説明

ハイブリッドチタニア粉末の製造方法、ハイブリッドチタニア粉末、機能付与液、製品及び機能付与釉薬

【課題】より実用性の高いハイブリッドチタニア粉末を提供する。
【解決手段】本発明のハイブリッドチタニア粉末の製造方法は、TiO2を生成し得るチタニア生成物質と、両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマー及び/又はコオリゴマーである分子低重合体とを用意し、チタニア生成物質及び分子低重合体を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドチタニア粉末の製造方法、ハイブリッドチタニア粉末、機能付与液、製品及び機能付与釉薬に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子のうち、チタニア(TiO2、酸化チタン)粉末は、従来より、白色顔料や紫外線吸収剤として、ペンキや化粧品等の原料に幅広く使用されており、食品添加物としても認められている安価で安全な材料である。
【0003】
しかし、従来のチタニア粉末は、一次粒子が凝集した二次粒子であることが多く、分散性が十分でない。このため、そのチタニア粉末を例えば有機高分子材料の添加剤に用いた場合、チタニア粉末の偏在により製品の意匠等が損なわれるおそれがある。
【0004】
このため、チタニア粉末と有機ポリマーとをコンポジット化させたハイブリッドチタニア粉末は、チタニア粉末の機能と有機ポリマーとの機能を複合化させた新しい機能の創出につながることから、興味深い検討課題である。
【0005】
従来、メチルメタクリエート(MMA)とメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシラン(MSMA)との共重合生成物について、チタンテトラブトキシドとエチルアセトアセテートとの反応により得られる錯生成物とコンポジット化させる報告がなされている(非特許文献1)。特に、このコンポジット化においては、チタンテトラブトキシドの加水分解反応をエチルアセトアセテートを添加させ、錯形成させることにより温和な条件下で進行させる点が特徴となっている。
【0006】
同様に、チタンテトライソプロポキシドをアクリル酸又はアリルアセチルアセトンで処理させ、次いでメタクリル酸メチルと共重合反応させることにより、ポリメチルメタクリレート/チタニアハイブリッドが調製されている(非特許文献2)。
【0007】
ポリメチルメタクリレートではなく、ポリビニルピロリドンもまた、ハイブリッドチタニア粉末の調製に有効である(非特許文献3)。
【0008】
ハイブリッドチタニア粉末の調製を行うためには、先に示したように、加水分解性の高いチタンアルコキシドの加水分解を抑制させることが重要である。アクリル酸モノマー以外に、酢酸あるいはカルボキシル基を有する有機ポリマーを用いることにより、ハイブリッドチタニア粉末が調製できる。さらに、このハイブリッドチタニア粉末はキャストフィルムの作成に応用されている(非特許文献4)。
【0009】
その他、ハイブリッドチタニア粉末の調製に関する研究報告はあまりされていない。これらハイブリッドチタニア粉末の調製が実際に可能となれば、種々の分野への応用展開が大いに期待できる。
【0010】
ハイブリッドチタニア粉末の調製が困難である理由の一つに、使用する有機ポリマーの界面活性能の低さが考えられる。高分子界面活性剤は、溶液中において互いに絡み合い、気/液界面に配向しにくく、高い界面活性な性質を一般に示しにくい。有機ポリマーにおいて、高い界面活性な性質を示す有機高分子化合物を用いることが可能となれば、新しいタイプのハイブリッドチタニア粉末の調製が期待できる。高い界面活性な性質を示す高分子界面活性剤の創製においては、高分子化合物にフッ素を導入させることが有効であり、実際、長鎖のフルオロアルキル基が高分子主鎖に導入されたフッ素系高分子活性剤が数多く報告されている(非特許文献5)。
【0011】
ところが、フルオロアルキル基が高分子長鎖にランダムに導入されたフッ素系高分子活性剤は、フルオロアルキル基が互いに絡み合い、気/液界面に配向しにくい欠点がある(非特許文献5)。これに対して、フルオロアルキル基が高分子主鎖の両末端に導入されたABA−トリブロック型のフルオロアルキル基含有オリゴマーにおいては、フルオロアルキル基が気/液界面に効率良く配向し、フッ素に起因した高い界面活性な性質を効率良く発現させることができる(非特許文献5)。このフルオロアルキル含有オリゴマーは、AB−ブロック型の対応するフルオロアルキル含有オリゴマーよりも、より高い界面活性な性質を示す点は興味深い(非特許文献6)。
【0012】
ABA−トリブロック型フルオロアルキル含有オリゴマーのこの高い界面活性な性質を活かすことにより、末端に導入されたフルオロアルキル基同士の凝縮効果が効率良く作用し、ナノサイズで制御されたフッ素系高分子集合体を形成することが報告された(非特許文献7)。
【0013】
対応するフッ素を含まない高分子界面活性剤がこのようなホスト場を形成できないのに対して、このフッ素系高分子集合体をホスト場とすることにより、種々のゲスト分子がカプセル化された新しいタイプのフッ素系高分子/ゲスト分子ナノコンポジットが開発された(非特許文献8)。
【0014】
実際、このフッ素高分子集合体をホスト場とすることにより、金ナノ粒子がカプセル化された分散安定性の高い含フッ素高分子/金ナノコンポジットが調製されている(非特許文献9)。
【0015】
一方、イオン液体は、常温で液体であり、不燃性、不揮発性、高伝導性等の優れた特徴を示すことから、揮発性有機溶媒(VOC:volatile organic compound)に変わるクリーンな溶媒として注目されている(非特許文献10)。フルオロアルキル含有オリゴマーは、イオン液体中においても、含フッ素高分子集合体を形成することが最近報告された(非特許文献11)。イオン液体は、分極した構造を有した溶媒であるため、チタニア粉末をより効率良く分散させることが期待できる。
【0016】
実際、君塚らは、イオン液体中におけるチタンテトラブトキシドの加水分解反応により、ミクロンサイズのチタニア粉末の中空粒子を調製している(非特許文献12)。
【0017】
含フッ素系オリゴマー/SiO2ナノコンポジットの調製においては、メタノールを反応溶媒とした調製方法が報告されている(非特許文献13)。この含フッ素系オリゴマー/SiO2ナノコンポジットは汎用の高分子材料であるPMMAへの表面改質剤として有用であることが報告されている。
【0018】
【非特許文献1】T. C. Chang, Y. T. Wang, Y. S. Hong, and Y. S. Chiu, Thermochimica Acta, 390, 93(2002).
【非特許文献2】J. Zhang, S. Luo, and L. Gui, J. Mater. Sci., 32, 1469 (1997).
【非特許文献3】M.-P. Zhang, Y.-P. Jin, G.-L. Jin, and M.-Y. Gu, J. Mater. Sci. Lett., 19, 433 (2000).
【非特許文献4】F. Perrin, V. Nguyen, and J. Vernet, Polym. Int., 51, 1013 (2002).
【非特許文献5】a) D. Cochin, P. Hendlinger, and A. Laschewsky, Colloid Polym. Sci., 273, 1138 (1995); b) H. Sawada, J. Fluorine Chem., 121, 111 (2003).
【非特許文献6】a) H. Sawada et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 143 (1994); b) H. Sawada et al., J. Fluorine Chem., 74, 21 (1995); c) H. Sawada, Prog. Polym. Sci., 32, 509 (2007).
【非特許文献7】a) H. Sawada, N. Itoh et al., Langmuir, 10, 994 (1994); b) H. Sawada, K. Tanba et al., J. Fluorine Chem., 77, 51 (1996); c) J. Nakagawa, H. Sawada, M. Abe, Langmuir, 14, 2055 (1998); d) J. Nakagawa, H. Sawada, M. Abe, Langmuir, 14, 2061 (1998).
【非特許文献8】H. Sawada, K. Ikeno, and T. Kawase, Macromolecules, 35, 4306 (2002).
【非特許文献9】H. Sawada, A. Sasaki, K. Sasazawa et al., Colloid Polym. Sci., 283, 583 (2005).
【非特許文献10】北爪、淵上、沢田、伊藤、「イオン液体−常識を覆す不思議な塩-」、コロナ社(2005).
【非特許文献11】H. Sawada and R. Kasai, Polym. Adv. Technol., 16, 655 (2005).
【非特許文献12】T. Nakashima and N. Kimizuka, J. Am. Chem. Soc., 125, 6386 (2003).
【非特許文献13】H. Sawada. T. Narumi et al., Colloid Polym. Sci., 284, 551 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本研究では、ナノサイズで制御された新しいタイプのハイブリッドチタニア粉末の開発を目的とし、まず界面活性能の高い有機ポリマーとして、ABA−トリブロック型のフルオロアルキル基含有オリゴマーに注目し、イオン液体を溶媒としたフルオロアルキル基含有オリゴマー存在下におけるチタンアルコキシドの加水分解反応による新しいタイプのハイブリッドチタニア粉末の調製について検討を行った。
【0020】
本研究では、イオン液体を使用せず、汎用の有機溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)、さらにはメタノール溶媒中におけるハイブリッドチタニア粉末の調製についても併せて検討を行った。
【0021】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、より実用性の高いハイブリッドチタニア粉末を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のハイブリッドチタニア粉末の製造方法は、TiO2を生成し得るチタニア生成物質と、両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマー及び/又はコオリゴマーである分子低重合体とを用意し、該チタニア生成物質及び該分子低重合体を混合することを特徴とする。
【0023】
本発明の製造方法では、チタニア生成物質とともに、特定の分子低重合体を混合する。チタニア生成物質は反応してTiO2を生成し得るものである。具体的にはチタンアルコキシドをチタニア生成物質として採用することができる。特定の分子低重合体は、両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマー及び/又はコオリゴマーである。両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマーである分子低重合体がABA−トリブロック型のフルオロアルキル基含有オリゴマーである。両末端にフルオロアルキル基を有するコオリゴマーである分子低重合体がABA−トリブロック型のフルオロアルキル基含有コオリゴマーである。
【0024】
この分子低重合体が例えば化1のものである場合、この分子低重合体を図1に示すように略記して説明する。ここで、RFはフルオロアルキル基1aである。また、O=CNHC(CH32CH2COCH3(N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド)をDOBAAとして標記する。
【0025】
【化1】

