説明

ハードコートフィルム

【課題】点欠陥や干渉縞を低減し、かつ、防汚性、密着性、表面滑り性に優れ、表面硬度が高いハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】トリアセチルセルロースフィルム(A)11の少なくとも片面に、ハードコート塗液を硬化させたハードコート層(D)12が積層したハードコートフィルム10であって、前記ハードコート塗液は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマー(B)と、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)とを主成分とするUV硬化型樹脂成分と、前記(A)を溶解または膨潤させる溶剤(E)とを含有し、25℃における表面張力が20〜25mN/mであり、前記(D)は、前記(A)との屈折率差が0.1以下、表面の水の接触角が80°以上、70μm以上の点欠陥が当該ハードコートフィルム1mあたり2個以下であるハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種ディスプレイに用いられるプラスチックフィルムなどの光学フィルムに、表面硬度を向上させる目的でアクリル系UV樹脂等をコーティングして、ハードコート性を付与させていた。
このような光学フィルムは、特に至近距離で目視されることの多いコンピューター等の画像表示装置に用いられる場合、異物、ハジキ等の点状の欠陥(点欠陥)に対して非常に厳しい品質が要求される。また、近年、テレビの大型化に伴い大きなフィルムが用いられるようになり、大面積において点欠陥がない状態に近付けることが求められるようになってきた。
さらに、携帯電話等のディスプレイなどは、直接指で触れることが多いため、該ディスプレイに用いられる光学フィルムには、高い表面硬度や、優れた指紋拭取り性などの防汚性が求められる。
【0003】
点欠陥を低減させる手段として、液晶性ディスコティック化合物を溶解させた有機溶媒溶液を、シートの膜面に塗布する前にろ過する工程を含む長尺状光学補償シートの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、特許文献1に記載の方法では、ろ過工程を含むため、製造工程が増え、生産性が低下しやすかった。また、ハジキによる欠陥(ハジキ欠陥)を十分に低減させることが困難であった。
そこで、フッ素系、シリコーン系の界面活性作用をもつ成分を含有した光学フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2によれば、ハジキ欠陥を低減させると共に、表面の濡れ性、防汚性、防塵性、帯電性を調整することが可能となる。
【0004】
一方、防汚性を向上させる手段として、ハードコート層上に防汚層が設けられたフィルムが提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
また、溶剤を使用せず、カチオン硬化法により空気界面で偏析及び/又は析出しやすい防汚及び/又は潤滑層を形成する物質を、予めハードコート組成物中に含有させ、基板上で硬化させることにより防汚機能を持つハードコート層を得る方法が報告されている(例えば、特許文献5参照。)。
なお、防汚性を向上させるには、ハードコート層の表面の滑り性を高めてもよい。
【0005】
また、表面硬度を高めるには、通常、ハードコート層の膜厚を厚くすればよい。しかし、ハードコート層を形成する組成物の多くが重合性組成物であることから、膜厚を厚くすると組成物を硬化してハードコート層を形成させる際に体積収縮が起こり、ハードコート層や基材フィルムが変形(カール)することがあった。
そこで、ハードコート層や基材フィルムの変形を抑えるために、ハードコート層と基材フィルムとの密着性を向上させる試みがなされている。例えば、透明基材及びハードコート層の間にプライマー層を設けたハードコート膜が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【特許文献1】特開2000−304926号公報
【特許文献2】特開2006−154709号公報
【特許文献3】特開2003−94588号公報
【特許文献4】特開2003−260761号公報
【特許文献5】特開2005−194485号公報
【特許文献6】特開2002−338720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の光学フィルムでは、その製造過程においてろ過工程を必要としており、生産性が低下しやすかった。
また、特許文献3、4に記載のフィルムでは、製造コストが上昇したり、生産性が低下したりする場合があった。
さらに、特許文献5に記載の方法では、溶剤を使用しないため、ハードコート組成物のレベリングが悪く、ムラの発生や、ハジキ等の点欠陥が多く発生することがあった。
また、特許文献6のようにプライマー層を設ける場合、ハードコート層と基材フィルムとの屈折率差によって干渉縞が発生する、ヘイズが上昇する、製造コストが上昇するなどの問題があった。
【0007】
本発明は上記事情を考慮したものであり、点欠陥や干渉縞を低減し、かつ、防汚性、密着性、表面滑り性に優れ、表面硬度が高いハードコートフィルムの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ハードコート層を形成するハードコート塗液の表面張力が、点欠陥の低減や防汚性、表面滑り性、表面硬度の向上に影響することを見出した。そして、ハードコート塗液に反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物を用いることで表面張力を調整できることを見出した。
