説明

バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を使用した発酵によるプリンヌクレオシド及びヌクレオチドの製造方法

プリン生産性がYdhLタンパク質の活性を増大させることにより増強されたバチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を使用することを含む、プリン塩基類似体、イノシン及び5’−イノシン酸などのプリンヌクレオシド及びプリンヌクレオチドの製造方法が提供される。また、バチルス・アミロリケファシエンス由来のYdhLタンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5’−イノシン酸及び5’−グアニル酸の合成における原料として重要であるプリンヌクレオシドの製造方法に関する。本発明はまた、この製造方法で使用される新規微生物に関する。本発明はまた、該DNAを発現する細菌へ、プリン塩基類似体及びプリンヌクレオシドに対する耐性を付与する新規DNA並びにタンパク質種に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イノシンのようなヌクレオシドは、アデニン栄養要求株、又は、プリン類似体及びスルファグアニジンのような様々な薬物に対する薬物耐性を付与された株を利用する発酵方法により工業的に生産されている。このような株の例としては、バチルス属(特公昭第54−17033号(1979年)、同第55−2956号(1980年)及び同第55−45199号(1980年)、特開昭第56−162998号(1981号)、特公昭第57−14160号(1982年)及び同第57−41915号(1982年)、並びに特開昭第59−42895号(1984年))、又はブレビバクテリウム属(特公昭第51−5075号(1976年)及び同第58−17592号(1972年)、並びにAgric. Biol. Chem., 42, 399 (1978))、又はエシェリヒア属(WO99/03988号)等が挙げられる。
【0003】
このような変異株の取得は通常、微生物を、例えば、UV照射又はニトロソグアニジン(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)処理のような変異誘発処理に供すること、及び適切な選択培地を介して所望の株を選択することを包含する。他方で、遺伝子工学技術を使用したこのような変異株の育種もまた、バチルス属(特開昭第58−158197号(1983年)、同第58−175493号(1983年)、同第59−28470号(1984年)、同第60−156388号(1985年)、特開平第1−27477号(1989年)、同第1−174385(1989年)、同第3−58787号(1991年)、同第3−164185号(1991年)、同第5−84067号(1993年)及び同第5−192164号(1993年))、又はブレビバクテリウム属(特開昭第63−248394号(1988年))、又はエシェリヒア属(WO99/03988号)に属する株に関して実施されている。
【0004】
これらのイノシン生産株の生産性は、イノシン分泌能を増大させることにより、さらに向上させることができる。現在では、細胞質細胞膜を介した代謝産物の通過は通常、特定の排出トランスポータータンパク質により媒介されることが一般的に認められている(Pao, S.S. et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62 (1), 1-34, (1998); Paulsen, I.T. et al., J. Mol. Biol., 277, 573-592 (1998); Saier, M.H. et al., J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 257-279 (1999))。本発明者らはこれまでに、エシェリヒア属又はバチルス属に属し、且つrhtA(ybiF)遺伝子によりコードされるRhtAタンパク質の活性、yijE遺伝子によりコードされるYijEタンパク質の活性、及びydeD遺伝子によりコードされるYdeDタンパク質の活性が増強されたイノシン又はキサントシン生産株が、それらの各々の親株より多くのイノシン又はキサントシンを生産したことを示している(それぞれロシア国特許出願第2002101666号、同第2002104463号及び同第2002104464号)。最近では、バチルス・ズブチリス由来のYdhLが、プリン類似体である2−フルオロアデニンに対する感受性を低減させることが見出された。さらに、間接的な証拠により、YdhLは、ヒポキサンチンの内部プールの量を減少させることが示されている(Johansen et al, J. Bacteriol., 185, 5200-5209, 2003)。しかしながら、ヌクレオシド分泌及び/又はヌクレオシド生産に対するYdhL過
剰発現の影響は示されていない。
【0005】
さらに、バチルス・アミロリケファシエンス由来のYdhLは全く報告されておらず、またヌクレオシド分泌及び/又はヌクレオシド生産に対するYdhL過剰発現の影響も示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、イノシン生産株によるイノシンの生産を増強すること、並びにこれらの株を使用したイノシン及び5’−イノシン酸の製造方法を提供することである。
【0007】
この目的は、多コピーベクター上に配置された遺伝子の野生型対立遺伝子が、E.coli株へ導入される場合に、8−アザアデニン、6−メチルプリン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン、8−アザグアニンのようなプリン塩基類似体、並びにイノシン及びグアノシンのようなプリンヌクレオシドに対する耐性を付与する推定膜タンパク質をコードするバチルス・ズブチリスのydhL遺伝子を同定することにより達成された。また、バチルス・アミロリケファシエンス由来のこれまでに未知のydhL遺伝子が単離され、その塩基配列が決定された。さらに、バチルス・ズブチリス又はバチルス・アミロリケファシエンス由来のydhL遺伝子は、遺伝子のさらなるコピーが、バチルス属又はエシェリヒア属に属する各々のイノシン生産株の細胞へ導入されると、ヌクレオシド生産を増強することができることが確認された。このようにして、本発明は完成した。
【0008】
したがって、本発明は、バチルス属又はエシェリヒア属に属し、且つイノシン生産能を有する微生物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下:
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入或いは付加を含むアミノ酸配列を含み、タンパク質の活性が細菌において増強されるときに、バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を、塩基類似体、イノシン及びグアノシンから成る群から選択されるプリンに対して耐性にする活性を有するタンパク質
から成る群から選択されるバチルス・アミロリケファシエンス由来のYdhLタンパク質を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、上述のようなタンパク質をコードするDNAを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、及び
(b)配列番号1の塩基配列又は配列番号1の塩基配列から調製することができるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、タンパク質の活性が細菌において増強されるときに、バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌をプリン塩基類似体、イノシン及びグアノシンから成る群から選択されるプリンに対して耐性にする活性を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選択される、上記DNAを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、ストリンジェントな条件が60℃、1×SSC、0.1% SDSを含む、上記細菌を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、プリン生産能を有し、かつ、
(A)バチルス・アミロリケファシエンス由来のydhLによりコードされるタンパク質、
(B)バチルス・ズブチリス由来のydhLによりコードされるタンパク質、及び
(C)(A)又は(B)における上記ydhL遺伝子のいずれかのオーソログによりコードされるタンパク質
から成る群から選択されるタンパク質の活性の増強を有する、
バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、プリンがイノシン又はグアノシンである、上記細菌を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、タンパク質の活性が、タンパク質をコードする遺伝子のコピー数を増大させること、或いは細菌の染色体上の上記DNAの発現調節配列の改変により増強される、上記細菌を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、低コピー数ベクターにより形質転換が実施される、上記細菌を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、培地中で上記細菌を培養すること、上記プリンヌクレオシドを上記培地中へ分泌させること、及び上記プリンヌクレオシドを培地から回収することを含む、プリンヌクレオシドの製造方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、プリンヌクレオシドがイノシン、キサントシン又はグアノシンである、上記方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、細菌がプリンヌクレオシド生合成遺伝子の発現が増強するように改変された、上記方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、培地中で上記細菌を培養すること、プリンヌクレオシドをリン酸化してプリンヌクレオチドを生成すること、プリンヌクレオチドを上記培地中へ分泌させること、及びプリンヌクレオチドを回収することを含む、プリンヌクレオチドの製造方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、プリンヌクレオチドが5’−イノシン酸、5’−キサンチル酸又は5’−グアニル酸である、上記方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、細菌がプリンヌクレオチド生合成遺伝子の発現が増強するように改変された、上記方法を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、培地中で請求項5に記載の細菌を培養すること、キサントシンをリン酸化して5’−キサンチル酸を生成すること、5’−キサンチル酸をアミノ化して5’−グアニル酸を生成すること、及び5’−グアニル酸を回収することを含む、5’−グアニル酸の製造方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[好ましい実施形態の説明]
1.本発明のタンパク質
本発明のタンパク質は、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の欠失、
置換、挿入或いは付加を含むアミノ酸配列を含み、且つバチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を、プリン塩基類似体又はイノシン及びグアノシンのようなプリンヌクレオシドに対して耐性にする活性を有するタンパク質を包含する。
【0025】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、バチルス・アミロリケファシエンス由来のYdhLタンパク質である。このタンパク質のアミノ酸配列及びydhL遺伝子の塩基配列は、本開示までは知られていなかった。
【0026】
バチルス・ズブチリス由来のYdhLタンパク質は、プリンヌクレオチドの生合成経路に関与せず、MFS(Major Facilitator Surperfamily)(Pao, S.S., et al, Microbiol. Mol. Biol. Rev. 62 (1):1-32, (1998))及びオーソロガスな基のアラビノース排出パーミアーゼクラスター(COG)2814(Tatusov, R.L. et al, Nucleic Acids Res., 29:22-28 (2001))に属する。このファミリーに属するE.コリ タンパク質であるAraJ及びYdeAもまた、アラビノース輸送に関与している(Bost, S. et al, J. Bacteriol., 181:2185-2191 (1999))。バチルス・ズブチリスのゲノムは、ydhL遺伝子のホモログをコードする別の5個の遺伝子:ybcL、yceJ、yfhI、ytbD、ywfAを含有する。バチルス・ズブチリスのYdhLタンパク質は、388個のアミノ酸から構成される高度に疎水的なタンパク質であり、未知の機能を有する12個の推定膜貫通セグメントを含有する。YdhLタンパク質は、ydhL遺伝子によりコードされる。バチルス・ズブチリス サブスピーシーズ ズブチリス168株のydhL遺伝子(GenBankアクセッション番号CAB12399.2;GI:32468705中の番号624675〜625838)は、染色体上でydhKとydhM遺伝子との間で53.50°に位置する。
【0027】
本発明のタンパク質において変更することができる「数個の」アミノ酸の数は、タンパク質の三次元構造におけるアミノ酸残基の位置及び/又は種類に応じて異なる。数個のアミノ酸の数は、配列番号2又は4に示されるタンパク質に関して2〜40個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜5個であり得る。これは、数個のアミノ酸が互いに高度に相同であるという事実に起因しており、したがって、三次元構造又は活性は、このような変化により影響を受けない。したがって、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入或いは付加を包含するアミノ酸配列を有するタンパク質は、YdhLタンパク質の全長アミノ酸配列に関して少なくとも30〜50%、好ましくは50〜70%、最も好ましくは70〜90%の相同性を有し、またタンパク質の活性を保持するものでもよい。
【0028】
配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の相同性を有し、且つYdhLタンパク質の活性を保持するタンパク質は、本発明により包含され、最も好ましい。
【0029】
相同性の度合いを評価するためには、BLAST検索、FASTA検索及びCrustalWのような幾つかの既知の算出方法を使用することができる。
【0030】
BLAST(ベーシックローカルアラインメント検索ツール)は、プログラムblastp、blastn、blastx、megablast、tblastn及びtblastxにより使用される帰納的検索アルゴリズムであり、これらのプログラムは、Karlin、Samuel及びStephen F. Altschulの統計学的方法を使用して、それらの所見に有意性を付与する(「一般的なスコアリングスキームを使用することにより分子配列の特徴の統計学的有意性を評価する方法」. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-68 (1990)、「分子配列における多数の高スコアリングセグメントに関する用途及び統計学」. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-7 (1993))。FASTA検索方法は、W.R. Pearsonにより
記載されている(「FASTP及びFASTAによる迅速且つ高感度配列比較」, Methods in Enzymology, 183:63-98 (1990))。ClustalW方法は、Thompson J.D., Higgins D.G. and Gibson T.J.により記載されている(「CLUSTAL W:配列重み付け、位置特異的ギャップペナルティ及び重みマトリックス選択による進行性多数配列アラインメントの感度の改善」, Nucleic Acids Res. 22: 4673-4680 (1994))。
【0031】
上述のような本発明のタンパク質における変更は、通常、タンパク質の活性を維持するような保存的な変更である。置換変更は、アミノ酸配列において少なくとも一つの残基が取り除かれ、その位置に異なる残基が挿入されたものが挙げられる。上記のタンパク質において本来のアミノ酸と置換され、且つ保存的な置換として見なされるアミノ酸として、アラニンのセリン又はスレオニンへの置換;アルギニンのグルタミン、ヒスチジン又はリシンへの置換;アスパラギンのグルタミン酸、グルタミン、リシン、ヒスチジン又はアスパラギン酸への置換;アスパラギン酸のアスパラギン、グルタミン酸又はグルタミンへの置換;システインのセリン又はアラニンへの置換;グルタミンのアスパラギン、グルタミン酸、リシン、ヒスチジン、アスパラギン酸又はアルギニンへの置換;グルタミン酸のアスパラギン、グルタミン、リシン又はアスパラギン酸への置換;グリシンのプロリンへの置換;ヒスチジンのアスパラギン、リシン、グルタミン、アルギニン又はチロシンへの置換;イソロイシンのロイシン、メチオニン、バリン又はフェニルアラニンへの置換;ロイシンのイソロイシン、メチオニン、バリン又はフェニルアラニンへの置換;リシンのアスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン又はアルギニンへの置換;メチオニンのイソロイシン、ロイシン、バリン又はフェニルアラニンへの置換;フェニルアラニンのトリプトファン、チロシン、メチオニン、イソロイシン又はロイシンへの置換;セリンのスレオニン又はアラニンへの置換;スレオニンのセリン又はアラニンへの置換;トリプトファンのフェニルアラニン又はチロシンへの置換;チロシンのヒスチジン、フェニルアラニン又はトリプトファンへの置換;及びバリンのメチオニン、イソロイシン又はロイシンへの置換が挙げられる。
【0032】
本発明のタンパク質に関する「活性」は、該タンパク質を保有する細菌を、8−アザアデニン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン、6−チオグアニンのようなプリン塩基類似体に対して耐性、及び/又はイノシン及びグアノシンのようなヌクレオシドに対して耐性にする活性を意味する。
