パワーモジュール及び該パワーモジュールを搭載したハイブリッド車又は電気自動車
【課題】クロスポイントの高いパワー半導体素子を使用して低電流駆動する場合に、その損失をより低減することが可能なパワーモジュールを得る。
【解決手段】パワーモジュール(14)は、パワー半導体素子(3a、4a、3b、4b)と、パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置(7)と、パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置(9)と、電流検知装置(9)によって検知された前記駆動電流に基づいて、温度調整装置(7)を制御する制御装置(11)と、を備えて構成される。
【解決手段】パワーモジュール(14)は、パワー半導体素子(3a、4a、3b、4b)と、パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置(7)と、パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置(9)と、電流検知装置(9)によって検知された前記駆動電流に基づいて、温度調整装置(7)を制御する制御装置(11)と、を備えて構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール及び該パワーモジュールを搭載したハイブリッド車又は電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車又は電気自動車では、バッテリ出力をインバータによって例えば3相の交流電力に変換し、モータを駆動するようにしている。また、車両の制動時には、モータを発電機として動作させて回生電力を生成し、これをインバータによって直流電力に変換しバッテリを充電するようにしている。車両の駆動には大電力が必要であるため、通常、バッテリ出力を昇圧コンバータ(回生時は降圧コンバータ)によって高圧に変換し、インバータに入力する様にしている。
【0003】
このような昇圧コンバータ、インバータ等は、一般に、複数のパワー半導体素子、例えば半導体スイッチング素子及びダイオードと、その駆動回路、及び冷却機構をモジュール化して構成される。このようなモジュールをパワーモジュールと呼ぶ。冷却機構は、駆動電流によってパワー半導体素子が発熱し、その動作保証温度を超えてしまうのを防止するために設けられている。発熱は主に、半導体スイッチング素子の定常損失、スイッチング損失、半導体ダイオードの定常損失、リカバリ損失によって生じる。
【0004】
パワーモジュールにおけるこのような損失は、これを車載用として使用する場合、燃費を低下させる大きな要因となる。従って、パワーモジュールでは、損失をできるだけ低減できるようにその素子サイズ、素子特性等が設計される。パワーモジュールにおいて、半導体スイッチング素子及び半導体ダイオードでは定常損失に温度依存性があり、通常、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体スイッチング素子では高温時に定常損失が減少し、半導体ダイオード(FWD、フライホイールダイオード)では低温時に定常損失が減少する。
【0005】
パワーモジュールの損失に関連して、特許文献1(特開2002−093974号公報)では、車両用のインバータに用いるIGBTとFWDにおいて、発電状態ではIGBTから、駆動状態ではFWDから電力損失が発生し、この状態はスイッチング損失が少ない状況で顕著になることを記載している(段落0021)。
【0006】
特許文献2(特開2006−303306号公報)では、パワーモジュールに用いる例えばIGBT等のスイッチング素子が低温時に小さい定常損失を有し、一方、半導体ダイオードはその動作保証温度を超えない程度の高温時に小さい定常損失を有すると言う特徴を持つことを利用し、スイッチング素子とダイオードで異なる冷却方法を採用してパワーモジュールの損失を低減している。また、特許文献3及び4(特開2005−113831号公報、特開2007−326464号公報)では、インバータを冷却するための冷却機構を開示している。
【0007】
最近、シリコンを材料とするIGBTに変わって、更に耐圧性能の高いSiC等を材料とするIGBTが用いられる様になっている。このようなIGBTでは、コレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性において、比較的高いクロスポイントを有することが報告されている(例えば、特許文献5、非特許文献1参照)。クロスポイントとはコレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性が正負逆転する点を示し、クロスポイントが高い素子とは、温度依存性が逆転する点の電流値が比較的大きい素子を意味する。クロスポイントが高い場合、クロスポイント以上の駆動電流値で定常損失が最小と成るように設計されたパワーモジュールでは、これをクロスポイント以下の電流値で駆動した場合、定常損失を充分に低減できない場合が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−093974号公報
【特許文献2】特開2006−303306号公報
【特許文献3】特開2005−113831号公報
【特許文献4】特開2007−326464号公報
【特許文献5】特開2009−212374号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】FEDジャーナル、6−4、Vol.11 No.2(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のパワーモジュールは、一般に、パワーモジュールの最大駆動電流で最も損失を低減できるように損失設計が為されており、低電流駆動時の損失低減についてはあまり考慮されていない。パワー半導体素子としてクロスポイントの低い素子を使用する場合は、このような設計であってもあまり問題を生じないが、クロスポイントの高い素子を使用し、クロスポイント以下の低電流で駆動する場合には、かえって損失を増大させる場合がある。本発明は係る点に関して為されたもので、クロスポイントの高い素子を使用した場合でも、その損失を低減することが可能なパワーモジュールを提供すること、およびそのパワーモジュールを使用することで、ハイブリッド車又は電気自動車の燃費を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第1の発明では、パワー半導体素子と、パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置と、パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、電流検知装置によって検知された駆動電流に基づいて、温度調整装置を制御する制御装置とを備える、パワーモジュールを提供する。
【0012】
また、上記パワーモジュールにおいて、制御装置は、パワー半導体素子の駆動電流に対するオン電圧の温度依存性が正と負の間で逆転する電流値(以下、クロスポイント)を記録する記録媒体と、クロスポイントと駆動電流値との関係に基づいて温度調整装置を制御する制御部を備えていても良い。
【0013】
また、上記パワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子を、SiC、GaN又はダイアモンドを材料として構成しても良い。
【0014】
本発明は、さらに、上記の構成を有するパワーモジュールを備えたハイブリッド車又は電気自動車を提供する。このハイブリッド車又は電気自動車において、温度調整装置は水冷装置であり、この水冷装置に車両の駆動機構の冷却水を導入する経路を設けるようにしても良い。
【0015】
上記課題を解決するために、第2の発明では、複数が並列に接続されたパワー半導体素子と、このパワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、検知された駆動電流に基づいてパワー半導体素子の作動個数を制御する切替装置とを備える、パワーモジュールを提供する。さらに、このパワーモジュールを搭載したハイブリッド車又は電気自動車を提供する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、検出された駆動電流に応じて温度調整装置を制御して、パワー半導体素子の温度をその定常損失が低下する温度に設定することができるので、幅広い駆動電流に対して低い定常損失を実現することが可能となる。また、検出された駆動電流を記録されたクロスポイントと比較し、駆動電流がクロスポイント以下か以上で温度調整の方向を逆転することにより、さらに効果的に定常損失を低減することが出来る。パワー半導体素子をSiC、GaN又はダイアモンドを材料として形成した場合、このような素子では比較的クロスポイントが高いので、本発明の効果が顕著となる。
【0017】
第2の発明によれば、複数のパワー半導体素子を並列に接続することにより大きな駆動電流に耐えうるように設計されたパワーモジュールにおいて、検出された駆動電流値が小さい場合、例えばクロスポイント以下である場合には、駆動するパワー半導体素子の数を低減することにより、1個のパワー半導体素子に流れる電流を大きくして素子温度を上昇させることが出来る。これによって、パワーモジュール全体での定常損失を低減するための素子温度の制御を容易に行うことが出来る。
