説明

パターニングされた金属のジェット印刷

基板と、パターニングされた導電性金属相とを備えていて、その導電性金属相が、還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、還元剤の組み合わせの逐次的インクジェット噴射または同時インクジェット噴射によって基板上に選択的に堆積された物品。層構造を有する基板上では、その選択的に堆積された導電性金属相が、基板の微細構造と絡み合う。このような物品の形成方法も提示する。この方法の特別な一実施態様では、基板表面への導電相の選択的堆積は、まず最初に、還元可能な可溶性金属塩と還元触媒を含む組成物を所定の領域にジェット噴射した後、還元可能な金属塩と還元剤を含む組成物をその同じ所定の領域にジェット噴射することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット技術を利用して導電部をその場で形成することによって得られる物品と、インクジェット技術を利用して導電部をその場で形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスで駆動するディスプレイ装置、特にエレクトロニクスで駆動する可撓性ディスプレイ装置が商業面で最近興味を持たれているため、導電性材料を適切な基板の表面に噴射してマイクロエレクトロニクス回路を効率的に製造するための努力が続けられている。
【0003】
従来のインクジェットプリンタでは、小さな開口部を有するノズルからインクの液滴を噴射するために圧電技術(またはサーマルバブルジェット)が利用されている。通常は4つのインクカートリッジと4つのノズルが存在しているため、プリンタは同時に異なる4色を印刷することができる。プリンタヘッドがページを走査するにつれて圧電材料にパルスが与えられると(または熱によってバブルジェット中にバブルが生成すると)、ノズルからバブルジェット中の塊となってインクが噴出するか液滴が放出されて受容材料の表面に載る。あるいはプリンタのカートリッジには他の組成物を装填することができるため、プリンタはインク以外の材料を堆積させることが可能である。
【0004】
Hennigerらのアメリカ合衆国特許第4,736,704号では、あらかじめ形成したハンダ用マスクをインクジェット様技術を利用して回路板に堆積させるのに対し、Drummondらのアメリカ合衆国特許第5,132,248号には、金属コロイドの懸濁液を基板に直接堆積させた後、熱でアニーリングして導電性構造を形成することが記載されている。どちらの方法も、本当の導電相を形成するのに影響が大きくて不便な方法を必要とするという点で問題がある。Sturmらのアメリカ合衆国特許第6,087,196号には、導電性ポリマーを噴射して有機発光ダイオードやそれ以外の半導体デバイスを形成することが記載されている。これら3つのどのケースでも、あらかじめ形成した導電性材料を塊にして堆積させて支持体の表面に導電相を形成する。表面に堆積させた相は基板と一体化していないため、剥離が原因で有効寿命が短くなる可能性がある。
【0005】
関連技術として、金属塩と還元剤をジェット堆積させることによって銀の堆積物(画像)をその場で形成することが、いろいろな人によって記載されている。それは、Oelbrandtらのアメリカ合衆国特許第5,621,448号;SambucettiとSeitzのIBM Technical Disclosure Bulletin、第20巻、第5423〜5424ページ、1978年;Leendersらのアメリカ合衆国特許第5,621,449号;Mansukhaniのアメリカ合衆国特許第4,266,229号;Leendersらのアメリカ合衆国特許第5,501,150号、Andersonらのアメリカ合衆国特許第3,906,141号;Digital Pro、第6〜8ページ、1997年に掲載されているSimpsonの「ディジタルシルバー」である。この画像は一体化しているが、記載されている単一の堆積ステップでは、連続的な導電相を作り出せない。より最近になり、IrvingとSzajewskiは、アメリカ合衆国特許第6,197,722号、第6,143,693号、第6,440,896号の中で、あらかじめ処理した画像支持体の表面に、ほんの触媒量の金属の存在下で還元剤と銀イオン供給源を噴射することによって染料画像を形成することを記載している。染料画像はもちろん非導電性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの従来法では、複雑な気相堆積および/またはスピンコーティング技術を利用しているため、高温プロセスのエネルギーに関する条件と、パターニング技術、マスキング技術、エッチング技術が複雑であることにより、材料の選択と生産性が制限される。したがって、一体化していて物理的に安定な導電相を簡単な組成物と方法から穏やかな条件を利用して製造することが、相変わらず必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の満たされていない要求は、基板を備えるとともに、還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、この還元触媒の存在下で可溶性金属塩を還元するのに適した還元剤とを基板上に所定のパターンで堆積させることによってその場(in situ)で生成させた導電性金属相を備える物品によって満たされる。この物品の好ましい一実施態様は、2回以上堆積させた還元可能な金属塩、または2回以上堆積させた還元剤、または2回以上堆積させた還元触媒を含む。