【0026】
この分子低重合体は、両末端のフルオロアルキル基1aが自己のフルオロアルキル基1aとの間又は他のフルオロアルキル基1aとの間の分子間凝集力を有するため、図2に示すように、両末端のフルオロアルキル基1aが自己のフルオロアルキル基1aとの間又は他のフルオロアルキル基1aとの間の分子間凝集力により互いに引き合い、内部に空間を形成した担体となる。
【0027】
このため、この分子低重合体とともにチタニア生成物質を混合しておれば、担体の空間内でTiO2が生成され、TiO2が分子低重合体内に内包される。この際、TiO2は分子低重合体の特定の官能基と結合すると考えられる。こうして、本発明のハイブリッドチタニア粉末が得られる。
【0028】
本発明のハイブリッドチタニア粉末は、TiO2からなる核と、両末端のフルオロアルキル基が自己のフルオロアルキル基との間又は他のフルオロアルキル基との間の分子間凝集力によって凝集しているとともに、該核の表面に官能基が結合しているオリゴマー及び/又はコオリゴマーである分子低重合体とからなることを特徴とする。
【0029】
発明者らの試験結果によれば、このハイブリッドチタニア粉末は、紫外線存在下でアナターゼ型又はルチル型のTiO2による有害物質の分解を行い、紫外線不存在下でフルオロアルキル基によるトリハロメタンの吸着を行うことができる。
【0030】
発明者らの試験結果によれば、分子低重合体はTiO2と結合又は相互作用し得る官能基を有することが好ましい。官能基が極性を有する場合、親水性である場合、反応性を有する場合、TiO2がその官能基と結合しやすいと考えられる。
【0031】
こうして得られたハイブリッドチタニア粉末は、ほぼ一次粒子であるTiO2が担体内に内包されたものであり、TiO2の周囲にフルオロアルキル基1aの殻を有するものとなっている。
【0032】
したがって、本発明のハイブリッドチタニア粉末は、凝集し難く、優れた分散性を発揮する。このため、このハイブリッドチタニア粉末を例えば有機高分子材料の添加剤に用いた場合には、ハイブリッドチタニア粉末の偏在を生じ難く、優れた意匠等の製品となる。特に、担体内のTiO2は微細なものであることから、有機高分子材料等の添加剤等に応用した場合、優れた意匠等の製品となる。
【0033】
また、このハイブリッドチタニア粉末は、TiO2に分子低重合体が結合していることから、そのまま秤量、混合等でき、高い取り扱い性を発揮する。
【0034】
分子低重合体は、化2に示すオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R1は有機基、xは自然数である。)又は化3に示すコオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R2及びR3は有機基、x及びyは自然数である。)であり得る。
【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
1及びR2はTiO2と相互作用し得る官能基、R3はその他の官能基を有するものであることが好ましい。R3はいかなる官能基であってもよい。
【0038】
1及びR2は、アルコキシドが置換反応によって有するヒドロキシル基と相互作用(水素結合、配位結合、共有結合、イオン結合、エステル結合、ウレタン結合、脱水重縮合等)する有機基である。
【0039】
1及びR2は、具体的には、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、リン酸基(−PO32)、シラノール基(SiOH)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH2)、ニトロ基(−NO2)、カルボニル基(C=O)、アミド(C(=O)NH)等の官能基又はこれらの誘導体、アルコキシ基(M(OCn2n+1m(3-m);MはSi、Ti、Al等、nは1〜3の自然数、mは1〜3の自然数)、イソシアネート基(−N=C=0)等の官能基を含む分子鎖であり得る。
【0040】
また、R3は、アルコキシドを介さず、直接TiO2と相互作用(水素結合、配位結合、共有結合、イオン結合、エステル結合、ウレタン結合、脱水重縮合、ビニル重合等)できる有機基でもよい。特に、R3は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、シラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アミド等、これらの誘導体、アルコキシ基、イソシアネート基、ビニル基等の官能基を含む分子鎖であり得る。また、R3は、TiO2と相互作用しないいかなる官能基でもよく、この場合、TiO2に官能基に由来する機能を付与できる。
【0041】
この分子低重合体は、化4に示すように、パーフルオロオキサイドと、ビニル基(−CH=CH2)を有する1種以上の物質から合成され得る。Ra、Rb、Rc等に該当する官能基を持つ物質は、1種類に限らず、複数種類であってもかまわない。また、Ra、Rb、Rc等の要件を同時に満たす1種類の物質でもよい。
【0042】
【化4】

