説明

パケット中継方法及びゲートウェイ装置

【課題】セッション制御処理を代行する場合に、1つの通信フローに対して複数のセッションを割り当てることにより複数の通信クラスを利用可能とすることができるパケット中継方法及びゲートウェイ装置を得る。
【解決手段】既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間のパケット通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置を備えたネットワークシステムにおけるパケット中継方法において、既存端末間の単一の通信フローに対して優先クラスの異なる複数の通信路を確立し、既存端末間の通信パケットの優先度を識別し、識別されたパケットの優先度に応じて中継する通信路を振り分ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間のパケット通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置を備えたネットワークシステムにおけるパケット中継方法及びゲートウェイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
元来、ベストエフォートを基本とするIP(インターネットプロトコル)ネットワーク上において、セッションの概念を導入し通信帯域等のQoS(Quality of Service)を保証するネットワークが構築されている。このようなネットワークに接続するため、あるいはセッション制御による恩恵を受けるためには、各端末はセッション制御のためのプロトコルをサポートする必要があるが、既存の全ての端末においてこのセッション制御プロトコルに対応することが困難である。このため、端末とネットワークの間に存在し、端末とネットワークの間におけるパケットの中継を行うゲートウェイ装置において、ネットワークとの間のセッション制御処理を代行する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/051594号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゲートウェイ装置において、セッション制御処理を代行する場合、既存端末間の1つの通信フローに対しネットワーク内の1つのセッションを割り当てる。このため、従来のセッション制御代行方式では、単一の通信フローの全てのパケットはセッション制御時にゲートウェイ装置よりネットワークに申告されたある単一の通信クラスとしてネットワーク内で扱われるため、単一のフローに対して複数の通信クラスを利用することができないという問題があった。
【0005】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、セッション制御処理を代行する場合に、1つの通信フローに対して複数のセッションを割り当てることにより複数の通信クラスを利用可能とすることができるパケット中継方法及びゲートウェイ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るパケット中継方法は、既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間のパケット通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置を備えたネットワークシステムにおけるパケット中継方法において、既存端末間の単一の通信フローに対して優先クラスの異なる複数の通信路を確立し、既存端末間の通信パケットの優先度を識別し、識別されたパケットの優先度に応じて中継する通信路を振り分けることを特徴とする。
【0007】
また、この発明に係るゲートウェイ装置は、既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間の通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置であって、パケットの中継・振り分け処理を行うパケット中継・振り分け処理部と、前記パケット中継・振り分け処理部により中継されるパケットの優先度を識別する優先度識別部と、前記呼制御ネットワークとの間の呼び制御処理を代行する制御部とを備え、前記制御部は、既存端末間の単一の通信フローに対して優先クラスの異なる複数の通信路を確立し、前記優先度識別部による既存端末間の通信パケットの優先度を識別し、識別されたパケットの優先度に応じて中継する通信路を振り分けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、セッション制御処理を代行する場合に、1つの通信フローに対して複数のセッションを割り当てることにより複数の通信クラスを利用可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係るネットワークシステムの構成を示す図である。
