パワーステアリング装置
【課題】作動油の粘性変化により配管等に生ずる圧力損失に基づいた操舵アシスト力の変化を十分に抑制し得るパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 操舵角センサ73によって検出される操舵角θに基づいて推定された操舵角速度ω及びタンク内油温推定部90において演算(推定)されたタンク内油温Tfに基づき、操舵角速度ωが高いほど及びタンク内油温Tfが低いほど電動モータ50を駆動制御するためのアシスト電流Ioが増大するように補正制御を行うこととした。
【解決手段】 操舵角センサ73によって検出される操舵角θに基づいて推定された操舵角速度ω及びタンク内油温推定部90において演算(推定)されたタンク内油温Tfに基づき、操舵角速度ωが高いほど及びタンク内油温Tfが低いほど電動モータ50を駆動制御するためのアシスト電流Ioが増大するように補正制御を行うこととした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に適用され、油圧により運転者の操舵力をアシストするパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば以下の特許文献1に記載された従来のパワーステアリング装置は、双方向ポンプを電動モータにより回転駆動してパワーシリンダの左右の圧力室に油圧を給排することによって操舵力をアシストするように構成されたもので、電動モータの単位時間あたりの回転数から推定した油温に基づいて電動モータを駆動制御することで、当該油温変化(粘度変化)に基づく操舵アシスト力の変化を抑制し、これによって、操舵フィーリングの向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−143026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置では、作動油の粘性変化に基づきポンプや配管等に発生する圧力損失までは考慮されていないことから、かかる圧力損失に基づく操舵アシスト力の変化について十分な抑制が図れない、という問題があった。
【0005】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたものであり、作動油の粘性変化により配管等に生ずる圧力損失に基づいた操舵アシスト力の変化を十分に抑制し得るパワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、とりわけ、流速(操舵角速度)及び液温に基づき、流速(操舵角速度)が高いほど及び液温が低いほど電動モータを駆動制御するための電流指令値が増大するように補正制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本願発明によれば、作動油の粘性変化によって配管等に生ずる圧力損失に基づいた操舵アシスト力変化の十分な抑制に供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】図1に示す油圧供給手段の構成を示す縦断面図である。
【図3】図2に示すコントロールユニットの制御ブロック図である。
【図4】図3に示す補正制御電流演算部の制御ブロック図である。
【図5】図4に示す補正制御電流の演算に供するマップである。
【図6】図4に示すリミット処理部のリミット処理に供するマップである。
【図7】図3に示す補正制御電流演算部の制御内容を示すフローチャートである。
【図8】図3に示すタンク内油温演算部の制御ブロック図である。
【図9】図8に示すタンク内油温演算部の制御内容を示すフローチャートである。
【図10】図3に示す自己保持機能制御部の制御内容を示すフローチャートである。
【図11】イグニッションオフ後におけるタンク内油温推定値、FET推定温度及びタンク内油温実測値の各推移を示す表である。
【図12】図3に示す自己保持機能制御部の基本制御に係るフローチャートである。
【図13】従来のパワーステアリング装置の油温変化による操舵力の変化を示す表である。
【図14】本発明に係るパワーステアリング装置の油温変化による操舵力の変化を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願パワーステアリング装置の実施形態につき、図面に基づいて詳述する。なお、当該実施形態では、本願パワーステアリング装置を、従来と同様、自動車用の油圧パワーステアリング装置に適用したものを示している。
【0010】
図1は、本実施形態に係るパワーステアリング装置の概略を示した図である。
【0011】
この図1に示すパワーステアリング装置は、運転者の操舵力(操舵トルク)を図外の転舵輪へと伝達する操舵力伝達手段1と、該操舵力伝達手段1に入力された操舵トルクに基づいて油圧により操舵アシスト力(操舵アシストトルク)を発生させる操舵力アシスト手段2と、該操舵力アシスト手段2における操舵アシストトルクの発生に供する油圧を供給する油圧供給手段3と、該油圧供給手段3を駆動制御する制御手段4と、を備えており、前記油圧供給手段3及び制御手段4はモータ・ポンプユニット5として一体的に構成されている。
【0012】
前記操舵力伝達手段1は、軸方向一端側がステアリングホイール11と一体回転可能に連係され、運転者からの操舵入力を行う入力軸12と、軸方向一端側が入力軸12に対し図外のトーションバーを介して同軸上に相対回転可能に連結され、他端側の外周に図外のピニオン歯を有する出力軸13と、前記ピニオン歯と噛合する図外のラック歯を有し、出力軸13の回転に伴って軸方向へ移動可能に設けられて、軸方向両端部が前記転舵輪に連係されたラック軸14と、から主として構成されている。すなわち、かかる構成から、ステアリングホイール11を回転させることによって発生する前記トーションバーの弾性力に基づいて出力軸13が入力軸12に追従して回転することで、出力軸13とラック軸14からなるラック・ピニオン機構(本発明に係る操舵機構)により出力軸13の回転運動がラック軸14の直線運動へと変換されて、該ラック軸14が軸方向へと移動することによって、前記転舵輪が転向するようになっている。
【0013】
前記操舵力アシスト手段2は、内部に隔成された一対の圧力室P1,P2に作用する油圧の圧力差をもってラック軸14に推進力を発生させることで運転者の操舵力をアシストするパワーシリンダ20によって構成されている。すなわち、このパワーシリンダ20は、ほぼ円筒状に形成されたシリンダチューブ21内周側にピストンロッドとしてのラック軸14が軸方向に沿って貫装され、該ラック軸14外周に固定されたピストン22によってシリンダチューブ21内に前記一対の圧力室である第1、第2圧力室P1,P2が隔成されている。そして、これら圧力室P1,P2の差圧によってラック軸14に対する推進力が発生し、これによって、運転者による操舵出力がアシストされることとなる。
【0014】
前記油圧供給手段3は、前記パワーシリンダ20の第1、第2圧力室P1,P2に対応する本発明の一対の吐出口(第1、第2吐出口)である第1給排口41a及び第2給排口41bを有し、ステアリングホイール11の回転方向に応じて前記各圧力室P1,P2に油圧を選択的に供給する可逆式ポンプである双方向ポンプ(以下、単に「ポンプ」という。)30と、該ポンプ30の軸方向一端側に配設され、このポンプ30ないしパワーシリンダ20への油圧供給に供する作動油を貯留するためのリザーバタンク40と、ポンプ30を正逆回転駆動する電動モータ50と、から主として構成されていて、第1給排口41aと第1圧力室P1とが第1配管L1を介して接続されている一方、第2給排口41bと第2圧力室P2とが第2配管L2を介して接続されている。
【0015】
ここで、前記ポンプ50の内部には、一方が吸入ポート、他方が吐出ポートとして機能することにより図外の作動室に作動油を給排する一対の第1、第2給排ポート42a,42bが設けられていて、この第1、第2給排ポート42a,42bと第1、第2給排口41a,41bとがそれぞれ第1、第2油通路43a,43bを介して接続されている。そして、この第1、第2油通路43a,43bは、第1、第2吸入通路44a,44bを介してそれぞれリザーバタンク40に接続されると共に、前記第1、第2吸入通路44a,44bには、リザーバタンク40側への作動油の逆流を防止する第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が設けられている。これによって、前記各配管L1,L2及び前記各油通路43a,43bにおいて作動油が不足した場合には、第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が開弁して、リザーバタンク40から当該各配管L1,L2及び各油通路43a,43bに作動油が補給されるようになっている。
【0016】
また、前記第1、第2油通路43a,43bのうち第1、第2吸入通路44a,44bとの接続部と、第1、第2給排口41a,41bとの接続部と、の間は接続油路45によって相互に接続されると共に、この接続油路45には、いわゆるノーマルクローズ形のパイロット切替弁である一対の第1、第2切替弁BV1,BV2がそれぞれ直列に配置されていて、第1切替弁BV1は第2油通路43bの油圧を、また、第2切替弁BV2は第1油通路43aの油圧を、それぞれパイロット圧として動作するようになっている。さらには、前記接続油路45においては、前記両切替弁BV1,BV2間が、ドレン通路46を介してリザーバタンク40に接続されていると共に、このドレン通路46には、作動液のリザーバタンク40側への流れのみを許容する背圧弁RVが設けられている。これにより、リザーバタンク40側からの作動液の逆流を防止しつつ、ドレン通路46内の圧力が背圧弁RVの設定圧を超えた場合には作動液を当該リザーバタンク40へと排出するようになっている。
【0017】
また、前記第1、第2配管L1,L2は、当該両配管L1,L2を連通する第1、第2連通路47,48をもって相互に連通するように構成されると共に、これら両連通路47,48は、その中間部に設けられる第1、第2接続部X1,X2にて当該両連通路47,48に接続する第3連通路49をもって相互に連通するようになっており、該第3連通路49には、いわゆるノーマルオープン形の電磁弁SVが設けられている。さらに、第1連通路47には、第1配管L1と第1接続部X1との間に、第1配管L1側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第1逆止弁V1が設けられ、第2配管L1と第1接続部X1との間に、第2配管L2側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第2逆止弁V2が設けられている一方、第2連通路48には、第1配管L1と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第1配管L1側への通流のみを許容する第3逆止弁V3が設けられ、第2配管L2と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第2配管L2側への通流のみを許容する第4逆止弁V4が設けられている。これによって、前記電磁弁SVが開弁されると、第1配管L1内の作動油は第1逆止弁V1及び第4逆止弁V4を通じて第2配管L2に、また、第2配管L2内の作動油は第2逆止弁V2及び第3逆止弁V3を通じて第1配管L1に、それぞれ逆流することなく流動することが可能となっている。
【0018】
すなわち、前記両連通路48,49と電磁弁SVと前記各逆止弁V1〜V4によっていわゆるフェールセーフ機構が構成されており、このフェールセーフ機構は、通常時には電磁弁SVを閉弁状態に維持することにより、前記ポンプ30を介してパワーシリンダ20の前記両圧力室P1,P2の油圧が給排されるようになっている一方、前記制御手段5に異常が発生した場合には、電磁弁SVが開弁され、前記各連通路41〜43を介してパワーシリンダ20の前記両圧力室P1,P2を相互に連通させて該両圧力室P1,P2内の油圧を直接給排可能とすることによって、いわゆるマニュアルステアが確保されるようになっている。
【0019】
また、前記電動モータ50は、前記制御手段4をもって車両の運転状態に応じて駆動制御されるようになっており、運転者が操舵を行うことで、その操舵方向に応じて当該電動モータ50の回転方向が切り換えられ、パワーシリンダ20にて運転者の操舵トルクに応じた操舵アシストトルクを発生させるべく、ポンプ30を回転駆動する。
【0020】
前記制御手段4は、本発明のモータ制御回路としてのコントロールユニット(以下、ECUと略す。)60によって構成され、このECU60には、入力軸12に配設されたトルクセンサ71、図外の各車輪に配設されるブレーキ制御装置に設けられた車速センサ72(図3参照)、当該ECU60を構成する後記の回路基板61に実装されたサーミスタ65(図2、図3参照)、その他、後記のレゾルバ55やエンジン回転数センサ等からの各種信号が入力され、これら各種信号に基づいて操舵アシストトルクを算出して、電動モータ50や電磁弁SVに対して指令信号を出力する。
【0021】
図2は、前記モータ・ポンプユニット5の内部構成を示した縦断面図である。
【0022】
このモータ・ポンプユニット5は、ポンプ30の軸方向一端側に電動モータ50が配設されると共に、該電動モータ50の側部にECU60が付設されていて、ポンプ30の駆動軸37と電動モータ50の出力軸52とが例えばオルダム継手等の所定の軸継手56を介して一体回転可能に連結されている。換言すれば、このモータ・ポンプユニット5は、電動モータ50とECU60とにより一体に構成されたモータ駆動装置MCとポンプ30とがユニット化されたものである。一方、ポンプ30の軸方向他端側には、その他端側を覆うようなほぼカップ状に形成されたリザーバタンク40が被嵌されて、当該ポンプ30の他端部がリザーバタンク40に貯留された作動油に常時浸漬するような構成となっており、これによって、当該ポンプ30の他端部に開口形成された前記両吸入通路44a,44bを介しリザーバタンク40内に貯留された作動油を直接吸入するようになっている。
【0023】
前記ポンプ30は、いわゆる内接歯車ポンプであって、ブロック状のポンプボディ31の内側面31aとほぼ円盤状のカバー部材32の内側面32aとによって挟持状態に設けられたカムリング33の内周側に、前記内接歯車を構成するポンプ要素34、つまり駆動軸37の外周に圧入固定されてその外周部に複数の外歯を有するインナーロータ35と、当該インナーロータ35の外周側に配置されて内周側に前記外歯に噛合する複数の内歯を有するアウターロータ36と、がそれぞれ回転自在に収容されていて、これらポンプ要素34が電動モータ50によって正逆回転駆動されることで、パワーシリンダ20の前記各圧力室P1,P2に選択的に油圧が給排されることとなる。
【0024】
前記電動モータ50は、いわゆるブラシレスDCモータであり、前記ポンプボディ31の外側部に固定された、ECU60と共通の筐体を構成するハウジング51内部に形成された筒状のモータ収容部51a内周側に収容保持される一対の軸受B1,B2によって回転自在に支持された出力軸52と、該出力軸52の外周に圧入固定されたほぼ円筒状のロータ53と、該ロータ53の外周側に所定の径方向隙間を介して非接触状態に配置されたほぼ円筒状のステータ54と、から主として構成され、前記出力軸52の先端側外周には、当該出力軸52の回転角を検出するレゾルバ55が設けられている。
【0025】
前記ECU60は、前記ハウジング51内においてモータ収容部51aに隣接するように設けられたECU収容部51b内に収容配置される回路基板61に、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す。)62、不揮発性メモリである不揮発性RAM63、FET64、サーミスタ65等が実装されることによって構成されている。なお、かかるECU60の具体的な制御構成ついては、以下に、図3に基づいて詳述する。
【0026】
図3は、前記ECU60の制御構成の詳細を示す制御ブロック図である。
【0027】
前記ECU60は、操舵トルク信号Trや車速信号V、後記のタンク内油温信号Tf等に基づいて操舵アシストトルクを演算することにより、電動モータ50の駆動制御に供する後記のアシスト電流Ioを出力するアシスト電流指令部80と、リザーバタンク40内の作動油温の推定を行うタンク内油温推定部90と、前記アシスト電流Ioに基づき電動モータ50を駆動制御するモータ制御部100と、該モータ制御部100から出力される後記の駆動信号Dに基づき電動モータ50を駆動するモータ駆動部101と、を備えている。
【0028】
前記アシスト電流指令部80は、電動モータ50の回転数Rを検出(推定)するモータ回転数検出部81と、トルクセンサ71から出力された操舵トルク信号Trについてノイズ除去等の所定の処理を行う信号処理部82と、該信号処理部82から出力された操舵トルク信号Tr及び車速センサ72から出力された車速信号Vに基づき、操舵アシストトルクのベースとなるアシストトルクの発生に供するベース電流Ib(本発明に係る電流指令値)を演算するベース電流演算部83(本発明に係る基本電流指令値演算回路)と、車速センサ72から出力された車速信号V及び操舵角センサ73から出力された操舵角信号θに基づき、後述するステア戻し制御用のアシストトルクの発生に供するステア戻し制御電流Isを演算するステア戻し制御電流演算部84と、操舵角センサ73から出力された操舵角信号θ及び後記のタンク内油温演算部92から出力されたタンク内油温信号Tfに基づき、後述するトルク補正制御に供する補正制御電流Icを演算する補正制御電流演算部85と、ベース電流Ib、ステア戻し制御電流Is及び補正制御電流Icに基づき、電動モータ50の駆動制御に供するアシスト電流Io(本発明に係る補正電流指令値)を演算するアシスト電流演算部86(本発明に係る補正電流指令値演算回路)と、から構成されている。
【0029】
前記モータ回転検出部81は、レゾルバ55から出力される前記出力軸52の回転位置情報に基づいて電動モータ50の実回転数Rを検出し、これを信号処理部82へ出力する。ここで、本願パワーステアリング装置では、後述するように、作動油の流速に相関する操舵角速度ωをもって前記補正制御電流Icを演算することとしているが、当該実回転数Rをもって補正制御電流Icを演算することとしてもよい。すなわち、電動モータ50の実回転数Rからポンプ30の単位あたりの実回転数を求めて、該ポンプ30の単位あたりの実回転数を固定値であるポンプ30の固有吐出量に乗算することによって作動油の流速と一定の相関関係にあるポンプ30の吐出流量が得られることから、当該電動モータ50の単位あたりの実回転数をもって前記補正制御電流Icを演算することも可能である。この場合も、本実施形態で採用した操舵角速度ωによって補正制御電流Icを演算する場合と同様、電動モータ50の実回転数Rも容易に検出可能であることから、作動油の流速を直接検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低廉化に供される。