【0043】
両末端のフルオロアルキル鎖はC及びFを含むアルキル鎖である。フルオロアルキル鎖は、特に、CF(CF3)OCF2CF(CF3)OC37、CF(CF3)OC37、C37、CF(CF3){OCF2CF(CF3)}2OC37が好ましい。また、分子低重合体は、化5に示す架橋されたオリゴマー又はコオリゴマー(Rxは、Ra、Rb、Rc等の同種又は異種の有機基、nは自然数である。)でもあり得る。
【0044】
【化5】

【0045】
本発明の機能付与液は、揮発性溶媒と溶質とを含むベース液と、該ベース液に分散された上記ハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする。
【0046】
この機能付与液を塗布すれば、相手材にTiO2の機能を付与することができる。例えば、光触媒効果、撥水・撥油性の防汚効果、低摩擦効果の機能である。
【0047】
本発明の製品は、マトリックスと、マトリックス中に分散された上記ハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする。
【0048】
機能付与液を塗布した塗装面、機能付与液で成形した成形品がこの製品である。この製品は、紫外線存在下でアナターゼ型TiO2による超親水性を発揮し、紫外線不存在下でフルオロアルキル基による撥水・撥油性を発揮する。
【0049】
本発明の機能付与釉薬は、ベース釉薬と、ベース釉薬に分散された上記ハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする。
【0050】
TiO2には主にアナターゼ型とルチル型とがあるが、光触媒として活性が高いものはアナターゼ型である。TiO2がアナターゼ型となるか、ルチル型となるかは加熱温度による。一般的には、TiO2を800〜900°C以上で加熱した場合にはルチル型となり、400〜800°Cで加熱した場合にはアナターゼ型となる。しかしながら、本発明のハイブリッドチタニア粉末は、800°Cに加熱した場合、アナターゼ型結晶構造のTiO2となることから、この機能付与釉薬を用いれば、アナターゼ型TiO2を容易に陶磁器等の表面に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
(試験1)
「イオン液体を溶媒としたABA−トリブロック型のフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、含フッ素系オリゴマーともいう。)存在下におけるチタンテトライソプロポキシドの加水分解によるハイブリッドチタニア粉末の調製」
【0052】
イオン液体として、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビズ(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(N,N,N-trimethyl-N-propylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)に注目し、イオン液体を溶媒とした含フッ素ジメチルアクリルアミドオリゴマー[RF−(DMAA)n−RF]存在下におけるチタンテトライソプロポキシド(Ti(OiPr)4)の加水分解能について検討を行った。これらの反応及び結果を図3及び表1に示した。ここで、DMAAはCH2CHC(=O)NMe2である。
【0053】
【表1】

