説明

バインダー樹脂及び無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができるバインダー樹脂、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】有機溶剤と無機微粒子と併用することにより耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を作製できるバインダー樹脂であって、
N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントを有する
ことを特徴とするバインダー樹脂。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができるバインダー樹脂、及び、無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【技術分野】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末、ガラス粒子等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた無機微粒子分散ペースト組成物が、様々な形状の焼成体を得るために用いられている。例えば、導電性粉末として金属微粒子を分散させたペースト組成物は、回路形成やコンデンサーの製造等に用いられ、セラミック粉末やガラス粒子を分散させたセラミックペーストやガラスペーストは、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPともいう)の誘電体層の製造や積層セラミックコンデンサの製造等に用いられている。
【0003】
PDPは、前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で電極間にプラズマ放電させ、放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線を放電空間内の蛍光体に当てることにより発光を得るものである。
背面ガラス基板にはプラズマから電極を保護する目的で電極上に誘電体層が形成され、更にその表面に蛍光体層を塗工するガラスリブが形成されている。また、蛍光体層の表面積を稼ぐために、ガラスリブは、サンドブラストを用いて凹型ストライプ状に成形されている。背面ガラス基板表面に誘電体層とガラスリブとが形成されたものを背面板という。
【0004】
従来、PDPの生産プロセスでは、特許文献1に開示されているように、背面ガラス基板の表面に誘電体層用ガラスペーストを塗工、乾燥した後(以下、脱脂・焼成前の乾燥させたものを誘電体前駆層ともいう)、加熱して脱脂・焼成を行うことで誘電体層を形成し、更に誘電体層の表面に、アクリル樹脂やエチルセルロース樹脂等をバインダー樹脂とし、低融点ガラスを分散させ、溶剤を含有させたガラスリブ用ペーストを塗工し、次いでサンドブラストを用いて凹型ストライプ状に成形した後(以下、脱脂・焼成前の成形体をガラスリブ前駆体ともいう)、加熱して脱脂・焼成を行うことでガラスリブを形成していた。このプロセスでは加熱して脱脂・焼成する工程が複数回必要となるため、熱エネルギーや製造タクト時間がかかるという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、背面ガラス基板表面に誘電体前駆層とガラスリブ前駆体とを形成した後にまとめて加熱することにより、1度のみの脱脂・焼成にて誘電体層及びガラスリブを製造することが検討されている。しかしながら、脱脂・焼成を行っていない誘電体前駆層の表面に従来のガラスリブ用ペーストを塗工すると、ガラスリブ用ペーストに含有される溶剤が誘電体前駆層を破壊する「シートアタック」と呼ばれる現象が生じるという問題があった。
特許文献2には、背面ガラス基板表面に誘電体層用ペーストを塗工し、熱重合を用いて硬化させた誘電体前駆層にガラスリブ用ペーストを塗工し、誘電体前駆層とガラスリブ前駆体とを脱脂・焼成し、誘電体層及びガラスリブを製造する方法が開示されているが、熱重合を短時間で完全に終了させることは難しく、また、硬化後に溶剤を蒸発させることが難しいため、後のプロセスで基材からの剥がれや気泡が発生するという問題があった。
【0006】
また、積層セラミックコンデンサ等の積層型の電子部品は、例えば、特許文献3に開示されているように、一般に次のような工程を経て製造される。
まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加える。次いで、ボールミル等により均一に混合し脱泡を行って一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。得られたセラミックスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はステンレス鋼プレート等の支持体面で流延成形する。次いで、加熱等により有機溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0007】
得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗工したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を製造する。この積層体中に含まれるバインダー樹脂成分等を熱分解させて除去する処理(いわゆる「脱脂処理」)を行った後、焼成して得られたセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結によって形成させる工程を経て、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0008】
近年では、積層セラミックコンデンサの高容量化に伴い、セラミックグリーンシートの薄膜化が進んでいる。しかしながら、薄膜化されたセラミックグリーンシート上に導電性ペーストを塗工すると、導電ペースト中の溶剤によりセラミックグリーンシートの樹脂が溶解され、セラミックグリーンシートにピンホールやクラックが生じるいわゆる「シートアタック」現象が発生するという問題があった。
これらの問題を回避するために、例えば、特許文献4には、セラミックグリーンシートの樹脂を溶解させない溶剤を用いた導電ペーストが開示されているが、このような溶剤は粘度コントロール性が難しく、生産安定性が劣るという問題があった。
【特許文献1】2002−133947号公報
【特許文献2】2001−26477号公報
【特許文献3】特公平3−35762号公報
