説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、成形物品及びノンハロゲン難燃性絶縁電線

【課題】 高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性及び押出加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、成形物品及びノンハロゲン難燃性絶縁電線を提供することを課題とする。
【解決手段】 (a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜70質量%、及び(b)エチルアクリレート含有量が5以上25質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体を30〜50質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を200〜250質量部、(d1)架橋剤1〜5質量部を含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が30以上80以下であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲンの耐摩耗性難燃性樹脂組成物、成形物品及びノンハロゲン難燃性絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線には、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、及び可撓性が要求される。
一般に、絶縁電線に電流を流すと導体が発熱し、これに伴い絶縁電線全体の温度が上昇する。このため、密閉器内等の配線材として使用される絶縁電線には、耐熱性を有すること、および熱老化試験後の機械特性の低下が少ないことが要求される。また絶縁電線を敷設する際の応力で破断しないような機械特性を有することが必要とされる。さらに配電盤内等の機械部品や電気部品が密集した設備中や、湾曲管内に電線を曲線状に折り曲げて取り付ける際に、電線の曲げ作業性の良好な可撓性を有することが必要とされる。
従来、耐熱性を有し、機械強度と可撓性に優れた難燃性の絶縁電線としては、被覆層を構成するベース樹脂として塩素化ポリエチレンを用いたものが使用されてきた。塩素化ポリエチレンは、ハロゲンである塩素を含むため、塩素による難燃効果により、難燃性を発揮することができる。また塩素化ポリエチレンは100℃を越える耐熱性を有するため、塩素化ポリエチレンを被覆層として用いて、この被覆層を架橋させることにより、耐熱性と、機械強度及び可撓性を併せ持つ絶縁電線を得ることができる。
【0003】
しかし、塩素化ポリエチレンを被覆層に用いた絶縁電線を焼却すると、ダイオキシンなどの塩素系有毒ガスが発生する。このガスの人体への影響を少しでも減少させるために、ノンハロゲンの難燃性樹脂組成物を被覆層に用いた絶縁電線が必要となっている。
ベース樹脂としてポリエチレンを使用してノンハロゲンの難燃性樹脂組成物を得るためには、通常、樹脂100質量部に対して、金属水和物を50〜200質量部を配合する必要がある。金属水和物を高充填すると難燃性は向上する。しかし機械特性が低下する傾向にある。例えば、ポリエチレン100質量部に対して、200質量部を越える量の金属水和物を配合した樹脂組成物を被覆層に用いて絶縁電線を製造すると、得られる絶縁電線の機械特性、特に引張強度及び伸びが著しく低下する。また金属水和物の配合量が多いために、樹脂組成物の溶融粘度が高く、導体に樹脂組成物を押出して被覆層を形成する際に、押出機モーターへの負荷が大きくなる。このため、被覆層形成時の樹脂組成物の押出量を抑制せざるを得ず、絶縁電線の生産性が低下する。
【0004】
そこで、エチレン−エチルアクリレート共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体などのエチレン系共重合体と、エチレンプロピレンゴムを含有するベース樹脂に、難燃剤として、ハロゲンを含む有機系の難燃剤を含み、さらに金属水和物などの無機系の難燃剤を加えることにより、無機系難燃剤の配合量を低減して、押出し加工性を改良した難燃性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかしこれらの文献に記載された難燃性樹脂組成物に含まれる有機系の難燃剤はハロゲンを含むため、燃焼時に発生するガスの環境に与える影響を考えると好ましいものとはいえなかった。
またビニルアセテート以外のビニルモノマーであって分子構造中に酸素を含有するビニルモノマーの含有量が25〜40質量%のエチレン系共重合体を主成分とし、副次的にエチレン−オクテン共重合体ゴムなどのエラストマーを含有するベース樹脂に、難燃剤として金属水和物を配合した樹脂組成物が被覆されたノンハロゲン電線が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3記載のノンハロゲン電線の被覆材に使用されている樹脂組成物においては、エチレン−オクテン共重合体ゴムは副次的に配合されており、具体的には、エチレン−オクテン共重合体ゴムの含有量はベース樹脂中40質量%である。しかしながら、このようにエラストマーの含有量が少ないと可撓性の低下を招くという問題が生じる場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−183335号公報
【特許文献2】特表2008−501846号公報