【0054】
ここで、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビズ(トリフルオロメタンスルホニル)イミド水溶液及びヘキサン水溶液は0.5質量%の水を含んでいる。また、RF−(DMAA)n−RFのRFはCFCF3OC37であり、Mn(数平均分子量)は1690(Mw(重量平均分子量)/Mn=1.17)である。収率はRF−(DMAA)n−RF及びTiO2に基づく。また、粒径は動的光散乱法(DLS)に基づく。さらに、粒径の括弧書きはオリゴマーが液体中で形成する集合体の粒径である。
【0055】
図3及び表1に示すように、イオン液体中におけるチタニア粉末のナノコンポジット化反応は、含フッ素系オリゴマーを用いることにより、室温下/3時間で進行し、目的とするナノコンポジットであるハイブリッドチタニア粉末が単離収率67〜79%の収率で得られた。ハイブリッドチタニア粉末の粒子サイズを動的光散乱法により、水中において測定したところ、24〜77nmのナノサイズで制御された微粒子であることがわかった。
【0056】
含フッ素系オリゴマーを用いない場合においては、目的物が93%の収率で得られたものの、ハイブリッドチタニア粉末の粒子サイズは245nmのサブミクロンサイズの粒子であった。
【0057】
イオン液体ではなく、汎用の溶媒であるヘキサンを用いた場合においても、目的とする粒子サイズが35〜73nmのハイブリッドチタニア粉末が得られたものの、その収率は8〜13%と極端に低下することがわかった。
【0058】
このため、ハイブリッドチタニア粉末を調製するためには、イオン液体、さらには含フッ素系オリゴマーを用いることが最適であることが理解できる。
【0059】
得られたハイブリッドチタニア粉末中における含フッ素系オリゴマーの含有量を測定するため、熱重量分析(TGA)測定を行った。結果を図4に示した。
【0060】
図4に示すように、このハイブリッドチタニア粉末は800°Cにおいて22%程度の重量減少を示すものの、含フッ素系オリゴマーを添加させずに同様に調製したTiO2微粒子においても800°Cにおいて20%程度の重量減少を示す結果が示された。これは、イオン液体を用いた場合においては、TiO2粒子を単離させる際にイオン液体が含有され、除去させることが困難であることを示唆している。
【0061】
このため、ハイブリッドチタニア粉末を調製させる場合においても、溶媒として使用したイオン液体がハイブリッドチタニア粉末中に含有することが示唆されるため、純度の高い目的とするハイブリッドチタニア粉末を調製する方法として、イオン液体を用いる方法は適当ではないことがわかる。
【0062】
(試験2)
「テトラヒドロフランを溶媒とした含フッ素系オリゴマー存在下におけるハイブリッドチタニア粉末の調製」
【0063】
上記試験1より、反応溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)を用いたフルオロアルキル基含有N-(1,1-ジメチル-3-オキソブチル)アクリルアミドオリゴマー[RF−(DOBAA)n−RF]存在下におけるチタンテトライソプロポキシドのアルカリ性条件下の加水分解について検討を行った。結果を図5及び表2に示した。
【0064】
【表2】

【0065】
ここで、NH3水溶液は25.0質量%のアンモニアを含んでいる。他の条件は上記試験1と同様である。
【0066】
図5及び表2に示すように、本コンポジット化反応は温和な条件下で進行し、目的とするハイブリッドトタニア粉末が5〜33%の単離収率で得られることがわかった。なお、加水分解反応としてアンモニアを触媒として用いることにより(試験品3、4)、目的物の単離収率が若干高まる傾向が得られた。
【0067】
得られたハイブリッドチタニア粉末の平均粒子サイズをDLSにより測定したところ、27〜284nmに制御されたコンポジットであることがわかった。これらハイブリッドチタニア粉末の粒子サイズは、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーの自己組織化により形成される集合体のサイズ(112nm)に比べ、変化してることから、確実にナノコンポジット化されていることが示唆される。
【0068】
得られたハイブリッドチタニア粉末の分散安定性について検討を行った。その結果を表3に示した。なお、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーによって得られたハイブリッドチタニア粉末をRF−(DOBAA)n−RF/TiO2と記す(以下、同様。)。ハイブリッドチタニア粉末の粒径は284.0±71.0nmである。ここで、○は完全に分散したことを示し、△はほぼ分散したことを示し、×は全く分散していないことを示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すように、ハイブリッドチタニア粉末は、H2O、アセトンに対しては分散性を示さないものの、MeOH、EtOH、THF、CH2ClCH2Cl、iPrOH等の汎用の有機溶媒に対して高い分散性を示すことがわかった。
【0071】
このように本研究により調製されたハイブリッドチタニア粉末の種々の有機溶液に対して高い分散性を示す結果は、種々の分野への幅広い応用の高さを示すものであり、極めて興味深い。
【0072】
得られたハイブリッドチタニア粉末を走査型電子顕微鏡で観察を行った。その結果を図6に示した。
【0073】
図6に示すように、ハイブリッドチタニア粉末はナノサイズの均一な微粒子であり、その平均粒子サイズは107nmであり、DLSで測定された200nmレベルと類似した値を示すことがわかった。
【0074】
表2に示されたハイブリッドチタニア粉末のTGA測定を行った。これらの結果を図7に示した。
【0075】
図7に示すように、市販のTiO2ナノ粒子(50nm)が800°Cにおいてもほとんど熱重量減少を示さなのに対して、本研究により調製されたハイブリッドチタニア粉末は、図7の(A)又は(B)に示すように、800°Cにおいて40%程度の熱重量減少を示すことがわかった。
【0076】
すなわち、このハイブリッドチタニア粉末においては、含フッ素系オリゴマーを約40%程度含有していることが明らかとなった。
【0077】
ハイブリッドチタニア粉末のFT−IR測定を行った。その結果を図8に示した。
【0078】
図8に示すように、TiO2ナノ粒子においては、500cm-1付近にチタニア粉末に起因した特徴的な吸収が観測されている。一方、オリジナルなRF−(DOBAA)n−RFオリゴマーにおいては、500cm-1付近にTiO2に起因する吸収が観測されていないものの、本研究により調製されたハイブリッドチタニア粉末(試験品1、2(表2))においては、TiO2に起用した特徴的な500cm-1付近の吸収がそれぞれ観測された。
【0079】
このため、これらの結果はハイブリッドチタニア粉末中にTiO2が確実に含有していることを示唆している。
【0080】
そこで、本研究では、表2に示されたハイブリッドチタニア粉末中におけるTiO2の結晶構造を明らかにさせるため、XRD測定を行った。この結果を図9に示した。
【0081】
図9に示すように、焼成前のハイブリッドチタニア粉末においてはXRDスペクトルが観測されないことから、このハイブリッドチタニア粉末中におけるTiO2はアモルファスであることが示唆される。そこで、このハイブリッドチタニア粉末を800°Cにおいて焼成させた後に、XRD観測を行った。その結果を図9に併せて示した。
【0082】
図9に示すように、焼成後においてはXRDスペクトルが観測されており、その結晶構造は、TiO2の一般的な結晶構造であるルチル型ではなく、アナターゼ型の結晶構造であることが示唆された。
【0083】
このように、XRDスペクトルの測定から、本研究により調製されたハイブリッドチタニア粉末においては、含フッ素系オリゴマーが含まれ、さらには800°Cで焼成することでアナターゼ型のTiO2が生成することが明らかとなった。
【0084】
TiO2に修飾されたフルオロアルキル基は極性〜非極性の各種溶媒に対して高い親和性を発現する。本発明のハイブリッドチタニア粉末は、この各種物質に対する高い親和力によりフルオロアルキル基で環境中の有害物質(VOC、菌等)をトラップし、さらにアナターゼ型TiO2で有害物質を分解する高効率有害物質分解材料となることがわかる。
【0085】
(試験3)
ハイブリッドチタニア粉末は、反応溶媒としてTHFを用いることより、温和な条件下で効率良く調製できることが明らかとなった。そこで、THF以外の溶媒として、MeOHに注目し、MeOH中におけるハイブリッドチタニア粉末の調製について、先の図3と同様な条件下で検討を行った。この結果を図10及び表4に示した。
【0086】
【表4】

