説明

ハードディスク用被膜形成組成物

【課題】ハードディスクの基板に形成されたナノオーダーのパターンを埋め込み乃至平坦化し、非磁性体として用いられるポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】フェニルシルセスキオキサンを含むハードディスク用被膜形成組成物。フェニルシルセスキオキサンが下記式(1):


(式中Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基である。Rは炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。)で示される加水分解性シランの加水分解縮合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用被膜形成組成物に関し、さらに詳述すると、ハードディスクの基板に形成されたナノオーダーのパターンを埋め込み乃至平坦化し、非磁性体として用いられるポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクの記録媒体への記録は高密度化の一途を辿っている。ハードディクスはこれらの要求に伴い新しい垂直磁気記録方式が見出され、より高い記録密度を達成できると言われている(特許文献1を参照)。
【0003】
記録密度を高めるために、磁性体と非磁性体とが微細に混在したパターンを形成する必要あり、これらのパターンを有する次世代のディスクリート・トラック・メディア(DTMと略す)、次々世代のビット・パターン・メディア(BPMと略す)の開発が急務となっている。従来のハードディスクの基板表面にはパターンが形成されていなかったが、DTM及びBPMにはパターンが存在するため、この磁性体と非磁性体とを分離する新たな技術が必要とされている。これらのパターンを形成する方法としては、フォトリソグラフィー乃至ナノインプリントを利用することが知られている。
【0004】
一方、従来のハードディスクの表面を平滑に処理する方法として、ポリシロキサン組成物を用いることが報告されている(特許文献2参照)。この報告されている技術は、ハードディスクの表面を平滑にするために、表面研磨を用いる代わりにポリシロキサン組成物を塗布するという技術であり、微細なパターンの中で磁性体と非磁性体とを分離し、非磁性体を形成する技術ではない。また、微細な段差を有するハードディスク基板への埋め込み性は非常に重要であるが、埋め込み性に関する実施例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−342210号公報
【特許文献2】特開2001−155327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性体と非磁性体とを分離する方法としては、磁性体が形成された後に非磁性体を化学気相成長(CVDと略す)法やスパッタリング法などのドライプロセスで形成させることが一般的である。CVD法及びスパッタリング法はハードディスク基板を処理する時間(タクトタイム)が長く、コストが高いため、大量生産する際のスループットが悪い。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、新たなハードディスクの方式であるDTM及びBPMの磁性体と非磁性体とを分離する際にドライプロセスを用いることなく、ウェットプロセスを用い、ハードディスクの基板に形成されたナノオーダーのパターンを埋め込み乃至平坦化し、非磁性体として用いられるポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は第1観点として、フェニルシルセスキオキサンを含むハードディスク用被膜形成組成物、
第2観点として、フェニルシルセスキオキサンが下記式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基である。Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)で示される加水分解性シランの加水分解縮合物である第1観点に記載の被膜形成組成物、
第3観点として、フェニルシルセスキオキサンが下記式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
〔式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。nは3〜5の整数である。Rはそれぞれ水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、アルコキシアルキレンオキシ基、式(3):
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。nは3〜5の整数である。)、式(4):
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)、又はそれらの組み合わせである。〕で示される化合物である第1観点に記載の被膜形成組成物、
第4観点として、フェニルシルセスキオキサンが、式(2)と式(5):
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)の混合物である第1観点に記載の組成物、
第5観点として、フォトリソグラフィーによって作製されたハードディスク上のパターンの埋め込み乃至平坦化に用いられる第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の被膜形成組成物、
