説明

バー塗布装置

【課題】塗布対象体に対して塗布液を均一に塗布し得るバー塗布装置を提供する。
【解決手段】可撓性支持体2に塗布液3を塗布するためのバー8と、バー8の下方に配設されると共にその上面とバー8との間に塗布液3を供給するブロックユニット6と、搬送されている可撓性支持体2を案内する上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bとを備え、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bの少なくとも一方は、長さ方向における中央部の直径が端部の直径よりも大きいクラウン形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布対象体に塗布液を塗布するためのバーを備えたバー塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のバー塗布装置として、特開2004−305982号公報に開示されたバー塗布装置を出願人は提案している。このバー塗布装置は、回転可能なバーと、バーを上面で支持すると共に塗布液を塗布すべき塗布対象体としての可撓性支持体の搬送方向に対してバーの上流側に塗布液を供給するスリットが形成された支持ブロックと、バーの下流側においてバーの表面に当接するドクターブレードとを備えて構成されている。また、支持ブロックにおけるバーの下方に、塗布液を排出するドレイン通路が形成されている。また、可撓性支持体は、搬送装置によって搬送されると共に、一対のガイドローラによって、バーの表面に強く押し付けられている。
【0003】
このバー塗布装置では、塗布液を排出するドレイン通路が支持ブロックに形成されているため、バーの表面に形成された螺旋状の溝内に収容された塗布液、バーの表面に付着した塗布液、およびバーの表面に同伴された塗布液の一部が、ドレイン通路に流入して回収される。また、ドレイン通路に流入せずに回収されなかった塗布液は、ドクターブレードによって、バーの表面から掻き落とされて、ドレイン通路に流れ込んで回収される。このため、バーの表面に形成された螺旋状の溝内に保持された塗布液、バーの表面に付着した塗布液、あるいはバーの表面に同伴された塗布液が、可撓性支持体の表面に転写されることを確実に防止できる。また、上記したように、可撓性支持体がガイドローラによってバーの表面に強く押し付けられるため、可撓性支持体が局所的に変形していたとしても、可撓性支持体の下面に塗布液を確実に塗布することができる。したがって、このバー塗布装置によれば、可撓性支持体の下面全体に塗膜を確実に形成することができ、かつその塗膜の厚さを所望の厚さに制御することができる。
【特許文献1】特開2004−305982号公報(第3−8頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のバー塗布装置には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、この種のバー塗布装置では、工程の高速化を図るために可撓性支持体の搬送速度を高めたときには、可撓性支持体の搬送に伴って同伴されるエアがバーと可撓性支持体との間に進入して可撓性支持体がバーから浮き上がり、バーによる塗布液の掻き落としが不十分となって塗膜の厚みが設定どおりとならなかったり、塗膜の厚みが不均一となることがある。このような事態を回避する対策として、一般的に、搬送装置に備えられているサクションローラによって可撓性支持体に加える張力を高く設定する方法が採用されているが、張力の設定が高すぎると、サクションローラにおいてスリップが発生して搬送が不安定となったり、そのスリップによって可撓性支持体にキズが生じるおそれがある、また、この方法では、過剰な張力によって可撓性支持体に変形が生じるおそれもある。
【0005】
