バイオフィルム発生を制御する方法及び組成物
本発明は、微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する方法であって:バイオフィルムを、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露し;バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理し;有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体中に取り込み;または、該バイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で、1以上の活性酸素又は窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法に関する。本発明は、バイオフィルムの機能を維持し、又は増強し、又は維持かつ増強する方法であって、バイオフィルムを、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤又は少なくとも1つの酸化防止剤又は少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び少なくとも1つの酸化防止剤に曝露することを含む、前記方法にも関する。本発明は、微生物のバイオフィルムの分散を促進する若しくは形成を阻害するための組成物、あるいは微生物のバイオフィルムの機能を維持し、若しくは増強し、又は維持かつ増強するための組成物にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物においてプログラムされた細胞死を制御する方法及び組成物、並びにバイオフィルムからの微生物の分散を促進又は阻害する方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、細菌集団及びそれが産生する細胞外マトリックスを含む三次元の微生物の成長形態である。バイオフィルムは、環境中に広範に分布し、水が利用可能である固体表面上又は懸濁液中で、例えばフロック(凝集体)又は粒状体として形成されることがある。バイオフィルムは著しい工業的損害を引き起こし、例えば、給水及び水処理システム、パルプ及び製紙システム、熱交換システム及び冷却塔のような流体処理工程で汚染及び腐食を引き起こし、パイプライン及び貯留槽中の油脂の酸性化に寄与する。公衆衛生の観点では、バイオフィルムは、飲料水、貯水槽及びパイプのような給水システムにおいて病原体の重大な温床でもある。バイオフィルムは、ヒトにおける数多くの慢性感染症、例えば中耳炎(耳の表面上のバイオフィルム)、細菌性心内膜炎(心臓及び心臓弁の表面上のバイオフィルム)、嚢胞性線維症(肺の表面上のバイオフィルム)及び腎結石とも関連し、医療デバイス、例えば埋め込み可能な医療デバイス上で容易に形成される。
【0003】
しかしながら、多くの環境でのバイオフィルムの著しい有害作用とは逆に、バイオフィルムは有益なこともある。例えば、汚水処理システムでは、懸濁したフロックバイオフィルム又は膜上の表面付着性バイオフィルムが、栄養物の除去、例えば脱窒素反応を促進すると言われている。
【0004】
よって、有害なバイオフィルムを除去するのに有効な方法及び有益なバイオフィルムの活性を増強するのに有効な方法の両方が、明らかに必要である。
【0005】
バイオフィルムは本質的には多細胞性の微生物の集団であり、その形成及び発生は、メンバー微生物の多様な多細胞性特性、例えば細胞-細胞シグナル伝達に依存する。細胞密度を評価し、シグナル伝達分子が十分な濃度に達した場合には遺伝子発現及び表現型に変化を誘導するために、細胞外シグナル伝達系、例えばクオラムセンシングが、細菌によって利用される。このことは、例えば、毒性因子及び/又は防御機構の誘導を導く示差的遺伝子発現と関連し、またバイオフィルム付着性細胞が、独立して生活する(浮遊性の)細胞から高度に分化する細胞分化と関連する。
【0006】
バイオフィルム中の細胞が分化し、バイオフィルムが成熟すると、代謝速度の低下、防御機構の細胞発現及びバイオフィルムに透過する抗菌剤の能力の低下により、抗菌耐性が増強され、バイオフィルムを根絶するのが特に困難となる。現在のバイオフィルム制御方法は、典型的にはバイオフィルム発生の初期段階を標的とし、有害な抗菌剤の使用を伴う。しかしながら、かかる有害薬剤は、環境中にそれらを放出するので、その下流に問題を呈する。従って、改良されたバイオフィルム制御方法が、明らかに必要である。
【0007】
バイオフィルム中のシュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)細胞は、バイオフィルム生活環の通常プロセスで、プログラムされた細胞死及び溶菌を受けることが最近発見された(Webb et al, 2003,Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592)。P.アエルギノーサのバイオフィルムでのプログラムされた細胞死には、プロファージが介在し、バイオフィルムからの生存細胞のサブ集団の分化及び分散を促進する役割を果たすと考えられている。
【非特許文献1】Webb et al, 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592
【発明の開示】
【0008】
本発明は、バイオフィルムでのプログラムされた細胞死の当該現象がバイオフィルムの生物中の活性酸素及び窒素種(RONS)の蓄積と関連しており、プログラムされた細胞死の過程及びバイオフィルムから浮遊性細胞への細胞の分散が、一酸化窒素発生剤を用いて誘導できるという本発明者らの知見に基づいている。In vivoで一酸化窒素濃度を増大させる能力は、プログラムされた細胞死を促進することによって、バイオフィルム発生過程の制御及び操作を可能にし、抗菌剤に対する細胞の感受性を増大させることで、バイオフィルム発生を阻害及び/又は後退させる方法をもたらす。
【0009】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、該バイオフィルムを、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露することを含む、前記方法に関する。
【0010】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、微生物中で1以上の活性酸素及び窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法に関する。
【0011】
本発明は、バイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する方法であって、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は他の媒体(medium)を処理することを含む、前記方法にも関する。
【0012】
従って、本発明の第1態様では、微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する方法であって:
該バイオフィルムを、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露し;
バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理し;
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体中に取り込み;又は
該バイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で、1以上の活性酸素又は窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法が提供される。
【0013】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤は、1以上の一酸化窒素供与体を含む。該1以上の一酸化窒素供与体は、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせから選択できる。
【0014】
典型的には、一酸化窒素供与体は、有害でない濃度で提供される。例えば、該濃度はナノモル、マイクロモル又はミリモル範囲であり、例えば約1 nM〜約10 mM又は約10 nM〜約5μMである。
【0015】
バイオフィルムは、表面に付着しているか又は懸濁している。懸濁したバイオフィルムは、フロック又は粒状体の形態で存在する。
【0016】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物は、単一の種又は複数の種からなる。
【0017】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物は、細菌種又は真菌種又はその両方を含み得、例えばカンジダ(Candida)属、ホルモコニス(Hormoconis)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、シゲラ(Shigella)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エシェリキア(Escherichia)属、サルモネラ(Salmonella)属、レジオネラ(Legionella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、バチルス(Bacillus)属、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)属、シェワネラ(Shewanella)属、ゲオバクター(Geobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、セラチア(Serratia)属、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属及びビブリオ(Vibrio)属から選択される1以上の種を含み得、かかる種の代表例は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、P. アエルギノーサ(aeruginosa)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、及びビブリオ・コレラ(Vibrio Cholerae)である。
【0018】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗菌剤で該表面若しくは媒体を処理し、該抗菌剤を該表面若しくは媒体に取り込み、又はバイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物を該抗菌剤に曝露することをさらに含んでもよい。一例としては、抗生物質はトブラマイシンのようなアミノグリコシドであり、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムであり、酸化ストレス誘導剤は過酸化水素、次亜塩素酸、塩素又はクロラミンである。
【0019】
バイオフィルムの微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で蓄積し得る活性酸素及び窒素種には、パーオキシナイトライト(peroxynitrite)、一酸化窒素、過酸化水素及びスーパーオキシドラジカルが含まれる。
【0020】
1実施形態では、活性酸素及び窒素種はパーオキシナイトライトである。
【0021】
活性酸素及び窒素種の蓄積は、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に該バイオフィルムを曝露することにより達成できる。
【0022】
バイオフィルムの分散を促進する又はバイオフィルムの形成を阻害する本発明の方法は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導することを含むか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害することを含んでもよい。代わりに又はさらに、本発明の方法は、抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させることを含んでもよい。
【0023】
本発明は、バイオフィルム発生と関連する状態の治療及び/又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を被験体に投与することを含む方法にも関する。
【0024】
従って、バイオフィルムの分散を促進する、又はバイオフィルムの形成を阻害する本発明の方法は、被験体におけるバイオフィルムが関連する状態の治療又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、場合によっては少なくとも1つの抗菌剤と共に被験体に投与することを含んでもよい。
【0025】
該薬剤及び/又は抗菌剤は、カテーテル、ステント、プロテーゼ又は他の外科用若しくは埋め込み可能なデバイスといった好適な医療デバイスの表面上に被覆又は該表面中に浸透又は該表面中に取り込まれ得る。
【0026】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する組成物、又はバイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する組成物にも関する。
【0027】
従って、本発明の別の態様では、微生物のバイオフィルムの分散を促進する又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物であって、一酸化窒素、少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤、又は一酸化窒素及び一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を好適な担体と共に含む組成物が提供される。
【0028】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤は、1以上の一酸化窒素供与体を含む。該1以上の一酸化窒素供与体は、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせから選択できる。
【0029】
1実施形態では、一酸化窒素供与体はナトリウムニトロプルシドである。
【0030】
特別な実施形態では、該組成物は抗汚染組成物、医療デバイス若しくはその構成要素、医療デバイス用の被覆剤、又は医薬組成物である。
【0031】
該組成物は、少なくとも1つの抗菌剤をさらに含んでもよい。抗菌剤は、抗生物質、界面活性剤又は酸化ストレス誘導剤のような任意の抗菌剤である。一例としては、抗生物質はトブラマイシンのようなアミノグリコシドであり、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムであり、酸化ストレス誘導剤は過酸化水素、次亜塩素酸、塩素又はクロラミンである。
【0032】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害するための本発明の組成物は:分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導するか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害し;抗菌剤に対する該微生物の感受性を増大させることができ;又はこれらの効果の組み合わせを提供し得る。
【0033】
本発明は、バイオフィルム発生と関連する状態を治療及び/予防するための組成物にも関する。
【0034】
従って、微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物は、被験体のバイオフィルムと関連する状態を治療又は予防するのに好適であり得、場合によっては少なくとも1つの抗菌剤を含むことがある。
【0035】
本発明は、バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法にも関する。
【0036】
従って、本発明の別の態様では、バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤、少なくとも1つの酸化防止剤又は少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法が提供される。
【0037】
1実施形態では、一酸化窒素捕捉剤は2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである。
【0038】
酸化防止剤は、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸からなる群から選択できる。
【0039】
該方法は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することを含んでもよい。
【0040】
本発明の別の態様では、バイオフィルムの機能を維持若しくは増強し、又は維持かつ増強するための組成物であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤を、好適な担体と共に含む前記組成物が提供される。
【0041】
該組成物は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することができる。
【0042】
定義
本明細書で使用される場合、用語「バイオフィルム」は、任意の三次元の、マトリックスに入った微生物の集団であって、多細胞特性を提示するものを意味する。よって、本明細書で使用される場合、用語「バイオフィルム」には、表面付着性バイオフィルムだけでなく、懸濁状態のバイオフィルム、例えばフロック及び粒状体が含まれる。バイオフィルムは、単一の微生物種を含むか又は混合種の複合体であり、細菌だけでなく、真菌、藻類、原生生物、又は他の微生物を含んでもよい。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「表面」には、生物学上の表面及び非生物学上の表面の両方が含まれる。生物学上の表面には、典型的には、生物の内部表面(例えば、組織及び膜)及び外部表面(例えば、皮膚、種子、植物の葉)の両方が含まれ、細菌膜及び細胞壁も包含される。生物学上の表面には、樹木又は繊維のような他の天然の表面も含まれる。非生物学上の表面は、バイオフィルムの構築及び発生を補助する任意の組成物の人工的に作製された任意の表面であり得る。かかる表面は、工業プラント及び装置内に存在し得る。さらに、本発明の目的において、表面は、多孔性(例えば、膜)又は非多孔性、硬性又は柔軟性であり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「分散」はバイオフィルムに関する場合、他の細胞(例えば、互いの1又は複数のバイオフィルム)を含めた表面からの細胞の解離の過程、及び浮遊性の表現型への復帰(return)又はそれらの細胞の挙動を意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「プログラムされた細胞死」は、バイオフィルム内で規定の段階で生じる発展的事象を意味し、自己溶菌、細胞分化及び特定の表現型を有する細胞のサブ集団の発生を引き起こす。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「曝露する」は、投与すること、又は別の方法で接触させることを意味する。微生物又はバイオフィルムは、直接又は間接的に、活性薬剤に曝露され得る。典型的には、直接曝露とは、処理される微生物又はバイオフィルムに該薬剤を投与すること、あるいは別の方法で微生物又はバイオフィルムを、該薬剤そのものと接触させることを意味する。典型的には、間接的な曝露は、微生物又はバイオフィルムに対する活性薬剤を、単独で又は他の化合物若しくは分子と反応して発生させることができる活性薬剤又は化合物又は分子の前駆体の投与、又は別の方法で、微生物又はバイオフィルムと接触させることを意味する。同様に、用語「処理」及び「処理する」及びそれらの変形は、本明細書で使用される場合、投与又は別の方法で接触させることを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」には、その意味の中に、有害ではないが、所望の効果をもたらすのに十分な量又は濃度の薬剤が含まれる。必要とされる正確な量/濃度は、処理される1又は複数の微生物の種、処理されるバイオフィルムの程度、重症度及び/又は成熟度(age)、バイオフィルムが表面付着性であるか又は懸濁しているか、投与される特定の1又は複数の薬剤及び投与形態等のような要因次第で変更される。従って、正確な「有効量」を特定するのは不可能である。しかしながら、任意の所与の場合には、慣用的な実験法のみを利用して、当業者は適当な「有効量」を決定できる。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「有害でない」は、物質の濃度又は量に関して、細胞に直接的な有害作用を及ぼさず、それぞれが独立して生活する細胞を殺傷しないが、バイオフィルムにおける分化過程の誘導のトリガーとなるシグナルとして作用でき、プログラムされた細胞死反応に関与し、その結果、細胞のサブ集団の死、分散細胞の発生及びバイオフィルムの分散をもたらすことができる、物質の濃度又は量を意味する。例えば、一酸化窒素供与体に関して、有害でない濃度又は量は、100mM以下の一酸化窒素供与体を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「機能(functioning)」はバイオフィルムに関して、以下のパラメーター:バイオフィルム中の微生物の生存能、バイオフィルム中の微生物の1又は複数の活性、バイオフィルム中の微生物の密度、バイオフィルムの寿命、及び特定の機能を果たす際のバイオフィルムの効果、例えば汚水処理システム中のバイオフィルムでは栄養分の除去、のうち1以上の任意のものに関して測定される。よって、本発明では、バイオフィルムの機能を「維持」することは、プログラムされた細胞死及び分散の発生過程を、微生物の生存能、微生物の活性、バイオフィルム寿命及び/又はバイオフィルムの機能が著しく低下しないように、阻害する又は少なくとも実質的に減少させることを意味する。バイオフィルムの機能を「増強」することは、本発明の方法で処理されていないバイオフィルムと比べ、上記パラメーターのうちいずれか1以上が、増強又は改善されることを意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「阻害する」はバイオフィルムに関して、バイオフィルム形成及び/又は発生の完全又は部分的な阻害を意味し、さらにその範囲に、バイオフィルム発生の反転(reversal)又はバイオフィルム形成及び/又は発生と関連する過程も含む。さらに、阻害は永久的又は一時的である。一時的な阻害という場合には、バイオフィルム形成及び/又は発生は、所望の効果をもたらすのに十分な時間、阻害される。
【0051】
本明細書に関して、用語「含む」は、「主に含むが、必ずしもそれ単独には限定されない」ことを意味する。さらに、単語「含む」の変形は、対応する変形された意味を有する。
【0052】
図面の簡単な説明
図面の簡単な説明については下記の節を参照されたい。
【0053】
本発明は、例示のみを目的として、図面を参照して説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
P. アエルギノーサは、広範に分布し土壌伝播性及び水伝播性の、単一種及び複数種の両方のバイオフィルムを容易に形成する日和見病原体である。P. アエルギノーサは、バイオフィルム形成及び発生を研究する上でモデル微生物にもなってきた。P. アエルギノーサのバイオフィルムの最近の研究では、微小コロニーの内側部分からの細胞の分散、並びに解離及び粘膜脱落(sloghing)事象をもたらすことができる細胞のプログラムされた細胞死が同定された(Sauer et al., 2002, Pseudomonas aeruginosa displays multiple phenotypes during development as a biofilm, J. Bact., 184: 1140-1154; Webb et al., 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592)。その後、プログラムされた細胞死が、他のモデルバイオフィルム形成細菌 (Mai-Prochnow et al., 2004, Biofilm development and cell death in the marine bacterium Pseudoalteromonas tunicata, Appl. Environ. Microbiol. 70: 3232-3238)、混合種の口腔内バイオフィルム(Hope et al., 2002, Determining the spatial distribution of viable and non viable bacteria in hydrated microcosm dental plaques by viability profiling, J. Appl. Microbiol., 1993: 448-455)、及び汚水処理過程における混合種の顆粒状のバイオフィルム(Meyer et al., 2003, Microscale structure and function of anaerobic-aerobic granules containing glycogen accumulating organisms, FEMS Microbiol. Ecol., 45: 253-261)で報告されているので、プログラムされた細胞死は、細菌性バイオフィルム発生の一般的特徴であることが示唆される。バイオフィルム細胞において細胞死及び解離のトリガーとなるメカニズムの、増強又は抑制のいずれかでの利用は、広範囲の医療、産業及びバイオ処理状況において、バイオフィルムの操作に関して新規の技術を導くであろう。
