説明

パンタグラフ

【課題】可動ストローク端部でのストッパ当たりを低減して集電摺動部のトロリ線への追随特性を向上したパンタグラフを提供する。
【解決手段】トロリ線Tに接触する集電摺動部10と、集電摺動部を所定の可動ストローク範囲内で上下方向に相対変位可能に支持する支持体20と、集電摺動部と支持体との間に設けられ、集電摺動部の支持体に対する変位に応じた復元力を発生する弾性体110,120,130を有する弾性支持機構100と、を備えるパンタグラフを、弾性支持機構は、可動ストロークの上端部、下端部の少なくとも一方の端部近傍において、可動ストロークの中間領域に対してバネ定数が増大する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道においてトロリ線からの集電を行うパンタグラフに関する。特には、支持体(舟支え等)に対して集電摺動部(舟体等)が動くストロークの端部で、両者間に設けられたストッパの当たりを低減することにより、トロリ線への追従特性を向上したパンタグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
現状の営業用の電気鉄道においては、トロリ線からパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。パンタグラフは、一般にトロリ線に接触摺動するすり板が固定された舟体を、昇降機構の上端部に設けられた舟支えによって支持している。舟体は、舟支えに対して所定の可動ストローク内で上下方向に相対移動可能となっている。舟体は舟支えに対して弾性支持機構を介して支持されている。また、昇降機構は、舟体及び舟支えを一定の押上げ力でトロリ線側に押し付けている。
【0003】
すり板とトロリ線との接触力は、トロリ線の機械インピーダンス(押し上がりにくさ)の不均一、静的な高さ不整、硬点などの要因によって変動する。この接触力がゼロとなると、すり板とトロリ線との機械的接触が失われる離線が生じ、アークが発生し、このアークによってすり板及びトロリ線に電気的磨耗を引き起こす。このようになることを避けるため、パンタグラフには、すり板体のトロリ線に対する追随特性を向上することにより、離線が極力起こらないことが求められる。
【0004】
従来、パンタグラフのトロリ線に対する追随特性を向上する技術として、前後1対の舟体を設けて、各舟体の質量を異ならせるとともに、各舟体の車幅方向両端部にそれぞれ設けられた復元バネのバネ定数を前後左右で異ならせることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2006−174667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなパンタグラフにおいて、舟支えに対して舟体を支持する弾性支持機構は、可動ストロークの伸び側、縮み側の限界点で当接し、それ以上の変位を阻止するストッパを備えている。舟体が可動ストロークの限界点まで変位してストッパ当たりが発生しているときは、舟体を支持するばね系が機能しないため、パンタグラフの追随性能が顕著に低下する。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、可動ストローク端部でのストッパ当たりを低減して集電摺動部のトロリ線への追随特性を向上したパンタグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明のパンタグラフは、トロリ線に接触する集電摺動部と、前記集電摺動部を所定の可動ストローク範囲内で上下方向に相対変位可能に支持する支持体と、前記支持体を車体に対し上下方向に変位可能に支持する昇降支持機構と、前記集電摺動部と前記支持体との間に設けられ、該集電摺動部の該支持体に対する変位に応じた復元力を発生する弾性体を有する弾性支持機構と、を備えるパンタグラフであって、前記弾性支持機構は、前記可動ストロークの上端部、下端部の少なくとも一方の端部近傍において、該可動ストロークの中間領域に対してバネ定数が増大することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、弾性支持機構のバネ定数が可動ストロークの端部近傍で中間領域に対して増大する非線形性を有することから、集電摺動部が可動ストロークの限界点に達してストッパ当たりが生じるのに要する荷重が増大する。これによって、ストッパ当たりが抑制され、集電摺動部に大荷重が作用した場合におけるパンタグラフの追随特性を向上し、集電摺動部のトロリ線からの離線を低減することができる。