このため、発明者らは、バーの直径を小径化することで、可撓性支持体に過剰な張力を加えることなくバーと可撓性支持体との接触部位における接触圧力を高める方法を考案している。しかしながら、記録媒体に用いられる可撓性支持体は、近年、薄膜化が進んでおり、搬送装置(サクションローラ)によって加わる張力が低めであったとしても、その幅方向の両端部に加わる張力が中央部に加わる張力よりも高くなる傾向が顕著となっている。この結果、この張力の差に起因して、バーと可撓性支持体との密着度が可撓性支持体の幅方向において不均一となる傾向がある。したがって、バーの直径を小径化して可撓性支持体に加える張力を低く設定したとしても、密着度が不均一となることに起因して、塗膜の厚みが可撓性支持体の幅方向において不均一となるおそれがあり、この点の改善が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、塗布対象体に対して塗布液を均一に塗布し得るバー塗布装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明に係るバー塗布装置は、塗布対象体に塗布液を塗布するためのバーと、前記バーの下方に配設されると共にその上面と当該バーとの間に前記塗布液を供給するブロック部と、搬送されている前記塗布対象体を案内する一対のガイドローラとを備え、前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、長さ方向における中央部の直径が端部の直径よりも大きいクラウン形状に形成されている。
【0008】
また、本発明に係るバー塗布装置は、前記一対のガイドローラのうちの前記ブロック部に対して前記塗布対象体の搬送方向の上流側に位置する上流側ガイドローラが、前記中央部の直径と前記端部の直径との差分値が0.1mm以上2.0mm以下の範囲内となる前記クラウン形状に形成されている。
【0009】
また、本発明に係るバー塗布装置は、前記一対のガイドローラのうちの前記ブロック部に対して前記塗布対象体の搬送方向の下流側に位置する下流側ガイドローラが、前記中央部の直径と前記端部の直径との差分値が0.1mm以上1.0mm以下の範囲内となる前記クラウン形状に形成されている。
【0010】
また、本発明に係るバー塗布装置は、前記一対のガイドローラが、共に前記クラウン形状に形成されている。
【0011】
さらに、本発明に係るバー塗布装置は、前記一対のガイドローラが、当該両ガイドローラの各々における前記中央部の直径と前記端部の直径との各差分値の和が0.2mm以上2.5mm以下の範囲内となるようにそれぞれ形成されている。
【0012】
また、本発明に係るバー塗布装置は、前記一対のガイドローラが、前記各差分値の和が0.7mm以上2.1mm以下の範囲内となるようにそれぞれ形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るバー塗布装置によれば、長さ方向における中央部の直径が端部の直径よりも大きいクラウン形状に一対のガイドローラの少なくとも一方を形成したことにより、両ガイドローラの間に掛け渡された塗布対象体がその幅方向の中央部において両端部よりも下側に突出するように湾曲させられるため、塗布対象体における幅方向の中央部を両端部よりも強くバーに押し付けることができる。このため、塗布対象体に加えられている張力が幅方向の中央部において両端部よりも小さいとしても、その張力が小さいことに起因する塗布対象体とバーの中央部とにおける密着度の低下分を、押し付けによる密着度の増加分で相殺させることができる。したがって、このバー塗布装置によれば、塗布対象体とバーとの密着度を塗布対象体の幅方向の全域に亘って均一にすることができる結果、塗布対象体に対して塗布液を均一に塗布することができる。
【0014】
また、本発明に係るバー塗布装置によれば、中央部の直径と端部の直径との差分値が0.1mm以上2.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に上流側ガイドローラを形成したことにより、ブロック部に対して塗布対象体の搬送方向の下流側に位置する下流側ガイドローラがクラウン形状に形成されていない場合であっても、塗布対象体に対して塗布液を均一に塗布することができる。
【0015】
また、本発明に係るバー塗布装置によれば、中央部の直径と端部の直径との差分値が0.1mm以上1.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に下流側ガイドローラを形成したことにより、塗布液を塗布した後の塗布対象体におけるシワの発生を確実に防止することができる。
【0016】
また、本発明に係るバー塗布装置によれば、一対のガイドローラを共にクラウン形状に形成したことにより、塗布対象体とバーとの密着度を塗布対象体の幅方向の全域に亘ってさらに均一にすることができるため、塗布対象体に対して塗布液を一層均一に塗布することができる。