【0033】
「プリン塩基類似体及び/又はプリンヌクレオシドに対して耐性」という語句は、野生型又は親株が類似の条件下では増殖することができない濃度で、8−アザアデニン、6−メチルプリン、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン、8−アザグアニンのようなプリン塩基類似体、又はイノシン若しくはグアノシンのようなプリンヌクレオシドを含有する最小培地上で増殖すること、或いは細菌の野生型若しくは親株よりも迅速に、プリン類似体又はプリンヌクレオシドを含有する培地上で増殖することを意味する。プリン塩基類似体の上述の濃度は、8−アザアデニンに関しては300μg/mlであり、2,6−ジアミノプリンの場合では400μg/mlであり、6−メルカプトプリンに関しては400μg/mlであり、プリン塩基ヌクレオシドに関して、上述の濃度は、イノシンに関しては300μg/ml、好ましくは1,000μg/mlであり、グアノシンに関しては10μg/mlである。
【0034】
II.本発明の細菌
本発明の細菌は、タンパク質の活性を増大させることにより、プリンヌクレオシド生産が増強された細菌である。より具体的には、本発明の細菌は、細菌において本発明のタンパク質の活性を増大させることにより、プリンヌクレオシド生産が増強された細菌である。さらに具体的には、本発明の細菌は、細菌内の染色体又はプラスミド上に、ydhL遺伝子又はそのオーソログのDNAを保有する。ydhL遺伝子又はそのオーソログのDN
Aは過剰発現されて、結果として、細菌はより大量のプリンヌクレオシドを生産する能力を有する。
【0035】
ydhL遺伝子発現の増強は、ノーザンハイブリダイゼーション又はRT−PCR(Molecular cloning: Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001)により本発明の細菌におけるydhL遺伝子発現によるRNAの量を測定すること、及びそれを野生型又は非改変株の量と比較することにより確認することができる。本発明の微生物におけるydhL遺伝子の発現は、野生型又は非改変株の発現よりも多く、好ましくは野生型又は非改変株の少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、最も好ましくは少なくとも3倍増強される。
【0036】
本発明の細菌は、バチルス属又はエシェリヒア属のいずれかの属に属する細菌である。本発明で使用することができるエシェリヒア属に属する微生物の例は、エシェリヒア・コリ(E.コリ)である。本発明で使用することがバチルス属に属する微生物の例としては、バチルス・ズブチリス サブスピーシーズ ズブチリス168株(B. subtilis 168)又はバチルス・アミロリケファシエンス(B.アミロリケファシエンス)が挙げられる。
【0037】
バチルス属に属する細菌として、バチルス・リキニホルミス、バチルス・プミルス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ブレビス、バチルス・ポリミクサ、バチルス・ステアロサーモフィラスが挙げられる。
【0038】
エシェリヒア・コリのような、Neidhardtら(Neidhardt, F.C. et al., Escherichia coli and Salmonella Typhimurium, American Society for Microbiology, Washington D.C., 1208, Table 1)により報告されたエシェリヒア属に属する細菌が利用できる。エシェリヒア・コリの野生株として、K12株及びその派生株、エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC番号47076)及びW3110株(ATCC番号27325)が挙げられるが、これらに限定されない。それらの株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC, Address: P.O. Box 1549, Manassas, VA20108, United States of America)から入手可能である。
【0039】
すでに言及した特性のほかに、本発明の細菌は、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な栄養要求性、薬物耐性、薬物感受性及び薬物依存性のような他の特性を有してもよい。
【0040】
「プリンヌクレオシド」という語句は、本明細書中で使用する場合、イノシン、キサントシン、グアノシン及びアデノシンを包含し、好ましくはイノシンを包含する。
【0041】
「プリンヌクレオシド生産能」という語句は、本明細書中で使用する場合、培地中でプリンヌクレオシドを生産して、その蓄積をもたらす能力を意味する。「プリン生産能を有する」という語句は、エシェリヒア属又はバチルス属に属する微生物が、E.コリW3110及びMG1655株のようなE.コリの野生株、或いはバチルス・ズブチリス168のようなバチルス・ズブチリスの野生株よりも大量に、培地中でプリンヌクレオシドなどのプリンを生産して、その蓄積をもたらすことが可能であることを意味する。好ましくは、この語句は、微生物が、少なくとも10mg/l、より好ましくは少なくとも50mg/lの量のイノシン、キサントシン、グアノシン又は/及びアデノシンを培地中で生産して、その蓄積をもたらすことが可能であることを意味する。
【0042】
本明細書中で使用する場合、本発明のタンパク質の活性が細菌中で増強される場合、これは、細胞中のタンパク質の分子の量が増大されること、或いはタンパク質分子1個当た
りの活性が増大されることを意味する。
【0043】
「オーソロガス遺伝子」又は「オーソログ」という用語は、共通祖先種を介して関連している別の種における遺伝子(相同遺伝子)に相当するが、他の種の遺伝子と異なるように進化したある種由来の遺伝子を意味する。オーソロガス遺伝子は、同じ機能を有してもよく、或いは同じ機能を有さなくてもよい。生物体の完全ゲノムが配列決定される場合、以下の方法を用いて、オーソログを検索することができる。BLAST検索は、ある生物体由来の遺伝子を用いて実施され、他の生物体における最良のホモログを見つけ出す。次いで、第2の逆行BLAST検索は、BLAST検索の第1ラウンドで見出された他の生物体由来の最良のホモログを使用して実施され、第1の生物体における最良のホモログ又はオーソログを見つけ出す。第1ラウンドで使用される遺伝子及び第2ラウンドの結果で見出された遺伝子が一致する場合、第1の生物体由来の遺伝子及び他の生物体における最良のホモログは、オーソログである。BLAST検索のプロセスにおいて、対象の遺伝子によりコードされるタンパク質の相同性が決定される。
【0044】
本発明の目的で、オーソロガス遺伝子によりコードされるタンパク質は、同じ活性を有する相同タンパク質である。このようなオーソログに関する検索は、遺伝子及びタンパク質の配列、並びにタンパク質の活性を測定することにより実施される(例えば、図1及び実施例2を参照)。
【0045】
バチルス・アミロリケファシエンスのYdhLタンパク質をコードする遺伝子であるydhL遺伝子は、本発明の発明者等により配列決定されている(配列番号1)。バチルス・ズブチリス由来のYdhLタンパク質をコードする遺伝子であるバチルス・ズブチリス
サブスピーシーズ ズブチリス168株のydhL遺伝子は同定されている(EMBLアクセッション番号Z99107中の番号13042〜14208)(配列番号3)。バチルス・ズブチリス由来のydhL遺伝子は、染色体上でydhKとydhM遺伝子との間で53.50°に位置する。したがって、上記ydhL遺伝子は、遺伝子の塩基配列に基づいて調製されるプライマーを利用するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、White, T.J.,
et al., Trends Genet., 5, 185 (1989)を参照)により得ることができる。他の微生物由来のYdhLタンパク質をコードする遺伝子は、類似の方法で得ることができる(実施例2を参照)。
【0046】
バチルス・アミロリケファシエンスに由来するydhL遺伝子はまた、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び/又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入或いは付加を含むアミノ酸配列を有し、且つバチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を、プリン塩基類似体、イノシン及びグアノシンに対して耐性にする活性を有するタンパク質などの本発明のタンパク質をコードするDNAにより例示することができ、そのタンパク質の活性は、細菌中で増強される。
【0047】
バチルス・ズブチリスに由来するydhL遺伝子は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び/又は配列番号4に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入或いは付加を含むアミノ酸配列を有し、且つバチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌を、プリン塩基類似体、イノシン及びグアノシンに対して耐性にする活性を有するタンパク質を含む本発明のタンパク質をコードするDNAを包含する。
