説明

パンタグラフすり板の磨耗検知装置

【課題】パンタグラフすり板の磨耗の位置や程度を検知することができるとともに事故原因の追究を可能とし、かつ安価とする。
【解決手段】パンタグラフすり板10の左右方向あるいは高さ方向の異なる位置に異なる信号を無線で発信する複数の無線ICタグ15を設け、この無線情報を無線ICタグ15から発信するとともに、受信部16により受信し、無線ICタグ15がすり板10の磨耗により外れて無線ICタグ15からの無線情報が受信できなくなったことにより、この無線情報から外れた無線ICタグ15のすり板10における取付位置を検知し、この取付位置からすり板10の磨耗位置と磨耗状態を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンタグラフすり板の磨耗検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電車では、一般的に、架線から電力を集電するために、パンタグラフを用いている。図2(a),(b)は従来の例えば新幹線用シングルアーム式のパンタグラフの正面図及びその要部拡大側断面図であり、パンタグラフ1は電車の車両2の屋根に伸縮自在に取り付けられている。即ち、車両2側に位置固定された主軸3に下枠4の一端が連結され、下枠4の他端にはヒンジ部5を介して上枠6の一端が連結され、上枠6の他端には舟体支持部7が支持され、舟体支持部7にはそり板状の舟体8が上下動可能に支持され、舟体8の上部には架線9と摺接して受電するすり板10が設けられている。架線9はハンガー等により支持され、振れ止め具等により固定されている。
【0003】
11はパンタグラフ1を上昇させるための主ばねであり、その一端は車両2側に固定され、他端は主軸3側に連結されている。12は一端が車両2側に固定され、パンタグラフ1の形状を保つために設けられた釣合棒であり、釣合棒12の他端は上枠6のヒンジ部5側端部から一体に突出した突出部13に連結される。14は一端が舟体支持部7に連結され、舟体8を水平に保つために設けられた平衡棒であり、その他端はヒンジ部5に連結される。
【0004】
パンタグラフ1のすり板10は、架線9との接触により電力を集電しているため、車両2の走行と共に摩擦により徐々に擦り減ってくる。このすり板10の減り具合により、すり板10の交換が行われるが、現在では車両基地等の出入り口でパンタグラフ1のすり板10の監視を行い、異常がある場合や減り方が多い場合には取り替えている。又、すり板10が破損した場合には、架線9を破壊してしまう等の重大事故に繋がることから、新幹線等では減り具合に拘わらず、定期的に取替えを行っている。
【0005】
なお、先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開平8−9904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両基地の出入り口における監視はオンラインの監視ではないために、車両走行中のすり板の磨耗監視ができず、一度車両基地から出てしまうと、車両基地に戻るまではすり板の磨耗を監視することができない。従って、車両編成によっては、長い区間走行したり、数往復任意の区間を走行するなど、車両編成ごとに車両基地に戻るまでの走行距離にバラツキがあるため、適切な管理ができなかった。又、車両基地の出入り口の監視では、事故があった場合の原因追究には役に立たなかった。さらに、新幹線等では磨耗の進み具合とは関係なしに定期的にすり板の交換を行っており、費用負担と無駄が大きかった。
【0007】
又、本出願人が既に提案したパンタグラフすり板の磨耗検知装置おいては、すり板に光ケーブルを埋設し、この光ケーブルがすり板の磨耗により断線することによりすり板の磨耗を検知していたが、この光ケーブルをパンタグラフの上枠、下枠を介して光信号の送受信部まで配設する必要があり、パンタグラフの構造が複雑になり、高価になるという課題があった。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、すり板の磨耗の位置や程度を検知することができるとともに、事故原因の追究が可能であり、かつ光ケーブルが不要で安価にすることができるパンタグラフすり板の磨耗検知装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の請求項1に係るパンタグラフすり板の磨耗検知装置は、車両の屋根に取り付けられたパンタグラフの上部に設けられ、架線と摺接して受電するパンタグラフすり板において、該すり板の異なる位置に設けられ、それぞれ異なる信号を無線で発信する複数の無線ICタグと、無線ICタグからの無線情報を受信する受信部とを備え、無線ICタグがすり板の磨耗により外れて受信不能となったことにより、その受信不能となった無線ICタグの取付位置からすり板の磨耗の位置と程度を検知するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの発明の請求項1によれば、すり板の異なる位置に複数の無線ICタグが設けられ、各無線ICタグは異なる信号を無線で発信している。