【図2】図1に示されたネットワークシステムにおけるゲートウェイ装置の構成を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1において既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係るネットワークシステムの構成を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2において既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示す図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係るネットワークシステムの構成を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3において既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示す図である。
【図8】この発明の実施の形態4において既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るネットワークシステムの構成を示す図である。図1において、ゲートウェイ装置1及び2は、呼制御を伴わない既存のIPネットワークであるユーザネットワーク101及び102内の既存端末11及び12と、SIP(Session Initiation Protocol)による呼制御・呼管理を伴い複数の優先クラスを有する呼制御ネットワーク100との間に存在し、既存端末11と12との間の通信時に呼制御処理を代行するようになされている。なお、10は呼制御ネットワーク100に接続されたSIPサーバを示す。
【0011】
図2は、図1に示されたネットワークシステムにおけるゲートウェイ装置の構成を示すものである。例えば、ゲートウェイ装置1は、ゲートウェイ装置外部とのパケットの送受信及び2つのネットワーク間のパケットの中継・トラフィックの監視及び振り分け処理を行うパケット中継・振り分け処理部21、パケット中継・振り分け処理部21において中継されるパケットの優先度を識別する優先度識別部22、既存端末11に代わり呼制御ネットワークとの間のセッション制御処理を代行するセッション制御部23及び既存端末11,12間の通信においてセッション制御部23によりセッション制御を行う対象となる通信フローの条件及びセッション制御のためのパラメータを保持するセッション情報テーブル24を含む。なお、ゲートウェイ装置2もゲートウェイ装置1と同様に構成される。
【0012】
次に動作について説明する。既存端末11から既存端末12に対し通信を開始する場合の動作について図3に従って説明する。図3は、既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示すものである。このとき、ゲートウェイ装置1のセッション情報テーブル24には、既存端末11,12間の当該通信フローに対して、優先クラスの異なる2つのセッション制御パラメータが保持されているとする。
【0013】
まず、既存端末11は、既存端末12宛に当該通信フローの開始を表す通信開始パケットを送信する(ステップ301)。ゲートウェイ装置1は、パケット中継・振り分け処理部21において既存端末11からの通信開始パケットを受信すると、当該パケットを保留し、これをセッション制御部23に通知する。セッション制御部23では、受信した通信開始パケットから送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、プロトコル、送信元ポート番号、宛先ポート番号等を抽出し、セッション情報テーブル24より対応する2つの通信クラスの異なるセッション制御パラメータを得る(ステップ302)。セッション制御部23は、ステップ302において得られたパラメータに対応する2つの呼接続要求であるINVITEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10に送信する(ステップ303,304)。このとき、ステップ303により確立する通信路はステップ304により確立する通信路より高い優先クラスを持つものとする。
【0014】
セッション制御部23により呼制御ネットワーク100上に2つの通信路を確立すると、保留していた通信開始パケットの中継処理を再開し(ステップ305)、その後の既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットをパケット中継・振り分け処理部21において中継処理する(ステップ306)。このとき、既存端末11から既存端末12宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ307)、高優先のパケットをステップ303により確立した通信路へ振り分け(ステップ308)、低優先のパケットをステップ304により確立した通信路へと振り分ける(ステップ309)。例えば、TV電話サービスのトラフィックの場合、音声パケットを高優先側へ、映像パケットを低優先側へ振り分けることが考えられる。
