説明

ハニカム構造体の製造方法

【課題】より高いNOx浄化性能を持つハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄イオン交換されたゼオライトを含み、長手方向に沿って、第1の端面から第2の端面に延伸する複数のセルがセル壁により区画された少なくとも一つのハニカムユニットを有するハニカム構造体の製造方法であって、(a)鉄イオン交換されたゼオライト粒子を、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理して、熱処理後のゼオライト粒子を得るステップS110と、(b)前記熱処理後のゼオライト粒子を含む原料から、ハニカム成形体を形成するステップS120と、(c)前記ハニカム成形体を焼成S130して、ハニカムユニットを作製するステップと、を含むハニカム構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスを処理するハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスの浄化に関しては、多くの技術が開発されているが、交通量の増大もあって、まだ十分な排ガス対策がとられているとは言い難い。日本国内においても、世界的にも自動車排ガス規制は、さらに強化されていく方向にある。その中でも、ディーゼル排ガス中のNOx規制については、非常に厳しくなってきている。従来は、エンジンの燃焼システムの制御によってNOx低減を図ってきたが、それだけでは対応しきれなくなってきている。このような課題に対応するディーゼルNOx浄化システムとして、尿素水添加によるNOx還元システム(尿素SCRシステムと呼ばれている。)が提案されている。また、このシステムに用いられる触媒担体として、ハニカム構造体が知られている。
【0003】
このハニカム構造体は、例えば、長手方向に沿って、該ハニカム構造体の一方の端面から他方の端面まで延伸する複数のセル(貫通孔)を有し、これらのセルは、触媒が担持されたセル壁により、相互に区画されている。従って、このようなハニカム構造体に排ガスを流通させた場合、セル壁に担持された触媒によって、排ガスに含まれるNOxが改質されるため、排ガスを処理することができる。
【0004】
一般に、このようなハニカム構造体は、コージェライトで構成され、そのセル壁には、触媒として、例えばゼオライト(鉄または銅等でイオン交換されたもの)が担持される。あるいは、ハニカム構造体自身をそのようなゼオライトで構成することが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−171539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
尿素SCRシステムで用いられるハニカム構造体は、無機粒子としてのゼオライト、無機バインダ、および補強材としての無機繊維を含む原料ペーストを押出成形してハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を焼成することにより作製することができる。このとき、前記ゼオライトは、NOx還元反応させるために、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に鉄イオン(Fe3+)が結合することにより、イオン交換がなされる。尿素SCRシステムでは、より省容積で、高いNOxの浄化率が求められているため、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)は、より多くの鉄イオン(Fe3+)によってイオン交換されていることが求められる。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、より高いNOx浄化性能を持つハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、
鉄イオン交換されたゼオライトを含み、長手方向に沿って、第1の端面から第2の端面に延伸する複数のセルがセル壁により区画された少なくとも一つのハニカムユニットを有するハニカム構造体の製造方法であって、
(a)鉄イオン交換されたゼオライト粒子を、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理して、熱処理後のゼオライト粒子を得るステップと、
(b)前記熱処理後のゼオライト粒子を含む原料から、ハニカム成形体を形成するステップと、
(c)前記ハニカム成形体を焼成して、ハニカムユニットを作製するステップと、
を含むハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0009】
ここで、本発明による製造方法において、前記非酸化性雰囲気は、窒素雰囲気であっても良い。
【0010】
また、本発明による製造方法において、前記ステップ(c)は、700℃〜1000℃の範囲の温度で実施されても良い。
