説明

ノンハロゲン難燃ポリオレフィン樹脂

【課題】燃焼時の有害なガスの発生が抑制され、しかも自動車のエンジンルーム内のような高温下で雨水にさらされるといった過酷な条件下でも電気絶縁性を有する難燃性合成樹脂組成物、およびそれからなる難燃性樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂(A)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)、リン酸化合物(C)、表面処理された炭化剤(D)、および無機化合物(E)を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、(C)成分が該成分10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIp(mS/cm)、(C)、(D)成分の混合物〔但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である〕を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、下記(i)、(ii)を満足することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
0≦Ip≦3.0 ‥‥‥ (i)
TG700≧2 ・・‥‥ (ii)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる難燃性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、OA製品および自動車分野などに使用される樹脂には火災に対する安全性のために難燃性が必要である。そして、難燃化方法としては、ハロゲン系難燃剤、金属水酸化物、赤燐、リン酸エステル、およびポリリン酸アンモニウム等に代表されるリン系難燃剤や難燃助剤である酸化アンチモン、窒素系化合物を単独又は組み合わせて用いることが広く知られている。
【0003】
ハロゲン系難燃剤は、燃焼時に有害ガスを発生するという問題があり、金属水酸化物は難燃性発現にために多量の添加量を必要とするため、金属水酸化物を用いた場合、樹脂そのものの特性を損なうという問題を抱えている。そこで、このような問題を生じない上記リン系難燃剤を用いる試みがなされている。
【0004】
例えば、特開昭60−36542号公報(英国特許No.2142638A1)には、プラスチック材料にポリリン酸アンモニウムと多価アルコールを併用した難燃性樹脂組成物が開示されている。また、特開平11−116744号公報には、ポリオレフィン樹脂、窒素原子を少なくとも1つ含有するアミン化合物とピロリン酸または縮合リン酸とのアミン塩、および水酸基含有化合物からなる難燃性樹脂組成物が開示されている。また、特開平11−152402号公報には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、メラミンピロフォスフェート及び芳香族ホスフェート・オリゴマーを含有する難燃性合成樹脂組成物が開示されている。しかしながら、添加剤として配合しているリン系難燃剤は高温水中で溶解、あるいは加水分解を起こし、電気伝導性を有してしまう。従って、自動車のエンジンルーム内のような高温下で雨水にさらされるといった過酷な条件下では、ポリプロピレンのような電気絶縁性に優れる樹脂にリン系難燃剤を配合した場合であっても、樹脂組成物として、電気絶縁性を損なうといった問題点がある。
【特許文献1】特開昭60−36542号公報
【特許文献2】特開平11−116744号公報
【特許文献3】特開平11−152402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、前記の問題点が改善された難燃性樹脂成形体、すなわち、燃焼時の有害なガスの発生が抑制され、しかも自動車のエンジンルーム内のような高温下で雨水にさらされるといった過酷な条件下でも電気絶縁性を有する難燃性合成樹脂組成物、およびそれからなる難燃性樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は次の難燃性熱可塑性樹脂組成物および難燃性樹脂成形体である。
(1)ポリオレフィン樹脂(A)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)、リン酸化合物(C)、表面処理された炭化剤(D)、および無機化合物(E)を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、各成分の含有割合は、(A)成分30〜79重量部、(B)成分1〜30重量部、(C)成分および(D)成分の合計が10〜40重量部〔ここで(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)の合計は100重量部である。〕で、かつ(C)成分と(D)成分との配合比が(C)成分/(D)成分の重量比で1以上であり、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計100重量部に対して、(E)成分0〜5重量部であって、(C)成分が(C)成分10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIp(mS/cm)、(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、下記(i)、(ii)を満足することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
0≦Ip≦3.0 ‥‥‥ (i)
TG700≧2 ‥‥‥ (ii)
(2)ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン樹脂またはポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂である上記(1)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(3)リン酸化合物(C)10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度が5.0mS/cm以下であるリン酸化合物(B)が、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンである上記(1)記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(4)表面処理された炭化剤(D)が、分子内に親水性と親油性を有する化合物で表面処理されていることを特徴とする(1)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(5)無機化合物(E)が、塩基性を有する無機化合物である上記(1)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(6)無機化合物(E)が、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムである(1)ないし(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