【0030】
前記信号処理部82は、ベース電流演算部83におけるベース電流Ibの演算に供する操舵トルク信号Trについて、ノイズ処理や位相補償処理を行う。すなわち、トルクセンサ71から出力された操舵トルク信号Trに対し所定のフィルタ処理を行うことにより、当該操舵トルク信号Trのノイズを除去すると共に、モータイナーシャやアシストトルク伝達系の位相遅れ等を補償して、ベース電流Ibの演算に適正な操舵トルク信号Trをベース電流演算部83に出力する。
【0031】
前記ベース電流演算部83は、信号処理部82から出力された操舵トルク信号Trと、車速センサ72から出力された車速信号Vと、に基づいて、図外の所定のマップから基本アシストトルクを求め、該基本アシストトルクの発生に供するベース電流Ibを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。なお、前記マップは、主として操舵トルクTrが大きく、また、車速Vが低くなるほどベース電流Ibを増大させるように構成されている。
【0032】
前記ステア戻し制御電流演算部84は、車速センサ72からの車速信号Vと、操舵角センサ73からの操舵角信号θと、に基づき、図外の所定のマップから、ステアリングホイール11を戻し方向へ操舵操作した場合の当該ステアリング戻し方向のアシストトルクを求め、当該アシストトルクの発生に供するステア戻し制御電流Isを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。
【0033】
前記補正制御電流演算部85は、本発明の流速検出手段ないし操舵速度検出手段に相当する操舵角センサ73からの操舵角信号θと、前記タンク内油温演算部92からのタンク内油温信号Tfと、に基づいて、図6に示すような補正トルクマップから補正トルクCTrを求め、当該補正トルクCTrの発生に供する補正制御電流Icを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。なお、かかる補正制御電流演算部85における具体的な処理内容については、図4〜図7に基づいて後に詳述する。
【0034】
前記アシスト電流演算部86は、ベース電流演算部83から出力されたベース電流Ibと、ステア戻し制御電流演算部84から出力されたステア戻し制御電流Isと、補正制御電流演算部85から出力された補正制御電流Icと、を加算することによってアシスト電流Ioを演算し、これをモータ駆動部100に出力する。このように、本願パワーステアリング装置の場合、特に、ベース電流演算部83からのベース電流Ibと、補正制御電流演算部85からの補正制御電流Icと、を加算するかたちで、両者Ib,Icの和をもってアシスト電流Ioを演算する構成としたことで、ベース電流Ibを変更しない、つまりベース電流Ibの演算に供する前記所定のマップの特性を変更する必要がないために、運転者の操舵トルクに対して操舵アシストトルクの特性が大きく変化してしまうおそれがない。この結果、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制できる。
【0035】
前記タンク内油温推定部90は、FET64の発熱温度を推定するFET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2及び液温検出手段を構成する温度センサであるサーミスタ65から出力されたECU60内の環境温度としてのサーミスタ温度信号T1(本発明に係る補正用温度信号)に基づいてタンク内油温推定値T0を演算するタンク内油温演算部92と、マイコン62の電源の起動/遮断を行うマイコン電源部94を制御し、イグニッションスイッチ74をオフした後においても所定の時間が経過するまで前記タンク内油温推定値T0の演算を継続する自己保持機能制御部93と、から構成されている。なお、これら各構成の具体的な内容について、タンク内油温演算部92については図8、図9に基づき、また、自己保持機能制御部93については主として図10、図11に基づき、それぞれ後に詳述する。
【0036】
前記モータ制御部100では、モータ回転検出部81により検出された電動モータ50の回転位置情報と、後記のモータ駆動部101と電動モータ50の間に設けられた図外の電流センサからのU相、V相及びW相の各電流情報と、がそれぞれ入力され、U相、V相及びW相の3層からなる電流を2相の電流に変換して、いわゆるPI制御等によるフィードバック制御によって電動モータ50の駆動信号(PWM信号)Dを生成し、このPWM信号Dをモータ駆動部101へと出力するようになっている。
【0037】
前記モータ駆動部101は、前記FET64等のパワー素子により構成され、モータ制御部100からのPWM信号に応じて前記パワー素子をスイッチングすることにより、電動モータ50に対しアシスト電流Ioに相当する制御電流を通電させるようになっている。
【0038】
以下、前記補正制御電流演算部85の制御内容につき、図4〜図7に基づいて具体的に説明する。
【0039】
図4は、前記補正制御電流演算部85における補正制御電流Icの演算過程を示すシステム図である。さらに、図5は、タンク内油温Tf毎の操舵角速度ωに対応する補正トルクCTrを表したグラフであって、補正制御電流Icの演算に供する補正トルクマップを示す一方、図6は、車速Vに対応する後記のリミットトルクCTrxを表したグラフであって、後述する補正制御電流Icのリミット処理に供するリミットトルクマップを示している。
【0040】
前記補正制御電流演算部85は、図4に示すように、操舵角信号θに基づいて操舵角速度ωを演算する操舵角速度演算部110と、該操舵角速度演算部110から出力された操舵角速度信号ωの符号処理を行う第1符号処理部114と、該符号処理部114により処理された操舵角信号ω及びタンク内油温推定部90から出力されたタンク内油温信号Tfに基づき、図5に示すような補正トルクマップに従い補正トルクCTrを算出する補正トルク算出部115と、操舵角センサ73ないしサーミスタ65の状態(正常/異常)に応じて補正制御電流Icとして出力する補正トルクCTrを切り換えるスイッチ116と、該スイッチ116を介して出力された補正制御電流Icの符号処理を行う第2符号処理部117と、該第2符号処理部117により処理された補正制御電流Icについて、図6に示すようなリミットトルクマップに従っていわゆるリミット処理を行うリミット処理部118と、から構成されている。
【0041】
ここで、本発明では、作動油の流速又は操舵角速度ωとリザーバタンク40内の作動油温(タンク内油温Tf)とに基づいて補正制御電流Icを演算することとしているが、本実施形態では、制御の便宜上、作動油の流速に対し一定の相関(比例関係)がある操舵角速度ω及びタンク内油温Tfに基づいて補正制御電流Icを演算することとしている。なお、操舵角速度ωから作動油の流速を推定する方法としては、例えば操舵角速度ωに基づくパワーシリンダ20のピストン22の移動速度とピストン22の断面積とを乗算することによって得られる前記両圧力室P1,P2間の作動油の移動量に基づいて推定する方法等が挙げられる。
【0042】
前記操舵角速度演算部110は、操舵角センサ73からの操舵角信号θについて所定のローパスフィルタを用いたフィルタ処理を行うことにより、当該操舵角信号θのノイズ除去を行うフィルタ回路である第1フィルタ処理部111と、該第1フィルタ処理部111のフィルタ処理によって得られた操舵角θを疑似微分処理して操舵角速度ωを算出する疑似微分演算部112と、該疑似微分演算部112において算出された操舵角速度ωについて前記所定のローパスフィルタと同様のフィルタを用いたフィルタ処理を行うことにより、前記疑似微分処理によって生じた当該操舵角速度ωのノイズ除去を行うフィルタ回路である第2フィルタ処理部113と、を備えている。
【0043】
このように、前記操舵角速度演算部110において、操舵角センサ73からの操舵角信号θをそのまま操舵角速度ωの演算に用いるのではなく、前記所定のフィルタ処理を行ったものを用いて操舵角速度ωの演算を行うと共に、当該演算後の操舵角速度ωについて再び前記所定のフィルタ処理を行うようにしたことで、例えば路面からのキックバックとの運転者の意図しない操舵角速度ω(操舵角θ)の変化や急転舵のような操舵角速度ωの急激な変化についてまでそのまま後述する補正トルクCTrの演算に反映されることがないため、当該補正トルクCTrの急激な変化が抑制され、これによって、操舵フィーリングの向上に供される。
【0044】
前記第1符号処理部114は、前記補正トルク算出部115における処理の便宜上、前記操舵角速度演算部110から出力された操舵角速度信号ωを絶対値化すると共に、その符号情報を図外の符号退避RAMに退避する。具体的には、当該操舵角速度信号ωが正である場合には前記符号退避RAMに「1」を入力し、当該操舵角速度信号ωが負である場合には前記符号退避RAMに「0」を入力する。
【0045】
前記補正トルク算出部115は、前記第1符号処理部114により絶対値化された操舵角速度信号ω及びタンク内油温推定部90からのタンク内油温信号Tfに基づき、図5に示す補正トルクマップからいわゆる線形補完により補正トルクCTrを算出する。
【0046】
ここで、この補正トルクマップは、図5に示すように、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωが大きいほど、また、作動油の粘性に相関のあるタンク内油温Tfが低いほど補正トルクCTr(補正制御電流Ic)が大きくなるように設定され、最終的に電動モータ50へ出力するアシスト電流Ioが増大するようになっている。
【0047】
さらに、この補正トルクマップは、タンク内油温推定値T0が同一の条件(例えば、タンク内油温Tfが「−20℃」)下にて、操舵角速度ωが所定速度(例えば、操舵角速度ωが「100deg/s」)以上の領域における操舵角速度ωの増大量に対する補正トルクCTrの増大量を第1の割合Δ1とし、操舵角速度ωが前記所定速度(100deg/s)より小さい領域における操舵角速度ωの増大量に対する補正トルクCTrの増大量を第2の割合Δ2としたとき、第1の割合Δ1が第2の割合Δ2よりも小さくなるよう設定されている。すなわち、ポンプ30の前記各油通路43a,43bや前記各配管L1,L2の内壁面と作動油との境界特性は操舵角速度ω(作動油の流速)によって変化することから、かかる変化特性に応じて補正トルクCTrの増大量を設定することで、当該補正により操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感が発生してしまうのを抑制することが可能となる。換言すれば、操舵角速度ω(作動油の流速)の変化に対して補正トルクCTrの増大量を比例的に増大させるのではなく、当該操舵角速度ω(作動油の流速)が高くなるにつれて補正トルクCTrの増大量が小さくなるようにしたことで、当該操舵角速度ω(作動油の流速)が高い状態において補正トルクCTrが過大となってしまい操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感の抑制に供される。
【0048】
また、この補正トルクマップは、前記第2の割合Δ2に対する前記第1の割合Δ1の減少率が、タンク内油温Tf(作動油温)が低くなるほど大きくなるように設定されている。すなわち、流速に応じて非線形に変化するポンプ30の前記各油通路43a,43bや前記各配管L1,L2の内壁面と作動油との間の境界特性はタンク内油温Tf(作動油温)によっても変化することから、かかる変化特性、つまりタンク内油温Tfに応じて補正トルクCTrの増大量を設定したことによって、当該タンク内油温Tf(作動油温)が高温の状態において補正トルクCTrが過大となってしまい、これによって操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感の抑制に供される。
【0049】
前記スイッチ116は、操舵角センサ73からの故障検出信号θxやサーミスタ65からの故障検出信号T1xに基づき、当該両検出手段73,65が正常である場合には、前記補正トルク算出部115より出力された補正トルクCTrを、また、当該操舵角センサ73又はサーミスタ65のいずれかが異常である場合には固定値である「0」を、前記補正制御電流Icとして出力する。すなわち、操舵角センサ73及びサーミスタ65の正常時には、前述のようなトルク補正制御を行う一方、操舵角センサ73ないしサーミスタ65の異常時には、いわゆるフェールセーフ制御として前記トルク補正制御を行わないようになっている(以下、第1フェールセーフ制御という。)。このとき、この操舵角センサ73からの故障検出信号θx及びサーミスタ65からの故障検出信号T1xによる情報は図外の所定RAMに記憶され、正常である場合は当該所定RAMのラッチ変数に「0」が入力される一方、異常である場合には当該所定RAMのラッチ変数に「1」が入力されて、イグニッションがオンされている間は、前記第1フェールセーフ制御が維持されるような構成となっている。
【0050】
このように、操舵角センサ73により検出される操舵角信号θやサーミスタ65により検出されるサーミスタ温度信号T1について異常が検出された場合には前述のようなトルク補正制御を行わないようにすることにより、当該補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうといった不具合を抑制することができる。
【0051】
前記第2符号処理部117は、前記第1符号処理部114において退避した符号を復帰させる役割を果たし、前記補正トルク算出部115から出力された補正トルクCTrにつき、前記所定RAMに「0」が入力されている場合には、当該補正トルク信号CTrに負の符号を付加する。
【0052】
前記リミット処理部118は、前記補正トルク算出部115から出力された補正トルクCTrが所定の上限値(リミットトルクCTrx)を超えないように、当該補正トルクCTrにつき、図6に示すリミットトルクマップに従って上限規制処理を行う。かかるリミット処理を行う構成としたことにより、補正トルクCTrとして過大となる値が演算された場合にも、補正制御電流Icとしての上限を超えてしまうおそれがなく、これによって、前記補正制御により操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感の抑制が図れる。
【0053】
ここで、前記リミットトルクマップは、図6に示すように、車速Vが高くなるほど前記上限値であるリミットトルクCTrxが低くなるように設定されている。すなわち、車速Vが高いほど必要とされる操舵アシストトルクは小さくなり、過大な操舵アシストトルクに対する操舵違和感も大きくなることから、車速Vに応じてリミットトルクCTrxを設定することで、高車速時において操舵アシストトルクが過大となってしまうのを抑制できると共に、低車速時における操舵負荷の低減に供される。
【0054】
なお、図示は省略しているものの、前記補正制御電流演算部85には、車速センサ72からの車速信号Vが入力される車速入力部が設けられていて、この車速入力部に入力された車速信号Vに基づいて前述のリミット処理が行われるようになっている。
【0055】
以上のように構成された前記補正制御電流演算部85の制御フローにつき、以下に図7に基づいて説明する。
【0056】
図7は、当該補正制御電流演算部85での制御フローを示すフローチャートである。
【0057】
すなわち、前記補正制御電流演算部85では、まず、操舵角センサ73から出力された操舵角信号θについて前記所定のローパスフィルタによるフィルタ処理が実行され(ステップS101)、このフィルタ処理をした操舵角信号θについて前記疑似微分処理を実行することによって操舵角速度ωを算出した後(ステップS102)、該微分処理をした操舵角速度ωにつき、再び前記所定のローパスフィルタによるフィルタ処理を実行する(ステップS103)。
【0058】
そして、前記ステップS103におけるフィルタ処理によって得られた操舵角速度ωの正負を判断し(ステップS104)、当該操舵角速度ωの符号が正である場合は、前記符号退避RAMに「1」を入力し(ステップS105)、当該操舵角速度ωの符号が負である場合には、当該操舵角信号ωを絶対値化すると共に前記符号退避RAMに「0」を入力した後(ステップS106)、当該符号処理がなされた操舵角信号ωに基づき、前記補正トルクマップ(図5参照)に従って補正トルクCTrを算出する(ステップS107)。
【0059】
その後、前記所定RAMにおいてラッチ変数に「1」が入力されているか、つまり前記第1フェールセーフ制御が実行中であるか否かを判断し(ステップS108)、ラッチ変数が「0」である(第1フェールセーフ制御が実行されていない)場合には、サーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されていないか、或いは、操舵角センサ73の故障検出信号θxが検出されていないか、を判断する一方(ステップS109)、ラッチ変数が「1」である(第1フェールセーフ制御が実行されている)場合には、後記のステップS112に移行する。そして、前記ステップS109においてサーミスタ65ないし操舵角センサ73からの故障検出信号T1x,θxが検出された場合には、スイッチ116により補正トルクCTrを「0」として出力して(ステップS110)、前記所定RAMのラッチ変数に「1」を入力する(ステップS111)。
【0060】
続いて、前記ステップS108、前記ステップS109又は前記ステップS111の後に、前記符号退避RAMに「0」が入力されているか否か、つまり退避符号が負であるか否かを判断し(ステップS112)、当該退避符号RAMに「1」が入力されている(退避符号が正である)場合にはステップS115へ移行する一方で、当該退避符号RAMに「0」が入力されている(退避符号が負である)場合には、補正トルクCTrに負の符号を付加する(ステップS113)。そして、前記ステップS114においてかかる符号復帰処理を行った後、この補正トルクCTrについて前記リミット処理を実行して(ステップS114)、当該フローが終了する。
【0061】
次に、前記タンク内油温演算部92の制御内容につき、図8及び図9に基づいて具体的に説明する。
【0062】
図8は、前記タンク内油温演算部92におけるタンク内油温信号Tfの演算過程を示すシステム図である。
【0063】
前記タンク内油温演算部92は、FET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2について、所定の1次遅れの伝達関数(時定数:0.00023[Hz])をもって近似処理する第1近似処理部121と、予め実験により求めたサーミスタ65の温度とリザーバタンク40内の作動油温との乖離量であってECU60の通電による発熱量に相当する定常偏差信号T3について、所定の1次遅れの伝達関数(時定数:0.00167[Hz])をもって近似処理する第2近似処理部122と、サーミスタ65から出力されたサーミスタ温度信号T1からFET推定温度信号T2と定常偏差信号T3とを減算してタンク内油温推定値T0を算出する加算器123と、サーミスタ65の状態(正常/異常)に応じ、出力するタンク内油温推定値T0を切り換えるスイッチ124と、該スイッチ124を介して出力されたタンク内油温推定値T0につき、いわゆるリミット処理を行うリミット処理部125と、から構成されている。