【0011】
また、本発明による製造方法において、前記原料は、さらに、無機バインダ、無機繊維および/または無機フレーク状物質を含んでも良い。
【0012】
この場合、前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイトおよびベーマイトの群から選定された少なくとも一つを含んでも良い。
【0013】
また、前記無機繊維は、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウムおよびホウ酸アルミニウムの群から選定された少なくとも一つであっても良い。
【0014】
また、前記無機フレーク状物質は、ガラスフレーク、雲母、アルミナフレーク、シリカフレーク、および酸化亜鉛フレークからなる群から選定された少なくとも一つであっても良い。
【0015】
また、本発明による製造方法は、さらに、前記ステップ(c)の後、
(d)複数のハニカムユニットを接着層を介して結合させ、所定の形状の組立体を形成するステップ
を含んでも良い。
【0016】
また、本発明による製造方法において、前記ハニカム構造体は、単一のハニカムユニットで構成されても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、より高いNOx浄化性能を持つハニカム構造体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1のハニカム構造体を構成するハニカムユニットの一例を模式的に示した斜視図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の製造方法の一例を示したフロー図である。
【図4】本発明のハニカム構造体の別の一例を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面により本発明の特徴を説明する。
【0020】
図1には、NOx浄化用の触媒担体として使用されるハニカム構造体の一例を、模式的に示す。また、図2には、図1に示したハニカム構造体の基本単位である、ハニカムユニットの一例を模式的に示す。
【0021】
図1に示すように、ハニカム構造体100は、2つの端面110および115を有する。また、通常の場合、ハニカム構造体100の両端面を除く外周面には、コート層120が設置される。
【0022】
ハニカム構造体100は、例えば、図2に示す柱状のセラミック製ハニカムユニット130を、接着層150を介して複数個(図1の例では、縦横4列ずつ16個)接合させた後、外周側を所定の形状(図1の例では、円柱状)に切削加工することにより作製される。
【0023】
図2に示すように、ハニカムユニット130は、該ハニカムユニットの長手方向に沿って一端から他端まで延伸し、両端面で開口された複数のセル(貫通孔)121と、該セルを区画するセル壁123とを有する。これに限られるものではないが、図2の例では、セル121の長手方向(Z方向)に垂直な断面は、実質的に正方形状となっている。
【0024】
このように構成されたハニカム構造体100は、例えば、尿素タンクを有する尿素SCRシステムの触媒として使用される。
【0025】
ハニカムユニット130は、鉄イオン交換されたゼオライトで構成され、このゼオライトは、NOx浄化反応の触媒として機能する。従って、ハニカム構造体100を触媒担体として備える尿素SCRシステムにおいて、システム内に排ガスが流通されると、尿素タンクに収容されている尿素が排ガス中の水と反応して、アンモニアが生じる(式(1))。

CO(NH+HO → 2NH+CO 式(1)

このアンモニアが、NOxを含む排ガスとともに、ハニカム構造体100の一方の端面(例えば端面110)から、各セルに流入した場合、ゼオライトの触媒の作用により、式(2−1)および式(2−2)の反応が生じる。

4NH+4NO+O → 4N+6HO 式(2−1)
8NH+6NO → 7N+12HO 式(2−2)

その後、浄化された排ガスは、ハニカム構造体100の他方の端面(例えば端面115)から排出される。このように、ハニカム構造体100内に排ガスを流通させることにより、排ガス中のNOxを処理することができる。
【0026】
ハニカム構造体を、無機粒子としてのゼオライト、無機バインダ、補強材としての無機繊維を含む原料ペーストを押出成形してハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を焼成することにより作製した場合、前記ゼオライトは、NOx還元反応させるために、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に鉄イオン(Fe3+)が結合することにより、イオン交換がなされる。
【0027】
