説明

ハウジング内の気体圧力及び/又はモル質量の測定法と測定アセンブリ

本発明は、ハウジング内の気体の圧力及び/又はモル質量を、音響センサを用いて測定する方法に関する。この音響センサは、少なくとも1つのトランスデューサ(5)、このトランスデューサ(5)に接続された電気システム(8)およびトランスデューサ(5)を前記ハウジング(1)に結合するための結合層(6)を備え、該方法は、下記工程を含む:該トランスデューサ(5)を用いて、ハウジング(1)および気体(2)を広い周波数帯域内で振動させる励起音響信号を発生させ、該ハウジングおよび気体の振動に固有の応答音響信号を、トランスデューサ(5)により検出し、電気システム(8)を用いてトランスデューサ(5)からの応答電気信号を解析し、本質的に該気体(2)の応答周波数に基づいて、気体中の音波の速度、気体のモル質量、およびその圧力を導出する。本発明はこの方法を実施するためのアセンブリにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1のプレアンブル(前段)部分に係る方法に関する。
本発明はまた、請求項7のプレアンブル部分に係るアセンブリにも関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所の原子炉の燃料棒の内圧を測定する目的で、気体混合物が充満している円筒形ハウジング内の圧力の値を測定できるようにしたいという要望があろう。
また、上記気体混合物のモル質量を求めたいという希望もあるかもしれない。
【0003】
この種の情報を入手するには、一般にハウジングの穿孔といった破壊的な方法を用いる必要がある。
放射性トレーサ気体(例えば、クリプトン85など)の存在に基づく方法も使用することができる。しかし、この種の方法は、同一の放射性トレーサを含んだ管の束の一部である1本の管内の圧力を測定したい場合には適用することができない。
【0004】
FR2739925から、下記を備えた音響センサが公知である:
・音波の発生および/または戻り音波の受信を行う、少なくとも1つのトランスデューサ;
・音波を伝えるためのガラス棒;および
・燃料棒(以下、ロッドともいう)との該センサの液体結合層、この層はλ/4(λはロッドの壁面の音響厚みの2倍に対応)という所定厚みを有する。
【0005】
このセンサは、トランスデューサ内での反射波の振幅のために、燃料棒の空隙容積内の気体の圧力を得ることができる。
しかし、上記センサは次の欠点を有する。
【0006】
まず、このセンサは気体の圧力の測定は可能であるが、そのモル質量の測定は可能ではない。
また、λ/4厚の液体結合層は、ロッド内の音波の良好な伝送が可能であるが、それはセンサとロッドにより形成されたスタックの共鳴周波数(共鳴振動数)付近の小さな周波数範囲内だけである。
【0007】
さらに、気体の共鳴の振幅はもちろん圧力に感受性があるが、気体の吸収またはロッド壁のキズいった、サイズがよくわからない乱れにも敏感である。そのため、較正または補正を行っても、測定精度は低いままである。
【0008】
最後に、この測定方法は、バネのような波動の分散を生ずる物体を含んでいるロッドでは動作しえない。
また、WO00/73781は、FR2739925に開示されているのよりずっと小さな周波数領域において、ハウジングの振動を通して(FR2739925のように気体の振動ではなく)動作する遠隔センサ(FR2739925のように接触していない)によるハウジング特性決定(キャラクタリゼーション)法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】FR2739925
【特許文献2】WO00/73781
【発明の概要】
【0010】
本発明は、上述した欠点の少なくとも1つを相殺することを提案する。
このために本発明により提案されるのは、請求項1に係る方法である。
本発明は有利には従属請求項2〜6において包含される特徴により完成される。
【0011】
本発明はまた本方法を実施するためのアセンブリにも関する。
具体的には、本発明により提案されるのは、請求項7に係るアセンブリである。
本発明は有利には従属請求項8〜12において包含される特徴により完成される。
【0012】
本発明は数多くの利点を与える。
本発明の新規な「センサ−ハウジング」結合(カップリング)は、従来技術よりもずっと広いスペクトルバンド幅の音波の伝送を可能にするように考えられている。ハウジングと結合層とトランスデューサとにより形成された音響スタックは、広い周波数(振動数)帯域で振動することができる。好ましくは、このバンド幅は、現状の4MHz付近で振動するジルコニウム合金のハウジング壁面の場合で1MHz、即ち相対値で25%に達しなければならない。
【0013】
この広帯域センサは、気体の多数の共鳴を励起させることができる。気体の多数の共鳴の励起により、適当な処理(特に、気体のスペクトル応答の積分Jを用いた処理)における平均効果を通して、気体の吸収の影響から、そして主としてハウジングの不完全さの影響から脱することが可能となる。
【0014】
本センサは、圧力測定の精度を著しく高めることができる。
本センサおよび関連する測定方法はスプリングを含んだハウジングについて測定が可能であり、この場合のこのスプリングの影響は単にさらなる減衰であると考えられる。
【0015】
さらに、本発明の広帯域測定方法は、音波の伝わり速度(敏速度, celerity)および気体混合物のモル質量の測定精度を高めることができる。
本センサおよび測定方法には多くの用途がある。
【0016】
それらは、使用中および貯蔵中の核燃料棒を試験することができる。