(7) 上記(1)記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる難燃性樹脂成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリオレフィン樹脂(A)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)に、特定のリン酸化合物(C)、炭化剤(D)および無機化合物(E)を特定量配合しているので、高度の難燃性を得ることができ、また高温下での電気絶縁性を優れているので、自動車のエンジンルーム内のような過酷な条件下で使用する電気部品として使用できる。さらにハロゲンを含んでいないので有害有毒なガスや煙が発生せず、また成形加工機械を腐食させることもない難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また上記難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、難燃性および高温水下での電気絶縁性に優れ、さらに焼却する際に有害有毒なガスや煙が発生しない難燃性樹脂成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用するポリオレフィン樹脂(A)は、オレフィンの単独重合体、オレフィンの共重合体、オレフィンと少量のオレフィン以外のモノマーとの共重合体などが使用できる。共重合体の場合、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。オレフィンの具体的なものとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2〜20、好ましくは2〜8のα−オレフィンなどがあげられる。オレフィン以外のモノマーとしては、α−オレフィンと共重合可能なビニル系化合物などがあげられる。これらのモノマーは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0010】
ポリオレフィン樹脂の具体的なものとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン樹脂、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂などがあげられる。これらの中では、ポリプロピレン樹脂が好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと少量、例えば10モル%以下の他のα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などがあげられる。
【0011】
本発明で使用されるスチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、ハードセグメントとしてポリスチレン、ソフトセグメントとしてブタジエン及び/又はイソプレン(共)重合体の水素添加物を有するものである。これはポリスチレンからなるブロックセグメントXと、ブタジエンもしくはイソプレンの単独重合体又はそれらの共重合体からなるブロックYから構成されるブロック状共重合体を水素添加したものである。ブロックXとしては、ポリスチレン、ポリo−メチルスチレン、ポリm−メチルスチレン、ポリp−メチルスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリβ−メチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリトリメチルスチレンなどが、ブロックYとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・イソプレン共重合体などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いるスチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、X−Y型ジブロック共重合体、X−Y−X型トリブロック共重合体のほか、流動性を向上させるためにブロックBのビニル結合量を低下させたブロックX’を用いたX−Y−Y‘型トリブロック共重合体などがあげられる。これらを2種以上組み合わせることも可能である。これらのブロック共重合体の水素添加物は、X−Y−X型トリブロック型共重合体が好ましい。
【0013】
本発明に用いるスチレン系熱可塑性エラストマー(B)として具体的には、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体、またはスチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体を挙げることができる。
【0014】
リン酸化合物(C)としては、リン酸化合物10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIpとした場合、0≦Ip≦3.0mS/cm、好ましくは0≦Ip<2.0mS/cmであるリン酸化合物が望ましい。
【0015】
85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIpとした場合、0≦Ip≦3.0mS/cm以下であるリン酸化合物(C)であれば、難燃剤として使用されている公知のリン酸化合物を制限なく使用できる。例えば、赤リン、リン酸エステル類、アンモニアとリン酸との塩、アミン化合物とリン酸との塩等のリン酸塩、これらの縮合物および高分子量体などがあげられる。その他にも、これらのリン酸化合物の表面をメラミン、メラミン樹脂またはフッ素系ポリマーなどで変性または被覆した変性リン酸化合物;メラミンで架橋した後架橋化処理したメラミン架橋リン酸化合物などもあげられる。
【0016】
リン酸化合物(C)の具体的なものとしては、リン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウムおよびポリリン酸メラミンなどがあげられ、ピロリン酸メラミン、およびポリリン酸メラミン等のポリリン酸化合物が好ましい。リン酸化合物(C)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0017】
本発明で使用する炭化剤(D)とは、リン酸化合物(C)と共に存在すると、発火又は炎の接触等によって、非引火性ガス(水、二酸化炭素、アンモニア及び窒素等)を生じ、かつ炭素質残渣を形成させる化合物である。