【0048】
上述のYdhLタンパク質と実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、例えば、特定の部位で1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が、欠失、置換、挿入又は付加されるように、例えば部位特異的変異誘発を用いて、YdhLタンパク質をコードするDNAの塩基
配列を改変することにより得ることができる。上述のように改変されるDNAは、従来既知の変異処理により得ることができる。このような処理としては、本発明のタンパク質をコードするDNAのヒドロキシルアミン処理、或いはUV照射又はN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン若しくは亜硝酸などの試薬によるDNAを含有する細菌の処理が挙げられる。
【0049】
バチルス・アミロリケファシエンスに由来するYdhLタンパク質と実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、適切な細胞において上述のような変異を有するDNAを発現させ、任意の発現した生成物の活性を調べることにより得ることができる。YdhLタンパク質と実質的に同じタンパク質をコードするDNAはまた、YdhLタンパク質をコードする変異DNAから、或いは、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含有する塩基配列を有するプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、且つYdhLタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする変異体を保有する細胞から、DNAを単離することにより得ることができる。本明細書中で言及される「ストリンジェントな条件」は、いわゆる特異的ハイブリッドが形成され、且つ非特異的ハイブリッドが形成されない条件である。任意の数値を使用することでこの条件を明確に表すことは困難である。しかしながら、例えば、ストリンジェントな条件としては、高度に相同なDNA、例えば、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%の相同性を有するDNAは互いにハイブリダイズすることが可能であるが、上記未満の相同性を有するDNAは互いにハイブリダイズすることが不可能である条件が挙げられる。あるいは、ストリンジェントな条件は、DNAが、サザンハイブリダイゼーションにおける典型的な洗浄条件に等しい塩濃度、すなわち60℃でおよそ1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDSで、ハイブリダイズすることが可能である条件により例示することができる。洗浄の持続期間は、ブロッティングに使用される膜のタイプに依存し、一般に製造業者により推奨される。例えば、ストリンジェントな条件下での、Hybond(登録商標)N+ナイロン膜(Amersham)の洗浄の推奨持続期間は、15分である。好ましくは、洗浄は、2〜3回実施することができる。
【0050】
配列番号1の塩基配列の部分配列はまた、プローブとして使用することができる。プローブは、配列番号1の塩基配列に基づいたプライマー、及び鋳型として配列番号1の塩基配列を含有するDNAフラグメントを使用するPCRにより調製することができる。約300bpの長さを有するDNAフラグメントをプローブとして使用する場合、洗浄に関するハイブリッド形成条件は、例えば50℃、2×SSC及び0.1%SDSであり得る。
【0051】
上記のすべてが、バチルス・ズブチリスに由来するYdhLタンパク質に適用可能である。
【0052】
本発明のタンパク質の活性を増強するための方法、特に細菌細胞におけるタンパク質分子の数を増大させるための方法としては、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現調節配列を変更させること、及び遺伝子のコピー数を増大させることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明のタンパク質をコードするDNAの発現調節配列を改変することは、本発明のタンパク質をコードするDNAを強力なプロモーターの制御下に置くことにより達成できる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、ラムダファージのPLプロモーターはすべて、E.コリに対する既知の強力なプロモーターである。特に、vegプロモーター、spacプロモーター、xylEプロモーターは、バチルス属にとって強力なプロモーターとして既知である。あるいは、プロモーターの活性は、例えばプロモーターの下流にある遺伝子の転写レベルを増大させるようにプロモーターへ変
異を導入することにより増強することができる(WO00/18935号)。さらに、mRNA翻訳能は、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサーへ変異を導入することにより増強することができる。例えば、開始コドンに先行する3つのヌクレオチドの種類に応じて、発現レベルにおける20倍の範囲が見出された(Gold et al., Annu. Rev. Microbiol., 35, 365-403, 1981; Hui et al., EMBO J., 3, 623-629, 1984)。
【0054】
さらに、遺伝子の転写レベルを増大させるために、エンハンサーを新たに導入してもよい。遺伝子又はプロモーターのいずれかを含有するDNAの染色体DNAへの導入は、例えば、特開平第1−215280号(1989年)に記載されている。
【0055】
あるいは、遺伝子のコピー数は、多コピーベクターへ遺伝子を挿入して、組換えDNAを形成すること、続いて微生物へ組換えDNAを導入することにより増大させることができる。エシェリヒア・コリで自己複製可能なベクターの例としては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pACYC184(pHSG及びpACYCは、Takara Bioから入手可能である)、RSF1010、pBR322、pMW219(pMWは、Nippon Geneから入手可能である)等が挙げられる。バチルス属細菌で自己複製可能であるベクターの例としては、pUB110、pC194、pE194が挙げられる。好ましくは、低コピーベクターが使用される。低コピーベクターの例としては、pSC101、pMW118、pMW119等が挙げられるが、これらに限定されない。「低コピーベクター」という用語は、細胞1個当たり最大5個のコピー数しかもたらさないベクターに関して使用される。形質転換の方法としては、当該技術分野における任意の既知の方法が挙げられる。例えば、DNAに対する細胞の透過性を増大するようにレシピエント細胞を塩化カルシウムで処理する方法がエシェリヒア・コリK−12に関して報告されており(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))、これは、本発明で使用することができる。
【0056】
遺伝子発現の増強はまた、例えば相同組換え、Mu組込み等による細菌染色体への遺伝子の多コピーの導入により達成することができる。例えば、Mu組込みの1回の操作は、遺伝子の最大3個のコピーを細菌染色体へ導入することが可能である。
【0057】
強力なプロモーター又はエンハンサーを使用する上述の方法は、遺伝子のコピー数又は発現を増大させることに基づく方法と併用することができる。
【0058】
染色体DNAの調製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドDNAの調製、DNAの消化及び連結、形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択等に関する当該技術分野で既知の方法が本発明で使用することができる。これらの方法は、Sambrook, J., and Russell D., 「Molecular Clonig A Laboratory Manual, Third Edition」,
Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載されている。
【0059】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現を増大するためにバチルス属に属する微生物を育種することに関して、遺伝子の必須領域は、主としてバチルス・ズブチリス遺伝子に関する入手可能な情報に基づいたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により得られる。例えば、トランスポーターをコードする遺伝子であると予想されるydhL遺伝子は、PCRを使用して、バチルス・ズブチリス株の染色体DNAからクローニングすることができる。これに使用される染色体DNAは、バチルス・ズブチリスの任意の他の株に由来してもよい。
【0060】
これらの変異体、改変体又は相同タンパク質が、YdhLタンパク質の機能的特性を示し、すなわちプリン塩基類似体、イノシン又はグアノシンに対する耐性を付与する限り、
本発明のタンパク質は、天然の多様性に起因して存在するYdhLタンパク質の変異体及び改変体、並びに異なる細菌中に存在するYdhLの相同タンパク質を包含する。