【0018】
ハイブリッド車又は電気自動車では、低燃費モードで車両を駆動している場合、駆動電流の大きさはクロスポイント以下となる。従って、第1又は第2の発明に基づいて構成されたパワーモジュールを搭載することにより、低燃費モード時の燃費を向上させることが可能となる。また、温度調整装置が水冷装置である場合、車両の駆動系の冷却水をこの冷却装置に導入することによって、水冷装置の温度を上昇させることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】IGBTのコレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るパワーモジュールの概略構成を示すブロック図。
【図3】図2に示すパワーモジュールの動作説明のためのフローチャート。
【図4】昇圧コンバータの損失計算の説明に供する図。
【図5】ハイブリッド車又は電気自動車の電源システムを示すためのブロック図。
【図6】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置の一例を示す図。
【図7】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置の他の例を示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置のさらに他の例を示す図。
【図9】温度調節装置と一体に構成されたパワーモジュールの概略構成を示す、断面図。
【図10】図9に示す装置の動作説明に供する図。
【図11】図9に示す装置の動作説明に供する図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュールの概略構成を示す、ブロック図。
【図13】図12に示すパワーモジュールにおける損失計算の説明に供する図。
【図14】図12に示すパワーモジュールの動作説明のためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明するが、これらの実施例は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。また、各図面において、共通する参照番号は同一又は類似の構成を示すので重複した説明は行わない。
【0021】
図1に、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性を温度をパラメータとして示す。図示する様に、IGBT素子の温度が同じであれば、コレクタ電流の増加に伴ってオン電圧は単調に増加する。ところが、同じ電流値で見た場合、電流が比較的大きい領域では素子温度が高くなればなる程オン電圧が大きくなる。即ち、高電流領域では、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性は正の温度依存性を示す。一方、電流が比較的小さい領域では素子温度が低くなればなる程、オン電圧が大きくなる。即ち、低電流領域では、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性は負の温度依存性を示す。温度依存性が正負逆転する電流値をクロスポイント(P)と言う。
【0022】
IGBT素子の定常損失はコレクタ電流とオン電圧の積であるため、定常損失を低減するためには同じコレクタ電流に対してオン電圧を出来るだけ小さくする必要がある。従って、駆動電流が大きく、コレクタ電流−オン電圧特性が正の温度依存性を有する場合、素子温度を低く維持することによって、定常損失を低減することができる。反対に駆動電流がクロスポイント以下となった場合は、素子温度を高く維持することによって、定常損失を低減することができる。
【0023】
シリコンを材料とする従来のIGBT素子では比較的クロスポイントが低く、従って、例えば車載用のパワーモジュールの場合、最大電流値での定常損失を低減できるように素子温度を設計しても、それ程問題を生じない。これは、クロスポイントが低燃費モード時の駆動電流値以下か、あるいは以上であってもクロスポイントに近い値となるためである。ところが、SiC,GaN或いはダイアモンドを材料とするIGBT素子では、一般にクロスポイントが高く、低燃費モード時の駆動電流がクロスポイント以下となる場合がある。このような場合、次のような問題を生じる。
【0024】
即ち、低燃費モード時の駆動電流がクロスポイント以下となると、図1から明らかなように、素子温度が高い程オン電圧が低くなり燃費が向上するが、システムの設計は、車両駆動の最大電力時の損失を低減するように設計されており、そのため素子温度をなるべく低くする方向で設計されている。また、低燃費モードでの駆動電流は、パワーモジュールを設計する場合の電流値(最大電流)よりもかなり小さく、従って素子温度は高くならない。この傾向は、駆動電流が小さくなれば成る程、顕著になる。従って、低燃費モードで車両を駆動する場合に損失が大きくなり、燃費が改善されない。
【0025】
このように、従来のパワーモジュールの設計仕様では、駆動電流がクロスポイント以下となる場合を考慮して設計が為されていないので、例えば、車両駆動の最大電力(例えば、最大電流約250A,電圧約600V)に基づいて設計されたパワーモジュールの場合、低燃費モード時に素子温度が損失を低減させるための適切な温度とならない。従って、低燃費モードでの駆動時に素子温度が適切になる様に制御することで、損失を低減し燃費をさらに向上させることが可能となる。
【0026】
図2に、本発明の一実施形態に係るパワーモジュールの構成を示す。この実施形態では、昇降圧コンバータ(以下、昇圧コンバータ)をパワーモジュールで構成する例を示している。図において、1はバッテリ、2はリアクトル、3は昇圧コンバータの上アーム、4は昇圧コンバータの下アームである。上アーム3及び下アーム4はそれぞれ、スイッチング素子として動作するIGBT3a、4aとFWDダイオード3b、4bを備えている。5は電流平滑のためのコンデンサ、6は例えばインバータ等の外部負荷である。
【0027】
上アーム3及び下アーム4を構成するそれぞれのパワー半導体素子3a、3b、4a、4b及びコンデンサ5は、冷却機構等の温度制御装置7を備えた同一基板上に形成される。また、この基板上には、温度センサ8及び電流センサ9が組み込まれている。10はIGBT3a、4aのゲート端子にオン、オフ信号を入力してこの回路を昇(降)圧コンバータとして機能させるための駆動回路、11は温度制御装置7を制御するための制御装置である。制御装置11は、IGBT3a、4aのクロスポイントが予め書き込まれたメモリ12と、メモリ12の内容、温度センサ7及び電流センサ8の出力に基づいて、温度制御装置7の冷却能力を制御するための制御部13を備えている。
【0028】
なお、図2に示す実施形態では、点線で囲んだ部分をパワーモジュール14として一体に構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、リアクトル、制御装置、駆動回路等を別部品として構成することも可能である。ここでは、パワー半導体素子を組み込んだ回路基板、この回路基板を適正に動作させるための機能要素の集合を、パワーモジュールと呼んでいる。温度センサ7の個数、設置位置等は必要に応じて任意に決定されるもので、図示の実施形態に限定されるものではない。同様に電流センサ8も図示の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図3は、制御装置11における処理フローを示す図である。この処理は、車両が低燃費モードで駆動されている場合に、燃費をさらに向上することを目的とした制御である。先ずステップS1において、制御装置11は、電流センサ8の出力に基づいてパワーモジュールの出力電流値を検出する。ステップS2において、制御部13は、ステップS1で検出された電流値とメモリ12に記録されたクロスポイントとを比較する。検出された電流値がクロスポイントよりも低い場合(ステップS2のYES)、ステップS3において、温度調節装置7を制御してスイッチング素子の温度を設計値よりも高温側に移動させて処理を終了する。図1に示す様に、駆動電流がクロスポイント以下では、素子温度が高い程オン電圧は低くなりそれにともなって損失も低減するため、素子温度を、最大電流値を基に設計された温度よりも高くすることによって、損失を低減し、低燃費モード時の燃費を向上させることが出来る。
【0030】
図3のステップS2において、検出された電流値がクロスポイント以上であると判断されると(ステップS2のNO)、温度制御装置7において予め設定されている温度を変化させることなく(ステップS3)、処理を終了する。これは、検出された電流値がクロスポイント以上であるため、コレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性に逆転は起こっておらず、モジュールを最適駆動するべく予め設計された素子温度を変更する必要が無いからである。
【0031】