【0055】
バイオフィルム中の活性酸素及び窒素種(RONS)の検出及び分析のための蛍光色素ベースのシステムを利用して、本発明者らは、P. アエルギノーサのバイオフィルム中でRONSパーオキシナイトライト(ONOO-)が蓄積することを見出した。
【0056】
パーオキシナイトライトは、広範囲の生物学的効果を有する強力な酸化剤である。これは、数多くの他のバイオ分子と反応し、細胞性損傷を引き起こすことがある。パーオキシナイトライトの直接の前駆体は、生体系中の一酸化窒素であり、広範囲で見られる細胞内及び細胞外シグナル伝達分子である。一酸化窒素は、酸素から誘導されたラジカルを含む数多くの化合物と迅速に反応する。かかる反応の1つにおいて、一酸化窒素はスーパーオキシドと容易に反応して、パーオキシナイトライトを生成する:
【化1】
【0057】
発明者らは、有害でない低濃度の一酸化窒素供与体化合物によるバイオフィルムの処理が、バイオフィルム由来の細胞のプログラムされた細胞死及び分散を誘導して、バイオフィルム細胞に対する浮遊性の割合を上昇させ、バイオフィルムの表面被覆を低下させることを見出した。従って、有害でない低濃度の一酸化窒素を使用して、バイオフィルム細胞の挙動プロセスを操作できることを、本明細書で初めて開示する。対照的に、有害な高濃度の一酸化窒素は、バイオフィルム由来の細胞を分散させずに、むしろバイオフィルムの生育を促進する。
【0058】
よって、本発明の1態様は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤へのバイオフィルムの曝露を含む方法に関する。本発明は、微生物中のプログラムされた細胞死を誘導する方法であって、微生物を有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露する前記方法、及びバイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する方法であって、バイオフィルム形成に感受性のある表面を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理する前記方法にも関する。
【0059】
本発明者らは、一酸化窒素供与体による処理が、様々な抗菌剤に対するバイオフィルム及び浮遊性細胞の両方の感受性を増大させることも見出した。よって、本発明は、抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させる方法及び組成物も提供する。
【0060】
当業者であれば、所望の効果を達成するために、一酸化窒素を直接的に使用することができ、または別の方法で、一酸化窒素を発生若しくは放出することができる任意の薬剤を使用できることを理解するだろう。薬剤は、処理される微生物の外側で、又はより典型的にはin vivoで一酸化窒素を発生又は放出し得る。本明細書では、本発明の方法でナトリウムニトロプルシドのような一酸化窒素供与体を使用することを例示するが、当業者であれば、本発明がこれに限定されないことがわかるだろう。
【0061】
本発明での使用に好適な一酸化窒素供与体の例には、ナトリウムニトロプルシド(SNP)、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)、GSNOモノエチルエステル、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)、グリコ-SNAP、L-アルギニン、N,N′-ジニトロソ-N,N′-ジメチルフェニレンジアミン (BNN3)、N,N′-ジニトロソフェニレンジアミン-N,N′-二酢酸 (BNN5)、BNN5-Na、BNN5メチルエステル、2-ヒドロキシ安息香酸3-ニトロオキシメチルフェニルエステル(B-NOD)、デホスタチン、3,4-デホスタチン、ジエチルアミンNONOエート、ジエチルアミンNONOエート/AM、S,S’-ジニトロソジチオール、S-ニトロソカプトプリル、NG-ヒドロキシ-L-アルギニンモノアセテート塩、Angeliの塩、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(3-アミノプロピル)-3-イソプロピル-1-トリアゼン(NOC-5)、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-3-メチル-アミノプロピル)-3-メチル-1-トリアゼン(NOC-7)、6-(2-ヒドロキシ-1-メチル-2-ニトリソヒドラジノ)-N-メチル-1-ヘキサンアミン(NOC-9)、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-エチル-2-アミノエチル)-3-エチル-1-トリアゼン(NOC-12)、2,2'-(ヒドロキシニトロソヒドラゾノ)ビス-エタンアミン(NOC-18)、(±)-(E)-メチル-2-[(E)-ヒドロキシイミノ]-5-ニトロ-6-メトキシ-3-ヘキセンアミド(NOR-1)、(±)-(E)-4-エチル-2-[(E)-ヒドロキシイミノール-5-ニトロ-3-ヘキセンアミミド(NOR-3)、(±) -N-[(E)-4-エチル-2-[(Z)-ヒドロキシイミノ]-5-ニトロ-3-ヘキセン-1-イル]-3-ピリジンカルボキサミド(NOR-4)、4-フェニル-3-フロキサンカルボニトリル、PROLI/NO (メタノール性ナトリウムメトキシド中のL-プロリン)、3-モルホリノシドノンイミン(SIN-1)、S-ニトロソ-N-バレリルペニシラミン(SNVP)、スペルミンNONOエート、亜硝酸エチル及びストレプトゾトシンが含まれるがこれに限定されない。
【0062】
一般に、S-ニトロソ、O-ニトロソ、C-ニトロソ及びN-ニトロソ化合物並びにそれらのニトロ誘導体並びに金属NO複合体を含むが、他のNOを発生させる化合物を排除しない、本発明の目的で有用な一酸化窒素供与体は、Feelisch, M.及びStamler, J.S.により編集された「一酸化窒素研究の方法」(John Wiley & Sons, New York, 1996, pages 71-115)に開示されており、該文献は引用により本明細書に取り込まれる。さらなる一酸化窒素供与体の範囲が当業者には公知であり、本発明は、使用される1又は複数の特定の供与体の識別では限定されない。事実、本発明の特定の用途に好適な供与体の選択は、その都度なされる。
【0063】
一酸化窒素を発生又は放出する薬剤は、典型的には有害でない低濃度で使用される。濃度はナノモル、マイクロモル、又はミリモルであり得る。特定の実施形態では、濃度は約1 nM〜約100 mM、約10 nM〜約50 mM、約25 nM〜約50 mM、約50 nM〜約25 mM、約100 nM〜約10 mM、約200 nM〜約1 mM、約1 nM〜約10mM、約10 nM〜50μM、約10 nM〜25μM、約10 nM〜10μM、約10 nM〜5μM、約10 nM〜1μM、又は約10 nM〜500 nMである。所望の効果を達成するのに最も好適な濃度は、数多くの要因によって決まり、当業者は慣用的な実験法を用いて決定できる。かかる要因には、使用される1又は複数の特定の薬剤、1又は複数の薬剤の投与手段又は経路、バイオフィルムの性質、構造及び成熟度、処理される生物の種等が含まれるが、これに限定されない。
【0064】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する組成物、微生物においてプログラムされた細胞死を誘導する組成物、バイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する組成物、並びに抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させる組成物も提供する。典型的には、組成物は本発明の方法を行うための手段を提供する。
【0065】
上記した本発明の方法及び組成物は、幅広い環境及び状況において用途がある。下記内容は、これらの方法及び組成物の用途について、いくつかの一般的な分野で簡単に検討したものである。しかしながら、当業者であれば、バイオフィルム発生が問題であるか又は微生物の生育阻害が望ましい任意の環境や状況で、これらの方法及び組成物が潜在的に好適であることを、容易に理解するだろう。
【0066】
本発明の方法及び組成物が適用される1分野は、海水、淡海水及び淡水の抗汚染塗料又は被覆剤、例えば船体、養殖設備、漁網又は他の水中施設の処理である。本発明の方法及び組成物は、工業的用途及び家庭的用途でも適用でき、これには給水の貯水槽及び給水管、排水管(家庭用又は工業用規模)、例えば、冷却塔、水処理施設、乳製品加工施設、食品加工施設、化学製造プラント、医薬又はバイオ医薬製造工場、石油パイプライン及び製油施設並びにパルプ及び製紙工場の工程施設が含まれるが、これに限定されない。
【0067】
本発明の組成物は、埋め込み可能な医療デバイスを含めた医療デバイスを被覆するのにも使用でき、該医療デバイスには、静脈カテーテル、尿カテーテル、ステント、人工関節、心臓、心臓弁又は他の臓器といったプロテーゼ、ペースメーカー、外科用プレート及びピン及びコンタクトレンズが含まれるが、これに限定されない。他の医療装置も、カテーテル及び透析装置のように、被覆され得る。本発明の方法及び組成物は、感染性疾患の管理にも適用がある。例えば、バイオフィルム形成が関連する多様な細菌性感染症、例えば嚢胞性線維症、中耳炎、細菌性心内膜炎、腎結石、レジオネラ症、尿路感染症、肺感染症、歯垢、虫歯及び外科処置又は熱傷が関連する感染症を、本発明の方法及び組成物で治療できる。よって、本発明の組成物は、医薬組成物として製剤されるか、例えば、外科用包帯、マウスウォッシュ、歯磨き粉又は生理食塩水溶液の構成成分を形成できる。
【0068】
本発明の組成物を、目的のウェルの対象物/アイテムの表面上に適用し、又は該組成物で表面上を被覆し、又は該表面中に取り込んだ後に、バイオフィルムを形成する微生物を含む環境中で該対象物/アイテムを使用し、又は該対象物/アイテムを該環境に曝露し得る。あるいは、本発明の組成物を、目的の対象物/アイテムの表面上に適用し、又は該組成物で表面上を被覆し、又は表面中に取り込んだ直後に、バイオフィルムを形成する微生物を含む環境中で、該対象物/アイテムを使用し、又は該対象物/アイテムを該環境に曝露し得る。
【0069】
本発明の組成物は、任意の好適な形態をとり得る。例えば、本発明の組成物は、塗料、ワックス、他の被覆剤、エマルジョン、溶液、ゲル、懸濁液、ビーズ、粉末、粒状体、ペレット、フレーク又は噴霧剤として製剤化できる。当業者であれば、特定の適応及び提案される送達経路に応じて、適切な製剤が決まることがわかるだろう。
【0070】
本発明の組成物には、典型的には、担体、希釈剤又は賦形剤も含まれる。好適な担体、希釈剤及び賦形剤が、当業者には知られている。希釈剤、アジュバント及び賦形剤は、組成物の他の成分に対して、適合性の観点で「許容され」なければならず、医薬組成物の場合には、そのレシピエントに対して有害であってはならない。
【0071】
担体は、液体又は固体である。液体担体の場合、液体は水性又は非水性の溶媒である。典型的には、抗汚染剤及び他の工業的用途では、組成物は、例えば塗料又は他の表面被覆剤の形態で、時間的に及び/又は空間的に活性薬剤の制御放出を可能にする担体を適用する。生理活性剤の制御放出を可能にする多様な方法が当業者には知られており、例えば、好適なポリマー又はポリマーベースの産物中に活性薬剤を封入することが含まれる。ポリマーは、有機又は無機ポリマー、例えばポリオレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン又はポリペプチドであり得る。制御放出をもたらすのに好適なポリマーが当業者には知られており、例えば米国特許第6,610,282号に開示されており、該開示内容は参照により本明細書に取り込まれる。
【0072】
典型的には、物質(substance)の放出速度は、ポリマーそのものの特性だけではなく、環境要因(例えば、pH、温度など)によって決まる。制御放出システムは、最大で数年間、徐々に及び継続して、物質を送達できる。当業者であれば、数多くの制御放出システムを本発明の薬剤の送達に適用可能であることを理解するだろう。一例に過ぎないが、放出は拡散制御、化学制御又は溶媒-活性化されるものであり得る。
【0073】
拡散制御システムでは、ポリマーマトリックス内にトラップされた薬剤の拡散が、全体の放出速度の速度決定因子となる。拡散制御システムの1タイプでは、不活性拡散バリアによって、該薬剤が包囲されたコア部分を形成するリザーバデバイスを用いる。これらのシステムには、膜、カプセル、マイクロカプセル、リポソーム、及びホロファイバーが含まれる。他には、デバイスは、不活性ポリマー中に活性薬剤が分散又は溶解している一体式のデバイスがある。ポリマーマトリックスを介した拡散が律速段階であり、放出速度は、ポリマーの選択及び拡散で生じる効果及び放出される薬剤の分配係数によって、一部が決まる。
【0074】
典型的な化学制御システムでは、ポリマーは時間をかけて分解され、漸進的腐食に比例する量の薬剤を放出する。化学制御は、生腐食性鎖又はペンダント鎖を用いて達成できる。生腐食性システムでは、一体式の拡散システムと同じ方法で、ポリマーを介して薬剤が均一に、理想的に分配される。薬剤を包囲するポリマーが腐食すると、該薬剤が放散される。ペンダント鎖システムでは、当業者に公知の、望ましくかつ実用的な任意の物理的又は化学的手段により、例えば水又は酵素による結合の切断により、放出を可能とする化学的性質によって、薬剤をポリマーと共有結合できる。
【0075】
典型的な溶媒-活性化制御システムでは、活性薬剤(一酸化窒素、一酸化窒素を発生又は放出する薬剤、又は一酸化窒素捕捉剤若しくは酸化防止剤であり得る)が、ポリマーマトリックス中で溶解又は分散されるので、該マトリックスを介した拡散はできない。薬剤の放出のための駆動力としては、浸透圧が利用される。溶媒-制御システムの1タイプでは、環境流体(例えば、水)がマトリックスに浸透する際のポリマー(例えば、ハイドロゲル)膨潤及びそのガラス転移温度は、環境(ホスト)温度よりも低い。従って、膨潤ポリマーはゴム状態であり、その中に含有される活性薬剤は、カプセル剤を介して拡散される。
【0076】
生理活性剤とポリマーの化学結合は、当業者に周知の様々な合成方法に基づいた幾つかの一般的な方法で達成でき、該方法には:予め形成されたポリマーでの反応;天然のポリマーでの反応;活性成分を含むビニルモノマーの重合;及び段階成長重合が含まれる。生理活性剤がポリマーと化学結合している場合、該結合は化学反応-典型的には酵素反応、加水分解性反応、熱反応、又は光化学反応によって切断されねばならない。多様な化学的及び物理的変動要素は、結合切断の速度及びそれに続くポリマーからの化学結合した物質の放出に影響を与えることがあり、該要素には不安定結合の性質、スペーサー基の長さ、分子量、親水性、隣接基の効果、環境因子及び物理的形態及び容積が含まれる。
【0077】
抗汚染用途では、自己研磨性抗汚染被覆剤が当技術分野では知られている。かかる被覆剤は、典型的にはトリブチルチンメタクリレート、メチルメタクリレート及びフィルム軟化モノマー、例えば2-エチルヘキシルアクリレートのポリマーをベースとする。有機スズポリマーは、典型的には塗料結合剤として働く。また、かかる塗料は、有害な添加剤、例えば亜酸化銅又はトリ有機スズ化合物を含んでもよい。さらに、通常の塗料添加剤としては、例えば顔料、チキソトロープ剤が存在する。通常アルカリ性の海水では、ポリマー性有機スズ結合剤は、徐々に加水分解され、トリブチルチンが活性抗汚染剤の形態で遊離される。形成された加水分解型ポリマーは、水可溶性又は水膨潤性であり、海水を除去して、塗料の新しい表面に曝露することにより、表面の腐食を容易に停止させる。
【0078】
医薬用途では、数多くの好適な制御放出システムが当技術分野で知られている。例えば、リザーバ及びマトリックスデバイスの形態で、ポリマー性コロイド状粒子又はマイクロエンカプセル(マイクロ粒子、マイクロ球体又はナノ粒子)を適用できる。あるいは、多孔性デバイス又は薬剤放出が浸透圧で「制御」されたデバイス(リザーバ及びマトリックスデバイスの両方)を作製するために、該薬剤には、親水性及び/又は浸出性添加剤を含むポリマー、例えば第2のポリマー、界面活性剤又は可塑化剤等が包含され得る。大きなケージ様分子、例えばC60 Buckminster-fullerenes (「Buckyballs」)又は多分岐(星形)デンドリマーも使用できる。
【0079】
当業者であれば、上記の送達システム及び方法は、本発明で適用される好適な方法及びシステムの例にすぎないことが容易にわかるだろう。任意の他の好適な担体及び送達システムを利用することにより、本発明の実施形態に従った薬剤の適用において、望ましい手段を提供できる。
【0080】
製薬上許容される希釈剤の例は、脱塩水又は蒸留水;生理食塩水溶液;植物をベースにした油、例えば、ピーナツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油又はココナツ油;ポリシロキサンを含むシリコーン油、例えばメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン及びメチルフェニルポリソルポキサン;揮発性シリコーン;鉱油、例えば液体パラフィン、軟質パラフィン又はスクアラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルコール、例えばエタノール又はイソ-プロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はグリセリン;脂肪酸エステル、例えばパルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル又はオレイン酸エチル;ポリビニルピロリドン;寒天;カラギーナン;トラガカントゴム又はアラビアゴム及び黄色ワセリンである。典型的には、1又は複数の担体は、組成物の重量の1%〜99.9%を構成する。
【0081】
医薬用途では、組成物は、任意の経路、例えば経口、局所の、腔内、膀胱内、筋肉内、動脈内、静脈内、鼻腔内、肺内又は皮下投与で送達するために製剤化できる。
【0082】
本発明者らは、一酸化窒素及び一酸化窒素を発生又は放出する薬剤が抗菌剤に対する微生物の感受性を増強することを見出したので、本発明の方法は、少なくとも1つの抗菌剤と組み合わせて適用できる。任意の好適な抗菌剤、例えば抗生物質、洗浄剤、界面活性剤、酸化ストレスを誘発する薬剤、バクテリオシン並びに抗菌性の酵素、ペプチド及びファージが使用できる。抗菌剤は、天然又は合成性である。実際に適用される抗菌剤は、その都度、本発明の特定の用途のために選択され、当業者であれば、本発明の範囲は特定の抗菌剤の性質又は該抗菌剤と同一のものには、限定されないことがわかるだろう。一例に過ぎないが、好適な抗生物質には、β-ラクタム、モノペネム、カルボキシペネム、アミノグリコシド、キノロン、マクロライド、リンコザミド、テトラサイクリン、ストレプトグラミン、グリコペプチド、リファンピシン、スルホンアミド、クロラムフェニコール、ナリジキシ酸、アゾール含有化合物及びペプチド抗生物質が含まれるが、これに限定されない。抗菌性の酵素には、リパーゼ、プロナーゼ、リアーゼ(例えば、アルギン酸リアーゼ)及び多様な他のタンパク質分解酵素及びヌクレアーゼが含まれるが、これに限定されない。
【0083】
本発明の方法では、所望の効果を得るために、同時に又は任意の順序で連続的に又は異なる時期に、併用される各成分を投与し得ることを、当業者であれば容易に理解するであろう。他には、該成分を複合製品(combination product)として、単一の用量単位で共に製剤化できる。よって、本発明の組成物は、一酸化窒素及び/又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生又は放出する薬剤に加えて、少なくとも1つの抗菌剤を含んでもよい。
【0084】
本明細書に記載のとおり、本発明者らは、一酸化窒素捕捉剤の使用はバイオフィルム及び浮遊性成長に対して、一酸化窒素供与体SNPで観察される効果をリバースさせるので、プログラムされた細胞死の阻害及びバイオフィルムからの細胞分散の阻害及びこれらが有益な状況において、バイオフィルムの活性を維持及び/又は増強するための手段を提供することも見出した。
【0085】
よって、本発明の幾つかの態様は、バイオフィルムの機能を維持及び/又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露する前記方法に関する。本発明は、微生物におけるプログラムされた細胞死を阻害する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む前記方法にも関する。本発明は、上記方法を行うための組成物をさらに提供する。
【0086】
従って、本発明の方法及び組成物は、一酸化窒素を除去する分子及びRONSを消失させる分子の使用によって、バイオフィルムの寿命、生存能、密度、活性及び/又は有効性の操作を可能にする。バイオフィルムの機能を維持及び/又は増強するのに好適な薬剤又はプログラムされた細胞死を阻害するために好適な薬剤には、一酸化窒素捕捉剤、例えば、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)、カルボキシ-PTIO、N-(ジチオカルボキシ)サルコシン(DTCS)、N-メチル-D-グルカミンジチオカルバメート(MGD)、(+)-ルチン水和物及びヘモグロビン、及び酸化防止剤、例えばチオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸が含まれる。当業者であれば、当技術分野で公知の数多くの他の一酸化窒素捕捉剤及び酸化防止剤を、本発明に同様に適用でき、また本発明は使用した特定の薬剤と同一のものには限定されないことを、容易に理解するであろう。実際、本発明の特定の用途に適した薬剤の選択は、その都度なされる。かかる薬剤を含む組成物は、上記のとおり製剤化できる。
【0087】
当業者であれば、バイオフィルムの制御に関連する本発明の方法及び組成物には、単一種又は複数種のバイオフィルムが適用可能であることを理解するだろう。本発明に関わる細菌種は、バイオフィルムを形成できる又はバイオフィルムに寄与できる任意の種である。標的の微生物種には、酵母及び糸状菌を含む真菌、並びにグラム陽性菌、並びにグラム陰性菌が含まれる。本発明の目的となるバイオフィルムには、カンジダ属(C.アルビカンスを含む)、ホルモコニス属(H.レジナエを含む)、シュードモナス属、例えばP.アエルギノーサ、シュードアルテロモナス属、例えばP. ツニカタ(tunicata)、スタフィロコッカス属、例えばS.アウレウス(メチシリン耐性及びバンコマイシン耐性S.アウレウスを含む)及びS.エピデルミディス、ストレプトコッカス属、例えばS.ミュータンス/S.ソブリナス、シゲラ属、例えばS. フレキセリ(flexeri)、S. ディセンテリア(dysenteria)、マイコバクテリウム属、例えば結核菌、エンテロコッカス属、例えばE.フェカーリス、エシェリキア属、例えばE. コリ、サルモネラ属、例えばS.チフィムリウム、S.チフィ及びS.エンテリティディス、レジオネラ属、例えばL. ニューモフィラ、ヘモフィルス属、例えばH. インフルエンザ、バチルス属、例えばB. リケニホルミス、硫黄還元菌及びイオン還元菌(例えば、D. ブルガリス及びD. デスルフリカンスを含むデスルホビブリオ属、S. プトレファシエンスを含むシェワネラ属、G.メタリレデューセンス(metallireducens)を含むゲオバクター属)、クレブシエラ属、例えばK.ニューモニエ、プロテウス属、例えばP.ミラビリス、アエロモナス属、アルスロバクター属、ミクロコッカス属、セラチア属、例えばS. マルセッセンス、ポルフィロモナス属、例えばP. ジンジバリス、フソバクテリウム属、例えばF. ヌクレアタム及びビブリオ属、例えばV. コレラから選択される微生物が含まれるが、これに限定されない。微生物種は、好気性、嫌気性、条件性、耐気性、疎気性又は微好気性であり得る。他に、本発明の幾つかの用途では、処理されるバイオフィルム混合集団中の特定の種との同一性は必要ではなく、また本発明の適用に関して重要ではないことが当業者にはわかるだろう。
【0088】
本発明は、以下の特定の実施例を参照することにより更なる詳細が説明されるが、本発明の範囲はいかなる方法でも限定されるべきでない。
【実施例】
【0089】
実施例1〜3に記載のバイオフィルム試験では、Marie Allesen-Holmから大量に提供されたシュードモナス・アエルギノーサ株PAO1及び緑色蛍光タンパク質(GFP)の染色体挿入を含むシュードモナス・アエルギノーサ株PAO1-GFPを使用した。Luria Bertani(LB)培地中、37℃で振盪させながら、一般的な方法で一晩培養を行った。本明細書の他の箇所に記載のとおり、改変されたM9最少培地中でバイオフィルム及び浮遊性実験を行った(Webb et al, 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bacteriol., 185: 4585-4592)。連続培養実験では5 mMグルコースを用い、バッチ実験では20 mMグルコースを用いた。
【0090】
実施例1:バイオフィルム中の細胞死及び分散は、成熟微小コロニー中のパーオキシナイトライトの蓄積と相関する