ゼオライトのアルミニウムサイトは、より多くの鉄イオンによってイオン交換されていることが求められるが、一般に、ゼオライト原料をイオン交換すると、アルミニウムサイト(Al)に鉄イオン(Fe3+)が十分に定着しておらず、その後の熱処理等によって、鉄イオン(Fe3+)が酸化鉄(Fe)となり、酸化鉄の状態で存在することがわかった。
【0028】
鉄イオン(Fe3+)が酸化鉄(Fe)の状態で存在すると、NOxの浄化反応に寄与しなくなってしまう。そのため、このような原料を用いたハニカム構造体(ハニカムユニット)では、NOx浄化率が低くなってしまう場合があることがわかった。
【0029】
このような背景の下、本願発明者らは、所定の前処理を経た「ゼオライト」粒子を使用して、ハニカムユニット130、さらにはハニカム構造体100を作製した場合、そのようなハニカム構造体100が比較的高いNOx浄化性能を発揮することを見出し、本願発明に至った。すなわち、本発明では、
鉄イオン交換されたゼオライトを含み、長手方向に沿って、第1の端面から第2の端面に延伸する複数のセルがセル壁により区画された、少なくとも一つのハニカムユニットを有するハニカム構造体の製造方法であって、
(a)鉄イオン交換されたゼオライト粒子を、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理して、熱処理後のゼオライト粒子を得るステップと、
(b)前記熱処理後のゼオライト粒子を含む原料から、ハニカム成形体を形成するステップと、
(c)前記ハニカム成形体を焼成して、ハニカムユニットを作製するステップと、
を含むハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0030】
この本発明による製造方法では、準備した原料の「ゼオライト」粒子は、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理されている。この場合、準備した原料の「ゼオライト」粒子中に、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に結合されていない鉄イオン(Fe3+)が存在していた場合であっても、そのような鉄イオン(Fe3+)は、より多くゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に定着されるようになる。従って、このような熱処理後のゼオライト粒子を使用して、ハニカムユニットを作製した場合、NOxの浄化反応に寄与する反応サイト(鉄イオン交換位置)の数は、より多くなる。そのため、高いNOx浄化性能を発揮するハニカムユニット、さらにはハニカム構造体を得ることが可能となる。
【0031】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法について、より詳しく説明する。
【0032】
図3には、本発明によるハニカム構造体の製造方法のフローの一例を示す。このハニカム構造体の製造方法は、
(a)鉄イオン交換されたゼオライト粒子を、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理して、熱処理後のゼオライト粒子を得るステップ(ステップS110)と、
(b)前記熱処理後のゼオライト粒子を含む原料から、ハニカム成形体を形成するステップ(ステップS120)と、
(c)前記ハニカム成形体を焼成して、ハニカムユニットを作製するステップ(ステップS130)と、
を有する。
【0033】
以下、各ステップについて説明する。
【0034】
(ステップS110)
まず最初に、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子が準備される。この「ゼオライト」粒子は、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に結合されていない、フリーの鉄イオン(Fe3+)を含んでいても良い。
【0035】
次に、この「ゼオライト」粒子は、非酸化性雰囲気(酸素分圧0.1%以下の雰囲気)下で熱処理される。非酸化性雰囲気には、例えば、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気のような不活性ガス雰囲気、および真空環境が含まれる。熱処理温度は、500℃〜800℃の範囲が好ましく、700℃〜750℃の範囲がより好ましい。熱処理時間は、例えば0.5時間〜5時間が好ましい。
【0036】
これにより、「ゼオライト」粒子中のフリーの鉄イオン(Fe3+)は、ゼオライトのアルミニウムサイト(Al)に結合される。
【0037】
熱処理を行う前に、乾燥処理を行うことが望ましいが、乾燥処理は省略しても良い乾燥処理としては、120℃〜250℃、3時間〜24時間が望ましい。
【0038】
(ステップS120)
次に、熱処理後のゼオライト粒子を含む原料を用いて、ハニカム成形体が形成される。
【0039】
まず、熱処理後のゼオライト粒子と、無機バインダとを混合して、原料ペーストを調製する。
【0040】
