説明

パン製造装置

【課題】少量、多品種のパンを効率的に焼き上げるパン製造装置を提供する。
【解決手段】パン製造装置は、パン生地の保冷、解凍、発酵の一連の処理工程を連続して行うための一つ以上の調理室を有し、該調理室のそれぞれを独立して制御可能な加熱装置、加湿装置、及び冷却装置を有する複数の調理装置と、前記発酵が完了したパン生地を焼き上げる焼成室を有する焼成装置と、前記調理室又は焼成室内に設けられたセンサの検知信号とパンの種類及び量に応じて予め登録された制御情報及び計算式とに基づき前記それぞれの調理室内のパン生地の保冷、解凍、発酵工程及び前記焼成室内の焼成工程における温度、湿度、及び時間を制御すると共に、前記複数の調理室及び焼成室における処理工程の時間的重複を生じないように一連の処理手順及び処理時間を統括的に制御する制御装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン製造装置に関するもので、詳しくは、冷凍パン生地の保冷、解凍、発酵、及び焼成機能を有するパン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、小麦粉に水やドライイースト等を混ぜた原材料を捏ねて(ミキシング)一次発酵させた後に成型し、さらに二次発酵させて焼き上げる、という多数の工程を経なければならず、その工程中の温度とその時間管理が難しいため、品質が一定し且つ美味しいパンを作るためには熟練した技術が必要であった。そこで、予め一次発酵後に成型して冷凍状態にして保存されたパン生地を用意し、この冷凍パン生地を保冷、解凍、二次発酵(ホイロ)を自動的に行う装置(ドゥコンディショナー)と二次発酵後のパン生地を焼成する焼成機(オーブン)を用いてパンを焼き上げることが現在は一般的になっている。
【0003】
このような装置を用いて前夜から保冷状態にしておいたパン生地をセットし、予め設定しておいた焼き上げ時刻にあわせて自動運転させておくことで、予めプログラミングされたプロセス制御に基づいて次の日の朝にはパンを焼く準備ができている、ということができるようになった。このような装置としては、例えば、冷凍パン生地用パン焼成機が特許文献1として開示されている。
【特許文献1】特開2001−238436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなドゥコンディショナーやオーブン等の装置は、業務用としてパン屋等でパンを大量に作る装置として多数の品種が市販されているが、専門のパン屋のみならず、レストラン、カフェ、ファーストフード店、ホテル、旅館等、少量多品種のパンを提供したいという需要には、十分に応えることができていないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、複数からなる保冷、解凍、発酵装置のそれぞれと焼成装置の処理手順と処理時間を統括的に制御することで、少量、多品種のパンを効率的に焼き上げるパン製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明によるパン製造装置は、パン生地の保冷、解凍、発酵の一連の処理工程を連続して行うための一つ以上の調理室を有し、該調理室のそれぞれを独立して制御可能な加熱装置、加湿装置、及び冷却装置を有する複数の調理装置と、前記発酵が完了したパン生地を焼き上げる焼成室を有する焼成装置と、前記調理室又は焼成室内に設けられたセンサの検知信号とパンの種類及び量に応じて予め登録された制御情報及び計算式とに基づき前記それぞれの調理室内のパン生地の保冷、解凍、発酵工程及び前記焼成室内の焼成工程における温度、湿度、及び時間を制御すると共に、前記複数の調理室及び焼成室における処理工程の時間的重複を生じないように一連の処理手順及び処理時間を統括的に制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
また、前記制御装置は、前記加熱装置、加湿装置、冷却装置、及び焼成装置のうちのいずれか一つ以上の当該装置の加熱器又は冷却器の能力を制御して装置全体に供給される電源の単位時間当たりの電力消費量を所定値内に制限する電力制御手段を有することを特徴とする。
ここで、前記調理装置は、前記調理室が2段に重ねられて一つの組をなし、各調理装置がさらに複数段重ねられて構成されることを特徴とする。