【0008】
本発明において、前記弾性支持機構は、前記可動ストロークのほぼ全域にわたって前記集電摺動部と前記支持体との間で復元力を発生する主弾性体、及び、前記可動ストロークの中間領域においては前記集電摺動部と前記支持体との少なくとも一方から離間した状態とされ、該可動ストロークの端部近傍においては前記集電摺動部と前記支持体との間で復元力を発生する副弾性体を有する構成とすることができる。
これによれば、集電摺動部の可動ストロークのうち常用される中間領域でのバネ定数に影響を及ぼすことなくストッパ当たり低減効果を得ることができる。さらに、主弾性体及び副弾性体のバネ定数の設定によって、非線形特性のチューニングが容易である。
【0009】
この場合において、前記主弾性体及び前記副弾性体は径が異なりほぼ同心に配置されたコイルバネである構成とすることができる。
これによれば、弾性支持機構をコンパクトに構成することができる。
なお、コイルバネにゴム被覆を施したベローばねでも良い。
また、前記副弾性体は、前記集電摺動部及び前記支持体の少なくとも一方側に固定され、前記可動ストロークの端部近傍において、該集電摺動部及び該支持体の他方側と当接する弾性部材である構成とすることもできる。
この場合、副弾性体として、典型的には、ゴム等の弾性材料を集電摺動部、支持体の一部に巻きつけたものや、ブロック状にして装着したもの等を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、支持体に対して集電摺動部を弾性的に支持する弾性支持機構のバネ定数が、集電摺動部の可動ストロークの端部近傍で増加する非線形特性を有することによって、集電摺動部の可動ストロークを規制するストッパの当たりを低減し、集電摺動部のトロリ線への追随特性を向上したパンタグラフを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明を適用したパンタグラフの実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角をなす方向を左右方向(車幅方向)、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。
本実施の形態では、シングルアーム式のパンタグラフを例にとって説明する。
図1は、本実施の形態に係るパンタグラフを模式的に示す機構図である。
シングルアーム式のパンタグラフ1は、電車の車体屋根2の上に配置される。
パンタグラフ1は、舟体10、舟支え20、昇降機構30、弾性支持機構100等を備えて構成されている。
なお、舟体10及び弾性支持機構100は、ひとつの舟支え20に対して、例えば2組が車両の前後方向に離間して配列されている。
【0012】
舟体10は、トロリ線(給電線)Tに接触するすり板体11が固定された部材であり、本発明でいう集電摺動部である。
舟体10は、典型的にはアルミニウム系合金等を用いて、車幅方向に伸びた梁状に形成される。舟体10は、舟支え20に対して、所定の可動ストロークの範囲内で上下方向に相対移動可能となっている。
また、舟体10は、すり板体11が取付られた本体部10aから下方に突き出して形成された下枠部12を備えている。この下枠部12の下端部12aは、舟支え20の下側に回りこんで形成されている。この下枠部12の下端部12aには、舟体10の上方側への移動量を規制する上限ストッパ150(図2等を参照)及び後述する弾性支持機構100の上限サブスプリング130が設けられる。これらについては、図2等を参照しつつ後に詳しく説明する。
すり板体11は、舟体10の長手方向に沿って配置された帯状のプレートである。すり板体11は、例えば鉄系や銅系の焼結合金や、カーボン系の材料を用いて形成されている。
舟支え20は、舟体10の下側に設けられ、舟体10を支持するものである。舟支え20は、昇降機構30の上端部に連結される。
【0013】
昇降機構30は、車体屋根2に対して舟支え20を昇降可能に支持するものである。
昇降機構30は、下端部が車体屋根2に固定され、上端部に舟支え20が装着された4節リンクを備えている。
