パルスレーダ装置及びその距離検出方法
【課題】 本発明は、目標物からの反射信号を検知できないヌル点が発生しないホモダイン式のパルスレーダ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 送信高周波発振器12からの信号を高速矩形波OSC14の高速矩形波信号によってASK変換して出力する。ゲート19,21によって高速矩形波信号を遅延させたゲーティング信号とANDを取り、その出力値のレベルが最も大きいゲーティング信号の遅延時間を受信信号の遅延時間とし、この遅延時間から目標物までの距離を算出する。また低速の矩形信号を高速矩形信号に複合させることによって、他の装置からの干渉を防ぐ。
【解決手段】 送信高周波発振器12からの信号を高速矩形波OSC14の高速矩形波信号によってASK変換して出力する。ゲート19,21によって高速矩形波信号を遅延させたゲーティング信号とANDを取り、その出力値のレベルが最も大きいゲーティング信号の遅延時間を受信信号の遅延時間とし、この遅延時間から目標物までの距離を算出する。また低速の矩形信号を高速矩形信号に複合させることによって、他の装置からの干渉を防ぐ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を送信し、その反射波の信号から目標物までの距離を高精度に検知するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置では、現在、所定周波数(車載レーダの場合76GHz等)に変調されたパルスを送信波として放出し、対象物による反射波の遅延時間から対象物との距離を求めるパルス方式と、所定周波数範囲内で三角波FM変調を行った信号を送信して対象物に反射させ、送信波と反射波との周波数差を求めることによって対象物との距離を求めるFM−CW方式が一般に採用されている。
【0003】
従来のパルス方式のレーダは、送信部で用いる高周波信号と受信部のミキサで用いられる高周波信号に異なった周波数の信号を用い、中間周波数の信号(以下IF信号)としてその差の周波数を求め、このIF信号の振幅が最大になる遅延時間を検出することにより、目標物までの距離を検知している(例えば非特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、このパルス方式のレーダでは、高価な高周波発振器を送信部と受信部にそれぞれ1台づつ計2台必要とするので、レーダ装置の小型化、低コスト化の点において問題がある。
【0005】
またレーダ装置は、ミリ波信号を扱うため個々の部品が高価となる。そのため、1つの高周波発信器からの信号を送信部では変調し、受信部では周波数変換器に用いるホモダイン方式が一般に用いられる。ホモダイン方式では、1台の高周波発振器からの信号を送信部と受信部で共通に使用するため、送信波と受信波が逆位相となり反射波を検知できないヌルが生じるが、受信部に、例えば2台の受信周波数変換器(以下ミキサ)を備えて2系列で受信し、各ミキサへの入力として高周波発振器からの信号の位相を互いに90度違わせた信号を供給することによって、IF信号が両方ともヌルになるのを防いでいる(例えば非特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、このホモダイン方式の構成の場合においても、受信部にミキサとIF受信回路を2系統分必要となるため、やはり小型化、低コスト化に点において問題がある。
【非特許文献1】吉田孝著「改訂レーダ技術」社団法人電子情報通信学会、平成8年10月1日発行、p.74−75,p.175−177
【非特許文献2】BOSCH、p.5“SRR basic technical concept”、[online]、[平成15年2月14日検索]、インターネット<URL:www.ero.dk/EROWEB/SRD/UWB/Folien%20Hr.%20Reiche.ppt_1.ppt>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パルスレーダ装置を、送信部の高周波発振器の出力を受信部のミキサでも共用するホモダイン方式で構成した場合、静止した目標物を検知した場合の受信信号とは、送信信号が目標物までの距離の往復に要した時間分遅延したものであるので、一定周波数の送信信号とは遅延時間分の位相差が生じている。この位相差をΔθとすれば、
【0008】
【数1】
【0009】
となる。ただし(1)式でRはレーダと目標物との距離、λcは高周波信号の波長、ωc は高周波信号の角周波数、τは目標までの往復遅延時間である。
このとき、ミキサの出力信号h(t)は、
【0010】
【数2】
【0011】
となる。但し(2)式で、AはIF信号振幅で、送信部から受信ミキサ出力までの回線設計により決まる。またω0 は、パルス変調の基本角周波数、γはパルス変調の送信側初期位相である。
【0012】
なお、(2)式で、高周波の送信機出力の位相と、受信ミキサへの入力位相差は式簡略化のため、0度としている。
(2)式より、IF信号h(t)は、距離Rに対しλc/2周期で正弦波的に変化する。そして対象物との距離R=λc/8,3λc/8のとき反射波の信号が送信波と逆位相となるのでh(t)=0となり反射波が復調できないヌルが生じる。また更に対象物との距離が離れるとλc/4毎にh(t)=0となりヌルが生じる。このとき、レーダ受信信号は無くなり受信側では対象物を検知できない。
【0013】
このヌルが生じるポイント(ヌル点)は高周波の波長のオーダで発生する。例えば高周波信号の周波数を76GHzとすれば、その波長λc≒3.9mmなので、往復で3.9/4≒1mmとなり、目標物との距離が1mm変化する毎にヌル点が発生する。これに対応する為、従来のレーダ装置では、受信部にミキサを2つ備えて2系統とし、高周波発振器の原信号と、原信号を1/4位相を遅延させた信号の双方を用いて復調を行っていた。しかしながら、このホモダイン方式では受信側の高周波回路を2系統持つことになり装置が高価・大型化してしまう。
【0014】
またFM−CW方式では、近距離(cm単位)にある対象物との距離が正確に測定するには、変調幅が700MHz程度の高価なFM発振器が必要となり、やはり装置が高価になってしまう。よってFM−CW方式では、対象物との距離が近い場合、距離の測定が難しい。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたもので、装置の小型化、低コストが可能となるレーダ装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、近距離においても精度の高い計測を可能としたレーダ装置を提供することを課題とする。
【0016】
更に本発明は、他装置からの干渉を除去することができるレーダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるパルスレーダ装置は、送信の高周波と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置を前提とし、上記問題点を解決する為、発振手段、ASK変調手段、送信手段、受信手段、遅延時間検出手段、及び距離算出手段を備える。
【0018】
発振手段波、周波数変調された前記高周波信号を発振する。
ASK変調手段波、前記高周波信号をパルス振幅変調する。
送信手段は、前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する。
【0019】
受信手段は、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する。
遅延時間検出手段は、前記受信信号の遅延時間を検出する。
距離算出手段は、前記遅延時間から目標物までの距離を求める。
【0020】
この構成により目標物からの反射信号を検知できないヌル点が発生しないレーダ装置を構成することができ、また小型で低コストのレーダ装置を実現することが出来る。
また本発明によるパルスレーダ装置は、前記高周波信号より周波数が低い高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段と、前記高速矩形波信号より周波数が低い低速矩形波信号を発振する低速矩形波信号発振手段とを更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号を重畳した信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調する構成とすることも出来る。
【0021】
このような構成により、他のレーダ装置からの干渉を受けないレーダ装置とすることが出来る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、1つの高周波発振器による高周波信号を、送信部と受信部のミキサで共用しても出力にヌル点が発生しない、高精度で低コストであり、従来より小型化されたレーダ装置を実現できる。
【0023】
また検知距離が近距離であっても高精度な測定が可能なレーダ装置を実現することが出来る。
更に、他装置からの干渉を防ぐことができるので、複数のレーダ装置を至近距離に設置して使用した場合も高精度の検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。尚以下の例では、10mより近距離にある目標物を個別に精度良く識別し検知することを目的とした車載用のレーダ装置を例として説明しているが、本発明は車載用のレーダ装置に限定されるものではなく、水位の測定用のレーダ装置、遮断機での検知等、近距離での高精度な測定が可能、他装置からの干渉を除去できる、装置を安価・小型化できる等の本発明によるレーダ装置の特徴が有効な他の分野にも適用することが出来る。
【0025】
