説明

パイル編織物およびその製造方法

【課題】極細繊維からなるパイル編織物で、そのパイル部がソフトタッチでしかもパイル抜けしにくい摩耗性および立毛性に優れたパイル編織物を容易に提供する。
【解決手段】少なくともパイル部が単繊維繊度1.1デシテックス以下のケン縮加工された合成繊維からなる編織物であって、かつ該編織物の根本が弾性高分子物質で固定されていることを特徴とするパイル編織物および該パイル編織物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面タッチがソフトで、パイル抜けしにくい摩耗性と、立毛性に優れたパイル編織物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からパイルを有する編物や織物(以下、編物および織物を総称して「編織物」という。)、すなわちパイル編織物が衣料用途や家具用途などに用いられている。これらパイル編織物は、パイル部の繊維の繊度によってその風合いやタッチを変化させることが出来る。しかし、パイル部が太い繊維からなるパイル編織物は、繊維が太くてコシがあるため、パイルが垂直方向に立毛しやすいが、パイル部が極細繊維からなるパイル編織物は、繊維が細いことで、腰がないため、容易にパイル倒れしやすく、パイルに方向性が発生し、また、乱れやすいという欠点があった。そのため、パイル部が極細繊維からなるパイル編織物においては、表面に細い繊維の倒伏による光沢が出現し、さらにそれが乱れて、表面外観の悪いパイル編織物しか得られなかった。
【0003】
従来、パイル倒れしにくくするために、すなわち立毛性向上のために、パイル部に紡糸巻き取り速度6000m/分で紡糸されたポリエステル繊維を用いたり(公開平3−59143号公報)、ケン縮加工糸とトルクを有しないマルチフィラメント糸との混繊されてなる複合糸を用いる手段(実公平6−27672号公報)が提案されている。しかし、このような手段は、極細繊維の表面タッチを損なう方向であり、パイル部が極細繊維からなるパイル編織物に対しては有効でない。
【0004】
一方、極細繊維を用いたパイル編織物においては、逆にパイルの方向性を出しやすいライティング効果を出す手段(公開昭59−106566号公報)があり、立毛性を抑制する方向で、極細繊維の立毛性は困難とされてきた。そのため、我々は鋭意検討を行い、極細繊維をパイルとする編織物において、多芯型複合繊維を用いて、極細化する前に、弾性高分子物質を付与せしためた手段を用いたパイル編織物を開発した(特開2005−82947号公報)。しかし、立毛性は大幅に改善されたものの、パイル面はぬめり感による、ソフトタッチ感が不足し、パイル抜けしやすいという課題が残されていた。ぬめり感は極細繊維の物理的要因であり、パイル抜けは、弾性高分子物質を付与した後に極細繊維化により空隙が発生して、極細繊維であるパイルが抜けやすく摩耗性が悪い欠点があった。パイル抜けを防止し、摩耗性を改善するために、極細繊維化した後で樹脂加工を行うと風合いが硬く、極細繊維の特徴を失う品位が問題が発生した。
【特許文献1】特開平3−59143号公報
【特許文献2】実公平6−27672号公報
【特許文献3】特開昭59−106566号公報
【特許文献4】特開2005−82947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、極細繊維からなるパイル編物において、ソフトタッチでパイル抜けしにくい摩耗性と、立毛性に優れたパイル編織物とその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような構成を採用するものである。すなわち、「少なくともパイル部が単繊維繊度1.1デシテックス以下のケン縮加工された合成繊維からなるパイル編織物であって、かつ、該編織物のパイル部の根元が弾性高分子物質で固定されていることを特徴とするパイル編織物」である。
【0007】
前記弾性高分子物質は、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
また、パイルの長さが5mm以下であることが好ましい。そして、前記弾性高分子物質の含有量が、編織物全重量に対して5〜20重量%であることが好ましい。
【0008】