【0008】
上記の満たされていない要求はさらに、受容材料の表面に、還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、還元剤とを所定のパターンで堆積させることにより、その受容材料の表面にパターニングされた導電相を形成する方法であって、還元可能な可溶性金属塩を2回以上堆積させることを特徴とする方法によって満たされる。還元可能な可溶性金属塩と還元触媒を付着させた後、還元可能な可溶性金属塩と還元剤を付着させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、さまざまな基板上に特徴のあるマイクロデバイスまたは高度なマイクロ回路を作り出す効率的な手段が提供される。本発明の物品と方法は、連続的ジェット噴射に適合させることができるため、さまざまな基板での高い印刷生産性と低コストが可能になる。この方法では単純な化学的還元ステップが利用されているため、低温でこの方法を実施して導電性金属からなる均一な領域を生成させることができる。さらに、溶液が浸透できる微細ファイバー状ネットワークを備えていて、隙間領域が互いに接続されて全体として内部接続チャネルを規定している基板に本発明を適用すると、構造として存在するその内部接続チャネルの中に本発明の構造が形成されて基板と本当に絡み合うため、剥離するという欠陥がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によれば、基板の表面に可溶性金属塩(可溶性金属イオン)と、金属を還元するための触媒部位(還元触媒)と、還元剤との組み合わせを好ましくはジェット噴射して堆積させることにより、電子が伝導する金属(導電相)に所定のパターニング領域を作り出す。可溶性金属塩として好ましいのは、陽イオンの形態の銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、亜鉛、またはアルミニウムであり、最も好ましいのは、陽イオンの形態の銀である。これら塩の混合物も可能である。ガリウム、ゲルマニウムまたはケイ素の塩も使用できる。還元触媒は、あらかじめ形成した金属クラスターであることが好ましく、ケアリー・リー・シルバー(Carey Lea Silver)であることがより好ましい。還元剤は、有機還元剤でも無機還元剤でもよい。還元剤は当業者によく知られている。有用な有機還元剤の具体例は、場合によって置換されていてもよいヒドロキノン、アミノフェノール、フェニレンジアミン、アスコルビン酸、フェニドン、アルキルヒドラジン、およびアリールヒドラジンである。好ましい還元触媒は、ビス(p-N-メチルアミノフェノール)サルフェートとヒドロキノンの混合物である。上記の成分は、キャリアビヒクルに含まれていることが好ましく、溶液、分散液、エマルジョンいずれかの形態にすることができる。上記成分のそれぞれを異なるキャリアビヒクルの中に含めることにより、各成分を別々に付着できるようにすることが好ましい。各キャリアビヒクルは、異なる容器に収容されていることが好ましい。キャリアビヒクルは、水または揮発性有機流体であることが好ましい。最も好ましいのは、可溶性金属塩、還元触媒、還元剤のそれぞれが別々の水溶液になっていることである。キャリアビヒクルは、湿潤剤、粘度調節剤、界面活性剤、pH調節剤、および安定剤を含むこともできる。これらはすべて、従来技術で知られている。形成される相に半導電特性を付与するため、1つ以上の溶液に、ドーパント(ガリウム、ゲルマニウム、ケイ素、ホウ素、リンの塩など)がさらに含まれていてもよい。結合剤をキャリアビヒクルで使用し、流体とその場で形成される導電相の基板への接着または浸透を促進することができる。結合剤の選択は、基板の具体的な特徴が何であるかによって異なることになろう。例えばビニル様材料では、フルオロ界面活性剤を使用することができる。
【0011】
上記のキャリアと諸成分は、従来のインクジェットインク組成物の任意の成分とともに使用することができる。キャリア組成物のタイプは、そのキャリア組成物を用いて印刷を行なうインクジェットプリンタのタイプによって異なることになろう。インク組成物を信頼性よく正確にジェット噴射するためには、ドロップ-オン-デマンド方式のプリントヘッドと連続方式のプリントヘッドはそれぞれ、物理的特性の組み合わせが異なるインク組成物を必要とする。
