説明

パターン形成方法およびパターン形成基板

【課題】タクトタイム(工程数)を低減し、かつ描画精度が高いパターン形成装置を必要とせずに、所望する形状の描画パターン、特に厚膜細線パターンが精度よく形成する。
【解決手段】第1描画ステップでは、基板1に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板1表面に複数の液滴をドット状に配置する。乾燥ステップでは、第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状半固形物6を形成する。第2描画ステップでは、第1描画ステップで基板1に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴13を吐出し、液滴13を、ドット状半固形物6間の基板1表面に接触し、かつドット状半固形物6を覆うように塗布液滴14を配置し、直線パターン5を描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液滴を対象面上に吐出することにより、所定のパターンを形成するパターン形成方法、および基板面にパターンが形成されたパターン形成基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多種多様な基板に対して、インクジェット法により液滴を塗布して、基板面に複雑なパターニングを行う技術が注目されている。基板面のパターニングにインクジェット法を用いることにより、描画したいパターンを基板上に直接形成することができる。従来のリソグラフィを用いた印刷技術は、真空成膜工程、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程、レジスト剥離工程といったコストのかかる工程が必要になる。しかしながら、パターニングにインクジェット法を用いることにより、上記の工程を省略することができる。その結果、安価に回路基板を作成することができるという効果を奏する。
【0003】
特に、基板に配線パターンを描画するような場合には、配線抵抗を下げるために、配線パターンの断面積を大きくする必要がある。その一方で、回路の微細化に伴い、配線幅は小さいことが好まれる。それゆえ、回路基板の配線作成技術においては、厚膜細線形状の描画パターンを形成する技術が求められている。
【0004】
インクジェット法を用いて対象物にパターンを形成する場合、流動状のインク(液滴)を吐出し、基板上の所定の位置に着弾させて、配線を形成している。このため、基板表面の特性により、着弾したインクが広がり過ぎる、あるいは、インク液滴が互いに分離する。その結果、基板上に、瘤状のインク溜まり(バルジ)が形成されてしまう虞がある。ここで、バルジとは、基板との表面張力によって、塗布したインク同士が集まり、瘤状に形成された凝集体のことをいう。塗布する液滴の大部分が、このバルジに集中してしまうと、形成される配線パターンは、パターン幅やパターン厚に極端な差異が生じる。このため、バルジの発生は、配線パターンの形成において、好ましくない。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、着弾した液滴が拡がり過ぎる、あるいは、インク液滴が互いに分離することを極力抑え、基板上に所望する描画パターンを形成することのできる技術が開示されている。
【0006】
具体的には、特許文献1に開示された技術では、予め、基板表面の描画パターンとなり得る領域(パターン形成領域)を、液滴に対し親和性を有するように改質している。また、基板表面の描画パターンとなり得る領域以外の他の領域を、液滴に対し非親和性を有するように改質している。そして、基板上の親和性を有する領域、すなわち、パターン形成領域に液滴を吐出し、描画パターンを形成している。特許文献1に開示された技術では、パターン形成領域以外の領域が、液滴に対し非親和性を有する領域になっている。このため、基板表面のパターン形成領域上に着弾された液滴は、該パターン形成領域を越えて拡がることはない。
【0007】
また、特許文献1に開示された技術では、液滴同士が一部で重なるように、液滴をパターン形成領域に着弾している。これにより、基板に着弾した液滴が互いに分離することを防止している。
【0008】
また、インクジェット法を利用して、基板上に厚膜の描画パターンを形成する方法としては、例えば特許文献2に開示された技術が挙げられる。
【0009】
特許文献2に開示された技術では、インクジェット法により、金属微粒子を含有したインクを、絶縁基板上に吐出し、導電パターンを形成する。そして、形成された導電パターンに電解めっきを施すことにより、厚膜の導電パターンを形成することができる。
【0010】
さらに、例えば特許文献3および4には、基板上にインクを複数回に分けて塗布し、配線パターンを形成する方法が開示されている。特許文献3および4に開示された技術では、描画回数を複数回に分けて、少量の液滴をパターン上に積層している。これにより、厚膜パターンを描画することができる。
【0011】
特許文献5には、複数の液滴を、基板上の膜形成領域全体に、基板に着弾した後の液滴の直径よりも大きいピッチで吐出する第1吐出工程と、複数の液滴を、第1吐出工程における吐出位置と異なる位置に、基板に着弾した後の液滴の直径よりも大きいピッチで吐出する第2吐出工程とを有する膜パターンの形成方法が開示されている。特許文献5に開示された技術では、第1吐出工程後および第2吐出工程後に、液滴を乾燥している。乾燥後、第3吐出工程にて、複数の液滴を、第1吐出工程におけるピッチよりも小さいピッチで吐出している。特許文献5に開示された技術によれば、第1吐出工程および第2吐出工程により吐出した液滴が完全に、又はある程度乾燥した部分は、親液性が付与されており、第3吐出工程により吐出される液滴がなじみやすくなっている。そして、これにより、第3吐出工程により吐出される液滴を、膜形成領域に留め、パターンの厚膜化を実現している。
【0012】
特許文献6には、「基板上に吐出された液状体の膜形成部分が膜パターンの縁部に移動するように膜パターンを乾燥する工程と、膜形成部分の移動により突出した縁部の間に液滴を吐出する第2吐出工程と」を含む製膜方法が開示されている。特許文献6に開示された技術では、第2吐出工程においてこの縁部間に液滴を吐出して埋めることで、上面が平坦な膜パターンを実現している。
【特許文献1】特開平11−204529号公報(平成11(1999)年 7月30日公開)
【特許文献2】特開2003−209341号公報(平成15(2003)年 7月25日公開)
【特許文献3】特許第3925283号公報(平成19(2007)年 6月 6日発行)
【特許文献4】特許第3951792号公報(平成19(2007)年 8月 1日発行)
【特許文献5】特開2003−133691号公報(平成15(2003)年 5月 9日公開)
【特許文献6】特開2003−318516号公報(平成15(2003)年11月 7日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された技術には、以下の問題がある。
【0014】
まず、特許文献1に開示された技術では、描画する基板表面に対し、予め親和性を有する領域と非親和性を有する領域とを形成する必要がある。つまり、パターン形成領域に液滴を吐出する前に、予め、基板表面を、親和性領域および非親和性領域にパターニングする工程が必要になる。それゆえ、コスト及びタクトタイム(工程数)が増加するという問題が生じる。また、この親和性領域及び非親和性領域のパターン自体には、汎用性がない。このため、基板の描画パターンに応じて、親和性領域および非親和性領域を形成する必要があり、実用に供し得ない。
【0015】
また、特許文献2に開示された技術では、インクジェット描画装置以外に、めっき装置が必要になり、コストが増加するという問題が生じる。さらに、インクジェット法による液滴吐出に加え、めっき工程も必要になるため、タクトタイムが増大するという問題が生じる。
【0016】
さらに、特許文献3に開示された技術では、パターンを形成するためには、描画した複数の液滴間にインクを配置する必要がある。また、特許文献4に開示された技術では、すでに形成したパターンの上に、インクを配置し積層する必要がある。特許文献3および4に開示された技術は、基板上にインクを所定位置に配置するのに、高い描画精度が必要とされる。ここで、描画精度とは、例えばインクジェットヘッドから飛翔する液滴の高い着弾精度や、インクジェットヘッドや基板を積載するステージの位置決め精度などの、描画するために必要な装置による積み重ねの精度を指す。このような描画精度が高いパターン形成装置は、コストの増大を招く。また、描画精度が高いパターン形成装置を用いても、先に描画したパターン上に多数回描画する方法では、先に描画したパターンから液滴が溢れたり滑り落ちたりする。それゆえ、微細なパターンを形成することが困難である。
【0017】
