説明

ノズルプレート、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置並びにノズルプレートの製造方法

【課題】長期に渡り安定した撥水性を維持でき、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜が形成されたノズルプレート、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及びノズルプレートの製造方法を得る。
【解決手段】液滴を吐出するためのノズル孔11を有するノズルプレート1の液滴吐出面にDLC膜13を形成し、DLC膜13の表面に凹凸14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレート、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置並びにノズルプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、このノズルプレートに接合されノズルプレートとの間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティプレートとを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まり、そのため高密度化並びに吐出性能の向上が強く要求されている。このような背景から、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。
【0003】
例えば、ノズル孔の周辺にインクが付着すると、液滴吐出方向が定まらない、ノズル径が縮小して液滴吐出量が減少する、又は液滴吐出速度が不安定になる等の不具合が生じる。この結果、インクジェットヘッドの液滴吐出性能が低下してしまう。これを防止するため、ノズルプレートの液滴吐出面に撥水層を形成し、インクの浸漬を防止する技術が知られている。このようなノズルプレートとして、例えば特許文献1に示すような、ノズルプレートの液滴吐出面に形成された金属触媒層にカーボン・ナノ・チューブ層を成膜するというものが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−62090号公報(第4−5頁、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボン・ナノ・チューブはその長さ方向に対して垂直にかかる機械的衝撃、すなわち、ノズルプレートの液滴吐出面をワイピングする際にカーボン・ナノ・チューブにかかる衝撃に対しては脆い。このため、ノズルプレートの液滴吐出面のワイピングを繰り返すうちにノズルプレート表面(金属触媒層)からカーボン・ナノ・チューブが剥離してしまい、ノズルプレート表面の撥水性が低下するという問題点があった。また、カーボン・ナノ・チューブは高価であるという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、長期に渡り安定した撥水性を維持でき、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜が形成されたノズルプレート、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及びノズルプレートの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係るノズルプレートは、液滴を吐出するためのノズル孔を有するノズルプレートであって、ノズルプレートの液滴吐出面にDLC膜を形成し、DLC膜の表面に凹凸を形成したことを特徴とする。
【0008】
このように、本発明に係るノズルプレートは、液滴吐出面に、耐摩耗性に優れ、酸やアルカリ性の溶液に対する耐性が高いDLC膜が形成されている。また、DLC膜の表面に形成された凹凸によって構造的に撥水性が付与されている。したがって、ノズルプレートの液滴吐出面は、長期に渡り安定した撥水性を維持することができる。
また、撥水膜材料としてDLCを用いているので、ノズルプレートの液滴吐出面に、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜を形成することができる。
【0009】
また、本発明に係るノズルプレートは、DLC膜上に撥水膜を形成したことを特徴とする。このため、ノズルプレートの液滴吐出面は、より長期に渡り安定した撥水性を維持することができる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかのノズルプレートを備えたことを特徴とする。これにより、安定した液滴吐出特性を有し、かつ高密度の液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0011】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものであり、吐出特性の向上とノズル密度の高密度化とを実現することができる液滴吐出装置が得られる。
【0012】
また、本発明に係るノズルプレートの製造方法は、ノズル孔が形成されたノズルプレートの液滴吐出面にO2 アッシングをおこなうO2 アッシング工程と、ノズルプレートの液滴吐出面にDLC膜を形成するDLC膜形成工程と、DLC膜の表面に凹凸を形成する凹凸部形成工程とを有することを特徴とする。
【0013】
これにより、長期に渡り安定した撥水性を維持でき、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜がノズルプレートの液滴吐出面に形成されたノズルプレートを製造することができる。また、ノズルプレートの液滴吐出面にO2 アッシングをおこなっているので、ノズルプレートの液滴吐出面とDLC膜との密着性が向上する。
【0014】
また、本発明に係るノズルプレートの製造方法は、O2 アッシング工程の前に、少なくともノズル孔の内壁に親水性膜を形成する親水性膜形成工程を有することを特徴とする。これにより、吐出液の方向性がより安定した液滴吐出特性を有するノズルプレートを製造することができる。
【0015】
