説明

ノンハロゲン系車両用クッション床シート

【課題】 本発明の課題は、難燃性能は当然のこと、車両床の微振動を人体に感じさせなくて、燃焼時に有毒ガスを発生することなく、しかも軽量化も実現したノンハロゲン系車両用クッション床シートを提供することにある。
【解決手段】鉄道車両の構造によって発現する振動の影響をできるだけ人体に伝えない床シートとし、軽量化と難燃性の問題も解決するために、樹脂層に変性樹脂と難燃剤として水酸化マグネシウムを使用することにより、樹脂強度を飛躍的に向上し、また裏打層においても不織布から織布にすることにより裏打層の強度を増し薄くても強度が得られることから軽量化が実現でき、かつクッション部にポリエステル繊維で構成される不織布成形体を人体の接する部分のみに施工することにより、従来よりも軽量で施工性に優れ、燃焼時に有毒ガスの発生が少なく、さらに耐久性の増したノンハロゲン系車両用クッション床シートを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道、バス等の車両において、カーペット等の床材の下側に敷設される車両用床シートに関するもので、特に燃焼時に有毒ガスを発生しにくく、軽量で、施工性、接着性に優れ、薄くても高い難燃性を持ち、さらに車体の振動を乗客に伝えないようにクッション性を付与し、快適な車両での時間を過ごして頂くようにした車両用クッション床シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用床材としてカーペット等の通水性のある床材を使用した場合には、水分が床鉄板にまで到達し鉄板が腐蝕することから、水分の侵入を防止する目的で、塩化ビニル樹脂(PVC)製の車両用床シートをカーペット等の下に敷設していた。さらにグリーン車では、快適な乗り心地を得るべく、足置き部分にクッション性のある発泡メラミン樹脂からなるシートを車両用床シートの下に敷いて、車体の微振動が人体に伝わらないようにしている。
【0003】
しかしながら、PVC製床シートや発泡メラミン樹脂からなるシートは燃焼時において、多量の発煙と共に塩化水素等の有毒ガスを発生することから、火災時において避難者が有毒ガス等を吸入してしまう等の防災上の問題、また廃材を焼却処理する場合においても環境汚染をもたらすという問題があった。
【0004】
更に、PVC製床シートは、その製造時に可塑剤等の揮発性有機化合物(VOC)を多量に含有して製造するため、特有の臭気があり、環境衛生上好ましくないうえ、長年の使用により可塑剤が揮発減量して床シートとしての柔軟性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、PVC材料に代えて、燃焼時に有毒ガスの発生が少ないポリオレフィン系樹脂を基材とする車両用内装材料が提案されている。また、出願人は特許文献2において、軽量化を実現し、燃焼時に有毒ガスを発生しにくく、難燃性、施工性に優れたノンハロゲン系車両用床シートを提案している。
【特許文献1】特開平9−39169
【特許文献2】特開2005−161533
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術は、製品の軽量化を行ない、良好な施工性を保ちつつ鉄道車両等で要求される特に厳しい難燃性能をも克服する優れたノンハロゲン系車両用床シートではあるが、さらに鉄道車両の激しい振動の影響を受ける車両床の振動を人体に感じさせないようなソフトな車両用床シートが求められていた。このような鉄道車両の振動には、床シートやカーペットの厚みを厚くしソフトにすれば、快適な感触は得られるものの、床自身が柔らかくなりすぎて、フワフワとして歩行感が損なわれてしまったり、車内販売や車椅子等の車両を走行させにくく、重量も重くなることから改良が求められていた。即ち、本発明の課題は、難燃性能は当然のこと、鉄道車両の激しい振動の影響を受ける車両床の微振動を人体に感じさせなくて、燃焼時に有毒ガスを発生することなく、しかも軽量化も実現したノンハロゲン系車両用クッション床シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鉄道車両の構造によって発現する振動の影響をできるだけ人体に伝えない床シートとし、軽量化と難燃性の問題も解決するために鋭意検討の結果、特許文献2の改良として樹脂層に変性樹脂と難燃剤として水酸化マグネシウムを使用することにより、樹脂強度を飛躍的に向上し、また裏打層においても不織布から織布にすることにより裏打層の強度を増すことにより薄くても強度が得られることから軽量化が実現でき、かつ人体の接する部分のみにポリエステル繊維で構成される不織布成形体を部分的に施工することにより、従来よりも軽量で施工性に優れ、燃焼時に有毒ガスの発生が少なく、さらに耐久性の増したクッション床シートが得られることを見出し本発明に到達した。本発明は前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0008】
