説明

パラジウム含有担持触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびその触媒を用いるα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、担体として、ジルコニウムおよびアルミニウムの少なくとも一方とケイ素とを含む複合酸化物体を用いるパラジウム含有担持触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するためのパラジウム含有担持触媒、その製造方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。
【0003】
α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化して製造する方法の研究がなされている。オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、パラジウム触媒が知られている。例えば、特許文献1ではパラジウム金属1.0モルに対してテルル金属0.001〜0.40モルを含有するシリカまたは活性炭担持型パラジウム含有触媒が提案されている。特許文献2では球状のジルコニア粒子にパラジウムを担持したパラジウム含有触媒が提案されている。
【0004】
また、対象は異なるが特許文献3では磨耗、破壊、担体の溶出の少ないジルコニア、シリカ、アルミナの三成分系担体を用いたカルボン酸エステルの製造触媒が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/118134号
【特許文献2】特開2009−297634号公報
【特許文献3】特開2003−305366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のシリカまたは活性炭担持型パラジウム含有触媒を使用した液相中での酸化では、シリカ担体または活性炭担体とパラジウムとの相互作用が強固ではなく、パラジウムが溶媒に溶出することがあり、目的生成物であるα,β−不飽和カルボン酸の生産性が必ずしも十分ではなかった。また、特許文献2のパラジウム含有触媒を使用すると、担体の強度が十分でないため反応中に触媒が破壊される場合があり、その強度の向上が求められていた。触媒破壊が起こると、担持金属の脱落等も考えられ、目的生成物であるα,β−不飽和カルボン酸の生産性がやはり十分ではなかった。生産性の改善は反応温度を上昇させる、または酸素分圧を上げることで可能であるが、特許文献1、2のパラジウム含有触媒を使用した場合、条件が過酷になる分、よりパラジウムが反応液中に溶出してしまう問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造するための触媒、その触媒の製造方法、およびその触媒を用いるα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、担体として、ジルコニウムおよびアルミニウムの少なくとも一方とケイ素とを含む複合酸化物体を用いるパラジウム含有担持触媒である。担体としては、ジルコニウム、ケイ素およびアルミニウムを含む複合酸化物体を用いることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記触媒の製造方法であって、噴霧乾燥により球状の複合酸化物体を製造する工程と、前記複合酸化物体にパラジウムの原料を担持させる工程とを含む方法である。
【0010】
また、本発明は、前記パラジウム含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造可能な触媒を提供することができる。そして、その触媒を用いることで、α,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[パラジウム含有担持触媒]
本発明に係るパラジウム含有担持触媒は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であり、担体として、ジルコニウムおよびアルミニウムの少なくとも一方とケイ素とを含む複合酸化物体を用いる。この触媒は液相中で用いるのに適しており、以下、分子状酸素による液相中での酸化によってα,β−不飽和カルボン酸を製造することを適宜「液相酸化」という。
【0013】
本発明に係る触媒において、パラジウムの担体として用いるジルコニウムおよびアルミニウムの少なくとも一方とケイ素とを含む複合酸化物体の形状は、特に限定されないが、球状であることが好ましい。
【0014】
球状の複合酸化物体であれば、破損、磨耗を起こしにくく、触媒担体として長期・連続的に使用できる。複合酸化物体の形状は、SEM(Scanning Electron Microscope)写真の観察により判断する。ここで「球状」とは、真球だけでなく、真球が少々歪んだものや、少々の凹凸がある略球状の複合酸化物体も含む。許容される歪みや凹凸の程度は、複合酸化物体の長径/短径の比が1≦(長径/短径)<1.2であるが、1≦(長径/短径)<1.1であることが好ましい。複合酸化物体の長径と短径はSEM写真を用いて測定できる。
【0015】
複合酸化物体の平均粒径(メディアン径)は、5μm以上100μm未満が好ましく、20μm以上80μm以下がより好ましく、20μm以上70μm以下がさらに好ましい。このような平均粒径を有する複合酸化物体は、触媒担体としてより優れた分散性を有する。この平均粒径は、水中に複合酸化物体を分散させ、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0016】
複合酸化物体の比表面積は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましく、150m/g以上がさらに好ましい。このような比表面積を有する複合酸化物体は、触媒担体としてより優れた分散性を有する。複合酸化物体の比表面積は、分散性の観点からは大きくても構わないが、複合酸化物体の強度および密度の観点から、400m/g以下が好ましく、350m/g以下がより好ましく、300m/g以下がさらに好ましい。ここで、「比表面積」とは、窒素ガス吸着法を用いたBET式により算出したBET比表面積を意味する。BET式は、Langmuirの単分子層吸着理論を多分子吸着に拡張した理論であり、単位質量あたりの全表面積(全比表面積)を知ることができる。