バイオフィルム発生のために、P. アエルギノーサPAO1を、連続培養フローセル(チャネル寸法1×4×40 mm)中、室温で既報のとおり生育した(Moller et al., 1998, In situ gene expression in mixed-culture biofilms: evidence of metabolic interactions between community members, Appl. Environ. Microbiol., 64: 721-732)。チャネルに、一晩培養した細胞培養物0.5 mLを播種し、室温で1時間、流動させずにインキュベートした。その後、フローセルの平均流体速度を0.2 mm.s-1にして、フローを開始した。該速度は、Reynolds数0.02の層流に相当する。
【0091】
バイオフィルム発生における細胞死を調べるために、バイオフィルムをLIVE/DEAD BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes)で染色した。その際、SYTO9を用いて生細胞を特異的に染色し、ヨウ化プロピジウムを用いて死細胞を特異的に染色した。染色液の原液を改変したM9培地で3μL.mL-1に希釈し、フローチャネルに注入した。SYTO 9-染色した生細胞及びヨウ化プロピジウム-染色した死細胞を、フルオレセインイソチオシアネート及びテトラメチルローダミンイソシアネート光学フィルターをそれぞれ用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(Olympus)で可視化した。7日後、P. アエルギノーサのバイオフィルムが高度に再現性のある細胞死及び分散のパターンを生み、これらの事象がバイオフィルム中の中空コロニーの形成を導くことを観察した(図1A-白色の矢印は中空構造を示し;黒色の矢印は死細胞を示す)。
【0092】
特異的反応性及び窒素種(RONS)の役割を調べ、死及び分散においてバイオフィルム構造中で蓄積する特定のRONSを検出するために、それぞれが異なるRONSを標的とする一連の反応性蛍光色素を、フローチャネルに注入し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察する前に、暗所で30分間インキュベートした。調べたRONSは、一酸化窒素 (NO)、パーオキシナイトライト (ONOO-)、過酸化水素(H2O2)及びスーパーオキシドラジカル(O2-・)であった。DMSO中でDAFFM-DA (Molecular Probes)5 mM原液を、一酸化窒素の検出のために、100μMで使用し(Kojima et al., 1999, Fluorescent indicators for imaging Nitric Oxide production, Angew.Chem. Int. Ed. Engl. 38: 3209-3212)、エタノール中でジヒドロローダミン123 (DHR) (Sigma)原液2.5 mg.mL-1を、パーオキシナイトライトの検出のために15μMで使用し(Crow, 1997, Dichlorodihydrofluorescein and dihydrorhodamine 123 are sensitive indicators of peroxynitrite in vitro: implications for intracellular measurement of reactive nitrogen and oxygen species, Nitric Oxide, 1: 145-157)、DMSO中でカルボキシ-H2DCF-DA (Molecular Probes)10 mM原液を、過酸化水素の検出のために100μMで使用し、及びリン酸緩衝液(PBS)中1%DMSO下で、ヒドロエチジン(HEt) (Sigma)1 mg.mL-1 原液をスーパーオキシドラジカルの検出のために10μMで使用した(Bindokas et al., 1996, Superoxide production in rat hippocampal neurons: selective imaging with hydroethidine, J. Neurosci. 16: 1324-1336)。原液の凍結を維持し、遮光した。使用前に、改変したM9培地中で最終溶液を新たに作製した。
【0093】
図1Bに示すとおり、バイオフィルム中の細菌は、対照画像から明らかなように低レベルの自己蛍光を示した。陽性の蛍光発光をRONS-特異的な色素のうち2つで検出した:HEtはスーパーオキシドラジカルO2-・を検出し、DHRは非常に高レベルの蛍光でパーオキシナイトライトONOO-を検出した。光照射野(左のパネル)は、成熟微小コロニー中で蛍光発光が生じたことを示し、図1Aに示すとおり死及び分散事象が生じたことを示した。過酸化水素の検出においてH2DCFで得た陰性の結果は、P.アエルギノーサのバイオフィルムで既に報告されているカタラーゼの過剰発現と相関している(Stewart et al., 2000, Effect of catalase on hydrogen peroxide penetration into Pseudomonas aeruginosa biofilms, Appl. Environ. Microbiol. 66: 836-838)。DHRはパーオキシナイトライトに特異的であり、他のRONS単独では酸化できない(Crow et al., 1999)。パーオキシナイトライトは、スーパーオキシド及び一酸化窒素の直接産物であるので、DAFFMを用いて一酸化窒素を検出できなかったことは驚きであった。しかしながら、一酸化窒素は非常に反応性が高く、一酸化窒素及びスーパーオキシド間の反応は、拡散に限定された方法で瞬時に起こることが知られており(Kelm et al., 1997, The nitric oxide/superoxide assay. Insights into the biological chemistry of the NO/O2- interaction, J. Biol. Chem. 272: 9922-9932)、このことがDAFFMによる一酸化窒素の検出を妨げるのかもしれない。
【0094】
上記の結果は、RONSパーオキシナイトライトが、高い細胞密度のバイオフィルム細胞中で蓄積し、成熟バイオフィルム中で微小コロニーにおける細胞死のトリガーとなることを実証する。
【0095】
実施例2:P. アエルギノーサ中のバイオフィルム対浮遊性成長は、一酸化窒素により制御される
一酸化窒素は、生体系において広範に見られる細胞内及び細胞外シグナル伝達分子である。一酸化窒素は、パーオキシナイトライトの重要な前駆体、広範囲の生物学的作用を有する強力な酸化物質でもある。一酸化窒素は、スーパーオキシドと容易に反応し、パーオキシナイトライトを生じさせる。
【化2】
【0096】
したがって、本発明者らは、P. アエルギノーサの浮遊性及びバイオフィルム成長に対する一酸化窒素供与体、ナトリウムニトロプルシド(SNP)の効果を調べた。SNPは、in vivoで一酸化窒素を放出する(Smith et al., 2001, Mechanisms of nitric oxide release from nitrovasodilators in aqueous solution: reaction of the nitroprusside ion ([Fe(CN)5NO]2-) with L-ascorbic acid, J Inorg Biochem, 87: 165-173)。
【0097】
この実験では、96-ウェルプレート中でバイオフィルムを使用した。改変したM9培地で希釈したPA01-GFPの1/1000一晩培養物100μLを、96-ウェルプレート(Sarstedt)に播種し、37℃、120 rpmで振盪しながら24時間生育した。SNPを25 nM〜100 mMの濃度で培養物に加えた。処置あたり4回の反復試験を行った。一晩生育した後、上澄液を新しいプレートのウェルに移した。ウェルをPBSで2回洗浄し、120μLのクリスタルバイオレットで20分間染色した。その後、ウェルを再びPBSで3回洗浄し、120μLの無水エタノールで希釈した。バイオフィルム形成をOD490nmの測定で定量し、浮遊性成長を蛍光測定で定量した。
【0098】
図2で示すとおり、未処理のバイオフィルムと比べ、高濃度(ミリモル範囲)でバイオフィルム形成の増加及び浮遊性成長の減少を観察した(25 mM〜100 mM SNP)。これらの濃度では、SNPは多くの細菌種に有害であり; SNPは有害な高濃度の一酸化窒素を放出する(Joannou et al., 1998, Characterization of the bactericidal effects of sodium nitroprusside and other pentacyanonitrosyl complexes on the food spoilage bacterium Clostridium sporogenes, Appl Environ Microbiol, 64: 3195-3201; Kelley et al., 1998, Inducible nitric oxide synthase expression is reduced in cystic fibrosis murine and human airway epithelial cells, J Clin Invest, 102: 1200-1207)。より低濃度、すなわちマイクロモル及びナノモル範囲では、バイオフィルム形成の減少及び浮遊性成長の増加を観察した。500 nM SNPで、最も高い効果を繰り返し観察したので、この濃度をこの実施例及び実施例3に記載の後続の実験で使用した。
【0099】
観察した事象における一酸化窒素の役割を確認するために、2つの異なる一酸化窒素供与体、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)及びS-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)を、SNPの代わりにそれぞれ濃度1μMで使用した。図3に図示するとおり、SNPと同様、これらの一酸化窒素供与体は両方とも、SNPで観察される場合より程度は低いものの、バイオフィルム形成を減少させ及び浮遊性成長を増加させた。
【0100】
これらの結果は、低濃度では一酸化窒素が、バイオフィルムから浮遊性表現型への転換をシグナル伝達することを示す。
【0101】
図3は、一酸化窒素捕捉剤2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)の効果も示す。500 nMのSNPに加え、濃度1 mMのPTI0を生育するバイオフィルムに添加した。PTIOの添加により、浮遊性及びバイオフィルムの表現型の両方において、SNP効果が40%以上低下した。
【0102】
実施例3:低レベルの一酸化窒素への曝露は、抗菌剤に対するP.アエルギノーサ細胞の感受性を増大させる
浮遊性細胞は、バイオフィルム細胞よりも、抗生物質に対して最大で1000倍感受性が高いことが知られている(Brooun et al., 2000, A dose-response study of antibiotic resistance in Pseudomonas aeruginosa biofilms, Antimicrob Agents Chemother, 44: 640-646; Davies, 2003, Understanding biofilm resistance to antibacterial agents, Nat Rev Drug Discov, 2: 114-122)。成熟バイオフィルムに対抗するうえで重大な問題の1つは、抗菌剤に対するこの感受性の低下である。実施例2に上記した結果は、一酸化窒素が、より強い耐性があるバイオフィルム表現型よりも、成長の浮遊性モードを促進することを実証している。従って、本発明者らは、一酸化窒素の曝露が、バイオフィルム細胞に対する抗菌剤の感受性も回復させるかどうかを調べた。低レベルの一酸化窒素に曝露したP. アエルギノーサのバイオフィルム及び浮遊性細胞に対し、様々な抗菌剤の効果を調べた。
【0103】
細胞の感受性を試験するために、広範囲の抗菌化合物を調べた:細菌タンパク質合成を不可逆的に阻害する抗生物質トブラマイシン (Sigma)を、最終濃度100μMで使用し;界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1%で使用し;さらに酸化ストレス誘導剤過酸化水素(H2O2;濃度10 mM)及び次亜塩素酸(HOCl;濃度8 mM)を使用した。
【0104】
バイオフィルムを、顕微鏡ガラススライド(76×26 mm, Superfrost, Menzel Gleser)を含むペトリ皿中で生育した。コンタミネーションを防止するために、スライドを加熱滅菌し、ペトリ皿を紫外線に30分間さらして滅菌した。改変したM9培地で希釈したPA01-GFPの1/1000一晩培養物25 mLをプレートに播種し、37℃、50 rpmで振盪しながら24時間生育し、スライド上でバイオフィルムを形成させた。上澄液のOD600nmの示度を測定した。その後、スライドを滅菌PBS中ですすいだ。抗菌感受性アッセイのために、スライドを、改変したM9培地単独(陰性対照)と共に又は改変したM9培地で希釈した抗菌剤の500μLと共に、湿潤チャンバー中で30分間インキュベートし、PBS中で再びすすいだ。スライド上のバイオフィルムを上記のとおり250μLのLIVE/DEAD染色液で20分間、湿潤チャンバー中で染色した。スライドにつき7枚の共焦点写真を無作為に撮影し、表面被覆の割合を画像分析で定量した。
【0105】
併用処理(SNP及び抗菌剤)後に、バイオフィルム細胞数の最大で95%の劇的な減少を、再現性をもって観察した(図4A及び4B)。最も高い効果をトブラマイシン(嚢胞性線維症患者を治療するために一般的に使用される抗生物質)で得た。
【0106】
予め構築されたP. アエルギノーサのバイオフィルムの感受性を増大させるSNPの能力も、図5に図示するとおり調べた。最初の24時間の発生をSNPの不在下で行ったことを除いては、上記と同様にバイオフィルムを生育した。24時間後、培地を交換し、500 mM SNPを含有する培地に取り換えた(処理バイオフィルムにおいて、対照にはSNPを加えなかった)。Tb 100μM又はH2O2 10 mMのいずれかを30分間加えるか、又はUV光線(19 W, 254 nmに30分間、ランプから30 cm)にさらす前に、バイオフィルムをさらに24時間生育した。図4に関して上記したとおり、感受性を測定した。図5に示すとおり、予め構築されたバイオフィルムの併用処理の後に、バイオフィルム表面被覆及びバイオフィルム細胞数の劇的な減少を観察した。
【0107】
浮遊性細胞に対するSNP及び抗菌剤の併用処理の効果を調べるために、PAO1-GFPの一晩培養物を、500 nMのSNPを含む又は含まない20 mMのグルコースを含有する改変したM9培地で1/1000に希釈した。24時間後に、細胞を抗菌剤溶液中で1/10に希釈し、室温で2時間インキュベートした。CFUプレートカウントを行い、細菌の生存能を評価した。浮遊性細胞に対するSNPの前処理は、未処理のP. アエルギノーサ細胞と比べ、H2O2及びトブラマイシンの曝露後にCFUカウントを更に2 log低下させた(図6)。興味深いことに、500 nM SNPによる処理は、未処理の対照と比べ、浮遊性培養物の吸光度の増加を引き起こしたが(図3)、SNPで前処理したトブラマイシン又は過酸化水素に暴露した後では、CFUカウント(生存能)の同等の増加を観察しなかった。
【0108】
いかなる理論によっても拘束されることなく、上記の結果は、P. アエルギノーサのバイオフィルム中で、一酸化窒素は、浮遊性「分散」生理機能を誘導することによって、抗菌剤に対するそれらの感受性を増強するのだと本発明者らは考える。
【0109】
実施例4:一酸化窒素は、フロックバイオフィルム中で細胞の分散を誘導する
表面付着性バイオフィルムに関する実施例2に記載の結果について、非表面付着性の複数種混合のバイオフィルムからの分散を誘導する一酸化窒素の能力を調べた。
【0110】
4個の並列バイオリアクター(30 mLフラスコ)を、アセテート-フェド脱窒条件(嫌気条件)下で13日間、バッチ供給モード(1デカント及びフィード サイクル/日)で作動させた。これらの実験の目的は、SNPにより産生され外部から供給されたNOが、汚泥フロック形成、活性化した汚泥フロック(バイオフィルム)系における細胞死及び分散に影響を与えることができることを実証することであった。
【0111】
バイオリアクターに対し、2004年11月18日にSt Marys Sewage Treatment Plant (STP) (Sydney, NSW, Australia)から回収した活性化汚泥を播種した。バイオリアクターを嫌気条件下、室温で作動させた。所望の濃度を達成するために1 mLのSNP/水に加え、3 mLのアセテート基剤及び12 mLのニトライト基剤の混合物を供給した後、N2ガスを汚泥にフラッシュ/散布することにより、嫌気条件を維持した。バイオリアクターは24時間サイクルで作動させ、23.5時間嫌気条件とした後、10分間沈降及び上澄液の15 mLのデカントという構成にした。
【0112】
バイオリアクター用の培地は、2つの構成成分:炭素培地ベース及び窒素培地ベースで作製した。各サイクルにつき、培地は1容量の炭素培地ベース及び4容量の窒素培地ベースで構成した。炭素培地ベースには、(リットル当たり) 6.587 g CH3COONa、0.042 g CaCl2.2H2O、0.090 g MgSO4.7H2O、0.160 g MgCl2.6H2O、0.011 g KH2PO4、0.026 g Na2HPO4.12H2O、0.122 g Bactoペプトン (Difco Laboratories, USA)、0.020 g Bacto酵母抽出物(Difco Laboratories)、0.025 g NH4Cl、及び0.3 ml栄養溶液が、既報のとおり含まれていた(Bond et al., 1999, Identification of some of the major groups of bacteria in efficient and nonefficient biological phosphorus removal activated sludge systems, Appl Environ Microbiol, 65: 4077-84)。培地はMilli-Q waterで作製し、加熱滅菌により滅菌した。
【0113】
窒素培地ベースには(リットル当たり)8.972 g NO2Naが含まれ、逆浸透圧脱イオン水で作製した。混合培地中のアセテート:NO2--N比を2.73:1に維持した。
【0114】
特異的反応性及び窒素種(RONS)の役割を調べ、死及び分散においてバイオフィルム構造中で蓄積する特定のRONSを検出するために、それぞれが異なるRONSを標的とする(濃度は実施例1に概説した)一連の反応性蛍光色素を、St Marys STPから採取した500 mLの活性化汚泥と混合し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察する前に、暗所で30分間インキュベートした。調べたRONSは、過酸化水素 (H2O2)、一酸化窒素 (NO)、パーオキシナイトライト (ONOO-)のみならず、スーパーオキシドラジカル(O2-・)及びヒドロキシル(OH)ラジカルであった。対照サンプル(蛍光RONS色素を含まない)を用いることにより、後続の蛍光プローブについて、CLSM画像収集レベルを確保した。表1に示すとおり、RONS-特異的な色素のうち2つで、細胞内過酸化水素、H2O2-について、陽性の蛍光を検出した。またDHR123は、高レベルの蛍光でパーオキシナイトライトONOO-を検出した。
【表1】
【0115】
バイオフィルム発生における汚泥フロック及び浮遊性細胞を調べ観察するために、バイオフィルムをLIVE/DEAD BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes)で染色した。染色液の原液を、各バイオリアクターから採取した500 mLの活性化汚泥サンプルを含有する1.5 mLマイクロ遠心管中で、1μL mL-1に希釈した。ガラススライド上にサンプル(20μL)をマウントし、共焦点レーザー走査顕微鏡(Olympus)で細胞を可視化した。13日目の各バイオリアクターから、フロック及び浮遊性細胞の数の観察をした。図7に示すとおり、SNP処理の13日後に、未処理のバイオフィルム(図7A、表2)と比べ、処理したフロックバイオフィルムからは細胞の実質的な分散を観察した(図7B)。
【表2】
【0116】
SNP濃度10 mMを用いた場合に、最大レベルの分散及びフロック分解を観察した。しかしながら、フロックのサイズが大きい(多くの場合、>200μm)ために、フロック内部の細胞に提示されるNOの実際の濃度は、非常に低いと考えられる。そのうえ、NO供与体からのNOの放出は複雑な化学反応に依存しており、放出されるNOの有効濃度は使用されるSNP濃度よりも最大で1〜2log低い可能性がある(Smith and Dasgupta, 2001, Mechanisms of nitric oxide release from nitrovasodilators in aqueous solution: reaction of the nitroprusside ion ([Fe(CN)5NO]2-) with L-ascorbic acid, J. Inorg. Biochem. 87: 165-173)。
【0117】
実施例5:一酸化窒素は、混合種のバイオフィルム中で細胞の分散を誘導する
5.1 材料及び方法
5.1.1 モデル分散系
Storey及びAshboltが記載したバイオフィルムサンプル採取部位(BSS)( Storey M.V. and Ashbolt N.J. (2001), 「Persistence of two model enteric viruses (B40-8 and MS-2 bacteriophages) in water distribution pipe biofilms」, Water Sci Technol. 43 (12): 133-8)を、この試験で使用した。モデル飲料水及び再利用水系のバイオフィルムを、2つの連続流環状リアクター(model 920, Biosurfaces Technologies, Bozeman, Montana)中で、BSSにおいて生育した。環状リアクター(AR)は、水充填環状キャビティで分離された回転ポリカーボネート内側シリンダー及び固定ガラス外側シリンダーからなる。60個のステンレススチール(SS)及び未可塑化ポリ塩化ビニル(uPVC)クーポン(利用可能面積は15 mm×40 mm)を、ARの内側環状シリンダーの露出面に設置し、飲料水及び再利用水をそれぞれ30 L.h-1の速度で入れ、水力学的滞留時間を2.2分にした。循環回転速度を、配水管の平均水圧需要量(0.32 L.s-1)と同じ線速度を提供するように設定した。バイオフィルムクーポンを1 g.L-1の次亜塩素酸ナトリウム中で2時間滅菌し、各実験装置に設置する前に、滅菌Milli-Q waterですすいだ。バイオフィルムをクーポン表面上で90日間生育した。この後、入口流を停止させ、テトラサイクリン及びアンピシリン耐性セラチア・マルセッセンスを用いて、最終濃度が約107 CFU.mL-1になるまでARを富化させた。S. マルセッセンス細胞を、SS及びuPVCクーポン表面上のバイオフィルム中で2週間沈降させた。沈降しなかった細胞は、飲料水及び再利用水を入口流に1週間再接続することにより、該系から除去した。S. マルセッセンスは30℃で24時間インキュベートした後に、選択性LB寒天培地プレート(50μg.mL-1 テトラサイクリン及び100μg.mL-1 アンピシリンを添加した)から事前に回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で3回洗浄した。
【0118】
5.1.2 実験デザイン
クーポンは、滅菌ピンセットを用いて、各バイオフィルム装置から注意深く取り出した。各実験装置からSSクーポン(飲料水)及びuPVCクーポン(再利用水)を取り出し、NO曝露のために、実験室でバイオリアクターに移した。バイオリアクターは、下部に入口部(inlet)及び上部に排出部(outlet)を有する1Lポリプロピレン(PP)ビーカーをアルミニウムホイルで被覆し、該クーポンに適合させるために改変したPP顕微鏡スライドラック(Kartell, Italy)を含むものにした。ラックをPPスタンドの底部から2cm上に設置し、パイプの壁部での水圧性ずり応力を疑似するように、磁気攪拌により円形流を生じさせた。バイオリアクターを1 g.L-1 次亜塩素酸ナトリウムで2時間滅菌し、バイオフィルムを含むクーポンを収容する前に、滅菌Milli-Q waterですすいだ。飲料水又は再利用水系から構築した各種バイオフィルムでは、3個の別個のバイオリアクター中にクーポンを無作為に設置し、それらを0、100 nM又は500 nMのNO供与体ナトリウムニトロプルシド(SNP)(pH7.8)を含む加熱滅菌した(無菌及び脱塩した)飲料水の連続流に、流速50 mL h-1で18時間さらした。
【0119】
その後、従来の塩素処理物20 mLを含む25 mLガラスバイアルに、クーポンを注意深く移した。塩素処理物の濃度は1/4力価のリンガー溶液中で2.4M次亜塩素酸溶液を希釈することにより新たに調製し、Pocket Colorimeter II(HACH, Loveland, CO)を用いて検量した。10分間ゆっくりと攪拌した(75 rpm)後、チオ硫酸ナトリウムを最終濃度100μMで加え、反応を停止させた。それぞれのNO/塩素併用処理では、3個のクーポンを生存能カウントで使用し、2個のクーポンを顕微鏡分析で使用した。
【0120】
5.1.3 分析方法
クーポンを生存能カウント及び顕微鏡分析のために処理した。LIVE/DEAD(登録商標)BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes, Oregon, USA)を用いて、バイオフィルム中の細胞を染色した。2種類の染色液(SYTO 9及びヨウ化プロピジウム)の原液を、1/4力価のリンガー溶液中で濃度3μL.mL-1にそれぞれ希釈し、クーポンを150μLの染色混合液で染色し、薄いカバースリップ(10.5×35mm, ProSciTech, Kirwan, Australia)でカバーした。エピ蛍光顕微鏡(Leica model DMR)下でクーポンを観察し、画像分析システム(ImageJ, NIH)を用いてバイオフィルム細胞を数えた。