【特許文献4】特開平5−325633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができるバインダー樹脂、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有機溶剤と無機微粒子と併用することにより耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を作製できるバインダー樹脂であって、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントを有するバインダー樹脂である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らはこれまでに、特に、アミノ基、イソシアネート基、シアノ基等の窒素を含む官能基を有する構造の(メタ)アクリレートポリマーからなるバインダー樹脂を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物は耐シートアタック性に優れるということを見出した。これは、理由は明確ではないが、バインダー樹脂と無機微粒子との相互作用性の高さによるものであると考えられる。しかし、このようなバインダー樹脂は、窒素を含む官能基の導入量の増加に伴って無機微粒子分散ペースト組成物の耐シートアタック性を向上させる一方で熱分解性を低下させることも明らかになってきた。
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討の結果、窒素を含み、かつ、特定の構造を有するバインダー樹脂が、無機微粒子分散ペースト組成物として用いた場合に、耐シートアタック性と熱分解性とを両立可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のバインダー樹脂は、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントを有する。
【0013】
上述したように、ある程度の耐シートアタック性能を確保するためにはある程度の窒素官能基を導入しなければならないが、それに付随して熱分解性の低下が生じるため、耐シートアタック性と熱分解性との両立は難しい。しかしながら、本発明においては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントを有する樹脂をバインダー樹脂とすることにより、溶剤乾燥時に、高温状態で強い凝集性を発揮するため、無機微粒子分散ペースト組成物に用いた場合に優れた耐シートアタック性を発揮することができる。
また、アミノ基を導入する場合と比較して、少量の窒素量で耐シートアタック性を発揮することが可能となることから、窒素を含む官能基の導入に伴う、熱分解性の低下を防止することができる。このようなバインダー樹脂を用いれば、耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができる。
【0014】
上述したセグメントを有するバインダー樹脂を用いた場合に、耐シートアタック性が向上する理由については明らかではないが、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド,N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドは、温度により相転移することが知られており、例えば、N−イソプロピルアクリルアミドからなる架橋体ゲルは32℃以上に加熱することで鋭敏に体積収縮反応を示すことが知られている。このような特性に起因して、溶剤乾燥時に高い凝集性を発揮し、シートアタックを抑制できるものと考えられる。
【0015】
本発明のバインダー樹脂では、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントに加えて、(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントを有することが好ましい。更に、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントを有することが好ましい。特に、本発明のバインダー樹脂を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物の耐シートアタック性を考慮すると、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントと、(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントと、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントとを有することが好ましい。
【0016】
上記(メタ)アクリレートモノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、炭素数が10以下の(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
これらの(メタ)アクリレートモノマーは単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0017】
上記ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーとしては特に限定されず、例えば、ポリメチレングリコール、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられ、より低温で分解することからポリプロピレングリコールモノメタクリレートの(メタ)アクリル酸エステルがより好適に用いられる。
【0018】
また、上記(メタ)アクリレートモノマー、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマー以外のモノマーとして、ラジカル重合が可能であり、かつ、分解温度の低いポリ−αメチルスチレン等を用いることもできる。
【0019】
本発明のバインダー樹脂は、ポリスチレン換算による数平均分子量の好ましい下限が5000、好ましい上限が50万である。5000未満であると、バインダー樹脂中の窒素元素の割合が多くなり、分解残渣が多くなることがあり、50万を超えると、本発明のバインダー樹脂を用いてなる無機微粒子分散ペースト組成物が基板に対して密着性が低下することがある。
なお、ポリスチレン換算による数平均分子量の測定は、カラムとして例えばSHOKO社製カラムLF−804を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行うことで得ることができる。
【0020】