【0087】
図10及び表4に示すように、反応溶媒としてMeOHを用いることにより、目的とするハイブリッドチタニア粉末は得られるものの、THFを用いた系と異なり、目的とするハイブリッドチタニア粉末の収率が低下する傾向が得られた。特に、触媒としてアンモニアを使用しない系においては、目的物がほとんど得られないことがわかった。
【0088】
なお、MeOH中において得られたハイブリッドチタニア粉末(平均粒子サイズ:213nm)のTGAカーブは、図11に示すように、THFにより調製されたハイブリッドチタニア粉末と同様、含フッ素系オリゴマーを約30%含有していることがわかった。
【0089】
このように、THFがハイブリッドチタニア粉末の調製に最適な溶媒であることがわかった。これは、THFは、MeOHと異なって非プロトン性溶媒であり、水分子を溶媒内へ効率良くカプセル化させるため、チタンテトライソプロポキシドの加水分解反応が温和に進行するためと考えられる。
【0090】
一方、図12及び表5に示すように、チタンテトライソプロポキシドではなく、テトラエトキシシラン[Si(OEt)4]を用いた同様な条件下におけるハイブリッドチタニア粉末の調製においては、THFを溶媒とし、触媒としてアンモニアを用いることにより、ナノサイズ(平均粒子サイズ:201nm)のハイブリッドチタニア粉末が得られることが初めて明らかとなった。
【0091】
【表5】

【0092】
一方、この反応系においてアンモニアを使用してないケース、あるいはTHFではなく、MeOHを用いたケースにおいては、ミクロンサイズのコンポジットがそれぞれ得られた。
【0093】
このため、本研究により初めて見いだされたTHFを溶媒としたハイブリッドチタニア粉末の調製方法は極めて興味深い知見といえる。
【0094】
上記非特許文献13の調製方法においては、MeOHを溶媒として使用しているため、ナノサイズのハイブリッドチタニア粉末の調製は先の図12及び表5に示すように困難である。このため、非特許文献13では、シリカナノ粒子をコアとしたコア−コロナ型含フッ素オリゴマーシリカナノ粒子の調製方法が検討されている。このような点からも、本研究により初めて見いだされた、THFを反応溶媒としたハイブリッドチタニア粉末の調製方法は、プラクテイカルな観点からも大いに興味深いものである。
【0095】
(試験4)
「テトラヒドロフランを反応溶媒とした他の含フッ素系オリゴマー存在下におけるハイブリッドチタニア粉末の調製」
【0096】
F−(DOBAA)n−RFオリゴマー以外のオリゴマーとして、フルオロアルキル含有ジメチルアクリルアシドオリゴマー[RF−(DMAA)n−RF]、フルオロアルキル含有アクリル酸オリゴマー[RF−(ACA)n−RF]に注目し、これらオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末の調製について、THF溶液中において検討を行った。これらの結果を図13及び図14にそれぞれ示した。ここで、ACAはCOOHである。
【0097】
図13に示すように、RF−(DMAA)n−RFオリゴマーを用いることにより、目的とするハイブリッドチタニア粉末がRF−(DOBAA)n−RFオリゴマーを使用した場合と同様、25%の単離収率で得られた。
【0098】
一方、図14に示すように、RF−(ACA)n−RFオリゴマーを用いた場合においては、非常に興味深いことに、目的とするハイブリッドチタニア粉末が62%の単離収率で得られ、さらにハイブリッドチタニア粉末の平均粒子サイズは14nmであり、他のハイブリッドチタニア粉末より、粒子サイズのより小さな微粒子の調製に成功した。これは、RF−(ACA)n−RFオリゴマー中におけるカルボキシル基がチタンテトライソプロポキシドと効率良く相互作用し、チタンテトライソプロポキシドの加水分解反応がマイルドに進行するためと推定される。
【0099】
これらハイブリッドチタニア粉末のTGA測定を行った結果を図15に示した。(a)がRF−(ACA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末の特性を示し、(b)がRF−(DOBAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末の特性を示し、(c)がRF−(DMAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末の特性を示す。
【0100】
図15に示すように、これらハイブリッドチタニア粉末はクリアーな熱重量減少カーブを示すことから、含フッ素系オリゴマーがそれぞれ確実に含有されていることが明らかとなった。
【0101】
特に、RF−(ACA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末における熱重量減少は、他のハイブリッドチタニア粉末に比べ低く、TiO2の含有率が約80%ときわめて高いことがわかった。これは、RF−(ACA)n−RFオリゴマー中におけるカルボキシル基とTiO2との相互作用が他のオリゴマーと比べて強いため、TiO2がコンポジット中により効率良くカプセル化されるためと思われる。
【0102】
図13及び図14に示されたハイブリッドチタニア粉末の種々の溶媒に対する分散性について検討を行った。これらの結果を以下の表6に示した。基準は表3と同様である。
【0103】
【表6】