図1は、第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置では、送信部にfmOSC11、送信高周波発振器(VCO)12、ASKスイッチ回路13、高速矩形波OSC14及び送信アンテナ(T−ant)15を有し、また受信部にはローパスフィルタ(LPF)16、受信アンテナ(R−ant)17、第1の高周波ゲート(Gate1)18、第2のIF帯ゲート(Gate2)21、受信ミキサ(Mix)19、第1のデジタルシグナルプロセッサ(DSP1)24、帯域通過濾波器(BPF)22、I/Q検波器(I/Q−DET)23及び第2のデジタルシグナルプロセッサ(DSP2)20を有している。
【0026】
fmOSC11は、送信高周波発振器12に対して周波数fmの三角波信号を出力する。送信高周波発振器12は、電圧制御発振器で、fmOSC11から入力される直流電圧値に基づいて周波数変調を行い、入力電圧に比例した周波数を持つ周波数変調された高周波FM波を搬送波としてASKスイッチ回路13に出力する。ASKスイッチ回路13は、送信高周波発振器12から入力される搬送波を、高速矩形波OSC14からの矩形波によってスイッチングして、ASK(Amplitude Shift Keying)方式の変調を行なう。高速矩形波OSC14は検知するレーダが目標の最大距離の往復の遅延時間を一周期とする周波数f0(fmが76MHzの時は、例えば10MHz程度)の矩形波をASKスイッチ回路13に出力する。送信アンテナ15は、ASKスイッチ回路13から出力される送信信号を外部に放射する。
【0027】
ローパスフィルタ16は、高速矩形波OSC14の出力信号から周波数f0の基本波成分のみを抽出し、I/Q検波器23に出力する。受信アンテナ17は、送信アンテナ15から放射された送信信号が対象物に反射された反射波信号を受信し、受信信号として第1の高周波ゲート18に入力する。第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21は、高速動作するANDゲートで、第2のデジタルシグナルプロセッサ20からのゲーティング信号に基づいて入力信号をゲーティングし、出力する。受信ミキサ19は、送信高周波発振器12からのFM波によって第1の高周波ゲート18からの高周波信号を周波数変換する。第2のデジタルシグナルプロセッサ20は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの遅延指令信号に基づいて高速矩形波OSC14からのパルス信号を遅延させてゲーティング信号を生成し、第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21に出力する。帯域通過濾波器22は、第2のIF帯ゲート21の出力信号から周波数f0付近の成分を抽出しI/Q検波器23に出力する。I/Q検波器23は、ローパスフィルタ16の出力信号を基準位相として、帯域通過濾波器22からの入力信号の位相検波を行い、同相成分(Ich)及び直交成分(Qch)をそれぞれ第1のデジタルシグナルプロセッサ24に出力する。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号によってゲーティング信号の遅延時間を指示し、I/Q検波器23の出力を測定してレベルが最大になる時を受信信号の遅延時間τとして求め、この遅延時間τから目標物との距離Rを算出して出力する。
【0028】
図1の構成のレーダ装置において、送信高周波発振器12は、周波数変調された三角波等の高周波信号(以下FM波)を出力する。
図2に送信高周波発振器12から出力されるFM波を示す。
【0029】
同図の送信FM波31は、周期1/fm(周波数fm)、変調周波数幅ΔFの三角波となっており、この信号が振幅変調されて送信アンテナ16から放射される。そして受信アンテナ16で受信した信号32は、信号31より目標物との距離に比例して遅延が生じている。またこのFM波は一部が分岐され受信部の受信ミキサ19に供給される。
【0030】
送信部において、送信高周波発振器12から出力された送信部FM波は、図3に示す高速矩形波OSC14からの周波数f0、パルス幅Twの短いパルス信号(以下スイッチ信号)により、ASKスイッチ回路13で振幅変調を受け、送信アンテナ15から輻射される。
【0031】
図4に送信信号のスペクトラムを示す。
図4に示す送信信号は、中心周波数fT として、図3に示したスイッチ信号の周波数f0毎に成分を持ち、またその包絡線は、中心周波数fTの上下に1/Twの周波数(スイッチ信号のパルス幅Tw)の周期を持つ。また送信信号の中心周波数fT は全体のスペクトラムと共に図2に示す送信FM波31のように時間と共に、三角状に周波数が変化する。
【0032】
レーダ装置は、図4に示したような送信信号を輻射し、目標物からの反射波を受信アンテナ17によって受信する。
図5は、この受信高周波信号のスペクトラムを示す図である。
【0033】
同図の受信信号は、図4に示した送信信号のスペクトラムを、ビート周波数fb分だけシフトした中心周波数fR のスペクトラムを持ち、また周波数スペクトラムが、全体として図2に示す受信FM波32のように三角状に周波数がシフトする変化をしている。
【0034】
このビート周波数fbは、目標物までの距離R、FM変調の三角波周波数fm 、変調周波数幅ΔFから(3)式によって表される。
【0035】
【数3】
【0036】
ただし、上式においてcは光速である。
この受信高周波信号は、第1の高周波ゲート18によりゲーティングされ、第1の高周波ゲート18からはゲーティング信号がONの期間のみ入力信号が出力される。
【0037】
図6は、ゲーティング信号及び第1の高周波ゲート18の入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
第1の高周波ゲート18は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。
【0038】
図6(a)は、第1の高周波ゲート18への入力信号で、送信信号より遅延時間τだけ位相がずれている。また同図(b)は入力信号と遅延時間τm が一致しない場合のゲーティング信号、同図(c)はその出力信号、同図(d)は入力信号と遅延時間τmが一致した場合のゲーティング信号、同図(e)はその出力信号を示す。
【0039】
同図(b)のゲーティング信号は、第2のデジタルシグナルプロセッサ20が第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの遅延指令信号に基づいて、高速矩形波OSC14の出力信号を遅延させて生成したもので、図3に示したスイッチ信号と同一の周波数f0、同一のパルス幅Twを持つ。
【0040】
ゲーティング信号は送信信号に対してτm 遅延しており、同図(b)例では、このゲーティング信号の遅延時間τm≠τとなっており同図(a)の入力信号と同図(b)のゲーティング信号が同じ時間に信号が存在してる部分は無い。よって、この場合は第1の高周波ゲート18の出力は同図(c)の様に0となる。
【0041】
一方同図(d)の様にゲーティング信号の遅延時間τm =τの時、ゲーティング信号と受信信号の信号の位置が一致するので、同図(e)に示すように第1の高周波ゲート18からは、入信号がそのまま出力される。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、I/Q検波器23の出力を測定しながら第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号を出力して、遅延時間τm=τとなるゲーティング信号の遅延時間τm を求める。
【0042】
第1の高周波ゲート18からの高周波出力信号は、ミキサ19において送信高周波発振器12からの高周波FM波により周波数変換されIF信号として出力される。このIF信号のスペクトラムを図7に示す。
【0043】
ミキサ19では、送信信号と受信信号をミキシングしているので、両者の差分がIF信号として出力される。例えば、図5の周波数fR を中心としたスペクトラムと図4の周波数fT のみ検波(ASK変調されていないのでfm波となる)のスペクトラムの差分が図7の周波数f0+fb等のスペクトラムとなっている。
【0044】
ミキサ19から出力されるIF信号は第2のIF帯ゲート19により更にゲーティングされる。第2のIF帯ゲート21は、第1の高周波ゲート18と同様、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。第1のゲート18と第2のゲート19は同じゲーティング信号によって同時に動作し、またゲーティング信号は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの指示に基づいてゲーティングの遅延時間τm が順次変化するように制御されている。
【0045】
第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされたIF信号は、短いパルス幅であり、図7に示すように、スイッチング波の繰り返し周波数f0の整数倍の周波数を持つ多数の高調波成分(2f0,3f0・・・)を含む。よって、次の帯域通過濾波器22により、図7にBPFと示した必要となる基本波成分f0±fbの成分みを通過させて抽出する。
【0046】
またこの基本波成分f0は、図7に示すように周波数スペクトラムでは、パルス変調の基本波成分f0の上下にビート周波数fb分離れた周波数f0+fb、f0−fbの2つのスペクトラムを有する。
【0047】
このIF信号はI−Q検波器23によって、高速矩形波OSC14からローパスフィルタ16を介して入力される基本周波数f0の安定した信号とミキシングされ、この信号を基準位相として周波数がfbで同相成分Iと直交成分Qのビート信号fbを、図8に示すように出力する。この信号の大きさは、受信信号の遅延時間τとゲーティング信号の遅延時間τm が一致した時最大となる。
【0048】
