説明

パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びそれを用いる表面処理剤

【課題】常温硬化性で、プライマーなしで基材表面に強固な被膜を形成し、該被膜は撥水撥油性、離型性等の良好な性能を長期間にわたって保持する表面処理剤として有用なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを提供する。
【解決手段】下記の式(1)で表される単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【化1】


(式中、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性、離型性、防汚性等に優れた硬化被膜を形成することができる新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、これを主成分とした表面処理剤、及び該ポリシラザンの硬化被膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、興行的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。
【0003】
しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性があることを示しており、基材表面に塗布することはできても、被膜を形成し密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとしては、シランカップリング剤が良く知られている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基は、空気中の水分などによって自己縮合反応をおこしてシロキサンとなり被膜を形成する。それと同時に、ガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することによって、耐久性を有する強固な被膜となる。シランカップリング剤はこの性質を利用して各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。
【0005】
これらの特徴を生かしたものとして、特許文献1には、下記式(a)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2は炭素数1〜4のアルキル基、QはCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、mは1〜4の整数、nは2又は3)
で示されるようなフルオロアミノシラン化合物が開示されている。このフルオロアミノシラン化合物は、一般溶剤での希釈が可能なものの、1分子中の加水分解性基の割合(質量%)が少ないため、硬化までに時間を要するなど、処理被膜を形成する上で十分な性能を有しているとは言えなかった。
【0008】
また、下記式(b):
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、X1、X2は加水分解性基、R1、R2は低級アルキル基、Q1、Q2は2価の有機基、mは6〜50の整数、nは2又は3、x及びyはそれぞれ1〜3の整数)
で表されるパーフルオロポリエーテル変性アミノシランが提案されている(特許文献2)。このパーフルオロポリエーテル変性アミノシランは、撥水撥油性、防汚性、耐薬品性、潤滑性、離型性等に優れており、また、分子中に加水分解性シリル基を2個有しているため、従来のアミノシラン(上記式(a)で示されるフルオロアミノシラン化合物)よりも、1分子中の加水分解性基の含有割合は多く反応性が向上しているものの、片末端にしか存在しないことから、特に基材への密着性が不十分で耐久性の点で問題があり、所望の性能を長期間にわたって持続させ得るものではなく、特に耐擦傷性が十分ではないのが現状である。
【0011】
また、特許文献3には、無機質基材を、フッ酸を除くpHが3.0以下の酸性水溶液に浸漬して表面処理を行った後、該処理面に、下記一般式(c):
【0012】
【化3】