【0017】
さらに、本発明に係るバー塗布装置によれば、各々における中央部の直径と端部の直径との各差分値の和が0.2mm以上2.5mm以下の範囲内となるように一対のガイドローラをそれぞれ形成したことにより、シワの発生を回避しつつ、厚みのムラが十分に少ない塗膜を塗布対象体に形成することができる。
【0018】
また、本発明に係るバー塗布装置によれば、各々における中央部の直径と端部の直径との各差分値の和が0.7mm以上2.1mm以下の範囲内となるように一対のガイドローラをそれぞれ形成したことにより、シワの発生を回避しつつ、厚みのムラがさらに少ない塗膜を塗布対象体に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るバー塗布装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1,2に示すバー塗布装置1は、不図示の搬送機構によって方向A(図2参照:以下、「搬送方向A」ともいう)に沿って搬送されている可撓性支持体(本発明における塗布対象体)2の表面に塗布液3を塗布して塗膜4を形成するための装置であって、ベースプレート5、ブロックユニット6、一対のサイドプレート7,7、バー8、支持機構9,9、ドクターブレード10、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11b(以下、区別しないときには「ガイドローラ11」ともいう)を備えて構成されている。
【0021】
ベースプレート5は、金属製の板体で構成されて、図1に示すように、ブロックユニット6および支持機構9,9が上面に固定されている。
【0022】
ブロックユニット6は、本発明におけるブロック部に相当し、図2に示すように、不図示のネジによって互いに一体的に連結された第1支持ブロック21、第2支持ブロック22および第3支持ブロック23を備えている。この場合、第2支持ブロック22は、第1支持ブロック21に対して搬送方向Aの上流側に配設されている。また、第3支持ブロック23は、第1支持ブロック21に対して搬送方向Aの下流側に配設されている。
【0023】
第1支持ブロック21は、図2に示すように、長手方向(図1の左右方向。幅方向でもある。)と直交する方向(搬送方向A)に沿った頂部P1の表面(上面)の断面形状が長手方向全域に亘ってV字状に形成されている。また、第1支持ブロック21の内部には、上面の最深部に開口するドレイン通路25が第1支持ブロック21の長手方向全域に亘って形成されている。このドレイン通路25は、バー8の外周面に形成された螺旋状の溝(図示せず)内に収容された塗布液3、バー8の外周面に付着した塗布液3、およびバー8の外周面に同伴された塗布液3の一部を回収して第1支持ブロック21の外部に排出するためのものであり、内部に流入した塗布液3を容易に排出し得るように、その下端部(底面)が第1支持ブロック21の幅方向中央部から幅方向の両端部に向けて徐々に下降する斜面に形成されている。
【0024】
また、第1支持ブロック21は、上面においてバー8を回転可能に支持している。具体的には、第1支持ブロック21は、上面におけるドレイン通路25を挟んで対向する上流側部位21aおよび下流側部位21bがバー8の外周面と線接触した状態でバー8を支持している。また、第1支持ブロック21の上面に載置されたバー8の回転中心Oを通過しベースプレート5と直交する平面(垂直面)から第1支持ブロック21における上流側の側面21cまでの距離L1は、図2に示すように、バー8の半径と同一に設定されている。また、同図に示すように、第1支持ブロック21の上面における断面V字状に形成された頂部P1に対して下流側に位置する部位は、第3支持ブロック23の上面と面一となる斜面に形成されている。また、第1支持ブロック21の各端面には、図3に示すように、サイドプレート7を固定するためのネジ穴34が形成されている。また、第1支持ブロック21は、加工精度を高め易いステンレス鋼によって形成されたバー8の摩耗を防止するため、ステンレス鋼に比べて柔らかい真鍮や銅などの材料で形成されている。
【0025】