また、フィルム基材を溶解または膨潤させる溶剤を用いることにより、干渉縞の発生を抑制しつつ、ハードコート層と基材フィルムとの密着性を高めることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のハードコートフィルムは、トリアセチルセルロースフィルム(A)の少なくとも片面に、ハードコート塗液を硬化させたハードコート層(D)が積層したハードコートフィルムであって、前記ハードコート塗液は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマー(B)と、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)とを主成分とするUV硬化型樹脂成分と、前記トリアセチルセルロースフィルム(A)を溶解または膨潤させる溶剤(E)とを含有し、25℃における表面張力が20〜25mN/mであり、前記ハードコート層(D)は、前記トリアセチルセルロースフィルム(A)との屈折率差が0.1以下、表面の水の接触角が80°以上、70μm以上の点欠陥が当該ハードコートフィルム1mあたり2個以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)は、アクリロイル基を有し、かつ、含有量が多官能性モノマー(B)100質量部に対して0.01〜0.3質量部であることが好ましい。
また、前記溶剤(E)が、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
さらに、前記溶剤(E)が、25〜75質量%の酢酸メチルと、75〜25質量%のメチルエチルケトンとからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、点欠陥や干渉縞を低減し、かつ、防汚性、密着性、表面滑り性に優れ、表面硬度が高いハードコートフィルムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明のハードコートフィルムの一実施形態を示す断面図である。本発明のハードコートフィルム10は、基材フィルムとして用いるトリアセチルセルロースフィルム(A)11の少なくとも片面に、ハードコート層(D)12が積層している。
【0013】
トリアセチルセルロースフィルム(A)(以下、「(A)フィルム」という場合がある。)11は、複屈折が少なく、透明性、屈折率、分散などの光学特性や、耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性の点に優れており、さらに市販の溶剤によって容易に溶解または膨潤できる。(A)フィルム11としては、市販のものを用いることができ、例えば、富士写真フィルム(株)製の「TDY80」などが挙げられる。
また、(A)フィルム11には、安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。
【0014】
(A)フィルム11の膜厚は、特に限定されないが、20〜200μmが好ましく、40〜80μmがより好ましい。膜厚が20μm未満であると、基材フィルムとしての物理強度が不足してしまう。一方、膜厚が200μmより厚くなると、基材フィルムとしての取り扱いが困難となる。
【0015】
ハードコート層(D)12は、ハードコート塗液を硬化させて得られるものである。
ハードコート塗液は、UV硬化型樹脂成分と、前記(A)フィルムを溶解または膨潤させる溶剤(E)とを含有する。
UV硬化型樹脂成分は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマー(B)(以下、「(B)成分」という場合がある。)と、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)(以下、「(C)成分」という場合がある。)とを主成分とする。UV硬化型樹脂成分の含有量は、ハードコート塗液100質量%中、20〜80質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。含有量が20質量%未満であると、表面硬度が低下し、一方、含有量が80質量%を超えると、ハードコートフィルムの面性が悪化する。
なお、本発明において、面性のよいハードコートフィルムとは、基材上に形成されるハードコート層(D)の面内での膜厚均一性が高いハードコートフィルムのことである。一方、面性の悪いハードコートフィルムとは、ハードコート層(D)の面内での膜厚が不均一で、ムラが確認されるようなハードコートフィルムのことである。
【0016】
(B)成分は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する多官能性モノマーを主成分とする。多官能性モノマーとしては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリンサンエステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、市販の多官能性モノマーを使用してもよい。これら多官能性モノマーは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。さらに、必要で有れば単官能モノマーと併用して共重合させてもよい。
【0017】