第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、この出力値のレベルが最大になった時の第1及び第2のゲートのゲーティング信号の遅延時間τm から、目標物までの遅延時間τを求め、この遅延時間τから目標物までの距離Rを算出する。尚出力レベルとしては、第1のデジタルシグナルプロセッサ24が、例えばサンプル値の2乗和(I2+Q2 )を求めて用いたり、或いはI−Q検波器23の出力波形をFFT(高速フーリエ変換)し、fb成分スペクトラムを求めて用いる。
【0049】
遅延時間τと目標物までの距離Rの関係は、光速をcとすれば、(4)式で表せる。
【0050】
【数4】
【0051】
(4)式を用いなくても、ビート周波数fbは(3)式で示すように距離に比例しているので、この周波数を測定すれば、距離が検知できるかのように見える。この考えに基づいたものが従来技術のFM−CWレーダ方式であるが、FM−CWレーダ方式では検知距離1m以下のように非常に近い場合は、ビート周波数fbは非常に低くなり、周波数を正確に検知するのが難しい。また原理的に目標物の距離分解能をΔRとすれば、FM−CW方式の周波数変調幅ΔFとの関係は
【0052】
【数5】
【0053】
となり、分解能ΔRとして高精度な値、例えば20cmの分解能が必要な場合、(5)式より周波数変調幅ΔFは
【0054】
【数6】
【0055】
となる。しかし750MHzの周波数変調幅を、歪みを少なくしてFM変調するのは、非常に難しい。またその為のFM発振器は非常に高価なものとなってしまう。
第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、ビート周波数fbを測定するのではなく、ビート信号はゲーティングされた受信信号レベルの最大値を測定するための補助信号であり、またビート信号の周波数を求めるのではなくビート信号のレベルを計測してその値が最大となるゲーティング信号の遅延τm を求め、このゲーティングの遅延時間τm から目標物との距離Rを算出している。
【0056】
尚、第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、送信周波数変調(FM波)の波形として、図2に示した三角波を用いた場合を例として説明している。しかし第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、このFM波として三角形の代わりに他の波形の信号、例えば正弦波を用いても、ヌル点の発生しない信号がミキサ出力IFとなり、レーダ信号を検出することができる。FM波が三角波の場合は、ビート信号が三角波の上昇区間および下降区間の間は一定の周波数となるが、正弦波の場合にはビート周波数は常に変化しているので、ビート信号の処理が多少むずかしくなるが、レベル検知は上記した第1の実施形態と同様に可能である。
【0057】
次に第2の実施形態について説明する。尚以下の説明では、第1の実施形態と同様の部分は説明を省略する。
図9は、第2の実施形態のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0058】
図1に示した第1の実施形態の構成と比較すると、第2の実施形態の構成では、送信部に低速矩形波発振器81を更に備えている。
低速矩形波発振器81は、高速矩形波OSC14で生成されるスイッチ信号より低周波の矩形波信号を出力する。第2の実施形態のレーダ装置では、高速パルス信号であるスイッチ信号と、この低速矩形波発振器81による高速パルス信号より低い周波数信号との積の信号でASK変調することによって、近距離に他のレーダ装置があっても、受信側で他装置からの干渉を防ぐ効果が得られる。
【0059】
低速矩形波発振器81の出力波形を図10に、高速矩形波OSC14によって生成される高速スイッチ信号の波形を図11に示す。尚図11の信号は、基本的には、図3に示したスイッチ信号と同じものである。
【0060】
図10に示した低速矩形信号はスイッチ信号の周期1/f0より長い周期Ts、デューティ比が50%の矩形波信号となっている。尚車載用レーダ装置等近距離内に複数のレーダ装置がある環境では、各レーダ装置でこの低速矩形信号にそれぞれ周波数fsが異なった信号を用いる。
【0061】
図9の高速矩形波OSC14は低速矩形波発振器81から入力されるこの低速矩形信号と、図11に示した高速スイッチ信号の積を求め、図12に示す波形を出力する。
図12に示す複合したスイッチ信号は、Tsの周期を持ち、また図10に示した低速矩形信号に基づいてTs/2周期毎に図11のスイッチ信号の波形と、出力レベルが0の状態となる波形となっている。
【0062】
この複合したスイッチ信号を変調波として、ASKスイッチ回路13でFM高周波信号に対して2重のASK変調を行うと、送信信号の中心周波数fT 付近のスペクトラムは、図13に示す形となる。
【0063】
図13の第2の実施形態のレーダ装置の送信スペクトラムは、図4に示した第1の実施形態の場合の送信スペクトラムに比べると、図4で生じている各々の線スペクトラム(図13で太線で表現)を中心として新たに周波数fs(=1/Ts)毎にサイドバンドが広がった形にスペクトラムが生じている。例えば、周波数fT のスペクトラムを中心として両側に周波数fT −fs、fT+fsのスペクトラムが生じている。
【0064】
またこの送信信号の各スペクトラムは、第1の実施形態と同じく、図2に示した送信FM波31のように時間と共に、全体が三角波状に平行移動した形で変化する周波数変調を受けている。尚図13の送信信号のスペクトラムは、簡略化の為に、三角波状の変化をある短い時間の値に固定して表したものである。
【0065】
目標物からの反射信号は、受信アンテナ17によってレーダ装置に受信される。この受信高周波信号は、第1の実施形態と同じく、送信された高周波信号に比べ、中心周波数がビート周波数fbだけシフトした形となっているので、第1の高周波ゲート18によるゲーティング後、ミキサ19によって送信高周波発振器12からの高周波FM波により周波数変換されたIF信号は、図14の様になる。
【0066】
尚図14に示すように、IF信号のスペクトラムは、直流側の周波数fsのスペクトラムと周波数f0の下側サイドバンドf0−nfs(但しnは1,3,5の乗数)のスペクトラムがクロスし干渉し波形歪みとならないために、低速パルスの基本周波数fsは、高速パルスの基本周波数f0より十分低く選ぶ必要がある。nは10まで考慮すれば十分であるのでfsはf0の1/10以下とする。
【0067】
このIF信号は、第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされる。
図15は、ゲーティング信号及び第2のIF帯ゲート21の入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【0068】
第2のIF帯ゲート21は、第1の高周波ゲート18と同様、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。これにより、第1の高周波ゲート18が高周波動作のために十分に減衰が得られずに生じたノイズや、ミキサ19で生じたノイズを除去することが出来る。
【0069】
図15(a)は、図10に示した低速矩形信号である。同図(b)は第2のIF帯ゲート21への入力信号で、送信信号より遅延時間τだけ時間がずれている。また同図(c)は入力信号と位相が一致しない場合のゲーティング信号、同図(d)はその出力信号、同図(e)は入力信号と位相が一致した場合のゲーティング信号、同図(f)はその出力信号を示す。
【0070】
同図(c)例では、ゲーティング信号の遅延時間τm ≠受信信号の遅延時間τとなっており同図(b)の入力信号と同図(c)のゲーティング信号が同じ時間にONとならず重なっていないので、この場合は第1の高周波ゲート18の出力は同図(d)の様に0となる。
【0071】
一方同図(e)の様にゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τの時、同図(f)に示すように第2の高周波ゲート21からは、入信号がそのまま出力される。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、I/Q検波器23の出力を測定しながら第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号を出力して、遅延時間τm=τとなるゲーティング信号の遅延時間τm を求める。
【0072】
第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされたIF信号は、帯域通過濾波器22によりfbとfs成分及び2倍波以上が成分を除かれ、図14にBPFと示した必要となる基本波成分f0付近のみが抽出され通過する。そしてこの信号は、I−Q検波器23によって、高速矩形波OSC14からローパスフィルタ16を介して入力される基本周波数f0の安定した信号とミキシングされ、この信号を基準位相として同相成分Iと直交成分Qのビート信号が出力される。
【0073】
図16(a)は、第2のIF帯ゲート21の出力波形、同図(b)は帯域通過濾波器22の出力波形、同図(c)はI−Q検波器23から出力されるビート信号の波形を示す図である。尚同図(c)のI−Q検波器23の出力IとQはその出力レベルが異なるのみで、波形は同じになる。
【0074】
同図(a)は、ゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τの時のIF帯ゲート21の出力信号の波形で、この信号が帯域通過濾波器22を介してI−Q検波器23に入力されると、同図(c)に示す低速矩形信号の周波数fsとビート周波数fbを持つ波形の信号を出力する。
【0075】
第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、ゲーティング信号の遅延時間τm を変えながらI-Q検波器23の出力を調べ、最も出力信号レベルが高い時の遅延時間τmを受信信号の遅延時間τとする。