【0015】
同様に、ゲートウェイ装置2においても、既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットの中継処理を行う(ステップ306)。このとき、既存端末12から既存端末11宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ307)、高優先のパケットをステップ303により確立した通信路ヘ振り分け(ステップ308)、低優先度のパケットをステップ304により確立した通信路へと振り分ける(ステップ309)。
【0016】
既存端末11,12間の当該通信フローが終了すると、ゲートウェイ装置1のパケット中継・振り分け処理部21はそれを検出し(ステップ310)、セッション制御部23に通知する。セッション制御部23は、ステップ303及び304において確立した通信路を切断するための呼切断要求であるBYEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10に送信する(ステップ311,312)。これにより、セッションの切断が行われる。なお、図3中、100 Tryingと200 OKは、試行中とリクエストの受け入れの応答コードを示す。
【0017】
以上のように、既存端末間における通信の開始・終了を検出し、中継装置においてセッション制御を代行する際に、優先クラスの異なる複数の通信路を確立し既存端末間のパケットをその優先度に応じてそれぞれの通信路に振り分けることにより、単一の通信フローに対して複数の異なる優先クラスを活用することが可能となる。また、これにより、単一の通信フローを単一の高い優先クラスのみに割り当てた場合と比較し、ネットワーク内において高い優先クラスのトラフィック量を削減することが可能となる。
【0018】
これにより、TV電話サービスの場合には、ネットワークの混雑時に映像はパケットロスや遅延により乱れるが、音声は安定して通信可能となること、また、音声パケットのみを高優先側に流すためネットワーク内において高優先クラスのトラフィク量を削減する効果が期待できる。
【0019】
また、TV電話サービス以外の例として、映像通信においてスケーラブルCODEC(COder DECoder)を適用する場合が考えられる。この場合、最低レート分のパケットを高優先側に、最低レートを超える高レート分のパケットを低優先側に振り分ける。これにより、ネットワークの混雑時にも最低レート分の映像品質を保証しつつ、ネットワークが混在していない場合にはより高品質の映像通信を期待できる。
【0020】
上記実施の形態では、セッション制御プロトコルとしてSIPを用いた場合を示したが、H.323,MEGACOといった同様に、IPネットワーク上でセッション制御・管理ができるものであればよい。
【0021】
また、上記実施の形態では、同一ネットワーク内において複数の異なる通信クラスのセッションを利用したが、各セッションは物理的に別のネットワーク上に確立してもよい。
【0022】
また、上記実施の形態における既存端末間の通信として、TCP(Transmission Control Protocol)やUDP(User Datagram Protocol)の場合が考えられる。TCPの場合には、SYNパケットにより新規TCPコネクションによる新規の通信フロー開始を識別し、FINパケットやRSTパケットにより当該フローの終了を識別することができる。また、UDPの場合には送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、送信元ポート番号、宛先ポート番号より新規の通信フローの開始を識別し、一定時間当該通信フローのパケットがないことで終了を識別することができる。他のプロトコルにおいても同様に、既存端末の通信の開始・終了がセッション制御を代行するゲートウェイ装置において認識できるものであればよい。
【0023】
さらに、上記実施の形態では、単一の通信フローに対して2つの異なる通信クラスのセッションを対応付けたが、3つ以上の異なる通信クラスのセッションに対してもパケットの優先度識別においてそれぞれの通信クラスに対応するよう識別し、それに応じてパケットを振り分けることで、同様に適用可能である。
【0024】
実施の形態2.
以上の実施の形態1では、異なる通信クラスの全てにセッション制御が必要なネットワークを対象としたものであるが、次に、セッション制御が必要なネットワークと不要なネットワークを組み合わせた場合の実施の形態を示す。すなわち、この実施の形態2では、振り分けられる通信路として、呼制御の伴うネットワーク上の通信路と呼制御の伴わないネットワーク上の通信路とが組み合わせられ、ゲートウェイ装置のセッション制御部23により、高優先のパケットを呼制御の伴うネットワーク上の通信路に振り分け、低優先のパケットを呼制御の伴わないネットワーク上の通信路に振り分ける制御について説明する。
【0025】
図4は、この発明の実施の形態2におけるネットワークシステムの構成を示すものである。図4において、図1に示す実施の形態1の構成と同一部分は同一符号を付してその説明は省略する。新たな符号として、400はインターネットのようなベストエフォート型の呼制御を伴わないネットワークを示す。