【0061】
本発明の細菌は、イノシンなどのプリンヌクレオシドを生産する能力を本質的に有する細菌に本発明のタンパク質をコードする上述のDNAを導入することにより得ることができる。あるいは、本発明の細菌は、該DNAをすでに保有する細菌へ、イノシンなどのプリンヌクレオシド生産能を付与することにより得ることができる。
【0062】
本発明で使用することができるバチルス属に属する親株の例は、バチルス・ズブチリスKMBS16−1株である。この株は、purA::erm変異がpurA::cat変異へ変更された、イノシン生産株バチルス・ズブチリスKMBS16株の誘導体である。ここで、バチルス・ズブチリスKMBS16株は、変異が、スクシニル−AMPシンターゼをコードするpurA遺伝子(purA::erm)、プリンリプレッサーをコードするpurR遺伝子(purR::spc)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子(deoD::kan)に導入された既知のバチルス・ズブチリスtrpC2の誘導体である(US2004−016657A号)。本発明で使用することができるバチルス属に属する他の親株としては、バチルス・ズブチリスAJ12707株(FERM P−12951)(特公昭JP6113876A2号)、バチルス・ズブチリスAJ3773株(FERM P−2555)(特公昭JP62014794A2号)、6−エトキシプリン耐性AJ13937株(FERM BP−18665)(US2004−0166575号)等が挙げられる。
【0063】
E.コリ属に属するイノシン生産株の例は、FADRaddedd(pMWKQ)である。この株は、変異が、PRPPアミドトランスフェラーゼをコードするpurF遺伝子、プリンリプレッサーをコードするpurR遺伝子、プリンヌクレオシドホスホリラーゼをコードするdeoD遺伝子、スクシニル−AMPシンターゼをコードするpurA遺伝子、アデノシンデアミナーゼをコードするadd遺伝子、6−ホスホグルコン酸デヒドラーゼをコードするedd遺伝子に導入され(WO99/03988号)、PRPPアミドトランスフェラーゼをコードするpurFKQを含有し、且つGMPに対して非感受性であるpMWKQを保有する(WO99/03988号)、既知のW3110株の誘導体である。
【0064】
さらに、例として、イノシン生合成に関与する酵素の調節を解除すること、具体的にはこのような酵素のフィードバック阻害を解除する方法(WO99/03988号)も挙げられる。イノシン生合成に関与する上述のような酵素の調節を解除するための手段としては、例えば、プリンリプレッサーの欠失(米国特許第6,284,495号)が挙げられる。プリンリプレッサーを欠失させる方法の例としては、プリンリプレッサーをコードする遺伝子(purR、GenBankアクセッション番号Z99104)を破壊することが挙げられる。
【0065】
さらに、イノシン生産能はまた、イノシン生合成から分岐し、且つ別の代謝産物を生成する反応を阻害することにより増大させることができる(WO99/03988号)。イノシン生合成から分岐し、且つ別の代謝産物を生じる反応の例としては、スクシニル−アデノシン一リン酸(AMP)シンターゼ、イノシン−グアノシンキナーゼ、6−ホスホグルコン酸デヒドラーゼ、ホスホグルコイソメラーゼ等により触媒される反応が挙げられる。スクシニル−アデノシン一リン酸(AMP)シンターゼは、purAによりコードされる(GenBankアクセッション番号Z99104)。
【0066】
さらに、イノシン生産能はまた、細胞へのイノシンの取り込みを弱めることにより増強することができる。細胞へのイノシンの取り込みは、細胞へのイノシンの取り込みに関与
する反応を阻害することにより弱めることができる。細胞へのイノシンの取り込みに関与する上述の反応の例としては、例えばヌクレオシドパーミアーゼにより触媒される反応が挙げられる。
本発明のタンパク質におけるタンパク質1分子当たりの活性を増大するために、タンパク質の構造遺伝子に変異を導入して、タンパク質の活性を増強することも可能である。遺伝子に変異を導入するためには、部位特異的変異誘発(Kramer, W. and Frits, H.J., Methods in Enzymology, 154, 350 (1987))、組換えPCR(PCR Technology, Stockton Press (1989))、DNAの特定部分の化学合成、対象の遺伝子のヒドロキシルアミン処理、UV照射又はニトロソグアニジン若しくは亜硝酸などの化学薬剤による対象の遺伝子を有する微生物株の処理等を使用することができる。
タンパク質の活性が増強される微生物は、表1に示す濃度で8−アザアデニン、又は6−メチルプリン、又は2,6−ジアミノプリン、又は6−メルカプトプリン、又は8−アザグアニン、又はイノシンを含有する最小培地中で増殖する株として選択することができる(下記を参照)。
【0067】
本発明の細菌は、プリン生合成に関与する1つ又はそれ以上の遺伝子発現を増強することによりさらに改良することができる。このような遺伝子としては、E.コリのpurレギュロンが挙げられる(Esherichia coli and Salmonella, Second Edition, Editor in Chief: F.C.Neidhardt, ASM Press, Washington D.C., 1996)。ADP及びGMPによるフィードバック阻害が解除されたPRPPアミドトランスフェラーゼをコードする変異purF遺伝子及びプリンヌクレオチド生合成系におけるリプレッサーをコードする不活性化purR遺伝子を有するイノシン生産性E.コリ株が記載されている(WO99/03988号)。
【0068】
III.プリンヌクレオシドの製造方法
本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、プリンヌクレオシドを上記細菌により生産及び分泌させる工程、並びにプリンヌクレオシドを培地から回収する工程を含む、プリンヌクレオシドの製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、イノシンを上記細菌により生産及び分泌させる工程、並びにイノシンを培地から回収する工程を含む、イノシンの製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、キサントシンを上記細菌により生産及び分泌させる工程、並びにキサントシンを培地から回収する工程を含む、キサントシンの製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、グアノシンを上記細菌により生産及び分泌させる工程、並びにグアノシンを培地から回収する工程を含む、グアノシンの製造方法を包含する。
【0069】
本発明では、培養、培地からのプリンヌクレオシドの回収及び精製等は、プリンヌクレオシドが微生物を使用して生産される従来の発酵方法に類似した様式で実施することができる。プリンヌクレオシド生産用の培地は、炭素源、窒素源、無機イオン、及び必要であれば他の有機成分を含有する典型的な培地であり得る。炭素源としては、グルコース、ラクトース、スクロース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース及びデンプンの加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトール及びソルビトールなどのアルコール、グルコン酸、フマル酸、クエン酸及びコハク酸などの有機酸等が使用できる。
【0070】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム及びリン酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を使用することができる。ビタミンB1などのビタミン類、アデニン及びRNAなどの核酸である必要物質又は酵母抽出物等が、微量有機栄養分として適切な量で含有されることが望ましい。これら以外に、必要であれば、少量のリン酸カルシウム、硫酸マグネシウム
、鉄イオン、マンガンイオン等を添加してもよい。
【0071】
培養は、好ましくは好気性条件下で16〜72時間実施され、培養中の培養温度は、30〜45℃に、またpHは、5〜8に制御される。pHは、無機酸若しくは有機酸又はアルカリ性物質並びにアンモニアガスを使用することにより調節することができる。
【0072】
培養後、細胞などの固形分は、遠心分離又は膜濾過により液体培地から除去することができ、続いて、標的プリンヌクレオシドは、イオン交換樹脂及び沈殿などの従来の方法の組合せのいずれかにより、発酵液から回収することができる。
【0073】
4.プリンヌクレオチドの製造方法