【0076】
図17にI−Q検波器23から出力されるビート信号のスペクトラムを示す。
同図に示す第2の実施形態のレーダ装置でのI−Q検波器23からの出力信号のスペクトラムは、図8に示した第1の実施形態のものと比較すると、低速パルス周波数fsの両側にビート周波数fb離れたの周波数fs−fb、fs+fbのスペクトラム成分を有することである。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、この2つの周波数のスペクトラムの大きさを測定し、出力レベルが最大となったときゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τであると判断する。尚出力レベルとしては、例えばサンプル値のそれぞれの2乗和(I2+Q2 )を用いたり、或いはI−Q検波器23の出力波形をFFT(高速フーリエ変換)し、fb成分スペクトラム若しくは周波数fs±fbの成分のスペクトラムの最大値を用いる。
【0077】
尚図17において、直流側のビート周波数fbと周波数fsの下側のサイドバンドfs−fbがクロスして干渉し、波形歪みが生じない為には、低速矩形信号の基本周波数fsは、ビート周波数fbの最大値の2倍以上の値である必要がある。
【0078】
この第2の実施形態のレーダ装置では、低速矩形信号の周波数fsを、各レーダにそれぞれに別個の値を設定することにより他装置からの干渉波を防ぐことができる。
尚上記例では低速矩形信号として、図10に示したデューティ50%の繰り返しパルスを用いた場合を示しているが、このような信号の代わりに、擬似ランダムコードを用いて生成したパルス列を低速矩形信号として用いることも出来る。この場合、各レーダ装置毎に固有のランダム系列を用い、受信部のI−Q検波器の出力で、自己が送信した擬似ランダムコードとの相関を取ることにより、他装置からの干渉を防ぐことができる。
【0079】
また図1及び図9に示した第1、第2の実施形態のレーダ装置では、第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21の2つのゲート回路を有し、2度のゲーティングを行っているが、ゲート回路に十分な減衰量を得られるものを用いることが出来れば、1つのゲート回路を有し、1度のみゲーティングを行う構成としても良い。
【0080】
(付記1) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置において、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調するASK変調手段と、
前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間から目標物までの距離を求める距離算出手段と
を備えるパルスレーダ装置。
【0081】
(付記2) 前記高周波信号は三角波であることを特徴とする付記1に記載のパルスレーダ装置。
(付記3) 前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする付記1又は2に記載のパルスレーダ装置。
【0082】
(付記4) 前記遅延時間検出手段は、前記高速矩形波信号を遅延させて生成したゲーティング信号と、前記受信信号と前記高周波信号との差を示すIF信号との積の信号を求め、当該信号の出力レベルが最も大きくなる前記ゲーティング信号の遅延時間を前記受信信号の遅延時間とすることを特徴とする付記3に記載のパルスレーダ装置。
【0083】
(付記5) 前記高周波信号より周波数が低い高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段と、前記高速矩形波信号より周波数が低い低速矩形波信号を発振する低速矩形波信号発振手段とを更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号の積の信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする付記1又は2に記載のパルスレーダ装置。
【0084】
(付記6) 前記低速矩形波信号は、前記高速矩形波信号の周波数の1/10以下で、前記送信信号と前記受信信号の周波数差を示すビート信号の周波数より2倍以上高い周波数を持つことを特徴とする付記5に記載のパルスレーダ装置。
【0085】
(付記7) 前記低速矩形波信号の周波数は、前記パルスレーダ装置毎に異なる値を持つことを特徴とする付記5又は6に記載のパルスレーダ装置。
(付記8) 前記低速矩形波信号は擬似ランダムコードを用いて生成することを特徴とする付記5乃至7の何れか1つに記載のパルスレーダ装置。
【0086】
(付記9) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置における目標物との距離の検出方法であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振し、
前記高周波信号をパルス振幅変調し、
前記パルス振幅変調された信号を送信信号として外部に放出し、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信し、
前記受信信号の遅延時間を検出し、
前記遅延時間から前記目標物までの距離を求める距離の検出方法。
【0087】
(付記10) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置における目標物との距離の検出方法であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振し、
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振し、
前記高速矩形波信号より周波数が小さい低速矩形波信号を発振し、
前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号の積の信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調し、
前記パルス振幅変調された信号を送信信号として外部に放出し、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信し、
前記受信信号の遅延時間を検出し、
前記遅延時間から前記目標物までの距離を求める距離の検出方法。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態における送信高周波発振器から出力される高周波信号を示す図である。
【図3】第1の実施形態における高速スイッチ信号の波形を示す図である。
【図4】第1の実施形態における送信信号のスペクトラムを示す図である。
【図5】第1の実施形態における受信信号のスペクトラムを示す図である。
【図6】ゲーティング信号及び第1の高周波ゲートの入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【図7】第1の実施形態におけるIF信号のスペクトラムを示す図である。
【図8】第1の実施形態におけるI−Q検波器から出力されるビート信号のスペクトラムを示す図である。
【図9】第2の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】低速矩形波発振器から出力される低速矩形信号波形を示す図である。
【図11】第2の実施形態における高速スイッチ信号の波形を示す図である。
【図12】第2の実施形態における複合した送信スイッチ信号の波形を示す図である。
【図13】第2の実施形態における送信スペクトラムを示す図である。
【図14】第2の実施形態におけるIF信号のスペクトラムを示す図である。
【図15】第2の実施形態におけるゲーティング信号及び第2のIF帯ゲートの入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【図16】第2の実施形態における第2のIF帯ゲート、帯域通過濾波器及びI−Q検波器の出力波形を示す図である。
【図17】第2の実施形態におけるI−Q検波器から出力されるビート信号のスペクトラムを示す図である。
【符号の説明】
【0089】
11 fmOSC
12 送信高周波発振器
13 ASKスイッチ回路
14 高速矩形波OSC
15 送信アンテナ
16 ローパスフィルタ
17 受信アンテナ
18 第1の高周波ゲート
19 受信ミキサ
20 第1のデジタルシグナルプロセッサ
21 第2のIF帯ゲート
22 帯域通過濾波器
23 I/Q検波器
24 第2のデジタルシグナルプロセッサ
81 低速矩形波発振器
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を送信し、その反射波の信号から目標物までの距離を高精度に検知するパルスレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置では、現在、所定周波数(車載レーダの場合76GHz等)に変調されたパルスを送信波として放出し、対象物による反射波の遅延時間から対象物との距離を求めるパルス方式と、所定周波数範囲内で三角波FM変調を行った信号を送信して対象物に反射させ、送信波と反射波との周波数差を求めることによって対象物との距離を求めるFM−CW方式が一般に採用されている。
【0003】
従来のパルス方式のレーダは、送信部で用いる高周波信号と受信部のミキサで用いられる高周波信号に異なった周波数の信号を用い、中間周波数の信号(以下IF信号)としてその差の周波数を求め、このIF信号の振幅が最大になる遅延時間を検出することにより、目標物までの距離を検知している(例えば非特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、このパルス方式のレーダでは、高価な高周波発振器を送信部と受信部にそれぞれ1台づつ計2台必要とするので、レーダ装置の小型化、低コスト化の点において問題がある。