【0012】
本発明の一実施態様では、本発明のキャリア組成物は水をベースとし、水と、水と混和する有機化合物(従来技術では湿潤剤、共溶媒、浸透剤などと呼ばれる)を含む。このような化合物を用いるのは、キャリア組成物がインクジェットプリントヘッドのノズルの中で乾燥したり固まったりするのを防ぐため、または諸成分がキャリア組成物の中に溶けやすくするため、または印刷後にキャリア組成物が記録材料の中に浸透しやすくするためである。水をベースとしたインク組成物で一般に用いられるそのような有機化合物の代表例としては、(1)アルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール);(2)多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、チオグリコール);(3)多価アルコールに由来する低級モノアルキルエーテルと低級ジアルキルエーテル;(4)窒素含有化合物(例えば、尿素、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン);(5)イオウ含有化合物(例えば2,2'-チオジエタノール)などがある。水をベースとした本発明で有用な典型的な組成物は、例えばキャリア組成物の全重量に対し、20〜95重量%の水と、水と混和する5〜40重量%の1種類以上の有機化合物を含むことができる。
【0013】
水をベースとした典型的なインク組成物の中に存在している他の成分としては、界面活性剤、消泡剤、殺生物剤、緩衝剤、導電性増大剤、コゲーション防止剤、乾燥剤、水の作用による変化を防ぐ物質、キレート化剤、水溶性ポリマー、水に分散可能なポリマー、無機粒子、有機粒子、光安定剤、オゾン安定剤などがある。これらはすべて、インクジェット印刷技術でよく知られている。
【0014】
基剤成分の正しい選択と正確な量は、その基剤成分を用いて印刷する際に利用する印刷システム(プリンタ、プリントヘッドなど)によって異なるであろう。重要な物理的特性は、粘度と表面張力である。水をベースとした典型的なインク、したがってキャリア組成物では、許容できる粘度は20cPよりも大きく、約1.0〜6.0cPの範囲であることが好ましい。許容できる表面張力は60ダイン/cm以下であり、28ダイン/cm〜45ダイン/cmの範囲であることが好ましい。
【0015】
印刷法のいくつかの組み合わせでは、可溶性金属塩、還元触媒(あらかじめ形成した超微細金属触媒が好ましい)、金属イオン還元剤の溶液を適切に選択して添加してインクジェット印刷装置からジェット噴射すると、驚くべきことに受容基板上に導電性金属領域が自発的に形成された。還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、還元剤は、従来技術で知られている圧電技術、熱技術、ストリーム技術を利用し、別々の容器からインクジェット印刷によって付着させることが好ましい。これらの成分は、インク溶液またはキャリア溶液から上記のようにして付着させることが好ましい。例えば一実施態様では、AgNO3溶液、CLS(ケアリー・リー・シルバー)溶液、KRX(コダック・ラピッドX線)B&W現像溶液は、溶液をある順番でジェット噴射するとき、均一かつパターニングされた領域を容易に、しかも効率的に作り出すことが見いだされた。
【0016】
一実施態様では、還元可能な金属塩、還元剤、還元触媒を2回以上堆積させる。それぞれ、1回、または2回、または3回、または25回まで堆積させることができる。どれも同じ回数堆積させる必要はない。可溶性金属塩は2回以上堆積させることが特に好ましい。これらの成分は、任意の順番で堆積させることができる。可溶性金属イオン溶液を堆積させた後に、または可溶性金属イオン溶液を堆積させるのと同時に還元剤を堆積させると金属が形成されたが、導電相を作り出すためのより効果的な方法は、可溶性金属イオンを還元するために還元触媒が存在している方法であるように思われる。一実施態様では、還元触媒をまず最初に堆積させた後、すでに付着させてある触媒部位の上に、可溶性金属塩と還元剤の両方を同時に2回以上堆積させる。別の一実施態様では、堆積操作には、還元可能な可溶性金属塩と還元触媒を1段階で付着させ、その後、還元可能な金属塩と還元剤を再度付着させる操作が含まれる。逐次堆積と同時堆積の両方で(例えばインクジェットプリンタのCチャネル、Mチャネル、Yチャネルからの)溶液を任意に組み合わせて利用できるが、いろいろな理由(例えば基板上での金属の収率、微細構造を生成させるための位置合わせ問題の回避)により、溶液のうちのいくつかを同時にジェット噴射することが好ましい。ミクロ構造のサイズは、使用するプリントヘッドと溶液に関係する液滴のサイズによってのみ決まる。
【0017】