〔式中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20より成る非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Rは、水素原子またはアルキル基であり、Rfは、炭素原子数1〜20のパーフルオロアルキル基または炭素原子数2〜35のパーフルオロアルキルエーテル基であり、Qは、炭素原子数2〜5の二価の有機基であり、aは、1〜3の整数であり、bは、0〜2の整数であり、且つa+bが1〜3であるとともに、cは、0〜2の整数であり、dは、1〜3の整数であり、且つc+dが1〜3であるとともに、mおよびnは、それぞれ1以上の整数である〕
で表されるオルガノシラザン重合体の溶液を塗布し、硬化することにより撥水性皮膜を形成することを特徴とする無機質基材の撥水処理方法が記載されている。しかし、該オルガノシラザン重合体から得られる皮膜はシロキサン単位を含んでおり、撥油性、防汚性、耐薬品性等の表面特性の点で劣るという問題を有する。
【0013】
そこで、これら従来技術が有する問題を克服した被膜形成剤が求められている。
【0014】
さらに、近年、建築物の高層化に伴い窓ガラスをメンテナンスフリー化することや、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面を指紋が付きにくくするなど「汚れにくくする」技術や、「汚れを落とし易くする」技術に対する要求が年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭58−167597号公報
【特許文献2】特開2000−327772号公報
【特許文献3】特開平7−69680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、常温硬化が可能であり、プライマー塗布なしで基材表面に強固な被膜を形成し、撥水撥油性、離型性等所望の性能を長期間にわたって持続させ得る表面処理剤として有用なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、及びこれを主成分とした表面処理剤、並びに該ポリシラザンの硬化被膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記特性を有する被膜を形成させることのできる組成物について鋭意検討を重ねた結果、下記の式(1):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。)
で表されるシラザン単位のみからなる新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが有効成分として好適であることを見出した。
【0020】
従って、本発明は、上記式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン、このパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物を有効成分とし、これを極性溶媒に溶解してなることを特徴とする表面処理剤、及びこのパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物の硬化被膜を有する物品を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、常温硬化性であり、プライマーの塗布なしで基材表面に強固な被膜を形成し、撥水撥油性、離型性、防汚性、耐候性等に優れた硬化被膜を形成することができる。この硬化被膜はさらに、耐薬品性、潤滑性等の各種特性にも優れている。したがって、各種基材表面にコーティングすることにより表面の改質を行うことができる。この硬化被膜はプライマーの使用なしでも基材に強固に密着しているため、その効果を長期間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で得られたポリシラザンの1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたポリシラザンのIRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られたポリシラザンの1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られたポリシラザンのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に示すパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、下記式(1)で表される単位のみから構成されるものである。
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。)
【0026】
式(1)中、Qは2価の有機基を表し、好ましくは、−CHCH−、−CHCHCH−等の炭素原子数2〜10の、好ましくは2〜4のアルキレン基;−CHOCHCHCH−等の炭素原子数2〜10の、好ましくは2〜4のオキシアルキレン基;及び式−CONR−(ここで、Rは水素原子または炭素原子数1〜5の、好ましくは1〜3の低級アルキル基)で表されるアミド基である。
【0027】
mは1以上の整数であり、好ましくは2〜50、より好ましくは2〜30、特に好ましくは2〜10の範囲である。
【0028】
上記ポリシラザンとしては、特にF(Cx2xO)my2y−で示されるパーフルオロポリエーテル部分が下記式であることが好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
(式中、mは前記と同様である。)
前記の式(1)で表される単位の具体的な例としては、下記の式で表されるものが挙げられる。
【0031】
【化7】

【0032】
尚、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの分子構造は、これら例示したものに限定されるものではない。
【0033】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、ポリシラザンの公知の製造方法で製造することができ、そのような製造方法としては例えば米国特許第2564674号明細書などにも記載されている製造方法が挙げられる。具体的には、式(2):
【0034】
【化8】


(式中、Q、m、x及びyは前記の通りであり、Xはハロゲン原子である。)
で表されるトリハロシランを溶液中でアンモニアと反応させることにより容易に得ることができる。式(2)において、Xとしては塩素原子、臭素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子である。
【0035】
〔表面処理剤〕
本発明の表面処理剤は、上記のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物を有効成分とする。
【0036】
本発明の表面処理剤は、適当な溶剤で希釈して用いてもよい。このような溶剤としては、例えば、m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなどのフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)などのフッ素変性エーテル系溶剤、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのフッ素変性アルキルアミン系溶剤が挙げられる。特に、溶解性、濡れ性などの点で、m−キシレンヘキサフロライド、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0037】
なお、上記溶剤は、1種を単独に用いても2種以上を混合して用いてもよく、いずれにしても上記成分を均一に溶解させるものを用いることが好ましい。
【0038】
溶剤の使用量は特に制限されるものではなく、処理方法により最適濃度は異なるが、表面処理剤中の上記固形分(即ち、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン)量が0.001〜10質量%、特に0.01〜5質量%となる量が好ましい。
【0039】
このようにして得られた表面処理剤で基材や基体を表面処理する方法としては、該表面処理剤を基体に刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で塗布する方法を利用することができる。こうして得られた塗膜は常温で硬化して各種基材や基体の表面によく接着した硬化被膜を形成させることができる。この被膜が各種材質の表面によく接着するのは、シラザン結合が加水分解するときに生成するシラノール基が活性に富むものであり、これによって接着性が著しく高められるためと考えられる。なお、各種材質に塗布された塗膜は上記したように常温で硬化するが、塗布後に熱風処理、赤外線照射などによって加熱すれば硬化を促進することができる。また、シラノール縮合触媒として知られている有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を加えることができる。特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などを該表面処理剤に添加しておけば、この硬化を更に促進させることができる。また、前記したシラザン単位に結合した有機基にアクリル基、メタクリロキシ基などを導入しておけば、常温硬化後の紫外線、電子線の照射によってその架橋密度を更に高めることができる。尚、縮合触媒の添加量は触媒量であり、ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物100質量部に対して0.001〜5質量部、特に0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0040】
上記表面処理剤で処理される基材は特に制限されないが、基材としては、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、陶磁器、セラミックなど各種材質のものを用いることができる。具体的には、次のようなものが挙げられる。
・撥水撥油剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・離型剤として・・・粘着テープ用、樹脂成形用金型、ロール用など。
・防汚加工剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・その他:塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質のため、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上など。
上記各種基材あるいは物品表面に形成される硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定される。
【0041】
本発明の表面処理剤は、例えば各種物品の表面処理剤として利用することができる。即ち、本発明は、基体(即ち、物品を構成する基体)と、該基体の表面に形成された、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物の硬化被膜とを有してなる物品を提供する。
【0042】
具体的には、下記のような物品にそれぞれの目的で表面に硬化被膜を形成することができる。
例えば、浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水ないし防汚コーティング、自動車、電車、航空機など輸送機用のガラス(例、窓ガラス、ヘッドランプカバー等)の防汚コーティング、外壁用建材等の建材の撥水、防汚コーティング、台所用建材の油汚れ防止用コーティング、電話ボックスの撥水・撥油、耐候、防汚及び貼り紙防止コーティング、美術品などの撥水・撥油性、及び指紋付着防止付与のコーティング、一般産業用ガラス及びガラス製食器の汚染防止コーティング、光学部品の汚染防止コーティングなどである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実施例1](ポリシラザンの合成)
温度計、還流冷却器、撹拌機を取付けた300mlの3つ口フラスコに、下記式(3)
【0045】
【化9】