【0064】
ここで、本願パワーステアリング装置では、前記補正制御電流Icの演算に用いる前記タンク内油温推定値T0を推定するにあたり、サーミスタ温度T1を基準として、このサーミスタ温度T1からFET64の発熱温度に相当するFET推定温度T2及びマイコン62やASIC等の発熱温度に相当する定常偏差T3(本実施形態では、「18(℃)」の固定値としている。)をそれぞれ減算するようにしたことにより、当該タンク内油温推定値T0をより高い精度でもって推定することができる。すなわち、ECU60の回路基板61には発熱源となるマイコン62等やFET64が実装されているため、サーミスタ65によって検出されるサーミスタ温度T1には前記マイコン62等やFET64の発熱分が含まれたものとなる一方、リザーバタンク40内の作動油には前記マイコン62等やFET64の発熱による影響がほとんどないことから、前述のように、サーミスタ温度T1からFET推定温度T2や定常偏差T3を減算することで、タンク内油温推定値T0のより精度の高い推定に供される。
【0065】
なお、前記スイッチ124は、サーミスタ65からの故障検出信号T1xに基づき、当該サーミスタ65が正常である場合は前記加算器123から出力されたタンク内油温推定値T0を、また、当該サーミスタ65が異常である場合には固定値としての所定の代替温度である「18(℃)」を、タンク内油温信号Tfとして出力する。すなわち、前記サーミスタ65の正常時には、前記推定したタンク内油温推定値T0を用いて作動油温に基づく補正制御を行う一方、前記サーミスタ65の異常時には、いわゆるフェールセーフとして、リザーバタンク40内の作動油温に基づく補正制御を行わないようになっている(以下、第2フェールセーフ制御という。)。このとき、サーミスタ65からの故障検出信号T1xによる情報は図外の所定RAMに記憶され、正常である場合は当該所定RAMのラッチ変数に「0」が入力される一方、異常である場合には当該所定RAMのラッチ変数に「1」が入力されて、イグニッションがオンされている間は、前記第2フェールセーフ制御が維持されるような構成となっている。
【0066】
このように、サーミスタ65によって検出されるサーミスタ温度信号T1が異常である場合は、予め実験等により定めた前記固定値(代替温度)を用いることによって前記タンク内油温Tfに基づく補正制御を行わずに操舵アシストトルクを演算するようにしたことにより、当該補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうといった不具合の抑制に供される。
【0067】
また、前記リミット処理部125では、スイッチ124を介して出力されたタンク内油温推定値T0が「−20(℃)〜20(℃)」の範囲に収まるように、上限及び下限についての制限処理が行われて、当該タンク内油温推定値T0が「−20℃」を下回っている場合は「−20(℃)」として出力し、また、当該タンク内油温推定値T0が「20(℃)」を上回っている場合には「20(℃)」として出力する。
【0068】
以上のように構成された前記タンク内油温演算部92の制御フローにつき、以下に図9に基づいて説明する。
【0069】
図9は、当該タンク内油温演算部92での制御フローを示すフローチャートである。
【0070】
すなわち、前記タンク内油温演算部92では、まず、FET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2について、前述の1次遅れの伝達関数による近似処理が実行され(ステップS201)、続いて、予め記憶された定常偏差信号T3について、前述の1次遅れの伝達関数による近似処理が実行され(ステップS202)、その後、前記ステップS201において行った近似処理を完成させるために、当該ステップS201で近似処理されたFET推定温度信号T2に所定のゲインをかけた後(ステップS203)、サーミスタ温度T1から前記各処理を行ったFET推定温度T2及び定常偏差T3を減算処理して、タンク内油温推定値T0を算出する(ステップS204)。
【0071】
その後、前記所定RAMにおいてラッチ変数に「1」が入力されているか、つまり前記第2フェールセーフ制御が実行中であるか否かを判断し(ステップS205)、ラッチ変数が「0」である(第2フェールセーフ制御が実行されていない)場合には、続いてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されているか否かを判断する一方(ステップS206)、ラッチ変数が「1」である(第2フェールセーフ制御が実行されている)場合には、後記のステップS213に移行する。
【0072】
そして、前記ステップS206においてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出された場合には、スイッチ124によってタンク内油温推定値T0を固定値である「18(℃)」に切り換え(ステップS207)、前記所定RAMのラッチ変数に「1」を入力する(ステップS208)。
【0073】
一方、前記ステップS206においてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されなかった場合は、「タンク内油温推定値T0<−20(℃)」であるか否かを判断し(ステップS209)、当該タンク内油温推定値T0が「−20(℃)」を下回っている場合には、タンク内油温推定値T0を「−20(℃)」としてタンク内油温信号Tfを出力する(ステップS210)。
【0074】
続いて、次ステップにおいて「タンク内油温推定値T0>20(℃)」であるか否かを判断し(ステップS211)、当該タンク内油温推定値T0が「20(℃)」を上回っている場合には、タンク内油温推定値T0を「20(℃)」としてタンク内油温信号Tfを出力する(ステップS212)。
【0075】
その後、タンク内油温推定値T0のモニタ用として前記リミット処理を行う前のタンク内油温推定値T0を所定のRAMに入力して(ステップS213)、当該フローが終了することとなる。
【0076】
次に、前記自己保持機能制御部93の概要について説明する。なお、図10は、イグニッションオフ後におけるタンク内油温推定値T0、FET推定温度T2及びタンク内油温実測値Txのそれぞれの推移を表した図である。
【0077】
従来では、前述のようなトルク補正制御に係るパラメータは、所定のRAMに一時的に記憶されるものであってイグニッションをオフにしてしまうと消滅してしまうことから、前記イグニッションのオフ後において短時間の間に再度イグニッションをオンした場合、つまりエンジン再スタートまでの時間が短い場合には、タンク内油温推定値T0とタンク内油温実測値Txとの間に比較的大きな偏差が生じるために、前記アシストトルクに係る適正な補正を行うことができないという問題があった。そこで、本実施形態では、イグニッションをオフした後も所定時間が経過するまでマイコン62の電源を遮断することなく前記タンク内油温推定値T0の演算を継続させるといった自己保持機能を設けることとしている。
【0078】
また、上述のイグニッションオフ後における前記タンク内油温推定値T0とタンク内油温実測値Txとの偏差について具体的に説明すれば、図10に示すように、FET温度T2に対し実油温Txの温度変化は非常に緩慢であることから、イグニッションをオフした直後は、油温推定値T0と油温実測値Txの間に比較的大きな偏差が生じることとなる。その後、時間の経過に伴いFET温度T2の温度変化が緩やかになってくると、これに応じて前記両者T0,Txの偏差も徐々に縮小し、概ね「1500秒」が経過した後にはFET温度T2と実油温Txの変化量がほぼ一定となり、この結果、前記両者T0,Txの偏差もほぼ一定となる。かかる実験結果を基に、車載バッテリにかかる負担も勘案して、本実施形態では、前記自己保持機能の継続時間が「1000秒」に設定されている。
【0079】
このように、本実施形態では、前記自己保持機能制御部93によって、イグニッションをオフした後も、前記所定時間(1000秒)が経過するまでの間、マイコン62の電源を遮断することなくタンク内油温推定値T0の演算を継続させることによって、前記所定時間内に再度イグニッションをオンにした場合における当該タンク内油温推定値T0の精度を向上させることが可能となっている。
【0080】
また、この際、前記実験結果に基づき前記自己保持機能の継続時間を定めたことで、FET温度T2が、タンク内油温推定値T0の推定にあたって比較的大きく影響する所定の高温状態にある場合には、前記自己保持機能を継続することによってタンク内油温T0の推定精度の向上に供される一方、FET温度T2が、タンク内油温推定値T0の推定にあたって比較的影響が小さいと考えられる所定の低温状態となった場合には、前記自己保持機能を終了させることによって不揮発性RAM63への余計な通電を抑制して車載バッテリに与える負荷の低減に供されることとなる。
【0081】
なお、前記所定時間については、当該実施形態に係るもの(1000秒)に限定されるものではなく、例えば搭載対象の仕様等に応じて自由に変更できる。そして、前記実験結果からもわかるように、FET温度T2が高いほどタンク内油温T0の推定に対する影響が大きくなることから、前記所定時間につき、FET温度T2が高いほど長くなるように変更する等、当該実施形態のように固定値とせず、FET温度T2に応じて決定するようにしてもよい。
【0082】
続いて、前記自己保持機能制御部93の制御内容につき、図11に基づいて具体的に説明する。
【0083】
図11は、当該自己保持機能制御部93での制御フローを示す図である。
【0084】
すなわち、前記自己保持機能制御部93においては、まず、イグニッションスイッチ74がオフになっているか否かを判断し(ステップS301)、ここで、当該イグニッションスイッチ74がオフになっていない場合には当該フローは終了する一方、当該イグニッションスイッチ74がオフになっている場合には後記のステップS302にて所定の条件についての判断を行う。
【0085】
ステップS302では、(1)操舵角センサ73の故障検出信号θxないしサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されたことによる第1フェールセーフ制御が実行されていないこと、(2)サーミスタ温度T1からタンク内油温推定値T0を減算して得られたものが規定値(本実施形態では、前記定常偏差に相当する「18(℃)」に設定されている。)を超えていること、(3)後記の自己保持タイマ変数が「1000(秒)」未満であること、の以上3つの条件をすべて満たすか否かを判断する。
【0086】
ここで、前記3条件を1つでも満たさない場合には前記自己保持機能を実行せず当該フローが終了する一方で、前記3条件をすべて満たす場合には、前記不揮発性RAM63に記憶される自己保持タイマ変数をカウントアップして(ステップS303)、当該自己保持機能を実行する。
【0087】
続いて、次ステップS304において、イグニッションスイッチ74がオンされたか否か、つまりエンジンが再スタートされたか否かを判断し(ステップS304)、当該イグニッションスイッチ74がオンされていない場合には当該フローが終了して引き続きタンク内油温推定値T0の演算を継続する一方で、当該イグニッションスイッチ74がオンされた場合には、前記自己保持機能を実行する必要がなくなるので、前記不揮発性RAM63の自己保持タイマ変数をクリアする(ステップ305)。
【0088】
前記ステップS305にて自己保持タイマ変数をクリアした後は、再び前記第1フェールセーフ制御が実行中であるか否かについて判断を行い(ステップS306)、この第1フェールセーフ制御が実行中である場合には前記アシストトルクの補正は行わないので当該フローは終了する一方、第2フェールセーフ制御が実行されていない場合には前記トルク補正制御に係る関連変数をすべて初期化し(ステップS307)、当該フローが終了することとなる。
【0089】
また、前記自己保持機能は、必ずしも前記タンク内油温推定値T0の演算を継続することのみを目的として実行されるものではなく、例えば所定のデータを不揮発性RAM63に書き込み中の場合や、電動モータ50の加熱保護プログラムの実行中の場合等においても実行される。そこで、以下に、前述した図11に係る制御フローとは別に、これと連動して前記自己保持機能制御部93による自己保持機能の実行判断を行う制御フローにつき、図12を用いて説明する。
【0090】
すなわち、前記自己保持機能制御部93では、まず、不揮発性RAM63に記憶された自己保持タイマ変数につき、「自己保持タイマ変数≧所定値」であるか否かの判断を行い(ステップS401)、自己保持タイマ変数が所定値以上である場合には、当該自己保持機能の実行を終了してマイコン電源制御部94に対しマイコン62の電源を遮断する信号を出力する(ステップS404)。なお、前記所定値は、当該自己保持機能を実行時間に相当するものであり、前述したタンク内油温推定値T0の演算に係るものであれば「1000(秒)」である等、当該自己保持機能の実行の目的に応じてそれぞれ定められた基準値である。
【0091】
一方、前記ステップS401において自己保持タイマ変数が前記所定値に達していない場合は、続いて「自己保持タイマ変数>0」であるか否か、つまり再度イグニッションがオンされたか否かを判断して(ステップS402)、イグニッションがオンされていない場合には前記自己保持機能の実行が継続されて当該フローが終了する一方(ステップS403)、イグニッションがオンされた場合には、当該自己保持機能を実行する必要がなくなることから、ステップS404に進み、当該自己保持機能の実行を終了し、マイコン電源制御部94に対しマイコン62の電源を遮断する信号を出力することによって当該フローが終了することとなる。
【0092】
以上のようにして構成された本願パワーステアリング装置の前記トルク補正制御による効果について、以下に図13、図14に基づいて具体的に説明する。
【0093】
図13は、従来のパワーステアリング装置での操舵角速度ω及び油温Tfに基づく操舵力Fを示す図であり、図14は、本願パワーステアリング装置での操舵角速度ω及び油温Tfに基づく操舵力Fを示す図である。なお、いずれの図も、据え切り状態にて操舵した時の操舵トルクを表したものである。
【0094】
すなわち、図13、図14を比較した場合、従来のパワーステアリング装置と本願パワーステアリング装置とは、油温Tfが常温である「25℃」の状態では操舵力Fに差は見られないが、油温Tfが「−10℃」以下の状態では、ほぼ全ての項目に関して、本願パワーステアリング装置における操舵力Fが、従来のパワーステアリング装置における操舵力Fを下回っているのを確認することができる。かかる結果から明らかなように、本願パワーステアリング装置では、従来のパワーステアリング装置と比較して、油温Tfが低く粘性が増大することによって顕著となる前記各配管L1,L2等における圧力損失の低減化を図ることができる。
【0095】
また、前記両図の比較により、本願パワーステアリング装置と従来のパワーステアリング装置とでは、油温Tfが低くなるほど操舵力Fの差が大きくなることが確認できると共に、操舵角速度ωが高くなるほど操舵力Fの差が大きくなることが確認できる。このような結果から、本願パワーステアリング装置の前記トルク補正制御による効果は、作動油の粘性と相関のある油温Tfが低いほど高く、また、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωが高いほど高くなるといえる。
【0096】
換言すれば、図13の結果から確認されるように、低温であるほど、また、流速が高くなるほど、操舵力Fが大きくなる、つまり前記圧力損失が増大するなか、本願パワーステアリング装置では、このような圧力損失を相殺すべく、流速(操舵角速度ω)が高いほど及び液温Tfが低いほど、補正制御電流Ic(補正トルクCTr)を増大させるような制御構成としたことにより、前述のような圧力損失を効果的に低減することが可能となっている。
【0097】
このように、本願パワーステアリング装置によれば、操舵応答性に影響する作動油の流速(操舵角速度ω)及び油温Tfに基づいて電動モータ50に付与するアシスト電流Ioを増大補正するようにしたことで、低温時における操舵応答性を向上させ、常温時の操舵応答性に近づけることができる。
【0098】
なお、この際、前記トルク補正制御によって、操舵応答性について運転者が認識しやすい操舵力F(操舵負荷)を軽減させるようにしたことにより、操舵応答性向上の実効を確保することができる。
【0099】
また、本実施形態に係るパワーステアリング装置にあっては、ポンプ30とリザーバタンク40と電動モータ50とECU60が一体的に構成されていて、リザーバタンク40がポンプ30の一部(軸方向の他端側)を覆うように構成されると共に、ECU60がポンプ30に隣接して設けられていることから、特に操舵応答性に大きな影響を及ぼし得るポンプ30内の作動油温とリザーバタンク40内の作動油温との温度差が小さくなり、これによって、前述の操舵アシストトルクの補正をより適切に行うことに供される。
【0100】
さらには、上記の一体的な構成によってリザーバタンク40内の作動油温とECU60の環境温度との温度差も小さくなるため、ECU60の環境温度をもってタンク内油温Tfを推定するにあたって、当該タンク内油温Tfの推定精度の向上にも供される。
【0101】
しかも、この際、ECU60の回路基板61に実装されるサーミスタ65を補正用温度センサとして利用したことにより、当該温度センサの搭載性が良好になると共に、回路基板61との電気的な接続も容易となることから、装置の簡略化や製造コストの低廉化にも貢献できる。
【0102】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば搭載するポンプ30や電動モータ50の各構成については、適用対象となる車両の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0103】
また、前記実施形態では、装置の製造コストを低減する観点から、リザーバタンク40内の作動油温をECU60に設けられるサーミスタ64の発熱温度T1から推定することとしているが、本発明はこのようなタンク内油温を推定することに限定されるものではなく、リザーバタンク40に温度センサを設け、当該温度センサによってタンク内油温Tfを直接検出することとしてもよい。この場合は、リザーバタンク40内の作動油温を正確に把握することができるため、前記操舵アシストトルクの補正精度の向上に供される。
【0104】