本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、所望のプリンヌクレオシドをリン酸化して、プリンヌクレオシドに対応するプリンヌクレオチドを生成する工程、細菌によりプリンヌクレオチドを上記培地へ分泌させる工程、及びプリンヌクレオチドを回収する工程を含む、プリンヌクレオチドの製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、イノシンをリン酸化して5’−イノシン酸を生成する工程、細菌により5’−イノシン酸を上記培地へ分泌させる工程、及び5’−イノシン酸を回収する工程を含む、5’−イノシン酸の製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、キサントシンをリン酸化して5’−キサンチル酸を生成する工程、細菌により5’−キサンチル酸を上記培地へ分泌させる工程、及び5’−キサンチル酸を回収する工程を含む、5’−キサンチル酸の製造方法を包含する。さらに、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、グアノシンをリン酸化して5’−グアニル酸を生成する工程、細菌により5’−グアニル酸を上記培地へ分泌させる工程、及び5’−グアニル酸を回収する工程を含む、5’−グアニル酸の製造方法を包含する。また、本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養する工程、キサントシンをリン酸化して5’−キサンチル酸を生成する工程、細菌により5’−キサンチル酸を上記培地へ分泌させる工程、5’−キサンチル酸をアミノ化して5’−グアニル酸を生成する工程、及び5’−グアニル酸を回収する工程を含む、5’−グアニル酸の製造方法を包含する。
【0074】
本発明では、培養、培地からのイノシンの回収及び精製等は、イノシンを微生物を使用して製造する従来の発酵方法に類似した様式で実施することができる。さらに、本発明では、イノシンをリン酸化する工程、細菌により培地へ分泌させる工程、及び5’−イノシン酸を回収する工程は、5’−イノシン酸のようなプリンヌクレオチドをイノシンなどのプリンヌクレオシドから製造する従来の発酵方法に類似した様式で実施することができる。
【0075】
プリンヌクレオシドのリン酸化は、種々のホスファターゼ、ヌクレオシドキナーゼ又はヌクレオシドホスホトランスフェラーゼを使用して酵素的に、或いはPOCl3等のようなリン酸化剤を使用して化学的に実施することができる。ピロリン酸塩のホスホリル基のヌクレオシドへのC−5’位選択的転移を触媒することが可能であるホスファターゼ(Mihara ら、 「モルガネラ・モルガニイ由来の変異酸ホスファターゼによるヌクレオシドのリン酸化」、Appl. Environ. Microbiol., 66:2811-2816 (2000))又はリン酸供与体としてポリリン酸(塩)、フェニルリン酸(塩)又はカルバミルリン酸(塩)を利用する酸ホスファターゼ(WO96/37603A1号)等を使用することができる。また、ホスファターゼの例として、基質としてp−ニトロフェニルリン酸塩(Mitsugi, K., et al, Agric. Biol. Chem., 28, 586-600 (1964))、無機リン酸(特公昭又は特開昭第42−1186号)又はアセチルリン酸塩(特公昭又は特開昭第61−41555号)を利用してヌクレオシドのC−2’、3’又は5’位へホスホリル基の転移を触媒することが可能なホスファターゼ等が使用することができる。ヌクレオシドキナーゼの例として、E.コリ由来
のグアノシン/イノシンキナーゼ等を使用することができる(Mori, H. ら、「エシェリヒア・コリのグアノシン−イノシンキナーゼ遺伝子のクローニング及び精製遺伝子産物の特徴付け」、J, Bacteriol. 177: 4921-4926 (1995);WO91/08286号)。ヌクレオシドホスホトランスフェラーゼの例として、Hammer-Jespersen, K.(Nucleoside catabolism, p.203-258. In A Munch-Petesen(ed.)、 「微生物におけるヌクレオチド、ヌクレオシド及び核酸塩基の代謝」、 1980, Academic Press, New York)に記載のヌクレオシドホスホトランスフェラーゼ等を使用することができる。ヌクレオシドの化学的リン酸化は、POCl3などのリン酸化剤を使用して実施することができる(Yoshikawa, K. 他、「リン酸化の研究.III.保護されていないヌクレオシドの選択的リン酸化」、Bull. Chem. Soc. Jpn. 42:3505-3508 (1969))。
【0076】
5’−キサンチル酸のアミノ化は、例えば、E.コリ由来のGMPシンテターゼを使用して酵素的に実施することができる。(Fujioら、「エシェリヒア・コリにおけるXMPアミナーゼの高レベルの発現及び5’−グアニル酸の工業生産のためのその適用」、 Biosci, Biotech. Biochem. 1997, 61:840-845;EP0251489B1号)。
【実施例】
【0077】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して、以下でより具体的に説明する。
【0078】
実施例1.バチルス・ズブチリスのydhL遺伝子のクローニング
バチルス・ズブチリス サブスピーシーズ ズブチリス168株の全長塩基配列は決定されている(Kunst et al., Nature 390, 249-256 (1997))。報告された塩基配列に基づいて、プライマーydhL_N(配列番号5)及びydhL_C(配列番号6)を合成して、PCRによってバチルス・ズブチリス168株由来のydhL遺伝子を増幅するために使用した。プライマーydhL_Nは、ydhL遺伝子の開始コドンの489〜467bp上流の配列に一致しており、その5’末端に制限酵素SalI認識部位が導入されている。プライマーydhL_Cは、ydhL遺伝子の終結コドンの58〜80bp下流の配列に相補的であり、その5’末端に制限酵素BglII認識部位が導入されている。
【0079】
バチルス・ズブチリス168株の染色体DNAは、常法により調製された。PCRは、「Perkin Elmer GeneAmp PCR System 2400」で、PfuIポリメラーゼ(Fermentas)を用いて、以下の条件下で実施した:94℃で30秒、61℃で45秒、72℃で3分を25サイクル。ydhL遺伝子およびそのプロモーターを含有する得られたPCRフラグメントを、BglI及びSalIで処理して、BamHI及びSalI酵素で予め処理した低コピー数ベクターpMW118に挿入した。このようにして、プラスミドpYDHL1が得られた。
【0080】
pYDHL1プラスミド及びベクターを使用して、標準的な方法によりE.コリTG1株(Amersham Pharmacia Biotech)を形質転換した。形質転換体は、100μg/mlのアンピシリンを有するLブロス寒天プレート上で選択した。このようにして、E.コリTG1(pYDHL1)及びTG1(pMW118)株が得られた。続いて、これらの株のプリン塩基類似体の存在下での増殖能を、段階的濃度の阻害剤を含有するM9グルコース最小寒天プレート上で決定した。プレートに、最小培地(100μg/mlのアンピシリンを補充した)中で一晩増殖させた培養液からの105〜106個の細胞をスポットした。増殖は、37℃で44時間のインキュベーション後に評価した。
【0081】
結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1からわかるように、ydhL遺伝子増幅は、2,6−ジアミノプリン、6−メルカプトプリン及び8−アザアデニンに対する細菌の耐性を増大させた。
【0084】
また、pYDHL1プラスミド及びpMW118ベクターによって、E.コリTG1 deoD gsk3株を形質転換した。E.コリTG1 deoD gsk3株は、イノシン及びグアノシンに対する耐性を調べるために使用される特別に構築された親株である。この株は、プリン分解能に起因してイノシン及びグアノシンに対して耐性である既知のTG1株(VKPM B−5357)へのファージP1媒介性形質導入を使用した、WO99/03988号に記載されるdeoD変異及びPetersen C.(J. Biol. Chem., 274, 5348-5356, 1999)により記載されるgsk3変異の連続的な導入により得られた。TG1
deoD gsk3株は、deoD変異に起因してグアノシンおよびイノシンを分解できず(WO99/03988)、gsk3変異に起因してヌクレオシドに感受性である(Petersen C.J. Biol. Chem., 274, 5348-5356,1999)。このようにして、TG1 deoD
gsk3(pYDHL1)株及びTG1 deoD gsk3(pMW118)株が得られた。続いて、これらの株のイノシン及びグアノシンの存在下での増殖能を上述のように決定した。
【0085】
結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2の結果より、ydhL遺伝子の過剰発現が、イノシンに対する高レベルの耐性及びグアノシンに対する低レベルの耐性を付与したことがわかる。したがって、ydhL遺伝子は、プリンヌクレオシドの分泌に、より具体的にはイノシンの分泌に関与すると予測することができる。
【0088】
実施例2.バチルス・アミロリケファシエンスのydhL遺伝子のクローニング
実施例1で示したデータは、バチルス・ズブチリスのydhL遺伝子(以降、ydhLBs)の過剰発現が、M9グルコース最小寒天へ同時に導入される場合に、2,6−ジアミ