第2支持ブロック22は、第1支持ブロック21と同じ長さに形成されて、長手方向の各端面が第1支持ブロック21の端面と面一となるように配設されている。また、第2支持ブロック22は、図2に示すように、下流側の側面22aのほぼ中央部分に長手方向全域に亘って凹部22eが形成されている。また、第2支持ブロック22では、下流側の側面22aにおける凹部22eの上方側の部位が、凹部22eの下方側の部位に対して、上流側の側面22b方向に均一に凹んだ状態に形成されて、溝部22fとして構成されている。この構成により、第2支持ブロック22の下流側の側面22aにおける凹部22eと第1支持ブロック21の側面21cとによって塗布液3用の流路27が第2支持ブロック22の長手方向全域に亘って形成されると共に、側面21cと溝部22fとによって塗布液3をバー8に供給するためのスリット28が形成されている。また、第2支持ブロック22には、上流側の側面22bに一端側が開口すると共に他端側が凹部22eに開口する塗布液3用の供給孔22gが、一例として第2支持ブロック22の長手方向中央部(図1参照)に形成されている。また、図2に示すように、第2支持ブロック22は、長手方向と直交する方向(搬送方向A)に沿った頂部P2の断面形状が長手方向全域に亘って三角形状に形成されている。この構成により、第2支持ブロック22の頂部P2におけるバー8側(下流側)の斜面22cおよびバー8の外周面によって塗布液3用の液溜め29が形成されている。また、第2支持ブロック22の各端面には、図3に示すように、サイドプレート7を固定するためのネジ穴35が形成されている。
【0026】
第3支持ブロック23は、第1支持ブロック21と同じ長さに形成されている。また、第3支持ブロック23は、その上面が斜面に形成されて、ドクターブレード10用の押さえ板30を固定する固定ビス31を嵌め込むためのネジ穴32が形成されている。
【0027】
一対のサイドプレート7,7は、金属材料または樹脂材料(本例では一例としてポリテトラフルオロエチレン樹脂)を用いて形成されている。各サイドプレート7には、図3に示すように、バー8を嵌め込むための断面弧状の切欠き7aと、固定ビス33を挿通させるための複数の挿通孔7bとが形成されている。また、一例として、一対のサイドプレート7,7には、ドレイン通路25の下端部近傍に連通する排出孔7cが形成されている。この構成を備えた各サイドプレート7は、同図に示すように、固定ビス33を用いて第1支持ブロック21および第2支持ブロック22の各側面に取り付けられて、流路27、スリット28および液溜め29を第1支持ブロック21および第2支持ブロック22の各端面側で閉塞する。また、各サイドプレート7,7は、ドレイン通路25については、第1支持ブロック21の各端面側において、排出孔7cを介してのみ外部と連通する状態で閉塞する。これにより、ドレイン通路25内に回収された塗布液3は、排出孔7cを介して外部に排出可能となっている。
【0028】
バー8は、直径が例えば8mmの長尺な円柱体に形成されている。また、バー8は、その外周面に螺旋状の溝(図示せず)が形成されている。この場合、バー8は、図1に示すように、その長さ方向がベースプレート5の長さ方向と一致するようにして、支持機構9によって支持されている。
【0029】
支持機構9は、一対の軸受41,41およびホルダー42,42,43,43を備えている。この場合、各軸受41,41は、図1に示すように、ベースプレート5上におけるブロックユニット6の両側に固定されると共に、一対のホルダー42,43を介してバー8の各端部と連結されている。この構成により、バー8は、第1支持ブロック21の上面に載置(支持)された状態で支持機構9によって回転自在に支持される。また、バー8は、不図示の回転機構により、可撓性支持体2の搬送方向Aに対して逆方向(図2に示す矢印Rの向き(時計回り方向))に回転駆動される。
【0030】
ドクターブレード10は、図2に示すように、固定ビス31によって第3支持ブロック23から第1支持ブロック21に掛け渡された状態で固定された押さえ板30で押さえ付けられて、第1支持ブロック21の上面における断面V字状に形成された頂部P1に対して下流側に位置する部位に取り付けられている。また、ドクターブレード10は、合成樹脂(一例としてポリエステル樹脂)で薄板状に形成されると共に、その幅(第1支持ブロック21の長手方向に沿った長さ)が各サイドプレート7,7の間隔よりも長く設定されている。また、ドクターブレード10は、バー8の外周面(表面)に付着した塗布液3およびバー8の表面に同伴されている塗布液3を掻き落とすために、その先端がバー8における下流側の外周面に接触している。