図3の処理を一定の時間ごとに自動的に繰り返して実行されるように設定しておけば、制御部は、車両が低燃費モードでの駆動に入ったことを速やかに検出して、適切な温度制御を行い、自動的に燃費向上を図ることができる。
【0032】
以上の制御は、パワー半導体素子のオン電圧を低下させて定常損失を低減し、燃費を向上させることを目的としている。昇圧コンバータの損失には、スイッチング素子の定常損失及びスイッチング損失(ターンオン損失とターンオフ損失を含む)と、FWDダイオードの定常損失及びリカバリ損失が含まれる。しかしながらSiC等のスイッチング損失の小さい素子を使用すると、低燃費モード時では定常損失が支配的となり、全体の損失は殆どが定常損失によるものとなる。従って、オン電圧を低下させて定常損失の低減を図ることによって、損失全体の低減が可能となる。以下に、昇圧コンバータの低燃費モード時の損失計算について簡単に説明する。
【0033】
図4の(a)に、損失計算に用いる昇圧コンバータの回路図を示す。この昇圧コンバータの構成は図2に示す昇圧コンバータと同じであるため、その説明は省略する。図4(b)は、図4(a)の昇圧コンバータを低燃費モードで駆動する場合の電流波形を示し、図4(c)は下アームのIGBTに印加されるスイッチオン/オフ信号を示す。昇圧コンバータを低燃費モードで駆動する場合の電流波形は、図4(b)に示すようにゼロクロスの形となる。従って、上アーム、下アームのIGBTのオン/オフのタイミングと電流の正負(力行/回生)方向によって、上アームのIGBT及びダイオード(Diode)、下アームのIGBT及びダイオード(Diode)それぞれを流れる電流を分離して考えることができる。
【0034】
下アームのIGBTがスイッチオンとなるタイミングでは、下ダイオードに電流が流れ始めるため、下IGBTのターンオン損失は発生しない。一方、下アームのIGBTがスイッチオフとなるタイミングでは、下IGBTにターンオフ損失が発生するが、下ダイオードには電流が流れないので下ダイオードのリカバリ損失は発生しない。下アームのIGBTがスイッチオフとなった同じタイミングで、上アームのIGBTがターンオンするが、この状態でIGBTに流れる電流はなく、その代わりに上ダイオードに電流が流れはじめるため、上IGBTのターンオン損失は発生しない。
【0035】
以上の結果、低燃費モード時の昇圧コンバータにおける損失Wは、
W=IGBTの定常損失+ダイオードの定常損失+IGBTのターンオフ損失
として示される。SiC等のスイッチング損失の小さいIGBT素子を使用した場合、ターンオフ損失は無視できるので、損失Wは定常損失が支配的となる。定常損失は、素子を流れる電流Iとオン電圧Vの積で示されるので、IGBT及びダイオードともその定常損失を低減させるためには、オン電圧を低減させることが重要となる。
【0036】
従って、電流センサ9の出力に基づいて制御装置11が、昇圧コンバータが低燃費モードでの駆動状態に入ったことを検出すると、オン電圧を低減させてIGBTの定常損失を低減させるために、温度制御装置7を制御して素子温度を上昇させる。これにより、車両が低燃費モードで駆動されている場合でも、その燃費を最適なものとすることができる。
【0037】
なお、図2の実施形態では、昇圧コンバータをパワーモジュールで構成した例を示しているが、モータを駆動するためには、昇圧コンバータによって昇圧された直流電流を、通常三相駆動であるインバータによって交流電流に変換する必要がある。インバータの場合、低燃費モード時ではパワー半導体素子のスイッチング損失は昇圧コンバータの場合のように無視できるところがないため、スイッチング損失が全体の損失に与える影響は大きくなる。しかしながら、スイッチング損失が小さいSiC等の半導体素子を使用する前提では、低燃費モード時に定常損失が支配的となる。従って、インバータの場合も、上述した昇圧コンバータの場合と同様に、低燃費モードでの駆動時に素子温度を上昇させる制御を行うことによって、損失を低減し燃費を向上させることが出来る。
【0038】
図5は、ハイブリッド車のパワーコントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。図において、20は昇圧モジュールであり、複数のパワー半導体素子を含んでいる。30はインバータモジュールであって、2個のインバータを備え、モータ(又は発電機)MG1、MG2に3相の駆動電流を供給し、或いは、車両の制動時にモータMG1、MG2で生成された回生電流を直流電流に変換して昇圧コンバータ20に供給する。40はモータECUであり、昇圧コンバータ20、インバータ30を構成する複数のパワー半導体素子のオン、オフ制御、温度調整装置の制御等を行う。昇圧コンバータ20、インバータ30それぞれを個々に冷却機構および制御装置を含むインテリジェントパワーモジュールとして構成しても良いし、或いは、昇圧コンバータ20、インバータ30、制御装置40及び温度調整装置を含めて一体のモジュールとして構成しても良い。
【0039】
以下に、パワーモジュールの温度制御方法について説明する。
【0040】
図6は、例えばハイブリッド車の電源部分の冷却系(HV冷却系)を概念的に示すブロック図である。図において、50は、昇圧コンバータ及びインバータのための複数のパワー半導体素子、リアクトル、平滑コンデンサ等をマウントした基板、60は冷却水経路、70はラジエータ、80はウォータポンプ(W/P)を示す。このように構成されたHV冷却系において、ラジエータ70および/またはW/P80の出力を低下させることにより、基板50の温度を上昇させることが出来る。
【0041】
図7は、パワーモジュールの温度制御の他の実施形態を示す。この実施形態では、エンジン冷却水を低燃費モード時のHV冷却系に導入することで、HV冷却系の水温を上昇させるようにしている。図において、90はエンジンの冷却系を示し、エンジン91、ラジエータ92、サーモスタット93、ウォータポンプ(W/P)94、排熱回収を行うEGR95、ヒータ96を含んでいる。図の点線で囲んだ部分97が新たに追加された部分であり、エンジン冷却系とHV冷却系とを接続するための配管97aとバルブ97b及び97cを含んでいる。本実施形態では、制御装置(図2参照)によって車両が低燃費モードで駆動されていることが検出されると、バルブ97b、97cを開いてエンジン冷却水をHV冷却系に導入して水温を上昇させ、パワー半導体素子の温度を上げる。
【0042】
図8は、パワーモジュールの温度制御の更に他の実施形態を示す。この実施形態では、エンジン91に隣接して水タンク98aを設け、制御装置(図2参照)によって車両が低燃費モードで駆動されていることが検出されると、バルブ98bを開いて水タンク98a内の水をHV冷却系に導入して水温を上昇させ、パワー半導体素子の温度を上げるようにしている。図8において、点線で囲んだ部分98が、パワーモジュールの温度調整を行うために本実施形態において追加した部分である。
【0043】
図7及び図8に示す実施形態とも、追加部分のバルブの制御を、制御装置(図2参照)からの制御信号によって行う。即ち、制御装置がパワーモジュールに設けた電流センサの出力から車両が低燃費モードでの駆動状態に入ったことを検出すると、追加部分のバルブを開成するための制御信号を出力し、バルブを開成してパワー半導体素子の温度を上昇させる。温度の調整は、パワー半導体素子の温度を検出する温度センサの出力を参照しながら制御部13によって行われる。
【0044】
図9〜図11に、パワーモジュールの温度制御の更に他の実施形態を示す。図9は、冷却能力の制御機構を一体に組み込んだパワーモジュールの概略構成を示す断面図、図10及び図11は、冷却能力の制御方法を説明するための図である。図9において、100は共通基板、101a、101bは例えば昇圧コンバータ、インバータ等を構成する複数のパワー半導体素子、102aはPバスバー、102bはNバスバー、103a、103bは出力バスバー、104は出力バスバーの取出し部である。共通基板100の上下面上の、素子101a、101bが形成されていない部分には、P側のプリドライバ105a及びN側のプリドライバ105bがマウントされている。また、パワー半導体素子101a、101bは信号線106によって接続されている。
【0045】
P側の出力バスバー103a上には、絶縁層107aを介して冷却器108aが取り付けられており、同様に、N側の出力バスバー103b上には、絶縁層107bを介して冷却器108bが取り付けられている。パワー半導体素子101a、101bで発生した熱は、P側の出力バスバー103a及びN側の出力バスバー103bを介して絶縁層107a、107bに伝えられ、冷却器108a、108b中を流れる水によって吸収される。冷却水は図示しないウォータポンプによって駆動され、水冷経路を循環する。この水冷経路にはラジエータ(図示せず)が設けられており、パワー半導体素子の発熱を吸収することによって上昇した循環水を冷却して、予め設計された一定の温度に保持する。
【0046】
図10の(a)及び(b)は、図9の点線で囲まれた部分、即ち冷却器108(108aおよび/または108b)の詳細を示す図である。図示するように、冷却器108内の冷却水通路109には、固定フィン110及び移動フィン111が設けられており、移動フィン111は通路109外に設けられたモータ112によって上下移動可能に構成されている。従って、モータ112によって移動フィン111を押し下げることにより、図(b)に示す様に通路109内に存在するフィンの数(面積)が減少し、その結果、冷却器108の冷却性能が低下する。
