説明

パンタグラフの離線検知方法及び装置

【課題】 安価な手段で、昼夜に係らずパンタグラフの離線を検知できる装置及び方法を提供する。
【解決手段】 パンタグラフ離線検知装置1は、パンタグラフPの近傍に設置された紫外光受光部10と、車両Vの内部に配置された光量測定器21と、から主に構成される。紫外光受光部10と光量測定器21とは、プラスチックファイバ30で接続している。紫外光受光部10は、アーク光の所定の波長以下の紫外光成分を通過させるフィルタ12と、フィルタ12を通過した紫外光を可視光に変換する蛍光ガラス13を有する。フィルタ12を使用して所定の波長以上の非紫外光成分を取り除くことにより、アーク光に含まれる紫外光を、太陽光に対して高い割合で検出できる。そして、この紫外光を蛍光ガラス13で可視光に変換することにより、光を伝達するケーブルとしてプラスチックファイバ30を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフがトロリ線から離線した時に発生するアーク光を用いてパンタグラフの離線を検知する方法及び装置に関する。特には、アーク光に含まれる紫外光を安価な手段で測定できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道車両においては、パンタグラフがトロリ線から離線するとアーク光を発するので、このアーク光を検出することでパンタグラフとトロリ線との接触状態が確認されている。以下、アーク光を検出する方法の例を説明する。
【0003】
図6は、アーク光検出方法の特徴を説明する表である。
アーク光検出には、可視光検出タイプとアーク光中に含まれる紫外光を検出するタイプとがある。可視光検出タイプは、可視光を受光して検出器に送るプラスチックファイバを使用する。このタイプのものは、可視光を減衰させずに検出器に送ることができ、十分な検出能力と実績があるが、検出対象が可視光であるため、測定は夜間に限られる。
【0004】
一方、紫外光検出タイプは、昼夜に係らず測定できる。このタイプには、可視光中の紫外光を受光して検出器に送る石英ファイバを使用するものと、紫外光を直接検出する半導体素子を使用するものとがある。前者に使用される石英ファイバは、紫外光を減衰させずに検出器に送ることができるが、非常に高価(例えば、20万円/m)である。これは、安価なプラスチックファイバ(1.5万円/m)は、可視光は通過可能であるが、紫外光は通過できないので、石英ファイバを使用せざるを得ないためである。このため、装置全体が高価なものとなる。また、後者においては、素子はパンタグラフの近傍に配置されているが、測定器は車両の内部に配置されているため、両者間は有線で接続されている。このため、ノイズに弱く、検出感度が低いという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、安価な手段で、昼夜に係らずパンタグラフの離線を検知できる装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパンタグラフ離線検知方法は、 パンタグラフのトロリ線からの離線時に発生するアーク光を測定することによりパンタグラフの離線を検知する方法であって、 アーク光から、所定の波長以上の非紫外光成分を取り除き、 非紫外光を取り除いた残余の紫外光を可視光に変換し、 該可視光をプラスチックファイバを通して光量計測手段に送り、 該可視光の光量を測定することによりパンタグラフの離線を検知することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、フィルタ(特定の波長域よりも短波長側の光を透過する帯域フィルタ)を使用して所定の波長以上の非紫外光成分を取り除くことにより、アーク光に含まれる紫外光を、太陽光に対して高い割合で検出できる。そして、この紫外光を可視光に変換することにより、光を伝達するケーブルとしてプラスチックファイバを使用できる。紫外光をケーブルで伝達するには、プラスチックファイバが紫外光を透過しないので、高価な石英ファイバを使用する必要があった。しかし、本発明によれば、比較的安価なプラスチックファイバを使用でき、装置全体のコストを低下できる。一例で、パンタグラフ近傍から車内の検出器まで延びる伝達ケーブルの長さが20mの場合、石英ファイバを使用すると400万円程度となるが、本発明の場合は、紫外光取り出し・変換ユニットが60万円程度、プラスチックファイバが30万円程度であり、トータルでも90万円程度となる。