それらは、核燃料棒中の気体、特に主にヘリウム、キセノンおよびクリプトンの気体混合物中に含まれる気体、の圧力およびモル質量を非破壊的に測定することができる。この測定は、メンテナンス時期に燃料カラムの膨張室内で燃料棒の上部において行われる。
【0017】
この測定方法は、運転停止中のインターサイクル時にプール内で実施することができる。それにより本センサは次のことを可能にする:
・多数の燃料棒を含むアセンブリ中の1つまたは複数の非シール状態の燃料棒を検出する;
・発電所アセンブリに対する燃料補給の決定を助ける;
・可逆的貯蔵前の決定を助ける;
・デジタルシミュレーションのための統計的支援基盤を増大させる。
【0018】
同じ目的で、非破壊的ホットセル(放射性物質を扱うための遮蔽された区画内)検査の実施もまた可能である。
本発明の他の特徴、目的および利点は、添付図面を参照しながら読まなければならない、例示のみを目的とし、制限を意図しない、以下の説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1Aおよび図1Bは、本発明に係るセンサの例のハウジングに関する2つの態様を示す略式図であり、それぞれセンサとハウジングが音響スタックを形成している。
【図2】周波数による上記音響スタックの電気インピーダンス(Zelec)の変化を示す略式図(Re:実部;Im:虚部)。
【図3】図3Aは周波数による未フィルタリング電圧の実部と虚部の曲線を示し、図3Bは、トランスデューサ、結合層およびハウジング1の応答が取り除かれた、整流(矯正)されてみえる気体共鳴応答の1例を示す。
【図4】センサの1態様の1例の主な工程を略式に示す。
【図5】センサの較正曲線の1例を示す。
【0020】
全図を通して、類似の要素は同一の参照番号を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1Aおよび1Bは、気体2を含有するハウジング1を略式に示す。
ハウジング1は、例えば燃料棒であり、気体2は、例えばヘリウムまたは気体混合物である。
【0022】
ハウジング1は音響センサを支持する。
従って、ハウジングに結合されたセンサは、一方ではセンサと他方ではハウジングとにより構成されたアセンブリを形成する。
【0023】
この音響センサは、例えば、ハウジング内の気体の圧力および/またはそのモル質量といった、気体2の少なくとも1つの物理的パラメータの測定を可能にする。
この音響センサは、下記を備える:
・ハウジングおよび気体を振動させる音響信号を発生させると共に、気体およびハウジングの振動に固有の音響応答信号を検出するためのトランスデューサ5、
・トランスデューサ5とハウジング1との間の結合層(カップリング層)6、
・トランスデューサ5に接続され、該トランスデューサの励起と応答信号の解析が可能な電気システム8。
【0024】
一般に、ハウジングは円筒回転形状を有し、これは特に例えば燃料棒の場合にはそうである。
しかし、ハウジングは、例えば、平行平面のような、任意の筒状形状をとることができる。
【0025】
円筒回転形状の場合、好ましくはセンサの全ての構成要素が同心である。
トランスデューサ5は、裏面材7を備えることができる。音響信号に対する反射または吸収能を有する裏面材7は、センサの音響特性に影響を及ぼす。共鳴性の裏面材の使用は、センサのスペクトル使用帯域を妨害してはならない。
【0026】
電気システム8は、電気信号をトランスデューサ5に伝送する。トランスデューサ5はその電気信号を音響信号に変換し、また、その逆の変換も行う。このために、トランスデューサ5は一般には圧電型(例えば、PZT材料−鉛・ジルコニウム・チタン酸化物)のものである。
【0027】
結合層6は、液体または固体のようないくつかの形態をとることができる。それはトランスデューサ5の内面とハウジング1の外面とこれら2つの面の間に挿入されたクサビ9とにより画成された体積内に収容される。クサビ9は、固体層6の場合には任意である。
【0028】
固体層6の場合、スプライシングまたは液体カップラの非常に薄い層のいずれかにより、界面への音波の適正な伝送を確保しなければならない。これらの薄層の影響が無視できないなら、それらは下の表1に推奨された走行時間(移動時間、transit time)の中に含めるべきである。
【0029】
本センサをハウジング1に配置すると、ハウジング1の壁面10、結合層6およびトランスデューサ5により形成された音響スタックの存在ができる。ハウジング1の壁面10およびトランスデューサ5は音響インピーダンスが強いが、気体2および結合層6は音響インピーダンスが低い。
【0030】
本発明によると、圧電材料5および結合層6の多様な厚みが、壁面10の自由共鳴周波数において付与される。
この調和は、音波が層6を通過する走行時間に従って規定される。
【0031】
10は、ハウジング1の壁面10からの音波の走行時間であって、
10=ehousing/chousingであり、ここでehousingおよびchousingはそれぞれ該壁面の厚みおよび該壁面内の音波の伝わり速度である。この壁面の最初の自由共鳴時間は2T10となる。この共鳴をλ/2モードと呼ぶ。
【0032】
5は,トランスデューサュ5からの音波の走行時間である。トランスデューサュ5は壁面10と同じ周波数で同じλ/2モードで振動しなければならないので、トランスデューサ5の厚みはT5がT10に等しくなるようにする。
【0033】
トランスデューサの音響インピーダンスはPZTの場合で30×106PA・S・m-3付近である。
結合層(カップリング層)6の厚みもT10から決められる。いくつかの場合が考えられる。
【0034】
【表1】