【0104】
表6に示しように、RF−(DMAA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末は、先の表3に示したRF−(DOBAA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末と異なり、水に対して高い分散性を示すものの、EtOH、THF及び(CH32CHOH等の汎用の有機溶媒に対して分散性を示さないことがわかった。
【0105】
一方、興味深いことに、RF−(ACA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末は、水、さらには汎用の有機溶媒に対しても高い分散性を示すことが明らかとなった。特に、このハイブリッドチタニア粉末においては、コンポジット中に約80%のTiO2が含まれているにもかかわらず、このように著しく高い分散性を示した結果は極めて興味深い。
【0106】
表3及び表6より、各種塗料はこれら溶媒を用いることが多いので、塗料にハイブリッドチタニア粉末を添加した場合、TiO2が良好に分散し、均一な塗料、塗膜が得られる。また、人造大理石等の原料樹脂も溶剤を含んでいるので、ハイブリッドチタニア粉末は、溶剤を介して樹脂中に分散し、樹脂バルク体に対しても良好な分散性を示す。
【0107】
(試験5)
「ハイブリッドチタニア粉末の汎用の有機高分子材料の表面改質への応用」
【0108】
本研究により、新たに調製されたハイブリッドチタニア粉末においては、界面活性なセグメントであるフルオロアルキル基が含有されている。このため、このフッ素の優れた機能を効率良くこれら一連のハイブリッドチタニア粉末において発現させることは、新しいフッ素系機能性材料の開発の観点から重要である。
【0109】
本研究では、非特許文献13開示の技術との対比のため、ハイブリッドチタニア粉末を用いたPMMAの表面改質について検討を行った。
【0110】
なお、表面改質は、図16に示すように、PMMAを含むジクロロエチレン溶液にハイブリッドチタニア粉末を1日かけて均一に分散させ、次いで、シャーレに注ぎ込んだ。その後、常温で1日かけて真空引きを行い、キャスト法によりPMMAのキャストフィルムを作成させた。フィルムの厚みは約200μmである。そのフィルムの表面、さらには裏面のドデカンの接触角を測定した。さらに、これらフィルムの表面の水の接触角も同様に測定した。これらの結果を以下の表7に示した。
【0111】
【表7】