第6観点として、熱乃至光インプリントによって作製されたハードディスク上のパターンを埋め込み乃至平坦化するのに用いられる第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の被膜形成組成物、
第7観点として、第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載の被膜形成組成物を備えるハードディスク、及び
第8観点として、第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載の被膜形成組成物を非磁性体として備えるハードディスクである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリシロキサン組成物は、ドライプロセスを経ることなく、ウェットプロセスで非磁性体を形成することが可能であり、安価で且つ高品質のハードディスクを大量生産する際のスループットが向上する。また、形成された非磁性体は磁性体と完全に機能分離できるため、ハードディスクの磁気記録ミスを抑制できる。さらに、磁性体と非磁性体とが平滑に存在するハードディスク表面となるため、読み取り乃至書き取り部分である磁気ヘッドがハードディスク上を安定した軌道で浮上しながら移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】被膜形成組成物を塗布する前の構造物付き基板の断面図。断面SEMで100000倍で観察した写真を示す。
【図2】実施例1で得られた被膜形成組成物を構造物付き基板にスピンコーターを用いて膜厚100nmで被覆し、150℃5分間の焼成を行い得られた基板の断面図。断面SEMで100000倍で観察した写真を示す。
【図3】比較例1で得られた被膜形成組成物を構造物付き基板にスピンコーターを用いて膜厚100nmで被覆し、150℃5分間の焼成を行い得られた基板の断面図。断面SEMで100000倍で観察した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明はフェニルシルセスキオキサンからなるネットワーク状のポリシロキサンを含むハードディスク用被膜形成組成物である。
【0022】
本願発明ではフェニルシルセスキオキサンと溶剤とを含む。そして任意成分として界面活性剤等を含有することができる。上記被膜形成組成物における固形分は、例えば0.1〜100質量%、又は0.1〜50質量%、又は0.1〜25質量%とすることができる。ここで固形分とは被膜形成組成物の全成分から溶剤成分を除いたものである。固形分が100質量%とは溶剤を含まないことを示し、100質量%以外の場合は溶剤を含む。
固形分中に占める加水分解性シランの加水分解縮合物(フェニルシルセスキオキサン)の割合は、20質量%以上であり、例えば50〜100質量%、60〜100質量%、70〜100質量%である。
本願発明に用いられるシルセスキオキサンはリング状構造、かご状構造、又はラダー構造を有していて、これらにランダム構造が付加されていても良い。
【0023】
上記フェニルシルセスキオキサンは式(1)で示される加水分解性シランの加水分解縮合物(ポリシロキサン)として用いることができる。
【0024】
式(1)において、Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基である。mは0〜5の整数である。
アルコキシ基は炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル部分を有するアルコキシ基が挙げられ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチロキシ、1−メチル−n−ブトキシ、2−メチル−n−ブトキシ、3−メチル−n−ブトキシ、1,1−ジメチル−n−プロポキシ、1,2−ジメチル−n−プロポキシ、2,2−ジメチル−n−プロポキシ、1−エチル−n−プロポキシ、n−ヘキシロキシ、1−メチル−n−ペンチロキシ、2−メチル−n−ペンチロキシ、3−メチル−n−ペンチロキシ、4−メチル−n−ペンチロキシ、1,1−ジメチル−n−ブトキシ、1,2−ジメチル−n−ブトキシ、1,3−ジメチル−n−ブトキシ、2,2−ジメチル−n−ブトキシ、2,3−ジメチル−n−ブトキシ、3,3−ジメチル−n−ブトキシ、1−エチル−n−ブトキシ、2−エチル−n−ブトキシ、1,1,2−トリメチル−n−プロポキシ、1,2,2−トリメチル−n−プロポキシ、1−エチル−1−メチル−n−プロポキシ及び1−エチル−2−メチル−n−プロポキシ等が、また環状のアルコキシ基としてはシクロプロポキシ、シクロブトキシ、1−メチル−シクロプロポキシ、2−メチル−シクロプロポキシ、シクロペンチロキシ、1−メチル−シクロブトキシ、2−メチル−シクロブトキシ、3−メチル−シクロブトキシ、1,2−ジメチル−シクロプロポキシ、2,3−ジメチル−シクロプロポキシ、1−エチル−シクロプロポキシ、2−エチル−シクロプロポキシ、シクロヘキシロキシ、1−メチル−シクロペンチロキシ、2−メチル−シクロペンチロキシ、3−メチル−シクロペンチロキシ、1−エチル−シクロブトキシ、2−エチル−シクロブトキシ、3−エチル−シクロブトキシ、1,2−ジメチル−シクロブトキシ、1,3−ジメチル−シクロブトキシ、2,2−ジメチル−シクロブトキシ、2,3−ジメチル−シクロブトキシ、2,4−ジメチル−シクロブトキシ、3,3−ジメチル−シクロブトキシ、1−n−プロピル−シクロプロポキシ、2−n−プロピル−シクロプロポキシ、1−i−プロピル−シクロプロポキシ、2−i−プロピル−シクロプロポキシ、1,2,2−トリメチル−シクロプロポキシ、1,2,3−トリメチル−シクロプロポキシ、2,2,3−トリメチル−シクロプロポキシ、1−エチル−2−メチル−シクロプロポキシ、2−エチル−1−メチル−シクロプロポキシ、2−エチル−2−メチル−シクロプロポキシ及び2−エチル−3−メチル−シクロプロポキシ等が挙げられる。