【特許文献3】特開2008−84833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性及び押出加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物、成形物品及びノンハロゲン難燃性絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、エチレン含有量が特定の範囲内のエチレンプロピレンゴム、及び特定の範囲内のエチルアクリレート含有量を有するエチレン−エチルアクリレート共重合体をそれぞれ特定の割合で含有するベース樹脂に対して、難燃剤としてシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を特定の配合量で含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が特定の範囲内のノンハロゲン難燃性樹脂組成物が上記課題を解決することを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0008】
すなわち本発明は、
<1>(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜70質量%、及び(b)エチルアクリレート含有量が5以上25質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体を30〜50質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を200〜250質量部、(d1)架橋剤1〜5質量部を含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が30以上80以下であることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物、
<2>(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜70質量%、及び(b)エチルアクリレート含有量が5以上25質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体を30〜50質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を200〜250質量部、(d2)架橋助剤1〜10質量部を含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が30以上80以下であることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物、
<3><1>又は<2>記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を架橋させてなることを特徴とする成形物品、及び
<4>導体外周に直接又は間接に<1>又は<2>記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されたことを特徴とするノンハロゲン難燃性絶縁電線、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、高度の難燃性とともに、耐熱性、機械特性、可撓性及び押出加工性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の成形物品及びノンハロゲン難燃性絶縁電線は、押出加工性に優れるため、廉価で製造することができる。さらに本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、耐熱性に優れるため、高温環境下においても好適に用いることができ、機械特性及び可撓性に優れ、又燃焼時にも有毒なガスの発生による人体への悪影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の耐摩耗性絶縁電線の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【図2】本発明の耐摩耗性絶縁電線の他の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【図3】本発明の耐摩耗性絶縁電線のさらに他の一実施態様について模式的に示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐摩耗性絶縁電線について、図面を参照しながら説明する。
図1は、後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いてなる絶縁電線10の好ましい態様を示したノンハロゲン難燃性絶縁電線である。図1に示されるように、本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、導体1上に直接、本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されることによって、架橋被覆層3が形成されている。
また図2は、後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を最外層として使用した絶縁電線20のほかの好ましい態様を示したノンハロゲン難燃性絶縁電線である。図2に示されるように、本発明の耐摩耗性絶縁電線は、導体1上に他の層2を介して、最外層に本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されて架橋被覆層3が形成されている。他の層2としては、ポリエステル製のテープやナイロン製のテープなどのセパレータが巻回されたものを使用することができる。