【0046】
で示されるパーフルオロポリエーテル変性トリクロロシラン50.6gと、m−キシレンヘキサフロライド100gを仕込んだのち、この液中の撹拌下に乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し還流下2時間撹拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら、4時間加熱撹拌を行い過剰アンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm−キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体46.6gを得た。得られた化合物の1H−NMR及びIRスペクトルのデータを次に示す。
【0047】
1H−NMR(TMS基準、ppm、図1参照)
−CH22Si≡ 0.5−0.7
−SiN− 0.7−1.0
−CH22CH2− 1.6−1.8
−OC2CH2− 3.5−3.6
=CFCOCH− 3.9−4.1
【0048】
IR(KBr板、液膜法、cm-1、図2参照)
3380(N−H)、2940−2880(C−H)、1310−1090(C−F)
【0049】
以上の結果から、得られた化合物は、下記の式で表される単位からなることがわかった。
【0050】
【化10】

【0051】
[実施例2](ポリシラザンの合成)
実施例1で用いた化合物のうち、式(3)に示すパーフルオロポリエーテル変性トリクロルシランの代わりに下記式(4):
【0052】
【化11】

【0053】
で示されるパーフルオロポリエーテル変性トリクロロシラン62.4gを用いた他は、実施例1と同様の方法で無色透明の液体53.7gを得た。得られた化合物の1H−NMR及びIRスペクトルのデータを次に示す。
【0054】
1H−NMR(TMS基準、ppm、図3参照)
−CH22Si≡ 0.7−0.9
−SiN− 0.9−1.0
=CFCCH− 2.2−2.4
【0055】
IR(KBr板、液膜法、cm-1、図4参照)
3420(N−H)、2950−2850(C−H)、1315−1090(C−F)
【0056】
以上の結果から、得られた化合物は、下記の式で表される単位からなることがわかった。
【0057】
【化12】

【0058】
[実施例3](ポリシラザンの合成)
実施例1で用いた化合物のうち、式(3)に示すパーフルオロポリエーテル変性トリクロロシランの代わりに下記式(5)
【0059】
【化13】

【0060】
で示される化合物を用いた他は、実施例1と同様の方法で化合物を得たところ、1H−NMR及びIRスペクトルのデータから下記の式で表される単位からなることがわかった。
【0061】
【化14】

