説明

ハブダイナモ

【課題】ハブダイナモを、発電効率が高く、かつ、耐久性に優れたものに構成する。
【解決手段】自転車のハブ軸1側に固定されるステータSと、内周面に磁石10aが固定され車輪H側に連結される筒状のロータ5とを備えてなるハブダイナモ3において、前記ロータ5を、右側、左側の軸受け部材8、9を介してハブ軸1外周に回転自在に外嵌支持するにあたり、前記左側軸受け部材9とハブ軸1とのあいだに設けられる筒状の左側スリーブ20を、ハブ軸1に対して軸芯方向位置調整自在に外嵌し、固定用ナット21を用いてハブ軸1に固定する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車のフレームを構成するフォークに取付けられるハブダイナモの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自転車のなかには、フレームを構成するフォークに固定されるハブ軸(車軸)にハブダイナモを設け、該ハブダイナモを自転車の走行に伴う車輪の回転で発電させ、該発電した電力を前照灯等の電装品に供給するように構成したものがある。前記ハブダイナモは、ハブ軸外周部に一体的に固定されるステータと、内周面に磁石が固定され、前記ステータを内装するよう車輪側に連結される筒状のロータとを備え、該ロータは軸受け部材を介してハブ軸外周に回転自在に外嵌されている。このような構成のものとしては、ハブ軸両端部の外周に螺子溝を刻設し、ステータの軸芯方向両端部からナットを螺着してステータをハブ軸に対して位置決め状に固定する構成としたものが知られている。このものでは、ハブ軸のロータ軸承部位にも螺子溝が刻設されているため、該部位に、外周面が平滑状に形成された筒状のスリーブを外嵌し、該スリーブが軸受け部材を外嵌支持するように構成しており、この場合に、前記スリーブを、ステータ固定用のナットに一体形成したものが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−11869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のハブダイナモの組付けにおいて、ハブ軸にキャップ、ステータ、ステータを位置決め状に固定するナットを組込んだハブ軸側部材を、内周面に永久磁石を組込んだケーシング側部材に対して組込んで、ケーシング開口端をキャップ外周縁部に突当て状に一体化するとともに、ステータ固定用のナットに一体形成されたスリーブをケーシング底片部に予め組込んだ軸受け部材に挿入する構成となっている。しかるにこのものでは、スリーブがナットに一体形成されていて、ステータの配設位置によってスリーブの配設位置が決定される。このため、ステータを構成する部品に寸法誤差があるとスリーブの位置とケーシング側の軸受け部材との間に位置ズレが生じ、これらの嵌合代にバラツキが生じることが想定される。そして、前記嵌合代が不足するような場合では、軸受け部材の内輪に偏荷重が加わって、軸受け部材の耐久性を損なうばかりでなく、ケーシング内周面とステータ外周面との間のエアギャップが確保できなくなることが想定されて問題がある。
一方、ハブダイナモのなかには、ステータとして軸芯方向に複数のコイル室を並設する構成としたものがあり、この場合では、ステータが軸芯方向に長くなり、これに対応してケーシングとのあいだのエアギャップも軸芯方向に長いものとなる。このように軸芯方向に長いエアギャップを備えたハブダイナモでは、ケーシングを軸芯精度よく支持する必要があり、ケーシング底部を支持するスリーブに対し高い芯出し精度が要求される。しかるに、ステータ固定用のナットにスリーブを一体形成したものは、鍛造により形成されるのが一般であり、このような手法で形成されたものではスリーブの外周面を精度よく芯出しすることが難しい。このため、軸芯方向に長いハブダイナモに前記従来の構成のスリーブを用いる場合では、スリーブの外周面に切削加工等の芯出し工程を別途実施しなければならないという問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、自転車のハブ軸側に固定されるステータと、内周面に磁石が固定され車輪側に連結される筒状のロータとを備えてなるハブダイナモにおいて、前記ロータを、軸受け部材を介してハブ軸外周に回転自在に外嵌支持するにあたり、前記軸受け部材とハブ軸とのあいだに設けられる筒状のスリーブは、ハブ軸に対して軸芯方向位置調整自在に外嵌され、一体化手段を介してハブ軸に固定されていることを特徴とするハブダイナモである。
請求項2の発明において、スリーブは、内周面に螺子溝が刻設されてハブ軸に螺合するものとし、螺合位置を調整した後に一体化手段を介してハブ軸に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のハブダイナモである。
請求項3の発明において、一体化手段は、スリーブのステータ対向側の端部に設けた固定用ナットであることを特徴とする請求項2に記載のハブダイナモである。