本発明を実施するのにサーフィノール465などの界面活性剤を使用できるが、最も効率的な導電性金属相を生成させるには、噴射実験で使用するさまざまな溶液から界面活性剤を除外することが好ましい。さらに、還元可能な可溶性金属塩は0.001モル〜10モルの範囲の濃度で使用することが好ましい。この濃度は、少なくとも0.50モルであることがより好ましい。また、還元剤は0.001モル〜10モルの範囲の濃度で使用することが好ましい。この量は、少なくとも1.0モルであることがより好ましい。最後に、還元触媒は1モルの濃度まで供給することができる。この濃度は0.001〜0.1モルの範囲であることが好ましく、0.01〜0.05モルの範囲であることがより好ましい。
【0018】
本発明を実施するのに有用な基板は、均一でも層構造でもよい。層状構造を有する基板は、微細構造、組成、物理的特性、化学的特性のいずれかに関して深さ方向で意図的または偶然に異なっている基板である。均一な構造を有する基板は、微細構造、組成、物理的特性、化学的特性のいずれかに関して深さ方向で意図的または偶然に異なっていない。有用な基板としては、普通紙、多孔性受容材料、膨潤可能な受容材料、プラスチック、金属などが挙げられる。このような基板は、導電性、半導電性、非導電性の層またはペイントを用いてあらかじめ処理することができる。基板は、堅くても可撓性であってもよい。基板は可撓性を持つことが好ましい。特に有用な基板は、溶液が浸透可能な微細ファイバー状ネットワークを備えていて、隙間領域が互いに接続されて全体として内部接続チャネルを規定している基板である。
【0019】
本発明の方法によって基板の表面にその場で形成された導電性金属相は、フィラメントが残留する特性を持つ傾向があろう。これは、従来の金属堆積法によって形成されたより堅固で滑らかな性質を持つ傾向がある導電性金属相とは異なっている。この形態的相違は、基板の性質とは無関係でなくてはならない。
【0020】
本発明の一実施態様には、所定のパターンになった導電性金属相と一体化した浸透可能な相を含む基板を有する物品が含まれる。本発明の別の一実施態様には、基板と、その基板上の所定のパターンになった導電性金属相とを備えていて、その導電性金属相が、すでに存在している基板の微細構造と絡み合っている物品が含まれる。選択した基板が、溶液が浸透可能な微細ファイバー状ネットワークを備えていて、隙間領域が互いに接続されて全体として内部接続チャネルを規定している場合には、構造上規定されたその内部接続チャネル内に導電相の一部がその場で形成され、一体化した導電体が形成される。従来の巨視的な堆積法、例えばスピンコーティング法、ジェット噴射法、塗装法、スパッタリング法や、リソグラフィー法におけるようにあらかじめ形成した相を侵食させて画像を形成する方法では、物理的に剥離するという欠陥が生じやすい均一な層構造を有する導電性領域、半導電性領域、絶縁性領域が形成されるという点が、こうした従来法で形成した従来の導電体とこの一体化した導電体の違いである。本発明の構造は、基板と非常に絡み合っているため剥離しにくい。本発明のこのような構造を微視的に調べると、形成されて外観が金属のように見える領域は、隙間にすでに存在している空孔とチャネルを埋め、すでに偶然存在しているファイバー構造を包むように形成されているように見える。
【0021】
有用なパターニング済み導電相は、非浸透性基板の表面に、還元可能な金属塩、還元触媒、還元剤を所定のパターンで堆積させることによって形成できる。このとき還元可能な金属塩は2回以上堆積させる。このとき、形成された導電相は、堆積の多い領域が存在しているため、粗くて不均一な外観に見える可能性がある。堆積の多いこの領域は、還元触媒が最初にランダムに堆積されることで決まると考えられる。
【0022】
一実施態様では、従来のインクジェットプリンタを用いて諸成分をジェット噴射する。インクジェットプリンタは、小さな開口部を有するノズルからインクの液滴を噴射するサーマルバブルジェット技術を利用したプリンタである。通常は4つのインクカートリッジと4つのインクチャネルが存在しており、必要に応じて、プリンタにより異なる4種類の溶液を同時に印刷することができる。プリンタヘッドがページを走査していくにつれ、流体が電気パルスによって加熱されてバブルが生成され、そのバブルがインクまたはキャリア溶液の液滴をノズルから受容材料の表面に放出させる。
【0023】
以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明がその実施態様に限定されることはない。
【実施例】
【0024】
表Iに、以下の実施例で使用した反応物溶液の組成を示す。量の単位はグラムである。
【0025】
【表1】

【0026】