【0031】
上流側ガイドローラ11aは、図2に示すように、ブロックユニット6に対して可撓性支持体2の搬送方向Aの上流側に配設されている。また、上流側ガイドローラ11aは、図4に示すように、長さ方向(同図の左右方向)における中央部12aの直径φ1aが両端部13aの直径φ2a直径よりも大きい(太い)クラウン形状に形成されている。下流側ガイドローラ11bは、図2に示すように、ブロックユニット6に対して、搬送方向Aの下流側に配設されている。この場合、図5に示すように、下流側ガイドローラ11bも、上流側ガイドローラ11aと同様にして、長さ方向における中央部12b(中央部12aと区別しないときには「中央部12」ともいう)の直径φ1b(直径φ1aと区別しないときには「直径φ1」ともいう)が両端部13b(両端部13aと区別しないときには「両端部13」ともいう)の直径φ2bよりも大きいクラウン形状に形成されている。ここで、上流側ガイドローラ11aは、直径φ1aと直径φ2aとの差分値Da1が、下流側ガイドローラ11bにおける直径φ1bと直径φ2bとの差分値Da2(差分値Da1と区別しないときには「差分値Da」ともいう)よりも大きくなるように形成されている。一例として、上流側ガイドローラ11aは、直径φ1aおよび直径φ2aがそれぞれ75.0mmおよび74.0mm(つまり差分値Da1が1.0mm)に規定され、下流側ガイドローラ11bは、直径φ1bおよび直径φ2bがそれぞれ75.0mmおよび74.4mm(つまり差分値Da2が0.6mm)に規定されている。なお、各ガイドローラ11の直径は、30mm以上150mm以下の範囲内の任意の径に規定することができる。また、図4,5および後述する図6では、理解を容易とするために、各ガイドローラ11のクラウン形状を誇張して図示している。
【0032】
また、ガイドローラ11,11は、両者の間に掛け渡されて不図示の搬送機構によって搬送されている可撓性支持体2を案内する。また、ガイドローラ11,11は、不図示の移動機構によって移動されることにより、ブロックユニット6に対して接離動可能に構成されている。この場合、ガイドローラ11,11は、ブロックユニット6側に移動されることにより、可撓性支持体2をバー8に押し付ける。なお、ガイドローラ11,11とブロックユニット6とは、相対的に接離可能な構成であれば良いため、ガイドローラ11,11側に移動機構を配設する構成に代えて、ブロックユニット6側に移動機構を配設する構成を採用しても良いし、また双方に移動機構を配設する構成を採用することもできる。
【0033】
次に、バー塗布装置1の動作について図面を参照して説明する。このバー塗布装置1では、図2に示すように、第2支持ブロック22の供給孔22g(図1参照)からブロックユニット6内に供給された塗布液3が、流路27およびスリット28を経由して液溜め29に連続的に供給される。本例では、可撓性支持体2に塗布すべき塗布量よりも多め(例えば、塗布すべき塗布量に対して1.1倍から1.5倍)の塗布液3が供給されるように設定されているため、図2に示すように、液溜め29から溢れ出た(オーバーフローした)塗布液3は、第2支持ブロック22の頂部P2における上流側ガイドローラ11a側(上流側)の斜面22dに沿って流れ落ち、不図示の回収部によって回収される。
【0034】
また、このバー塗布装置1では、支持機構9によって支持されているバー8が、支持機構9のホルダー42,43を介して伝達される図外の回転機構の回転力によって搬送方向Aとは逆向き(図2に示す矢印Rの向き)に回転させられている。また、ガイドローラ11,11が不図示の移動機構によって移動させられる。この際に、同図に示すように、ガイドローラ11,11の移動に伴い、ガイドローラ11,11の間に掛け渡された状態で、不図示の搬送機構によって張力を加えられつつ搬送方向Aに沿って搬送されている可撓性支持体2が、バー8に押し付けられる。また、この状態では、可撓性支持体2は、その被塗布面(同図における下面)が液溜め29の塗布液3に接触するようにして搬送方向Aに搬送される。この結果、可撓性支持体2の被塗布面には、液溜め29の塗布液3が付着し、付着した塗布液3のうちの予め設定された所定量を超える分が搬送方向Aと逆方向に回転しているバー8によって液溜め29に押し戻されることで、所定の量だけが塗布(計量)される。
【0035】