また、本発明に係るノズルプレートの製造方法は、親水性膜形成工程とO2 アッシング工程との間に、液滴吐出面に形成された親水性膜を除去する親水性膜除去工程を有することを特徴とする。ノズル孔の内壁に親水性膜を形成することにより安定した液滴吐出特性を有するノズルプレートを製造することができる。また、液滴吐出面に形成された親水性膜を除去するため、DLC膜の密着性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用したノズルプレートを備えた液滴吐出ヘッドの実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1〜図3を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、また、駆動方式についても他の異なる駆動方式により液滴を吐出する液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置にも適用できるものである。
【0017】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図であり、図3は、図2のインクジェットヘッドの上面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0018】
本実施形態のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、図1及び図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズルプレート1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティプレート2と、キャビティプレート2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0019】
ノズルプレート1は、後述する製造方法により、所要の厚さ(例えば厚さが280μm〜60μm程度)に薄くされたシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板とも称する)から作製されている。また、ノズルプレート1の表面(液滴吐出面)の全面、もしくはその一部、すなわち全てのノズル孔11を含む吐出面の領域にDLC(Diamond Like Carbon)膜13が所要の厚さ(例えば厚さが0.5μm〜5μm程度)で形成されている。このDLC膜13の表面の全面、もしくはその一部、すなわち全てのノズル孔11を含む吐出面の領域には、微細な凹凸14(例えば凹凸のピッチPが0.1μm〜5μm程度、深さHが0.1μm〜2μm程度)が形成されている。このDLC膜13の表面、すなわちノズルプレート1の表面は、この凹凸14によって構造的に撥水性が付与されている。
【0020】
インク滴を吐出するためのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち径の小さい噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。噴射口部分11a及び導入口部分11bは基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられており、噴射口部分11aは先端がノズルプレート1の表面(以下、液滴吐出面という)に開口し、導入口部分11bはノズルプレート1の裏面(キャビティプレート2と接合される接合側の面)に開口している。
また、ノズル孔11の内壁及びノズルプレート1の裏面には、親インク膜(この液滴吐出ヘッドをインクジェットヘッド以外で用いる場合にあっては、親水性膜)となるSiO2 膜15が例えば膜厚1μmで形成されている。
【0021】
上記のように、ノズル孔11を噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから2段に構成することにより、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。また、ノズル密度を高密度化することが可能である。
【0022】
なお、ノズルプレート1の材料はシリコンに限られず、ステンレス又はニッケル等の材料を用いることもできる。
【0023】
キャビティプレート2は、例えば厚さが525μmの(110)面方位のシリコン単結晶基板(この基板も以下、単にシリコン基板とも称する)から作製されている。シリコン基板に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室21となる凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバ24となる凹部27が形成される。凹部25は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズルプレート1とキャビティプレート2を接合した際、各凹部25は吐出室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、吐出室21(凹部25)の底壁が振動板22となっている。
【0024】
凹部26は、細溝状のオリフィス23を構成し、この凹部26を介して凹部25(吐出室21)と凹部27(リザーバ24)とが連通している。
凹部27は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)24を構成する。そして、リザーバ24(凹部27)はそれぞれオリフィス23を介して全ての吐出室21に連通している。なお、オリフィス23(凹部26)は前記ノズルプレート1の裏面(キャビティプレート2との接合側の面)に設けることもできる。また、リザーバ24の底部には後述する電極基板3を貫通するインク供給孔34が設けられており、このインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0025】
また、上述のように、キャビティプレート2に(110)面方位のシリコン単結晶基板を用いるのは、このシリコン基板に異方性ウエットエッチングを行うことにより、凹部や溝の側面をシリコン基板の上面または下面に対して垂直にエッチングすることができるためであり、これによりインクジェットヘッドの高密度化を図ることができるからである。
【0026】