【0025】
アシルオキシ基としては炭素数1〜10のアシルオキシ基が挙げられ、例えばメチルカルボニルオキシ、エチルカルボニルオキシ、n−プロピルカルボニルオキシ、i−プロピルカルボニルオキシ、n−ブチルカルボニルオキシ、i−ブチルカルボニルオキシ、s−ブチルカルボニルオキシ、t−ブチルカルボニルオキシ、n−ペンチルカルボニルオキシ、1−メチル−n−ブチルカルボニルオキシ、2−メチル−n−ブチルカルボニルオキシ、3−メチル−n−ブチルカルボニルオキシ、1,1−ジメチル−n−プロピルカルボニルオキシ、1,2−ジメチル−n−プロピルカルボニルオキシ、2,2−ジメチル−n−プロピルカルボニルオキシ、1−エチル−n−プロピルカルボニルオキシ、n−ヘキシルカルボニルオキシ、1−メチル−n−ペンチルカルボニルオキシ、2−メチル−n−ペンチルカルボニルオキシ、3−メチル−n−ペンチルカルボニルオキシ、4−メチル−n−ペンチルカルボニルオキシ、1,1−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、1,2−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、1,3−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、2,2−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、2,3−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、3,3−ジメチル−n−ブチルカルボニルオキシ、1−エチル−n−ブチルカルボニルオキシ、2−エチル−n−ブチルカルボニルオキシ、1,1,2−トリメチル−n−プロピルカルボニルオキシ、1,2,2−トリメチル−n−プロピルカルボニルオキシ、1−エチル−1−メチル−n−プロピルカルボニルオキシ、1−エチル−2−メチル−n−プロピルカルボニルオキシ、フェニルカルボニルオキシ、及びトシルカルボニルオキシ等が挙げられる。
【0026】
ハロゲン基としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0027】
はフェニル基への置換基であって、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基が挙げられる。
アルキル基としては直鎖又は分枝を有する炭素原子数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル及び1−エチル−2−メチル−n−プロピル等が挙げられる。
【0028】
また環状アルキル基を用いることもでき、例えば炭素原子数1〜10の環状アルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、1−メチル−シクロプロピル、2−メチル−シクロプロピル、シクロペンチル、1−メチル−シクロブチル、2−メチル−シクロブチル、3−メチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロプロピル、2,3−ジメチル−シクロプロピル、1−エチル−シクロプロピル、2−エチル−シクロプロピル、シクロヘキシル、1−メチル−シクロペンチル、2−メチル−シクロペンチル、3−メチル−シクロペンチル、1−エチル−シクロブチル、2−エチル−シクロブチル、3−エチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロブチル、1,3−ジメチル−シクロブチル、2,2−ジメチル−シクロブチル、2,3−ジメチル−シクロブチル、2,4−ジメチル−シクロブチル、3,3−ジメチル−シクロブチル、1−n−プロピル−シクロプロピル、2−n−プロピル−シクロプロピル、1−i−プロピル−シクロプロピル、2−i−プロピル−シクロプロピル、1,2,2−トリメチル−シクロプロピル、1,2,3−トリメチル−シクロプロピル、2,2,3−トリメチル−シクロプロピル、1−エチル−2−メチル−シクロプロピル、2−エチル−1−メチル−シクロプロピル、2−エチル−2−メチル−シクロプロピル及び2−エチル−3−メチル−シクロプロピル等が挙げられる。
【0029】
アルコキシ基は上述のアルコキシ基を例示することができる。
【0030】
式(1)のシランを加水分解して得られるフェニルシルセスキオキサンは式(2)の構造を例示することができる。
式(2)においてRは式(1)のRと同一のものを例示することができる。mは0〜5の整数である。nは3〜5を例示することができる。nが3である場合はケイ素と酸素からなる6員環が、nが4である場合はケイ素と酸素からなる8員環が、nが5である場合はケイ素と酸素からなる10員環が形成される。
【0031】
環を形成するケイ素に結合したRはそれぞれ水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、アルコキシアルキレンオキシ基、式(3)で示される化学基、式(4)で示される化学基、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基は上述の例示を挙げることができる。
【0033】
式(3)は環状のシルセスキオキサンであり、式(3)中のRは式(2)中のRと同一のものを用いることができる。mは0〜5の整数である。
【0034】
式(4)はランダム状のシルセスキオキサン構造である。式(4)中のRは式(2)中のRと同一のものを用いることができる。mは0〜5の整数である。