【0005】
またレーダ装置は、ミリ波信号を扱うため個々の部品が高価となる。そのため、1つの高周波発信器からの信号を送信部では変調し、受信部では周波数変換器に用いるホモダイン方式が一般に用いられる。ホモダイン方式では、1台の高周波発振器からの信号を送信部と受信部で共通に使用するため、送信波と受信波が逆位相となり反射波を検知できないヌルが生じるが、受信部に、例えば2台の受信周波数変換器(以下ミキサ)を備えて2系列で受信し、各ミキサへの入力として高周波発振器からの信号の位相を互いに90度違わせた信号を供給することによって、IF信号が両方ともヌルになるのを防いでいる(例えば非特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、このホモダイン方式の構成の場合においても、受信部にミキサとIF受信回路を2系統分必要となるため、やはり小型化、低コスト化に点において問題がある。
【非特許文献1】吉田孝著「改訂レーダ技術」社団法人電子情報通信学会、平成8年10月1日発行、p.74−75,p.175−177
【非特許文献2】BOSCH、p.5“SRR basic technical concept”、[online]、[平成15年2月14日検索]、インターネット<URL:www.ero.dk/EROWEB/SRD/UWB/Folien%20Hr.%20Reiche.ppt_1.ppt>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パルスレーダ装置を、送信部の高周波発振器の出力を受信部のミキサでも共用するホモダイン方式で構成した場合、静止した目標物を検知した場合の受信信号とは、送信信号が目標物までの距離の往復に要した時間分遅延したものであるので、一定周波数の送信信号とは遅延時間分の位相差が生じている。この位相差をΔθとすれば、
【0008】
【数1】
【0009】
となる。ただし(1)式でRはレーダと目標物との距離、λcは高周波信号の波長、ωc は高周波信号の角周波数、τは目標までの往復遅延時間である。
このとき、ミキサの出力信号h(t)は、
【0010】
【数2】
【0011】
となる。但し(2)式で、AはIF信号振幅で、送信部から受信ミキサ出力までの回線設計により決まる。またω0 は、パルス変調の基本角周波数、γはパルス変調の送信側初期位相である。
【0012】
なお、(2)式で、高周波の送信機出力の位相と、受信ミキサへの入力位相差は式簡略化のため、0度としている。
(2)式より、IF信号h(t)は、距離Rに対しλc/2周期で正弦波的に変化する。そして対象物との距離R=λc/8,3λc/8のとき反射波の信号が送信波と逆位相となるのでh(t)=0となり反射波が復調できないヌルが生じる。また更に対象物との距離が離れるとλc/4毎にh(t)=0となりヌルが生じる。このとき、レーダ受信信号は無くなり受信側では対象物を検知できない。
【0013】
このヌルが生じるポイント(ヌル点)は高周波の波長のオーダで発生する。例えば高周波信号の周波数を76GHzとすれば、その波長λc≒3.9mmなので、往復で3.9/4≒1mmとなり、目標物との距離が1mm変化する毎にヌル点が発生する。これに対応する為、従来のレーダ装置では、受信部にミキサを2つ備えて2系統とし、高周波発振器の原信号と、原信号を1/4位相を遅延させた信号の双方を用いて復調を行っていた。しかしながら、このホモダイン方式では受信側の高周波回路を2系統持つことになり装置が高価・大型化してしまう。
【0014】
またFM−CW方式では、近距離(cm単位)にある対象物との距離が正確に測定するには、変調幅が700MHz程度の高価なFM発振器が必要となり、やはり装置が高価になってしまう。よってFM−CW方式では、対象物との距離が近い場合、距離の測定が難しい。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたもので、装置の小型化、低コストが可能となるレーダ装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、近距離においても精度の高い計測を可能としたレーダ装置を提供することを課題とする。
【0016】
更に本発明は、他装置からの干渉を除去することができるレーダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるパルスレーダ装置は、送信の高周波と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置を前提とし、上記問題点を解決する為、発振手段、ASK変調手段、送信手段、受信手段、遅延時間検出手段、及び距離算出手段を備える。
【0018】
発振手段波、周波数変調された前記高周波信号を発振する。
ASK変調手段波、前記高周波信号をパルス振幅変調する。
送信手段は、前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する。
【0019】
受信手段は、前記送信信号の反射波を受信信号として受信する。
遅延時間検出手段は、前記受信信号の遅延時間を検出する。
距離算出手段は、前記遅延時間から目標物までの距離を求める。
【0020】
この構成により目標物からの反射信号を検知できないヌル点が発生しないレーダ装置を構成することができ、また小型で低コストのレーダ装置を実現することが出来る。
また本発明によるパルスレーダ装置は、前記高周波信号より周波数が低い高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段と、前記高速矩形波信号より周波数が低い低速矩形波信号を発振する低速矩形波信号発振手段とを更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号を重畳した信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調する構成とすることも出来る。
【0021】
このような構成により、他のレーダ装置からの干渉を受けないレーダ装置とすることが出来る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、1つの高周波発振器による高周波信号を、送信部と受信部のミキサで共用しても出力にヌル点が発生しない、高精度で低コストであり、従来より小型化されたレーダ装置を実現できる。
【0023】
また検知距離が近距離であっても高精度な測定が可能なレーダ装置を実現することが出来る。
更に、他装置からの干渉を防ぐことができるので、複数のレーダ装置を至近距離に設置して使用した場合も高精度の検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。尚以下の例では、10mより近距離にある目標物を個別に精度良く識別し検知することを目的とした車載用のレーダ装置を例として説明しているが、本発明は車載用のレーダ装置に限定されるものではなく、水位の測定用のレーダ装置、遮断機での検知等、近距離での高精度な測定が可能、他装置からの干渉を除去できる、装置を安価・小型化できる等の本発明によるレーダ装置の特徴が有効な他の分野にも適用することが出来る。
【0025】
図1は、第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置では、送信部にfmOSC11、送信高周波発振器(VCO)12、ASKスイッチ回路13、高速矩形波OSC14及び送信アンテナ(T−ant)15を有し、また受信部にはローパスフィルタ(LPF)16、受信アンテナ(R−ant)17、第1の高周波ゲート(Gate1)18、第2のIF帯ゲート(Gate2)21、受信ミキサ(Mix)19、第1のデジタルシグナルプロセッサ(DSP1)24、帯域通過濾波器(BPF)22、I/Q検波器(I/Q−DET)23及び第2のデジタルシグナルプロセッサ(DSP2)20を有している。
【0026】
fmOSC11は、送信高周波発振器12に対して周波数fmの三角波信号を出力する。送信高周波発振器12は、電圧制御発振器で、fmOSC11から入力される直流電圧値に基づいて周波数変調を行い、入力電圧に比例した周波数を持つ周波数変調された高周波FM波を搬送波としてASKスイッチ回路13に出力する。ASKスイッチ回路13は、送信高周波発振器12から入力される搬送波を、高速矩形波OSC14からの矩形波によってスイッチングして、ASK(Amplitude Shift Keying)方式の変調を行なう。高速矩形波OSC14は検知するレーダが目標の最大距離の往復の遅延時間を一周期とする周波数f0(fmが76MHzの時は、例えば10MHz程度)の矩形波をASKスイッチ回路13に出力する。送信アンテナ15は、ASKスイッチ回路13から出力される送信信号を外部に放射する。
【0027】