[1]シート部とクッション部とからなる車両用クッション床シートにおいて、前記シート部が化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して無機充填剤5〜30重量部と難燃剤50〜250重量部を含有する樹脂層と、前記樹脂層の上面側に化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して難燃剤5〜30重量部を含有する厚さ20〜300μmのフィルム層を加熱溶融によって積層一体化してなる表面層と、前記樹脂層の下面側に繊維織布からなる補強材を加熱溶融により積層一体化してなる裏打層とからなり、前記クッション部が前記シート部の下側にクッション層を積層してなり、前記クッション層が非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と、該短繊維の融点よりも40℃以上低い融点を有する熱可塑性エラストマーと、非弾性ポリエステルとで構成され、かつ前記熱可塑性エラストマーが少なくとも繊維表面に露出した弾性複合繊維とからなり、これらの繊維が立体的に絡み合って形成される不織布成形体からなることを特徴とするノンハロゲン系車両用クッション床シート。
【0009】
[2]前記クッション部が、車両床の足置き部分に敷設され、車両床のその他の部分は前記シート部を敷設することを特徴とする前項1に記載のノンハロゲン系車両用クッション床シート。
【発明の効果】
【0010】
[1]の発明では、車両用クッション床シートにおいて、樹脂層は化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して無機充填剤5〜30重量部と難燃剤50〜250重量部を含有することから、燃焼時の有毒ガスの発生が少なく、燃焼安全性に優れ防災面に好都合であると共に環境保全にも十分に資することができる。また、車両用としての厳しい難燃性を克服し、寸法安定性にも優れた樹脂層とすることができる。次に、前記樹脂層の上面側に化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して難燃剤5〜30重量部を含有する厚さ20〜300μmのフィルム層を加熱溶融によって積層一体化し表面層としているので、表面層の上に敷かれるカーペット等との接着性の向上や樹脂層を保護し車両用クッション床シートの強度も向上することができる。また、前記樹脂層の下面側に繊維織布からなる補強材を加熱溶融により少なくとも繊維織布の繊維が露出するように積層一体化して裏打層としているので、樹脂層強度もさらに向上した裏打層となり、施工時に接着剤が繊維織布の繊維に含浸することからアンカー効果によって優れた接着力が得られる。また、クッション層が非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と、該短繊維の融点よりも40℃以上低い融点を有する熱可塑性エラストマーと、非弾性ポリエステルとで構成され、かつ前記熱可塑性エラストマーが少なくとも繊維表面に露出した弾性複合繊維とからなり、これらの繊維が立体的に絡み合って形成される不織布成形体であるので、優れたクッション性と耐久性が得られ、燃焼時の有毒ガスの発生もなく、容易に分別回収しリサイクル利用を実現することができる。加えて、本発明のノンハロゲン系車両用クッション床シートは、可塑剤を含有させる必要がないので、臭気の発生も無く、また、長年使用しても表面に曇りの発生も無く、振動にも強く、耐久性に優れている。
【0011】
[2]の発明では、クッション部が、車両床の足置き部分に敷設され、車両床のその他の部分は前記シート部を敷設するので、通路ではフワフワとして歩行感が損なわれすぎることもなく歩きやすいものとなり、また、足置き部分では床からの微振動が人体に伝わるのを防ぐことから、快適な乗り心地とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、この発明に係るノンハロゲン系車両用クッション床シートの一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態のノンハロゲン系車両用クッション床シート1は、表面層9と樹脂層3と裏打層4とからなるシート部6と、シート部にクッション層5を積層したクッション部7とから構成されている。シート部6の重量が800〜2000g/mの範囲内にあって、従来の車両用床シート重量の80%と軽量化がはかられ、厚さは0.7〜1.5mmの範囲内にあって従来の厚さの3/4以下になっている。クッション部7の重量はシート部6の重量にクッション層5の重量50〜500g/mを加えた重さで、厚さは8〜15mmの範囲内にある不織布成形体からなるクッション層5であれば十分なクッション性を得ることができる。
【0013】
表面層9と樹脂層3は、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂のみからなる層で、樹脂層3はその樹脂成分100重量部に対して無機充填剤5〜30重量部と難燃剤50〜250重量部を含有するものである。その樹脂層の下面側に繊維織布からなる補強材8が加熱溶融により少なくとも繊維織布の繊維が露出するように積層一体化されて裏打層4が形成された構造を有するシート部6とするものである。(図1参照)