請求項4の発明において、固定用ナットは、スリーブの外径よりも大径に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のハブダイナモである。
請求項5の発明において、固定用ナットは、軸受け部材との間に所定間隙が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のハブダイナモである。
請求項6の発明において、スリーブは、ステータ対向側の端部に外径側に延出するフランジ部が一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハブダイナモである。
請求項7の発明において、フランジ部は、軸受け部材との間に所定間隙が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のハブダイナモである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、長期にわたり優れた性能を有したハブダイナモとすることができる。
請求項2の発明とすることにより、スリーブをハブ軸の所望の位置に位置決めする作業を容易に行なえる。
請求項3の発明とすることにより、スリーブのハブ軸への固定が簡単、かつ、容易になる。
請求項4、6の発明とすることにより、ハブダイナモの耐久性が高められるうえ、スリーブと軸受け部材との間に充填されるシール剤を長期にわたり保持できる。
請求項5、7の発明とすることにより、シール剤のステータS側への浸入経路をラビリンス化してシール剤のステータS側への浸入を一層防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】自転車の前輪の一部側面図である。
【図2】ハブダイナモの一部断面正面図である。
【図3】図3(A)、(B)、(C)はそれぞれハブ軸側部材の一部断面正面図、左側面図、右側面図である。
【図4】ハブダイナモの組込み手順を説明する分解正面図である。
【図5】第二の実施の形態のハブダイナモにおける要部の一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の第一の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1において、1は自転車の前輪(前車輪)Hの回転中心を構成するハブ軸(車軸)であって、該ハブ軸1の左右両端部は、車体を構成する左右一対のフロントフォーク2に支持されており、これら左右フロントフォーク2のあいだを一体的に連結するのハブ軸1に、本発明が実施されたハブダイナモ3が設けられている。
尚、4はハブダイナモ3からの電力の供給を受けて点灯するよう接続された前照灯である。
【0009】
前記ハブダイナモ3を構成するロータ5は、図2に示すように、軸芯方向一端部(右端側)が開口する有底筒状のケーシング6と、該ケーシング6の開口端縁部6aに一体的に嵌着してケーシング6の筒孔を覆蓋する円板状のエンドブラケット7とを備えて構成されている。前記エンドブラケット7とケーシング6とはそれぞれアルミダイキャストにより構成されており、エンドブラケット7とケーシング6の底部6bとの中央部には同芯状に軸受け凹部7a、6cが形成されている。そして、ロータ5は、これら軸受け凹部7a、6cにそれぞれ設けられる右側、左側の軸受け部材8、9を介してハブ軸1に回転自在に外嵌支持されるように構成されている。さらに、前記ケーシング6の筒部6dには、磁性材で構成される筒状のヨーク10が一体的に内装されており、該ヨーク10の内周面には、四枚の永久磁石10aが周回り方向に並設されているが、これら各永久磁石10aは、一枚当たりにN、Sの磁極が交互に七極磁着され、これによって、ヨーク10の内周に周回り方向二十八極の磁極が形成されている。
また、ケーシング筒部6dの軸芯方向両端部には、外径側に突出する鍔部6eがそれぞれ一体形成されている。これら鍔部6eには、周回り方向に複数の連結孔6fが開設されており、これら連結孔6fに、前輪Hを構成するスポーク11の内径側端部が一体的に連結されている。これによって、前輪Hとロータ5とが連結され、自転車の走行に伴う前輪Hの回転によりロータ5であるケーシング6とエンドブラケット7とが一体となってハブ軸1に対して回転するように構成されている。
【0010】
一方、ハブ軸1のケーシング6に内装される部位にはステータSが設けられている。本実施の形態のステータSはハブ軸1に所定間隙を存して外嵌する左右一対のリング状の第一、第二主鉄心(12−1)、(12−2)と、これら第一、第二主鉄心(12−1)、(12−2)の対向間を軸芯方向等間隔に仕切るようにハブ軸1に外嵌する左右一対のリング状の第一、第二副鉄心(13−1)、(13−2)とを用いて構成されている。これによって、ハブ軸1の外周には、第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)により軸芯方向三つに分割された第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3が形成されており、これによって、軸芯方向に長いステータSに構成されている。
