説明

パワートレイン製品の製造方法

【課題】インラインで防錆処理を行っても、異物の残留等の問題を生じないパワートレイン製品の製造方法を提供する。
【解決手段】棒状の素材10を鍛造し未加工ベース20とする鍛造工程と、前記未加工ベース20に焼ならし、焼戻しを施す焼ならし焼戻し工程と、前記焼ならし、焼戻しを施した未加工ベース20の外形を切削し外形加工ベース30を得る外形切削工程と、前記外形を切削した外形加工ベース30に表面処理を施す表面処理工程と、前記表面処理を施した外形加工ベース30の内形を切削し、製品ベース40を得る内形切削工程と、前記内形を切削した製品ベース40に機能部品を組付ける部品組付工程を順に備えることを特徴とするパワートレイン製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクタ、コモンレール等のパワートレイン製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に述べられているように、コモンレール等のパワートレイン製品は、焼ならし焼戻しを施した未加工ベースに切削加工を施し、内外連通孔やネジ等を形成し、その後、切削加工後の製品に錆止め等の表面処理を施し、続いて、機能部品を組付けることによって製造されている。
【0003】
ここで、表面処理としては、黒染め、めっき等が挙げられる。これらの処理は湿式処理であり、また、通常バッチ処理が行われる。そのため、例えば、別の工場、別の会社等、パワートレイン製品の製造ラインとは異なる場所で行われるのが通常である。そのため、パワートレイン製品製造の工程が分断され、コスト増となるという問題があった。
【0004】
湿式処理によるめっきと異なる方法のめっき処理法として、特許文献2に見られるように、被処理製品の表面に、被覆金属粉体を噴射して衝突させ、被覆金属粉体の組成物中の元素を被処理製品の表面に活性化吸着させて拡散浸透させる方法(以下、PIP法)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−151099号公報
【特許文献2】特許第3365887号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、パワートレイン製品の製造方法に係る前記問題にかんがみ、インラインで防錆処理を行っても、異物の残留等の問題を生じないパワートレイン製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、棒状の素材10を鍛造し未加工ベース20とする鍛造工程と、前記未加工ベース20に焼ならし、焼戻しを施す焼ならし焼戻し工程と、前記焼ならし、焼戻しを施した未加工ベース20の外形を切削し外形加工ベース30を得る外形切削工程と、前記外形を切削した外形加工ベース30に表面処理を施す表面処理工程と、前記表面処理を施した外形加工ベース30の内形を切削し、製品ベース40を得る内形切削工程と、前記内形を切削した製品ベース40に機能部品を組付ける部品組付工程を順に備えることを特徴とするパワートレイン製品の製造方法である。
【0008】
これにより、パワートレイン製品の内部に異物を残留させることなく表面処理を施すことができる。すなわち、パワートレイン製品の品質を向上させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、表面処理工程における処理方法を、外形加工ベース30の表面に、被覆金属粉体を噴射して衝突させ、被覆金属粉体の組成物中の元素を該外形加工ベース30の表面に活性化吸着させて拡散浸透させる防錆方法とすることを特徴とする。
【0010】
これにより、パワートレイン製品製造において、インラインで防錆処理を施すことができる。その結果、パワートレイン製品製造の工程が分断されることなく、コストを低減することができる。
【0011】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】パワートレイン製品の従来の製造工程のフローを示す図である。
【図2】本発明の基礎となった比較技術によるパワートレイン製品の製造工程のフローを示す図である。
【図3】本発明によるパワートレイン製品の製造工程のフローを示す図である。
【図4】本発明のパワートレイン製品の製造方法によりインジェクタを製造する場合の、各工程における概略形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、従来のパワートレイン製品の製造工程のフローを示す図であり、図2は、本発明の基礎となった比較技術のフローを示す説明図である。この比較技術は、特許文献1に記載のパワートレイン製品の製造方法における表面処理に、特許文献2のPIP法を適用したものである。この点が、従来のパワートレイン製品の製造方法と異なる点である。
【0014】
この比較技術においては、切削加工後のパワートレイン製品をインラインで防錆処理することが可能である。しかしながら、この場合、被覆金属粉体を噴射して衝突させ、被覆金属粉体の組成物中の元素を被処理製品の表面に活性化吸着させて拡散浸透させるというPIP法の性質上、パワートレイン製品の内部に異物が残り、品質上の不具合が発生することがあった。
【0015】
本発明は、上記の問題に対処するために、素材を鍛造した後、外径の切削を行い、次いで、内形の切削を行う前に表面処理を施し、その後、内形の切削を行うことを特徴とするものである。
【0016】
このような工程とすることで、表面処理としてPIP法などの処理を用いても、パワートレイン製品の内部に異物が残るという品質上の不具合の発生を抑えることができる。
【0017】
なお、防錆処理の後に内形の切削を行うので、パワートレイン製品の内側には防錆処理は施されないこととなる。
【0018】