【0035】
従って、式(2)のシルセスキオキサンはリング状構造、かご状構造、又はラダー構造を有していて、これらにランダム構造が付加されていても良い。式(2)において、Rが水酸基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、アルコキシアルキレンオキシ基である場合にはリング状構造である。式(2)においてRが式(3)である場合にはかご状構造、及びラダー構造である。式(2)においてRが式(4)の場合にはリング状構造、かご状構造、及びラダー構造にランダム構造の部分が付加された構造である。
【0036】
式(4)の構造は例えば繰り返し単位が、1〜70、1〜50、又は1〜5のシルセスキオキサン構造とすることができる。
【0037】
式(2)のRはプロピレングリコールモノメチルエーテルや、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルコールを加水分解と縮合時の溶剤に用いた場合に、該シランの加水分解物と上記溶剤が反応し末端が式(6−1)、式(6−2):
【0038】
【化6】

【0039】
の構造を有するアルコキシアルキレンオキシ基をとることができる。アルコキシ基は上述の例示を挙げることができ、またアルキレン基は上述のアルキル基に対応するアルキレン基を挙げることができる。
【0040】
本願発明のシルセスキオキサンはランダム構造が付加されていても良いリング状構造、かご状構造、又はラダー構造のシルセスキオキサン(A)と、ランダム構造を有するシルセスキオキサン(B)との混合物を用いることもできる。
【0041】
上記(B)に用いられるシルセスキオキサンは式(4)と同様に繰り返し単位が1〜70、1〜50、又は1〜5のシルセスキオキサン構造とすることができる。
本願発明に用いられるシルセスキオキサンは、上記(A)構造の単独である場合と、(A)と(B)の混合物である場合がある。そして、リング状構造部分やかご状構造部分やラダー構造部分は全体のシルセスキオキサンに対して30質量%以上、例えば30〜100質量%、50〜100質量%の割合で含有することができる。
このリング状構造部分やかご状構造部分やラダー構造部分と、ランダム構造部分との割合はポリスチレン換算のGPCから簡易的に求めることができる。
式(1)で表される少なくとも1種の加水分解性シランを加水分解し、その加水分解物を縮合して得られるポリシロキサンの重量平均分子量は、例えば500〜10000である。これらの分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)分析による標準ポリスチレン換算で得られる平均分子量である。
上記シルセスキオキサン(ポリシロキサン)を合成する際の加水分解用触媒として、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を挙げることができる。
【0042】
有機酸として、例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸(蓚酸)、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸等を挙げることができる。
無機酸として、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。
【0043】
有機塩基として、例えばピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン等を挙げることができる。
無機塩基としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。これら触媒の内、有機酸、無機酸が好ましく、1種又は2種以上の触媒を同時に使用してもよい。
加水分解性シランの珪素原子と結合したアルコキシ基(以下、加水分解基と称する)の加水分解には、これら加水分解基1モル当たり、0.1〜100モル、又は0.1〜10モル、又は1〜5モル、又は2〜3.5モルの水を用いる。さらに、加水分解基1モル当たり0.0001〜10モル、好ましくは0.001〜2モルの加水分解用触媒を用いることができる。
【0044】
加水分解及び縮合を行う際の反応温度は、通常は23℃(室温)以上、加水分解に用いられる有機溶剤の常圧での還流温度以下の範囲で行われる。
加水分解は完全に行う(全ての加水分解基をシラノール基に変える)ことでも、または部分加水分解する(未反応の加水分解基が残る)ことでもよい。また、加水分解及び縮合反応後に加水分解物が残存していてもよい。
ポリシロキサンを得る方法としては特に限定されないが、例えば、シラン化合物、有機溶剤、水及び加水分解用触媒である蓚酸の混合物を加熱する方法が挙げられる。具体的には、あらかじめアルコールに蓚酸及び水を加えて蓚酸の溶液とした後、当該溶液とシラン化合物を混合し、加熱する方法である。その際、蓚酸の量は、シラン化合物が有する全加水分解基(アルコキシ基等)1モルに対して0.2〜2モルとすることが一般的である。この方法における加熱は、液温50〜180℃で行うことができ、好ましくは、液の蒸発、揮散等が起こらないように、例えば、密閉容器中の還流下で10分〜12時間行われる。また、ポリシロキサンの合成はシラン化合物中に有機溶剤、水及び蓚酸の混合物を加え反応させる順序でもよく、有機溶剤、水及び蓚酸の混合物中にシラン化合物を加えて反応させる順序でもよい。ポリシロキサンを合成する際の反応温度は、均一なポリマーを安定して合成する目的で0〜50℃の反応温度で24〜2000時間反応させてもよい。
【0045】