そして、ハブ軸1の両端部であって、図2において第一、第二主鉄心(12−1)、(12−2)のそれぞれ左右方向外方側の端部外周面には螺子溝1aが刻設されており、右側(一端側)の第二主鉄心(12−2)の右側部位には位置決め用のストッパ部材14が螺着されている。前記ストッパ部材14は内周面に螺子溝が刻設された筒状部材となっており、外周面が円滑面に形成され、右側軸受け部材8を外嵌支持するための右側スリーブ14aが軸芯方向一端側に形成され、該右側スリーブ14aの他端側端部に外径方向に突出するフランジ部14bが形成され、該フランジ部14bを第二主鉄心(12−2)に当接させることでステータSの一端側の位置決めをするように構成されている。また、左側(他端側)の第一主鉄心(12−1)の左側部位には位置決め用ナット15が螺着されており、該位置決め用ナット15を第一主鉄心(12−1)に向けて緊締することにより、ステータSはストッパ部材14と位置決め用ナット15とに挟持され、ハブ軸1に軸芯方向および周回り方向に一体化された状態で固定支持されるように構成されている。
【0011】
前記各コイル室CR1、CR2、CR3には、図3に示すように、ハブ軸1に一体的に外嵌して第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)の内径側部位にそれぞれ当接する磁性材からなる筒体16と、該筒体16に外嵌する筒部17aを有したコイルボビン17とがそれぞれ収容されており、各コイルボビン17の筒部17a外周にそれぞれ巻線18を巻装することにより第一、第二、第三コイルC1、C2、C3が形成されている。尚、第一、第二、第三コイルC1、C2、C3の巻き方向については後述する。
そして、各コイル室CR1、CR2、CR3において、軸芯方向に隣接する第一主、副鉄心(12−1)、(13−1)同士、第一、第二副鉄心(13−1)、(13−2)同士、または、第二副、主鉄心(13−2)、(12−1)同士と、これらのあいだにそれぞれ設けられる筒体16とに磁路が形成されることにより、第一、第二、第三コイルC1、C2、C3がそれぞれ発電するように構成されている。
【0012】
ここで、第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)についてさらに詳しく説明する。前記第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)はそれぞれ磁性材からなる薄板状の板材12a、13aを複数枚積層することにより構成されており、これによって、ハブダイナモ3の発電効率が向上するように配慮されている。これら第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)(各板材12a、13a)の外径寸法は互いに同様であり、コイルボビン17のフランジ部17bの外径よりも大きくなる長さに寸法設定されている。さらに、各板材12a、13aの外周縁部には、それぞれ周回り方向に十四箇所の凸部12b、13bと凹部12c、13cとがそれぞれ等角度間隔を存して交互に形成されている。そして、第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)とは、凸部12b、13b(突片12d、13d)同士の周回り方向位置が同位置となる(同期する)よう位置合せされてハブ軸1に外嵌固定されている。また、第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)とは、凸部12b、13b(突片12d、13d)同士の周回り方向位置が同位置となり、かつ、これら凸部12b、13bが、前記第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)との凹部12c、13cに対向する位置となるよう位置合わせされてハブ軸1に外嵌固定されている。これによって、第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)との凸部12b、13b、および、第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)との凸部12b、13b同士が、周回り方向に位置ズレした位置関係に配設されるように構成されている。
【0013】