【0047】
図11の(a)及び(b)は、冷却器の他の実施形態を示す図である。冷却器108は、冷却水通路109内に設けられた複数の固定フィン110とモータ7112よって移動可能な冷却板113を供えている。この冷却器108において、モータ112を駆動して図11(b)に示す様に冷却板113を押し下げ、固定フィン110と冷却板113との間に隙間を形成すると、固定フィン110の個々にかかる水圧が低下するので、冷却器108の冷却性能は低下する。
【0048】
以上のように、図9〜図11に示す実施形態では、ウォータポンプあるいはラジエータを制御することなく、パワー半導体素子を直接冷却する冷却器の冷却能を制御することによって、パワー半導体素子の温度制御が可能である。冷却器の制御は、図6から図8に示した実施形態の場合と同様に、制御装置(図2参照)によって行われる。なお、図9では、温度センサ、電流センサを示していないが、これらは適宜設けられる。
【0049】
図12及び図13に、本発明のさらに他の実施形態を示す。上記の各実施形態は、車両の低燃費モードでの駆動時に、パワーモジュールの冷却機構を制御して素子温度を上昇させ損失の低減を図っていたが、以下に示す実施形態では、1個の素子に流れる電流量を制御することにより、素子温度を上昇させるようにしている。
【0050】
図12は、一般的な昇圧コンバータの回路構成を示す図である。車載用の昇圧コンバータの場合、モータ駆動するために大電流を流す必要がある。従って、昇圧コンバータの上アーム、下アームのパワー半導体素子には大きな電流が流れることになる。この電流を複数のパワー半導体素子で分担し、個々の素子に係る負担を低減するために、実際のパワーモジュールでは複数のパワー半導体素子を並列に接続している。
【0051】
図12の昇圧コンバータは、図2又は図4(a)に示す昇圧コンバータと基本的には同様の回路構成を有しているが、上アーム3及び下アーム4からなる回路(以下、スイッチ回路)を複数個(図12の例では2個)、バッテリ1及び負荷6間に並列に接続した構成を有する。上アーム3と下アーム4のスイッチ回路に対し、さらに上アーム3’と下アーム4’のスイッチ回路を並列に接続することにより、この各スイッチ回路のIGBT素子及びダイオードに流れる電流は、並列接続しない場合の半分となる。それによって、各パワー半導体素子への負担を低減する一方、回路全体では大きな駆動電流を得ることが出来る。
【0052】
本実施形態では、このような昇圧コンバータにおいて、駆動電流がクロスポイント以下となるような低燃費モード時において、一方のスイッチ回路を昇圧コンバータ回路から切り離すことにより、1個のIGBT素子に流れる電流量を増加させて素子温度を上昇させる。
【0053】
図13は、2つの温度でのIGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性を示す図であって、曲線Aの場合の素子温度は曲線Bの場合の素子温度よりも低い。図13より明らかなように、曲線Aに対応する温度に維持されているIGBT素子において、低燃費モードでの駆動のために駆動電流がクロスポイントよりも低い値I1に低下した場合、IGBT素子を加熱して素子温度を高温側(曲線B側)に移動させることにより、素子のオン電圧が低くなり定常損失が低減する。
【0054】
本実施形態では、IGBT素子のこのような加熱を、素子に流れる電流を増加させることによって実現しようとするものである。即ち、図12の回路において、上アーム下アームからなるスイッチ回路が2個並列に接続されている場合の低燃費モード時の駆動電流をI1とすると、一方のスイッチ回路を昇圧コンバータから切り離すと、切り離されていないスイッチのIGBT素子に流れる電流I2は、I2=2×I1となる。このように1個の素子に多くの電流が流れることにより、発生する熱量が増加し、素子は外部からの加熱を要することなく高温となる。
【0055】
上アーム下アームからなるスイッチ回路の一方を切り離す以前の状態では、電流I1に対してオン電圧はV1であり、2個のスイッチ回路を並列接続した回路全体の定常損失W1は、W1=2(I1×V1)となる。これに対して、一方のスイッチ回路を切り離した場合の定常損失W2は、W2=I2×V2=2I1×V2となる。今、V1>V2であるため、W2<W1となって、スイッチ回路を切り離すことによって定常損失が低減することが分かる。
【0056】
このように、上アーム下アームからなるスイッチ回路を複数並列接続した昇圧コンバータにおいて、昇圧コンバータの駆動電流がクロスポイントPよりも低くなった場合、幾つかのスイッチ回路を切り離して実際に作動させるパワー半導体素子の数を減少させることにより、回路全体の損失を低下させることが可能となる。
【0057】
図14は、図12に示す昇圧コンバータにおいて、低燃費モード時の燃費を向上させるための制御フローを示す。先ずステップT1において、制御装置11は、電流センサ(図示せず)の出力に基づいて昇圧コンバータにおける駆動電流値を検出する。ステップT2において、検出された電流値がクロスポイントよりも低い場合(ステップT2のYES)、ステップT3において、切替装置11aによって、幾つかのスイッチ回路を切り離して実際に作動させるIGBT素子の数を減少させ、処理を終了する。駆動するIGBT素子数の減少は、切替装置11aにより駆動回路10を制御して、例えば、上アーム3’と下アーム4’のIGBT素子をオフ状態に設定することにより実行される。
【0058】
図14のステップT2において、検出された電流値がクロスポイント以上である場合(ステップT2のNO)は、切替装置11aを駆動せず処理を終了する。なお、図3に示した第1の実施形態の場合と同様に、図14の処理が一定の時間ごとに繰り返し実行されるように設定しておけば、車両が低燃費モードでの駆動に入ったことを速やかに検出して自動的に燃費向上を図ることができる。
【0059】
以下の表1は、低燃費モード時の昇圧コンバータにおける電流仕様の一例を示すものである。パラレル配置とは、図12に示す様に、上アーム下アームからなるスイッチ回路が2個並列に接続された配置を示し、シングル配置とは、上アーム下アームからなるスイッチ回路が1個の場合を示す(図2参照)。表1において、パラレル配置、シングル配置とも、昇圧コンバータにおける1個のIGBT素子に流れる電流値を示している。
【表1】
【0060】
上記の表から明らかなように、パラレル配置の昇圧コンバータをシングル配置に切り替えることにより、1個のIGBTに流れる電流は2倍となり、その分損失が増加して素子温度が高くなる。ここで、クロスポイントの高い素子を使用すると、低燃費モード時の電流仕様では、素子温度が高くなる程オン電圧が低下して損失が低減するので、パラレル配置をシングル配置に切り替えることにより、損失を低減し燃費を向上させることができる。なお、クロスポイントが高いと言う場合、クロスポイントが低燃費モードの電流仕様より高いことを意味し、その値は、表1より、パラレル配置の昇圧コンバータでは20A以上であり、シングル配置の昇圧コンバータの場合、39A以上である。
【符号の説明】
【0061】
1 バッテリ
2 リアクトル
3 上アーム
3a IGBT素子
3b FWDダイオード
4 下アーム
4a IGBT素子
4b FWDダイオード
5 コンデンサ
6 負荷
7 温度調整装置
8 温度センサ
9 電流センサ
10 駆動回路
11 制御装置
12 メモリ
13 制御部
14 パワーモジュール
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール及び該パワーモジュールを搭載したハイブリッド車又は電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車又は電気自動車では、バッテリ出力をインバータによって例えば3相の交流電力に変換し、モータを駆動するようにしている。また、車両の制動時には、モータを発電機として動作させて回生電力を生成し、これをインバータによって直流電力に変換しバッテリを充電するようにしている。車両の駆動には大電力が必要であるため、通常、バッテリ出力を昇圧コンバータ(回生時は降圧コンバータ)によって高圧に変換し、インバータに入力する様にしている。
【0003】
このような昇圧コンバータ、インバータ等は、一般に、複数のパワー半導体素子、例えば半導体スイッチング素子及びダイオードと、その駆動回路、及び冷却機構をモジュール化して構成される。このようなモジュールをパワーモジュールと呼ぶ。冷却機構は、駆動電流によってパワー半導体素子が発熱し、その動作保証温度を超えてしまうのを防止するために設けられている。発熱は主に、半導体スイッチング素子の定常損失、スイッチング損失、半導体ダイオードの定常損失、リカバリ損失によって生じる。
【0004】