【0121】
生存能カウントでは、100μMチオ硫酸ナトリウムと共に25 mLの1/4力価のリンガー溶液を含む滅菌ストマッカーバッグ(101×152 mm) (Seward, UK)中にクーポンを設置した。バッグを熱封し、付着したバイオフィルムの分解を誘導するように手で擦った。クーポンを400 W(Branson 2210 Sonicator)で60秒間超音波処理した後、60秒間消化(Seward Stomacher(登録商標)80, Seward, UK)することにより、残存するバイオフィルムを除去し、ホモジナイズした。その後、ホモジネートをストマッカーバッグから無菌的に除去した。従属栄養体プレートカウント(HPC)を、貧栄養R2A寒天培地(Oxoid, England)及び富栄養Luria Bertani(LB)寒天培地プレート上で、混釈平板法を用いて行った。該プレートを30℃でインキュベートし、7日後にカウントを行った。S. マルセッセンスコロニーは、50μg.mL-1 テトラサイクリン及び100μg.mL-1 アンピシリンを添加した選択性LB寒天培地上でコロニーを平板培養することにより、形態学的に同定及び確認した。超音波処理及び消化方法については、HPC回収を介したバイオフィルム除去に対するそれらの効果について、事前に実験した。
【0122】
95%の有意水準で分散(ANOVA)検定の解析を行うことにより、低用量のNO及び塩素殺菌剤の多様な組み合わせがバイオフィルム成長に与える影響を比較した。
【0123】
5.2 結果
5.2.1 セラチア・マルセッセンスでスパイクされた飲料水バイオフィルム
図8A〜8Cに図示するとおり、データは、S.マルセッセンスだけでなく、モデル飲料水給水系中で構築された混合種のバイオフィルムを除去するのに、SNP処理が用量依存的に有効であったことを示す。生存能アッセイ及び顕微鏡分析からも一貫性のある結果が得られた(図8)。プレート上の様々なコロニー形態の相対比は、SNP処理により影響を受けなかったので、混合集団中の特定の種に選択的ではなかったことがわかる。最も有効な処理濃度は500 nM SNPであった。このことは、シュードモナス・アエルギノーサ及び他の単一種の細菌性バイオフィルムで観察された前述の結果と相関する。この実験では、遊離塩素処理を2 ppmで行い、通常の塩素にさらした全てのクーポンで、バイオフィルムの完全除去を観察した。
【0124】
5.2.2 セラチア・マルセッセンスでスパイクされた再利用水バイオフィルム
モデル再利用水給水系及びS.マルセッセンスにより構築された混合種のバイオフィルムは、ナノモル濃度のNO供与体SNPへの曝露により、総カウント及びS.マルセッセンスカウントの両方が用量依存的に減少した。生存能アッセイ及び顕微鏡分析からも一貫性のある結果が得られた(図9)。500 nM SNPに曝露したバイオフィルムは、遊離塩素処理に対し感受性の増強も提示した。例えば、1 ppmの遊離塩素は、生存能カウントにより測定した場合、対照バイオフィルムと比べ、SNP処理したバイオフィルムを除去するのに、最大で20倍有効であった(図9)。
【0125】
実施例6:S. マルセッセンス、V. コレラ、E. コリ及びB.リケニホルミスのバイオフィルムの分散を誘導する低レベルの一酸化窒素
細菌性バイオフィルムを、ガラス(Superfrost, Menzel Gleser)又はポリカーボネート顕微鏡ガラススライド(76×26 mm)のいずれかを含むペトリ皿(直径90 mm)中で生育した。コンタミネーションを防止するために、スライド(ガラス)を加熱滅菌又は1%漂白剤溶液中で30分間滅菌し、ペトリ皿を紫外線に30分間さらして滅菌した。細菌の一晩培養物を25 mlの新鮮培地で1/1000に希釈し、30℃又は37℃で、50 rpmで振とうしながら24時間生育し、スライド上にバイオフィルムを形成させた。24時間後、培地を(NO発生剤を含まない対照に加え)様々な濃度のSNP、SNAP、又はGSNOを含む新鮮培地に交換し、細胞を適当な温度で、50 rpmで攪拌しながら更に24時間インキュベートした。その後、スライドを滅菌PBSですすいで、付着していない又は緩く付着した細胞を除去した。
【0126】
抗菌処理に対するV.コレラのバイオフィルムの感受性を増大させるSNPの能力も、最初の24時間のバイオフィルム発生後に、抗菌処理と組み合わせてNO供与体を添加したことを除いては、上記と同様に試験した。対照群は未処理対照を含み、抗菌剤単独及び細胞を適当な温度で、50 rpmで攪拌しながら更に24時間インキュベートした。その後、スライドを滅菌PBS中ですすいで、付着していない又は緩く付着した細胞を除去した。全ての処理は、3回ずつ行った。
【0127】
バイオフィルム形成の評価は、BacLight Live-Dead染色試薬(Molecular Probes Inc, USA)で細胞を染色し、共焦点顕微鏡で観察することにより行った。スライドあたり、最大で15個の無作為に選択した視野域を、後続の画像分析においてx-y平面で撮像した。画像分析を分析パッケージImageJ (http://rsb.info.nih.gov/ij)を用いて行い、総表面被覆を測定した。結果は、視野域あたりで得られる総表面の被覆割合で示す。
【0128】
図10は、濃度0〜500nMのSNPによるS. マルセッセンスのバイオフィルムの濃度依存性の分散を表し、濃度25nMのSNPはバイオフィルム被覆を60%よりも減少させる。図11は、SNAP(100nM)がS. マルセッセンスのバイオフィルムの分散にも有効であることを示す。
【0129】
図12及び13は、ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNP及びSNAPの効果について、同様の結果を示す。
【0130】
図14は、V. コレラのバイオフィルムに対するテトラサイクリン(6μg/mL)の抗菌活性をSNPが増強することを示す。使用したテトラサイクリンの濃度は、この生物のMICよりも低くした。
【0131】
図15は、1μMのGSNOがV. コレラのバイオフィルムの安定性に対し顕著な効果を有することを示し、図16は500 nM SNPがE. コリのバイオフィルムの安定性に対し顕著な効果を有することを示す。
【0132】
図17は、バチルス・リケニホルミスのバイオフィルムの安定性に対するSNPの強力な効果を示し、100 nM SNPはバイオフィルムによる表面被覆を90%低下させた。
【0133】
実施例7:低レベルの一酸化窒素は、C. アルビカンスのバイオフィルムの分散を誘導する
細胞を、酵母ペプトンデキストロース培地(YPD)中、24ウェルポリスチレンマイクロタイタープレート(Sarstedt)中で、30℃、100 rpmで振とうさせながら生育した。簡潔にいえば、C. アルビカンスの一晩培養物を新鮮培地で1:100に希釈し、1 mlをウェルに播種した。培地を新鮮培地に交換した後、バイオフィルムを24時間形成させた。そして、SNPを濃度0 nM、25 nM、100 nM、500 nM、1μM及び5μMで加えた。細胞をさらに24時間インキュベートし、その際、緩く付着した及び付着していない細胞を除去するためにウェルをPBSですすぎ、1%クリスタルバイオレットで染色した。ウェルをPBSで徹底的に洗浄し、バイオフィルムに吸収されたクリスタルバイオレットの量をWallac-Victor2プレート読み取り機(Perkin-Elmer)を用いて540 nmで測定した。
【0134】
結果(図18)は、未処理の対照に対する割合として示す。また、当該結果は、1μM未満のSNP濃度では、SNPはC. アルビカンスのバイオフィルムを不安定にし、25 nMのSNP処理ではC. アルビカンスのバイオフィルムを60%よりも減少させることを示す。
【0135】
実施例8:低レベルの一酸化窒素は、S. エピデルミディスのバイオフィルムの形成を阻害する
スタフィロコッカス・エピデルミディスのバイオフィルム形成及び発育に対するNOの効果を試験するのに使用した方法及び材料は、S. マルセッセンス、V. コレラ、E. コリ及びB. リケニホルミスに関して上記したものと同様であり、バイオフィルムの培養のためにペトリ皿中でガラススライドを用いた。しかしながら、最初の24時間のバイオフィルム発生後ではなく、継続して細胞にNO供与体SNPを加えた。この結果は、SNPの添加が濃度依存的にS.エピデルミディスのバイオフィルムの形成を阻害できることを実証する(図19)。
【0136】
実施例9:低レベルの一酸化窒素は、F. ヌクレアタムのバイオフィルムの分散を誘導する
嫌気性口腔細菌に対するNOの潜在的効果を測定するために、フソバクテリウム・ヌクレアタムを、口腔内コンソーシアのバイオフィルムに関するモデル及び主要生物として選択した。簡潔にいえば、新鮮培地に播種するために一晩培養物を使用した(1:100)。細胞を吸光度(600 nm)0.1になるまで生育し、その際に、SNPを濃度0 nM、100 nM、500 nM、1μM及び10μMで細胞に加えた。細胞のチューブにガラススライドも加え、細菌を4時間付着させた。インキュベート時間の最後に、スライドを取り出し、緩く付着した細胞を除去するために、滅菌PBS中に沈積させることにより2回洗浄し、クリスタルバイオレットで染色した。付着した細胞をデジタル画像読み取り及び後続の画像分析により、顕微鏡で数えた。結果は、SNPに曝露させなかった対照培養物と比べた場合の付着した細胞の割合で示し(図20)、NO発生剤SNPの添加がF. ヌクレアタムの表面に対する付着を阻害することを示す。
【0137】
本発明の特定の実施形態は、説明の目的で本明細書に記載されているが、特許請求の範囲で規定される本発明の精神及び範囲を超えない限り、様々な変形がなされ得ると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】P. アエルギノーサのバイオフィルム中の細胞死及び分散事象は、微小コロニー構造中の活性酸素及び窒素種の蓄積と相関することを示す。(A) BacLight LIVE/DEAD染色液で染色した7日目のバイオフィルムを示す共焦点顕微鏡写真(生細胞及び死細胞の顕微鏡写真も、別のパネルに個別に示す)。白色の矢印は、バイオフィルム中の中空構造を示す。黒色の矢印は、バイオフィルム中の死細胞を示す。棒線は50μmを示す。(B) 7日目のバイオフィルム中の微小コロニーの共焦点顕微鏡写真。バイオフィルムを特定のRONSを検出する蛍光色素で染色した。左のパネルは位相差画像であり、右のパネルはXY (垂直方向)及びXZ (側面方向)の視点でみたRONS蓄積を示す蛍光画像である。棒線は50μmを示す。画像は、少なくとも3つの別個の実験の代表的なものである。
【図2】P. アエルギノーサのバイオフィルム及び浮遊性成長に対するSNPの投与の効果を示す。PAO1細胞を、96-ウェルプレート中で24時間、ナトリウムニトロプルシド(SNP)の存在下で生育した。浮遊性成長は蛍光測定により定量し、バイオフィルム形成はクリスタルバイオレット染色により定量した。対照には、SNPを加えなかった。
【図3】P. アエルギノーサにおける、バイオフィルムから浮遊性成長への転換に対する一酸化窒素を発生又は放出する薬剤の効果を示す。PAO1細胞を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間、一酸化窒素供与体、ナトリウムニトロプルシド(SNP)、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)又はS-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)又はSNPに加え、一酸化窒素捕捉剤2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)の存在下で生育した。浮遊性成長を、上澄液(明るい色の棒線)の吸光度(OD600nm)を測定することにより定量し、バイオフィルムの成長を、染色後に顕微鏡スライドのデジタル顕微鏡写真の画像解析を利用して、表面被覆(暗い色の棒線)の割合を測定することにより定量した。
【図4】P. アエルギノーサの抗菌剤に対する感受性へのSNP処理の効果を示す。P. アエルギノーサPAO1を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間、500 nM SNPの存在下又は不在下で、生育した。顕微鏡スライド上のバイオフィルムを、抗菌溶液で30分間処理し、光学顕微鏡を用いて分析できるようにLIVE/DEAD染色液で染色し、デジタル画像解析を用いて(表面被覆の割合)を定量した。(A) SNPの存在下(明るい灰色の棒線)又は不在下(暗い灰色の棒線)での、抗菌剤トブラマイシン(Tb)、過酸化水素(H2O2)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び次亜塩素酸(HOCl)に対する、顕微鏡スライド上のバイオフィルムの感受性(%表面被覆)。(B) 処理後の同一スライドの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図5】予め構築されたP.アエルギノーサバイオフィルムの抗菌剤に対する感受性へのSNP処理の効果を示す。500 nM SNPの添加前に、P. アエルギノーサPAO1を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間生育した。バイオフィルムをさらに24時間生育した後、抗菌溶液で30分間処理し、光学顕微鏡を用いて分析できるようにLIVE/DEAD染色液で染色し、デジタル画像解析を用いて定量した(表面被覆の割合)。(A) SNPの存在下(明るい灰色の棒線)又は不在下(暗い灰色の棒線)での、トブラマイシン(Tb)、過酸化水素(H2O2)及び紫外線(UV)に対する、顕微鏡スライド上のバイオフィルムの感受性(表面被覆%)。(B) 処理後の同一スライドの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図6】SNP及び抗菌剤を用いる浮遊性P. アエルギノーサ細胞の併用処理を示す。浮遊性細胞を、抗菌剤トブラマイシン(Tb)又は過酸化水素(H2O2)で2時間処理した。コロニー形成単位(logCFU/mL)のプレートカウントを、細菌の生存能を評価するために行った。
【図7】汚水処理汚泥リアクターから得たフロックバイオフィルム中の分散に対するSNP曝露の効果を示す。未処理の(A)又は10 mM SNPで処理し(B)13日間混合した種のフロックバイオフィルムの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図8】S. マルセッセンスでスパイクした飲料水バイオフィルム-0、100 nM又は500 nM SNPに18時間曝露した後の、バイオフィルムに対するSNPの効果を示す。(A) 貧栄養寒天培地(R2A、3重)での生存数;(B)富栄養寒天培地(LB10、3重)での生存数;(C) 顕微鏡解析を用いた表面被覆の割合(BacLight、2重)。
【図9】再利用水給水システムに一致したAR中のuPVCクーポン上で3ヶ月間生育し、S.マルセッセンスでスパイクしたバイオフィルムを示す。ある範囲の遊離塩素濃度で10分間処理する前に、0、100 nM及び500 nM SNPに対して18時間、バイオフィルムを曝露した効果:(A)富栄養寒天培地(LB10、3重)での生存数;(B) 顕微鏡解析を用いた表面被覆の割合(BacLight, 2重)。
【図10】セラチア・マルセッセンスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図11】セラチア・マルセッセンスのバイオフィルムの分散に対するSNAPの効果を示す。
【図12】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図13】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNAPの効果を示す。
【図14】ビブリオ・コレラのバイオフィルムに対するテトラサイクリン(6μg/mL)の抗菌活性のSNP処理による増強を示す。
【図15】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するGSNOの効果を示す。
【図16】E. コリのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図17】バチルス・リケニホルミスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図18】カンジダ・アルビカンスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図19】スタフィロコッカス・エピデルミディスによるバイオフィルム形成のSNP処理を用いた阻害を示す。
【図20】ガラス表面に対するフソバクテリウム・ヌクレアタム付着のSNPによる阻害を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物においてプログラムされた細胞死を制御する方法及び組成物、並びにバイオフィルムからの微生物の分散を促進又は阻害する方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、細菌集団及びそれが産生する細胞外マトリックスを含む三次元の微生物の成長形態である。バイオフィルムは、環境中に広範に分布し、水が利用可能である固体表面上又は懸濁液中で、例えばフロック(凝集体)又は粒状体として形成されることがある。バイオフィルムは著しい工業的損害を引き起こし、例えば、給水及び水処理システム、パルプ及び製紙システム、熱交換システム及び冷却塔のような流体処理工程で汚染及び腐食を引き起こし、パイプライン及び貯留槽中の油脂の酸性化に寄与する。公衆衛生の観点では、バイオフィルムは、飲料水、貯水槽及びパイプのような給水システムにおいて病原体の重大な温床でもある。バイオフィルムは、ヒトにおける数多くの慢性感染症、例えば中耳炎(耳の表面上のバイオフィルム)、細菌性心内膜炎(心臓及び心臓弁の表面上のバイオフィルム)、嚢胞性線維症(肺の表面上のバイオフィルム)及び腎結石とも関連し、医療デバイス、例えば埋め込み可能な医療デバイス上で容易に形成される。
【0003】
しかしながら、多くの環境でのバイオフィルムの著しい有害作用とは逆に、バイオフィルムは有益なこともある。例えば、汚水処理システムでは、懸濁したフロックバイオフィルム又は膜上の表面付着性バイオフィルムが、栄養物の除去、例えば脱窒素反応を促進すると言われている。
【0004】
よって、有害なバイオフィルムを除去するのに有効な方法及び有益なバイオフィルムの活性を増強するのに有効な方法の両方が、明らかに必要である。
【0005】
バイオフィルムは本質的には多細胞性の微生物の集団であり、その形成及び発生は、メンバー微生物の多様な多細胞性特性、例えば細胞-細胞シグナル伝達に依存する。細胞密度を評価し、シグナル伝達分子が十分な濃度に達した場合には遺伝子発現及び表現型に変化を誘導するために、細胞外シグナル伝達系、例えばクオラムセンシングが、細菌によって利用される。このことは、例えば、毒性因子及び/又は防御機構の誘導を導く示差的遺伝子発現と関連し、またバイオフィルム付着性細胞が、独立して生活する(浮遊性の)細胞から高度に分化する細胞分化と関連する。
【0006】
バイオフィルム中の細胞が分化し、バイオフィルムが成熟すると、代謝速度の低下、防御機構の細胞発現及びバイオフィルムに透過する抗菌剤の能力の低下により、抗菌耐性が増強され、バイオフィルムを根絶するのが特に困難となる。現在のバイオフィルム制御方法は、典型的にはバイオフィルム発生の初期段階を標的とし、有害な抗菌剤の使用を伴う。しかしながら、かかる有害薬剤は、環境中にそれらを放出するので、その下流に問題を呈する。従って、改良されたバイオフィルム制御方法が、明らかに必要である。
【0007】
バイオフィルム中のシュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)細胞は、バイオフィルム生活環の通常プロセスで、プログラムされた細胞死及び溶菌を受けることが最近発見された(Webb et al, 2003,Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592)。P.アエルギノーサのバイオフィルムでのプログラムされた細胞死には、プロファージが介在し、バイオフィルムからの生存細胞のサブ集団の分化及び分散を促進する役割を果たすと考えられている。
【非特許文献1】Webb et al, 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592
【発明の開示】
【0008】
本発明は、バイオフィルムでのプログラムされた細胞死の当該現象がバイオフィルムの生物中の活性酸素及び窒素種(RONS)の蓄積と関連しており、プログラムされた細胞死の過程及びバイオフィルムから浮遊性細胞への細胞の分散が、一酸化窒素発生剤を用いて誘導できるという本発明者らの知見に基づいている。In vivoで一酸化窒素濃度を増大させる能力は、プログラムされた細胞死を促進することによって、バイオフィルム発生過程の制御及び操作を可能にし、抗菌剤に対する細胞の感受性を増大させることで、バイオフィルム発生を阻害及び/又は後退させる方法をもたらす。
【0009】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、該バイオフィルムを、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露することを含む、前記方法に関する。
【0010】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、微生物中で1以上の活性酸素及び窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法に関する。
【0011】
本発明は、バイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する方法であって、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は他の媒体(medium)を処理することを含む、前記方法にも関する。
【0012】
従って、本発明の第1態様では、微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する方法であって:
該バイオフィルムを、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露し;
バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理し;
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体中に取り込み;又は
該バイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で、1以上の活性酸素又は窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法が提供される。
【0013】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤は、1以上の一酸化窒素供与体を含む。該1以上の一酸化窒素供与体は、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせから選択できる。
【0014】
典型的には、一酸化窒素供与体は、有害でない濃度で提供される。例えば、該濃度はナノモル、マイクロモル又はミリモル範囲であり、例えば約1 nM〜約10 mM又は約10 nM〜約5μMである。
【0015】
バイオフィルムは、表面に付着しているか又は懸濁している。懸濁したバイオフィルムは、フロック又は粒状体の形態で存在する。
【0016】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物は、単一の種又は複数の種からなる。
【0017】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物は、細菌種又は真菌種又はその両方を含み得、例えばカンジダ(Candida)属、ホルモコニス(Hormoconis)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、シゲラ(Shigella)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エシェリキア(Escherichia)属、サルモネラ(Salmonella)属、レジオネラ(Legionella)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、バチルス(Bacillus)属、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)属、シェワネラ(Shewanella)属、ゲオバクター(Geobacter)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、プロテウス(Proteus)属、アエロモナス(Aeromonas)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、セラチア(Serratia)属、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属及びビブリオ(Vibrio)属から選択される1以上の種を含み得、かかる種の代表例は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、P. アエルギノーサ(aeruginosa)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、及びビブリオ・コレラ(Vibrio Cholerae)である。