このリンクは、前後方向に延びる上枠31を備えている。この上枠31の上端は、連結部32を介して舟支え20に連結されている。上枠31の下端側は、くの字状に屈曲された形状となっている。この上枠31の下端のくの字屈曲部には、第一節33を介して下枠34の上端が連結されている。
【0014】
舟支え20の下端側と下枠34の上端側は、上枠31の下方に配置された舟支えリンク35でつながれている。この舟支えリンク35は、舟支え20及びその上の舟体10を、正規の姿勢に保つ役割を果たすリンク部材である。上枠31の下端には、第三節36を介して釣り合い棒37の上端が連結されている。この釣り合い棒37の下端は、第四節38を介して、車体屋根2の上の取付フランジ39に連結されている。下枠34の下端は、主軸(第二節)40に連結されている。この主軸40は、車体屋根2の取付フランジ42に回動可能に支持されているとともに、車体屋根2の上に配置された主バネ41に連結されている。主バネ41は、パンタグラフ1に上昇力を与える部材である。
【0015】
このパンタグラフ1は、以下の通りに昇降動作する。まず、舟体10を上昇させるには、図示しない解除機構を解除して主バネ41を縮める。すると、この主バネ41の復元力を受けて下枠34が主軸40を支点として図1中U方向に起き上がり、この下枠34の動きが第一節33を介して上枠31に伝わる。このとき、上枠31は、第一節33を支点として図1中U´方向に起き上がり、上端側が連結部32を介して舟支え20を持ち上げる。このようにして舟体10が上昇し、すり板体11がトロリ線Tに押し当てられる。
これとは逆に、舟体10を下降させるには、図示しない折り畳み用シリンダで下枠34を図1中D方向に下げる。すると、上枠31が図1中D´方向に回転し、パンタグラフ1が下降する。このようなパンタグラフ1の折り畳み状態では、主バネ41が伸びた状態となる。そして、図示しないカギ装置で舟支え20をロックすることにより、パンタグラフ1を折り畳み状態でロックできる。
【0016】
図2は、弾性支持機構100の周辺部を横方向から見た模式的側面図である。
弾性支持機構100は、舟体10を舟支え20に対して弾性的に支持している。すり板体11は、1つの舟体10に対し、車両の前後方向に離間して例えば1対が設けられている。各すり板体11は、舟体10の上面に固定されている。
弾性支持機構100は、メインスプリング110、下限サブスプリング120、上限サブスプリング130等を備えて構成されている。
また、弾性支持機構100には、下限ストッパ140、上限ストッパ150が備えられている。
ここで、弾性支持機構100のメインスプリング110、下限サブスプリング120、下限ストッパ140は、ひとつの舟体10に対して、例えば2組が車両の前後方向に離間して配置されている。
【0017】
メインスプリング110は、舟体10と舟支え20との間にわたして設けられた圧縮コイルバネであって、舟体10をトロリ線T方向へ押し上げる復元バネとして作用する。
メインスプリング110は、1つの舟体に対して前後2箇所に設けられ、軸心がほぼ鉛直方向に沿って配置されている。メインスプリング110の上端部は、舟体10の前後にそれぞれ突き出したフランジ部の下面に固定されている。メインスプリング110の下端部は、舟体10のフランジ面と対向する舟支え20の上面部に固定されている。
【0018】
下限サブスプリング120は、舟体10が舟支え20に対する可動ストロークの下端近傍にあるときに、舟体10が舟支え20に対して上昇する方向の反発力を生じる圧縮コイルバネである。下限サブスプリング120は、ほぼ鉛直方向に沿って配置されている。下限サブスプリング120は、その内径がメインスプリング110の外径よりも小さく形成され、メインスプリング110の内径側に、ほぼ同心となるように配置されている。下限サブスプリング120は、その下端部が舟支え20に固定されている。
【0019】
図3は、下限サブスプリング120周辺部の分解図である。
下限サブスプリング120は、スプリングシート121、バネキャッチャ122を備え、さらに、バネキャッチャ122の上側には、下限ストッパ140の下側ストッパ142が設けられている。