【0017】
複合酸化物体の細孔容積は特に限定されないが、0.05〜2.0cm/gが好ましく、0.1〜1.5cm/gがより好ましい。この細孔容積は、Micromeritics社製自動比表面積/細孔分布測定装置TriStar3000(商品名)を用いて、窒素ガス吸着法に基づく定容法により測定する。この方法により測定可能な細孔径はおよそ1〜100nmの範囲であり、本発明における全ての細孔容積、細孔分布は相対圧(吸着平衡圧/飽和蒸気圧)を上昇させる方向での窒素吸着量の変化(吸着等温線)をもとに算出する。
【0018】
複合酸化物体は、例えば転動造粒法、流動造粒法、噴霧乾燥法等で製造することができるが、なかでも、噴霧乾燥法がマイクロオーダーの複合酸化物体の製造に適しているため好ましい。噴霧乾燥法では、高温気流中に、原料であるジルコニウム成分を含むジルコニウム含有液(溶液、ペースト、懸濁液)、ケイ素成分を含むケイ素含有液(溶液、ペースト、懸濁液)およびアルミニウム成分を含むアルミニウム含有液(溶液、ペースト、懸濁液)や硝酸アルミニウム・九水和物等のアルミニウム化合物のなかの必要成分を混合、分散させ、噴霧機を通して噴霧乾燥することで球状の複合酸化物体が得られる。噴霧機は、ディスク式、ノズル式のいずれを用いてもよい。
【0019】
ジルコニウム含有液としては、特に限定されないが、例えば、硝酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物を溶媒に溶解させた溶液、ジルコニア粉末を溶媒に分散させた懸濁液、ジルコニアゾル等を用いることができる。なかでもジルコニウム含有液としてはジルコニアゾルが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
ケイ素含有液としては、特に限定されないが、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどのケイ素化合物を溶媒に溶解させた溶液、シリカ粉末を溶媒に分散させた懸濁液、シリカゾル等を用いることができる。なかでもケイ素含有液としてはシリカゾルが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
アルミニウム含有液としては、特に限定されないが、例えば、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物を溶媒に溶解させた溶液、アルミナ粉末を溶媒に分散させた懸濁液、アルミナゾル等を用いることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
溶媒としては、例えば、水や、ベンゼン、トルエン、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸等の有機溶媒が適している。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
ジルコニアゾル中のジルコニア濃度は、特に限定されないが、ジルコニウム含有液中のジルコニア固形物濃度で5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。ジルコニア濃度が5質量%以上の場合、製造される複合酸化物体の乾燥がしやすい。また、ジルコニア濃度が40質量%以下の場合、原液の粘性が適切なため製造される複合酸化物体が微粒化しやすい。
【0024】
シリカゾル中のシリカ濃度は、特に限定されないが、ケイ素含有液中のシリカ固形物濃度で5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。シリカゾルは平均粒子径が3〜50nmの範囲内にあることが耐久性の観点から好ましい。コロイドの粒子径が小さくなると比表面積の増加ならびに耐破砕性が向上する傾向にあるが、球状の粒子が得られにくくなる場合がある。一方、コロイドの粒子径が大きすぎると、細孔径、細孔容積は大きくなる傾向にあるが、比表面積の低下を引き起こす場合がある。したがって、シリカゾルの平均粒子径は前述した平均粒子径の範囲内で必要とする複合酸化物体の物性要求に合わせて選択すればよい。
【0025】
アルミニウム含有溶液中のアルミニウム濃度は、特に限定されないが、10〜50質量%であることが好ましい。
【0026】
ジルコニウム含有液、ケイ素含有液およびアルミニウム含有液のなかの必要成分を混合した混合スラリーの噴霧乾燥を行うにあたっては、適量のバインダーを添加することが好ましい。バインダーの添加により、得られる複合酸化物体の粒子間の付着が少なく、比表面積の大きい複合酸化物体を得ることができる。
【0027】
添加するバインダーは、特に限定されないが、例えば、溶媒に共存させることのできる有機高分子化合物、有機低分子化合物または無機化合物が使用できる。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、多糖類などの水酸基含有ポリマーが挙げられる。有機低分子化合物としては、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。無機化合物としては、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどのアンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、有機高分子化合物が好ましく、有機高分子化合物の中でも、PVA、PEG、多糖類が好ましい。これらのバインダーは、焼成過程で消失するものが好ましい。バインダーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
バインダーの添加量は、金属成分の合計に対して0〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0029】
噴霧乾燥を行う際の送液量、熱風量、乾燥温度は、装置の形状や処理能力により適宜設定が可能であり、特に限定はない。一般的に、得られる複合酸化物体の粒子径は、ノズル式噴霧乾燥機を用いた場合ノズル径に依存し、ディスク式噴霧乾燥機を用いた場合ディスクのアトマイザー回転数に依存する。また、単位時間内の送液量が多いほど、または熱風量が小さいほど、噴霧液滴径が大きくなるため、得られる複合酸化物体の粒子径が大きくなる。また、単位時間内の送液量が少ないほど、または熱風量が大きいほど、噴霧液滴径が小さくなるため、得られる複合酸化物体の粒子径は小さくなる。さらに、乾燥温度が高いほど、乾燥粒かさ密度が小さくなり、得られる複合酸化物体が脆くなる。