さらに本発明の製造方法は次のような手段を採用するものである。すなわち、「ケン縮加工された多芯型複合繊維を用いて接結した二重接結構造の編織物の該接結部根元部に、弾性高分子物質を付与し、その後に該接結部をカットし、次に該カットされた接結部の多芯型複合繊維を極細化することを特徴とするパイル編織物」である。
【0009】
前記ケン縮加工された多芯型複合繊維は、海島型複合繊維および割繊型複合繊維から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、該ケン縮加工された多芯型複合繊維の、伸縮復元率が20〜40%であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記極細化が、海成分除去するための減量処理または、分割処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極細繊維からなるパイル編織物で、そのパイル部がソフトタッチでしかもパイル抜けしにくい摩耗性および、立毛性に優れたパイル編織物を容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の特徴は、パイル編織物を二重接結構造の編織物から製造することと、接結部(パイル糸)をケン縮加工された多芯型複合繊維で構成することと、カット前の二重接結構造の編織物、つまりケン縮加工された多芯型複合繊維の状態で弾性高分子物質を該接結部の根元部に付与、固定して、すなわち多芯型複合繊維の根元部をしっかりと接着固定しておいてから、該二重接結部をカットして、しかる後、パイル部となった多芯型複合繊維を極細化処理することにある。
【0013】
すなわち、先に極細化して極細繊維状態にあるパイルに、弾性高分子物質を付与すると、製造工程上でパイル部の極細繊維は容易に倒伏し固定化されてしまう。しかし、該パイルがまだ極細化されていない状態の、仮撚加工を行った多芯型複合繊維であると繊維径が太く、ケン縮状態があるため、しっかりした状態の間に、弾性高分子物質を塗布、含浸して固定しすることができ、パイルのケン縮性を保持したまま、直立性状態で維持することができる。かかる優れたケン縮性および直立性を維持したままで、極細化すると、パイルそのものの直立性は確実に保持される。また、ケン縮構造のため、パイル抜けがしにくくなって摩耗性が改善され、かつ、ケン縮による極細繊維のぬめり感がなくなり、ソフト感に優れた極細繊維からなるパイル編織物が得られたのである。
【0014】
以下、本発明についてその製造方法と共に、詳細に説明する。
【0015】
まず、二重接結構造の編織物を製造する。本発明でいう二重接結構造の編織物とは、上布と下布が接結部(パイル糸)で結合されており、その上布と下布が編組織または織組織で形成されたものである。編物においては、ダブルラッセル編機などで製編して得られ、織物では、レピア織機などで製織して得られるが、本発明においてはこのような二重接結構造を有する編物または織物であれば、その製法に制約は受けない。
【0016】
本発明において、二重接結構造の編織物の接結部(パイル糸)を構成する繊維は、ケン縮加工された多芯型複合繊維を用いる。
【0017】
まず、その多芯型複合繊維とその極細繊維化方法について具体的に説明する。多芯型複合繊維には海島型複合繊維および割繊型複合繊維から選ばれた少なくとも1種を使用することができる。海島型複合繊維においては、海成分が可染性タイプのポリエステルで、島成分がポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのレギュラーポリエステルまたはポリアミドからなるものがあり、アルカリ処理で海成分(可染性タイプのポリエステル)を溶解除去することでレギュラーポリエステルまたはポリアミドの極細繊維を得ることができる。さらに島成分がポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのレギュラーポリエステルの場合は、海成分(可染性タイプのポリエステル)の溶解性をアップするために、あらかじめpH3以下で温度120℃以上の熱水で処理してから、その後にアルカリ処理すると、海成分(可染性のポリエステルの溶解除去しやすい。また海島型複合繊維の組み合わせとして、海成分がポリスチレン共重合体で、島成分がポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミドなどにおいては、トリクロロエチレン液中で処理して海成分(ポリスチレン共重合体)を溶解除去して、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミドの極細繊維を得ることができる。一方、割繊型複合繊維においては、ポリエステルとポリアミドからなり、アルカリ処理と揉み処理などの物理的処理とで分割するか、アルカリ処理してからベンジルアルコール処理することで、分割して極細繊維を得ることができる。