KRXはコダック・ラピッドX線現像液である。KRXは、500gの蒸留水に、72gの亜硫酸ナトリウムと、5gのビス(p-N-メチルアミノフェノール)サルフェートと、10gのヒドロキノンと、35gのメタホウ酸ナトリウムと、5gの臭化カリウムと、3.5gの固体水酸化ナトリウムと、10mlの0.1重量%ヨウ化ナトリウム溶液を添加することによって調製した。混合後、1Nの亜硫酸溶液または水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを10.36に調節した。DEGはジエチレングリコールである。AgNO3は銀が1.0モルである。CLSはケアリー・リー・シルバー分散体であり、水に懸濁させた148g/kgのゼラチンと0.46モル/kgの銀核ナノ粒子を含んでいて、pHが6.2でpAgが7.9であった。最後に、DWは蒸留水である。単位は、最終列の合計値も含めてすべてグラムである。溶液は室温(23℃)で使用したが、CLS溶液だけは分散体を溶融させるために温めた。
【0027】
これらの溶液を、キャノンS520インクジェットプリンタのシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各チャネルで使用するのに適した空のインクカートリッジに装填した。プリンタは、C、M、Y、Kの各チャネルを空にするか、その各チャネルに反応溶液のさまざまな組み合わせを装填したカートリッジが収容されているように構成した。単純な標的を使用し、複合画像を生成させた。この複合画像は、プリンタのYチャネル、Mチャネル、Cチャネル、Kチャネルから選択的に液滴を同時または順番に放出させて(プリンタの中を媒体を2回以上繰り返して通過させる間に同じチャネルまたは異なるチャネルから同じ画像領域に印刷することにより)できたものである。この標的は、このプリンタで利用できる最小の液滴サイズ(C、M、Yに関しては約5ピコリットル、Kに関しては約17ピコリットル)で、画像の巨視的領域と微視的領域の両方を生成させた。印刷は、基板としての普通紙とコダック画像用紙(光沢印画紙、膨潤可能なインクジェット紙)に対して行なった。印刷された画像内のさまざまな点における導電率の測定は、金属相と基板が完全に乾燥したことが確実であるよう、画像を生成させてから24時間後と1週間後に電圧-抵抗計を用いて実施した。
【0028】
表IIに、利用したさまざまな印刷法の組み合わせと、個々の実験の結果を示す。
【0029】
【表2】

【0030】
この表からわかるように、A1とB1の結果は、銀塩溶液だけを噴射しても、3種類の反応溶液の単なる組み合わせを同時に噴射しても、1回の通過(標的を1回印刷)では、導電性のある銀の連続相を生成させるには十分でないことを示している。C3の場合からわかるように、硝酸銀とCLSを同時に噴射した後、2回目の通過でKRX(還元剤)とCLSを噴射しても、導電相は実現しなかった。(CLSを使用しなかった)D4の場合には、単に硝酸銀を噴射した後にKRXをたとえ最大の液滴体積で噴射しても、導電相を作り出すには不十分であった。還元剤を使用しないE5(CLS+可溶性銀塩)では、CLSによる薄い黄色の画像特性だけが観察された。言い換えるならば、還元剤の不在下では、CLSによる硝酸銀の自発的な還元はなかった。
【0031】
F6は本発明の組み合わせの代表であり、ここでは、E5におけるように硝酸銀とCLSの両方を同時に噴射して基板を“あらかじめ整えた”後、プリンタの中を媒体をさらに何度も通過させ、そのときこのあらかじめ生成させた“プレ画像”の上に追加の硝酸銀と還元剤を同時に噴射した。G7はE5と同様であるが、インクジェット用光沢印画紙を使用した点が異なっている。H8は本発明の組み合わせであり、G7におけるように硝酸銀とCLSを同時に付着させることによって生成させた薄い黄色の画像を利用する。この画像をプリンタの中をさらに3回通過させてKRXと硝酸銀を同時に再度付着させると、銀の導電層が驚くほど効率的に形成された。
【0032】
(B2におけるように)プリンタの中を基板を多数回通過させて3種類の反応溶液すべてを同時に付加しても導電相が生成されると考えられる。この実験を行なうのは難しかった。というのも、湿った基板がプリンタの紙送りメカニズムに詰まったため、画像領域が汚れたからである。もちろん静止した基板、良好な乾燥条件、x-y(2次元)プリンタヘッドがあれば、溶液を同じ領域に載せる回数を変えることによって導電相が実現されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を備えるとともに、還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、この還元触媒の存在下で前記可溶性金属塩を還元するのに適した還元剤とを前記基板上に所定のパターンで堆積させることによってその場で生成させた導電性金属相を備える物品。
【請求項2】