また、前記実施形態では、便宜上、作動油の流速を直接検出するのではなく、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωから当該作動油の流速を間接的に推定するかたちで、この操舵角速度ωに基づいて前記アシストトルクの補正を行うこととしているが、当該操舵角速度ωから実際に作動油の流速を推定し、当該流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うことも可能であり、前記実施形態に例示した手段に限定されるものではない。
【0105】
さらに、この作動油の流速については、上述のような推定に限定されるものでもなく、例えば液体の流速を検出し得る任意のセンサを用いて作動油の流速を直接検出することも可能であり、この直接検出した流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うこととしてもよい。
【0106】
また、前記実施形態では、前記操舵角速度演算部110にて、操舵角センサ73によって検出された操舵角θをもって操舵角速度ωを演算することとしているが、この操舵角速度ωは、ラック軸14の移動(ストローク)速度を検出する速度センサを設け、該速度センサによって検出されたラック軸14の移動速度から求めることも可能である一方、ラック軸14の移動(ストローク)量を検出するストロークセンサを設け、該ストロークセンサによって検出されたラック軸14の移動量から演算(推定)して求めることも可能である。
【0107】
そして、本実施形態では操舵角速度ωに基づき推定することとした作動油の流速についても、前記ラック軸14の移動速度に基づき推定することとしてもよい。すなわち、このラック軸14の移動速度にピストン22の断面積を乗算することにより得られる前記両圧力室P1,P2間の作動油の移動量から当該作動油の流速を推定し、この推定した流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うこととしてもよい。この場合も、ラック軸14の移動速度は容易に検出可能であることから、作動油の流速自体を検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低減化に供される。
【0108】
前記実施形態から把握される前記各請求項に記載した発明以外の技術的思想について、以下に説明する。
【0109】
(a)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、液温の同一条件下で、流速が所定速度以上の領域における流速の増大量に対する前記電流指令値の補正量の増大量の割合である第1の割合が、流速が前記所定速度より小さい領域における流速の増大量に対する前記電流指令値の補正量の増大量の割合である第2の割合よりも小さくなるように、前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0110】
すなわち、ポンプや配管の内壁面と作動液との間の境界特性は流速によって変化することから、この変化特性に応じて電流指令値の増大補正量を設定することによって、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0111】
(b)前記(a)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記第2の割合に対する前記第1の割合の減少率が、液温が低くなるほど大きくなるように、前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0112】
すなわち、流速に応じて非線形に変化するポンプや配管の内壁面と作動液との間の境界特性は液温によっても変化することから、かかる変化特性に応じて電流指令値の増大補正量を設定することによって、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0113】
(c)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値は、前記基本電流指令値演算回路により演算された電流指令値と流速及び液温に基づいて演算された補正値との和であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0114】
かかる構成によれば、基本電流指令値演算回路によって演算される電流指令値を変更することがないため、操舵トルクに対する操舵アシストトルクの特性が大きく変化してしまうことがなく、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0115】
(d)前記(c)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記補正値が所定の上限値を超えないように前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0116】
このように構成することで、補正値演算に用いられるセンサ出力の異常等により過大な補正値が演算された場合であっても、補正電流指令値に用いられる補正値は上限値を超えてしまうおそれがなく、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0117】
(e)前記(d)に記載のパワーステアリング装置において、
車両に搭載された車速センサからの車速情報が入力される車速入力部をさらに備え、
前記補正電流指令値演算回路は、車速が高くなるほど前記上限値が低くなるように前記補正電流指令値を演算することを特徴するパワーステアリング装置。
【0118】
すなわち、車速が高いほど必要となる操舵力は小さくなり、過大な操舵力に対する操舵違和感も大きくなることから、車速に応じて上限値を設定することにより、高車速時において操舵力が過大になるのを抑制できると共に、低車速時における操舵負荷の低減が図れる。
【0119】
(f)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
流速を、前記可逆式ポンプの単位時間あたりの実回転数に基づいて演算するように構成したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0120】
すなわち、ポンプ1回転あたりの吐出量である固有吐出量とポンプ回転数との積はポンプ吐出流量となり、ポンプの固有吐出量は固定値であることから、ポンプの単位時間あたりの実回転数を検出することによって流速を得ることができる。この場合、ポンプの実回転数は容易に検出可能であることから、流速そのものを検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低減化に供される。
【0121】
(g)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記パワーシリンダのピストン移動速度を検出する速度センサをさらに備え、
流速を、前記ピストン移動速度に基づいて演算するように構成したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0122】
すなわち、ピストン受圧面積とピストン移動距離との積はポンプ吐出流量となり、ピストン受圧面積は固定値であることから、ピストンの単位時間あたりの移動距離であるピストン移動速度を検出することによって流速を得ることができる。この場合、ピストン移動速度は容易に検出可能であることから、流速そのものを検出する場合に比べて、装置の簡略化やコストの低減化に供される。
【0123】
(h)請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ制御回路は、前記電動モータを駆動制御するマイクロコンピュータ及び電子回路を搭載する回路基板を有し、
前記温度センサは、前記回路基板に搭載され、前記制御回路ハウジング内の環境温度を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0124】
かかる構成によれば、温度センサがモータ制御回路基板上に設けられるため、当該温度センサの搭載性の向上や当該温度センサと他の電子回路との接続性の向上が図れる。また、この際、前記温度センサは、液温を直接検出するようになってはいないが、リザーバタンク近傍に設けられていることから、制御回路ハウジング内の環境温度を検出することで、液温の推定精度の向上に供される。
【0125】
(i)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ駆動回路はFETを有し、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサによって検出された補正用温度から前記FETの通電に伴う発熱温度を減算した情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0126】
このように、制御回路ハウジング内に発熱源であるFETを有している場合、温度センサが検出する環境温度は前記FETの発熱分を含んだものとなるが、リザーバタンク内の作動液については前記FETの発熱による影響はほとんどないことから、温度センサの検出温度から前記FETの発熱温度を減算させるようにしたことで、より精度の高い液温推定に供される。
【0127】
(j)前記(i)に記載のパワーステアリング装置において、
車両の電源回路が遮断された後、所定時間の間、前記FETの発熱温度の情報を記憶する不揮発性メモリをさらに備え、
前記補正電流指令値演算回路は、前記所定時間経過前に車両の電源回路が通電された際、前記不揮発性メモリに記憶されたFETの発熱温度の情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0128】
すなわち、FETの発熱温度の情報が記憶されない場合、車両の電源回路が遮断された後にFETの発熱温度が低下する前に再始動された際に、FETの発熱温度を考慮した適切な温度推定を行うことができない。そこで、本構成によれば、車両の電源回路が遮断された後、FETの発熱温度が低下しないうちに再始動された場合であっても、適切な温度推定を行うことができ、当該温度推定精度の向上に供される。
【0129】
(k)前記(j)に記載のパワーステアリング装置において、
前記不揮発性メモリは、当該不揮発性メモリに通電される間は前記FETの発熱温度の情報を記憶し、当該不揮発性メモリへの通電が遮断された際に前記FETの発熱温度の情報を消去するように構成され、
前記不揮発性メモリへの通電時間は、前記FETの発熱温度が高いほど長く設定されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0130】
すなわち、FETの発熱温度が高いほど当該発熱温度が環境温度に対し影響を与える時間も長くなることから、FETの発熱温度に応じて不揮発性メモリの前記FETの温度情報を保持する時間を変更するように構成することで、不揮発性メモリへの不要な通電を抑制できると共に、温度推定精度の向上に供される。
【0131】
(l)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサによって検出された補正用温度から前記モータ制御回路における前記マイクロコンピュータの発熱温度を減算した情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0132】
すなわち、制御回路ハウジング内には発熱源となるマイクロコンピュータが設けられていることから、温度センサにより検出される環境温度には当該マイクロコンピュータの発熱分が含まれることとなるが、リザーバタンク内の作動液については前記マイクロコンピュータの発熱による影響はほとんどないことから、温度センサの検出温度から前記マイクロコンピュータの発熱温度を減算させるようにしたことで、より精度の高い液温推定に供される。
【0133】
(m)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサから入力される補正用温度の情報が異常である場合には、前記補正用温度を固定値である所定の代替温度として、当該代替温度に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0134】
すなわち、温度センサにより検出された補正用温度の情報が異常である場合、そのまま当該異常情報を用いて操舵アシスト力を発生させてしまうと、補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、温度センサによって検出された補正用温度の情報が異常である場合には、当該補正用温度として実験等により決定された所定の代替温度を用いることで、前述のような操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0135】
(n)請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記温度センサは、前記リザーバタンク内に搭載されて、該リザーバタンク内の作動液の液温を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0136】
このように、温度センサにより作動液の液温を直接検出するように構成することで、より正確な液温情報を得られ、より適切な補正を行うことに供される。
【0137】
(o)前記(n)に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンクは、当該リザーバタンク内に貯留される作動液によって前記可逆式ポンプの少なくとも一部が包囲されるように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0138】
このように、リザーバタンク内に貯留される作動液によって可逆式ポンプを包囲するように構成することで、操舵応答性に大きく影響を及ぼすポンプ内の作動液の液温とタンク内の作動液の液温との差を小さくすることが可能となり、これによって、電流指令値についてのより適切な補正を行うことができる。
【0139】
(p)請求項3に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、電気信号の所定の周波数以下の成分を抽出するフィルタ回路を有し、当該フィルタ回路を通過した後の前記操舵速度検出手段からの出力信号に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0140】
すなわち、操舵速度情報には、運転者の操舵意図と関係しない情報や、運転者による急転舵のように急激な変化を伴う操舵速度情報も含まれることから、かかる意図しない変化や急激な変化に対してまで厳密に補正電流指令値を変化させることは、操舵フィーリングの悪化を招来してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、操舵速度信号を、所定のフィルタ回路に通すようにしたことで、前述のような補正電流指令値の急激な変化が抑制され、操舵フィーリングの向上に供される。
【0141】
(q)請求項3に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ駆動回路は、前記補正電流指令値演算回路において前記操舵速度検出手段から入力される操舵速度の情報が異常である場合には、前記基本電流指令値演算回路により演算された電流指令値を前記補正電流指令値として前記電動モータを駆動制御することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0142】
すなわち、操舵速度検出手段より入力された操舵速度情報が異常である場合、そのまま当該異常情報を用いて操舵アシスト力を発生させてしまうと、補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、操舵速度検出手段より入力された操舵速度の情報が異常である場合には、電流指令値についての補正を中止させることにより、前述のような操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0143】
1…操舵力伝達手段(操舵機構)
20…パワーシリンダ
30…双方向ポンプ(可逆式ポンプ)
50…電動モータ
60…コントロールユニット(モータ制御回路)
65…サーミスタ(液温検出手段又は温度センサ)
73…操舵角センサ(流速検出手段又は操舵速度検出手段)
83…基本電流指令値演算部
86…アシスト電流指令値演算部(補正電流指令値演算部)
100…モータ駆動部
Io…アシスト電流指令値(補正電流指令値)
Ib…基本電流指令値
P1…第1圧力室
P2…第2圧力室
L1…第1配管(第1油路)
L2…第2配管(第2油路)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に適用され、油圧により運転者の操舵力をアシストするパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば以下の特許文献1に記載された従来のパワーステアリング装置は、双方向ポンプを電動モータにより回転駆動してパワーシリンダの左右の圧力室に油圧を給排することによって操舵力をアシストするように構成されたもので、電動モータの単位時間あたりの回転数から推定した油温に基づいて電動モータを駆動制御することで、当該油温変化(粘度変化)に基づく操舵アシスト力の変化を抑制し、これによって、操舵フィーリングの向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−143026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置では、作動油の粘性変化に基づきポンプや配管等に発生する圧力損失までは考慮されていないことから、かかる圧力損失に基づく操舵アシスト力の変化について十分な抑制が図れない、という問題があった。
【0005】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたものであり、作動油の粘性変化により配管等に生ずる圧力損失に基づいた操舵アシスト力の変化を十分に抑制し得るパワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、とりわけ、流速(操舵角速度)及び液温に基づき、流速(操舵角速度)が高いほど及び液温が低いほど電動モータを駆動制御するための電流指令値が増大するように補正制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本願発明によれば、作動油の粘性変化によって配管等に生ずる圧力損失に基づいた操舵アシスト力変化の十分な抑制に供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】図1に示す油圧供給手段の構成を示す縦断面図である。
