説明

バー塗布装置、及びバー塗布方法

【課題】塗布スジの発生を低減することができるバー塗布装置。
【解決手段】液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすようにポンプ36を制御する制御装置40を備える。(1)0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2。(2)ΔP1=12ηqL/δu。(3)ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)。(4)q=Q/(60×ρ×W)。(但し、η:塗布液粘度[Pa・s]、q:排液路を流れる塗布液の単位幅流量[m/s]、Q:塗布液の供給量[kg/min]、ρ:塗布液密度[kg/m]、L:排液路長さ[m]、U:ウエブ速度[m/s]、a:堰の先端面の傾き(=tanθ)、h0:堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス[m]、X:ビード長さ[m]、H:排液路から先端面の開始点までの堰高さ[m]、W:排液路の幅[m]、δu:排液路のクリアランス[m]、g:重力加速度[m/s])

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバー塗布装置及びバー塗布方法に係り、特に液晶表示装置に好適な品質を有する光学フィルムを製造するための塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償フィルム等の光学性機能フィルムの製造における塗布では、塗布液を均一且つ薄層に塗布することが要求される。しかしながら、このような薄層塗布では、縦スジやストリーク故障を生じることが多く、従来から各種対策が検討されている。
【0003】
たとえば、塗布装置の一次側(ウエブ走行方向の上流側)液溜めに不規則な渦が発生するのを抑制するため、液溜めにおけるウエブの走行方向の長さを10mm以上50mm以下とすることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
バー塗布装置においては、バー断面の最大半径とバー受け部断面の円弧の曲率半径との
関係、バーホールド角等を規定することで、バー振動による段状塗布ムラや、バーとバー
支持部材との間に発生する泡による塗布スジ故障を防止することが提案されている(特許
文献2)。
【0005】
また、ウエブとバーのラップ角度を2.5〜30°にすると共に、バー断面の最大径を
Rbとし、バー支持部材のバー受け部断面の円弧の曲率半径をRhとしたときに、Rb/
Rhが0.9〜1.0の範囲とし、バー支持部材のバーホールド角を90°以上180°
以下にするバー塗布方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
ブレードコーターにおいて、ファウンテンノズルから塗布液を吹き出す前に、塗布液に
せん断力を付与して低粘度化する方法(特許文献4)、ロッドコーターにおいて、ロッド
のワイヤー間の溝に引っかかる異物や凝集物を除去するための異物除去ブラシ等をロッド
バーホルダに設ける方法(特許文献5)等が提案されている。また、支持体上に塗布膜を
形成した後、掻き取りローラにより余剰液を掻き取り必要膜厚を得る塗布方法において、
掻き取りローラ表面の乾きに起因する塗布故障を抑制するために、掻き取りローラ表面に
塗布液又は溶剤を供給する方法が提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−33702号公報
【特許文献2】特開2006−82059号公報
【特許文献3】特開平9−201563号公報
【特許文献4】特開平7−189196号公報
【特許文献5】特開平7−246358号公報
【特許文献6】特開平9−294956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1のバー塗布装置1では、図1に示すように堰2の上部では、液溜部3に過剰供給された塗布液が堰2をオーバーフローする。一方で、堰2の先端面2Aとウエブ4の間にビード5が形成される。この状態では、ウエブ4に同伴する塗布液の流れと、堰2の先端面2Aをオーバーフローする塗布液の流れが逆方向となる。そのためビード5を形成する動的接触線6、又は動的接触線6’が乱れる場合がある。この動的接触線6、又は動的接触線6’の乱れが、塗布スジの原因となっていた。ここで、動的接触線6は塗布液の供給量が5[kg/min]の動的接触線を、動的接触線6’は塗布液の供給量が12[kg/min]の動的接触線を示している。