【0062】
[実施例4〜6](表面処理剤)
実施例1〜3のおのおので合成されたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン0.3gをフッ素系溶剤Novec HFE-7200(住友スリーエム社製)99.7gに溶解させ、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に浸漬塗布した(即ち、浸漬時間10秒の後、引上げ速度150mm/1分で引き上げて塗布した。)。塗膜を形成したガラス板を25℃、湿度70%の雰囲気下で1時間放置し、塗膜を硬化被膜に転換させた。こうして得た各実施例の試料片を用いて、下記(1)〜(3)の評価を行った。
【0063】
(1)撥水撥油性の評価
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、硬化被膜の水及びオレイン酸に対する接触角を測定し、撥水撥油性の評価とした。
【0064】
(2)離型性の評価
硬化被膜表面にセロハン粘着テープ(幅19mm)を貼り、その剥離力を測定して離型性の評価とした。測定は引張試験機を用いて180°の角度で剥離速度300mm/min.で行った。
(3)被膜の耐久性の評価
セルロース製不織布を硬化被膜表面に当てて、1kgの荷重をかけたまま、4、000回往復させて摩擦したのち、評価(1)で示した方法で水に対する後退接触角を測定して耐久性の評価とした。
【0065】
[比較例1]
実施例4〜6で用いたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの代わりに下記式(6)で示される単位からなるパーフルオロポリエーテル変性アミドシランを用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0066】
【化15】

【0067】
[比較例2]
実施例4〜6で用いたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの代わりに下記式(7)で示されるパーフルオロアルキル変性ポリシラザンを用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
【化16】

【0069】
【表1】

【0070】
[実施例7,8]
実施例1及び2で合成されたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンをHFMX(ヘキサフロロメタキシレン)に溶解させ、20質量%溶液を調製し処理剤とした。反射防止フイルム(表面にSiOを蒸着したPETフイルム)(8×15×0.2cm)に処理剤を真空蒸着し(処理剤10mg、3.8×10−3Pa、740℃)、40℃、湿度80%の雰囲気下で24時間放置し、硬化被膜を形成させた。この試料片を用いて、実施例4〜6と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0071】
[比較例3]
実施例7、8で用いたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの代わりに前記式(7)で示されるパーフルオロアルキル変性ポリシラザンを用いた他は、実施例7,8と同様の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
[実施例9、比較例4]
実施例1で合成されたパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び前記式(6)で示されるパーフルオロポリエーテル変性アミドシランをNovec HFE-7200に溶解させ、0.15質量%溶液を調製し処理剤とした。陶器製タイル(98×98×4mm)に処理剤をスプレー塗布(Air Brush 0.5MPa)し、23℃、湿度40%の雰囲気下で10分間放置し、硬化被膜を形成させた。この試料片を用いて、水に対する接触角を測定すると共に、下記(4)の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0074】
(4)アルカリ耐久性の評価
0.1N NaOH水溶液に24時間浸漬し、洗浄後評価(1)で示した方法で水に対する接触角を測定してアルカリ耐久性の評価とした。
【0075】
【表3】

【0076】
実施例4〜8は、いずれも従来品(比較例1〜3)と同等以上の撥水撥油性を有し、かつ、離型性及び摩耗耐久性に優れている。また、実施例9は比較例4と比べて、硬化速度が速く、かつアルカリ耐久性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上の点から、本発明に示すパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、室温硬化が可能であり、かつ、プライマー塗布なしでも基材表面に強固な被膜を形成し、撥水撥油性、離型性等に優れた表面処理剤としての応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン:
【化1】


(ここで、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。)。
【請求項2】
前記の式(1)において、F(CxF2xO)mCyF2y-で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式:
【化2】


(ここで、mは前記と同様である。)
で示される請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物を有効成分として含有してなる表面処理剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物の硬化被膜。
【請求項5】
基体と、該基体の表面に形成された、請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及び/又はその部分加水分解縮合物の硬化被膜とを有してなる物品。
【請求項6】
前記基体が、光学部材、サニタリー製品、輸送機用ガラス、一般産業用ガラス、ガラス製食器、建材又は電話ボックスであることを特徴とする請求項5に記載の物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−43251(P2010−43251A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166004(P2009−166004)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】