【0018】
得られた極細繊維の太さは、1.1dtex以下であることが必要である。しかし、より細い程、本発明の効果が顕著であることから、0.5〜0.1dtexがより好ましい。
【0019】
次に、多芯型複合繊維すなわち極細繊維化する前の状態でのケン縮加工について説明する。
【0020】
このような多芯型複合繊維のケン縮加工の方法は仮撚法、押し込み法、擦過法、ギアー法、ニットデニット法など公知の方法を採用することができ、手段およびその加工条件には特に制約を受けるものではない。
【0021】
本発明の製造方法においては、極細化する前の多芯型複合繊維に、ケン縮加工することが重要である。さらにケン縮特性として伸縮復元率が20〜50%であることが好ましい。伸縮復元率が20%未満になると、最終製品のパイルがストレート状態となり、ぬめり感が目立ち、パイル抜けしやすくなる。伸縮復元率が40%以上を超えるとパイル抜けしにくくなるが、パイルの立毛性が減少することで、ボリューム感が不足し、パイルの状態が不均一となり高級感にやや欠ける製品となる。さらに、伸縮復元率が30〜45%では、本発明効果がより発揮できる。
【0022】
なお、伸縮復元率は以下の方法で求めた、ケン縮性を表わす数値である。すなわち、(0.11g×デシテックス)の張力をかけてかせ長40cm、巻き数10回のかせを作る。このかせをガーゼに包み、90℃×20分の熱水処理を行い、その後、12時間室温で乾燥する。次に、かせに荷重A(0.0022g×デシテックス×2×巻き数)をかけ、さらに荷重B(0.11g/デシテックス×2×巻き数)を加えて20℃の水中に入れ、2分間放置後、かせの長さLを測定する。その後、荷重Bを取り除き、2分間放置後、かせの長さL1を測定する。以下の式で伸縮復元率(%)を算出する。
伸縮復元率(%)=(L−L1)/L×100
L:荷重A(0.0022g×デシテックス×2×巻き数)をかけ、さらに荷重B(0.11g/デシテックス×2×巻き数)をかけたときの長さ
L1:荷重Bを取り除き、荷重Aのみの状態での長さ
本発明のパイル編織物のパイル長さは、立毛性からは5mm以下が好ましい。長くなりすぎると極細繊維は、立毛しにくくなる。したがって、二重接結構造を有する編織物を製編・製織する際のパイル部の長さは10mm以下とすることが好ましく、そうすれば後の工程で中心をカットするとパイル編織物とした際に5mm以下のパイル長さとなる。
【0023】
二重接結構造を有する編織物の上布および下布に使用する繊維、すなわちパイル編織物の地糸となる繊維は特に制約されない。該繊維については、着色の面から、極細繊維と同成分が好ましく、繊度については、物性面を重視するなら太め、風合い面を重視するなら細めが良い。
【0024】
また、本発明のパイル編織物のパイル密度については、使用繊維の太さや編組織又は織組織により異なるが、製編又は製織上、パイル密度より大きくすることが望ましい。たとえば、極細繊維0.2デシテックスを1本とした場合、パイル密度が15万本/cm以上が好ましい。パイル密度は大きいほど好ましいが、編機または織機と糸使いでの打ち込み本数限界で決まる。
【0025】
次に、この二重接結構造を有する編織物に弾性高分子物質を付与するが、その前に熱処理などで編織物を収縮させることが好ましい。収縮によりパイル密度を大きくなり、パイル倒れ防止に効果があるからである。
【0026】
上記二重接結構造を有する編織物または熱処理した二重接結構造を有する編織物に弾性高分子物質を付与する。ここで、弾性高分子物質とは、弾性を有する高分子物質であって、具体的にはポリウレタン樹脂の他、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂などがある。ポリウレタン樹脂を使用する場合、溶剤系ポリウレタン樹脂ではなく、水分散型ポリウレタンを使用すると、環境に与える影響を少なくでき、好ましい。これらの弾性高分子物質は一種類でも、複数種を併用することもできる。