また、特許文献5に開示された技術では、膜パターンの厚膜化を実現するために、少なくとも第1吐出工程から第3吐出工程という3回のインクの描画を行う必要があり、タクトタイムが増大するという問題がある。特に、第1吐出工程と第2吐出工程との間に、液滴の乾燥を行い、さらに第2吐出工程後に液滴の乾燥を行っているので、タクトタイムの増大は非常に大きくなる。すなわち、第1吐出工程後の液滴の乾燥が完全に完了していない場合、この乾燥によって生じた液滴の蒸気が、第2吐出工程後の液滴の乾燥時点でも液滴周囲に残存する。この残存する液滴の蒸気が、第2吐出工程後の液滴の乾燥を阻害する。その結果、第2吐出工程後の液滴の乾燥時間は、第1吐出工程後の液滴の乾燥時間よりも長くなってしまう。また、第3吐出工程後に液滴の乾燥を必要とする場合、さらに乾燥時間が増大してしまう。
【0018】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、タクトタイム(工程数)を低減し、かつ描画精度が高いパターン形成装置を必要とせずに、所望する形状の描画パターン、特に厚膜細線パターンを精度よく形成することができるパターン形成方法およびパターン形成基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のパターン形成方法は、上記の課題を解決するために、固形分を含有するインクを、液滴として吐出し、基板上にパターンを描画するパターン形成方法であって、基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板表面に複数の液滴をドット状に配置する第1描画ステップと、前記第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状乾燥物を形成する乾燥ステップと、前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出し、該液滴を、前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、パターンを描画する第2描画ステップと、からなることを特徴している。
【0020】
上記の構成によれば、第1描画ステップにて、基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板表面に複数の液滴をドット状に配置している。ここでいう「ピッチ」とは、基板に着弾された複数の液滴について、隣接する液滴の中心間の距離を意味する。それゆえ、基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出したとき、基板に塗布される液滴は、互いに離間しており、基板上にドット状に配置される。第1描画ステップ後、乾燥ステップにて、前記第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状乾燥物を形成する。続いて、第2描画ステップにて、前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出し、該液滴を、前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、パターンを描画する。第2描画ステップでは、前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出しているので、基板に塗布される液滴は、互いに連結しており、その液滴量は、第1描画ステップにて塗布される液滴量よりも多くなっている。それゆえ、上記の構成によれば、実質的に基板上にパターンを描画するステップは、第2描画ステップとなる。
【0021】
このように、上記の構成によれば、上記の第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップの3ステップで、基板上に所望のパターンを描画しており、タイムタクト(工程数)を低減することができる。すなわち、上記の構成によれば、2回の描画ステップで、所望のパターンを形成することができ、さらに、乾燥ステップは1度ですむ。このため、タクトタイムを最小限にすることができる。
【0022】
また、上記の構成によれば、第2描画ステップにおいて、液滴を、乾燥ステップにより形成されたドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、パターンを描画するので、ドット状乾燥物が楔となって、第2描画ステップにて塗布された大量の液滴の流動を抑制する。それゆえ、通常ではバルジが発生してしまいパターン描画することができない量で液滴を塗布してもパターンを描画することができる。また、ドット状乾燥物が楔となることにより、第2描画ステップにて描画されるパターンは、平面視で、ドット状乾燥物の表面形状に沿った側面を有し、線幅が増大することがない。それゆえ、上記の構成によれば、厚膜細線のパターンを形成することができる。
【0023】
また、第2描画ステップにおいて、ドット状乾燥物からずれた位置に液滴を塗布したとしても、液滴は、ドット状乾燥物と接触している限り、セルフアライメントされる。それゆえ、上記の構成によれば、基板に対して特別な前処理は必要なく、さらに描画精度が高いパターン形成装置を必要とせずに、直線性が高い所望の描画パターンを精度よく形成することができる。
【0024】
本発明のパターン形成方法では、前記第1描画ピッチを、基板上に着弾された液滴の直径の2倍以下のピッチに設定することが好ましい。
【0025】
上記の構成により、描画されるパターンの単位長さ当たりのドット状乾燥物の数を多くするこことができ、その結果、第2描画ステップにて塗布する液滴に対するドット状乾燥物の楔効果を大きくすることができる。
【0026】
本発明のパターン形成方法では、前記第2描画ピッチを、第1描画ピッチの半分以上のピッチに設定することが好ましい。
【0027】
第2描画ピッチが第1描画ピッチの半分よりも小さい場合、ドット状半固形物6の体積に対し、第2描画ステップで塗布する液滴の体積が大きくなり、表面張力による液滴の縮みを抑制する効果を小さくしてしまう。それゆえ、上記の構成により、通常ではバルジが形成してしまい、直線パターンを形成することができない条件、あるいはパターンの幅が広くなってしまう条件であっても、ドット状乾燥物の楔効果により、パターン幅が広がることなく、厚膜のパターンを形成することが可能になる。
【0028】
本発明のパターン形成方法では、前記乾燥ステップでは、前記ドット状乾燥物が前記インクに対し再溶解性または再分散性を示す段階で、乾燥を停止することが好ましい。
【0029】
例えば特許文献5のように、描画ステップを増加し、液滴の描画と液滴の乾燥を繰りかえすほど、先に描画した液滴乾燥物との間に界面が形成される。特に、液滴として導電性材料を含有するインクを塗布する場合、上記界面の存在は、界面抵抗となり抵抗値が上昇するおそれがある。また、界面が存在すると液滴乾燥物間の密着力不足による剥離等のおそれも発生する。
【0030】
上記の構成によれば、前記乾燥ステップでは、前記ドット状乾燥物が前記インクに対し再溶解性または再分散性を示す段階で、乾燥を停止するので、第2描画ステップにて液滴を、前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布するとき、ドット状乾燥物が液滴に再溶解または再分散する。その結果、上記の構成によれば、第2描画ステップにて描画されるパターンについて、乾燥による界面の形成を抑制することができる。尚、このような再溶解や再分散の速度は遅く、楔効果を失うことはない。
【0031】
また、上記の構成によれば、乾燥ステップにて、液滴を完全に乾燥させなくても、第2描画ステップにてパターンを描画できる程度に、乾燥を行えばよい。このため、上記の構成によれば、乾燥時間が短くてすむという効果も奏する。
【0032】
本発明のパターン形成方法では、前記乾燥ステップでは、液滴の基板に対する接触角が後退接触角に達する前に、乾燥を停止することが好ましい。
【0033】
通常、基板に塗布された液滴は、乾燥に伴い、体積が減少する。そして、この体積の減少に伴い、液滴の基板に対する接触角が減少し、後退接触角に達する。後退接触角に達した段階で、ドット状乾燥物が形成されていない場合、さらに接触角が減少し、形成されるドット状乾燥物は、体積が減少し、直径も減少する。上記の構成によれば、液滴の基板に対する接触角が後退接触角に達する前に、乾燥を停止し、ドット状乾燥物を形成しているので、乾燥によるドット状乾燥物の直径の減少を最小限に抑えることができる。そして、これにより、ドット状乾燥物による楔効果を最大限に得ることが可能になる。
【0034】
本発明のパターン形成方法では、前記乾燥ステップでは、液滴と基板との固液界面よりも、液滴と外部との気液界面が高温になるように、加熱することが好ましい。
【0035】