パワーモジュールにおけるこのような損失は、これを車載用として使用する場合、燃費を低下させる大きな要因となる。従って、パワーモジュールでは、損失をできるだけ低減できるようにその素子サイズ、素子特性等が設計される。パワーモジュールにおいて、半導体スイッチング素子及び半導体ダイオードでは定常損失に温度依存性があり、通常、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体スイッチング素子では高温時に定常損失が減少し、半導体ダイオード(FWD、フライホイールダイオード)では低温時に定常損失が減少する。
【0005】
パワーモジュールの損失に関連して、特許文献1(特開2002−093974号公報)では、車両用のインバータに用いるIGBTとFWDにおいて、発電状態ではIGBTから、駆動状態ではFWDから電力損失が発生し、この状態はスイッチング損失が少ない状況で顕著になることを記載している(段落0021)。
【0006】
特許文献2(特開2006−303306号公報)では、パワーモジュールに用いる例えばIGBT等のスイッチング素子が低温時に小さい定常損失を有し、一方、半導体ダイオードはその動作保証温度を超えない程度の高温時に小さい定常損失を有すると言う特徴を持つことを利用し、スイッチング素子とダイオードで異なる冷却方法を採用してパワーモジュールの損失を低減している。また、特許文献3及び4(特開2005−113831号公報、特開2007−326464号公報)では、インバータを冷却するための冷却機構を開示している。
【0007】
最近、シリコンを材料とするIGBTに変わって、更に耐圧性能の高いSiC等を材料とするIGBTが用いられる様になっている。このようなIGBTでは、コレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性において、比較的高いクロスポイントを有することが報告されている(例えば、特許文献5、非特許文献1参照)。クロスポイントとはコレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性が正負逆転する点を示し、クロスポイントが高い素子とは、温度依存性が逆転する点の電流値が比較的大きい素子を意味する。クロスポイントが高い場合、クロスポイント以上の駆動電流値で定常損失が最小と成るように設計されたパワーモジュールでは、これをクロスポイント以下の電流値で駆動した場合、定常損失を充分に低減できない場合が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−093974号公報
【特許文献2】特開2006−303306号公報
【特許文献3】特開2005−113831号公報
【特許文献4】特開2007−326464号公報
【特許文献5】特開2009−212374号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】FEDジャーナル、6−4、Vol.11 No.2(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のパワーモジュールは、一般に、パワーモジュールの最大駆動電流で最も損失を低減できるように損失設計が為されており、低電流駆動時の損失低減についてはあまり考慮されていない。パワー半導体素子としてクロスポイントの低い素子を使用する場合は、このような設計であってもあまり問題を生じないが、クロスポイントの高い素子を使用し、クロスポイント以下の低電流で駆動する場合には、かえって損失を増大させる場合がある。本発明は係る点に関して為されたもので、クロスポイントの高い素子を使用した場合でも、その損失を低減することが可能なパワーモジュールを提供すること、およびそのパワーモジュールを使用することで、ハイブリッド車又は電気自動車の燃費を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第1の発明では、パワー半導体素子と、パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置と、パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、電流検知装置によって検知された駆動電流に基づいて、温度調整装置を制御する制御装置とを備える、パワーモジュールを提供する。
【0012】
また、上記パワーモジュールにおいて、制御装置は、パワー半導体素子の駆動電流に対するオン電圧の温度依存性が正と負の間で逆転する電流値(以下、クロスポイント)を記録する記録媒体と、クロスポイントと駆動電流値との関係に基づいて温度調整装置を制御する制御部を備えていても良い。
【0013】
また、上記パワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子を、SiC、GaN又はダイアモンドを材料として構成しても良い。
【0014】
本発明は、さらに、上記の構成を有するパワーモジュールを備えたハイブリッド車又は電気自動車を提供する。このハイブリッド車又は電気自動車において、温度調整装置は水冷装置であり、この水冷装置に車両の駆動機構の冷却水を導入する経路を設けるようにしても良い。
【0015】
上記課題を解決するために、第2の発明では、複数が並列に接続されたパワー半導体素子と、このパワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、検知された駆動電流に基づいてパワー半導体素子の作動個数を制御する切替装置とを備える、パワーモジュールを提供する。さらに、このパワーモジュールを搭載したハイブリッド車又は電気自動車を提供する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、検出された駆動電流に応じて温度調整装置を制御して、パワー半導体素子の温度をその定常損失が低下する温度に設定することができるので、幅広い駆動電流に対して低い定常損失を実現することが可能となる。また、検出された駆動電流を記録されたクロスポイントと比較し、駆動電流がクロスポイント以下か以上で温度調整の方向を逆転することにより、さらに効果的に定常損失を低減することが出来る。パワー半導体素子をSiC、GaN又はダイアモンドを材料として形成した場合、このような素子では比較的クロスポイントが高いので、本発明の効果が顕著となる。
【0017】
第2の発明によれば、複数のパワー半導体素子を並列に接続することにより大きな駆動電流に耐えうるように設計されたパワーモジュールにおいて、検出された駆動電流値が小さい場合、例えばクロスポイント以下である場合には、駆動するパワー半導体素子の数を低減することにより、1個のパワー半導体素子に流れる電流を大きくして素子温度を上昇させることが出来る。これによって、パワーモジュール全体での定常損失を低減するための素子温度の制御を容易に行うことが出来る。
【0018】
ハイブリッド車又は電気自動車では、低燃費モードで車両を駆動している場合、駆動電流の大きさはクロスポイント以下となる。従って、第1又は第2の発明に基づいて構成されたパワーモジュールを搭載することにより、低燃費モード時の燃費を向上させることが可能となる。また、温度調整装置が水冷装置である場合、車両の駆動系の冷却水をこの冷却装置に導入することによって、水冷装置の温度を上昇させることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】IGBTのコレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るパワーモジュールの概略構成を示すブロック図。
【図3】図2に示すパワーモジュールの動作説明のためのフローチャート。
【図4】昇圧コンバータの損失計算の説明に供する図。
【図5】ハイブリッド車又は電気自動車の電源システムを示すためのブロック図。
【図6】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置の一例を示す図。
【図7】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置の他の例を示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係るパワーモジュールに使用可能な、温度調整装置のさらに他の例を示す図。
【図9】温度調節装置と一体に構成されたパワーモジュールの概略構成を示す、断面図。
【図10】図9に示す装置の動作説明に供する図。
【図11】図9に示す装置の動作説明に供する図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュールの概略構成を示す、ブロック図。
【図13】図12に示すパワーモジュールにおける損失計算の説明に供する図。
【図14】図12に示すパワーモジュールの動作説明のためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明するが、これらの実施例は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。また、各図面において、共通する参照番号は同一又は類似の構成を示すので重複した説明は行わない。
【0021】
