、前面5a左側に引き出された引き出し端部31を巻き始めとして、内側に向かって右回りに巻いている。そして、内端33に接続された引き出し端部32が、後面5b左側に引き出されて、巻きが終わっている。
一方、コイル4も 前面5a右側に引き出された引き出し端部41を巻き始めとして、内側に向かって右回りに巻いている。そして、内端43に接続された引き出し端部32が、後面5b右側に引き出され、巻きが終わっている。
つまり、コイル3,4は、共に同一方向に巻かれ、引き出し端部31,41を巻き始めとし、引き出し端部32,42を巻き終わりとしている。
【0019】
外部電極6−1〜6−4は、このようなコイル3,4を内包した絶縁体5の側面に設けられている。
具体的には、図3に示すように、外部電極6−1が、絶縁体5の前面5aの左側に、外部電極6−2が、前面5aと対向する後面5bの左側に、外部電極6−3が、前面5aの右側に、外部電極6−4が、後面5bの右側にそれぞれ設けられいる。そして、図1及び図4に示すように、外部電極6−1が、コイル3の巻き始め側である引き出し端部31に接続され、外部電極6−2が、コイル3の巻き終わり側である引き出し端部32に接続されている。また、外部電極6−3は、コイル4の巻き始め側である引き出し端部41に接続され、外部電極6−4は、コイル4の巻き終わり側である引き出し端部42に接続されている。
【0020】
一方、差動伝送路101,102は、図1及び図2に示すように、1対の線路で構成されており、その一方の線路101に、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1が接続され、他方の線路102に、外部電極6−4が接続されている。
具体的には、コモンモードチョークコイル2を線路101,102に対して傾けて、外部電極6−1,6−4を線路101,102の真上に位置させ、これら外部電極6−1,6−4を図示しない半田によって線路101,102にそれぞれ直付けした。これにより、外部電極6−1と線路101との間や、外部電極6−4と線路102との間には、不要なインダクタンスを発生するパターン等は介在しない構造になっている。
【0021】
また、外部電極6−2,6−3は、線路101,102の間のスペースに形成されたパターン106,106を通じてコンデンサ7,7に接続されている。各コンデンサ7は、差動伝送路101(102)からの差動信号のバイアス用直流等がグランドパターン121側に流れることを阻止するための素子であり、各グランドパターン121の前段に接続されている。
【0022】
次に、この実施例のノイズ対策構造が示す作用及び効果について説明する。
図5は、差動信号が伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図であり、図6は、コモンモードノイズが伝送線路を流れた時の作用を説明するための概略構造図である。
図5に示すように、差動信号S+,S-が、差動伝送路101,102を流れると、差動信号S+が、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1から引き出し端部31を通じて、コイル3内に流入すると共に、差動信号S-が、外部電極6−4から引き出し端部42を通じて、コイル4内に流入する。
このとき、正極の信号S+は、コイル3の巻き始め側の引き出し端部31からコイル3に入力し、負極の信号S-は、コイル4の巻き終わり側の引き出し端部42からコイル4に流入するため、実質的に、1対の正極の信号が、巻き始め側の引き出し端部31,41からコイル3,4に流入し、コモンモードと実質的に同じ状態になる。したがって、コモンモードチョークコイル2は、高インピーダンスになり、差動信号S+,S-は、コモンモードチョークコイル2で阻止される。
【0023】
一方、図6に示すように、コモンモードノイズN,Nが、差動伝送路101,102を流れると、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1,6−4から引き出し端部31,42を通じて、コイル3,4内に流入する。
このとき、正極の信号Nが、コイル3の巻き始め側の引き出し端部31からコイル3に入力し、同じく正極の信号Nが、コイル4の巻き終わり側の引き出し端部42からコイル4に流入するため、実質的に、1対の正極及び負極の信号が、引き出し端部31,41からコイル3,4に流入した状態になり、ノーマルモードと同じ状態になる。したがって、コモンモードチョークコイル2は、低インピーダンスになり、コモンモードノイズN,Nは、コモンモードチョークコイル2を通過し、パターン106,106,コンデンサ7,7を介してグランドパターン121,121に流出する。
【0024】
このように、コモンモードノイズN,Nをグランドパターン121,121側に排出することができるのはコモンモードノイズN,Nが差動伝送路101,102を流れた時において、コモンモードチョークコイル2のインピーダンスが低くなるからである。したがって、図17や図18に示したように、余分なパターン105,105が基板上に形成されていると、コモンモードノイズN,Nが差動伝送路101,102を流れた時に、パターンのインダクタンスによって、差動伝送路101,102とコモンモードチョークコイル2と間のインピーダンスが高くなり、コモンモードノイズ抑制効果が著しく劣化する。
しかしながら、この実施例のノイズ対策構造1では、外部電極6−1を、差動伝送路の一方の線路101に直付けすると共に、外部電極6−4を、他方の線路102に直付けした構成をとっているので、差動伝送路101,102とコモンモードチョークコイル2の間に余分なパターンが介在しない。
このため、コモンモードチョークコイル2と差動伝送路101,102との間のコモンモードインピーダンスが低くなり、十分なコモンモードノイズ抑制効果を発揮する。
【0025】
発明者は、かかる効果を確認すべく、次のような実験を行った。
図7は、この実験に適用された従来型のノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図8は、実験でコモンモード信号を差動伝送路に流した時の透過率を示す線図である。
発明者が、図1に示すこの実施例のノイズ対策構造と図7に示す従来型のノイズ対策構造とを比較する実験を行った。