上記の構成のように加熱することにより、液滴と基板との固液界面よりも、液滴と外部との気液界面の方が早く乾燥が進行し、より迅速に液滴と外部との気液界面(すなわち、液滴表面)に膜を形成することができ、乾燥による液滴の蒸発を抑えることができる。その結果、乾燥ステップにて形成されるドット状乾燥物は、その内部に液滴(液体)を多量に内包した固形物になり、蒸発による体積の減少を最小限に抑えることが可能になる。そして、これにより、ドット状乾燥物による楔効果を効率的に、かつ最大限に得ることが可能になる。
【0036】
本発明のパターン形成方法では、前記インクは、固形分として、機能性粒子、および機能性粒子を分散させるための分散剤を含み、前記乾燥ステップでは、液滴の加熱温度を、前記分散剤の分解温度以下の温度に設定することが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、前記インクは、固形分として、機能性粒子、および機能性粒子を分散させるための分散剤を含み、前記乾燥ステップでは、液滴の加熱温度を、前記分散剤の分解温度以下の温度に設定するので、第2描画ステップにて液滴を塗布するに際し、効率的にドット状乾燥物を液滴に再分散させることが可能になる。その結果、上記の構成によれば、第2描画ステップにて描画されるパターンについて、より効率的に、乾燥による界面の形成を抑制することができる。
【0038】
本発明のパターン形成方法では、前記インクに対する固形分の体積濃度が、少なくとも5%以上であることが好ましい。
【0039】
上記の構成のように、インクに対する固形分の濃度を設定することにより、ドット状乾燥物の楔効果を大きくすることが可能になる。
【0040】
本発明のパターン形成方法では、前記第1描画ステップおよび前記第2描画ステップでは、インクジェット法により、液滴を基板上に塗布することが好ましい。
【0041】
インクジェット法は、任意の場所に高精度・高精細に描画することが可能であり、本発明のパターン形成方法に適している。
【0042】
本発明のパターン形成基板は、上述のパターン形成方法により描画されたパターンが形成されたことを特徴としている。
【0043】
上記の構成により、タクトタイム(工程数)を低減し、かつ描画精度が高いパターン形成装置を必要とせずに、所望する形状の描画パターン、特に厚膜細線パターンが精度よく形成されたパターン形成基板を提供することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のパターン形成方法は、以上のように、基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板表面に複数の液滴をドット状に配置する第1描画ステップと、前記第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状乾燥物を形成する乾燥ステップと、前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出し、該液滴を、前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、パターンを描画する第2描画ステップと、からなる構成である。
【0045】
また、本発明のパターン形成基板は、上記のパターン形成方法により描画されたパターンが形成された構成である。
【0046】
それゆえ、タクトタイム(工程数)を低減し、かつ描画精度が高いパターン形成装置を必要とせずに、所望する形状の描画パターン、特に厚膜細線パターンを精度よく形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明のパターン形成方法は、固形分を含有するインクを、液滴として吐出し、基板上にパターンを描画するという方法である。本発明に適用し得る「インク」は、固形分を含有していれば、特に限定されない。固形分としては、例えば、機能性粒子、または機能性粒子を分散させるための分散剤が挙げられ、インクは、固形分として機能性粒子及び分散剤を含有していても、分散剤を含有せず機能性粒子を含有していてもよい。分散剤は、インク中での機能性粒子の分散を助ける役割を果たす。この分散剤は、パターン形成方法における乾燥ステップ等といったインクに熱を加える工程において、分解し得る。すなわち、分散剤は、パターン形成方法の各種ステップを経て、固形分として存在しなくなる。本明細書では、説明の便宜上、「分散剤」も「固形分」として取り扱う。また、「機能性粒子」は、インクの乾燥により形成された乾燥物においても固形分として存在しえる粒子であり、上記乾燥物の使用用途に適した機能を発揮する物質のことをいう。例えば、上記インクを配線パターン形成技術に適用する場合、「機能性粒子」は、導電性材料から構成された粒子であり、例えば金属ナノ粒子が挙げられる。また、上記インクをカラーフィルタ形成技術に適用する場合には、「機能性粒子」は、顔料である。また、カラーフィルタ形成技術で使用されるインクは、樹脂成分として、熱を加えることにより硬化する硬化樹脂、またはUV照射により硬化するUV硬化樹脂が含まれることがある。
【0048】
また、本発明のパターン形成方法は、配線形成技術、カラーフィルタ形成技術、レンズ形成技術等に適用することが可能である。例えば、配線形成技術では、本発明のパターン形成方法を適用することにより、配線の界面抵抗による抵抗率の上昇を抑えることができる。また、カラーフィルタ形成技術においては、本発明のパターン形成方法を適用することにより、カラーフィルタの色目のばらつきに伴う影響を抑えることができる。また、レンズ作成技術においては、本発明のパターン形成方法を適用することにより、屈折率の変化に伴う影響を抑えることができる。
【0049】
以下では、本発明のパターン形成方法の一例として、「固形分として、金属ナノ粒子、および金属ナノ粒子を分散させるための分散剤を含有した」インクを用いて、基板上に配線パターンを形成する方法について、説明する。
【0050】
(第1実施形態)
本発明の一実施の形態について説明する前に、参考例として、従来の方法に基づき、インクジェット法によりガラス基板にインクを塗布し、直線形状の描画パターンを作成した例について、説明する。上記参考例では、インクとして、有機溶媒に金属ナノ粒子を分散させたインクを使用した。なお、このインクには、金属ナノ粒子以外にも、有機溶媒中で金属ナノ粒子を分散するための分散剤が含まれている。そして、金属ナノ粒子と分散剤とをあわせた固形分のインクに対する濃度は、10vol%である。また、ガラス基板は、フッ素系の撥液性材料をスピンコート法により塗布した後、乾燥させている。なお、本願明細書に記載されている容量、長さ、濃度等を示す測定値は、その測定限界内の数値である。
【0051】
このように撥液性材料を塗布及び乾燥させた基板は、インクに対する接触角が30°であった。一般的に、基板の撥液性が高いほど、バルジの発生頻度が高くなり、均一なパターンを描画することが困難になる。参考例や以下の実施形態では、本発明による効果を分かりやすく説明するため、撥液性材料を塗布したガラス基板を使用している。しかしながら、本発明者は、本発明に適用し得る基板が、上記のガラス基板に限定されないことを確認している。ここで、図1を参照して、参考例を説明する。
【0052】
はじめに、基板1上に、インクジェットヘッドによりインク液滴を1滴塗布した。尚、インクジェットヘッドから吐出された液滴1滴の体積は、5plである。このとき、インク液滴は、基板1に着弾し、基板1との間で円形の固液界面部分を形成する。そして、基板1と接触している、この円形の固液界面部分の直径は、45μmであった。以降の説明では、この円形の固液界面部分の直径をドット径と表現する。
【0053】
ここで、ドット径が45μmであるということは、この液滴を複数塗布することによって直線パターンを描画するためには、少なくとも隣接する液滴の中心間距離(描画ピッチ)を45μm以下で塗布する必要があることを意味する。
【0054】
続いて、インク液滴を44μmの描画ピッチで塗布し、基板1上に直線パターンを描画した。図1は、このようにして描画した直線パターンの画像を示す図である。なお、以降の説明では、描画した直線パターンにおいて、該直線パターンが延びる方向を長手方向(Y方向)とし、基板1の法線方向を厚さ方向(Z方向)とし、長手方向および厚さ方向に垂直な方向を幅方向(X方向)としている。
【0055】
同図に示されるように、直線パターンには、所々にバルジ3が発生していた。バルジ3部分のパターンの幅(X方向の長さ)は150μmであった。また、バルジ3がない部分の直線パターンの幅は40μmであった。さらに、本発明者は、描画ピッチを44μmよりも狭めてインク液滴を塗布した。その結果、描画ピッチを狭めるほどバルジ3が頻発し、バルジ3のない直線パターンを形成することはできないことがわかった。
【0056】
バルジ3は、基板1表面に対する液滴の接触角により決定される。より詳細には、バルジ3は、以下のようにして発生する。すなわち、液滴が基板1に対する接触角により許容される量以上の量で基板1に塗布されたとき、基板1が液滴を保持することができなくなる。そして、液滴が、基板1に対する表面張力により互いに集まり、バルジ3が起こる。
【0057】
