説明

バイオチップ作成装置

【課題】バイオチップ作成時間の短縮化が可能であり、かつ種類の異なる生体高分子溶液の混交が起らず、また均一なサイトを容易に得ることのできるバイオチップ作成装置を提供する。
【解決手段】多数の異なる生体高分子をバイオチップの基板上に配置するバイオチップ作成装置であって、
任意方向に移動自在に構成された支持体と、一体に構成されていて、前記支持体に取付けられたスタンプと、このスタンプ先端部に付着する2種以上の異なる生体高分子溶液を供給する生体高分子溶液供給装置を備え、
前記生体高分子溶液供給装置から前記スタンプ先端部に生体高分子溶液を付着させ、このスタンプを前記バイオチップの基板に押し当てることにより、前記スタンプと同一の配置で生体高分子溶液をバイオチップの基板表面に生体高分子溶液を付着させて複数のサイトを同時に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップの作成に用いられるバイオチップの作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAやタンパク質などの生体高分子を高密度に固定化したバイオチップが出現している。この種のバイオチップには、例えば数十個から数万種類の異種の生体高分子が基板上に配列されている。
生体高分子を基板上に複数配列してバイオチップを作成する方法の先行技術文献としては次のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2002−243736号公報
【0004】
図10は特許文献1に記載されたバイオチップ作成方法を実現するための分配装置である。この分配装置1は、細長い開放毛管流路4を有する試薬分配装置2を備える。毛管流路4は、一対の細長い部材2a、2bによって形成され、お互いに対して先細りになり流路の下端の先端すなわち先端領域3で収束する。この先端領域3には、ある量の試薬溶液5が保持される。
【0005】
試薬分配装置2は接続部材8に接続されていて、ソレノイド6のソレノイドピストン7の上下方向の動きに応じて試薬分配装置2も上下方向に移動できるようになっている。このソレノイド6はアーム9に接続されていて、分配装置1全体がこのアーム9によって適宜に上下左右に所定位置まで移動することができるようになっている。
【0006】
このような分配装置によれば、分配装置1を左右方向、すなわち図10の紙面に対して直角な平面(X−Y平面)内の所定位置に移動し、かつ適当な上下位置に移動させた後、ソレノイドピストン7により試薬分配装置2を迅速に支持面(図示せず)に近づけたり遠ざけたりすることにより、分配装置1の先端領域3に溜めた溶液を、支持面に載置した支持体(例えばバイオチップ)にスポットすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような従来の試薬分配装置では、次のような課題がある。
(1)新しい溶液を充填するときは、試薬分配装置2を洗浄液に浸すステップと、毛管流路4に吸い込まれた洗浄液を除去するステップと、毛管流路4を新しい試薬溶液に浸すステップが必要であり、時間がかかる。
(2)1つの試薬分配装置2を使って種類の異なる溶液をスポットするため、溶液の混交が生ずる。
(3)試薬分配装置2のスポットでは、常に一定量の試薬を支持面(バイオチップの基板面)に付着させるのは容易でなく、均一分布のサイトを得難い。
【0008】
本発明の目的は、このような課題を解決するもので、バイオチップ作成時間の短縮化が可能であり、かつ種類の異なる生体高分子の溶液(生体高分子溶液という)の混交が起らず、また均一なサイトを容易に得ることのできるバイオチップ作成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
多数の異なる生体高分子をバイオチップの基板上に配置するバイオチップ作成装置であって、
任意方向に移動自在に構成された支持体と、
一体に構成されていて、前記支持体に取付けられたスタンプと、
このスタンプ先端部に付着する2種以上の異なる生体高分子溶液を供給する生体高分子溶液供給装置を備え、
前記生体高分子溶液供給装置から前記スタンプ先端部に生体高分子溶液を付着させ、このスタンプを前記バイオチップの基板に押し当てることにより、前記スタンプと同一の配置で生体高分子溶液をバイオチップの基板表面に付着させて複数のサイトを同時に形成することを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、スタンプに2種以上の異なる生体高分子溶液を複数の局所的な箇所に付着し、そのスタンプをバイオチップの基板に押し当てることにより、基板にはスタンプと同一配置で複数のサイトが同時に形成できる。そして、同時に複数のサイトが形成されるため、従来に比べて格段に短時間でバイオチップを作成することができる。
また、スタンプ方式であるため均一なサイトを容易に得ることができる。
【0011】
この場合、スタンプは、請求項2のように、その先端部が複数の凹凸が形成されているか、または、要部が多孔質の材料で形成され、バイオチップの基板に接する表面が平面状に形成された先端部を持つ。
また、スタンプは、請求項3のように、ゴムまたは樹脂または金属またはガラスで形成される。
また、請求項4のように、スタンプは、その先端部の周辺または内部に生体高分子溶液を保持するために、溝、穴、貫通孔などの溶液保持部を持つ。
また、請求項5のように、スタンプは支持体に対して空気または磁性または機械的な作用により固定されるように構成する。
【0012】
また、スタンプは、請求項6のように、使用後には洗浄を行わずに廃棄する。これにより、溶液の混交を避けることができる。