そして、第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3の外周、即ち、第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)の外周に、ヨーク10内周面の永久磁石10aからの磁極を受けて磁束を収集するための複数の磁束収集片19が周回り方向に並設する状態で設けられている。前記磁束収集片19は、長尺状の磁性材からなる板材で形成されており、これら磁束収集片19の板長さは、第一、第二主鉄心(12−1)、(12−2)の対向間に支架することができる長さに設定されている。そして、磁束収集片19は、周回り方向同位置において軸芯方向に隣接する第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)との突片12d、13d、第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)との突片12d、13dにそれぞれカシメ固定されることで、前記永久磁石10aと同数の二十八本のものが周回り方向に並列状に設けられている。これによって、磁束収集片19は、第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)とを接続するものと、第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)とを接続するものとが、周回り方向に交互に隣接して配設されるように構成されている。
尚、本実施の形態の磁束収集片19は、各主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)との連結部(カシメ部)側の板幅が広くなるよう傾斜状部19aが形成されている。これによって、磁束収集片19は、第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)との連結部近傍における断面積が大きくなって、第一、第二主、副鉄心(12−1)、(12−2)、(13−1)、(13−2)からの磁束量を無駄なく、かつ、効率良く収集して、発電効率を一層向上させて安定した電力供給を実現できるように配慮されている。
【0014】
そして、ステータSは、第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)とを接続する磁束収集片19が、一方の永久磁石10aに近接対向して一方の磁極に励磁されることにより、前記第一主鉄心(12−1)と第二副鉄心(13−2)とをそれぞれ一方の磁極に磁化するように構成されている。このとき、第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)とを接続する磁束収集片19は、他方の永久磁石10aに近接対向して他方の磁極に励磁され、前記第一副鉄心(13−1)と第二主鉄心(12−2)とをそれぞれ他方の磁極に磁化するように構成されている。これによって、隣接する主、副鉄心12、13同士、即ち、第一主、副鉄心(12−1)、(13−1)同士、第一、第二副鉄心(13−1)、(13−2)同士、第二副、主鉄心(13−2)、(12−2)同士がそれぞれ互いに異極に磁化されて筒体16とともに磁路を形成し、前記磁路に囲繞される第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3にそれぞれ磁束が通過するように構成されている。この場合に、第一副鉄心(13−1)は第一、第二コイル室CR1、CR2の磁路として機能し、第二副鉄心(13−2)は第二、第三コイル室CR2、CR3の磁路として機能して、第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3の隣接するもの同士には正、負逆の方向の磁束が通過するように構成されている。
【0015】
これに対し、前記各コイルボビン17に巻装される巻線18の巻方向は、第一、第三コイル室CR1、CR3のコイルボビン17に対しては筒部17aの周回り方向一方に向けて巻装し、第二コイル室CR2のコイルボビン17に対しては周回り方向他方に向けて巻装するように構成されている。これによって、一本の巻線18を用いて第一コイル室CR1のコイルボビン17から巻装を開始し、そのまま巻線18を切断することなく、第二、第三コイル室CR2、CR3のコイルボビン17に順次連続して巻装して、第一、第二、第三コイルC1、C2、C3を一つのコイルとして巻線18から電力を取出すことができるように構成されている。
そして、自転車が走行して前輪Hとともにロータ5が回転することにより、第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3にそれぞれ異なる方向の磁束が交互に繰り返し通過し、これによって、各第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3毎に電力がそれぞれ発生(発電)し、もって巻線18からは高い電圧を有した電力が取出されるように構成されている。尚、本実施の形態におけるハブダイナモ3の発電構成については、国際公開番号WO2005/011092号公報に記載されるものと同様であるので、ここでの詳細な説明は省略するが、ステータSをこのように構成することにより、軽量コンパクト化が図れたものでありながら高い発電効率のハブダイナモとなっている。