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、動的接触線の乱れによる塗布スジの発生を低減できるバー塗布装置、及びバー塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のバー塗布装置は、走行するウエブに塗布液を塗布するバーと、前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、前記バーに対して上流側に設けられた堰と、該堰は先端に先端面を備え、該先端面と前記ウエブとの間の塗布液のビードを形成し、前記バー、前記支持部材、及び前記堰により構成された液溜部に塗布液を供給する供給路と、前記液溜部に塗布液を供給するポンプと、前記液溜部に過剰供給された塗布液を、排出する排液路を備え、前記液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすように前記ポンプを制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
【0011】
(1) 0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2
(2) ΔP1=12ηqL/δu
(3) ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)
(4) q=Q/(60×ρ×W)
(但し、η:塗布液粘度[Pa・s]、q:排液路を流れる塗布液の単位幅流量[m/s]、Q:塗布液の供給量[kg/min]、ρ:塗布液密度[kg/m]、L:排液路長さ[m]、U:ウエブ速度[m/s]、a:堰の先端面の傾き(=tanθ)、h0:堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス[m]、X:ビード長さ[m]、H:排液路から先端面の開始点までの堰高さ[m]、W:排液路の幅[m]、δu:排液路のクリアランス[m]、g:重力加速度[m/s])
液溜部を構成する堰と、排液路とを備えたバー塗布装置において、上記(1)〜(4)式を満たすように塗布液の供給量を制御することにより、過剰供給された塗布液は堰をオーバーフローせずに、排液路から排出される。これにより動的接触線が乱れるのを防止することができる。また、堰の先端面とウエブとの間に確実に塗布液のビードを形成することができる。
【0012】
本発明のバー塗布装置は、前記発明において、前記排液路のクリアランスが0.1×10−3〜10×10−3[m]の範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明のバー塗布装置は、前記発明において、前記堰の先端面の水平長さが1×10−3〜30×10−3[m]の範囲であり、前記堰の先端面の傾きが1/30〜5の範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明のバー塗布装置は、前記発明において、前記排液路から先端面の開始点までの前記堰の高さが5×10−3〜50×10−3[m]の範囲であることが好ましい。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明のバー塗布方法は、走行するウエブに塗布液を塗布するバー塗布方法であって、バーを回転することで、液溜部の塗布液を走行するウエブに塗布するステップと、前記バーの上流側に設けられた堰の先端の先端面と前記ウエブとの間に塗布液のビードを形成するステップと、前記液溜部に前記塗布液を供給し、過剰供給された前記塗布液を排液路から排出するステップと、を備え、前記液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすことを特徴とする。
【0016】
(1) 0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2
(2) ΔP1=12ηqL/δu
(3) ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)
(4) q=Q/(60×ρ×W)
(但し、η:塗布液粘度[Pa・s]、q:排液路を流れる塗布液の単位幅流量[m/s]、Q:塗布液の供給量[kg/min]、ρ:塗布液密度[kg/m]、L:排液路長さ[m]、U:ウエブ速度[m/s]、a:堰の先端面の傾き(=tanθ)、h0:堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス[m]、X:ビード長さ[m]、H:排液路から先端面の開始点までの堰高さ[m]、W:排液路の幅[m]、δu:排液路のクリアランス[m]、g:重力加速度[m/s])
