説明

ハロゲン化有機化合物の分解方法

【課題】
従来の放射線分解方法は、照射後の廃液がアルカリ性であり、中和等の二次処理が必要であるという問題、及び分解に必要な吸収線量が1000kGy以上と非常に高く、実用的には処理コストが高いという問題があった。
【解決手段】
ハロゲン化有機化合物を含む非含水被処理液では有機溶剤及び/又は水を加え、ハロゲン化有機化合物を含む含水被処理液では有機溶剤を加え放射線を照射することにより溶液中のハロゲン化有機化合物の分解を促進し、処理する。有機溶剤は、被処理液に含まれる溶媒より高い誘電率をもつものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のハロゲン化有機化合物を含む産業廃液、ポリハロゲン化ビフェニル溶液、ハロゲン化ダイオキシン類で汚染した物質から抽出除去したことにより生じるハロゲン化ダイオキシン類を含む溶液、ダイオキシン類分析廃液、及びハロゲン化ベンゼン類の溶液の分解処理に関する。
【背景技術】
【0002】
上記、種々のハロゲン化有機化合物を含む産業廃液は、熱処理、化学的処理、光分解、プラズマ分解等により処理されている。
ダイオキシン類分析廃液及びダイオキシン類分析済み溶液に関しては、適切な処理方法が開発されるまで手をつけずに保管している状態である。
【0003】
この問題を解決する手段として、トランスフォーマーオイル中のポリ塩化ビフェニルをガンマ線照射により分解する方法(例えば、非特許文献1)やダイオキシン類で汚染した物質から有機溶剤で抽出したダイオキシン類を含む溶液に放射線照射することにより、ダイオキシンを分解する方法(例えば、特許文献1)が例示される。
【非特許文献1】ブルース・ジェイ・ミンチャー(Bruce J. Mincher)、 外4名、「トランスフォーマーオイル中のポリ塩化ビフェニルの放射線分解速度の向上 (Increasing PCB radiolysis rates in transformer oil)」、ラディエーション・フィジィックス・アンド・ケミストリー (Radiation Physics and Chemistry)、(オランダ)、エルゼビア(Elsevier)、2002年、第65巻、p.461−465
【特許文献1】特開2000−334205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1記載の処理方法は、トランスフォーマーオイル中のポリ塩化ビフェニルの放射線分解に関するものであり、アルカリ性イソプロパノールを添加することにより、イソプロパノールから生成したアセトンアニオンからの電子移動を含む連鎖反応機構で分解速度を向上させるものである。しかし照射後の廃液がアルカリ性であり、中和等の二次処理が必要であるという問題があった。
特許文献1の処理方法は、ダイオキシン類で汚染された物質又は液体を、有機溶媒で抽出処理してダイオキシン類を有機溶媒へ抽出し、その抽出有機溶媒に放射線を照射することによりダイオキシン類を分解処理する方法に関する。しかし、分解に必要な吸収線量が1000kGy以上と非常に高く、実用的には処理コストが高いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、上記の問題を解決するために、ハロゲン化有機化合物を含む非含水被処理液では有機溶剤及び/又は水を加え、ハロゲン化有機化合物を含む含水被処理液では有機溶剤を加え放射線を照射することにより溶液中のハロゲン化有機化合物の分解を促進し、処理する。添加する有機溶剤及び/又は水は、被処理液に含まれる溶媒より高い誘電率、すなわちおよそ20以上の誘電率をもつものであり、高い誘電率を持つ溶剤を添加して放射線を照射することにより、多量に生成する溶媒和電子がハロゲン化有機化合物の脱塩素化反応(低塩素化反応)を促進し、分解に必要な吸収線量を著しく低減する。
有効な高誘電率溶剤としては、脂肪族アルコール類、ジオール類、アセトアミド類、水及びこれらの混合液が例示される。添加する有機溶剤、水の量は限定しないが、ハロゲン化有機化合物、あるいはハロゲン化有機化合物を含む溶液中の溶媒と相分離を起こさない範囲とすることが好ましい。
【0006】
本発明はハロゲン化有機化合物を含む溶液に、誘電率の高い溶剤を添加した後、放射線を照射することにより発生した添加物由来の活性種で溶液中のハロゲン化有機化合物を分解することを特徴とするものであり、放射線の種類、線量率及び線量を限定するものではない。
【発明の効果】
【0007】
以上述べてきたように本発明によれば、ハロゲン化有機化合物を含む溶液に、アルコール等の誘電率の高い溶剤を添加することにより、ハロゲン化有機化合物からの放射線照射による脱塩素反応が促進され、ハロゲン化有機化合物が低線量で容易に分解され、通常の廃液として処分できる程度にまでハロゲン化有機化合物の濃度を低減できる。また、ハロゲン化有機化合物を含む溶液に誘電率の高い溶剤を添加し照射するのみで、中和等の二次処理を必要としない。
本発明は、種々のハロゲン化有機化合物を含む産業廃液、ポリハロゲン化ビフェニル溶液、ハロゲン化ダイオキシン類溶液、ハロゲン化ベンゼン類の溶液に含まれるハロゲン化有機化合物を、容易、かつ効率的に分解することを課題として研究の結果完成されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者は、溶液中のハロゲン化有機化合物を放射線照射により分解するに際し、被処理液に各種の有機溶剤及び/又は水を添加して実施することにより、分解率が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。これは添加する各種有機溶剤及び水が、ハロゲン化有機化合物からの脱塩素化反応(低塩素化反応)及び分解を促進するために分解率が上がると考えられる。
【0009】
上記添加する有機溶剤としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール等があげられる。これらは単独、及び混合液として使用されることができる。また、水との併用も可能である。被処理溶液に含まれる溶媒に対する添加する有機溶剤及び/又は水の添加比率は、ハロゲン化有機化合物溶液と相分離を起こさない程度が好ましい。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
ハロゲン化有機化合物の一つであるペンタクロロベンゼンを、ノナンとエタノールの混合液、又はノナンとエタノールとエチレングリコールの混合液に溶解させ、60Co ガンマ線を0.5〜15kGy照射した後に、ペンタクロロベンゼンの濃度を液体クロマトグラフで分析し、比較した。その結果を図1に示す。
即ち、図1は、ハロゲン化有機化合物の一つであるペンタクロロベンゼンを含むノナン溶液に、溶液中の溶媒の誘電率より高い誘電率をもつ有機溶剤、すなわち、エタノール、又はエタノールとエチレングリコールを添加して、ガンマ線を0.5〜15kGy照射した後にペンタクロロベンゼンの濃度を測定した結果を示す図である。●はノナンとエタノールの容積比1:1の混合液中で照射した時のペンタクロロベンゼンの濃度、○はノナン、エタノール、エチレングリコールの容積比1:1:1の混合液中で照射した時のペンタクロロベンゼンの濃度を示す。
【0011】
(比較例1)
実施例1に用いたペンタクロロベンゼンをノナンに溶解させ、実施例1と同じ条件でガンマ線を照射し、ペンタクロロベンゼンの濃度を測定した。その結果を図2に示す。
即ち、図2は、ペンタクロロベンゼンを含むノナン溶液に、ガンマ線を0.5〜15kGy照射した後にペンタクロロベンゼンの濃度を測定した結果を示す図である。
【0012】
(実施例2)
ハロゲン化有機化合物の一つであり、毒性等価係数をもつ全てのジベンゾ−パラ−ジオキシン及びジベンゾ−ジベンゾフランを含むダイオキシン類をノナンとエタノールの混合溶媒に溶解させ、60Coガンマ線を10〜320kGy照射した後、濃縮し、ガスクロマトグラフ質量分析計でダイオキシン類の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
即ち、表1は、ハロゲン化有機化合物の一つであり、毒性等価係数のあるダイオキシン類を含む溶液に、誘電率の高い有機溶剤を添加して、ガンマ線を10〜320kGy照射した後にダイオキシン類の濃度を測定した結果を示す表である。
(比較例2)
実施例2に用いたダイオキシン類をノナンに溶解させ、実施例2と同じ条件でガンマ線を照射した。その結果を実施例2とともに表1に示す。
【表1】