【0035】
nは好ましくは1に等しい整数である。
走行時間T6が水中でのT10/2(λ/4と呼ぶ厚み)(Z=1.5×106SI)に等しい場合は、FR2739925に開示されたセンサに対応する。これは「狭帯域」システムである。
【0036】
その走行時間で達成された精度は標準アセンブリに対して±20%でなければならない。しかし、走行時間が表の条件により近づくほど、測定の再現性がより大きくなる。これは、センサ応答の1つの極値上にくるからである。
【0037】
0.5×106〜3×106SIの範囲内の音響インピーダンスをもつ結合層の場合(例えば、液体の場合)、これらの精度は0.4λ〜0.6λの範囲内の音響厚みを与える。ここで、λは、ハウジング1の壁面10の自由振動の周波数f0での結合層内での波長であり、f0=chousing/(2ehousing)である。
【0038】
また、3×106〜15×106SIの範囲内の音響インピーダンスをもつ結合層の場合(例えば、固体の場合)、0.2λ〜0.3λの範囲内の層の音響厚みが得られる。ここで、λは、ハウジング1の壁面10の自由振動の周波数f0での結合層内での波長である。
【0039】
図2は、反射状態で機能するセンサ(図1Aのアセンブリの場合)のインピーダンスを示す。4MHzの中心周波数(即ち、自由壁面10の共鳴周波数)について0.3MHzの幅のバンド(帯域)は、あまり満足できないセンサに対応する。好ましくは、バンド幅は中心共鳴周波数の20%近傍であり、さらには25%でもよい。
【0040】
上の表で「広帯域」とされた2つの場合が、本発明に係る広帯域センサに対応する。この音響センサは、1つの周波数だけで高い感度を示すのではなく、広いスペクトルバンドにおいて感度を有するように設計されている。
【0041】
より一般的には、少なくとも2つ、好ましくは10前後の気体の共鳴を発生させるような周波数バンド幅を「広帯域」と呼ぶ。
換言すると、本音響センサは、音響信号の伝送に対するその周波数バンドの幅Lが次式を満たすことを特徴とする。
【0042】
【数1】