本発明のバー塗布方法は、前記発明において、前記排液路のクリアランスが0.1×10−3〜10×10−3[m]の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明のバー塗布方法は、前記発明において、前記堰の先端面の水平長さが1×10−3〜30×10−3[m]の範囲であり、前記堰の先端面の傾きが1/30〜5の範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明のバー塗布方法は、前記発明において、前記排液路から先端面の開始点までの前記堰の高さが5×10−3〜50×10−3[m]の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、動的接触線の乱れを防止でき、塗布スジの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のバー塗布装置の一部拡大図
【図2】本発明の実施形態に係るバー塗布装置を示す概略図
【図3】本実施形態のバー塗布装置を組み込んだ光学フィルムの製造ラインを示す概略図
【図4】排液路のクリアランスと供給量の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0022】
図2は本発明が適用された実施形態のバー塗布装置の構成を模式的に示す断面図である。図2(A)はバー塗布装置10全体の断面図であり、図2(B)は堰の先端面とウエブの部分拡大図である。
【0023】
バー塗布装置10は、走行方向に沿って連続走行するウエブ(帯状支持体)12に塗布液を塗布する装置であり、バー16を有する塗布ヘッド14と、バー16が接触するようにウエブ12を塗布面と反対側から支持するバックアップローラ18を備えている。
【0024】
塗布ヘッド14のバー16は、円柱状に形成されており、円周方向に一定間隔で溝が形成されているもの、ワイヤーが密に巻回されているもの、あるいは表面が平滑であるものの何れでもよい。また、バー16は、不図示の回転駆動手段に連結されており、ウエブ12の走行方向と同じ方向に、且つウエブ12の走行速度と略同じ速度で回転される。
【0025】
また、バー16は、ウエブ12の走行方向と反対方向に回転させてもよく、さらにはバー16の周速がウエブ12の走行速度と異なるように回転させてもよい。
【0026】
バー16は、支持部材20によって支持される。支持部材20の上部には、円弧状の溝が形成されており、この溝がバー16を回動自在に支持する。
【0027】
バー16に対してウエブ12の走行方向の上流側(すなわち、ウエブ12の進入側)に、第1ブロック22が支持部材20に対して所定の間隔で平行に設けられる。第1ブロック22と支持部材20によりスリット28が形成される。第1ブロック22の上方で、ウエブ12の走行方向の上流側に堰24が設けられる。液溜部30が支持部材20とバー16、第1ブロック22及び堰24により構成される。
【0028】
スリット28と塗布液タンク38が、ポンプ36を介して接続される。ポンプ36を制御装置40により駆動することによって、塗布液タンク38の塗布液が、スリット28を通して液溜部30に供給される。液溜部30の溜められた塗布液が、回転するバー16にピックアップされ、バー16にラップされて連続走行するウエブ12に塗布される。
【0029】
堰24は、図2に示すように、例えば、その先端部に、上流側で高く下流側で低い傾斜面を有する先端面24Aを備える。先端面24Aとウエブ12との間に塗布液のビード42が形成される。塗布液と大気との界面にビード42を形成する動的接触線44が形成される。
【0030】
バー塗布装置10は堰24と第1ブロック22で構成される排液路26を備える。排液路26が、液溜部30に過剰に供給された塗布液を外部に排出する。排出された塗布液は、回収部(不図示)により回収される。
【0031】
堰24と第1ブロック22は別部材であり、それらにより排液路26が構成されても良い。また、堰24と第1ブロック22を一体物で形成し、その一体物に貫通孔を形成することによって、排液路26を構成しても良い。
【0032】
本実施の形態では、過剰に供給された塗布液が堰24をオーバーフローせず、排液路26から排出されるよう、制御装置40によりポンプ36が制御される。これにより液溜部30に供給される塗布液の量が制御される。これにより、塗布液の動的接触線44の乱れが少なくなり、塗布スジの発生を防止することができる。なお、制御装置40による制御については後述する。
【0033】