無機バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、白土、カオリン、モンモリロナイト、セピオライト、アタパルジャイト、およびベーマイト等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
これらの中では、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、およびベーマイトからなる群から選択された少なくとも1種が望ましい。
【0042】
ハニカムユニットに含まれるゼオライトの量について、望ましい下限は30重量%であり、より望ましい下限は40重量%であり、さらに望ましい下限は50重量%である。一方、望ましい上限は90重量%であり、より望ましい上限は80重量%であり、さらに望ましい上限は75重量%である。ゼオライトの含有量が30重量%未満では、浄化に寄与するゼオライトの量が相対的に少なくなる。一方、ゼオライトの含有量が90重量%を超えると、ハニカムユニットの強度が低下する可能性がある。
【0043】
無機バインダは、固形分として、5重量%以上含まれることが好ましく、10重量%以上含まれることがより好ましく、15重量%以上含まれることがさらに好ましい。一方、無機バインダの含有量は、固形分として、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることがさらに好ましい。無機バインダの量が固形分として5重量%未満では、製造したハニカムユニットの強度が低くなることがある。一方、無機バインダの量が固形分として50重量%を超えると、原料組成物の成型性が悪くなることがある。
【0044】
また、必要に応じて、原料ペーストには、さらに、無機繊維および/または無機フレーク状物質を添加しても良い。
【0045】
無機繊維の材料としては、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウムまたはホウ酸アルミニウム等が望ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記材料の中では、アルミナが望ましい。
【0046】
なお、「無機フレーク状物質」とは、「無機繊維」とは異なり、鱗片状の形状を有する無機添加物を意味する。「無機フレーク状物質」は、厚さが0.2μm〜5μmの範囲、最大長さが10μm〜160μmの範囲、アスペクト比(厚さ/最大長さの比)が3〜250の範囲が望ましい。なお、無機フレーク状物質の厚さおよび最大長さは、いずれも、SEM写真から求めた平均値である。このうち、無機フレーク状物質の厚さは、無機フレーク状物質20個について求めた平均値である。また無機フレーク状物質の最大長さは、無機フレーク状物質を(扁平)粒子に近似したときの最大直径を、無機フレーク状物質20個について求めた平均値である。
【0047】
無機フレーク状物質は、例えば、ガラスフレーク、雲母、アルミナフレーク、シリカフレーク、酸化亜鉛フレークからなる群から選定された、少なくとも一つが望ましい。
【0048】
このような無機繊維または無機フレーク状物質は、強度補強材として機能し、ハニカムユニットの強度が向上する。
【0049】
ハニカムユニットに、無機繊維および無機フレーク状物質が含まれる場合、無機繊維および無機フレーク状物質の合計量について、望ましい下限は3重量%であり、より望ましい下限は5重量%であり、さらに望ましい下限は8重量%である。一方、望ましい上限は50重量%であり、より望ましい上限は40重量%であり、さらに望ましい上限は30重量%である。無機繊維および無機フレーク状物質の含有量が3重量%未満では、ハニカムユニットが十分な強度を得ることが難しくなり、50重量%を超えると浄化に寄与するゼオライトの量が相対的に少なくなる。
【0050】
また、原料ペーストには、これらの他に、有機バインダ、分散媒および成形助剤を成形性にあわせて適宜加えてもよい。有機バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂等から選ばれる1種以上の有機バインダが挙げられる。有機バインダの配合量は、無機粒子、無機バインダ、無機繊維、および無機フレーク状物質の合計100重量部に対して、1〜10重量部が好ましい。
【0051】
分散媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、有機溶媒(ベンゼンなど)およびアルコール(メタノールなど)などを挙げることができる。成形助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸およびポリアルコール等を挙げることができる。
【0052】
原料ペーストは、特に限定されるものではないが、混合・混練することが好ましく、例えば、ミキサーやアトライタなどを用いて混合してもよく、ニーダーなどで十分に混練してもよい。原料ペーストを成形する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、押出成形などによってセルを有する形状に成形することが好ましい。