別の参考例として、インク液滴を描画ピッチ45μmで塗布し、基板1上に直線パターンを描画した。このとき、描画した直線パターンの長さ(長手方向(Y方向)の長さ)は、150mmである。図2は、このようにして描画した直線パターンの画像を示す図である。
【0058】
同図に示されるように、描画された直線パターンには、バルジ3が発生しなかった。しかしながら、インク液滴同士が連結されておらず、途切れ4が発生していた。その結果、インク液滴を描画ピッチ45μmで塗布した場合、完全な直線パターンを形成することができなかった。また、この途切れ4は、描画ピッチを45μm以上に広げるほど、発生頻度が高まるだけであった。
【0059】
このようにして描画した直線パターンを、300℃で30分間加熱して溶媒と分散剤を取り除き、基板1上に直線状の配線パターンを形成した。その後、配線パターンについて、触針式の形状測定装置を用いて、膜厚(Z方向の長さ)を計測した。その結果、形成された配線パターンの平均膜厚は、2500Åであった。
【0060】
以上、図1に示す参考例の結果、及び図2に示す別の参考例の結果から、バルジ3も途切れ4も発生しない直線パターンを描画するためには、描画ピッチを、44μmと45μmとの間に設定することを検討する必要がある。しかしながら、このような描画ピッチの設定は、インク液滴の描画装置のステージ精度及びインクジェットによる液滴の着弾精度を考慮すると、基板1上に安定して直線パターンを描画する条件ではない。それゆえ、従来の方法では、バルジ3も途切れ4も発生しない直線パターンを描画することが困難であることがわかった。
【0061】
バルジ3は、一度に塗布する液滴量が増えるほど発生しやすい。それゆえ、バルジ3の発生を防止するために、基板1上へのインク液滴の塗布を複数回に分けて、直線パターンを描画することが考えられる。そして、基板1へのインク液滴の塗布工程の回数が多くなればなるほど、バルジ3が発生しない直線パターンを描画しやすくなると考えられる。しかしながら、基板1へのインク液滴の塗布工程の回数が多くなると、その回数分、塗布された液滴を乾燥する工程が必要になり、タクトタイム(工程数)が増加するという問題がある。その一方で、基板1へのインク液滴の塗布工程の回数を少なくすると、タクトタイムが減少するが、バルジ3が発生しやすくなり、直線パターンを描画することが困難になる。すなわち、基板1へのインク液滴の塗布工程の回数を少なくすればするほど、バルジ3が発生しない直線パターンを描画するための技術的ハードルが高くなる。
【0062】
そこで、本発明者らは、工程数(タクトタイム)を最小限に抑え、かつ、バルジ3の発生を抑制することができる直線パターンを描画するパターン形成方法について、鋭意検討した結果、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップという3つのステップで、各描画ステップにおける描画ピッチ、乾燥条件を設定することにより、バルジ3の発生を抑制して、直線パターンを描画することができることを見出し、本発明に至った。
【0063】
すなわち、本発明のパターン形成方法は、基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板表面に複数の液滴をドット状に配置する第1描画ステップと、前記第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状乾燥物を形成する乾燥ステップと、前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出し、該液滴を、前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、パターンを描画する第2描画ステップと、からなることを特徴としている。
【0064】
以下、本発明の一実施形態のパターン形成方法について、図3(a)および(b)〜図5(a)および(b)を参照して、詳述する。図3(a)および(b)は、第1描画ステップを示し、図3(a)は、第1描画ステップを模式的に示した模式図であり、図3(b)は、第1描画ステップ後の基板1の画像を示す図である。また、図4(a)および(b)は、乾燥ステップを示し、図4(a)は、乾燥ステップを模式的に示した模式図であり、図4(b)は、乾燥ステップ後の基板1の画像を示す図である。また、図5(a)および(b)は、第2描画ステップを示し、図5(a)は、第2描画ステップを模式的に示した模式図であり、図5(b)は、第2描画ステップ後の基板1の画像を示す図である。なお、本実施形態のパターン形成方法では、上述した参考例および別の参考例と同じ成分のインク液滴を使用している。また、インク液滴は、参考例および別の参考例と同様に、基板1上でのドット径が45μmになる条件で塗布された。また、本実施形態のパターン形成方法では、上述の別の参考例と同様に、基板1上に、長さ150mmの直線パターンを形成する。
【0065】
本実施形態のパターン形成方法では、図3(a)に示されるように、まず第1描画ステップとして、基板1表面に、インク液滴12を第1描画ピッチ60μmで塗布した。この第1描画ステップにおける第1描画ピッチは、インク液滴12の基板1上でのドット径よりも大きいピッチになっている。これにより、図3(b)に示されるように、インク液滴12は、隣接するインク液滴12同士が連結しない(すなわち、離間する)ように、基板1上に配置される。このため、第1描画ステップにて塗布されるインク液滴12はそれぞれ、球面を有している。すなわち、ほぼ球の一部の形状になっている。ここでは、第1描画ステップにより、互いに離間するように配置されたインク液滴12を「ドット2」と呼ぶ。
【0066】
続いて、図4(a)に示されるように、乾燥ステップとして、ドット2が配置された基板1をホットプレート上に設置して、該基板1を70℃で15秒間加熱した。また、図4(a)および(b)に示されるように、この乾燥ステップにより、ドット2は、その流動性が低下し、ドット状半固形物(ドット状乾燥物)6になった。なお、ドット2の流動性の低下は、ドット状半固形物6の表面を注射針に引っ掻くことで確認した。すなわち、ドット状半固形物6表面に注射針で引っ掻いた跡が残れば、流動性が低下したと判断した。
【0067】
また、ドット状半固形物6の直径は、乾燥ステップ前のドット2のドット径からほとんど変化していなかった。つまり、乾燥ステップによって、ドット2は、高さ(Z方向の長さ)のみが低くなり、基板1との接触領域の径(ドット径)が変わらずに、ドット状半固形物6になっていることがわかる。
【0068】
一般的に、乾燥ステップにより、ドット2に含まれるインク溶媒が減少するときには、ドット2の材料特性に応じて、以下の、第1または第2の現象の何れかが生じる。
【0069】
まず、第1の現象は、基板1とドット2との接触領域の面積が変わらず、ドット2の高さのみ変わる現象であり、本実施形態における乾燥ステップにて生じた現象が、これに相当する。第2の現象は、乾燥ステップにより、ドット2における基板1との接触領域が縮小し(ドット径が小さくなる)、これに伴いドット状半固形物6の基板1との接触領域の径も小さくなる現象である。
【0070】
上記第1または第2の現象の何れかの発生は、ドット2(インク)の材料特性に起因する「後退接触角」に関係する。乾燥ステップにおいて、ドット2は、インク溶媒の蒸発により、体積が減少する。このとき、基板1とドット2とのなす角(すなわち接触角)が、減少し、後退接触角に達する。そして、基板1とドット2とのなす角が後退接触角に達したとき、すでにドット2のインクの流動性が失われていれば、第1の現象が生じる。本実施形態のように、インク(すなわちドット2)に固形分が含まれている場合、乾燥によるインク溶媒の減少に伴い、インクに対する固形分の濃度が高くなり、ドット2は流動性を失うので、第1の現象が生じる。一方、基板1とドット2とのなす角が後退接触角に達したとき、ドット2のインクの流動性が失われていなければ、第2の現象が生じる。
【0071】
また、乾燥ステップにより形成されたドット状半固形物6を触針式の形状測定器を用いて測定したところ、平均膜厚(ドット状半固形物6のZ方向の高さ)が1μmであった。このドット状半固形物6の膜厚は、インクに含まれる固形分よりもはるかに大きい膜厚である。これは、上記乾燥ステップで、インクの溶媒や分散剤が残存するように、ドット2を乾燥しているためである。
【0072】
次に、図5(a)に示されるように、第2描画ステップとして、インクジェットヘッド11を用いて、乾燥ステップにて得られたドット状半固形物6の配列に沿って、インク液滴13を第2描画ピッチ30μmで塗布した。この第2描画ステップにおける第2描画ピッチは、ドット径よりも小さいピッチになっている。それゆえ、第2描画ステップにて吐出されるインク液滴13は、基板1表面およびドット状半固形物6表面の両方に着弾することになる。その結果、インク液滴13の塗布液滴14は、隣接するドット状半固形物同士を連結し、かつ各ドット状半固形物6を覆うように配置される。また、第2描画ピッチ30μmは、隣接するドット状半固形物6同士を連結するピッチである。この第2描画ステップにより、図5(b)に示されるように、基板1表面に直線パターン5が描画される。