【0014】
表面層9、樹脂層3、裏打層4、クッション層5の構成材料として、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂のみが用いられているので、燃焼時の有毒ガスの発生が少なく、燃焼安全性に優れ防災面に好都合であると共に環境保全にも十分に資することができる。また樹脂層3は充填剤や難燃剤を大量に含んでいるので、本来なら燃焼試験で不合格になるシート部6の厚さが0.7〜1.5mmの範囲内でも、難燃性に優れ、強度のある車両用床シートを得ることができる。
【0015】
前記樹脂層3における、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂としては、例えばホモポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、直鎖状ポリエチレン樹脂、メタロセン触媒使用のポリエチレン樹脂、エチレン‐酢酸ビニルコポリマー、非晶性エチレン‐α‐オレフィン共重合体等のエチレン系コポリマー等の熱可塑性樹脂、あるいはエチレン‐プロピレンゴム、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、あるいはスチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム等のゴム成分系等が挙げられる。中でも表面の耐摩耗性、耐汚染性を顕著に向上できることから、オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーを樹脂成分の主成分として用いるのが好ましい。
【0016】
前記樹脂層3に含有される無機充填剤が、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して5重量部未満であると充分な寸法安定性、難燃性が得られず、30重量部を越えると車両用床シートとしての、柔軟性、施工性、機械的強度が損なわれる。
【0017】
また、前記樹脂層3を構成する無機充填剤としては、従来公知の種々の充填剤を用いることができるが、中でも50μm以下の平均粒径を有する、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ等が挙げられる。充填剤は可燃物の減量効果、燃焼時の燃焼温度抑止効果、炭化層の形成に寄与する。粒径が50μmを越えると樹脂層3の機械的強度が低下して好ましくない。
【0018】
前記樹脂層3を構成する難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤(リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム等)、無機系難燃剤(熱膨張性黒鉛、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)、窒素系難燃剤(メラミンシアヌレート、メラミンオリゴマ縮合物等)を用いることができる。リン系難燃剤は燃焼時に生成したリン酸層が、不揮発性の保護被膜を形成し酸素供給を遮断する。無機系難燃剤は他の難燃剤との相乗効果によって難燃効果が得られるものや、金属水酸化物のように樹脂の分解温度よりも低い温度で分解し、脱水反応によって熱を吸収するものがある。また、熱膨張性黒鉛は、一般に天然黒鉛の粉末を酸化剤により酸化処理するか又は電解酸化し、水洗及び乾燥することによって製造されるもので、400〜1000度の熱によりその層状構造における層間が10〜500倍に膨張し高い断熱性と耐熱性を有するに至るものである。窒素系難燃剤は、不燃ガスの発生により可燃ガスを希釈し難燃効果を発揮するものである。
【0019】
また、前記樹脂層3に含有される難燃剤が、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して50重量部未満であると充分な難燃性が得られず、250重量部を越えると車両用床シートとしての、柔軟性、機械的強度が損なわれ、コスト的にも高価なものとなる。
【0020】
次に、樹脂層3において、難燃剤として水酸化マグネシウムを前記難燃剤の配合量に対し60〜97重量%配合するのが好ましい。水酸化マグネシウムを60重量%以上と大量に配合する事により優れた難燃性能を得ることができる。また、60重量%を下回る配合量では、車両用床シートとしての機械的強度を得ることができず、難燃性能も劣るものとなる。より好ましくは60〜70重量%配合されると良い。
【0021】
また、樹脂層3において、難燃剤として熱膨張性黒鉛が配合されているのが好ましい。熱膨張性黒鉛は難燃剤として優れた材で、難燃剤の配合量に対して、3〜20重量%配合されるのが好ましい。3重量%を下回る配合量では車両用床シートとしての優れた難燃性能を得ることができないし、20重量%を上回る配合量では、加工性及び機械的強度が低下し好ましくない。より好ましくは4〜10重量%配合されると良い。