(B)成分の含有量は、UV硬化型樹脂成分100質量%(ただし(C)成分を除く)中、50〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。含有量が50質量%未満であると、十分な硬度を有するハードコート層(D)が得られにくくなる。
【0018】
(C)成分は、反応型のシリコーン系置換基を有する部位と、導入有機基としてポリエーテル変性基および有機反応基を有する化合物である。(C)成分は、有機反応基として(メタ)アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、ビニル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基を有するのが好ましく、中でもアクリロイル基を有するのが好ましい。これらの導入有機基の導入位置は、シリコーン系置換基に対し、側鎖、片末端、両末端、側差両末端のいずれでもよい。
このような(C)成分としては、市販のものを使用することができる。例えば、ビックケミージャパン(株)製の「BYK−UV3500」、「BYK−UV3570」などが挙げられる。
【0019】
(C)成分が、反応型のシリコーン系置換基を有することにより、硬化後のハードコート層(D)はブリードしにくくなり、高い防汚性および表面滑り性を持続するハードコート層(D)を形成することができる。その結果、高い耐擦傷性を得ることができる。
また、ポリエーテル変性基を有することにより、ハードコート層(D)の表面張力を低く調整することができる。その結果、塗膜の流動性が良くなりハードコート層(D)表面でのハジキなどの点欠陥を抑制することが可能となる。また、ハードコート層(D)表面の水の接触角を高く調整することができ、その結果、セロファンテープなどをハードコート層(D)表面に付着させても剥がれやすくなるため、ハードコート層(D)と(A)フィルムとの密着性を向上させることも可能となる。
【0020】
(C)成分の含有量は、(B)成分100質量部に対して0.01〜0.3質量部が好ましく、0.03〜0.1質量部がより好ましい。含有量が0.01質量部未満であると、ハジキ欠陥などの点欠陥が発生しやすくなったり、防汚性が低下しやすくなったりする。一方、含有量が0.3質量部を超えると、ハードコートフィルムの製造において、ロール形態に巻き取る際、巻きずれ等の障害が生じやすくなる。
【0021】
本発明において、UV硬化型樹脂成分は、主成分である(B)成分と(C)成分のみからなってもよく、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、架橋性ポリマー(メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂)などが挙げられる。
【0022】
溶剤(E)は、前記(A)フィルムを溶解または膨潤させる有機溶剤である。このような有機溶剤を用いることにより、ハードコート層(D)と(A)フィルムとの密着性をより向上させることが可能となる。
溶剤(E)としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、γ−プチロラクトン等のエステル類;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類などが挙げられる。中でも、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンが好ましく、酢酸メチル、メチルエチルケトンがより好ましい。これら溶剤は1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、メチルエチルケトン単独、または、酢酸メチルとメチルエチルケトンの混合溶剤が好ましい。なお、溶剤(E)が酢酸メチルとメチルエチルケトンの混合溶剤の場合、25〜75質量%の酢酸メチルと、75〜25質量%のメチルエチルケトンとからなることが好ましい。
【0023】
一方、(A)フィルムを溶解または膨潤できない溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類などが挙げられる。
なお、本発明において、「(A)フィルムを溶解させる溶剤」とは、(A)フィルムを溶剤に浸漬させた際に、(A)フィルムの初期の体積の半分以上を溶解させる溶剤のことである。また、「(A)フィルムを膨潤させる溶剤」とは、(A)フィルムを溶剤に浸漬させた際に、(A)フィルムに吸収され、(A)フィルムの体積を増加させる溶剤のことである。
【0024】
溶剤(E)の含有量は、ハードコート塗液100質量%中、20〜80質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。含有量が20質量%未満であると、ハードコート層(D)の面性が悪化しやすくなる。一方、含有量が80質量%を超えると、十分な硬度を有するハードコート層(D)が得られにくくなる。
なお、溶剤(E)は、前記(B)成分100質量部に対して20〜100質量部含有するのが望ましく、より望ましくは40〜100質量部である。
【0025】
本発明のハードコート塗料は、上述したUV硬化型樹脂成分や溶剤(E)の他にも、光重合開始剤、光増感剤を含有してもよい。また、ハードコート層(D)の特性を改良するための改質剤を含有してもよい。
光重合開始剤としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジベンゾイル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アセトフェノン、2−クロロチオキサントン等が挙げられる。これら光重合開始剤は1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