【0073】
上記参考例にて説明したとおり、従来のパターン形成方法でインク液滴を塗布したとき、描画ピッチ45μm以下(ドット径より小さいピッチ)は、バルジが発生し直線パターンを形成することができないピッチであった。一方、本実施形態のパターン形成方法では、図5(b)に示されるように、バルジが発生することない直線パターン5を形成することができた。
【0074】
また、第2描画ステップにて描画された直線パターン5の幅を測定したところ、この幅は、乾燥ステップにて得られたドット状半固形物6の直径をほどんど変わらなかった。
【0075】
このように第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップを経て、基板1表面に直線パターン5が形成される。この直線パターン5を250℃で30分間加熱することにより、基板1表面に配線パターンが形成される。この配線パターンの膜厚を確認したところ、平均膜厚は、5500Åであった。この平均膜厚は、バルジが発生しない上記別の参考例(バルジが発生しない参考例)にて得られた配線パターンの平均膜厚の2.2倍であった。また、配線パターンの幅は、上記別の参考例にて得られた配線パターンの幅と同等であった。
【0076】
このように、本実施形態のパターン形成方法によれば、参考例にて説明した従来のパターン形成方法と比較して、線幅が増大することなく膜厚が大きい配線パターン、すなわち厚膜細線パターンを製造することができる。これは、乾燥ステップにて形成されたドット状半固形物6が、第2描画ステップにて塗布された塗布液滴14の楔の役割を果たし、塗布液滴14が表面張力により流動して縮まるのを抑制しているためである。
【0077】
また、本発明者は、本実施形態のパターン形成方法により、基板に対して特別な前処理を行うことなく、厚膜細線の描画パターンを形成できることを確認した。
【0078】
(第2実施形態;第1描画ステップにおける第1描画ピッチの検討)
本発明の他の実施形態について説明すると以下の通りである。本実施形態では、使用するインク、基板、インクジェットヘッドについては、第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。また、乾燥ステップにおける乾燥方法および乾燥条件についても、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0079】
本実施形態のパターン形成方法は、上記第1実施形態と同様に、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップからなる方法である。本実施形態では、第1描画ステップにおける第1描画ピッチの検討を行った。具体的には、パターン形成条件として、第1描画ピッチを50〜100μmの範囲の値、第2描画ピッチを20〜60μmの範囲の値に設定し、基板1上に直線パターンを描画した。そして、各パターン形成条件で描画した直線パターンについて、バルジ3の有無、または途切れ4の有無を判定した。なお、第1描画ピッチは、50μm,60μm,70μm,80μm,90μm,100μmに設定し、第2描画ピッチは、20μm,25μm,30μm,40μm,50μm,60μmに設定した。表1は、各パターン形成条件で描画した直線パターンにおける、バルジ3の有無、または途切れ4の有無の判定結果を示す表である。表1において、「○」は、バルジ3および途切れ4がなく直線パターン5を描画することが可能であったことを示す。また、「×」は、直線パターン5について、バルジ3または途切れ4が発生したことを示す。なお、「×」については、各パターン形成条件毎に、バルジの発生、および途切れの発生を付記している。また、表1に示される各パターン形成条件で形成した直線パターン5は何れも、第1実施形態と同様に、150mmである。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示されるように、第1描画ピッチを100μm(ドット径45μmの2倍よりも大きい)であるとき、第2描画ピッチを20〜60μmの範囲のいかなる値に設定しても、バルジが発生し、直線パターンを描画することができなかった。それゆえ、本実施形態のパターン形成方法では、第1描画ステップにおける第1描画ピッチが、ドット2の直径(ドット径)の2倍よりも小さいことが好ましい。第1描画ピッチがドット2の直径の2倍以上であり、隣接するドット2同士が離れすぎている場合、乾燥ステップにより形成されるドット状半固形物6同士の間隔が大きくなり、第2描画ステップで塗布される液滴の、表面張力による縮みを抑制する効果が小さくなるため、好ましくない。
【0082】
また、表1に示されるように、第1描画ピッチを50μmに設定したとき、第2描画ピッチを25μm以上に設定すると、バルジ3がなく直線パターンを描画することが可能であった。また、第1描画ピッチを60μmに設定したとき、第2描画ピッチを30μm以上に設定すると、バルジ3がなく直線パターンを描画することが可能であった。すなわち、バルジ3がなく直線パターンを描画するためには、第2描画ピッチを、第1描画ピッチの半分以上に設定することが好ましいことが分かった。第2描画ピッチが第1描画ピッチの半分よりも小さい場合、ドット状半固形物6の体積に対し、第2描画ステップで塗布する液滴の体積が大きくなり、表面張力による液滴の縮みを抑制する効果を小さくしてしまうためである。
【0083】
以上の表1の結果から、バルジ3がなく直線パターンを描画するためには、第1描画ステップにおける第1描画ピッチを、ドット2の直径(ドット径)の2倍よりも小さく設定することが好ましいことが分かった。また、第2描画ピッチを、第1描画ピッチの半分以上に設定することが好ましいことが分かった。
【0084】
しかしながら、第1描画ピッチまたは第2描画ピッチは、上記の表1に基づく設定に限定されず、形成する直線パターンの長さに応じて、適宜設定することができる。一般的に、形成する直線パターンの長さが長くなるほど、バルジが発生しやすくなる。本発明者は、形成する直線パターンの長さを数100μmから数mmまでの範囲に設定した場合、第1描画ピッチまたは第2描画ピッチが表1の結果に基づく設定に限定されないことを確認している。上記の直線パターンの長さの範囲内で比較的短い直線パターンを形成する場合、第2描画ステップにて塗布するインク液滴の液量が少なくなるため、バルジを発生させることなく直線パターンを描画することが可能である。
【0085】
例えば、第1描画ピッチ50μm、および第2描画ピッチ20μmのパターン形成条件において、表1の結果では、直線パターンについて、「稀にバルジ」が発生する。しかしながら、本発明者は、このパターン形成条件で、数100μmから数mmの直線パターンを形成したとき、バルジを発生させることなく、直線パターンを描画することが可能であることを確認している。
【0086】
次に、表1に示した第1描画ピッチおよび第2描画ピッチの設定で形成した直線パターンのうち、いくつかの直線パターン5を、300℃にて30分間焼成し、配線パターンを形成した。続いて、配線パターンについて、触針式の形状測定装置を用いて、配線パターンの厚みを測定し平均膜厚を算出した。そして、このように算出された配線パターンの平均膜厚の、上記参考例および別の参考例で得られた配線パターンの平均膜厚に対する比を算出した。表2に結果を示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示されるように、本実施形態にて形成された配線パターンの平均膜厚は、上記参考例および別の参考例で得られた配線パターンの平均膜厚と比較して、最大で3.1倍の膜厚であった。さらに、表1において「○」と判定されたパターン形成条件の中では、最大2.66倍の膜厚の配線パターンを得ることができた。また、これらの配線パターンは、パターン幅を変えることなく形成することが可能であった。
【0089】
なお、本実施形態において、配線パターンの膜厚を、上記参考例および別の参考例で得られた配線パターンの平均膜厚に対する比として評価した理由は、以下の通りである。すなわち、一般的に、使用するインクの固形分濃度を変えれば、配線パターンの膜厚の絶対値を変えることが容易であるので、配線パターンの膜厚を「膜厚の絶対値」で評価することが適切ではないという理由である。
【0090】
それゆえ、表2の結果は、どのような固形分濃度を有するインクを用いたとしても、本実施形態のパターン形成方法を用いることにより、従来技術と比較して厚膜細線パターンを形成することが可能であることを示している。
【0091】
(第3実施形態;乾燥ステップにおける乾燥条件の検討)
本発明のさらに他の実施形態について説明すると以下の通りである。本実施形態では、使用するインク、基板、インクジェットヘッドについては、第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0092】