【0016】
前記構成のハブダイナモ3は、図4に示すように、予めハブ軸側部材(ステータ側部材)とケーシング側部材とをそれぞれ組込み、ケーシング側部材に対してハブ軸側部材を組込むことで構成されている。
前記ハブ軸側部材を組込む手順は、ハブ軸1に対し、第一主鉄心(12−1)、筒体16、コイルボビン17、第一副鉄心(13−1)、筒体16、コイルボビン17、第二副鉄心(13−2)、筒体16、コイルボビン17、第二主鉄心(12−2)の順でそれぞれ貫通支持せしめ、ハブ軸1の一端側からストッパ部材14を螺着する一方、ハブ軸1の他端側から位置決め用ナット15を螺着、緊締して、ハブ軸1にステータSが軸芯方向および周回り方向に一体化された状態で位置決め状に固定する。そして、巻線18を各コイルボビン17に巻装して第一〜第三コイルC1、C2、C3を形成し、エンドブラケット7に予め組込まれた右側軸受け部材8にストッパ部材14の右側スリーブ14aを挿入してハブ軸1外周にエンドブラケット7を外嵌支持せしめ、前記巻線18の両端部をストッパ部材14の引出し溝14cを経由してエンドブラケット7の外部に引出したものとする。さらに、ハブ軸側部材には、ステータSの他端側となる適宜位置に、本発明が実施された左側スリーブ20がハブ軸1に外嵌され、後述するように位置調整した状態で固定されている。
【0017】
ここで、前記左側スリーブ20は、本発明が実施されたスリーブに相当しており、本実施の形態では、内周面に螺子溝20aが刻設され、外周面が平滑面となった円筒状の部材で構成されている。前記左側スリーブ20は、ハブ軸1他端側の外周に形成された螺子溝1aへの螺合量により螺着位置を調整することができるように構成されており、ステータSが組込まれたハブ軸側部材を軸芯方向一端側からケーシング側部材に組込んだとき、左側スリーブ20がケーシング底部6bに対応する位置となるよう位置調整し、その後、ハブ軸1に固定する構成となっている。因みに、位置調整された左側スリーブ20をハブ軸1に固定する一体化手段は、本実施の形態では、左側スリーブ20に先行してハブ軸1の他端側に螺合された固定用ナット21により構成されており、固定用ナット21を位置調整された左側スリーブ20に当接するよう緊締することにより、左側スリーブ20が軸芯方向位置決め状にハブ軸1に固定されるように構成されている。尚、一体化手段としては、固定用ナット21に限定されることはなく、左側スリーブ20とハブ軸1との間に接着剤を充填して一体化したり、左側スリーブ20とハブ軸1との間をコーキング処理して一体化するようにしてもよい。
ここで、前記固定用ナット21は、ステータSの他端側から緊締される位置決め用ナット15の外径よりも小径に形成されている。これによって、ハブ軸1にステータS、位置決め用ナット15、固定用ナット21、スリーブ20等を組込んだ後に、締め付け治具のビットを用いてハブ軸1の他端側から位置決め用ナット15の緊締状態を調整する場合に、固定用ナット21が邪魔になることなく位置決め用ナット15の調整ができるという利点がある。
尚、22はハブ軸側部材の右側軸受け部材8を覆蓋するカバー部材、22aは、カバー部材22をストッパ部材14に一体化するナットである。
【0018】
一方、ケーシング側部材は、ケーシング6の内周面にヨーク10、永久磁石10a、左側軸受け部材9を組込んだものに構成されている。そして、ケーシング側部材のケーシング開口端縁部6aにハブ軸側部材のハブ軸1の他端側を対向させ、底部6bに組込まれた左側軸受け部材9にハブ軸1他端部を遊嵌状に内嵌する状態からハブ軸側部材を他端側に向けて押し込んで、ケーシング底部6bの左側軸受け部材9に左側スリーブ20を挿入することにより、ケーシング底部6bがハブ軸1外周に外嵌支持される組込み状態となるように構成されている。このとき、ケーシング開口端縁部6aに形成される段差部6gは、エンドブラケット7の外周縁部に形成される段差受け部7bに突当てられ、開口端縁部6aにエンドブラケット7が一体的に嵌着するように構成され、これによって、ケーシング6とエンドブラケット7とが一体化されたロータ5となってハブ軸1外周を回転するハブダイナモ3となるように構成されている。
尚、23、23aはケーシング6の他端側から螺合されて、ケーシング6の位置決めをする第一、第二ナット、23bは左側軸受け部材9を覆うカバー部材である。
【0019】