ノプリン及び6−メルカプトプリンに対する耐性を細胞に付与したことを示す(表1)。この事実に基づいて、B.アミロリケファシエンス由来のydhLBs遺伝子のオーソログ(以降、ydhLBa)のクローニングを実施した。B.アミロリケファシエンスBA1(IAM1523)株の染色体DNAは、常法により調製された。染色体DNAをEcoRIで切断して、同じ酵素で予め処理したpMW118ベクターと連結させた。得られたDNAを使用して、E.コリTG1株を形質転換した。形質転換体は、400μg/mlの2,6−ジアミノプリン、400μg/mlの6−メルカプトプリン及び100μg/mlのアンピシリンを含有する最小寒天上で選択した。プラスミドDNAを形質転換体から単離して分析した。この中から、約1.6kbの最小挿入DNAフラグメントを含有するハイブリッドプラスミドpYDHL2を選択した。ydhLBs遺伝子と対比して、それは、EcoRI部位を含有しなかった。挿入フラグメントは、ユニバーサルプライマーにより配列決定し、ydhLBs遺伝子と高い相同性(90%を上回る)を有することがわかった(図1)。B.アミロリケファシエンス由来の新たな遺伝子をydhL遺伝子と称した(以降、ydhLBa遺伝子とも呼ぶ)。TG1及びTG1 deoD gsk3株へ導入される場合、pYDHL2プラスミドは、pYDHL1プラスミドと同様、それぞれプリン塩基類似体及びヌクレオシドに対する耐性を細胞に付与した。pYDHL2プラスミドは確かにydhLBa遺伝子を含有すると結論付けた。
【0089】
実施例3.E.コリ イノシン生産株によるイノシン生産に対するydhLBs及びydhLBa遺伝子増幅の影響
イノシン生産E.コリFADRaddedd(pMWKQ)株をそれぞれ、pMW18ベクター、YDHL1及びpYDHL2プラスミドで形質転換した。形質転換体は、100mg/mlのアンピシリン及び75mg/lのカナマイシンを含有するL寒天上で選択した。このようにして、FADRaddedd(pMWKQ,pMW18)株、FADRaddedd(pMWKQ,pYDHL1)株及びFADRaddedd(pMWKQ,pYDHL2)株が得られた。これらの株はそれぞれ、100mg/mlのアンピシリン及び75mg/lのカナマイシンを有するL−ブロス中で37℃で18時間培養し、得られた培養液0.3mlを、20×200mmの試験管に入れた100mg/mlのアンピシリン及び75mg/lのカナマイシンを含有する発酵培地3ml中に接種して、回転振とう機により37℃で72時間培養した。
【0090】
発酵培地の組成(g/l):
グルコース 40.0
(NH42SO4 16.0
2HPO4 0.1
MgSO4・7H2O 1.0
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
酵母抽出物 8.0
CaCO3 30.0
【0091】
グルコース及び硫酸マグネシウムは、個々に滅菌した。CaCO3は、180℃で2時間乾熱滅菌した。pHは、7.0に調節した。抗生物質は、滅菌後に培地へ導入した。
【0092】
培養後、培地中に蓄積したイノシンの量をHPLCにより定量した。培地のサンプル(500μl)を15,000rpmで5分間遠心分離して、上清をH2Oで4倍に希釈して、HPLCで分析した。
【0093】
HPLC分析に関する条件:
カラム:Luna C18(2) 250×3mm、5u(Phennomenex, USA)。緩衝液:
2%v/vC25OH;0.8%v/vトリエチルアミン;0.5%v/v酢酸(氷酢酸);pH 4.5。温度:30℃。流速:0.3ml/分。注入容量:5μl。検出:UN 250nm。
【0094】
保持時間(分):
キサントシン 13.7
イノシン 9.6
ヒポキサンチン 5.2
グアノシン 11.4
アデノシン 28.2
【0095】
結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
表3からわかるように、ydhLBs及びydhLBa遺伝子の過剰発現は、FADRaddedd(pMWKQAp)株のイノシン生産性を改善した。
【0098】
実施例4.低コピー数シャトルベクターpMWMX1へのydhLBsのクローニング
それ自身のプロモーターの制御下でydhLBs遺伝子を含有するPCRフラグメント(実施例1で得られた)をBglI及びSalIで処理して、BamHI及びSalI酵素で予め処理した低コピー数シャトルベクターpMWMX1へ挿入した。このようにして、プラスミドpYDHL3が得られた。pMWMX1ベクター(図2)は、2つの低コピー数プラスミド:pMW118及びpMX30の誘導体である。ここで、pMX30プラスミド(Rabinovich et al., Mol. Biol (Moscow), 18, 189-196, 1984)は、inc18ファミリーの宿主広範囲プラスミドであるpSM19035の欠失誘導体である(Brantl et al., Nucleic Acids Res., 18, 4783-4790)。pMW118及びpMWX30プラスミドそれぞれを、EcoRIで切断して、連結させた。このようにして、ベクターpMWMX1が得られた。
【0099】
実施例5.ydhLBa遺伝子を含有する低コピー数シャトルプラスミドpYDHL3の構築
pYDHL2プラスミドをEcoRIで部分的に切断して、単一フラグメントを得て、同じ酵素で切断したpMX30と連結させた。このようにして、ydhLBa遺伝子を含有するシャトルプラスミドpYDHL4が得られた。したがって、pYDHL4プラスミドは、ydhLBsを含有するpMWMX1ベクターのydhLBa遺伝子との置換を除いて、pYDHL3プラスミドと同等である。
【0100】
実施例6.プリン塩基類似体に対するバチルス・ズブチリス168株の耐性に対するydhLBs又はydhLBa遺伝子増幅の影響
pYDHL3、pYDHL4プラスミド及びpMWMX1ベクターを使用して、標準的な方法により野生型バチルス・ズブチリス168株を形質転換した。形質転換体は、10μg/mlのエリスロマイシンを有するLブロス寒天プレート上で選択した。このようにして、バチルス・ズブチリス168(pMWMX1)株、バチルス・ズブチリス168(pYDHL3)株及びバチルス・ズブチリス168(pYDHL4)株が得られた。続い
て、これらの株のプリン塩基類似体の存在下での増殖能を、段階的な濃度のプリン類似体を含有するM9グルコース最小寒天プレート(最小培地M9、グルコース−2%、ビタミンアッセイカザミノ酸(Difco)−0.1%、トリプトファン−100μg/ml)上で決定した。プレートに、類似体なしの寒天プレート上で一晩増殖させた培養液からの105〜106個の細胞をスポットした。増殖は、34℃で48時間のインキュベーション後に評価した。
【0101】
結果を表4に示す。
【0102】
【表4】

【0103】
表4からわかるように、ydhLBs又はydhLBa遺伝子の増幅は、8−アザグアニン、6−メチルプリン及び8−アザアデニンに対する細菌の耐性を増大した。
【0104】
実施例7:バチルス・ズブチリスイノシン生産株によるイノシン生産に対するydhLBs又はydhLBa遺伝子増幅の影響
イノシン生産バチルス・ズブチリスKMBS16−1株をpMWMX1ベクター、pYDHL3又はpYDHL4プラスミドで形質転換した。このようにして、バチルス・ズブチリスKMBS16−1(pMWMX1)株、バチルス・ズブチリスKMBS16−1(pYDHL3)株及びバチルス・ズブチリスKMBS16−1(pYDHL4)株が得られた。これらの株はそれぞれ、10mg/lのエリスロマイシンを有するLブロス中で37℃で18時間培養した。得られた培養液0.3mlを、20×200mmの試験管に入れた10mg/lのエリスロマイシンを含有するバチルス属発酵培地3mlへ接種して、回転振とう機により37℃で72時間培養した。
【0105】
発酵培地の組成:(g/l)
グルコース 80.0
KH2PO4 1.0
MgSO4 0.4
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
Mameno TN(総窒素)の1.35
(ダイズ加水分解物)
DL−メチオニン 0.3
NH4Cl 32.0
アデニン 0.1
トリプトファン 0.02
CaCO3 50.0
【0106】
培養後、培地中に蓄積したイノシンの量を、上述のようにHPLCで定量した。結果を表5に示す。
【0107】
【表5】

【0108】
表5からわかるように、ydhLBs又はydhLBa遺伝子のいずれかの増幅が、バチルス・ズブチリスKMBS16−1株のイノシン生産性を改善した。
【0109】
実施例8:B.アミロリケファシエンスydhL遺伝子の調節領域の改変
バチルス・ズブチリスydhL調節領域の改変、すなわち5’非翻訳RNA領域のGボックスにおける改変は、遺伝子の発現を増大させ得ることが既知である(Mandal, M. and Breaker, R.R., Nat. Struct. Mol. Biol., 11(1), 29-35 (2004))。したがって、ydhL遺伝子発現レベルを増強するために、同変異(CによるTの置換)を、QuickChange(登録商標)部位特異的変異誘発(Stratagene)を使用して、B.アミロリケファシエンス由来のydhL遺伝子の調節領域(遺伝子の開始点の位置「−77」)に導入した。その目的で、2つのプライマー1及び2(それぞれ、配列番号7及び8)を、B.アミロリケファシエンス由来のydhL遺伝子の調節領域のDNA配列に基づいて設計した。DNAプラスミドpYDHL2(pMW118−ydhLBA)を鋳型として使用した。全プラスミドを上述のプライマーで増幅して、ydhL遺伝子を含有する幾つかのプラスミドが得られた。これらのプラスミドは、プライマー3(配列番号9)を使用して配列決定し、所望のTからCへの置換の存在が確認された。調節領域への変異を有するB.アミロリケファシエンス由来のydhL遺伝子を含有する新たなpMW118誘導体プラスミドをpYDHL5とした。pYDHL5プラスミドは、EcoRI制限酵素で切断することにより直鎖化して、同じ制限酵素で予め直鎖化したpMX30と連結させた。このようにして、発現レベルを増強する変異を有するydhLBa遺伝子を含有するシャトルプラスミドpYDHL6が得られた。
