説明

パラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置

【課題】部品等を高精度に、高い自由度で移動可能であり、また小型、軽量なパラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置を提供すること。
【解決手段】位置決め装置1は、パラレルメカニズム2と、パラレルメカニズム2を駆動するリニアアクチュエータ61,62,63,64と、リニアアクチュエータ61,62,63,64が載置されるベース3と、リニアアクチュエータ61,62,63,64を制御する制御部5とから構成されている。パラレルメカニズム2は、アーム10,20,30,40と、可動先端部60とから構成され、アーム10,20,30,40には、側面視円弧型のばね関節14〜16,24〜26,34〜36,44〜46が設けられている。従って、パラレルメカニズム2内の複数のばね関節の形状により変形方向を制御し、これら複数のばね関節の復元力を拮抗させることで動作精度と剛性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置に関し、詳細には、複数の自由度を有するパラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタやプロジェクタ等の光学製品に使用されるレンズやミラー等の光学部品の取り付けには高い位置・角度精度が必要とされている。これらの生産ラインでは光学部品を別の場所から移動させ、位置決めを精密に行い、当該光学部品の取り付けを自動化して行うことが一般的になっている。このような光学部品の位置決めは、多くの場合、比較的高精度を有する直動アクチュエータを高剛性な金属構造物に組み合わせて行っている。この方法では機械の重量やサイズが大きくなり、また異なる製品への応用のための装置組み替えも煩雑である。
【0003】
この問題を解決するために、関節にヒンジなどの弾性体構造を応用した装置が提案されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。非特許文献1に記載の装置では、高精度の位置決め装置としてパラレルメカニズムを応用したマイクロフィンガーモジュールを用いている。また、非特許文献2に記載の装置では、超弾性ヒンジを用いたパンタグラフ機構を用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】谷川民生、新井健生、“並進3自由度を有するマイクロフィンガーモジュール”、日本ロボット学会誌 Vol.20 No.2、p.196−205、2002。
【非特許文献2】堀江三喜男、小林太、池上皓三、岡部信次、“超弾性ヒンジからなるパンタグラフ機構の特性解析”、日本機械学会論文集(C編) 62巻 598号、p.317−322、1996。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の位置決め装置では、直動アクチュエータを高剛性な金属構造物に組み合わせて用いるので、位置決め装置のサイズ、重量が大きくなるという問題点があった。また、非特許文献1に記載の装置では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により製作した関節部は大きな変形を考慮した構造ではないため、関節の動作領域が非常に小さいという問題点があった。また、非特許文献2に記載の装置では、関節に平面状の板ばねを用いているので、動作の自由度が小さく動作幅が取れないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、部品等を高精度に、高い自由度で移動可能であり、また小型、軽量なパラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様のパラレルメカニズムでは、複数のアームと、前記各アームにより支持される1つの可動先端部と、前記各アームに各々少なくとも1つ設けられた第一ばね関節と、前記各アームの先端部と前記可動先端部との間に設けられた第二ばね関節とを備えたことを特徴とする。この構成のパラレルメカニズムでは、関節にばね部材を用いているので、バックラッシュのない滑らかな動作を実現できる。
【0008】
また、前記第一ばね関節及び第二ばね関節は、側面視、円弧型の屈曲部を備えた板ばねから構成されるようにしてもよい。この構成のパラレルメカニズムでは、前記第一ばね関節及び第二ばね関節は円弧型の屈曲部を備えた板ばねを備えているので、大歪み変形し易く、通常の板はねに比べて回転角度を大きくとることができる。
【0009】