【0043】
式中、cはハウジングの気体中での音波の伝わり速度であり、そして
Dはハウジングの内寸であり、
伝送周波数バンドはf0を中心とし、ここでf0は、測定f0時にセンサが結合されるハウジングの壁面の自由振動の周波数である。
【0044】
次にセンサの電気部について簡単に説明する。トランスデューサ5は、例えば、PZT(鉛・ジルコニウム・チタン酸化物)タイルである。トランスデューサ5は圧電ポリマー複合体であってもよい。このようなトランスデューサは、センサの品質因子を減少させることにより、センサのスペクトル使用帯域を広げることができる。
【0045】
トランスデューサ5は導線80により電気システム8に接続される。
システム8は、電圧発生器と共に、周波数V(f)またはその電圧パルスに対する時間的応答V(t)に応じてセンサにより供給された電圧を測定する手段を備える。これらの測定値により、図4に関して次に述べるように、ハウジング内の気体の圧力およびモル質量を求めることが可能となる。
【0046】
この方法の第1工程41は、例えば、システム8を用いて、有用なフィールド(場)内で周波数が調整可能な正弦波電圧Uによりトランスデューサ5を励起させることからなる。これから、図3Aの電圧V(f)を持つ周波数応答スペクトルが得られる。
【0047】
第1工程の別の可能性(工程42)は、トランスデューサ5を一連のパルスにより励起させることからなる。それにより電圧V(t)が得られる。前と同様の周波数応答スペクトルV(f)を導出するには、トランスデューサ5からくる電気信号のフーリエ変換が必要である。
【0048】
得られた複素スペクトルV(f)(工程43)は、信号を処理するための起点となる。
上記2工程から得られたスペクトルの処理は、その後は図4に示すように共通である。
センサの全体的な応答(反応)は、気体2の共鳴およびハウジング1に結合された音響センサの共鳴から構成される。
【0049】
しかし、気体2の共鳴は、ハウジング1内の半径方向定常波であるため、周波数に応じて周期的である。従って、それらの共鳴は容易に識別可能であり、他の共鳴から分離することができる。
【0050】
気体2に起因する共鳴は、図2の曲線のピーク20に対応するものである。
工程44では、(図3Bに示すように)トランスデューサ5、層6およびハウジング1の共鳴が除去され、気体の共鳴が単独に見えるように整流(矯正)された実曲線X(f)を得るために、図2の複素周波数スペクトルについて数学的変換を行う。気体の共鳴の可変性の位相を補正するにはセンサのスペクトル応答のこのデジタル処理が必要である。1つの可能な処理は、V(f)から変動の遅い部分を減じて取り除き(例えば、時間的空間を縮小することにより)、ついで信号のモジュールを取得することからなる。
【0051】
工程53は、気体の少なくとも2つの共鳴周波数の間のギャップΔfを測定することからなる。その後、このギャップΔfから気体中での音波の伝わり速度cが導出される。測定が1つのセンサと2つのセンサのいずれで行われたかに応じて、次の2つの場合が起こりうる。
【0052】
1)図1Aでは、トランスデューサ5は1つだけで、「反射状態」(in reflection)で機能する。このトランスデューサは音波をハウジングに向けて発生させ、ハウジング1からくる音波を受けとる。この場合、気体中の音波の伝わり速度は次式により導出される:
c=2DΔf
式中、Dは円筒形回転ハウジング場合のハウジングの内径である。平行な2平面を持つハウジングの場合は、Dはハウジングの2つの壁面間を音波が横断する時の内寸になると考えればよい。
【0053】
2)図1Bでは、ハウジングの周囲に2つのセンサをハウジング1の両側に対称に配置した装置が示されている。一方のトランスデューサ5は、ハウジングと気体を振動させる音響励起信号を発生し、もう1つのトランスデューサ5は応答振動を検出する。本アセンブリの利点は、励起信号と応答信号とが分離されることである。この場合、気体中の音波の伝わり速度は次式により導出される:
c=DΔf。
【0054】
いずれの場合も、広いスペクトル帯域で気体を励起させることができるシステムを持つことが必要とされていることから、いくつかの共鳴間のギャップΔf(例えば、図2の複数のピーク20間のいくつかのギャップの平均値)を測定するか、または共鳴の位置の数学的処理(1つの可能な処理は、例えば、フーリエ変換型の処理)によりギャップΔfを求めると、より高い精度が得られる。
【0055】
工程53は、工程43から得られた複素スペクトルV(f)について行うこともできるが、好ましくは工程44から得られた実応答X(f)について行うことができ、それには周期的サーチ法を使用することができる。
【0056】
工程63において、工程53から導出された伝わり速度cから気体のモル質量Mを次のように算出することができる。
【0057】
【数2】