【0112】
表7に示すように、ハイブリッドチタニア粉末で改質されたPMMAフィルム表面のドデカンの接触角は12〜25°であり、フッ素に起因した高い撥油性を示ことがわかった。
【0113】
一方、興味深いことに、裏面のドデカンの接触角の値はそれぞれ0°であり、フッ素に起因した撥油性を示さず、逆に親油性を示すことがわかった。
【0114】
なお、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理されたPMMAフィルムの表面及び裏面のドデカンの接触角の値は21°及び0°であることから、このハイブリッドチタニア粉末は、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーと同様、フィルム表面に効率良く配向することが示唆された。
【0115】
一方、RF−(DOBAA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理されたPMMAフィルムの水の接触角においては、水滴を改質フィルム表面に滴下後30分経過しても、55°から40°とほとんど変化せず、親水性を示さないのに対して、RF−(ACA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理された改質フィルム表面は、98°から測定30分後に37°と、撥水性から親水性を示すことがわかった。この結果は、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーは疎水性のオリゴマーであるため、このオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末で改質されたフィルム表面はフッ素の高い撥水性のため、親水性を示さないのに対して、RF−(ACA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理された改質フィルム表面は、親水性のカルボキシル基が存在するため、改質フィルム表面に水滴を滴下直後はフッ素の高い撥水性のため水の接触角は高いものの、コンポジット中に存在する親水性のカルボキシル基が時間の経過とともにflip-flop運動により膜内部から表面に配向し、親水性を示すものと思われる。RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーで処理されたフィルム表面が親水性を示さないのに対して、興味深いことに、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理された改質フィルム表面の水の接触角は、経時変化を受け、撥水性(水の接触角:95°)から30分後において、親水性(水の接触角:28°)を示すことがわかった。これは、RF−(DOBAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末中に存在するチタニア粉末ユニットが接触角測定時に水を含有し、親水性を示すためと推定される。なお、RF−(DMAA)n−RFオリゴマーを用いたハイブリッドチタニア粉末で処理された改質フィルム表面においては、高い親水性を示す結果が得られなかったが、これはドデカンの接触角の値が12°と、他のハイブリッドチタニア粉末で改質されたフィルム表面のドデカンの値に比べ著しく低いことから、ハイブリッドチタニア粉末の表面配向性が低いことが示唆され、この点に関しては今後さらなる検討が必要である。
【0116】
すなわち、TiO2は、紫外線が照射されると、超親水性を示すことが知られている。一方、含フッ素系オリゴマーは、環境に応じて、表面に配向する分子が変化するflip-flop機能を有することが知られている。このため、図17に示すように、ハイブリッドチタニア粉末10は、紫外線が照射されると、TiO2に起因する超親水性を発現し、紫外線照射が無いと、フルオロアルキル基に起因する撥水性と撥油性とを発現する。このような材料は、表面特性が変化することにより、優れた防汚性を発揮することができる。
【0117】
このため、ハイブリッドチタニア粉末を添加した材料は、その表面にフッ素に起因する高い撥油性を有し、さらに光にさらされることで撥水性から親水性に変化するという撥水/親水/撥油性を有していることが確認できた。この材料は、優れた撥油性のため空気中の油性汚れが付着しにくく、また付着した汚れは、光が当たることによって親水化するため、水を掛けたり、雨が降った場合、その親水性によって材料表面に水がぬれ広がり、付着した汚れが浮き上がり、洗い流されるセルフクリーニング効果を発揮する。
【0118】
以上より、テトラヒドロフランを反応溶媒としたフルオロアルキル基含有オリゴマー存在下、チタンテトライソプロポキシドの加水分解反応により、目的とするハイブリッドチタニア粉末が温和な条件下で調製できることがわかった。
【0119】
一連のフルオロアルキル基含有オリゴマーにおいて、フルオロアルキル基含有アクリル酸オリゴマーを用いることにより、比較的収率よく、さらには粒子サイズのより小さなハイブリッドチタニア粉末の調製に成功した。これら一連のハイブリッドチタニア粉末の生成は、TGA測定、FT−IR測定、XRD測定、さらにはSEM観察によりそれぞれ確認され、これらハイブリッドチタニア中にTiO2が60〜80%程度含まれていることが示唆された。さらに、これら一連のハイブリッドチタニア粉末は種々の溶媒に対して高い分散性を示し、汎用の有機高分子材料であるポリメチルメタクリレート(PMMA)の表面改質へも応用することができ、改質された表面にフッ素に起因した高い界面活性な性質(撥油性)、さらにはカルボキシル基及びチタニア粉末のユニットに起因した親水性をも付与させることができた。
【0120】
以上の結果から、ハイブリッドチタニア粉末を添加した材料は、その表面にフッ素に起因する高い撥油性を有し、さらにフルオロアルキル基と共にTiO2が存在することによる効果が有することがわかる。
【0121】
(試験6)
また、上記で得られたハイブリッドチタニア粉末を塗料(樹脂材料も含む。)に添加した。TiO2表面に修飾された含フッ素系オリゴマーの相互斥力によって、通常のTiO2では分散性が低い有機溶媒中にも、効果的に分散させることができ、少量のハイブリッドチタニア粉末であっても、効果的に機能を発現する。
【0122】
この塗料を塗布すると、含フッ素系オリゴマーの親気性(空気となじみ、樹脂等の材料をはじく性質がある)により、図18に示すように、塗膜中から空気/塗膜界面にハイブリッドチタニア粉末10が浮き上がり、塗料表面に配向する。そして、表面にTiO210aが配向するので、通常のTiO2粉末を用いる場合と比べて、少量で同等以上のTiO2の光触媒効果を得られる。
【0123】
また、表面に存在するフルオロアルキル基10bにより、撥水撥油性の防汚性と低摩擦力(摺動性向上)とが得られる。
【0124】
(試験7)
図19に示すように、ベース釉薬にハイブリッドチタニア粉末を分散させた機能付与釉薬11を用意し、この機能付与釉薬11をタイル基材12上に塗布し、1000°Cで焼成した。機能付与釉薬11を塗布した段階で、フルオロアルキル基の効果でTiO2が表面に配向する。フルオロアルキル基は500°Cで燃焼するが、TiO2は残留するので、焼成後もTiO2がタイルのガラス層13の表面に配向した状態で残存する。
【0125】
通常の方法では、アナターゼ型TiO2は高温焼成できないので、焼成したタイル、衛生陶器等にTiO2スラリーを塗布し、低温で再焼成している。この場合、焼成を2度行うことから、工程が煩雑であり、生産性が問題となる。また、陶磁器のガラス層が焼成温度の異なる2層で構成されることから、物理的耐久性に劣るという問題もある。
【0126】
この点、ハイブリッドチタニア粉末は800°Cの焼成では通常生成し得ないアナターゼ型TiO2を産するため、タイル表面に光触媒活性を有するTiO2を効果的に配列することができる。
【0127】
すなわち、600〜800°Cで焼成する琺瑯等の低温焼成型釉薬にハイブリッドチタニア粉末を添加した場合には、得られた機能付与釉薬の塗布時にフッ素の効果でハイブリッドチタニア粉末が表面に配向し、焼成後にはフルオロアルキル基は燃焼するものの、非晶質TiO2がアナターゼ型TiO2になり、ガラス層の表面に光触媒活性が付与される。その結果、釉薬に添加するTiO2が少量であっても、表面近傍にTiO2が偏在するため、高い光触媒活性を有する陶磁器が得られる。このため、一度でこのような製品を焼成でき、かつ同じ釉薬層中にTiO2が含まれることから、物理的耐久性の問題を解消できる。
【0128】
(試験8)
有害物質のモデルとして、クロロホルム900ppmを含むメタノール溶液50mlを水に添加し、全量を1Lとし、クロロホルム45ppm水溶液を調製した。RF−(DMAA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末と、RF−(ACA)n−RFを用いたハイブリッドチタニア粉末とを用意し、この水溶液中にこれらハイブリッドチタニア粉末1gをそれぞれ添加し、紫外線ランプを照射しつつ、液をスターラーで攪拌し続けた。対照として、通常のTiO2粉末及び何も添加しないクロロホルム溶液を用いた。一定時間経過毎に水を採取し、GC−MSにてトリハロメタン濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0129】
【表8】