【0027】
弾性高分子物質の付与は立毛性向上のため、すなわちパイル倒れ防止が大きな目的である。特に接結部の根元部に付与することが本発明において重要となる。接結部の根元部分への付与手段としては含浸法または塗布法などが挙げられる。含浸法においてはあらかじめ、ポリビニールアルコールなど容易に除去できる樹脂などをパイル部に含浸させ、その後に弾性高分子物質を付与すると接結部の根元部に多く付着して、根元を固めるのに有効となる。
【0028】
なお、根元部とは、接結部(パイル糸)の上布および下布に近い部分をいう。
【0029】
塗布法においては、二重接結編織物の上布と下布の両面から弾性高分子物質を塗布することにより、パイル糸の根元部を確実に塗布、固定することができる。塗布するための加工機はダイレクトコーテイング機、グラビア機などがある。
【0030】
弾性高分子物質を付与する量は、二重接結構造を有する編織物に対して、少なくとも5重量%以上とすることが好ましい。付与量が多い方がパイルの直立性に有効であるが、あまり多くなると極細繊維の表面感、タッチが損なわれる。よって5重量%〜20重量%がより好ましい。前記付与量で付与すれば、結果的に、弾性高分子物質がパイル編織物に対して5重量%〜20重量%含有することになる。
【0031】
次に弾性高分子物質を付与した後に、二重接結構造を有する編織物の接結部(パイル糸)をカットする、つまり接結部(パイル糸)の中心をカットすることによって、表面にパイル部(カットされた接合部)を有する2枚のパイル編織物を得ることができる。なお、カットする位置を中心からずらしてもよく、その場合はパイルの長さの異なるパイル編織物を2枚得ることが出来る。カットする手段はスライス機などで行う。
【0032】
そして次に、得られたパイル編織物のパイル部の繊維(以下、パイル繊維)を極細化処理する。パイル繊維が海島型複合繊維の場合、海成分を除去して、パイル部が極細繊維からなる編織物を得ることができる。さらに詳しく説明すると、海成分が可染性タイプのポリエステルなら高温のアルカリ液で、ポリスチレンならばトリクレン浴中で、海成分を除去して極細繊維を得る。
【0033】
また、パイル繊維がポリエステルとポリアミドからなる割繊型繊維の場合、アルカリ処理と揉み処理やウオータージェットパンチ等の物理的処理などで分割して細いポリエステルとポリアミド繊維を得る。
【0034】
このようにして得られたパイル編織物は、表面のパイル部が極細繊維からなり、パイル根元部分が弾性高分子物質で固定されたパイル編織物となる。
【0035】
その後、染色および仕上げ加工を行う。染色法は風合いの面から液流染色機で行うことが効果的であり、染色乾燥後に整毛処理や揉み加工などを行うと風合いだけでなく、立毛性にも有効である。
【0036】
このようにして得られた本発明のパイル編織物は、表面タッチがソフトで、パイル抜けしにくく、耐摩耗性と立毛性に優れたものである。
【実施例】
【0037】
本発明を具体的に説明する。
【0038】
なお、以下の実施例、比較例でいう、ぬめり感とは、パイル面での官能評価であり、ぬめり感が少ないほどソフトタッチであることを表現している。
【0039】
また、立毛性とは、パイルの外観状態であり、パイル編織物の長さ方向に対して一定方向にブラッシングした場合とその逆方向にブラッシングしたときの色相差または光沢差が少ないものを立毛性良好と判定し、色相差および光沢差が認められるものを不良と判定した。
【0040】
耐摩耗性を示すパイル抜けおよび毛羽落ちは以下の試験法で評価したものである。
【0041】
[パイル抜けおよび毛羽落ち]
試験機:ユニバーサル形摩耗試験機(平面法)
条件:研磨紙 エメリーペーパー#800
摩耗速度 125往復/分
試験布の回転速度 1回/100往復
往復距離2.54cm
摩耗回 500回
押し圧加重 0.227kg
判定:
パイル抜けについては摩耗後の試験布の摩耗部分の外観判定で5段階の判定サンプルを作成して評価した。
5級:パイル抜け全くなし。
4級:ややパイル抜けしている。(摩耗されている面積の約1/4の面積の割合でパイル抜けしている)
3級:パイル抜けしている。(摩耗されている面積の約半分の面積の割合でパイル抜けしている)
