説明

パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム

【課題】本発明は、押出成形性と低燃料透過性を両立し、パーオキサイド架橋できる可能なフッ素ゴム、該フッ素ゴムを含む架橋用組成物、および該組成物からなる成形品を提供する。
【解決手段】分子量分布において少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量側のピークの数平均分子量が3000〜60000であり、該ピークの分子量分布が1.0〜2.0であり、かつフッ素ゴム全体の100℃におけるムーニー粘度が30〜80であるパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム、該フッ素ゴムを含む架橋用組成物、および該架橋用組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料ホースやチューブなどのいわゆる燃料周辺部品には、従来はゴムを用いることが主流であったが、米国のカリフォルニア州を中心とした蒸散ガス規制(LEVII)に対応するために、より耐燃料透過性を示す材料、たとえば、ゴム材料としてはアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)からフッ素ゴムへ移行してきた。
【0003】
このようなホースやチューブに用いられる押出成形用フッ素ゴムとしては、従来、ポリオール架橋系が中心であり、押出成形性を向上させたフッ素ゴムが知られている(たとえば、特許文献1、2参照)。この方法では、分子量分布が多ピーク型である含フッ素エラストマーを用いて押出加工性を改善しているが、ポリオール架橋では、分子鎖から脱フッ化水素反応して架橋点を導入するという架橋反応の特性上、低分子量成分が充分に架橋されないため、耐燃料透過性が充分でないという問題が生じてきた。とくに、近年では、前記蒸散ガス規制の他に、さらにPZEV(Partial Zero Emission Vehicle)に対応する必要があり、自動車の燃料ホースやチューブなどのいわゆる燃料周辺部品には、さらに厳しい低燃料透過性が要求されている。
【0004】
一方、末端にキュアサイトを有するパーオキサイド架橋系フッ素ゴムは、金属水酸化物、金属酸化物を含まないことから耐薬品性に優れることが特徴であるが、最近の自動車における燃料供給系の高温化などの影響がある燃料ホース材料等に使用されている。しかし、パーオキサイド架橋系フッ素ゴムは、押出性が充分でないという問題があった。
【0005】
また、パーオキサイド架橋系フッ素ゴムとして、ビスオレフィンに注目し、特定の構造を有するビスオレフィン単量体からなる構造を含むフルオロエラストマーを3成分ブレンドした過酸化物キュア可能なフルオロエラストマー組成物が知られている(たとえば、特許文献3参照)。しかし、該組成物も、押出性が充分でないという問題があった。
【0006】
したがって、近年の厳しい環境規制に対応した、押出成形性と低燃料透過性が両立した押出成形用フッ素ゴムはないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−279548号公報
【特許文献2】特開平4−258614号公報
【特許文献3】特開2000−34381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、押出成形性と低燃料透過性を両立し、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム、該フッ素ゴムを含む架橋用組成物、および該組成物からなる成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、分子量分布において少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量側のピークの数平均分子量が3000〜60000であり、該ピークの分子量分布が1.0〜2.0であり、かつフッ素ゴム全体の100℃におけるムーニー粘度が30〜80であるパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムに関する。
【0010】
フッ素ゴムが、架橋反応可能な架橋部位を有するものであり、該架橋部位がヨウ素または臭素であることが好ましい。
【0011】
フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライドと他の少なくとも1種のフッ素含有モノマーからなるフッ素ゴムであることが好ましい。
【0012】
フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、およびビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系フッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、フッ素ゴム、架橋剤および架橋助剤からなる架橋用組成物に関する。
【0014】
さらに、本発明は、前記架橋用組成物を架橋して得られる成形品に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ素ゴムは、分子量分布において少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量側のピークが特定の数平均分子量、分子量分布を有することにより、近年の厳しい環境規制に対応した、押出成形性と低燃料透過性が両立したフッ素ゴムからなる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、分子量分布において少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量側のピークの数平均分子量が3000〜60000であり、該ピークの分子量分布が1.0〜2.0であり、かつフッ素ゴム全体の100℃におけるムーニー粘度が30〜80であるパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムに関する。
【0017】
本発明のパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムとしては、非パーフルオロフッ素ゴム(a)およびパーフルオロフッ素ゴム(b)があげられる。なお、パーフルオロフッ素ゴムとは、その構成単位のうち、90モル%以上がパーフルオロモノマーからなるものをいう。
【0018】
非パーフルオロフッ素ゴム(a)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0019】
ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴムとしては、下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
【0020】
−(M)−(M)−(N)− (1)
(式中、構造単位Mはビニリデンフルオライド(m)由来の構造単位であり、構造単位Mは含フッ素エチレン性単量体(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0021】
一般式(1)で示されるビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴムの中でも、構造単位Mを30〜85モル%、構造単位Mを55〜15モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜80モル%、構造単位Mを50〜20モル%である。
構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜20モル%であることが好ましい。
【0022】
含フッ素エチレン性単量体(m)としては、1種または2種以上の単量体が利用でき、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。
【0023】
単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであれば、いかなるものでもよいが、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどがあげられる。
【0024】
また、単量体(n)としては、架橋部位を与える単量体が好ましい。
【0025】
このような架橋部位を与える単量体としては、一般式(2):
CY=CY−RCHR (2)
(式中、Yは、水素原子、フッ素原子または−CH、Rは、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、Rは、水素原子または−CH、Xは、ヨウ素原子または臭素原子)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(3):
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X (3)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、Xは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子、ヨウ素原子)で表される単量体、一般式(4):
CH=CH(CFI (4)
(式中、pは1〜10の整数)で表される単量体などがあげられ、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−217936号公報記載のCF=CFOCFCFCHIなどのヨウ素含有単量体、特開昭61−55138号公報に記載されている4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンなどのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0026】
このようなビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴムとして、具体的には、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴムなどが好ましくあげられる。
【0027】
テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴムとしては、下記一般式(5)で表されるものが好ましい。
【0028】
−(M)−(M)−(N)− (5)
(式中、構造単位Mはテトラフルオロエチレン(m)由来の構造単位であり、構造単位Mはプロピレン(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0029】
一般式(5)で示されるテトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴムの中でも、構造単位Mを40〜70モル%、構造単位Mを60〜30モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜60モル%、構造単位Mを50〜40モル%含むものである。構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜40モル%であることが好ましい。
【0030】
単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであればいかなるものでもよいが、架橋部位を与える単量体であることが好ましい。たとえば、ビニリデンフルオライド、エチレンなどがあげられる。
【0031】
パーフルオロフッ素ゴム(b)としては、下記一般式(6)で表されるものが好ましい。
【0032】
−(M)−(M)−(N)− (6)
(式中、構造単位Mはテトラフルオロエチレン(m)由来の構造単位であり、構造単位Mはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)やパーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)(m)由来の構造単位であり、構造単位Nは単量体(m)および単量体(m)と共重合可能な単量体(n)由来の繰り返し単位である)
【0033】
一般式(6)で示されるパーフルオロフッ素ゴム(b)の中でも、構造単位Mを50〜90モル%、構造単位Mを10〜50モル%含むものが好ましく、より好ましくは構造単位Mを50〜80モル%、構造単位Mを20〜50モル%含むものである。構造単位Nは、構造単位Mと構造単位Mの合計量に対して、0〜5モル%であることが好ましく、0〜2モル%であることがより好ましい。これらの組成の範囲を外れると、ゴム弾性体としての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0034】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(m)としては、たとえばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0035】
パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)(m)としては、たとえば特開昭61−223007号公報記載の単量体を用いることができる。