また、キャビティプレート2の全面もしくは少なくとも電極基板3との対向面には熱酸化やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiO2 膜やTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜等からなる絶縁膜28が膜厚0.1μmで形成されている。この絶縁膜28は、インクジェットヘッドを駆動させた時の絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0027】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティプレート2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティプレート2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティプレート2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティプレート2を強固に接合することができるからである。なお、前記ノズルプレート1も同様の理由から硼珪酸系のガラス基板を用いることができる。
【0028】
電極基板3には、キャビティプレート2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したがって、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32の深さ、個別電極31及び振動板22を覆う絶縁膜28の厚さにより決まることになる。このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。ここで、個別電極31の材料はITOに限定するものではなく、クロム等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いやすい等の理由から、一般にITOが用いられる。
【0029】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。これらの端子部31bは、図1〜図3に示すように、配線のためにキャビティプレート2の末端部が開口された電極取り出し部30内に露出している。
【0030】
上述したように、ノズルプレート1、キャビティプレート2、及び電極基板3は、図2に示すように貼り合わせることによりインクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティプレート2と電極基板3は陽極接合により接合され、そのキャビティプレート2の上面(図2において上面)にノズルプレート1が接着等により接合される。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材35で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0031】
そして最後に、図2、図3に簡略化して示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が各個別電極31の端子部31bとキャビティプレート2上に設けられた共通電極29とに前記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続される。
以上により、インクジェットヘッド10が完成する。
【0032】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路4は、個別電極31に電荷の供給及び停止を制御する発振回路である。この発振回路は例えば24kHzで発振し、個別電極31に例えば0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。発振回路が駆動し、個別電極31に電荷を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22間に静電気力(クーロン力)が発生する。したがって、この静電気力により振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む(変位する)。これによって吐出室21の容積が増大する。そして、個別電極31への電荷の供給を止めると振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室21の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により吐出室21内のインクの一部がインク滴としてノズル孔11より吐出する。振動板22が次に同様に変位すると、インクがリザーバ24からオリフィス23を通じて吐出室21内に補給される。
【0033】
本実施形態のインクジェットヘッド10は、前述したように、ノズル孔11がノズルプレート1の液滴吐出面に対して垂直な筒状の噴射口部分11aと、この噴射口部分11aと同軸上に設けられ噴射口部分11aよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されているため、インク滴をノズル孔11の中心軸方向に真っ直ぐに吐出させることができ、きわめて安定した吐出特性を有する。
さらに、導入口部分11bの横断面形状を円形や四角形などに形成することができるので、インクジェットヘッド10の高密度化を図ることができる。
【0034】
なお、ノズル孔11の噴射口部分11a及び導入口部分11bの横断面形状は特に限定されるものではなく、角形や円形などに形成される。但し、円形にする方が吐出特性や加工性の面で有利となるので好ましい。
【0035】
次に、このインクジェットヘッド10の製造方法について図4〜図10を参照して説明する。
図4〜図8は、ノズルプレート1の製造方法を示す製造工程の断面図である。また、図9及び図10は、キャビティプレート2及び電極基板3の製造方法を示す製造工程の断面図であり、ここでは、主に、電極基板3にシリコン基板200を接合した後にキャビティプレート2を製造する方法を示す。
最初に、ノズルプレート1の製造方法を説明する。
【0036】
(1)ノズルプレート1の製造方法
まず、被加工基板として、例えば厚さが280μmのシリコン基板100を用意し、このシリコン基板100の全面に例えば膜厚1μmのSiO2膜101を均一に形成する(図4(A))。SiO2 膜101は、例えば熱酸化装置にシリコン基板100をセットし、酸化温度1075℃、酸素と水蒸気の混合雰囲気中で4時間熱酸化処理を行うことにより形成する。このSiO2 膜101はシリコンの耐エッチング材として使用するものである。
【0037】