【0013】
本発明は、種々のハロゲン化有機化合物を含む産業廃液、ポリハロゲン化ビフェニル溶液、ハロゲン化ダイオキシン類溶液、ハロゲン化ベンゼン類の溶液に含まれるハロゲン化有機化合物を、容易、かつ効率的に分解することを課題として研究の結果完成されたものである。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、種々のハロゲン化有機化合物を含む産業廃液、ポリハロゲン化ビフェニル溶液、ハロゲン化ダイオキシン類溶液、ハロゲン化ベンゼン類の溶液に含まれるハロゲン化有機化合物を、容易、かつ効率的に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で、ハロゲン化有機化合物の一つであるペンタクロロベンゼンを含むノナン溶液に、エタノール、又はエタノールとエチレングリコールを添加して、ガンマ線を0.5〜15kGy照射した後にペンタクロロベンゼンの濃度を測定した結果を示す図である。
【図2】比較例1で、ペンタクロロベンゼンを含むノナン溶液に、ガンマ線を0.5〜15kGy照射した後にペンタクロロベンゼンの濃度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射により溶液に含まれるハロゲン化有機化合物を処理する方法であって、被処理溶液に有機溶剤及び/又は水を加えることを特徴とする溶液中のハロゲン化有機化合物の分解処理方法。
【請求項2】
被処理溶液に加える有機溶剤の誘電率が、被処理溶液の溶媒より高いことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
被処理溶液に加える有機溶剤が一種類以上であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
被処理溶液に含まれるハロゲン化有機化合物が、ハロゲン化ダイオキシン類、ポリハロゲン化ビフェニル類及びハロゲン化ベンゼン類の少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法。


























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−296694(P2006−296694A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121791(P2005−121791)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】