【0018】
本発明で使用する炭化剤(D)としては、(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、TG700≧2、好ましくはTG700≧4を満足する化合物であれば、公知の炭化剤を制限なく使用できる。具体的には、多価アルコール類、トリアジン類、ジアミン類、またはその塩などがあげられる。
【0019】
多価アルコール類の具体的なものとして、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリペンタエリスリトール、マンニトール、ソルビトール、ポリビニルアルコールなどがあげられる。その他にも特開平11−116744号および特開平3−227307号に記載されている公知の水酸基含有化合物などがあげられる。
【0020】
トリアジン類の具体的なものとしては、メラミン、その他のメラミン誘導体、グアナミン又はその他のグアナミン誘導体、メラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)、イソシアヌル酸、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌル酸、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシブチル)イソシアヌル酸、トリス(4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(α−メチル−β−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸等のトリアジン系誘導体等を挙げることができ、これらの中でもトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが好ましい。
【0021】
ジアミン類の具体的なものとしては、N,N,N',N'−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N'−ジメチルエチレンジアミン、N,N'−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'−ジエチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等があげられる。その他に(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、TG700≧2を満足すれば、特開2003−025936号および特開平H09−278947号に記載されているようなリン酸ジアミン塩を用いても構わない。
【0022】
本発明で使用する炭化剤(D)はそのままでも使用してもよいが、より高性能を達成しようとする場合は、炭化剤(D)が分子内に親水性と親油性を有する化合物で表面処理されているものが好ましい。これは炭化剤(D)中に存在する水酸基、またはアミノ基といった極性基が、ポリオレフィンのような非極性樹脂と配合する際に、非極性樹脂との親和性を低下させる可能性があるからである。炭化剤(D)の表面処理に用いられる化合物としては、シリカ、シランカップリング剤、脂肪酸及びその誘導体、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、メラミン樹脂、メラミン、メラミンと反応し得る官能基を複数有する化合物でメラミンを架橋したもの、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等があげられる。
【0023】
シランカップリング剤の具体的なものとして、γ−グリオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリオキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、メチルメトキシシラン、エチルメトキシシラン、プロピルメトキシシラン、ヘキシルメトキシシラン、フェニルメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類、またはフェニルアルコキシシラン等があげられる。
【0024】
特に、分子内に疎水基の割合が高く、かつ、反応性の官能基を少なくとも1つ有するトリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン等のアルキルアルコキシシランまたはフェニルアルコキシシランが好ましい。
【0025】
脂肪酸の具体的なものとして、炭素数10〜24の飽和または不飽和脂肪酸であり、例えばぺラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、およびベヘン酸等などが挙げられる。
特に、分子内の疎水性鎖の分子量が大きいステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、およびベヘン酸等が好ましい。
【0026】
本発明で使用する炭化剤(D)を表面処理する方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、本発明に使用する炭化剤(C)に表面処理剤をそのまま添加し、ヘンシェルミキサー、ボールミル、アトマイザーコロイドミル、バンバリミキサーの撹拌機を用いて表面処理をする乾式法や、溶剤に表面処理剤と炭化剤(D)を加え、撹拌、混合後、溶剤を除去する湿式法等があげられる。
【0027】
本発明で使用する無機化合物(E)は、リン酸化合物(C)中に含有するリン酸および/またはポリリン酸を中和するために配合する添加剤であり、その酸を中和することができる化合物が制限なく使用できる。例えば、リン酸化合物(C)としてポリリン酸アンモニウムを使用した場合、ポリリン酸アンモニウムが常温以上の水中に長期間さらされると溶解し、リン酸イオンが発生する。このようにして発生したリン酸イオンが樹脂中に存在すると電気絶縁性を損なうので、このリン酸イオンを中和するために無機化合物(E)を配合する。(C)成分として使用するリン酸化合物のIp値は、温水下での(C)成分の電気伝導性を示す数値なので、Ip<2.0の場合、電気絶縁性を低下させるリン酸イオン量が少なく、(E)成分の配合しなくても優れた電気絶縁性を示すため、(E)成分を添加してもしなくてもよい。
【0028】
無機化合物(E)としては、塩基性を有する無機化合物であれば制限なく使用でき、例えばハイドロタルサイト、塩基性の無機化合物などがあげられる。無機化合物(E)の具体的なものとしては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物などがあげられ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムが好ましい。無機化合物(E)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0029】