さらに、前記各調理装置は、2段に重ねられて一つの組をなす前記調理室用の前記冷却装置としてそれぞれ一つのコンプレッサーを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のパン製造装置によれば、パン生地の解凍、発酵、及び焼成が、パンや菓子類の大きさ、重量、材料等のその種類と数量に応じて自動的に処理されるので、従来、パン生地が中心まで解凍されているか、発酵状態はどうか、焼成の際の焼き色や焼きむらはどうか等に対して、その温度設定や時間の見極め等の熟練の技術が要求されることなく、誰でも均一にパンを焼き上げることができる。
また、冷凍パン生地の保温、解凍、及び発酵のためのそれぞれ独立した調理室を複数備えているので、多品種、少量に対応する種々のパンを一度に作ることができ、料理に合わせたパンを提供することが可能になる。
また、複数の調理室のそれぞれの処理工程を統括的に制御することで、種類の異なるパンを順番に焼けるようにしているので、多品種、少量のパン製造を効率的に行うことができ、見込み仕入れや見込み仕込み等を必要とせずにいつでも焼きたてのパンを提供することが可能になる。
【0008】
さらに、複数の調理装置及び焼成装置全体に供給される電源の単位時間当たりの電力消費量が所定の範囲に収まるように各装置の処理能力を制御しているので、一般の100Vの商用電源を使用することができ、電源工事を必要とせずにどこにでも簡単に設置することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明によるパン製造査装置を実施するための最良の形態の具体例を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施例によるパン製造装置の正面図である。
図1において、1はパン製造装置であり、上部に焼成室21を有する焼成装置(オーブン)20を備え、その下部には3段構成の調理装置10(10a、10b、10c)を備える。各調理装置10のそれぞれは2段の調理室11(11a1、11a2、11b1、11b2、11c1、11c2)で構成され、合計6段の調理室11(11a1、11a2、11b1、11b2、11c1、11c2)で構成されており、少量多品種のパンを提供したいという要求に応えることができる。
【0010】
また、断熱構造を有する焼成装置20の右側には制御装置30が納められており、予めプログラミングされた制御プラグラムや計算式に従いパンの種類に応じて設定された各調理室11及び焼成室21の温度と湿度を自動制御し、中心部まで均一に解凍され発酵された焼きむらのないパンを安定して焼き上げることができる。このとき、制御装置30は、各調理室11におけるパンの発酵の完了と、焼成室21への投入が潤滑につながるように装置全体の処理工程を統括的に制御し、各調理室11で発酵が完了したパン生地を順番に焼成できるように処理工程の時間管理を行う。
【0011】
31は、パン製造機1にセットされるパン生地の種類、数量やその際の処理条件、仕上り時刻等を設定する操作パネルであり、操作パネル31で設定された処理条件に基づき、調理室11や焼成室21を制御する各種パラメータが設定される。12(12a、12b、12c)は各調理室11の各種設定値や現在の温度、湿度、経過時間、仕上がり待ち時間等をモニタする表示パネルとその操作つまみを備えた表示部である。
【0012】
各調理室11は手前に倒れる開閉扉を備え、図示していないが、各調理室11内には、パン生地を載せる天板とその下部に加熱器とその上部に冷却器を備え、加湿及び攪拌用と熱排気用のファンを備える。また調理室11内には温度及び湿度センサを備え、センサはその右側に納められた中継基板を介して制御装置30に接続され、その検知信号が制御装置30によってモニタされる。
【0013】
また、調理室11の右側には2つの調理室11内の冷却器を独立して使用するための電磁弁や冷却のためのコンプレッサー等を含む冷却装置、調理室11内の加熱器と接続された加熱装置、及び調理室11内の湿度をコントロールするための加湿装置等が収められており、これらの各装置は制御装置30と接続されて間歇的な制御或いは連続的な可変量制御により制御される。なお、本実施例では1つの調理装置10が担う調理室11を2段構成の2つとしたが、さらに横に広げた2段×2構成の4つとしてもよい。その際4つ全て独立に制御できるようにしてもよいし、2つ1組で制御されるようにしてもよい。
【0014】
焼成装置20は、断熱材で覆われた焼成室21内部にヒーターと温度センサを備え、制御装置30と接続されてセンサの検知信号と制御情報に基づきヒーターのオン・オフによるパルス制御或いは連続的な加熱量制御により、パン焼成における温度勾配や焼成時間等が制御される。手前に倒れる焼成室の開閉扉には閉めた状態でパンの焼成具合を確認するための覗き窓が設けられている。
【0015】
図2は、図1に示すパン製造装置の構成図である。