【0053】
次に、得られたハニカム成形体は、乾燥処理され、ハニカム乾燥体が作製される。乾燥に用いる乾燥機は、特に限定されるものではないが、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機および凍結乾燥機などが挙げられる。
【0054】
また、得られたハニカム乾燥体は、脱脂することが好ましい。脱脂する条件は、特に限定されず、成形体に含まれる有機物の種類や量によって適宜選択されるが、おおよそ400℃、2時間が好ましい。
【0055】
(ステップS130)
次に、前述の工程で得られたハニカム脱脂体を焼成して、ハニカムユニット(ハニカム焼成体)を作製する。焼成条件としては、特に限定されるものではないが、焼成温度は、600℃〜1200℃の範囲であることが好ましく、700℃〜1000℃の範囲であることがより好ましい。この理由は、焼成温度が600℃未満では、焼結が進行せず、ハニカムユニットとしての強度が低くなり、焼成温度が1200℃を超えると、焼結が過剰に進行し、排ガスの浄化率が低くなることがあるためである。
【0056】
ハニカムユニットのセル密度は、15.5〜186個/cm(100〜1200cpsi)の範囲であることが好ましく、46.5〜170個/cm(300〜1100cpsi)の範囲であることがより好ましく、62.0〜155個/cm(400〜1000cpsi)の範囲であることがさらに好ましい。
【0057】
ハニカムユニットのセル壁の厚さは、特に限定されないが、強度の点から望ましい下限は、0.1mmであり、NOx浄化性能の観点から望ましい上限は、0.4mmである。
【0058】
その後、以上の工程で得られた柱状のハニカムユニットの側面に、後に接着層となる接着層用ペーストを均一な厚さで塗布した後、この接着層用ペーストを介して、順次他の柱状ハニカムユニットを積層する。この工程を繰り返し、所望の寸法の(例えば、ハニカムユニットが縦横4個ずつ配列された)ハニカムユニットの集合体を作製する。
【0059】
接着層用ペーストには、特に限定されるものではないが、例えば、無機粒子と無機バインダを混ぜたものや、無機バインダと無機繊維を混ぜたものや、無機粒子と無機バインダと無機繊維を混ぜたものなどを用いることができる。また、これらにさらに有機バインダを加えても良い。また、接着層用ペーストには、前述のような無機フレーク状物質を添加しても良い。
【0060】
無機粒子、無機バインダ、無機繊維および無機フレーク状物質としては、前述のようなハニカムユニットを構成する材料と同様のものを使用することができる。また、有機バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0061】
接着層用ペーストの厚さは、最終的に得られる接着層の厚さが0.3〜2mmであることが好ましい。接着層の厚さが0.3mm未満では十分な接合強度が得られないおそれがあるためである。また接着層の厚さが2mmを超えると、圧力損失が大きくなることがある。なお、接合させるハニカムユニットの数は、ハニカム構造体の大きさに合わせて適宜選定される。
【0062】
次に、このハニカムユニットの集合体を加熱して、接着層用ペーストを乾燥、固化させて、接着層を形成させるとともに、ハニカムユニット同士を固着させる。
【0063】
次に、ダイヤモンドカッター等を用いて、ハニカムユニットの集合体を、例えば円柱状に切削加工し、外周面(側面)にコート層用ペーストを塗布後、これを乾燥、固化させて、コート層を形成して、必要な外周形状のハニカム構造体を作製する。
【0064】
コート層用ペーストは、前述の接着層用ペーストと同様の組成であっても良い。コート層用ペーストの厚さは、最終的に得られるコート層の厚さが、0.1mm〜2.0mmであることが好ましい。
【0065】
以上の工程により、図1に示す様な形態のハニカム構造体を作製することができる。
【0066】
なお、以上の記載では、図1に示すような、接着層150を介して複数のハニカムユニット130を接合することにより構成されるハニカム構造体100を例に、その製造方法を説明した。しかしながら、ハニカム構造体の構成は、これに限られるものではない。
【0067】
図4には、ハニカム構造体の別の一例を示す。この図4に示すように、ハニカム構造体200は、複数のセル122がセル壁124を隔てて長手方向に並設された、単一のハニカムユニットから構成されていても良い。なお、図4に示す例では、ハニカム構造体200の外周面に、コート層120が設置されているが、このコート層は、設置しても、設置しなくても良い。このように構成されるハニカム構造体200に対しても、本発明の製造方法が適用できることは、当業者には明らかである。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