さらに図3は、後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を使用した絶縁電線30のさらにほかの好ましい態様を示したノンハロゲン難燃性絶縁電線である。図3に示されるように、本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、導体1上に内部導電層5が形成され、内部導電層5上に被覆層4が形成され、さらに該被覆層上に本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる架橋被覆層3がシース層として形成されている。図3の被覆層4は、本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてもよい。
【0012】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、エチレンプロピレンゴム及びエチレン−エチルアクリレート共重合体を含有するベース樹脂成分に、シランカップリング剤で表面処理された金属水和物が配合されてなる。
(a)エチレンプロピレンゴム
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、(a)成分として用いられるエチレンプロピレンゴムは、エチレン、プロピレン及び非共役ジエンの3元共重合体であるEPDMと、エチレンとプロピレンの共重合体であるEPMの両方をいうものとする。本発明において用いられるエチレンプロピレンゴムは、エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満である。エチレンプロピレンゴムとしては、2種類以上のエチレンプロピレンゴムを使用することができ、EPDMとEPMを併用することができる。2種類以上のエチレンプロピレンゴムを使用した場合は、エチレンプロピレンゴム全体のエチレン含有量が65質量%以上75質量%未満とする。エチレンプロピレンゴムのエチレン含有量は好ましくは、67〜72質量%である。この範囲内において、エチレンプロピレンゴムのエチレン含有量を多くすることにより、混練時や押出時の加工性を向上させ、機械強度を向上させることができる。エチレン含有量が少なすぎると十分な機械特性、特に引張強度が得られない。エチレン含有量が多すぎると、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が硬くなりすぎる。
【0013】
エチレンプロピレンゴムの粘度は、100℃におけるムーニー粘度が40以下のものを用いることが好ましい。さらに好ましくは、100℃におけるムーニー粘度は30〜40である。この範囲内のムーニー粘度のエチレンプロピレンゴムを用いることにより、混練時や押出時の加工性を向上させることができる。本発明における100℃におけるムーニー粘度とは、JIS K 6300−1(未加硫ゴム−物理特性−第I部)に準拠して、100℃における4分値をいうものとする。
【0014】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物の100℃におけるムーニー粘度は30以上80以下である。この範囲内になるように、エチレンプロピレンゴムを選択し、後述のシランカップリング剤で処理された金属水和物の配合量を適宜決定する。本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物の100℃におけるムーニー粘度は好ましくは30〜60である。100℃におけるムーニー粘度をこの範囲内とすることにより、押出機への負荷を高くすることなく、導体に樹脂組成物の被覆層を形成することができる。100℃におけるエチレンプロピレンゴムのムーニー粘度が低すぎると、混練時の分散性や押出時の外観変動(樹脂垂れ)等に問題が生じ、高すぎると、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の溶融粘度が高いため、押出機への負荷が高くなり、導体に樹脂組成物の被覆層を形成する際の生産性が低下する。
【0015】
エチレンプロピレンゴムの配合量は、ベース樹脂成分中、50〜70質量%である。この範囲内において、エチレンプロピレンゴムの配合量を多くすることにより、硬度を適度にするとともに可撓性を付与することができる。エチレンプロピレンゴムの配合量が少なすぎると硬くなり、多すぎると機械強度が不足する。
【0016】
(b)エチレン−エチルアクリレート共重合体
本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物において、(b)成分として用いられるエチレン−エチルアクリレート共重合体は、エチルアクリレート含有量が5質量%以上25質量%以下のものを用いる。エチルアクリレート含有量が多すぎると、引張強度が低下する。エチルアクリレート含有量が少なすぎると、難燃性が低下する。
エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合量は、ベース樹脂成分中、30〜50質量%である。この範囲内において、エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合量を多くすることにより、難燃性と引張強度を両立させることができる。エチレン−エチルアクリレート共重合体の配合量が少なすぎると十分な難燃性を得ることができず、多すぎると樹脂組成物の溶融粘度が高くなりすぎて押出加工性が低下する。
【0017】
(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、難燃剤として(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物が配合されてなる。
金属水和物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を含有する金属化合物が挙げられる。金属水和物は単独でも、2種以上を組合せてもよい。金属水和物は、0.3〜1.5μmの範囲の結晶粒径を有し、凝集がないものが好ましい。ベース樹脂との相溶性を良好とするため、金属水和物としては、シランカップリングで表面処理したものを用いる。シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を用いることにより、金属水和物を多量に配合しても引張強さを向上させることができ、絶縁電線の耐摩耗性及び耐外傷性をより向上させることができる。シランカップリング剤以外のものを用いてさらに表面処理された金属水和物を用いてもよい。例えば、さらに表面が脂肪酸で処理されているものを使用することができる。