本実施形態のパターン形成方法は、上記第1実施形態と同様に、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップからなる方法である。本実施形態では、乾燥ステップにおける乾燥条件の検討を行った。具体的には、上記乾燥条件として、加熱温度を40℃、70℃、100℃、または250℃に設定し、各加熱温度に対し、加熱時間を10秒、30秒、60秒、300秒に設定し、基板1上に直線パターンを描画した。そして、各パターン形成条件で描画した直線パターンについて、バルジ3の有無、または途切れ4の有無を判定した。表3は、乾燥ステップにおける乾燥条件の検討結果を示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表3に示されるように、加熱温度を40℃に設定したとき、加熱時間を60秒よりも長く設定すると、バルジを発生させることなく直線パターンを形成することが可能になる。一方、加熱温度を40℃よりも高い温度に設定すると、加熱時間を60秒よりも短い時間に設定しても、バルジを発生させることなく直線パターンを形成することが可能になる。このことから、乾燥ステップにおいて、加熱温度を比較的低く設定する場合、乾燥時間を比較的長く設定する必要がある(加熱温度が低ければ低いほど、加熱時間を長く設定する必要がある)ことがわかる。尚、表2に示す各乾燥条件による乾燥ステップ後に、ドット2の固形物を注射針で引っ掻くことにより、ドット2の固形物がドット状半固形物6であるかの確認を行った。その結果、「×バルジ」と判定された乾燥条件「加熱温度40℃、加熱時間10秒」、ならびに「×稀にバルジ」と判定された乾燥条件「加熱温度40℃、加熱時間30秒」では、ドット2は、乾燥されず流動性が維持されていた。これに対し、「○」と判定された乾燥条件では、ドット2の固形物は、注射針で引っ掻いた跡が残る半固形状態のドット状半固形物6であった。
【0095】
つまり、「○」と判定された乾燥条件では、第1描画ステップにより描画した液滴が、ドット状半固形物6となることにより、第2描画ステップで塗布した液滴の流動を抑制していることがわかった。そして、この液滴の流動の抑制により、バルジを発生することがなく、パターン幅が増大することがない、直線パターン形成が可能になることがわかった。
【0096】
また、表3の結果において、加熱温度250℃に設定した各乾燥条件と、加熱温度100℃、加熱時間300秒の乾燥条件とについて、第2描画ステップで液滴を塗布して形成した直線パターンを観察した。その結果、加熱温度250℃に設定した各乾燥条件で形成された直線パターンでは、ドット状半固形物6と第2描画ステップで塗布した液滴との間に、境界線が確認された。図6は、表3に示す、加熱温度250℃に設定した各乾燥条件で形成された直線パターンのうち、代表的な直線パターンの画像を示し、図6(a)は、全体的な画像を示し、図6(b)は、図6(a)のA部の拡大画像を示す。
【0097】
図6(a)および(b)に示されるように、ドット状半固形物6と第2描画ステップで塗布した液滴との間に境界が確認されるということは、直線パターン中に界面が存在していることを示している。そして、この結果は、第2描画ステップにて液滴を塗布したとき、ドット状半固形物6が液滴中で再分散していないことを示唆する。加熱温度250℃は、金属ナノ粒子を分散するための分散剤が分解する分解温度以上の温度である。つまり、加熱温度250℃では、分散剤は、その少なくとも一部が分解し、金属ナノ粒子を分散する分散機能を一部失っている。それゆえ、加熱温度250℃に設定した各乾燥条件で形成されたドット状半固形物6は、第2描画ステップにて液滴を塗布するに際し、液滴中で再度分散する再分散性が低下していることが考えられる。そして、上記の境界の発生は、この再分散性の低下に起因していることが考えられる。
【0098】
また、表3の結果では、加熱温度100℃、加熱時間300秒の乾燥条件で直線パターンを形成した場合でも、上記の境界が確認された。加熱温度100℃は、分散剤の分解温度以下の温度である。このように加熱温度100℃で境界が発生したことは、300秒という長時間で加熱したことにより、分散剤による分散機能が一部失われたことに起因すると予想される。
【0099】
このように、ドット状半固形物6と第2描画ステップで塗布した液滴との間に界面が存在することは、配線パターンが形成されたパターン形成基板の使用用途によっては、好ましくない。それゆえ、パターン形成基板の使用用途を広くする点では、乾燥ステップにおいて、形成されるドット状半固形物6の再分散性または再溶解性が著しく失われる前に、加熱時間を設定するか、または再分散性または再溶解性が失われない温度(例えば分散剤の分解温度以下の温度)に加熱温度を設定することが好ましい。特に、カラーフィルタ用のインクを用いてパターンを描画する場合には、上記のように乾燥条件を設定すると、光学特性の低下も抑制することができる。
【0100】
(第4実施形態;インクに対する固形分濃度の検討)
本発明のさらに他の実施形態について説明すると以下の通りである。本実施形態では、使用するインク、基板、インクジェットヘッドについては、第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0101】
本実施形態のパターン形成方法は、上記第1実施形態と同様に、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップからなる方法である。本実施形態では、第1描画ステップおよび第2描画ステップにて塗布されるインクについて、該インクに対する固形分濃度の検討を行った。具体的には、上記インクとして、固形分濃度が3vol%であるインクA、5vol%であるインクB、7vol%であるインクCの3種類のインクを用いて、基板1上に直線パターンを描画した。そして、各パターン形成条件で描画した直線パターンについて、バルジ3の有無、または途切れ4の有無を判定した。なお、上記の検討では、第2描画ピッチの条件を、30μm、45μm、60μmの3条件とした。表4は、インクに対する固形分濃度の検討結果を示す。
【0102】
【表4】

【0103】
表4の実験結果から、インクに対する固形分濃度が高いほど、第2描画ステップ後に形成される直線パターンは、バルジの発生が抑制されていることが分かった。これは、乾燥ステップで形成されるドット状半固形物6の体積が、インクに対する固形分濃度が高いほど大きくなり、これに伴い、第2描画ステップにおいて塗布される液滴の流動を抑える効果が大きくなることによる。
【0104】
また、インクA(固形分濃度3vol%)を用いたとき、乾燥ステップ後に形成されたドット状半固形物6の直径は、35μm程度であった。このドット状半固形物6の直径は、乾燥ステップ前のドット2の直径よりも10μm小さくなっていた。これは、乾燥ステップにより、ドット2における基板1との接触領域が縮小し(ドット径が小さくなる)、これに伴いドット状半固形物6の基板1との接触領域の径も小さくなったこと(上記第2の現象)による。すなわち、インクに対する固形分濃度3vol%では、乾燥ステップにおいて、ドット2が、インク溶媒の蒸発によりドット径が減少し、基板1とドット2とのなす角が後退接触角に達したとき、ドット2のインク流動性が失われないことを示唆する。乾燥ステップによって、ドット状半固形物6の直径を小さくしないために、インクの固形分濃度は、少なくとも5vol%以上が好ましい。
【0105】
(第5実施形態;乾燥ステップにて使用される基板1の乾燥手段の変形例)
本発明のさらに他の実施形態について説明すると以下の通りである。本実施形態では、使用するインク、基板、インクジェットヘッドについては、第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0106】
本実施形態のパターン形成方法は、上記第1実施形態と同様に、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップからなる方法である。本実施形態では、乾燥ステップにて使用される基板1の乾燥手段の構成が異なる。
【0107】
第1実施形態では、乾燥ステップにて、ドット2が配置された基板1をホットプレート上に設置して乾燥を行っている。すなわち、第1実施形態の乾燥ステップにて使用される乾燥手段は、基板1をZ方向下方側から加熱する(以下、下側加熱と記す)構成になっている。これに対し、本実施形態では、乾燥手段として、基板1のZ方向上方側に設置したヒータを使用している(以下、上側加熱と記す)。尚、本実施形態では、ヒータを基板1よりも1mm上方に設置し、輻射熱によって基板1の表面を加熱している(上側加熱)。そして、乾燥条件として、加熱温度を40℃、70℃、100℃に、加熱時間を10秒、30秒、60秒、300秒に設定して、基板1上に直線パターンを描画した。そして、各パターン形成条件で描画した直線パターンについて、バルジ3の有無、または途切れ4の有無を判定した。表5は、乾燥ステップにおける乾燥条件の検討結果を示す。表5には、比較のため、基板1をホットプレート上に設置して乾燥した場合(下側加熱)の結果も示している。