本発明の樹脂組成物における各成分の含有割合は、(A)成分79〜30重量部、(B)成分1〜30重量部、(C)成分および(D)成分の合計が10〜40重量部〔ここで(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)の合計は100重量部である。〕で、かつ(C)成分と(D)成分との配合比が(C)成分/(D)成分の重量比で1以上、好ましくは1〜30であり、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計100重量部に対して、(E)成分0〜5重量部であって、(C)成分が(C)成分10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIp(mS/cm)、(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、0≦Ip≦3.0、TG700≧2である。好ましくは(A)成分80〜40重量部、(B)成分5〜25重量部、(C)成分および(D)成分の合計が15〜35重量部〔ここで(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計は100重量部である。〕で、かつ(B)成分と(C)成分との配合比が(B)成分/(C)成分の重量比で1〜5であり、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計100重量部に対して、(E)成分0〜1重量部であって、(C)成分が(C)成分10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIp(mS/cm)、(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、0≦Ip<2.0、TG700≧4である。
【0030】
本発明の樹脂組成物には(A)〜(E)成分の他に必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、通常樹脂に配合される充填剤、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料などの他の添加剤を配合することができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を公知の方法で溶融混練することにより製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌機、単軸または二軸押出機、ロールミキサーなどを用いて溶融混練することにより製造することができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、高度な難燃性を発現でき、自動車のエンジンルーム内のような高温下で雨水にさらされるといった過酷な条件下でも電気絶縁性を保持することができる。さらに、ハロゲンが含まれていないので、有害有毒なガスや煙が発生せず、また成形加工機械を腐食させることもない。
【0033】
本発明の樹脂組成物は公知の方法により成形して難燃性の成形体を得ることができる。成形方法は特に限定されず、押出成形、射出成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、インフレーション成形、モールドスタンピング成形などの公知の成形法が採用でき、成形法に応じて押出成形体、射出成形体、ブロー成形体、押出ブロー成形体、射出ブロー成形体、インフレーション成形体、モールドスタンピング成形体などが得られる。成形方法としては射出成形法、押出成形法が好ましい。
【0034】
このようにして得られる本発明の難燃性樹脂成形体は難燃性が要求される分野で好適に利用することができる。例えば、家電製品、OA製品、自動車分野などの外装材料(ハウジングなど)、および内部部品(コネクター、基板ホルダー、電線被覆などの電気部品)などとして好適に利用することができる。
【0035】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0036】
<製造例1> リン酸化合物(C−1)の製造
ピロリン酸メラミン(三井化学ファイン製、商標MPP−B)500g、純水2Lをビーカーに入れ、85℃で5時間攪拌した。1時間室温で静置後、吸引ろ過し、得られたサンプルを真空乾燥機で120℃、8時間乾燥を行った。このサンプルの電気伝導度を測定すると、1.5mS/cmであった。
【0037】
<製造例2> リン酸化合物(C−2)の製造
ポリリン酸メラミンをポリリン酸メラミン(三和ケミカル製、商標MPP−A)に変えた以外は同様な手法を用いた。このサンプルの電気伝導度を測定すると、2.8mS/cmであった。
【0038】
製造例1で使用したピロリン酸メラミンの電気伝導度を測定すると、3.3mS/cmであった。以下、このピロリン酸メラミンを(C−3)と呼ぶ。
【0039】
製造例2で使用したポリリン酸メラミンの電気伝導度を測定すると、8.0mS/cmであった。以下、このポリリン酸メラミンを(C−4)と呼ぶ。
【0040】
ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン製、商標AP422)の電気伝導度を測定すると、12.0mS/cmであった。以下、このポリリン酸アンモニウムを(C−5)と呼ぶ。
【0041】
<製造例3> 炭化剤(D−1)の製造
撹拌機、および温度計を備えた反応器に、有機溶媒としてイソプロピルアルコール1704gおよびイオン交換水1704gを仕込んだ後、撹拌下、85℃に昇温した。次いで、炭化剤としてペンタエリスリトール(広栄化学(株)社製)700g(5.1モル)を添加し、溶解後、表面処理剤としてステアリン酸(和光(株)社製)84g(0.30モル)を添加し、85℃を維持したまま約1時間攪拌した。その後、反応混合液を25℃に冷却し、1μmのガラスフィルターでろ過することにより白色結晶が得られた。この結晶を乾燥機にて50℃で16時間乾燥することにより、生成物626gが得られた。
【0042】
<製造例4>
表面処理剤としてベヘン酸84g(0.25モル)を添加した以外は、製造例2と同様の操作をし、生成物462gが得られた(D−2)。
また、製造例3および4で使用した原料ペンタエリスリトール(広栄化学(株)社製)をそのまま使用して組成物を調製した。以下、このペンタエリスリトールを炭化剤(D−3)と呼ぶ。
【実施例1】
【0043】