図1に、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性を温度をパラメータとして示す。図示する様に、IGBT素子の温度が同じであれば、コレクタ電流の増加に伴ってオン電圧は単調に増加する。ところが、同じ電流値で見た場合、電流が比較的大きい領域では素子温度が高くなればなる程オン電圧が大きくなる。即ち、高電流領域では、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性は正の温度依存性を示す。一方、電流が比較的小さい領域では素子温度が低くなればなる程、オン電圧が大きくなる。即ち、低電流領域では、IGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性は負の温度依存性を示す。温度依存性が正負逆転する電流値をクロスポイント(P)と言う。
【0022】
IGBT素子の定常損失はコレクタ電流とオン電圧の積であるため、定常損失を低減するためには同じコレクタ電流に対してオン電圧を出来るだけ小さくする必要がある。従って、駆動電流が大きく、コレクタ電流−オン電圧特性が正の温度依存性を有する場合、素子温度を低く維持することによって、定常損失を低減することができる。反対に駆動電流がクロスポイント以下となった場合は、素子温度を高く維持することによって、定常損失を低減することができる。
【0023】
シリコンを材料とする従来のIGBT素子では比較的クロスポイントが低く、従って、例えば車載用のパワーモジュールの場合、最大電流値での定常損失を低減できるように素子温度を設計しても、それ程問題を生じない。これは、クロスポイントが低燃費モード時の駆動電流値以下か、あるいは以上であってもクロスポイントに近い値となるためである。ところが、SiC,GaN或いはダイアモンドを材料とするIGBT素子では、一般にクロスポイントが高く、低燃費モード時の駆動電流がクロスポイント以下となる場合がある。このような場合、次のような問題を生じる。
【0024】
即ち、低燃費モード時の駆動電流がクロスポイント以下となると、図1から明らかなように、素子温度が高い程オン電圧が低くなり燃費が向上するが、システムの設計は、車両駆動の最大電力時の損失を低減するように設計されており、そのため素子温度をなるべく低くする方向で設計されている。また、低燃費モードでの駆動電流は、パワーモジュールを設計する場合の電流値(最大電流)よりもかなり小さく、従って素子温度は高くならない。この傾向は、駆動電流が小さくなれば成る程、顕著になる。従って、低燃費モードで車両を駆動する場合に損失が大きくなり、燃費が改善されない。
【0025】
このように、従来のパワーモジュールの設計仕様では、駆動電流がクロスポイント以下となる場合を考慮して設計が為されていないので、例えば、車両駆動の最大電力(例えば、最大電流約250A,電圧約600V)に基づいて設計されたパワーモジュールの場合、低燃費モード時に素子温度が損失を低減させるための適切な温度とならない。従って、低燃費モードでの駆動時に素子温度が適切になる様に制御することで、損失を低減し燃費をさらに向上させることが可能となる。
【0026】
図2に、本発明の一実施形態に係るパワーモジュールの構成を示す。この実施形態では、昇降圧コンバータ(以下、昇圧コンバータ)をパワーモジュールで構成する例を示している。図において、1はバッテリ、2はリアクトル、3は昇圧コンバータの上アーム、4は昇圧コンバータの下アームである。上アーム3及び下アーム4はそれぞれ、スイッチング素子として動作するIGBT3a、4aとFWDダイオード3b、4bを備えている。5は電流平滑のためのコンデンサ、6は例えばインバータ等の外部負荷である。
【0027】
上アーム3及び下アーム4を構成するそれぞれのパワー半導体素子3a、3b、4a、4b及びコンデンサ5は、冷却機構等の温度制御装置7を備えた同一基板上に形成される。また、この基板上には、温度センサ8及び電流センサ9が組み込まれている。10はIGBT3a、4aのゲート端子にオン、オフ信号を入力してこの回路を昇(降)圧コンバータとして機能させるための駆動回路、11は温度制御装置7を制御するための制御装置である。制御装置11は、IGBT3a、4aのクロスポイントが予め書き込まれたメモリ12と、メモリ12の内容、温度センサ7及び電流センサ8の出力に基づいて、温度制御装置7の冷却能力を制御するための制御部13を備えている。
【0028】
なお、図2に示す実施形態では、点線で囲んだ部分をパワーモジュール14として一体に構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、リアクトル、制御装置、駆動回路等を別部品として構成することも可能である。ここでは、パワー半導体素子を組み込んだ回路基板、この回路基板を適正に動作させるための機能要素の集合を、パワーモジュールと呼んでいる。温度センサ7の個数、設置位置等は必要に応じて任意に決定されるもので、図示の実施形態に限定されるものではない。同様に電流センサ8も図示の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図3は、制御装置11における処理フローを示す図である。この処理は、車両が低燃費モードで駆動されている場合に、燃費をさらに向上することを目的とした制御である。先ずステップS1において、制御装置11は、電流センサ8の出力に基づいてパワーモジュールの出力電流値を検出する。ステップS2において、制御部13は、ステップS1で検出された電流値とメモリ12に記録されたクロスポイントとを比較する。検出された電流値がクロスポイントよりも低い場合(ステップS2のYES)、ステップS3において、温度調節装置7を制御してスイッチング素子の温度を設計値よりも高温側に移動させて処理を終了する。図1に示す様に、駆動電流がクロスポイント以下では、素子温度が高い程オン電圧は低くなりそれにともなって損失も低減するため、素子温度を、最大電流値を基に設計された温度よりも高くすることによって、損失を低減し、低燃費モード時の燃費を向上させることが出来る。
【0030】
図3のステップS2において、検出された電流値がクロスポイント以上であると判断されると(ステップS2のNO)、温度制御装置7において予め設定されている温度を変化させることなく(ステップS3)、処理を終了する。これは、検出された電流値がクロスポイント以上であるため、コレクタ電流−オン電圧特性の温度依存性に逆転は起こっておらず、モジュールを最適駆動するべく予め設計された素子温度を変更する必要が無いからである。
【0031】
図3の処理を一定の時間ごとに自動的に繰り返して実行されるように設定しておけば、制御部は、車両が低燃費モードでの駆動に入ったことを速やかに検出して、適切な温度制御を行い、自動的に燃費向上を図ることができる。
【0032】
以上の制御は、パワー半導体素子のオン電圧を低下させて定常損失を低減し、燃費を向上させることを目的としている。昇圧コンバータの損失には、スイッチング素子の定常損失及びスイッチング損失(ターンオン損失とターンオフ損失を含む)と、FWDダイオードの定常損失及びリカバリ損失が含まれる。しかしながらSiC等のスイッチング損失の小さい素子を使用すると、低燃費モード時では定常損失が支配的となり、全体の損失は殆どが定常損失によるものとなる。従って、オン電圧を低下させて定常損失の低減を図ることによって、損失全体の低減が可能となる。以下に、昇圧コンバータの低燃費モード時の損失計算について簡単に説明する。
【0033】
図4の(a)に、損失計算に用いる昇圧コンバータの回路図を示す。この昇圧コンバータの構成は図2に示す昇圧コンバータと同じであるため、その説明は省略する。図4(b)は、図4(a)の昇圧コンバータを低燃費モードで駆動する場合の電流波形を示し、図4(c)は下アームのIGBTに印加されるスイッチオン/オフ信号を示す。昇圧コンバータを低燃費モードで駆動する場合の電流波形は、図4(b)に示すようにゼロクロスの形となる。従って、上アーム、下アームのIGBTのオン/オフのタイミングと電流の正負(力行/回生)方向によって、上アームのIGBT及びダイオード(Diode)、下アームのIGBT及びダイオード(Diode)それぞれを流れる電流を分離して考えることができる。
【0034】
下アームのIGBTがスイッチオンとなるタイミングでは、下ダイオードに電流が流れ始めるため、下IGBTのターンオン損失は発生しない。一方、下アームのIGBTがスイッチオフとなるタイミングでは、下IGBTにターンオフ損失が発生するが、下ダイオードには電流が流れないので下ダイオードのリカバリ損失は発生しない。下アームのIGBTがスイッチオフとなった同じタイミングで、上アームのIGBTがターンオンするが、この状態でIGBTに流れる電流はなく、その代わりに上ダイオードに電流が流れはじめるため、上IGBTのターンオン損失は発生しない。
【0035】
以上の結果、低燃費モード時の昇圧コンバータにおける損失Wは、
W=IGBTの定常損失+ダイオードの定常損失+IGBTのターンオフ損失
として示される。SiC等のスイッチング損失の小さいIGBT素子を使用した場合、ターンオフ損失は無視できるので、損失Wは定常損失が支配的となる。定常損失は、素子を流れる電流Iとオン電圧Vの積で示されるので、IGBT及びダイオードともその定常損失を低減させるためには、オン電圧を低減させることが重要となる。
【0036】