加水分解に用いられる有機溶剤としては、例えばトルエン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチル−イソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。これらの溶剤は1種又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
加水分解反応によりアルコールが生成するため、上記有機溶剤としては一般的には、アルコール類やアルコール類と相溶性の良好な有機溶剤が用いられる。このような有機溶剤の具体例としては、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、n−プロピルアセテート、乳酸エチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテル、シクロヘキサノン等が好ましく挙げられる。
【0046】
加水分解性シランを有機溶剤中で加水分解し、その加水分解物を縮合反応させることによって縮合物(ポリシロキサン)が得られ、その縮合物は有機溶剤中に溶解しているポリシロキサンワニスとして得られる。
得られたポリシロキサンワニスは溶剤置換してもよい。具体的には、加水分解及び縮合反応時の有機溶剤(合成時溶剤)にエタノールを選択した場合、エタノール中でポリシロキサンが得られた後に置換用溶剤を加え、エバポレーター等で共沸させエタノールを留去してもよい。溶剤置換の際、合成時溶剤は、共沸して留去するため、置換用溶剤よりも沸点が低いことが好ましい。例えば、合成時溶剤はメタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられ、置換用溶剤はプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン等が挙げられる。
また、得られたポリシロキサンワニスは、その保存安定性が悪くなければ、有機溶剤を留去し、固形分濃度100%とすることもできる。
【0047】
上記ポリシロキサンワニスの希釈等に用いる有機溶剤は、加水分解性シランの加水分解及び縮合反応に用いた有機溶剤と同じでも異なってもよい。
このような有機溶剤の具体例としては、トルエン、p−キシレン、o−キシレン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1−オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、γ−ブチルラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルケトン、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2−メチル−2−ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノンが挙げられる。ポリシロキサンワニス、より好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル、乳酸エチルエステル等が挙げられる。
【0048】
本願発明ではフェニルシルセスキオキサン以外に、さらに界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロツクコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、商品名エフトップEF301、EF303、EF352(三菱マテリアル電子化成株式会社(旧株式会社ジェムコ製)、商品名メガファックF171、F173、R−08、R−30(DIC株式会社製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム株式会社)製)、商品名アサヒガードAG710,サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子株式会社製)等のフッ素系界面活性剤、及びオルガノシロキサンポリマ−KP341(信越化学工業株式会社製)、BYK−302、BYK−307、BYK−322、BYK−323、BYK−330、BYK−333、BYK−370、BYK−375、BYK−378(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、等を挙げることができる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよいし、また二種以上の組み合わせで使用することもできる。界面活性剤が使用される場合、その割合は、フェニルシルセスキオキサン100質量部に対して0.0001〜5質量部、または0.001〜1質量部、または0.01〜0.5質量部である。
【0049】
<被膜の形成>
本発明の被膜形成組成物は、基材に塗布し熱硬化することで所望の被膜を得ることができる。塗布方法は、公知又は周知の方法を採用できる。例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。その際に用いる基材は、シリコン、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO、プラスチック、ガラス、セラミックス等からなる基材を挙げることができる。
焼成機器としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレート、オーブン、ファーネスを用いて、適切な雰囲気下、すなわち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で焼成させればよい。これにより、均一な製膜面を有する被膜を得ることが可能である。