【0030】
また、得られる複合酸化物体の比表面積を制御するためには、一般に、焼成温度、バインダー量、バインダー種を制御する必要がある。焼成温度が高すぎると比表面積は小さくなり、低すぎるとバインダーが複合酸化物体内に残る。バインダーは焼成により粒子外へ抜けるため、細孔が形成され比表面積が大きくなる。
【0031】
噴霧乾燥後の焼成温度は、用いるバインダーの熱分解温度にもよるが、200〜800℃で行うのが好ましく、300〜700℃で行うのがより好ましい。焼成は、大気中で行うことができる。焼成時間は、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。焼成に用いる装置は、特に限定されないが、通常のマッフル炉、ロータリーキルンなどで焼成することができる。
【0032】
本発明に係る触媒において、複合酸化物体に含まれるジルコニウムおよびケイ素の酸化物としての含有量は、Pdの溶出抑制の観点からZrOが10〜90質量%、SiOが10〜90質量%であることが好ましく、ZrOが20〜80質量%、SiOが20〜80質量%であることがより好ましく、ZrOが30〜70質量%、SiOが30〜70質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明に係る触媒において、複合酸化物体に含まれるケイ素およびアルミニウムの酸化物としての含有量は、Pdの溶出抑制の観点からSiOが30〜99質量%、Alが1〜70質量%であることが好ましく、SiOが35〜95質量%、Alが5〜65質量%であることであることがより好ましく、SiOが40〜90質量%、Alが10〜60質量%であることであることがさらに好ましい。
【0034】
複合酸化物体としては、ジルコニウム、ケイ素およびアルミニウムを含むことが好ましい。本発明に係る触媒において、ジルコニウム、ケイ素およびアルミニウムの酸化物としての含有量は、ZrOが30〜95質量%、SiOが4〜69質量%、Alが1〜20質量%であることが、Pdの溶出抑制の観点とα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造できる観点から好ましい。ZrOが60〜90質量%、SiOが5〜25質量%、Alが5〜15質量%であることがより好ましく、ZrOが70〜88質量%、SiOが6〜15質量%、Alが6〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係る触媒において、複合酸化物体に担持されるパラジウムの担持率は、担持前の担体質量に対して1〜40質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、4〜20質量%がさらに好ましい。
【0036】
なお、パラジウム元素の担持率は、パラジウム含有担持触媒を構成する複合酸化物体およびパラジウム元素の質量から算出することができる。複合酸化物体およびパラジウムの質量は、以下の方法で測定できる。すなわち、パラジウム含有担持触媒をテフロン(登録商標)製分解管に取り、濃硝酸、濃硫酸、塩酸および弗酸を加えてマイクロ波加熱分解装置で溶解し、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のZr原子、Si原子、Al原子およびパラジウム原子を定量することで、複合酸化物体およびパラジウムの質量を算出することができる。また、この測定により複合酸化物体に含まれる各元素の酸化物としての含有量を算出することができる。
【0037】
本発明に係る触媒は、例えば、アンチモン、タリウム、鉛、テルル等の卑金属元素を含有していてもよい。なかでも、本発明に係る触媒はテルル元素を含有することが好ましい。これらの元素は、1種を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。高い触媒活性を発現させる観点から、パラジウム含有担持触媒に含まれる金属元素(担体金属成分を除く)のうち、パラジウム元素が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明に係る触媒がパラジウム元素とテルル元素とを含有する場合、パラジウム元素1モルに対するテルル元素のモル数(すなわちテルル元素とパラジウム元素のモル比:Te/Pd)を所定範囲にすることで、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸をより高い生産性で製造することができる。Te/Pdは0.005〜0.35が好ましく、0.01〜0.3がより好ましい。このTe/Pdは、パラジウム含有担持触媒の製造に使用するパラジウム原料およびテルル原料の配合比等により調整可能である。
【0039】
本発明に係る触媒を製造するにあたっては、前述のようにして球状の複合酸化物体を製造した後、その複合酸化物体にパラジウムの原料を担持させる。
【0040】
パラジウムの原料は特に限定されず、パラジウム金属、パラジウム塩、酸化パラジウム等を挙げることができる。なかでもパラジウム塩が好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等を挙げることができる。なかでも塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましく、硝酸パラジウムが特に好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
本発明に係る触媒が前記卑金属元素を含む場合、パラジウムの原料と共にその卑金属元素の原料を複合酸化物体に担持させればよい。
【0042】