【0018】
シランカップリング剤は、特に限定されるものではないが、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、アミノ基または、これらの2種以上の官能基を有するものが好ましく用いられる。中でもビニル基を有するものが、優れた耐熱性を発揮する事ができるという理由で好ましい。
水酸化アルミニウムの表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を使用することができる。これらのシランカップリング剤は2種以上併用してもよい。
【0019】
本発明で用いることができるシランカップリング剤で表面処理した金属水和物としては、予め表面処理するのに十分な量のシランカップリング剤を適宜金属水和物に対してブレンドして行うことができる。シランカップリング剤の量は、具体的には金属水和物に対し0.2〜2質量%加えることが好ましい。シランカップリング剤は原液でもよいし、溶剤で希釈されたものを使用してもよい。
また、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで表面の一部が前処理された金属水和物に、さらにシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。
【0020】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、シランカップリング剤で表面処理された金属水和物は、ベース樹脂成分100質量部に対して200〜250質量部を配合する。金属水和物の配合量が少なすぎると十分な難燃性が得られず、多すぎると機械強度の低下や、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、押出機への負荷が高くなり、導体に樹脂組成物の被覆層を形成する際の生産性が低下する。
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物において、リン系化合物や赤リン、シリコーン系化合物、窒素化合物、亜鉛化合物などのノンハロゲンの難燃助剤を適宜加えることができる。
【0021】
(d1)架橋剤、(d2)架橋助剤
本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、導体外周に直接又は間接に前記ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されている。架橋する方法としては、放射線架橋や化学架橋が適宜施される。その方法は、適宜、従来の方法で施される。
本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、(a)エチレンプロピレンゴム、(b)エチレン−エチルアクリレート共重合体、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物、(d1)架橋剤を配合してノンハロゲン難燃性樹脂組成物とし、該組成物を導体上に直接又は間接に押出被覆し、加熱処理する方法、すなわち化学架橋により製造することが好ましい。化学架橋の場合の押出被覆の温度は、ベース樹脂成分としてエチレンプロピレンゴムが含まれるとともに、架橋剤が添加されるので、70〜140℃であることが好ましく、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0022】
架橋剤としては、好適なものとして有機過酸化物を挙げることができる。例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキシン、1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1,−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。その配合量は、ベース樹脂成分100質量部に対して、1〜5質量部とする。さらに好ましくは、2〜4質量部である。架橋剤の配合量が少なすぎると、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の架橋が不十分となり、耐熱性が低下する。架橋剤の配合量が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎて、十分な引張伸び物性が得られない。本発明のノンハロゲン難燃性絶縁電線は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層を架橋して製造されているため、耐熱性に優れている。被覆層を化学架橋で架橋する場合、導体上に直接又は間接にノンハロゲン難燃性樹脂組成物を押出被覆した後、160〜200℃で加熱して架橋することが好ましい。
【0023】
放射線架橋により本発明の耐摩耗性絶縁電線を製造する場合としては、電子線架橋のほか、γ線架橋を挙げることができる。その中でも電子線架橋が好ましい。電子線架橋を行う場合、電子線の照射線量は1〜30Mradとすることが好ましい。効率よく架橋を行うために、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。架橋助剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、1〜10質量部とする。さらに好ましくは、1〜6質量部である。