膜厚としては5nm〜10μmの範囲とすることが可能であり、ハードディスク用途には5nm〜100nmの範囲で用いることが可能である。
【0050】
焼成温度は、溶媒を蒸発させる目的では、特に限定されないが、例えば40〜200℃で行うことができる。これらの場合、より高い均一製膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で2段階以上の温度変化をつけてもよい。
【0051】
焼成温度及び焼成時間は目的とする電子デバイスのプロセス工程に適合した条件を選択すれば良く、ポリシロキサン被膜の物性値が電子デバイスの要求特性に適合した焼成条件を選択できる。
【0052】
このようにして得られた本発明の被膜は、ポリシロキサンワニスの保存安定性が良好で、任意の基材上で形成することができ、ハードディスクの埋め込み乃至平坦化材料として好適であり、良好な非磁性体として用いることができる。
<後工程>
本発明の被膜形成組成物を形成した後に、その上に積層させる保護膜を形成 しても良い。具体的には、インジウム錫酸化物(ITO)若しくはダイヤモンドライクカーボンなどの保護膜が挙げられ、作製方法としては、スパッタリング法若しくは化学気相成長(CVD)法などが挙げられる。
【0053】
保護膜の上には潤滑油が塗布されても良い。潤滑油はヘッドと保護膜との間に存在し、物理的な接触を軽減する働きがある。この潤滑油はハードディスクの長期信頼性に関わる部材であることから、潤滑油の汚染を引き起こさないことが重要である。ハードディスク用の非磁性体は潤滑油を汚染しない成分であることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。
ポリマーの分子量測定(以下、GPCと略す)は昭和電工株式会社製、商品名Shodex GPC−104/101システムを使用した。
【0055】
ガスクロマトグラフ測定(以下、GCと略す)は、島津製作所(株)製、商品名Shimadzu GC−14Bを用い、下記の条件で測定した。
カラム:キャピラリーカラム CBP1−W25−100(25mm×0.53mmφ×1μm)
カラム温度:開始温度50℃から15℃/分で昇温して到達温度290℃(3分)とした。
【0056】
サンプル注入量:1μL、インジェクション温度:240℃、検出器温度:290℃、キャリヤーガス:窒素(流量30mL/min)、検出方法:FID法で行った。
飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)はAppliedBiosystems製 Voyager−DE PROを使用した。
埋め込み乃至平坦性評価は日本電子(株)製 電子顕微鏡S−4800を用いた。
表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM)エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製 Nano Navi L−traceを用いて測定した。
【0057】
[1]ポリシロキサンの合成
[合成例1]
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコに、71.46gのPGMEとPGMEAとを質量%で50:50の比率で混合した溶剤を秤量した。次いで、別容器の1つ口反応フラスコに、7.73g(0.021mol)の硝酸アルミニウム9水和物と4.45g(0.247mol)のイオン交換水を秤量し、オイルバスを用いて70℃で過熱攪拌し、硝酸アルミニウムを完全に溶解させた。硝酸アルミニウムが完全に溶解した水溶液は、PGME/PGMEA混合溶液が入った4つ口反応フラスコに加えた。触媒を加えた後、30分間、氷浴を用いて0℃で攪拌した。その後、16.35g(0.082mol)のフェニルトリメトキシシラン(PTMOSと略す)を0℃の条件下で4つ口反応フラスコに加え、30分間反応させた。反応終了後に、ポリシロキサンワニスとして、PSV−1を100g得た。PSV−1はSiO固形分換算濃度が6質量%であり、GPC測定による分子量はMwが491、Mnが432であった。
PSV−1をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
PSV−1をMALDI−TOF−MSにて、2,5−Dihydroxybenzoic acidをマトリクスとして測定した結果、628.89、639.22、652.94、697.04、715.02、770.10、836.39、849.23、897.69の質量ピークが確認された。これらの質量をもとに推定構造を考えると以下の式(7−1)〜式(7−9)のリング状フェニルシロキサン骨格を有する化合物の混合物であることが分かった。これら混合物の相対質量比は、式(7−1):式(7−2):式(7−3):式(7−4):式(7−5):式(7−6):式(7−7):式(7−8):式(7−9)=11.0:22.5:9.2:21.6:11.0:5.0:4.5:6.1:9.0であった。
【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
PSV−1をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
[合成例2]
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコに、68.31gのN−メチルピロリドン(NMPと略す)と6.49g(0.06mol)のp−フェニレンジアミンを秤量し、均一に溶解するまで攪拌した。次いで、10.59g(0.06mol)のCBDAを加え、窒素下、24時間、室温で反応させた。反応終了後に、ポリイミドワニスとして、PI−1を85.39g得た。PI−1は固形分が20質量%であり、GPC測定による分子量はMwが15680、Mnが7460であった。