光重合開始剤の含有量は、ハードコート塗料100質量%中、0.5〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、光照射した際に、十分な硬化反応が進行しにくくなる。一方、含有量が5質量%を超えると、ハードコート塗料全体に、十分に照射した光が行き届かないうちに重合反応が開始してしまう場合がある。
【0026】
光増感剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、トリフェニルホスフィン等のアルキルフォスフィン系、β―チオジグリコール等のチオエーテル系などが挙げられる。これら光増感剤は1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
光増感剤の含有量は、ハードコート塗料100質量%中、0.1〜3質量%が好ましい。
改質剤としては、泡消剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤などが挙げられる。
改質剤の含有量は、ハードコート塗料100質量%中、0.1〜3質量%が好ましい。
【0027】
上述した各成分を含有したハードコート塗液は、表面張力が20〜25mN/mとなる。表面張力が20mN/m未満であると、(A)フィルムへの濡れ性が悪くなり、面性が悪化する。一方、表面張力が25mN/mを超えると、ハードコート層(D)の防汚性が低下したり表面滑り性が低下したりし、指紋などの油分が付着した際に拭き取りにくくなる。その結果、耐擦傷性が低下しやすくなる。表面張力は、22〜24mN/mとなるのが好ましい。
【0028】
このようなハードコート塗液を、前記(A)フィルムの少なくとも片面に塗布し、さらに硬化させて、ハードコート層(D)を形成させる。
ハードコート層(D)の膜厚は、必要とされる硬度により決定されるが、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは3〜12μmである。膜厚が20μmより厚くなると、塗工精度が低下し、ハードコートフィルムとした際に取り扱いにくくなる。
【0029】
ここで、本発明のハードコートフィルムの製造方法について説明する。
まず、ハードコート塗液を、前記(A)フィルムの少なくとも片面に塗布する。
塗布方法としては、ウェットコーティング法(ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等)などの公知の塗工手段を用いて塗布することができる。
【0030】
次いで、(A)フィルム上に塗布されたハードコート塗液を乾燥する。
乾燥方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0031】
次いで、乾燥させたハードコート塗液に、例えば紫外線を照射してハードコート層(D)を形成させ、ハードコートフィルムを得る。
紫外線照射においては、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の有電極ランプの他、フュージョンランプに代表される無電極ランプ等を使用することができる。紫外線照射量は、通常、100〜800mJ/cmが好ましい。
なお、上述した紫外線照射以外にも、ハードコート塗液を加熱することにより硬化させて、ハードコート層(D)を形成させてもよい。
【0032】
本発明においては、ハードコート層(D)を形成させた後に必要に応じて、図1に示すように、ハードコート層(D)12上に機能層13を設けてもよい。機能層13は、反射防止性能、帯電防止性能、防汚性能、防眩性能、電磁波シールド性能、赤外線吸収性能、紫外線吸収性能、色補正性能等を有するものが挙げられる。具体的には、反射防止層、帯電防止層、防汚層、防眩層、電磁波遮蔽層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、色補正層等が挙げられる。
これらの機能層は単層であってもよく、複数の層であってもよい。例えば、反射防止層の場合、低屈折率層単層から構成されてもよく、低屈折率層と高屈折率層の繰り返しによる複数層から構成されていてもよい。
また、機能層13は、例えば、防汚性能を有する反射防止層のような、1層で複数の機能を有するものであってもよい。
なお、機能層を設ける方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0033】
このようにして得られるハードコートフィルムは、(A)フィルムとハードコート層(D)の屈折率差が0.1以下である。屈折率差が0.1を超えると、干渉縞が発生しやすくなる傾向にある。屈折率差は、0.05以下となるのが好ましい。
また、ハードコート層(D)の表面の水の接触角が80°以上となる。水の接触角が80°未満となると、ハードコート層(D)の表面滑り性が低下し、指紋などの油分が付着した際に拭き取りにくくなる。水の接触角は、90°以上となるのが好ましい。
さらに、ハードコート層(D)において、70μm以上の点欠陥がハードコートフィルム1mあたり2個以下となる。
なお、「接触角」とは、固体と液体が接する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角のことであり、本発明においては、液体(水)を含む方の角度を指す。
【0034】