前記ハブダイナモ3において、左側スリーブ20は、螺合量を調整することでハブ軸1における螺着位置がケーシング側部材の左側軸受け部材9に対応する位置に調整された状態で固定されているうえ、単に筒状体に形成することにより外周面の芯出し精度が高められた状態に形成されている。これによって、ステータSの位置決め用ナットにスリーブを一体形成した従来のもののように、ステータの寸法誤差等によりスリーブ位置がズレて、ケーシング側の軸受け部材の位置に対応しなくなってしまうような不具合をなくすことができ、左側スリーブ20に対する左側軸受け部材9の嵌合代が確実に保持されて、左側軸受け部材9に偏荷重が加わって左側軸受け部材9の耐久性を損なうようなことを防止できるように構成されている。そのうえ、芯出し精度の高い左側スリーブ20によりケーシング6を軸芯精度よく支持することにより、軸芯方向に長い内周側の永久磁石10aとステータS側の磁束収集片19とのあいだに形成されるエアギャップを、精度よく、かつ、確実に保持できるように構成されている。
【0020】
また、左側スリーブ20の一端側に設けられる固定用ナット21の外径は、左側スリーブ20の外径よりも大径に形成されている。これによって、左側軸受け部材9と左側スリーブ20とのあいだに設けられるシール剤がステータS側に浸入するのを、固定用ナット21の外径側部位により防止することができ、ハブダイナモ3の耐久性を一層高めることができるように構成されている。さらに、シール剤がステータS側に浸入しない分、シール剤が左側軸受け部材9と左側スリーブ20とのあいだに長期にわたり存在することになって、塵や雨水が外部から浸入するのが防止され、ステータSの防錆効果が図れて、エアギャップが一層確実に保持されて回転不良等の不具合を防止できるように構成されている。
【0021】
さらに、左側スリーブ20は左側軸受け部材9よりも軸芯方向に長く形成されていて、ケーシング6が組込まれた状態において固定用ナット21と左側軸受け部材9とのあいだに隙間Lが形成されるように構成されている。これによって、シール剤のステータS側への浸入経路がラビリンス化して、ステータS側への浸入防止が一層効果的になるように配慮されている。尚、本実施の形態では、固定用ナット21と位置決め用ナット15とのあいだに隙間が形成されており、該隙間によって、シール剤のステータS側への浸入経路が一層ラビリンス化されるように構成されている。
【0022】
叙述の如く構成された本形態において、ハブダイナモ3は第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3が設けられて、各第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3毎に発電することにより高電圧の電力を得ることができるものとなる。そして、このものにおいて、エンドブラケット7、ステータSが組込まれたハブ軸側部材をケーシング側部材に組込むにあたり、ケーシング底部6bを軸承するための左側スリーブ20は、ハブ軸1への螺合量を調整することで位置調整自在となっていて、ハブ軸1のケーシング6組込み位置に対応する適位置に調整してからハブ軸1に固定されている。この結果、ステータSに寸法誤差が生じたような場合であっても左側スリーブ20位置とケーシング6側の左側軸受け部材9とが位置ズレすることがなく、左側軸受け部材9と左側スリーブ20との嵌合代が不足して、左側軸受け部材9に偏荷重が作用して耐久性を損なうようなことが防止され、ケーシング6の内周側に設けられる永久磁石10aとハブ軸1の外周に設けられる磁束収集片19との対向間隔であるエアギャップを精度よく保持することができて、長期にわたり優れた性能を有したハブダイナモとすることができる。
さらに、本実施の形態のハブダイナモ3は、第一、第二、第三コイル室CR1、CR2、CR3が設けられるが故に軸芯方向に長いものに形成されている。このため、エアギャップを所定の大きさで確実に保持するためにはハブ軸1に対するケーシング6の高い軸芯精度が求められるが、前記左側スリーブ20は円筒状体に形成されていて外周面の芯出し精度を高めることが容易であり、もって、従来のナット付きのスリーブを用いる場合のように、芯出し工程を別途実施することなく、発電の高効率化を図るためエアギャップを小さくするような設計変更にも容易に対応できて、コスト低下に寄与できる。
【0023】
このように、本発明が実施されたものにあっては、ケーシング底部6bの左側軸受け部材9に圧入する左側スリーブ20が、ハブ軸1に対して位置調整された状態で固定されているので、ケーシング6をハブ軸1に軸承したとき左側軸受け部材9との嵌合代が確実に確保され、ケーシング6が軸芯精度よく軸承されるものであるが、左側スリーブ20はハブ軸1に螺合する構成であるので、螺合量の調整でハブ軸1に対する固定位置を調整でき、所望の位置での位置決め作業が容易になるという利点がある。
【0024】
しかも、左側スリーブ20をハブ軸1に一体的に固定するための一体化手段として固定用ナット21を用いる構成としたので、左側スリーブ20のハブ軸1への固定を簡単、かつ、容易に行うことができる。
【0025】
さらに、このものでは、左側スリーブ20のステータS側に螺着される固定用ナット21の外径が左側スリーブ20の外径よりも大径に形成されていて、固定用ナット21の外径側部位が、左側スリーブ20と左側軸受け部材9との間に充填されるシール剤のステータS側への浸入を防止するため、ハブダイナモ3の耐久性が高められるうえ、シール剤を長期にわたり保持できるという利点もある。