【0069】
(実施例1)
まず、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子(粒子径2μm)を200℃で12時間保持し、乾燥させた。次に、この「ゼオライト」粒子を、酸素濃度が0.1%の非酸化性雰囲気下で熱処理した。熱処理温度は、700℃とし、時間は、2時間とした。
【0070】
次に、この熱処理後のゼオライト粒子3000重量部、アルミナ繊維650重量部、無機バインダ(ベーマイト)840重量部、有機バインダ(メチルセルロース)330重量部、潤滑剤(オレイン酸)330重量部、およびイオン交換水1800重量部を混合、混練して混合組成物を得た。
【0071】
次に、この混合組成物を押出成形機により押出成形を行い、マイクロ波乾燥機および熱風乾燥機を用いてこれらのハニカム成形体を十分乾燥させて、図2に示すような角柱状のハニカム成形体を得た。
【0072】
その後、400℃で2時間脱脂し、700℃で2時間保持して焼成を行い、四角柱状のハニカムユニット(縦34.3mm×横34.3mm×全長150mm)を得た。ハニカムユニットのセル壁123の厚さは、0.23mmであった。セル密度は、93個/cmであった。
【0073】
次に、これらの16個のハニカムユニットの側面に、接着層用ペーストを塗布し、縦4列×横4列のハニカムユニットの集合体を形成した。
【0074】
接着層用ペーストは、平均粒径が2μmのシリカ59.1wt%、平均繊維径が6μmのアルミナ繊維18.1wt%、無機バインダ含有成分としての、固形分30重量%のシリカゾル14.2wt%、有機バインダとしてのカルボキシメチルセルロース0.4wt%、保水剤(ポリビニルアルコール)3.9wt%、界面活性剤3.9wt%、および発泡剤(アルミナバルーン)0.4wt%を混合混練して調製した。
【0075】
接着層用ペーストの厚さは、2mmとした。
【0076】
次に、このハニカムユニットの集合体を150℃まで加熱して、接着層用ペーストを乾燥、固化させて、接着層を形成させるとともに、ハニカムユニット同士を固着させた。その後、ダイヤモンドカッター等を用いて、ハニカムユニットの集合体を、円柱状に切削加工し、直径141.8mm×全長150mmの円柱状ハニカム構造体を作製した。
【0077】
次に、ハニカム構造体の外周面(側面)に、厚さが約1mmとなるようにコート層用ペーストを塗布した後、これを乾燥、固化させて、コート層を形成した。コート層用ペーストには、接着層用ペーストと同一のペーストを使用した。
【0078】
以上の工程により、図1に示すような形状の直径143.8mm×全長150mmの円柱状ハニカム構造体(実施例1に係るハニカム構造体)を作製した。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様の工程により、実施例2に係るハニカム構造体を作製した。ただし、この実施例2では、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子(粒子径2μm)を200℃で12時間保持し、乾燥させた後、この「ゼオライト」粒子を、酸素濃度が0.05%の非酸化性雰囲気下で熱処理した。その他の作製条件は、実施例1と同じである。
【0080】
(実施例3)
実施例1と同様の工程により、実施例3に係るハニカム構造体を作製した。ただし、この実施例3では、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子(粒子径2μm)を200℃で12時間保持し、乾燥させた後、この「ゼオライト」粒子を、500℃で2時間熱処理した。その他の作製条件は、実施例1と同じである。
【0081】
(実施例4)
実施例1と同様の工程により、実施例4に係るハニカム構造体を作製した。ただし、この実施例4では、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子(粒子径2μm)を200℃で12時間保持し、乾燥させた後、この「ゼオライト」粒子を、800℃で2時間熱処理した。その他の作製条件は、実施例1と同じである。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様の工程により、比較例1に係るハニカム構造体を作製した。ただし、この比較例1では、鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子(粒子径2μm)をそのまま原料として使用した(すなわち、乾燥処理および熱処理は、行っていない)。その他の作製条件は、実施例1と同じである。
【0083】
表1には、各実施例および比較例における鉄イオン交換された「ゼオライト」粒子の乾燥、熱処理条件をまとめて示した。
【0084】
【表1】

(NOx処理性能の評価)