【0061】
[合成例3]
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコに、70.66gのプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMEと略す)とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEAと略す)とを質量%で50:50の比率で混合した溶剤を秤量した。次いで、別容器の1つ口反応フラスコに、7.73g(0.021mol)の硝酸アルミニウム9水和物と4.45g(0.247mol)のイオン交換水を秤量し、オイルバスを用いて70℃で過熱攪拌し、硝酸アルミニウムを完全に溶解させた。硝酸アルミニウムが完全に溶解した水溶液は、PGME/PGMEA混合溶液が入った4つ口反応フラスコに加えた。触媒を加えた後、30分間、氷浴を用いて0℃で攪拌した。その後、17.15g(0.082mol)のテトラエトキシシラン(TEOSと略す)を0℃の条件下で4つ口反応フラスコに加え、30分間反応させた。反応終了後に、ポリシロキサンワニスとして、PSV−2を100g得た。PSV−2はSiO固形分換算濃度が6質量%であり、GPC測定による分子量はMwが1043、Mnが792であった。
PSV−2をGCで測定したところ、アルコキシシランモノマーは検出されなかった。
【0062】
<ワニスの調製>
[実施例1]
合成例1で得た6.00gのPSV−1にPGMEとPGMEAとの50:50質量%混合溶媒に1.0%になるようにBYK−307(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を溶解させた溶液を1.4460g(ポリマー固形分に対して1質量部)加え、次いで、41.2360gのIPAを加え、均一になるまで攪拌し、固形分量が3.0質量%のポリシロキサンワニスPSV−1−3の被膜形成組成物を調製した。
【0063】
[比較例1]
合成例2で得た6.00gのPI−1にNMPに1.0%になるようにBYK−307(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を溶解させた溶液を1.2000g(ポリマー固形分に対して1質量部)加え、次いで、114.0gのNMPを加え、均一になるまで攪拌し、固形分量が1.0質量%のポリアミック酸ワニスPI−1−1の被膜形成組成物を調製した。
【0064】
[比較例2]
合成例3で得た6.00gのPSV−2にPGMEとPGMEAとの50:50質量%混合溶媒に1.0質量%になるようにBYK−307(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を溶解させた溶液を1.4460g(ポリマー固形分に対して1質量部)加え、次いで、41.2360gのイソプロピルアルコール(IPAと略す)を加え、均一になるまで攪拌し、固形分量が3.0質量%のポリシロキサンワニスPSV−2−3の被膜形成組成物を調製した。
<被膜作製と埋め込み性及び平坦性評価>
実施例1及び比較例1で調整した被膜形成組成物をポリテオス(テトラエトキシシランの加水分解縮合物)製構造物付き基板に塗布し、埋め込み性及び平坦性を確認した。
【0065】
構造物付き基板はVia(ホール)の深さが100nm、Via径が25nmである。
図1に塗布する前の構造物付き基板の断面SEM写真を示す。
実施例1で得たPSV−1−3を構造物付き基板上にスピンコーターを用いて膜厚100nmとなるようにスピンコートし、次いで150℃のホットプレートで5分間の焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜を断面SEM観察し、その結果を図2に示す。
比較例1で得たPI−1−1を構造物付き基板上にスピンコーターを用いて膜厚100nmとなるようにスピンコートし、次いで150℃のホットプレートで5分間の焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜を断面SEM観察し、その結果を図3に示す。
実施例1と比較例1で得られた被膜形成組成物をそれぞれ基板に塗布し焼成後の基板の断面を比較すると、実施例1の被膜形成組成物による結果は埋め込み性及び平坦性が良好であり、比較例1の被膜形成組成物による結果は不良であることが分かった。ハードディスクの平坦化膜として用いるときは、埋め込み性及び平坦性が良好であることが必須条件であり、本発明のポリシロキサン組成物は目的の部材として好適に用いることが出来る。
【0066】
<被膜の表面粗さ評価>
実施例1、比較例1及び比較例2で調整した被膜形成組成物をシリコン基板に塗布し、表面粗さを確認した。
実施例1で得たPSV−1−3をシリコン基板上にスピンコーターを用いて膜厚100nmとなるようにスピンコートし、次いで150℃のホットプレートで5分間の焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜をAFM(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製 Nano Navi L−trace)にて表面粗さを評価した。その結果、R(平均粗さ)は0.1898nm、Rmax(最大粗さ)は0.932nmであった。
比較例1で得たPI−1−1をシリコン基板上にスピンコーターを用いて膜厚100nmとなるようにスピンコートし、次いで150℃のホットプレートで5分間の焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜をAFMにて表面粗さを評価した。その結果、R(平均粗さ)は0.680nm、Rmax(最大粗さ)は4.491nmであった。