また、前記アームは対向するように配置され、当該対向配置された前記アームの前記第一ばね関節の前記屈曲部は、屈曲部内面が対向するように配置されてもよい。この構成のパラレルメカニズムでは、屈曲部内面が対向するように配置された第一ばね関節の歪みにより生じる力が互いに拮抗して、パラレルメカニズムの機構全体の剛性を向上できる。
【0010】
また、前記第二ばね関節は、屈曲部内面が前記アームの延設方向側に向いているように配置されてもよい。この構成のパラレルメカニズムでは、第二ばね関節の屈曲部内面が前記アームの延設方向側に向いているので、当該第二ばね関節の歪みにより生じる力と前記第一ばね関節の歪みにより生じる力が互いに拮抗して、パラレルメカニズムの機構全体の剛性を向上できる。
【0011】
また、前記各アームには、前記第一ばね関節と前記第二前記との間に、前記第一ばね関節と同形状の第三ばね関節が各々設けられ、1つのアームに設けられた前記第一ばね関節の回動軸と前記第三ばね関節の回動軸とは、互いに捻れの位置に配置されていてもよい。この構成のパラレルメカニズムでは、1つのアームに設けられた前記第一ばね関節の回動軸と前記第三ばね関節の回動軸とは、互いに捻れの位置に配置されているので、X軸回りの回転と、Y軸回りの回転を実現することができる。このとき、第三ばね関節は屈曲部内面に対して捻れ方向に変形が作用する場合があるが、ばねの柔軟な性質により動作を実現することができる。
【0012】
また、位置決め装置は、上記パラレルメカニズムと、当該パラレルメカニズムの各アームの基部を移動させるアクチュエータとを備えたことを特徴とする。この構成の位置決め装置では、アクチュエータによりパラレルメカニズムのアームの基部を移動させて、パラレルメカニズムを動作させることができる。
【0013】
また、位置決め装置では、前記アクチュエータとしては、対向配置された前記アームの基部を離間又は近接させるように直線上を移動させるアクチュエータを用いてもよい。この構成の位置決め装置では、対向配置された前記アームの基部を離間又は近接させることにより、パラレルメカニズムを動作させることができる。
【0014】
また、位置決め装置では、前記アクチュエータを制御する制御部を備えてもよい。この構成の位置決め装置では、制御部により前記アクチュエータを制御して、パラレルメカニズムを動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の位置決め装置1の斜視図である。
【図2】パラレルメカニズム2の基準状態の斜視図である。
【図3】パラレルメカニズム2の基準状態の正面図である。
【図4】パラレルメカニズム2の関節に用いる第一ばね関節14の斜視図である。
【図5】パラレルメカニズム2の関節に用いる第一ばね関節14の動作状態を示す斜視図である。
【図6】位置決め装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】位置決め装置1の機構モデル図である。
【図8】解析に使用したアーム130の側面図である。
【図9】アームの先端部に力を加えて変形した場合のアームの先端の軌跡を示すグラフである。
【図10】側面視、円弧型の屈曲部を備えた板ばねの変形解析のグラフである。
【図11】解析に使用した比較例の平行4節リンク機構200の正面図である。
【図12】解析に使用した平行4節リンク機構210の正面図である。
【図13】側面視、円弧型の屈曲部を備えた板ばねの向かい合わせ配置による変形角度補償の解析のグラフである。
【図14】解析に使用した平行4節リンク機構230の斜視図である。
【図15】平行4節リンク機構の剛性変化を示すグラフである。
【図16】パラレルメカニズム2のアーム10の基部リンク11を外側に移動した状態の斜視図である。
【図17】パラレルメカニズム2のアーム10の基部リンク11を外側に移動した状態の正面図である。
【図18】パラレルメカニズム2のアーム30の基部リンク31を外側に移動した状態の斜視図である。
【図19】パラレルメカニズム2のアーム30の基部リンク31を外側に移動した状態の正面図である。
【図20】パラレルメカニズム2のアーム10の基部リンク11、アーム20の基部リンク21、アーム30の基部リンク31、アーム40の基部リンク41を各々外側に放射状に移動した状態の斜視図である。
【図21】パラレルメカニズム2のアーム10の基部リンク11、アーム20の基部リンク21、アーム30の基部リンク31、アーム40の基部リンク41を各々外側に移動した状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態のパラレルメカニズム2及び当該パラレルメカニズム2を用いた位置決め装置1の機械的構造について図1〜図5を参照して説明する。
【0017】