【0026】
次に動作について説明する。既存端末11から既存端末12に対し通信を開始する場合の動作について図5に従って説明する。図5は、既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示すものである。このとき、ゲートウェイ装置1及び2は、図2に示す構成を備え、ゲートウェイ装置1のセッション情報テーブル24には、既存端末11,12間の当該通信フローに対して、対応するセッション制御パラメータが保持されているとする。
【0027】
まず、既存端末11は、既存端末12宛に当該通信フローの開始を表す通信開始パケットを送信する(ステップ501)。ゲートウェイ装置1は、パケット中継・振り分け処理部21において既存端末11からの通信開始パケットを受信すると当該パケットを保留し、これをセッション制御部23に通知する。セッション制御部23では、受信した通信開始パケットから送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、プロトコル、送信元ポート番号、宛先ポート番号等を抽出し、セッション情報テーブル24より対応するセッション制御パラメータを得る(ステップ502)。セッション制御部23は、ステップ502において得られたパラメータに対応する呼接続要求であるINVITEメッセージを生成し、SIPサーバ10に送信する(ステップ503)。このとき、ステップ503により確立する通信路は、品質の保証された優先クラスを持つものとする。
【0028】
セッション制御部23により呼制御ネットワーク100上に通信路を確立すると、保留していた通信開始パケットの中継処理を再開し(ステップ504)、その後の既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットをパケット中継・振り分け処理部21において中継処理する(ステップ505)。このとき、既存端末11から既存端末12宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ506)、高優先のパケットをステップ503により呼制御ネットワーク100上に確立した通信路へ振り分け(ステップ507)、低優先のパケットをベストエフォート型ネットワーク400へと振り分ける(ステップ508)。例えば、TV電話サービスのトラフィックの場合、音声パケットを高優先として呼制御ネットワーク100へ、映像パケットを低優先としてベストエフォート型ネットワーク400へ振り分けることが考えられる。
【0029】
同様に、ゲートウェイ装置2においても、既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットの中継処理を行う(ステップ505)。このとき、既存端末12から既存端末11宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ506)、高優先のパケットをステップ503により呼制御ネットワーク100上に確立した通信路へ振り分け(ステップ507)、低優先度のパケットをベストエフォート型ネットワーク400へと振り分ける(ステップ508)。
【0030】
既存端末11,12間の当該通信フローが終了すると、ゲートウェイ装置1のパケット中継・振り分け処理部21はそれを検出し(ステップ509)、セッション制御部23に通知する。セッション制御部23は、ステップ503において確立した通信路を切断するための呼切断要求であるBYEメッセージを生成し(ステップ510)、SIPサーバ10に送信する。これにより、呼制御ネットワーク100上に確立したセッションの切断が行われる。
【0031】
以上のように、セッション制御が必要なネットワークと不要なネットワークに同時に接続された場合に、既存端末間における通信の開始・終了を検出し中継装置においてセッション制御を代行する際に、品質の保証された通信路を確立し既存端末間のパケットをその優先度に応じてそれぞれのネットワークに振り分けることにより、当該通信フローに対して品質保証型のネットワークとベストエフォート型のネットワークを同時に活用することが可能となる。また、これにより、当該通信フローを全て品質保証型のネットワークのみに振り分ける場合と比較し、品質保証型のネットワークへのトラフィック量を削減することが可能となる。
【0032】
これにより、上記TV電話サービスの場合には、ネットワークの混雑時に映像はパケットロスや遅延により乱れるが、音声は安定して通信可能となること、また、音声パケットのみを品質保証型ネットワークに流すためネットワーク内において品質保証型のトラフィク量を削減する効果が期待できる。
【0033】
なお、上記実施の形態では、品質保証型とベストエフォート型のネットワークとして物理的に異なるネットワークが存在することとしたが、同一ネットワーク内において論理的にこの2つのネットワークが存在してもよい。
【0034】
実施の形態3.