【0018】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗菌剤で該表面若しくは媒体を処理し、該抗菌剤を該表面若しくは媒体に取り込み、又はバイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物を該抗菌剤に曝露することをさらに含んでもよい。一例としては、抗生物質はトブラマイシンのようなアミノグリコシドであり、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムであり、酸化ストレス誘導剤は過酸化水素、次亜塩素酸、塩素又はクロラミンである。
【0019】
バイオフィルムの微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で蓄積し得る活性酸素及び窒素種には、パーオキシナイトライト(peroxynitrite)、一酸化窒素、過酸化水素及びスーパーオキシドラジカルが含まれる。
【0020】
1実施形態では、活性酸素及び窒素種はパーオキシナイトライトである。
【0021】
活性酸素及び窒素種の蓄積は、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に該バイオフィルムを曝露することにより達成できる。
【0022】
バイオフィルムの分散を促進する又はバイオフィルムの形成を阻害する本発明の方法は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導することを含むか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害することを含んでもよい。代わりに又はさらに、本発明の方法は、抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させることを含んでもよい。
【0023】
本発明は、バイオフィルム発生と関連する状態の治療及び/又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を被験体に投与することを含む方法にも関する。
【0024】
従って、バイオフィルムの分散を促進する、又はバイオフィルムの形成を阻害する本発明の方法は、被験体におけるバイオフィルムが関連する状態の治療又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、場合によっては少なくとも1つの抗菌剤と共に被験体に投与することを含んでもよい。
【0025】
該薬剤及び/又は抗菌剤は、カテーテル、ステント、プロテーゼ又は他の外科用若しくは埋め込み可能なデバイスといった好適な医療デバイスの表面上に被覆又は該表面中に浸透又は該表面中に取り込まれ得る。
【0026】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する組成物、又はバイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する組成物にも関する。
【0027】
従って、本発明の別の態様では、微生物のバイオフィルムの分散を促進する又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物であって、一酸化窒素、少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤、又は一酸化窒素及び一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を好適な担体と共に含む組成物が提供される。
【0028】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤は、1以上の一酸化窒素供与体を含む。該1以上の一酸化窒素供与体は、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせから選択できる。
【0029】
1実施形態では、一酸化窒素供与体はナトリウムニトロプルシドである。
【0030】
特別な実施形態では、該組成物は抗汚染組成物、医療デバイス若しくはその構成要素、医療デバイス用の被覆剤、又は医薬組成物である。
【0031】
該組成物は、少なくとも1つの抗菌剤をさらに含んでもよい。抗菌剤は、抗生物質、界面活性剤又は酸化ストレス誘導剤のような任意の抗菌剤である。一例としては、抗生物質はトブラマイシンのようなアミノグリコシドであり、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムであり、酸化ストレス誘導剤は過酸化水素、次亜塩素酸、塩素又はクロラミンである。
【0032】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害するための本発明の組成物は:分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導するか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害し;抗菌剤に対する該微生物の感受性を増大させることができ;又はこれらの効果の組み合わせを提供し得る。
【0033】
本発明は、バイオフィルム発生と関連する状態を治療及び/予防するための組成物にも関する。
【0034】
従って、微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物は、被験体のバイオフィルムと関連する状態を治療又は予防するのに好適であり得、場合によっては少なくとも1つの抗菌剤を含むことがある。
【0035】
本発明は、バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法にも関する。
【0036】
従って、本発明の別の態様では、バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤、少なくとも1つの酸化防止剤又は少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法が提供される。
【0037】
1実施形態では、一酸化窒素捕捉剤は2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである。
【0038】
酸化防止剤は、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸からなる群から選択できる。
【0039】
該方法は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することを含んでもよい。
【0040】
本発明の別の態様では、バイオフィルムの機能を維持若しくは増強し、又は維持かつ増強するための組成物であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤を、好適な担体と共に含む前記組成物が提供される。
【0041】
該組成物は、分散を導くバイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することができる。
【0042】
定義
本明細書で使用される場合、用語「バイオフィルム」は、任意の三次元の、マトリックスに入った微生物の集団であって、多細胞特性を提示するものを意味する。よって、本明細書で使用される場合、用語「バイオフィルム」には、表面付着性バイオフィルムだけでなく、懸濁状態のバイオフィルム、例えばフロック及び粒状体が含まれる。バイオフィルムは、単一の微生物種を含むか又は混合種の複合体であり、細菌だけでなく、真菌、藻類、原生生物、又は他の微生物を含んでもよい。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「表面」には、生物学上の表面及び非生物学上の表面の両方が含まれる。生物学上の表面には、典型的には、生物の内部表面(例えば、組織及び膜)及び外部表面(例えば、皮膚、種子、植物の葉)の両方が含まれ、細菌膜及び細胞壁も包含される。生物学上の表面には、樹木又は繊維のような他の天然の表面も含まれる。非生物学上の表面は、バイオフィルムの構築及び発生を補助する任意の組成物の人工的に作製された任意の表面であり得る。かかる表面は、工業プラント及び装置内に存在し得る。さらに、本発明の目的において、表面は、多孔性(例えば、膜)又は非多孔性、硬性又は柔軟性であり得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「分散」はバイオフィルムに関する場合、他の細胞(例えば、互いの1又は複数のバイオフィルム)を含めた表面からの細胞の解離の過程、及び浮遊性の表現型への復帰(return)又はそれらの細胞の挙動を意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「プログラムされた細胞死」は、バイオフィルム内で規定の段階で生じる発展的事象を意味し、自己溶菌、細胞分化及び特定の表現型を有する細胞のサブ集団の発生を引き起こす。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「曝露する」は、投与すること、又は別の方法で接触させることを意味する。微生物又はバイオフィルムは、直接又は間接的に、活性薬剤に曝露され得る。典型的には、直接曝露とは、処理される微生物又はバイオフィルムに該薬剤を投与すること、あるいは別の方法で微生物又はバイオフィルムを、該薬剤そのものと接触させることを意味する。典型的には、間接的な曝露は、微生物又はバイオフィルムに対する活性薬剤を、単独で又は他の化合物若しくは分子と反応して発生させることができる活性薬剤又は化合物又は分子の前駆体の投与、又は別の方法で、微生物又はバイオフィルムと接触させることを意味する。同様に、用語「処理」及び「処理する」及びそれらの変形は、本明細書で使用される場合、投与又は別の方法で接触させることを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」には、その意味の中に、有害ではないが、所望の効果をもたらすのに十分な量又は濃度の薬剤が含まれる。必要とされる正確な量/濃度は、処理される1又は複数の微生物の種、処理されるバイオフィルムの程度、重症度及び/又は成熟度(age)、バイオフィルムが表面付着性であるか又は懸濁しているか、投与される特定の1又は複数の薬剤及び投与形態等のような要因次第で変更される。従って、正確な「有効量」を特定するのは不可能である。しかしながら、任意の所与の場合には、慣用的な実験法のみを利用して、当業者は適当な「有効量」を決定できる。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「有害でない」は、物質の濃度又は量に関して、細胞に直接的な有害作用を及ぼさず、それぞれが独立して生活する細胞を殺傷しないが、バイオフィルムにおける分化過程の誘導のトリガーとなるシグナルとして作用でき、プログラムされた細胞死反応に関与し、その結果、細胞のサブ集団の死、分散細胞の発生及びバイオフィルムの分散をもたらすことができる、物質の濃度又は量を意味する。例えば、一酸化窒素供与体に関して、有害でない濃度又は量は、100mM以下の一酸化窒素供与体を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「機能(functioning)」はバイオフィルムに関して、以下のパラメーター:バイオフィルム中の微生物の生存能、バイオフィルム中の微生物の1又は複数の活性、バイオフィルム中の微生物の密度、バイオフィルムの寿命、及び特定の機能を果たす際のバイオフィルムの効果、例えば汚水処理システム中のバイオフィルムでは栄養分の除去、のうち1以上の任意のものに関して測定される。よって、本発明では、バイオフィルムの機能を「維持」することは、プログラムされた細胞死及び分散の発生過程を、微生物の生存能、微生物の活性、バイオフィルム寿命及び/又はバイオフィルムの機能が著しく低下しないように、阻害する又は少なくとも実質的に減少させることを意味する。バイオフィルムの機能を「増強」することは、本発明の方法で処理されていないバイオフィルムと比べ、上記パラメーターのうちいずれか1以上が、増強又は改善されることを意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「阻害する」はバイオフィルムに関して、バイオフィルム形成及び/又は発生の完全又は部分的な阻害を意味し、さらにその範囲に、バイオフィルム発生の反転(reversal)又はバイオフィルム形成及び/又は発生と関連する過程も含む。さらに、阻害は永久的又は一時的である。一時的な阻害という場合には、バイオフィルム形成及び/又は発生は、所望の効果をもたらすのに十分な時間、阻害される。
【0051】
本明細書に関して、用語「含む」は、「主に含むが、必ずしもそれ単独には限定されない」ことを意味する。さらに、単語「含む」の変形は、対応する変形された意味を有する。
【0052】
図面の簡単な説明
図面の簡単な説明については下記の節を参照されたい。
【0053】
本発明は、例示のみを目的として、図面を参照して説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
P. アエルギノーサは、広範に分布し土壌伝播性及び水伝播性の、単一種及び複数種の両方のバイオフィルムを容易に形成する日和見病原体である。P. アエルギノーサは、バイオフィルム形成及び発生を研究する上でモデル微生物にもなってきた。P. アエルギノーサのバイオフィルムの最近の研究では、微小コロニーの内側部分からの細胞の分散、並びに解離及び粘膜脱落(sloghing)事象をもたらすことができる細胞のプログラムされた細胞死が同定された(Sauer et al., 2002, Pseudomonas aeruginosa displays multiple phenotypes during development as a biofilm, J. Bact., 184: 1140-1154; Webb et al., 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bact., 185: 4585-4592)。その後、プログラムされた細胞死が、他のモデルバイオフィルム形成細菌 (Mai-Prochnow et al., 2004, Biofilm development and cell death in the marine bacterium Pseudoalteromonas tunicata, Appl. Environ. Microbiol. 70: 3232-3238)、混合種の口腔内バイオフィルム(Hope et al., 2002, Determining the spatial distribution of viable and non viable bacteria in hydrated microcosm dental plaques by viability profiling, J. Appl. Microbiol., 1993: 448-455)、及び汚水処理過程における混合種の顆粒状のバイオフィルム(Meyer et al., 2003, Microscale structure and function of anaerobic-aerobic granules containing glycogen accumulating organisms, FEMS Microbiol. Ecol., 45: 253-261)で報告されているので、プログラムされた細胞死は、細菌性バイオフィルム発生の一般的特徴であることが示唆される。バイオフィルム細胞において細胞死及び解離のトリガーとなるメカニズムの、増強又は抑制のいずれかでの利用は、広範囲の医療、産業及びバイオ処理状況において、バイオフィルムの操作に関して新規の技術を導くであろう。
【0055】
バイオフィルム中の活性酸素及び窒素種(RONS)の検出及び分析のための蛍光色素ベースのシステムを利用して、本発明者らは、P. アエルギノーサのバイオフィルム中でRONSパーオキシナイトライト(ONOO-)が蓄積することを見出した。
【0056】
パーオキシナイトライトは、広範囲の生物学的効果を有する強力な酸化剤である。これは、数多くの他のバイオ分子と反応し、細胞性損傷を引き起こすことがある。パーオキシナイトライトの直接の前駆体は、生体系中の一酸化窒素であり、広範囲で見られる細胞内及び細胞外シグナル伝達分子である。一酸化窒素は、酸素から誘導されたラジカルを含む数多くの化合物と迅速に反応する。かかる反応の1つにおいて、一酸化窒素はスーパーオキシドと容易に反応して、パーオキシナイトライトを生成する:
【化1】
【0057】
発明者らは、有害でない低濃度の一酸化窒素供与体化合物によるバイオフィルムの処理が、バイオフィルム由来の細胞のプログラムされた細胞死及び分散を誘導して、バイオフィルム細胞に対する浮遊性の割合を上昇させ、バイオフィルムの表面被覆を低下させることを見出した。従って、有害でない低濃度の一酸化窒素を使用して、バイオフィルム細胞の挙動プロセスを操作できることを、本明細書で初めて開示する。対照的に、有害な高濃度の一酸化窒素は、バイオフィルム由来の細胞を分散させずに、むしろバイオフィルムの生育を促進する。
【0058】
よって、本発明の1態様は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する方法であって、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤へのバイオフィルムの曝露を含む方法に関する。本発明は、微生物中のプログラムされた細胞死を誘導する方法であって、微生物を有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に曝露する前記方法、及びバイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する方法であって、バイオフィルム形成に感受性のある表面を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理する前記方法にも関する。
【0059】
本発明者らは、一酸化窒素供与体による処理が、様々な抗菌剤に対するバイオフィルム及び浮遊性細胞の両方の感受性を増大させることも見出した。よって、本発明は、抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させる方法及び組成物も提供する。
【0060】
当業者であれば、所望の効果を達成するために、一酸化窒素を直接的に使用することができ、または別の方法で、一酸化窒素を発生若しくは放出することができる任意の薬剤を使用できることを理解するだろう。薬剤は、処理される微生物の外側で、又はより典型的にはin vivoで一酸化窒素を発生又は放出し得る。本明細書では、本発明の方法でナトリウムニトロプルシドのような一酸化窒素供与体を使用することを例示するが、当業者であれば、本発明がこれに限定されないことがわかるだろう。
【0061】
本発明での使用に好適な一酸化窒素供与体の例には、ナトリウムニトロプルシド(SNP)、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)、GSNOモノエチルエステル、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)、グリコ-SNAP、L-アルギニン、N,N′-ジニトロソ-N,N′-ジメチルフェニレンジアミン (BNN3)、N,N′-ジニトロソフェニレンジアミン-N,N′-二酢酸 (BNN5)、BNN5-Na、BNN5メチルエステル、2-ヒドロキシ安息香酸3-ニトロオキシメチルフェニルエステル(B-NOD)、デホスタチン、3,4-デホスタチン、ジエチルアミンNONOエート、ジエチルアミンNONOエート/AM、S,S’-ジニトロソジチオール、S-ニトロソカプトプリル、NG-ヒドロキシ-L-アルギニンモノアセテート塩、Angeliの塩、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(3-アミノプロピル)-3-イソプロピル-1-トリアゼン(NOC-5)、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-3-メチル-アミノプロピル)-3-メチル-1-トリアゼン(NOC-7)、6-(2-ヒドロキシ-1-メチル-2-ニトリソヒドラジノ)-N-メチル-1-ヘキサンアミン(NOC-9)、1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-エチル-2-アミノエチル)-3-エチル-1-トリアゼン(NOC-12)、2,2'-(ヒドロキシニトロソヒドラゾノ)ビス-エタンアミン(NOC-18)、(±)-(E)-メチル-2-[(E)-ヒドロキシイミノ]-5-ニトロ-6-メトキシ-3-ヘキセンアミド(NOR-1)、(±)-(E)-4-エチル-2-[(E)-ヒドロキシイミノール-5-ニトロ-3-ヘキセンアミミド(NOR-3)、(±) -N-[(E)-4-エチル-2-[(Z)-ヒドロキシイミノ]-5-ニトロ-3-ヘキセン-1-イル]-3-ピリジンカルボキサミド(NOR-4)、4-フェニル-3-フロキサンカルボニトリル、PROLI/NO (メタノール性ナトリウムメトキシド中のL-プロリン)、3-モルホリノシドノンイミン(SIN-1)、S-ニトロソ-N-バレリルペニシラミン(SNVP)、スペルミンNONOエート、亜硝酸エチル及びストレプトゾトシンが含まれるがこれに限定されない。
【0062】
一般に、S-ニトロソ、O-ニトロソ、C-ニトロソ及びN-ニトロソ化合物並びにそれらのニトロ誘導体並びに金属NO複合体を含むが、他のNOを発生させる化合物を排除しない、本発明の目的で有用な一酸化窒素供与体は、Feelisch, M.及びStamler, J.S.により編集された「一酸化窒素研究の方法」(John Wiley & Sons, New York, 1996, pages 71-115)に開示されており、該文献は引用により本明細書に取り込まれる。さらなる一酸化窒素供与体の範囲が当業者には公知であり、本発明は、使用される1又は複数の特定の供与体の識別では限定されない。事実、本発明の特定の用途に好適な供与体の選択は、その都度なされる。
【0063】
一酸化窒素を発生又は放出する薬剤は、典型的には有害でない低濃度で使用される。濃度はナノモル、マイクロモル、又はミリモルであり得る。特定の実施形態では、濃度は約1 nM〜約100 mM、約10 nM〜約50 mM、約25 nM〜約50 mM、約50 nM〜約25 mM、約100 nM〜約10 mM、約200 nM〜約1 mM、約1 nM〜約10mM、約10 nM〜50μM、約10 nM〜25μM、約10 nM〜10μM、約10 nM〜5μM、約10 nM〜1μM、又は約10 nM〜500 nMである。所望の効果を達成するのに最も好適な濃度は、数多くの要因によって決まり、当業者は慣用的な実験法を用いて決定できる。かかる要因には、使用される1又は複数の特定の薬剤、1又は複数の薬剤の投与手段又は経路、バイオフィルムの性質、構造及び成熟度、処理される生物の種等が含まれるが、これに限定されない。
【0064】
本発明は、バイオフィルムからの微生物の分散を促進する組成物、微生物においてプログラムされた細胞死を誘導する組成物、バイオフィルム形成及び/又は発生を阻害する組成物、並びに抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させる組成物も提供する。典型的には、組成物は本発明の方法を行うための手段を提供する。
【0065】
上記した本発明の方法及び組成物は、幅広い環境及び状況において用途がある。下記内容は、これらの方法及び組成物の用途について、いくつかの一般的な分野で簡単に検討したものである。しかしながら、当業者であれば、バイオフィルム発生が問題であるか又は微生物の生育阻害が望ましい任意の環境や状況で、これらの方法及び組成物が潜在的に好適であることを、容易に理解するだろう。
【0066】
本発明の方法及び組成物が適用される1分野は、海水、淡海水及び淡水の抗汚染塗料又は被覆剤、例えば船体、養殖設備、漁網又は他の水中施設の処理である。本発明の方法及び組成物は、工業的用途及び家庭的用途でも適用でき、これには給水の貯水槽及び給水管、排水管(家庭用又は工業用規模)、例えば、冷却塔、水処理施設、乳製品加工施設、食品加工施設、化学製造プラント、医薬又はバイオ医薬製造工場、石油パイプライン及び製油施設並びにパルプ及び製紙工場の工程施設が含まれるが、これに限定されない。
【0067】
本発明の組成物は、埋め込み可能な医療デバイスを含めた医療デバイスを被覆するのにも使用でき、該医療デバイスには、静脈カテーテル、尿カテーテル、ステント、人工関節、心臓、心臓弁又は他の臓器といったプロテーゼ、ペースメーカー、外科用プレート及びピン及びコンタクトレンズが含まれるが、これに限定されない。他の医療装置も、カテーテル及び透析装置のように、被覆され得る。本発明の方法及び組成物は、感染性疾患の管理にも適用がある。例えば、バイオフィルム形成が関連する多様な細菌性感染症、例えば嚢胞性線維症、中耳炎、細菌性心内膜炎、腎結石、レジオネラ症、尿路感染症、肺感染症、歯垢、虫歯及び外科処置又は熱傷が関連する感染症を、本発明の方法及び組成物で治療できる。よって、本発明の組成物は、医薬組成物として製剤されるか、例えば、外科用包帯、マウスウォッシュ、歯磨き粉又は生理食塩水溶液の構成成分を形成できる。
【0068】