前記可溶性金属塩が、陽イオンの形態の銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金のいずれか、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記可溶性金属塩が、陽イオンの形態の銀である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記還元触媒が、あらかじめ形成された金属クラスターである、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記還元触媒が、ケアリー・リー・シルバーである、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記還元剤が有機還元剤である、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記還元剤が無機還元剤である、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記還元剤が、場合によって置換されていてもよいヒドロキノン、アミノフェノール、フェニレンジアミン、アスコルビン酸、フェニドン、アルキルヒドラジン、アリールヒドラジンのいずれかである、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
還元可能な前記金属塩、前記還元触媒、前記還元剤のうちの少なくとも1つが、キャリアビヒクル中の溶液、分散液または、エマルジョンとして供給される、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記キャリアビヒクルが、湿潤剤、粘度調節剤および界面活性剤のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記キャリアビヒクルが、水または揮発性有機流体から選択される、請求項9に記載の物品。
【請求項12】
還元可能な前記金属塩が2回以上堆積された、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記還元剤が2回以上堆積された、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記還元触媒が2回以上堆積された、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
前記堆積操作が、還元可能な前記可溶性金属塩と前記還元触媒を1段階で付着させ、その後、還元可能な前記可溶性金属塩と還元剤を再度付着させることを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項16】
還元可能な前記可溶性金属塩と、前記還元触媒と、前記還元剤とを、少なくとも2つの異なる容器から供給された少なくとも2つの異なるキャリアビヒクルの中に含まれた状態で付着させた、請求項1に記載の物品。
【請求項17】
還元可能な前記可溶性金属塩と、前記還元触媒と、前記還元剤とを、異なる容器から供給された異なるキャリアビヒクルから付着させた、請求項1に記載の物品。
【請求項18】
所定のパターンになった導電性金属相と一体化した浸透可能な相を含む基板を備える物品。
【請求項19】
基板と、当該基板上の所定のパターンに形成された導電性金属相とを備えていて、当該導電性金属相が、すでに存在している基板の微細構造と絡み合っている物品。
【請求項20】
前記導電性金属相が、銅、銀、金、ニッケル、白金、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、およびケイ素からなる群から選択された導電性金属を含む、請求項19に記載の物品。
【請求項21】
受容材料の表面に、還元可能な可溶性金属塩と、還元触媒と、還元剤とを所定のパターンで堆積させることにより、その受容材料の表面にパターニングされた導電性金属相をその場で形成する方法であって、還元可能な前記可溶性金属塩を2回以上堆積させることを特徴とする方法。
【請求項22】
前記還元剤を2回以上堆積させる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記還元触媒を2回以上堆積させる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記堆積操作が、還元可能な前記可溶性金属塩と前記還元触媒を1段階で付着させ、その後、還元可能な前記可溶性金属塩と還元剤を再度付着させることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
還元可能な前記可溶性金属塩と、前記還元触媒と、前記還元剤とを、少なくとも2つの異なる容器から供給された少なくとも2つの異なるキャリアビヒクルの中に含まれた状態で付着させる、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