【0022】
また、樹脂層3において、難燃剤として水酸化マグネシウムが表面処理(ステアリン酸による処理)を施した水酸化マグネシウムであることが好ましい。表面処理を行なうことにより水酸化マグネシウムの表面の濡れ性が向上し、樹脂層3の樹脂の分散性が向上することから、樹脂の強度を上げることができる。
【0023】
また、樹脂層3において、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂として、酸変性したオレフィン系樹脂または、酸変性したスチレン系エラストマーから選択される1種又は複数の樹脂を、5〜20重量%含有することが好ましい。酸変性樹脂を5〜20重量%含有することで水酸化マグネシウムと化学的に結合し、樹脂強度が向上する。酸変性したスチレン系エラストマーを選択すると柔軟性に優れた樹脂層となる。酸変性したオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等に、マレイン酸、オレイン酸等をグラフト重合したものを挙げられる。また、酸変性したスチレン系エラストマーとしては、カルボン酸変性スチレン‐エチレン‐ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等を挙げられる。
【0024】
前記樹脂層3及び表面層9には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、滑剤、加工助剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤等の成分を、本発明の作用効果の阻害されない程度に添加することができる。
【0025】
また、前記樹脂層3の上面側に化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して難燃剤5〜30重量部を含有する厚さ20〜300μmのフィルム層2が加熱溶融によって積層一体化して表面層9を構成している。フィルム層2の、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂としては、特に限定されず前記樹脂層3で使用した化学構造中に塩素原子を有しない樹脂を準用すればよい。例えばホモポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、直鎖状ポリエチレン樹脂、メタロセン触媒使用のポリエチレン樹脂、エチレン‐酢酸ビニルコポリマー、非晶性エチレン‐α‐オレフィン共重合体等のエチレン系コポリマー等の熱可塑性樹脂、あるいはエチレン‐プロピレンゴム、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、あるいはスチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム等のゴム成分系等が挙げられる。フィルム層2を積層することによって、耐傷付き性、耐候性、機械的強度を向上させることができ、カーペットを繰り返し貼り付ける仕様に十分耐えられる車両用床シートとすることができる。
【0026】
フィルム層2の難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤(リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム等、)、無機系難燃剤(ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)、窒素系難燃剤(メラミンシアヌレート、メラミンオリゴマ縮合物等)を用いることができる。フィルム層2の化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して難燃剤を5〜30重量部を含有する必要がある。5重量部を下回ると、車両用床シートとしての優れた難燃性能を得ることができない。また、30重量部を上回る含有量では、表面層としての柔軟性、機械的強度が損なわれ好ましくない。より好ましくは10〜25重量部である。また、フィルム層2の厚さは、20〜300μmが好ましい。20μmよりも薄いフィルム層2では、加工性が低下し好ましくない。300μmを超える厚みでは、徒にコストを上昇させることと難燃性を低下させることになり好ましくない。より好ましくは、100〜250μmである。
【0027】
フィルム層2中における化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分の割合は、樹脂層3における化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分の割合をより大きくしている。これはフィルム層2上にカーペットを繰り返し貼り付けることから、フィルム層2の樹脂成分を多くし、強度を付与する必要があるためである。しかしながら、車両用の厳しい難燃条件をクリアーするためには、化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分の割合の多くした上で、少量の難燃剤で高性能の難燃性を発揮させる必要があることから、フィルム層2においては、難燃剤として水酸化マグネシウムの粒径を0.05〜1μmに規制し、前記難燃剤の配合量に対し30〜60重量%配合さすことが好ましい。水酸化マグネシウムの粒径を細かくすることにより、表面積が大きくなり、少量で効果を発揮することから、樹脂強度を保ったまま基準の難燃性を得ることができる。