【0008】
紫外光から変換された可視光は、このプラスチックファイバで、例えば車両内に設置された光量計測手段に伝達されて、可視光の強度が測定される。言い換えれば紫外光の強度が測定されることとなり、アーク光に含まれる紫外光が検出され、パンタグラフの離線が検知される。この方法では、アーク光中の紫外光成分を検出しているので、昼夜に係らずパンタグラフ離線の検知ができる。
【0009】
本発明においては、摺板が、在来線で使用されている銅系摺板(BC)やカーボン系摺板の場合には、前記波長が232nmであることが好ましい。この場合、摺板−パンタグラフ間に発生するアーク光の内、波長が232nm以下の紫外光の積算強度が、最も高い比で検出される。
【0010】
また、本発明においては、摺板が、新幹線で使用されている鉄系摺板(BF)の場合には、 前記波長が305nmであることが好ましい。この場合、摺板−パンタグラフ間に発生するアーク光の内、波長が305nm以下の紫外光の積算強度が、最も高い比で検出される。
【0011】
本発明のパンタグラフ離線検知装置は、 パンタグラフのトロリ線からの離線時に発生するアーク光を測定することによりパンタグラフの離線を検知する装置であって、 アーク光の所定の波長以下の紫外光成分を通過させるフィルタと、 該フィルタを通過した紫外光を可視光に変換する手段と、 該可視光の光量を測定して表示する手段と、 前記可視光を、前記紫外光変換手段から前記光量測定及び表示手段へ送るプラスチックファイバと、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、 前記フィルタが、波長が232nm以下の成分を通過させること、又は、波長が305nm以下の成分を通過させることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明においては、 前記紫外光変換手段が、200〜400nmの波長領域の紫外光を可視光に変換することができる蛍光ガラスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、アーク光に含まれる紫外光成分を高い割合で取り出し、取り出した紫外光成分を可視光に変換するので、光伝達ケーブルとして安価なプラスチックファイバを使用できる。また、昼間の測定も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るパンタグラフ離線検知装置を説明する図であり、図1(A)は装置全体の構成を示す図であり、図1(B)は紫外線受光部の構造を説明する断面図である。
パンタグラフ離線検知装置1は、図1(A)に示すように、車両Vの上面のパンタグラフPの近傍に設置された紫外光受光部10と、車両Vの内部に配置された光量測定器21及び同光量測定器21で測定された光量を表示する表示装置22と、から主に構成される。紫外光受光部10と光量測定器21とは、プラスチックファイバ30で接続している。
【0016】
図1(B)を参照して紫外光受光部を説明する。
紫外光受光部は、円筒形のケース11に収容された、特定の波長域の紫外光を選択して透過させるフィルタ12と蛍光ガラス13とを有する。フィルタ12と蛍光ガラス13は、ケース11の一方の端面から、フィルタ12が受光面側となるようにはめ込まれ、さらにフィルタ12の外面に保護ガラス14がはめ込まれて、ナット15で固定されている。必要であれば、フィルタ12と保護ガラス14との間にNDフィルタ16を配置してもよい。ケース11のもう一方の反受光面側からは、プラスチックファイバ30がはめ込まれて止めネジ18でケース11に固定されている。
【0017】
フィルタ12は、太陽光を遮断しつつ、所定の波長よりも短波長側の紫外光成分を通過させるためのものである。波長はパンタグラフPの摺板の材質によって決められ、波長が232nm以下の紫外光成分を通過させるものと、波長が305nm以下の紫外光成分を通過させるものとを選択して使用する。例えば、在来線で使用されている銅系の摺板やカーボン製の摺板の場合は、232nm以下の紫外光成分を通過させるもの、新幹線で用いられている鉄系の摺板の場合は、305nm以下の紫外光成分を通過させるものが使用される。このようなフィルタ12を使用することにより、以下に説明するように、太陽光に対して高い割合で紫外光を検出できる。
【0018】