【0036】
また、単量体(n)としては、単量体(m)および単量体(m)と共重合可能なものであればいかなるものでもよいが、架橋部位を与える単量体が好ましい。
【0037】
このような架橋部位を与える単量体としては、たとえばビニリデンフルオライド、一般式(2)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(3)で表される単量体、一般式(4)で表される単量体などがあげられ、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−217936号公報記載のCF=CFOCFCFCHIなどのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0038】
このヨウ素原子、臭素原子、ビニル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基が、架橋点として機能することができる。
【0039】
かかるパーフルオロフッ素ゴム(b)の具体例としては、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報などに記載されているフッ素ゴムなどがあげられる。
【0040】
これらのなかでも、フッ素ゴムとしては、VdFと他の少なくとも1種のフッ素含有モノマーからなるフッ素ゴムであることが好ましく、VdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム、およびVdF/TFE/PAVE系フッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましい。また、本発明のフッ素ゴムには、単量体としてビスオレフィンを含まないことが好ましく、下記一般式(7)で表されるビスオレフィンを含まないことがより好ましい。
【0041】
【化1】

(式中、R、R、R、R、R、Rは、互いに同じであっても異なっていてもよく、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれ、Zは線状もしくは分岐状の、酸素原子を含んでいてもよい、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された炭素数1〜18のアルキレン基もしくはシクロアルキレン基、またはフルオロポリオキシアルキレン基もしくはパーフルオロポリオキシアルキレン基である)
【0042】
以上説明した非パーフルオロフッ素ゴム(a)およびパーフルオロフッ素ゴム(b)は、常法により製造することができるが、得られる重合体は分子量分布が狭く、分子量の制御が容易である点、末端にヨウ素原子を導入することができる点から、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法が好ましい。たとえば、実質的に無酸素下で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、前記エチレン性単量体と、要すれば架橋部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、水媒体中での乳化重合、あるいは溶液重合を行なう方法があげられる。使用するヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式(8):
Br (8)
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で示される化合物などをあげることができる。このようなヨウ素化合物を用いて得られるフッ素ゴムの末端には、ヨウ素原子または臭素原子が導入される。
【0043】
一般式(8)で表される化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨード置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合せて使用することもできる。
【0044】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタンなどが好ましい。
【0045】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来からフッ素ゴムの重合に使用されているものと同じものであってよい。これらの開始剤には有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。
APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0046】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.005〜2重量%が好ましく、とくに0.01〜1.5重量%が好ましい。
【0047】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series.),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有する場合があるので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0048】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜7MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.8MPa以上であることが好ましい。
【0049】
前記一般式(8)で表される化合物の添加量としては、フッ素ゴムの分子量を調整するために適宜変化させれば良いが、得られるフッ素ゴムの全重量の0.0001〜15重量%であればよい。
【0050】
本発明のフッ素ゴムは、分子量分布において少なくとも2つのピークを有するものであり、2〜3つのピークを有することが好ましく、2つのピークを有することがより好ましい。本発明のフッ素ゴムは、分子量分布において2つ以上のピークを有することにより、高分子量成分に基づく優れた燃料透過性が付与されるとともに、低分子量成分に基づく良好な押出加工性が付与されるものである。したがって、ピークが1つであるフッ素ゴムでは、燃料透過性と押出加工性の両立が困難である傾向がある。
【0051】
また、最も低分子量側のピークの数平均分子量(Mn)は、3000〜60000であり、12000〜60000であることが好ましく、15000〜55000であることがより好ましい。数平均分子量が3000未満であると、得られる硬化物の架橋密度が上がりすぎて硬くて伸びが小さくなる傾向があり、60000をこえると押出成形性を極端に損なう傾向がある。