従って、電流センサ9の出力に基づいて制御装置11が、昇圧コンバータが低燃費モードでの駆動状態に入ったことを検出すると、オン電圧を低減させてIGBTの定常損失を低減させるために、温度制御装置7を制御して素子温度を上昇させる。これにより、車両が低燃費モードで駆動されている場合でも、その燃費を最適なものとすることができる。
【0037】
なお、図2の実施形態では、昇圧コンバータをパワーモジュールで構成した例を示しているが、モータを駆動するためには、昇圧コンバータによって昇圧された直流電流を、通常三相駆動であるインバータによって交流電流に変換する必要がある。インバータの場合、低燃費モード時ではパワー半導体素子のスイッチング損失は昇圧コンバータの場合のように無視できるところがないため、スイッチング損失が全体の損失に与える影響は大きくなる。しかしながら、スイッチング損失が小さいSiC等の半導体素子を使用する前提では、低燃費モード時に定常損失が支配的となる。従って、インバータの場合も、上述した昇圧コンバータの場合と同様に、低燃費モードでの駆動時に素子温度を上昇させる制御を行うことによって、損失を低減し燃費を向上させることが出来る。
【0038】
図5は、ハイブリッド車のパワーコントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。図において、20は昇圧モジュールであり、複数のパワー半導体素子を含んでいる。30はインバータモジュールであって、2個のインバータを備え、モータ(又は発電機)MG1、MG2に3相の駆動電流を供給し、或いは、車両の制動時にモータMG1、MG2で生成された回生電流を直流電流に変換して昇圧コンバータ20に供給する。40はモータECUであり、昇圧コンバータ20、インバータ30を構成する複数のパワー半導体素子のオン、オフ制御、温度調整装置の制御等を行う。昇圧コンバータ20、インバータ30それぞれを個々に冷却機構および制御装置を含むインテリジェントパワーモジュールとして構成しても良いし、或いは、昇圧コンバータ20、インバータ30、制御装置40及び温度調整装置を含めて一体のモジュールとして構成しても良い。
【0039】
以下に、パワーモジュールの温度制御方法について説明する。
【0040】
図6は、例えばハイブリッド車の電源部分の冷却系(HV冷却系)を概念的に示すブロック図である。図において、50は、昇圧コンバータ及びインバータのための複数のパワー半導体素子、リアクトル、平滑コンデンサ等をマウントした基板、60は冷却水経路、70はラジエータ、80はウォータポンプ(W/P)を示す。このように構成されたHV冷却系において、ラジエータ70および/またはW/P80の出力を低下させることにより、基板50の温度を上昇させることが出来る。
【0041】
図7は、パワーモジュールの温度制御の他の実施形態を示す。この実施形態では、エンジン冷却水を低燃費モード時のHV冷却系に導入することで、HV冷却系の水温を上昇させるようにしている。図において、90はエンジンの冷却系を示し、エンジン91、ラジエータ92、サーモスタット93、ウォータポンプ(W/P)94、排熱回収を行うEGR95、ヒータ96を含んでいる。図の点線で囲んだ部分97が新たに追加された部分であり、エンジン冷却系とHV冷却系とを接続するための配管97aとバルブ97b及び97cを含んでいる。本実施形態では、制御装置(図2参照)によって車両が低燃費モードで駆動されていることが検出されると、バルブ97b、97cを開いてエンジン冷却水をHV冷却系に導入して水温を上昇させ、パワー半導体素子の温度を上げる。
【0042】
図8は、パワーモジュールの温度制御の更に他の実施形態を示す。この実施形態では、エンジン91に隣接して水タンク98aを設け、制御装置(図2参照)によって車両が低燃費モードで駆動されていることが検出されると、バルブ98bを開いて水タンク98a内の水をHV冷却系に導入して水温を上昇させ、パワー半導体素子の温度を上げるようにしている。図8において、点線で囲んだ部分98が、パワーモジュールの温度調整を行うために本実施形態において追加した部分である。
【0043】
図7及び図8に示す実施形態とも、追加部分のバルブの制御を、制御装置(図2参照)からの制御信号によって行う。即ち、制御装置がパワーモジュールに設けた電流センサの出力から車両が低燃費モードでの駆動状態に入ったことを検出すると、追加部分のバルブを開成するための制御信号を出力し、バルブを開成してパワー半導体素子の温度を上昇させる。温度の調整は、パワー半導体素子の温度を検出する温度センサの出力を参照しながら制御部13によって行われる。
【0044】
図9〜図11に、パワーモジュールの温度制御の更に他の実施形態を示す。図9は、冷却能力の制御機構を一体に組み込んだパワーモジュールの概略構成を示す断面図、図10及び図11は、冷却能力の制御方法を説明するための図である。図9において、100は共通基板、101a、101bは例えば昇圧コンバータ、インバータ等を構成する複数のパワー半導体素子、102aはPバスバー、102bはNバスバー、103a、103bは出力バスバー、104は出力バスバーの取出し部である。共通基板100の上下面上の、素子101a、101bが形成されていない部分には、P側のプリドライバ105a及びN側のプリドライバ105bがマウントされている。また、パワー半導体素子101a、101bは信号線106によって接続されている。
【0045】
P側の出力バスバー103a上には、絶縁層107aを介して冷却器108aが取り付けられており、同様に、N側の出力バスバー103b上には、絶縁層107bを介して冷却器108bが取り付けられている。パワー半導体素子101a、101bで発生した熱は、P側の出力バスバー103a及びN側の出力バスバー103bを介して絶縁層107a、107bに伝えられ、冷却器108a、108b中を流れる水によって吸収される。冷却水は図示しないウォータポンプによって駆動され、水冷経路を循環する。この水冷経路にはラジエータ(図示せず)が設けられており、パワー半導体素子の発熱を吸収することによって上昇した循環水を冷却して、予め設計された一定の温度に保持する。
【0046】
図10の(a)及び(b)は、図9の点線で囲まれた部分、即ち冷却器108(108aおよび/または108b)の詳細を示す図である。図示するように、冷却器108内の冷却水通路109には、固定フィン110及び移動フィン111が設けられており、移動フィン111は通路109外に設けられたモータ112によって上下移動可能に構成されている。従って、モータ112によって移動フィン111を押し下げることにより、図(b)に示す様に通路109内に存在するフィンの数(面積)が減少し、その結果、冷却器108の冷却性能が低下する。
【0047】
図11の(a)及び(b)は、冷却器の他の実施形態を示す図である。冷却器108は、冷却水通路109内に設けられた複数の固定フィン110とモータ7112よって移動可能な冷却板113を供えている。この冷却器108において、モータ112を駆動して図11(b)に示す様に冷却板113を押し下げ、固定フィン110と冷却板113との間に隙間を形成すると、固定フィン110の個々にかかる水圧が低下するので、冷却器108の冷却性能は低下する。
【0048】
以上のように、図9〜図11に示す実施形態では、ウォータポンプあるいはラジエータを制御することなく、パワー半導体素子を直接冷却する冷却器の冷却能を制御することによって、パワー半導体素子の温度制御が可能である。冷却器の制御は、図6から図8に示した実施形態の場合と同様に、制御装置(図2参照)によって行われる。なお、図9では、温度センサ、電流センサを示していないが、これらは適宜設けられる。
【0049】
図12及び図13に、本発明のさらに他の実施形態を示す。上記の各実施形態は、車両の低燃費モードでの駆動時に、パワーモジュールの冷却機構を制御して素子温度を上昇させ損失の低減を図っていたが、以下に示す実施形態では、1個の素子に流れる電流量を制御することにより、素子温度を上昇させるようにしている。
【0050】
図12は、一般的な昇圧コンバータの回路構成を示す図である。車載用の昇圧コンバータの場合、モータ駆動するために大電流を流す必要がある。従って、昇圧コンバータの上アーム、下アームのパワー半導体素子には大きな電流が流れることになる。この電流を複数のパワー半導体素子で分担し、個々の素子に係る負担を低減するために、実際のパワーモジュールでは複数のパワー半導体素子を並列に接続している。
【0051】
図12の昇圧コンバータは、図2又は図4(a)に示す昇圧コンバータと基本的には同様の回路構成を有しているが、上アーム3及び下アーム4からなる回路(以下、スイッチ回路)を複数個(図12の例では2個)、バッテリ1及び負荷6間に並列に接続した構成を有する。上アーム3と下アーム4のスイッチ回路に対し、さらに上アーム3’と下アーム4’のスイッチ回路を並列に接続することにより、この各スイッチ回路のIGBT素子及びダイオードに流れる電流は、並列接続しない場合の半分となる。それによって、各パワー半導体素子への負担を低減する一方、回路全体では大きな駆動電流を得ることが出来る。
【0052】
本実施形態では、このような昇圧コンバータにおいて、駆動電流がクロスポイント以下となるような低燃費モード時において、一方のスイッチ回路を昇圧コンバータ回路から切り離すことにより、1個のIGBT素子に流れる電流量を増加させて素子温度を上昇させる。