位置決め装置1は、所謂パラレルメカニズム2と、パラレルメカニズム2を駆動するリニアアクチュエータ61,62,63,64と、リニアアクチュエータ61,62,63,64が載置されるベース3と、リニアアクチュエータ61,62,63,64を制御する制御部5とから構成されている。
【0018】
まず、パラレルメカニズム2の構造について説明する。図1〜図3に示すように、パラレルメカニズム2は、4本のアーム10,20,30,40と、これらアーム10,20,30,40により支持される可動先端部60とから構成されている。アーム10とアーム30は互いに対向するように配置され、また、アーム20とアーム40も、互いに対向するように配置されている。即ち、アーム10とアーム20,アーム20とアーム30,アーム30とアーム40、アーム40とアーム10は、平面視、互いに90度の角度で配置されている。また、可動先端部60は、平面視、十字状に形成された板状の部材であり、各種の治具等が固定できるようになっている。尚、アーム10,20,30,40及び可動先端部60の材質の一例としては、金属部材を用いることができ、例えば、ステンレス鋼やアルミニュウム合金等の剛性のある金属を使用すればよい。また、十分な剛性があれば、合成樹脂部材を用いてもよい。
【0019】
アーム10は、角柱状の基部リンク11と、中間リンク12と、上部リンク13と、当該基部リンク11の上部と中間リンク12の下部とを繋ぐ第一ばね関節14と、中間リンク12の上部と上部リンク13の下部とを繋ぐ第三ばね関節15と、上部リンク13の先端と可動先端部60とを繋ぐ第二ばね関節16とから構成されている。また、基部リンク11の下端部には、リニアアクチュエータ61の軸部611により移動される先端部612に嵌合する嵌合突起11Aが突出している。さらに、各ばね関節14〜16は、図示外の螺子により各リンク及び可動先端部60に固定されている。
【0020】
また、同様に、アーム20は、角柱状の基部リンク21と、中間リンク22と、上部リンク23と、当該基部リンク21の上部と中間リンク22の下部とを繋ぐ第一ばね関節24と、中間リンク22の上部と上部リンク23の下部とを繋ぐ第三ばね関節25と、上部リンク23の先端と可動先端部60とを繋ぐ第二ばね関節26とから構成されている。また、基部リンク21の下端部には、リニアアクチュエータ62の軸部621により移動される先端部622に嵌合する嵌合突起21Aが突出している。さらに、各ばね関節24〜26は、図示外の螺子により各リンク及び可動先端部60に固定されている。
【0021】
また、同様に、アーム30は、角柱状の基部リンク31と、中間リンク32と、上部リンク33と、当該基部リンク31の上部と中間リンク32の下部とを繋ぐ第一ばね関節34と、中間リンク32の上部と上部リンク33の下部とを繋ぐ第三ばね関節35と、上部リンク33の先端と可動先端部60とを繋ぐ第二ばね関節36とから構成されている。また、基部リンク31の下端部には、リニアアクチュエータ63の軸部631により移動される先端部632に嵌合する嵌合突起31Aが突出している。さらに、各ばね関節34〜36は、図示外の螺子により各リンク及び可動先端部60に固定されている。
【0022】
また、同様に、アーム40は、角柱状の基部リンク41と、中間リンク42と、上部リンク43と、当該基部リンク41の上部と中間リンク42の下部とを繋ぐ第一ばね関節44と、中間リンク42の上部と上部リンク43の下部とを繋ぐ第三ばね関節45と、上部リンク43の先端と可動先端部60とを繋ぐ第二ばね関節46とから構成されている。また、基部リンク41の下端部には、リニアアクチュエータ64の軸部641により移動される先端部642に嵌合する嵌合突起41Aが突出している。さらに、各ばね関節34〜36は、図示外の螺子により各リンク及び可動先端部60に固定されている。
【0023】
次に、図4及び図5を参照して、第一ばね関節14の構造を説明する。第一ばね関節14は、側面視、円弧型の屈曲部143(屈曲部内面143A、屈曲部外面143B)を備えた板ばねであり、屈曲部143の両端部から板状の固定部141及び板状の固定部142が各々延設されている。固定部141には、螺子孔145,146が設けられ、固定部142には、螺子孔147,148が設けられている。この第一ばね関節14の部材の一例としては、ばねとして機能する弾性を有する金属を用いることができる。一例としては、SUS304等のステンレス鋼を用いてもよい。また、屈曲部143を側面視した場合の円弧の長さは、図4及び図5に示すものに限られず、必要に応じて適宜円弧の長さを変えたばねを用いることが出来る。この第一ばね関節14は、図5に示すように、屈曲部143の円弧内部に回転軸を持った回転関節として機能することができる。また、第一ばね関節14は、同じ厚みの場合には、平面状の板ばねを用いた場合よりも大きく回動できる。尚、本実施の形態では、第二ばね関節16、第三ばね関節15、第一ばね関節24、第二ばね関節26、第三ばね関節25、第一ばね関節34、第二ばね関節36、第三ばね関節35、第一ばね関節44、第二ばね関節46、第三ばね関節45も第一ばね関節14と同様の構造及び材質となっている。なお、各関節のばねの定数等は本実施の形態では全て同じにしたが、場所により異ならせてもよい。