【0052】
また、最も高分子量側のピークの数平均分子量は、80000〜500000であることが好ましく、100000〜400000であることがより好ましい。数平均分子量が80000未満であると、押出加工性が低下する傾向があり、500000をこえても押出成形性が低下する傾向がある。数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(東ソー(株)製 HLC−8020、ポリスチレン標準)により求めた値である。
【0053】
また、最も低分子量側のピークの分子量分布(Mw/Mn)は、1.0〜2.0であり、1.0〜1.8であることが好ましい。分子量分布が1.0未満には、技術的にできず、2.0をこえると押出加工性が低下する傾向がある。
【0054】
また、最も高分子量側の分子量分布は、特に制限がなく、一般的には、1.5〜5.0であれば問題がない。
【0055】
最も低分子量側のピークに由来する共重合体は、フッ素ゴム全体中20〜80重量%含まれていることが好ましく、30〜70重量%含まれていることがより好ましい。最も低分子量側のピークの共重合体が20重量%未満であると押出加工性が低下する傾向があり、80重量%をこえると押出形状の維持が困難となる傾向がある。
【0056】
本発明のフッ素ゴム全体の100℃におけるムーニー粘度は、30〜80であり、40〜70であることが好ましい。ムーニー粘度が30未満であると、押出形状の維持が困難になる傾向があり、80をこえると押出成形時の圧力が高くなったり、押出速度が低下する傾向がある。
【0057】
また、本発明のフッ素ゴム全体の分子量分布は、3〜10であることが好ましく、3〜8であることがより好ましい。分子量分布が3未満であると、良好な押出性が発現しない傾向があり、10をこえるとゴム生地の収縮が大きくなり、押出成形時のダイスエルが大きくなる傾向がある。
【0058】
また、本発明のフッ素ゴムは架橋反応可能な架橋部位を有することが好ましく、パーオキサイド架橋可能である点から、該架橋部位がヨウ素または臭素であることがより好ましい。
【0059】
本発明の架橋用組成物は、前記パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム、架橋剤および架橋助剤からなるものである。
【0060】
架橋剤としては、通常パーオキサイド架橋に用いられている架橋剤であればとくに限定されるものではなく、一般には、熱や酸化還元系の存在で容易にパーオキシラジカルを発生するものがよい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、好ましいものは、ジアルキルタイプのものである。一般に、活性−O−O−の量、分解温度などを考慮して、パーオキサイドの種類ならびに使用量が選択される。
【0061】
架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェートなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0062】
架橋剤の配合量としては、フッ素ゴム100重量部に対して、0.05〜10重量部であることが好ましく、1.0〜5重量部であることがより好ましい。架橋剤が、0.05重量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られる成形品の耐燃料透過性が低下する傾向があり、10重量部をこえると、得られる架橋用組成物の硬度が高くなりすぎる傾向がある。
【0063】
架橋助剤の配合量としては、フッ素ゴム100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましい。架橋助剤が、0.1重量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られる成形品の耐燃料透過性が低下する傾向があり、10重量部をこえると、得られる架橋用組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0064】
また、通常フッ素ゴムの架橋剤として用いられているポリアミン系架橋剤、ポリオール系架橋剤を、前記パーオキサイド系架橋剤と併用してもよい。
【0065】
本発明の架橋用組成物は、必要に応じてフッ素ゴムからなる架橋用組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、老化防止剤、オゾン劣化剤、紫外線吸収剤などを配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋助剤を1種またはそれ以上配合してもよく、各成分を、通常のエラストマー用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。このほか、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。このようにして得られた架橋用組成物は常法に従って架橋、成形される。すなわち、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形または溶剤に溶かしてディップ成形、コーティング等により成形される。
【0066】
架橋条件は、成形方法や成形品の形状により異なるが、おおむね、100℃〜300℃で数秒〜5時間の範囲である。また、架橋物の物性を安定化させるために二次架橋を行ってもよい。二次架橋条件としては、150℃〜300℃で30分〜48時間程度である。
【0067】
本発明の架橋用組成物、および該組成物からなる成形品は、チューブ、ホース類:自動車燃料配管用チューブまたはホース、自動車のラジエーターホース、ブレーキホース、エアコンホース、電線被覆材、光ファイバー被覆材等フィルム、シート類:ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等の高度の耐薬品性が要求される摺動部材、農業用フィルム、ライニング、耐候性カバー、建築や家電分野等で使用されるラミネート鋼板等タンク類:自動車のラジエータータンク、薬液ボトル、薬液タンク、バッグ、薬品容器、ガソリンタンク等の各種自動車用品として用いられるが、特に燃料ホース材料などの燃料周辺部品として好適である。
【実施例】
【0068】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
<燃料透過性>