ここで、パワートレイン製品の製造工程において防錆処理を施す目的は、外部が大気にさらされるために生じる赤錆の防止である。すなわち、赤錆が生じることによる外観の問題、及び、ネジ部の締め付け不良の問題を解消するために防錆処理が行われている。
【0019】
そして、切削工程後、ASSY組付後には防錆油が塗布されるので、出荷時には、内部は防錆油が塗布された状態であり、また、実際に車に取り付けて使用される場合は、内部は常時軽油にさらされているので、錆の発生を気にする必要はない。したがって、パワートレイン製品の外側に防錆処理が施されていれば、内側に防錆処理が施されていなくても問題はない。
【0020】
以下、図3、及び図4を参照して、インジェクタの製造を例にとり、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。本発明の基礎となった比較技術に対しても、同一構成の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0021】
図3は、本発明の製造工程のフローを示す図である。図4は、本発明を用いてインジェクタを製造する場合の、各工程でのインジェクタの外形を示す図である。
【0022】
初めに、鍛造工程で、棒状の素材10(図4(a))から、インジェクタの未加工ベース20を製造する(図4(b))。鍛造工程で製品の大まかな形状を製造することにより、切削工程での取りしろ32が軽減されるため、コストを軽減することが可能となる。
【0023】
次に、焼ならし焼戻し工程で、鍛造工程で得られた未加工ベース20の全体に、切削加工が可能な硬度となるように焼ならし焼戻し処理を施す。
【0024】
続いて、外形切削工程で、焼ならし焼戻し処理を施した未加工ベース20に、切削加工を施し、取りしろ32を切削し、インジェクタの外形を形成した外形加工ベース30とする(図4(c))。この段階では、インジェクタの外形を形成するだけで、摺動穴等の内形の加工は行わない。
【0025】
続いて、表面処理工程で、外形加工ベース30に表面処理を施す。表面処理としては、例えば、PIP法を用いることができる。
【0026】
PIP法は、溶融した液体金属からなるめっき液を必要とせず、常温で表面処理を施すことが可能であるので、パワートレイン製品製造工程ラインに容易に組み込むことができ、インラインでの防錆処理が可能となる。その結果、工程が分断されること無く、リードタイムの短縮、労務費の低減が可能となり、大幅なコストダウンが可能となる。
【0027】
具体的な処理の例として、例えば、素材から150mm程度離れた位置に設けられた10mm程度の径のノズルを設け、被覆金属粉体として平均粒径50μm程度のCrやSnを、80m/sec程度の噴射速度、0.4MPa程度の噴射圧力で、素材に向けて噴射することにより、防錆処理を施すことができる。
【0028】
この場合、被覆金属粉体を高圧で噴射するという処理の性質上、異物が生じること懸念されるが、外形加工ベース30は、まだ内形が加工されていないので、内部に異物が残り、品質上の不具合が生じることはない。
【0029】
続いて、内形切削工程で、PIP処理を施したベース3に、摺動穴42やネジ部等を切削加工により形成し、製品ベース40とする(図4(d))。
【0030】
その後、部品組付工程で、バルブユニット等の機能部品を組み付け、インジェクタの製造が完了する。
【0031】
なお、内形切削工程の後に、必要に応じて、硬度を高めるために、焼入れ焼戻し処理や、高周波焼入れ処理を施してもよい。
【0032】
以上説明したように、本発明の工程によれば、外形切削の後に表面処理が施され、その後、内形切削が行われるので、パワートレイン製品の内部に異物が残り、品質が低下するという問題が生じない。さらに、PIP法を用いることにより、インラインで防錆処理が可能となり、大幅に製造コストを低減させることができる。
【0033】
なお、ここではインジェクタの製造工程を例に挙げて、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記発明の実施の形態の説明に限定されるものではない。例えば、コモンレールの製造に適用することも可能である。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
10 素材
20 未加工ベース
30 外形加工ベース
32 取りしろ
40 製品ベース
42 摺動穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の素材10を鍛造し未加工ベース20とする鍛造工程と、
前記未加工ベース20に焼ならし、焼戻しを施す焼ならし焼戻し工程と、
前記焼ならし、焼戻しを施した未加工ベース20の外形を切削し外形加工ベース30を得る外形切削工程と、
前記外形を切削した外形加工ベース30に表面処理を施す表面処理工程と、
前記表面処理を施した外形加工ベース30の内形を切削し、製品ベース40を得る内形切削工程と、
前記内形を切削した製品ベース40に機能部品を組付ける部品組付工程と、
を含むことを特徴とするパワートレイン製品の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程における表面処理は、
前記外形加工ベース30の表面に、被覆金属粉体を噴射して衝突させ、
該被覆金属粉体の組成物中の元素を該外形加工ベース30の表面に活性化吸着させて拡散浸透させるもの
であることを特徴とする請求項1に記載のパワートレイン製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35331(P2012−35331A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174465(P2010−174465)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】