本発明の組成物を、目的のウェルの対象物/アイテムの表面上に適用し、又は該組成物で表面上を被覆し、又は該表面中に取り込んだ後に、バイオフィルムを形成する微生物を含む環境中で該対象物/アイテムを使用し、又は該対象物/アイテムを該環境に曝露し得る。あるいは、本発明の組成物を、目的の対象物/アイテムの表面上に適用し、又は該組成物で表面上を被覆し、又は表面中に取り込んだ直後に、バイオフィルムを形成する微生物を含む環境中で、該対象物/アイテムを使用し、又は該対象物/アイテムを該環境に曝露し得る。
【0069】
本発明の組成物は、任意の好適な形態をとり得る。例えば、本発明の組成物は、塗料、ワックス、他の被覆剤、エマルジョン、溶液、ゲル、懸濁液、ビーズ、粉末、粒状体、ペレット、フレーク又は噴霧剤として製剤化できる。当業者であれば、特定の適応及び提案される送達経路に応じて、適切な製剤が決まることがわかるだろう。
【0070】
本発明の組成物には、典型的には、担体、希釈剤又は賦形剤も含まれる。好適な担体、希釈剤及び賦形剤が、当業者には知られている。希釈剤、アジュバント及び賦形剤は、組成物の他の成分に対して、適合性の観点で「許容され」なければならず、医薬組成物の場合には、そのレシピエントに対して有害であってはならない。
【0071】
担体は、液体又は固体である。液体担体の場合、液体は水性又は非水性の溶媒である。典型的には、抗汚染剤及び他の工業的用途では、組成物は、例えば塗料又は他の表面被覆剤の形態で、時間的に及び/又は空間的に活性薬剤の制御放出を可能にする担体を適用する。生理活性剤の制御放出を可能にする多様な方法が当業者には知られており、例えば、好適なポリマー又はポリマーベースの産物中に活性薬剤を封入することが含まれる。ポリマーは、有機又は無機ポリマー、例えばポリオレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン又はポリペプチドであり得る。制御放出をもたらすのに好適なポリマーが当業者には知られており、例えば米国特許第6,610,282号に開示されており、該開示内容は参照により本明細書に取り込まれる。
【0072】
典型的には、物質(substance)の放出速度は、ポリマーそのものの特性だけではなく、環境要因(例えば、pH、温度など)によって決まる。制御放出システムは、最大で数年間、徐々に及び継続して、物質を送達できる。当業者であれば、数多くの制御放出システムを本発明の薬剤の送達に適用可能であることを理解するだろう。一例に過ぎないが、放出は拡散制御、化学制御又は溶媒-活性化されるものであり得る。
【0073】
拡散制御システムでは、ポリマーマトリックス内にトラップされた薬剤の拡散が、全体の放出速度の速度決定因子となる。拡散制御システムの1タイプでは、不活性拡散バリアによって、該薬剤が包囲されたコア部分を形成するリザーバデバイスを用いる。これらのシステムには、膜、カプセル、マイクロカプセル、リポソーム、及びホロファイバーが含まれる。他には、デバイスは、不活性ポリマー中に活性薬剤が分散又は溶解している一体式のデバイスがある。ポリマーマトリックスを介した拡散が律速段階であり、放出速度は、ポリマーの選択及び拡散で生じる効果及び放出される薬剤の分配係数によって、一部が決まる。
【0074】
典型的な化学制御システムでは、ポリマーは時間をかけて分解され、漸進的腐食に比例する量の薬剤を放出する。化学制御は、生腐食性鎖又はペンダント鎖を用いて達成できる。生腐食性システムでは、一体式の拡散システムと同じ方法で、ポリマーを介して薬剤が均一に、理想的に分配される。薬剤を包囲するポリマーが腐食すると、該薬剤が放散される。ペンダント鎖システムでは、当業者に公知の、望ましくかつ実用的な任意の物理的又は化学的手段により、例えば水又は酵素による結合の切断により、放出を可能とする化学的性質によって、薬剤をポリマーと共有結合できる。
【0075】
典型的な溶媒-活性化制御システムでは、活性薬剤(一酸化窒素、一酸化窒素を発生又は放出する薬剤、又は一酸化窒素捕捉剤若しくは酸化防止剤であり得る)が、ポリマーマトリックス中で溶解又は分散されるので、該マトリックスを介した拡散はできない。薬剤の放出のための駆動力としては、浸透圧が利用される。溶媒-制御システムの1タイプでは、環境流体(例えば、水)がマトリックスに浸透する際のポリマー(例えば、ハイドロゲル)膨潤及びそのガラス転移温度は、環境(ホスト)温度よりも低い。従って、膨潤ポリマーはゴム状態であり、その中に含有される活性薬剤は、カプセル剤を介して拡散される。
【0076】
生理活性剤とポリマーの化学結合は、当業者に周知の様々な合成方法に基づいた幾つかの一般的な方法で達成でき、該方法には:予め形成されたポリマーでの反応;天然のポリマーでの反応;活性成分を含むビニルモノマーの重合;及び段階成長重合が含まれる。生理活性剤がポリマーと化学結合している場合、該結合は化学反応-典型的には酵素反応、加水分解性反応、熱反応、又は光化学反応によって切断されねばならない。多様な化学的及び物理的変動要素は、結合切断の速度及びそれに続くポリマーからの化学結合した物質の放出に影響を与えることがあり、該要素には不安定結合の性質、スペーサー基の長さ、分子量、親水性、隣接基の効果、環境因子及び物理的形態及び容積が含まれる。
【0077】
抗汚染用途では、自己研磨性抗汚染被覆剤が当技術分野では知られている。かかる被覆剤は、典型的にはトリブチルチンメタクリレート、メチルメタクリレート及びフィルム軟化モノマー、例えば2-エチルヘキシルアクリレートのポリマーをベースとする。有機スズポリマーは、典型的には塗料結合剤として働く。また、かかる塗料は、有害な添加剤、例えば亜酸化銅又はトリ有機スズ化合物を含んでもよい。さらに、通常の塗料添加剤としては、例えば顔料、チキソトロープ剤が存在する。通常アルカリ性の海水では、ポリマー性有機スズ結合剤は、徐々に加水分解され、トリブチルチンが活性抗汚染剤の形態で遊離される。形成された加水分解型ポリマーは、水可溶性又は水膨潤性であり、海水を除去して、塗料の新しい表面に曝露することにより、表面の腐食を容易に停止させる。
【0078】
医薬用途では、数多くの好適な制御放出システムが当技術分野で知られている。例えば、リザーバ及びマトリックスデバイスの形態で、ポリマー性コロイド状粒子又はマイクロエンカプセル(マイクロ粒子、マイクロ球体又はナノ粒子)を適用できる。あるいは、多孔性デバイス又は薬剤放出が浸透圧で「制御」されたデバイス(リザーバ及びマトリックスデバイスの両方)を作製するために、該薬剤には、親水性及び/又は浸出性添加剤を含むポリマー、例えば第2のポリマー、界面活性剤又は可塑化剤等が包含され得る。大きなケージ様分子、例えばC60 Buckminster-fullerenes (「Buckyballs」)又は多分岐(星形)デンドリマーも使用できる。
【0079】
当業者であれば、上記の送達システム及び方法は、本発明で適用される好適な方法及びシステムの例にすぎないことが容易にわかるだろう。任意の他の好適な担体及び送達システムを利用することにより、本発明の実施形態に従った薬剤の適用において、望ましい手段を提供できる。
【0080】
製薬上許容される希釈剤の例は、脱塩水又は蒸留水;生理食塩水溶液;植物をベースにした油、例えば、ピーナツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油又はココナツ油;ポリシロキサンを含むシリコーン油、例えばメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン及びメチルフェニルポリソルポキサン;揮発性シリコーン;鉱油、例えば液体パラフィン、軟質パラフィン又はスクアラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルコール、例えばエタノール又はイソ-プロパノール;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はグリセリン;脂肪酸エステル、例えばパルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル又はオレイン酸エチル;ポリビニルピロリドン;寒天;カラギーナン;トラガカントゴム又はアラビアゴム及び黄色ワセリンである。典型的には、1又は複数の担体は、組成物の重量の1%〜99.9%を構成する。
【0081】
医薬用途では、組成物は、任意の経路、例えば経口、局所の、腔内、膀胱内、筋肉内、動脈内、静脈内、鼻腔内、肺内又は皮下投与で送達するために製剤化できる。
【0082】
本発明者らは、一酸化窒素及び一酸化窒素を発生又は放出する薬剤が抗菌剤に対する微生物の感受性を増強することを見出したので、本発明の方法は、少なくとも1つの抗菌剤と組み合わせて適用できる。任意の好適な抗菌剤、例えば抗生物質、洗浄剤、界面活性剤、酸化ストレスを誘発する薬剤、バクテリオシン並びに抗菌性の酵素、ペプチド及びファージが使用できる。抗菌剤は、天然又は合成性である。実際に適用される抗菌剤は、その都度、本発明の特定の用途のために選択され、当業者であれば、本発明の範囲は特定の抗菌剤の性質又は該抗菌剤と同一のものには、限定されないことがわかるだろう。一例に過ぎないが、好適な抗生物質には、β-ラクタム、モノペネム、カルボキシペネム、アミノグリコシド、キノロン、マクロライド、リンコザミド、テトラサイクリン、ストレプトグラミン、グリコペプチド、リファンピシン、スルホンアミド、クロラムフェニコール、ナリジキシ酸、アゾール含有化合物及びペプチド抗生物質が含まれるが、これに限定されない。抗菌性の酵素には、リパーゼ、プロナーゼ、リアーゼ(例えば、アルギン酸リアーゼ)及び多様な他のタンパク質分解酵素及びヌクレアーゼが含まれるが、これに限定されない。
【0083】
本発明の方法では、所望の効果を得るために、同時に又は任意の順序で連続的に又は異なる時期に、併用される各成分を投与し得ることを、当業者であれば容易に理解するであろう。他には、該成分を複合製品(combination product)として、単一の用量単位で共に製剤化できる。よって、本発明の組成物は、一酸化窒素及び/又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生又は放出する薬剤に加えて、少なくとも1つの抗菌剤を含んでもよい。
【0084】
本明細書に記載のとおり、本発明者らは、一酸化窒素捕捉剤の使用はバイオフィルム及び浮遊性成長に対して、一酸化窒素供与体SNPで観察される効果をリバースさせるので、プログラムされた細胞死の阻害及びバイオフィルムからの細胞分散の阻害及びこれらが有益な状況において、バイオフィルムの活性を維持及び/又は増強するための手段を提供することも見出した。
【0085】
よって、本発明の幾つかの態様は、バイオフィルムの機能を維持及び/又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露する前記方法に関する。本発明は、微生物におけるプログラムされた細胞死を阻害する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む前記方法にも関する。本発明は、上記方法を行うための組成物をさらに提供する。
【0086】
従って、本発明の方法及び組成物は、一酸化窒素を除去する分子及びRONSを消失させる分子の使用によって、バイオフィルムの寿命、生存能、密度、活性及び/又は有効性の操作を可能にする。バイオフィルムの機能を維持及び/又は増強するのに好適な薬剤又はプログラムされた細胞死を阻害するために好適な薬剤には、一酸化窒素捕捉剤、例えば、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)、カルボキシ-PTIO、N-(ジチオカルボキシ)サルコシン(DTCS)、N-メチル-D-グルカミンジチオカルバメート(MGD)、(+)-ルチン水和物及びヘモグロビン、及び酸化防止剤、例えばチオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸が含まれる。当業者であれば、当技術分野で公知の数多くの他の一酸化窒素捕捉剤及び酸化防止剤を、本発明に同様に適用でき、また本発明は使用した特定の薬剤と同一のものには限定されないことを、容易に理解するであろう。実際、本発明の特定の用途に適した薬剤の選択は、その都度なされる。かかる薬剤を含む組成物は、上記のとおり製剤化できる。
【0087】
当業者であれば、バイオフィルムの制御に関連する本発明の方法及び組成物には、単一種又は複数種のバイオフィルムが適用可能であることを理解するだろう。本発明に関わる細菌種は、バイオフィルムを形成できる又はバイオフィルムに寄与できる任意の種である。標的の微生物種には、酵母及び糸状菌を含む真菌、並びにグラム陽性菌、並びにグラム陰性菌が含まれる。本発明の目的となるバイオフィルムには、カンジダ属(C.アルビカンスを含む)、ホルモコニス属(H.レジナエを含む)、シュードモナス属、例えばP.アエルギノーサ、シュードアルテロモナス属、例えばP. ツニカタ(tunicata)、スタフィロコッカス属、例えばS.アウレウス(メチシリン耐性及びバンコマイシン耐性S.アウレウスを含む)及びS.エピデルミディス、ストレプトコッカス属、例えばS.ミュータンス/S.ソブリナス、シゲラ属、例えばS. フレキセリ(flexeri)、S. ディセンテリア(dysenteria)、マイコバクテリウム属、例えば結核菌、エンテロコッカス属、例えばE.フェカーリス、エシェリキア属、例えばE. コリ、サルモネラ属、例えばS.チフィムリウム、S.チフィ及びS.エンテリティディス、レジオネラ属、例えばL. ニューモフィラ、ヘモフィルス属、例えばH. インフルエンザ、バチルス属、例えばB. リケニホルミス、硫黄還元菌及びイオン還元菌(例えば、D. ブルガリス及びD. デスルフリカンスを含むデスルホビブリオ属、S. プトレファシエンスを含むシェワネラ属、G.メタリレデューセンス(metallireducens)を含むゲオバクター属)、クレブシエラ属、例えばK.ニューモニエ、プロテウス属、例えばP.ミラビリス、アエロモナス属、アルスロバクター属、ミクロコッカス属、セラチア属、例えばS. マルセッセンス、ポルフィロモナス属、例えばP. ジンジバリス、フソバクテリウム属、例えばF. ヌクレアタム及びビブリオ属、例えばV. コレラから選択される微生物が含まれるが、これに限定されない。微生物種は、好気性、嫌気性、条件性、耐気性、疎気性又は微好気性であり得る。他に、本発明の幾つかの用途では、処理されるバイオフィルム混合集団中の特定の種との同一性は必要ではなく、また本発明の適用に関して重要ではないことが当業者にはわかるだろう。
【0088】
本発明は、以下の特定の実施例を参照することにより更なる詳細が説明されるが、本発明の範囲はいかなる方法でも限定されるべきでない。
【実施例】
【0089】
実施例1〜3に記載のバイオフィルム試験では、Marie Allesen-Holmから大量に提供されたシュードモナス・アエルギノーサ株PAO1及び緑色蛍光タンパク質(GFP)の染色体挿入を含むシュードモナス・アエルギノーサ株PAO1-GFPを使用した。Luria Bertani(LB)培地中、37℃で振盪させながら、一般的な方法で一晩培養を行った。本明細書の他の箇所に記載のとおり、改変されたM9最少培地中でバイオフィルム及び浮遊性実験を行った(Webb et al, 2003, Cell death in Pseudomonas aeruginosa biofilm development, J. Bacteriol., 185: 4585-4592)。連続培養実験では5 mMグルコースを用い、バッチ実験では20 mMグルコースを用いた。
【0090】
実施例1:バイオフィルム中の細胞死及び分散は、成熟微小コロニー中のパーオキシナイトライトの蓄積と相関する
バイオフィルム発生のために、P. アエルギノーサPAO1を、連続培養フローセル(チャネル寸法1×4×40 mm)中、室温で既報のとおり生育した(Moller et al., 1998, In situ gene expression in mixed-culture biofilms: evidence of metabolic interactions between community members, Appl. Environ. Microbiol., 64: 721-732)。チャネルに、一晩培養した細胞培養物0.5 mLを播種し、室温で1時間、流動させずにインキュベートした。その後、フローセルの平均流体速度を0.2 mm.s-1にして、フローを開始した。該速度は、Reynolds数0.02の層流に相当する。
【0091】
バイオフィルム発生における細胞死を調べるために、バイオフィルムをLIVE/DEAD BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes)で染色した。その際、SYTO9を用いて生細胞を特異的に染色し、ヨウ化プロピジウムを用いて死細胞を特異的に染色した。染色液の原液を改変したM9培地で3μL.mL-1に希釈し、フローチャネルに注入した。SYTO 9-染色した生細胞及びヨウ化プロピジウム-染色した死細胞を、フルオレセインイソチオシアネート及びテトラメチルローダミンイソシアネート光学フィルターをそれぞれ用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(Olympus)で可視化した。7日後、P. アエルギノーサのバイオフィルムが高度に再現性のある細胞死及び分散のパターンを生み、これらの事象がバイオフィルム中の中空コロニーの形成を導くことを観察した(図1A-白色の矢印は中空構造を示し;黒色の矢印は死細胞を示す)。
【0092】
特異的反応性及び窒素種(RONS)の役割を調べ、死及び分散においてバイオフィルム構造中で蓄積する特定のRONSを検出するために、それぞれが異なるRONSを標的とする一連の反応性蛍光色素を、フローチャネルに注入し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察する前に、暗所で30分間インキュベートした。調べたRONSは、一酸化窒素 (NO)、パーオキシナイトライト (ONOO-)、過酸化水素(H2O2)及びスーパーオキシドラジカル(O2-・)であった。DMSO中でDAFFM-DA (Molecular Probes)5 mM原液を、一酸化窒素の検出のために、100μMで使用し(Kojima et al., 1999, Fluorescent indicators for imaging Nitric Oxide production, Angew.Chem. Int. Ed. Engl. 38: 3209-3212)、エタノール中でジヒドロローダミン123 (DHR) (Sigma)原液2.5 mg.mL-1を、パーオキシナイトライトの検出のために15μMで使用し(Crow, 1997, Dichlorodihydrofluorescein and dihydrorhodamine 123 are sensitive indicators of peroxynitrite in vitro: implications for intracellular measurement of reactive nitrogen and oxygen species, Nitric Oxide, 1: 145-157)、DMSO中でカルボキシ-H2DCF-DA (Molecular Probes)10 mM原液を、過酸化水素の検出のために100μMで使用し、及びリン酸緩衝液(PBS)中1%DMSO下で、ヒドロエチジン(HEt) (Sigma)1 mg.mL-1 原液をスーパーオキシドラジカルの検出のために10μMで使用した(Bindokas et al., 1996, Superoxide production in rat hippocampal neurons: selective imaging with hydroethidine, J. Neurosci. 16: 1324-1336)。原液の凍結を維持し、遮光した。使用前に、改変したM9培地中で最終溶液を新たに作製した。
【0093】
図1Bに示すとおり、バイオフィルム中の細菌は、対照画像から明らかなように低レベルの自己蛍光を示した。陽性の蛍光発光をRONS-特異的な色素のうち2つで検出した:HEtはスーパーオキシドラジカルO2-・を検出し、DHRは非常に高レベルの蛍光でパーオキシナイトライトONOO-を検出した。光照射野(左のパネル)は、成熟微小コロニー中で蛍光発光が生じたことを示し、図1Aに示すとおり死及び分散事象が生じたことを示した。過酸化水素の検出においてH2DCFで得た陰性の結果は、P.アエルギノーサのバイオフィルムで既に報告されているカタラーゼの過剰発現と相関している(Stewart et al., 2000, Effect of catalase on hydrogen peroxide penetration into Pseudomonas aeruginosa biofilms, Appl. Environ. Microbiol. 66: 836-838)。DHRはパーオキシナイトライトに特異的であり、他のRONS単独では酸化できない(Crow et al., 1999)。パーオキシナイトライトは、スーパーオキシド及び一酸化窒素の直接産物であるので、DAFFMを用いて一酸化窒素を検出できなかったことは驚きであった。しかしながら、一酸化窒素は非常に反応性が高く、一酸化窒素及びスーパーオキシド間の反応は、拡散に限定された方法で瞬時に起こることが知られており(Kelm et al., 1997, The nitric oxide/superoxide assay. Insights into the biological chemistry of the NO/O2- interaction, J. Biol. Chem. 272: 9922-9932)、このことがDAFFMによる一酸化窒素の検出を妨げるのかもしれない。
【0094】
上記の結果は、RONSパーオキシナイトライトが、高い細胞密度のバイオフィルム細胞中で蓄積し、成熟バイオフィルム中で微小コロニーにおける細胞死のトリガーとなることを実証する。
【0095】
実施例2:P. アエルギノーサ中のバイオフィルム対浮遊性成長は、一酸化窒素により制御される
一酸化窒素は、生体系において広範に見られる細胞内及び細胞外シグナル伝達分子である。一酸化窒素は、パーオキシナイトライトの重要な前駆体、広範囲の生物学的作用を有する強力な酸化物質でもある。一酸化窒素は、スーパーオキシドと容易に反応し、パーオキシナイトライトを生じさせる。
【化2】
【0096】
したがって、本発明者らは、P. アエルギノーサの浮遊性及びバイオフィルム成長に対する一酸化窒素供与体、ナトリウムニトロプルシド(SNP)の効果を調べた。SNPは、in vivoで一酸化窒素を放出する(Smith et al., 2001, Mechanisms of nitric oxide release from nitrovasodilators in aqueous solution: reaction of the nitroprusside ion ([Fe(CN)5NO]2-) with L-ascorbic acid, J Inorg Biochem, 87: 165-173)。
【0097】
この実験では、96-ウェルプレート中でバイオフィルムを使用した。改変したM9培地で希釈したPA01-GFPの1/1000一晩培養物100μLを、96-ウェルプレート(Sarstedt)に播種し、37℃、120 rpmで振盪しながら24時間生育した。SNPを25 nM〜100 mMの濃度で培養物に加えた。処置あたり4回の反復試験を行った。一晩生育した後、上澄液を新しいプレートのウェルに移した。ウェルをPBSで2回洗浄し、120μLのクリスタルバイオレットで20分間染色した。その後、ウェルを再びPBSで3回洗浄し、120μLの無水エタノールで希釈した。バイオフィルム形成をOD490nmの測定で定量し、浮遊性成長を蛍光測定で定量した。
【0098】
図2で示すとおり、未処理のバイオフィルムと比べ、高濃度(ミリモル範囲)でバイオフィルム形成の増加及び浮遊性成長の減少を観察した(25 mM〜100 mM SNP)。これらの濃度では、SNPは多くの細菌種に有害であり; SNPは有害な高濃度の一酸化窒素を放出する(Joannou et al., 1998, Characterization of the bactericidal effects of sodium nitroprusside and other pentacyanonitrosyl complexes on the food spoilage bacterium Clostridium sporogenes, Appl Environ Microbiol, 64: 3195-3201; Kelley et al., 1998, Inducible nitric oxide synthase expression is reduced in cystic fibrosis murine and human airway epithelial cells, J Clin Invest, 102: 1200-1207)。より低濃度、すなわちマイクロモル及びナノモル範囲では、バイオフィルム形成の減少及び浮遊性成長の増加を観察した。500 nM SNPで、最も高い効果を繰り返し観察したので、この濃度をこの実施例及び実施例3に記載の後続の実験で使用した。
【0099】
観察した事象における一酸化窒素の役割を確認するために、2つの異なる一酸化窒素供与体、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)及びS-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)を、SNPの代わりにそれぞれ濃度1μMで使用した。図3に図示するとおり、SNPと同様、これらの一酸化窒素供与体は両方とも、SNPで観察される場合より程度は低いものの、バイオフィルム形成を減少させ及び浮遊性成長を増加させた。
【0100】
これらの結果は、低濃度では一酸化窒素が、バイオフィルムから浮遊性表現型への転換をシグナル伝達することを示す。
【0101】