この実施の形態3では、送信側ゲートウェイ装置で、通信路毎に異なるNAPT(Network Address Port Translation)によるアドレス変換を行い、受信側ゲートウェイ装置において全ての通信路を経由したパケットを同一の通信フローのパケットに認識されるよう書き換える実施の形態について説明する。
【0035】
図6は、この発明の実施の形態3におけるネットワークシステムの構成を示すものである。図6において、図1に示す実施の形態1の構成と同一部分は同一符号を付してその説明は省略する。新たな符号として、600は呼制御ネットワーク100と同様にSIPによる呼制御・呼管理を伴い複数の優先クラスを有する呼制御ネットワーク、60は呼制御ネットワーク600に接続されたSIPサーバを示す。ここで、ユーザネットワーク101,102内のIPアドレスはプライベートアドレスであり、外部との通信時にはゲートウェイ装置1,2においてNAPTによるアドレス変換処理が行われるものとする。
【0036】
次に動作について説明する。既存端末11から既存端末12に対し通信を開始する場合の動作について図7に従って説明する。図7は、既存端末11,12間で通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示すものである。このとき、ゲートウェイ装置1及び2は、図2に示す構成を備え、ゲートウェイ装置1のセッション情報テーブル24には、既存端末11,12間の当該通信フローに対して、2つの異なる呼制御ネットワーク上のセッション制御パラメータが保持されているとする。
【0037】
まず、既存端末11は、既存端末12宛に当該通信フローの開始を表す通信開始パケットを送信する(ステップ701)。ゲートウェイ装置1は、パケット中継・振り分け処理部21において既存端末11からの通信開始パケットを受信すると、当該パケットを保留し、これをセッション制御部23に通知する。セッション制御部23では、受信した通信開始パケットから送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、プロトコル、送信元ポート番号、宛先ポート番号等を抽出し、セッション情報テーブル24より対応する異なる呼制御ネットワーク上のセッション制御パラメータを得る(ステップ702)。セッション制御部23は、ステップ702において得られたパラメータに対応する2つの呼接続要求であるINVITEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10,60に送信する(ステップ703,704)。このとき、2つのINVITEメッセージを関連付けるため、INVITEメッセージのSDP(Session Description Protocol)内に識別のためのパラメータを含める。
【0038】
セッション制御部23により呼制御ネットワーク100,600上に2つの通信路を確立すると、保留していた通信開始パケットの中継処理を再開し(ステップ705)、その後の既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットをパケット中継・振り分け処理部21において中継処理する(ステップ706)。既存端末11から既存端末12宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ707)、ステップ703,704により確立した通信路へと振り分ける(ステップ708,709)。このとき、ゲートウェイ装置1ではNAPT処理により通信路へ送信するパケットの送信元IPアドレスをそれぞれ呼制御ネットワーク100,600上でのゲートウェイ装置1のIPアドレスに置き換えて中継を行う。
【0039】
ステップ708,709において、呼制御ネットワーク100,600上の通信路からパケットを受信したゲートウェイ装置2は、端末12に割り当てたポート番号宛のパケットをNAPT変換後,端末12宛に転送する。このとき、ステップ708における通信路からのパケットは宛先IPアドレス、ポート番号を対応する端末12のIPアドレス、ポート番号に書き換える。また、ステップ709における通信路からのパケットは宛先IPアドレス、ポート番号を対応する端末12のIPアドレス、ポート番号に、さらに送信元IPアドレス、ポート番号をステップ708における通信路でのゲートウェイ装置1の送信元IPアドレス、送信元ポート番号に書き換える。ステップ708における通信路の送信元IPアドレス、ポート番号は、ステップ703における呼制御要求時のINVITEメッセージのSDP内の値から取得した値を用いる。これにより、端末12では、当該フローのパケットはステップ708における通信路の送信元IPアドレス、送信元ポート番号からのパケットとして認識される。
【0040】
同様に、ゲートウェイ装置2においても、既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットの中継処理を行う(ステップ706)。既存端末12から既存端末11宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの優先度の識別を行い(ステップ707)、ステップ703,704により確立した通信路へと振り分ける(ステップ708,709)。このとき、ゲートウェイ装置2ではNAPT処理によりステップ708,709による通信路へ送信するパケットの送信元IPアドレスをそれぞれ呼制御ネットワーク100,600上でのゲートウェイ装置2のIPアドレスに置き換えて中継を行う。呼制御ネットワーク100,600上の通信路からパケットを受信したゲートウェイ装置1の処理に関してもゲートウェイ装置2と同様である。