この実験においては、コモンモードチョークコイル2として、製品番号DLP11SA350HL2(村田製作所製品番号)のコモンモードチョークコイルを用い、コンデンサ7としては、容量が10μFの2端子コンデンサを用いた。
【0026】
まず、コモンモードチョークコイル2とコンデンサ7,7を用いた従来型のノイズ対策構造を構成した。
具体的には、図7に示すように、パターン105,105を差動伝送路101,102から分岐させた。このとき、差動伝送路102から分岐させたパターン105については、差動伝送路101と重ならないように、ビアホール105aを通じて、差動伝送路101の下側に通している。そして、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−1を差動伝送路101からのパターン105に接続すると共に、外部電極6−4を差動伝送路102からのパターン105に接続した。また、外部電極6−2,6−3は、差動伝送路101,102の外側のスペースに設けられたパターン106,106にそれぞれ接続した。そして、コンデンサ7,7をパターン106,106とグランドパターン121,121との間に接続した。
かかる従来型のノイズ対策構造において、300MHz〜1000MHz(1GHz)の範囲で、コモンモード信号を差動伝送路101,102に流し、差動伝送路101,102上での透過率を測定したところ、図8の透過率曲線S1に示す結果を得た。
次に、上記コモンモードチョークコイル2とコンデンサ7,7とを用い、図1に示したこの実施例のノイズ対策構造を構築して、同様の測定を行ったところ、図8の透過率曲線S2に示す結果を得た。
かかる結果から明らかなように、10MHz以下の低周波域では、従来型のノイズ対策構造及びこの実施例のノイズ対策構造の双方において、−30dB程度の特性であり、同等の優れたノイズ抑制効果を持つ。しかし、10MHz以上の周波数域では、この実施例のノイズ対策構造の方が従来型のノイズ対策構造よりも約3dB程度も低くなり、従来型よりも優れた高いノイズ抑制効果を持つ。
以上から、発明者は、特に高周波域で、この実施例のノイズ対策構造のノイズ抑制効果が従来型のノイズ対策構造のノイズ抑制効果よりも優れていることを確認した。
【実施例2】
【0027】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図9は、この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図である。
この実施例は、差動伝送路101,102の間隔が狭い場合のノイズ対策構造を例示する。
上記第1実施例では、差動伝送路を構成する線路101,102の間が広い場合のノイズ対策構造を例示した。しかし、高速な差動伝送路では、線路101,102の間隔dが狭く線路101,102の間のスペースを利用できない場合がある。
この実施例では、このような場合に有効なノイズ対策構造を提示する。
すなわち、図9に示すように、コモンモードチョークコイル2を狭い線路101,102に実装すると、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3が線路101,102の外側にそれぞれ突出するので、パターン106,106やグランドパターン121,121を線路101,102の外側に形成し、突出した外部電極6−2,6−3をパターン106,106にそれぞれ接続し、コンデンサ7,7をこれらのパターン106,106とグランドパターン121,121との間に接続する。
その他の構成、作用及び効果は、第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例3】
【0028】
次に、この発明の第3実施例について説明する。
図10は、この発明の第3実施例に係るノイズ対策構造に適用するコモンモードチョークコイルを示す概略構造図であり、図11は、コモンモードチョークコイルの分解斜視図であり、図12は、コモンモードチョークコイルの実装状態を示す平面図である。
この実施例は、外部電極6−1〜6−4の配置が、上記第1及び第2実施例に適用されたコモンモードチョークコイルと異なる。
具体的には、図10及び図11に示すように、幅広に形成された外部電極6−1,6−4を、絶縁体5の対向する側面である前面5a,後面5bに設け、外部電極6−2,6−3を、前面5a,後面5bに隣り合い且つ互いに対向する左側面5c,右側面5dに設けた。そして、外部電極6−1,6−4を、コイル3の引き出し端部31,コイル4の引き出し端部42にそれぞれ接続した。また、外部電極6−2を、左側面5c側に引き出された引き出し端部32に接続し、外部電極6−3を、右側面側に引き出された引き出し端部41に接続した。
【0029】
これにより、図12に示すように、コモンモードチョークコイル2の前面5a,後面5bを差動伝送路101,102に平行にすると、外部電極6−1,6−4が差動伝送路101,102上に位置するので、外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102上に直付けすることができる。
すなわち、外部電極6−1,6−4を差動伝送路101,102に対して傾けることなく、差動伝送路101,102に直付けすることができるので、コモンモードチョークコイル2の差動伝送路101,102に対する実装作業が容易である。
その他の構成、作用及び効果は、第1及び第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【実施例4】
【0030】
次に、この発明の第4実施例について説明する。
図13は、この発明の第4実施例に係るノイズ対策構造を示す概略構造図であり、図14は、この実施例のノイズ対策構造に適用されるコモンモードチョークコイルの下面図であり、図15は、図14のコモンモードチョークコイルの側面図である。
この実施例は、コモンモードチョークコイルとして、巻線型コイルを適用した点が、上記第1ないし第3実施例と異なる。
【0031】
具体的には、図14及び図15に示すように、コモンモードチョークコイル2′は、コイル3,4を両端に1対の鍔部21,21を有するコア20に同方向に巻回した巻線型コイルであり、外部電極6−1〜6−4を鍔部21,21の下部に有している。そして、コイル3,4の引き出し端部31,42が外部電極6−1,6−4にそれぞれ接続され、外部電極6−2,6−3が引き出し端部32,41にそれぞれ接続されている。
【0032】