バー16に対してウエブ12の走行方向の下流側には、第2ブロック32が支持部材20に対して所定の間隔で平行に設けられる。第2ブロック32と支持部材20によりスリット34が形成される。スリット34には、塗布液の供給ライン(不図示)が接続される。供給ラインから供給された塗布液が、バー16の乾きによる塗布故障を防止するために、バー16の下流側に供給される。これにより、バー16表面との間に塗布液ビードが形成される。塗布液の一部は塗布残液として第2ブロック32をオーバーフローして、傾斜面を流下する。
【0034】
次に、図2を参照に、本発明に係る塗布液の供給量の制御方法について説明する。本発明の塗布装置において、ダム縁部では液溜りの堰の先端面とウエブの間で気液界面を形成し、動的接触線の乱れを抑制するためには、以下の2つの条件を満たす必要がある。
(1)液溜り内の塗布液が堰の先端面の開始点の高さまで持ち上がり、ウエブ間で挟まれること、(2)液溜り内の塗布液が堰の先端面の終了点よりオーバーフローしない(溢れない)ことが、必要となる。
【0035】
供給量を決定するに際し、最初に堰の先端面の開始点における液の持つ圧力の値P2と大気圧の値P0の差であるΔPを求める。これは次式で表すことができる。このΔPは堰の先端面とウエブに挟まれる空間に満たされている液の受ける圧力損失[Pa]を意味する。
【0036】
(a) ΔP=P2−P0
さらに(a)は以下式のように変形することができる。
【0037】
(b) ΔP=(P2−P1)+(P1−P0)
ここで(P2−P1)は、排液路の入口側の圧力P1と先端面の開始点の圧力P2との差であり、液溜り堰の先端面と排液路での塗布液の持つポテンシャル[Pa]を意味する。従って、塗布液密度ρ[kg/m]、排液路から先端面の開始点までの堰高さH[m]、重力加速度g[m/s]とすると、以下の式で表すことができる。
【0038】
(c) (P2−P1)=−ρgH
ここで、P1は排液路入口部にて塗布液の持つ圧力であり、P0は大気圧であるから、(P1−P0)は塗布液が排液路を通過する際に受ける圧力損失[Pa]を表している。ΔP1(=P1−P0)は、塗布液粘度η[Pa・s]、単位幅流量q[m/s]、排液路長さL[m]、排液路のクリアランスδu[m]から、平行平板間に挟まれる流体の受ける圧力損失を求める式を用いて以下のように求められる。
【0039】
(d) ΔP1=12ηqL/δu
塗布液の供給量をQ[kg/min]、密度ρ[kg/m]とすると、一秒間に幅W[m]の排液路を流れる塗布液の単位幅流量q[m/s]は、次式となる。
【0040】
(e) q=Q/(60×ρ×W)
したがって、堰の先端面とウエブに挟まれる塗布液の受ける圧力損失△Pは次式となる。
【0041】
(f)ΔP=P2−P0=(P2−P1)+(P1−P0)=12ηqL/δu−ρgH
一方で、堰先端面においてウエブと堰先端面の間に満たされている塗布液が受ける圧力損失を堰先端面とウエブに挟まれる塗布液の受ける圧力の直接計算により求めることができる。
【0042】
堰先端面はウエブに水平方向に対して傾斜をもっている場合があるが、水平方向の微小な距離△xの区間においてはウエブと先端面は平行平板と見なせるので、堰の先端面とウエブ間に満たされる塗布液の受ける圧力損失△P[Pa]、塗布液粘度η[Pa・s]、単位幅流量q[m/s]、液溜り堰の先端面と排液路の間の微小な水平方向距離△x[m]、堰の先端面の開始点より水平方向にxの位置におけるウエブと先端面のクリアランスy(x)[m]、堰の先端面の開始点より水平方向に任意の距離x[m]とすると、次式で示される圧力損失を受ける。
【0043】
(g) ΔP=12ηqΔx/y(x)
この堰先端面においてウエブと堰先端面の間に満たされている塗布液内ではウエブに同伴される流速分布と塗布液内部の液圧により押し出そうとする流速分布があり、ウエブ速度U[m/s]とすると、単位幅流量は次式で示される。
【0044】
(h) q=(1/2)×Uy(x)
したがって、式(g)に式(h)を代入すると次式となる。
【0045】
(i) △P=12ηqΔx/y(x)=12ηΔx/y(x)×(1/2)×Uy(x)
=6ηUΔx/y(x)
堰先端面においてウエブと堰先端面の間に満たされている塗布液の圧力損失は上式の△xを水平方向に積分した形で、次式で示される圧力損失を受ける。
【0046】
【数1】

【0047】
積分対象変数がyであるため、置換積分を実施する。
【0048】
(k) y(x)=−ax+h
上式の両辺を微分すると以下の式となる。
【0049】
(l) dy=−a*dx
(m) dx=(−1/a)*dy
なお、x=0のとき、y(x)=hであり、x=Xのとき、y(x)=−aX+hとなるため、式(j)は式(n)のように置換積分され、計算することができる。
【0050】