【0130】
通常のTiO2粉末も、まずトリハロメタンの吸着が起こるため、初期に大きく濃度が低下する。しかし、ハイブリッドチタニア粉末は、通常のTiO2粉末と比べ、トリハロメタンの濃度低下が大きく、フルオロアルキル基によって吸着能力が高くなっていることがわかる。
【0131】
さらに、その後に起きるTiO2粉末の光触媒反応によって、トリハロメタンが分解されるが、ハイブリッドチタニア粉末では、TiO2近傍にトリハロメタンが濃縮されるため、より効率よく分解されることが示唆される。
【0132】
なお、上記において、FT−IRの測定は島津製FTIR-8400を使用した。熱重量分析(TGA)はブルカー・エイエックスエス製のTGA-DTA2000SAを用いた。動的光散乱測定(DLS)は大塚電子製DLS-6000HLを使用した。X線回折(XRD)はMac Science M18XHF-SRAを使用した。SEM(走査型電子顕微鏡)観測はJEOL製JSM-5300を使用した。接触角の測定は協和界面科学(株)製のDrop Master300を用いた。遠心分離器はASONE製CN-820である。
【0133】
以上において、本発明を上記試験1〜8に即して説明したが、本発明は上記実施例の範囲内の試験品に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、薬品、タイルや衛生陶器等の建材や陶磁器、カウンタ等の樹脂製品等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】フルオロアルキル基含有オリゴマーからなる分子低重合体を示す模式図である。
【図2】フルオロアルキル基含有オリゴマーからなる分子低重合体の担体を示す模式の構造式である。
【図3】試験1の反応式である。
【図4】試験1で得られたハイブリッドチタニア粉末のTGA分析結果である。
【図5】試験2の反応式である。
【図6】試験2で得られたハイブリッドチタニア粉末の顕微鏡写真である。
【図7】試験2で得られたハイブリッドチタニア粉末のTGA分析結果である。
【図8】試験1で得られたハイブリッドチタニア粉末のFT−IR分析結果である。
【図9】試験1で得られたハイブリッドチタニア粉末のXRD分析結果である。
【図10】試験3の反応式である。
【図11】試験3で得られたハイブリッドチタニア粉末のTGA分析結果である。
【図12】試験3の他の反応式である。
【図13】試験4の反応式である。
【図14】試験4の他の反応式である。
【図15】試験4で得られたハイブリッドチタニア粉末のTGA分析結果である。
【図16】試験5の方法を示す模式図である。
【図17】試験5に係り、ハイブリッドチタニア粉末の特性を示す模式断面図である。
【図18】試験6の塗料を示す模式断面図である。
【図19】試験7のタイルを示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0136】
1a、10b…フルオロアルキル基
10a…TiO2
10…ハイブリッドチタニア粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO2を生成し得るチタニア生成物質と、両末端にフルオロアルキル基を有するオリゴマー及び/又はコオリゴマーである分子低重合体とを用意し、該チタニア生成物質及び該分子低重合体を混合することを特徴とするハイブリッドチタニア粉末の製造方法。
【請求項2】
前記チタニア生成物質はチタンアルコキシドである請求項1記載のハイブリッドチタニア粉末の製造方法。
【請求項3】
前記分子低重合体は、TiO2と結合又は相互作用し得る官能基を有する請求項1又は2記載のハイブリッドチタニア粉末の製造方法。
【請求項4】
前記分子低重合体は、下記式1に示すオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R1は有機基、xは自然数である。)又は下記式2に示すコオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R2及びR3は有機基、x及びyは自然数である。)である請求項1乃至3のいずれか1項記載のハイブリッドチタニア粉末の製造方法。
(式1)

(式2)

【請求項5】
前記分子低重合体は、下記式3に示す架橋されたオリゴマー又はコオリゴマー(Rxは、Ra、Rb、Rc等の同種又は異種の有機基、nは自然数である。)である請求項1乃至3のいずれか1項記載のハイブリッドチタニア粉末の製造方法。
(式3)

【請求項6】
TiO2からなる核と、両末端のフルオロアルキル基が自己のフルオロアルキル基との間又は他のフルオロアルキル基との間の分子間凝集力によって凝集しているとともに、該核の表面に官能基が結合しているオリゴマー及び/又はコオリゴマーである分子低重合体とからなることを特徴とするハイブリッドチタニア粉末。
【請求項7】
前記分子低重合体は下記式1に示すオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R1は有機基、xは自然数である。)又は下記式2に示すコオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R2及びR3は有機基、x及びyは自然数である。)である請求項6記載のハイブリッドチタニア粉末。
(式1)


(式2)

【請求項8】
前記分子低重合体は、下記式3に示す架橋されたオリゴマー又はコオリゴマー(Rxは、Ra、Rb、Rc等の同種又は異種の有機基、nは自然数である。)である請求項6記載のハイブリッドチタニア粉末。
(式3)

【請求項9】
揮発性溶媒と溶質とを含むベース液と、該ベース液に分散された請求項6乃至8のいずれか1項記載のハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする機能付与液。
【請求項10】
マトリックスと、該マトリックス中に分散された請求項6乃至8のいずれか1項記載のハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする製品。
【請求項11】
ベース釉薬と、該ベース釉薬に分散された請求項6乃至8のいずれか1項記載のハイブリッドチタニア粉末とを含むことを特徴とする機能付与釉薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−227880(P2009−227880A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76992(P2008−76992)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】