【0026】
そのうえ、固定用ナット21と第二軸受け部材21とのあいだに隙間Lが形成されるように構成したので、シール剤のステータS側への浸入経路がラビリンス化され、シール剤のステータS側への浸入を一層防止することができる。
【0027】
尚、本発明は前記実施の形態に限定されないことは勿論であって、図5に示す第二の実施の形態のようにすることができる。
前記第二の実施の形態のハブダイナモは、第一の実施の形態の左側スリーブに換えてスリーブ24が用いられていること以外は全て前記第一の実施の形態と同様であり、スリーブ24以外の部材構成については第一の実施の形態と同様の符号を付すことで説明を省略する。
第二の実施の形態のスリーブ24は、左側軸受け部材9が外嵌固定される筒状体の本体部24aと、該本体部24aのステータS側端部(一端側)から外径側に突出するフランジ部24bとを備えた段差部を有した筒状体に構成されており、内周面には螺子溝24cが刻設されている。そして、スリーブ24は、ハブ軸1の他端側から螺合され、螺合量を調整してスリーブ本体部24aの位置がケーシング底部6bの配設位置に対応する位置となるように調整した後、ハブ軸1とスリーブ24との間に接着剤を充填することでハブ軸1に固定されるように構成されていて、ケーシング側部材にハブ軸側部材を組込んだとき、左側軸受け部材9とスリーブ本体部24aとの嵌合代が損なわれることによる不具合がない。そして、このものでも、本体部24aの軸芯方向の長さが左側軸受け部材9の軸芯方向長さよりも長く形成されていて、フランジ部24bと左側軸受け部材9とのあいだに隙間L1が形成されている。これによって、スリーブ24は、本体部24aが第一の実施の形態の左側スリーブと同様に機能し、フランジ部24bが第一の実施の形態の固定用ナット21と同様に機能して、前記と同様に優れた性能を長期にわたり発揮するハブダイナモを提供できるという効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、自転車の照明を点灯する電源等として有用であり、特にハブダイナモのコンパクト化を果す一方で、耐久性の優れたハブダイナモとして利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ハブ軸
3 ハブダイナモ
5 ロータ
6 ケーシング
7 エンドブラケット
8 右側軸受け部材
9 左側軸受け部材
10 ヨーク
12 主鉄心
13 副鉄心
17 コイルボビン
18 巻線
19 磁束収集片
20 左側スリーブ
20a 螺子溝
21 固定用ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車のハブ軸側に固定されるステータと、内周面に磁石が固定され車輪側に連結される筒状のロータとを備えてなるハブダイナモにおいて、前記ロータを、軸受け部材を介してハブ軸外周に回転自在に外嵌支持するにあたり、前記軸受け部材とハブ軸とのあいだに設けられる筒状のスリーブは、ハブ軸に対して軸芯方向位置調整自在に外嵌され、一体化手段を介してハブ軸に固定されていることを特徴とするハブダイナモ。
【請求項2】
スリーブは、内周面に螺子溝が刻設されてハブ軸に螺合するものとし、螺合位置を調整した後に一体化手段を介してハブ軸に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のハブダイナモ。
【請求項3】
一体化手段は、スリーブのステータ対向側の端部に設けた固定用ナットであることを特徴とする請求項2に記載のハブダイナモ。
【請求項4】
固定用ナットは、スリーブの外径よりも大径に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のハブダイナモ。
【請求項5】
固定用ナットは、軸受け部材との間に所定間隙が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のハブダイナモ。
【請求項6】
スリーブは、ステータ対向側の端部に外径側に延出するフランジ部が一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハブダイナモ。
【請求項7】
フランジ部は、軸受け部材との間に所定間隙が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のハブダイナモ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−152868(P2011−152868A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16221(P2010−16221)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】