説明

ヒアルロン酸産生促進剤及び化粧料

【課題】ヒトの皮膚の老化防止、関節炎等の予防・治療などに有効なヒアルロン酸を多量
に産生させることができる、安全性の高いヒアルロン酸産生促進剤及び該ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧料の提供。
【解決手段】カリン抽出物を含有するヒアルロン酸産生促進剤である。バラ科カリンの果実を、水、親水性有機溶媒、及びこれらの混合溶媒のいずれかで、抽出してなるカリン抽出物を含有する態様などが好ましい。また、前記ヒアルロン酸産生促進剤を有効成分として含有する化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸の産生を活発化する作用を有するヒアルロン酸産生促進剤及び該ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、皮膚、靱帯、関節液、眼の硝子体等の生体内に広く分布しており、例えば、皮膚においては細胞の保護、栄養の運搬、組織水分の保持、柔軟性の維持等に重要な役割を果たしている。また、関節においては関節液として組織構造、機能の維持、潤滑性の保持等に重要な役割を果たしている。
【0003】
一方、皮膚や関節の老化又は病的状態により細胞機能が低下してくると、生体内のヒアルロン酸量は減少し、その結果、皮膚の乾燥、肌荒れ、ハリ、弾力性の減少、シミ、シワの増加、あるいは関節の湿潤性悪化による関節痛等を引き起こす。
【0004】
このような状態を改善すべく、皮膚にはヒアルロン酸、自然保湿因子等の生体成分を配合した化粧料を塗布したり、また、関節には直接ヒアルロン酸を注入するなどの方法がとられているが、ヒアルロン酸を外から与えても根本的機能改善にはならず、充分な効果は期待できない。特に、ヒアルロン酸は、皮膚からはほとんど吸収されないという問題がある。
【0005】
このため、単にヒアルロン酸そのものを外から補給するのではなく、本来ヒトが備え持っている生体の自己回復力を利用し、ヒトの皮膚線維芽細胞自身のヒアルロン酸産生能を促進させることによって、生体の機能を根本的に改善する物質の開発が期待されている。例えば、ヒアルロン酸産生促進作用を有する物質を天然物から抽出することが試みられている(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)
しかしながら、優れたヒアルロン酸産生促進作用を有し、かつ安全性、環境性、及び生産性に優れたものは未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−237549号公報
【特許文献2】特開2005−35981号公報
【特許文献3】特開2007−145725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ヒトの皮膚の老化防止、関節炎等の予防・治療などに有効なヒアルロン酸を多量に産生させることができる、安全性の高いヒアルロン酸産生促進剤及び該ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下のような知見を得た。即ち、カリン抽出物が、ヒトの皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸の産生を活発化する優れたヒアルロン酸産生促進作用を有しており、ヒトの皮膚の老化防止、関節炎等の予防及び治療などに有効であるという知見である。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> カリン抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤である。
<2> バラ科カリンの果実を、水、親水性有機溶媒、及びこれらの混合溶媒のいずれかで、抽出してなるカリン抽出物を含有する前記<1>に記載のヒアルロン酸産生促進剤である。
<3> 前記<1>から<2>のいずれかに記載のヒアルロン酸産生促進剤を有効成分として含有することを特徴とする化粧料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来の前記諸問題を解決することができ、ヒトの皮膚の老化防止、関節炎等の予防・治療などに有効なヒアルロン酸を多量に産生させることができる、安全性の高いヒアルロン酸産生促進剤及び該ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、カリン抽出物を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記カリン抽出物としては、バラ科カリンの果実を、水、親水性有機溶媒、及びこれらの混合溶媒のいずれかで、抽出して得られる抽出物であることが好ましい。
【0012】
前記カリン抽出物は、バラ科の植物カリン(学名:Chaenomeles sinensis、別名:モッカ)の果実から得られたエキスである。
前記カリン抽出物には、サポニン、タンニン、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸を含み、収斂効果がある。また、糖類を含むので、これが高い保湿効果を表し、肌に滑らかさと充実したしっとり感を与える。キメを整え肌荒れを防止する。冬の乾燥時に、喉の粘膜を保護し、咳止めの民間薬としても古くから利用されており、カリンのはちみつ漬けは有名である。ハーブと組み合わせて、喉飴も出回っている。カリンが出回る10月〜11月にまとめてはちみつ漬けにしておくと、保存がきくので好ましい。保湿という点では、カリンエキスは入浴剤にも添加されている。
【0013】
前記カリン抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって得ることができる。抽出原料としてのカリンの抽出部位については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、果実、葉部、茎部、花(蕾)部、種子、根部などが挙げられる。これらの中でも、果実が特に好ましい。
【0014】
前記カリン抽出物は、カリンの果実等の抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記抽出原料は、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。なお、脱脂等の前処理を行うことにより、抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0015】
前記抽出に用いる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0016】
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましく、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部添加することが好ましく、多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましい。
【0017】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物を更に乾燥すると乾燥物が得られる。
【0018】
以上のようにして得られた抽出液、該抽出液の濃縮物又は該抽出液の乾燥物から前記カリン抽出物を単離・精製する方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、カリン抽出物を濃縮し、多孔性樹脂などを用いたカラムクロマトグラフィーに供して、水、アルコール(メタノールなど)の順で溶出させ、アルコール(メタノールなど)で溶出される分画物として得る。このとき、前記分画物に対して、更にODS(オクタデシルシリル化シリカゲル)を用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィーや再結晶などに供することで、粗精製物を得ることができる。
そして、前記分画物又は粗精製物を、例えば、液体クロマトグラフィーなどを用いて分離・精製することにより、精製されたカリン抽出物を得ることができる。
【0019】
前記カリン抽出物には、前記カリンの果実等を抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
前記カリン抽出物は、ヒアルロン酸産生促進作用を有しているため、この作用を利用して、ヒアルロン酸産生促進剤として用いることができる。なお、抽出処理により得られたカリン抽出物は、そのままヒアルロン酸産生促進剤として使用し得るが、精製して前記カリン抽出物の純度を高めたものを使用することが好ましい。前記カリン抽出物の純度を高めたものを使用することによって、より一層使用効果に優れたヒアルロン酸産生促進剤を得ることができる。
【0020】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、前記カリン抽出物のみからなるものでもよいし、前記カリン抽出物を製剤化したものでもよい。
前記ヒアルロン酸産生促進剤中の前記カリン抽出物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
なお、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、必要に応じてヒアルロン酸産生促進作用を有する他の天然抽出物等を、前記カリン抽出物とともに配合して用いることができる。
【0022】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤によると、有効成分として含有されるカリン抽出物の優れたヒアルロン酸産生促進作用を通じて、ヒトの皮膚の老化防止、関節炎等の予防・治療などに有効なヒアルロン酸を多量に産生させることができるので、化粧料などに好適に用いることができる。ただし、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、これらの用途以外にもヒアルロン酸産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0023】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、製剤化により粉末状、顆粒状、錠剤状等、任意の剤形とすることができ、これにより、化粧料などに配合して用いることができる。
【0024】
(化粧料)
本発明の化粧料は、本発明の前記ヒアルロン酸産生促進剤を有効成分として含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0025】
前記化粧料の用途としては、特に制限はなく、各種用途から適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス、などが挙げられる。
前記ヒアルロン酸産生促進剤の配合量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記カリン抽出物に換算して0.0001質量%〜10質量%が好ましく、0.001質量%〜1質量%がより好ましい。
【0026】
前記化粧料には、更に必要に応じて本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲で、化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤、その他の成分を添加することができる。
前記その他の成分としては、本発明の前記ヒアルロン酸産生促進作用の妨げにならない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択した成分が挙げられ、例えば、美白剤、収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料、などが挙げられる。
【0027】
なお、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(製造例1)
バラ科カリンの果実の乾燥物を粗砕したもの100gに対し、水1,000mLを加え、還流抽出器で3時間加熱抽出し熱時濾過した。その後、得られた抽出液を40℃で減圧下に濃縮し、凍結乾燥機で乾燥して、カリンの水抽出物(粉末)を13g得た(収率13%)。
【0030】
(実施例1)
−ヒアルロン酸産生促進作用試験−
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を10質量%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.2×10cells/mLの濃度に5質量%FBS含有α−MEM培地で希釈した後、96wellプレートに1well当たり100μLずつ播種し、一晩培養した。培養終了後、0.5質量%FBS含有α−MEM培地に溶解した製造例1のカリンの水抽出物(被験試料)を各wellに100μL添加し、3日間培養した。培養後、各wellの培地中のヒアルロン酸量を間接的ELISA法により測定した。
ヒアルロン酸合成促進率の計算方法は、下記数式1に示すとおりであり、測定結果を表1に示す。
<数式1>
ヒアルロン酸合成促進率(%)=(A/B)×100
ただし、前記数式1中、Aは被験試料添加時のヒアルロン酸量、Bは被験試料無添加時のヒアルロン酸量を表す。
【0031】
【表1】