比較例2で得たPSV−2−3をシリコン基板上にスピンコーターを用いて膜厚100nmとなるようにスピンコートし、次いで150℃のホットプレートで5分間の焼成を行い、被膜を得た。得られた被膜をAFMにて表面粗さを評価した。その結果、平均表面粗さ(以下Rと略す)は0.321nm、最大表面粗さ(以下Rmaxと略す)は3.339nmであった。
【0067】
実施例1と比較例1とで得られた被膜形成組成物をそれぞれ基板に塗布し焼成後の基板の表面粗さを比較すると、本発明のポリシロキサン組成物の表面粗さは非常に小さく、ポリイミドよりも良好であった。また、実施例1と比較例2とで得られた被膜形成組成物をそれぞれ基板に塗布し焼成後の基板の表面粗さを比較すると、同じポリシロキサンであっても、本発明のポリシロキサン組成物はRが0.1nm以上、Rmaxが2nm以上小さく良好であった。
ハードディク用の平坦化膜は表面粗さが小さいことが求められる。表面粗さはRmaxが1nm以上異なるだけで優位差となり、Rは0.2nm、Rmaxは1nm以下となることが好ましい。
本発明の中でフェニル基が置換したポリシロキサン組成物の表面粗さが特に良好であった。これは、フェニル基が置換したポリシロキサンは重合時に特定のリング構造を形成することで分子量が飽和し、低分子量なポリマーとして振舞うために表面粗さが小さくなったと考えられる。
【0068】
以上に示したように、本発明のハードディスク用被膜形成用組成物は微細なパターンへの埋め込み性及び平坦性が非常に良好であり、表面粗さが非常に小さい被膜を形成できることが証明された。特に、リング状フェニルシロキサン部位を有するポリシロキサン組成物を用いることで、最も良好な埋め込み性、平坦性及び表面粗さを達成できることが明確化した。
本発明の被膜形成組成物を用いて得られた膜を備えたハードディスクはウェットプロセスを用いて非磁性体を形成できるために、従来のドライプロセスでは達成できなかった低コスト及び高スループットを達成でき、DTM乃至BPMなどのハードディスク用部材として好適に利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
フェニル基が置換したポリシロキサン、特にフェニルシルセスキオキサンはそれらを用いて得られる被膜形成組成物は、それらを塗布した被膜の表面粗さが小さいためハードディスク等の表面被覆に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルシルセスキオキサンを含むハードディスク用被膜形成組成物。
【請求項2】
フェニルシルセスキオキサンが下記式(1):
【化1】


(式中Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基である。Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)で示される加水分解性シランの加水分解縮合物である請求項1に記載の被膜形成組成物。
【請求項3】
フェニルシルセスキオキサンが下記式(2):
【化2】


〔式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。nは3〜5の整数である。Rはそれぞれ水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、アルコキシアルキレンオキシ基、式(3):
【化3】


(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。nは3〜5の整数である。)、式(4):
【化4】


(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)、又はそれらの組み合わせである。〕で示される化合物である請求項1に記載の被膜形成組成物。
【請求項4】
フェニルシルセスキオキサンが、式(2)と式(5):
【化5】


(式中、Rはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、又はフェニル基である。mは0〜5の整数である。)の混合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
フォトリソグラフィーによって作製されたハードディスク上のパターンの埋め込み乃至平坦化に用いられる請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の被膜形成組成物。
【請求項6】
熱乃至光インプリントによって作製されたハードディスク上のパターンを埋め込み乃至平坦化するのに用いられる請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の被膜形成組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の被膜形成組成物を備えるハードディスク。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の被膜形成組成物を非磁性体として備えるハードディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−60373(P2011−60373A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208991(P2009−208991)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】