スプリングシート121は、下限サブスプリング120の下端部と当接して荷重を受ける円盤状の部材である。また、このスプリングシート121には、外周面からつば状に張り出して形成されたフランジ部が設けられ、このフランジ部は、メインスプリング110の下端部と当接するスプリングシートとして機能する。
バネキャッチャ122は、スプリングシート121の上面部に固定され、下限サブスプリング120の下端部を保持して脱落を防止するものである。バネキャッチャ122は、ほぼ円盤状に形成され、その外周面が密着巻きされた下限サブスプリング120の下端部と螺合するようになっている。
【0020】
上限サブスプリング130は、舟体10が舟支え20に対する可動ストロークの上端近傍にあるときに、舟体10が舟支え20に対して下降する方向の反発力を生じる圧縮コイルバネである。上限サブスプリング130は、舟体10の前後方向における中央部に設けられ、その軸心がほぼ鉛直方向に沿って配置されている。上限サブスプリング130の下端部は、舟体10の下枠部12の下端部12aの上面に固定されている。また、上限サブスプリング130の上端部は、舟支え20の下面と対向して配置されている。
【0021】
図4は、上限サブスプリング130周辺における分解図である。
上限サブスプリング130は、バネキャッチャ131、キャップ132を備え、さらに、バネキャッチャ131の上側には、上限ストッパ150が設けられている。
バネキャッチャ131は、舟体10の下枠部12の上面部に固定され、上限サブスプリング130の下端部を保持して脱落を防止するものである。バネキャッチャ131は、ほぼ円盤状に形成され、その外周面が密着巻きされた上限サブスプリング130の下端部と螺合するようになっている。
キャップ132は、上限サブスプリング130の上端部に装着され、舟体10の上昇時に舟支え20の下面部と当接する部材である。キャップ132は、円盤状の本体部の上面部に舟支え20と当接する突起が形成されている。キャップ132の外周面は、密着巻きされた上限サブスプリング130の上端部と螺合するようになっている。
【0022】
下限ストッパ140は、舟体10が舟支え20に対して下降する側の可動ストローク限界を規制する。
下限ストッパ140は、上側ストッパ141、下側ストッパ142からなる。
上側ストッパ140は、中心軸がほぼ鉛直に配置されかつ下側が窄まった円錐台状に形成されている。上側ストッパ141は、メインスプリング110の内径側に配置され、上端部が舟体10のフランジ部に固定されている。
下側ストッパ142は、中心軸がほぼ鉛直に配置されかつ上側が窄まった円錐台状に形成されている。下側ストッパ142は、下限サブスプリング120の内径側に配置され、下端部がバネキャッチャ122の上面部に固定されている。下側ストッパ142の上端部は、無負荷状態における下限サブスプリング120の上端部より下側に配置されている。
そして、舟体10の下降側可動ストローク限界においては、上側ストッパ141の下端部と下側ストッパ142の上端部とが当接する。
【0023】
上限ストッパ150は、舟体10が舟支え20に対して上昇する側の可動ストローク限界を規制する。
上限ストッパ150は、中心軸がほぼ鉛直に配置されかつ上側が窄まった円錐台状に形成されている。上限ストッパ150は、上限サブスプリング130の内径側に配置され、下端部がバネキャッチャ131の上面部に固定されている。上限ストッパ150の上端部は、上限サブスプリング130が無負荷状態であるときに、キャップ132の下面部と間隔を隔てて対向するように配置されている。
【0024】
そして、舟体10の上昇側可動ストローク限界においては、キャップ132の上端部が舟支え20と当接し、キャップ132の下面部が上限ストッパ150の上端部と当接して、キャップ132が舟支え20と上限ストッパ150とによって挟持された状態となる。
【0025】
次に、本実施の形態のパンタグラフ1の動作について説明する。
先ず、舟体10が舟支え20に対する可動ストロークの中間領域にあるときは、図2に示すように、下限サブスプリング120はその上端部が下限ストッパ140の上側ストッパ141の下面部から離間した無負荷状態となっている。一方、上限サブスプリング130もまたキャップ132の上端部が舟支え120から離間した無負荷状態となっている。このとき、弾性支持機構100全体としてのバネ定数は、メインスプリング110のバネ定数そのものとなる。(図5に実線で示す荷重−変位線図参照)
