説明

パール紙及びその製造方法

【課題】 従来とは全く異なる構成及び製法によって、パール光沢のコントラストが大きく意匠性に富むパール(光沢)紙、および、有価証券等に適用することで真贋判定をすることができるパール(光沢)紙を提供する。
【解決手段】 基材1上に、パール顔料3及びポリオレフィン系微粒子4を含有するパール層2を有することを特徴とする。ポリオレフィン系微粒子4がパール顔料3の反射を遮るように作用するため、この状態ではパール光沢が殆どない。一方、パール層2にホットプレスによりエンボス加工を施すと、エンボス加工部分(凹部)のポリオレフィン系微粒子4の一部もしくは全部を変性させて(溶融もしくは潰して)、パール顔料3の反射に影響を与えないようにすることができる。このようにホットプレス前はパール光沢が殆どなく、ホットプレスを行うことによりパール光沢を発現させることができるため、例えば有価証券等に適用することで真贋判定をすることができ、またパール光沢のコントラストが大きく意匠性に富むパール(光沢)紙が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装紙や壁紙等の装飾紙や、偽造防止を要求される有価証券等に利用することができるパール(光沢)紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装紙や壁紙等の装飾紙に利用される光輝性装飾紙としてパール光沢エンボス紙がある。従来のパール光沢エンボス紙は、エンボス紙へのパールインキの塗工又はパール光沢紙へのエンボス加工によって製造されている。
【0003】
一方、特許文献1には、紙などの基材の片面にパール顔料を混入した光干渉性反射層を形成し、この光干渉性反射層の上面に一定の規則性を有する凹凸模様を備えた透明樹脂層を形成した光輝性装飾シートに関する記載がある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−338071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のパール光沢エンボス紙や光輝性装飾シートでは、エンボスの凹凸で若干パール光沢に差が生じるものの、コントラストが小さく、意匠性に乏しいという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、従来とは全く異なる構成及び製法によってパール光沢のコントラストが大きく意匠性に富むパール(光沢)紙を提供することを目的とする。
【0007】
また本発明は、有価証券等に適用することで真贋判定をすることができるパール(光沢)紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく成された本発明は、以下の構成を有するものである。
(1) 基材上に、パール顔料及びポリオレフィン系微粒子を含有するパール層を有することを特徴とするパール紙。
(2) 前記パール層の一部に凹部が形成されており、該凹部が形成された領域には前記ポリオレフィン系微粒子が存在しない、若しくは、他の領域よりも前記ポリオレフィン系微粒子が少ないことを特徴とする(1)のパール紙。
(3) 前記パール顔料の平均粒径が1〜100μm、前記ポリオレフィン系微粒子の平均粒径が0.5〜15μmであることを特徴とする(1)又は(2)のパール紙。
(4) 基材上に、バインダ樹脂中にパール顔料及びポリオレフィン系微粒子水分散体を含有するパールインキを用いてパール層を形成する工程を有することを特徴とするパール紙の製造方法。
(5) 前記パールインキは、バインダ樹脂固形分100重量部に対し、前記パール顔料を50〜250重量部、前記ポリオレフィン系微粒子を60〜240重量部含有することを特徴とする(4)のパール紙の製造方法。
(6) 前記パール層にホットプレスによりエンボス加工を施し、エンボス加工部分の前記ポリオレフィン系微粒子の一部もしくは全部を変性せしめる工程を有することを特徴とする(4)又は(5)のパール紙の製造方法。
(7) 前記パール顔料の平均粒径が1〜100μm、前記ポリオレフィン系微粒子の平均粒径が0.5〜15μmであることを特徴とする(4)乃至(6)のいずれかのパール紙の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
(1)のパール紙は、パール顔料及び、熱又は圧力により変性するポリオレフィン系微粒子を含有するパール層を有しており、ポリオレフィン系微粒子がパール顔料の反射を遮るように作用するため、この状態ではパール光沢が殆どないものである。一方、前記パール層にホットプレスによりエンボス加工を施すと、エンボス加工部分(凹部)の前記ポリオレフィン系微粒子の一部もしくは全部を変性させて(溶融もしくは潰して)、パール顔料の反射に影響を与えないようにすることができる。このようにホットプレス前はパール光沢が殆どなく、ホットプレスを行うことによりパール光沢を発現させることができるため、例えば有価証券等に適用することで真贋判定をすることができる。
【0010】
(2)のパール紙は、前記パール層にホットプレスによりエンボス加工を施すことにより凹部が形成されており、該凹部が形成された領域には前記ポリオレフィン系微粒子が存在しない、若しくは、他の領域よりも前記ポリオレフィン系微粒子が少ないことにより、該凹部のみ部分的にパール光沢が明確に発現する。このため、パール光沢のコントラストが大きく意匠性に富むパール(光沢)紙が実現される。
【0011】
(4)のパール紙の製造方法によれば、(1)のパール紙のようにホットプレス前はパール光沢が殆どなく、ホットプレスを行うことによりパール光沢を発現させることができるパール紙を一工程で容易に製造することができる。
【0012】
(6)のパール紙の製造方法によれば、(2)のパール紙のようにパール光沢のコントラストが大きく意匠性に富むパール(光沢)紙を簡易な工程で容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、パール光沢を発現させる前の本発明のパール紙を模式的に示す断面図である。図2は、図1のパール紙にホットプレスによってエンボス加工を施した後の本発明のパール紙を模式的に示す断面図である。これらの図において、1は基材、2はパール層、3はパール顔料、4はポリオレフィン系微粒子、5はエンボス加工部分の凹部である。