また、請求項7のように、スタンプを複数回基板に押し当てて生体高分子溶液を基板に付着させることができる。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のバイオチップ作成装置において、基板に、生体高分子と結合する結合基をあらかじめ付着させておき、その上にスタンプにより生体高分子溶液が付着させることを特徴とする。これにより、生体高分子を基板側により強力に結合させることができる。
また、スタンプは、請求項9のように、1つの部品か、または複数の部品の組合せで一体構成したものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
(1)スタンプは使い捨てであるため、異なる種類の生体高分子配列のサイトを作成するときにスタンプにおいて種類の異なる溶液が混交するというようなことは起らない。
(2)同時に全サイトをスタンプすることができるので、短時間でバイオチップを作成することができる。
(3)ゴムなどのスタンプを使用するため、基板全面にわたって均一な力で押圧でき、サイトの均一化を容易に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を用いて本発明を詳しく説明する。本発明は、多数の突起部のあるスタンプを溶液プレートの多数の溶液溜め部に接触させて、スタンプの各突起部に溶液溜め部に充填してある生体高分子溶液を付着させた後、これをバイオチップ基板の表面に押し当てて、バイオチップ基板表面に転写することによりバイオチップを作成する。
【0016】
溶液プレートの溶液溜め部へ生体高分子溶液を注入するときは、周知の注入手段を使用して各溶液溜め部(穴)にそれぞれ注入する。注入手段は種類の異なる生体高分子溶液ごとに個別に用意する。
【0017】
図1は本発明に係るバイオチップ作成装置の一実施例を示す要部構成図である。図1において、10は、例えば型で形成された、ゴムのスタンプである。スタンプの下端面は山型の複数の突起部11がアレー状に形成されている。スタンプ10の上端部は支持体20に着脱可能に保持されている。
支持体20はアーム21と連結しており、そのアーム21は図示しない駆動手段により上下左右に任意に移動できるように構成されている。
【0018】
30は溶液プレートである。溶液プレート30には、多種類の生体高分子溶液をそれぞれ溜めておく穴状の溶液溜め部31が多数形成されている。
40はバイオチップ用の基板であり、スタンプ10によりその基板表面に生体高分子溶液が付着される。
【0019】
このような構成においてバイオチップを作成する動作を次に説明する。各溶液溜め部31に生体高分子溶液を充填した溶液プレート30を用意しておく。アーム21を駆動してスタンプ10を移動し、スタンプ10の各突起部11を各溶液溜め部31に接触させて生体高分子溶液を各突起部11の先端にそれぞれ付着させる。
【0020】
付着後、アーム21を駆動して、スタンプ10を所定位置まで上昇させ、そのまま基板40の方へ横移動し、そして真上から基板40へ下降させる。スタンプ10の突起部11を基板40に押しつけることにより、各突起部11に付着の生体高分子溶液を基板40の全サイトに一度にスタンプする。スタンプ後、スタンプ10は上昇させておく。
【0021】
なお、スタンプ10は2回以上基板に押しつけて溶液を付着させてもよい。
また、同じバイオチップを複数枚作成する場合は、上記の動作の繰り返しにより作成する。スタンプ10の先端部に生体高分子溶液が不足したときは、溶液プレートから再び同じ溶液を突起部11に付着させる。溶液プレート30に溶液が不足した場合は、図示しない注入手段を用いて各溶液をそれぞれ補給する。
スタンプが劣化した場合、あるいは種類の異なる別な生体高分子の配列を作成する場合には、古いスタンプを廃棄し、新しいスタンプに交換する。古いスタンプを洗浄して再利用したりはしない。
【0022】
このような態様でのバイオチップ作成においては、スタンプは使い捨てであるため異なる種類の生体高分子溶液と混交することはない。また、一度に全サイトをスタンプすることができるので、短時間でバイオチップを作成することができる。また、スタンプがゴムで形成されていて基板には均一な力で押圧できるため、サイトの均一化を容易に図ることができる。
【0023】
なお、本発明は上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
例えば、支持体20によるスタンプ10の保持には、空気等で吸着する方式、または機械的に保持する方式、あるいはスタンプ10の材料中に磁性粒子を混入しておき支持体20に取り付けたマグネットにより吸着する方式などを適用してよい。
【0024】
また、スタンプ10は、上記実施例のようなゴムで形成されたものに限定されない。判子で用いられる樹脂や金属あるいはガラスを用いてもよい。あるいはまた、その要部を多孔質の材料で形成したものでもよい。この場合、スタンプ10には図2に示すように生体高分子溶液32が隣の溶液と混ざり合わないように局所的に含浸させる。
【0025】
また、スタンプ10を樹脂または金属あるいはガラスで作成したときは、その突起部11には、図3に示すように、溶液を溜めるための溝やすりわり、穴などを形成してもよい。
図3(a)は、突起部11の側面に溝12を形成した構造の一例である。同図(b)は、突起部11の先端部に円形状の穴13を設けると共に、その周辺部に穴13よりも小さい径の複数の穴14を形成した構造の一例である。周辺部の穴14の形状は、半円、楕円、円などのいずれであってもよい。
同図(c)は、突起部11の先端部に円形状の穴15を設けると共に、その周辺部に複数の溝16あるいはすりわりを形成した場合の構造図である。
【0026】
また、図4に示すように、突起部11の中央に上下に通じる孔17を形成し、背面から空気などにより適宜に吸引および加圧して、生体高分子溶液32を突起部11の先端に適量ずつ補給するようにしてもよい。
【0027】