【数2】

【0051】
本発明において、(1)液溜り内の塗布液が堰の先端面の開始点の高さまで持ち上がり、ウエブ間で挟まれることが必要となる。式(f)で与えられる圧力損失△Pが0より小さい場合、排液路における抵抗が液溜りの底面から先端面の高さまで塗布液が持ち上がるポテンシャルに対して小さいため、塗布液が堰の先端面の高さまで持ち上がらずに、ビードを形成することができない。したがって、次の不等式を満たす条件が必要になる。
【0052】
(o) 12ηqL/δu(=ΔP1)−ρgH≧ 0
また、本発明において、(2)液溜り内の塗布液が堰の先端面の終了点よりオーバーフローしない(溢れない)ことが必要となる。式(f)で求めた△Pと式(n)で求めた△P2は等価である。式(n)ではXの関数であり、Xは堰先端面の開始点よりウエブと先端面の間で液が満たされる部分の水平距離(ビード長さ)となる。
【0053】
ビード長さXが、堰先端面の水平距離以上の大きさになると、堰の先端面の出口から液が溢れてしまうことを意味する。そのため、堰の先端面の出口から液が溢れないためには、ビード長さXは堰先端面の水平距離以下でなければならない。したがって、次式を満たす必要がある。
【0054】
(p) 12ηqL/δu(=ΔP1)−ρgH≦(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)=△P2
最終的には、以下の式が導き出される。
【0055】
(q) 0≦12ηqL/δu(=ΔP1)−ρgH≦(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)=△P2
但し、q=Q/(60×ρ×W)となる。
【0056】
本実施の形態では、堰の先端部の形状、及び排液路の形状に基づいて、塗布液の供給量が決定される。そして、決定された供給量となるよう制御装置によりポンプが制御される。
【0057】
また、本実施の形態において、排液路のクリアランスδuは、0.1×10−3〜10×10−3[m]の範囲であることが好ましい。その理由は液溜り内の塗布液が堰先端面の高さまで持ち上がるためにはクリアランスが小さい方が有利であり、大きすぎると先端面の高さまで持ち上がらず、ビードを形成できないためである。ただし、クリアランス0.1×10−3[m]以下では排液路の上面および下面での平面度が影響し、幅方向に均一なクリアランスを保つことが精度上困難となる。
【0058】
また、本実施の形態において、堰の先端面の水平長さL1は1×10−3〜30×10−3[m]の範囲であり、堰の先端面の傾きaが1/30〜5(=tanθ)の範囲であることが好ましい。その理由は堰先端面の水平長さは長く、傾斜は大きいほどビード形成に有利であるためである。
【0059】
また、本実施の形態において、排液路から先端面の開始点までの前記堰の高さが5×10−3〜50×10−3[m]の範囲であることが好ましい。その理由はある一定の高さがないと液溜りを形成することによる効果が得られないためである。
【0060】
次に、本発明に係るバー塗布装置10の適用例について説明する。なお、図2で説明したバー塗布装置第と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する場合がある。図3は、本発明のバー塗布装置10を組み込んだ光学補償フィルムの製造ライン80である。光学補償フィルムの製造ライン80は、図3に示されるように、送出機82から予め配向膜形成用のポリマー層が形成された透明支持体であるウエブ12が送り出される。
【0061】
次に、ウエブ12はガイドローラ84によってガイドされてラビング処理装置86に送りこまれる。そして、ウエブ12のポリマー層には、ラビングローラ88によりラビング処理が施される。ラビングローラ88の下流には除塵機90が設けられており、ウエブ12の表面に付着した塵を取り除く。
【0062】
除塵機90の下流には本発明に係る塗布ヘッド14が設けられている。塗布ヘッド14に対し、ウエブ12の走行方向の上流及び下流側に、ウエブ12をバーにラップさせるためのガイドローラ84が設けられている。
【0063】
過剰に供給された塗布液が堰24をオーバーフローせず、排液路26から排出されるよう、制御装置40によりポンプ36が制御される。これにより液溜部30に供給される塗布液の量が制御される。動的接触線の乱れが少なくなり、塗布スジの発生を抑制することができる。
【0064】
塗布ヘッド14によりディスコネマティック液晶を含む塗布液がウエブ12に塗布される。塗布ヘッド14の下流には、乾燥ゾーン92、加熱ゾーン94が順次設けられており、ウエブ12上の塗布液が乾燥・加熱されて液晶層が形成される。更に、この下流には紫外線ランプ96が設けられており、紫外線照射により、液晶を架橋させ、所望のポリマーが形成される。これにより、光学補償フィルムが製造され、製造された光学補償フィルムは巻取機98に巻き取られる。