【0024】
また、アーム10の第一ばね関節14とアーム30の第一ばね関節34とは屈曲部内面が互いに向き合うように配置されている。また、アーム20の第一ばね関節24とアーム40の第一ばね関節44も屈曲部内面が互いに向き合うように配置されている。また、可動先端部60と各アーム10〜40の先端部を繋ぐ第二ばね関節16,26,36,46は、屈曲部内面が各アーム10〜40の延設方向側(図1〜図3において下側)を向くように載置されている。さらに、本実施の形態では、一例として、パラレルメカニズム2を平面視した場合に、各アーム10〜40の第三ばね関節15,25,35,45の屈曲部内面は、全て反時計回り方向を向いている。これは、全て時計回り方向を向くようにしてもよい。
【0025】
次に、図6を参照して、位置決め装置1の電気的構成について説明する。図6に示すように、位置決め装置1は、リニアアクチュエータ61,62,63,64と、当該リニアアクチュエータ61〜64を制御する制御部5とから構成されている。リニアアクチュエータ61〜64は、一例として、DCモータから構成され、ボールねじからなる軸部611,621,631,641と、各軸部611,621,631,641の先端部に設けられ直線上に移動する先端部612,622,632,642とから構成されている。また、リニアアクチュエータ61,62,63,64は、ベース3の円周上で90度の位相で配置されている。尚、リニアアクチュエータ61〜64は、上記構造のものに限られず、直線動作を実現できるものであれば、各種の構造のものを用いることができる。
【0026】
また、制御部5は、制御コンピュータ51と当該制御コンピュータ51に接続されたモータドライバ81,82,83,84とから構成されている。モータドライバ81はケーブル71によりリニアアクチュエータ61に接続され、モータドライバ82はケーブル72によりリニアアクチュエータ62に接続され、モータドライバ83はケーブル73によりリニアアクチュエータ63に接続され、モータドライバ84はケーブル74によりリニアアクチュエータ64に接続されている。
【0027】
従って、制御部5の制御コンピュータ51は、可動先端部60の目標移動量に対して、位置決め装置1の機構学演算により各リンク10,20,30,40の移動量を求め、リニアアクチュエータ61〜64を制御する制御信号を生成する。その後、モータドライバ81〜84は、生成された制御信号を基にリニアアクチュエータ61〜64を制御することにより、4本のアーム10,20,30,40を動作させることができる。
【0028】
次に、図7を参照して、本実施の形態に係るばね位置決め装置1の機構モデルについて説明する。図7に示すように、位置決め装置1は、可動先端部60が位置決め装置1のベース3を基点とする回転中心8に対して、2自由度の回転動作が可能であり、またベース3に対して高さ方向への1自由度並進動作が可能である。即ち、位置決め装置1では、可動先端部60は、X軸周りの回転、Y軸周りの回転、及びZ軸方向への並進移動が可能ある。従って、可動先端部60は揺動運動も可能である。尚、回転中心8は、アーム10,20,30,40の全てのばね関節が屈曲していない状態を初期状態として、初期状態のときの各アーム10,20,30,40の第三ばね関節15,25,35,45を結ぶ平面と可動先端部60の中心との交点として規定される。
【0029】
次に、図8及び図9を用いて、本実施の形態に使用される各ばね関節を構成する側面視円弧型のばね部材の大変形ばね解析の結果について説明する。この解析では、非線形解析のできる機構解析システムDAFUL(商標)(ver.3.1)を使用し、側面視円弧型のばね部材134の解析を行った。このばね部材134は厚さ0.25mm、円弧外形6mm、幅15mmである。本解析では、ばね部材134の材質を一例としてSUS304とした。アーム130を構成するリンク131及びリンク132を剛体とみなし、ばね部材134のみFEMAP(商標)(ver.10.0.2)によりメッシュを作成し、図8のように剛体のリンク131及びリンク132とばね部材134とを接続して固定した。リンク132の先端に力を水平方向に±5Nまで加えていき、そのときのリンク先端位置及び回転中心を求めた。
【0030】