ローパスフィルタ16は、高速矩形波OSC14の出力信号から周波数f0の基本波成分のみを抽出し、I/Q検波器23に出力する。受信アンテナ17は、送信アンテナ15から放射された送信信号が対象物に反射された反射波信号を受信し、受信信号として第1の高周波ゲート18に入力する。第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21は、高速動作するANDゲートで、第2のデジタルシグナルプロセッサ20からのゲーティング信号に基づいて入力信号をゲーティングし、出力する。受信ミキサ19は、送信高周波発振器12からのFM波によって第1の高周波ゲート18からの高周波信号を周波数変換する。第2のデジタルシグナルプロセッサ20は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの遅延指令信号に基づいて高速矩形波OSC14からのパルス信号を遅延させてゲーティング信号を生成し、第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21に出力する。帯域通過濾波器22は、第2のIF帯ゲート21の出力信号から周波数f0付近の成分を抽出しI/Q検波器23に出力する。I/Q検波器23は、ローパスフィルタ16の出力信号を基準位相として、帯域通過濾波器22からの入力信号の位相検波を行い、同相成分(Ich)及び直交成分(Qch)をそれぞれ第1のデジタルシグナルプロセッサ24に出力する。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号によってゲーティング信号の遅延時間を指示し、I/Q検波器23の出力を測定してレベルが最大になる時を受信信号の遅延時間τとして求め、この遅延時間τから目標物との距離Rを算出して出力する。
【0028】
図1の構成のレーダ装置において、送信高周波発振器12は、周波数変調された三角波等の高周波信号(以下FM波)を出力する。
図2に送信高周波発振器12から出力されるFM波を示す。
【0029】
同図の送信FM波31は、周期1/fm(周波数fm)、変調周波数幅ΔFの三角波となっており、この信号が振幅変調されて送信アンテナ16から放射される。そして受信アンテナ16で受信した信号32は、信号31より目標物との距離に比例して遅延が生じている。またこのFM波は一部が分岐され受信部の受信ミキサ19に供給される。
【0030】
送信部において、送信高周波発振器12から出力された送信部FM波は、図3に示す高速矩形波OSC14からの周波数f0、パルス幅Twの短いパルス信号(以下スイッチ信号)により、ASKスイッチ回路13で振幅変調を受け、送信アンテナ15から輻射される。
【0031】
図4に送信信号のスペクトラムを示す。
図4に示す送信信号は、中心周波数fT として、図3に示したスイッチ信号の周波数f0毎に成分を持ち、またその包絡線は、中心周波数fTの上下に1/Twの周波数(スイッチ信号のパルス幅Tw)の周期を持つ。また送信信号の中心周波数fT は全体のスペクトラムと共に図2に示す送信FM波31のように時間と共に、三角状に周波数が変化する。
【0032】
レーダ装置は、図4に示したような送信信号を輻射し、目標物からの反射波を受信アンテナ17によって受信する。
図5は、この受信高周波信号のスペクトラムを示す図である。
【0033】
同図の受信信号は、図4に示した送信信号のスペクトラムを、ビート周波数fb分だけシフトした中心周波数fR のスペクトラムを持ち、また周波数スペクトラムが、全体として図2に示す受信FM波32のように三角状に周波数がシフトする変化をしている。
【0034】
このビート周波数fbは、目標物までの距離R、FM変調の三角波周波数fm 、変調周波数幅ΔFから(3)式によって表される。
【0035】
【数3】
【0036】
ただし、上式においてcは光速である。
この受信高周波信号は、第1の高周波ゲート18によりゲーティングされ、第1の高周波ゲート18からはゲーティング信号がONの期間のみ入力信号が出力される。
【0037】
図6は、ゲーティング信号及び第1の高周波ゲート18の入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
第1の高周波ゲート18は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。
【0038】
図6(a)は、第1の高周波ゲート18への入力信号で、送信信号より遅延時間τだけ位相がずれている。また同図(b)は入力信号と遅延時間τm が一致しない場合のゲーティング信号、同図(c)はその出力信号、同図(d)は入力信号と遅延時間τmが一致した場合のゲーティング信号、同図(e)はその出力信号を示す。
【0039】
同図(b)のゲーティング信号は、第2のデジタルシグナルプロセッサ20が第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの遅延指令信号に基づいて、高速矩形波OSC14の出力信号を遅延させて生成したもので、図3に示したスイッチ信号と同一の周波数f0、同一のパルス幅Twを持つ。
【0040】
ゲーティング信号は送信信号に対してτm 遅延しており、同図(b)例では、このゲーティング信号の遅延時間τm≠τとなっており同図(a)の入力信号と同図(b)のゲーティング信号が同じ時間に信号が存在してる部分は無い。よって、この場合は第1の高周波ゲート18の出力は同図(c)の様に0となる。
【0041】
一方同図(d)の様にゲーティング信号の遅延時間τm =τの時、ゲーティング信号と受信信号の信号の位置が一致するので、同図(e)に示すように第1の高周波ゲート18からは、入信号がそのまま出力される。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、I/Q検波器23の出力を測定しながら第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号を出力して、遅延時間τm=τとなるゲーティング信号の遅延時間τm を求める。
【0042】
第1の高周波ゲート18からの高周波出力信号は、ミキサ19において送信高周波発振器12からの高周波FM波により周波数変換されIF信号として出力される。このIF信号のスペクトラムを図7に示す。
【0043】
ミキサ19では、送信信号と受信信号をミキシングしているので、両者の差分がIF信号として出力される。例えば、図5の周波数fR を中心としたスペクトラムと図4の周波数fT のみ検波(ASK変調されていないのでfm波となる)のスペクトラムの差分が図7の周波数f0+fb等のスペクトラムとなっている。
【0044】
ミキサ19から出力されるIF信号は第2のIF帯ゲート19により更にゲーティングされる。第2のIF帯ゲート21は、第1の高周波ゲート18と同様、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。第1のゲート18と第2のゲート19は同じゲーティング信号によって同時に動作し、またゲーティング信号は、第1のデジタルシグナルプロセッサ24からの指示に基づいてゲーティングの遅延時間τm が順次変化するように制御されている。
【0045】
第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされたIF信号は、短いパルス幅であり、図7に示すように、スイッチング波の繰り返し周波数f0の整数倍の周波数を持つ多数の高調波成分(2f0,3f0・・・)を含む。よって、次の帯域通過濾波器22により、図7にBPFと示した必要となる基本波成分f0±fbの成分みを通過させて抽出する。
【0046】
またこの基本波成分f0は、図7に示すように周波数スペクトラムでは、パルス変調の基本波成分f0の上下にビート周波数fb分離れた周波数f0+fb、f0−fbの2つのスペクトラムを有する。
【0047】
このIF信号はI−Q検波器23によって、高速矩形波OSC14からローパスフィルタ16を介して入力される基本周波数f0の安定した信号とミキシングされ、この信号を基準位相として周波数がfbで同相成分Iと直交成分Qのビート信号fbを、図8に示すように出力する。この信号の大きさは、受信信号の遅延時間τとゲーティング信号の遅延時間τm が一致した時最大となる。
【0048】
第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、この出力値のレベルが最大になった時の第1及び第2のゲートのゲーティング信号の遅延時間τm から、目標物までの遅延時間τを求め、この遅延時間τから目標物までの距離Rを算出する。尚出力レベルとしては、第1のデジタルシグナルプロセッサ24が、例えばサンプル値の2乗和(I2+Q2 )を求めて用いたり、或いはI−Q検波器23の出力波形をFFT(高速フーリエ変換)し、fb成分スペクトラムを求めて用いる。
【0049】
遅延時間τと目標物までの距離Rの関係は、光速をcとすれば、(4)式で表せる。
【0050】
【数4】
【0051】
(4)式を用いなくても、ビート周波数fbは(3)式で示すように距離に比例しているので、この周波数を測定すれば、距離が検知できるかのように見える。この考えに基づいたものが従来技術のFM−CWレーダ方式であるが、FM−CWレーダ方式では検知距離1m以下のように非常に近い場合は、ビート周波数fbは非常に低くなり、周波数を正確に検知するのが難しい。また原理的に目標物の距離分解能をΔRとすれば、FM−CW方式の周波数変調幅ΔFとの関係は
【0052】
【数5】
【0053】
となり、分解能ΔRとして高精度な値、例えば20cmの分解能が必要な場合、(5)式より周波数変調幅ΔFは
【0054】
【数6】
【0055】
となる。しかし750MHzの周波数変調幅を、歪みを少なくしてFM変調するのは、非常に難しい。またその為のFM発振器は非常に高価なものとなってしまう。
第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、ビート周波数fbを測定するのではなく、ビート信号はゲーティングされた受信信号レベルの最大値を測定するための補助信号であり、またビート信号の周波数を求めるのではなくビート信号のレベルを計測してその値が最大となるゲーティング信号の遅延τm を求め、このゲーティングの遅延時間τm から目標物との距離Rを算出している。
【0056】
尚、第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、送信周波数変調(FM波)の波形として、図2に示した三角波を用いた場合を例として説明している。しかし第1の実施形態及び後述する第2の実施形態のレーダ装置では、このFM波として三角形の代わりに他の波形の信号、例えば正弦波を用いても、ヌル点の発生しない信号がミキサ出力IFとなり、レーダ信号を検出することができる。FM波が三角波の場合は、ビート信号が三角波の上昇区間および下降区間の間は一定の周波数となるが、正弦波の場合にはビート周波数は常に変化しているので、ビート信号の処理が多少むずかしくなるが、レベル検知は上記した第1の実施形態と同様に可能である。