次に、シリコン基板100の一方の面(キャビティプレート2と接合する側の面で、以下、「接合側の面」とも呼ぶ)100bのSiO2 膜101上にレジスト102をコーティングし、その接合側の面100bに、ノズル孔11の導入口部分11bとなる部分105bをパターニングして、導入口部分11bとなる部分105bのレジスト102を除去する(図4(B))。
【0038】
そして、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でSiO2 膜101をハーフエッチングし、導入口部分11bとなる部分105bのSiO2 膜101を薄くする(図4(C))。このとき、レジスト102の形成されていない面(液滴吐出面)100aのSiO2 膜101もエッチングされて厚さが薄くなる。
その後、上記レジスト102を硫酸洗浄などにより剥離する(図4(D))。
【0039】
次に、レジスト102を剥離後、再度シリコン基板100の接合側の面100bにレジスト106をコーティングし、接合側の面100bにノズル孔11の噴射口部分11aとなる部分105aをパターニングして、噴射口部分11aとなる部分105aのレジスト106を除去する(図5(E))。
【0040】
そして、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でSiO2 膜101をエッチングして、噴射口部分11aとなる部分105aのSiO2 膜101を開口する(図5(F))。このとき、反対の液滴吐出面100aのSiO2 膜101はエッチングされて完全に除去される。
次に、SiO2 膜101の開口が終わったら、レジスト106を硫酸洗浄などにより剥離する(図5(G))。
【0041】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチングによってSiO2 膜101の開口部を、例えば深さ25μmで垂直に異方性ドライエッチングして、ノズル孔11の噴射口部分11aとなる凹部107を形成する(図5(H))。この場合、エッチングガスとして、例えば、C48(フッ化炭素)、SF6 (フッ化硫黄)を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C48は凹部107の側面方向にエッチングが進行しないように凹部107の側面を保護するために使用し、SF6 は凹部107の垂直方向のエッチングを促進するために使用する。
【0042】
次に、ノズル孔11の導入口部分11bとなる部分105bのSiO2膜101のみが無くなるように、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングする(図6(I))。
そして、再度ICP放電によるドライエッチングによりSiO2 膜101の開口部を、例えば40μmの深さで垂直に異方性ドライエッチングし、噴射口部分11a及び導入口部分11bを形成する(図6(J))。
【0043】
次に、シリコン基板100の表面に残るSiO2 膜101をフッ酸水溶液で除去する(図6(K))。
そして、シリコン基板100の接合側の面100bに、両面接着シート50を介して、ガラス等の透明材料よりなる支持基板120を貼り付ける(図6(L))。この両面接着シート50には、例えば、セルファBG(登録商標:積水化学工業)を用いる。両面接着シート50は自己剥離層51を持ったシート(自己剥離型シート)で、その両面には接着面を有し、その一方の面にはさらに自己剥離層51を備え、この自己剥離層51は紫外線または熱などの刺激によって接着力が低下するようになっている。
【0044】
このように、両面接着シート50の接着面のみよりなる面50aを支持基板120の面と向かい合わせ、両面接着シート50の自己剥離層51を備えた側の面50bをシリコン基板100の接合側の面100bと向かい合わせ、これらの面を減圧環境下(10Pa以下)、例えば真空中で貼り合わせる。こうすることによって、接着界面に気泡が残らず、きれいな接着が可能になる。接着界面に気泡が残ると、研磨加工で薄板化されるシリコン基板100の板厚がばらつく原因となる。また、シリコン基板100と支持基板120とを両面接着シート50を介して貼り合わせるだけでよいので、従来のようにシリコン基板100のノズル孔11に接着樹脂等の異物が入り込むことがなく、このためシリコン基板100から両面接着シート50を分離する際にシリコン基板100に割れや欠けが生じることはなく、ノズルプレート1の歩留まりを向上させ、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0045】
なお、上記の説明では両面接着シート50の一方の面50bにのみ自己剥離層51を備えている場合を示したが、自己剥離層51は両面接着シート50の両方の面50a、50bに設けたものであってもよい。この場合は、シリコン基板100の薄板化加工時には、自己剥離層を持った両面50a、50bでそれぞれシリコン基板100と支持基板120に接着した状態でシリコン基板100を加工することができ、処理後には自己剥離層を有する両面50a、50bにおいて、シリコン基板100と支持基板120を剥離することができる。
【0046】
次に、シリコン基板100の液滴吐出面100aをバックグラインダー(図示せず)によって研削加工し、噴射口部分11aの先端が開口するまでシリコン基板100を薄くする(図7(M))。さらに、ポリッシャー、CMP装置によって液滴吐出面100aを研磨し、噴射口部分11aの先端部の開口を行っても良い。このとき、噴射口部分11a及び導入口部分11bの内壁は、ノズル内の研磨材の水洗除去工程などによって洗浄する。
【0047】
なお、噴射口部分11aの先端部の開口は、ドライエッチングで行っても良い。例えば、SF6 をエッチングガスとするドライエッチングで、噴射口部分11aの先端部までシリコン基板100を薄くし、表面に露出した噴射口部分11aの先端部のSiO2 膜を、CF4 又はCHF3 等のエッチングガスとするドライエッチングによって除去してもよい。
【0048】
次に、支持基板120側からUV光を照射して両面接着シート50の自己剥離層51をシリコン基板100の接合面100bから剥離させ、支持基板120をシリコン基板100から取り外す(図7(N))。
【0049】
(親インク膜(親水性膜)形成工程)
次に、ノズル孔11(噴射口部分11a及び導入口部分11b)の内壁を含むシリコン基板100の全面に例えば膜厚1μmのSiO2 膜15を形成する(図7(O))。SiO2 膜15は、例えば熱酸化装置にシリコン基板100をセットし、酸化温度1075℃、酸素と水蒸気の混合雰囲気中で4時間熱酸化処理を行うことにより形成する。このSiO2 膜15は、親インク膜(この液滴吐出ヘッドをインクジェットヘッド以外で用いる場合にあっては、親水性膜)となるものである。