ここで、直径が一様なストレート形状のガイドローラを用いているバー塗布装置においては、可撓性支持体2に加えられている張力が、可撓性支持体2の幅方向の中央部において両端部よりも小さくなるため、可撓性支持体2とバー8との密着度も、中央部において両端部よりも小さくなる。これに対して、このバー塗布装置1では、両ガイドローラ11,11が上記したクラウン形状に形成されている。この場合、図6に示すように、可撓性支持体2におけるガイドローラ11,11の間に掛け渡された部位は、その幅方向の中央部が両端部よりも下側に突出するように湾曲させられる。このため、可撓性支持体2は、幅方向の中央部において両端部よりもバー8に対して強く押し付けられる。この結果、可撓性支持体2に加えられている張力が幅方向の中央部において両端部よりも小さいとしても、その張力が小さいことに起因する可撓性支持体2とバー8の中央部とにおける密着度の低下分が、押し付けによる密着度の増加分で相殺されて、両者の密着度が幅方向の全域に亘って均一(またはほぼ均一)となる。したがって、塗布液3が可撓性支持体2の幅方向において均一に塗布される。
【0036】
なお、クラウン形状に形成したガイドローラ11,11による上記の効果を十分に発揮させるためには、可撓性支持体2がブロックユニット6によって干渉を受けないことが好ましい。このため、このバー塗布装置1では、ガイドローラ11,11を移動させる際に、ブロックユニット6の第2支持ブロック22における頂部P2と可撓性支持体2とが非接触の状態(点的または線的に接触した状態でもよい)となるように移動機構を制御する。
【0037】
一方、バー8の表面に付着した塗布液3やバー8の表面に同伴された塗布液3のうちの多くの部分は、第1支持ブロック21の上流側部位21aによって液溜め29に掻き落とされる。また、上流側部位21aで掻き落としきれなかった塗布液3の一部は、図2に示すように、第1支持ブロック21の下流側部位21bによってドレイン通路25内に掻き落とされて、ドレイン通路25を経由して各サイドプレート7,7の排出孔7cからブロックユニット6の外部に排出されて、不図示の回収部によって回収される。さらに、第1支持ブロック21の下流側部位21bによっても掻き落としきれなかった塗布液3の一部は、ドクターブレード10によって掻き落とされて、第1支持ブロック21の下流側部位21bを経由してドレイン通路25に流入して回収される。
【0038】
なお、発明者らは、ガイドローラ11の差分値Daと塗膜4の厚みのムラとの関係を解明すべく実験を行った。この実験では、差分値Da1の異なる複数の上流側ガイドローラ11a、および差分値Da2の異なる複数の下流側ガイドローラ11bを作製し、これらの組み合わせを変更して可撓性支持体2に塗膜4を形成した。この場合、乾燥後の塗膜4の厚みは約0.6μmであった。また、塗膜4の厚みを可撓性支持体2の幅方向に沿った複数の部位において測定し、その最大値と最小値の差分値Dtを算出して厚みのムラの指標とした。一方、発明者らは、差分値Daの値によっては、塗布後(塗膜4の形成後)の可撓性支持体2にシワ(折れスジ)が発生することを発見した。このため、この実験では、塗布後の可撓性支持体2にシワが発生しているか否かも併せて観察した。なお、上記の実験には、直径が8mmのバー8を用いた。また、幅が500mmで、材質がポリエチレンナフタレート(PEN)で厚みが6.2μmの可撓性支持体2を用いて、可撓性支持体2に13Kg/幅の張力を加え、さらに可撓性支持体2の走行速度(塗布速度)を150m/分に設定した。また、実験に用いた各ガイドローラ11の長さは、750mmとした。さらに、上流側ガイドローラ11aの中心軸とバー8の中心軸との水平距離、および下流側ガイドローラ11bの中心軸とバー8の中心軸との水平距離をいずれも100mmに規定した。なお、搬送方向Aにおける下流側ガイドローラ11bよりもさらに下流側の位置には、可撓性支持体2を搬送経路にガイドする不図示のガイドローラが配設されており、この実験では、このガイドローラをストレート形状とした。
【0039】