【0053】
図13は、2つの温度でのIGBT素子のコレクタ電流−オン電圧特性を示す図であって、曲線Aの場合の素子温度は曲線Bの場合の素子温度よりも低い。図13より明らかなように、曲線Aに対応する温度に維持されているIGBT素子において、低燃費モードでの駆動のために駆動電流がクロスポイントよりも低い値I1に低下した場合、IGBT素子を加熱して素子温度を高温側(曲線B側)に移動させることにより、素子のオン電圧が低くなり定常損失が低減する。
【0054】
本実施形態では、IGBT素子のこのような加熱を、素子に流れる電流を増加させることによって実現しようとするものである。即ち、図12の回路において、上アーム下アームからなるスイッチ回路が2個並列に接続されている場合の低燃費モード時の駆動電流をI1とすると、一方のスイッチ回路を昇圧コンバータから切り離すと、切り離されていないスイッチのIGBT素子に流れる電流I2は、I2=2×I1となる。このように1個の素子に多くの電流が流れることにより、発生する熱量が増加し、素子は外部からの加熱を要することなく高温となる。
【0055】
上アーム下アームからなるスイッチ回路の一方を切り離す以前の状態では、電流I1に対してオン電圧はV1であり、2個のスイッチ回路を並列接続した回路全体の定常損失W1は、W1=2(I1×V1)となる。これに対して、一方のスイッチ回路を切り離した場合の定常損失W2は、W2=I2×V2=2I1×V2となる。今、V1>V2であるため、W2<W1となって、スイッチ回路を切り離すことによって定常損失が低減することが分かる。
【0056】
このように、上アーム下アームからなるスイッチ回路を複数並列接続した昇圧コンバータにおいて、昇圧コンバータの駆動電流がクロスポイントPよりも低くなった場合、幾つかのスイッチ回路を切り離して実際に作動させるパワー半導体素子の数を減少させることにより、回路全体の損失を低下させることが可能となる。
【0057】
図14は、図12に示す昇圧コンバータにおいて、低燃費モード時の燃費を向上させるための制御フローを示す。先ずステップT1において、制御装置11は、電流センサ(図示せず)の出力に基づいて昇圧コンバータにおける駆動電流値を検出する。ステップT2において、検出された電流値がクロスポイントよりも低い場合(ステップT2のYES)、ステップT3において、切替装置11aによって、幾つかのスイッチ回路を切り離して実際に作動させるIGBT素子の数を減少させ、処理を終了する。駆動するIGBT素子数の減少は、切替装置11aにより駆動回路10を制御して、例えば、上アーム3’と下アーム4’のIGBT素子をオフ状態に設定することにより実行される。
【0058】
図14のステップT2において、検出された電流値がクロスポイント以上である場合(ステップT2のNO)は、切替装置11aを駆動せず処理を終了する。なお、図3に示した第1の実施形態の場合と同様に、図14の処理が一定の時間ごとに繰り返し実行されるように設定しておけば、車両が低燃費モードでの駆動に入ったことを速やかに検出して自動的に燃費向上を図ることができる。
【0059】
以下の表1は、低燃費モード時の昇圧コンバータにおける電流仕様の一例を示すものである。パラレル配置とは、図12に示す様に、上アーム下アームからなるスイッチ回路が2個並列に接続された配置を示し、シングル配置とは、上アーム下アームからなるスイッチ回路が1個の場合を示す(図2参照)。表1において、パラレル配置、シングル配置とも、昇圧コンバータにおける1個のIGBT素子に流れる電流値を示している。
【表1】
【0060】
上記の表から明らかなように、パラレル配置の昇圧コンバータをシングル配置に切り替えることにより、1個のIGBTに流れる電流は2倍となり、その分損失が増加して素子温度が高くなる。ここで、クロスポイントの高い素子を使用すると、低燃費モード時の電流仕様では、素子温度が高くなる程オン電圧が低下して損失が低減するので、パラレル配置をシングル配置に切り替えることにより、損失を低減し燃費を向上させることができる。なお、クロスポイントが高いと言う場合、クロスポイントが低燃費モードの電流仕様より高いことを意味し、その値は、表1より、パラレル配置の昇圧コンバータでは20A以上であり、シングル配置の昇圧コンバータの場合、39A以上である。
【符号の説明】
【0061】
1 バッテリ
2 リアクトル
3 上アーム
3a IGBT素子
3b FWDダイオード
4 下アーム
4a IGBT素子
4b FWDダイオード
5 コンデンサ
6 負荷
7 温度調整装置
8 温度センサ
9 電流センサ
10 駆動回路
11 制御装置
12 メモリ
13 制御部
14 パワーモジュール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置と、
前記パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、
前記電流検知装置によって検知された前記駆動電流に基づいて、前記温度調整装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、前記制御装置は、前記パワー半導体素子の駆動電流に対するオン電圧の温度依存性が正と負の間で逆転する電流値(以下、クロスポイント)を記録する記録媒体と、前記クロスポイントと前記駆動電流値との関係に基づいて前記温度調整装置を制御する制御部を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子が、SiC、GaN又はダイアモンドを材料として構成されていることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のパワーモジュールを備えたことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車又は電気自動車において、前記温度調整装置は水冷装置であり、前記水冷装置に車両の駆動機構の冷却水を導入する経路を設けたことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【請求項6】
複数が並列に接続されたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、
前記駆動電流に基づいて前記パワー半導体素子の作動個数を制御する切替装置と、を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のパワーモジュールを搭載したことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【請求項1】
パワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子の温度を調整する温度調整装置と、
前記パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、
前記電流検知装置によって検知された前記駆動電流に基づいて、前記温度調整装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュールにおいて、前記制御装置は、前記パワー半導体素子の駆動電流に対するオン電圧の温度依存性が正と負の間で逆転する電流値(以下、クロスポイント)を記録する記録媒体と、前記クロスポイントと前記駆動電流値との関係に基づいて前記温度調整装置を制御する制御部を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子が、SiC、GaN又はダイアモンドを材料として構成されていることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のパワーモジュールを備えたことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【請求項5】
請求項4に記載のハイブリッド車又は電気自動車において、前記温度調整装置は水冷装置であり、前記水冷装置に車両の駆動機構の冷却水を導入する経路を設けたことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【請求項6】
複数が並列に接続されたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子の駆動電流を検知する電流検知装置と、
前記駆動電流に基づいて前記パワー半導体素子の作動個数を制御する切替装置と、を備えることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のパワーモジュールを搭載したことを特徴とする、ハイブリッド車又は電気自動車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−228114(P2012−228114A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95121(P2011−95121)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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