【0050】
なお、親インク膜(親水性膜)はSiO2 膜15に限られず、親インク性(親水性)のある材料ならば、他の材料を用いて親インク膜(親水性膜)を形成してもよい。また、親インク膜(親水性膜)の形成方法も熱酸化に限られず、ディップ、スパッタ、又はCVD等により形成してもよい。
【0051】
(親インク膜(親水性膜)除去工程)
次に、シリコン基板100の液滴吐出面100aをバックグラインダー(図示せず)によって研削加工し、液滴吐出面100aに形成されたSiO2 膜15を除去する(図7(P))。さらに、ポリッシャー、CMP装置によって液滴吐出面100aを研磨してもよい。これにより、後述するDLC膜形成工程において、親インク膜(親水性膜)の材料を問わず、シリコン基板100とDLC膜との密着性が良好となる。
なお、シリコン基板100と親インク膜(親水性膜)との密着性が良好の場合、すなわち親インク膜(親水性膜)の材料としてDLC膜との密着性が良好な材料を用いる場合には、この液滴吐出面100aに形成されたSiO2 膜15を除去する工程を省略してもよい。
【0052】
(O2 アッシング工程)
次に、シリコン基板100とDLC膜との密着性向上のため、シリコン基板100の液滴吐出面100aにO2 アッシングをおこなう(図8(Q))。
【0053】
(DLC膜形成工程)
次に、シリコン基板100の液滴吐出面100aの全面に例えば膜厚5μmのDLC膜13をECR−スパッタにより形成する(図8(R))。なお、DLC膜13の形成方法としては、ECR−スパッタ以外にもRF−CVD等を用いることができる。
【0054】
(凹凸部形成工程)
次に、DLC膜13の表面の全面に凹凸14をラビングによって、例えばその凹凸のピッチPが5μm、深さHが2μmで形成する(図8(S))。DLC膜13の表面は、この凹凸14によって構造的に撥水性が付与されている。
【0055】
なお、凹凸14の形成方法はラビングに限られず、ブラスト、プラズマ処理、又はアッシング等を用いてもよい。また、凹凸14の表面に、さらに例えばフッ素系化合物による撥水膜をECR−スパッタ、RF−CVD、又はディップコ−タ等により形成してもよい。
【0056】
以上により、噴射口部分11aとこれより径の大きい導入口部分11bとからなるノズル孔11を有し、かつ所要の厚さに薄板化されたノズルプレート1(シリコン基板100)が作製される。
【0057】
(2)キャビティプレート2及び電極基板3の製造方法
ここでは、電極基板3にシリコン基板200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティプレート2を製造する方法について図9、図10を参照して簡単に説明する。
【0058】
電極基板3は以下のようにして製造される。
まず、硼珪酸ガラス等からなる例えば厚さが1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITOからなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される(図9(A))。
【0059】
次に、厚さが例えば525μmのシリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面にプラズマCVDによって例えば厚さ0.1μmのTEOSからなるシリコン酸化膜(絶縁膜)28を形成する(図9(B))。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0060】
そして、このシリコン基板200と、図9(A)のように作製された電極基板3を、例えば360℃に加熱し、シリコン基板200に陽極を、電極基板3に陰極を接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する(図9(C))。
シリコン基板200と電極基板3を陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングすることにより、シリコン基板200の厚さを例えば140μmになるまで薄板化する(図9(D))。
【0061】
次に、シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって例えば厚さ0.1μmのTEOS膜を形成する。
そして、このTEOS膜に、吐出室21となる凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバ24となる凹部27を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、上記の各凹部25〜27を形成する(図10(E))。このとき、配線のための電極取り出し部30となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図10(E)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0062】
シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングすることによりシリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜を除去する(図10(F))。
次に、シリコン基板200の吐出室21となる凹部25等が形成された面に、プラズマCVDによりTEOS膜(絶縁膜)28を例えば厚さ0.1μmで形成する(図10(G))。
その後、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部30を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部からレーザ加工を施してシリコン基板200のリザーバ24となる凹部27の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する(図10(H))。また、振動板22と個別電極31の間の電極間ギャップの開放端部をエポキシ樹脂等の封止材(図示せず)を充填することにより封止する。また、図1、図2に示すように共通電極29がスパッタによりシリコン基板200の上面(ノズルプレート1との接合側の面)の端部に形成される。