【0026】
中間領域にある舟体10が下向きの入力を受けると、舟体10はメインスプリング110を圧縮しながら舟支え20に対して下降する。舟体10の下降が進むと、下限サブスプリング120の上端部は下限ストッパ140の上側ストッパ141の下面部と当接する。ここからさらに舟体10が下降する場合には、メインスプリング110とともに下限サブスプリング120が圧縮されることになる。このとき、弾性支持機構100全体としてのバネ定数は、メインスプリング110のバネ定数に下限サブスプリング120のバネ定数を加えたものとなる。
この状態からさらに舟体10が下降し、下限ストッパ140の上側ストッパ141の下端部と、下側ストッパ142の上端部とが当接すると、舟体10のそれ以上の下降は規制される。
【0027】
一方、中間領域にある舟体10が上向きの入力を受けると、舟体10はメインスプリング110を伸張させながら舟支え20に対して上昇する。舟体10の上昇が進むと、キャップ132の上端部は舟支え20の下面部と当接する。ここからさらに舟体10が上昇する場合には、メインスプリング110が伸張するとともに上限サブスプリング130が圧縮されることになる。このとき、弾性支持機構100全体としてのバネ定数は、メインスプリング110のバネ定数に上限サブスプリング130のバネ定数を加えたものとなる。
この状態からさらに舟体10が上昇し、上限ストッパ150の上端部がキャップ132の下面部と当接すると、舟体10のそれ以上の上昇は規制される。
なお、本実施の形態において、各サブスプリングが機能している状態においては、中間領域に対して弾性支持機構100のバネ定数が数倍(例えば3倍)程度となるように各スプリングのバネ定数が設定されている。
【0028】
次に、上述した本実施の形態の効果を、比較例と対比しつつ以下説明する。
比較例のパンタグラフは、本実施の形態におけるパンタグラフの弾性支持機構100から、下限サブスプリング120及び上限サブスプリング130を廃したものである。
図5は、本実施の形態及び比較例のパンタグラフにおける舟体及び舟支えの間に作用する静的な荷重と舟支えに対する舟体の変位との相関を示すグラフである。
図5において、横軸は舟体の変位を示し、右側が上昇側、左側が下降側となっている。また、縦軸はストローク中立位置の荷重を0とした時の荷重を示し、上側が上向き荷重、下側が下向き荷重となっている。(後述する図6においても同様)
【0029】
比較例においては、舟体10の可動ストロークのほぼ全域にわたってバネ定数が一定であることから、比較的小さい荷重であっても舟体10が可動ストローク限界まで変位してストッパ当たりが生じやすい。このようなストッパ当たりが生じると、舟体10のトロリ線Tへの追随特性が低下し、すり板体11がトロリ線Tから離れる離線が生じやすくなる。離線が生じると、アークが発生してトロリ線T及びすり板体11の損耗の原因となる。
【0030】
これに対し、本実施の形態においては、舟体10が可動ストロークの下限近傍又は上限近傍まで変位すると、下限サブスプリング120又は上限サブスプリング130がそれぞれ機能して、弾性支持機構100全体としてのバネ定数が増大する。これによって、舟体10のさらなる変位に必要な荷重が増大して変位の増加が抑制され、ストッパ当たりが低減される。
【0031】
以上説明した本実施の形態によれば、弾性支持機構100のバネ定数が舟体10の可動ストロークの端部近傍で中間領域に対して増大する非線形性を有することから、舟体10が可動ストロークの限界点に達してストッパ当たりが生じるのに要する荷重が増大する。これによって、ストッパ当たりが低減され、舟体10に大荷重が作用した場合におけるパンタグラフの追随特性を向上し、すり板体11のトロリ線Tからの離線を低減することができる。
また、弾性支持機構100は常時機能するメインスプリング110及び可動ストロークの端部近傍でのみ機能する各サブスプリング120,130を有する構成としたことによって、中間領域でのバネ定数(追随特性)に影響を及ぼすことなくストッパ当たりの発生を効果的に低減して、大変位時における追随特性を改善することができる。
さらに、メイン、サブ各スプリングのバネ定数の設定により、上述した非線形特性のチューニングが容易である。
また、下限サブスプリング120をメインスプリング110の内径側にほぼ同心に配置したことによって、弾性支持機構100の構成をコンパクトにすることができる。