図3は、一酸化窒素捕捉剤2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)の効果も示す。500 nMのSNPに加え、濃度1 mMのPTI0を生育するバイオフィルムに添加した。PTIOの添加により、浮遊性及びバイオフィルムの表現型の両方において、SNP効果が40%以上低下した。
【0102】
実施例3:低レベルの一酸化窒素への曝露は、抗菌剤に対するP.アエルギノーサ細胞の感受性を増大させる
浮遊性細胞は、バイオフィルム細胞よりも、抗生物質に対して最大で1000倍感受性が高いことが知られている(Brooun et al., 2000, A dose-response study of antibiotic resistance in Pseudomonas aeruginosa biofilms, Antimicrob Agents Chemother, 44: 640-646; Davies, 2003, Understanding biofilm resistance to antibacterial agents, Nat Rev Drug Discov, 2: 114-122)。成熟バイオフィルムに対抗するうえで重大な問題の1つは、抗菌剤に対するこの感受性の低下である。実施例2に上記した結果は、一酸化窒素が、より強い耐性があるバイオフィルム表現型よりも、成長の浮遊性モードを促進することを実証している。従って、本発明者らは、一酸化窒素の曝露が、バイオフィルム細胞に対する抗菌剤の感受性も回復させるかどうかを調べた。低レベルの一酸化窒素に曝露したP. アエルギノーサのバイオフィルム及び浮遊性細胞に対し、様々な抗菌剤の効果を調べた。
【0103】
細胞の感受性を試験するために、広範囲の抗菌化合物を調べた:細菌タンパク質合成を不可逆的に阻害する抗生物質トブラマイシン (Sigma)を、最終濃度100μMで使用し;界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1%で使用し;さらに酸化ストレス誘導剤過酸化水素(H2O2;濃度10 mM)及び次亜塩素酸(HOCl;濃度8 mM)を使用した。
【0104】
バイオフィルムを、顕微鏡ガラススライド(76×26 mm, Superfrost, Menzel Gleser)を含むペトリ皿中で生育した。コンタミネーションを防止するために、スライドを加熱滅菌し、ペトリ皿を紫外線に30分間さらして滅菌した。改変したM9培地で希釈したPA01-GFPの1/1000一晩培養物25 mLをプレートに播種し、37℃、50 rpmで振盪しながら24時間生育し、スライド上でバイオフィルムを形成させた。上澄液のOD600nmの示度を測定した。その後、スライドを滅菌PBS中ですすいだ。抗菌感受性アッセイのために、スライドを、改変したM9培地単独(陰性対照)と共に又は改変したM9培地で希釈した抗菌剤の500μLと共に、湿潤チャンバー中で30分間インキュベートし、PBS中で再びすすいだ。スライド上のバイオフィルムを上記のとおり250μLのLIVE/DEAD染色液で20分間、湿潤チャンバー中で染色した。スライドにつき7枚の共焦点写真を無作為に撮影し、表面被覆の割合を画像分析で定量した。
【0105】
併用処理(SNP及び抗菌剤)後に、バイオフィルム細胞数の最大で95%の劇的な減少を、再現性をもって観察した(図4A及び4B)。最も高い効果をトブラマイシン(嚢胞性線維症患者を治療するために一般的に使用される抗生物質)で得た。
【0106】
予め構築されたP. アエルギノーサのバイオフィルムの感受性を増大させるSNPの能力も、図5に図示するとおり調べた。最初の24時間の発生をSNPの不在下で行ったことを除いては、上記と同様にバイオフィルムを生育した。24時間後、培地を交換し、500 mM SNPを含有する培地に取り換えた(処理バイオフィルムにおいて、対照にはSNPを加えなかった)。Tb 100μM又はH2O2 10 mMのいずれかを30分間加えるか、又はUV光線(19 W, 254 nmに30分間、ランプから30 cm)にさらす前に、バイオフィルムをさらに24時間生育した。図4に関して上記したとおり、感受性を測定した。図5に示すとおり、予め構築されたバイオフィルムの併用処理の後に、バイオフィルム表面被覆及びバイオフィルム細胞数の劇的な減少を観察した。
【0107】
浮遊性細胞に対するSNP及び抗菌剤の併用処理の効果を調べるために、PAO1-GFPの一晩培養物を、500 nMのSNPを含む又は含まない20 mMのグルコースを含有する改変したM9培地で1/1000に希釈した。24時間後に、細胞を抗菌剤溶液中で1/10に希釈し、室温で2時間インキュベートした。CFUプレートカウントを行い、細菌の生存能を評価した。浮遊性細胞に対するSNPの前処理は、未処理のP. アエルギノーサ細胞と比べ、H2O2及びトブラマイシンの曝露後にCFUカウントを更に2 log低下させた(図6)。興味深いことに、500 nM SNPによる処理は、未処理の対照と比べ、浮遊性培養物の吸光度の増加を引き起こしたが(図3)、SNPで前処理したトブラマイシン又は過酸化水素に暴露した後では、CFUカウント(生存能)の同等の増加を観察しなかった。
【0108】
いかなる理論によっても拘束されることなく、上記の結果は、P. アエルギノーサのバイオフィルム中で、一酸化窒素は、浮遊性「分散」生理機能を誘導することによって、抗菌剤に対するそれらの感受性を増強するのだと本発明者らは考える。
【0109】
実施例4:一酸化窒素は、フロックバイオフィルム中で細胞の分散を誘導する
表面付着性バイオフィルムに関する実施例2に記載の結果について、非表面付着性の複数種混合のバイオフィルムからの分散を誘導する一酸化窒素の能力を調べた。
【0110】
4個の並列バイオリアクター(30 mLフラスコ)を、アセテート-フェド脱窒条件(嫌気条件)下で13日間、バッチ供給モード(1デカント及びフィード サイクル/日)で作動させた。これらの実験の目的は、SNPにより産生され外部から供給されたNOが、汚泥フロック形成、活性化した汚泥フロック(バイオフィルム)系における細胞死及び分散に影響を与えることができることを実証することであった。
【0111】
バイオリアクターに対し、2004年11月18日にSt Marys Sewage Treatment Plant (STP) (Sydney, NSW, Australia)から回収した活性化汚泥を播種した。バイオリアクターを嫌気条件下、室温で作動させた。所望の濃度を達成するために1 mLのSNP/水に加え、3 mLのアセテート基剤及び12 mLのニトライト基剤の混合物を供給した後、N2ガスを汚泥にフラッシュ/散布することにより、嫌気条件を維持した。バイオリアクターは24時間サイクルで作動させ、23.5時間嫌気条件とした後、10分間沈降及び上澄液の15 mLのデカントという構成にした。
【0112】
バイオリアクター用の培地は、2つの構成成分:炭素培地ベース及び窒素培地ベースで作製した。各サイクルにつき、培地は1容量の炭素培地ベース及び4容量の窒素培地ベースで構成した。炭素培地ベースには、(リットル当たり) 6.587 g CH3COONa、0.042 g CaCl2.2H2O、0.090 g MgSO4.7H2O、0.160 g MgCl2.6H2O、0.011 g KH2PO4、0.026 g Na2HPO4.12H2O、0.122 g Bactoペプトン (Difco Laboratories, USA)、0.020 g Bacto酵母抽出物(Difco Laboratories)、0.025 g NH4Cl、及び0.3 ml栄養溶液が、既報のとおり含まれていた(Bond et al., 1999, Identification of some of the major groups of bacteria in efficient and nonefficient biological phosphorus removal activated sludge systems, Appl Environ Microbiol, 65: 4077-84)。培地はMilli-Q waterで作製し、加熱滅菌により滅菌した。
【0113】
窒素培地ベースには(リットル当たり)8.972 g NO2Naが含まれ、逆浸透圧脱イオン水で作製した。混合培地中のアセテート:NO2--N比を2.73:1に維持した。
【0114】
特異的反応性及び窒素種(RONS)の役割を調べ、死及び分散においてバイオフィルム構造中で蓄積する特定のRONSを検出するために、それぞれが異なるRONSを標的とする(濃度は実施例1に概説した)一連の反応性蛍光色素を、St Marys STPから採取した500 mLの活性化汚泥と混合し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察する前に、暗所で30分間インキュベートした。調べたRONSは、過酸化水素 (H2O2)、一酸化窒素 (NO)、パーオキシナイトライト (ONOO-)のみならず、スーパーオキシドラジカル(O2-・)及びヒドロキシル(OH)ラジカルであった。対照サンプル(蛍光RONS色素を含まない)を用いることにより、後続の蛍光プローブについて、CLSM画像収集レベルを確保した。表1に示すとおり、RONS-特異的な色素のうち2つで、細胞内過酸化水素、H2O2-について、陽性の蛍光を検出した。またDHR123は、高レベルの蛍光でパーオキシナイトライトONOO-を検出した。
【表1】
【0115】
バイオフィルム発生における汚泥フロック及び浮遊性細胞を調べ観察するために、バイオフィルムをLIVE/DEAD BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes)で染色した。染色液の原液を、各バイオリアクターから採取した500 mLの活性化汚泥サンプルを含有する1.5 mLマイクロ遠心管中で、1μL mL-1に希釈した。ガラススライド上にサンプル(20μL)をマウントし、共焦点レーザー走査顕微鏡(Olympus)で細胞を可視化した。13日目の各バイオリアクターから、フロック及び浮遊性細胞の数の観察をした。図7に示すとおり、SNP処理の13日後に、未処理のバイオフィルム(図7A、表2)と比べ、処理したフロックバイオフィルムからは細胞の実質的な分散を観察した(図7B)。
【表2】
【0116】
SNP濃度10 mMを用いた場合に、最大レベルの分散及びフロック分解を観察した。しかしながら、フロックのサイズが大きい(多くの場合、>200μm)ために、フロック内部の細胞に提示されるNOの実際の濃度は、非常に低いと考えられる。そのうえ、NO供与体からのNOの放出は複雑な化学反応に依存しており、放出されるNOの有効濃度は使用されるSNP濃度よりも最大で1〜2log低い可能性がある(Smith and Dasgupta, 2001, Mechanisms of nitric oxide release from nitrovasodilators in aqueous solution: reaction of the nitroprusside ion ([Fe(CN)5NO]2-) with L-ascorbic acid, J. Inorg. Biochem. 87: 165-173)。
【0117】
実施例5:一酸化窒素は、混合種のバイオフィルム中で細胞の分散を誘導する
5.1 材料及び方法
5.1.1 モデル分散系
Storey及びAshboltが記載したバイオフィルムサンプル採取部位(BSS)( Storey M.V. and Ashbolt N.J. (2001), 「Persistence of two model enteric viruses (B40-8 and MS-2 bacteriophages) in water distribution pipe biofilms」, Water Sci Technol. 43 (12): 133-8)を、この試験で使用した。モデル飲料水及び再利用水系のバイオフィルムを、2つの連続流環状リアクター(model 920, Biosurfaces Technologies, Bozeman, Montana)中で、BSSにおいて生育した。環状リアクター(AR)は、水充填環状キャビティで分離された回転ポリカーボネート内側シリンダー及び固定ガラス外側シリンダーからなる。60個のステンレススチール(SS)及び未可塑化ポリ塩化ビニル(uPVC)クーポン(利用可能面積は15 mm×40 mm)を、ARの内側環状シリンダーの露出面に設置し、飲料水及び再利用水をそれぞれ30 L.h-1の速度で入れ、水力学的滞留時間を2.2分にした。循環回転速度を、配水管の平均水圧需要量(0.32 L.s-1)と同じ線速度を提供するように設定した。バイオフィルムクーポンを1 g.L-1の次亜塩素酸ナトリウム中で2時間滅菌し、各実験装置に設置する前に、滅菌Milli-Q waterですすいだ。バイオフィルムをクーポン表面上で90日間生育した。この後、入口流を停止させ、テトラサイクリン及びアンピシリン耐性セラチア・マルセッセンスを用いて、最終濃度が約107 CFU.mL-1になるまでARを富化させた。S. マルセッセンス細胞を、SS及びuPVCクーポン表面上のバイオフィルム中で2週間沈降させた。沈降しなかった細胞は、飲料水及び再利用水を入口流に1週間再接続することにより、該系から除去した。S. マルセッセンスは30℃で24時間インキュベートした後に、選択性LB寒天培地プレート(50μg.mL-1 テトラサイクリン及び100μg.mL-1 アンピシリンを添加した)から事前に回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で3回洗浄した。
【0118】
5.1.2 実験デザイン
クーポンは、滅菌ピンセットを用いて、各バイオフィルム装置から注意深く取り出した。各実験装置からSSクーポン(飲料水)及びuPVCクーポン(再利用水)を取り出し、NO曝露のために、実験室でバイオリアクターに移した。バイオリアクターは、下部に入口部(inlet)及び上部に排出部(outlet)を有する1Lポリプロピレン(PP)ビーカーをアルミニウムホイルで被覆し、該クーポンに適合させるために改変したPP顕微鏡スライドラック(Kartell, Italy)を含むものにした。ラックをPPスタンドの底部から2cm上に設置し、パイプの壁部での水圧性ずり応力を疑似するように、磁気攪拌により円形流を生じさせた。バイオリアクターを1 g.L-1 次亜塩素酸ナトリウムで2時間滅菌し、バイオフィルムを含むクーポンを収容する前に、滅菌Milli-Q waterですすいだ。飲料水又は再利用水系から構築した各種バイオフィルムでは、3個の別個のバイオリアクター中にクーポンを無作為に設置し、それらを0、100 nM又は500 nMのNO供与体ナトリウムニトロプルシド(SNP)(pH7.8)を含む加熱滅菌した(無菌及び脱塩した)飲料水の連続流に、流速50 mL h-1で18時間さらした。
【0119】
その後、従来の塩素処理物20 mLを含む25 mLガラスバイアルに、クーポンを注意深く移した。塩素処理物の濃度は1/4力価のリンガー溶液中で2.4M次亜塩素酸溶液を希釈することにより新たに調製し、Pocket Colorimeter II(HACH, Loveland, CO)を用いて検量した。10分間ゆっくりと攪拌した(75 rpm)後、チオ硫酸ナトリウムを最終濃度100μMで加え、反応を停止させた。それぞれのNO/塩素併用処理では、3個のクーポンを生存能カウントで使用し、2個のクーポンを顕微鏡分析で使用した。
【0120】
5.1.3 分析方法
クーポンを生存能カウント及び顕微鏡分析のために処理した。LIVE/DEAD(登録商標)BacLight細菌生存能キット(Molecular Probes, Oregon, USA)を用いて、バイオフィルム中の細胞を染色した。2種類の染色液(SYTO 9及びヨウ化プロピジウム)の原液を、1/4力価のリンガー溶液中で濃度3μL.mL-1にそれぞれ希釈し、クーポンを150μLの染色混合液で染色し、薄いカバースリップ(10.5×35mm, ProSciTech, Kirwan, Australia)でカバーした。エピ蛍光顕微鏡(Leica model DMR)下でクーポンを観察し、画像分析システム(ImageJ, NIH)を用いてバイオフィルム細胞を数えた。
【0121】
生存能カウントでは、100μMチオ硫酸ナトリウムと共に25 mLの1/4力価のリンガー溶液を含む滅菌ストマッカーバッグ(101×152 mm) (Seward, UK)中にクーポンを設置した。バッグを熱封し、付着したバイオフィルムの分解を誘導するように手で擦った。クーポンを400 W(Branson 2210 Sonicator)で60秒間超音波処理した後、60秒間消化(Seward Stomacher(登録商標)80, Seward, UK)することにより、残存するバイオフィルムを除去し、ホモジナイズした。その後、ホモジネートをストマッカーバッグから無菌的に除去した。従属栄養体プレートカウント(HPC)を、貧栄養R2A寒天培地(Oxoid, England)及び富栄養Luria Bertani(LB)寒天培地プレート上で、混釈平板法を用いて行った。該プレートを30℃でインキュベートし、7日後にカウントを行った。S. マルセッセンスコロニーは、50μg.mL-1 テトラサイクリン及び100μg.mL-1 アンピシリンを添加した選択性LB寒天培地上でコロニーを平板培養することにより、形態学的に同定及び確認した。超音波処理及び消化方法については、HPC回収を介したバイオフィルム除去に対するそれらの効果について、事前に実験した。
【0122】
95%の有意水準で分散(ANOVA)検定の解析を行うことにより、低用量のNO及び塩素殺菌剤の多様な組み合わせがバイオフィルム成長に与える影響を比較した。
【0123】
5.2 結果
5.2.1 セラチア・マルセッセンスでスパイクされた飲料水バイオフィルム
図8A〜8Cに図示するとおり、データは、S.マルセッセンスだけでなく、モデル飲料水給水系中で構築された混合種のバイオフィルムを除去するのに、SNP処理が用量依存的に有効であったことを示す。生存能アッセイ及び顕微鏡分析からも一貫性のある結果が得られた(図8)。プレート上の様々なコロニー形態の相対比は、SNP処理により影響を受けなかったので、混合集団中の特定の種に選択的ではなかったことがわかる。最も有効な処理濃度は500 nM SNPであった。このことは、シュードモナス・アエルギノーサ及び他の単一種の細菌性バイオフィルムで観察された前述の結果と相関する。この実験では、遊離塩素処理を2 ppmで行い、通常の塩素にさらした全てのクーポンで、バイオフィルムの完全除去を観察した。
【0124】
5.2.2 セラチア・マルセッセンスでスパイクされた再利用水バイオフィルム
モデル再利用水給水系及びS.マルセッセンスにより構築された混合種のバイオフィルムは、ナノモル濃度のNO供与体SNPへの曝露により、総カウント及びS.マルセッセンスカウントの両方が用量依存的に減少した。生存能アッセイ及び顕微鏡分析からも一貫性のある結果が得られた(図9)。500 nM SNPに曝露したバイオフィルムは、遊離塩素処理に対し感受性の増強も提示した。例えば、1 ppmの遊離塩素は、生存能カウントにより測定した場合、対照バイオフィルムと比べ、SNP処理したバイオフィルムを除去するのに、最大で20倍有効であった(図9)。
【0125】
実施例6:S. マルセッセンス、V. コレラ、E. コリ及びB.リケニホルミスのバイオフィルムの分散を誘導する低レベルの一酸化窒素
細菌性バイオフィルムを、ガラス(Superfrost, Menzel Gleser)又はポリカーボネート顕微鏡ガラススライド(76×26 mm)のいずれかを含むペトリ皿(直径90 mm)中で生育した。コンタミネーションを防止するために、スライド(ガラス)を加熱滅菌又は1%漂白剤溶液中で30分間滅菌し、ペトリ皿を紫外線に30分間さらして滅菌した。細菌の一晩培養物を25 mlの新鮮培地で1/1000に希釈し、30℃又は37℃で、50 rpmで振とうしながら24時間生育し、スライド上にバイオフィルムを形成させた。24時間後、培地を(NO発生剤を含まない対照に加え)様々な濃度のSNP、SNAP、又はGSNOを含む新鮮培地に交換し、細胞を適当な温度で、50 rpmで攪拌しながら更に24時間インキュベートした。その後、スライドを滅菌PBSですすいで、付着していない又は緩く付着した細胞を除去した。
【0126】
抗菌処理に対するV.コレラのバイオフィルムの感受性を増大させるSNPの能力も、最初の24時間のバイオフィルム発生後に、抗菌処理と組み合わせてNO供与体を添加したことを除いては、上記と同様に試験した。対照群は未処理対照を含み、抗菌剤単独及び細胞を適当な温度で、50 rpmで攪拌しながら更に24時間インキュベートした。その後、スライドを滅菌PBS中ですすいで、付着していない又は緩く付着した細胞を除去した。全ての処理は、3回ずつ行った。
【0127】
バイオフィルム形成の評価は、BacLight Live-Dead染色試薬(Molecular Probes Inc, USA)で細胞を染色し、共焦点顕微鏡で観察することにより行った。スライドあたり、最大で15個の無作為に選択した視野域を、後続の画像分析においてx-y平面で撮像した。画像分析を分析パッケージImageJ (http://rsb.info.nih.gov/ij)を用いて行い、総表面被覆を測定した。結果は、視野域あたりで得られる総表面の被覆割合で示す。
【0128】
図10は、濃度0〜500nMのSNPによるS. マルセッセンスのバイオフィルムの濃度依存性の分散を表し、濃度25nMのSNPはバイオフィルム被覆を60%よりも減少させる。図11は、SNAP(100nM)がS. マルセッセンスのバイオフィルムの分散にも有効であることを示す。
【0129】
図12及び13は、ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNP及びSNAPの効果について、同様の結果を示す。
【0130】
図14は、V. コレラのバイオフィルムに対するテトラサイクリン(6μg/mL)の抗菌活性をSNPが増強することを示す。使用したテトラサイクリンの濃度は、この生物のMICよりも低くした。
【0131】
図15は、1μMのGSNOがV. コレラのバイオフィルムの安定性に対し顕著な効果を有することを示し、図16は500 nM SNPがE. コリのバイオフィルムの安定性に対し顕著な効果を有することを示す。
【0132】
図17は、バチルス・リケニホルミスのバイオフィルムの安定性に対するSNPの強力な効果を示し、100 nM SNPはバイオフィルムによる表面被覆を90%低下させた。
【0133】
実施例7:低レベルの一酸化窒素は、C. アルビカンスのバイオフィルムの分散を誘導する
細胞を、酵母ペプトンデキストロース培地(YPD)中、24ウェルポリスチレンマイクロタイタープレート(Sarstedt)中で、30℃、100 rpmで振とうさせながら生育した。簡潔にいえば、C. アルビカンスの一晩培養物を新鮮培地で1:100に希釈し、1 mlをウェルに播種した。培地を新鮮培地に交換した後、バイオフィルムを24時間形成させた。そして、SNPを濃度0 nM、25 nM、100 nM、500 nM、1μM及び5μMで加えた。細胞をさらに24時間インキュベートし、その際、緩く付着した及び付着していない細胞を除去するためにウェルをPBSですすぎ、1%クリスタルバイオレットで染色した。ウェルをPBSで徹底的に洗浄し、バイオフィルムに吸収されたクリスタルバイオレットの量をWallac-Victor2プレート読み取り機(Perkin-Elmer)を用いて540 nmで測定した。
【0134】
結果(図18)は、未処理の対照に対する割合として示す。また、当該結果は、1μM未満のSNP濃度では、SNPはC. アルビカンスのバイオフィルムを不安定にし、25 nMのSNP処理ではC. アルビカンスのバイオフィルムを60%よりも減少させることを示す。
【0135】
実施例8:低レベルの一酸化窒素は、S. エピデルミディスのバイオフィルムの形成を阻害する
スタフィロコッカス・エピデルミディスのバイオフィルム形成及び発育に対するNOの効果を試験するのに使用した方法及び材料は、S. マルセッセンス、V. コレラ、E. コリ及びB. リケニホルミスに関して上記したものと同様であり、バイオフィルムの培養のためにペトリ皿中でガラススライドを用いた。しかしながら、最初の24時間のバイオフィルム発生後ではなく、継続して細胞にNO供与体SNPを加えた。この結果は、SNPの添加が濃度依存的にS.エピデルミディスのバイオフィルムの形成を阻害できることを実証する(図19)。
【0136】
実施例9:低レベルの一酸化窒素は、F. ヌクレアタムのバイオフィルムの分散を誘導する
嫌気性口腔細菌に対するNOの潜在的効果を測定するために、フソバクテリウム・ヌクレアタムを、口腔内コンソーシアのバイオフィルムに関するモデル及び主要生物として選択した。簡潔にいえば、新鮮培地に播種するために一晩培養物を使用した(1:100)。細胞を吸光度(600 nm)0.1になるまで生育し、その際に、SNPを濃度0 nM、100 nM、500 nM、1μM及び10μMで細胞に加えた。細胞のチューブにガラススライドも加え、細菌を4時間付着させた。インキュベート時間の最後に、スライドを取り出し、緩く付着した細胞を除去するために、滅菌PBS中に沈積させることにより2回洗浄し、クリスタルバイオレットで染色した。付着した細胞をデジタル画像読み取り及び後続の画像分析により、顕微鏡で数えた。結果は、SNPに曝露させなかった対照培養物と比べた場合の付着した細胞の割合で示し(図20)、NO発生剤SNPの添加がF. ヌクレアタムの表面に対する付着を阻害することを示す。
【0137】