図7に示すように、上記の実験結果から次のことが明らかである。すなわち、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bのいずれか一方をクラウン形状に形成することで、塗膜4の厚みのムラが少なくなる(差分値Dtが小さくなる)。この場合、差分値Da1が0.1mm以上2.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に上流側ガイドローラ11aを形成したときには、下流側ガイドローラ11bがクラウン形状ではなくストレート形状(つまり、差分値Da2が0の形状)であっても、塗膜4の厚みのムラが十分に少なくなる。また、差分値Da2が0.1mm以上1.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に下流側ガイドローラ11bを形成することで、塗布液3を塗布した後の可撓性支持体2におけるシワの発生が防止される。また、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bの双方をクラウン形状に形成することで、塗膜4の厚みのムラがさらに少なくなる。さらに、差分値Da1および差分値Da2の和が0.2mm以上2.5mm以下の範囲内となるように上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bをそれぞれ形成することで、可撓性支持体2におけるシワの発生を回避しつつ、厚みのムラが十分に少ない(差分値Dtが0.06μm以下の)塗膜4を形成することができる。また、差分値Da1および差分値Da2の和が0.7mm以上2.1mm以下の範囲内となるように上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bをそれぞれ形成することで、可撓性支持体2におけるシワの発生を回避しつつ、厚みのムラがさらに少ない(差分値Dtが0.04μm以下の)塗膜4を形成することができる。
【0040】
このように、このバー塗布装置1によれば、長さ方向における中央部12の直径φ1が両端部13の直径φ2よりも大きいクラウン形状にガイドローラ11を形成したことにより、ガイドローラ11,11の間に掛け渡された可撓性支持体2がその幅方向の中央部において両端部よりも下側に突出するように湾曲させられるため、可撓性支持体2における幅方向の中央部を両端部よりも強くバー8に押し付けることができる。このため、可撓性支持体2に加えられている張力が幅方向の中央部において両端部よりも小さいとしても、その張力が小さいことに起因する可撓性支持体2とバー8の中央部とにおける密着度の低下分を、押し付けによる密着度の増加分で相殺させることができる。したがって、このバー塗布装置1によれば、可撓性支持体2とバー8との密着度を可撓性支持体2の幅方向の全域に亘って均一にすることができる結果、可撓性支持体2に対して塗布液3を均一に塗布することができる。
【0041】
また、このバー塗布装置1によれば、差分値Da1が0.1mm以上2.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に上流側ガイドローラ11aを形成したことにより、下流側ガイドローラ11bがクラウン形状に形成されていない場合であっても、可撓性支持体2に対して塗布液3を均一に塗布することができる。
【0042】
また、このバー塗布装置1によれば、差分値Da2が0.1mm以上1.0mm以下の範囲内となるクラウン形状に下流側ガイドローラ11bを形成したことにより、塗布液3を塗布した後の可撓性支持体2におけるシワの発生を確実に防止することができる。
【0043】
また、このバー塗布装置1によれば、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bの双方をクラウン形状に形成したことにより、可撓性支持体2とバー8との密着度を可撓性支持体2の幅方向の全域に亘ってさらに均一にすることができるため、可撓性支持体2に対して塗布液3を一層均一に塗布することができる。
【0044】
さらに、このバー塗布装置1によれば、差分値Da1および差分値Da2の和が0.2mm以上2.5mm以下の範囲内となるように上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bをそれぞれ形成したことにより、可撓性支持体2におけるシワの発生を回避しつつ、厚みのムラが十分に少ない塗膜4を形成することができる。
【0045】
また、このバー塗布装置1によれば、差分値Da1および差分値Da2の和が0.7mm以上2.1mm以下の範囲内となるように上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bをそれぞれ形成したことにより、可撓性支持体2におけるシワの発生を回避しつつ、厚みのムラがさらに少ない塗膜4を形成することができる。