パラジウム元素以外にテルル元素を含有する触媒を製造する場合に用いるテルル原料は特に限定されず、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等を挙げることができる。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等を挙げることができる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等を挙げることができる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等を挙げることができる。なかでもテルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、テルル原料に含まれるテルル元素は、酸化状態でも還元状態でも金属状態でもよい。
【0043】
原料を担体としての複合酸化物体に担持させる方法は、特に限定されないが、例えば沈澱法、イオン交換法、含浸法、浸漬法、沈着法等が挙げられる。
【0044】
また、パラジウムの原料を複合酸化物体に担持した後に熱処理して、パラジウム酸化物が複合酸化物体に担持された状態にしてもよい。熱処理温度の範囲としては、150〜800℃が好ましく、200〜700℃がより好ましい。熱処理時間は特に限定されないが、1〜12時間の範囲が好ましい。
【0045】
そして、酸化状態のパラジウム元素が複合酸化物体に担持された状態で、還元剤で還元してパラジウム含有担持触媒を製造することができる。
【0046】
用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。気相での還元では、還元剤として水素を用いることが好ましい。また、液相での還元では還元剤としてヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩を用いることが好ましい。
【0047】
液相中での還元の際に使用する溶媒としては水が好ましいが、分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0048】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で還元を行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は0.1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)から1.0MPaの範囲が好ましい。
【0049】
また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで還元を行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、酸化状態のパラジウム元素1モルに対して1〜100モルの範囲が好ましい。
【0050】
還元温度および還元時間は還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃以下がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0051】
還元により調製したパラジウム含有担持触媒は、水、溶媒等で洗浄することが好ましい。水、溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の原料由来の不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によってはオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの液相酸化を阻害する場合があるため、不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0052】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、通常は乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥する。乾燥された触媒は、必要に応じて液相酸化に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法は特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、パラジウム表面の酸化皮膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。調製した触媒の物性は、BET比表面積測定、XRD(X−ray Diffraction)測定、COパルス吸着法、TEM(Transmission Electron Microscope)測定、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定等により確認できる。
【0053】
[α,β−不飽和カルボン酸の製造方法]
次に、本発明に係るパラジウム含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化して、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0054】
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、なかでもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。オレフィンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。
【0055】
オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、オレフィンからは通常α,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合アクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合メタクロレインが得られる。
【0056】
原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。なかでもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。α,β−不飽和アルデヒドは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。
【0057】
α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