【図3】図2に示すコントロールユニットの制御ブロック図である。
【図4】図3に示す補正制御電流演算部の制御ブロック図である。
【図5】図4に示す補正制御電流の演算に供するマップである。
【図6】図4に示すリミット処理部のリミット処理に供するマップである。
【図7】図3に示す補正制御電流演算部の制御内容を示すフローチャートである。
【図8】図3に示すタンク内油温演算部の制御ブロック図である。
【図9】図8に示すタンク内油温演算部の制御内容を示すフローチャートである。
【図10】図3に示す自己保持機能制御部の制御内容を示すフローチャートである。
【図11】イグニッションオフ後におけるタンク内油温推定値、FET推定温度及びタンク内油温実測値の各推移を示す表である。
【図12】図3に示す自己保持機能制御部の基本制御に係るフローチャートである。
【図13】従来のパワーステアリング装置の油温変化による操舵力の変化を示す表である。
【図14】本発明に係るパワーステアリング装置の油温変化による操舵力の変化を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願パワーステアリング装置の実施形態につき、図面に基づいて詳述する。なお、当該実施形態では、本願パワーステアリング装置を、従来と同様、自動車用の油圧パワーステアリング装置に適用したものを示している。
【0010】
図1は、本実施形態に係るパワーステアリング装置の概略を示した図である。
【0011】
この図1に示すパワーステアリング装置は、運転者の操舵力(操舵トルク)を図外の転舵輪へと伝達する操舵力伝達手段1と、該操舵力伝達手段1に入力された操舵トルクに基づいて油圧により操舵アシスト力(操舵アシストトルク)を発生させる操舵力アシスト手段2と、該操舵力アシスト手段2における操舵アシストトルクの発生に供する油圧を供給する油圧供給手段3と、該油圧供給手段3を駆動制御する制御手段4と、を備えており、前記油圧供給手段3及び制御手段4はモータ・ポンプユニット5として一体的に構成されている。
【0012】
前記操舵力伝達手段1は、軸方向一端側がステアリングホイール11と一体回転可能に連係され、運転者からの操舵入力を行う入力軸12と、軸方向一端側が入力軸12に対し図外のトーションバーを介して同軸上に相対回転可能に連結され、他端側の外周に図外のピニオン歯を有する出力軸13と、前記ピニオン歯と噛合する図外のラック歯を有し、出力軸13の回転に伴って軸方向へ移動可能に設けられて、軸方向両端部が前記転舵輪に連係されたラック軸14と、から主として構成されている。すなわち、かかる構成から、ステアリングホイール11を回転させることによって発生する前記トーションバーの弾性力に基づいて出力軸13が入力軸12に追従して回転することで、出力軸13とラック軸14からなるラック・ピニオン機構(本発明に係る操舵機構)により出力軸13の回転運動がラック軸14の直線運動へと変換されて、該ラック軸14が軸方向へと移動することによって、前記転舵輪が転向するようになっている。
【0013】
前記操舵力アシスト手段2は、内部に隔成された一対の圧力室P1,P2に作用する油圧の圧力差をもってラック軸14に推進力を発生させることで運転者の操舵力をアシストするパワーシリンダ20によって構成されている。すなわち、このパワーシリンダ20は、ほぼ円筒状に形成されたシリンダチューブ21内周側にピストンロッドとしてのラック軸14が軸方向に沿って貫装され、該ラック軸14外周に固定されたピストン22によってシリンダチューブ21内に前記一対の圧力室である第1、第2圧力室P1,P2が隔成されている。そして、これら圧力室P1,P2の差圧によってラック軸14に対する推進力が発生し、これによって、運転者による操舵出力がアシストされることとなる。
【0014】
前記油圧供給手段3は、前記パワーシリンダ20の第1、第2圧力室P1,P2に対応する本発明の一対の吐出口(第1、第2吐出口)である第1給排口41a及び第2給排口41bを有し、ステアリングホイール11の回転方向に応じて前記各圧力室P1,P2に油圧を選択的に供給する可逆式ポンプである双方向ポンプ(以下、単に「ポンプ」という。)30と、該ポンプ30の軸方向一端側に配設され、このポンプ30ないしパワーシリンダ20への油圧供給に供する作動油を貯留するためのリザーバタンク40と、ポンプ30を正逆回転駆動する電動モータ50と、から主として構成されていて、第1給排口41aと第1圧力室P1とが第1配管L1を介して接続されている一方、第2給排口41bと第2圧力室P2とが第2配管L2を介して接続されている。
【0015】
ここで、前記ポンプ50の内部には、一方が吸入ポート、他方が吐出ポートとして機能することにより図外の作動室に作動油を給排する一対の第1、第2給排ポート42a,42bが設けられていて、この第1、第2給排ポート42a,42bと第1、第2給排口41a,41bとがそれぞれ第1、第2油通路43a,43bを介して接続されている。そして、この第1、第2油通路43a,43bは、第1、第2吸入通路44a,44bを介してそれぞれリザーバタンク40に接続されると共に、前記第1、第2吸入通路44a,44bには、リザーバタンク40側への作動油の逆流を防止する第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が設けられている。これによって、前記各配管L1,L2及び前記各油通路43a,43bにおいて作動油が不足した場合には、第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が開弁して、リザーバタンク40から当該各配管L1,L2及び各油通路43a,43bに作動油が補給されるようになっている。
【0016】
また、前記第1、第2油通路43a,43bのうち第1、第2吸入通路44a,44bとの接続部と、第1、第2給排口41a,41bとの接続部と、の間は接続油路45によって相互に接続されると共に、この接続油路45には、いわゆるノーマルクローズ形のパイロット切替弁である一対の第1、第2切替弁BV1,BV2がそれぞれ直列に配置されていて、第1切替弁BV1は第2油通路43bの油圧を、また、第2切替弁BV2は第1油通路43aの油圧を、それぞれパイロット圧として動作するようになっている。さらには、前記接続油路45においては、前記両切替弁BV1,BV2間が、ドレン通路46を介してリザーバタンク40に接続されていると共に、このドレン通路46には、作動液のリザーバタンク40側への流れのみを許容する背圧弁RVが設けられている。これにより、リザーバタンク40側からの作動液の逆流を防止しつつ、ドレン通路46内の圧力が背圧弁RVの設定圧を超えた場合には作動液を当該リザーバタンク40へと排出するようになっている。
【0017】
また、前記第1、第2配管L1,L2は、当該両配管L1,L2を連通する第1、第2連通路47,48をもって相互に連通するように構成されると共に、これら両連通路47,48は、その中間部に設けられる第1、第2接続部X1,X2にて当該両連通路47,48に接続する第3連通路49をもって相互に連通するようになっており、該第3連通路49には、いわゆるノーマルオープン形の電磁弁SVが設けられている。さらに、第1連通路47には、第1配管L1と第1接続部X1との間に、第1配管L1側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第1逆止弁V1が設けられ、第2配管L1と第1接続部X1との間に、第2配管L2側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第2逆止弁V2が設けられている一方、第2連通路48には、第1配管L1と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第1配管L1側への通流のみを許容する第3逆止弁V3が設けられ、第2配管L2と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第2配管L2側への通流のみを許容する第4逆止弁V4が設けられている。これによって、前記電磁弁SVが開弁されると、第1配管L1内の作動油は第1逆止弁V1及び第4逆止弁V4を通じて第2配管L2に、また、第2配管L2内の作動油は第2逆止弁V2及び第3逆止弁V3を通じて第1配管L1に、それぞれ逆流することなく流動することが可能となっている。
【0018】
すなわち、前記両連通路48,49と電磁弁SVと前記各逆止弁V1〜V4によっていわゆるフェールセーフ機構が構成されており、このフェールセーフ機構は、通常時には電磁弁SVを閉弁状態に維持することにより、前記ポンプ30を介してパワーシリンダ20の前記両圧力室P1,P2の油圧が給排されるようになっている一方、前記制御手段5に異常が発生した場合には、電磁弁SVが開弁され、前記各連通路41〜43を介してパワーシリンダ20の前記両圧力室P1,P2を相互に連通させて該両圧力室P1,P2内の油圧を直接給排可能とすることによって、いわゆるマニュアルステアが確保されるようになっている。
【0019】
また、前記電動モータ50は、前記制御手段4をもって車両の運転状態に応じて駆動制御されるようになっており、運転者が操舵を行うことで、その操舵方向に応じて当該電動モータ50の回転方向が切り換えられ、パワーシリンダ20にて運転者の操舵トルクに応じた操舵アシストトルクを発生させるべく、ポンプ30を回転駆動する。
【0020】
前記制御手段4は、本発明のモータ制御回路としてのコントロールユニット(以下、ECUと略す。)60によって構成され、このECU60には、入力軸12に配設されたトルクセンサ71、図外の各車輪に配設されるブレーキ制御装置に設けられた車速センサ72(図3参照)、当該ECU60を構成する後記の回路基板61に実装されたサーミスタ65(図2、図3参照)、その他、後記のレゾルバ55やエンジン回転数センサ等からの各種信号が入力され、これら各種信号に基づいて操舵アシストトルクを算出して、電動モータ50や電磁弁SVに対して指令信号を出力する。
【0021】
図2は、前記モータ・ポンプユニット5の内部構成を示した縦断面図である。
【0022】
このモータ・ポンプユニット5は、ポンプ30の軸方向一端側に電動モータ50が配設されると共に、該電動モータ50の側部にECU60が付設されていて、ポンプ30の駆動軸37と電動モータ50の出力軸52とが例えばオルダム継手等の所定の軸継手56を介して一体回転可能に連結されている。換言すれば、このモータ・ポンプユニット5は、電動モータ50とECU60とにより一体に構成されたモータ駆動装置MCとポンプ30とがユニット化されたものである。一方、ポンプ30の軸方向他端側には、その他端側を覆うようなほぼカップ状に形成されたリザーバタンク40が被嵌されて、当該ポンプ30の他端部がリザーバタンク40に貯留された作動油に常時浸漬するような構成となっており、これによって、当該ポンプ30の他端部に開口形成された前記両吸入通路44a,44bを介しリザーバタンク40内に貯留された作動油を直接吸入するようになっている。
【0023】
前記ポンプ30は、いわゆる内接歯車ポンプであって、ブロック状のポンプボディ31の内側面31aとほぼ円盤状のカバー部材32の内側面32aとによって挟持状態に設けられたカムリング33の内周側に、前記内接歯車を構成するポンプ要素34、つまり駆動軸37の外周に圧入固定されてその外周部に複数の外歯を有するインナーロータ35と、当該インナーロータ35の外周側に配置されて内周側に前記外歯に噛合する複数の内歯を有するアウターロータ36と、がそれぞれ回転自在に収容されていて、これらポンプ要素34が電動モータ50によって正逆回転駆動されることで、パワーシリンダ20の前記各圧力室P1,P2に選択的に油圧が給排されることとなる。
【0024】
前記電動モータ50は、いわゆるブラシレスDCモータであり、前記ポンプボディ31の外側部に固定された、ECU60と共通の筐体を構成するハウジング51内部に形成された筒状のモータ収容部51a内周側に収容保持される一対の軸受B1,B2によって回転自在に支持された出力軸52と、該出力軸52の外周に圧入固定されたほぼ円筒状のロータ53と、該ロータ53の外周側に所定の径方向隙間を介して非接触状態に配置されたほぼ円筒状のステータ54と、から主として構成され、前記出力軸52の先端側外周には、当該出力軸52の回転角を検出するレゾルバ55が設けられている。
【0025】
前記ECU60は、前記ハウジング51内においてモータ収容部51aに隣接するように設けられたECU収容部51b内に収容配置される回路基板61に、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す。)62、不揮発性メモリである不揮発性RAM63、FET64、サーミスタ65等が実装されることによって構成されている。なお、かかるECU60の具体的な制御構成ついては、以下に、図3に基づいて詳述する。
【0026】
図3は、前記ECU60の制御構成の詳細を示す制御ブロック図である。
【0027】
前記ECU60は、操舵トルク信号Trや車速信号V、後記のタンク内油温信号Tf等に基づいて操舵アシストトルクを演算することにより、電動モータ50の駆動制御に供する後記のアシスト電流Ioを出力するアシスト電流指令部80と、リザーバタンク40内の作動油温の推定を行うタンク内油温推定部90と、前記アシスト電流Ioに基づき電動モータ50を駆動制御するモータ制御部100と、該モータ制御部100から出力される後記の駆動信号Dに基づき電動モータ50を駆動するモータ駆動部101と、を備えている。
【0028】
前記アシスト電流指令部80は、電動モータ50の回転数Rを検出(推定)するモータ回転数検出部81と、トルクセンサ71から出力された操舵トルク信号Trについてノイズ除去等の所定の処理を行う信号処理部82と、該信号処理部82から出力された操舵トルク信号Tr及び車速センサ72から出力された車速信号Vに基づき、操舵アシストトルクのベースとなるアシストトルクの発生に供するベース電流Ib(本発明に係る電流指令値)を演算するベース電流演算部83(本発明に係る基本電流指令値演算回路)と、車速センサ72から出力された車速信号V及び操舵角センサ73から出力された操舵角信号θに基づき、後述するステア戻し制御用のアシストトルクの発生に供するステア戻し制御電流Isを演算するステア戻し制御電流演算部84と、操舵角センサ73から出力された操舵角信号θ及び後記のタンク内油温演算部92から出力されたタンク内油温信号Tfに基づき、後述するトルク補正制御に供する補正制御電流Icを演算する補正制御電流演算部85と、ベース電流Ib、ステア戻し制御電流Is及び補正制御電流Icに基づき、電動モータ50の駆動制御に供するアシスト電流Io(本発明に係る補正電流指令値)を演算するアシスト電流演算部86(本発明に係る補正電流指令値演算回路)と、から構成されている。
【0029】
前記モータ回転検出部81は、レゾルバ55から出力される前記出力軸52の回転位置情報に基づいて電動モータ50の実回転数Rを検出し、これを信号処理部82へ出力する。ここで、本願パワーステアリング装置では、後述するように、作動油の流速に相関する操舵角速度ωをもって前記補正制御電流Icを演算することとしているが、当該実回転数Rをもって補正制御電流Icを演算することとしてもよい。すなわち、電動モータ50の実回転数Rからポンプ30の単位あたりの実回転数を求めて、該ポンプ30の単位あたりの実回転数を固定値であるポンプ30の固有吐出量に乗算することによって作動油の流速と一定の相関関係にあるポンプ30の吐出流量が得られることから、当該電動モータ50の単位あたりの実回転数をもって前記補正制御電流Icを演算することも可能である。この場合も、本実施形態で採用した操舵角速度ωによって補正制御電流Icを演算する場合と同様、電動モータ50の実回転数Rも容易に検出可能であることから、作動油の流速を直接検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低廉化に供される。
【0030】
前記信号処理部82は、ベース電流演算部83におけるベース電流Ibの演算に供する操舵トルク信号Trについて、ノイズ処理や位相補償処理を行う。すなわち、トルクセンサ71から出力された操舵トルク信号Trに対し所定のフィルタ処理を行うことにより、当該操舵トルク信号Trのノイズを除去すると共に、モータイナーシャやアシストトルク伝達系の位相遅れ等を補償して、ベース電流Ibの演算に適正な操舵トルク信号Trをベース電流演算部83に出力する。
【0031】
前記ベース電流演算部83は、信号処理部82から出力された操舵トルク信号Trと、車速センサ72から出力された車速信号Vと、に基づいて、図外の所定のマップから基本アシストトルクを求め、該基本アシストトルクの発生に供するベース電流Ibを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。なお、前記マップは、主として操舵トルクTrが大きく、また、車速Vが低くなるほどベース電流Ibを増大させるように構成されている。
【0032】
前記ステア戻し制御電流演算部84は、車速センサ72からの車速信号Vと、操舵角センサ73からの操舵角信号θと、に基づき、図外の所定のマップから、ステアリングホイール11を戻し方向へ操舵操作した場合の当該ステアリング戻し方向のアシストトルクを求め、当該アシストトルクの発生に供するステア戻し制御電流Isを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。
【0033】
前記補正制御電流演算部85は、本発明の流速検出手段ないし操舵速度検出手段に相当する操舵角センサ73からの操舵角信号θと、前記タンク内油温演算部92からのタンク内油温信号Tfと、に基づいて、図6に示すような補正トルクマップから補正トルクCTrを求め、当該補正トルクCTrの発生に供する補正制御電流Icを算出し、これをアシスト電流演算部86に出力する。なお、かかる補正制御電流演算部85における具体的な処理内容については、図4〜図7に基づいて後に詳述する。
【0034】
前記アシスト電流演算部86は、ベース電流演算部83から出力されたベース電流Ibと、ステア戻し制御電流演算部84から出力されたステア戻し制御電流Isと、補正制御電流演算部85から出力された補正制御電流Icと、を加算することによってアシスト電流Ioを演算し、これをモータ駆動部100に出力する。このように、本願パワーステアリング装置の場合、特に、ベース電流演算部83からのベース電流Ibと、補正制御電流演算部85からの補正制御電流Icと、を加算するかたちで、両者Ib,Icの和をもってアシスト電流Ioを演算する構成としたことで、ベース電流Ibを変更しない、つまりベース電流Ibの演算に供する前記所定のマップの特性を変更する必要がないために、運転者の操舵トルクに対して操舵アシストトルクの特性が大きく変化してしまうおそれがない。この結果、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制できる。
【0035】