【0110】
実施例9.B.アミロリケファシエンスイノシン生産株によるイノシン生産に対するydhLBa遺伝子の発現増強の影響
pYDHL6プラスミド及びpMWMX1シャトルベクターをそれぞれ、既知の方法によりバチルス・ズブチリス168株へ形質転換した(Spizizen, J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 44, 1072-1078 (1958))。得られたバチルス・ズブチリス(pYDHL6)株及びバチルス・ズブチリス(pMWMX1)株を、ファージE40媒介性形質導入におけるドナーとして使用して、pYDHL6及びpMWMX1プラスミドを、イノシン及びグアノシンを生産するバチルス・ズブチリスG1136A株(AJ1991、VKPM B−8994、ATCC19222)(米国特許第3,575,809号)へ導入した。バチルス・ズブチリスG1136A株は、All-Russian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)(Russia, 113545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)により、バチルス・アミロリケファシエンスとして再同定されており、アクセッション番号(V
KPM B−8994)の下で寄託されている。したがって、この株はこれ以降、バチルス・アミロリケファシエンスG1136Aと称する。ファージE40は、バチルス・ズブチリス及びB.アミロリケファシエンス細胞上で増殖することが可能なPBS1様ファージ(Takanishi, R., J. Gen. Microbiol., 31, 211-217, (1963))である。形質導入後、B.アミロリケファシエンスG1136A(pMWMX1)株及びB.アミロファシエンスG1136A(pYDHL6)株が得られた。
【0111】
これらの株はそれぞれ、10mg/lのエリスロマイシンを有するLブロス中で37℃で18時間培養した。得られた培養液0.3mlを、20×200mmの試験管に入れた10mg/lのエリスロマイシンを含有するバチルス属発酵培地3mlへ接種して、回転振とう機により37℃で72時間培養した。
【0112】
発酵培地の組成:(g/l)
グルコース 80.0
KH2PO4 1.0
MgSO4 0.4
FeSO4・7H2O 0.01
MnSO4・5H2O 0.01
NH4Cl 15.0
アデニン 0.3
総窒素(Mameno形態で) 0.8
CaCO3 25.0
【0113】
培養後、培地中に蓄積したイノシン及びグアノシンの量を、上述のようにHPLCにより定量した。結果を表6に示す。
【0114】
【表6】

【0115】
表6からわかるように、調節性変異に起因するydhLBa遺伝子の発現の増強は、B.アミロリケファシエンスG1136A株のイノシン生産性を改善した。
【0116】
本発明は、それらの好ましい実施形態を参照して詳述してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、また等価体を用いることができることは、当業者に明らかであろう。上述の文書はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】pYDHL4プラスミド中に含有されるDNAフラグメントによりコードされるB.アミロリケファシエンスYdhLタンパク質(YDHL_BA、配列番号2)及びpYDHL1プラスミド中に含有されるDNAフラグメントによりコードされるバチルス・ズブチリスYdhLタンパク質(YDHL_BS、配列番号4)のアラインメントを示す図である。記号「*」は、YDHL_BAとYDHL_BSとの間の共通アミノ酸を意味する。記号「:」は、YDHL_BAとYDHL_BSとの間の類似アミノ酸を意味する。
【図2】pMWMX1プラスミドの構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリン生産能を有し、YdhLタンパク質の活性が増強された、バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌。
【請求項2】
前記YdhLタンパク質の活性は、ydhL遺伝子のコピー数を増大させること、或いはydhL遺伝子の発現調節配列を改変することにより増強される、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
前記ydhL遺伝子は、
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、及び
(b)配列番号1の塩基配列又は該配列番号1の塩基配列から調製することができるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、タンパク質の活性が細菌において増強されたときに、バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌をプリン塩基類似体、イノシン及びグアノシンから成る群から選択されるプリンに対して耐性にする活性を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選択される、請求項1に記載の細菌。
【請求項4】
前記ストリンジェントな条件は、60℃、1×SSC、0.1% SDSを含む、請求項3に記載の細菌。
【請求項5】
前記ydhL遺伝子は、以下:
(a)配列番号3の塩基配列を含むDNA、及び
(b)配列番号1の塩基配列又は該配列番号3の塩基配列から調製することができるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、タンパク質の活性が細菌において増強されたときに、バチルス属又はエシェリヒア属に属する細菌をプリン塩基類似体、イノシン及びグアノシンから成る群から選択されるプリンに対して耐性にする活性を有するタンパク質をコードするDNA
から成る群から選択される、請求項1に記載の細菌。
【請求項6】
前記ストリンジェントな条件は、60℃、1×SSC、0.1% SDSを含む、請求項5に記載の細菌。
【請求項7】
前記プリンは、イノシン、キサントシン及びグアノシンから成る群から選択される、請求項1に記載の細菌。
【請求項8】
(a)培地中で請求項1〜7のいずれか1項に記載の細菌を培養すること、
(b)プリンヌクレオシドを該培地中へ分泌させること、及び
(c)プリンヌクレオシドを該培地から回収すること
を含む、プリンヌクレオシドの製造方法。
【請求項9】
前記プリンヌクレオシドはイノシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プリンヌクレオシドはキサントシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記プリンヌクレオシドはグアノシンである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌は、プリンヌクレオシド生合成遺伝子の発現が増強するように改変された、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
以下:
(a)培地中で請求項1〜7のいずれか1項に記載の細菌を培養すること、
(b)プリンヌクレオシドをリン酸化してプリンヌクレオチドを生成すること、
(c)該プリンヌクレオチドを該培地中へ分泌させること、及び
(d)該プリンヌクレオチドを該培地から回収すること
を含む、プリンヌクレオチドの製造方法。
【請求項14】
前記プリンヌクレオチドは、5’−イノシン酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プリンヌクレオチドは、5’−キサンチル酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記プリンヌクレオチドは、5’−グアニル酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記細菌は、プリンヌクレオチド生合成遺伝子の発現が増強するように改変された、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
以下
(a)培地中で請求項1に記載の細菌を培養すること、
(b)キサントシンをリン酸化して5’−キサンチル酸を生成すること、
(c)5’−キサンチル酸をアミノ化して5’−グアニル酸を生成すること、及び
(d)5’−グアニル酸を回収すること
を含む、5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項19】
前記細菌は、キサントシン生合成遺伝子の発現が増強するように改変された、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−530011(P2007−530011A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534531(P2006−534531)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006833
【国際公開番号】WO2005/095627
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】