表1の結果から、カリン水抽出物には、濃度依存的なヒアルロン酸合成促進作用を有することが認められた。
【0032】
(配合実施例1)
−乳液−
下記の組成の乳液を常法により製造した。
・ホホバオイル・・・4g
・オリーブオイル・・・2g
・スクワラン・・・2g
・セタノール・・・2g
・モノステアリン酸グリセリル・・・2g
・ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O)・・・2.5g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)・・・2g
・1,3−ブチレングリコール・・・3g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・0.15g
・香料・・・0.05g
・製造例1のカリンの水抽出物・・・1g
・精製水・・・残部(全量を100gとする)
【0033】
(配合実施例2)
−化粧水−
下記の組成の化粧水を常法により製造した。
・グリセリン・・・3g
・1,3−ブチレングリコール・・・3g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)・・・0.5g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・0.15g
・クエン酸・・・0.1g
・クエン酸ソーダ・・・0.1g
・香料・・・0.05g
・製造例1のカリンの水抽出物・・・2g
・精製水・・・残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、皮膚の老化防止、関節炎等の予防及び治療などに有効なヒアルロン酸を多量に産生させることができるので、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス等の各種化粧料に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリン抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
バラ科カリンの果実を、水、親水性有機溶媒、及びこれらの混合溶媒のいずれかで、抽出してなるカリン抽出物を含有する請求項1に記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載のヒアルロン酸産生促進剤を有効成分として含有することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2011−184346(P2011−184346A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50472(P2010−50472)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】