【0028】
前記裏打層4は、繊維織布からなる補強材8が樹脂層3に加熱溶融により積層一体化されて裏打層4が形成されるもので、補強材8としては、ポリオレフィン系樹脂繊維及び綿から選択される1種又は複数の繊維からなる織布であって、引張り強度が400N以上、引裂き強度が30N以上であるのが好ましい。補強材8が化学構造中に塩素原子を有しない繊維からなることから、燃焼時に有毒ガスを発生しにくく、軽量化を行ないつつも、施工性に優れたノンハロゲン系車両用床シートを提供することができる。また、織布のタテヨコ密度が40〜200本/インチの範囲であるものが好ましく、その布目を通して樹脂が含浸し、前記樹脂層の表面に織布表面が留まるように積層一体化させることが好ましい。織布のタテヨコ密度が40本/インチを下回ると布目を通して樹脂が含浸し易くなりすぎて、樹脂層の表面に織布表面が留まることなく、樹脂層中に沈んで一体化されることになり好ましくはない。200本/インチを上回ると布目を通して樹脂が含浸しにくく、樹脂層との間で一定の剥離強度が得られなく好ましくない。裏打層の表面に繊維布帛が露出しなければ、床用接着剤が裏打層4へ含浸することによるアンカー効果によって得られる接着剤の接着性の向上は期待できない。また、裏打層の表面に繊維布帛が露出し過ぎて、樹脂層の樹脂の含浸が不充分であれば、裏打層内での繊維布帛の界面で材料破壊が発現し、車両用床シートの樹脂層と床との強固な接着強度は維持できないものとなる。
【0029】
また、補強材8としての繊維布帛の引張り強度が400N以上、引裂き強度が30N以上であるので、床用接着剤との接着強度を維持したまま、樹脂強度の向上したノンハロゲン系車両用床シートとすることができる。繊維布帛内に樹脂層の樹脂が適度に含浸して裏打層4をなし、施工時において車両用床シートの樹脂層と床との接着性を充分確保しつつ、敷設安定性を向上することができる。
【0030】
さらに、車両に施工した時の床シート同士の接合方法については、熱融着、あるいは、オレフィン用の溶接棒や接着剤で簡単に接合することができ、つなぎ目から水の漏れないように防水性を持たすことができる。
【0031】
なお、本発明の車両用床シートの製造方法としては、特に限定されず、例えばカレンダ加工機、押出加工機等の公知の装置や、ホットラミネート加工機等の公知の積層技術を用いて積層することにより製造することができる。
【0032】
また、次にこうして作られた車両用床シートの裏打層4側にクッション層5として不織布成形体を積層すればクッション部7とすることができる。
【0033】
クッション層5は、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と該短繊維の融点よりも40℃以上低い融点を有する熱可塑性エラストマーと、非弾性ポリエステルとで構成され、かつ前記熱可塑性エラストマーが少なくとも繊維表面に露出した弾性複合繊維とからなり、これらの繊維が立体的に絡み合って形成されるクッション体であって、その構造中に前記弾性複合繊維同士が交叉した状態で互いの熱融着により形成された第1可撓性熱固着点、および弾性複合繊維と非弾性ポリエステル系捲縮短繊維とが交叉した状態で弾性複合繊維の熱融着により形成された第2可撓性熱固着点とが散在する態様で、一体的に成形されている。
【0034】
前記非弾性ポリエステル系捲縮短繊維の繊度は、2.2〜220デシテックスであるのが好ましい。2.2デシテックス未満ではクッション部全体の密度が大きくなって好ましくない。一方220デシテックスを超えると形成される第2可撓性熱固着点の数が減少してクッション部の弾力性が低下するので、好ましくない。中でも5.5〜110デシテックスとするのがより好ましい。
【0035】
また、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維のカット長は、20〜150mmとするのが好ましい。20mm未満では繊維同士の立体的な絡み合いが不十分となって、クッション部の弾力性が低下するので、好ましくない。一方150mmを超えると、繊維の方向が平行に揃いすぎるので、好ましくない。中でも35〜100mmとするのがより好ましい。
【0036】
また、上記ポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、あるいはこれらの共重合体などを挙げることができる。
【0037】