【0058】
液相酸化の原料としては、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドのいずれか一方だけを使用してもよく、両者の混合物を使用してもよい。
【0059】
液相酸化は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0060】
液相酸化に用いる分子状酸素の源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気との混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。このような分子状酸素を含有するガスは、通常オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0061】
液相酸化に用いる溶媒としては、例えば、t−ブタノール、シクロヘキサノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸、酢酸エチルおよびプロピオン酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒を用いることが好ましい。なかでも、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、iso−酪酸、n−吉草酸およびiso−吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1つの有機溶媒がより好ましい。本発明のパラジウム含有担持触媒は、酢酸等の酸性溶媒中で使用した場合であっても、パラジウムの溶出が少ない。また、α,β−不飽和カルボン酸をより選択率よく製造するために、これら有機溶媒に水を共存させることが好ましい。共存させる水の量は特に限定されないが、有機溶媒と水との合計質量に対して2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。2種以上の溶媒の混合溶媒の場合、その溶媒は均一な状態であることが望ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0062】
液相酸化の原料となるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの濃度は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましい。
【0063】
分子状酸素の使用量は、液相酸化の原料となるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して0.1〜20モルが好ましく、0.2〜15モルがより好ましく、0.3〜10モルがさらに好ましい。
【0064】
触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜15質量%がさらに好ましい。
【0065】
液相酸化の反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa)〜10MPaが好ましく、0.1〜7MPaがより好ましい。
【0066】
本発明に係るパラジウム含有担持触媒を用いると、高い生産性でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造できるメカニズムの詳細は不明であるが、以下のように推定している。従来の担体を使用した場合、パラジウムが溶媒中に溶出するため、α,β−不飽和カルボン酸の生産性が十分ではない。本発明のように担体として複合酸化物体を用いることで、溶出、凝集体の分解が起こらず、α,β−不飽和カルボン酸の生産性が向上する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0068】
Te/Pdの算出に用いるパラジウム元素およびテルル元素の質量は、使用するパラジウム元素の原料におけるパラジウム含有率と配合量、使用するテルル元素の原料におけるテルル含有率と配合量から算出した。
【0069】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料、生成物および副生物の分析)
生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性を以下のように定義した。
【0070】
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/g−Pd/hr)=(A/B/C)×100
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Bは反応に使用したパラジウムの質量(g)、Cは反応時間(hr)である。
【0071】
[実施例1]
(複合酸化物体の調製)
ジルコニア濃度が20質量%のジルコニアゾル(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:ZSL−20N)4kgと、シリカ濃度が30質量%のシリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスN30)0.355kgと、硝酸アルミニウム・九水和物0.695kgとを攪拌下でディスク式噴霧乾燥機(本体直径120cm、処理能力300L/hr)を用いて噴霧乾燥した。噴霧乾燥機の入口温度は280℃、出口温度は120℃、アトマイザー回転数は15000rpm、送液量は125ml/minであった。その後、乾燥物を大気雰囲気下、焼成炉により620℃で4時間焼成して、複合酸化物体(ZrO−SiO−Al)を得た。
【0072】
得られた複合酸化物体の形状は球状であり、その平均粒子径は29.6μm、比表面積は77.5m/g、細孔容積は0.15cm/g、複合酸化物体の質量組成比はZrO/SiO/Al=80.6/10.2/9.2であった。
【0073】
(触媒調製)
テルル酸0.054部に、その10倍の質量の蒸留水を加えて均一溶液とした。この均一溶液に、パラジウム溶液(エヌ・イー ケムキャット(株)製:22.88質量%硝酸パラジウム含有硝酸酸性水溶液)2.185部を加えて、さらに合計20.0部となるまで蒸留水を加えた。
【0074】