図2は、太陽光に対する紫外光成分の強度の割合を示すグラフである。グラフの横軸は、フィルタの波長、縦軸は、太陽光強度に対する、ある波長以下の紫外光成分の強度を積算したものの比を示す。例えば、フィルタの波長が305nmとは、波長305nm以下の紫外光成分の強度を積算したもの(紫外光積算強度という)の、太陽光強度に対する比を表し、フィルタの波長が232nmとは、波長232nm以下の紫外光成分の強度を積算したものの、太陽光強度に対する比を表す。グラフの太い実線は銅系摺板(BC)、破線はカーボン系摺板、細い実線は鉄系摺板(BF)を示す。
【0019】
太い実線で示す銅系摺板(BC)と破線で示すカーボン系摺板の場合、波長が232nm以下の紫外光積算強度が、最も高い比で検出されることがわかる。また、細い実線で示す鉄系摺板(BF)の場合は、波長が305nm以下の紫外光積算強度が、最も高い比で検出されることがわかる。このことから、銅系摺板やカーボン系摺板の場合は、波長が232nmのフィルタを使用し、鉄系摺板の場合は、波長が305nmのフィルタを使用する。
【0020】
蛍光ガラス13は、フィルタ12を通過した紫外光領域の光を、プラスチックファイバ30を透過可能な可視光に変換するためのものである。このような蛍光ガラス13は、ガラス中に蛍光活性イオンとなる希土類イオンを多量に含有させたものである。例えば、希土類イオンが三価テルビウムの場合、波長が200〜390nmの紫外光で励起すると緑色の蛍光(波長540nm)を発し、3価ユウロピウムの場合、波長が200〜420nmの紫外光で励起すると赤色の蛍光(波長610nm)を発し、2価ユウロピウムの場合は波長が200〜400nmの紫外光で励起すると青色の蛍光(波長410nm)を発する(「蛍光ガラスの開発」沢登成人(株式会社住田光学ガラス)、マテリアルインテグレーション Vol.17 No.3(2004))。
【0021】
図1(A)に示すように、この紫外光受光部10は、パンタグラフP近傍に設置される。特には、パンタグラフPに対して、進行方向後方に設置されることが好ましい。これは、パンタグラフPとトロリ線が摩擦したときに発生する火花や摩擦片が後方に飛ぶため、これらも検出できるためである。
なお、この装置1は、地上に設置することもできる。
【0022】
車両Vの内部には、光量測定器21及び同光量測定器21で測定された光量を表示する表示装置22が配置されている。光量測定器21としては、例えば、フォトセンサなどを使用でき、光量の強度に応じた電圧が出力される。紫外光受光部10と光量測定器21とは、プラスチックファイバ30で接続しており、フィルタ12を通過した所定の波長以下の紫外光成分は、蛍光ガラス13で可視光に変換されて、プラスチックファイバ30を通って光量測定器21に送られ、光量が測定される。測定された光量は、表示装置22で表示される。
【0023】
次に、紫外光受光部10がある場合とない場合(紫外光−可視光変換手段がある場合とない場合)の、光量測定結果を説明する。
図3は、紫外光受光部がある場合とない場合(紫外光−可視光変換手段がある場合とない場合)の、所定の波長の紫外光の光量を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は出力電圧を示す。グラフの破線は、所定の波長の紫外光を図1の紫外光受光部10で受光して、プラスチックファイバで光量測定器に送った場合の同測定器の出力電圧を示し、グラフの太い実線は、所定の波長の紫外光を、紫外光受光部10を通さずにプラスチックファイバで受光して光量測定器に送った場合の同測定器の出力電圧を示す。
【0024】
太い実線で示すように、紫外光受光部が存在しない場合は、出力電圧は0.2V程度であるが、破線で示すように、紫外光受光部が存在する場合は、出力電圧が1.6V程度であり、約8倍程度の割合で紫外光を検出・伝送できることがわかる。
【実施例】
【0025】
図4は、本発明のパンタグラフ離線検知装置の実験装置を示す写真である。