一方、弾性複合繊維は、熱可塑性エラストマーと非弾性ポリエステルとで構成される。この弾性複合繊維において、その繊維表面の半分以上は熱可塑性エラストマーが露出しているのが望ましい。また、熱可塑性エラストマーと非弾性ポリエステルの複合割合は、重量比で30/70〜70/30の範囲内にあるのが好ましい。弾性複合繊維の複合形態としては、例えばサイド・バイ・サイド型、シース・コア型などを例示することができるが、中でも、シース・コア型とするのが好ましい。
【0038】
上記熱可塑性エラストマーとしては、前記非弾性ポリエステル系捲縮短繊維の融点より40℃以上低い融点を有するものを用いる必要がある。熱可塑性エラストマーの融点が捲縮短繊維の融点よりも高い場合にはエラストマーの溶融時に捲縮短繊維をも同時に溶融させてしまい、所望の特性を有するクッション部が得られないし、両者の融点の差が40℃未満ではエラストマーの溶融時に非弾性ポリエステル系捲縮短繊維の捲縮のへたりを生じてしまう。
【0039】
熱可塑性エラストマーの素材としては、特に限定されず、例えばポリエステル系エラストマーなどを挙げることができる。中でもポリエステル系エラストマーを用いるのが好ましく、この場合には短繊維を構成する素材と同種となるから、エラストマーと非弾性ポリエステル系捲縮短繊維との固着性を一層向上させることができ、短繊維との交叉部である第2可撓性熱固着点の耐久性をより向上させることができ、ひいてはクッション部の圧縮耐久性を一層向上させることができる。
【0040】
上記ポリエステル系エラストマーの中でも、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維との固着性をより一層向上させる観点からポリエーテルポリエステルを用いるのが好ましく、さらにはポリブチレン系テレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルポリエステルがより好ましい。
【0041】
一方、弾性複合繊維の構成成分となる非弾性ポリエステルとしては、前記した非弾性ポリエステル系捲縮短繊維を構成するポリエステルとして例示したものと同じものが例示されるが、中でもポリブチレンテレフタレートがより好ましい。
【0042】
なお、弾性複合繊維のクッション層における含有割合は、クッション層重量に対して10〜70重量%とするのが好ましく、中でも20〜60重量%とするのがより好ましい。10重量%未満では熱固着点の数が低下して、圧縮回復率、圧縮応力比などの弾力特性が低下するので、好ましくない。また70重量%を超えると非弾性ポリエステル系捲縮短繊維の含有割合が相対的に低下するので十分な反発性が確保されなくなるので、好ましくない。
【0043】
また、クッション層全体の密度は20〜100kg/m3 であるのが好ましい。20kg/m3 未満では、圧縮回復率、圧縮応力比ともに低下して、十分に安定した快適なクッション性が得られ難くなり、一方100kg/m3
を超えると剛くなって弾力性が低下するので、好ましくない。中でもクッション部全体の密度は30〜85kg/m3 であるのがより好ましい。
【0044】
また、本発明のノンハロゲン系車両用クッション床シートの具体的な製造及び敷設方法の一例としては、まず、前記のように公知の加工方法によって車両用床シートを製造しシート部として使用する。クッション部7については、足置き部の大きさに合わせて前記車両用床シートを裁断し、成形機でクッション部5が丁度入るように方形状に成形し、次ぎにこの方形状の窪みの中に、別工程で方形状に成形した不織布成形体を入れてクッション部7を作成する。こうして製造されたシート部とクッション部7をそれぞれ通路部と足置き部に組み合わせて車両の床に接着し、両者のつなぎ目をオレフィン系の溶接棒で溶接して、水が漏れないように接合してノンハロゲン系車両用クッション床シートを完成する。
【実施例】
【0045】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0046】
<実施例1>
非晶性ポリオレフィン樹脂23重量部、エチレン‐プロピレンゴム(EPR)43重量部、スチレン‐エチレン‐ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)23重量部、ポリプロピレン(PP)11重量部、に対し無機充填剤20重量部(炭酸カルシウム100重量%、)、難燃剤180重量部(水酸化マグネシウム80重量% 熱膨張性黒鉛10重量%、リン系難燃剤10重量%)からなる組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダ成形機を用いてシート厚さ0.7mmの樹脂層を作成した。
【0047】
前記樹脂層の上面側にフィルム層として、非晶性ポリオレフィン樹脂23重量部、エチレン‐プロピレンゴム(EPR)43重量部、スチレン‐エチレン‐ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)23重量部、ポリプロピレン(PP)11重量部、に対し難燃剤20重量部(水酸化マグネシウム90重量%、リン系難燃剤重量10%)からなる組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダ成形機を用いてシート厚さ250μmのフィルム層を作成した。