【0015】
基材1としては、紙、織布、不織布、樹脂フィルムのようなシート状のものを用いることができる。
【0016】
パール層2は、バインダ樹脂中に少なくともパール顔料及びポリオレフィン系微粒子水分散体を含有するパールインキを、基材1の全面もしくは一部に塗布あるいは印刷して形成することができる。
【0017】
バインダ樹脂としては、ホットプレスによって容易にエンボス加工を施せるようにガラス転移温度Tgが80℃以下のものが好ましく、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩ビ−酢ビ共重合体などの熱可塑性樹脂が好適であり、これらは単独で用いてもよいし混合してもよい。
【0018】
パール顔料3は、光の干渉作用に基づいて真珠光沢を呈する顔料であって、例えば魚の鱗から採取される天然真珠光沢顔料や、天然もしくは合成の雲母を主成分とし、これらの表面を二酸化チタン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化スズ等の金属酸化物又は各種着色顔料で被覆したものなどが用いられる。
【0019】
パール顔料としては、平均粒径1〜100μmのものが好ましく、平均粒径10〜40μmのものが特に好ましい。平均粒径が小さすぎると、エンボス加工後のパール光沢が弱く、パール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。一方、平均粒径が大きすぎると、エンボス加工前からパール光沢が発現してしまい、エンボス加工後のパール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。
【0020】
パール顔料は、バインダ樹脂固形分100重量部に対し、好ましくは50〜250重量部、特に好ましくは80〜100重量部、配合するのが良い。パール顔料が少なすぎると、エンボス加工後のパール光沢が弱く、パール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。一方、パール顔料が多すぎると、エンボス加工前からパール光沢が発現してしまい、エンボス加工後のパール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。
【0021】
パールインキに含有せしめるポリオレフィン系微粒子水分散体は、カルボキシル基などの酸基を有するポリオレフィン系樹脂の酸基を中和することにより得られる。ポリオレフィン系樹脂を中和してポリオレフィン系微粒子水分散体を調製する方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂を加熱水中に添加しておき、攪拌混合下にアンモニアなどの塩基を添加しポリオレフィン系樹脂の酸基を中和するとともに、水中に分散させる方法を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、マレイン酸変性の、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びこれらの水添物、(メタ)アクリル酸変性の、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びこれらの水添物、並びにエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0022】
本発明で好適に用いられるポリオレフィン系微粒子水分散体の具体例としては、例えばケミパールW401(PE水分散体)、ケミパールWP100(PP水分散体)などが挙げられる(以上商品名、三井化学(株)製)。
【0023】
ポリオレフィン系微粒子4としては、平均粒径0.5〜15μmのものが好ましく、平均粒径1〜5μmのものが特に好ましい。平均粒径が小さすぎると、パール顔料の反射を十分に遮ることができず、エンボス加工前からパール光沢が発現してしまい、エンボス加工後のパール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。一方、平均粒径が大きすぎると、エンボス加工によるパール光沢の発現が困難となる。
【0024】
ポリオレフィン系微粒子の軟化点は150℃以下であるのが好ましい。また、ポリオレフィン系微粒子は、バインダ樹脂固形分100重量部に対し、好ましくは60〜240重量部、特に好ましくは12〜20重量部、配合するのが良い。ポリオレフィン系微粒子が少なすぎると、パール顔料の反射を十分に遮ることができず、エンボス加工前からパール光沢が発現してしまい、エンボス加工後のパール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。一方、ポリオレフィン系微粒子が多すぎると、パール光沢を阻害してしまい、エンボス加工後もパール光沢が得られない場合がある。
【0025】
パール層2の厚みは、5〜10μmが好ましい。薄すぎると、エンボス加工を施すことが困難であるとともに、エンボス加工部分のパール光沢が弱く、パール光沢のコントラストが小さく意匠性に乏しいものとなり易い。一方、厚すぎると、パール光沢は向上するが、塗膜強度が低下する。
【0026】
基材1上に、以上説明したパールインキを用いてパール層2を形成することにより、図1に示したような構成を有する本発明のパール紙が得られる。このパール紙は、ポリオレフィン系微粒子4がパール顔料3の反射を遮るように作用するため、この状態ではパール光沢が殆どないものである。
【0027】
次に、図2に示すように、パール層2にホットプレスによってエンボス加工を施すことにより、エンボス加工部分(凹部5)の前記ポリオレフィン系微粒子の一部もしくは全部を変性させ(溶融もしくは潰して)、パール顔料の反射に影響を与えないようにすることができる。
【0028】
ホットプレスの条件は、パール層2の厚み等により適宜設定することができ、例えば、温度30〜180℃、圧力0.16〜0.4MPa(Gauge)、プレス時間1.0〜10.0秒の条件で行うことができる。
【0029】
以上説明したように、ホットプレス前の図1に示す本発明のパール紙はパール光沢が殆どなく、ホットプレスを行うことによりパール光沢を発現させることができるため、例えば有価証券等に適用することで真贋判定をすることができる。