この実施例では、かかるコモンモードチョークコイル2′を、図13に示すように、線路101,102とグランドパターン121,121との間に実装した。
具体的には、外部電極6−1〜6−4側を下向きにして、外部電極6−1,6−4を線路101,102上に直付けした。そして、外部電極6−2,6−3を、パターン106,106及びコンデンサ7,7を通じてグランドパターン121,121に接続した。
その他の構成、作用及び効果は、第1及び第2実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0033】
なお、この発明は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3とグランドパターン121,121との間にコンデンサ7,7を設けた例を示したが、図16に示すように、コンデンサ7の代わりに抵抗8を用いても良い。
かかる構成により、グランドパターン121側に流れるノイズを、抵抗8によって、熱に変換して消費させることができる。
【0034】
また、コンデンサ7や抵抗8等の素子を備えず、コモンモードチョークコイル2の外部電極6−2,6−3がパターン106,106を通じてグランドパターン121,121に直接接続されたノイズ対策構造もこの発明の範囲内に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1…ノイズ対策構造、 2,2′…コモンモードチョークコイル、 3,4…コイル、 5…絶縁体、 5a…前面、 5a,…前面、 5b…後面、 5c…左側面、 5d…右側面、 6−1〜6−4…外部電極、 7…コンデンサ、 8…抵抗、 20…コア、 21…鍔部、 31,32,41,42…引き出し端部、 33,43…内端、 51〜55…絶縁層、 52a,54a…ビアホール、 101,102…差動伝送路、 105,106…パターン、 121…グランドパターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルと第1ないし第4の外部電極とを有するコモンモードチョークコイルを、1対の線路で構成された差動伝送路とグランドとの間に実装したノイズ対策構造であって、
上記コモンモードチョークコイルにおける上記第1のコイルの巻き始め側が接続された上記第1の外部電極を、上記差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、上記第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、上記差動伝送路の他方の線路に直付けし、
且つ、上記第1のコイルの巻き終わり側が接続された上記第2の外部電極を、上記グランドに接続すると共に、上記第2のコイルの巻き始め側が接続された第3の外部電極を、上記グランドに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、抵抗又はコンデンサのいずれかを通じて上記グランドに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルは、積層型コイルである、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項4】
請求項3に記載のノイズ対策構造において、
上記積層型コイルは、直方体状をなし、
上記第1及び第4の外部電極は、対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられ、上記第2及び第3の外部電極は、これら2つの側面に隣り合い且つ互いに対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられている、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルは、巻線型コイルである、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項1】
同一方向に巻かれた第1及び第2のコイルと第1ないし第4の外部電極とを有するコモンモードチョークコイルを、1対の線路で構成された差動伝送路とグランドとの間に実装したノイズ対策構造であって、
上記コモンモードチョークコイルにおける上記第1のコイルの巻き始め側が接続された上記第1の外部電極を、上記差動伝送路の一方の線路に直付けすると共に、上記第2のコイルの巻き終わり側が接続された第4の外部電極を、上記差動伝送路の他方の線路に直付けし、
且つ、上記第1のコイルの巻き終わり側が接続された上記第2の外部電極を、上記グランドに接続すると共に、上記第2のコイルの巻き始め側が接続された第3の外部電極を、上記グランドに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルの第2の外部電極及び第3の外部電極を、抵抗又はコンデンサのいずれかを通じて上記グランドに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルは、積層型コイルである、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項4】
請求項3に記載のノイズ対策構造において、
上記積層型コイルは、直方体状をなし、
上記第1及び第4の外部電極は、対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられ、上記第2及び第3の外部電極は、これら2つの側面に隣り合い且つ互いに対向する2つの側面上に位置するようにそれぞれ設けられている、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のノイズ対策構造において、
上記コモンモードチョークコイルは、巻線型コイルである、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−124833(P2011−124833A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281375(P2009−281375)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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