【0108】
【表5】

【0109】
表5に示されるように、基板1を上側加熱したとき、ホットプレートにより基板1を下側加熱したときと比較して、短時間の加熱でバルジが発生しなくなる。その一方で、基板1を上側加熱したときでは、基板1を下側加熱したときよりも、ドット状半固形物6と第2描画ステップによって塗布した液滴との間に境界が形成された加熱時間が短くなっている。
【0110】
つまり、ホットプレートにより基板1を下側加熱するときと加熱温度および加熱時間が同じに設定しても、ヒータにより基板1を上側加熱したときのほうが、ドット2の表面の乾燥が早く進行する。さらに換言すれば、ドット2と基板1との固液界面よりも、ドット2の表面である気液界面のほうが高温になるように加熱する(上側加熱)ことにより、乾燥ステップにおける乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0111】
上記の表5に示す結果は、以下の効果による結果である。すなわち、上述したように、第2描画ステップにて塗布する液滴の流動を抑え、バルジを発生させないために、乾燥ステップにて形成されるドット状半固形物6は、その表面の流動性が失われた半固形状態になっていることが好ましい。さらに、ドット状半固形物6の体積が大きければ大きいほど、第2描画ステップにおける液滴流動性を抑える効果が大きい。乾燥ステップにてドット2を上側加熱したとき、ドット2表面に相当する気液界面が最も高温になる。これにより、ドット2表面に半固形状態の膜が形成されたとき、ドット2内部のインク溶媒は、比較的多く残存する。一方、乾燥ステップにてドット2を下側加熱したとき、ドット2と基板1との界面である固液界面が最も高温になり、ドット2内部のインク溶媒が蒸発しながら、ドット2表面に半固形状態の膜が形成される。それゆえ、ドット2を下側加熱した場合、上側加熱と比較して、ドット2内部に残存するインク溶媒が少なくなる。
【0112】
その結果、乾燥ステップにて上側加熱により形成されるドット状半固形物6は、表面が半固形状態であり、かつ、下側加熱により形成されるドット状半固形物6と比較して、内部にインク溶媒を多く含み、体積が大きくなる。
【0113】
なお、本実施形態では、上側加熱の乾燥手段として、基板1上方に設置したヒータを使用した。しかしながら、本実施形態にて使用される乾燥手段は、上記ヒータに限定されず、上側加熱を行うことができる乾燥手段であればよい。乾燥手段としては、例えば赤外線ランプが挙げられる。
【0114】
(第6実施形態;第2描画ステップにおけるインク液滴の塗布位置のずらし量の検討)
本発明のさらに他の実施形態について説明すると以下の通りである。本実施形態では、使用するインク、基板、インクジェットヘッドについては、第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0115】
本実施形態のパターン形成方法は、上記第1実施形態と同様に、第1描画ステップ、乾燥ステップ、および第2描画ステップからなる方法である。本実施形態では、第2描画ステップにおけるインク液滴の塗布位置7を、ドット状半固形物6の整列方向から該整列方向に直交する方向にずらしている。そして、このずらし量の検討を行っている。なお、乾燥ステップにおける乾燥方法および乾燥条件についても、乾燥温度を70℃、100℃、250℃の何れかの温度に設定した以外は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。本実施形態では、第2描画ステップにおける塗布位置7の上記ずらし量を、10μm、15μm、20μm、25μmの何れかに設定し、基板1上に直線パターンを描画した。
【0116】
具体的には、まず、第1描画ステップおよび乾燥ステップを、第1実施形態と同様の操作で行い、基板1上にドット状半固形物6を形成した。なお、乾燥ステップにおける乾燥条件は、加熱温度が70℃、100℃、250℃であり、加熱時間が15秒である。
【0117】
次に、第2描画ステップとして、基板1に対し、ドット状半固形物6の整列方向に直交する方向にずらしてインク液滴を塗布した。図7(a)は、本実施形態のパターン形成方法の、ドット状半固形物6と第2描画ステップでの塗布位置7との位置関係を示す模式図である。同図に示されるように、塗布位置7は、ドット状半固形物6の配列から、該配列方向に直交する方向にずれた位置に設定されている。また、ドット状半固形物6の配列に対する塗布位置7のずらし量は、10μm、15μm、20μm、25μmの何れかに設定されている。
【0118】
そして、上記乾燥温度および上記ずらし量の条件で描画した各直線パターンについて、直線性を判定した。表6は、各直線パターンにおける直線性の判定結果を示す表である。表6において、「○」は、描画された直線パターンの直線性が保たれたことを示す。一方、「×」は、描画された直線パターンの直線性が保たれていないことを示す。ここでいう「直線性が保たれる」とは、描画される直線パターンについて、線幅が均一に保たれていることを意味する。また「直線性が保たれていない」とは、描画される直線パターンについて、線幅が不均一になっていることを意味する。
【0119】
【表6】

【0120】
表6に示されるように、塗布位置7のずらし量を20μm以下に設定したとき、乾燥ステップにおける加熱温度を70℃、100℃、250℃の何れに設定しても、描画される直線パターンは、直線性が保たれていた。一方、塗布位置7のずらし量を25μmに設定したとき、直線パターンの直線性は、乾燥ステップにおける加熱温度を70℃および100℃に設定すると保たれるものの、加熱温度を250℃に設定した場合には、保たれていなかった。
【0121】
図7(b)は、第2描画ステップにて塗布位置7のずらし量を20μmに設定したときに描画される直線パターンの画像を示す図であり、図7(c)は、乾燥ステップにおける加熱温度を250℃に設定し、塗布位置7のずらし量を25μmに設定したときに描画される直線パターンの画像を示す図である。
【0122】
図7(b)に示されるように、塗布位置7のずらし量を20μmに設定したとき、描画される直線パターンは直線性が保たれている。第2描画ステップにて塗布されたインク液滴は、ドット状半固形物6と接触することにより、その塗布位置(着弾位置)7からドット状半固形物6側へ移動する。その結果、インク液滴は、ドット状半固形物6の配列にセルフアライメントされて、直線性が保たれた直線パターンを形成する。なお、このようなインク液滴のセルフアライメントは、塗布位置7のずらし量を20μmよりも小さく設定したときにも起きる。
【0123】
また、塗布位置7のずらし量を10μmおよび15μmに設定したとき、描画される直線パターンの線幅は、45μmであり、ドット状半固形物6の直径と同等であった。これに対し、塗布位置7のずらし量を25μmに設定したとき、描画される直線パターンの線幅は、50μmであり、ドット状半固形物6の直径よりもやや太くなっていた。
【0124】
塗布位置7のずらし量を20μmに設定したとき、ドット状半固形物6の直径に加え、当該ずらし量(すなわち20μm)分だけ直線パターンが太くなるとすれば、直線パターンの幅は、65μmになると予想される。これに対し、実際に、塗布位置7のずらし量を20μmに設定すると、直線パターンの幅は、50μmであり、上記予想よりも15μm分細くなっていることがわかる。この予想よりも細くなった15μm分は、インク液滴のセルフアライメントによるものである。すなわち、本実施形態のパターン形成方法において、直線性が良好な直線パターンを描画するためには、第2描画ステップにて、ドット状半固形物6の配列に対し、塗布位置7を±15μm程度の精度に設定すればよいことがわかる。すなわち、塗布位置7のずらし量は、±15μm程度まで許容されることがわかる。
【0125】
実際のパターン形成方法において描画精度を考慮した場合、塗布位置7の±15μm程度の精度は、充分に実現可能な精度である。それゆえ、本実施形態のパターン形成方法を行うにあたり、特別に高精度な描画装置の構成を用いる必要がないことがわかる。
【0126】
また、図7(c)に示すように、加熱温度を250℃、塗布位置7のずらし量を25μmに設定したとき、直線パターンの直線性が悪くなっていた。また、直線パターンの線幅は、不均一であり、最も太い部分で60〜70μmであった。つまり、これは、加熱温度250℃、塗布位置7のずらし量25μmの条件では、インク液滴の着弾位置ずれをセルフアライメントで補正し、直線性を保つことが困難であることを示す。その一方で、加熱温度を70℃および100℃、塗布位置7のずらし量を25μmに設定したとき、描画される直線パターンは、図7(b)に示すパターン形状と同様になっていた。また、直線パターンの幅は、50〜55μmであり、ドット状半固形物6の直径よりもやや太くなったものの、著しく直線性が失われることはなかった。これは、乾燥ステップにて加熱温度250℃でドット状半固形物6を形成するとき、インク液滴に含まれる溶媒および分散剤が比較的多く失われることにより、ドット状半固形物6の再溶解性や再分散性が失われることに起因する。これにより、第2描画ステップにて塗布するインク液滴とドット状半固形物6との親和性が低下し、セルフアライメントを行う力が弱まったことを示している。よって、第2描画ステップにて塗布位置ずれが生じる描画装置を用いる場合や描画安定性を考慮すると、乾燥ステップは、第1描画ステップで塗布したインク液滴が、第2描画ステップにて塗布するインク液滴に対し再溶解性または再分散性を有する半乾きの段階で乾燥を停止することが好ましいと言える。