担体として上記の方法で得た複合酸化物体10.0部を上記溶液に浸漬し、エバポレーションを行った後、空気中200℃で3時間焼成を行った。得られた触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液20部に加え、70℃に加熱し、2時間攪拌保持した。吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、ZrO−SiO−Al担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0075】
(反応評価)
オートクレーブに、上記の方法で得た触媒のうち4.03部と、反応溶媒として88質量%酢酸水溶液100部とを入れ、次いで、メタクロレインを10.0部導入し、オートクレーブを密閉した。その後、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに圧縮空気を内圧3.2MPaまで導入した。その後、30分が経過した時点で反応を終了した。
【0076】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液をガスクロマトグラフィーにより分析し、メタクリル酸の生産性を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例2]
(複合酸化物体の調製)
実施例1と同様の方法で複合酸化物体を調製した。
【0078】
(触媒調製)
テルル酸の質量を0.108部とした以外は実施例1と同様に触媒を調製した。この触媒のTe/Pdは0.1であった。
【0079】
(反応評価)
実施例1と同様に反応評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
(触媒調製)
テルル酸0.054部に、その10倍の質量の蒸留水を加えて均一溶液とした。この均一溶液に、パラジウム溶液(エヌ・イー ケムキャット(株)製:22.88質量%硝酸パラジウム含有硝酸酸性水溶液)2.185部を加えて、さらに合計20.0部となるまで蒸留水を加えた。
【0081】
担体として市販のシリカ(比表面積450m/g、細孔容積0.68cm/g、メディアン径55.58μm)10.0部を上記溶液に浸漬し、エバポレーションを行った後、空気中200℃で3時間焼成を行った。得られた触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液20部に加え、70℃に加熱し、2時間攪拌保持した。吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、SiO担持型パラジウム含有触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0082】
(反応評価)
実施例1と同様に反応評価を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例3]
(Pd溶出試験)
オートクレーブに実施例1の方法で得た触媒1.2部と88質量%酢酸水溶液100部とを加え、窒素を内圧が0.8MPaになるように導入した。その後、90℃、2hr加熱攪拌(回転数1000rpm)した。放冷後、オートクレーブから触媒入りの水溶液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、水溶液を回収した。回収した水溶液を白金坩堝に取り、ホットプレート上で蒸発乾固させ、マッフル炉で灰化させた。その後、炭酸ナトリウムを加えてガスバーナーで加熱融解させ、蒸留水を加えて均一溶液とした。ICP発光分析装置(サーモエレメンタル社製、商品名:IRIS−Advantage)で試料溶液中のPd原子を定量することで、Pd濃度を算出した。この測定におけるPd濃度の検出限界は2ppmである。結果を表2に示す。
【0084】
[比較例2]
(Pd溶出試験)
比較例1の方法で得た触媒1.2部を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でPd溶出試験を行い、Pd濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
[実施例4]
(ジルコニア−シリカの調製)
ジルコニア濃度が20質量%のジルコニアゾル(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:ZSL−20N)4kgと、シリカ濃度が30質量%のシリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスN30)2.84kgとを用いること以外は実施例1と同様にしてジルコニア−シリカの複合酸化物体を得た。複合酸化物体の質量組成比はZrO/SiO=50.0/50.0であった。
【0086】
(触媒調製)
そのジルコニア−シリカを担体として用いたこと以外は実施例1と同様に触媒を調製した。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0087】
(Pd溶出試験)
上記の方法で得た触媒1.2部を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でPd溶出試験を行い、Pd濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0088】
[実施例5]
(シリカ−アルミナの調製)
シリカ濃度が30質量%のシリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックスN30)1.755kgと、硝酸アルミニウム・九水和物3.475kgとを用いたこと以外は実施例1と同様にしてシリカ−アルミナの複合酸化物体を得た。複合酸化物体の質量組成比はSiO/Al=50.0/50.0であった。
【0089】
(触媒調製)
そのシリカ−アルミナを担体として用いたこと以外は実施例1と同様に触媒を調製した。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0090】
(Pd溶出試験)
上記の方法で得た触媒1.2部を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でPd溶出試験を行い、Pd濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0091】