本発明のハードコートフィルムは、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイといった各種のディスプレイ表面と貼りあわせることができ、耐擦傷性に優れたディスプレイを提供することが可能となる。
【0035】
以上のように、本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層(D)を形成するものとして、多官能性モノマー(B)と、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)とを主成分とするUV硬化型樹脂成分と、トリアセチルセルロースフィルム(A)を溶解または膨潤させる溶剤(E)とを含有したハードコート塗液を用いている。これにより、ハードコート塗液の表面張力が20〜25mN/mとなり、形成するハードコート層(D)は、トリアセチルセルロースフィルム(A)との屈折率差が0.1以下、表面の水の接触角が80°以上となる。その結果、干渉縞を低減し、かつ、防汚性、密着性、表面滑り性に優れ、表面硬度が高いハードコートフィルムが得られる。また、ハードコート層(D)において、70μm以上の点欠陥がハードコートフィルム1mあたり2個以下となるため、点欠陥を低減したハードコートフィルムが得られる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるわけではない。
【0037】
[使用材料]
以下の実施例および比較例に用いた共通成分は下記の通りである。
<ハードコート層形成用組成物>
多官能性モノマー(B):「PE−3A」(共栄社化学(株)製)。
反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C):「BYK−UV3500」(ビックケミージャパン(株)製)。
反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C):「BYK−UV3570」(ビックケミージャパン(株)製)。
光重合開始剤(E):「イルガキュアー184」(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)。
その他:アクリルコポリマー(ビックケミージャパン(株)製、「BYK−350」)。
【0038】
[測定・評価方法]
ハードコートフィルムの特性、性能を、下記に示す方法に従って測定、評価した。
<塗液特性>
(1)表面張力
ハードコート塗液の表面張力を、表面張力計(協和界面科学(株)製、「CBVP−Z型」)を用いて、25℃にて測定した。
【0039】
<外観>
(2)点欠陥
ハードコートフィルムを1mの大きさにカットして得られたサンプルを黒板の上に置き、蛍光灯による反射検査を行い、欠陥を目視により確認した。その後、これらの欠陥を、光学顕微鏡を用いて観察し、核となる異物のないハジキ欠陥の数を求めた。
(3)屈折率差
基材フィルムと、ハードコート層の屈折率を、アッベ屈折計((株)アタゴ製、「NAR−1T」)を用いて測定し、両者の差を求めた。
(4)干渉縞
(2)のハジキ欠陥の評価に用いたサンプルと同様のものを、光学顕微鏡にて観察し、干渉縞が見られるかどうかを確認した。
【0040】
<防汚性>
(5)水の接触角
接触角計(協和界面科学(株)製、「CA−X型」)を用いて、乾燥状態(20℃、65%RH)で直径2mmの液滴を針先に作った。これをハードコートフィルムのハードコート層の表面に接触させて液滴を作り、該液滴を含む方の角度を求めた。なお、液滴を作るに際しては、蒸留水を使用した。
(6)油性インク拭取り性
ハードコートフィルムのハードコート層の表面に、油性ペンでインクを付着させ、付着したインクをセルロース製不織布(旭化成(株)製、「ベンコットM−3」)で拭き取り、その取れ易さを目視により判定した。判定基準を以下に示す。
○:インクを完全に拭き取ることが出来る。
△:インクの拭き取り跡が残る。
×:インクを拭き取ることが出来ない。
(7)指紋拭取り性
ハードコートフィルムのハードコート層の表面に、指紋を付着させ、付着した指紋をセルロース製不織布(旭化成(株)製、「ベンコットM−3」)で拭き取り、その取れ易さを目視により判定した。判定基準を以下に示す。
○:指紋を完全に拭き取ることが出来る。
△:指紋の拭き取り跡が残る。
×:指紋の拭き取り跡が拡がり、拭き取ることが出来ない。
【0041】
<機械特性>
(8)密着性
クロスカットテープピール試験に基き、密着性の評価を行った。
ハードコートフィルムのハードコート層の表面を1mm角の大きさで100点カットし、その上にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製、工業用24mm巾)を密着させた後、セロテープ(登録商標)を引き剥がした。剥離の有無を目視で確認し、100個中、剥離せずに残存する個数を求めた。
(9)耐擦傷性
スチールウール試験に基き、耐擦傷性の評価を行った。
ハードコートフィルムのハードコート層の表面を、スチールウール(日本スチールウール(株)製、「ボンスター#0000」)を用いて250g/cm、500g/cm、1000g/cmの力で各々10往復擦り、傷の有無を目視判定した。判定基準を以下に示す。
○:傷を確認出来ない。
△:数本傷を確認出来る。
×:傷が多数確認出来る。
【0042】
[実施例1]
表1に示す配合量(質量部)の成分を撹拌混合して、ハードコート塗液を調製した。
次いで、基材フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム(株)製、「TDY80」、膜厚:80μm)をロール形態で巻き出し、マイクログラビアコーティング法にて、ハードコート層の膜厚が約4.5μmになるように、搬送速度30m/分の条件でハードコート塗液を塗布した。