【0030】
また、ホットプレス後の図2に示す本発明のパール紙は、凹部5のみ部分的に明確にパール光沢を発現し、パール光沢のコントラストが大きく意匠性に富み、包装紙や壁紙等の装飾紙として商品価値の高いものとなる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
以下に示す配合でパールインキを調製した。
・水性アクリル樹脂 10.0重量部
(商品名:3DR−057/大成ファインケミカル(株)製)
・水性アクリル樹脂 10.0重量部
(商品名:SE−2223L/大成ファインケミカル(株)製)
・パール顔料(粒径10〜60μm、表面処理無し) 3.0〜15.0重量部
(商品名:Iriodin219/メルク社製)
・PE水分散体(平均粒子径1μm) 8.8〜35.4重量部
(商品名:ケミパールW401/三井化学(株)製)
【0033】
上記パールインキをOCR用紙(104.7g/cm2)上にバーコーター#10にて塗工し、図1に示したようなパール紙を得た。このパール紙のパール層2の厚みは8μmである。
【0034】
次に、熱傾斜試験機にて温度30〜180℃、圧力0.16〜0.4MPa(Gauge)、プレス時間1.0〜10.0秒の条件でホットプレスを行い、図2に示したようなパール紙を得た。
【0035】
(実施例2)
実施例1のPE水分散体をPP水分散体(商品名:ケミパールWP100、平均粒子径1μm/三井化学(株)製)に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0036】
(実施例3)
実施例1のパール顔料を商品名Iriodin Ultra 7219 WNT(平均粒径10〜40μm、表面処理有り/メルク社製)に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0037】
(実施例4)
実施例1のパール顔料を商品名Iriodin223(粒径5〜25μm、表面処理無し/メルク社製)に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0038】
(実施例5)
パールインキの塗工をバーコーター#20にて行った以外は実施例1と同様に塗工、ホットプレスを行った。このパール紙のパール層2の厚みは15μmであった。
【0039】
(実施例6)
パールインキの塗工をバーコーター#4にて行った以外は実施例1と同様に塗工、ホットプレスを行った。このパール紙のパール層2の厚みは2μmであった。
【0040】
(実施例7)
パールインキの塗工をバーコーター#30にて行った以外は実施例1と同様に塗工、ホットプレスを行った。このパール紙のパール層2の厚みは20μmであった。
【0041】
(実施例8)
実施例1のPE水分散体を8.0重量部に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0042】
(実施例9)
実施例1のPE水分散体を平均粒子径が9.5μmのケミパールW401に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0043】
(比較例)
実施例1のPE水分散体を架橋PMMA(商品名:MBP−8/積水化成工業(株)製)に変更し、それ以外は実施例1と同様にインキ化を行い、塗工、ホットプレスを行った。
【0044】
以上の実施例および比較例で作成したホットプレス前と後のパール紙のパール光沢感と、ホットプレス前後のパール光沢のコントラストを評価した結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】パール光沢を発現させる前の本発明のパール紙を模式的に示す断面図である。
【図2】ホットプレスによってエンボス加工を施した後の本発明のパール紙を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1:基材
2:パール層
3:パール顔料
4:ポリオレフィン系微粒子
5:エンボス加工部分の凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、パール顔料及びポリオレフィン系微粒子を含有するパール層を有することを特徴とするパール紙。
【請求項2】
前記パール層の一部に凹部が形成されており、該凹部が形成された領域には前記ポリオレフィン系微粒子が存在しない、若しくは、他の領域よりも前記ポリオレフィン系微粒子が少ないことを特徴とする請求項1に記載のパール紙。
【請求項3】
前記パール顔料の平均粒径が1〜100μm、前記ポリオレフィン系微粒子の平均粒径が0.5〜15μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパール紙。
【請求項4】
基材上に、バインダ樹脂中にパール顔料及びポリオレフィン系微粒子水分散体を含有するパールインキを用いてパール層を形成する工程を有することを特徴とするパール紙の製造方法。
【請求項5】
前記パールインキは、バインダ樹脂固形分100重量部に対し、前記パール顔料を50〜250重量部、前記ポリオレフィン系微粒子を60〜240重量部含有することを特徴とする請求項4に記載のパール紙の製造方法。
【請求項6】
前記パール層にホットプレスによりエンボス加工を施し、エンボス加工部分の前記ポリオレフィン系微粒子の一部もしくは全部を変性せしめる工程を有することを特徴とする請求項4又は5に記載のパール紙の製造方法。
【請求項7】
前記パール顔料の平均粒径が1〜100μm、前記ポリオレフィン系微粒子の平均粒径が0.5〜15μmであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のパール紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−38598(P2007−38598A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227604(P2005−227604)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】