【0041】
既存端末11,12間の当該通信フローが終了すると、ゲートウェイ装置1のパケット中継・振り分け処理部21はそれを検出し(ステップ711)、セッション制御部23に通知する。セッション制御部23は、ステップ703及び704において確立した通信路を切断するための呼切断要求であるBYEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10,60に送信する(ステップ712,713)。これにより、セッションの切断が行われる。
【0042】
以上のように、既存端末間における通信の開始・終了を検出し中継装置においてセッション制御を代行する際に、複数の異なるネットワーク上に通信路を確立しNAPT変換により異なるIPアドレス、ポート番号間の通信路を用いる場合にも、受信側の中継装置において端末で単一の通信フローと認識されるよう変換を行うことにより、単一の通信フローに対して複数の異なるネットワークを活用することが可能となる。
【0043】
なお、上記実施の形態では、物理的に異なる2つの呼制御ネットワーク上で異なるIPアドレスを使用する場合を示したが、同一のネットワーク上で複数のIPアドレスを用いてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、ゲートウェイ装置においてNAPT変換が行われる場合を示したが、同一通信フローに対する2つの呼を関連付けられればよく、呼制御ネットワーク内においてNAPT変換が行われ同一のセッション確立先に対してセッション毎に送信元のIPアドレス、ポート番号が変わる場合も同様に、適用可能である。
【0045】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4におけるネットワークシステムの構成は、図1及び図2に示す実施の形態1と同様である。この実施の形態4では、セッション制御部23により、既存端末間の中継パケットのTCPヘッダ中にACKビットが設定されている場合に、中継パケットのデータ部を削除したTCPヘッダのみからなるパケットを遅延の少ない通信路へ転送する実施の形態について説明する。
【0046】
次に動作について説明する。既存端末11から既存端末12に対しTCP通信を開始する場合の動作について図8に従って説明する。図8は、既存端末11,12間でTCP通信を行う場合のネットワークの構成要素に関するメッセージシーケンスを示すものである。このとき、ゲートウェイ装置1のセッション情報テーブル24には、既存端末11,12間の当該通信フローに対して、優先クラスの異なる2つのセッション制御パラメータが保持されているとする。
【0047】
まず、既存端末11は、既存端末12宛に当該TCPコネクションの開始を表すSYNパケットを送信する(ステップ801)。ゲートウェイ装置1は、パケット中継・振り分け処理部21において既存端末11からのSYNパケットを受信すると、当該パケットを保留し、これをセッション制御部23に通知する。セッション制御部23では、受信したSYNパケットから送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、プロトコル、送信元ポート番号、宛先ポート番号等を抽出し、セッション情報テーブル24より対応する2つの通信クラスの異なるセッション制御パラメータを得る(ステップ802)。セッション制御部23は、ステップ802において得られたパラメータに対応する2つの呼接続要求であるINVITEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10に送信する(ステップ803,804)。このとき、ステップ803により確立する通信路の遅延はステップ804により確立する通信路の遅延より小さいものとする。
【0048】
セッション制御部23により呼制御ネットワーク100上に2つの通信路を確立すると、保留していた通信開始パケットの中継処理を再開し(ステップ805)、その後の既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットをパケット中継・振り分け処理部21において中継処理する(ステップ806)。このとき、既存端末11から既存端末12宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの識別を行い(ステップ807)、TCPヘッダ中にACK(ACKnowledgement)ビットが設定されている場合には、中継パケットのデータ部を削除したTCPヘッダのみからなるパケットをステップ803により確立した通信路へ転送し(ステップ808)、元の中継パケットをステップ804により確立した通信路へ転送する(ステップ809)。
【0049】
同様に、ゲートウェイ装置2においても、既存端末11,12間の当該通信フローにおけるパケットの中継処理を行う(ステップ806)。このとき、既存端末12から既存端末11宛のパケットは、優先度識別部22により中継パケットの識別を行い(ステップ807)、TCPヘッダ中にACKビットが設定されている場合には、中継パケットのデータ部を削除したTCPヘッダのみからなるパケットを通信路へ転送し(ステップ808)、元の中継パケットを通信路へ転送する(ステップ809)。
【0050】