2級:かなりパイル抜けしている。(摩耗されている面積の約3/4の面積の割合でパイル抜けしている)
1級:パイル抜けが著しい(摩耗されている部分すべてがパイル抜けしている)
毛羽落ちについては摩耗後の試験布の摩耗部分の回りにパイル抜けした毛羽状態を外観判定で5段階の判定サンプルを作成し評価した。
5級:毛羽落ち全くなし。
4級:毛羽落ちがやや認められる。
3級:毛羽落ちが認められる。
2級:かなり毛羽落ちが認められる。
1級:毛羽落ちが著しく認められる。
【0042】
[伸縮復元率]
伸縮復元率は以下の方法で求めた。
【0043】
まず、(0.11g×デシテックス)の張力をかけてかせ長40cm、巻き数10回のかせを作った。このかせガーゼに包み、90℃×20分の熱水処理を行い、その後12時間室温で乾燥した。次に、かせに荷重A(0.0022g×デシテックス×2×巻き数)をかけ、さらに荷重B(0.11g/デシテックス×2×巻き数)を加えて20℃の水中に入れ、2分間放置後、かせの長さLを測定した。その後、荷重Bを取り除き、2分間放置後、かせの長さL1を測定した。以下の式で算出した値を伸縮復元率(%)とした。
伸縮復元率(%)=(L−L1)/L×100
L:荷重A(0.0022g×デシテックス×2×巻き数)をかけ、さらに荷重B(0.11g/デシテックス×2×巻き数)をかけたときの長さ
L1:荷重Bを取り除き、荷重Aのみの状態での長さ
<実施例1>
海成分がカチオン可染タイプのポリエステル(5ナトリウムスルホイソフタル酸4.8モル%共重合したポリエチレンテレフタレート)で、島成分がポリエチレンテレフタレートからなる(海成分20重量%:島成分80重量%で、島本数8本、またその島成分の断面が円形である)90デシテックス36フィラメント海島型複合繊維を以下の仮撚条件で、仮撚加工を行い、伸縮縮復元率33%のケン縮加工された海島型複合繊維を得た。
仮撚機:1ヒーターピン方式仮撚機
仮撚速度:80m/分
撚数:S方向 3000T/m
ヒーター温度:180℃
次に、パイル糸に上記で得られたケン縮加工された海島型複合繊維を使用し、90デシテックス36デシテックスのブレリア加工糸(2ヒーターのピン方式仮撚)を地糸としてダブルラッセル編機(22ゲージ)で釜間4mm(接結部の長さ:パイルの長さに相当)の条件で編成した。
【0044】
次に、この編成品を、ポリビニールアルコール13重量%含有水溶液中を通して、ポリビニールアルコールを固形分で編成品に対して23重量%付与した。乾燥後の編成品をポリマージオールとしてポリヘキサメチレンカーボネートグリコールとポリネオペンチルアジペートの70:30混合物、ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、鎖伸長剤としてエチレングリコールを用いて作製したポリウレタン樹脂12重量%含有ジメチルホルムアミド溶液中に浸積した後、マングルで絞ってポリウレタンを編物生地に選択的に付与し、この直後水中に導いてポリウレタンを凝固して、パイル糸を固定した。
【0045】
次いで、熱水中でポリビニルアルコールおよびジメチルホルムアミドを洗浄し、除去した。この処理により、固形分として編成品重量に対して11重量%のポリウレタンを含有する編成品を得た。
【0046】
次に、この編成品の接結部(パイル糸の中央)をスライスして、パイル部が海島型複合繊維である有毛編成品を得た。この得られた有毛編成品のパイル部の表面をサンドペーパーでバフィングした後に、液流染色機((株)日阪製作所製サーキュラーラピッド染色機)を用いて、以下の条件で処理して海島型複合繊維の海成分を除去した。
【0047】
すなわち、マレイン酸1g/Lを添加したpH2.5酸性水溶液中で130℃30分の処理した後、水洗し、苛性ソーダ6重量%含有水溶液で90℃30分間、アルカリ処理して海成分(カチオン可染タイプのポリエステル)を溶解除去した。
【0048】
得られた編成品は0.25デシテックスの極細ポリエチレンテレフタレート繊維からなるパイルを有する編成品であり、この編成品を、引き続き、同じ液流染色機を用いて分散染料で茶色に染色した。その後染色機から取り出し、柔軟剤:ベビナーS783(丸菱油化(株)製)、および、帯電防止剤:シルスタット1173(三洋化成工業(株)製)をそれぞれ3重量%含有する処理液に浸漬して、マングルで絞って、これをタンブラ加工機で95℃45分処理して乾燥した。