【0065】
このように、本発明に係るバー塗布装置10を、光学補償フィルムの液晶層の塗布(ディスコネマティック液晶を含む塗布液の塗布)に用いるので、縦スジ等のムラのない良好な面質のフィルムを製造できる。
【0066】
本発明に使用されるウエブ12としては、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティッド紙、合成紙等が包含される。プラスチックフィルムの材質は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6−ナイロン、6−ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ヘルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が使用される。またレジンコーティッド紙に用いられる樹脂としては、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれに限定されない。ウエブの厚さも特に限定されないが、0.01mm〜1.0mm程度のものが取扱い、汎用性の見地から有利である。
【0067】
本発明に用いられる塗布液は特に限定は無く、高分子化合物の水又は有機溶媒液、顔料分散液、コロイド溶液等が適用できる。特に、薄層塗布を均一且つ高精度に行うことが求められる各種光学フィルムの塗布液、例えば、液晶性ディスコティック塗布液等が好適である。また、塗布液の粘度が高い場合、塗布膜厚や塗布速度、塗布後の乾燥速度等にもよるが、ワイヤー目或いは溝の目が消えずにバー筋故障となるため、0.5Pa・s以下が望ましい。
【0068】
以上、本発明に係るバー塗布装置及び塗布方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に
示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0070】
本発明に係るバー塗布装置10を用いて、塗布液の供給量Q[kg/min]毎の、ΔP(=ΔP1−ρgH)と排液路のクリアランスδu[m]の関係と、塗布スジの発生状況を確認した。
【0071】
バー塗布装置10の排液路のクリアランスと塗布液の供給量を除く値は以下のとおりである。
【0072】
塗布液粘度:0.0012[Pa・s]、塗布液供給量Q:3.0〜10.0[kg/min]、排液路を流れる塗布液の単位幅流量:3.915〜13.05[m/s]、塗布液密度:890[kg/m]、排液路長さ:0.023[m]、ウエブ速度:0.7[m/s]、堰の先端面の傾き:0.25(=tanθ)、堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス:0.003[m]、ビード長さ:0.008[m]、排液路から先端面の開始点までの堰高さ:0.022[m]、排液路の幅:1.435[m]であった。
【0073】
このときΔP2は式(n)に従って計算するとΔP2=13[Pa]であった。
【0074】
図4に示すように、各供給量が一定である場合、排液路のクリアランスが変化するとΔPの値が大きく変化することが理解できる。式(d)ΔP1=12ηqL/δuで示されるように、クリアランスδuの変化が3乗で表れるためと考えられる。
【0075】
供給量Qを3〜10[kg/min]と変化させた場合、クリアランスδu:0.4〜0.6[mm]の範囲で、0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2の条件を満たす領域(斜線で示す領域)が表れた。この斜線領域である場合、塗布スジの発生がほとんど発生しなかった。(正しいでしょうか。)本発明において液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすようにポンプを制御する場合、動的接触線に乱れがほとんど生じないので、塗布スジが発生しないものと推測できる。
【0076】
(1) 0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2
(2) ΔP1=12ηqL/δu
(3) ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)
(4) q=Q/(60×ρ×W)
【符号の説明】
【0077】