【0057】
次に第2の実施形態について説明する。尚以下の説明では、第1の実施形態と同様の部分は説明を省略する。
図9は、第2の実施形態のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0058】
図1に示した第1の実施形態の構成と比較すると、第2の実施形態の構成では、送信部に低速矩形波発振器81を更に備えている。
低速矩形波発振器81は、高速矩形波OSC14で生成されるスイッチ信号より低周波の矩形波信号を出力する。第2の実施形態のレーダ装置では、高速パルス信号であるスイッチ信号と、この低速矩形波発振器81による高速パルス信号より低い周波数信号との積の信号でASK変調することによって、近距離に他のレーダ装置があっても、受信側で他装置からの干渉を防ぐ効果が得られる。
【0059】
低速矩形波発振器81の出力波形を図10に、高速矩形波OSC14によって生成される高速スイッチ信号の波形を図11に示す。尚図11の信号は、基本的には、図3に示したスイッチ信号と同じものである。
【0060】
図10に示した低速矩形信号はスイッチ信号の周期1/f0より長い周期Ts、デューティ比が50%の矩形波信号となっている。尚車載用レーダ装置等近距離内に複数のレーダ装置がある環境では、各レーダ装置でこの低速矩形信号にそれぞれ周波数fsが異なった信号を用いる。
【0061】
図9の高速矩形波OSC14は低速矩形波発振器81から入力されるこの低速矩形信号と、図11に示した高速スイッチ信号の積を求め、図12に示す波形を出力する。
図12に示す複合したスイッチ信号は、Tsの周期を持ち、また図10に示した低速矩形信号に基づいてTs/2周期毎に図11のスイッチ信号の波形と、出力レベルが0の状態となる波形となっている。
【0062】
この複合したスイッチ信号を変調波として、ASKスイッチ回路13でFM高周波信号に対して2重のASK変調を行うと、送信信号の中心周波数fT 付近のスペクトラムは、図13に示す形となる。
【0063】
図13の第2の実施形態のレーダ装置の送信スペクトラムは、図4に示した第1の実施形態の場合の送信スペクトラムに比べると、図4で生じている各々の線スペクトラム(図13で太線で表現)を中心として新たに周波数fs(=1/Ts)毎にサイドバンドが広がった形にスペクトラムが生じている。例えば、周波数fT のスペクトラムを中心として両側に周波数fT −fs、fT+fsのスペクトラムが生じている。
【0064】
またこの送信信号の各スペクトラムは、第1の実施形態と同じく、図2に示した送信FM波31のように時間と共に、全体が三角波状に平行移動した形で変化する周波数変調を受けている。尚図13の送信信号のスペクトラムは、簡略化の為に、三角波状の変化をある短い時間の値に固定して表したものである。
【0065】
目標物からの反射信号は、受信アンテナ17によってレーダ装置に受信される。この受信高周波信号は、第1の実施形態と同じく、送信された高周波信号に比べ、中心周波数がビート周波数fbだけシフトした形となっているので、第1の高周波ゲート18によるゲーティング後、ミキサ19によって送信高周波発振器12からの高周波FM波により周波数変換されたIF信号は、図14の様になる。
【0066】
尚図14に示すように、IF信号のスペクトラムは、直流側の周波数fsのスペクトラムと周波数f0の下側サイドバンドf0−nfs(但しnは1,3,5の乗数)のスペクトラムがクロスし干渉し波形歪みとならないために、低速パルスの基本周波数fsは、高速パルスの基本周波数f0より十分低く選ぶ必要がある。nは10まで考慮すれば十分であるのでfsはf0の1/10以下とする。
【0067】
このIF信号は、第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされる。
図15は、ゲーティング信号及び第2のIF帯ゲート21の入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【0068】
第2のIF帯ゲート21は、第1の高周波ゲート18と同様、第1のデジタルシグナルプロセッサ24から供給されるゲーティング信号がONである期間には入力信号をそのまま出力し、ゲーティング信号がOFFであるときは、入力信号は遮断されて出力しない。これにより、第1の高周波ゲート18が高周波動作のために十分に減衰が得られずに生じたノイズや、ミキサ19で生じたノイズを除去することが出来る。
【0069】
図15(a)は、図10に示した低速矩形信号である。同図(b)は第2のIF帯ゲート21への入力信号で、送信信号より遅延時間τだけ時間がずれている。また同図(c)は入力信号と位相が一致しない場合のゲーティング信号、同図(d)はその出力信号、同図(e)は入力信号と位相が一致した場合のゲーティング信号、同図(f)はその出力信号を示す。
【0070】
同図(c)例では、ゲーティング信号の遅延時間τm ≠受信信号の遅延時間τとなっており同図(b)の入力信号と同図(c)のゲーティング信号が同じ時間にONとならず重なっていないので、この場合は第1の高周波ゲート18の出力は同図(d)の様に0となる。
【0071】
一方同図(e)の様にゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τの時、同図(f)に示すように第2の高周波ゲート21からは、入信号がそのまま出力される。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、I/Q検波器23の出力を測定しながら第2のデジタルシグナルプロセッサ20に遅延指令信号を出力して、遅延時間τm=τとなるゲーティング信号の遅延時間τm を求める。
【0072】
第2のIF帯ゲート21によってゲーティングされたIF信号は、帯域通過濾波器22によりfbとfs成分及び2倍波以上が成分を除かれ、図14にBPFと示した必要となる基本波成分f0付近のみが抽出され通過する。そしてこの信号は、I−Q検波器23によって、高速矩形波OSC14からローパスフィルタ16を介して入力される基本周波数f0の安定した信号とミキシングされ、この信号を基準位相として同相成分Iと直交成分Qのビート信号が出力される。
【0073】
図16(a)は、第2のIF帯ゲート21の出力波形、同図(b)は帯域通過濾波器22の出力波形、同図(c)はI−Q検波器23から出力されるビート信号の波形を示す図である。尚同図(c)のI−Q検波器23の出力IとQはその出力レベルが異なるのみで、波形は同じになる。
【0074】
同図(a)は、ゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τの時のIF帯ゲート21の出力信号の波形で、この信号が帯域通過濾波器22を介してI−Q検波器23に入力されると、同図(c)に示す低速矩形信号の周波数fsとビート周波数fbを持つ波形の信号を出力する。
【0075】
第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、ゲーティング信号の遅延時間τm を変えながらI-Q検波器23の出力を調べ、最も出力信号レベルが高い時の遅延時間τmを受信信号の遅延時間τとする。
【0076】
図17にI−Q検波器23から出力されるビート信号のスペクトラムを示す。
同図に示す第2の実施形態のレーダ装置でのI−Q検波器23からの出力信号のスペクトラムは、図8に示した第1の実施形態のものと比較すると、低速パルス周波数fsの両側にビート周波数fb離れたの周波数fs−fb、fs+fbのスペクトラム成分を有することである。第1のデジタルシグナルプロセッサ24は、この2つの周波数のスペクトラムの大きさを測定し、出力レベルが最大となったときゲーティング信号の遅延時間τm =受信信号の遅延時間τであると判断する。尚出力レベルとしては、例えばサンプル値のそれぞれの2乗和(I2+Q2 )を用いたり、或いはI−Q検波器23の出力波形をFFT(高速フーリエ変換)し、fb成分スペクトラム若しくは周波数fs±fbの成分のスペクトラムの最大値を用いる。
【0077】
尚図17において、直流側のビート周波数fbと周波数fsの下側のサイドバンドfs−fbがクロスして干渉し、波形歪みが生じない為には、低速矩形信号の基本周波数fsは、ビート周波数fbの最大値の2倍以上の値である必要がある。
【0078】
この第2の実施形態のレーダ装置では、低速矩形信号の周波数fsを、各レーダにそれぞれに別個の値を設定することにより他装置からの干渉波を防ぐことができる。
尚上記例では低速矩形信号として、図10に示したデューティ50%の繰り返しパルスを用いた場合を示しているが、このような信号の代わりに、擬似ランダムコードを用いて生成したパルス列を低速矩形信号として用いることも出来る。この場合、各レーダ装置毎に固有のランダム系列を用い、受信部のI−Q検波器の出力で、自己が送信した擬似ランダムコードとの相関を取ることにより、他装置からの干渉を防ぐことができる。
【0079】
また図1及び図9に示した第1、第2の実施形態のレーダ装置では、第1の高周波ゲート18及び第2のIF帯ゲート21の2つのゲート回路を有し、2度のゲーティングを行っているが、ゲート回路に十分な減衰量を得られるものを用いることが出来れば、1つのゲート回路を有し、1度のみゲーティングを行う構成としても良い。
【0080】
(付記1) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置において、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調するASK変調手段と、