すり板の磨耗により無線ICタグが外れると、その無線ICタグからの無線情報を受信部は受信できなくなり、その受信できなくなった無線ICタグの取付位置からすり板のどの位置がどの程度磨耗したかを検知することができる。又、運転状況に異常が生じた場合に、異常原因がパンタグラフのすり板の磨耗であるのか、あるいは架線の異常によるのか等の異常原因を追究することができる。さらに、光ケーブルを用いないので、その配設も必要でなく、パンタグラフの構造も簡単になり、安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図1(a),(b)はこの発明の実施最良形態によるパンタグラフすり板の磨耗検知装置の正面図及び要部拡大側断面図であり、パンタグラフ1は車両2の屋根に伸縮自在に取り付けられている。即ち、車両2側に位置固定された主軸3に下枠4の一端が連結され、下枠4の他端にはヒンジ部5を介して上枠6の一端が連結され、上枠6の他端には舟体支持部7が支持され、舟体支持部7にはそり板状の舟体8が上下動可能に支持され、舟体8の上部には架線9と摺接して受電するすり板10が設けられている。すり板10には、その異なる位置に複数の無線ICタグ15が設けられ、例えば各無線ICタグ15は図1(b)のA−Bに示すように左右方向に設けられ、あるいは図1(b)のC−Dに示すように高さ方向を異ならせて設けられる。又、各無線ICタグ15は例えば周波数や長さ等の異なる信号を無線で発信する。又、車両2の屋根上には無線ICタグ15から無線で発信された信号を受信する受信部16が取り付けられる。
【0012】
次に、上記構成の動作を説明する。各無線ICタグ15から発信された無線情報は受信部16により受信され、車両2内の運転状況確認モニターに表示される。ここで、すり板10が架線9との摩擦によりある部分まで擦り減ると、その位置に設けられた無線ICタグ15は外れてしまい、受信部16はこの無線ICタグ15からの無線情報を受信できなくなる。この受信できなくなった無線ICタグ15のすり板における取付位置は受信できなくなった信号により検知することができ、この取付位置によりすり板10のどの部分がどの程度磨耗したかを検知することができる。
【0013】
上記した実施最良形態においては、すり板10の磨耗により無線ICタグ15が外れたことにより受信部16で受信できなくなった無線情報から、外れた無線ICタグ15の取付位置を検知することができ、この取付位置からすり板10の磨耗の位置と磨耗の程度を検知することができる。又、運転状況確認モニターの表示から異常を検知した場合に、パンタグラフ1のすり板10の磨耗による異常であるのか、あるいは架線9の異常によりパンタグラフ1が破損したのか等の異常原因の追究が可能となる。さらに、光ケーブルを用いないので、その配設も必要でなく、パンタグラフ1の構造も簡単になり、安価にすることができる。
【0014】
なお、本発明では、図1の形状のパンタグラフにて説明したが、他の形状のパンタグラフでも同様の効果を奏するのは勿論のことである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施最良形態によるパンタグラフすり板の磨耗検知装置の正面図及びその要部拡大側断面図である。
【図2】従来のパンタグラフの正面図及びその要部拡大側断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1…パンタグラフ
2…車両
8…舟体
9…架線
10…すり板
15…無線ICタグ
16…受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の屋根に取り付けられたパンタグラフの上部に設けられ、架線と摺接して受電するパンタグラフすり板において、該すり板の異なる位置に設けられ、それぞれ異なる信号を無線で発信する複数の無線ICタグと、無線ICタグからの無線情報を受信する受信部とを備え、無線ICタグがすり板の磨耗により外れて受信不能となったことにより、その受信不能となった無線ICタグの取付位置からすり板の磨耗の位置と程度を検知するようにしたことを特徴とするパンタグラフすり板の磨耗検知装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−300745(P2007−300745A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127202(P2006−127202)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】