10…バー塗布装置、12…ウエブ、14…塗布ヘッド、16…バー、18…バックアップローラ、20…支持部材、22…第1ブロック、24…堰、24A…先端面、26…排液路、28,34…スリット、30…液溜部、32…第2ブロック、34…スリット、36…ポンプ、38…塗布液タンク、40…制御装置、42…ビード、44…動的接触線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するウエブに塗布液を塗布するバーと、
前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、
前記バーに対して上流側に設けられた堰と、該堰は先端に先端面を備え、該先端面と前記ウエブとの間に塗布液のビードを形成し、
前記バー、前記支持部材、及び前記堰により構成された液溜部に塗布液を供給する供給路と、
前記液溜部に塗布液を供給するポンプと、
前記液溜部に過剰供給された塗布液を、排出する排液路を備え、
前記液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすように前記ポンプを制御する制御装置を備えたことを特徴とするバー塗布装置。
(1) 0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2
(2) ΔP1=12ηqL/δu
(3) ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)
(4) q=Q/(60×ρ×W)
(但し、η:塗布液粘度[Pa・s]、q:排液路を流れる塗布液の単位幅流量[m/s]、Q:塗布液の供給量[kg/min]、ρ:塗布液密度[kg/m]、L:排液路長さ[m]、U:ウエブ速度[m/s]、a:堰の先端面の傾き(=tanθ)、h0:堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス[m]、X:ビード長さ[m]、H:排液路から先端面の開始点までの堰高さ[m]、W:排液路の幅[m]、δu:排液路のクリアランス[m]、g:重力加速度[m/s])
【請求項2】
前記排液路のクリアランスが0.1×10−3〜10×10−3[m]の範囲である請求項1記載のバー塗布装置。
【請求項3】
前記堰の先端面の水平長さが1×10−3〜30×10−3[m]の範囲であり、前記堰の先端面の傾きが1/30〜5の範囲である請求項1又は2記載のバー塗布装置。
【請求項4】
前記排液路から先端面の開始点までの前記堰の高さが5×10−3〜50×10−3[m]の範囲である請求項1〜3の何れか1記載のバー塗布装置。
【請求項5】
走行するウエブに塗布液を塗布するバー塗布方法であって、
バーを回転することで、液溜部の塗布液を走行するウエブに塗布するステップと、
前記バーの上流側に設けられた堰の先端の先端面と前記ウエブとの間に塗布液のビードを形成するステップと、
前記液溜部に前記塗布液を供給し、過剰供給された前記塗布液を排液路から排出するステップと、を備え、
前記液溜部に供給される塗布液の供給量が、下記式(1)〜(4)を満たすことを特徴とするバー塗布方法。
(1) 0≦ΔP1-ρgH≦ΔP2
(2) ΔP1=12ηqL/δu
(3) ΔP2=(6ηU/a)×(1/(h−aX)−1/h)
(4) q=Q/(60×ρ×W)
(但し、η:塗布液粘度[Pa・s]、q:排液路を流れる塗布液の単位幅流量[m/s]、Q:塗布液の供給量[kg/min]、ρ:塗布液密度[kg/m]、L:排液路長さ[m]、U:ウエブ速度[m/s]、a:堰の先端面の傾き(=tanθ)、h0:堰の先端面の開始点とウエブとのクリアランス[m]、X:ビード長さ[m]、H:排液路から先端面の開始点までの堰高さ[m]、W:排液路の幅[m]、δu:排液路のクリアランス[m]、g:重力加速度[m/s])
【請求項6】
前記排液路のクリアランスが0.1×10−3〜10×10−3[m]の範囲である請求項5記載のバー塗布方法。
【請求項7】
前記堰の先端面の水平長さが1×10−3〜30×10−3[m]の範囲であり、前記堰の先端面の傾きが1/30〜5の範囲である請求項5又は6記載のバー塗布方法。
【請求項8】
前記排液路から先端面の開始点までの前記堰の高さが5×10−3〜50×10−3[m]の範囲である請求項5〜7の何れか1記載のバー塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−214252(P2010−214252A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61677(P2009−61677)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】