実施例、比較例で製造した架橋用組成物を熱プレス機により160℃および10MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ0.5mmのシート状試験片を作製した。60mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、前記シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(40℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求めた。
【0070】
【数1】

【0071】
<押出肌の評価>
目視により表面肌のきめの細かさを判断し、以下のように評価した。
◎ ・・・非常に滑らかで光沢がある。
○ ・・・平滑である。
△ ・・・細かな凹凸が少しある。
× ・・・細かな凹凸が多数ある。
××・・・表面が非常に荒れている。
【0072】
<ムーニー粘度>
製造例で得られたフッ素ゴム、および実施例、比較例で得られた架橋用組成物を8インチロール2本を備えた練りロール機(ロール間隙:約1mm)に3回通してシーティングし、ムーニー粘度測定器(MV2000E ALPHA TECHNOLOGIES社製)を用いて、L型ローターを使用し、100℃または40℃で予熱時間1分、測定時間10分にて、JIS K 6300(1994年)に準拠して、測定した。
【0073】
<重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)>
装置:HLC−8020(東ソー(株)製)
カラム:GPC KF−806M(昭和カラム 製) 2本
GPC KF−801(昭和カラム 製) 1本
GPC KF−802(昭和カラム 製) 1本
検出器:RI検出器(東ソー(株)製)
展開溶媒:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
検量線温度:35℃
試料濃度:0.1重量%
標準試料:単分散ポリスチレン各種((Mw/Mn)=1.14(Max))、TSK standard POLYSTYRENE(東ソー(株)製)
【0074】
<組成分析>
19F−NMR(Bruker社製AC300P型)を用いて測定した。
【0075】
製造例1
内容積3Lの重合槽に、純水1Lおよび乳化剤としてパーフルオロオクタン酸アンモニウム(C15COONH)2gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換した後、80℃に昇温し、VdF/HFP/TFEのモノマー混合物(モル比18/71/11)を内圧が16kg/cm・Gになるように圧入した。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の0.2重量%水溶液を10mL圧入し重合を開始した。
【0076】
重合反応の進行に伴って圧力が低下するので、15kg/cm・Gまで低下した時点で、ヨウ素化合物1,4−ジヨードパーフルオロブタン4.8gを圧入し、圧力がさらに14kg/cm・Gまで低下した時点で、VdF/HFP/TFEのモノマー混合物(モル比50/30/20)で16kg/cm・Gまで再加圧し、降圧、昇圧を繰り返しながら、3時間ごとに上記APS水溶液重合各10mLを窒素ガスと共に重合槽内に圧入して反応を継続した。
【0077】
重合反応開始から圧力降下の合計が43kg/cm・Gになった時点(16時間後)、重合槽を冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度26.9%の水性乳濁液を得た。
【0078】
この水性乳濁液に、5重量%のカリみょうばん水溶液を添加して凝析を行い、凝析物を水洗、乾燥して、ゴム状重合体408gを得た。ムーニー粘度(ML1+10 100℃)は、5であった。19F−NMR分析の結果、このエラストマーの組成はVdF/TFE/HFP=50/22/28(モル%)であることがわかった。
【0079】
製造例2〜5
分子量調整剤の添加量を表1に示す量にした以外は、製造例1と同様にして重合を行った。得られたポリマーの特性を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1〜4、比較例1〜2
製造例1〜5で得られたポリマーA〜Eを表2に示す割合でブレンドして、以下の標準配合にて架橋用組成物を得た。得られた架橋用組成物のムーニー粘度について測定し、標準加硫条件にて加硫した成形体の押出肌の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0082】
(標準配合)
フッ素ゴム 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
SRFカーボン 13重量部
【0083】
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間
【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、およびビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系フッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムであり、
分子量分布において少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量側のピークの数平均分子量が3000〜60000であり、該ピークの分子量分布が1.0〜2.0であり、最も高分子量側のピークの数平均分子量が80000〜500000であり、かつフッ素ゴム全体の100℃におけるムーニー粘度が30〜80であるパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム。
【請求項2】
フッ素ゴムが、架橋反応可能な架橋部位を有するものであり、該架橋部位がヨウ素または臭素である請求項1記載のフッ素ゴム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフッ素ゴム、架橋剤および架橋助剤からなる架橋用組成物。
【請求項4】
請求項3記載の架橋用組成物を架橋して得られる成形品。

【公開番号】特開2013−14785(P2013−14785A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233081(P2012−233081)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2005−246413(P2005−246413)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】