【0063】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティプレート2が作製される。
そして最後に、このキャビティプレート2に、前述のように作製されたノズルプレート1を接着等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0064】
上記の実施形態では、ノズルプレートおよびインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、図11に示すインクジェットプリンタ400のほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【0065】
このように構成されたノズルプレート1においては、液滴吐出面100aに、耐摩耗性に優れ、酸やアルカリ性の溶液に対する耐性が高いDLC膜13が形成されている。また、DLC膜13の表面に形成された凹凸14によって構造的に撥水性が付与されている。したがって、ノズルプレート1の液滴吐出面100aは、長期に渡り安定した撥水性を維持することができる。撥水膜材料としてDLCを用いているので、ノズルプレート1の液滴吐出面100aに、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜を形成することができる。また、DLC膜13上に撥水膜を形成した場合には、ノズルプレート1の液滴吐出面100aは、より長期に渡り安定した撥水性を維持することができる。
【0066】
また、このように構成されたノズルプレート1の製造方法においては、ノズル孔11が形成されたノズルプレート1の液滴吐出面100aにO2 アッシングをおこなうO2 アッシング工程と、ノズルプレート1の液滴吐出面100aにDLC膜13を形成するDLC膜形成工程と、DLC膜13の表面に凹凸14を形成する凹凸部形成工程とを有するため、長期に渡り安定した撥水性を維持でき、カーボン・ナノ・チューブ層よりも安価な撥水膜が液滴吐出面100aに形成されたノズルプレート1を製造することができる。また、ノズルプレート1の液滴吐出面100aにO2 アッシングをおこなっているので、液滴吐出面100aとDLC膜13との密着性が向上する。
【0067】
また、O2 アッシング工程の前に、ノズル孔11の内壁を含むノズルプレート1の全面に親インク膜(親水性膜)となるSiO2 膜15を形成する親水性膜形成工程を有するので、より安定した液滴吐出特性を有するノズルプレート1を製造することができる。
【0068】
また、親インク膜(親水性膜)形成工程とO2 アッシング工程との間に、ノズルプレート1の液滴吐出面100aに形成されたSiO2 膜15を除去する親インク膜(親水性膜)除去工程を有するので、液滴吐出面100aとDLC膜13の密着性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】図2のインクジェットヘッドの上面図である。
【図4】ノズルプレートの製造方法を示す製造工程の断面図である。
【図5】図4に続く製造工程を示す断面図である。
【図6】図5に続く製造工程を示す断面図である。
【図7】図6に続く製造工程を示す断面図である。
【図8】図7に続く製造工程を示す断面図である。
【図9】キャビティプレート及び電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図である。
【図10】図9に続く製造工程を示す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを使用したインクジェットプリンタの斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ノズルプレート、2 キャビティプレート、3 電極基板、4 駆動制御回路、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a 噴射口部分、11b 導入口部分、13 DLC膜、14 凹凸、15 SiO2 膜、21 吐出室、22 振動板、23 オリフィス、24 リザーバ、25 凹部、26 凹部、27 凹部、28 絶縁膜、29 共通電極、30 電極取り出し部、31 個別電極、31a リード部、31b 端子部、32 凹部、34 インク供給孔、35 封止材、50 両面接着シート、51 自己剥離層、100 シリコン基板、101 SiO2 膜、102 レジスト、106 レジスト、107 凹部、120 支持基板、200 シリコン基板、300 ガラス基板、400 インクジェットプリンタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するためのノズル孔を有するノズルプレートであって、
前記ノズルプレートの液滴吐出面にDLC膜を形成し、
該DLC膜の表面に凹凸を形成したことを特徴とするノズルプレート。
【請求項2】
前記DLC膜上に撥水膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載のノズルプレート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項5】
ノズル孔が形成されたノズルプレートの液滴吐出面にO2 アッシングをおこなうO2 アッシング工程と、
前記ノズルプレートの前記液滴吐出面にDLC膜を形成するDLC膜形成工程と、
該DLC膜の表面に凹凸を形成する凹凸部形成工程と、
を有することを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項6】
前記O2 アッシング工程の前に、少なくとも前記ノズル孔の内壁に親水性膜を形成する親水性膜形成工程を有することを特徴とする請求項5に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記親水性膜形成工程と前記O2 アッシング工程との間に、
前記液滴吐出面に形成された前記親水性膜を除去する親水性膜除去工程を有することを特徴とする請求項6に記載のノズルプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−107314(P2009−107314A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284776(P2007−284776)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】