前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間から目標物までの距離を求める距離算出手段と
を備えるパルスレーダ装置。
【0081】
(付記2) 前記高周波信号は三角波であることを特徴とする付記1に記載のパルスレーダ装置。
(付記3) 前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする付記1又は2に記載のパルスレーダ装置。
【0082】
(付記4) 前記遅延時間検出手段は、前記高速矩形波信号を遅延させて生成したゲーティング信号と、前記受信信号と前記高周波信号との差を示すIF信号との積の信号を求め、当該信号の出力レベルが最も大きくなる前記ゲーティング信号の遅延時間を前記受信信号の遅延時間とすることを特徴とする付記3に記載のパルスレーダ装置。
【0083】
(付記5) 前記高周波信号より周波数が低い高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段と、前記高速矩形波信号より周波数が低い低速矩形波信号を発振する低速矩形波信号発振手段とを更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号の積の信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする付記1又は2に記載のパルスレーダ装置。
【0084】
(付記6) 前記低速矩形波信号は、前記高速矩形波信号の周波数の1/10以下で、前記送信信号と前記受信信号の周波数差を示すビート信号の周波数より2倍以上高い周波数を持つことを特徴とする付記5に記載のパルスレーダ装置。
【0085】
(付記7) 前記低速矩形波信号の周波数は、前記パルスレーダ装置毎に異なる値を持つことを特徴とする付記5又は6に記載のパルスレーダ装置。
(付記8) 前記低速矩形波信号は擬似ランダムコードを用いて生成することを特徴とする付記5乃至7の何れか1つに記載のパルスレーダ装置。
【0086】
(付記9) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置における目標物との距離の検出方法であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振し、
前記高周波信号をパルス振幅変調し、
前記パルス振幅変調された信号を送信信号として外部に放出し、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信し、
前記受信信号の遅延時間を検出し、
前記遅延時間から前記目標物までの距離を求める距離の検出方法。
【0087】
(付記10) 送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置における目標物との距離の検出方法であって、
周波数変調された前記高周波信号を発振し、
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振し、
前記高速矩形波信号より周波数が小さい低速矩形波信号を発振し、
前記高速矩形波信号と前記低速矩形波信号の積の信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調し、
前記パルス振幅変調された信号を送信信号として外部に放出し、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信し、
前記受信信号の遅延時間を検出し、
前記遅延時間から前記目標物までの距離を求める距離の検出方法。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態における送信高周波発振器から出力される高周波信号を示す図である。
【図3】第1の実施形態における高速スイッチ信号の波形を示す図である。
【図4】第1の実施形態における送信信号のスペクトラムを示す図である。
【図5】第1の実施形態における受信信号のスペクトラムを示す図である。
【図6】ゲーティング信号及び第1の高周波ゲートの入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【図7】第1の実施形態におけるIF信号のスペクトラムを示す図である。
【図8】第1の実施形態におけるI−Q検波器から出力されるビート信号のスペクトラムを示す図である。
【図9】第2の実施形態におけるレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】低速矩形波発振器から出力される低速矩形信号波形を示す図である。
【図11】第2の実施形態における高速スイッチ信号の波形を示す図である。
【図12】第2の実施形態における複合した送信スイッチ信号の波形を示す図である。
【図13】第2の実施形態における送信スペクトラムを示す図である。
【図14】第2の実施形態におけるIF信号のスペクトラムを示す図である。
【図15】第2の実施形態におけるゲーティング信号及び第2のIF帯ゲートの入力信号と、出力信号の関係を示す図である。
【図16】第2の実施形態における第2のIF帯ゲート、帯域通過濾波器及びI−Q検波器の出力波形を示す図である。
【図17】第2の実施形態におけるI−Q検波器から出力されるビート信号のスペクトラムを示す図である。
【符号の説明】
【0089】
11 fmOSC
12 送信高周波発振器
13 ASKスイッチ回路
14 高速矩形波OSC
15 送信アンテナ
16 ローパスフィルタ
17 受信アンテナ
18 第1の高周波ゲート
19 受信ミキサ
20 第1のデジタルシグナルプロセッサ
21 第2のIF帯ゲート
22 帯域通過濾波器
23 I/Q検波器
24 第2のデジタルシグナルプロセッサ
81 低速矩形波発振器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置において、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調するASK変調手段と、
前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間から目標物までの距離を求める距離算出手段と
を備えるパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、
前記遅延時間検出手段は、前記高速矩形波信号を遅延させて生成したゲーティング信号と、前記受信信号と前記高周波信号との差を示すIF信号との積の信号を求め、当該信号の出力レベルが最も大きくなる前記ゲーティング信号の遅延時間を前記受信信号の遅延時間とすることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記出力レベルは、IF信号がI−Q検波器によって変換されて得られる信号の大きさであることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
前記高周波信号は三角波であることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項1】
送信の高周波信号発振器と受信周波数変換に同じ周波数の高周波信号を用いるホモダイン式のパルスレーダ装置において、
周波数変調された前記高周波信号を発振する発振手段と、
前記高周波信号をパルス振幅変調するASK変調手段と、
前記ASK変調手段によって変調された信号を送信信号として外部に放出する送信手段と、
前記送信信号の反射波を受信信号として受信する受信手段と、
前記受信信号の遅延時間を検出する遅延時間検出手段と、
前記遅延時間から目標物までの距離を求める距離算出手段と
を備えるパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、前記ASK変調手段は、前記高速矩形波信号によってスイッチングして前記高周波信号をパルス振幅変調することを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記高周波信号より周波数が小さい高速矩形波信号を発振する高速矩形波発振手段を更に備え、
前記遅延時間検出手段は、前記高速矩形波信号を遅延させて生成したゲーティング信号と、前記受信信号と前記高周波信号との差を示すIF信号との積の信号を求め、当該信号の出力レベルが最も大きくなる前記ゲーティング信号の遅延時間を前記受信信号の遅延時間とすることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記出力レベルは、IF信号がI−Q検波器によって変換されて得られる信号の大きさであることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
前記高周波信号は三角波であることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−177983(P2006−177983A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86828(P2006−86828)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【分割の表示】特願2003−52387(P2003−52387)の分割
【原出願日】平成15年2月28日(2003.2.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【分割の表示】特願2003−52387(P2003−52387)の分割
【原出願日】平成15年2月28日(2003.2.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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