図1及び図2に示すパン製造装置1は、それぞれ独立して制御される2つの調理室を一組とした3つの調理装置10a、10b、10cと、1つの焼成装置20と、これらの各装置を制御する制御装置30で構成される。
【0016】
各調理装置10a、10b、10cのそれぞれは、冷凍パン生地を冷凍状態で保存(保冷)するための冷却装置13、冷凍パン生地を解凍し、発酵させるための加熱装置14とその時の湿度を設定するための加湿装置15を備え、パン生地の保冷、解凍、及び発酵の各状態をモニタして制御するための温度や湿度等を検知するセンサ16、2つの調理室11内の冷却器や加熱器、及び加湿状態等を電磁弁や電磁リレー等で切替える切替器17、急速な温度や湿度制御の際に用いられる給排気又は攪拌の役割をなすファン18等を備える。
【0017】
焼成装置20は、断熱材に覆われた焼成室21内に焼成のためのヒーター22と焼成状態をモニタして制御するための温度を検知するセンサ23を備える。
【0018】
制御装置30は、調理装置10及び焼成装置20における処理工程を個々に又統括的に制御するものであり、個々の各調理室11及び焼成室21内にセットしたパン生地の解凍むら、発酵むら、焼きむらを生じさせずに均一のパンが焼き上がるように、大きさ、形状、重さ、材料等が異なるパン生地の種類やその数量に応じて、保冷、解凍、発酵、及び焼成の各処理工程における温度、湿度、及びその勾配等の処理手順と処理時間を制御すると共に、各調理室11にセットしたパン生地の発酵が完了した後、直ちに焼成室に投入できるように、それぞれの調理室11の稼動状態や稼動順序に合わせて処理手順と処理時間を統括的に制御する。
【0019】
制御装置30は、制御プログラムに従い調理装置10や焼成装置20の制御を司るCPU(中央演算装置)32、制御プログラム、パン生地の種類や数量、その処理手順や処理時間、計算式等の参照テーブル、レジスタ、一次記憶等の、記憶領域であるROMやRAMからなるメモリ33、処理工程における処理時間等の時間を設定するためのタイマー34、調理室11や焼成室21にセットされるパン生地の種類や数量、仕上がり具合、仕上り時刻等を設定し表示するための操作パネル31や表示部12を含む操作部35、調理装置10や焼成装置20の各回路や機器と接続し制御信号の授受を行う入出力部、及びPC(パーソナルコンピュータ)やインターネットを介した遠隔地のコンピュータと接続し、パン製造装置1の各種のパラメータや各処理工程のモニタ、未登録のパン生地や他の料理の制御パラメータのダウンロード等を行うための通信制御部37等で構成される。制御パラメータのロードはメモリカード等のインタフェースを設けてこれを利用する形態も考えられる。
【0020】
また、図示していないが、制御装置30は、電力制御手段を備えており、調理装置10の冷却装置、加熱装置、加湿装置及び焼成装置20の、各回路や機器の電源の駆動時間や電圧制御等によってパン製造機1全体の電源の単位時間当たりの総合消費電力量を、100Vで1500W/hを超えないように制御する。これにより一般商用電源の単相100Vを定格電力の範囲内で使用することができ、大規模な設備工事を必要とせずに、どこでも簡単に設置することができる。
【0021】
次に、図3を参照して冷凍パン生地の保冷、解凍、発酵、及び焼成の処理工程について説明する。
図3は、図1に示すパン製造装置を用いてパンを製造する際の一連の処理を説明するフロー図である。
【0022】
各調理室11のそれぞれにセットされた冷凍パン生地は、それぞれの調理室11(a〜n:本実施形態では6部屋の調理室11a1〜11c2を備える)で、保冷、解凍、及び発酵の処理工程を、制御装置30によってパン生地の種類や数量、仕上がり状態や仕上り時刻等に応じて設定されたパラメータテーブルや計算式、及びセンサの検知信号に基づき制御され、パン生地の中央部まで均一にその処理が行われるように温度、湿度、及びその経過時間が制御される(ステップS101〜S103、S201〜203、S301〜S303)。
【0023】
発酵が完了したパン生地は、焼成室21にセットされ、調理室11と同様にパン生地の種類や数量、仕上がり状態等に応じて設定されたパラメータテーブルや計算式、及びセンサの検知信号に基づき制御され、パンの中央部まで均一に焼成が行われるように温度とその経過時間が制御されて焼き上げられる(ステップS104、S204、S304)。
【0024】
最後に、図4を参照して図3に示したパン製造の一連の処理を時系列的に説明する。
図4に示すように、本実施形態のパン製造装置1は、調理室11を6部屋(図4では調理室11a〜11n)備えており、6部屋それぞれに異なる種類の冷凍パン生地をセットすることができ、セットされたそれぞれのパン生地はそれぞれの調理室11でパン生地に応じて最適に設定された処理条件に基づき、保冷、解凍、及び発酵処理が行われる。勿論、種類や数量が同じパン生地を6個の調理室にセットすることも可能であり、その場合もパン生地に応じた処理が適正に行われる。