架橋助剤に用いる多官能性化合物は、多官能モノマーに含有される単位質量当たりの二重結合の数により、架橋効率が異なってくる場合はあるが、架橋助剤の配合量が少なすぎると、耐摩耗性難燃性樹脂組成物の架橋が不十分となり、耐熱性が低下する。架橋助剤の配合量が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎて、十分な引張伸び物性が得られない。
【0024】
この他に本発明の耐摩耗性難燃性樹脂組成物には、電線被覆層において使用されている各種の添加剤、例えば、充填剤、カーボン、シリカ等の補強剤、着色剤、ワックス等の滑剤、老化防止剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
表1の実施例の実施例1〜9、および表2の比較例1〜9については、表1、2に示す各成分のうち、ジクミルパーオキサイドを除き、バンバリーミキサーを用いて溶融混練した。その後、この混練物に表1、2に示す配合量のジクミルパーオキサイドを加え、40〜80℃に設定した8インチロール機にて混練して、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を得た。当該組成物をシート状に成形した後、160℃で30分間プレス加硫し、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を架橋した。この組成物から以下の各種試験の試験片を作製し、試験を行い、その性能について評価した。
表1の実施例10、11および表2の比較例10、11については、表1、2に示す各成分をすべて加え、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、耐摩耗性難燃性樹脂組成物を得た。当該組成物をシート状に成形した後、15Mradで電子線照射して架橋したものを用いて、以下の各種試験の試験片を作製し、試験を行い、その性能について評価した。
【0027】
表1及び表2において、以下の材料を用いた。なお表1及び表2において、ベース樹脂成分(エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体)中の各成分は、ベース樹脂成分中の含有量を質量%で示す。エチレンプロピレンゴムのムーニー粘度は、JISK 6300−1 5.7試験結果のまとめ方のとおりに従い記載した。例えば、※1のEPT3045において、以下の内容を表す。
40M:ムーニー粘度
L:ロータの形状でL形のものを用いた
(1+4):予熱時間1分間とロータの回転時間4分
100℃:試験温度
表1及び表2の評価結果のムーニー粘度も同様の方法で記載した。
【0028】
(使用した材料)
(1)EPR(エチレンプロピレンゴム):
※1 EPT3045 三井化学社製商品名
ムーニー粘度 40ML(1+4)100℃
※2 EP51 JSR社製商品名
ムーニー粘度 38ML(1+4)100℃
※3 EPT3012P 三井化学社製商品名
ムーニー粘度 15ML(1+4)100℃
【0029】
(2)EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体):
※4 EV460 三井デュポン・ポリケミカル社製商品名
MFR(JIS K 7210) 2.5g/10min.
(3)EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体):
※5 DPDJ−6182 日本ユニカー社製商品名
MFR(JIS K 6922−2) 1.5g/10min.
(4)EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体):
※6 NUC−6940 日本ユニカー社製商品名
MFR(JIS K 6922−2) 20g/10min.
【0030】
(5)水酸化マグネシウム:
※7 キスマ5L 協和化学工業社製商品名
(6)カーボン:
※9 シースト3 東海カーボン社製商品名
HAF(High Abrasion Furnace):高耐摩耗性グレード
(7)ステアリン酸:
ビーズステアリン酸 日油社製商品名
(8)酸化亜鉛:
酸化亜鉛2種 三井金属鉱業社製商品名
(9)2,2,4−トリメチル−1,2ジヒドロキノリン重合体:
ノクラック224 大内新興化学工業社製商品名
(10)ジクミルパーオキサイド:
パークミルD 日油社製商品名
(11)トリメチロールプロパントリメタクリレート:
オグモントT−200 新中村化学社製商品名
【0031】
(1)引張り強さ
厚さ2mmの試験片を用いて、JIS K 6251(加硫ゴムの引張り試験方法 JIS3号ダンベル使用)に準拠して、引張強さを測定した。引張強さが10MPa以上を合格とした。
【0032】
(2)切断時伸びの加熱老化後の残率
厚さ2mmの試験片を用いて、JIS K 6257(加硫ゴムの老化試験方法)に準拠して試験片の切断時伸びの老化残率(%)を測定した。加熱条件は150℃×96時間とし、残率80%以上の場合を耐熱性合格とした。
【0033】
(3)難燃性
厚さ2×幅20×長さ300mmの試験片を用いて、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)の4.26項の難燃を参考にして、以下の通り、難燃性について評価した。
加熱源は口径約10mmのブンゼンバーナーを用い、その炎の酸化炎長を約130mm、還元炎長を約35mmに調整した。還元炎の先端が試験片下部に当たるように、試験片を垂直に配置し、3分間接炎させ、炎を取り去った後の燃焼状態を観察した。
残炎時間が30秒以内でかつ試験片の燃焼長さが2/3以内のものを○、残炎時間が30秒以内であるか試験片の燃焼長さが2/3以内であるかの何れか一方であるものを△、いずれも満たさないものを×とし、その結果を表1、2に記載した。○を合格、△と×を不合格とした。
【0034】