本発明のバインダー樹脂の製造方法としては特に限定されず、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に加えて、必要に応じて、(メタ)アクリレートモノマー及びポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートモノマーをフリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等の従来公知の方法で重合又は共重合する方法が挙げられる。
なお、重合又は共重合により得られるバインダー樹脂にN−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントが導入されたことは、例えば、13C−NMRにより確認することができる。
【0021】
また、本発明のバインダー樹脂と、有機溶剤と、無機微粒子とを用いて無機微粒子分散ペースト組成物を作製することができる。
本発明のバインダー樹脂、有機溶剤、及び、無機微粒子を含有する無機微粒子分散ペースト組成物もまた、本発明の1つである。
【0022】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子としては特に限定されず、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、LiO・Al・SiO系無機ガラス等の低融点ガラス、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y、Gd)BO:Eu等の蛍光体、種々のカーボンブラック、金属錯体等が挙げられる。なかでも、本発明のバインダー樹脂に対する分散性に優れ、本発明のバインダー樹脂と併用することにより、より高い耐シートアタック性が得られることから、ガラス類を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物における上記無機微粒子の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が30重量%、好ましい上限が90重量%である。30重量%未満であると、粘度が充分に得られないことがあり、塗工性が低下することがあり、90重量%を超えると、無機微粒子を分散させることが困難になることがある。
【0024】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、α−、β−、γ−テルピネオール等のテルペン類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールトリプロピルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールトリアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。
特に、塗工プロセス中に、乾燥による歩留まりを起こしにくいことから、具体的にはテルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートであることが好ましい。
【0025】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物における上記有機溶剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は60重量%である。この範囲を外れると、塗工性が低下したり、無機微粒子を分散させることが困難となったりすることがある。
【0026】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法が挙げられ、各成分をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0027】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、上述したように耐シートアタック性に優れることから、例えば、PDPの誘電体層を作製する際には、基板上に本発明の無機微粒子分散ペースト組成物を塗工、乾燥させて誘電体前駆層を形成させた後に脱脂・焼成工程を行わず、更にその表面に通常のガラスリブ用ペーストを印刷してガラスリブ前駆体を形成させ、誘電体前駆層とガラスリブ前駆体とをまとめて脱脂・焼成することができる。
すなわち、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物を用いることにより、脱脂・焼成工程の回数を減らすことができるため、熱エネルギーや製造タクト時間を効率化することができる。
また、薄膜化された積層セラミックコンデンサを作製する際には、導電ペーストに含有させる溶剤に特に制限を与えなくともシートアタック現象を発生することがなく、積層するごとに必要であった脱脂・焼成工程の回数を減らすことができるため、熱エネルギーや製造タクト時間を効率化することができる。
また、本発明のバインダー樹脂は、上述したPDPの誘電体層や積層セラミックコンデンサの作製以外にも、シートアタック現象を生じないという特徴を活かし、電極シート上に誘電体ペーストをカバーする工程、リブシート上に蛍光体ペーストをスクリーン印刷する工程等を簡略化することが可能である。また、未焼結リブ上にインクジェットで蛍光体を印刷したり、オフセット印刷で電極を印刷した上に誘電体層をスクリーン印刷する等、異なる印刷法を組み合わせるときにも応用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができるバインダー樹脂、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)40重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)55重量部、 N−イソプロピルアクリルアミド5重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオールを0.7重量部、及び、有機溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0031】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら湯浴が沸騰するまで昇温した。重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0032】