【0032】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
(1)パンタグラフの構造や各部材の形状、構成、配置等は上述した実施の形態に限定されず、適宜変更することができる。例えば、実施の形態では下限サブスプリングを支持体側(バネ下側)に設け、上限サブスプリングを集電摺動部側(バネ上側)に設けているが、これを反対側に設けてもよい。
(2)上述した実施の形態では、副弾性体としてコイルスプリングを用いているが、これに限らず、他の弾性体を用いてもよい。例えば、副弾性体として、ゴム等の弾性材料を舟体又は舟支えの一部に巻きつけても良い。また、弾性材料を例えばブロック状等所望の形状に形成し、舟体又は舟支えに装着してもよい。
(3)弾性支持機構のバネ定数を変化させる手法は、実施の形態のように副弾性体を用いたものに限らず、例えば非線形バネを用いてもよい。図6は、弾性支持機構として非線形バネを用いた場合における舟体の変位と荷重との相関を示すグラフである。このように、バネ定数が連続的に変化するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係るパンタグラフを模式的に示す機構図である。
【図2】図1のパンタグラフの弾性支持機構周辺の模式的側面図である。
【図3】図1のパンタグラフの下限サブスプリング周辺部の分解図である。
【図4】図1のパンタグラフの上限サブスプリング周辺部の分解図である。
【図5】本実施の形態及び比較例のパンタグラフにおける舟体への荷重と舟体の変位との相関を示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施の形態のパンタグラフにおける舟体への荷重と舟体の変位との相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 パンタグラフ 2 車体屋根
10 舟体 11 すり板体
12 下枠部 20 舟支え
30 昇降機構 100 弾性支持機構
110 メインスプリング 120 下限サブスプリング
130 上限サブスプリング 140 下限ストッパ
141 上側ストッパ 142 下側ストッパ
150 上限ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線に接触する集電摺動部と、
前記集電摺動部を所定の可動ストローク範囲内で上下方向に相対変位可能に支持する支持体と、
前記支持体を車体に対し上下方向に変位可能に支持する昇降支持機構と、
前記集電摺動部と前記支持体との間に設けられ、該集電摺動部の該支持体に対する変位に応じた復元力を発生する弾性体を有する弾性支持機構と、
を備えるパンタグラフであって、
前記弾性支持機構は、前記可動ストロークの上端部、下端部の少なくとも一方の端部近傍において、該可動ストロークの中間領域に対してバネ定数が増大することを特徴とするパンタグラフ。
【請求項2】
前記弾性支持機構は、前記可動ストロークのほぼ全域にわたって前記集電摺動部と前記支持体との間で復元力を発生する主弾性体、及び、前記可動ストロークの中間領域においては前記集電摺動部と前記支持体との少なくとも一方から離間した状態とされ、該可動ストロークの端部近傍においては前記集電摺動部と前記支持体との間で復元力を発生する副弾性体を有することを特徴とする請求項1に記載のパンタグラフ。
【請求項3】
前記主弾性体及び前記副弾性体は、径が異なりほぼ同心に配置されたコイルバネであることを特徴とする請求項2に記載のパンタグラフ。
【請求項4】
前記副弾性体は、前記集電摺動部及び前記支持体の少なくとも一方側に固定され、前記可動ストロークの端部近傍において、該集電摺動部及び該支持体の他方側と当接する弾性部材であることを特徴とする請求項2に記載のパンタグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−55674(P2009−55674A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218067(P2007−218067)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】