表1に示す成分を配合し、二軸混練押出機(株式会社テクノベル社製)を用いて、200℃で溶融混練を行った。得られた樹脂組成物を圧縮成形機(株式会社神東金属工業所製)を用いて、加熱温度190℃、冷却温度23℃の条件でプレス成形し、長さ100mm、幅100mm、厚さ1mmの試験片、および射出成形機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、加熱温度190℃、冷却温度40℃の条件で射出成形し、長さ128mm、幅12.8mm、厚さ3.2mmの試験片を作成した。この試験片について各種試験を行った。結果を表1に示す。
[実施例2〜4]および[比較例1〜4]の組成を表1〜表2に示すように変更した以外は実施例1と同じ方法で試験した。結果を表1〜表3に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
〔表1および表2の注〕
*1)J705:ポリプロピレンブロックポリマー、三井化学(株)社製、J705、商
標、ASTM D 1238に準じて230℃、2.16kg荷重下で測定されるメ
ルトフローレート=12g/10min、プロピレン含有量=88重量%、融点=
162℃、
*2)G1657:スチレン系熱可塑性エラストマー(トリブロック型共重合体)、クレ
イトンポリマージャパン(株)製、商標:G1657、ASTM D 1238に準
じて230℃、2.16kg荷重下で測定されるメルトフローレート=8g/10
min、スチレン含量13wt%、
*3)S4020:三井化学(株)社製、プロピレン−エチレンエラストマー、商標:S
4020、ASTM D 1238に準じて230℃、2.16kg荷重下で測定さ
れるメルトフローレート=2g/10min、
*4)炭酸カルシウム:日東粉化(株)製、タンカル NCC♯410、商標、
*5)フェノール系酸化防止剤:チバスペシャリティーケミカル社製、イルガノックス
1010、商標
*6)リン系酸化防止剤:チバスペシャリティーケミカル社製、イルガフォス168、商

*7)絶縁性:圧縮成形により得た厚さ1mmの試験片を塩化ナトリウム(試薬)1w
t%含有した85℃の温水中に14日間浸漬し、その後試験片の体積固有抵抗率を
測定した。

○:体積固有抵抗率が1012Ω・cm以上である。
×:体積固有抵抗率が1012Ω・cm未満である。
*8)難燃性:射出成形により得た長さ5インチ、幅1/2インチ、厚さ1/8インチの
試験片を用いて、UL94V試験法に準じて試験を行った。まず、試験片を垂直に
立て、真下に脱脂綿を置き、試験片の下から炎長3/4インチの炎を10秒間接炎
し、有炎燃焼時間を測定した。消炎後直ちに10秒間再び接炎し、有炎および無炎
燃焼時間を測定した。同じ方法で5個の試験片について繰り返した。難燃性の評価
は次の判断項目に従って3基準に分けて判定した。

V−0 A;各回の有炎燃焼時間は10秒以下である。
B;5回の試験の合計有炎燃焼時間は50秒以下である。
C;クランプまで有炎または無炎燃焼しない。
D;脱脂綿を発火させない。
E;第2回目の無炎燃焼時間は30秒以下である。
V−1 A;各回の有炎燃焼時間は30秒以下である。
B;5回の試験の合計有炎燃焼時間は250秒以下である。
C;クランプまで有炎または無炎燃焼しない。
D;脱脂綿を発火させない。
E;第2回目の無炎燃焼時間は60秒以下である。
V−2 A;各回の有炎燃焼時間は30秒以下である。
B;5回の試験の合計有炎燃焼時間は250秒以下である。
C;クランプまで有炎または無炎燃焼しない。
D;脱脂綿を発火させてもよい。
E;第2回目の無炎燃焼時間は60秒以下である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
高度な難燃性を発現し、かつ高温下においても電気絶縁性にノンハロゲン難燃ポリオレフィン系樹脂を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)、リン酸化合物(C)、表面処理された炭化剤(D)、および無機化合物(E)を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、各成分の含有割合は、(A)成分30〜79重量部、(B)成分1〜30重量部、(C)成分および(D)成分の合計が10〜40重量部〔ここで(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)の合計は100重量部である。〕で、かつ(C)成分と(D)成分との配合比が(C)成分/(D)成分の重量比で1以上であり、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計100重量部に対して、(E)成分0〜5重量部であって、(C)成分が(C)成分10gを85℃温水100ml中に24時間浸漬させた後、不溶分を除去した後のろ液の電気伝導度をIp(mS/cm)、(C)、(D)成分の混合物(但し、(C)成分/(D)成分の混合比は重量比で1以上である)を熱重量分析計で測定された700℃における残渣をTG700(%)とした場合に、下記(i)、(ii)を満足することを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
0≦Ip≦3.0 ‥‥‥ (i)
TG700≧2 ‥‥ (ii)
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン樹脂またはポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂である請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
リン酸化合物(C)が、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンである請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
表面処理された炭化剤(D)が、分子内に親水性と親油性を有する化合物で表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
無機化合物(E)が、塩基性を有する無機化合物である請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
無機化合物(E)が、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムである請求項5に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−124505(P2006−124505A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314474(P2004−314474)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(301012162)下関三井化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】