本発明の特定の実施形態は、説明の目的で本明細書に記載されているが、特許請求の範囲で規定される本発明の精神及び範囲を超えない限り、様々な変形がなされ得ると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】P. アエルギノーサのバイオフィルム中の細胞死及び分散事象は、微小コロニー構造中の活性酸素及び窒素種の蓄積と相関することを示す。(A) BacLight LIVE/DEAD染色液で染色した7日目のバイオフィルムを示す共焦点顕微鏡写真(生細胞及び死細胞の顕微鏡写真も、別のパネルに個別に示す)。白色の矢印は、バイオフィルム中の中空構造を示す。黒色の矢印は、バイオフィルム中の死細胞を示す。棒線は50μmを示す。(B) 7日目のバイオフィルム中の微小コロニーの共焦点顕微鏡写真。バイオフィルムを特定のRONSを検出する蛍光色素で染色した。左のパネルは位相差画像であり、右のパネルはXY (垂直方向)及びXZ (側面方向)の視点でみたRONS蓄積を示す蛍光画像である。棒線は50μmを示す。画像は、少なくとも3つの別個の実験の代表的なものである。
【図2】P. アエルギノーサのバイオフィルム及び浮遊性成長に対するSNPの投与の効果を示す。PAO1細胞を、96-ウェルプレート中で24時間、ナトリウムニトロプルシド(SNP)の存在下で生育した。浮遊性成長は蛍光測定により定量し、バイオフィルム形成はクリスタルバイオレット染色により定量した。対照には、SNPを加えなかった。
【図3】P. アエルギノーサにおける、バイオフィルムから浮遊性成長への転換に対する一酸化窒素を発生又は放出する薬剤の効果を示す。PAO1細胞を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間、一酸化窒素供与体、ナトリウムニトロプルシド(SNP)、S-ニトロソ-L-グルタチオン(GSNO)又はS-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)又はSNPに加え、一酸化窒素捕捉剤2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシド(PTIO)の存在下で生育した。浮遊性成長を、上澄液(明るい色の棒線)の吸光度(OD600nm)を測定することにより定量し、バイオフィルムの成長を、染色後に顕微鏡スライドのデジタル顕微鏡写真の画像解析を利用して、表面被覆(暗い色の棒線)の割合を測定することにより定量した。
【図4】P. アエルギノーサの抗菌剤に対する感受性へのSNP処理の効果を示す。P. アエルギノーサPAO1を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間、500 nM SNPの存在下又は不在下で、生育した。顕微鏡スライド上のバイオフィルムを、抗菌溶液で30分間処理し、光学顕微鏡を用いて分析できるようにLIVE/DEAD染色液で染色し、デジタル画像解析を用いて(表面被覆の割合)を定量した。(A) SNPの存在下(明るい灰色の棒線)又は不在下(暗い灰色の棒線)での、抗菌剤トブラマイシン(Tb)、過酸化水素(H2O2)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び次亜塩素酸(HOCl)に対する、顕微鏡スライド上のバイオフィルムの感受性(%表面被覆)。(B) 処理後の同一スライドの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図5】予め構築されたP.アエルギノーサバイオフィルムの抗菌剤に対する感受性へのSNP処理の効果を示す。500 nM SNPの添加前に、P. アエルギノーサPAO1を、顕微鏡スライドを含むペトリ皿中で24時間生育した。バイオフィルムをさらに24時間生育した後、抗菌溶液で30分間処理し、光学顕微鏡を用いて分析できるようにLIVE/DEAD染色液で染色し、デジタル画像解析を用いて定量した(表面被覆の割合)。(A) SNPの存在下(明るい灰色の棒線)又は不在下(暗い灰色の棒線)での、トブラマイシン(Tb)、過酸化水素(H2O2)及び紫外線(UV)に対する、顕微鏡スライド上のバイオフィルムの感受性(表面被覆%)。(B) 処理後の同一スライドの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図6】SNP及び抗菌剤を用いる浮遊性P. アエルギノーサ細胞の併用処理を示す。浮遊性細胞を、抗菌剤トブラマイシン(Tb)又は過酸化水素(H2O2)で2時間処理した。コロニー形成単位(logCFU/mL)のプレートカウントを、細菌の生存能を評価するために行った。
【図7】汚水処理汚泥リアクターから得たフロックバイオフィルム中の分散に対するSNP曝露の効果を示す。未処理の(A)又は10 mM SNPで処理し(B)13日間混合した種のフロックバイオフィルムの共焦点蛍光顕微鏡写真。
【図8】S. マルセッセンスでスパイクした飲料水バイオフィルム-0、100 nM又は500 nM SNPに18時間曝露した後の、バイオフィルムに対するSNPの効果を示す。(A) 貧栄養寒天培地(R2A、3重)での生存数;(B)富栄養寒天培地(LB10、3重)での生存数;(C) 顕微鏡解析を用いた表面被覆の割合(BacLight、2重)。
【図9】再利用水給水システムに一致したAR中のuPVCクーポン上で3ヶ月間生育し、S.マルセッセンスでスパイクしたバイオフィルムを示す。ある範囲の遊離塩素濃度で10分間処理する前に、0、100 nM及び500 nM SNPに対して18時間、バイオフィルムを曝露した効果:(A)富栄養寒天培地(LB10、3重)での生存数;(B) 顕微鏡解析を用いた表面被覆の割合(BacLight, 2重)。
【図10】セラチア・マルセッセンスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図11】セラチア・マルセッセンスのバイオフィルムの分散に対するSNAPの効果を示す。
【図12】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図13】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するSNAPの効果を示す。
【図14】ビブリオ・コレラのバイオフィルムに対するテトラサイクリン(6μg/mL)の抗菌活性のSNP処理による増強を示す。
【図15】ビブリオ・コレラのバイオフィルムの分散に対するGSNOの効果を示す。
【図16】E. コリのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図17】バチルス・リケニホルミスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図18】カンジダ・アルビカンスのバイオフィルムの分散に対するSNPの効果を示す。
【図19】スタフィロコッカス・エピデルミディスによるバイオフィルム形成のSNP処理を用いた阻害を示す。
【図20】ガラス表面に対するフソバクテリウム・ヌクレアタム付着のSNPによる阻害を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する方法であって:
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に、該バイオフィルムを曝露し;
バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理し;
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体中に取り込み;又は
該バイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で、1以上の活性酸素又は窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生又は放出する薬剤が、1以上の一酸化窒素供与体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの一酸化窒素供与体が、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、単一の種からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、複数の種からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、細菌種又は真菌種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、カンジダ属、ホルモコニス属、シュードモナス属、シュードアルテロモナス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、シゲラ属、マイコバクテリウム属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、サルモネラ属、レジオネラ属、ヘモフィルス属、バチルス 属、デスルホビブリオ属、シェワネラ属、ゲオバクター属、クレブシエラ属、プロテウス属、アエロモナス属、アルスロバクター属、ミクロコッカス属、セラチア属、ポルフィロモナス属、フソバクテリウム属及びビブリオ属から選択される1以上の種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、P. アエルギノーサ、スタフィロコッカス・エピデルミディス、エシェリキア・コリ、バチルス・リケニホルミス、セラチア・マルセッセンス、フソバクテリウム・ヌクレアタム、ビブリオ・コレラ及びカンジダ・アルビカンスから選択される1以上の種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの抗菌剤で表面若しくは媒体を処理し、該抗菌剤を表面若しくは媒体に取り込み、又は該抗菌剤にバイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物を曝露することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗菌剤が、抗生物質、界面活性剤、酸化ストレス誘導剤、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1以上の活性酸素又は窒素種が、パーオキシナイトライト、一酸化窒素、過酸化水素及びスーパーオキシドラジカル又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導することを含み、又は前記方法がバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1以上の抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
有効量に、一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤の濃度が、約1 nM〜約10 mMであることが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
有効量に、一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤の濃度が、約10 nM〜約5μMであることが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物であって、一酸化窒素、少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤、又は一酸化窒素及び一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を好適な担体と共に含む、前記組成物。
【請求項17】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤が、1以上の一酸化窒素供与体を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの一酸化窒素供与体が、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はその組み合わせから選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1つの抗菌剤をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも1つの抗菌剤が、抗生物質、界面活性剤、酸化ストレス誘導剤、又はそれらの組み合わせである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
抗汚染組成物、医療デバイス若しくはその構成要素、医療デバイス用の被覆剤、又は医薬組成物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導するか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害する、請求項16に記載の組成物。
【請求項23】
バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤、少なくとも1つの酸化防止剤、又は少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法。
【請求項24】
一酸化窒素捕捉剤が、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
酸化防止剤が、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
バイオフィルムの機能を維持し、又は増強し、又は維持かつ増強するための組成物であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤を、好適な担体と共に含む、前記組成物。
【請求項28】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
一酸化窒素捕捉剤が、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
酸化防止剤が、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸から選択される、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
被験体におけるバイオフィルムと関連する状態の治療又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を被験体に投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの抗菌剤を被験体に投与することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
バイオフィルム形成に感受性のある表面に、医療デバイスの表面が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
医療デバイスが、カテーテル、ステント、プロテーゼ又は他の好適な外科用若しくは埋め込み可能なデバイスである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
被験体のバイオフィルムと関連する状態を治療又は予防するための、請求項16に記載の組成物。
【請求項36】
少なくとも1つの抗菌剤をさらに含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項1】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する方法であって:
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤に、該バイオフィルムを曝露し;
バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体を、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤で処理し;
有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を、バイオフィルム形成に感受性のある表面又は媒体中に取り込み;又は
該バイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物中で、1以上の活性酸素又は窒素種の蓄積を誘導することを含む、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生又は放出する薬剤が、1以上の一酸化窒素供与体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの一酸化窒素供与体が、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はそれらの組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、単一の種からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、複数の種からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、細菌種又は真菌種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、カンジダ属、ホルモコニス属、シュードモナス属、シュードアルテロモナス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、シゲラ属、マイコバクテリウム属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、サルモネラ属、レジオネラ属、ヘモフィルス属、バチルス 属、デスルホビブリオ属、シェワネラ属、ゲオバクター属、クレブシエラ属、プロテウス属、アエロモナス属、アルスロバクター属、ミクロコッカス属、セラチア属、ポルフィロモナス属、フソバクテリウム属及びビブリオ属から選択される1以上の種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
バイオフィルム中に存在する微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物が、P. アエルギノーサ、スタフィロコッカス・エピデルミディス、エシェリキア・コリ、バチルス・リケニホルミス、セラチア・マルセッセンス、フソバクテリウム・ヌクレアタム、ビブリオ・コレラ及びカンジダ・アルビカンスから選択される1以上の種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの抗菌剤で表面若しくは媒体を処理し、該抗菌剤を表面若しくは媒体に取り込み、又は該抗菌剤にバイオフィルム中の微生物又はバイオフィルムを形成することができる微生物を曝露することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗菌剤が、抗生物質、界面活性剤、酸化ストレス誘導剤、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1以上の活性酸素又は窒素種が、パーオキシナイトライト、一酸化窒素、過酸化水素及びスーパーオキシドラジカル又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導することを含み、又は前記方法がバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1以上の抗菌剤に対する微生物の感受性を増大させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
有効量に、一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤の濃度が、約1 nM〜約10 mMであることが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
有効量に、一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤の濃度が、約10 nM〜約5μMであることが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
微生物のバイオフィルムの分散を促進する、又は微生物のバイオフィルムの形成を阻害する組成物であって、一酸化窒素、少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤、又は一酸化窒素及び一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を好適な担体と共に含む、前記組成物。
【請求項17】
少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤が、1以上の一酸化窒素供与体を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの一酸化窒素供与体が、ナトリウムニトロプルシド、S-ニトロソ-L-グルタチオン、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン又はその組み合わせから選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1つの抗菌剤をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも1つの抗菌剤が、抗生物質、界面活性剤、酸化ストレス誘導剤、又はそれらの組み合わせである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
抗汚染組成物、医療デバイス若しくはその構成要素、医療デバイス用の被覆剤、又は医薬組成物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を誘導するか、又はバイオフィルム形成を導く微生物における分化事象の誘導を阻害する、請求項16に記載の組成物。
【請求項23】
バイオフィルムの機能を維持又は増強する方法であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤、少なくとも1つの酸化防止剤、又は少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び少なくとも1つの酸化防止剤に、バイオフィルムを曝露することを含む、前記方法。
【請求項24】
一酸化窒素捕捉剤が、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
酸化防止剤が、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
バイオフィルムの機能を維持し、又は増強し、又は維持かつ増強するための組成物であって、少なくとも1つの一酸化窒素捕捉剤及び/又は少なくとも1つの酸化防止剤を、好適な担体と共に含む、前記組成物。
【請求項28】
分散を導く前記バイオフィルム内の微生物における分化事象を阻害する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
一酸化窒素捕捉剤が、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチル-イミダゾリン-1-オキシル3-オキシドである、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
酸化防止剤が、チオレドキシン、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン及びアスコルビン酸から選択される、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
被験体におけるバイオフィルムと関連する状態の治療又は予防のために、有効量の一酸化窒素又は少なくとも1つの一酸化窒素を発生若しくは放出する薬剤を被験体に投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの抗菌剤を被験体に投与することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
バイオフィルム形成に感受性のある表面に、医療デバイスの表面が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
医療デバイスが、カテーテル、ステント、プロテーゼ又は他の好適な外科用若しくは埋め込み可能なデバイスである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
被験体のバイオフィルムと関連する状態を治療又は予防するための、請求項16に記載の組成物。
【請求項36】
少なくとも1つの抗菌剤をさらに含む、請求項35に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2008−542208(P2008−542208A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512649(P2008−512649)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000693
【国際公開番号】WO2006/125262
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507387723)エンバイロメンタル バイオテクノロジー シーアールシー ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000693
【国際公開番号】WO2006/125262
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507387723)エンバイロメンタル バイオテクノロジー シーアールシー ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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