【0049】
得られた製品のパイル長は約1.8mmで、表面タッチがソフトで、パイル抜けしにくい摩耗性と立毛性に優れたパイル編物製品を得ることができた。
【0050】
<比較例1>
海成分がカチオン可染タイプのポリエステル(5ナトリウムスルホイソフタル酸4.8モル%共重合したポリエチレンテレフタレート)で、島成分がポリエチレンテレフタレートからなる(海成分20:島成分80で、島本数8本)、ケン縮加工していない90デシテックス36フィラメント海島型複合繊維をパイル糸に、90デシテックス36デシテックスブレリア加工糸(2ヒータのピン仮撚)をグランドとしてダブルラッセル編機で釜間4mm(接結部の長さ:パイルの長さに相当)の条件で編成した。 その後は、実施例1と同様に処理してパイル編物製品を得た。
【0051】
すなわち、ケン縮加工を海島型複合繊維に施していない以外は実施例1と同様にして編成品を得た。
【0052】
得られた製品のパイル長は約1.8mmで、立毛性および反発性は良好であったが、ぬめり感があり、ややパイル抜けしやすく、摩耗性が劣る傾向であった。
【0053】
<比較例2>
比較例1と同様にケン縮加工していない海島型複合繊維を用い、同様にダブルラッセル編機で同一条件で編成した。
【0054】
次いで比較例1と異なり、ポリビニールアルコール処理およびポリウレタン処理なしで、編成直後に、編成品の接結部(パイルを形成する部分)の中央をスライスして、ポリウレタンを含有しないパイル部が海島型複合繊維である有毛編成品を得た。
【0055】
この得られた有毛編成品を液流染色機((株)日阪製作所製サーキュラーラピッド染色機)を用いて、実施例1と同様に処理して海成分を除去した。得られた編成品は0.25デシテックスの極細ポリエチレンテレフタレート繊維からなるパイルを有する編成品であった。
【0056】
得られた編成品をさらに実施例1と同様に同液流染色機を用いて分散染料で茶色に染色処理した。
【0057】
得られた製品は、光沢があり、パイルが倒伏して、かつ、方向性がある表面品位の悪いものであった。さらに、ぬめり感が極めて強く、パイル抜けが多く、摩耗性の悪いものであった。
のであった。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともパイル部が単繊維繊度1.1デシテックス以下のケン縮加工された合成繊維からなるパイル編織物であって、かつ、該編織物のパイル部の根元が弾性高分子物質で固定されていることを特徴とするパイル編織物。
【請求項2】
前記弾性高分子物質が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のパイル編織物。
【請求項3】
パイルの長さが5mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のパイル編織物。
【請求項4】
前記弾性高分子物質の含有量が、編織物全重量に対して5〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパイル編織物。
【請求項5】
ケン縮加工された多芯型複合繊維を用いて接結した二重接結構造の編織物の接結部根元部に、弾性高分子物質を付与し、その後に該接結部をカットし、次に該カットされた接結部の多芯型複合繊維を極細化することを特徴とするパイル編織物の製造方法。
【請求項6】
前記ケン縮加工された多芯型複合繊維が、海島型複合繊維および割繊型複合繊維から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のパイル編織物の製造方法。
【請求項7】
前記ケン縮加工された多芯型複合繊維の伸縮復元率が20〜50%であることを特徴とする請求項5または6に記載のパイル編織物の製造方法。
【請求項8】
前記極細化が、海成分除去するための減量処理または分割処理であることを特徴とする請求項6または7に記載のパイル編織物の製造方法。

【公開番号】特開2008−240182(P2008−240182A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80975(P2007−80975)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】