その後、50℃で30秒間乾燥させ、無電極Hバルブランプ(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量280mJ/cmの紫外線を照射して、基材フィルム上にハードコート層を形成させ、ハードコートフィルムを得、該ハードコートフィルムを巻き取った。
調製したハードコート塗液および得られたハードコートフィルムの各測定・評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2、比較例1〜4]
ハードコート塗液の成分および配合量を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを製造し、各測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
なお、比較例2では、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)に代わりにアクリルコポリマーを用い、比較例4では、溶剤(E)の代わりにトルエンを用いた。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、ハードコート塗液の表面張力が、20〜25mN/mであり、ハードコート層と基材フィルムとの屈折率差が0.1以下であり、ハードコート層の表面の水の接触角が80°以上である、実施例のハードコートフィルムは、70μm以上の点欠陥がハードコートフィルム1mあたり0個であった。また、干渉縞が見えなかった。さらに、油性インクや指紋の拭取り性に優れており、表面滑り性や防汚性が良好であった。また、密着性に優れも優れていた。さらに、耐擦傷性も良好であり、高い表面硬度を得ることができた。
一方、比較例1、2は、ハードコート塗液に反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)を含有させなかったため、ハードコート塗液の表面張力が25mN/mを超え、ハードコート層の表面の水の接触角が80°未満となった。そのため、70μm以上の点欠陥が認められた。特に比較例1のハードコートフィルムは、点欠陥が15個もあった。さらに、防汚性、表面滑り性が実施例に比べて劣っていた。
比較例3は、ハードコート塗液に反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)を含有させたものの、その配合量が少なかったため、点欠陥や、防汚性、表面滑り性が比較例1、2に比べて若干改善されたが、実施例に比べて劣っていた。
比較例4は、溶剤(E)の代わりにトリアセチルセルロースフィルム(基材フィルム)を溶解または膨潤できない溶剤(トルエン)を用いたため、ハードコート層の表面に干渉縞が確認された。また、密着性が実施例に比べて劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のハードコートフィルムの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10:ハードコートフィルム
11:トリアセチルセルロースフィルム(A)(基材フィルム)
12:ハードコート層(D)
13:機能層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセチルセルロースフィルム(A)の少なくとも片面に、ハードコート塗液を硬化させたハードコート層(D)が積層したハードコートフィルムであって、
前記ハードコート塗液は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマー(B)と、反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)とを主成分とするUV硬化型樹脂成分と、前記トリアセチルセルロースフィルム(A)を溶解または膨潤させる溶剤(E)とを含有し、25℃における表面張力が20〜25mN/mであり、
前記ハードコート層(D)は、前記トリアセチルセルロースフィルム(A)との屈折率差が0.1以下、表面の水の接触角が80°以上、70μm以上の点欠陥が当該ハードコートフィルム1mあたり2個以下であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記反応型ポリエーテル変性シリコーン化合物(C)は、アクリロイル基を有し、かつ、含有量が多官能性モノマー(B)100質量部に対して0.01〜0.3質量部であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記溶剤(E)が、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記溶剤(E)が、25〜75質量%の酢酸メチルと、75〜25質量%のメチルエチルケトンとからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコートフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−239724(P2008−239724A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80436(P2007−80436)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】