図9は、リンク132の先端に力を水平方向に加えて、ばね部材134を変形させたときのリンク132の先端の軌跡と近似した円軌跡を示している。解析の結果、リンク132の先端の軌跡は半径55mm、中心(−1.9,0.0)の円に極めて近くなることが分かった(解析結果と近似した円軌跡の相関係数γ=0.9999983)。よって、側面視、円弧型のばね部材134が円弧部内側に回転軸をもった回転関節と近似できることが示された。また、SUS304の降伏応力210MPa以内では、おおよそ±10度回転することが明らかになった。本解析では、例として、SUS304での解析を行ったが、より大きな降伏応力をもつ超弾性合金を用いれば、弾性域内での回転角をより広くすることができる。
【0031】
次に、図8及び図10を参照して、側面視、円弧型のばね部材134の大歪み変形解析について説明する。この解析では、非線形解析のできる機構解析システムDAFUL(商標)(ver.3.1)を使用し、側面視円弧型のばね部材134と、比較例としての平面状の板はねの解析を行った。側面視円弧型のばね部材134は厚さ0.25mm、円弧半径3mm(円弧外形6mm)、幅15mmであり、比較例の平面状の板ばねは厚さ0.25mm、長さ6mm、幅15mmである。また、縦弾性率197GPa、横弾性率74GPaである。本解析では、ばね部材134及び比較例の板ばねの材質を一例としてSUS304とした。リンクの先端に力を水平方向に±5Nまで加えていき、そのときのリンク132の先端の垂直方向に対する回転角度θ(dig)と、変形回転角度(Time[s])を求めた。図10に示すグラフでは、実線は比較例の平面状の板ばねであり、波線は側面視円弧型のばね部材134を示す。図10を参照すると分かるように、ばね部材134は、+29.8度から−27.9度まで撓むことが出来るが、比較例の平面状の板ばねでは、+18.4度から−18.2度までしか撓むことができないことが判明した。従って、側面視円弧型のばね部材134は、非対称であるが、広い回転角度を得られることが判明した。
【0032】
次に、図11,図12及び図13に示すグラフを参照して、側面視円弧型のばね部材134の向かい合わせによる変形角度補償の解析結果について説明する。この解析では、非線形解析のできる機構解析システムDAFUL(商標)(ver.3.1)を使用し、図11に示す比較例の平行四節リンク200及び図12に示す平行四節リンク210の変形角度補償について解析した。平行四節リンク200及び平行四節リンク210は、何れも、剛体とみなせるリンク111とリンク112とを側面視円弧型のばね部材114で接続し、また、剛体とみなせるリンク131とリンク132とを側面視円弧型のばね部材134で接続している。さらに、剛体とみなせる可動先端部160とリンク112とを先端部を側面視円弧型のばね部材115で接続し、当該可動先端部160とリンク132の先端部を側面視円弧型のばね部材135で接続している。ここで、側面視円弧型のばね部材114,134,115,135は、何れも厚さ0.25mm、円弧半径3mm(円弧外形6mm)、幅15mmとした。図11に示す平行四節リンク200では、ばね部材114の屈曲部内面とばね部材134の屈曲部内面は、いずれも同一方向(図11に於ける右方向)を向いている。これに対して、図12に示す平行四節リンク210では、ばね部材114の屈曲部内面とばね部材134の屈曲部内面は、互いに向かい合わせ(内向き)となっている。この状態で、可動先端部160に水平方向に±10N(以下、Pとする。)の力を加えた。
【0033】
上記の解析の結果、図13では、点線Aは、図11に示す状態の平行四節リンク200の可動先端部160の中心部の軌跡を示し、実線Bは、図12に示す状態の平行四節リンク210の可動先端部160の中心部の軌跡を示している。ばね部材114の屈曲部内面とばね部材134の屈曲部内面は、互いに向かい合わせ(内向き)となっている平行四節リンク210では、可動先端部160に水平方向に±10Nの力を加えた場合に可動先端部160の中心部は左右対称の軌跡を示すのに対し、ばね部材114の屈曲部内面とばね部材134の屈曲部内面が、いずれも同一方向(図11に於ける右方向)を向いている平行四節リンク200では、可動先端部160に水平方向に±10Nの力を加えた場合に可動先端部160の中心部は左右対称の軌跡を示さずに、+方向(図11に於ける右方向)に大きく撓むことが判明した。従って、ばね部材114の屈曲部内面とばね部材134の屈曲部内面は、互いに向かい合わせ(内向き)とすることで、平行四節リンク210の左右方向への移動精度の補償することができることが判明した。
【0034】