【0058】
式中、Rは理想気体定数(the constant of ideal gases)であり、γは理想気体に対する比熱の比であり、そしてTは温度である。
上の関係は理想気体に対して有効である。複数気体の混合物の場合、実在気体式(the equation of real gases)から得られた補正を導入することができる。
【0059】
ヘリウム−キセノン混合物のように単原子気体の二元混合物の場合、下記の関係が成り立つので、モル質量の測定により該混合物の質量組成xを直ちに導出することができる:
M=xMXe+(1−x)MHe
式中、MXeおよびMHeはそれぞれキセノンおよびヘリウムの原子質量である。
【0060】
工程54により気体圧力の測定が可能となる。この測定原理は次の通りである。
図3Bの応答X(f)について認められた気体共鳴の振幅は、ハウジング1内の気体の音響インピーダンスに比例するので、次に説明する工程を用いて圧力を導出することが可能である。
【0061】
例えば、平行平面を持つ剛性キャビティ内の気体の音響インピーダンスZgazは次のように表される。
【0062】
【数3】

【0063】
式中、ρは気体の密度、
cは気体の伝わり速度、
2=−1
【0064】
【数4】

【0065】
αは気体の吸音率(吸収係数)、そして
Dはハウジングの内寸である。
共鳴に対して、気体の音響インピーダンスの積分Iは、気体の吸収(吸音)に依存しないという特性を有する。実際、それは次のように表される。
【0066】
【数5】

【0067】
もちろん、曲線X(f)の全体について認められる気体の共鳴の振幅は、気体のインピーダンスの尺度ではないが、周波数に依存する関数であるセンサの相対感度S(f)により変調される。従って、気体の1つの共鳴だけについての測定からは圧力を導出することはできない。
【0068】
センサの相対感度S(f)はセンサの安定な特性の1つであって、センサの観察ウインドウ中に存在する複数の全ての共鳴についての積分Iの和、STG(気体に対する全感度、Total Sensitivity to the Gas)と呼ばれる大きさ、は、気体のみに依存する大きさである。
【0069】
【数6】

【0070】
式中、Snは気体のn番目の共鳴周波数に対するセンサの相対感度である。
センサは較正を必要とするので、この大きさは正確にわからなくてもよい。センサが幅Fのウインドウ内で感受性であって、感度がSに等しい一定となる理想的な場合には、
STG=m/S
となり、ここでmはウインドウ中に存在する共鳴の数である。
【0071】
共鳴は次式から離れているので、
【0072】
【数7】