前記タンク内油温推定部90は、FET64の発熱温度を推定するFET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2及び液温検出手段を構成する温度センサであるサーミスタ65から出力されたECU60内の環境温度としてのサーミスタ温度信号T1(本発明に係る補正用温度信号)に基づいてタンク内油温推定値T0を演算するタンク内油温演算部92と、マイコン62の電源の起動/遮断を行うマイコン電源部94を制御し、イグニッションスイッチ74をオフした後においても所定の時間が経過するまで前記タンク内油温推定値T0の演算を継続する自己保持機能制御部93と、から構成されている。なお、これら各構成の具体的な内容について、タンク内油温演算部92については図8、図9に基づき、また、自己保持機能制御部93については主として図10、図11に基づき、それぞれ後に詳述する。
【0036】
前記モータ制御部100では、モータ回転検出部81により検出された電動モータ50の回転位置情報と、後記のモータ駆動部101と電動モータ50の間に設けられた図外の電流センサからのU相、V相及びW相の各電流情報と、がそれぞれ入力され、U相、V相及びW相の3層からなる電流を2相の電流に変換して、いわゆるPI制御等によるフィードバック制御によって電動モータ50の駆動信号(PWM信号)Dを生成し、このPWM信号Dをモータ駆動部101へと出力するようになっている。
【0037】
前記モータ駆動部101は、前記FET64等のパワー素子により構成され、モータ制御部100からのPWM信号に応じて前記パワー素子をスイッチングすることにより、電動モータ50に対しアシスト電流Ioに相当する制御電流を通電させるようになっている。
【0038】
以下、前記補正制御電流演算部85の制御内容につき、図4〜図7に基づいて具体的に説明する。
【0039】
図4は、前記補正制御電流演算部85における補正制御電流Icの演算過程を示すシステム図である。さらに、図5は、タンク内油温Tf毎の操舵角速度ωに対応する補正トルクCTrを表したグラフであって、補正制御電流Icの演算に供する補正トルクマップを示す一方、図6は、車速Vに対応する後記のリミットトルクCTrxを表したグラフであって、後述する補正制御電流Icのリミット処理に供するリミットトルクマップを示している。
【0040】
前記補正制御電流演算部85は、図4に示すように、操舵角信号θに基づいて操舵角速度ωを演算する操舵角速度演算部110と、該操舵角速度演算部110から出力された操舵角速度信号ωの符号処理を行う第1符号処理部114と、該符号処理部114により処理された操舵角信号ω及びタンク内油温推定部90から出力されたタンク内油温信号Tfに基づき、図5に示すような補正トルクマップに従い補正トルクCTrを算出する補正トルク算出部115と、操舵角センサ73ないしサーミスタ65の状態(正常/異常)に応じて補正制御電流Icとして出力する補正トルクCTrを切り換えるスイッチ116と、該スイッチ116を介して出力された補正制御電流Icの符号処理を行う第2符号処理部117と、該第2符号処理部117により処理された補正制御電流Icについて、図6に示すようなリミットトルクマップに従っていわゆるリミット処理を行うリミット処理部118と、から構成されている。
【0041】
ここで、本発明では、作動油の流速又は操舵角速度ωとリザーバタンク40内の作動油温(タンク内油温Tf)とに基づいて補正制御電流Icを演算することとしているが、本実施形態では、制御の便宜上、作動油の流速に対し一定の相関(比例関係)がある操舵角速度ω及びタンク内油温Tfに基づいて補正制御電流Icを演算することとしている。なお、操舵角速度ωから作動油の流速を推定する方法としては、例えば操舵角速度ωに基づくパワーシリンダ20のピストン22の移動速度とピストン22の断面積とを乗算することによって得られる前記両圧力室P1,P2間の作動油の移動量に基づいて推定する方法等が挙げられる。
【0042】
前記操舵角速度演算部110は、操舵角センサ73からの操舵角信号θについて所定のローパスフィルタを用いたフィルタ処理を行うことにより、当該操舵角信号θのノイズ除去を行うフィルタ回路である第1フィルタ処理部111と、該第1フィルタ処理部111のフィルタ処理によって得られた操舵角θを疑似微分処理して操舵角速度ωを算出する疑似微分演算部112と、該疑似微分演算部112において算出された操舵角速度ωについて前記所定のローパスフィルタと同様のフィルタを用いたフィルタ処理を行うことにより、前記疑似微分処理によって生じた当該操舵角速度ωのノイズ除去を行うフィルタ回路である第2フィルタ処理部113と、を備えている。
【0043】
このように、前記操舵角速度演算部110において、操舵角センサ73からの操舵角信号θをそのまま操舵角速度ωの演算に用いるのではなく、前記所定のフィルタ処理を行ったものを用いて操舵角速度ωの演算を行うと共に、当該演算後の操舵角速度ωについて再び前記所定のフィルタ処理を行うようにしたことで、例えば路面からのキックバックとの運転者の意図しない操舵角速度ω(操舵角θ)の変化や急転舵のような操舵角速度ωの急激な変化についてまでそのまま後述する補正トルクCTrの演算に反映されることがないため、当該補正トルクCTrの急激な変化が抑制され、これによって、操舵フィーリングの向上に供される。
【0044】
前記第1符号処理部114は、前記補正トルク算出部115における処理の便宜上、前記操舵角速度演算部110から出力された操舵角速度信号ωを絶対値化すると共に、その符号情報を図外の符号退避RAMに退避する。具体的には、当該操舵角速度信号ωが正である場合には前記符号退避RAMに「1」を入力し、当該操舵角速度信号ωが負である場合には前記符号退避RAMに「0」を入力する。
【0045】
前記補正トルク算出部115は、前記第1符号処理部114により絶対値化された操舵角速度信号ω及びタンク内油温推定部90からのタンク内油温信号Tfに基づき、図5に示す補正トルクマップからいわゆる線形補完により補正トルクCTrを算出する。
【0046】
ここで、この補正トルクマップは、図5に示すように、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωが大きいほど、また、作動油の粘性に相関のあるタンク内油温Tfが低いほど補正トルクCTr(補正制御電流Ic)が大きくなるように設定され、最終的に電動モータ50へ出力するアシスト電流Ioが増大するようになっている。
【0047】
さらに、この補正トルクマップは、タンク内油温推定値T0が同一の条件(例えば、タンク内油温Tfが「−20℃」)下にて、操舵角速度ωが所定速度(例えば、操舵角速度ωが「100deg/s」)以上の領域における操舵角速度ωの増大量に対する補正トルクCTrの増大量を第1の割合Δ1とし、操舵角速度ωが前記所定速度(100deg/s)より小さい領域における操舵角速度ωの増大量に対する補正トルクCTrの増大量を第2の割合Δ2としたとき、第1の割合Δ1が第2の割合Δ2よりも小さくなるよう設定されている。すなわち、ポンプ30の前記各油通路43a,43bや前記各配管L1,L2の内壁面と作動油との境界特性は操舵角速度ω(作動油の流速)によって変化することから、かかる変化特性に応じて補正トルクCTrの増大量を設定することで、当該補正により操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感が発生してしまうのを抑制することが可能となる。換言すれば、操舵角速度ω(作動油の流速)の変化に対して補正トルクCTrの増大量を比例的に増大させるのではなく、当該操舵角速度ω(作動油の流速)が高くなるにつれて補正トルクCTrの増大量が小さくなるようにしたことで、当該操舵角速度ω(作動油の流速)が高い状態において補正トルクCTrが過大となってしまい操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感の抑制に供される。
【0048】
また、この補正トルクマップは、前記第2の割合Δ2に対する前記第1の割合Δ1の減少率が、タンク内油温Tf(作動油温)が低くなるほど大きくなるように設定されている。すなわち、流速に応じて非線形に変化するポンプ30の前記各油通路43a,43bや前記各配管L1,L2の内壁面と作動油との間の境界特性はタンク内油温Tf(作動油温)によっても変化することから、かかる変化特性、つまりタンク内油温Tfに応じて補正トルクCTrの増大量を設定したことによって、当該タンク内油温Tf(作動油温)が高温の状態において補正トルクCTrが過大となってしまい、これによって操舵が過度に軽くなってしまう等の操舵違和感の抑制に供される。
【0049】
前記スイッチ116は、操舵角センサ73からの故障検出信号θxやサーミスタ65からの故障検出信号T1xに基づき、当該両検出手段73,65が正常である場合には、前記補正トルク算出部115より出力された補正トルクCTrを、また、当該操舵角センサ73又はサーミスタ65のいずれかが異常である場合には固定値である「0」を、前記補正制御電流Icとして出力する。すなわち、操舵角センサ73及びサーミスタ65の正常時には、前述のようなトルク補正制御を行う一方、操舵角センサ73ないしサーミスタ65の異常時には、いわゆるフェールセーフ制御として前記トルク補正制御を行わないようになっている(以下、第1フェールセーフ制御という。)。このとき、この操舵角センサ73からの故障検出信号θx及びサーミスタ65からの故障検出信号T1xによる情報は図外の所定RAMに記憶され、正常である場合は当該所定RAMのラッチ変数に「0」が入力される一方、異常である場合には当該所定RAMのラッチ変数に「1」が入力されて、イグニッションがオンされている間は、前記第1フェールセーフ制御が維持されるような構成となっている。
【0050】
このように、操舵角センサ73により検出される操舵角信号θやサーミスタ65により検出されるサーミスタ温度信号T1について異常が検出された場合には前述のようなトルク補正制御を行わないようにすることにより、当該補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうといった不具合を抑制することができる。
【0051】
前記第2符号処理部117は、前記第1符号処理部114において退避した符号を復帰させる役割を果たし、前記補正トルク算出部115から出力された補正トルクCTrにつき、前記所定RAMに「0」が入力されている場合には、当該補正トルク信号CTrに負の符号を付加する。
【0052】
前記リミット処理部118は、前記補正トルク算出部115から出力された補正トルクCTrが所定の上限値(リミットトルクCTrx)を超えないように、当該補正トルクCTrにつき、図6に示すリミットトルクマップに従って上限規制処理を行う。かかるリミット処理を行う構成としたことにより、補正トルクCTrとして過大となる値が演算された場合にも、補正制御電流Icとしての上限を超えてしまうおそれがなく、これによって、前記補正制御により操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感の抑制が図れる。
【0053】
ここで、前記リミットトルクマップは、図6に示すように、車速Vが高くなるほど前記上限値であるリミットトルクCTrxが低くなるように設定されている。すなわち、車速Vが高いほど必要とされる操舵アシストトルクは小さくなり、過大な操舵アシストトルクに対する操舵違和感も大きくなることから、車速Vに応じてリミットトルクCTrxを設定することで、高車速時において操舵アシストトルクが過大となってしまうのを抑制できると共に、低車速時における操舵負荷の低減に供される。
【0054】
なお、図示は省略しているものの、前記補正制御電流演算部85には、車速センサ72からの車速信号Vが入力される車速入力部が設けられていて、この車速入力部に入力された車速信号Vに基づいて前述のリミット処理が行われるようになっている。
【0055】
以上のように構成された前記補正制御電流演算部85の制御フローにつき、以下に図7に基づいて説明する。
【0056】
図7は、当該補正制御電流演算部85での制御フローを示すフローチャートである。
【0057】
すなわち、前記補正制御電流演算部85では、まず、操舵角センサ73から出力された操舵角信号θについて前記所定のローパスフィルタによるフィルタ処理が実行され(ステップS101)、このフィルタ処理をした操舵角信号θについて前記疑似微分処理を実行することによって操舵角速度ωを算出した後(ステップS102)、該微分処理をした操舵角速度ωにつき、再び前記所定のローパスフィルタによるフィルタ処理を実行する(ステップS103)。
【0058】
そして、前記ステップS103におけるフィルタ処理によって得られた操舵角速度ωの正負を判断し(ステップS104)、当該操舵角速度ωの符号が正である場合は、前記符号退避RAMに「1」を入力し(ステップS105)、当該操舵角速度ωの符号が負である場合には、当該操舵角信号ωを絶対値化すると共に前記符号退避RAMに「0」を入力した後(ステップS106)、当該符号処理がなされた操舵角信号ωに基づき、前記補正トルクマップ(図5参照)に従って補正トルクCTrを算出する(ステップS107)。
【0059】
その後、前記所定RAMにおいてラッチ変数に「1」が入力されているか、つまり前記第1フェールセーフ制御が実行中であるか否かを判断し(ステップS108)、ラッチ変数が「0」である(第1フェールセーフ制御が実行されていない)場合には、サーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されていないか、或いは、操舵角センサ73の故障検出信号θxが検出されていないか、を判断する一方(ステップS109)、ラッチ変数が「1」である(第1フェールセーフ制御が実行されている)場合には、後記のステップS112に移行する。そして、前記ステップS109においてサーミスタ65ないし操舵角センサ73からの故障検出信号T1x,θxが検出された場合には、スイッチ116により補正トルクCTrを「0」として出力して(ステップS110)、前記所定RAMのラッチ変数に「1」を入力する(ステップS111)。
【0060】
続いて、前記ステップS108、前記ステップS109又は前記ステップS111の後に、前記符号退避RAMに「0」が入力されているか否か、つまり退避符号が負であるか否かを判断し(ステップS112)、当該退避符号RAMに「1」が入力されている(退避符号が正である)場合にはステップS115へ移行する一方で、当該退避符号RAMに「0」が入力されている(退避符号が負である)場合には、補正トルクCTrに負の符号を付加する(ステップS113)。そして、前記ステップS114においてかかる符号復帰処理を行った後、この補正トルクCTrについて前記リミット処理を実行して(ステップS114)、当該フローが終了する。
【0061】
次に、前記タンク内油温演算部92の制御内容につき、図8及び図9に基づいて具体的に説明する。
【0062】
図8は、前記タンク内油温演算部92におけるタンク内油温信号Tfの演算過程を示すシステム図である。
【0063】
前記タンク内油温演算部92は、FET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2について、所定の1次遅れの伝達関数(時定数:0.00023[Hz])をもって近似処理する第1近似処理部121と、予め実験により求めたサーミスタ65の温度とリザーバタンク40内の作動油温との乖離量であってECU60の通電による発熱量に相当する定常偏差信号T3について、所定の1次遅れの伝達関数(時定数:0.00167[Hz])をもって近似処理する第2近似処理部122と、サーミスタ65から出力されたサーミスタ温度信号T1からFET推定温度信号T2と定常偏差信号T3とを減算してタンク内油温推定値T0を算出する加算器123と、サーミスタ65の状態(正常/異常)に応じ、出力するタンク内油温推定値T0を切り換えるスイッチ124と、該スイッチ124を介して出力されたタンク内油温推定値T0につき、いわゆるリミット処理を行うリミット処理部125と、から構成されている。
【0064】
ここで、本願パワーステアリング装置では、前記補正制御電流Icの演算に用いる前記タンク内油温推定値T0を推定するにあたり、サーミスタ温度T1を基準として、このサーミスタ温度T1からFET64の発熱温度に相当するFET推定温度T2及びマイコン62やASIC等の発熱温度に相当する定常偏差T3(本実施形態では、「18(℃)」の固定値としている。)をそれぞれ減算するようにしたことにより、当該タンク内油温推定値T0をより高い精度でもって推定することができる。すなわち、ECU60の回路基板61には発熱源となるマイコン62等やFET64が実装されているため、サーミスタ65によって検出されるサーミスタ温度T1には前記マイコン62等やFET64の発熱分が含まれたものとなる一方、リザーバタンク40内の作動油には前記マイコン62等やFET64の発熱による影響がほとんどないことから、前述のように、サーミスタ温度T1からFET推定温度T2や定常偏差T3を減算することで、タンク内油温推定値T0のより精度の高い推定に供される。
【0065】
なお、前記スイッチ124は、サーミスタ65からの故障検出信号T1xに基づき、当該サーミスタ65が正常である場合は前記加算器123から出力されたタンク内油温推定値T0を、また、当該サーミスタ65が異常である場合には固定値としての所定の代替温度である「18(℃)」を、タンク内油温信号Tfとして出力する。すなわち、前記サーミスタ65の正常時には、前記推定したタンク内油温推定値T0を用いて作動油温に基づく補正制御を行う一方、前記サーミスタ65の異常時には、いわゆるフェールセーフとして、リザーバタンク40内の作動油温に基づく補正制御を行わないようになっている(以下、第2フェールセーフ制御という。)。このとき、サーミスタ65からの故障検出信号T1xによる情報は図外の所定RAMに記憶され、正常である場合は当該所定RAMのラッチ変数に「0」が入力される一方、異常である場合には当該所定RAMのラッチ変数に「1」が入力されて、イグニッションがオンされている間は、前記第2フェールセーフ制御が維持されるような構成となっている。
【0066】
このように、サーミスタ65によって検出されるサーミスタ温度信号T1が異常である場合は、予め実験等により定めた前記固定値(代替温度)を用いることによって前記タンク内油温Tfに基づく補正制御を行わずに操舵アシストトルクを演算するようにしたことにより、当該補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうといった不具合の抑制に供される。
【0067】
また、前記リミット処理部125では、スイッチ124を介して出力されたタンク内油温推定値T0が「−20(℃)〜20(℃)」の範囲に収まるように、上限及び下限についての制限処理が行われて、当該タンク内油温推定値T0が「−20℃」を下回っている場合は「−20(℃)」として出力し、また、当該タンク内油温推定値T0が「20(℃)」を上回っている場合には「20(℃)」として出力する。