(4)ムーニー粘度
8インチロール機で20分間混練したプレス加硫を行っていないノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、JISK 6300−1(未加硫ゴム−物理特性−第1部)に準拠した100℃4分値(予熱1分)の材料粘度を測定し、100℃におけるムーニー粘度とした。100℃におけるノンハロゲン難燃性樹脂組成物のムーニー粘度が30以上80以下のものを合格とした。
【0035】
(5)押出加工性
前記の通り作製した耐摩耗性難燃性樹脂組成物をリボン状に成形し、またはペレット状に裁断して、電線製造用の押出機を用いて、被覆層の厚さが1.0mmとなるように、導体上に被覆層を押出成形し、外径φ3.7mmの絶縁電線を製造するに際し、当該被覆層の押出加工性について評価した。押出機の温度設定は、80〜90℃とし、製造線速が従来の塩素化ポリエチレンを用いた絶縁電線(50m/分)と同等であったものを○、それ以下であったものを×とし、○の場合を合格とした。
【0036】
【表1】

【表2】

【0037】
表1の結果から、実施例1〜11のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、機械特性、耐熱性及び難燃性に優れ、ムーニー粘度についても、30〜80の範囲内にあり、押出加工性に優れていた。
一方、表2の比較例1は、エチレンプロピレンゴムとして、エチレン含有量が56質量%のものを用い、エチレン−エチルアクリレート共重合体を含まないため、難燃性と引張強さが不合格であり、かつ伸び老化残率も80%を下回っており、不合格である。比較例2は、エチルアクリレート含有量が15質量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体を含むものの、比較例1と同様に、エチレンプロピレンゴムとして、エチレン含有量が56質量%のものを用いており、引張強さが不足している。また水酸化マグネシウムの配合量が少ないため、難燃性が合格しない。比較例3では、エチレン−エチルアクリレート共重合体の代わりに酢酸ビニル含有量が19質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いたが、ムーニー粘度が80を越えており、押出加工性が低下した。比較例4〜7は、エチルアクリレート含有量が35質量%のエチレン−エチルアクリレート共重合体を用いたため、引張り強さが不合格であり、またムーニー粘度が大きくなり、押出加工性が低下した。更に比較例5は、架橋剤が少なく、更に伸び老化残率が80%を下回っており、耐熱性が合格しない。比較例8は、水酸化マグネシウムの配合量が多いため、引張り強さが小さく、またムーニー粘度が100以上のため、押出機への負荷が高く、押出被覆出来ず、押出加工性に問題が生じた。
比較例9〜11は、エチレンプロピレンゴムが少量であり、エチレン−エチルアクリレート共重合体が多いため、ムーニー粘度が100以上と大きく、押出機への負荷が高くなり、押出加工性に問題が生じた。また比較例9は、水酸化マグネシウムの配合量が少ないため、難燃性が不合格であり、更に比較例11は、架橋剤が少なく、比較例5と同様に伸び老化残率が80%を下回っており、耐熱性が合格しない。
【符号の説明】
【0038】
1 導体
2 他の層(例えば、セパレータ)
3 ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる架橋被覆層
4 他の被覆層
5 内部導電層
10 ノンハロゲン難燃性絶縁電線
20 ノンハロゲン難燃性絶縁電線
30 ノンハロゲン難燃性絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜70質量%、及び(b)エチルアクリレート含有量が5以上25質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体を30〜50質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を200〜250質量部、(d1)架橋剤1〜5質量部を含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が30以上80以下であることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(a)エチレン含有量が65質量%以上75質量%未満のエチレンプロピレンゴムを50〜70質量%、及び(b)エチルアクリレート含有量が5以上25質量%以下のエチレン−エチルアクリレート共重合体を30〜50質量%を含有するベース樹脂成分100質量部に対し、(c)シランカップリング剤で表面処理された金属水和物を200〜250質量部、(d2)架橋助剤1〜10質量部を含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、該組成物の100℃におけるムーニー粘度が30以上80以下であることを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を架橋させてなることを特徴とする成形物品。
【請求項4】
導体外周に直接又は間接に請求項1又は2記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてなる被覆層が形成され、該被覆層が架橋されたノンハロゲン難燃性絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82278(P2012−82278A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228175(P2010−228175)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】