次に、図12,図14及び図15に示すグラフを参照して、剛性変化による精度向上についての解析結果について説明する。この解析では、非線形解析のできる機構解析システムDAFUL(商標)(ver.3.1)を使用し、図12に示す平行四節リンク210のリンク111及び131を外側に広げていない場合及び図14に示す平行四節リンク230の下部のリンク111及び131を外側に広げた場合に、可動先端部160に水平方向に±10Nの力を加えた。尚、平行四節リンク210及び平行四節リンク230の構造材質は、平行四節リンク200と同一である。図15のグラフでは、リンク111とリンク131の間隔を広げていない平行四節リンク210の場合の可動先端部160の移動量が点線Bであり、リンク111とリンク131の間隔を広げている平行四節リンク230の場合の可動先端部160の移動量が実線Cである。図15のグラフの実線Cが示すように、リンク111とリンク131の間隔を広げている平行四節リンク230の場合が可動先端部160の移動量が少ないことが判明した。従って、リンク111とリンク131の間隔を広げると、ばね部材114,134,115,135の回転トルクが平行四節リンク230全体で拮抗し合うことで、平行四節リンク230全体の剛性を変化させることが判明した。
【0035】
次に、図1〜図3,図6,図16〜図21を参照して、本実施の形態の位置決め装置1の動作について説明する。先ず、図6に示す制御部5の制御コンピュータ51は、可動先端部60の目標移動量に対して、位置決め装置1の機構学演算により各リンク10,20,30,40の移動量を求め、図1及び図6に示すリニアアクチュエータ61〜64を制御する制御信号を生成する。その後、モータドライバ81〜84は、制御コンピュータ51で生成された制御信号を基に各リニアアクチュエータ61〜64を制御して、アーム10の基部リンク11、アーム20の基部リンク21、アーム30の基部リンク31、アーム40の基部リンク41を移動させることにより、4本のアーム10,20,30,40を動作させる。
【0036】
例えば、図2及び図3に示す4本のアーム10,20,30,40の何れも開いていない状態から、図16及び図17に示すように、アーム10の基部リンク11を外側(図17に於ける右側方向)へ移動することにより、可動先端部60を図17に於ける右方向へ移動することができる。また、図2及び図3に示す4本のアーム10,20,30,40の何れも開いていない状態から、図18及び図19に示すように、アーム30の基部リンク31を外側(図19に於ける左側方向)へ移動することにより、可動先端部60を図19に於ける左方向へ移動することができる。
【0037】
また、図2及び図3に示す4本のアーム10,20,30,40の何れも開いていない状態から、図20及び図21に示すように、アーム10の基部リンク11、アーム20の基部リンク21、アーム30の基部リンク31、アーム40の基部リンク41を全て外側へ放射状に移動することにより、可動先端部60を図21に於ける下方向(Z軸方向の下方向)へ移動することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態のパラレルメカニズム2を備えた位置決め装置1では、可動先端部60を位置決め装置1のベース3を基点とする回転中心8(図7参照)に対して、2自由度の回転動作が可能であり、またベース3に対して高さ方向への1自由度並進動作が可能である。
【0039】
また、本実施の形態の位置決め装置1では、例えば、対向する対の二本のアーム10、30をそれぞれ同方向へ動作させることで、側面視円弧型のばねを用いた第一ばね関節14、第二ばね関節16及び第三ばね関節15と、第一ばね関節34、第二ばね関節36及び第三ばね関節35とが屈曲し、可動先端部60は、これら二本のアーム10、30が存在する平面上を回転中心8(図7参照)を中心として回転することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態の位置決め装置1では、回転関節に(第一ばね関節、第二ばね関節及び第三ばね関節)に、側面視で円弧型のばね部材を用いることにより精密でかつ広い動作域を有するパラレルメカニズム及び当該パラレルメカニズムを用いた位置決め装置を実現できる。また、位置決め装置1を2自由度の回転動作と1自由度の並進動作に関して、任意の位置と角度に制御することができる。また、各アームの移動量を調節することにより、位置決め装置1の内力をばね関節のばね部材の拮抗力として高め、パラレルメカニズム2の剛性を向上し、位置精度を向上させることが可能である。さらに、バックラッシュのない滑らかな動作を実現できる位置決め装置1を小型・軽量に実現できる。
【0041】