実施例1〜実施例4および比較例1で作製したハニカム構造体を構成するハニカムユニットを、角柱状(34.3mm×34.3mm×40mm)に切り出して、評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて、NOx処理性能の評価を行った。
【0085】
NOx処理性能の評価は、車両用ディーゼルエンジンの運転条件を模擬した試験ガスをハニカムユニットに流通させ、NOx処理を行い、ハニカム構造体から排出されるガス中に含まれるNO(一酸化窒素)量を測定することにより実施した。
【0086】
試験ガスの組成は、一酸化窒素175ppm、二酸化窒素175ppm、アンモニア350ppm、酸素14体積%、二酸化炭素5体積%、水10体積%、窒素(balance)である。
【0087】
NOx処理性能試験は、ハニカム構造体に試験ガスを導入してから、排出ガス中に含まれるNO濃度がほとんど変化しなくなるまで継続した。NO濃度の測定には、HORIBA製の装置(MEXA−7100D)を使用した。この装置のNOの検出限界は、0.1ppmである。試験温度は、200℃とし、試験期間中一定とした。
【0088】
得られた測定結果から、NOx浄化率Nを算出した。ここでNOx浄化率Nは、式(3)により算出した。

N(%)=
{(評価用サンプルに導入する前の混合ガス中のNO濃度−
評価用サンプルから排出された排出ガス中のNO濃度)}/
(評価用サンプルに導入する前の混合ガス中のNO濃度)×100 (3)式

NOx処理性能の評価結果を表1の右端の欄に示す。これらの結果から、本発明によるハニカム構造体(実施例1〜4)は、比較例1のハニカム構造体に比べて、高いNOx浄化率を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0089】
100 ハニカム構造体
110 第1の端面
115 第2の端面
120 コート層
121、122 セル
123、124 セル壁
130 ハニカムユニット
150 接着層
200 別のハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオン交換されたゼオライトを含み、長手方向に沿って、第1の端面から第2の端面に延伸する複数のセルがセル壁により区画された少なくとも一つのハニカムユニットを有するハニカム構造体の製造方法であって、
(a)鉄イオン交換されたゼオライト粒子を、非酸化性雰囲気下、500℃〜800℃の範囲で熱処理して、熱処理後のゼオライト粒子を得るステップと、
(b)前記熱処理後のゼオライト粒子を含む原料から、ハニカム成形体を形成するステップと、
(c)前記ハニカム成形体を焼成して、ハニカムユニットを作製するステップと、
を含むハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記非酸化性雰囲気は、窒素雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)は、700℃〜1000℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料は、さらに、無機バインダ、無機繊維、および/または無機フレーク状物質を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記無機バインダは、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイトおよびベーマイトの群から選定された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維は、アルミナ、シリカ、炭化珪素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウムおよびホウ酸アルミニウムの群から選定された少なくとも一つであることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記無機フレーク状物質は、ガラスフレーク、雲母、アルミナフレーク、シリカフレーク、および酸化亜鉛フレークからなる群から選定された少なくとも一つであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記ステップ(c)の後、
(d)複数のハニカムユニットを接着層を介して結合させ、所定の形状の組立体を形成するステップ
を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記ハニカム構造体は、単一のハニカムユニットで構成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−125845(P2011−125845A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209877(P2010−209877)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】