[比較例3]
(ジルコニア−アルミナの調製)
ジルコニア濃度が20質量%のジルコニアゾル(第一稀元素化学工業(株)製、商品名:ZSL−20N)4kgと、硝酸アルミニウム・九水和物5.56kgとを用いること以外は実施例1と同様にしてジルコニア−アルミナの複合酸化物体を得た。
【0092】
(触媒調製)
そのジルコニア−アルミナを担体として用いたこと以外は実施例1と同様に触媒を調製した。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0093】
(Pd溶出試験)
上記の方法で得た触媒1.2部を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法でPd溶出試験を行い、Pd濃度を算出した。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例6]
(複合酸化物体の調製)
実施例1と同様の方法で複合酸化物体を調製した。
【0095】
(触媒調製)
純水1000gにテルル酸1.22gを溶解し、得られた溶液に硝酸パラジウム溶液(エヌ・イー ケムキャット(株)製、Pd含有率22.88質量%)109.27gを溶解することで、混合溶液を調製した。この混合溶液中に、担体として上記の方法で得た複合酸化物体500gを添加して浸漬させた後、エバポレーションすることで、テルル酸および硝酸パラジウムを複合酸化物体に担持させた。次いで、空気中200℃で3時間焼成することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液1000gに添加し、70℃で2時間の還元を行った。吸引ろ過および純水での洗浄を経て、ZrO−SiO−Al担持型パラジウム含有触媒を得た。得られた触媒のTe/Pdは0.025であった。
【0096】
(連続反応評価)
液相酸化反応を行う反応容器としては、内径126mm、容量4リットルのジャケット付きステンレス製撹拌槽式反応器を用いた。原料を溶媒と共に反応容器上部から供給し、液相部の液面を一定に保ちつつ、反応液を連続的に系外へ抜き出す構造となっている。反応容器に予め上記の調製された触媒(パラジウム質量25g)と、溶媒として88質量%酢酸水溶液とを制御液面に達するように投入した。液面は液容積が3リットルになるように調整した。
【0097】
窒素ガスを反応容器上部から1000g/hrで気相部へ供給して圧力を0.8MPa(絶対圧)まで加圧し、以後圧力制御装置によりこの圧力を保持した。液相温度を90℃まで昇温させ、約10分間安定させた後、メタクロレインを501g/hr、88質量%酢酸水溶液(重合防止剤としてp−メトキシフェノール1000ppmを含有)を2002g/hr、反応容器へ連続的に供給した。このときの平均滞留時間は1.0時間であった。
【0098】
次に、液相酸化反応の酸素源として、圧縮空気を焼結金属からなるスパージャーを通して、反応容器内液相部に連続的に供給し反応を開始した。その後、気相部に供給する窒素ガス量を徐々に減量し最終的には供給停止した。反応中は排ガス中の酸素濃度を磁気式酸素計(横河電機(株)製)で常時モニターし、未反応酸素濃度を約8体積%に保持するように圧縮空気の供給量を制御した。
【0099】
反応成績の確認として反応液をサンプリングし、分析を行った。生成物の分析はガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製)を用いて行った。反応液中のPd溶出濃度の分析は原子吸光分析計(Parkin Elmer社製、A analyst800)を用いて、グラファイトチューブに試料を滴下し、電熱によって加熱するファーネス法によって原子化し、光を当てて吸収波長を測定して算出した。この測定におけるPd濃度の検出限界は20ppbである。結果を表3に示す。
【0100】
[比較例4]
(触媒調製)
純水1000gにテルル酸1.22gを溶解し、得られた溶液に硝酸パラジウム溶液(エヌ・イー ケムキャット(株)製、Pd含有率22.88質量%)109.27gを溶解することで、混合溶液を調製した。この混合溶液中に、担体として市販のシリカ(比表面積450m/g、細孔容積0.68cm/g、メディアン径55.58μm)500gを添加して浸漬させた後、エバポレーションすることで、テルル酸および硝酸パラジウムをシリカに担持させた。次いで、空気中200℃で3時間焼成することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液1000gに添加し、70℃で2時間の還元を行った。吸引ろ過および純水での洗浄を経て、SiO担持型パラジウム含有触媒を得た。得られた触媒のTe/Pdは0.025であった。
【0101】
(連続反応評価)
実施例4と同様の方法で連続反応評価を行った。結果を表3に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
以上のように、本発明のパラジウム含有担持触媒を用いることで、α,β−不飽和カルボン酸をより高い生産性で製造でき、パラジウムの溶出を抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、担体として、ジルコニウムおよびアルミニウムの少なくとも一方とケイ素とを含む複合酸化物体を用いるパラジウム含有担持触媒。
【請求項2】
担体として、ジルコニウム、ケイ素およびアルミニウムを含む複合酸化物体を用いる請求項1に記載のパラジウム含有担持触媒。
【請求項3】
請求項1または2記載のパラジウム含有担持触媒の製造方法であって、噴霧乾燥により球状の複合酸化物体を製造する工程と、前記複合酸化物体にパラジウムの原料を担持させる工程とを含む方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のパラジウム含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−176399(P2012−176399A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15063(P2012−15063)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】