【0068】
以上のように構成された前記タンク内油温演算部92の制御フローにつき、以下に図9に基づいて説明する。
【0069】
図9は、当該タンク内油温演算部92での制御フローを示すフローチャートである。
【0070】
すなわち、前記タンク内油温演算部92では、まず、FET温度推定部91から出力されたFET推定温度信号T2について、前述の1次遅れの伝達関数による近似処理が実行され(ステップS201)、続いて、予め記憶された定常偏差信号T3について、前述の1次遅れの伝達関数による近似処理が実行され(ステップS202)、その後、前記ステップS201において行った近似処理を完成させるために、当該ステップS201で近似処理されたFET推定温度信号T2に所定のゲインをかけた後(ステップS203)、サーミスタ温度T1から前記各処理を行ったFET推定温度T2及び定常偏差T3を減算処理して、タンク内油温推定値T0を算出する(ステップS204)。
【0071】
その後、前記所定RAMにおいてラッチ変数に「1」が入力されているか、つまり前記第2フェールセーフ制御が実行中であるか否かを判断し(ステップS205)、ラッチ変数が「0」である(第2フェールセーフ制御が実行されていない)場合には、続いてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されているか否かを判断する一方(ステップS206)、ラッチ変数が「1」である(第2フェールセーフ制御が実行されている)場合には、後記のステップS213に移行する。
【0072】
そして、前記ステップS206においてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出された場合には、スイッチ124によってタンク内油温推定値T0を固定値である「18(℃)」に切り換え(ステップS207)、前記所定RAMのラッチ変数に「1」を入力する(ステップS208)。
【0073】
一方、前記ステップS206においてサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されなかった場合は、「タンク内油温推定値T0<−20(℃)」であるか否かを判断し(ステップS209)、当該タンク内油温推定値T0が「−20(℃)」を下回っている場合には、タンク内油温推定値T0を「−20(℃)」としてタンク内油温信号Tfを出力する(ステップS210)。
【0074】
続いて、次ステップにおいて「タンク内油温推定値T0>20(℃)」であるか否かを判断し(ステップS211)、当該タンク内油温推定値T0が「20(℃)」を上回っている場合には、タンク内油温推定値T0を「20(℃)」としてタンク内油温信号Tfを出力する(ステップS212)。
【0075】
その後、タンク内油温推定値T0のモニタ用として前記リミット処理を行う前のタンク内油温推定値T0を所定のRAMに入力して(ステップS213)、当該フローが終了することとなる。
【0076】
次に、前記自己保持機能制御部93の概要について説明する。なお、図10は、イグニッションオフ後におけるタンク内油温推定値T0、FET推定温度T2及びタンク内油温実測値Txのそれぞれの推移を表した図である。
【0077】
従来では、前述のようなトルク補正制御に係るパラメータは、所定のRAMに一時的に記憶されるものであってイグニッションをオフにしてしまうと消滅してしまうことから、前記イグニッションのオフ後において短時間の間に再度イグニッションをオンした場合、つまりエンジン再スタートまでの時間が短い場合には、タンク内油温推定値T0とタンク内油温実測値Txとの間に比較的大きな偏差が生じるために、前記アシストトルクに係る適正な補正を行うことができないという問題があった。そこで、本実施形態では、イグニッションをオフした後も所定時間が経過するまでマイコン62の電源を遮断することなく前記タンク内油温推定値T0の演算を継続させるといった自己保持機能を設けることとしている。
【0078】
また、上述のイグニッションオフ後における前記タンク内油温推定値T0とタンク内油温実測値Txとの偏差について具体的に説明すれば、図10に示すように、FET温度T2に対し実油温Txの温度変化は非常に緩慢であることから、イグニッションをオフした直後は、油温推定値T0と油温実測値Txの間に比較的大きな偏差が生じることとなる。その後、時間の経過に伴いFET温度T2の温度変化が緩やかになってくると、これに応じて前記両者T0,Txの偏差も徐々に縮小し、概ね「1500秒」が経過した後にはFET温度T2と実油温Txの変化量がほぼ一定となり、この結果、前記両者T0,Txの偏差もほぼ一定となる。かかる実験結果を基に、車載バッテリにかかる負担も勘案して、本実施形態では、前記自己保持機能の継続時間が「1000秒」に設定されている。
【0079】
このように、本実施形態では、前記自己保持機能制御部93によって、イグニッションをオフした後も、前記所定時間(1000秒)が経過するまでの間、マイコン62の電源を遮断することなくタンク内油温推定値T0の演算を継続させることによって、前記所定時間内に再度イグニッションをオンにした場合における当該タンク内油温推定値T0の精度を向上させることが可能となっている。
【0080】
また、この際、前記実験結果に基づき前記自己保持機能の継続時間を定めたことで、FET温度T2が、タンク内油温推定値T0の推定にあたって比較的大きく影響する所定の高温状態にある場合には、前記自己保持機能を継続することによってタンク内油温T0の推定精度の向上に供される一方、FET温度T2が、タンク内油温推定値T0の推定にあたって比較的影響が小さいと考えられる所定の低温状態となった場合には、前記自己保持機能を終了させることによって不揮発性RAM63への余計な通電を抑制して車載バッテリに与える負荷の低減に供されることとなる。
【0081】
なお、前記所定時間については、当該実施形態に係るもの(1000秒)に限定されるものではなく、例えば搭載対象の仕様等に応じて自由に変更できる。そして、前記実験結果からもわかるように、FET温度T2が高いほどタンク内油温T0の推定に対する影響が大きくなることから、前記所定時間につき、FET温度T2が高いほど長くなるように変更する等、当該実施形態のように固定値とせず、FET温度T2に応じて決定するようにしてもよい。
【0082】
続いて、前記自己保持機能制御部93の制御内容につき、図11に基づいて具体的に説明する。
【0083】
図11は、当該自己保持機能制御部93での制御フローを示す図である。
【0084】
すなわち、前記自己保持機能制御部93においては、まず、イグニッションスイッチ74がオフになっているか否かを判断し(ステップS301)、ここで、当該イグニッションスイッチ74がオフになっていない場合には当該フローは終了する一方、当該イグニッションスイッチ74がオフになっている場合には後記のステップS302にて所定の条件についての判断を行う。
【0085】
ステップS302では、(1)操舵角センサ73の故障検出信号θxないしサーミスタ65の故障検出信号T1xが検出されたことによる第1フェールセーフ制御が実行されていないこと、(2)サーミスタ温度T1からタンク内油温推定値T0を減算して得られたものが規定値(本実施形態では、前記定常偏差に相当する「18(℃)」に設定されている。)を超えていること、(3)後記の自己保持タイマ変数が「1000(秒)」未満であること、の以上3つの条件をすべて満たすか否かを判断する。
【0086】
ここで、前記3条件を1つでも満たさない場合には前記自己保持機能を実行せず当該フローが終了する一方で、前記3条件をすべて満たす場合には、前記不揮発性RAM63に記憶される自己保持タイマ変数をカウントアップして(ステップS303)、当該自己保持機能を実行する。
【0087】
続いて、次ステップS304において、イグニッションスイッチ74がオンされたか否か、つまりエンジンが再スタートされたか否かを判断し(ステップS304)、当該イグニッションスイッチ74がオンされていない場合には当該フローが終了して引き続きタンク内油温推定値T0の演算を継続する一方で、当該イグニッションスイッチ74がオンされた場合には、前記自己保持機能を実行する必要がなくなるので、前記不揮発性RAM63の自己保持タイマ変数をクリアする(ステップ305)。
【0088】
前記ステップS305にて自己保持タイマ変数をクリアした後は、再び前記第1フェールセーフ制御が実行中であるか否かについて判断を行い(ステップS306)、この第1フェールセーフ制御が実行中である場合には前記アシストトルクの補正は行わないので当該フローは終了する一方、第2フェールセーフ制御が実行されていない場合には前記トルク補正制御に係る関連変数をすべて初期化し(ステップS307)、当該フローが終了することとなる。
【0089】
また、前記自己保持機能は、必ずしも前記タンク内油温推定値T0の演算を継続することのみを目的として実行されるものではなく、例えば所定のデータを不揮発性RAM63に書き込み中の場合や、電動モータ50の加熱保護プログラムの実行中の場合等においても実行される。そこで、以下に、前述した図11に係る制御フローとは別に、これと連動して前記自己保持機能制御部93による自己保持機能の実行判断を行う制御フローにつき、図12を用いて説明する。
【0090】
すなわち、前記自己保持機能制御部93では、まず、不揮発性RAM63に記憶された自己保持タイマ変数につき、「自己保持タイマ変数≧所定値」であるか否かの判断を行い(ステップS401)、自己保持タイマ変数が所定値以上である場合には、当該自己保持機能の実行を終了してマイコン電源制御部94に対しマイコン62の電源を遮断する信号を出力する(ステップS404)。なお、前記所定値は、当該自己保持機能を実行時間に相当するものであり、前述したタンク内油温推定値T0の演算に係るものであれば「1000(秒)」である等、当該自己保持機能の実行の目的に応じてそれぞれ定められた基準値である。
【0091】
一方、前記ステップS401において自己保持タイマ変数が前記所定値に達していない場合は、続いて「自己保持タイマ変数>0」であるか否か、つまり再度イグニッションがオンされたか否かを判断して(ステップS402)、イグニッションがオンされていない場合には前記自己保持機能の実行が継続されて当該フローが終了する一方(ステップS403)、イグニッションがオンされた場合には、当該自己保持機能を実行する必要がなくなることから、ステップS404に進み、当該自己保持機能の実行を終了し、マイコン電源制御部94に対しマイコン62の電源を遮断する信号を出力することによって当該フローが終了することとなる。
【0092】
以上のようにして構成された本願パワーステアリング装置の前記トルク補正制御による効果について、以下に図13、図14に基づいて具体的に説明する。
【0093】
図13は、従来のパワーステアリング装置での操舵角速度ω及び油温Tfに基づく操舵力Fを示す図であり、図14は、本願パワーステアリング装置での操舵角速度ω及び油温Tfに基づく操舵力Fを示す図である。なお、いずれの図も、据え切り状態にて操舵した時の操舵トルクを表したものである。
【0094】
すなわち、図13、図14を比較した場合、従来のパワーステアリング装置と本願パワーステアリング装置とは、油温Tfが常温である「25℃」の状態では操舵力Fに差は見られないが、油温Tfが「−10℃」以下の状態では、ほぼ全ての項目に関して、本願パワーステアリング装置における操舵力Fが、従来のパワーステアリング装置における操舵力Fを下回っているのを確認することができる。かかる結果から明らかなように、本願パワーステアリング装置では、従来のパワーステアリング装置と比較して、油温Tfが低く粘性が増大することによって顕著となる前記各配管L1,L2等における圧力損失の低減化を図ることができる。
【0095】
また、前記両図の比較により、本願パワーステアリング装置と従来のパワーステアリング装置とでは、油温Tfが低くなるほど操舵力Fの差が大きくなることが確認できると共に、操舵角速度ωが高くなるほど操舵力Fの差が大きくなることが確認できる。このような結果から、本願パワーステアリング装置の前記トルク補正制御による効果は、作動油の粘性と相関のある油温Tfが低いほど高く、また、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωが高いほど高くなるといえる。
【0096】
換言すれば、図13の結果から確認されるように、低温であるほど、また、流速が高くなるほど、操舵力Fが大きくなる、つまり前記圧力損失が増大するなか、本願パワーステアリング装置では、このような圧力損失を相殺すべく、流速(操舵角速度ω)が高いほど及び液温Tfが低いほど、補正制御電流Ic(補正トルクCTr)を増大させるような制御構成としたことにより、前述のような圧力損失を効果的に低減することが可能となっている。
【0097】
このように、本願パワーステアリング装置によれば、操舵応答性に影響する作動油の流速(操舵角速度ω)及び油温Tfに基づいて電動モータ50に付与するアシスト電流Ioを増大補正するようにしたことで、低温時における操舵応答性を向上させ、常温時の操舵応答性に近づけることができる。
【0098】
なお、この際、前記トルク補正制御によって、操舵応答性について運転者が認識しやすい操舵力F(操舵負荷)を軽減させるようにしたことにより、操舵応答性向上の実効を確保することができる。
【0099】
また、本実施形態に係るパワーステアリング装置にあっては、ポンプ30とリザーバタンク40と電動モータ50とECU60が一体的に構成されていて、リザーバタンク40がポンプ30の一部(軸方向の他端側)を覆うように構成されると共に、ECU60がポンプ30に隣接して設けられていることから、特に操舵応答性に大きな影響を及ぼし得るポンプ30内の作動油温とリザーバタンク40内の作動油温との温度差が小さくなり、これによって、前述の操舵アシストトルクの補正をより適切に行うことに供される。
【0100】
さらには、上記の一体的な構成によってリザーバタンク40内の作動油温とECU60の環境温度との温度差も小さくなるため、ECU60の環境温度をもってタンク内油温Tfを推定するにあたって、当該タンク内油温Tfの推定精度の向上にも供される。
【0101】
しかも、この際、ECU60の回路基板61に実装されるサーミスタ65を補正用温度センサとして利用したことにより、当該温度センサの搭載性が良好になると共に、回路基板61との電気的な接続も容易となることから、装置の簡略化や製造コストの低廉化にも貢献できる。
【0102】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば搭載するポンプ30や電動モータ50の各構成については、適用対象となる車両の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0103】
また、前記実施形態では、装置の製造コストを低減する観点から、リザーバタンク40内の作動油温をECU60に設けられるサーミスタ64の発熱温度T1から推定することとしているが、本発明はこのようなタンク内油温を推定することに限定されるものではなく、リザーバタンク40に温度センサを設け、当該温度センサによってタンク内油温Tfを直接検出することとしてもよい。この場合は、リザーバタンク40内の作動油温を正確に把握することができるため、前記操舵アシストトルクの補正精度の向上に供される。
【0104】
また、前記実施形態では、便宜上、作動油の流速を直接検出するのではなく、作動油の流速に相関のある操舵角速度ωから当該作動油の流速を間接的に推定するかたちで、この操舵角速度ωに基づいて前記アシストトルクの補正を行うこととしているが、当該操舵角速度ωから実際に作動油の流速を推定し、当該流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うことも可能であり、前記実施形態に例示した手段に限定されるものではない。
【0105】
さらに、この作動油の流速については、上述のような推定に限定されるものでもなく、例えば液体の流速を検出し得る任意のセンサを用いて作動油の流速を直接検出することも可能であり、この直接検出した流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うこととしてもよい。
【0106】
また、前記実施形態では、前記操舵角速度演算部110にて、操舵角センサ73によって検出された操舵角θをもって操舵角速度ωを演算することとしているが、この操舵角速度ωは、ラック軸14の移動(ストローク)速度を検出する速度センサを設け、該速度センサによって検出されたラック軸14の移動速度から求めることも可能である一方、ラック軸14の移動(ストローク)量を検出するストロークセンサを設け、該ストロークセンサによって検出されたラック軸14の移動量から演算(推定)して求めることも可能である。
【0107】
そして、本実施形態では操舵角速度ωに基づき推定することとした作動油の流速についても、前記ラック軸14の移動速度に基づき推定することとしてもよい。すなわち、このラック軸14の移動速度にピストン22の断面積を乗算することにより得られる前記両圧力室P1,P2間の作動油の移動量から当該作動油の流速を推定し、この推定した流速に基づいて前記操舵アシストトルクの補正を行うこととしてもよい。この場合も、ラック軸14の移動速度は容易に検出可能であることから、作動油の流速自体を検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低減化に供される。
【0108】
前記実施形態から把握される前記各請求項に記載した発明以外の技術的思想について、以下に説明する。
【0109】
(a)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、液温の同一条件下で、流速が所定速度以上の領域における流速の増大量に対する前記電流指令値の補正量の増大量の割合である第1の割合が、流速が前記所定速度より小さい領域における流速の増大量に対する前記電流指令値の補正量の増大量の割合である第2の割合よりも小さくなるように、前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0110】
すなわち、ポンプや配管の内壁面と作動液との間の境界特性は流速によって変化することから、この変化特性に応じて電流指令値の増大補正量を設定することによって、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0111】
(b)前記(a)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記第2の割合に対する前記第1の割合の減少率が、液温が低くなるほど大きくなるように、前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0112】