【0127】
尚、各実施形態において液滴の塗布手段としてインクジェット法を用いたが、これに限るものではない。例えばディスペンサ法などにより液滴を塗布してもよい。
【0128】
(他の構成)
本発明を以下のように表現することもできる。
【0129】
(第1の構成)
固形分を含有するインクを、液滴状に対象物に塗布してパターンを描画する方法であって、塗布後に隣接する液滴が互いに連結しない間隔である第1描画ピッチで液滴を塗布する第1描画ステップと、前記第1描画ステップで塗布した液滴を乾燥させる乾燥ステップと、少なくとも前記第1描画ステップにおいて対象物に塗布された液滴の直径よりも小さく、隣接する液滴が互いに連結する間隔である第2吐出ピッチで液滴を塗布して、前記乾燥ステップを経た液滴を覆う第2描画ステップとを有することを特徴とするパターン形成方法。
【0130】
(第2の構成)
前記第1描画ピッチが、第1描画ステップによって対象物に塗布された液滴の直径の倍以下であることを特徴とする第1の構成に記載のパターン形成方法。
【0131】
(第3の構成)
前記第2描画ピッチが、第1描画ピッチの半分以上であることを特徴とする第1または第2の構成に記載のパターン形成方法。
【0132】
(第4の構成)
乾燥ステップ後の液滴が、前記インクに対して再溶解性または再分散性を有する半乾きの段階で、乾燥ステップを停止すること特徴とする第1〜第3の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0133】
(第5の構成)
前記乾燥ステップにおいて、液滴の接触角が、後退接触角に達するより早く乾燥ステップを停止することを特徴とする第1〜4の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0134】
(第6の構成)
前記乾燥ステップにおいて、液滴と対象物との固液界面よりも、液滴表面である気液界面のほうが高温になるように加熱することを特徴とする第1〜5の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0135】
(第7の構成)
前記インクが、少なくとも固形分と、固形分を分散さえるための分散剤と、固形分を分散させるための溶媒とからなり、乾燥ステップにおける加熱温度を、分散剤の分解温度以下とすることを特徴とする第1〜6の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0136】
(第8の構成)
前記インクの固形分の体積濃度が少なくとも5%以上であることを特徴とする第1〜7の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0137】
(第9の構成)
前記液滴を塗布する手段がインクジェット法であることを特徴とする第1〜8の構成の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【0138】
(第10の構成)
第1〜9の構成に何れか1項に記載のパターン形成方法により形成されたことを特徴とするパターン形成基板。
【0139】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明のパターン形成方法およびパターン形成基板を用いれば、所望するパターンを容易かつ精度良く基板上に形成することができるため、複数色によりパターンが形成されるカラーフィルタの製造にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】基板上にインク液滴を44μmの描画ピッチで塗布し描画した直線パターンの画像を示す図である。
【図2】基板上にインク液滴を45μmの描画ピッチで塗布し描画した直線パターンの画像を示す図である。
【図3】第1描画ステップを示し、(a)は、第1描画ステップを模式的に示した模式図であり、(b)は、第1描画ステップ後の基板の画像を示す図である。
【図4】乾燥ステップを示し、(a)は、乾燥ステップを模式的に示した模式図であり、(b)は、乾燥ステップ後の基板の画像を示す図である。
【図5】第2描画ステップを示し、(a)は、第2描画ステップを模式的に示した模式図であり、(b)は、第2描画ステップ後の基板の画像を示す図である。
【図6】表3に示す、加熱温度250℃に設定した各乾燥条件で形成された直線パターンのうち、代表的な直線パターンの画像を示し、(a)は、全体的な画像を示す図であり、(b)は、図6(a)のA部の拡大画像を示す図である。
【図7】第6実施形態のパターン形成方法を示し、(a)は、ドット状半固形物と第2描画ステップでの塗布位置との位置関係を示す模式図であり、(b)は、第2描画ステップにて塗布位置のずらし量を20μmに設定したときに描画される直線パターンの画像を示す図であり、(c)は、乾燥ステップにおける加熱温度を250℃に設定し、塗布位置のずらし量を25μmに設定したときに描画される直線パターンの画像を示す図である。
【符号の説明】
【0142】
1 基板
2 ドット
3 バルジ
4 途切れ
5 直線パターン
6 ドット状半固形物(ドット状乾燥物)
7 塗布位置
11 インクジェットヘッド
12 液滴
13 液滴
14 塗布液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分を含有するインクを、液滴として吐出し、基板上にパターンを描画するパターン形成方法であって、
基板に着弾された液滴の直径よりも大きい第1描画ピッチで液滴を吐出し、基板表面に複数の液滴をドット状に配置する第1描画ステップと、
前記第1描画ステップにて配置された液滴を乾燥し、基板上にドット状乾燥物を形成する乾燥ステップと、
前記第1描画ステップで基板に着弾した液滴の直径よりも小さい第2描画ピッチで液滴を吐出し、該液滴が前記ドット状乾燥物間の基板表面に接触し、かつ前記ドット状乾燥物を覆うように塗布し、基板上にパターンを描画する第2描画ステップと、からなることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記第1描画ピッチを、基板上に着弾された液滴の直径の2倍以下のピッチに設定することを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記第2描画ピッチを、第1描画ピッチの半分以上のピッチに設定することを特徴とする請求項1または2に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記乾燥ステップでは、前記ドット状乾燥物が前記インクに対し再溶解性または再分散性を示す段階で、乾燥を停止することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記乾燥ステップでは、液滴の基板に対する接触角が後退接触角に達する前に、乾燥を停止することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記乾燥ステップでは、液滴と基板との固液界面よりも、液滴と外部との気液界面が高温になるように、加熱することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項7】
前記インクは、固形分として、機能性粒子、および機能性粒子を分散させるための分散剤を含み、
前記乾燥ステップでは、液滴の加熱温度を、前記分散剤の分解温度以下の温度に設定することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項8】
前記インクに対する固形分の体積濃度が、少なくとも5%以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
前記第1描画ステップおよび前記第2描画ステップでは、
インクジェット法により、液滴を基板上に塗布することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載のパターン形成方法により描画されたパターンが形成されたことを特徴とするパターン形成基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−135628(P2010−135628A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311197(P2008−311197)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】