【0046】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、上流側ガイドローラ11aおよび下流側ガイドローラ11bの双方をクラウン形状に形成した例について上記したが、いずれか一方のみをクラウン形状に形成した構成を採用することもできる。この構成においても、可撓性支持体2とバー8との密着度を可撓性支持体2の幅方向において均一化することができるため、塗布液3を可撓性支持体2の幅方向において均一に塗布することができる。また、直径が8mmのバー8を用いる例について上記したが、任意の直径のバー8を用いることができ、この構成においても、上記した効果と同様の効果を実現することができる。
【0047】
また、材質がPENで厚みが6.2μmの可撓性支持体2に塗布液3を塗布する例について上記したが、任意の材質で任意の厚みの可撓性支持体2にバー塗布装置1を用いて塗膜4を形成することができる。この場合においても上記した効果と同様の効果を実現することができるが、厚みが7μm以下の可撓性支持体2に対して塗布液3を塗布する際に、上記の効果が特に顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】バー塗布装置1の正面図である。
【図2】バー塗布装置1の搬送方向Aに沿った断面図である。
【図3】ブロックユニット6へのサイドプレート7の取付け構造を示す分解斜視図である。
【図4】上流側ガイドローラ11aの平面図である。
【図5】下流側ガイドローラ11bの平面図である。
【図6】上流側ガイドローラ11aに掛け渡されている可撓性支持体2の断面図である。
【図7】差分値Da1,Da2と、塗膜4の厚みムラおよび可撓性支持体2のシワの発生状態との関係についての実験結果を示す実験結果図である。
【符号の説明】
【0049】
1 バー塗布装置
2 可撓性支持体
3 塗布液
6 ブロックユニット
8 バー
11a 上流側ガイドローラ
11b 下流側ガイドローラ
12a,12b 中央部
13a,13b 両端部
φ1a,φ1b,φ2a,φ2b 直径
Da1,Da2 差分値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象体に塗布液を塗布するためのバーと、前記バーの下方に配設されると共にその上面と当該バーとの間に前記塗布液を供給するブロック部と、搬送されている前記塗布対象体を案内する一対のガイドローラとを備え、
前記一対のガイドローラの少なくとも一方は、長さ方向における中央部の直径が端部の直径よりも大きいクラウン形状に形成されているバー塗布装置。
【請求項2】
前記一対のガイドローラのうちの前記ブロック部に対して前記塗布対象体の搬送方向の上流側に位置する上流側ガイドローラは、前記中央部の直径と前記端部の直径との差分値が0.1mm以上2.0mm以下の範囲内となる前記クラウン形状に形成されている請求項1記載のバー塗布装置。
【請求項3】
前記一対のガイドローラのうちの前記ブロック部に対して前記塗布対象体の搬送方向の下流側に位置する下流側ガイドローラは、前記中央部の直径と前記端部の直径との差分値が0.1mm以上1.0mm以下の範囲内となる前記クラウン形状に形成されている請求項1または2記載のバー塗布装置。
【請求項4】
前記一対のガイドローラは、共に前記クラウン形状に形成されている請求項1から3のいずれかに記載のバー塗布装置。
【請求項5】
前記一対のガイドローラは、当該両ガイドローラの各々における前記中央部の直径と前記端部の直径との各差分値の和が0.2mm以上2.5mm以下の範囲内となるようにそれぞれ形成されている請求項4記載のバー塗布装置。
【請求項6】
前記一対のガイドローラは、前記各差分値の和が0.7mm以上2.1mm以下の範囲内となるようにそれぞれ形成されている請求項5記載のバー塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−168200(P2008−168200A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2967(P2007−2967)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】