さらに、各々のアームを向かい合わせ、第一ばね関節の円弧型のばね部材の屈曲部内面を互いに向き合う構造とした場合には、関節の拘束力を高めパラレルメカニズム2の剛性をさらに向上し、位置精度を向上させることが可能である。位置決め装置1では、第三ばね関節がわずかにねじれ方向へ動作し、この動作を許容するためによりパラレルメカニズム2の装置内部の内力が高まり、剛性を向上する効果が得られる。
【0042】
尚、本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。例えば、パラレルメカニズム2のアームは4組に限られず、2組、3組等でもよい。また、第一ばね関節の円弧型のばね部材の屈曲部外面が互いに向き合う構造としてもよい。さらに、第二ばね関節の円弧型のばね部材の屈曲部内面が上向きになるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のパラレルメカニズム及びパラレルメカニズムを用いた位置決め装置は、各種の位置決め装置利用でき、特に、光学部品の高精度位置決めなど、産業用ロボットに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 位置決め装置
2 パラレルメカニズム
3 ベース
5 制御部
10 アーム
11 基部リンク
12 中間リンク
13 上部リンク
14 第一ばね関節
15 第三ばね関節
16 第二ばね関節
20 アーム
21 基部リンク
22 中間リンク
23 上部リンク
24 第一ばね関節
25 第三ばね関節
26 第二ばね関節
30 アーム
31 基部リンク
32 中間リンク
33 上部リンク
34 第一ばね関節
35 第三ばね関節
36 第二ばね関節
40 アーム
41 基部リンク
42 中間リンク
43 上部リンク
44 第一ばね関節
45 第三ばね関節
46 第二ばね関節
51 制御コンピュータ
60 可動先端部
61 リニアアクチュエータ
62 リニアアクチュエータ
63 リニアアクチュエータ
64 リニアアクチュエータ
143 屈曲部
143A 屈曲部内面
143B 屈曲部外面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアームと、
前記各アームにより支持される1つの可動先端部と、
前記各アームに各々少なくとも1つ設けられた第一ばね関節と、
前記各アームの先端部と前記可動先端部との間に設けられた第二ばね関節と
を備えたことを特徴とするパラレルメカニズム。
【請求項2】
前記第一ばね関節及び第二ばね関節は、側面視、円弧型の屈曲部を備えた板ばねから構成されることを特徴とする請求項1に記載のパラレルメカニズム。
【請求項3】
前記アームは対向するように配置され、
当該対向配置された前記アームの前記第一ばね関節の前記屈曲部は、屈曲部内面が対向するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のパラレルメカニズム。
【請求項4】
前記第二ばね関節は、屈曲部内面が前記アームの延設方向側に向いていることを特徴とする請求項2又は3に記載のパラレルメカニズム。
【請求項5】
前記各アームには、前記第一ばね関節と前記第二前記との間に、前記第一ばね関節と同形状の第三ばね関節が各々設けられ、
1つのアームに設けられた前記第一ばね関節の回動軸と前記第三ばね関節の回動軸とは、互いに捻れの位置に配置されていることを特徴とする請求項2から4の何れかに記載のパラレルメカニズム。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載のパラレルメカニズムと、
当該パラレルメカニズムの各アームの基部を移動させるアクチュエータと
を備えたことを特徴とする位置決め装置。
【請求項7】
前記アクチュエータは、対向配置された前記アームの基部を離間又は近接させるように直線上を移動させるアクチュエータであることを特徴とする請求項6に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記アクチュエータを制御する制御部を備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載の位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−255485(P2011−255485A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134557(P2010−134557)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人科学技術振興機構「研究成果最適展開支援事業」委託研究
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】