【0073】
次式が成立する。
【0074】
【数8】

【0075】
理想気体について、
pV=nRT、
ρ=nM/V
であるので、それから次式が成立する。
【0076】
【数9】

【0077】
気体の合計感度(全感度)は次のようになる。
【0078】
【数10】

【0079】
式中、γは理想気体に対する比熱の比である。
理想的には、STG測定は気体の圧力に比例する。広帯域センサを持つという要求は、積分ウインドウ内の共鳴の数を多くし、積分を安定化させるために必要である。
【0080】
工程54においては、上の理想的な場合と同様に、センサの感受性の場Fにおいて実験的周波数応答X(f)の積分Jを算出する。
【0081】
【数11】

【0082】
Tは気体の基本共鳴時間、nは選択した高調波の次数(オーダー)。
n=1の場合が最も望ましい。
この積分はP/cに比例し、定数χがわかれば圧力Pの測定が可能となる。
【0083】
しかし、定数χはセンサに固有の値である。残念ながら、センサの寸法および材質特性から十分な精度で定数χを導出することはできない。
また、積分Jの理論的および実験的検討は、前述した推論は第一次近似にすぎないことを示す。積分Jは実際に気体の吸収(吸音)にいくらか依存し、それにより関数J(P)は非線形(非直線)となる(図5を参照)。関数J(P)は、高圧(100バール前後)では準線形となるが、低圧(<20バール)では気体が非常に吸収性であるため、システムの応答は消失する。
【0084】
結論として、圧力Pおよび気体の性質(cを変動させるため)に従った既知気体によるセンサの事前較正(検定)によってしか、関数J(P,c)を得ることはできない。未知気体の測定の場合、まず固定53においてcを導出し、次に工程64において伝わり速度cについて、使用したセンサで得られた検量線を読むことからPを導出する。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、気体(2)で満たされたハウジング(1)についての少なくとも1つの物理的パラメータを、少なくとも1つのトランスデューサ(5)、このトランスデューサ(5)に接続された電気システム(8)およびトランスデューサ(5)を前記ハウジング(1)に結合するための結合層(6)を備えた音響センサを用いて測定する方法であって、
・該トランスデューサ(5)を用いて、ハウジング(1)および気体(2)を広い周波数帯域内で振動させる励起音響信号を発生させ、
・前記ハウジングおよび気体の振動に固有の応答音響信号を、トランスデューサ(5)により検出し、
・電気システム(8)を用いて、トランスデューサ(5)からの応答電気信号を解析する、
前記方法は、システム(8)を用いた下記工程をさらに含むことを特徴とする:
・気体(2)の全ての共鳴周波数を求めるために、トランスデューサ(5)から得られた電気応答信号の振幅を測定し、
・センサの複数の共鳴周波数から気体の共鳴周波数を抽出し、
・少なくとも2つの気体共鳴周波数の間のギャップを測定し、
・該気体の測定に基づいて、該気体中での音波の伝わり速度cを導出し、
・次式により該気体のモル質量Mを算出し、
【数12】

ここで、Rは理想気体定数であり、Tは温度であり、γは理想気体に対する比熱の比であり、及び/又は
・ハウジング内の気体の実音響応答信号X(f)の積分Jを算出し、ここでX(f)はトランスデューサ(5)、層(6)およびハウジング(1)の共鳴が除去され、気体の共鳴が単独に見えるように矯正された実曲線であり、そして
・やはり先の工程で導出された伝わり速度を用いて、既知の圧力および性質を持つ気体についての曲線J(P,c)を表す事前の較正により、積分Jの計算値から該気体の圧力Pを導出する。
【請求項2】
システム(8)が一連の時間的パルスによりトランスデューサ(5)を励起する場合に、該周波数の空間内で、トランスデューサ(5)からの時間的電気信号のフーリエ変換による変換工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該囲い内の気体の共鳴周波数を抽出するために、ハウジング(1)内の気体(2)の共鳴周波数が周期的であるという特性を用いる工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
センサが反射状態で機能する単一のトランスデューサ(5)を備える場合に、該気体中での音波の伝わり速度cが次式により導出され:
c=2DΔf
式中、Dはハウジングの内寸であり、Δfは気体の2つの共鳴周波数間のギャップであり、そして
センサが、一方のトランスデューサはハウジング(1)に向かって広がる音響信号を発生させ、他方のトランスデューサは応答音響信号を検出する、透過状態で機能する2つのトランスデューサ(5)を備える場合には、該気体中での音波の伝わり速度cが次式により導出される:
c=DΔf
請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
センサの応答の積分Jが次式により算出される請求項1〜4のいずれかに記載の方法:
【数13】