また、基板40は、その表面が、実施例のように平面ではなく、図5に示すように、スタンプ10の突起部11の凹凸に対応して、少なくともその先端部が平面となるようにした凹凸部41が形成されたものでもよい。
【0028】
また、スタンプ10の表面は、図6に示すように、穴18を形成し、この穴18に生体高分子溶液32を溜めるようにしたものでもよい。スタンプ10への生体高分子溶液の供給は、例えば、図7に示すように、スタンプ10の表面と相補形に形成された突出部51を有する生体高分子溶液供給装置50を使用する。この突出部51の中央部には穴52が設けられており、毛細現象を活用してこの穴52に沿って突出部51の先端部まで生体高分子溶液を供給することができるように構成されている。
【0029】
また、図8(a)の側面図に示すように、基板40の表面に、例えばアミノシランの結合基60を円形などの形状であらかじめ結合させておき、その上にスタンプ10により生体高分子溶液32を付着させるようにすると、局所的にサイト形状を制限し易くなる。
なお、結合基60は、円形に限らず、同図(b)の平面図に示すようにライン状でも構わない。
また、スタンプは、図9に示すように、1つの部品ではなく2つ以上の部品(図では2つの部品10aと10b)を組合わせて一体に構成してもよい。要するに、1つのユニットとして取り付けおよび廃棄ができる構成であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るバイオチップ作成装置の一実施例を示す要部構成図である。
【図2】スタンプの先端部の他の実施例を示す図である。
【図3】スタンプの先端部のさらに他の実施例を示す図である。
【図4】スタンプの先端部のさらに他の実施例を示す図である。
【図5】基板表面の他の実施例を示す図である。
【図6】スタンプの先端部のさらに他の実施例を示す図である。
【図7】図6に示すスタンプ先端部に対応した生体高分子溶液供給装置の他の実施例を示す図である。
【図8】基板に結合基を使用したときの構成を示す図である。
【図9】スタンプの一構成例を示す図である。
【図10】従来のバイオチップ作成方法を実現するための分配装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0031】
10 スタンプ
11 突起部
12,16 溝
13,14,15,18 穴
17 孔
20 支持体
21 アーム
30 溶液プレート
31 溶液溜め部
32 生体高分子溶液
40 基板
41 凹凸部
50 生体高分子溶液供給装置
51 突出部
52 穴
60 結合基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の異なる生体高分子をバイオチップの基板上に配置するバイオチップ作成装置であって、
任意方向に移動自在に構成された支持体と、
一体に構成されていて、前記支持体に取付けられたスタンプと、
このスタンプ先端部に付着する2種以上の異なる生体高分子溶液を供給する生体高分子溶液供給装置を備え、
前記生体高分子溶液供給装置から前記スタンプ先端部に生体高分子溶液を付着させ、このスタンプを前記バイオチップの基板に押し当てることにより、前記スタンプと同一の配置で生体高分子溶液をバイオチップの基板表面に付着させて複数のサイトを同時に形成するようにしたことを特徴とするバイオチップ作成装置。
【請求項2】
前記スタンプは、複数の凹凸が形成された先端部か、または要部が多孔質の材料で形成されると共にバイオチップの基板に接する表面が平面状に形成された先端部を持つことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ作成装置。
【請求項3】
前記スタンプは、ゴムまたは樹脂または金属またはガラスで形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のバイオチップ作成装置。
【請求項4】
前記スタンプは、その先端部の周辺または内部に生体高分子溶液を保持するための溝、穴、貫通孔などの溶液保持部を持つことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。
【請求項5】
前記スタンプは、空気または磁性または機械的な作用により前記支持体に固定されるように構成されたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。
【請求項6】
前記スタンプは、使用後には前記支持体から取外し廃棄され得るように構成されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。
【請求項7】
前記スタンプを前記基板に複数回押し当てて、基板に生体高分子溶液を付着させ得るように構成されたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。
【請求項8】
前記基板は、生体高分子と結合する結合基をあらかじめ付着させておき、その上に前記スタンプにより生体高分子溶液が付着されるように構成されたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。
【請求項9】
前記スタンプは1つの部品または複数の部品の組合せで一体に構成されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のバイオチップ作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−78382(P2006−78382A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263727(P2004−263727)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】