すなわち、流速に応じて非線形に変化するポンプや配管の内壁面と作動液との間の境界特性は液温によっても変化することから、かかる変化特性に応じて電流指令値の増大補正量を設定することによって、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0113】
(c)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値は、前記基本電流指令値演算回路により演算された電流指令値と流速及び液温に基づいて演算された補正値との和であることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0114】
かかる構成によれば、基本電流指令値演算回路によって演算される電流指令値を変更することがないため、操舵トルクに対する操舵アシストトルクの特性が大きく変化してしまうことがなく、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0115】
(d)前記(c)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記補正値が所定の上限値を超えないように前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0116】
このように構成することで、補正値演算に用いられるセンサ出力の異常等により過大な補正値が演算された場合であっても、補正電流指令値に用いられる補正値は上限値を超えてしまうおそれがなく、操舵が過度に軽くなる等の操舵違和感を抑制することができる。
【0117】
(e)前記(d)に記載のパワーステアリング装置において、
車両に搭載された車速センサからの車速情報が入力される車速入力部をさらに備え、
前記補正電流指令値演算回路は、車速が高くなるほど前記上限値が低くなるように前記補正電流指令値を演算することを特徴するパワーステアリング装置。
【0118】
すなわち、車速が高いほど必要となる操舵力は小さくなり、過大な操舵力に対する操舵違和感も大きくなることから、車速に応じて上限値を設定することにより、高車速時において操舵力が過大になるのを抑制できると共に、低車速時における操舵負荷の低減が図れる。
【0119】
(f)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
流速を、前記可逆式ポンプの単位時間あたりの実回転数に基づいて演算するように構成したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0120】
すなわち、ポンプ1回転あたりの吐出量である固有吐出量とポンプ回転数との積はポンプ吐出流量となり、ポンプの固有吐出量は固定値であることから、ポンプの単位時間あたりの実回転数を検出することによって流速を得ることができる。この場合、ポンプの実回転数は容易に検出可能であることから、流速そのものを検出する場合に比べて、装置の簡略化や製造コストの低減化に供される。
【0121】
(g)請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記パワーシリンダのピストン移動速度を検出する速度センサをさらに備え、
流速を、前記ピストン移動速度に基づいて演算するように構成したことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0122】
すなわち、ピストン受圧面積とピストン移動距離との積はポンプ吐出流量となり、ピストン受圧面積は固定値であることから、ピストンの単位時間あたりの移動距離であるピストン移動速度を検出することによって流速を得ることができる。この場合、ピストン移動速度は容易に検出可能であることから、流速そのものを検出する場合に比べて、装置の簡略化やコストの低減化に供される。
【0123】
(h)請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ制御回路は、前記電動モータを駆動制御するマイクロコンピュータ及び電子回路を搭載する回路基板を有し、
前記温度センサは、前記回路基板に搭載され、前記制御回路ハウジング内の環境温度を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0124】
かかる構成によれば、温度センサがモータ制御回路基板上に設けられるため、当該温度センサの搭載性の向上や当該温度センサと他の電子回路との接続性の向上が図れる。また、この際、前記温度センサは、液温を直接検出するようになってはいないが、リザーバタンク近傍に設けられていることから、制御回路ハウジング内の環境温度を検出することで、液温の推定精度の向上に供される。
【0125】
(i)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ駆動回路はFETを有し、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサによって検出された補正用温度から前記FETの通電に伴う発熱温度を減算した情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0126】
このように、制御回路ハウジング内に発熱源であるFETを有している場合、温度センサが検出する環境温度は前記FETの発熱分を含んだものとなるが、リザーバタンク内の作動液については前記FETの発熱による影響はほとんどないことから、温度センサの検出温度から前記FETの発熱温度を減算させるようにしたことで、より精度の高い液温推定に供される。
【0127】
(j)前記(i)に記載のパワーステアリング装置において、
車両の電源回路が遮断された後、所定時間の間、前記FETの発熱温度の情報を記憶する不揮発性メモリをさらに備え、
前記補正電流指令値演算回路は、前記所定時間経過前に車両の電源回路が通電された際、前記不揮発性メモリに記憶されたFETの発熱温度の情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0128】
すなわち、FETの発熱温度の情報が記憶されない場合、車両の電源回路が遮断された後にFETの発熱温度が低下する前に再始動された際に、FETの発熱温度を考慮した適切な温度推定を行うことができない。そこで、本構成によれば、車両の電源回路が遮断された後、FETの発熱温度が低下しないうちに再始動された場合であっても、適切な温度推定を行うことができ、当該温度推定精度の向上に供される。
【0129】
(k)前記(j)に記載のパワーステアリング装置において、
前記不揮発性メモリは、当該不揮発性メモリに通電される間は前記FETの発熱温度の情報を記憶し、当該不揮発性メモリへの通電が遮断された際に前記FETの発熱温度の情報を消去するように構成され、
前記不揮発性メモリへの通電時間は、前記FETの発熱温度が高いほど長く設定されることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0130】
すなわち、FETの発熱温度が高いほど当該発熱温度が環境温度に対し影響を与える時間も長くなることから、FETの発熱温度に応じて不揮発性メモリの前記FETの温度情報を保持する時間を変更するように構成することで、不揮発性メモリへの不要な通電を抑制できると共に、温度推定精度の向上に供される。
【0131】
(l)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサによって検出された補正用温度から前記モータ制御回路における前記マイクロコンピュータの発熱温度を減算した情報に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0132】
すなわち、制御回路ハウジング内には発熱源となるマイクロコンピュータが設けられていることから、温度センサにより検出される環境温度には当該マイクロコンピュータの発熱分が含まれることとなるが、リザーバタンク内の作動液については前記マイクロコンピュータの発熱による影響はほとんどないことから、温度センサの検出温度から前記マイクロコンピュータの発熱温度を減算させるようにしたことで、より精度の高い液温推定に供される。
【0133】
(m)前記(h)に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、前記温度センサから入力される補正用温度の情報が異常である場合には、前記補正用温度を固定値である所定の代替温度として、当該代替温度に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0134】
すなわち、温度センサにより検出された補正用温度の情報が異常である場合、そのまま当該異常情報を用いて操舵アシスト力を発生させてしまうと、補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、温度センサによって検出された補正用温度の情報が異常である場合には、当該補正用温度として実験等により決定された所定の代替温度を用いることで、前述のような操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0135】
(n)請求項2に記載のパワーステアリング装置において、
前記温度センサは、前記リザーバタンク内に搭載されて、該リザーバタンク内の作動液の液温を検出することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0136】
このように、温度センサにより作動液の液温を直接検出するように構成することで、より正確な液温情報を得られ、より適切な補正を行うことに供される。
【0137】
(o)前記(n)に記載のパワーステアリング装置において、
前記リザーバタンクは、当該リザーバタンク内に貯留される作動液によって前記可逆式ポンプの少なくとも一部が包囲されるように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【0138】
このように、リザーバタンク内に貯留される作動液によって可逆式ポンプを包囲するように構成することで、操舵応答性に大きく影響を及ぼすポンプ内の作動液の液温とタンク内の作動液の液温との差を小さくすることが可能となり、これによって、電流指令値についてのより適切な補正を行うことができる。
【0139】
(p)請求項3に記載のパワーステアリング装置において、
前記補正電流指令値演算回路は、電気信号の所定の周波数以下の成分を抽出するフィルタ回路を有し、当該フィルタ回路を通過した後の前記操舵速度検出手段からの出力信号に基づいて前記補正電流指令値を演算することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0140】
すなわち、操舵速度情報には、運転者の操舵意図と関係しない情報や、運転者による急転舵のように急激な変化を伴う操舵速度情報も含まれることから、かかる意図しない変化や急激な変化に対してまで厳密に補正電流指令値を変化させることは、操舵フィーリングの悪化を招来してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、操舵速度信号を、所定のフィルタ回路に通すようにしたことで、前述のような補正電流指令値の急激な変化が抑制され、操舵フィーリングの向上に供される。
【0141】
(q)請求項3に記載のパワーステアリング装置において、
前記モータ駆動回路は、前記補正電流指令値演算回路において前記操舵速度検出手段から入力される操舵速度の情報が異常である場合には、前記基本電流指令値演算回路により演算された電流指令値を前記補正電流指令値として前記電動モータを駆動制御することを特徴とするパワーステアリング装置。
【0142】
すなわち、操舵速度検出手段より入力された操舵速度情報が異常である場合、そのまま当該異常情報を用いて操舵アシスト力を発生させてしまうと、補正前よりも操舵フィーリングが悪化してしまうおそれがある。そこで、本構成のように、操舵速度検出手段より入力された操舵速度の情報が異常である場合には、電流指令値についての補正を中止させることにより、前述のような操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0143】
1…操舵力伝達手段(操舵機構)
20…パワーシリンダ
30…双方向ポンプ(可逆式ポンプ)
50…電動モータ
60…コントロールユニット(モータ制御回路)
65…サーミスタ(液温検出手段又は温度センサ)
73…操舵角センサ(流速検出手段又は操舵速度検出手段)
83…基本電流指令値演算部
86…アシスト電流指令値演算部(補正電流指令値演算部)
100…モータ駆動部
Io…アシスト電流指令値(補正電流指令値)
Ib…基本電流指令値
P1…第1圧力室
P2…第2圧力室
L1…第1配管(第1油路)
L2…第2配管(第2油路)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記パワーシリンダ、前記可逆式ポンプ及び前記各油路から構成される液圧回路内を流れる作動液の流速を検出又は推定する流速検出手段と、
前記作動液の液温を検出又は推定する液温検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、流速及び液温に基づき、流速が高いほど及び液温が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記パワーシリンダ、前記可逆式ポンプ及び前記各油路から構成される液圧回路内を流れる作動液量の過不足を調整するために作動液を貯留するリザーバタンクと、
前記液圧回路内を流れる作動液の流速を検出又は推定する流速検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプに設けられ該可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータ及び前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路から構成されるモータ駆動装置と、
前記モータ制御回路を収容する制御回路ハウジングと、
前記リザーバタンク又は前記制御回路ハウジングに設けられ、作動液温又は前記制御回路ハウジング内の環境温度である補正用温度を検出する温度センサと、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、舵角速度及び補正用温度に基づき、舵角速度が高いほど及び補正用温度が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記操舵機構に連係されるステアリングホイールの操舵速度を検出又は推定する操舵速度検出手段と、
前記作動液の液温を検出又は推定する液温検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、流速及び液温に基づき、操舵速度が高いほど及び液温が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項1】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記パワーシリンダ、前記可逆式ポンプ及び前記各油路から構成される液圧回路内を流れる作動液の流速を検出又は推定する流速検出手段と、
前記作動液の液温を検出又は推定する液温検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、流速及び液温に基づき、流速が高いほど及び液温が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記パワーシリンダ、前記可逆式ポンプ及び前記各油路から構成される液圧回路内を流れる作動液量の過不足を調整するために作動液を貯留するリザーバタンクと、
前記液圧回路内を流れる作動液の流速を検出又は推定する流速検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプに設けられ該可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータ及び前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路から構成されるモータ駆動装置と、
前記モータ制御回路を収容する制御回路ハウジングと、
前記リザーバタンク又は前記制御回路ハウジングに設けられ、作動液温又は前記制御回路ハウジング内の環境温度である補正用温度を検出する温度センサと、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、舵角速度及び補正用温度に基づき、舵角速度が高いほど及び補正用温度が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
内部に隔成された1対の第1圧力室及び第2圧力室を有し、該両圧力室の差圧により車両の転舵輪に連係される操舵機構の操舵力を補助するパワーシリンダと、
前記パワーシリンダの各圧力室に接続される1対の吐出口である第1吐出口及び第2吐出口を有し、正逆回転することにより前記各圧力室に作動液を選択的に供給する可逆式ポンプと、
前記第1圧力室と前記第1吐出口とを接続する第1油路と、
前記第2圧力室と前記第2吐出口とを接続する第2油路と、
前記操舵機構に連係されるステアリングホイールの操舵速度を検出又は推定する操舵速度検出手段と、
前記作動液の液温を検出又は推定する液温検出手段と、
前記操舵機構に作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記可逆式ポンプを正逆回転駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを駆動制御するための電流指令値を演算する基本電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記基本電流指令値演算回路によって演算された電流指令値の補正値である補正電流指令値を演算する演算回路であって、流速及び液温に基づき、操舵速度が高いほど及び液温が低いほど前記電流指令値が増大するように、前記補正電流指令値を演算する補正電流指令値演算回路と、
前記モータ制御回路に設けられ、前記補正電流指令値に基づいて前記電動モータを駆動制御するモータ駆動回路と、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−235760(P2011−235760A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108917(P2010−108917)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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