【0048】
次にこの樹脂層とフィルム層とをホットラミネート加工機を用いて150℃でラミネートし、さらに前記樹脂層の下側にポリエステル・綿混織布(経糸、緯糸共にポリエステル(50%)・綿(50%)混紡糸、タテヨコ密度130×65、目付150g/m、引張強度460N、引裂き強度49N)を、ホットラミネート加工機を用いて150℃で、織布の織目から樹脂層の樹脂がにじみ出し、織布の繊維が表面に出ている程度に貼り合わせ、厚さ1.2mm、製品重量1500g/mノンハロゲン系車両用クッション床シートのシート部を得た。
【0049】
次に、クッション層として、ポリブチレン系テレフタレートをハードセグメント(40重量%)とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメント(60重量%)とするブロック共重合ポリエーテルポリエステルエラストマーの両者を加熱反応させることにより得た。そして、このエラストマーがシースに、ポリブチレンテレフタレートがコアになるように常法により紡糸して、弾性複合繊維(シース/コア=50/50(重量比))を得た。
【0050】
次に、該弾性複合繊維と、中空断面ポリエチレンテレフタレート単繊維(12デニール、繊維長64mm、捲縮数9個/inch)とを混綿し、ウェッブを得た。
【0051】
上記ウェッブを金型に入れて200℃5分間熱処理して、タテ30cmヨコ40cm厚さ1cmの直方体形状のクッション部を得た。
【0052】
次に、前記作成したシート部をタテ40cmヨコ50cmに裁断し、加熱成形機にて中央部にタテ30cmヨコ40cm深さ1cmの直方体形状の窪地を成形し、該窪地に前記作成したクッション層を入れてクッション部を作成した。
【0053】
こうして得られたクッション部を図2のように車両の座席11と座席の間に、シート部を車両の通路に敷いて、つなぎ目をオレフィン系の溶接棒で溶接して、水が漏れないように接合してノンハロゲン系車両用クッション床シートを完成した。該ノンハロゲン系車両用クッション床シートの上に、パイル長4mmのカーペット10を敷いたところ、通路では、歩行感も良好で車内販売のワゴン車も軽く押すことができた。また、椅子に着座してクッション部に足を置いても車両の微振動はなく快適な座り心地であった。また、クッション部のない通路側のシート部では、足を置くと車両のわずかな微振動が感じられた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】この発明の車内に敷設された一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・ノンハロゲン系車両用クッション床シート
2・・・フィルム層
3・・・樹脂層
4・・・裏打層
5・・・クッション層
6・・・シート部
7・・・クッション部
8・・・補強材
9・・・表面層
10・・・カーペット
11・・・座席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部とクッション部とからなる車両用クッション床シートにおいて、前記シート部が化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して無機充填剤5〜30重量部と難燃剤50〜250重量部を含有する樹脂層と、前記樹脂層の上面側に化学構造中に塩素原子を有しない樹脂成分100重量部に対して難燃剤5〜30重量部を含有する厚さ20〜300μmのフィルム層を加熱溶融によって積層一体化してなる表面層と、前記樹脂層の下面側に繊維織布からなる補強材を加熱溶融により積層一体化してなる裏打層とからなり、前記クッション部が前記シート部の下側にクッション層を積層してなり、前記クッション層が非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と、該短繊維の融点よりも40℃以上低い融点を有する熱可塑性エラストマーと、非弾性ポリエステルとで構成され、かつ前記熱可塑性エラストマーが少なくとも繊維表面に露出した弾性複合繊維とからなり、これらの繊維が立体的に絡み合って形成される不織布成形体からなることを特徴とするノンハロゲン系車両用クッション床シート。
【請求項2】
前記クッション部が、車両床の足置き部分に敷設され、車両床のその他の部分は前記シート部を敷設することを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン系車両用クッション床シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−126713(P2008−126713A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310907(P2006−310907)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】