還元可能な前記可溶性金属塩と、前記還元触媒と、前記還元剤とを、異なる容器から供給された異なるキャリアビヒクルから付着させる、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記堆積操作がインクジェット印刷によって行なわれる、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
還元可能な前記可溶性金属塩が、溶液、エマルジョンまたは分散液としてキャリアビヒクルから供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
還元可能な前記可溶性金属塩が、0.001モル〜10モルの濃度範囲で供給される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記還元触媒が、溶液、エマルジョンまたは分散液としてキャリアビヒクルから供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記還元触媒が、1モル以下の濃度で供給される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記還元剤が、溶液、エマルジョンまたは分散液としてキャリアビヒクルから供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記還元剤が、0.01モル〜10モルの濃度範囲で供給される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記受容材料が可撓性受容材料である、請求項1に記載の物品。
【請求項35】
前記受容材料が可撓性受容材料である、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
還元可能な前記可溶性金属塩が、陽イオンの形態の銅、銀、金、ニッケル、パラジウムもしくは白金、またはこれらの混合物である、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
前記可溶性金属塩が、陽イオンの形態の銀である、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
前記還元触媒が、あらかじめ形成された金属クラスターである、請求項21に記載の方法。
【請求項39】
前記還元触媒が、ケアリー・リー・シルバーである、請求項21に記載の方法。
【請求項40】
前記還元剤が有機還元剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項41】
前記還元剤が無機還元剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項42】
前記還元剤が、場合によって置換されていてもよいヒドロキノン、アミノフェノール、フェニレンジアミン、アスコルビン酸、フェニドン、アルキルヒドラジン、またはアリールヒドラジンである、請求項21に記載の方法。
【請求項43】
還元可能な前記可溶性金属塩、前記還元触媒または前記還元剤のうちの少なくとも1つが、キャリアビヒクル、湿潤剤、粘度調節剤、および/または界面活性剤のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項44】
前記堆積操作が、還元可能な前記可溶性金属塩と前記還元触媒を1段階で付着させ、その後、還元可能な前記可溶性金属塩と還元剤を再度付着させることを含み、前記可溶性金属塩が、陽イオンの形態の銀であり、前記還元触媒が、ケアリー・リー・シルバーであり、前記還元剤が、場合によって置換されていてもよいヒドロキノン、アミノフェノール、フェニレンジアミン、アスコルビン酸、フェニドン、アルキルヒドラジン、またはアリールヒドラジンである、請求項21に記載の方法。
【請求項45】
前記還元触媒をまず最初に堆積させた後、すでに付着しているその還元触媒の上に前記可溶性金属塩と前記還元剤の両方を2回以上同時に堆積させた、請求項1に記載の物品。
【請求項46】
前記還元触媒をまず最初に堆積させた後、すでに付着しているその還元触媒の上に前記可溶性金属塩と前記還元剤の両方を2回以上同時に堆積させる、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2008−510881(P2008−510881A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523688(P2007−523688)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/026273
【国際公開番号】WO2006/014861
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】