Tは該気体の基本共鳴時間、nは選択した高調波の次数、
ここで、Fはセンサの感度周波数幅であり、X(f)は、トランスデューサ(5)、層(6)およびハウジング(1)の共鳴が除去されて、気体の共鳴が単独に見えるように矯正された実曲線であり、Jは圧力を意味し、圧力は較正により導出することができる。
【請求項6】
周波数バンド幅が、少なくとも2つ、好ましくは10前後の気体の共鳴を発生させるようなものである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
音響センサと気体(2)を含んだハウジング(1)とから構成され、該センサを該ハウジングに結合させると請求項1〜6のいずれかに記載の方法を実施することができるアセンブリであって、
該音響センサは下記を備え:
・ハウジング(1)および気体(2)を振動させる音響信号を発生させると共に、該ハウジングおよび該気体の振動に固有の応答音響信号を検出するための少なくとも1つのトランスデューサ(5)、
・トランスデューサ(5)をハウジング(1)に結合させるための結合層(6)、
・トランスデューサ(5)に接続された、該トランスデューサ(5)を励起させると共に、前記応答信号の解析を行うことができる電気システム(8)、
該音響センサが、音響信号の伝送に対するその周波数帯域の幅Lが次式を満たし、
【数14】

ここで、cはハウジングの気体中での音波の伝わり速度であり、Dはハウジングの内寸であり、
この伝送周波数帯域は、f0を中心とし、ここでf0は、測定中に該音響センサが結合されるハウジング(1)の壁面(10)の自由振動周波数であることを特徴とするアセンブリ。
【請求項8】
結合層(6)が下記を有する、請求項7に記載のセンサ:
・0.5×106〜3×106SIの範囲内の音響インピーダンス、および
・0.4λ〜0.6λの範囲内の音響厚み、ここでλは、ハウジング(1)の壁面(10)の自由振動周波数における結合層内での波長である。
【請求項9】
結合層(6)が下記を有する、請求項7に記載のセンサ:
・3×106〜15×106SIの範囲内の音響インピーダンス、および
・0.2λ〜0.3λの範囲内の音響厚み、ここでλは、ハウジング(1)の壁面(10)の自由振動周波数における結合層内での波長である。
【請求項10】
トランスデューサ(5)が、音響厚みが0.5λに等しい圧電型のものであり、ここでλは、ハウジング(1)の壁面(10)の自由振動周波数におけるトランスデューサ内での波長である請求項7〜9のいずれかに記載のセンサ。
【請求項11】
トランスデューサ(5)がハウジング(1)と同心の形状を有する、請求項10に記載のセンサ。
【請求項12】
トランスデューサ(5)の支持裏面材(7)をさらに備え、この裏面材は音響信号の反射または吸収能を有する、請求項7〜11のいずれかに記載のセンサ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−517025(P2010−517025A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546764(P2009−546764)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050864
【国際公開番号】WO2008/095793
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(504462489)エレクトリシテ・ドゥ・フランス (25)
【出願人】(505179971)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (18)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【出願人】(509211099)ユニベルシテ・モンペリエ・2・シアンス・エ・テクニク (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE MONTPELLIER 2 SCIENCES ET TECHNIQUES
【Fターム(参考)】