【0025】
前夜等に、予め各調理室11(a〜n)にほぼ同時刻にパン生地(a〜n)をセットしておくと、翌朝等の設定された仕上り時刻に合わせて、発酵が完了したパン生地が順番に焼成室21に投入できるように、全ての調理室11と焼成室21での処理の順番や時間が制御装置30によって統括的に制御され、各調理室11では解凍及び発酵が開始される時刻になるまで保冷状態が維持される。図4は、パン(a)、パン(b)〜パン(n)が焼成室21で順番に焼き上げることができるように、調理室11(a)、調理室11(b)、〜調理室11(n)での発酵処理が順番に完了する様子を示している。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上で説明した本発明のパン製造装置は、専門のパン屋だけでなく、レストラン、カフェ、ファーストフード店、ホテル、旅館、スーパーマーケット等の商業施設内のフードコーナー等、大規模な設備工事を必要とせずに様々な施設内に手軽に設置でき、料理に合わせて焼きたての食パン、ピザ、フォッカチオ、ホットドッグやハンバーガー用のバンズ等、様々な分野における様々な種類のパン類を提供することが可能になる。また。通信回線経由でパソコンや或いはインターネット経由で遠隔地から、さらにはメモリカード等を介してプログラミングを変更することが可能であり、パンの焼成以外にも、菓子類や料理に使用されるあらゆる食材の調理に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例によるパン製造装置の正面図である。
【図2】図1に示すパン製造装置の構成図である。
【図3】パン製造の一連の処理を説明するフロー図である。
【図4】パン製造の一連の処理を時系列的に説明する図面である。
【符号の説明】
【0028】
1 パン製造装置
10 調理装置
11 調理室
12 表示部
13 冷却装置
14 加熱装置
15 加湿装置
16、23 センサ
17 切替器
18 ファン
20 焼成装置
21 焼成室
22 ヒーター
30 制御装置
31 操作パネル
32 CPU
33 メモリ
34 タイマー
35 操作部
36 入出力部
37 通信制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地の保冷、解凍、発酵の一連の処理工程を連続して行うための一つ以上の調理室を有し、該調理室のそれぞれを独立して制御可能な加熱装置、加湿装置、及び冷却装置を有する複数の調理装置と、
前記発酵が完了したパン生地を焼き上げる焼成室を有する焼成装置と、
前記調理室又は焼成室内に設けられたセンサの検知信号とパンの種類及び量に応じて予め登録された制御情報及び計算式とに基づき前記それぞれの調理室内のパン生地の保冷、解凍、発酵工程及び前記焼成室内の焼成工程における温度、湿度、及び時間を制御すると共に、前記複数の調理室及び焼成室における処理工程の時間的重複を生じないように一連の処理手順及び処理時間を統括的に制御する制御装置と、を備えることを特徴とするパン製造装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記加熱装置、加湿装置、冷却装置、及び焼成装置のうちのいずれか一つ以上の当該装置の加熱器又は冷却器の能力を制御して装置全体に供給される電源の単位時間当たりの電力消費量を所定値内に制限する電力制御手段を有することを特徴とする請求項1に記載のパン製造装置。
【請求項3】
前記調理装置は、前記調理室が2段に重ねられて一つの組をなし、各調理装置がさらに複数段重ねられて構成されることを特徴とする請求項1に記載のパン製造装置。
【請求項4】
前記各調理装置は、2段に重ねられて一つの組をなす前記調理室用の前記冷却装置としてそれぞれ一つのコンプレッサーを有することを特徴とする請求項3に記載のパン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−199935(P2008−199935A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38445(P2007−38445)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(303063676)エキスパートウェーブ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】