既存端末11,12間の当該TCPコネクションが終了すると、ゲートウェイ装置1のパケット中継・振り分け処理部21はそれを検出し(ステップ810)、セッション制御部23に通知する。セッション制御部23は、ステップ803及び804において確立した通信路を切断するための呼切断要求であるBYEメッセージを生成し、それぞれをSIPサーバ10に送信する(ステップ811,812)。これにより、セッションの切断が行われる。
【0051】
以上のように、既存端末間におけるTCPコネクションの開始・終了を検出し中継装置においてセッション制御を代行する際に、遅延の異なる複数の通信路を確立しACKのみからなるパケットを複製し遅延時間の小さい通信路で転送することにより、端末からの見かけ上のRTTを小さくすることで端末間のTCPのスループットを向上する。また、これにより、単一のTCPコネクションを単一の遅延時間の小さいクラスのみに割り当てた場合と比較し、ネットワーク内において遅延時間の小さいクラスのトラフィック量を削減することが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1,2 ゲートウェイ装置、10,60 SIPサーバ、11,12 既存端末、21 パケット中継・振り分け処理部、22 優先度識別部、23 セッション制御部、24 セッション情報テーブル、100,600 呼制御ネットワーク、101,102,400 呼制御を伴わないユーザネットワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間のパケット通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置を備えたネットワークシステムにおけるパケット中継方法において、
既存端末間の単一の通信フローに対して優先クラスの異なる複数の通信路を確立し、
既存端末間の通信パケットの優先度を識別し、
識別されたパケットの優先度に応じて中継する通信路を振り分ける
ことを特徴とするパケット中継方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパケット中継方法において、
振り分けられる通信路として、呼制御の伴うネットワーク上の通信路と呼制御の伴わないネットワーク上の通信路とが組み合わせられ、
高優先のパケットを呼制御の伴うネットワーク上の通信路に振り分け、低優先のパケットを呼制御の伴わないネットワーク上の通信路に振り分ける
ことを特徴とするパケット中継方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパケット中継方法において、
送信側ゲートウェイ装置で、通信路毎に異なるNAPTによるアドレス変換を行い、受信側ゲートウェイ装置において全ての通信路を経由したパケットを同一の通信フローのパケットに認識されるよう書き換える
ことを特徴とするパケット中継方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のパケット中継方法において、
既存端末間の中継パケットのTCPヘッダ中にACKビットが設定されている場合に、中継パケットのデータ部を削除したTCPヘッダのみからなるパケットを遅延の少ない通信路へ転送する
ことを特徴とするパケット中継方法。
【請求項5】
既存端末と呼制御ネットワークとの間に存在し、既存端末間の通信時に呼制御処理を代行するようにしたゲートウェイ装置であって、
パケットの中継・振り分け処理を行うパケット中継・振り分け処理部と、
前記パケット中継・振り分け処理部により中継されるパケットの優先度を識別する優先度識別部と、
前記呼制御ネットワークとの間の呼び制御処理を代行する制御部と
を備え、
前記制御部は、既存端末間の単一の通信フローに対して優先クラスの異なる複数の通信路を確立し、前記優先度識別部による既存端末間の通信パケットの優先度を識別し、識別されたパケットの優先度に応じて中継する通信路を振り分ける
ことを特徴とするゲートウェイ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のゲートウェイ装置において、
振り分けられる通信路として、呼制御の伴うネットワーク上の通信路と呼制御の伴わないネットワーク上の通信路とが組み合わせられ、
前記制御部は、高優先のパケットを呼制御の伴うネットワーク上の通信路に振り分け、低優先のパケットを呼制御の伴わないネットワーク上の通信路に振り分ける
ことを特徴とするゲートウェイ装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載のゲートウェイ装置において、
送信側で、通信路毎に異なるNAPTによるアドレス変換を行い、受信側において全ての通信路を経由したパケットを同一の通信フローのパケットに認識されるよう書き換える
ことを特徴とするゲートウェイ装置。
【請求項8】
請求項5から7までのいずれか1項に記載のゲートウェイ装置において、
前記制御部は、既存端末間の中継パケットのTCPヘッダ中にACKビットが設定されている場合に、中継パケットのデータ部を削除したTCPヘッダのみからなるパケットを遅延の少ない通信路へ転送する
ことを特徴とするゲートウェイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−166141(P2010−166141A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4740(P2009−4740)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「情報家電の高度利活用技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】