重合開始から7時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、窒素を含む構造を有する(メタ)アクリレートポリマー(バインダー樹脂)のジエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を得た。得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は表1のとおりであった。
このようにして得られたバインダー樹脂のジエチレングリコールモノブチルエーテルに対し、表1に記載した組成比になるようにジエチレングリコールモノブチルエーテルを更に添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した。
【0033】
得られたビヒクル組成物に対して、無機微粒子として軟化点が約510℃の低融点ガラスフリット組成物を表1に記載した組成比になるよう添加し、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0034】
(実施例2〜4)
配合するモノマーの種類を表1に示したものに変更したこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、バインダー樹脂を得た。重量平均分子量を評価した結果、表1のとおりであった。表1の組成比になるように各成分を調整し、実施例1と同様にしてビヒクル組成物、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0035】
(比較例1)
配合するモノマーの種類をMMA40重量部、2−HEMA55重量部、メタクリルアミド5重量部に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー樹脂、ビヒクル組成物及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0036】
(比較例2)
配合するモノマーの種類をMMA40重量部、2−HEMA60重量部に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー樹脂、ビヒクル組成物及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0037】
(比較例3)
配合するモノマーの種類をMMA40重量部、2−HEMA40重量部、メタクリルアミド20重量部に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー樹脂、ビヒクル組成物及び無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0038】
<評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたバインダー樹脂、ビヒクル組成物及び無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。結果を表1、表2に示した。
【0039】
(1)耐シートアタック性
実施例1〜4、及び、比較例1〜3で作製した無機微粒子分散ペースト組成物を10ミルに設定したアプリケーターを用いてガラス基板上に塗工した。120℃オーブンで30分養生して無機微粒子分散ペースト組成物に含まれる溶剤を蒸発させ、誘電体層を形成した。テルピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)のそれぞれの溶液を誘電体層表面にスポイトを用いて数滴塗布し、120℃オーブンで30分養生して溶剤成分を蒸発させ誘電体層の状態を顕微鏡観察して確認した。誘電体層に樹脂の浮きだしや穴、亀裂等が見られたものを×、無機微粒子層の亀裂やピンホール等は見られないが、塗膜表面に樹脂が浮き出てしまったものを△、変化がなかったものを○とした。
【0040】
(2)熱分解性
実施例1〜4、及び、比較例1〜3で作製したバインダー樹脂を熱分解装置(TAインスツルメンツ社製simultaneousSDT2960)を用いて空気雰囲気下にて昇温温度10℃/minで600℃まで加熱し、完全に熱分解が終了する温度を測定した。分解終了温度が550℃以下のものを○、550℃を超えるものを×とした。
【0041】
(3)ガラス焼結性
実施例1〜4、及び、比較例1〜3で作製した無機微粒子分散ペースト組成物を10ミルに設定したアプリケーターを用いてガラス基板上に塗工した。120℃オーブンで30分養生して無機微粒子分散ペースト組成物に含まれる溶剤を蒸発させ、誘電体層を形成した。
500℃オーブンで30分間焼結させ、脱脂し、ガラスを溶解させた。
溶融ガラス表面に光沢があり、巣のないものを○、表面が曇り、凹凸や巣が見られるものを×とした。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
実施例1〜4で作製した無機微粒子分散ペースト組成物は、いずれの溶剤に対しても耐シートアタック性が良好で、誘電体層の破壊は見られなかった。一方、比較例1〜2の無機微粒子分散ペースト組成物では、溶剤の塗布により誘電体層に亀裂が発生した。比較例3の無機微粒子分散ペースト組成物では、誘電体層の亀裂は見られなかったが、樹脂の浮きだしが見られた。
熱分解性評価では実施例1〜4、及び、比較例1〜2では、いずれも良好な分解性を示したが、比較例3では600℃で分解しない残渣成分が0.5%程度見られた。
ガラス焼結性評価では、実施例1〜4、及び、比較例1〜2では焼結体透明でつやがあり、表面に凹凸等は見られなかったが、比較例3では未分解残渣の影響でガラス流動性が不良であり、表面が曇り、凹凸が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を製造することができるバインダー樹脂、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と無機微粒子と併用することにより耐シートアタック性と熱分解性とに優れる無機微粒子分散ペースト組成物を作製できるバインダー樹脂であって、
N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種に由来するセグメントを有する
ことを特徴とするバインダー樹脂。
【請求項2】
請求項1記載のバインダー樹脂、有機溶剤、及び、無機微粒子を含有することを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物。

【公開番号】特開2009−84407(P2009−84407A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255431(P2007−255431)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】