写真の下半分に示されているのが静止状態の車両で、その上部にパンタグラフが示されている。このパンタグラフの摺板の部分に、電圧が印加された、高速で回転する円盤が接触している。この円盤が摺板から離れると両者間にアーク光が発生する。写真の中央付近に示される白色のものは、太陽光を模した照明器である。図の下側に黒く見える部分は、本発明のパンタグラフ離線検知装置の紫外光受光部である。フィルタは、波長が230nmのもの(山田光学工業株式会社製)を使用した。蛍光ガラスは、青色の蛍光を発するもの(ルミラス−B(商品名)、株式会社住田光学ガラス製)を使用した。紫外光受光部とパンタグラフとの距離は2〜3mである。この紫外光受光部は、車両の内部に配置された光量測定器とプラスチックファイバで接続している。電圧が印加された円盤を回転させながら摺板に接触させたときの、円盤−パンタグラフ間の電圧と、紫外光受光部で計測された紫外光の強度を計測した。
【0026】
図5は、円盤−パンタグラフ間の電圧と、紫外光受光部で計測された紫外光の強度を示すグラフである。グラフの上側の部分は、紫外光受光部で計測された紫外光の強度、下側の部分は、円盤−パンタグラフ間の電圧を示す。横軸は時間を示す。
円盤がパンタグラフから離れると、円盤−パンタグラフ間の電圧が上昇する。グラフの上下を比較すると、グラフの下側に示される、円盤−パンタグラフ間の電圧が上昇したときに、紫外光強度も上昇していることがわかる。つまり、円盤がパンタグラフから離れてアーク光が発生したことを、紫外光受光部で検出できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係るパンタグラフ離線検知装置を説明する図であり、図1(A)は装置全体の構成を示す図であり、図1(B)は紫外線受光部の構造を説明する断面図である。
【図2】太陽光に対する紫外光成分の強度の割合を示すグラフである。
【図3】紫外光受光部がある場合とない場合(紫外光−可視光変換手段がある場合とない場合)の、所定の波長の紫外光の光量を示すグラフである。
【図4】本発明のパンタグラフ離線検知装置の実験装置を示す写真である。
【図5】円盤−パンタグラフ間の電圧と、紫外光受光部で計測された紫外光の強度を示すグラフである。
【図6】アーク光検出方法の特徴を説明する表である。
【符号の説明】
【0028】
1 パンタグラフ離線検知装置
10 紫外光受光部 11 ケース
12 フィルタ 13 蛍光ガラス
14 保護ガラス 15 ナット
16 NDフィルタ 18 止めネジ
21 光量測定器 22 表示装置
30 プラスチックファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンタグラフのトロリ線からの離線時に発生するアーク光を測定することによりパンタグラフの離線を検知する方法であって、
アーク光から、所定の波長以上の非紫外光成分を取り除き、
非紫外光を取り除いた残余の紫外光を可視光に変換し、
該可視光をプラスチックファイバを通して光量計測手段に送り、
該可視光の光量を測定することによりパンタグラフの離線を検知することを特徴とするパンタグラフの離線検知方法。
【請求項2】
前記波長が232nmであることを特徴とする請求項1記載のパンタグラフの離線検知方法。
【請求項3】
前記波長が305nmであることを特徴とする請求項1記載のパンタグラフの離線検知方法。
【請求項4】
パンタグラフのトロリ線からの離線時に発生するアーク光を測定することによりパンタグラフの離線を検知する装置であって、
アーク光の所定の波長以下の紫外光成分を通過させるフィルタと、
該フィルタを通過した紫外光を可視光に変換する手段と、
該可視光の光量を測定して表示する手段と、
前記可視光を、前記紫外光変換手段から前記光量測定及び表示手段へ送るプラスチックファイバと、
を備えることを特徴とするパンタグラフの離線検知装置。
【請求項5】
前記フィルタが、波長が232nm以下の成分を通過させることを特徴とする請求項4記載のパンタグラフの離線検知装置。
【請求項6】
前記フィルタが、波長が305nm以下の成分を通過させることを特徴とする請求項4記載のパンタグラフの離線検知装置。
【請求項7】
前記紫外光変換手段が蛍光ガラスであることを特徴とする請求項4、5又は6記載のパンタグラフの離線検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−183088(P2009−183088A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20603(P2008−20603)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(595167535)山田光学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】